本部

【愚神共宴】連動シナリオ

【共宴】世界を愛で満たしましょう

桜淵 トオル

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/04/19 08:27

掲示板

オープニング

●カップリングバラエティ
「バラエティ番組へ出演の依頼です」
 書類を読み上げるのは、新人エージェントの柏木 信哉。気が進まない役を押し付けられている感満載だ。
「場所はニューヨーク、マンハッタンにあるセントラルパーク。そう、あのセレブがよくジョギングしているところですね」
 世界最大級の大都市に暮らす人々が、ひとときの憩いを求めてやってくる中央公園。
 広い芝生にジョギングコース。遠景には摩天楼。
「ここでですね、未婚の男女を集めて、バーベキューをしたりレクレーションしたりしたりしながら親睦を深め、最後にカップリング成立させるという、よくある一般人を使うテレビ番組の撮影があります」
 それの何がH.O.P.E.に関係があるのだ? という視線を受け、柏木は急にハンカチで汗を拭いた。
「あの……、もう少し先まで聞いてください。司会、アッシェグルート」
 はぁアアア?? と巻き起こる罵声にたじろぐ柏木。
 僕のせいじゃありません、僕は悪くないんです……ともごもご言い訳をする。
「ええと、例のラスベガスの事件以降、アメリカのテレビ局があの女性型愚神に興味を示しまして。愚神が『善性』を名乗るなんて前代未聞、これは視聴率が取れるぞと思ったようです」
 視聴率。それはテレビ業界に棲む魔物。
 業界人はソレを得るためなら悪魔にさえ魂を売るといわれている。
「それで何でカップリングバラエティなんだ? とお思いでしょうね。わかります。僕に聞かないでください」
 柏木はさらに書類を読み上げる。
 『善性』を名乗る愚神がいる。
 彼らは人類に対して『降伏』を申し出た上で、『悪性愚神』を狩る側に回るという。
 テレビ局は話題性を求めて『善性愚神』を名乗る彼らにコンタクトを取った。
 『善性愚神』は二つ返事でテレビ出演を承諾した。
 できれば人間と仲良くできるような内容がいい、という条件で。
 その後テレビ局の思惑やら、汚い大人の事情やら、アレやらコレやらの複合的な大きな力でバラエティの内容が決定した。
 ちなみにアッシェグルート本人は、大いに乗り気だと言う。
「あっ……、ちょ、僕に怒られてもですね。相手は自由の国アメリカ。H.O.P.E.側からマスコミに圧力なんか掛けても逆に叩かれるだけですよぉ。『善性』愚神はあくまで『人間と仲良くしたい』のが目的と主張してますし」
 詰め寄られて柏木は、涙目になりながら言い訳をする。
「それでですね、H.O.P.E.としても愚神が妙なことをしないか監視する必要がある。一般人のサクラも用意しますが、イザというときのためにエージェントも近くで待機させようと……。それには出演者枠に入れておくのが最も確実だというわけで……いやコレ僕が考えたわけじゃないんで! 勘弁してください!!」


●『世界を愛で満たしましょう』~アッシェグルートといっしょ~
「皆様、今日はとてもよいお日和でございますわね。愚神アッシェグルートですわ!」
 赤いヴェールで顔の上半分を隠した愚神は、上機嫌で番組の解説を始める。
 カメラは既に回っている。どこで習得したのか、完璧なカメラ目線と営業スマイルだ。
「あたくし、人間の持つ感情で最も素晴らしいのは愛だと思いますの! ですから、本日は地上により多くの愛が満ちるよう、微力ながら頑張らせていただきますわね!」
 新人アナウンサーの挨拶なら微笑ましくもあろうが、相手はトリブヌス級愚神である。
 サクラとして参加しているエージェント達の胡乱な視線をものともせず、アッシェグルートはにこやかに説明を続ける。
「お集まりいただいたのは未婚のお若い男女の皆様ですわね。……でも一夫一婦制は一部の国の決まりごとに過ぎませんので、人間の法律に反しない限り、あたくしはどんな形の愛でも応援いたしますわよ!」
 アメリカは州ごとに州法が存在し、倫理に厳しい州もあれば驚くべき寛容さを示す州もある。
 また婚姻関係という形を取らなければ、法律にはたしかに抵触しない。
 カップルの形ごとに、なにやらオススメの州や国家があるらしい。
「まずは青空の下で定番のバーベキューなど。紳士の皆様、紳士たらんとする女性の皆様、ここはエスコートするチャンスですわ」
 いちいち余計なトランスジェンダーネタを入れてくるが、特に悪気はない。むしろノリノリである。
 テレビ局のディレクターはこの独特のキャラを気に入っており、放送できないネタには編集で金属音を被せて対応するそうだ。
「それからレクレーションですわね。バドミントンやフリスビーなど、1対1でできる遊びで親睦を深めていただきますわ。音楽など一芸をお持ちの方、そのほかアピールできる技能をお持ちの方は、このコーナーで積極的にアピールしてくださいませ!」
 何が悲しくて愚神の前でレクレーションを繰り広げねばならん?
 という心の声を、あなたたちは必死で飲み込んだ。
 これは任務、これは任務。
 あの怪しげな愚神を、野放しにするわけにはいかない。
「最後にドッキドキの告白ターイム! ですわね! 告白は男性から、籤で順番を決めていただきます。ただし男性役に回りたい女性も排除はいたしませんわ。あたくしはいかなる愛の形も容認いたしますの。それが愛である限り!」
 お前の存在そのものが心配しかない!
 いいから人間社会の放送コードは守れよ?
 というエージェント達の心配をよそに、愚神は朗々と番組タイトルを読み上げる。
「では参りましょう! 『アッシェグルートと一緒に! 世界を愛で満たしましょう!』」


