本部

エイプリルフールIFシナリオ

【AP】強き絆は翻り深き因縁へ堕つ

一 一

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2018/04/14 19:21

掲示板

オープニング

 この【AP】シナリオは「IFシナリオ」です。
 IF世界を舞台としており、リンクブレイブの世界観とは関係ありません。
 シナリオの内容は世界観に一切影響を与えませんのでご注意ください。

●もしも あなたが てき ならば
 能力者と英雄。

 隔てた世界を越えて結ばれた『絆』は手を取り合って力となった。

『あなた』がいたから敵と戦える。

『あなた』がいたから前へ進める。

『あなた』がいたから今を笑える。

 それは他の誰かじゃない『あなた』と一緒だったからできたこと。

 程度の差はあれ『共鳴』へと至る繋がりを成す想いを預けて預かってきた。

 時に信頼と呼び、時に友情と呼び、時に愛情と呼ぶ、形のない『絆』という関係。

 だが。

 もしも。

 ほんの少し。

 ボタンのかけ違えで。

『絆』の色が反転していたら?

『あなた』と出会ったから敵として戦った。

『あなた』と出会ったから過去に囚われた。

『あなた』と出会ったから今も悔いていた。

 それは他の誰かじゃない『あなた』が相手だったから芽生えたもの。

 程度の差はあれ『宿敵』へと至る繋がりを成す想いをぶつけ食らってきた。

 時に同情と呼び、時に義憤と呼び、時に憎悪と呼ぶ、形のない『絆』という関係。

 エージェントと愚神。

 これはともすれば、

 あり得たかもしれない、

 敵対する『絆』を紡いだ、

『あなた』との決戦を描いた記憶。

●もしも わたしの てき ならば
 あなたたちは真正面から相対する。

 人生のすべてを変えた『宿敵』と。

 何度も戦い何度も勝ち何度も敗れ。

 この瞬間まで絶てなかった腐れ縁。

 幾度と交えた刃と言葉は常に拮抗。

 されど等しいが故に理解は容易い。

 互いが互いの鏡写しであるが故に。

 ほんのわずかな違いが互いを別ち。

 掲げた信念を妨げる存在足り得る。

 相手を倒す以外の道の模索は不毛。

 示すはただ信じた道の正しさのみ。

 幾重の邂逅の果て決戦の場は整う。

 当事者を除く邪魔者はもういない。

 力を言葉を想いを全身全霊で放ち。

 目の前にいる『宿敵』を否定する。

 さぁ『因縁』の終わりを始めよう。



●経緯&状況
 ここは『能力者』と『英雄』として出会ったあなたたちが、

『エージェント』と『愚神』として出会ったもしもの世界。

『愚神』が用意した空白のドロップゾーンへの誘いに応じ、

 何度も戦場で出会った『宿敵』との最後の戦いを演じる。

 初めての出会いから『敵』として戦場で言葉を交わし続ける内、

 あなたたちの間には奇妙な『絆』が生まれていることだろう。

 それを断ち切り終わらせるためにあなたたちは『敵』を倒すのだ。

 一緒だった仲間たちもまたそれぞれの『宿敵』と相対している。

 深い『因縁』のある者同士であれば同じ決戦の場に入れるが、

 それ以外の者の干渉は一切許されないあなたたちだけの空間。

 すべてを終わらせるという『愚神』の気概か、感傷の反映か、

 ドロップゾーンは地面も空も白い虚無の空間が広がっている。

 あなたたち以外は動くものも障害物も色彩も失くした世界で、

 あなたたちのどちらかが倒れるまでこの世界から出られない。

 あなたたちのどちらかしか元の世界へ帰る資格は得られない。

 あなたたちのどちらかはすでに世界にいることが許されない。

 この戦いが終わってもH.O.P.E.と愚神の戦いは続いていくが、

 この戦いがあなたたちにとっての重要な区切りとなるだろう。

 どうしようもなく深い『絆』で繋がった相手なのだとしても、

 どうしようもなくすれ違った先にあったのは決別以外にない。

 そうしてあなたたちは『最期の時間』をともに戦い共有する。

解説

●目標
 能力者or英雄(愚神側)の討伐

●ルール&プレの書き方
 能力者vs英雄の対立構造で、エージェントor愚神をそれぞれ選択
(表記例:エ=能・愚=英など)

