本部

フレイムティアーズ

鳴海

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~12人
英雄
6人 / 0~12人
報酬
普通
相談期間
4日
完成日
2018/03/27 15:04

掲示板

オープニング

● この胸に炎を抱いて

「おれぁよう。かんどうしてんだよ」
 そう赤原光夜はサングラスで目尻を隠しながらさめざめと泣いていた。
 仁王立ちで声を漏らさず、伝う涙はただ厚く、シャツを濡らす。
 それを見て、ECCOは苦笑いを浮かべた。
「まーた、思いつきでリンカーはん等を巻き込むつもりなん?」
 嫌な予感がECCOを支配していた。ECCOはこういう赤原が自分の感情に酔っている時、大抵周りは迷惑をこうむる。
「巻き込む? ちげぇよ、俺が巻き込まれたんだよ」
 赤原はグイッと涙をぬぐうと具体的な説明を始めた。
「リンカーの嬢ちゃんたちでよ、昔ちっていた仲間の思い出をむねに、歌も形見も大事にしてるって言うじゃねぇか」

「俺は感動してよう。思いを大事にしてるってのもそうだが、大事にされているってこともうらやましくてよう。俺も誰かの想いを大事にしたり、されてぇんだよ」

「だからこれ……」
 赤原は告げると胸にぶら下げていた赤い水晶を差し出した。
「これどうしたん?」
 ECCOは赤原のマシンガントークの合間にそう問いかける、すると赤原はあっけらかんと言い放った。
「従魔の巣で拾ったんだよ」
 ECCOが赤原の頭を叩いた。
「英雄もいてへんのに! なにやってるん!!」
「ああ、死ぬかと思ったし、一筋縄じゃイカねぇ冒険だった。俺はこれを歌にして次のアルバムの表題曲にしてぇ、そう思ってるくらいだ」
「そう言うことを言ってるのとちゃうねんで! 危ないって言うてるんよ!」
「けどな、それ以上に収穫もあった、これがこの石だ」
「ああ、うちのはなし聞いてへん」
 そうECCOは脱力してその場で天を仰いだ。昔から危険など気に留めない性格であり、今までのリンカーへの依頼も、彼自身危険にさらされることが多かった。
 それにしても、能力者として適性があるだけの一般人が従魔の生息域に接近するなど前代未聞である。
 それをECCOは責めているのだが、それが彼には伝わっていないみたいだ。
「この石、なぁみろよ、この石。すげぇんだぜ」
 告げると、赤原は石をECCOの額に押し付ける。見れば石の中で炎の様な揺らめきがひらひらと舞っていた。
「わかった! わかったから! で、これがなんなん?」
「俺にも分からねぇ」
「なぁ、うち帰ってええ?」
「わからねぇけど、変な泉の水によ、俺の歌を聴かせるとよ、その歌が石になって水の中に沈んだんだよ」
「はぁ、水……石」
「まさにこれは俺の想いの結晶」
「はぁ、でこれを?」
「量産してアルバムの付録にする」
「……………………はぁ」
 あまりに突拍子もなければ危険すぎる気もする赤原の申し出に、ECCOは思わずため息をついた。
 ただ、瞳を見れば自分の意志は絶対にまげねぇ、そんな意志を感じて、ECCOは説得を諦める。
「そしたら、せやなぁ、友達に相談したるわ」

● 大切な人へ送る思いの結晶。
 今回はとあるエリアへ『赤原 光夜』を送り届けていただきます。
 今回向かう一帯は南アメリカ奥地。今回のミッションに名前が必要なため『水晶の森』と名付けられました。
 木々や草花は水晶で。石については宝石で作られた、年中ずっと夜の世界に旅していただきます。
 こちらの水晶の森ですが、移動するドロップゾーンによって生成された可能性が高いです。
 今現在は周囲に強大な愚神は存在しませんが。霊力によって変質させられてしまったこの水晶の森は戻ることはないでしょう。
 この森の奥地に、粘液質な水をたたえた湖があり、その湖で赤原の歌を結晶化するのが今回のお仕事の趣旨です。
 ドロップゾーンは現在展開されていないのですが道中、あまり強くない敵に大量に出くわすことでしょう。
 さらにドロップゾーンが何らかの理由で再生成される場合があります、その場合赤原は意識を失ってしまうのでサポートをお願いします。
 さらに赤原の水晶作成のサポートを今回お願いします。