【出演NPC・非リンカー】
・麻鈴 望
四国の高校に通い、看護学部を目指す高校生。メンタルの強さを見込まれた。いまは春休み中。
屍国事件では夜愛勢力に襲われたことから、志雄野とは因縁関係にあたるのでは? と指摘されたが、百鬼夜行とは遭遇していないし志雄野も普通の夜学高校生としか思えない。
英語の勉強になる&バイト料も出ると口車に乗せられた。

・志雄野 誠
H.O.P.E.東京支部でバイトしながら夜間高校に通う苦学生。愚神との遭遇経験を買われ、今回はバイトで来た。バイト料分は頑張る意気だが、女子と話したことはほぼない。
 
・ニーナ&ジム
ハワイ支部のオペレータ。非リンカー。恋人のジムと共に一般人枠でサクラ参加

【出演NPC・リンカー】
・ヘレン・ヴェガ
ハワイ支部のエージェントでジャックポット。23歳独身。美人でナイスバディだが粗暴なためモテない残念女子。
親友のニーナの護衛役として無理矢理付いてきた。
英雄は自称森の精霊少女で、人ごみが苦手なため幻想蝶の中でまったり過ごしている。

・柏木 信哉
新米バトルメディック。日本の大学で植生学を専攻する植物オタク。
英雄は自称森の老賢者、見た目は小学生。用がなければ幻想蝶から出てこない。

解説

【目標】
カップリングバラエティに出演しつつ、愚神アッシェグルートを監視する。

【登場】
・トリブヌス級愚神アッシェグルート
『善性愚神』を名乗るが、かなりつかみどころのない性格。
今回はテレビ局の申し入れがありノリノリ。カップルに茶々を入れたり盛り上げたりするのが目的。攻撃スキルは使用しない。

・番組ディレクター&スタッフ
『視聴率』という悪魔に取り憑かれた厄介な人たち。視聴率のためならなんでもする。
プロ意識()が強く、H.O.P.E.からのスタッフ受け入れは拒否している。

【番組趣旨】
・普通のカップル成立バラエティ。ただし司会がアッシェグルート。
・男性側(あるいは男性役をやりたい人なら誰でも)が告白をし、告白された側が諾否を決める。
・「待った!」システムあり。
・司会がアッシェグルートであるため、実はフトコロの深さがとどまるところを知らない。
 ノーマルカップルに限らず、BL、GL、年の差、三人・四人カップル可。
 それどころか家族愛、師弟愛、友愛、およそ愛と名がつくものを主張しさえすればアッシェグルートは容認する。
 ただし番組スタッフという魔物が潜んでいるため、気をしっかり持たないと(プレイングにハッキリ書かないと)スタッフにより視聴率のためのネタにされかねない。
 くれぐれも気はしっかり持つこと。
・カップル不成立も可だが、不成立カップルが増えると番組スタッフという魔物が何かする。
・カップルが成立しても番組のサクラとしてのものであり、後日一切の責任は発生しない。
・番組は全米に放映される。
・結婚しているエージェントも、サクラとして旧姓などで出演可能。
・アッシェグルートに殴りかかるなどの行動があれば、番組スタッフがバナナの皮等で阻止し、ネタとして処理する。(成功しない)

