本部
英雄たちは斧を持ち
掲示板
-
相談卓
最終発言2015/09/21 23:48:19 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2015/09/17 22:59:23
オープニング
●斧で伐るだけの簡単なお仕事です
「うーん、そう。ちょっと木とか草を伐るだけ」
HOPE本部の一室に職員さんに連れられて現れたのは強めのくせ毛で分厚い眼鏡をかけた背の低い男だった。丈の短い白衣のようなものを羽織っている。
「こちらはジョン・スミスさんです。家庭菜園の片手間にAGWの研究をされています」
「えっ、それって逆じゃない!?」
どこか冷え冷えとした声音の女性職員の言葉に、男はへらへらと笑う。その瞬間、室内温度が五度は下がった……気がした。
「えーっとね、君たちに頼みたいのはね。秋野菜の収穫なんだ」
ぎょっとする一同に気付かないように、男はがさごそと白衣のポケットを探ると、十センチほどのマテリアルメモリーカードを取り出す。
「ナス、トマト、ゴーヤーにオクラ……あとリーフレタスだったかな? 無事やり遂げてくれたら、お礼に美味しい秋野菜の収穫祭カレーをご馳走するから」
「────成功したら、家財道具を売り払ってでも報酬を支払って頂きます」
更に一段と冷たさを増した女性職員の声に、ジョンは「えー、そんなあ」などと暢気に返す。そして、今度は角の剥げたアタッシュケースから小型のリーダーを取り出し、Mメモリーカードを差し込む。ゴトリ、光と共に目の前にそれが現れた。
「ひーふーみーよ……ん、人数分あるね。収穫に際して希望があればお貸しするよ」
差し出されたのは、ファンタジーゲームなどでたまに見かけるいかつい斧────そう、バトルアックスなどと呼ばれる戦斧だった。唖然とする一同の前で女性職員が額を軽く押さえる。その横でジョンはへらへらと笑いながら軽く言った。
「これで、ちょっと伐ってきてよ」
●秋野菜は疲れを癒す!
ジョン・スミスの畑はちょっと目も当てられない状態になっていた。呆然とする一同を尻目に、彼は再びへらへらと笑う。いや、頬に伝う汗は残暑の暑さのせいか。
「──じゃあ、後は任せていいかなー?」
言いながら、彼は一人、古いワゴン車の運転席に引きこもってクーラーをつけた。鍵もかけた。一同は畑を見る。確かに、女性職員から聞いた通り、とんでもない状況だった。
一同が佇む小高い丘の下に、ちょっとしたグラウンド一個分の畑が広がっていた。その畑の真ん中に……十メートルほどの植物の塊がうねうねと踊っていた。
『あれは……ナスかなあ……? この間見た時よりだいぶ育ってるなぁ────』
車のガラスの向こうから、くぐもったジョンの声が聞こえる。
『あっ、忘れてた。かぼちゃも確かあったはず』
そんなのどうでもいいわ、と、あの女性職員なら言っただろう。
『そうそう、僕の斧は斬るだけしかできないけど、AGWだから、ライヴスの影響のある秋野菜もばっちり刈り取れると思うよ』
彼が研究していたAGWの機械────ライヴス増幅装置の暴走で変質した植物たち。ゴーヤーはまるで巨大なモーニングスターのように地面を突き刺し、続くナスがドカンドカンと地ならしを行う────ジョン・スミスの畑は竜の如くのた打ち回る秋野菜たちによって、ほとんどドロップポイントと化していた。
解説
●目標
にょきにょきと密集して絶えず伸び続ける秋野菜の間を掻い潜り、またはそれを伐り倒し、中心にあるライヴス増幅装置を破壊せよ!
ただし、野菜たちはまるで意思を持っているかのように侵入者へと襲い掛かる!
