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【愚神共宴】連動シナリオ

【共宴】ニア・エートゥスからの『取引』

岩岡志摩

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2018/04/06 10:11

掲示板

オープニング

●悪性の活動
 何世代にもわたり盛衰を繰り返す人の営みを見続けてきた密林の中に、複数の人影があった。
 ただしよく見れば、着衣は周囲の部族民のものであっても、その奥に金銀の意匠が見えただろう。
 その人物は高音多湿の気候の中、汗1つ浮かべず、小さくたたんだ紙の束に鉛筆を走らせていた。
「こちらはほぼ想定内……と」
 一通りの記載が終わったのだろう。紙を背後に控えていた配下達に渡していく。
「どこでこういった類のものを手に入れているんです?」
 その存在の傍らにいた愚神ズセ(az0077)が、その存在――愚神ニア・エートゥス(az0075)に問いかける。
「近くにある街に行って、現地で使われている人間の金で買ったものです。その金も私が人間達の定める法律という縛りの中で稼いで得た報酬ですから、ばれることはありませんよ」
 ニアはそう言いながら近くの都市で購入した地図を広げ、様々な色の鉛筆で地図の各所に何かを記載していくが、この環境では鉛筆のほうが使い勝手が良いらしい。
 H.O.P.E.から悪性愚神とみなされ必要ならば収奪対象の人間に仕える真似もできるこの愚神は、人間文化の優れた部分があれば積極的に取り込んで使用し、プリセンサーにも探知されずに人の中に紛れることに長けているので、どこにでも現れそうな災厄とも言えた。
 一通り作業を終えたニア達は木々の作り出す闇の中へと消えていく。
 そしてH.O.P.E.がニアの動向を察知できたのは、ニア本人からの密告によるものだった。

●監察の誘い
 H.O.P.E.にあるブリーフィングルームでは、ジョセフ・イトウ(az0028)が機器を操作しニアからの密告内容を説明していた。
「愚神十三騎のニア・エートゥスから、少し話し合いをしたいという密告が届いた」
 最近判明した愚神十三騎という存在達。『王』に選ばれた、特殊な愚神十三体の呼称だが、ニアはこの中で悪性愚神という人間達と敵対する側の分類に入る。
「敵という認識で問題ないよ。ただ、ニアの提示してきた内容にはかなり問題があるけどね」
 ニアからの密告によると、別命があるまで手を出すなと情報部から厳命があったにも関わらず、H.O.P.E.所属の一部リンカー達がニアや配下のパラダイス・メーカーズ(楽園の作り手達、以下PMと略)に襲いかかり、ニア達はこれを壊滅させた。
 まずいことに、そのリンカー達はニア達がいた場所周囲に存在する警察や軍隊、消防組織、国境警備隊などH.O.P.E.以外の人間達の属する組織に、H.O.P.E.の名を使って片っ端から動員をかけてニア達を包囲する真似を行い、ニアが周囲に潜ませていたPMの手勢にそのリンカー達が動員した人々は撃破・捕獲され、現在PMの管理下におかれている状況とのことだ。
 ジョセフが手元にある記憶媒体を再生させると、ニアらしい存在の声が部屋に再生される。
『彼らを解放してほしければ、引き取りに来る人間達、そうですね。人間と英雄合わせて16人以下のみこちらに寄越して下さい。それ以外の別働隊など、他の人間達も連れてきた場合、今捕らえている人達やその別働隊の無事は保証しません』
 物腰は丁重だったが、下手な動員などせずに『あなたたち』だけで来いと、ニアは告げていた。
 ニアに言われるまでもなく、最初に捕まったリンカー達の愚行のせいで、警察や軍隊などは『そちらの不始末の解決と、今の状況が改善されない限りこれ以上犠牲を出すわけにはいかない』とH.O.P.E.の要請には応じられない姿勢を崩していない。
『ただ、お引き取り願うだけでは貴方がたの面目とやらも立たないでしょうから、私からも少し報酬を用意しましょう』
 ニアが提示した報酬は『敵対行為やそれに類する行動を行わない限り』という条件つきながら解放交渉を行う店での飲食と、幾ばくかの情報提供だった。