【その他】
・H.O.P.E.関係者のほかに一般公募の男女10名ずつが参加する。彼らは特殊な司会者に興味津々。

リプレイ


 番組出演の為に集まったエージェントは能力者、英雄が10組、一般人は男女それぞれ12名ずつ。
 女性側が多い傾向はあるが、フトコロの深すぎる愚神は気にした様子もない。
「皆様! 親睦を深めるには一緒に楽しいことをやるとよろしいんですのよ! 手始めに美味しいお食事を御用意いたしましたわ!」
 鮮やかな緑の芝生の上にはどーんと大きなバーキューセット。火入れもされている。
 別のテーブルには肉。肉肉肉。とりあえず肉。
 前菜が肉、主食が肉、副食が肉、デザートも肉。
 バーベキューから始まるこの怪しげな番組のスポンサーには、食肉業界がしっかり名を連ねていて、異常なほどの肉推しである。

「ふふん! さっそくあたいの出番というわけね!!」
 クーラーボックスを引っさげて現われたのは、雪室 チルル(aa5177)。中にはヒラメ(フルーク)やスズキ(シーバス)などの、近海で採れた魚たち。NYでは稚魚は釣れてもリリースする決まりになっているので、どれもこれも立派な大きさのものである。
『さっそくって言うか、前もってって言うか……』
 スネグラチカ(aa5177hero001)はぐったりしている。既に一仕事終えた気分である。
 設置されたモニターには、チルル達の出演する前撮りVTRが流されていた。
「バーベキューには、魚もあったほうがいいんじゃない?」
 カメラ目線のチルルの言葉から前撮りVTRが開始する。
 セントラルパークのすぐ西側には、有名なハドソン川が流れる。悠々とタンカーの行き交う都市河川である。
「ここで釣った魚を食べればいいわけね!」
 残念ながら、スタッフの答えはノー。
 どろんとした都市河川の見かけどおり、ハドソン川は汚染が酷いので魚は釣れても食べられない。NY近郊で食用の魚を釣るには、五大湖であるオンタリオ湖方面に行くか、半島であるロングアイランド近海に行くか。
「というわけで、やってきましたロングアイランド!」
 実際に掛かった時間とは無関係に、編集されたVTRでは決断も移動も、漁業権の登録も一瞬で終わる。
 共鳴してスク水に着替え、どこかの岬から海中に飛び込むチルル。
 銛と網で泳ぐ魚を追いまわす。楽しそうな表情が水中カメラに大写しになる。
 陸上では獲った魚を両手で捧げ持ち、ポーズを決めて見せる。
 後半は流石に疲れたのか、普通に釣り糸を垂れる姿も撮影されていた。それでも頻繁に引きがある。
 このあたりの海ではヒラメがよく獲れるが、アメリカ人はあまり食べないらしいのである。

「Wow! 貴女も魚もとってもフレッシュね! 捌いてもいい?」
 チルルのクーラーボックスを覗き込むのは、ハワイ支部所属のヘレン・ヴェガ。金色のウェーブヘアを手早くゴムで纏める。スポーティな半袖Tシャツとホットパンツで、暴れる魚の尻尾を掴み上げる。
 海産物が主な資源であるハワイでは、釣った魚を調理することは日常茶飯事。煙の出る肉や魚の調理は、庭にあるバーベキューコンロ一択。
 この場では、魚を調理するのに最も適した人材だろう。

『肉肉肉……焼くのは任せろ~』
 高森 なつき(aa5534hero001)は、あらかじめ薄切りにしてある肉から焼き始める。
 肉から滴る脂で炭火の火力が上がる。
 よって、バーベキューでははじめに脂の出る部位から焼くのが定石。
 藤岡 桜(aa4608)は、火の扱いは高森に任せ、食材を運んだり皿を配ったりと無口ながらも手伝いで立ち回る。カップリングバラエティに出るには幼すぎる外見だが、高森と並ぶと叔父と姪のようで微笑ましい。
「仕事でバーベキュー食えるとか、最高だよな!」
 その脇で、神塚 まもり(aa5534)は皿とフォークを手にスタンバイしている。目当ては肉。赤貧の苦学生であり、このまたとない機会に肉を詰め込めるだけ詰め込んでおく所存である。勿論腹も減らしてきた。

『桜!? ちょっと、共鳴なしで私も参加って本当なんですか?!』
「……本当……。楽しんで……来てね……」
 銀髪に白いドレス、天使のような容貌のミルノ(aa4608hero001)は桜の無茶振りに蒼白になっていた。
 いつも散策しているとは言っても、人と交流するためではない。
 なのにバラエティ出演で異性との交流など、無理に決まっている。