意思は無いはずなのに、なぜか的確な攻撃。
ナス、トマト、かぼちゃ、きゅうり、とうもろこしは通常の五倍~十倍サイズ。
時々、ゴーヤーのモーニングスターが振り子の原理を利用して襲い掛かります。ライヴスを纏っているので英雄もダメージを受けるため、注意が必要です。
それぞれ突入するのも良し、英雄や仲間とタッグを組んだ同時攻撃もいいかもしれません。
空中、地中からの突入も可能ですが、地中にいるミミズなどがライヴス増幅装置の影響を受けている可能性は非常に高いです。
●登場
AGWの研究者:ジョン・スミス。趣味でちょっと広めの家庭菜園をしている。できれば秋野菜を収穫したい。秋の収穫祭カレー、楽しみだよね?
ライヴス増幅装置:ジョン・スミス氏の試作品。ライヴスの活性化を目的とした装置だった。
秋野菜:生きのいい秋野菜。ライヴス増幅装置によるライヴスの影響で以上に巨大化し、近付く者を1度に二本のツタで攻撃までする。従魔のように亜異世界化はしていないため通常の道具も効くが、AGWの武器は特に効果が高い。装置自体の影響で、炎や薬品は効かない。
ジョン・スミスの斧:収穫に際し、貸し出される斧。見た目はバトルアックス。ライヴスの影響を得たAGWの斧。AGWの効果があるだけの切れ味はそこそこの斧。
ミミズ:ライヴス増幅装置の力で巨大化している。強い。薬品や炎に耐性があるのは夏野菜と同じ。
リプレイ
●準備万端、さあ、収穫へ!
ワゴン車の中に篭ったジョン・スミスに一旦見切りをつけて、眞薙 愁一朗(aa0160)はH.O.P.E.から集まった仲間たちを見回した。それぞれが英雄らしきパートナーを伴っているところから能力者だと判る……わかるが。
「……年下ばっかりじゃねぇか」
思わずぼそりと呟いた声は、隣にいる彼の相棒以外には聞こえない。これは自分が面倒見るしかないな。なんとはなしにそう決意すると、声に出したわけでもないのに忍び笑いが聞こえた気がして思わず視線を逸らした。
さて、無責任なこの科学者に一応物騒な野菜の配置を確かめておかねば。
愁一朗の言葉に、一同は揃って車内のジョンを見る。彼は宙を睨みながら答えた。
「ええっと、手前にはナスを植えた……」
確かにナスは一番手前でドカドカ地ならしをしている。
「トマトときゅうりは奥に」
風を切って飛んで行った赤と緑の何かのことか。
「野菜採取なのに斧が必要とは! 腕がなるのである!」
常識外れの惨状を目の当たりにして、尊大な口調で勇ましく準備運動を始めたのは泉興京 桜子(aa0936)である。言動とは裏腹に、外見はどうみても小学生低学年ほどの幼い少女だが、凛としたその姿勢はいっそ涼やかで美しい。彼女は早速英雄とリンクすると、事前に借りたジョン・スミスの斧で素振りを始めた。
「家庭菜園でお野菜が大きく育つと嬉しいけど、これは育ちすぎ……。周囲にも迷惑かけそうだし全部刈っちゃわないとね。で、美味しい野菜料理が食べられたら、なお良し」
桜子を微笑ましく見守りながらそう口を開いたのは、ゆるく波打つ長い黒髪を薔薇の髪飾りで二つに結った女性、北条 ゆら(aa0651)である。彼女の雰囲気に似合わない、その背にあるものに一同ははっとする。
「──ふむ、籠か」
「伐った野菜、そのまま放置できねぇしな」
「確かに必要だよな。ジョンさんよ、俺らにも貸してくれねぇか。そんでさっさとおっぱじめよう」
中学生くらいの少年、雪ノ下・正太郎(aa0297)が口を開いた。先程までの少年姿から、すでに英雄と共鳴して歌舞伎役者に似たヒーローらしい姿へと変化している。
ジョンは一瞬黙った後、「ああ、籠ね、籠」とワゴン車の近くの作業小屋前に積み上げられた籠の山を指す。なんとか人数分はあるようだった。
