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命を繋ぐ物語
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もう一つの戦場(相談卓)
最終発言2018/04/12 10:12:52 -
質問卓
最終発言2018/04/10 22:55:32 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2018/04/12 01:42:58
オープニング
● 大きな戦いがあった
首都から遠く離れた地でリンカーと愚神による大規模な戦闘があった。
ベテランのリンカーが数多く駆り出され、バックアップとして君たちも配置されるような事態。
その戦いは凄惨を極めた。
H.O.P.E.が想定している地点での戦闘にならず、戦いはオフィスビル立ち並ぶ街の中心で。沢山の建物が壊れ沢山の人間が傷ついた。
リンカーも数名重傷を負い、戦闘の途中で運び込まれてくる状況。
それをケアするのが君達の仕事だった。
「あいつを……倒さないと」
負傷者として最初に運び込まれてきたリンカーが呻いた。
右眼球が破裂。腹部も紫色に変わっているため内蔵の損傷も疑われる。
そんな中でそのリンカーは手を伸ばして武器を握ろうとした。
「あいつを殺さないと、人々が」
暴れるリンカーを君は押さえつけようとするだろう。だがそれを状況が許さない。
タンカーが無数に運び込まれ、君に助けの声を向ける。
「いたいよ~」
「くるしい」
「娘が! 娘がいないの!!」
「なんで、何で見捨てるなんて言うんですか!! まだ! まだ妹は息があるじゃないですか!!」
「こんなに、こんなに苦しいなら殺してくれ! 頼む! 頼む!」
地獄がここにあった。
戦うとはこういうことだ。
地獄が。ここにあった。
● 運び込まれてくる負傷者
今回は皆さんに大きな戦いのバックアップを行ってもらいます。
一応戦場の状況をお伝えしますが、リンカー十五名に対して愚神が三体の大規模な戦闘です。
一般人が多数巻き込まれて市内全ての病院が満杯といった事態に陥っています。
そんな皆さんは特に緊急性の高い患者が、および傷ついたリンカーが運び込まれる戦場に一番近い病院に配属になりました。
ここで皆さんは愚神とではなく、死と戦ってください。
患者はたくさんいます。
・一般人 50名
ここにも一般人が多数搬送されています、そのせいで一般人の負傷状況について詳細な報告が上がってきません。
ただ、中には、擦り傷。打撲、骨折、内臓破裂、歯の欠損、肩口から腰にかけての深い裂傷。頭部打撲、等々様々な患者がいるようです。
一番多いのは擦り傷や打撲のようですが……頭部打撲の患者は判断を間違うと危ないかもしれません。
・H.O.P.E.関係者
リンカーではない、戦場でのサポーターですが。
今回は車輌まるまる一つが爆破されたようです。
言っておきます。彼らが最もひどいけがです。
スタッフは六名。全員をアルファベット表記にして負傷具合を報告します。
A リーダー格 38才 男性
運転手だった模様。とっさにハンドルをきり愚神の攻撃が直撃。肩口から下半身にかけてコンクリートや鉄片が散弾にうたれたように埋め込まれている。
腹部から黒々とした出血、それが止まらない。
B 28才 女性
助手席で作業中。割れた窓ガラスにて首が切りつけられている以外に特に目立った傷はない。
C 18才 男性
車両が横転した際に全身打撲、眼球に内出血が見られる。
D 19才 男性
車両が横転した際に全身打撲および腹部にパイプが突き刺さる。
E 27才 女性
愚神の攻撃を受ける。左半身を散弾のようにコンクリート片や鉄で穿たれる。意識はあるが。他の人間の治療を優先するように呻いている。
出血量が尋常ではなく、血も止まらない。
F 21才 男性。
体は健康、しかし、自分だけが傷浅く生き残ってしまったことに心が壊れかけている。
しきりに自分が隊長のかわりに死ねばよかったんだとつぶやく。
・リンカー三名
『カーネージ・センチネル』 男性 35歳
クラスはブレイブナイト
