本部

それいけ歌劇団!

江戸崎竜胆

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/04/10 20:06

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掲示板

オープニング

●劇場に襲う危機
 その劇場は小さくも地元の住民に愛される存在だった。
あるいはハートフルな日常の一コマ、あるいはラブコメディー、特撮ヒーローものからアイドル路線のものまで、さまざまな演目を上映して、余り広くは知られてはいないものの、一定の人気を持った、細々と続く劇場だった。時には芸能課の駆け出しエージェントが舞台に立つ事もある。そんなライブにも使われる劇場だった。
 その劇団で、いつからか事件が起こり始めた。突如、劇団員や客が劇の演目中に暴れ出したのだった。一般人である劇場側には止める術はなく、その噂が周囲に広まるのは早く、泣く泣く暫くは劇場を閉める事となった。

●劇場からの願い
「と言う訳で、エージェントに依頼が来ました」
 淡々と事務員が書類の内容を告げる。
「恐らく、暴れている劇団員や客は従魔の影響を受けているのだと思われます。大人数が集まる場所でライヴスを集めているのだと考えています。このままでは大規模な騒動に発展する可能性もありますので、ただちに現地に向かい速やかに騒動を収めて下さい。なお、劇場側は劇場を壊さないで欲しいとのことです。小さな劇場なので、一度に入り込めるエージェントは10人に満たないでしょう」
 パタン、と書類を閉じる女性職員。情報は以上だとばかりにさっさと会議室を出て行く。取り残されたエージェント達は顔を見合わせた。

●戦い踊れ、エージェント
「どうか、劇団員として従魔を撃退してくれませんでしょうか」
 白髪が混じる初老の劇場の責任者である男性は頭を下げた。顔には苦悩が見て取れる。
「H.O.P.Eの活躍はよく知られている事です。エージェントの方々がじきじきに劇場の従魔を倒す場面を見せれば、お客様も安心して、また此処に通って下さいます。どうか助けて下さい。従魔は劇を演じている際、お客様が多い時に出現するようなので、おびき寄せるためにも必要な事なのです」
 ぺこぺこと何度もお辞儀をする男性はちら、とエージェントを見上げた。それは察しが良いものには、商売人の顔に見えたかもしれない。
「エージェントとして、劇内で従魔を倒すパフォーマンスを演じて頂ければ……嬉しいのですが……幸いに、この劇団では有名エージェントをモデルにしたアクションヒーローものも人気でしたので、本物のエージェントが戦うとあれば、集客が見込めます! あ、アイドルとして歌って踊るのもとても人気です! この劇場を蘇らせるために、よろしくお願い致します!」
 どうやら、現状の危機も復興の種とする、中々のやり手の男性らしい。
 そして数日後、地元新聞紙には『H.0.P.Eのエージェント、さびれた劇団を救う! 果たして救世主となるか!?』と大々的に載る事になった。

解説

●目標
・従魔に襲われている劇場から従魔を追い払って復興させる。

●備考
・劇団は小さな規模です。舞台も広くはなく、エージェントや劇団員も含めて同時に10人もいれないでしょう。舞台にあがる人数には気を付けて下さい。
・劇団の所有者である初老の男性が主張している通り、劇団の復興を目的にしているので、劇場の破壊は避けて下さい。
・お客様も暴れる事との情報があるので、舞台以外にも気を配る必要があります。お客様が怪我をしたら、従魔を倒すのに成功しても劇場は復興しません。
・出現する従魔は複数ですが、エージェントなら簡単に蹴散らせる程度の力しかありません。従魔はお客様が盛り上がった時に姿を見せます。格好良く倒しましょう。
・劇場側は従魔と戦う以外のパフォーマンスをする時間もとってくれるので、歌ったり踊ったり劇をしたりも自由です。
・宣伝活動は劇場側が新聞社に頼んでいます。エージェントは宣伝に気を配る必要はありません。