 戦闘結果はエージェントが勝利、愚神が敗北する形で原則統一
(勝たせたい方がエージェント・負かしたい方が愚神)

 戦闘マスタリングは基本的になし
(プレ指定時のみ実施 表記例:戦マ○など)

 エージェントは常時共鳴
(意識は選択した能力者or英雄のみで固定)

 エージェント/愚神の戦闘スタイル・能力値・スキル等は提出時の共鳴設定に準拠
(自PCがコピーと戦うイメージ→第二英雄の参加指定などは不採用)

 エージェント/愚神の性格は共鳴時・基礎設定を指定or参照
(邪英設定はプレに指定があった場合のみ採用 表記例:邪設=英など)

 エージェント/愚神にある因縁は基礎設定を参照
(プレ指定可能 表記例:愚=エの家族(友人)殺害・戦場で出会いライバル認定など)

 エージェントが第1・3武器、愚神が第2武器を利用可能
(武器1つ→同じ武器で戦闘)

 防具その他、特殊効果装備はエージェントのみ適用
(武器のSWも含む)

 戦闘描写は基本方針から可能な範囲でアドリブ補完可能
(省略表記例:序盤→武器で斬り合い・会話 中盤→愚神優勢 終盤→隙作りスキル発動・逆転など)

 台詞のやりとりはほぼそのまま採用予定
(表現の変更等の修正はあり)

●その他
 英雄不参加PCはエージェントor愚神どちらかを選択→他PCの援護などの形で参加
(PC間での相談推奨)

 交友などの関係で一緒に戦いたい場合は事前に打ち合わせを推奨
(2対2・3対3の構図での戦闘可能)

 生命力減少・アイテム消費・破壊は描写上のみ
(結果反映に影響なし)