冒頭に登場した男性。右眼球が破裂。腹部も紫色に変わっているため内蔵の損傷も疑われる。
一番の問題は治療もそこそこに戦場に戻ろうとするところ。
武器を手に、職員たちを跳ね飛ばしてでも病院を後にしようとする。
彼は戦場の要だったらしい。
彼がいなくなれば味方に被害が出る。任務に参加しているのは見知った顔ばかり。
「戻らなくてはいけない。たとえ命尽きるとも」
そう言ってきかない。
『刃張 舞(はばり まい)』 女性 21才
クラスはバトルメディック。この病院に担ぎ込まれた時には左腕が吹き飛んでおり、それをくわえながら到着した。自分で自分の腕を縫うと言っているが、手が空いていれば誰かがやってあげた方がいいだろう。
「大して誰も癒さないうちに、戦場から遠のいちまった。は……バトルメディックが聞いてあきれる。私はいったい何のために」
舞はバトルメディックのため彼女が動けるまでに回復すれば治療に一役買ってもらえるかもしれない。
「私も治療に参加させてほしい。足は引っ張らない、約束する」
ただ、腕の千切れた人間に治療に参加してもらうのはどうなのか……現場の判断にゆだねられる。
『アナスタシア』 女性 45才
クラスはソフィスビショップ。
古参のリンカーである。彼女は胸を中心に鉄片やコンクリート片を埋め込まれており。四肢はズタズタでかろうじてつながっている程度である。
この傷でも意識があり、激痛に耐えながらもどうすれば効率的に作業すればいいか、問いかければ教えてくれる。
彼女は最後の言葉を聞いてもらいたがる。
「私の最後の言葉を聞いておくれ」
「たとえ、私を、誰を救えなくとも、それは君たちの罪じゃない。それは私達がふがいなかっただけなのさ」
「最後に、こんなに有望なリンカー達が見られて私は、幸せだ。安心していける。君ら。今日の事忘れるんじゃないよ」
解説
目標 できる限り多くを救う
今回のシナリオでは沢山の治療の手が必要です。
ただ、スキルに頼っていればすぐに手が足りなくなってしまう事でしょう。
であれば、スキルを使用する必要のない軽傷は物資で手当て。すでに助かる見込みのないものは切り捨てる、などの判断が必要となってくると思います。
医療現場は時間との勝負です。
多くを救うために必要な手立てを考えましょう。
●病院について
シナリオが始まるのは戦闘が始まってから十五分後くらいです。
けが人は五分から十分搬送の時間がとられたと思ってください。
皆さんが派遣される病院は大病院で、設備レベルは不足はないが、最先端の技術はない。と言ったレベルです。
あらゆる治療器具のしようがリンカーには許可されているので。包帯や消毒液と言った物資だけでなく、手術室やレントゲン。輸血パックと言ったものもフルで使いましょう。
● 紛れ込んだ小型愚神
負傷者の衣類や持ち物に紛れて50センチ程度のライオンの子供の様な見た目の愚神が紛れ込んでいます。
戦闘力で言うと、一般人を害することができる程度ですが。蟲の息の人間を殺すくらいはわけありません。
どうやら三体紛れ込んでいるようです。注意してください。
リプレイ
プロローグ
「もたもたしないで、ユリナ!」
「分かっています!」
『ウィリディス(aa0873hero002)』がストレッチャーに手をかけて勢いよく滑らせていく。それに『月鏡 由利菜(aa0873)』はたじたじと追従した。
阿鼻叫喚の病院内、響く悲鳴は戦場の物とは別種で、由利菜の耳に色濃くこびりつく。
この全員を自分たちが救護しなくてはいけないのかと思うと眩暈がした。
戦場の方がましだと思った。
けれどそんな中ウィリディスは真正面から向き合おうとしている。その小さな背に見損なわれない働きはしよう。そう由利菜は胸に誓うのだった。
「由利菜お嬢様」
そんな背中に声をかけるのは『天宮 優子(aa5045)』。
彼女は病院のエントランスを抜けると真っ直ぐ由利菜に歩み寄ってきた。
「由利菜お嬢様から、戦闘でたくさん怪我された方がいて大変だと聞いて……急遽来ました」
由利菜はそんな彼女に礼をすると、当たりを見渡していた『ミヅハノメ(aa5045hero001)』が優子に声をかける。
「こりゃまた派手にやられとるのう……全員助けられるかは怪しいものじゃぞ」