●報酬と代償
「ニアが提供すると言っている情報の1部だけど、過去に起きた犯罪の証拠になるものだとか」
 ジョセフの説明では、【森蝕】事件で暴れていた『フレイ』ことアセビや『フレイヤ』ことオルリアとその家族に、過去集団暴行を加えて殺そうとした人間達の情報も含まれるらしい。
 加害者達はその後各所に分散し、その先でフレイ・フレイヤ達の襲撃を受けた模様だ。
「既にフレイヤ達には情報を提供していたから、それで加害者達の移り住んだ各集落が襲撃されたかもしれない、とニアは言っていた」
 かもしれない、ではなく明らかにそうとしか思えない。
 ニアの話が正しければ、『ラグナロク』にニアも少なからず関わっていたことになる。
「ニアのところにある証拠と合わせ然るべき機関に証拠を提出すれば、アセビやオルリアを殺そうとした人々を裁判にかけることもできる。ただ被害者は全員死んでるし、加害者も生き残っているか微妙だから、判断は任せるよ」
 そのほかニアが提供できる情報としては、自身に関する事と『貴方がたが知りたがっている情報の一部』ということだった。
「みんなに頼みたいことは2つ。1つ目は馬鹿な真似をして捕まった同僚たちと、巻き込まれた人々の救出。2つ目はニアからできる限り情報を引き出して手がかりを入手する事だ。もちろん、これ以上の被害拡大を防ぐことも念頭に置いてほしい」
 今回はトリブヌス級愚神やその手勢が人質を確保している状況で、戦闘行為無しで任務を達成させるという難しい条件の為、報酬が高く設定されている。
 ニア・エートゥスという『悪性愚神』から人々を取り戻し、情報を引き出せるかは『あなたたち』にかかっている。

解説

●目標
 ニア・エートゥスやPMに捕まった人々の救出
 ニア・エートゥスから情報を可能な限り引き出す
 これ以上の被害拡大の防止
 
 失敗条件
 店内外での戦闘行為およびそれに類する行動をとる
 人質となった人々を1人でも死なせてしまう
 H.O.P.E.別働隊や警察・消防・救急隊などを動員し現場に集める

 登場
 ニア・エートゥス
 トリブヌス級愚神。ヘイシズの話では愚神十三騎の中では悪性側で、『監察』(ケンソル)の二つ名がある。今回交渉の場となる店では、ソフトドリンクの他ドラゴン型従魔に変じて倒された元牛肉らしき肉を提供する模様。
 
 ズセ
 ケントゥリオ級愚神。愚神集団『パラダイス・メーカーズ』所属の女愚神。店の入口にいる。

 ラビス
 カオティックブレイドの邪英。下記地下室に繋がる部屋にいる。ニアの意志を尊重。

 ムンギア×多数
 ミーレス級従魔。略称『影忍』。手裏剣と刀を持ち『毒刃』『潜伏』『地不知』に近い能力を持つ。店の建物内外に潜み、一部は捕らえた人々の監視につき、残りは人の出入りを塞ぐ包囲網を形成中。

 捕まった人々×複数
 功を焦ったリンカー達と、リンカー達に動員されて捕まった人々。その後大部分は解放されたらしいが、一部は現在店の地下室に監禁されている。リンカー達の素性はシナリオ『凍てついた心は混沌を秘める』を参照。

 状況
 とある国の地方にある中規模の飲食店。平屋建て。開店休業状態だった店をニア達が強襲して占拠したらしく、店の人々は何故か全員解放され店にはいない。周囲は無人。
 店内への入口は現在ズセのいる場所の1つを除いては、全てムンギア達が密かに封鎖している。
 使用可能物品は装備・携帯品のみ。無線貸与済み。