リプレイ




●ヴァルトラウテ(aa0090hero001)vs赤城 龍哉(aa0090)
「よう。来たのか」
 日常らしい気軽さと黒曜石が如き黒鎧を纏うは龍哉。
「ええ。過去の過ちを放置しておく訳には参りませんので」
 戦場らしい鋭さと白銀の鎧を纏うはァルトラウテ。
「過ちねぇ。俺としては今の状況も悪くはねぇんだが。何せ、放っといても手練れが向こうから来てくれる。入れ食いってヤツだ」
 自然体の龍哉が思い馳せるは、エージェントとして経験した戦いと遜色ない激戦の日々。
「そういう所は変わりませんのね。掛かってくる者以外は相手にしないことも」
 戦闘態勢のヴァルトラウテが想い馳せるは、邪英化の隙を愚神につかれた決別から始まった、共鳴の主導権を預かる形の再契約を経て駆け抜けた激戦の日々。
「で、どうする。わざわざ茶飲み話をしに来た訳じゃねぇだろ?」
「無論――決着を付けますわ!」
 好戦的な笑みの龍哉へ放った、ヴァルトラウテの九陽神弓による一矢が戦端を開いた。
「狙い撃ちますわ!」
「相変わらず鋭いな」
 接近を阻むヴァルトラウテの弓の速射が、龍哉を封殺にかかる。
「……っと、銃と違って曲射もあるのが厄介だが」
 しかし、龍哉は大剣『烈華』を握ると数多の矢をことごとく弾き、叩き落としながら徐々に前進してきた。
(以前よりも徹りが悪い……見切られていますわね)
 射程ギリギリからの射撃に努めるヴァルトラウテは、確実に間合いを詰められ焦りを抱く。
「そろそろ――返すぜ!」
『烈華』の射程距離に入ると、龍哉は巨刃を振るい矢ごと破壊して進む斬撃波を飛ばす。一瞬ヴァルトラウテの回避で緩んだ矢の切れ間を逃さず、さらに斬撃を増やして走る。
「っ、遠慮しておきますわ!」
 負傷で鈍るもヴァルトラウテの矢は斬撃波をすり抜け数本が龍哉へ届く。
「終わりだ!」
 しかし龍哉は足を止めず、肉薄と同時に九陽神弓を腕ごと弾いた。
「まだですわ!」
 即座に刃を翻した龍哉の袈裟斬りが届く寸前、ヴァルトラウテの気迫と刃が衝突する。
《Long time no see,master》
「……ここで『凱謳』とは、随分と勿体ぶったもんだな」
「満を持して、と言って欲しいですわ」
 拮抗する刃から漏れる、火花と『凱謳』の声。追憶に目を細める龍哉は、かつての愛剣・ブレイブザンバー越しにヴァルトラウテを見据える。
「互いの間合いで斬り合いか――面白ぇ!」
「戦乙女の矜持に掛けて――汝を滅します!」
 同時に相手の体を大剣で押すと、瞬く間には至近で剣戟の嵐が吹き荒れた。
「疾(し)っ!」
『メーレーブロウ』混じりにじわじわと互いの命を削る中、隙を見た龍哉が虚を衝く。剣術の間隙に差し込むは、魂に馴染んだ流派の体術による蹴り。
「破ぁっ!」
 ヴァルトラウテを怯ませ剣術へ構えを戻した龍哉は『烈華』を一閃、深紅のライヴスが空を断つ。
「っ、ああぁぁっ!!」
 ヴァルトラウテは両足で地を噛み上体を前傾に倒すと、致命の斬撃を大剣の腹で受け流してくぐり抜けた。
「っ!?」
「『凱謳』!」
《Yes ma'am!》
 驚愕する龍哉の懐でヴァルトラウテと『凱謳』が吼え、『ストレートブロウ』のライヴスと黄金に染まった必殺の光刃が黒鎧を斬り裂いた。
「ここまでか……ちょいと残念だぜ――ヴァル」
 龍哉は昂ぶった熱を吐息に乗せ、闘いの終わりを惜しんで微笑む。
「最後の言葉がそれとは、あなたらしいですわね――龍哉」
 ヴァルトラウテは剣を杖代わりに、傍らに立って柔らかく微笑む。
 それは遠い彼方へ置き去りにした、戦友に対する信頼と親愛。
 違えた道の先で初めて呼んだ互いの名を最後に、愚神のくびきから解かれた龍哉は絶命した。



●八朔 カゲリ(aa0098)vsナラカ(aa0098hero001)
「ほう、来たのは汝か」
「呼んだのはお前だろう?」
 着物姿で立つ妙齢の女性――ナラカのさも意外そうな笑みを前に立つカゲリ。
 何度も戦った間柄だ、『己を超えてみせろ』ということがナラカの要求だと知っている。
 嫣然と佇むナラカは握る剣から黄金の光を噴出した。
 冷然と佇むカゲリは握る剣から黒色の光を放出した。
 カゲリ(ナラカ)が奪い(与え)実現した、2色の天剣「十二光」。
「超えねばならない『試練』ならば――望み通り超えるまでだ」
「それでこそ汝だ――我が浄化の焔を超え、その意志と覚悟が放つ至高の輝きで魅せてくれ」
 絶対なる肯定者と、絶対なる裁定者。
 人と神の剣は交わり、滅却と浄化が鬩(せめ)ぎ合う。
「ふむ……力の収斂、解放、剣筋も見事。よくぞここまで錬磨したものよ」
「振るう相手と機会に不足はない。なら、いずれ到達へ至るのが道理だ」
 黄金と黒の光が出会う度、剣身の錆が剥がれ虚無の空間を2色に染める。
 合計12度に渡る黄金と黒の明滅が世界を照らし、激しさを増す衝突が不意に途切れた。
「私は万象を俯瞰し遍(あまね)く照らす善悪不二の光。愛おしい輝きを前にすればこそ、神威が齎(もたら)す慈恵も災禍も等しく万象へ降り注ぐ。『燼滅の王』よ、人の子が持つ輝きを――私に魅せてくれ!」
 突如、一対の巨大な黄金の炎翼を背へ生やしたナラカは、カゲリから大きく後退し飛翔。掲げた天剣を合図に炎翼が波立ち、降りた切っ先がカゲリを捉えた瞬間、浄化の焔が無数の矢へと顕現する。
「……ちっ」
 射出される裁断の矢を仰ぎ、カゲリは躱すも散らすも至難と判断。
 躊躇は刹那、『クロスガード』で身を固めたカゲリは焼尽の陽光へ飛び込んだ。
「まだだ――もっと、もっと魅せてくれ!」
 世界を終末へ導く黄金の中でなお、黒き劫火は抗い猛る。
「素晴らしい輝きを魅せてくれたからと、それで倒れてなどいられぬだろう!」
 しかし、不浄を闇を魂を滅却する焔の火勢はより熾烈を極める。
「故に如何(どう)か、灰燼に帰すが惻隠(そくいん)の情などとは言わせないでくれ!」
 やがて黒が黄金に塗り潰されても、浄化の神焔はなお裁断を強いる。
「喉が枯れ果てるほどに、人間賛歌を高らかに謳わせてくれ!」
 黄金に満ちた世界で、ナラカは声高らかに際限知らずの『試練』を体現する。
「――ああ、愛している、愛している、愛しているのだ! 人の子の輝きを!!」

