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【白刃】孤立した物資を回収せよ
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救出と回収の相談
最終発言2015/10/21 18:10:47 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2015/10/21 12:47:44
オープニング
●H.O.P.E.
「……老害共が、好き放題に言ってくれる」
H.O.P.E.会長ジャスティン・バートレットが会議室から出た瞬間、幻想蝶より現れた彼の英雄アマデウス・ヴィシャスが忌々しげに言い放った。
「こらこらアマデウス、あまり人を悪く言うものではないよ」
老紳士は苦笑を浮かべて相棒を諌める。「高官のお怒りも尤もだ」と。
愚神『アンゼルム』、通称『白銀の騎士(シルバーナイト)』。
H.O.P.E.指定要注意愚神の一人。
広大なドロップゾーンを支配しており、既に数万人単位の被害を出している。
H.O.P.E.は過去三度に渡る討伐作戦を行ったが、いずれも失敗――
つい先ほど、その件について政府高官達から「ありがたいお言葉」を頂いたところだ。
「過度な出撃はいたずらに不安を煽る故と戦力を小出しにさせられてこそいたものの、我々が成果を出せなかったのは事実だからね」
廊下を歩きながらH.O.P.E.会長は言う。「けれど」と続けた。英雄が見やるその横顔は、眼差しは、凛と前を見据えていて。
「ようやく委任を貰えた。本格的に動ける。――直ちにエージェント召集を」
傍らの部下に指示を出し、それから、ジャスティンは小さく息を吐いた。窓から見やる、空。
「……既に手遅れでなければいいんだけどね」
その呟きは、増してゆく慌しさに掻き消される。
●ドロップゾーン深部
アンゼルムは退屈していた。
この山を制圧して数か月――周辺のライヴス吸収は一通り終わり、次なる土地に動く時期がやって来たのだが、どうも興が乗らない。
かつての世界では、ほんの数ヶ月もあれば全域を支配できたものだが、この世界では――正確には時期を同じくして複数の世界でも――イレギュラーが現れた。能力者だ。
ようやっと本格的な戦いができる。そんな期待も束の間、奴らときたら勝機があるとは思えない戦力を小出しにしてくるのみで。弱者をいたぶるのも飽き飽きだ。
「つまらない」
「ならば一つ、提案して差し上げましょう」
それは、突如としてアンゼルムの前に現れた。異形の男。アンゼルムは眉根を寄せる。
「愚神商人か。そのいけ好かない名前は控えたらどうなんだ?」
アンゼルムは『それ』の存在を知っていた。とは言え、その名前と、それが愚神であることしか知らないのであるが。
「商売とは心のやり取り。尊い行為なのですよ、アンゼルムさん」
「……どうでもいい。それよりも『提案』だ」
わざわざこんな所にまで来て何の用か、美貌の騎士の眼差しは問う。
「手っ取り早い、それでいて素敵な方法ですよ。貴方が望むモノも、あるいは得られるかもしれません」
愚神商人の表情は読めない。立てられた人差し指。その名の通り、まるでセールストークの如く並べられる言葉。
「へぇ」
それを聞き終えたアンゼルムは、その口元を醜く歪める。
流石は商人を名乗るだけある。彼の『提案』は、アンゼルムには実に魅力的に思えた――。
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現在日本のH.O.P.E.は総力を挙げ。アンゼルム打倒のための作戦を展開中だ、その折。グロリア社日本支部トップの令嬢『西大寺遙華 (az0026) 』が一つの話を持ちかけてきた。