リプレイ

●舞台前
「せっかくの劇を台無しにするなんて! 粋じゃないよっ!」
「お客様に安心して観ていただくための従魔撃退というのはいいけれど、それをパフォーマンスにしてしまうと……結局安心して観ることができる、とは言えないのではないかな?」
 春月(aa4200)とレイオン(aa4200hero001)は事前に劇団長に交渉して、観客を誘導していた。せめて、子供連れや、従魔が出現すると知らずに来た観客を、従魔の影響がない程度に離れた施設に保護したいとの提案だった。
「そちらで生中継を楽しんでいただく、と言うのはどうでしょうか。舞台独特の空気感、と言うものは確かに減ってしまいますが、安全には変えられません」
 春月とレイオン達の説得に、劇団長も観客に無駄な犠牲が出るよりは、と提案を快諾してくれた。結果、近くのライブハウスに協力を得て、大画面のモニターで舞台の生中継を映し出す事となった。
 辺是 落児(aa0281)も、どれだけ観客に現状を説明されているのか確認したり、事前に従魔が出る危険と負傷の危険性を説明した看板を製作したりする事で春月に協力した。
「閉鎖の理由と広報戦略で浸透しているとは思いますが……念のためにですね」
「□□……」
 辺是は構築の魔女(aa0281hero001)と意思疎通を行いながら、来場者への説明不足がないか確認、劇場の舞台の大きさを自身の目で確認、子供は生中継を行う会場に移動するように依頼し、その他の観客には劇場再建への協力を打診して、事前準備に回った。
 その結果、生中継が行われるライブハウス内には、ジュースやお菓子を持った子供連れや、従魔を恐れてはいるが舞台は見たい、と言う観客が、わいわいと賑やかに開演の時を待っていたのだった。
 従魔が現れる事を事前に知っていて、それでも、生の舞台を見たい、何か少しでも協力をしたい、と願う観客は、劇場内で今や遅しと上演が始まるのを、固唾を飲んで見守っていた。事前の新聞での宣伝効果と、危ない事を避けたり怖がる者がいない安心感がある分、劇場内に集まった観客のボルテージは上がるばかり。
 そちらの方にも事前準備はされている。
 無音 彼方(aa4329)と那由多乃刃 除夜(aa4329hero001)は舞台と観客席の距離を離すようにロープを配置。ある程度の観客の安全を確保した。
「舞台、ねえ……」
「かかか、いい経験になるじゃろうて」
 女性の姿をしているがれっきとした元男性の彼方を、少女らしからぬ落ち着きを持つ除夜はからかうように笑っていた。
 そして、舞台の幕が開いた。

