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美しい海を覆う月
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【相談】春だビーチだ従魔退治だ
最終発言2018/04/14 12:29:17 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2018/04/14 08:27:59
オープニング
●広がる蒼に浮かぶ濁り
スペインのとあるリゾートホテルにて。
「……何だ、あれ?」
正午前にホテル内の清掃業務をしていた従業員が、窓ガラスの向こうに広がる地中海に向けた視線を細める。強めの風により少しささくれ立った海は海水浴を行うにはまだ温度が冷たいものの、高所から眺める景色はとても美しい。
勤務してから年数が経過しても見飽きない展望は、見慣れたからこそ従業員の目は異常を認識する。
「遠くの方に、変なものが浮いてる?」
ビーチからはかなり遠かったが、水面の上を浮かんでいるように見える物体に、従業員は首を傾げる。
その時は疑問に思いながら仕事に戻ったが、やはり気になった従業員は双眼鏡を持ち出して改めて海を確認する。
「……え? クラゲ!?」
レンズを通して目に飛び込んできたのは、ブヨブヨした体を波に乗せてやってくるクラゲの群れだった。水族館で見られる綺麗で癒されるような姿とは違い、薄い紫色で巨大なクラゲはどこか不気味で不安を覚える。
「あんなクラゲ、地中海にいたか?」
何より、従業員はあれと同じクラゲを見たことは今まで1度もないし、空中に浮かぶクラゲなんて聞いたこともない。双眼鏡で見える範囲ではちらほらと海岸に向かってくるクラゲだが、もしかしたら海中にもいる可能性がある。
「もしかして、従魔なのか……?」
嫌な予感が膨れ上がった従業員は、すぐにH.O.P.E.へ通報した。
●迷惑クラゲの大量発生
「スペイン南部で、従魔と思わしきクラゲが複数現れたと通報がありました」
東京海上支部の会議室にて、碓氷 静香(az0081)はエージェントたちに口頭で状況を説明する。
「場所はマルベーリャというスペインでも有名なリゾート地です。通報者は地中海に面するリゾートホテルに勤務する従業員で、何気なく海を見たところで異常に気づいたとのことでした」
プロジェクターで地図を映した静香は、従業員が働くホテルの周辺を拡大する。
「幸い、海水浴には早い時期であるため、比較的一般人は少なかったそうです。ただ、ホテルの従業員や現地警察から避難を呼びかけているものの、現状効果は乏しいとの連絡も入っています」
何でも、時間が経って海岸から肉眼ではっきりと従魔が見えだしたら、綺麗なクラゲがいると話を聞きつけた地元民や観光客が撮影しようと集まってしまったらしい。通報者は常にない光景から危機感を抱いたようだが、彼らにとってはちょっとしたイベント気分なのだろう。
「従魔はまだ海の中を漂っているようですが、着実に海岸へと向かってきているとのことです。このままでは一般人に被害が出ると予想されるので、早々に排除する必要があります」
なお、他の支部にも応援要請が入ったのは実際に発見された数がかなり多かったから。すでに地元エージェントには討伐依頼を出したが、それでも人手が足りないと判断されたらしい。
「補足ですが、実力的に皆さんの担当する範囲が一番広くなると思われます。すべて駆除するのは大変かとは思いますが、よろしくお願いします」
静香が説明を締めくくると、エージェントたちは現地へ移動するため立ち上がった。
解説
●目標
従魔の撃退
一般人への被害抑止
●登場
メドゥサ×30…ミーレス級従魔。やや紫色の透明な体をした大きなクラゲ。海面を漂って移動してきたが、ライヴスを利用した空中浮遊も可能。傘から伸びた触手の先に毒針を持つ。自我がある様子はなく、動くものに反応して襲いかかってくる。
能力…魔攻・特殊抵抗↑↑、防御・生命力↑、物攻・回避↓、移動・イニシアチブ↓↓
スキル
・ベネノ…射程1~3、単体物理、命中-10、物攻+20、触手を伸ばした毒針攻撃、命中→BS減退付与
・パリシス…射程1~2、単体物理、命中+20、物攻-10、多数の触手で絡みつき毒針攻撃、命中→BS拘束+気絶(1)付与
・ネゥロクシ…射程1~15、単体魔法、命中+50、魔攻-20、触手からライヴスを乱す毒針を発射、特殊抵抗判定(魔攻vs魔防)勝利→BS封印付与
●場所
スペイン南部のリゾート地・マルベーリャ
地中海はアルボラン海に臨むビーチには多くのリゾートホテルが建ち並ぶ
気温が上がり始めた頃のため、観光シーズンにはまだ早い時期
天気は晴れ、やや風が強く海には波が立ち水温はやや冷たい
●状況
昼前、海沿いにあるホテルの従業員が異変に気づきH.O.P.E.に通報
従業員が観光・宿泊客らに避難を呼びかけるも、今のところ効果は薄い
特に見た目が綺麗な従魔を撮影しようとする一般人が多く、野次馬化している
PCが現場に到着するのは昼過ぎ
従魔はビーチから視認できる距離まで接近
戦闘開始後、空中に浮き上がる個体と水中にとどまる個体に分かれる
従魔は海岸線に沿って広く展開しており、距離的に味方との連携が厳しい
リプレイ
●絶景かな? 滑稽かな?