グロリア社に多大な影響力を持つ彼女は、それと同時に英雄『ロクト(az0026hero001)』と契約するリンカーでもある。
そんな彼女の提案は、輸送途中だったグロリア社の重要物資の奪還であった。
「大量の霊石や装備品。研究資料などをつんだ輸送車が三台。敵の従魔の攻撃を受けて孤立状態なの。これからこの戦いは激化していくと思われるわ。そうなればわが社のサポートは必要不可欠のはず」
ロクトが無言で資料を差し出す。そのトラックに積まれている物資の一覧だった。
「私達グロリアス社は近々奪還作戦を展開中よ、けど圧倒的にリンカーの数が足りないわ。だから、H.O.P.E.も手を貸しなさい。これはグロリア社からの正式な依頼よ」
そう締めくくり、君たちはあれよあれよというまに輸送ヘリに乗せられ現地まで送られてしまった。
ヘリは住民が避難し終わった町の上を飛んでいた。
高層ビルが立ち並びファーストフード店や福屋。デパート、ゲームセンターなどが目に入る、本来であれば人でにぎわっているであろう区域を飛んでいた。
ヘリは全部で三機、今あなた方がのっている機体はH.O.P.E.の部隊が乗っているヘリで。二機目にはグロリアス社の戦闘員が。もう一機には技術者が乗っていた。
あなた方はそのヘリの中で作戦の説明を受けることになる。作戦概要としては中央を突破、味方同士でカバーしながら敵を撃破していく。という力技だった。
「何よ、私の作戦に文句でもあるの? 敵は数が多いだけで単体の戦闘力はそうでもない、こちらも多くのリンカーを投入している。だから……」
そう遙華が声高に自分の正統性を主張しようとし始めた時、遠くで何かが煌いた。その瞬間何機か飛んでいたヘリのうち一機が爆発した。
「な……」
遙華は絶句する。
「すべてのヘリは建物の陰に隠れて! そして着陸しなさい、この速度で空を飛んでいたらいい的よ」
ロクトがあわててそう叫んだ。
ロクトの持っている通信機の向こうから悲鳴が聞こえ、ヘリが急旋回しリンカーたちの体に重力がかかる。
そして、そのロクトの的確な指示のおかげで他のヘリは撃墜を免れたが。隊は分断され作戦遂行は難しくなってしまった。
「……私のせいだ。どうしようロクト」
そう地上に降り立った遙華は、ギッと歯を食いしばる。
「あの輸送ヘリはリンカーが乗っていた、だからみんな死んではいないと思う、けれど、戦闘続行は難しいと思う。でももう一機、私たちと反対方向に降りたヘリにはほとんど一般作業員しか乗ってなかった、どうすれば」
「しっかりして、遙華。これから新たに作戦を考えましょう、大丈夫よ、ここには頼れるH.O.P.E.のリンカーが大勢いるじゃない、彼らに助力頼めばなんとかなるわ」
遙華はあなた方一人一人を見据え、そして口をひらいた。
「お願いよ、わが社の社員を助けるために力を貸して、独りだって失われていい命はないわ」
そう遙華は頭を下げた。
「幸いなことに、彼らとの連絡はこの通信機でとることができている、まだあきらめるには早いかもね」
ロクトが通信機で社員の情報を聞き、立て直した作戦はこうだった。
「まず隊を二手に分けるわ。 片方はグロリア社の社員を救出する班。もう片方は狙撃従魔を撃破する班。作戦会議を十五分で終えて、すぐさま任務を裁可してもらうわ」
そして作戦会議が始まる。
解説
目標 敵従魔多数の殲滅、もしくは、狙撃従魔を倒しその場からの撤退。
救出班は、不自由な戦いを強いられることになる。
一般作業員はビルの中に固まって立てこもっているが、自衛するのが精いっぱいな状態であり、周囲の従魔をある程度減らさなければヘリも飛ばせないだろう。
また、そのすぐ近くの民家にグロリア社のリンカーも避難している。彼らの負傷はひどく、今あなた方の手元にある救急キットを届けなければ戦線に復帰することはできないだろう。しかしその家も従魔6体に囲まれており、うかつに行動できない状態だ。彼らがいれば戦力にもなるので、救出も考えてみてほしい。