●舞台序章
「音楽家たるもの、ハコも大事にしないとな」
 H.O.P.E.でヴァイオリニストと言えば自分、と自負している九重 陸(aa0422)は、音楽家を目指すものとして、最初の出番を任され、自分自身に気合を入れていた。
「一般人を危険に晒すのはちょっとアレだけど、だからと言ってずっとここを閉めてもいられないしな。いい劇場だ、ちゃんと取り戻そう」
 決意を籠めて、九重は舞台にあがる。
 暗くなった舞台に、朗々とした声が響く。
「レディース・アンド・ジェントルメン! お坊ちゃんお嬢さんたち!」
 暗い舞台に、一転して、ぱ、とスポットライトが照らす。九重の姿が舞台に浮かび上がった。
「当劇場の危機に駆けつけてくださり、まことにありがとうございます。後ほどH.O.P.Eきっての美男美女たちがとっておきの一芸を披露してくれますが、まずは前座としてこの九重 陸のヴァイオリンをお聴きください」
 九重の構えたヴァイオリンが飴色の光沢を反射する。
「無闇に席を立たないように、改めてお願い申し上げます。携帯の電源は切っていただけましたか? ……結構。それでは、安全でスリリングなショーを開演いたします」
 しなやかにヴァイオリンが奏でるのは繊細ながらも激しく華やかな音楽。パガニーニ『ラ・カンパネラ』等、九重の選んだ数々の名曲が演奏される。勿論の事、著作権があるものは、関係団体へ各申請を行って演奏の許可は得ている。
 それを幕開けに、次々とパフォーマンスが始まるのだった。
 構築の魔女が黒を基調とし、薔薇と黒狼と天秤のあしらわれた落ち着いたゴシック調の魔女服で現れ、演劇とライブ演奏を始める。
「僕たちは、二人寄り添って、恐れを消して、箱庭の世界から翼の魔法で飛び立っていく」
 激しさと静かさのメリハリがついた、ギターとピアノをメインにした曲が流れ、構築の魔女が観客を魅了していく。
 御神 恭也(aa0127) と不破 雫(aa0127hero002)がその演劇に合わせて、一段下で少人数の劇団員と剣劇を披露し、春月とレイオンもダンスで観客を盛り上げる。
「一緒に踊るよっ!」
 春月は観客に簡単な振り付けを教えていた。春月の掛け声に合わせて、観客が共に楽しそうに躍り出す。
 彼方と除夜は共鳴し、他の面子の曲や踊りに合わせて剣を使い演武を披露していた。除夜の誘導に従って、無音は美しく、そして鬼気迫るかのように剣筋を紡がせる。
「こういうのは、慣れてないんだが、なっと」
 ぼやく無音に、除夜がころころと笑う。
「じゃがまあ、たまには悪くなかろう。ほれ、呼吸が乱れておるぞ」
 観客席で、餅 望月(aa0843)と百薬(aa0843hero001)が舞台へ応援を飛ばす。久し振りの舞台に興奮し過ぎて舞台にあがりそうになる客を抑えつつ、盛り上がってくるのを見計らって、共鳴状態になると、観客へと呼びかける。
「さあ、みんなで舞台の上のヒーローを応援しましょう、みんなの応援が力になります。みんなで一緒に腕を回して、せーの、がんばれー」
 共鳴した姿は、まさしく天使、と言うしかない。光輪と純白の羽を携えた容貌で癒しを与える姿で声をあげる餅に合わせ、観客も声を揃えて舞台上のエージェント達に声援を送る。