「わお」
『~♪』
現場に到着し、海岸沿いにずらっと並ぶ群衆を見てフィアナ(aa4210)は思わず声を上げ、共鳴状態のドール(aa4210hero002)など愉しげに口笛を吹いている。
「本当は一般の人は下がっていて欲しいのだけど……イベント気分、なんてまぁ仕方がないわよね」
『危機感のねぇバカはどこにでもいるもんだが、こんだけ集まれば逆に壮観だな』
主にWNL(ワールドネットリンク)放送でエージェントの活躍が一種の娯楽になっている側面もあるため、一般人たちの暢気さにフィアナはひょいと肩を竦める程度だが、ドールははっきり皮肉と嘲笑を浮かべた。
「群がる者は人間だろうが従魔だろうが、面倒なものだね」
『師匠、もうちょっと違う言い方しない?』
「ふむ……黙っているぶんクラゲのほうが可愛げがある気もするが、従魔がのさばるのはいただけないねぇ」
『うん、もうそれでいいや』
人混みと従魔を見る目がほぼ同じソピア=アイオン(aa5364)に命荷(aa5364hero001)が突っ込むが、最終的にクラゲ>人間>従魔という序列にもはや笑うしかない。
「危険が迫ってても被害が出てないから、対岸の火事なんだろうなー」
『ジブンがケガしなきゃ、危機感ナンテすっ飛んでイクネー』
スマホやカメラを手に高みの見物を決め込む人々に鴉守 暁(aa0306)はのんびり口調で鼻を鳴らし、共鳴したキャス・ライジングサン(aa0306hero001)も軽くディスる。
「あんまり邪魔するなら、強制排除もやむなしかなー? とりま、従魔退治に行きますか」
『海上戦闘もバッチリネー』
少々物騒なことを口にしつつ、暁はキャスの言葉でALブーツの動作確認をし、アルコンDC7を肩に担いで人混みへ歩いていった。
「綺麗な景色ですの。従魔が居なければ最高ですの。勿体無いですの」
『従魔が浮いてるんだから、海を見飽きた一般人にとっては面白い景色なのかもね』
クリスティン・エヴァンス(aa5558)は従魔クラゲで崩れた景観を残念に思い、共鳴した砺波 レイナ(aa5558hero001)は面白くなさそうに見物客に視線を送る。
「でも、一般の方々にはやっぱり危ないですの」
『そうね。早く避難させて、さっさと駆除しないとね』
「誰も怪我なんてさせないですの。クリスたちで護りきるですの」
『……べっ、別に誰かを護りたいとか助けたいとか、そう言う事じゃないからね! あくまで従魔の駆除の一環よっ』
「はいですの」
改めて決意表明するクリスティンは、途中から恥ずかしそうに照(デ)れたレイナに思わず笑顔になった。
『『美しい海』、か』
「景色好きなの?」
共鳴したLonia Arrogance(aa0195hero002)がマルベーリャから地中海を眺めたつぶやきに、Heidi(aa0195)が首を傾げる。
『地名の意味だ。他意は無い』
「あっそ。クラゲより無愛想だなー」
続く味気ない物言いのローニアからにじむ残念さから、ハイディは呆れてため息をもらした。
「まずは避難誘導して~、それから防衛するよ~」
『従魔の相手はともかく、坊の呼びかけで人が動くじゃろうか?』
むふ~、と意気込み気合い十分の畳 木枯丸(aa5545)だが、共鳴した菜葱(aa5545hero001)はのんびりした口調の木枯丸に注意喚起が務まるのか? と疑問を浮かべる。
「おー★的がいっぱいじャーン♪ 暴れ甲斐がアリそうだゼ」
他方、氷斬 雹(aa0842)は従魔へ意識を集中させ、他のメンバーが対応しそうだからと一般人は眼中にない。支部に要請して借りたバイクのエンジンを吹かせると、雹は射撃地点の確保のため一直線で海岸へと向かう。
「あまり派手にしすぎると、それはそれで従魔とH.O.P.E.の戦闘、といって余計に集まりそうですね。まずは、一般人の方へと近づけないようにしましょうか」
『ロロ……』
見物客の様子から構築の魔女(aa0281hero001)は戦闘の流れを脳内で組み上げ、共鳴した辺是 落児(aa0281)の声でモスケールを装備しゴーグルを着用した。
●野次馬避難……?