「えーと。ジョン=ドゥさん。ありがとうございますっ! お借りしていきますね」
細身の丸型フレームの眼鏡が似合う若い女性──エルミナ・アルキメディア(aa0377)がにっこりと笑った。その笑顔が何か言いたげでどこか怖く見えたのはきっと気のせいだ。ジョンも何か感じたらしく、そっと身を屈めて目より上だけが見える状態で「いってらっしゃい」と小さく手を振った。
「これが初仕事、頑張るぜ」
颯爽と飛び出した正太郎。かくしてリンカーたちは籠を背負い斧を掲げ、暴れ狂う秋野菜たちへと勇敢に向かって行ったのだった。
●秋野菜の収穫は骨が折れる
畑の真ん中で彼らを迎え撃つ、のたうつ邪悪。それはさながらヒドラを思わせる秋野菜たちだった。
事前に遊撃隊と突撃隊を決めていた一同は二手に別れる。
「簡単な仕事って事だから僕でも大丈夫ですよね。うん…がんばろう」
ヒドラを見上げて、未だリンクしていなかった三ッ也 槻右(aa1163)は固い声で呟いた。すると、突然伸びてきた指先がその彼の頬をむにっと摘む。
「大丈夫、何とかなりますっ! 終わったらみんなでカレーパーティですよっ」
顎下までの長い髪を揺らして驚いて後退ると、微かに見上げた目線の先に既にリンクしたエルミナの笑顔があった。
「ぶっちゃけ私は自分の英雄と一緒になって戦う方が、こんな野菜よりも怖いですよう……なんですかあの筋肉マッチョ……って、自爆してる場合じゃないですね。肩に力を入れ過ぎないように頑張りますよー」
「……ありがとう、エルミナさん」
微かに笑った槻右はすぐに表情を引き締めて、彼のパートナーとリンクする。アイアンパンクである事を示す一筆書きのようなシンプルな白い脚が黒い袴に隠れ、耳と尻尾が現れた。
「三ッ也殿とあるきめでぃあ殿、ご一緒であるゆえよしなに頼むのである!」
桜子の声に槻右とエルミナも微かな笑顔を浮かべて頷き合い、突撃隊は斧を構えて駆け出した。
愁一朗が地響きを立てながら地ならしをするナスを叩き斬る。ひとつ、ふたつ、みっつ……ここの秋野菜は実りがいい。
「……っ!」
突然現れた丸太のようなきゅうりに襲われ、それを叩き斬ったのは艶やかな歌舞伎姿のヒーローだった。
(きゅうりは奥っつっただろうが、あの野郎……)
続けてとうもろこしが襲いかかる。何故か噴出された熟した子房が正太郎と愁一朗を襲う。
「そんなもん当てたら、いてえだろう!」
思わず、ぼやいた正太郎の頬を掠めたとうもろこしの剛速球が地面にめり込む。
「待てよ、きゅうりがあるってことは……」
背後に膨らむ殺気に、愁一朗は振り返り様に獲物の重さ生かした一撃を繰り出す。
「……トマトに殴られたのは初めてだ」
「……明日からは、もう然う然うねえだろー……」
潰れたトマトの果汁で真っ赤に染まった二人は憮然と呟き合った。採れたてのトマトは甘く濃厚な味がした。
そんな二人を遠目に見ながら黙々と野菜の収穫に励むゆら。突撃隊の様子に気を配りながらも、小柄な身体を生かして次々と襲い掛かってくる野菜たちの攻撃を避ける。そして、最凶の敵であったはずのゴーヤーに辿りつく。他よりも大きいそのゴーヤーの激しい一撃をひらりと避け、ガツっとそのゴツゴツとした表皮に斧をめり込ませ、あろうことかその上へと登って行った。まるで彼女を振り落とさんとばかりに揺れ動くゴーヤー。その振り子の動きを生かして、ゆらは次から次へと他の野菜のヘタを斧で器用に斬りつける。ヘタから切り落とされた野菜はもう攻撃することもなく大人しく地面へめり込んでゆく。