「お前の主張は理解した」

 瞬間。
 炭化した肉体を酷使し、ナラカの眼前へ到達したカゲリが天剣に7度目の黒を灯し、閃かせた。
「生憎、俺が示せるのは俺の在り方だけだ」
 墜落するナラカを追い、地上で再び切り結ぶカゲリは絆を焼(く)べて猛烈な黒焔を放つ。
「それでも俺の壁となるのなら――」
 剣戟の果て、先に天剣を完全解放したナラカの一振りを、カゲリが12度目の黒が弾ける天剣で受け止めた。
「っ!?」
 剣から伝わる力が急激に膨れ上がり、ナラカは瞠目する。
「――お前を蹴散らし進むだけだ」
 そのままカゲリは『リンクバースト』の奔流をすべて攻撃へと転化した。
「万象の肯定者よ!」
『コンビネーション』で膨れ上がる黒焔を前に、ナラカは叫ぶ。
「総てを認め、それでも尚とその意志を貫く汝こそが!」
 浄化の祓いを強め対抗するも、燼滅の劫火は止められない。
「我が求めし光――」
 胸の中心に黒の天剣が貫通。
 瞬時に広がった黒焔を歓喜のままに迎え入れ、ナラカは消滅した。
「……  」
 火の粉が吹き散る虚空を見つめ、数歩前へ進んで『リンクバースト』が解除。
 カゲリの意識は、そこで途切れた。