「そ、そんな…………!! 私、誰一人だって死なせたくはありませんよっ!!」
由利菜が顔をしかめた。
「その意気込みは良いがのう……。優子や、ここで誰かの最期を見届けることになったとしても騒ぐでないぞ」
そうミヅハノメが称するくらいに戦場は悲惨だった。
「ちとお前さんにゃ早いだろうが、現場の経験も大事だ。やれるな? 参瑚」
『巳勾(aa1516hero001)』が『桐ケ谷 参瑚(aa1516)』にそう諭す。
「……うん。助けられる命を、一人でも多く。最善を尽くすよ」
続々と送られてくる負傷者たち。
それを見て『無明 威月(aa3532)』はデジャブにも似た感覚を抱いていた。
「思い出してんのか?」
『青槻 火伏静(aa3532hero001)』がそう問いかける。
すると威月は拳をギュッと握った。
激化する戦いに、度重なる仲間の重体。応急処置の心得はあるが、それだけではいずれという事も。
(私は強くなりたい)
そしてその強さとは戦う強さ、だけじゃない。
(皆の帰る場所を守りたい、違う形で皆を守りたい)
だから、威月は医学を選択をし、その過程としてここに居る。
「…………あっ。わた…………私に仕事をください」
そう渾身の力をもって医師に救援に来たことを告げる。救急医療の現場は数度目だが、今回は特に凄惨だというのはひと目でわかった。
尻込みしている場合ではないのだ。
そして救援は続々と到着する。
その中に『御神 恭也(aa0127)』と『不破 雫(aa0127hero002)』もいた。
「…………今は、何も考えずに手を動かすしかないのか」
「見慣れているとは言え、心は慣れてくれはしませんね」
そんな中救急物資を持って到着した『辺是 落児(aa0281)』。その隣で『構築の魔女(aa0281hero001)』が患者たちに告げた。
「皆さんを助けるため……隣で苦しんでいる人を助けるためにも協力をお願いします!」
非共鳴状態なのは手を一人でも増やすため。
そして落児は構築の魔女の指示に士tががって軽症患者を一回の空き室に移動した。
看護師を一人連れて患者の手当てに当たる。
「さぁ、出来る事を成しましょうか」
(これだから戦いは嫌い)
そう今も運び込まれる患者を眺めて『春月(aa4200)』は顔をしかめた。
ただそう思うと同時に目の間で苦しんでいる人間を助けらることにも喜びを感じる。
「皆が痛かったり辛いのは嫌だよ。でも、助けられるかもしれない、その手段を持ててよかった」
その言葉を『レイオン(aa4200hero001)』は黙って聞いていた。
「一人でも多く、なんかじゃない。全員助ける!」
告げると最初の患者に取り掛かった。その手は気持ちとは裏腹に、微かに震えている。
「なんかさ、ちゃんと判断とか、できないかも。だからレイオン、お願いしてもいいかい?」
その言葉にレイオンは頷き共鳴の光が二人を包む。
「あまり無理はしちゃだめだ」
――無理なんかしない、そんなんじゃない。
そんな一行を流し観て『(HN)井合 アイ(aa0422hero002)』は告げる。
「ライヴス適性があるだけの素人が、そう簡単に人命を救えるなら、医師免許なんざ必要ない。だからあまり気にするな。誰も助からなかったとしてもそれは、素人に負傷者を任せた采配ミスと、この藪医者(自分)の責任だ」
『九重 陸(aa0422)』の肩を叩いてそして戦場に向かった。
第一章 命の選別
アイは医師免許を持っており医療行為は行えるが、精神科医である以上普段は注射や点滴といった投薬や傷の手当てがメインだ。
彼の業務では脱走への対策、暴れる患者を安全に取り押さえる事が主であり。
しかも、一応医学書を読み直してはいるもののメスを持つのは医大以来なので、手術となると荷が重い。
と言ってもこの中で最も医学に精通しているのも確かだ。
アイは運び込まれる患者を一瞥し、とりあえず重症度ごとに割り振っていく。
「こりゃひでぇ……」
『鐘田 将太郎(aa5148)』は負傷したリンカーたちと共に運び込まれた一般人たちの被害もそうだが、最前線で戦っていた者達。
特にH.O.P.E.職員の状態がひどいと認識する。
「将太郎、おまえが治療してくれ。手当ての知識が無い俺には無理だ」
