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春めく花風景
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依頼前の挨拶スレッド
最終発言2018/03/07 21:52:39 -
桜の大木討伐作戦
最終発言2018/03/07 00:42:46
オープニング
●花屋敷
俗に花屋敷と呼ばれる庭園が都心に近い場所にあった。
春には幻想的な空間が広がるそこには多くの観光客が訪れる。
そんな庭園には、桜の木があった。春近く、満開になった桜の花びら風にあおられひらひらと落ちていく。
桜の大木の近くで花見をしていた団体に災禍が降り立ったのはその時であった。
「きゃぁ!」
敷き布の上には並べられた酒の瓶が次々となぎ倒されていく。それは、まさに真上の桜の木の仕業で。枝が手のように伸びて、客を襲おうとしているのだった。
花見客は早々に逃げ回り、泡を食ったような表情で、作られていく惨状を見ていた。
花屋敷の係りの者が、急いで避難誘導をはじめる。
その間にも大木は狂ったように枝を伸ばし広げ、近くの花々を引っこ抜いたは虚に放り込んでいる。花々が放り込まれるごとに桜の大木は大きく成長しているようである。
●エージェントたち
「花屋敷の職員から緊急要請が入りました。状況は説明した通りです。現状、辺りにある花を食い散らかしているらしいとのこと。商品としての被害も甚大になる前に皆さんに大木から愚神を追い出してほしいとのことです。また、出動は真夜中になります。周囲の草木にはなるべく被害を出さないよう念頭に置いてください。よろしくお願い致します」
●討伐後には
「庭園の整備を少しお願いするとのことです。もちろん報酬は出ます。被害を受けてしまった場所への苗植え等、土仕事になりますが、終わったらお茶と軽食も出るそうですよ」
解説
●目的
周囲の草木に被害を与えないよう(できれば大木にも与えないよう)愚神の討伐
●現場
都内近郊
●登場
桜の大木に降りた愚神(デクリオ級)一体
周囲の草花から生気を得てどんどん巨大化している。時間によりどんどんと巨大化していく。
枝での攻撃を行う。巨大化しすぎると地面から出て歩き出すかもしれない。
※PC情報※
・深夜なので暗いです。街灯はありません。
・庭園は木々により複雑な迷路のように見えますので迷うことなきよう。
・大木はある一点を狙うことで甚大な被害を与えることができます。
リプレイ
●庭園到着
真っ暗な庭園に幾つかのライトが光った。
数人の土を踏む足音がする。光源は彼等の持つ懐中電灯である。
紫 征四郎(aa0076)他数人の要請により、懐中電灯が支給されたのだ。懐中電灯の明かりが辺りをバラバラと照らす。径らしい径も見当たらないがどこを通っていくべきなのか。
木霊・C・リュカ(aa0068)は辺りを懐中電灯で照らしながら頬を緩めた。
「いいじゃない、ここファミリー花見スポットとしては穴場かもよ!」
そう、辺りは見渡す限り花。上から下まで綺麗に色づく花々が出迎えてくれていた。夜でなければ尚良い景色であっただろう。
「わわ、そんな素敵なスポットなのに……、早く止めなければ、お花が全部無くなっちゃうのですよ……!」
『まーったく、花見の場にまで出てこなくて良いだろうによ!』
ガルー・A・A(aa0076hero001)と紫がその言葉に同意する。
他の面々も全くといった顔である。こんな場所に降りてくる愚神は何を考えてきたのか、全くもって謎だ。
「花見の時期ってだいたい何かあるよな~」
『千颯! 今は任務中でござる。気を引き締めるでござる』
虎噛 千颯(aa0123)と白虎丸(aa0123hero001)がそれに続く。二人の腕にはウェポンライトがつけられていた。
事前に手配して入手した園内地図をオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)は全員に配りながらマッピングシートと組み合わせる。鐘田 将太郎(aa5148)と海峰(aa5148hero002)の二人もパンフレットを受け取りつつ、ウェポンライトを使用しそれを頭に叩き込んでいた。
「なるほどこりゃ迷路だな」
鐘田はふむと顎に手をあてうなずく。
『花ならば匂いでわかりそうなものだが、こう種類が多くては…』
「地道に目で見て探すしかねぇだろ」
その言葉に海峰も、うむとパンフレットに目を落とす。
アリス(aa4688)と葵(aa4688hero001)もパンフレットに目を落としながら、目撃証言の場所と思われる近辺に印をつけていた。同じくパンフレットを見ている茨稀(aa4720)とファルク(aa4720hero001)に目撃証言の情報を共有する。
「ここ……辺りでしょうね」
茨稀の言葉にアリスは無表情で頷く。
志賀谷 京子(aa0150)とアリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)は辺是 落児(aa0281)と構築の魔女(aa0281hero001)と共にパンフレットを覗く。