● 従魔について。
 今回軒並み魔法防御力が高いという特徴を持ちます。
 ただし、魔法攻撃をヒットさせると、輝いたり、音を奏でたりと幻想的なようです。
 あくまで周辺に生息しているだけなので、作業を静かにやっていれば集まってきませんが、赤原が謳っている時点で従魔が集まってくるのはさけられないでしょう。
 最低でもエクスキューショナー三体とは戦闘が発生すると思います。

・コーラルドラゴン
 このあたりで最強の従魔です、デクリオ級愚神程度の実力を持ちますが積極的に攻撃は仕掛けてこないようです。
 皆さんが作業する湖から十キロ程度離れた氷った海の上にいます。
 攻撃は火焔ブレスと、カギヅメ攻撃。
 動きが鈍重ですが。防御力も高く、生命力も高いので長期戦を覚悟する必要があるでしょう。

・アバタースフィア
 直径0.5M程度の丸い球体ですが、皆さんと同じ外見に変わります、と言っても材質は水晶質なので、人形っぽいのですが。
 武装はコピーした人間のものを使いますが、戦闘力は本人よりはるかに劣るでしょう。

・ クリスタルタートル
 背中にクリスタルの生えたタートルです。
 攻撃手段はクリスタルを全方位に発射する事。手足を甲羅に収めると防御力を高めたまま行動不能状態になります。
 放っておいてもいいかもです。

・エクスキューショナー
 湖で作業をしていると三体は確実に襲ってくる、水晶の番人です。
 頭のない二メートル程度の高さを持つ、人型の従魔です。
 攻撃手段はクリスタルの斧による、近接戦闘で物理攻撃力に関しては驚異の一言です。

●演奏サポートについて。
 赤原の気持ちを盛り上げつつ、下げさせない演奏サポートについて説明します。

1 楽器担当。
 ドラム、ギター。ベースが最低限欲しいのですが、他の楽器があっても赤原は喜ぶでしょう。

2 水晶回収
 湖の中に無作為に水晶が生成されるので、それを泳いで回収し、確保している人が必要です。



● 結晶化について。
 この泉の水は人の強い思いを結晶化させる力を持ちます。 
 強い思いを示すために赤原は歌を用いてますが。人によっては言葉だけ、願うだけで石を作ることができるのです。
 石についての形状はまちまちで、皆さんの望む石を作り出すことは可能でしょう、色、質感、大きさ、形。細かくイメージしてみましょう。
 この思いが具現化した石を、所持しておくか、大切な人に上げるかは自由です。


● 最初の一つはECCOに
「ほれ、ECCO」
 そう赤原はECCOの電話が終わったのを見ると、その意志を突き出した。
「ん? もう中味はみたんよ?」
「いや、最初の一個はお前にやろうと思ってな」
「ん?」
「この歌を歌った時、おまえならこの素晴らしい冒険を、どんなふうに謳うか想像してたんだ。だからこれは俺からお前に送る石にぴったりだ」
「ん~、ありがとう。せやったら遠慮なく受け取っとくわ」

解説

目標 水晶作成作業中。敵を寄せ付けない。

● 戦場について。
 戦場は半径50M程度の広大な湖が舞台です。
 浅い湖で、いちばん深い中心部でも二メートル程度の深さしかありません。
 この湖の周囲には木々が無くかなり開けていますが。20Mも行けば水晶の森となっており、この森から従魔が湧いてくるそうです。