「遠足以外のお外でごはん、はじめてなのです……っ」
 箱入り娘なみぞれ(aa1556)は周りを見回して緊張に震える。人ごみも男性も苦手、だが苦手意識を克服したい一心で参加してみた。
「う、うぅ……ヘマしないようにしなきゃ……」
 同じく緊張に震えるのは、紺野 あずき(aa3833)。
 アイドルユニットの一員でありテレビ番組には慣れているかと思いきや、逆にスタッフやディレクターの視線が気になって仕方がない。頼りの英雄も、自由に女性を口説けるとあってどこかへ行ってしまった。
 ふと、同じようにカチコチになっているみぞれと視線が合う。
 どちらからともなく、笑みが零れる。
 沢山の中のひとりなのに、自分ひとりで注目を集めているかのように緊張していたのが自分たちでも可笑しくて。


『うひょー! 素晴らしい光景だなあ!』
 その頃、あずきの英雄、シミズ(aa3833hero001)はあずきの目の届かないところでテンションを上げていた。
 参加者はなんやかんやで女性比率が高く、一般女性もフォトジェニックな美人揃い。
 番組趣旨から言っても、初対面の女性を口説くのになんの不都合もない。
『失礼、レディ。人知れず咲く可憐な花のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?』
 手始めに、手持ち無沙汰そうに立っている見知らぬ女性に声を掛ける。
 あくまで丁寧に、紳士的に。
 それでいて、視線は常に周囲の美女を捉えている。

「はぁ、今度はアッシェグルートが司会のバラエティ番組ですか……」
 月鏡 由利菜(aa0873)とびっきり人目を引く美女でありながら、こっそりと片隅で溜息をつく。
 男性と言うか、恋愛関係は全般的に苦手だ。
『要は、あたし達の親友っぷりを番組向けにアピールすりゃいいんでしょ?』
 ウィリディス(aa0873hero002)はあくまで明るい。他人のコイバナにも興味津々で、早速どこかでカップルが成立していないかとワクワクしている。由利菜ははしたないからおやめなさいと嗜めてはいるが。
「月鏡のお嬢さん、この間はショッピングにお付き合いいただいて、とても楽しかったですわ!」
 宝石を散りばめた赤いヴェール、レースをあしらった裾の長いドレス、そして不思議な形を保ったまま靡かない金髪。
 愚神アッシェグルートが、にこやかに挨拶する。
 ラスベガスの街中にこの愚神が現われたとき、最後のショッピングに付き添ったのは由利菜だった。
 人のいる町で愚神を野放しにするわけにはいかないと、貧乏クジを引いた形ではあったが。
「それは良かったですわ」
 由利菜も社交辞令を交え、にこやかに応対する。
 トリブヌス級愚神が人の街を歩き、チョコレートとその他いくつかのお土産を購入し、そのままH.O.P.E.に向かうなどと、自分の目で見るまでは信じていなかった。
 いまも決してこの愚神を信じてはいない。だからこそここにいるのだ。
 だが、リディスははるかに警戒心が薄く、すらすらと話し出す。
『これはまだ確信が持てるわけじゃないんだけどね……あたしの魂って、色んな生命の魂が統合されてて、その中に愚神だった存在の残滓もあるんじゃないかって言われてるんだよ。偶に素で口調が変わっちゃうんだよね』
「リディス、そこまで番組で言ってしまってもいいのですか……?」
 カメラはすぐ側で回っている。この発言が放映される危険もあるのだが。
『善性愚神なんて概念が出始めたからには言っちゃってもいいかな~って。元の世界で悪魔だったとか破壊神だったとか、そういう英雄は実際いるし。あたしには愚神が例外だとは思えないかな』
 元の世界で何をしたか? この世界に来てから何を為したか?
 答えの出ない問題に、リディスはあっけらかんと切り込む。