――ズドン!!
ガヤガヤと騒がしい人々だったが、1発の銃声により一瞬静寂が流れる。
『ハーイ、H.O.P.E.到着ヨー』
「これから海岸は戦場になるから、怪我したくないならホテル側に逃げるんだー」
多くの視線を浴び、銃口を空へ向けたままキャスと暁の声がマイペースに避難を促す。
「あーして近づいてくるんだから陸に上がれるはずだー。遠距離攻撃があるやもわからんしなー」
『ハヤク離れるネー』
懸命(?)に暁とキャスが呼びかけるも、効果はいまいち。
むしろ、エージェントがきたから安心だな、という空気さえ流れ始めている。
『『ハイドラガス』参上! これより戦闘を行う! 巻き込む可能性があるので速やかに退避せよ! 戦闘中の撮影は禁止だ、もしもネットなどで発見された場合はペナルティを覚悟しておけ!』
続けて、共鳴でSFっぽい出で立ちに変身し、普段より強気で落ち着いた雰囲気のハイディが持参した拡声器片手に警告する。
『……俺達のベルトにハンディカメラがついているのだが』
『(シーッ! でででデータ計測用!! 仕事用なんだよ!! 言わなきゃバレないって!!)』
しかし、ローニアの指摘で顔の上半分を覆う仮面の耳パーツが点滅し、拡声器が小声なハイディの言い訳を拾う。登場して数秒でメッキが剥がれたハイディを面白がり、一部の人々は焦った様子にカメラを向けた。
「君たちの度胸は買うが、これより酷い事になっても良いのかね?」
一方、別のアプローチで危険を訴えているのはソピア。
事前にパソコンで調べて印刷しておいたクラゲ毒による被害画像を配り、より現実的な脅威として一般人へ警戒を呼びかけている。
「普通のクラゲでもこうなるんだ、従魔の仕業ならどうなる事か――保証も報酬も無しの被害サンプルになりたくなければ、さっさと立ち去るんだね」
『殆ど脅しみたいだなぁ』
「危険を知るのは必要な事さ。知っておけば今後も回避できるだろう?」
淡々とすごむソピアにビビり、数人の逃げる背中を見送る命荷にしれっと答えつつ、地道な警告を続ける。地元警察の手も借りて画像そのものは広まったが、それでも大半がまだその場に留まったまま。
「早く逃げないと危ないですの!」
『何撮影してんのよ! ……面白い? 寝言は寝てから言いなさいよねっ!』
一向に動かない一般人へクリスティンとレイナも声を張り上げるが、やはり効果は薄い。
――ぴんぽんぱんぽ~ん♪
すると、海岸にいた全員が突然流れた大音量を聞く。
――び~ちで~、お~きな毒くらげさんが~、現れましたぁ~。一般人わぁ~、急いで避難しましょぉ~
声の主は木枯丸で、警察に用意してもらったスピーカーからおっとりとしたエコーが響く。
――ちなみにぃ~、毒くらげさんに刺されたらぁ~……
木枯丸の幼い声音や口調のせいか、いまいち緊張感に欠ける放送はしかし。
……全身が紫色に腫れた後、身体中の穴という穴から血が吹き出て、最後は内臓が全部飛び出て~、死にまぁ~す♪
やけに具体的でグロい結びの表現により、空気を一変させる。
「ふぅ~、これでおっけ~だねぇ~」
『――坊、それは流石にヤバイ』
「え~? じゃあ刺されたらぞんびになる方がよかったぁ~?」
周囲が静まりかえる中、マイクのスイッチを切って額の汗(?)を拭った木枯丸は菜葱のツッコミに見当違いな返事をする。
『……うわああぁぁっ!?!?』
直後、いろいろ想像してしまった野次馬は一気に混乱し、大慌てで逃げ始めた。
『これもう完璧に脅しだよなぁ……』
「結果よければ、というやつだよ。しかし、これだけ警告しても去らない畏(おそ)れ知らずがいたなら、是非とも私の魔術研究の実験台としてお招きしたかったね――くくっ」