狙撃従魔を倒す班は、遠距離攻撃ができるリンカーが必要となるだろう。狙撃従魔を守るように従魔8体がその周囲をうろついており、大きな交差点の中央に陣取って周囲を警戒している。
そして今回相手にする従魔の情報を公開しよう。
通常の従魔は身長二メートルのゾンビのような見た目で、近接攻撃しかしてこない。ただし味方をカバーする知性などは持ち合わせているようだ。
また素早く移動することが苦手で、一般人の足でも逃げ切れるほどに動きは遅い。
また音に強く反応を示すので、ヘリの音や、よくしゃべる人間には強く反応を示すだろう。
狙撃従魔においては。攻撃力と回避力に秀でているが防御面はかなり低い。単体攻撃しか持ち合わせていない。
狙撃従魔を倒せばヘリを飛ばせるので、その場から一度撤退し、再度体制を立て直して物資回収に挑める。
それに加え、周囲を徘徊する従魔の大多数を倒してしまえば、撤退する必要もない。
ただし一般作業員六名のうち半数が死亡すると物資を運び出すことはできなくなるので、撤退一択になるだろう。
一般作業員は優先して守ってほしい
また遙華とロクトはその能力から救出班に参加する予定だ。
彼女に指示があれば遠慮なく言ってほしい。
リプレイ
【白刃】孤立した物資を回収せよ
一章 最悪のフライト
轟音と閃光、直後リンカーたちは異変に対応するため雑談をやめた。
見ればヘリが打ち抜かれていた。エンジン部分が見事に破壊され、徐々にプロペラが回転数を減らしながら高度を落していく。
ヘリはビル壁を削りながら火花を散らしてビルの手前に落ちた。
「なによ……これ」
それを『西大寺遙華(az0026)』は唖然と眺めていた。
それを押しのけるように。『王 紅花(aa0218hero001)』が身を乗り楽しそうに言う。
「おうおう、景気がいいな、ヘリが蚊トンボのように堕ち……」
その口を『カトレヤ シェーン(aa0218)』が抑えた。
「黙っとけ」
「狙撃……? ど、どうしましょう、撃墜されたヘリは大丈夫かしら。じょ、状況の把握を……えっと……え、えーっと……」
「……落ち着け」
あわてる『郷矢 鈴(aa0162)』を、彼女の英雄『ウーラ・ブンブン・ダンダカン(aa0162hero001)』がなだめている。
「すべてのヘリは建物の陰に隠れて! そして着陸しなさい、この速度で空を飛んでいたらいい的よ」
『ロクト(az0026hero001)』が通信機を片手にもう一機のヘリにもそう指示を出す、張り詰めた声に全員が緊急事態を覚った。
「おい、あれ!」
カトレアが指さす方向を全員が見る。そこには大きな車道が通っていた。六車線のこの町の中心を走る道路で、その交差点の中心、そこに三体の馬鹿でかいライフルを構えた従魔が居座っていた。
奴らに狙撃されたのは想像に難しくなかった。
遙華は歯噛みしながらヘリが降下するのを待つ。
「また、私はしくじった……」
* *
「作戦自体は悪くなかったッス、しゃんと前向いて今出来る事をやるッスよ!」
そう『齶田 米衛門(aa1482)』が遙華の手を引き、ヘリから降ろす。
彼の英霊『スノー ヴェイツ(aa1482hero001)』はロクトと主に周囲を警戒していた。
「何を言ってるの、戦闘員半分は負傷、一番守らなければならない作業員は離れ離れでビルに立てこもっている。従魔のせいでヘリも飛ばせない状態。私の情報収集不足だった。私が悪いのよ」
そう項垂れる遙華へと一人の少女が歩み寄る、『水瀬 雨月(aa0801)』が柔らかく遙華の髪を撫でた。
「失敗は誰にでもあるわ」
そう優しく遙華の頭をなでる。
ちなみに彼女の英雄。『アムブロシア(aa0801hero001)』はこんな状況だというのにお構いなしで幻想蝶の中だった。