● 自分の作業
 水晶を作成したい方は合間を縫って、作成作業に従事してください、見張りをシフト性にしたりするのも一つの手かもしれません。

リプレイ

第一章 道中

 水晶の森、現地集合から数分。
 森に響き渡ったのは少女『斉加 理夢琉(aa0783)』の叫び声に似た怒号。
「どうしてそんなことしたんですか!!」
 思わず赤原も飛び上がる声で理夢琉が告げると思わず『アリュー(aa0783hero001)』も額を抑えた。
「バカだろ…………」
「なんて危険な事するんですか! ファンが泣きます。せめてH.O.P.E.に依頼出してからにしてください」
「どあ、わ、わかったすまん」
 あまりの剣幕に気圧される赤原。そんな赤原の腰あたりをバンバン叩きながらあっけらかんと告げる少女がいる。
「ははは、まぁまぁ、珍しく赤原さんも反省してるみたいだし」
 『アル(aa1730)』はそう言うと、当たりを物珍しそうにあたりを見渡す『白江(aa1730hero002)』の手を引いた。
「……みやびじゃなくてごめんね」
 そう赤原を見あげる白江。
「いや、わりぃって話じゃねぇけどよ」
 でもちょっと会えなくて残念だったのだろう。少し大人しくなる赤原である。
「でも、それくらいの無茶したんだから、いい曲歌ってよね!」
「おう! 任せとけ」
 そのアルの激励には赤原は親指を立てて答えた。
「そうだ、今回はどんな曲を歌いたい?」
 アルが問いかけると赤原はにやりと微笑む。
「そりゃおめぇ、俺にピッタリな熱いやつよ」
「それって毎回じゃん」
「このまえは恋歌だったからな、フラストレーションがたまって、一曲一日で作っちまったぜ」
「お、ちなみに、恋愛ソングはどんな出来?」
 赤原はその言葉に顔を赤らめると、小さく、あとで歌ってやるよとだけ言った。
「ボクらは泳げるから、水晶回収をメインにサポートするよ。生成もしたいな…………白江ちゃんが少し気にしてたんだ」
「おう、時間はあるだろ? 存分にやってくれ」
「ありがとう!」
 告げるとアルは赤原に手を振って足早に駆けだす。そして『構築の魔女(aa0281hero001)』と『蔵李・澄香(aa0010)』に追いついた。
「何の話をしていたの?」
 振り返る澄香、その手には水晶が握られている。アルの言葉には構築の魔女が答えた。
「……芸術家は理解できませんね、という話を」
 構築の魔女は『辺是 落児(aa0281)』の視線に苦笑いを浮かべてこういった。
「っと、思いましたが研究者もある意味同じ穴のムジナですか」
 そんな構築の魔女は森の奥から折り返してきた、金糸の姉妹を見つける。
 『イリス・レイバルド(aa0124)』は『アイリス(aa0124hero001)』と共鳴中。
 二人は偵察帰りだった。
――また水晶の森か。本家の妖精を差し置いて良くやる事だよ。
「赤原さんも無茶するよね。単独で従魔の巣に突入には負けるけどさー」
「イリスちゃん! どうだった?」
 駆け寄る澄香。
「うん、よけられない敵が数体いるけど、倒して進めば問題ないよ。その先は一直線に泉までいける」
 その言葉を聞いて皆武装を構えた。まずはお掃除。
「赤原さんは下がっててくださいね」
 理夢琉が告げると、イリスが戦闘を突っ切って走った。