●辺是 落児(aa0281)vs構築の魔女(aa0281hero001)
「あぁ、ここまで辿り着けたということは――そういうことなのですね」
「この黒い霧……この力は何だ?」
 異質な黒が漂う空白世界で、構築の魔女は最大限の警戒と好奇を抱く落児に微笑む。
「私がいた異世界の、『魔術』と呼ばれる理ですよ」
 曰く、想いの力で『魔術師』へと覚醒する魔女の世界を模した偽りの摂理。
 操作と解析を司る『赤の魔女』が保持し無聊(ぶりょう)を慰める残滓だ――と。
「お前を殺せる力ならば――それで構わない」
 恋人を愚神に殺された悲劇から『力』を求め戦いに身を置いた落児は、新しい『力』に怯まず手を伸ばす。
「擬似起動シーケンス開始、四足獣型及び鳥型アニマロイド展開開始」
「させるか!」
 すると黒霧が構築の魔女の周囲で収束し、落児は形を成す寸前にメルカバを発射して――着弾。
「……っ!?」
 視界が晴れると無傷の敵が悠然と立ち、落児は黒い獣に囲まれていた。
「概念操作に物質転送です――この世界の武力だけでは届きませんよ?」
『速度が一定以上の物体に対し硬化する』概念を付与した空気の盾で防御、および物質化したアニマロイドを『短距離転移』させた構築の魔女は細い指を動かす。
「さて、折角ですし昔話をさせて頂きましょう」
 黒霧の鳥獣を動かしつつ、構築の魔女は語り出す。
 自身の世界。
『魔術』とは何か。
『魔術師』とは何か。
 その深淵へ続く入り口を。
「………」
 落児は耳を通った知識を貪欲に吸収し、脳で咀嚼した『力』を結実させる。
「ふむ、全てではなくとも理解はしていただけたようで」
「やるべきことは変わらない。それがお前の願いをかなえるようであってもだ!」
 防戦の中で組み換わる男を解析し、笑みを深めた構築の魔女に落児は叫ぶ。
 直後、跳躍した落児は上へ飛翔し、黒霧で強化した砲弾で黒霧獣を四散させた。
「重力の分断による飛行に分断の霧を纏わせた銃撃……筋は悪くないですね。あぁ、懐かしい」
 さしずめ、合成と分断を操る『黒の魔術師』、か。
 とかく郷愁を刺激する光景に、『赤の魔女』は吐息を漏らす。
「ならば、満足してそのまま消えろっ!」
「ひよっこが吠えますね。『魔女』が伊達ではないと教えてあげましょう」
 落児が上空から狙いを定める中、構築の魔女は片手で指をパチン! と鳴らした。
「……がっ!?」
 刹那、凄まじい光と衝撃が落児を貫き、落下した。
「気体操作に電流操作――真横に走る落雷はいかがですか?」
 構築の魔女は倒れた落児へゆっくり近づく。
 これが探求と研鑽を重ねた『魔女』と、覚醒したばかりの『魔術師』を隔てる差だ。
「………まだ、だ。俺は死んでいないぞ!」
「その姿で叫べるのは素晴らしいですが、そろそろおしまいです」
「くそっ、また……届かないのか」
 愚神に軽くあしらわれ、無様をさらす己に憤る落児。
「いいえ、崩れるのは『私』です」
 だが、続く一言で肉体が欠けていく『魔女』に目を見張る。
「少しばかり傾倒しすぎましたね」
「すべて、お前の手の上か」
「そうでもありませんが、望みは叶いました」
 わずかも焦らない『魔女』に作為を覚え、『魔術師』は無力を飲み込み鋭い眼光を向ける。
「次こそは――殺す」
「…………いいでしょう。お待ちしていますよ」
 パチン! と『魔術師』を物質転送で異世界から排出し、『魔女』は1人、天を仰いだ。
「これで、眠れます、ね――」
 ほんの一時、新たな『魔術師』を生み、育て、逃がした『魔女』は瞳に何を映すのか? ドロップゾーンの上書きと『魔術』の過剰行使でライヴスを使い果たし、崩壊に身を委ねながら、最期まで笑っていた。



●藤咲 仁菜(aa3237)vsリオン クロフォード(aa3237hero001)
「お、ニーナやっと来た」
「来たよリオン……やっとここまで」
 まるで親しい友人へと向ける類の笑みを浮かべたリオンに、仁菜の表情からは温度が消える。
 リオンは過去に仁菜の『大切な人』を殺した仇敵であり、現在も『仲間』を殺そうとする愚神だ。
 ニコニコと、片手で軽くコルレオニスを宙へと払ったリオン。
 砕けんばかりに歯を食いしばる仁菜が握る星剣は震えていた。
「今日こそ私は、リオンを倒すっ!!」
 憤然で揺れる星剣をピタリと構え、仁菜は真っ直ぐ駆けだした。
 口には笑みを目には喜悦を浮かべて、リオンは真っ向から迎え撃つ。
「剣の扱い上手くなったなー。俺負けそう!」
「負けそうなんておもってないくせに!」
 激しい剣舞で無数の星が輝き踊る。
 軽口を叩く余裕があるリオンと比べ、仁菜には生傷が何度も増えた。
「いやいや。どんなに傷つけられても怯まず向かってくるとこは、ちゃんと評価してるぞ?」
「ぐ、っ……リオンに評価されたって嬉しくない!」
 胴を狙う突きをあっさり弾き、リオンは逆に仁菜のわき腹を深く突き返し鮮血が噴き出す。
 仁菜はすぐに『ケアレイ』で止血し、『リジェネーション』で痛みをごまかし攻勢へ戻った。
「……あぁいいなぁ。その真っ直ぐ俺だけみて向かってくるとこ」
 純粋な敵意を一身に浴びながら、リオンは仁菜に縋(すが)られている錯覚さえ感じて見つめる。
 思い出すのは、初めて目にした鮮烈な色彩。
 ただ奪うために殺す、無味乾燥な日々へ飛び込んできた茜色の髪と、殺した人間の骸(むくろ)を捉えて涙に潤む空色の瞳――髪と目に夜の闇とは無縁な日向を宿す臆病で泣き虫だった少女。
 それが再び戦場で出会えば、スイッチを切り替えたように恐怖も甘えも消して、敵意と強い意志に満ちた日向(ひとみ)で俺(リオン)を熱心に包み込んでくる。
「ねぇニーナ」
 リオンはその時から思い出せた綺麗な笑顔で一歩を踏み込み――