「気に病むなとは言わないけれど、今は救助が優先ね、あなたならもうやるべきことはわかってるでしょ?」
「わかる、けれど私は社員の身を預かっている身にも関わらず、こんなミスを犯してしまったわ。私が指揮をとらない方が……」
「バカね……」
そう雨月が遙華を抱きしめる。遙華の鼻腔を甘い香りがくすぐった。
「な! なななな」
そして半ばパニックに陥る遙華。
「自信を無くさないで、あなたはよくやってるわ。今回はたまたまミスをしただけ、そしてそれを挽回するチャンスはまだ残ってるわ」
ひとしきり遙華は暴れた後、雨月の手を振り払う。
「わかってるわよ! そんなことくらい、それより密着しないで」
「跳ね除ける元気があるなら、まだ大丈夫ね」
そう雨月は柔らかく微笑んだ。そんな二人を見ながらロクトがにやついている。
「何が言いたいの?」
いえ、べつに、ロクトはそう微笑みを返し、直後表情を引き締めた。
「情報の収集がすんだわ、これからどうするか決めましょう、ね、遙華」
そして周囲の警戒に出ていたリンカーたちが戻ってくる。『三坂 忍(aa0320)』そして『玉依姫(aa0320hero001)』もその部隊の一員だった。
「何を落ち込んでいるの?」
忍が語りかける、次の言葉を玉依姫が継いだ。
「人は誰しも間違い、後悔する。じゃが、それは自らを侮辱する事じゃ。過去のおぬしはそれほど愚かだったか? 過去ああしておればなぞ、今を知っておるからにすぎん。未来を読めぬ人の身なれば、今を懸命に生きよ」
そして忍が手近な乗用車をデスク代わりにして地図を広げる。
「呆けてるひまはないわよ。無線は生きてる。地図もある。仲間の、敵の情報を集めて!」
その場にいるリンカーの全員が忍と遙華に目を向けた。その会話の行く末を見守る。
「あたしの未来はあたしが決める。そのために貴方には貴方にしか出来ない事をやってもらうわよ」
「…………。私にしかできないこと」
その言葉にうなづき遙華はキッと前を見据えていった。
「これから私たちは作業員、および負傷したリンカーを回収してこの戦闘域を脱出します。そのためにみんなの力を貸してください。作戦名はオペレーション・アリアドネ」
そう高らかに宣言した遙華。テンション高めな彼女の反して周囲の反応はあまりよくなかった。
「……、なんかださくないっすか?」
米衛門が頬をかきながらそう言うと、紅花が言葉を返す。
「それ以前に、アリアドネってなんなんじゃ?」
カトレアが呆れがちに答える。
「何の関係もないように思えるんだけど」
「何でよ、この作戦名には、希望の意図を手繰り寄せるようにっていう……」
「作戦名の話より、内容の話に移りましょう? 時間がないわ」
そう忍が言うと、遙華は「はい」とだけ答えて大人しくなってしまった。
「ああ、遙華……。かわいいわ」
ロクトが頬を染めながら震えていた。
「うるさい! とっとと作戦会議を始めるわよ。鈴さん周囲の状況は」
「え、えっと……じょ、状況は……」
壊れたラジオのように同じ言葉を吐く鈴をダンダカンがガクガクと揺らす。
「リン。おい、リン!」
「ダ、ダンダカン。大丈夫、今状況を……」
「それよりきちんと作戦名考えるッスよ、遙華さんのネーミングセンスがねーっすよ」
「いいじゃない、そのほうが盛り上がると思って……」
「麟、落ち着け。既に計画の練り直しが進んでいる。流れは俺が聞いておくから、1度頭をスッキリさせて、落ち着いたら参加してくれ。」
「そ、そうね……お願いするわ」
てんやわんやで作戦会議が始まるが、不思議と先ほど漂っていたような絶望感はなくなっていた。
リンカーたちの気遣いに遙華は静かに感謝した。
二章 腐臭とスナイパー
「どうして結婚式の最後にカンカラ付けて旅に出るようになったんだ?」
『骸 麟(aa1166)』が腰に太い紐を巻きつけながら問いかける。
その言葉に『宍影(aa1166hero001)』が答えた。