リプレイ

●交渉開始
 その街で過去に行われた都市計画開発の名残とも言える大きな通りを、エージェント達を乗せた大型バスが進む。
 大宮 朝霞(aa0476)とニクノイーサ(aa0476hero001)がH.O.P.E.に手配を依頼し、今は朝霞とニクノイーサが交代で運転していた。
「ニアに戦意がない事を示すためにも、私達は共鳴しないでおこう」
「いいだろう。だがいつでも共鳴できるように準備はしておけよ。その場合、もちろん変身ポーズは省略だ」
「え~……」
 己の理想を具現化させた『聖霊紫帝闘士(せいれいしていとうし)ウラワンダー』の変身ポーズは封印とニクノイーサに釘を刺され、朝霞は不満げな声を上げる。
「しかしまた何でこんな回りくどいことをするんだろうね?」
「人質を開放するだけで解決するのに、呼ぶだけの理由があったとか?」
 雪室 チルル(aa5177)とスネグラチカ(aa5177hero001)は、ニア・エートゥス(az0075)達の意図を量りかねていた。
「どちらにしても切った張ったはご法度なのは間違いないわね」
 チルルの言う通り、戦闘行為があれば人質達の命は保証しないとニアから警告されている。
「まずは人質の救助と、出来れば情報をってところかな」
 スネグラチカはそう言って当面の方針を定める一方、H.O.P.E.にニアのいる店周囲にH.O.P.E.の別働隊を派遣しない様要請する。
「相手に勘違いされないように、ということよね」
「功を焦った人達がまだいないとも限らないし」
 チルルとスネグラチカがそう話す中、そのリンカー達に思うところがあるエージェント達もいた。
「H.O.P.E.のリンカーの方々が……早まったことを」
「しかも、手を挙げた先がニア・エートゥスとはな……」
 月鏡 由利菜(aa0873)とリーヴスラシル(aa0873hero001)は、同僚であるリンカー達の先走った行動に呆れを隠せない。
 ニアはトリブヌス級愚神という脅威であり、簡単に倒せる相手ではない。
「……私は、ヘイシズ達善性愚神とやらは信用していない。奴等の方が敵同士と分かっている分まだ気が楽だな」
 ――倒す事は変わらんが。
(やはり……ラシルの愚神への憎しみは、そう簡単には消えない……)
 リーヴスラシルの呟きを聞いた由利菜は、リーヴスラシルの愚神への憎悪の根深さを垣間見た気になり、言葉を飲み込む。
「万引きをした生徒を引き取りに行く教師のような気分……かな?」
 志賀谷 京子(aa0150)の口にした内容は、言い得て妙だった。
「否定はしませんが……」
 アリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)も、今回捕まっているリンカー達を弁護する気にはなれない。
「捕虜解放に加えお土産までつけてくれるというのですから、意図に疑念はありますね」
「今までは密告で情報を送りつけて来ていた相手だよね。よほど繊細な情報を渡すつもりか、こちらの反応をみたいのかってところ?」
 アリッサと京子の言う通り、今回のニアの行動は今までと少し異なっていたので、京子の口にした内容の可能性は低くない。