「 最後まで俺だけを映したまま死んでくれる? 」

 ――仁菜の心臓に剣を突き立てた。
「……げほっ!!」
 こぼれる命の赤を星の軌跡で装飾し、膝をつく仁菜を見下ろしたリオンは背を向けた。
「楽しかったよ。ありがとねニーナ」
 本心から出た言葉にわずかな寂しさを抱きつつ、リオンはいつか忘れる笑みのまま立ち去――

 ――ドスッ

「 え っ ?」

 しかし、背を押す軽い衝撃に目を剥いたリオンは、自身の心臓を貫く獅子の剣に初めて笑顔が崩れた。
「ストラップ、切れちゃった、から、胸ポケットに、入れといた、の」
 振り向くと、口の端から血を流し重そうな半眼を必死に開いた仁菜が笑う。
「……お守り」
 同時に、ポケットからいつも仁菜が通信機につけていたお守りがこぼれ落ち、軽い音を地面で鳴らす。
「そ、んな、木彫りの、お守りなんかで、俺の剣を、防げる、はずが……!」
「そう、だね。痛いし、熱いし、目が、霞んできたし……死にそう、だもん。リオンの剣を、防ぐなんて、奇跡みたいな、力は、ないよ」
 余裕のない驚愕に染まったリオンへ、死にゆく体に治癒を施し続ける仁菜は澄んだ青空のような目を瞬く。
「でも、私に、あと一撃の、力を、くれた……」
 貫かれたお守りから。
 託された思いを。
 奪われたくない仲間の笑顔を。
 何より、誰かを守りたい強い意思を。
 仁菜は思い出したのだ。
「く……そ……」
『ケアレイン』の光に包まれながら、慈雨の恩恵から外れたリオンは消滅。
「私は、1人じゃ、ないか、ら……」
 傷を塞いだ仁菜も失血で崩れ落ち、壊れたお守りを両手で包んで意識を失った。