「魔除けとか言われてるみたいでござるが、実際は近所の悪がきが家の周りで大騒ぎするのを避ける為だったらしいでござるな」
「空き缶で?」
「昔は中身が入っていたでござる。買収でござるな」
「今やったら道路ドロドロだね」
二人が立っているのはビルとビルの間、路地裏で外の様子をうかがっていた。外の大きな道路には身長が二メートルほどある腐った体の化け物がうようよ歩いていた。
そしてその奥に、例のライフルを持った従魔が周囲を警戒していた。
「ここを……、突っ切るでござるか」
「うん、私たちにしかできない仕事だ」
「ううう、仕方がないでござるな」
二人は意を決して歩道に躍り出た
「よーい」
「どんっ、でござる!」
その瞬間二人はビルの隙間から駆け出した。二人はその交差点のど真ん中を疾走する。そんな二人は奇妙な飾りを腰につけていた。
ガラガラガラガラ
空き缶だ、空き缶でものすごい音を立てながら二人は歩道を疾走している。
そして事前情報通り、従魔たちの視線が二人にむく、そして狙撃従魔のスコープも。
「うおお、共鳴もせずに、無茶でござろう!」
その時、耳をつんざくような轟音が交差点に響き渡る。
「回避!」
その攻撃は実弾ではなく何らかのエネルギーの塊のようで、着弾地点を高温で焼き、爆発を巻き起こした。
爆風、土煙。その中を突っ切って麟と宍影が走り去る。直撃は避けられたようで二人は無傷だった
「今のは奇跡の回避ね!」
「そう何度もできることではないでござるよ」
そう宍影が顎で指し示す先には、立ちはだかるようにゾンビのような従魔が立っていた。しかもほかの従魔も集まりつつあり、走行ルートがどんどん狭められている。
「これを!」
鈴がクレーの的を投げる。
「なんか釣られて撃ちそうな雰囲気無い?」
しかし狙撃従魔は反応を示さず、その銃口は鈴に向けられたままだった。
「ならこっちで」
鈴は即座に共鳴、その能力で分身を作りだし、狙撃従魔一体を翻弄する
「こっちを先に使うでござる!!」
思わず宍影が叫んだ。
そんな、前衛で頑張る鈴を見つめる影が、すぐ近くのビルの三階にあった。
かろうじて狙撃従魔を攻撃できる位置を見定め、スナイパー達は陣取っていた。
『志賀谷 京子(aa0150)』と『アリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)』だ
「準備は完了ね、アリッサ頼んだわよ」
「任せてください、すぐに倒してしまいましょう」
「鈴さんは?」
そう傍らで外をうかがう鈴に京子は声をかけた。
「大丈夫ですよ、問題ありません」
先ほどとは打って変って冷静な表情で鈴はフェイルノートを構える。
「先ほどとはまるで別人のようですね」
そうアリッサが言う。
「いつもこうなら、いいんだがな」
ダンダカンが頭をかき、そして四人は共鳴を開始。
「アリッサ、どう? いけそう?」
「京子、馬鹿にしないでください。共鳴状態のわたしたちなら出来るに決まっているでしょう?」
ガチャリとスナイパーライフルを立て掛け、照準を合わせる。
そして狙撃従魔に銃弾を見舞う。次いでフェイルノートから弓が放たれる、しかしそのどちらも、ゾンビのような従魔に守られ、攻撃が届かない。
「器用ね……」
京子が歯噛みした。直後狙撃に気が付いた従魔たちは陣形を立て直し、三階にいる狙撃手にも対応できるように距離をとった。
そしてその横からカトレヤが爆風を浴びせる。
一気に狙撃従魔の陣形が崩れた。しかし。
「この攻撃も届かねぇか、仲間を守る知能があるなんて、脳は腐っちゃいないんだね」
狙撃従魔は持ち前の機動力で、まるで地面を滑るように移動してゾンビの陰に隠れる、ゾンビを盾にする術に長けているので攻撃が全く通らない。
「このままではじり貧じゃ」