告げたのは『海峰(aa5148hero002)』。病院に着くなり二人は共鳴し事に当たる。
「バトルメディックのスキルも使うことになるから、海峰、力を貸してくれ」
――わかった。
治療に専念しようと将太郎は腕をまくる、だが彼は知っている。
この中に愚神が紛れ込んでいる可能性があることに。
「あのすみません、傷を見てもらいたいんですけど」
そう将太郎に声をかける男性がいた。
「ああ、傷は? 痛みは? 頭は打ったか? 軽傷ならあっちに回ってくれ」
そう示したのは構築の魔女が構える診察室。
そこでは構築の魔女が軽症者を見ていた。
痛覚は有るか、瞳孔の開きぐあい、心音肺の音。傷の箇所、骨折の有無それを手際よく判別していく。
「骨折などがなく自力での移動が可能ですか? では看護婦の治療を受けてください」
打撲や擦り傷のみで出血が見られない患者は落児に消毒や包帯を巻かせる。
「頭部の出血が見られますね。これはどんな状況で?」
気になる話があれば患者の名前と症状をメモした。
「レントゲンに回ってください、その間に少しでも気分が悪くなるようであれば誰でもいいから助けを求めてください」
告げると構築の魔女は落児に言葉をかけた。
「気を使って無理をされる方に注意しましょう」
その言葉に落児は頷いた。
その患者の中でも重体とみられる患者は別の部署に回す。
それは先ほどの患者の頭部の負傷や流血のほかに、腹部や胸部からの出血、頭部への打撲なども含む。
「重傷者は治療室を別途確保しなければですね」
想像以上に手が足りない構築の魔女は汗をぬぐいながら患者の足に刺さった釘を抜いた。
感染症の可能性、破傷風の可能性などを考慮して消毒の後に要経過観察としてしばらく病院内にいるように指示。状況が落ち着き次第また傷を診ると約束した。
あとは軽い傷の縫合などもやって見せる。
そしてまだ傷の判断をされていない患者には由利菜と優子が治療をして回っている。
ライブスによる治療。ケアレインである。
「戦傷を癒やすは聖霊(ペンテコステ)、数多の雨となりて降り注げ! ゾーエ・ヒュエトス!」
――アマミヤさん、二人で患者を治療しよう!
一度に多くの人数を範囲内に収めるために声をかけ待合室を借り手の治療に努める。
歩けない者は歩ける者に、歩けない者の近くまで寄って貰いなるべくギリギリの許容人数で回復スキルを実施していく。
――すまぬの、ケアレインを使うからには一人でも多く雨の範囲に留まって貰いたいからの。
「由利菜お嬢様……お一人では無理でも、私達もいれば何とかなるかもしれませんっ! ケアレイン、準備はバッチリです!」
回復した患者だけではなく負傷したH.O.P.E.隊員の傷も回復させていくが重症患者には気休めにしかならない。
「ここでできるのはあくまでも応急処置……。本格的な治療にはもっと大きな施設や、専門スタッフが必要です」
そう由利菜は判断してH.O.P.E.医療班への連絡を試みる、その間にウィリディスは隊員たちを励ました。
「応援は呼んだよ。……でも来るまで、どれだけかかるか分からない。何とかあたし達で皆の命を繋がなくちゃ!」
その言葉に頷く優子。
ケアレイ、そしてエマージェンシーケア。
運び込まれたH.O.P.E.スタッフへの治療を始めた。
「効率が悪いのは分かっていますが……それでも、私は命を選別したくありませんっ! 何とか……医療スタッフに繋げられるよう、持ち堪えさせて見せますっ!」
ただ、スキルでの処置は限界がある。限界があるという点では物資での治療もそうだが、ここは病院。
在庫を吐きつくしてでも治療にあたる覚悟があれば、まだ戦える。
「倉庫を見てきます」
そう現場の物資の少なさを気にした『メテオバイザー(aa4046hero001)』が立ち上がった。
「メテオ!」
そんな彼女を呼び止めて『桜小路 國光(aa4046)』はスマートフォンを投げ渡す。
「常時接続状態にしておいてほしい、こっちで急に必要な物が出るかもしれない」
この混乱の中、一応全員とは連絡が取れるようにしてはいるが、一番意思疎通がとれるメテオバイザーとはぐれることだけは避けたかった。
「わかりました、少しの間一人ですけど、頑張ってください」
そう駆けだすメテオバイザー。