●東江 刀護(aa3503)vs双樹 辰美(aa3503hero001)
 足音――

 ―呼吸―

 ――静寂

「長い戦いにケリをつけ、そろそろ、どちらが最強か決めよう」
「自分も同じことを考えていた」
 霜夜(しもよ)がごとき張りつめた空気を破る、刀護と辰美の声。
「おまえを倒し、自分が最強であることを証明する。そして、因縁を断ち切る!」
 頭を南国の大海じみた浅葱(あさぎ)、瞳を力強い太陽の橙に染め、ドラゴンスレイヤーを構える刀護。
「それでこそ我が好敵手だ」
 頭を新月の海面じみた紫紺(しこん)、瞳を不吉な夜空の黒に染め、時雨村正を佩(は)く辰美。
「自分は本気でいく。おまえも本気でこい」
 容姿などを除けば、武技、洞察、直感まで近しいレベルにある辰美の言葉に刀護は腰を落とす。
「互いに本気を出してこそ、真の強者を決めるべき決着であろう」
 不退転の剣豪が臨む真剣勝負。
 勝敗条件は生死のみ。
 もはや会話は――必要ない。
『はぁっ!!』
 視線の火花は白刃の衝突で実体化し、刀護と辰美の間で幾度も弾けて儚く消える。
「おまえの実力はその程度か!」
 何十と斬り結ぶにつれ、均衡していた天秤が次第に辰美へ傾く。
 交える剣技もほぼ同じ力量の両者だが、戦闘スタイルは正反対だ。
 隙と見るや果敢に攻める刀護は、攻撃に重きを置くいわば速攻型。
 隙を見るや確実に攻める辰美は、防御に重きを置くいわば忍耐型。
 比較すると刀護の消耗が早く、力がほぼ拮抗した相手ならばこそ小さな綻びが大きな敗因へ繋がる。
「まだまだ! 本気を出すのはこれからだ!」
 しかし、刀護は不利の中でも不敵に笑い挑発する。
「力の出し惜しみとは――甘く見られたものだ!」
 己を侮る言動に一瞬不愉快そうに眉をひそめ、すぐに辰美は嘲笑に変えて攻勢を強める。

 剣戟――

 ―鮮血―

 ――咆哮

 鉄錆の臭い。
 灼熱の痛み。
 野太い叫び。
 思えば目の前の相手と顔を合わせる時、状況はいつも同じ。
 刀護が辰美と出会い、一目で互いを好敵手と認めてからずっと。
 剣と言葉を交わし、技と視線をぶつけ、血と想念を曝した。
 ひとえにライバル(おまえ)を倒し、自分こそ『最強』だと証明するために。
「うおぉっ!!」
「はあぁっ!!」
 いつしか、刀護と辰美の周囲は血と汗と脂が飛散していた。
 それでも力を振り絞り、両者は死闘の決着まで止まらない。
「これで終わりだ!」
「ぐっ……!」
 そして、終わりは訪れる。
 ほんの一瞬、刀護は辰美の刀がブレたのを見抜き、大剣で鉄壁の防御を初めて崩す。
「自分が最強であることを――その身で思い知れ!」
 刀護は防御も回避も許さずライヴスを凝縮。
「がはっ!?」
 辰美も咄嗟に刀で受けようとするが間に合わず、『ライヴスブロー』の直撃に沈んだ。
「口惜しいが、この勝負、自分の負けだ……」
 仰向きに倒れた辰美は吐血し、まぶしそうに手をかざしながら勝者の太陽を見上げる。
「おまえは……良き好敵手であった」
 着衣が破れて相手が女性だと初めて知った刀護は屈み、静かな夜空を見返し手を握る。
「おまえも、な――」
 すると、最初で最後の微笑を浮かべた辰美は脱力し……消滅した。
「…………」
 刀護はもう一度今までの死闘を振り返り、その場から動かない。
 辰美はライバルだった。
『女性と戦わない主義』こそ変わらないが、辰美だけは関係がない。
 剣を交える度、刀護が辰美の、辰美が刀護の剣技を盗み、切磋琢磨してきた。
 最後の一撃も、辰美の動きを取り入れて生まれたものだ。
 残ったのは空虚感。
 もし、他の道があれば、自分たちは――
「…………」
 無言で拳を握り、刀護は『夜』を代償に『最強』の証明を終えた。