そう紅花が焦りの声で囁く、当然だ。こちら側が早く敵を排除できなければ、あちら側の負担が増えるのだから。
「わかってる」
そう短く答えたカトレアは意を決して息を吸いこんだ。
「てめえらよく聞け! カトレヤだ。この糞ったれ従魔共。てぇめぇら、○○○の×××でbc◎%e6△!」
敵は音に反応する、その事前情報が正しいことは麟によって証明されている。だからあとはこの従魔を引きはがしさえすれば、狙撃組が敵を片付けてくれるだろう。
そう思ったからことカトレアは危険を冒した。
「無茶をして」
その瞬間、雨月が路地裏から躍り出て狙撃従魔ごとブルームフレアにより周囲一帯を焼き払った。
しかし狙撃従魔はうまく避けたようで無傷。
その雨月に、狙撃従魔が反撃。レーザービームの直撃を受け、右肩を焼かれてしまう、衣服が炭になり、袖が落ちた。
その射撃のすきを逃さず麟は毒刃で狙撃従魔に攻撃、しかしその攻撃は回避されてしまう。
そして、狙撃従魔が麟とカトレヤそして、移動中の京子に銃弾を放つ、それを三人はよけることができなかった。
「くっ!」
レーザーは腕をかすめ、肌をさき切った、血があふれ腕が重たくなる、しびれるような激痛が京子を襲う。
だが京子は腕の出血を気にせずに、反射的に照準を合わせる。
「まとめて狙うわ」
「同じく」
京子と鈴がトリオでゾンビと狙撃従魔を狙って撃つ。全弾命中。
従魔がカバーリングし、狙撃従魔を守るが、ゾンビ二体の頭がはじけ飛んだ。
「見た目ほどタフじゃなさそうだな!」
カトレヤがマビノギオンで攻撃を仕掛ける。ゾンビが一体よろめいて倒れた
そのゾンビを中心に、周囲をうろうついている敵にまとめて、雨月がブルームフレアを見舞う。
「これで何とか!」
ブルームフレアの直撃を受け。ゾンビが二体灰になった。
「あと狙撃従魔が五体、そしてゾンビが四体」
喜んでいるのも束の間。雨月の胸を狙撃従魔のレーザーが貫く。
「水瀬!」
麟とカトレアが叫び、駆けつけようか迷いを見せた瞬間。
それを待っていたかように、狙撃従魔が動いた。素早く狙いをつけ、そしてトリガを引く。
二本のレーザが二人の足を穿つ。二人は思わず地面に転がった。
したたかに体を打ちつけた二人は朦朧とする意識の中、雨月に手を伸ばす。
「ここまでか?」
カトレアの意識が遠のいていく。
三章 救出とジェイル
負傷リンカーたちとは現在、無線機でやり取りが可能だった。
ロクトはグロリア社のリンカーたちに作戦を伝えるとすぐに助けに向かう旨を伝えた、しかし彼らから帰ってきた返答は、意外なものだった。
「我々を置いて脱出してください」
足手まといになって遙華を危険にさらすくらいであればここで死ぬ、そう言ってきかない、おそらく冷静な判断能力が失われているのだろう。
無理もない、もろい民家に閉じ込められ、外にはゾンビがうようよしている、まるでB級でもありえないホラー体験をしているのだ。
彼らが弱気になるのは仕方がないことだと言えるだろう。
「認められないわ、あなた達の上司はあなた達を見捨てることを良しと思っていない」
「なら、敵を道連れにして時間を稼ぎます、だから……」
その瞬間だった。
一人の男が扉を開けて民家に押し入った、顔は逆光で見えないが、その後ろに一人の子供を連れていた。
「あきらめるな」
『真壁 久朗(aa0032)』はリンカーたちが立てこもっている民家を発見すると周囲のゾンビを押しのけ、すぐさま中に滑り込んだ。外ではその騒ぎに反応したゾンビが集まりつつある。
「アンタは?」
「遙華に頼まれてきた、あんたらを死なせるなってお達しだ」
「我々のことなんていい、それより早く逃げ」
その言葉を無視し、久朗はわざときつく包帯を巻いた。
うめき声でくだらない文句が途切れる。
「大丈夫か?外に仲間もいる。重傷者がいれば教えてくれ。先に手当てする」
「お前……」