それを見送るとすぐさま國光は患者に向き直った。
「擦り傷だな、傷薬で何とかなりそうでよかった」
そう國光は薬学部の知識を生かして患者の治療にあたっていた。
「これで大丈夫、念のため安静に」
そう國光は患者一人一人に声をかけて対応していく。おかげで場の不安や疑心と言った空気が軽くなっていく気がした。
「薬見つけました」
そう胸ポケットに入れたスマホ越しにメテオバイザーが告げる。
その声を聴きながら國光は医療用テープをびーっと伸ばした。
「念のためアレルギー物質をマーカーでパッケージにかいておいてほしい。誰が使うか分からないし、病院内で新しいトラブルを生むのはさけたい」
「はい」
「抗生物質はどれくらいある?」
「うう、解りません、名前だけ見ても効果が……」
「ゆっくり名前を読み上げてくれ、こっちで判断する」
絶対にこれだとわかるもののみを判断。わからなければ薬剤師も病院内にいるはずなので、専門家の意見を仰ぐことにした。
「ちょっと痛みますよ」
そう骨折に対して添え木で応急処置。すぐにレントゲン室の手配、内出血が無いのが幸いで他に処置はいらなかった。
「ありがとうございます!」
そう痛みか感謝か涙を流す男性の肩を優しくたたいて次の患者に向かう。
「錠剤タイプの鎮痛剤は有るか?」
「えっと、これですね」
「歯が折れて痛がってる人がいる。まともに処置できないから鎮痛剤でいったん落ち着かせよう、その後、専門医にまかせる」
國光が告げると注文された品をカートに詰め込んだメテオバイザーが倉庫を出発する。
「事態が落ち着いたら歯科に行ってくださいね」
そう國光は声をかけた。
「先生!」
その時、背後からすがるように國光へ近づいた女性がいた。
その表情は涙で歪み、過呼吸気味に浅く息をついていた。
その表情に國光は嫌な予感を覚えた。
「息子を、息子を助けてください」
(ついに来たか)
内心冷たく、おそれにも似た感情を抱きながら表情には出さないように努める國光。
國光は母親に導かれる間に小声でメテオバイザーに指示を出す。医者の救援要請、そして母親にどんな状況でけがをしたのかを詳細に聞いた。それをメテオバイザーはスマホの向こうでメモに取っている。
たった今運び込まれた子供がか弱く息をしながらその場に横たわっていた。
腹部は浅黒く変色している。
脈、呼吸、瞳孔を素早くチェック。
「ごめん、痛むかもしれない」
そう國光は子供に声をかけて腹部に軽く触れた。内側から膨れるような感覚。
「けがをしたのは何分前?」
「逃げる途中に、二十分くらい」
内臓破裂ならばすでに死んでいる時間だ。だが、内出血による臓器圧迫の可能性が考えられる。
「絶対安静にしてください、最優先で対応します。医者が来るので待ってて」
告げると、國光は由利菜を呼び止める。
衰弱が激しすぎる。処置まで持たないかもしれない。
「スキルもカツカツで、でもはい、必要なら」
そう由利菜の治療を見守りながら國光は祈るような気持だった。
「死ぬなよ、頼むから」
第二章 覆いかかる黒
エントランスには死のにおいが充満している。
というのも、生きている患者は歩いて軽症処置室なり、検査室へなり行けるからだ。
ただ、歩くこともできない患者は病院にたどり着いて誰かに処置してもらうのを待つしかない。
そんな患者の一人に恭也は黒いテープを張った。
「恭也……それは」
「よく見ろ、雫。もう息をしていない」
間に合わなかった。当然だろう。処置して回っている人間は患者より圧倒的にすくないのだ。声をあげることができない患者は、死を待つしかない。
「すまない」
そう告げると恭也は、モルヒネを鞄の中に戻すと別の患者に向き直る。
かすれた声を響かせる患者に雫が耳を口元に近づける。
「足が折れてるって、でもそれだけじゃ……きっとないよ」
「CTに回そう。揺らすなよ、危険だ」
そう恭也はタンカーに患者を担ぎ上ると運んだ。
「頭部に打撲を負った人は、至急に名乗り出て下さい。症状が出難かったり急に悪化したりしますので」
そう回りの患者に告げる雫。
その声に上がったのは廊下で横たわる老人の手。
その老人は腹部から大量に出血していた。
「誰だ! 放っておいた奴は!」
そう怒声を上げる恭也。