(師匠、もしかして慄(おのの)く人間の顔を見に来たのか……? いつもの事だけど、性格悪いな)
命荷はクラゲ毒の画像が恐慌を助長させた原因だと確信しつつ、不気味に笑うソピアに内心で苦笑する。
「落ち着いてほしいですの!」
『どんだけ焦ってんのよ! 怪我したら大変じゃないっ!』
一方、将棋倒しなどの二次被害を心配したクリスティンとレイナは、大声を上げながらできるだけ多くの人数を巻き込むように『セーフティガス』を発動。大勢が眠りこけたのを確認し、一般人の暴徒化を防いだ。
「誘導ルートはここらが適当だね。眠った人間の運搬も君らに任せるよ」
その間に、ソピアが地図で示しつつ地元警察に避難指示を出し、ついでに海岸付近の閉鎖も依頼する。
「あー、安全なとこでなら撮ってていいからー」
『広告ヨロシクオネガイシマース!』
「かっこいいところ魅せてやるぞー。私以外がなー」
ずっと同じ調子で避難誘導をしていた暁とキャスも、意識がある一般人の避難を見送る。
『そろそろ頃合いだ。私たちもクラゲ駆除に行くとしよう』
あらかた人がいなくなったところでソピアが通信機で仲間に呼びかけ、エージェントたちは海へと移動した。
●観賞用と戦闘仕様のクラゲは別物
『視認できる以上に従魔の反応あり! 位置をお伝えしますので、引き付けお願いします!』
先に海岸線へ到着した構築の魔女は左翼に陣取ると、すぐにモスケールが示すライヴス反応を通信機で伝えた。ただ目視範囲に比べレーダー範囲には限界があり、一度にすべての敵影は捕捉できない。
ひとまず構築の魔女は波打ち際を防衛ラインと定め、砂浜側を走りながら海中の索敵に集中して伝達。ついでに、『弾道思考』で研ぎ澄ませたメルカバの遠距離砲撃でクラゲ従魔――メドゥサの侵攻も遅らせた。
「それにしても、海月型の従魔って多いですね……憑りつきやすいとかあるのでしょうか?」
『ロ……?』
その際、妙に遭遇率が高いクラゲ従魔へ素朴な疑問を漏らしながら『トリオ』で牽制した構築の魔女に、落児も答えは返せなかった。
「時間掛けてもあんま意味ネーし、さっさとヤっちまうゼェ!」
途中でバイクを乗り捨て、アサルトユニットで砂浜を移動していた雹もフリーガーを構えてライヴスを集中。海岸から見て右翼側の浮遊メドゥサへ『トリオ』をぶっ放した。
「とにかく派手に暴れリャ、注意はコッチにムくだろ!」
適当なようでいて構築の魔女の通信をしっかり聞いていた雹は、海中にいるメドゥサも含めた陽動として次々とロケット弾を撃ちまくる。
「避難誘導に行った仲間が揃うまでは、前に出る陽動は私だけなのね」
『なんだ、フィアナ? ビビってんのか?』
「まさか。むしろ、ラッキーな状況よね?」
そして、アサルトユニットで海上を駆け一直線に敵陣中央部へ突っ込むフィアナは、早速飛んだドールの野次に笑みで応じる。そのまま先頭集団へ接近し、目測で最適な位置を確保した瞬間ウルスラグナを抜剣。並んだメドゥサへ切っ先を向け、黄金の刃が煌めく『ライヴスキャスター』の中に飲み込んだ。
「さぁこっちよ、かかっておいで?」
召喚された刃が消えると、フィアナは一撃で消えなかったメドゥサへ救国の聖旗「ジャンヌ」を見せつけるように広げ、にっと笑う。すると、風ではためく旗に群がるように、メドゥサはフィアナへ群がり始めた。
『敵両翼の進路に変化なし! 中央のフィアナさんへは10体ほど接近中です!』
『わかったわ。こっちは任せて』
そのタイミングで敵全体をレーダーで把握した構築の魔女から通信が入り、フィアナは短く返答。
「構造はきっとクラゲと大差ないのよね。それじゃあ傘が破れたらどうなるのかしら、ね?」