(……何故あの3人は『H.O.P.E.以外の人間達』の属する組織に、『H.O.P.E.の名』を使って襲撃を手伝わせたのでしょうか……)
 Гарсия-К-Вампир(aa4706)は、捕まった3人のやり方を内心疑問に思っていた。
「リンカー以外の人間が愚神に対し何の抵抗力も持たないのは周知の事実ですよね。彼らが戦う必要もないのにわざわざ圧力をかける必要があったのでしょうか?」
 Гарсияの内心の疑念をЛетти-Ветер(aa4706hero001)も同様に考えていたのか、そう口にして3人の行動の必要性に疑問を呈する。
 ГарсияやЛеттиは知らなかったが、過去にある愚神の国外逃亡を阻止するため、沿岸警備隊や巡視艇派遣を依頼したり、空港職員達を徴用し逃げる愚神の前へと並べようとするなど、今回の一件に似た事例はあった。
 ただ今回の場合、間違いなく悪手と言える。
「何か無茶な事要求されたらどうしよう……み、身代金とか……!」
「いやーお金も欲しそうに見えないよね。殺す方が余程簡単だったろうに。なんでかな?」
 玖渚 湊(aa3000)の危惧を、ノイル(aa3000hero001)は『それはない』とやんわり否定しながら、ニアの意図が掴めずにいた。
 ニアは戦闘よりも交渉に強い愚神というのがノイルの見解だった。これまでの経緯から善性愚神を名乗る可能性もあったが、ニアは悪性に留まっている。
「ニア・エートゥス……か」
 笹山平介(aa0342)はこれまでにニアが関与していたとされる各事件の報告書の写しを読み、そう呟く。
 平介はニアが意図はどうあれ孤児達の命を救ったことに、名状しがたいものを感じていた。
 隣にいたゼム ロバート(aa0342hero002)は、平介の常ならぬ様子を見抜いていた。
「俺が言えるのは、ニアは敵だ。『敵とはより親しくせよ』なんて言葉もあるようだが、俺はそうするつもりはない」
 ノイルが口にしたのは、人間が敵と交渉する時の心構えの1つだったが、平介に押し付けるつもりもない。
「……初めて会った時は、ニアとこんな風にお話するなんて思わなかったよね」
「えぇ。ですが、油断ならない相手だということは変わりません。以前も、今も」
 御代 つくし(aa0657)とメグル(aa0657hero001)は、ニアという愚神との付き合いは長く、感慨深さもある一方で警戒は緩めていない。
「ニアは愚神にしては話は通じます。ですが、隣人にするには危険すぎます」
「うん、それはわかってるよ」
 メグルの言葉につくしもそう応じて頷く。
 やがて朝霞の運転する大型バスは閑散とした商店街の一画にある、指定された店の前に到着した。
 バスよりエージェント達が次々と降り立ち、チルルやスネグラチカが先行する。
 全員の降車を確認した朝霞が最後に降りると、店の入口にいる愚神ズセ(az0077)に挨拶する。
「こんにちは!」
「能天気だな」
「今日は戦いに来たんじゃないもの。挨拶くらいするわよ」
 朝霞とニクノイーサがそう言い合う中、朝霞の挨拶を受けたズセは店の扉を開け、エージェント達を中へ案内する。
 そしてエージェント達は、今回の事態を引き起こしたトリブヌス級愚神ニア・エートゥスとの『交渉』を始めた。