 表向きは、美しく、楽しく、華やかな舞台が繰り広げられていた。

●舞台裏
 勿論、全員が舞台だけに集中している訳ではない。
 御神と不破は舞台から降りて話していた。
「何方かと言えば裏方の方が性にあってるんだがな……」
「安全を考えれば、観客抜きでやりたかったのですが」
 二人は主役にならずに、主人公の友人の立ち位置で舞台にあがっていた所だった。出演中に従魔が出てきた場合、他の者が出演中に出てきた場合、どちらも想定して動けるように準備をして、なおかつ観客を満足させるために、劇団員と連携していたのだった。
「敵が出て来た時に表立って戦わないといけないんですから主役の方が良いんじゃないんですか?」
「今から劇中のセリフを全て覚えろと? 無茶を言わんでくれ」
「私が半分を覚えて、共鳴中に教えるのも一つの手ですが」
「敵を誘き出す為だけの劇なら良いが、観客を満足させないといけないんだぞ。主役が大根役者で、刀を振り回している間は無言。そんな劇を見たいか?」
「ざ、斬新な劇かも?」
「無理はするな」
 そう言ったやり取りが事前の打ち合わせであったため、劇団員との連携と言う手段で舞台にあがる結論を出したのだった。
「全員リンカーで演じたかった方が良いのでしょうけど……」
 不破が劇団員を心配する言葉に、御神が苦笑いを見せる。
「まぁ、結果はブーイングの嵐だろうな」
 自身が主役を演じた場合の大根役者っぷりを想像した御神が、劇団員を気にしつつ発言する。
「劇が成り立つ最低人員をお願いする以上は、怪我をさせる訳にはいかんな」
 幸いにして、劇団員が舞台から降りてくる頃にはまだ従魔は姿を見せなかった。
 辺是は舞台から降りてきた構築の魔女と共鳴後、劇場内が見渡せて観客席に移動出来る場所を事前に把握しておき、従魔の出現の兆候をレーダーユニットで確認している。いつでも客席付近や出演中の仲間に連絡を取れる状態にしていたのだった。
「可能であれば観客に影響が出る前に倒したいものですが……」
 構築の魔女は事前に辺是とそう話しあっていた。
 舞台の他の者も従魔の出現や観客の暴動に備えている。
 春月はインカムを借りてスタッフや仲間と連絡を取れるようにしてあり、睡眠薬を準備して、救護室等の間取りや構造も調べてある。暴れ出した観客を速やかに眠らせて救護室に運べるような状態で、観客に紛れて一緒に盛り上げつつ、周囲に気を配っている。
 餅も、観客席から応援をしつつも、舞台に迫る観客はさりげなくブロックしている。
 彼方は舞台上では演武を行いつつも敵が来ないかどうかを張りつめて行動していた。更に鷹の目を使い、現れた鷹をまるで手品のように観客にアピールしながら、周囲の状況把握に努めている。
 皆、いつ従魔が来ても戦える、あるいは観客を守れる状態で舞台を中心に劇場全体を注視している。
 九重のヴァイオリン演奏が終わり、恭しくお辞儀をして退場していくと、最後の演目の上演となる。此処が山場だと、従魔が現れる緊張感に包まれて、舞台袖ではエージェント達が自分の役割を確認しながら慌ただしく用意を進めていた。