久朗は救急キットを下ろすと、彼らの傷の手当てを始めた。それを『セラフィナ(aa0032hero001)』が手伝っている。
「なんだかクロさん、最近吹っ切れてきましたよね」
「なり振り構っていられないだけだ。来るぞ」
窓や、裏口の扉を叩く音が聞こえた。すぐに破られるだろう。
「こちらセラフィナ。忍さん、聞こえていますか?」
治療で忙しい久朗のかわりにインカムで通信を試みるセラフィナ、これに忍は答える。
「聞こえているわ」
「こちら負傷してるリンカーさんの居場所をまでたどり着きましたよ」
「戦闘には参加できそう?」
「とりあえず、今すぐは無理そうですね。そちらはどうですか?」
忍は他のリンカーを引き連れ一般作業員が立てこもっているというビルを目指していた。
「引きつけるので精一杯、数が多すぎて戦闘は無駄ね。少人数で敵の引き離しと救助を同時に行ったほうがいいわ。技術者のいる場所に負傷者を運び込んで籠城しましょう」
そう忍が指示を出す。
「齶田さん!」
「やっと出番ッスね!」
そうパルチザンを構え米衛門が敵の中心に踊りでる、民家から敵を引きはがすために大きな通りの中心で敵を迎え撃つ。
「そうッス、見捨てて良い命何ぞないべ……救うッスよ!」
「あぁ、あん時の覚悟、変わってねぇか見てやるよ」
スノーが言葉を賭け、米衛門が走る、直接戦闘をする必要はなく注意を引きつければいいのだ、危険な役目だが米衛門ならこなせるとの判断だった。
「お互い、厳しいわね」
遙華はビル前の大きな通りでの囮作戦中だった。その遙華からの通信が入る。
「厳しいのはみんなも一緒ッスから、問題ないッス」
「感謝するわ」
「おい、米衛門! 前見ろ」
米衛門がふと我に返ると、いつの間にか逃げ場がなかった。四方八方を囲まれている、うめき声の連鎖に、さすがの米衛門も冷や汗を流す。
「敵に囲まれた……」
スノーが声を低くしてそう言った。
「…………、あ! だったらこうすればいいんすよ」
米衛門はポケットから愛用の音楽プレイヤーを取り出すと。小型スピーカーに繋ぎ、音を最大にしてから放り投げた。
そうすると嘘のようにゾンビたちは音楽が鳴る方へ誘導されていく。
それでも数体は米衛門に興味があるようでまだ向かってきていた。
「あー、おめだ。かっちゃましな……。あですてやる……こっちゃ来い!!」
「今なんて?」
インカムの向うの遙華の問いかけにスノーが答える。
「お前達うるさいな。相手してやるって意味だよ」
そして怒涛乱舞で複数のゾンビを切りつけ、呻いている間に包囲を突破した。
米衛門が注意を引いている間に久朗が治療を終え、ビルまでリンカーたちを誘導する。それに遙華と米衛門も合流した。
「やっと来た! 早く!」
ビル周辺の安全を確保していた忍が、ビルの中で待っていた。全員がその建物に全員が入ったことを確認するとあわてて扉を封鎖する。
「大丈夫かヨネ」
「問題ないッス」
そう肩で息をする久朗に米衛門は苦笑いで答えた。
「よかった、全員居るわね、よく帰ってきてくれたわ」
遙華がロクトと共に社員の安否を確認し報告した。
「あとは、これからどうするかね」
「狙撃従魔を倒した班に合流すべきでは?」
久朗が言う。それに忍が答えた。
「それは無理ね、出られないもの」
その時、扉を叩く音が一層強く聞こえた、ゾンビたちはここに新鮮な肉があることがわかっているのだろう。
先ほどからバンバンと壁や窓を叩く音が大きくなりつつあった。
「だとしたら彼らが助けに来るのを待つか?」
「そもそも助けに来れるのでしょうか」
久朗の言葉にセラフィナが不安そうに答える。
「討伐班の方は精鋭だから問題ないわ。合流すれば敵の殲滅も可能でしょう。けど残り人員、現有戦力、ヘリの状態、まだ狙撃従魔が潜伏しているかも。さぁ、次は貴方の番よ。撤退か殲滅か?」
忍がそう遙華に問いかける。その瞬間だった。