●解放と会食
 程よく焼かれたステーキを皿に盛りつけていくニアに向け、まず朝霞と由利菜が人質解放を要求する。
「貴方の要求通り、私達に戦闘を仕掛けるつもりはないわ。約束通り人質を返してください」
「……ニア・エートゥス。H.O.P.E.のリンカーと、捕らえた人々を解放しなさい」
 リーヴスラシルも由利菜の要求を援護する。
「其方とてユリナの能力は知っているはずだ……無闇に戦力を浪費したくはあるまい」
 3人からの要望にニアはあっさり『承知しました』と述べ、隣の部屋にいる邪英ラビスへ連絡する。
 ラビスがニアの指示を受け、地下室への扉と地下室の鍵を開けると部屋から退くと、それを解放の合図と判断したエージェント達は交代で地下室へと入っていく。
「まずは人質の確認をさせてもらうよ。怪我人がいる場合は治療等をする必要があるしね」
「土壇場での抵抗をしないように念押しも必要だよね」
 チルルとスネグラチカがそう言って飛び込み、人質にされた人達を運び出していく中、つくしはニアにリンカーが暴れた際、抑え込む為の戦闘行為の許可を願い出た。
「今地下室にいるリンカー達が暴れたら、私達も共鳴して抑え込まなきゃいけない。そしたら話をするどころじゃなくなると思うから、出来れば初めからリンカーの傍に居れたらなって。見張りをつけてもらってもいいから」
 つくしの要望にニアは少し考えた後『許可します』と認め、つくしはリンカー鎮圧という限定ながら仲間達の戦闘禁止条件を緩める事に成功する。
「すいません、ここからの会話を筆記しても? ……性分なもので」
「一部始終撮影させていただけないでしょうか……?」
 湊と平介からの筆記や撮影による記録の申し出を、ニアは『どうぞご自由に』と許可を出したので、湊は2色ボールペンなど筆記用具を取り出し筆記を、平介は動画用ハンディカメラで撮影を始める。
「ニア……、いえ、ニア様。お久しぶりで御座います」
 その間にГарсияがニアに向け一礼すると、気になっていたことを伺う。
「まず、貴方様がなぜ『このようなやり方で私達との接触』を図ったのでしょうか? 貴方様ならもっと上手に出来たと私には思えてなりません。それともこうしなければならない理由があるのでしょうか?」
「最初は穏便に進める予定でしたが、話を聞かずに先に襲ってきたのは貴方がたH.O.P.E.ですよ。私達は自衛させてもらったまでです」
 Гарсияより人質を取った意味を問われ、ニアは『自衛のため』と事もなげに返し、『よろしければどうぞ』と料理の形に整えられたステーキをエージェント達の前に並べる。
 Гарсияはそれを見ると、出発前にコンビニで購入した紅茶の茶葉を取り出し、店にあるポットを使い茶葉を蒸らす作業をЛеттиに任せ、別の小皿に各皿にあるステーキ肉の一部分を切り取っていく。
 そしてГарсияはそれらを口に運び、エージェント達に向け毒がない事を報せる。
「……失礼、肉はあまり食べ慣れていませんので。少々お見苦しくなってしまいました」
 そう言ってГарсияは頭を下げ、同じくコンビニで購入した茶葉を持参してきた朝霞達と一緒に仲間達へと紅茶を振る舞っていく。
「……で、何かしら聞きたいことがあるんじゃないの?」
「とりあえずみんなの質問を優先することにするよ。せっかく料理が出るんだし、美味しく食べるのも悪くないでしょ?」
 作業をつくし達と交代したスネグラチカがチルルに『質問は良いのか』と聞くとチルルはそう応え、ドラゴン肉なるステーキを食す。
 肉は赤身で噛みごたえがあり、肉の旨味がダイレクトに感じられた。
「これ何のお肉使ってるんだろうね?」
「あれじゃない? A5ランク的な?」
 そう言いながらチルルに続いてスネグラチカもステーキを平らげていく。
「お肉おいしーね」
 湊が仲間達とニア達の動向を記載していく中、ノイルは旨味の凝縮された肉の味を堪能していた。
「この肉……出所は大丈夫なのでしょうか?」
 由利菜は半信半疑の表情で、出されたステーキを見つめる。
「尤も私達も今までの依頼で、従魔を使った料理を食べることには慣れているがな……。それに、テレサ殿のテ料理に勝る兵器はそうそうあるまい」
 過去由利菜の代わりにテレサ・バートレット(az0030)の料理を食べたことがあるリーヴスラシルの評価は、『アレよりは大分マシ』だった。
 そしてニアへの質問が始まるが、まずエージェント達が異口同音気味に尋ねたのはニアと善性愚神の関係性に絡むものだった。
 善性、悪性という呼称についての見解は。
 貴方自身が悪性などと呼ばれてどう思っているのか。
 今、善性愚神と名乗っている彼らはニアから見たら『自分達の罪を否定する』存在ですか?
 善性愚神って、ニアはどう思ってますか?
 善性愚神はニアにとってどんなモノなんだ?
「私は善悪を論ずる存在ではありません。ここが人治の世界と仰るなら、それらを決めるのは人間でしょうね」
 ニアの回答はエージェント達より問われた本質は答えていない微妙なものだった。
「何を以て善悪を語るのかわからないから、私は微妙な呼称だなと思っているけれど。善性と名乗る愚神はヘイシズ派とか名乗ればいいのにね」
 京子の所感にニアは笑みを浮かべただけで答えない。
「ヘイシズの名をご存じですよね? 貴方とは気が合いそうな愚神ですが」
「ニアの目から見たヘイシズの印象を聞きたい」
 湊と京子の問いに、ニアは『私とは相性が悪いのは確かですね』と返したところでゼムが口を挟む。
「お前達悪性側が倒される事で初めて共存が成立する……。今回のもその為の作為じゃねぇだろうな」
 ――どこの世界も善が悪を倒せば英雄だ。
 ゼムはニア達も何か企んで動いているのかと疑うが、ニアは素気なくこう返す。
「私の作為は『監察』(ケンソル)の域を出ません」
 それまでГарсияと共同で紅茶を配いつつ聞き耳を立てていたЛеттиは、ニアが答える内容の特徴に気付き、密かにスマートフォンのメールを介し、仲間達に忠告を送る。
『ニアは質問に全て答えていますが、肝心な部分は答えていません』