意外だったのは、かぼちゃだ。ゆらは、あの硬い皮を武器にどんなえげつない攻撃が来るだろうかと身構えていたのだが、実際、かぼちゃは重くて攻撃してくることはなかった。ただの演台である。なので、大した苦労もすることはなく彼女はあっさりと巨大かぼちゃのへたを切り、器用に硬いはずのそれを切り分けた。後で食べやすいように種を取り除いくことも忘れない。
「収穫する時に食べる時のことも考えないと、このサイズじゃ後で大変だぞ」
飛んできた真っ二つに切れたきゅうりを縦に切り分け小さくし、次から次へと籠に放り込む彼女はどこか楽しそうだった。
混沌とした野菜の森へ一足先に足を踏み入れたのはエルミナだった。襲い掛かる野菜を全て受け流して先へと進む。
「うわ……鬱蒼としていて……、って言うか……いろいろでかいですね」
続く槻右はその素早さでひらりと野菜たちの攻撃をかわして切りつけ、動かなくなったそれらを籠に詰める。しかし。野菜の重みで機動が落ちたところを狙い、彼の頭へ振り下ろされたものがある。ゴーヤーだ。通常比三倍ほどのまだ若いゴーヤーは他の巨大化した野菜よりは小さかったが、柔らかいはずの緑の外皮はまるでモーニングスターのように凶悪に光っていた。
「この畑の野菜は皆いきがいい! あっぱれである! だがその程度ではわしは止められぬぞ!!」
斧を振るいながらも周囲に目を配っていた桜子が彼女のあばらを狙った通常比五倍ほどのトマトの一撃を掻い潜って、槻右を突き飛ばし、彼を狙ったゴーヤーに向けて斧を伸ばす──ガツンッ、斧の側面をラケットのように全身のバネを使って弾き返す。桜子の背後で倒れた槻右の籠が中身ごと転がっていく。
「ありがとうございます!」
「戻ってくるぞ!」
「槻右さん!」
エルミナの悲鳴が上がる。だが、即座に刃を前に構えなおした桜子の斧が、飛び込んで来たゴーヤーを切り裂く。
「協力して行動するのである! エルミナ殿!」
我に返ったエルミナが緑の蔦を掻き分ける。ブンブンと異常な音を立てるそれはエルミナの手によってすぐに見つかった。
「私的には騒ぎを起こして責任を取らないチャラ男はNOT Justice! 研究成果を潰さないと気がすみません!」
ジョンから借りた斧が、エルミナの手の中で鈍く光った気がした。
「よしっ、エルミナ殿! どかーんである!」
「あっ!」
エルミナが掻き分けた蔦の山がもぞりと動いたのを槻右は見た。即座に彼の俊足が動く。
「あなたの相手は私です!」
物理火力特化型のドレッドノートの一撃が頭をもたげたばかりのミミズの腹に食い込む。次の瞬間、エルミナの斧も装置に叩きつけられた。
「!?」
もぐら叩きのハンマーよろしく、しつこく打ち下ろされてくるナスの巨体と戦っていた愁一朗、正太郎、ゆら。しかし、突然重力の概念を思い出したかのように野菜たちの巨体が落ちてきた。三人は驚き、後ろに下がる。見ればヒドラのようにうねっていた野菜の茎も力をなくしてふにゃふにゃと倒れて来る。
「ゆら、正太郎、下がれ!」
全速力で駆ける三人。大木のようなとうもろこしを避けたところで、倒壊は止んだ。否、中心部から放射状に全て倒れ尽くした。
「おっ、あれは……」
見通しの良くなった畑の真ん中、茎やら蔦やらの残骸越しに石のように固まったミミズらしきぬめった巨体と槻右たちが見える。
「ミミズは切り離されても数分間は動いている場合があるんだ!」
ゆらの言葉が終わらないうちに、弾かれたように正太郎と愁一朗が駆け出す。ゆらはサモングリモワールを開く。
一拍置いた後、釣り上げられた直後の魚のようにぐねぐねと動き始めたミミズの巨体から一行は辛うじて距離を取ることに成功した。
●ささやかで巨大な収穫祭
「いやー、ごくろうさま」