「まって、それより先にやることがあるでしょ」
そう雫は先ほどもしたように患者の口元へ耳を近づける。
「うん、うん」
家族と、住所、名前、そして最後に伝えてほしいこと、それらすべてを雫は今後忘れることはないのだろう。
「……俺は、無力だな」
そう恭也はモルヒネを患者に打ち込んだ。
「キョウ、自責の念に浸っている暇があるなら手を動かしなさい。私達は一つの命を見捨てて、幾つかの命を救う選択をしたのですから」
そう告げた雫に連れられて向かったのはH.O.P.E.隊員たちが運び込まれた病室。
そこではやっと状態の確認が終わったところだった。
リンカーたちが容態について話し合っている。
参瑚が言った。
「A、C、D、E、そしてここにいないカーネージ、刃張の6名は、早急な対処と優先的な外科的治療が必要だ」
処置に対しては恭也が意見を述べる。
「賛成だな、まずは内臓破裂の可能性が高いために開腹手術を……」
その隣で将太郎がとある隊員の前に座り込む。そのFと呼ばれた隊員は将太郎の気配を感じると将太郎も観ずに身を縮ませた。
隊長のかわりに自分が死ねばよかったそんな呪詛を終わらせて、じっと将太郎を見あげる。
「隊長が死んだのはおまえのせいか? 違うだろう。殺したのは愚神だ。その事実を受け入れるんだ」
「でも……おれ、何もできなかった」
そう両腕を拘束するベルトを揺らしたF。
「おまえが死んでも、何の解決にもならん」
告げる海峰。すると錯乱したようにFは暴れはじめた。
その顔を将太郎はぴしゃりと叩く。
「痛いか? 他のサポーターや重症な一般人はもっと痛い思いをしているぞ」
荒い息をついてじっと将太郎を見つめる、その冷静な瞳に少しずつ理性が戻ってきているようだ。
「多くの人を治療すること、助けることを隊長も望んでいるのではないか?」
海峰の言葉にFは涙を呑むと血まみれで処置されているAに視線を注いだ。
「隊長」
将太郎はAの処置に移る。コンクリートや鉄片を取り除いてから止血。ケアレイで回復後、包帯等で応急処置。
次いで将太郎はEの治療に乗り出した。
うわ言のように他のメンバーの治療を優先するようにつぶやいている、それを将太郎はセーフティーガスで眠らせた。
救命救急バッグから包帯と脱脂綿を取り出し、出血部分を処置。ただ、出血はやはり止まらない。
その間恭也はBの傷を見ていた。
傷口を確認して破片が残っていたら除去して縫合して首コルセットで固定。
参瑚が見ていたCとDに移る。
「痛みは有るか? 頭はうったか?」
そうC負傷の具合を確認するも、軽症のようで安堵した。
Cは結膜下出血の可能性を考慮してCTスキャンでの検査に回す。
問題はD。
「まずは全身打撲の処置だ。冷凍ジェルパックで患部を冷やす」
そう判断した将太郎は参瑚と共にDの体を固定。
止血の準備を整えてからパイプを引き抜きにかかる。
「抜くのはまずい」
そう恭也が告げると別の治療に切り替えた。
「止まるまでリジェネーションを使う。これで止まれば良いが……」
「何が何でも止血する!」
そう両手を真っ赤に染めながら作業する将太郎の隣でEが息を止めた。
「Eはもうだめだ」
恭也が告げる。
そのまま冷たくなっていく体をリンカーたちはただ見ているしかなかった。
第三章 戦うとは
アイは処置した患者を再度見て回っていた。自分の『手に負える』臓器の負傷が比較的少ない負傷者を確認。
応急処置だけでとどめている場合、重傷者から順に傷を縫合あるいは添え木で固定、包帯を巻いていく。
今のところ四肢の切断と言った強硬策に出なくてもよくなっているのは、単純に怪我の度合いがひどすぎる患者がわかりやすいためである。
「概ねいつも通りの仕事だな。妄想のある患者が『人殺し』と叫び暴れ狂いながら、此方の治療を妨害しない事以外は」
そう軽口をたたくアイの隣で陸はアイの指示通り手伝いをしている。
その時だった。
その陸めがけて走り寄る影が一体。
従魔である。
共鳴は間に合わない。
その従魔を構築の魔女の弾丸が射抜いた。
はじかれた従魔は走って逃走を図るが目の前に立ちふさがる由利菜がそれを補足。カルンウェナンで迎撃した。
構築の魔女は煙を上げる双銃を振りかざし、自由自在の弾丸で敵を追い詰める。