『いやー、僕達もかつては厄災だの鬼神だの、呪いの根源とまで言われてて、ちょっと親近感湧きますねー』
 いつのまにか愚神の脇についていて明るく喋っているのは、両面宿儺 スクナ/クシナ(aa4687hero002)。
 生身の肉体側が久科。絡繰に定着している半身が須久那。元の世界では双生児であり、その姿と怪力を恐れられた。
『……イヤ、ソモソモ……ナンデコンナトコデ、コンナコトヲ……』
 須久那はいまいち状況が掴めていないようである。
「まあ、変わった方がいらっしゃるのね。お一人ですの? お二人ですの?」
『双生児だから二人で一人かな。変わってるのは貴女もだと思うけど』
 アッシェグルートの質問にも久科がなめらかに答える。
「うふふ、そうですわね。あたくしは人間とも違いますし、他の愚神とも違うようになりましたの。でも自分の心に背かなければ、変わっているのって素敵なことですわ」
 愚神は晴れ渡った空のように上機嫌。この雰囲気がなにやら楽しいらしい。
「なあアッシェグルート、お前は人間のどんなところが好きなんだ?」
 沖 一真(aa3591)は警戒しつつも愚神の本音を聞きだそうと試みる。
「複雑なところですわ! 弱いようで強く、優しかったり楽しかったりしますわよね。見ていて飽きません」
 どうも目線が同じところにあるような気はしないが、いまのところ敵意は感じない。
「この世で一番愛している、と言える相手はいるのか?」
「あたくしは人間という存在をわけへだてなく愛しておりますの! そうですわね、ただいま御一緒しているヘイシズさん、パンドラさん、ヴァルヴァラさんはやはり特別な存在かしら? はじめてのお仲間ですものね!」
 ヴェールの向こう側には、柔和な笑顔。
 愚神でも、仲間を思う気持ちがあるのか?
「不思議な方ね、薔薇色の愚神さん」
 コール(aa1556hero001)もこの愚神に興味があるようだ。
「愛で世界を満たして、それからどうするつもりなのかしら」
 耳障りのいい言葉。そして人間のテレビ業界にすら迎合する柔軟な姿勢。
 その先に何を見るのか、その行く末は?
「あら、だって愛って素敵でしょう? 愛に満ちた世界で、人類は末永く繁栄するべきですわ」
 ころころと笑うアッシェグルート。広い空の下、緑の芝生、じゅうじゅうと肉の焼ける音、人々の笑い声。
 絵に書いたような、あまりにも平和な光景が広がる。



「その節は、お世話になりました」
 志雄野誠は、以前依頼で恩を受けたエージェント達に折を見て挨拶に回った。
 由利菜、一真、月夜、弥生は最も辛い時期に助けてくれた恩人であり、いま誠が東京支部でバイトできているのも、彼らのお陰だ。
 麻鈴望も、英語の勉強になるという誘い文句を自力で本当にすべく、英語圏の人達に必死で話しかけている。
「(二人とも、元気に……やってて……よかった……)」
 桜も誠や望と直接関わってはいないが、芽衣沙のことはずっと追っていた。
 遠くから、四国事件の生き残りの二人の無事を見守る。

「お前、女慣れしてないとか言ってなかったっけ?」
 まもりは苦学生仲間として、焼けるはしから誠と肉の争奪戦を繰り広げていた。
「あの方たちは辛いときに助けて下さった恩人なので、そういうのとは別枠です。学校では到底女子とは話せないですよ~」 
 誠のほうも境遇の似ているまもりにはどことなく打ち解けた雰囲気になってきている。
『誠くんは女慣れしてないのか~。よし、まもちゃん共鳴お願い』
 なつきは年長者として、若者を見守るモードになっている。
「ちょ……肉が!!」
 まもりもなつきも男だが、共鳴すると完全なる女性体になる。これはなつきが初対面時にまもりを女性と勘違いしたことに起因するらしい。
「でも、中身は男性ですよね? じゃあ男性だと思います! あっ、そっち焼けてます~」
 突然目の前に出現した巨乳美女に対して、誠はのんびり対応である。
「オイこんだけの美女にその対応はないだろ! それでも男か!」 
 まもりは誠の襟元を掴んでがっくがっくと揺らす。
 元々のまもりも女顔であり、本日の顔ぶれを見回して「俺が一番美人だな!」と呟くほどの男。スルーは納得いかない。
「ええー、女の人は心の綺麗さだと思いますしー。俺、表面だけなら多少腐ってても平気です!」
 かつて四国を揺るがしたゾンビ事件。誠のいた暴走族は、初期の逮捕時既に20名中12名が『動く死体』であった。メットと服、手袋で皮膚のすべてを覆っていたとは言え、腐りゆく仲間と起居を共にしていた誠の価値観もだいぶズレている。