    *    *
 
 響く轟音、大地揺らす一撃、それを『東海林聖(aa0203)』は仁王立ちで見守り、聞いていた。
――ヒジリー、敵が出たよ?
 問いかける『Le..(aa0203hero001)』。
 無理もない。いつもであれば猪の一番に突っ込んでいきそうな性格だ。それにも関わらず待機するのは、ひとえに楽曲に集中するためだった。
「まぁ、ほかのやつがやるだろう」
 それはその通りで。
 現在、三体の巨人、エクスキューショナーに対しては手が足りていて十分そうだった。
「ははは! げんきだな」
 イリス……いやアイリスはその大盾レディケイオスにてその巨体を吹き飛ばすと。くるりと舞った。
 舞い散る花びら。光の粒子。それに加え妖精の翼が音を奏でる立体音響。
 それをつんざき、切り裂いて弾丸を見舞ったのは構築の魔女である。
 アイリスに迫る巨人を牽制。同時に背後から迫る一体に対しては。
 水晶の木を駆けあげり宙返りして空中から背後をとる、そのまま双銃で殴りつけ、バックステップしながら弾丸をみまう。
「アイリスさん!」
 その構築の魔女の視界にチャージ中のアイリスが映る。
 彼女に振り下ろされようとする斧。それを澄香が爆撃し。
 視界が遮られた一瞬でアイリスは側面に移動。
 踊る様な軽やかな円運動で、ガードも許さず大盾を振り回す。
 後ろから、前から、股下を抜けて背後へ自在な軌道と怪力で放たれる一撃はハードアタックは巨人を翻弄する。
 次いでアイリスはその体を下からかちあげるような弾き飛ばす。
「タフだねぇ」
 次いでアイリスは盾にて膝をからめ腹をうち。そのままタックルでエクスキューショナーを吹き飛ばした。
「周辺に敵の反応が多数あるよ」
――こちらに向かってくる様子はなさそうです。
 告げる『クラリス・ミカ(aa0010hero001)』。
「私の戦闘音で引き付けてしまわないよう発砲は可能な限り避けていきましょうか」
 構築の魔女が告げると、全員が頷いた。あまり他の個体とは戦闘しないように行きたいという意志表示。
 構築の魔女は次いで。エクスキューショナーの斧を木の影に隠れることで回避。突き刺さり抜けなくなった斧を駆け上がってその体を蹴りつけると、その巨体が地面を揺らして倒れた。
「森を通過されたら銃撃戦に移行するしかないでしょうね」
 そう四肢を撃ちながら構築の魔女はその生命活動の停止を確認した。
 そんな二人の強さに恐れをなしたのか。残された二体のエクスキューショナー、その一体が赤原に突撃しようとする。
 しかし素早くアルが間に入り蛇腹剣を振るう。
「うーん、止まらないか」
 そうアルが防御態勢に入ろうとした瞬間。巨人の動きが止まる。
 次いで。巨人の体を爆炎が包んだ。
「大丈夫ですか?」
 クラリスが言葉で拘束し、コンビネーションとして理夢琉の魔術である。
「うん! 助かったよ」
 アルは体勢を立て直し、前後不覚に陥った巨人の足を刃で切り裂いた。
 地面に転がるエクスキューショナー。
 トドメとばかりに澄香が銀の弾丸で巨人の胸を射抜いた。
 残りの一体にも終末は近い。
 アイリスがその斧を盾で受け流し、弾き返すたびに、ガラスを割るような音が森に響き渡った。
 つばぜり合い。巨人を押し返すと、甲高く伸びるような音が鳴った。
 ただ澄香がその巨人に対して魔法弾を当てると、とてもきれいな音色となる。
 それを澄香は録音している。
「何に使うんだ?」
 赤原がそう澄香に問いかけた。
「なにって」
――赤原様の楽曲に役立てばと……。
 次の瞬間また地響きがリンカーたちを揺らす。
 アイリスが巨人の斧を巻き込んで引き倒したのだ。膝立ちになった巨人の胸に、盾を叩きつけ。浮いた体にアイリスは渾身の一撃を叩きこもうと霊力を爆発させる。
「レディケイオス、CODE:000」
 それは極光の十字架となりて……。
「グランドクロス!」
 その体を粉々に破砕した。
 キラキラと舞う水晶。
 そんな門番を退けたリンカーたちを祝福するように森の奥から光が湧いてきた。
「お、もうすぐだな、行こうぜ」
 走り出してしまう赤原。
「ちょ! ちょっと待ってください!」
 その背中を理夢琉が追いかける。