愚神との戦闘が継続中であることから従魔や愚神が病院に現れる可能性を考慮し、警戒していたのである。そのため能力者と離れることをしなかった。
それは構築魔女も同じで十分ごとに共鳴し、様子を見ていたのだ。
「目を閉じて、耳を抑えてください!」
そう周りの患者に告げる。
すると、弱っている物を狙うのが一番と考えた従魔が陸の元に走っていた。
しかし陸は動じることはない。
「陸……」
アイが共鳴、フォーマルハウトソードにて従魔を一突きにした。
「けがはない?」
そう駆け寄る春月。
「大丈夫だ、それよりほかの患者を」
そう春月はあたりを見渡すと頷き患者の元に戻って行った。
春月は重症患者の体力回復のためにケアレインを使用した。
血を失えば体力を、血を見れば気力を失う状況だ。定期的にスキルを使用しなければ死者が出る。
この時だけ二人は共鳴をしていた。
そんな中病院の曲がり角をかけていく小さな姿を見た。
ネズミか、それとも従魔か。
二人は共鳴を解く。
今はそれを気にしている場合ではないと判断した。
二人は治療用セットを作成。
二人はその後元気になった患者や、その家族を回って。治療用セットを渡し。他の患者の対応を手伝ってもらえないかと願った。
そんな春月のいるエントランスをがたいのいい男が突っ切っていく。
彼はカーネージ、今回の作戦に参加したリンカーである。
その体の前に春月は自分の体をさらす、手をいっぱいに広げて通せんぼした。
「退いてもらおう」
血がにじむ包帯の上に上着を羽織るカーネージ、それに対して春月は堂々と言い放った。
「うっさい! なんのためにここにいるのさ! 仲間があんたに助かってほしいと思ってるから連れてこられたんだよ!! 」
「その仲間を死なせるわけにはいかない!」
「またか……」
そう顔をしかめて國光があわてて駆け寄る。
「今日中に血は止まりませんよ。とっくに重体を越えてるんだ。寝ていてください」
「坊主、男にはな、立たねばならん戦場がある」
國光は思う。だったら、ここは間違いなく、自分にとってその戦場だ。
「サクラコ」
心配そうに眺めるメテオバイザーの視線を受けながら國光はさらにもう一歩前に足を踏み出した。
重症対応者に引き渡すまでは離れないから。
「向こうの指揮官は? まだ無事でした?」
無事なら今頃、体勢を立て直して行動してましたよ。そう先ほど確認してきた戦況を報告する。
「貴方が倒れたから敵討ちだって、全員で突っ込む様な馬鹿な仲間じゃないんでしょ?」
「そうだな」
「今頃、貴方が助かることを祈ってますよ、戦いながら」
「…………」
「貴方も同じ立場だったら、きっとそうでしょ?」
「俺抜きでやれているのか」
その重たい言葉を國光は真っ向から受け止めて頷いた。
「はい」
「ならいい」
告げるとカーネージは踵を返した。
そんなカーネージの背後をタンカーが疾走していく。先ほどのパイプが腹を貫いたH.O.P.E.隊員の手術のめどが立ったのだ。
担当するのはウィリディス。
「みんな、手術は苦手みたい……あたしの記憶を辿ってやるしかないか」
「リディス、生前の手術経験があるのですか……?」
そう由利菜が心配そうな表情を向ける。
「一応、ちょっとだけだけど……やらないよりはマシでしょ」
成功する見込みは十分にある。そうウィリディスは判断した。
その処置に威月も呼ばれる。
威月も医学生である。
本当であれば自身が無い、だがこれまでは『医師の指導の元で』なんでもやってきた。
しかし。手術というのは。
「や、やります……」
メスを握るわけではない、手術室でも今までやっていたことと変わりはない。
気道確保、静脈ルート確保、止血。輸血。
手首、肘、首、脇下…………武術の心得がこんな所で役立つとは……と冷静に自分を見つめながらも何とかして作業を終わらせる。
トリアージは仲間に任せI度を優先。
「…………意識30…………プルス…………30、危険……です!」
脈が弱まりやがて心停止に至るH.O.P.E.隊員。
「AEDを使うよ、由利菜」
ウィリディスが告げると代わりに威月が機器を準備する。
使用後心拍が戻れば威月は血管の縫合に移る。
摩耗する意識、命のやり取り、予想以上につらい現場は刃張 舞。そしてアナスタシアの登場を持って威月に決定的打撃を与える。