 内臓を除いたスズキは腹の中ににんにくとハーブを詰められ、外側をベーコンでぐるぐる巻きにされて紐で縛られ、こんがり焼けていた。こうするとベーコンの旨みが魚の旨みと混ざり、ハーブとにんにくが臭みを消してくれる。
 ヒラメは淡白な白身魚なので、シンプルに塩と胡椒で焼いている。
「やっぱりあたいって最強ね! こんなに美味しいもの釣ってきちゃうなんて!」
 鼻高々のチルルに、スネグラチカは耳打ちする。
『これはむしろ調理も褒めたほうがいいんじゃ……?』
「そうね! ヘレン! 次はバドミントンで勝負よ!! 負けないんだから!」
 すぐに勝負に走ってしまうチルルだが、ヘレンも割と似たタイプだった。
「OK! オイシーもの食べたあとは体を動かすのね! ナイスなアイデアだわ!」
 軽快にラケットを振りつつ、広場へ歩き出す。

「ばどみんとんとは、羽子板の仲間でしょうか……?」
 三木 弥生(aa4687)は敬愛する一真を愚神から護衛するためについてきたのだか、いまいち状況が飲み込めないでいる。
 なにやらあちこちに機械を操作する怪しげな人々(撮影カメラとスタッフ)がいるのはどうしてか、皆で肉を網焼きにして食べているのは何故か、疑問符の嵐が吹き荒れる。
『うん、そんなもんだね。ちょっとやってみる?』
 月夜(aa3591hero001)もラケットを取り、ぽこんっ、と軽く打ち合う。
 チルルとヘレンが『世界最速の競技!』とばかりにガチでやりあっているのとは対照的だ。

「あの、私……、私達、ダンスをやります!」
 あずきはテレビ出演の機会を逃さずアピールしようと、出演者同士でダンスの企画提案をしておいた。
 みぞれとミルノがピアノの連弾、桜がヴァイオリンで演奏を担当。
 曲はアイドルのあずきに合わせて、J-POPをアレンジしたもの。
 放送に必要な手続きは番組スタッフが代行してくれるとのこと。
 ダンスは最近流行のロボットダンス。身体機能を駆使して、レトロなロボットから最新のなめらかに動くロボットまで、滑るような機械らしい動きを再現する。
「(よかった……! ピアノがあって)」
 ミルノはピアノを弾いている間は話しかけられる心配もないし、曲に没頭できるので安心できる。
 あずきは衣装にピンマイクを取り付け、歌唱しながらのダンスに挑戦中。
 清純派アイドルとして、ミニスカの翻りはギリギリのところでストップ、カメラの仰角撮影はNGの精神で。 
「アイドルって、すごいのですね……!」
 みぞれの演奏は習い事だが、あずきのダンスはプロの芸能。
 その差に、素直に感激する。

 曲が終わると、拍手が巻き起こる。
「すすす、素晴らしい演奏でした……!」
 一番に緊張していたあずきが、みぞれ、ミルノと桜の演奏を褒め称える。
「えへへ……」
 みぞれは凄いと思った相手に逆に褒められ、もう照れるしかない。


 ロボットダンスが終了すると、今度は社交ダンス用の曲のリクエストがあった。
 アメリカの学校では、普通に男女のダンスパーティというものが開催され、ダンス人口は多い。
 ミルノとみぞれが、洋楽のレパートリーの中からリクエストに合わせて演奏する。

「……踊るか」
 一真が視線を逸らしながら、右手を差し出す。
「……なんでダンス?」
 不服そうに返事しつつも、月夜もそこにてのひらを重ねる。
 いち、に、さん、し。
 拙げに、基本のステップを踏む。
「一応、バラエティのノリにも合わせないとな……、って、足踏むなよ」
『それは……っ、一真が! リードしてくれないからでしょ!』
 然り。
 社交ダンスは男性のリードがモノを言うのである。
 しかし一真も男子高校生、こなれたリードなど望むべくもなく。
 それでも、月夜のほうの足が無傷なのは流石と言うべきか。

「こういう場で女同士の絵面というのも、どうなのでしょう?」
 由利菜は危なげないステップで男性側のリードをこなしながら、リディスとくるくる踊る。
『華やかでいいんじゃない? 練習ではよくやるしさ!』
 学園では練習の場に男女同数とは限らず、女性同士のケースが多い。
 当然、由利菜もリディスも男性ステップを覚えている。

「こういう場で男同士っていうのも、変な感じですね!」
「はたから見れば男女ペアだからな? お前がリード側だって理解してるか?」
 まもりも共鳴した女性姿のまま、誠と踊ってやっている。
 お互い社交ダンス? ナニソレ美味しいの? 状態なので、ほぼフォークダンス、下手をすると両手を繋いで『かごめかごめ』のステップになっている。