第二章 演奏


 見渡す限りの輝き、泉さえも硬質な光を放っているがこれは粘液で、この水の中で水晶が生まれるようだ。
 その光景を一瞥すると到着するなり、アルはあたりにハンディーカメラを設置し始める。
 木の枝。幹の隙間等々。
 カメラが得意な相棒が見れば、きっとあっちこっち取りに行ったんだろうな。と思いながらすべて設置し終える。
「幻想的な所だし上手くいったらPVに使ってね!」
 するとアルは振り返り赤原に告げた。
「おう!」
 赤原は改めて湖面を見渡す。その視界に聖が入った。
 彼はこの光景に負けない存在感を放っている。満足する演奏をやり遂げる、そうギターをかき鳴らす。
「あと、暇があったら。水晶気になるから作りてェな!」
 その背後ではドラムが組み立てられており、アリューが準備運動とばかりにリズムを刻んでいる。
 そのリズムに聖は音を合わせた上半身をそるように指を高速で動かして、それを煽るようにアリューはテンポをあげていく。
「おうおう、やってるねぇ」
 準備が終わった赤原もギターコードを振りながら現れる。
「ちょっとウォーミングアップといこうぜ。どれぐれぇ演奏できるか気になるしな」
 それに加わるアイリスと構築の魔女。
 アイリスはその羽自体が音を奏でるので、妖精の羽をパズルの様に組み替えなおしてベースの形にし、自分の髪を使って弦にして音色を響かせる。
「みなさん派手ですね」
 告げる構築の魔女が構えるのはヴァイオリン。
「お、いいねぇ、ECCOの奴が得意なんだよ。聞かせてみせてくれよ」
 赤原の注文に頷いて答えると弓を弦に乗せ、ぴたりと動きを止める構築の魔女。
 そしてひとたび弦を引けば、空気を震わせるような重たく響く音。
 その音ですら、ちいさな水晶がふつふつと湖の中に生まれていく。
 それを理夢琉はざるですくっている。
「みんな、いいなぁ」
 言いつつも、理夢琉の体は動いている。
 赤原たちの音を邪魔しないように歌は心の中に控えるが。
 それでも楽しげな理夢琉を見て、アリューは来てよかったと頬を緩ませる。
「演奏もいいな!」
 そう締めにギターをかき鳴らすと聖は拳を突き上げた。
(……響く重低音に食欲を刺激される)
 そんな聖の中で、先ほどから静かなLe。
(…………これが終ったら美味しいご飯……)
 彼女は華より団子なのでご飯が楽しみなのである。
 戦闘が無い限りはこのまま大人しくしていようと思った。
「いや、強そうな敵が出て来たら『そっち』を倒したい気持ちにもなるが、これだけうまいやつが集まれば、ギター鳴らしてるだけでも楽しいぜ」
 告げると赤原はにやりとわかる。
「お前、見どころあるじゃねぇか。どうだ、俺とバンドやってみるか?」
 光夜の言葉に聖はにやりと言葉を返す。
「へ! 俺は俺がすげぇって認めるやつとしかやらねぇぜ」
「言うじゃねぇか、じゃあ、俺の歌を聞きやがれ」
 いよいよ楽曲に入るのか。
 そうアリューはいったんスティックを置いて楽譜を開く。
「まず一曲目。キャンディーレイ!」
 響くのは鮮烈なギターサウンドと、赤原の高音から入るラブソング。
 しかしその曲は笑ってしまうような甘々加減で、水に入ろうとしていたアルは思わず吹き出してしまった。
「あれが、こうなったんだ」
 その眼前の泉が突如光りだす。その光はオーロラのように揺蕩って、その光に導かれるようにアルは水の中に吸い込まれていった。
 そう水着に着替えたアルはその肌で湖を感じる。
「うわぁぬるぬるするぅぅ」
 全身を鳥肌でざらざらにしながらも潜るアル。
 そのまま光の中心へと泳いでいった。
――……水晶……おなかすいた……たべれる……?
 あくびと共にLeが問いかけ。周囲が和やかな空気に包まれるその時。 
 澄香がはじかれたように叫んだ。
「湖から反応!!」
 同時に気が付いていたのは構築の魔女。武装を双銃に変更して。アルの足元から沸き立った、スライムの様な、スフィアの様な化け物へとサイトを合わせた。
「音のエッセンスにしてあげましょう」
 弾丸を撃ちだす構築の魔女。
 湖のふちギリギリを走りながらスフィアへ攻撃を加えていく。
「なるべく戦闘回数は減らしたいものですが……」
 対してアバタースフィアは弾丸を受けながらその形を変えていく。
「え? なになになに?」
 アルを湖の中に振るい落とし、見上げるとそれはアルと同じ姿をとった。
「え? ボク?」
 動揺するアル。その水晶で作られたアルは喉から耳が痛くなるような高音を出し続けている。
「うわあああ、モスキート音だ。つらいなぁ」
「おう! アル大丈夫か!」
 そう声をかける聖、しかし声は自身のギター音でかき消される。
 そのギターすら、彼にとっては武器である。
「今回は千照流関係ねェな! ただの趣味だ!!」
――……いや、やろうと思えば……使えそうな技も……いいや、そんな事より演奏と迎撃……演撃……?
「ああ! もう一人の僕の歌がだんだん熱血に、そうじゃないよ! 僕の声を聴いて!」
 告げるとアルは呪符を構える。
「ボクをそんな風に真似ないで! 風評被害だよ!」
 放たれる呪符はスフィアに命中すると甲高い音を鳴らし。そのたびにアルの歌声は本物に近づいた?
「あれ? ん? どういうこと?」
 そしてそのスフィアがアルを一瞥する。
 その口が動いたようにあるには見えた。
 おもいだせ。
 そう動いているように見えた。
 直後。その眉間に弾丸が突き刺さる。
「申し訳ありませんが待ってはあげられませんよ……!」
 ついでトドメの弾丸が一発二発。
 全身にひびが入ったアバタースフィアはけたたましい笑い声をあげながら砕け散る。
「大丈夫? アルちゃん」
 そうアサルトユニットで近付いてきた澄香。アルに手を差し出す。
「ううん、なんでも」
「まさか、レーダーに映らないなんて、ごめんね、でももう本当に周りには従魔はいないから」
 そうアルを抱きかかえて岸まで運ぶ澄香。
 いったん休憩し、仕切り直して演奏するようで全員が岸に集まっていた。