病室に戻ると舞の前には構築の魔女と春月がいた。
左腕が吹き飛んだ女性、しかし彼女はその強さゆえか意識を失ってはいなかった。
春月、そして構築の魔女二人がかりで縫合している。
「君がやるより、僕がやったほうが良さそうだ」
そう途中から春月のかわりにレイオンが縫合を請け負う。
ただ、そんな春月はまだましだった。
問題はアナスタシア。
その状態は生きているのが不思議なほどだった。
それを見て、威月は口元を抑えトイレに走ろうとする。
「……ぅうぅうぅう……っ!」
逃げ出そうとしたのだ、その衝撃で共鳴が解けかかる。だが火伏静が強制的に主導権を握り維持する。
「威月ッ!」
怒号が病院内に響く。
「…………"後にしろ"ッ!!」
「……あっ。わた……私には、むり」
「逃げ出すなとは言わねぇ。甘えんなとも言わねぇ。失敗すんなとも…………言えねぇ」
そう火伏静は拳を握りこんだ。
「けどな! 死んでく命を、一つでも救えるのぁ"今"しかないんだよ!」
その様子をアナスタシアが見ている。
「"今、諦めない事"は、今しか出来ねぇんだよ!」
その耳元にエントランスで声をからしながら叫ぶ優子、そしてミヅハノメの声が響いてきた。
「……全員を救う保証まではできん。だが、ここへ招集された者達は皆一人でも多く生き延びて欲しくて、各々ができる全てを尽くさんとしているのじゃ」
「……若人に先立たれてはかなわん。おぬし達とて、まだまだやりたいことがいっぱいあるじゃろう? ……生きることを諦めるでないぞ」
まだ仲間たちは諦めていない、諦めていないのだ。
「……わ、私は人の血を見るのは苦手ですけれど……」
血を見るのは震えるほど怖い優子。
「それで及び腰になっていられる状況ではございません。……何もやらずに人の死を見届けるのは、もっと辛いですから」
その言葉に顔をあげると由利菜がアナスタシアと会話していた。
「アナスタシアさん……これね、あたしがグロリア社の人達に提案して作って貰った命の指輪なんだよ。ちょっとだけど、癒しの力を強めてくれるんだ」
そう手術から戻ったウィリディスがアナスタシアにヒールリングを手渡す。
すると二人は共鳴し、ありったけの治癒を。
「セラピア!」
「アンタの最後の言葉、きかせてほしい」
参瑚がそう手を握ってアナスタシアに告げた。
「あなたが、ただ死ぬのを黙って見ていることは……私には、できません」
由利菜がそう告げる。
まるで彼女の命を諦めるような、そんな会話。
「…………諦め…………ない……」
その声に威月は顔をあげた。ふたたび共鳴の主導権を握る。
そして全員に告げた。
「何を……諦めていやがるですか……」
威月が知識を総動員して提案するのは『超低体温循環停止法』。
要は"脳の虚血"だ。それを抑えれば生存時間は6倍に増加する。
「機材があるはずです」
そう設備を整えるとアナスタシアをそこに運ぶように指示。
人工心肺装着を猛スピードで行い体温を20度に固定。内臓もこの状態では壊死し難い。あとは裂傷をスキル込みで塞げば……。
「お願いします、協力してください!」
その言葉にリンカーは皆頷いた。
エピローグ
参瑚とアイは病院内治療室で休憩をとっていた。休憩という名の待機。
状況が悪くなればまた駆り出されるが、それは仕方ない。
アイの隣では陸が寝ている。
(本当は連れて来るべきではなかったんだが……悪いな)
陸は先日、愚神に半身を食われ邪英化させられた。その傷がいえる間もなくこのような任務だ、申し訳なさがアイの胸にあった。
「大丈夫かい、参瑚。気は張り詰め過ぎてもいけねェ。幾許かの余裕は持たせとくもんだ」
そう参瑚にカフェオレを差し出す巳勾。
「とても切れやすい糸を手繰ってるような気分、だよ……少しの油断で、バラバラに千切れてしまいそうな…………怖い、と思う。でも、皆必死で戦ってるんだ。俺も負けられない」
そうカフェオレを握りしめる彼を巳勾は優しく見下ろした。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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