 あたりでは、ダンス慣れしたアメリカの即席カップルが何組もスカートをひらめかせて踊る。
 そしてそれを、微笑ましげに見守る赤いドレスの愚神。



「さあ! 皆様お待ちかねの! 告白タ~イム! ですわ!」
 一番テンションの高い愚神が、カメラ目線で開始宣言をする。
 基本的に男性側からの告白と言うことになっているが、女性も告白できるということで、男女入り乱れてのくじ引きとなる。

「ま、まさか一番だなんて……緊張します……」
 前に出るのが苦手なみぞれは、早速の蒼白顔。 
 しかし……待っている間、男性から言い寄られる恐怖に怯え続けることを考えると、目を瞑ってでも! 一番に告白したほうがましだ。
「紺野さんっ! お友達になってください……!」
 男性が怖いこともあるが、今日この場で最も尊敬する相手、紺野あずきに友愛の告白をする。
「は、はいっ! あずきとお呼びください……! よろしく……!」
 みぞれの差し出した手をあずきが取り、友情の握手を交わす。

 次は……と一真は手の中の番号を見る。2番。
 あくまでバラエティであり真実である必要はないが……緊張する。
「えっと、これからもよろしくな、月夜……その、相棒として」
『わ、わたしこそよろしく――……なんて、言うと思った?』
 月夜はスタッフから渡された○×のうち、冷たく×のほうを掲げてみせる。
「あら? お二人はいいお仲ですわよね? 相棒では×に決まっておりますわよねぇ? ……ポスター、拝見いたしましたわよ!」
 司会の愚神が余計な――本当に余計なお世話を焼いてくる。そこには、一枚のポスターを貼ったパネルが。
 それは、バレンタインの従魔退治依頼の、ほんの一瞬を切り取った写真が流出したもの。
 海辺で手を取り合い、一真と月夜が見つめ合う。あたかも、甘い雰囲気を醸し出す恋人同士のひととき。
「うわああ! やめてくれ!! それは偶然の一枚!!」
 照れが極限に達した一真は、錯乱して愚神に殴りかかろうとする――ところを、かろうじて月夜が止める。
『(危ない一真! 全米のネタにされるところだった!)』
 カメラの死角には、転倒用のバナナの皮を持ったスタッフがスタンバイしている。そして飢えたハイエナのような目をしてにじり寄ってくる。
 愚神は恋の話題に大喜び。
「まあ、仲良しさんね。貴女も本当は、抱き締めて愛を囁いて欲しかったのですわよね?」
『く……っ……! ネタになってでもあの愚神だけは仕留める! 共存なんて無理!』
 今度は月夜が止められる番だった。バナナの皮を持ったスタッフが増殖し、虎視眈々と最高の瞬間を狙う。
「お待ちなさい! 御屋形様に対する狼藉、家臣たるこの私が許しません!」

――撮影中は、武器はお持ちにならないようお願いします――

 ……との注意を無視して、弥生が小烏丸を抜き放つ。
「Oh! サムライガール!!」
 巫女服に鎧といういでたちで日本刀を抜く弥生は、ディレクターの興味を大いに惹いた。弥生の前にカメラが集まる。
「なんですか貴方がたは……! 私は御屋形様と共に戦い! 御屋形様を守っていきます! 勿論月夜殿も共にです! これからもずっと!」
 ぱちぱちぱち、と愚神が拍手する。
「素晴らしい絆! 何者をも退ける主従愛!」
 愚神にとっては、これも告白としてアリらしい。
「?????? 愚弄は許しませんよ?」
「愚弄などではありませんわ! お三方を讃えていたのです!」
「……そうなのですか! ならばよいのです!」
 ぱあっと笑顔になり、丸め込まれる弥生。しかも件のポスターはどこかに引っ込んだ。
『破壊する……あのポスターだけは、跡形もなく……』
 鬼神の形相でぶつぶつ呟く月夜を宥めつつ、一真は弥生の頭をぽんと撫でる。
「いつも助けてくれてありがとな。本当に感謝してる。これからも月夜と一緒に、よろしくな!」
「はい! 喜んで!」

「リディスは今から1年半くらい前、東京海上支部で倒れているのを私と第一英雄が見つけて……。昔、亡くなった私の同級生にそっくりなんです」
 次の順番になっていたのは、由利菜。リディスへの友愛を告白する。
『あたしも、なんでその同級生とそっくりなのかは知らないけど、話を聞かされたら運命だって思うじゃん?』
 リディスは明るく笑う。
『もうこれは、親友として誓約を結ぶしかないよね! って』
「運命の友愛ですのね! さきほど仰っていた、愚神の残滓とやらは気になさらないの?」
「……当たり前です。リディスは私が責任を持って契約したのです。他がどうであろうと、リディスのことは信じ続けます」
 愚神と英雄。その存在にはまだ謎が多いが、由利菜はリディスだけははっきりと肯定する。