●続く質疑応答
 やがて地下室より3人のリンカー達が拘束されたままつくし達の手で運ばれてくる。
 3人は友衛、指宿、美年という名で、ニア達に罵詈雑言の類を並べ立てたが、最も穏便な一言だけ記載する。
「絶対的な悪の愚か者たちよ、さっさと偉大なる正義である私達を解放し謝り償い自害なさい! さすれば私自らH.O.P.E.の名のもとに断罪し永遠の責め苦を与えましょう!」
 つくしは彼らのあまりの状況判断と発言内容の悪さに眩暈を覚え、由利菜とリーヴスラシルは呆れ、Гарсияは表情を消した。
 リンカー達の暴走をつくしと共に警戒していた朝霞や平介、京子達も、リンカー達の並べた頭の悪い発言の数々に一瞬言葉を失う。
「つくし様。被害拡大を防ぐため、一緒にこの方々の口も拘束いたしましょう」
「うん、そうさせてもらうよ。ということで少しの間お静かに、だよ」
 Гарсияからの協力要請につくしは快く応じ、ГарсияやЛеттиと一緒に3人の口を即席で作った猿轡で塞いでいく。
「……相手が人間社会へ理解のある愚神で、殺す気ではなかったから運良く助かったようなものです。……二度目の幸運はないと心得て下さい」
「独断で組織の足下を掬うような行動を起こすな。……出来の悪い生徒を叱っているような気分だ」
 由利菜やリーヴスラシルもその浅慮と短絡的な行動を嗜める。リーヴスラシルの言う通り、3人が出来の悪い生徒の範疇に収まるなら、更生の余地はありそうだが……。
 3人のリンカー達への説教も密かに平介が撮影する中、ニアから情報を引き出す活動は続く。
「ニア。俺は善性愚神なんぞよりお前の方をまだ信用している。だからこそ聞きたいのだが、ここでH.O.P.E.に情報提供をすることが、お前にとってどんな益になるんだ?」
「何の得にもならない事をするなんて考えられない! なにか裏があるはずだってニックは言いたいんだね!」
「朝霞が説明しなくても、ニアにはちゃんと伝わってるがな」
 ニクノイーサと朝霞がそう交互に話す中、メグルやリーヴスラシルも口を挟む。
「情報を重んじる貴方がこんな情報提供をされるのは、裏があるのではと疑わざるを得ないのですが」
「善性愚神の話が出る以前からも、愚神十三騎の間でも勢力争いはあったと見ているが」
 4人からの質問に返ってきた答えは『私には何の益もありません』だったが、その後に続く内容は問題だった。
「貴方がたは『王』の御心にも沿う働きを示して下さってますので、私の益は無関係です」
 ここでニアの口にした『王』の単語に、チルルが反応する。
「あんたらの言う王?っていうのは善性派なの? 悪性派なの?」
「『王』は貴方がた人間達が推し量れるようなお方ではありません。万事を理解できるというのは人間の傲慢です」
 ここで京子とアリッサが別の切り口から問いを発する。
「ニアもヘイシズ同様、新たな次元を目指しているの?」
「そうだと仰るならば、何を以て、新たな次元とするのですか?」
「宰相殿はそうかもしれませんが、私は特に目指しておりません」
 京子とアリッサからの問いにニアは素気なくそう答え、それまで聞き役に徹していたスネグラチカは、隣にいるチルルへ密かに声をかける。
(何か他に聞きたい事とかある?)
(うーん。大体のことはみんなが聞いてると思うし。でも気付いた事とかはあるわね)
(それは何なのかな?)
(ニアってヘイシズとは別の形で『王』に忠誠誓ってるみたいだよね)
 それを聞いたスネグラチカは密かにスマートフォンのメール機能を使い、仲間達へチルルの推測を伝えていく。
「貴方が姿を見せない間は二つ名の通り何か視察を? その視察も王の為……でしょうか?」
「リオ・ベルデを『巡察中』です。貴方の仰る通り、私と私の行動の全ては『王』のために」
 メグルの問いにニアはあっさりと自分の行動内容と動機を語る。
 チルルの推測通り、ここまで明確に『王』への忠義を示す愚神も珍しいが、ニアが口にした内容は、今もニア達がリオ・ベルデで暗躍していることを意味していた。