第三章 願いと思い

 赤原の歌が響く。
 響く歌は叩きつけるように湖面を揺らす。そのたびに水の中では炎が巻き上がって水晶となっていった。
 楽曲に合わせひとつの水晶と思いきや演奏者の想いにも反応するらしく。ぽろぽろと泉の中では水晶が出来上がっていく。
 そのあまりの忙しさに澄香は額に汗を浮かべていた。
 汗を舞い散らせているのは演奏組もである。赤原の楽興は無駄に高度な演奏技術を要求するため聖は髪の毛をうっすらと濡らしていた。
「派手に盛り上げて行くぜ!!」
 その魂が赤原と呼応する。二人は目を合わせると悪戯を共有した少年の様な笑みを浮かべた。
 赤原の曲もカラオケで覚えている、まだまだいける。
「いい熱さだ! 乗って来たぜ!」
 プロモーションビデオの赤原の動きを真似して見せる聖。
(……ルゥは…………まぁ、きらいじゃないかな)
 そんな楽しそうな聖の影に隠れてLeはそう思った。
「いいサウンドだ! 今度はお前の魂歌ってみろよ!」
「おう。やってやらぁ!」
 聖のカラオケでの十八番に曲がスイッチ、それに赤原はのった。音楽の趣味も合うらしい。
「熱くなる事にリミッター無しでいいならトコトン行くぜ!」
「こいや!」
(………………まだやるの……?)
 Leと他一同の気持ちが合致した瞬間である。
 その曲をBGMに構築の魔女は泉に歩み寄った。海のように寄せては返すを繰り返す湖面。それにスカートが浸らないように足首までたくし上げ。縛って止めると、構築の魔女は手を差し入れた。
「…………ふむ」
 次の瞬間水が渦巻き色を内包する。生まれるのは赤・白・黒の光を内包した真球の水晶。
 それはいったい何を意味するのだろうか。
「みなさんばててるようですね、ではバトンタッチといたしましょう」
 告げたのはクラリス。赤原の曲に合わせエンジェルスビットで曲を流し始める。
「お? 俺の歌じゃねぇな?」
「でも、ノれるでしょう?」
 告げるとクラリスは赤原に歩み寄り、共鳴を澄香メインに変える。
 霊力の光が体をなめて、髪がピンク色に染まっていく。
「これは、レクイエムか? いい選曲だな。弔いか?」
 そう赤原が問いかけると澄香は首を振る。
「違うよ赤原さん」
 そして澄香はルネの欠片を手にかざしながら泉の中に踏み入った。
 曲が変わる。アイリスの演奏が、ほろびのうた。いや、希望の音に変わる。
――赤原様、一つだけ誤解がございますね。
 クラリスが告げた。澄香の瞳は冷静に湖面を見つめている。反射する光が銀色に澄香を照らした。
「昔散っていった仲間、じゃないんだよね」
――少しばかり遠くに行っているだけにございますよ。
 澄香は願いを持ってそれを掲げる、祈るように、すがるように。
「ここにあの子の心があるというなら、もしかしてだけど」
 水晶を握り、マイクなしで静かに澄香は希望の音を小さく口ずさむ。
「この湖は想いが水晶として形を成すというのなら、何か伝えてくれるかもしれない」
 次いで握った水晶から光があふれた。
「ルネさん、私たちは君の帰りを待っているからね。その為の準備は抜かりないよ。みんな本当に頑張ってるんだ」
 その光に、歌に呼応するように、桃色の水晶がプカリと浮かび上がる、まるでさらってほしいと言っているように。
 迎えに来てほしいと言っているように。
 その時である。泉全体の輝きが増した。
 まるで許容量を超えて思いを受けたようにあちらこちらから様々な光が発せられる。
 それはリンカーたちを祝福しているように見えた。
 その水の中にアルはいる。
 今アルは重たい重たい石のように背中から皆底へと沈む。ひとかきで水面に脱することができる距離、でもそれをしないのは、息苦しくないからではなく。
 そこが安心するから。
(すごい……水晶の雨がスローモーションで降ってるみたいだ……) 
 アルの想いに呼応して、色とりどりの水晶が、まるでDNA螺旋を描くように生成されては水底に沈んでいく。
 それはアルの歌の結果。
《光金糸雀》
 小さく口づさんだ歌。それに呼応して様々な思いが願いがあふれだしてきた。
 光は様々な色が解け合っている……心というフィルターを通してしまえば、出力されるのはカラフルな結晶だった。
 その光景がなんだか嬉しくて、アルは勢いよく水上に上がる。
「ぷは!」
 目にかかる水を払うと聖が手を差し出している。もう片方の手にはタオル。
「おつかれ」
「ありがとう!」
「風邪ひくんじゃねぇぞ!」
 手を取って上がると聖のタオルを受け取って、たき火のすぐそばへ。
 聖が起こしたらしい、案外器用でアルはびっくりする。
「回収しなくていいのか」
 聖が泉を指さす。
 泉は来た時の様な単色ではなく、オーロラのような多彩な色彩に変わっていた。
「とりきれないよ、それに多すぎても、特別感なくなっちゃうでしょう?」
 そう拳を開いて見せたのは、金色にも銀色にも見える光を放つ石。
「数量限定ほどワクワクするし!」
 告げると、アルは休憩が終わったら撤収しようと進言した。
 それに赤原は抗議の声を上げたが、アルは首を振る。
「だーめ」
 皆無事に帰るのが第一。危険な時間はちょっとでいいんだよ
 そんな本音は仕舞っとこう。そうアルは水晶を握りこんだ。