レーギャルンによる衝撃波で牽制しつつ、メドゥサが十分集まったところでフィアナは剣の切っ先を天へ掲げる。隙と見た複数のメドゥサがフィアナへ触手を伸ばすも、直後に降り注いだ『ウェポンズレイン』に攻撃ごと断ち切られ、本体の傘も蜂の巣にされた。
『おいおい、最初に飛ばしすぎると後で息切れすんぞ?』
「まだ平気よ。それに数が減れば後が楽になるでしょう?」
緊張感のないドールの指摘に軽く返答し、フィアナは連続で『ウェポンズレイン』を発動。ズタボロでもまだ動くメドゥサの耐久力に目を細めつつ、順番にとどめを刺していく。
『お待たせ! ボクは左翼の敵を引きつけるよー!』
『私も付き合おう』
そこへ避難誘導組が合流し、通信機で断りを入れてからハイディとソピアが海へ飛び込んだ。
(ステルスモード発動! ……なんちゃって)
先行するハイディは『潜伏』で気配を隠蔽し、英傑の盾を前に海中のメドゥサへと接近していく。
(全員の避難はまだだろうし、海岸に行かせないようにしないとね)
『適度な距離を保ち、敵の挙動を常に注意しておけ』
海中でハイディはこの戦闘を自身の性能テストと考えるローニアの助言を聞きつつ、ヘリオティアの柄を確かめ――投擲。手から離れた奇襲の刃は、海水を切り裂いて1体に命中する。
(げっ!?)
すると、攻撃の挙動を察知した海中のメドゥサは一斉にハイディへ触手を伸ばしてきた。
(た、退避~っ!)
『ネゥロクシ』の毒針を体や盾で受けつつ海面へ顔を出したハイディは、頭上のメドゥサ集団とご対面。
「うごご、やばい、いっぱい集まりすぎるとキモい! ヘループ!」
『集めたのはお前だろう。キリキリ動け』
なりふり構わぬじたばた泳法で姿勢を維持するハイディは、目印代わりに手筒花火を使用。無慈悲なローニアの言葉に背を押され、上下から迫る触手からバタ足で必死に逃げる。
直後、ハイディに集まったメドゥサの傘に飛来した金槌が命中し、雷鳴のような轟音が響いた。
『うわ、結構耳にくるな』
「適当に投げても当たりそうだ――さぁ、蹴散らすとしよう」
ミョルニルの音に命荷が眉をひそめつつ、遠方から投擲したソピアは再度金槌を振りかぶった。
『そういや、クラゲってどうやってモノを見てんだろーな』
「普通の個体でも目は24個もついているそうだ」
『へー! 俺にも24個の目があったら便利かな?』
「単純に気色が悪いな」
『ははっ、師匠ひでー』
命荷と雑談しつつ、攻撃動作を見せた敵を優先して攻撃していくソピア。
「っ!? ……ちっ」
次第に『ネゥロクシ』がソピアにも向けられ、回避しきれず刺さった針を強引に引き抜いた。
「さぁ~、根こそぎ斬るよぉ~!」
「畳さま、お1人では危ないですの!」
一方、右翼の敵へは木枯丸がアサルトユニットで突撃し、クリスティンがALブーツで追従。
「やー、若いっていいねー」
『そのセリフはまだハヤイヨー、アカツキー』
「そかなー?」
その後方で暁が右翼側の砂浜にALブーツを食い込ませ、キャスと軽口を言い合いながら『射手の矜持』を発動。陽動を兼ねた前衛である外見10代以下の背中を見送りつつ、狙撃銃の銃口を薄紫で透明な的へと定めた。
「……あれぇ~?」
そのままメドゥサの群れへ直進し、スキルを放とうとした木枯丸は白夜丸を抜刀するも――ライヴスがうまく扱えないことに首を傾げる。
『坊、腕じゃ!』
菜葱の声で視線を移すと、知らぬ間に刀を握る腕へ刺さる毒針の影響で『封印』状態だと悟る。
『一旦退け!』
「えぇ~」
断続的に迫る毒針にダメージも重なり、防御の薄さが不安な菜葱の言葉を受けた木枯丸は、不満そうに敵から後退した。
「こちらですの!」
入れ替わりで前へ出たクリスティンも、『封印』で思うように攻撃や回復支援ができない。木枯丸と比べダメージは少ないが、集中する攻撃に表情は厳しい。