固く閉ざされた扉がついに破壊された、ゾンビがなだれ込んでくる。
「ここは、指示があるまで守りきる、よろしくな、ヨネ」
「こちらこそ、よろしくっす」
久朗と米衛門が盾に持ち替え、目の前のゾンビたちに真っ向から向かった。まるで津波のようなそれを二人で押しとどめる、しかしそれもどれだけ長い時間続くか分からない。
忍もブルームフレアなどで応戦するが、数は一向に減らなかった。
「ここまでか」
そう、ロクトがつぶやいた瞬間、耳をつんざくような銃声がビルの中に反響する。
グロリア社のリンカーたちが上の階から床に穴をあけてゾンビたちに一斉掃射を決めたのだ。
「ありがとうH.O.P.E.のみなさん、私たちはあなた達があきらめなかったおかげで戦える。そんなあなた達にあきらめてほしくない、本調子ではないですが援護くらいはできます」
「そうね、ここであきらめたら、励ましてくれた人に申し訳ないわ!」
遙華が顔を上げた、悔やんでいるだけでは、自分を責めているだけではだめだとやっとわかったのだ。
その手に握った銃でゾンビたちを的確に打ち抜いていく。
その時だった。
「聞こえる……」
玉依姫が唐突につぶやいた。
「何が聞こえるの?」
「聞こえるのじゃ、あれは、ヘリの音」
その瞬間ヘリがビルの二階の窓の向こうに見えた。
中にはカトレヤが乗っていた。操縦席には紅花が座っている。
「やったんすね!」
そう狙撃従魔を討伐する組は、満身創痍になりながらも狙撃従魔、および周辺のゾンビの掃討に成功していた。
「全員ヘリの中です、今から私たちも戦闘に加わります」
そう京子がインカム越しに呼び掛け。戦闘可能な何人かがヘリから降りた。
形勢が逆転した。間に合ったのだ。
「負傷者をヘリに乗せて、護衛のためにH.O.P.E.のリンカーは私とトラックまで来て、この町を脱出するわ!」
そう遙華は宣言し。全員がその言葉にうなづいた
四章 逃走とランデブー
あの後、周囲のゾンビをあらかた片付け、トラックまで向かうと、トラック自体は無事だった。機能としても問題なく、積荷も無事だった。
そしてトラックの護衛としてついてきた京子クッキーを取り出して全員に配った
「食べる? すっごくおなかが減った人がいたら、お弁当もあるよ」
「ああ、ありがたく受け取るよ」
それを久朗は快く受け取る。
「お弁当はどうする?」
「………………。もらおうか」
その傍らで、積荷を数えている遙華、その手伝いをセラフィナがしていた。
「すごい、これだけの物資があれば当面しのげますね」
「だからこれはなんとしても回収しておきたかったの。協力してくれてありがとう、また何かあったら頼むわ」
「今回だけじゃ無く、まだたくさんの人達が助けを求めています。みんなを助けるために僕たちは貴方の力が必要なんです。どうかこれからも、頼らせてください」
そう遙華がセラフィナから台帳を受け取ると、その横から忍も台帳を手渡してきた。彼女もお手伝いをしていたのだ。
「あたしたちがやってるのは戦争よ。だったら兵站の維持は生命線。貴方の決断は、きっといつか、あたしを救うわ」
「そう言ってもらえるとうれしい」
「あ!」
そんな中、米衛門が突如叫びをあげた。
「どうしたヨネ」
久朗が怪訝そうに問いかける。
「音楽プレイヤー回収するの忘れたッス! お気に入りだったのに!」
そう、かなりの勢いで落ち込む米衛門に対し、その肩を叩いて慰めるスノー。
犠牲が出ず、任務も成功したためか本部まで帰宅する道中、空気は穏やかだった。
エピローグ
休日、遙華は香水売り場を回っていた、そんな彼女の手にぶら下がっているのは、最新の音楽プレイヤーが入った袋。
「珍しいわね、遙華が香水を使うなんて」
「え、ああ、うん。もう少し女の子らしくしようと思って」
「なんで、二つもかうの?」
「えーっと、何でもないわ」
そうロクトに微笑んだ遙華はとても少女らしい顔をしていた。