「ニア、貴方はただの愚神ですか? それとも邪英化の成れの果てですか? 『貴方がたが人間と認めない人間達』とは、邪英化の果ての愚神のことかと思いまして」
 複数の確認が込められたメグルの問いに、ニアは1つずつ答えていく。
「私はただの『監察』(ケンソル)です。そして『貴方がたが人間と認めない人間達』というのは、例えば愚神集団『シュドゥント・エジクタンス(ある筈のない存在達。以下SEと略)』の中で貴方がたにラカオスという名と行動を強制されている人間です」
 過去ニアが口にした『人間と認められない人間達』の正体の1つがここで明らかになったが、メグルをはじめエージェント達はラカオスという人間に行動を強制した事はないので、一様に困惑する。
「ラカオス達は以前貴方がたに渡しました、あらゆる情報を収集・発信する機能があるチップと爆弾を貴方がたによって埋め込まれ、その行動や思考が管理されています。私はその確たる証拠を持っていますが貴方がたが今も自分達の所業と認めず隠ぺいしている以上、渡す気はありません」
 敵である以上ニアの話には毒や嘘が含まれていると思いたかったが、嘘とも言い切れない。
 ここでそれまで撮影を続けていた平介が『オルリア達とどういう関係だったのですか』と切り込んだ。
「貴方は……あの兄妹に助けを求められ匿っていたのですか? 今も……匿っている子がいますか? もしいるのであれば、此方で保護をさせて頂けませんか?」
「彼女は復讐を望んでいましたので、情報を提供しただけです。助けて匿ったのは私ではありません。他に保護した人間達はいますが、全員人間社会の職を得て私の手元から離れているのでお渡しできません」
 ニア達のもとにいるであろう人間達の引き渡しも含めた平介の求めに、ニアは物腰こそ丁重だったがそれを拒んだ。
「……では、オルリア達へ酷い仕打ちをした者達の情報を教えて頂けませんか?」
 平介の要求に、ニアは『こちらに情報が入っています』と記憶媒体のようなものを取り出し、平介の方へ放り投げる。
 それをゼムがキャッチし回収する中、記録中の湊に代わりノイルも続く。
「オルリアとアセビはリンカーだったようだけど……彼らの英雄について知らないかな?」
「少なくとも私は存じません」
 そう答えるニアに、ノイルはなおも【卓戯】と命名された事件で霊石を持って行った誰かを知っているか尋ねると、『貴方がたはその誰かと会った事があると思いますよ』という内容が返ってきた。
 ノイルはへらりと笑みを浮かべつつも、内心その内容を吟味する。
「……ニアさんからも質問がないかと思ったけど。貴方はきっと俺達以上に俺達の事を知っている」
 そう前置きした上で、記録を終えた湊はニアに提案する。
「貴方は…人類に下る気も無さそうだから善性愚神と名乗り出る事は無いでしょうけど……俺達の”協力者”になりませんか? H.O.P.E.を保険にするんです。協定の件はあるけど貴方から一方的に協力するなら……」
 湊のそれ以上の発言を、ニアは手を上げて制する。
「それは奴隷になれと同義ですのでお断りします。それに私達が貴方がたに討たれない保証がどこにありますか? 例のSEも協定を結びながら愚神と見なした全てを人間ごと討滅対象にされたんでしょう?」
 先日SEと関わったエージェントの1部がSEへの討滅部隊派遣を要請し、実行に移した事をニアは知っていたらしい。
 今回エージェント達はニアが口にしたような『保証』を用意できる根回しや権限を得る活動は一切していなかったこともあり、ニアは湊が提案する協力を拒んだ。
 それでも京子はニアに今回の情報提供の件を感謝する。
「こちらからメリットを提示できるとすれば、貴方からの情報をありのままに伝えるくらいだからね。何かH.O.P.E.に言っておきたいことがあるなら伝えるよ」 
「ではこうお伝えください」
 京子の要望に応える形で、ニアより2つの内容がエージェント達に伝えられた。