●聴 ノスリ(aa5623)vsサピア(aa5623hero001)
 ――コツ コツ コツ コツ
 靴音に気づいた白黒(モノクロ)の女性――サピアはくすり、と小さく笑う。
「よく会いますね、聴ノスリさん? もしかして私の事お好きかしら?」
 本心が見えない揶揄を受けた靴音の主――ノスリはネクロノミコンを手に解読不能の文字を浮かべる。
「まさか。そうゆうのじゃないよ」
 微笑で揺れる艶やかな黒髪と黒目、解読不能の文字が浮かぶ白磁の肌を眺めて、ノスリは肩を竦めた。
「相変わらずつれない事を仰る」
「相変わらず適当な事を言うね」
 合縁奇縁が結んだサピアとノスリ。
 2人は何故か、ことあるごとに戦場で相対した。
 似た様な武器、似た様な術式、似た様な距離、似た様な実力。
 鏡写しのような戦いを繰り返し、一体何度仕切り直した事だろう?
「何度も申し上げますけれど、私、愚神ですよ?」
「何度も言うけど、君は信仰対象外」
 ――そう
 底が見えない『愚神』のサピアが
 愚神信奉者が育てた『神の器』たるノスリに
 わざわざ合わせて戦っている様な――
「じゃあ、始めようか」
「ええ、終わらせましょう」
 ほら、今回もまた、きっと。
 ノスリとサピアが本を開けば、浮かんだ文字が弾けて消える。
「鳥さん鳥さん。その羽根、千切って差し上げましょうか?」
 中遠距離を保った中央、数多の槍が出会って潰え、サピアは今日も言葉をめくる。
「羽根なら、とうの昔に自分でもいだよ」
 攻撃しかない動く静止画、何度も目にした退屈な光景、ノスリは今日も言葉に応じる。
「嗚呼、だから其処に居るの? 貴方が其処に立っているなんて、とってもとっても滑稽ですもの」
「そうだね。役に立たない狂い鳥が羽根をも失くせば、道化を名乗るが妥当かな?」
 サピアは愉しげ。
 ノスリは穏やか。
 2人の応酬にキリなどなく。
 キリがないから言葉で遊ぶ。
 抽象的で浮遊したやりとり。
 世界がどれだけ廻ろうとも。
 始まりも終わりも一緒なら。
 無意味な寄り道もまた一興。
 これはサピアの刹那的道楽。
 応えるノスリは信仰的作業。
『愚神』が興じる『神の駒』。
「……もういいや」
 されど戯れも長くは続かず。
 ノスリは不意に前進を開始。
 攻撃の境界がサピアへ傾き。
 崩れた均衡に黒目が丸まる。
「あらあら、私と心中でもされるおつもり?」
 しかしすぐさま微笑み細まり。
 サピアに恐れも焦りもない。
「生憎、僕にそんな趣味は無いよ」
 ノスリは痛みに無頓着。
 創傷、骨折、貫通、流血。
『矛』に支障がなければ重畳。
 何が起きても構いやしない。
「選択する権利も、ね」
 寄らばノスリは本を開く。
 ライヴス渦巻く刀剣の嵐。
『ストームエッジ』がサピアへ迫る。
「――くすっ」
 捕縛がかなえば御の字と。
 飛び行く刀剣、微笑が迎え。
 サピアは無防備、地面へ縫われる。
「避けないんだね?」
「だって、例え死んだとしてもどうせ繰り返すだけ。またあの場所で目覚めるのだから、少しでも愉しくいきましょう?」
 ボロボロなノスリが見下ろし、磔(はりつけ)のサピアが笑う。
「さぁさページを捲りましょう。最初のページに戻りましょう」
 くすくすくすくす
 優しく、愉しく、空っぽに。
 名も知れぬ本の智慧の娘は。
 終わりを閉じて始まりを開く。
「聴ノスリさん。あなたの本は、どこへ向かうのかしら?」
 くす く す  く す   く  す
 戦い語る、遊戯の結末。
 本気か否かも、分からぬままに。
 サピアは微笑み、事切れる。
「僕は只の駒だよ」
 ただ穏やかに、どこか淡泊に。
 表情乏しく、遠くを見つめ。
「……使い捨ての、神の駒」
 ノスリは1人、口遊(ずさ)む――


結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
    獣人|14才|女性|生命
  • 守護する“盾”
    リオン クロフォードaa3237hero001
    英雄|14才|男性|バト
  • その背に【暁】を刻みて
    東江 刀護aa3503
    機械|29才|男性|攻撃
  • 優しい剣士
    双樹 辰美aa3503hero001
    英雄|17才|女性|ブレ
  • エージェント
    聴 ノスリaa5623
    獣人|19才|男性|攻撃
  • 同胞の果てに救いあれ
    サピアaa5623hero001
    英雄|24才|女性|カオ
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