完全に動かなくなったミミズの死骸を前に、一同は誰ともなしに大きく息をつく。そんな彼らの前に笑顔を浮かべたジョンが颯爽と現れた。思わず五十センチほどのゴーヤーを構えるエルミナ、反射的にそれを止める一同。そんなやりとりなどどこ吹く風で、ジョンはドヤ顔でMメモリーカードとリーダーを取り出した。
「ふっふっふ。いやあ、籠まで背負ってご苦労さまだったね。しかし、今、ここにバーベキューコンロセットの入ったマテリアルメモリーカードがある。そして、リーダーで読み出せば、あら不思議! なあんと現場でバーベキューが……」
大きくため息を吐いたゆらが籠を背負い直して立ち上がった。他の皆もそれに倣い、ワゴン車が停まる小高い丘に向かって歩き出した。
「あれ……?」
不思議そうな表情を浮かべたジョンに、呆れた顔をした正太郎が口を開く。
「ジョンさんがここで食事する気になるってえなら止めやしませんがね、俺たちは無理でさあ」
巨大ミミズの剛毛の生えた死骸が転がり、体液に濡れたそこは見た目も臭いもただただ惨状としか言いようがなく──正太郎はもう一度籠をしっかりと背負うとゆらたちの後を追う。ジョンも慌ててその後を追った。
詫びのつもりか風呂まで貸してくれたジョンのもてなしで、一同は彼の庭に案内された。こじゃれた感じのイングリッシュガーデンでカレー作りが始まる。最初は怪しむような目で調理をするジョンの様子を見ていた愁一朗と槻右だったが、意外と彼のカレー作りは手馴れたものだった。
「……あれ、チョコレートのにおいがする」
槻右を見てぽそっと呟いたジョンはぽんと手を打つ。
「そうだ、隠し味に昨日開発したチョコレート製造機を使っ」
「余計なことはしなくていいです」
少し離れていたはずのエルミナに一刀両断されて、ジョンはぶつぶつ言いながらカレー鍋をかき回した。
「こっちはもういい感じであるぞ!」
桜子の元気の良い声が響く。
「エルミナ、お皿はこれなの?」
首を傾げてポン酢としょうゆとすりおろしたしょうが、かつおぶしを用意したゆらが問う。
「また汗かいちまって、どうしようもねーや」
意味無く足に見立てて四本の木の棒を刺した巨大ナスの丸焼きが、首にかけたタオルで汗をぬぐう正太郎の前では行われていた。
「あっ! サラダもいりますよね」
エルミナの言葉にゆらも畑に引き続き、庭の片隅に積まれた巨大野菜を処理し始めた。ふと、何か思い付いて切っていたきゅうりを食むゆら。
「味は普通か……」
用意が一通り終わると、一同は庭に置かれた大きな木のテーブルに座って意外に美味しいカレーを頬張った。
「空腹は最高のスパイスと言うが……これまでの苦労が報われるようであるな」
幸せそうにカレースプーンを小さな口に一生懸命に運ぶ桜子を、これまた幸せそうに見ているゆら。その隣にたまたま座ろうとした槻右は、さりげなくゆらの相棒に席をずられた。それを向かい側でぼんやり見ながら、愁一朗も自分の相棒と恒例の晩酌を始めた。エルミナは一人ひとりにサラダをきちんと取り分けてからカレーを口に運び、「美味しいです」とにっこり笑った。
「あれ、君、もしかして、誕生日来たばかりなの? じゃあ、お祝いにもっと飲みなよ」
調理を終えたジョンが寄って来てビールサーバのコックを捻った。
「あれ……ビール……」
なぜかビール樽はすでに空だった。楽しげにジョッキを口に運ぶゆらと愁一朗たち、そして、真新しいグラスを手にした槻右を見て、ジョンは何度も首を捻って冷蔵庫へ追加のビールを取りに行った。
カレーを味わいながら、成人組の酒盛りを見ていた正太郎は何も言わずにカレーをお代わりした。槻右は絞りたての野菜ジュースをグラスに注ぐと、再び美味しそうにカレーを食べ始めた。
採れたての秋野菜を味わいながら、どこまでも気持ちの良い秋晴れの空の下で、小さな収穫祭は続く──。