「――い、痛いですの!」
『クリス!』
さらに、メドゥサに距離を詰められたクリスティンは『パリシス』の『気絶』で一瞬意識が飛び、すぐに『ベネノ』の触手による毒(『減退』)で覚醒させられる。未だスキルを封じられた状況のため、レイナの焦燥が声に現れた。
「前衛の奴ら、ツッコむねぇ――動くなヨ、っと!」
直後、その様子に気づいた雹がフリーガーを地面へ放り、幻想蝶からM110を引き抜くと『ファストショット』でクリスティンを『拘束』する触手を撃ち抜いた。
「俺様ッて優シー? アハハッ! エージェントなんだからサ、コレくらいはナ?」
遠目からクリスティンが解放されたのを確認し、雹は再びフリーガーを拾うと別にメドゥサが密集した場所へ『ロングショット』で爆撃した。
「ちょっと硬いかなー? 動きが遅いから、撃ち放題の的だけどねー」
さらに、ライフルで狙撃していた暁は途中で速射砲へ装備を変更。『シャープポジショニング』からの『ロングショット』で木枯丸の離脱とクリスティンの立て直しを補助する。
「二人ともありがとぉ~」
「おー、俺様だって無駄ナ怨みを買うホド、暇人じャねーしナ」
「あせらずいこー」
ビーチまで戻ってきた木枯丸は、『封印』で乱れたライヴスを整えながら雹と暁に手を振った。対して、爆風を考慮し味方への援護には狙撃銃を用いていた雹も、マイペースながら1体ずつ確実に倒していた暁も、再び海へ出た木枯丸へプラプラと手を振り返す。
「動けなくすれば……とも思ったのですが、消滅まで動き続けるとなると面倒ですね」
敵の数が半分ほどになり、無傷のメドゥサを主に砲撃してきた構築の魔女はクラゲ従魔の意外なタフさに眉をひそめた。傘や体幹部分等、『シャープポジショニング』を用いて敵の浮力や移動力を奪うことを意識して攻撃してきたが、ライヴスが残る限り体組織をいくら削っても攻撃が止まらない敵にため息が漏れる。
「それに、海中の位置を共有しても動きが活発なためか、不意打ちを完全に防ぎきれていませんし」
また、敵の数の多さと海上や海中の違いが原因で、不意に生じる前衛の集中力が散漫となった瞬間を集中的に狙われる傾向があった。長射程による戦場全体への遊撃を行う構築の魔女も、適宜『ノイズキャンセラー』と『ダンシングバレット』で海中の敵へ対処するが、多彩な毒が前衛をじわじわと苦しめていく。
『お~い? 楽になるんじゃなかったのかぁ?』
「む~、ドールがいじわるなのよ」
それは回避が高くとも例外ではなく、ドールの皮肉を浴びるフィアナもわずかなミスから敵スキルに被弾し、『減退』と『封印』を解消できぬまま戦闘を引きずっている。
『クラゲごときにやられんなよ?』
「大丈夫、よ!」
ドールのからかう声は続くが、衝撃波で海を割ったフィアナは最初に集めたメドゥサを倒しきる。そしてすぐさま、少々手が足りなそうな左翼へと駆けていった。
「ピーンチ!」
「というより、鬱陶しいねぇ」
海上に顔を出し、すっかりクラゲに囲まれたハイディは『封印』と『減退』で動きが鈍く、ソピアも『封印』でライヴスが安定しない。反撃で敵のライヴスを削ってはいるが、スキルを封じられると手数が足りない。
「援護するわ!」
が、そこへフィアナが介入したことで流れが変わる。レーギャルンから放たれた衝撃波がメドゥサを消滅させ、攻撃対象が増えたことで個人への攻勢が弱まった。
「ありがとフィアナ! こっからが反撃だー!」
その隙に『封印』を解除し、ハイディは『ジェミニストライク』で包囲から脱した。
「世話になった借りは返さなくてはね」
同時にソピアもライヴスを静めると、黒いオーラを放ちながら持ち替えたグランドールで『怒濤乱舞』を食らわせていく。
「ラスト1匹!」