●ショータイム!
 最後の演目は、フラン・アイナット(aa4719)とフルム・レベント(aa4719hero001)、御剣 正宗(aa5043)とCODENAME-S(aa5043hero001)によるミュージカルだった。
「こうやって、人前で何かを披露するのはアイドルとして初めてじゃないか?」
「初めての人前でのお仕事、頑張らないとね!」
 フランとフルムは駆け出しのアイドルエージェント、これがアイドルとしては初の舞台上演となる。
 そして、Sとフランは結婚している間柄だった。
 四人は子供連れの観客向けのミュージカルを準備していたが、子供達はライブハウスに避難している。だが、モニター越しに通じるものがある筈だと信じて、四人はミュージカルを始めようとしていた。
 四人が事前に準備していた、オリジナルのミュージカル。
 正宗が曲を作り、衣装はSが綺麗に仕上げ、歌詞はフルム、ダンスはフランが担当、と言った、本当の意味でのオリジナルのものだった。
「僕もいよいよ晴れ舞台というわけだな」
「気を抜かないように、そしてみなさまを楽しめるようにしましょう」
 正宗とSにも気合が入る。普段は無口な正宗も、アイドルであるSに死に物狂いで特訓された結果を見せる時がやって来たと意気込んでいる。
 ミュージカルの内容はファンタジー要素満載の物語。
 四人が村で平和に暮らしていた場面からスタートした。
 Sはフランとフルムの幼馴染で、Sとフランは最高の友達だった。そして、フランはSに恋をしていた。
「なあ、どうしたらいい……? Sが好きだ、でも、あいつは……」
 フランがフルムに悩みを打ち明ける。
「お兄、大丈夫だよ。そのままの気持ち伝えよう?」
 フルムは兄と慕うフランに思いを伝える事を提案する。
 だが、正宗は最近引っ越してきた放浪者。フランとフルムの事を余り良く思っていない。それでも、正宗は四人でいたいと願っていた。
 そんな四人の悩みがダンスと歌で繰り広げられ、時にはアップテンポな曲で盛り上げられる。別の会場のモニター越しにも子供達が湧き上がり、劇場内の観客も大きな盛り上がりを見せた。
「よし、皆でもっと仲良くなるために、旅に出よう!」
『おー!』
 ミュージカルも佳境に入り、四人の絆を深めるべく旅する事をフランが宣言し、四人が旅立とうとした、その時。
 観客がどよめいた。従魔がとりついた観客が暴れ始め、従魔自身も姿を現し始めたのだった。
 レーダーユニットで監視していた構築の魔女が、すぐさまライヴス通信機で仲間に通達をする。そのため、従魔達が現れたのとほぼ同時にエージェント達が暴れ出した観客の対応と、従魔への攻撃態勢に入る事が出来た。
「これはきっと僕たちにあたえられた試練に違いない。このぼくに力を貸してくれ、エス!」
「はい、わかりました。でも今回だけですよ?」
 正宗とSが共鳴を始める。手にした雷神槍「ユピテル」が、ローマ神話の天空の神の名を冠した名にふさわしい輝きで従魔の急所を的確に切り裂く。
 フルムとフルムも共鳴をしてAK-13で遠距離から攻撃を留め、天使の羽が生えている白いローブを纏った姿は神格の様子を呈しているかのようだ。
 近距離と遠距離で連携する二組は、まるでミュージカルのワンシーンのように舞台上の従魔を次々と倒していった。
 他の者も舞台上を見て待っているだけではない。
 暴れ出した観客は、観客席にいた春月が素早く睡眠薬で眠らせてインカムでスタッフと連携し、救護室へと運ぶ。
「大丈夫、みんなの活躍は映像にも残してるからさ、起きたら見ればいいよ」
 それでも防ぎきれない暴れる観客は、舞台上を中心に客席最前列あたりが入るように餅がセーフティガスで眠らせる。
「おイタする人には眠ってもらいます」
 控えていた御神と不破が出演者に観客の意識が向くように目立たないようにして、観客の安全を重視して従魔を倒していく。シャドウルーカーらしい、目立たないながらも劇を破綻させずに劇場へのダメージを考慮して確実に仕留めていく攻撃だ。
 辺是と共鳴済みの構築の魔女は、特に好む遠距離からの戦法を取った。準備していた魔銃で劇場や観客に被害が及ばないような射線で対処をし、射程不足をスキルで補いつつも場内の従魔を次々と撃ち抜いていく。
 九重がヴァイオリンを演奏しながら客席通路を歩き始める。九重のメイン武器であるヴァイオリンの音色にライヴスを込めて演奏をすると、演奏しているだけで従魔を倒せるのだが、従魔を躍らせるように、あるいは派手な演出が起こるような遊び心を加える余裕を見せつけつつ、倒していった。
「さてと、手早く片付けるとしますか、ねっ!!」
 彼方は観客席を守るようにしながら立ち位置を変化、観客から距離を離すように舞台に追い詰めて、従魔を足止めしつつ刀で一閃。見栄や鍔鳴りを意識した居合で速やかに従魔を排除し、さながら時代劇の殺陣を思わせるような立ち回りで観客を沸かせるように仕留めていく。
 暴れる観客を落ち着かせた餅と春月も加わって、他の観客に被害が出ないように守りつつ残り少ない従魔を倒していった。
 そうして無事、観客に被害が及ばずに全ての従魔を鎮圧出来た頃合いを見計らって、共鳴を解除したフランがSに声をかけた。
「二人っきりになりたいんだけど、いいかな?」
 従魔を倒し終えたエージェントは、少しずつ観客席の方へと連れていかれ、舞台上で二人になったフランとSにスポットライトに照らされている。何が起こるのか、皆、期待と不安をないまぜにして見守っていた。
「あのさ、え、Sに好きな人がいないなら……、俺と付き合ってくれないかな……?」
 勇気を出したフランの言葉に、にっこりと微笑んだSが頷いて、告白を受け止めると、場内の全ての人から祝福の拍手が巻き起こる。
「本当か、ありがとうな……、大好きだ……」
 Sを抱き締めようとしたフランの元へ、フルムと正宗が抱きつき、わちゃわちゃと団子になってしまった。
「僕達の絆が深まったと言う事だ! ミュージカルは大成功だ!」
「お兄、おめでとー!」
「って、お前ら、見てるんじゃない!」
 わいわいと互いの絆を確かめるようにもつれ合って笑い転げている四人を纏めるように、餅がにこにこと観客に手を振った。
「みんなありがとー、これからも劇団ともどもよろしくね」