第四章 終りと始まり。
一同が撤収作業を終えたあと、少しだけの自由時間を与えられた。
 その間に理夢琉とアリューは手を繋いで泉に入った。
「私はアリューテュスを信じる」
「俺は斉加理夢琉を信じる」
「「絆重ねて共に」」
 二人の前に輝きが収束する。
 対して聖も水に手を付け、膝立ちになり念じる。 
 生まれたのは硬質な黒曜の様な水晶。吸い込まれるような黒と、反射する光は紫。
 それは彼女の事をイメージして作り出した水晶。
 そんな聖に、代わりとばかりにアルがタオルを手渡した。
「あれ? 白江は?」
 アルの目を盗んで白江も単身湖の中に入っていた。
(きよえが一番よく解らないのは、きよえ自身)
 湖に広がる波が一瞬静まり、湖表面が鏡のように空を移す。
 白江は思う。
「決戦を控えた今だからこそ知っておきたいのです」
 そのまま、足に水を纏わせるようにゆったりした動きで動く。
 それは舞。
 《御霊よぶ聲》
 死者の魂を鎮め生者の魂を見守る、一滴の水が大河になるような静かで大きな舞。
 この世から戦を無くす、そのために。
 生まれたのは、アルとは違い色のない水晶。
 覗けば、何かを大きく見せてくれる水晶。除けば未来をみせてくれそうな水晶。
 その水晶の中に白江は悲鳴を見た気がした、誰かの死を見た気がした。
 これが自分の心なのか。それをどうとらえればよいか、白江は立ち尽くす。

エピローグ

 澄香は帰宅前にモスケールを確認すると、泉の周辺に巨大な霊力の反応があることに気が付いて確認した。
「でも消えかけてる」
 澄香はその点を追って木々の間を縫って進む、すると。
 その体から青白い血を流したドラゴンが横たわっていた。
 ドラゴンは澄香の気配を感じると、目をあける。
 そしてニッタリ微笑んだ。
「われわれを信じるな」
 告げるとドラゴンは霊力の粒となって空へと消えた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
  • 銀光水晶の歌姫
    アルaa1730

重体一覧

参加者

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
    人間|17才|女性|生命
  • 希望の音~ルネ~
    クラリス・ミカaa0010hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • Run&斬
    東海林聖aa0203
    人間|19才|男性|攻撃
  • The Hunger
    Le..aa0203hero001
    英雄|23才|女性|ドレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783
    人間|14才|女性|生命
  • 分かち合う幸せ
    アリューテュスaa0783hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • 銀光水晶の歌姫
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