●決着
 朝霞が手配した大型バスに、エージェント達が人質となった人々を移送し終えたところで、作業を終えたチルルやスネグラチカが無線機で店内に連絡する。
『人質になった人達を全員収容し終えたのだわ』
『あとはみんなが乗るだけだよね』
 チルル達の声を聞いたズセとラビスが用は済んだとばかりに店より退出し、ニアも後に続くのを湊が呼び止める。
「ニアさん貴方は……人間は好きですか?」
「他はどうかはわかりませんが、私は人間達が好きですよ」
 そう言い残すとニアは残る従魔達と共に店を後にし、姿を消した。
「『善性愚神や今の世界に抱いているわたし達の不信感や不満は、間違いではありません』……ですか」
 アリッサはニアがH.O.P.E.へ伝えたかった内容を吟味し、その意味を推し量ろうとする。
「この先何かあるから、それに対する警告なのかな?」
 京子もまた、ニアからの『伝達事項』の内容を考えた末、そう予測してみた。
 湊が先に口にしたように、ニアは恐らく何か『知っている』。この先愚神達が何かを仕掛けてくると考えていいだろう。
「そう、それこそ……善性愚神と人間の共存……から、我ら人間、善性愚神、悪性愚神の三すくみにするような何か……でしょうか」
 Гарсияもまた今回得た情報から今後を憂慮し、ЛеттиはそんなГарсияを『大丈夫です。なんとかなりますよ』と励ました。
 一方つくしとメグルはニアがH.O.P.E.へと伝えられた2つ目の内容について考えていた。
「『リオ・ベルデに注意しろ』か。どう思う?」
「攪乱工作の可能性もありますが、H.O.P.E.に伝えても害はないでしょうね」
 現在リオ・ベルデの情勢は不透明だ。ニア達が関わっている以上、警戒しておく必要はあるだろう。
「皆さんが愚神達を包囲したとき、ニア達は何をしてました? 何か気付いた事ありますか?」
 帰路に就く大型バスを運転しながら、朝霞は救出し救命救急バッグで怪我を治療した人々に聞き込みを行い、追加の情報を得ていく。
 今回エージェント達がニアから得た情報は重要なものが多く、特に【森蝕】事件のアセビ・オルリア達を過去虐げた加害者達の情報とニアからの『証拠』は帰還したエージェント達の手でH.O.P.E.に送られ、各手続きが行われる。
 また平介達の要請を受け、H.O.P.E.は問題を起こした3人のリンカー達を厳しく処分すると約束した。
「ニアという愚神は一方で多くの人間達を破滅させている。それを忘れないことだな」
 各申請を終えた平介にゼムはそんな忠告を送り、平介が思考の迷路から抜け出せるよう務める。
「……アセビやオルリアをはじめ被害者がこの世にいない今、加害者を裁く意義は……」
「裁くよりは……償わせるべきだろう。二度と同じ過ちを犯させないよう、後世に過去の虐待の事実を伝え続けてもらう」
 由利菜とリーヴスラシルは【森蝕】で起きた悲劇の再発防止という考えで動いていた。
 やがてH.O.P.E.と地元の警察による捜索の結果、生き残っていた加害者が明らかとなる。
 平介やゼム達の持ち帰った証拠も加わり、彼らを裁判にかける用意が出来たが、やや方針が修正される。
「排他的な慣習の残る先住民の村々にそれを周知して貰いたい。あの戦乱の戒めとして。理不尽な迫害が今後起きないように」
「アセビやオルリアと同じ悲劇を二度と繰り返さない為に、だね」
 湊の主張にノイルもそう言い添えて由利菜とリーヴスラシル達の方針に賛同し、事態は動く。
 この結果、フレイ・フレイヤ達の襲撃を受けた各集落では、犠牲者の慰霊碑にアセビやオルリア達が過去に受けた事件に関する詳細が追記され、以後長く語り継がれていくことになる。
 ここにエージェント達は【森蝕】事件からの負の遺産を1つ解決する事が出来た。
 それでも善性愚神達の問題は解決されたとはいえず、いまだ世界の先行きは不透明なままだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 分かち合う幸せ
    笹山平介aa0342
    人間|25才|男性|命中
  • どの世界にいようとも
    ゼム ロバートaa0342hero002
    英雄|26才|男性|カオ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
    人間|18才|女性|防御
  • 共に在る『誓い』を抱いて
    メグルaa0657hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 市井のジャーナリスト
    玖渚 湊aa3000
    人間|18才|男性|命中
  • ウマい、ウマすぎる……ッ
    ノイルaa3000hero001
    英雄|26才|男性|ジャ
  • 守りもてなすのもメイド
    Гарсия-К-Вампирaa4706
    獣人|19才|女性|回避
  • 抱擁する北風
    Летти-Ветерaa4706hero001
    英雄|6才|女性|カオ
  • さいきょーガール
    雪室 チルルaa5177
    人間|12才|女性|攻撃
  • 冬になれ!
    スネグラチカaa5177hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
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