●劇場のその後
「今回は無事に終わったから良いですが、こんな従魔がいることがわかってる場所に一般人を入れる危ない依頼は出さないでください。劇場の復興より人の命の方が大事に決まってるじゃないですか」
 ぷりぷりとH.O.P.Eの職員に怒っている餅に、百薬も相槌を打つ。
「せっかく人類にはプリセンサーがあるのにね、ワタシも愛と癒しとご飯のことだけ考えていたいよ」
 無事に終わった事に対して、満足しているらしい春月はレイオンと話している。
「劇も、皆のパフォーマンスも、楽しかったね」
「今度は普通の客として観に来ようか」
 余りやらない動きのせいか、微妙に消耗した彼方は平然としている除夜にぽつぽつと愚痴を零していた。
「あー……疲れた」
「人を沸かせ、魅了する。これもまた一種の活人……かつてのわらわには持てぬ剣であったのう」
 除夜は剣の新しい道を見出したようで、劇の剣舞に対して感慨深いものがあったらしい。
 各人、それぞれこの依頼には思う所はありつつも、劇場を後にしようとした時、たた、と子供達が走って近寄ってきた。別のライブハウスでモニター越しに生中継を見ていた子供達だった。皆、きらきらとした目でエージェント達を見つめてくる。
「おにーちゃんたち、おねーちゃんたち、かっこよかった!」
「すごーい! かっこいー! きれー!」
「おれ、おおきくなったら、エージェントになる!」
「わたし、アイドル!」
「ぼく……ヴァイオリン、やってみたい……」
「おねーちゃんみたいな、かわいいおよめさんになりたーい!」
「あのね、お花、用意したの」
「お菓子もあるよ!」
 子供達が集まって、今日の主役達を尊敬している事を精一杯の言葉と贈り物で伝えてくる。遠巻きに見ている子供達の親や観客だった人達も、感謝の眼差しで見つめてくる。
「プリンだいすき―!」
 ご機嫌斜めだった百薬も少し機嫌を直したようで、子供から貰ったカスタードプリンを美味しそうに食べている。他のエージェント達もお菓子や花を貰って、嬉しそうに応じている。
 子供の中には、エージェントや英雄とそう変わらない年齢の子も混じっていた。
 尊敬の念を向ける年長の子供は、劇場で活躍を見たかった、と呟いた。
 サインを貰おうとハンカチを差し出す子もいた。
 そんな子供達に囲まれたエージェント達を見て、劇場主が涙ぐんで眺めていた。
「……この劇場は私の生涯をかけた場所。また、前のように観客が楽しんでくれる毎日が帰ってくる……本当に、ありがとうございます……」
 後日、劇場主からエージェント達に感謝の手紙が届いた。
 劇場は無事復興に成功して、毎日のように満員御礼。遠方からも見に来る人もいて、劇場は大忙し。新聞にも取り上げられた、劇団を救ったエージェントの活躍も地元ではヒーローとして扱われ、子供達の間でエージェントごっこをするのが流行っていると。そして、人々の笑顔が取り戻せて、地元の人々の心の拠り所に戻れて嬉しいと言う、本当に心からの感謝の念が綴られた内容のものだった。

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結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 久遠ヶ原学園の英雄
    不破 雫aa0127hero002
    英雄|13才|女性|シャド
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 無名の脚本家
    九重 陸aa0422
    機械|15才|男性|回避



  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • そうだよ、楽しくやるよ!
    春月aa4200
    人間|19才|女性|生命
  • 変わらない保護者
    レイオンaa4200hero001
    英雄|28才|男性|バト
  • ひとひらの想い
    無音 彼方aa4329
    人間|17才|?|回避
  • 鉄壁の仮面
    那由多乃刃 除夜aa4329hero001
    英雄|11才|女性|シャド
  • これからも、ずっと
    フラン・アイナットaa4719
    人間|22才|男性|命中
  • これからも、ずっと
    フルム・レベントaa4719hero001
    英雄|16才|女性|カオ
  • 愛するべき人の為の灯火
    御剣 正宗aa5043
    人間|22才|?|攻撃
  • 共に進む永久の契り
    CODENAME-Saa5043hero001
    英雄|15才|女性|バト
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