「次はあたいよ! ヘレンを好敵手として認めるわ!」
『なんでちょっと偉そうなの……』
 胸を張ってお相手を指名するチルルと、脇でハラハラするスネグラチカ。
 チルルとヘレンは互いの健闘を讃えあい、親愛のハイタッチ。


『どうやったら、オレは愛を手にすることができるのでしょう……?』
 順番カードを手にしながら、疑問系で司会に話しかけるなつき。
「愛とは求めるものではなく、与えるものではなくて? 身近な方に愛情を向けてみては?」
 そして意外とまともな受け答えをする愚神。
『そっか……。まもちゃん? 家族の形って色々……あるよね……?』
 妙に意味深な視線をして、能力者で家族のまもりに迫る英雄。まもりは冷や汗をかきながらあとずさる。
「なつきさんの冗談がきついんですけど?!」
 まもりは女顔で自分が一番美人だとは思っているが、男が好きなわけではない。勿論なつきも、それを踏まえての冗談だ。
 要は、これからもよろしく、ということ。


 一般では諸々のカップルが成立し、最後の番号を引いたのはコール。
「私は、貴女に友愛を。個性的な愚神さん」
 黄色の薔薇を一輪差し出す。花言葉は、友情。
 愚神は少し驚き、そのあと微笑みを浮かべて薔薇を受け取る。
「まあ、とても嬉しいわ。あたくしまでこんなプレゼントを戴いてもいいのかしら?」
 スタイリストのコールとアッシェグルートは、番組の合間にコーディネートの話題で仲良く盛り上がっていた。
 特徴を隠す赤だけではなく、活かす白なんかもどうかしら? などと。



「さあ、新たな愛を得た方にも、そうでない方にも祝福を!」
 愚神とスタッフが花弁の籠を持ち、出演者にフラワーシャワーを降らせる。

 桜とミルノは、なにごともなくて心底ほっとしていた。
 それでもなつきと仲良くなったり、みぞれ、あずきと演奏したりと親交は深まった。
 まもりと誠は、行きつけのラーメン屋に一緒に行く為に連絡先の交換をする。

 須久那/久科は能力者の付き添いで来たが、絡繰の双生児は映像映えするのでカップリングとは別にそれなりに撮影されていた。
『僕達? あんまり他人に興味は……あぁ僕達は二人で一人、意思や感情も繋がってるからね』
『サスガニ、ナルシストニハナラナイ……』


 花弁の雨の中、リディスの中では蠢くものがある。
――わらわが表に出る良い機会と思ったのだけれど。やはり阻むか、パラスケヴィ。
 パラスケヴィと呼ばれた人格は、『それ』をあくまで押さえ込む。
――今この世界にあるべきは『ウィリディス』としての私達なのですから……。


 愚神に善性はありうるのか?
 その答えは、闇の中。


 ただ――いまはまだ――この平和の中で微睡んで。






結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 花の守護者
    ウィリディスaa0873hero002
    英雄|18才|女性|バト
  • しあわせの白
    みぞれaa1556
    人間|14才|女性|回避
  • 愚神の監視者
    コールaa1556hero001
    英雄|20才|男性|ジャ
  • 御屋形様
    沖 一真aa3591
    人間|17才|男性|命中
  • 凪に映る光
    月夜aa3591hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 全米お茶の間デビュー
    紺野 あずきaa3833
    人間|18才|女性|防御
  • 失恋男
    シミズaa3833hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
  • 薄紅色の想いを携え
    藤岡 桜aa4608
    人間|13才|女性|生命
  • あなたと結ぶ未来を願う
    ミルノaa4608hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • 護りの巫女
    三木 弥生aa4687
    人間|16才|女性|生命
  • 愚神の監視者
    両面宿儺 スクナ/クシナaa4687hero002
    英雄|36才|?|ジャ
  • さいきょーガール
    雪室 チルルaa5177
    人間|12才|女性|攻撃
  • 冬になれ!
    スネグラチカaa5177hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 二月なので海に行った
    神塚 まもりaa5534
    人間|21才|男性|回避
  • 二月なので海に行った
    高森 なつきaa5534hero001
    英雄|18才|男性|カオ
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