「ふぅ……厳密にはまだ終わっていないがね」
そのまま、左翼の戦いはハイディの『ジェミニストライク』とソピアの『疾風怒濤』を最後に敵が消滅。残る敵を倒すため、フィアナも含めた3人は右翼へ急ぐ。
『……報告! 少し敵の動きや手応えが変わりました! 注意してください!』
ここで、通信機から構築の魔女の注意が届いた。見ると残ったメドゥサはすべて海上へ浮き上がり、ライヴスの勢いが強まって各能力が向上したように見える。
「関係ないよぉ~。斬って斬って斬りまくるんだよぉ~」
ただしそれは劇的な変化ではなく、出だしをくじかれて暴れ足りない木枯丸は構わず突撃。
「これがかおてぃっくぶれいどなんだよぉ~」
序盤の遅れを取り戻すように『ストームエッジ』や『ウェポンズレイン』でメドゥサを切り刻み、木枯丸は弱った敵を見極めすれ違いざまの一刀で斬り伏せる。
「無茶はダメですの!」
『し、心配とかしてないんだから、勘違いしないでよね!!』
ダメージを残したまま縦横無尽に海上を滑って移動する木枯丸の背に、『封印』を解いたクリスティンの『ケアレイ』や『クリアレイ』が援護する。レイナの素直じゃない声は……たぶん届いていない。
「頭上の露払いだ――巻き込まれんなヨ!」
さらに、木枯丸が通り過ぎた後を雹のロケット弾が飛翔し、浮遊するメドゥサを連続で爆破した。
「たーまやー」
『カーギヤー』
しぶとく煙から現れたクラゲには、暁とキャスのかけ声とともに飛んだ速射砲の砲撃がぶち込まれた。
「――やあっ!」
そして『全力移動』で右翼まで移動したフィアナの衝撃波が、最後のメドゥサのライヴスを霧散させた。
「やー、ようやく絶好の海水浴日和になったねー」
『風邪ヒクと思うヨー』
クラゲがいなくなった海を見渡し、満足そうな暁とのんびりしたキャスの声で戦闘は終了した。
●小波(さざなみ)立つ水面(みなも)
『これで最後、よね?』
「一応見回りしますか? ですの」
『そうね。最終確認できてないと拙いし』
レーダーでも従魔の反応は消えたが、レイナの言葉で念のためにとクリスティンがALブーツで海上の見回りへ向かった。
『今日もたくさん斬ったのぅ。坊、楽しかったか?』
「うん~♪」
安全確認が終わるまで共鳴状態で待機する砂浜では、終盤で豪快かつ思う存分振り回した白夜丸の手入れをしながら、菜葱の声にご機嫌で答える木枯丸の姿があった。
「正直、クラゲは兎も角、ボクの活躍は撮影してもらいたかった……へっぶし!」
『不要だな。お前の影響で俺の能力まで無様だと思われるのは御免だ』
近くでは動画撮影に失敗し、ガッカリした後くしゃみをしたハイディをローニアが鼻で笑っている。なお、この一戦を分析したローニアは、己の戦闘力に加えハイディが馬鹿なのだという確信を得た模様。
「――では、お願いします」
他には、警察から避難後の状況を聞いていた構築の魔女は、ついでに愚神や従魔の危険性や過去の被害に関する避暑地での教習を提案し、H.O.P.E.経由で打診しておくことを告げた。
「キャスー。何か飲み物買ってきてー」
「アイヨー」
唯一、共鳴を解除して被害状況を確認していた暁は、キャスにおつかいを頼んで背伸び。最後までマイペースを貫き、ビーチでささっと報告書を書き上げた。
『問題なさそうね』
「よかったですの」
そして、レイナの言葉に警戒を緩めたクリスティンは海岸へと戻っていった。
――こぽっ
海面に弾けた小さな気泡が、波で消えたことに気づかないまま。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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