「春は不安定になるというけれど、桜の木に降りるなんてね」
『さすがに存在が揺らぎすぎでしょう』
「ロロ――」
『そうですね……それに真っ暗だ』
見回す限り彼らの持つ懐中電灯やウェポンライト以外に光源はない。十六人はその暗闇の中へと分け入っていった。
懐中電灯とマッピングシートのおかげか、なんとか迷わずに件の大木の場所を探り当てたエージェント達は来てそうそう顔を顰めることになる。
●桜吹雪
もしゃもしゃ、大木が自らの枝でもぎ取った花々を次々に虚へと飲み込んでいく。
時折吹く風に、大木から桜の花弁が舞う姿は美しい。
じっとそれを見上げたアリスが言う。
「夜桜か。悪くな、い」
『散る様はまた美しく感じます』
「……終わりとするか、始まりとするか……見る者が決める事やも知れん、が」
『始まり終わる。終わり始まる……全てはそういうものやも知れません』
「兎角、花は桜木、人は武士……此処で武士とならん様に、だ、な」
葵はそれに頷き答えた。
『御意』
そう、もしゃもしゃと周囲の草木を構わず食ってさせいなければ、美しいのだが。
アリス達の横で桜の大木を遠目に見ていた鐘田が口を開く。
「デカいような気がすんだけど……気のせい?」
『周囲の草木を食って大きくなったのだろう』
海峰の言葉に鐘田はふむと顎に手をあてる。恐らく海峰の言う通りであろう。でなければここまでデカくはならない。これ以上庭園を荒らされては後片付けも困るというもの、周りのフォローをしつつさっくり倒そうではないか。早く倒さねばこの庭園の草木全てを食い倒す勢いである。全く食い倒れツアーはやめて頂きたい。
志賀谷が半目で桜を見つつ言う。
「動き回ってる本体を意識から外せば、夜桜花吹雪増量中って感じでなんとか風情が……」
『ないですね』
しかしその言葉は構築の魔女にばっさりと斬られた。
現実逃避をしたくなるのも無理はない。桜自体は綺麗なのだ。虚さえ除けば。虚は草木を無闇矢鱈に食べているせいか、土塗れになっている。
「ないかー。ホラーならともかく、怪獣映画っぽいしなあ。さ、行こうか」
徐に志賀谷はリンクする。桜と酷似するような髪色がウェポンライトに煌めいた。リンクする前にランタンを敵から離れた場所に大木を囲うように設置していたため、大木はライトアップされたかのように照らし出されていた。
志賀谷は手にした双銃で薙ぎ払うように攻撃してきた枝自体に発砲する。弾丸の威力に耐えきれなかったのか、枝が折れる。
ばき、と音をたてて折れた枝がぼとりと生気を失って地に落ちた。
「張り巡らした根から生気を奪うとかじゃなくて、直接食べるとは食いしんぼにもほどがあるな」
『(愚神も取り付く相手を間違えたと思っているのでは?)』
「動けないもんねえ。今のうちに倒さなきゃ」
志賀谷とアリッサはそう会話しつつも一歩後ろに下がった。
片腕をもぎ取られた大木は残りの片手で草木をさらい、その虚へと飲み下していく。
リンクした茨稀は金色に光る瞳を虚に向けて、草木を飲み込む虚にへとウレタン噴射をするが、木の腕に遮られてウレタンは木の腕に付着してしまった。
「ちっ……ダメか」
辺是がリンクするとそこにはたいそう美人な魔女が現れた。今回は実弾を使わない方が良さそうだ、というのは構築の魔女の考えである。
ノクトビジョン・ヴィゲンにより暗視を実施し、ノイズキャンセラーによる意識の明瞭化で愚神の動きを把握する。
ライヴスゴーグルにて愚神の所在をもう一度確認し、ライヴスの濃度が高い場所を探す。
「見つけました」
ガンライトで口と根っこを照らす。
「どちらが起点になっているか……、怪しいようなら口の中を攻撃してみましょうか」
ストライクを使用して、幹の根元を攻撃するが、せりだしてきた根っこにより弾き飛ばされる。
これもまた、効果が与えられなかったらしい。
「すみません、あまり手荒なことはしたくないのですが……!」
リンクした紫はその藤紫色の髪を風に揺らしながら、フットガードを使用しつつ、虚に対しウレタン噴射をした。花を貪ろうとしていた隙をつかれ、虚にぴったりとウレタン噴射機からウレタンが噴射される。命中だ。
大木は虚という口をふさがれ、今度は片枝を土中へ差し込む。花を食べることができぬと知った大木は土中から力を吸収することにしたのだろう。
桜の大木が幹を大きく震わせ、その花弁が鋭いナイフのようにリンクした八人に目がけてひらひらと流れてくる。その桜吹雪に隠れるようにして土中から引っ張り出した一本の枝を大きく薙ぎ払った。
桜吹雪を避けようと飛び退こうとしたアリスは運悪く太枝に薙飛ばされる。しかしアリスはすぐに立ち上がり、その和装束を翻し、飛び上がると枝を切り落とし、着地する。
共鳴したリュカもじっとその金色の瞳とLSRで狙いを定め、今にも歩き出しそうな根っこに放つ。根っこへのダメージは大きかったらしい。両腕を失った大木はさらに他の根っこを出し、歩きだそうとしはじめる。
「征四郎ちゃん知ってる? 桜の木の下には遺体が埋まってるんだぜ〜」
紫はリンクした姿で思わず失笑しながら喉でくっくと笑いながら口元に手をあてた。
虎噛が言う言葉に白虎丸は慌てた様子で返す。
『千颯! 嘘を教えるでないでござる!』
そんな白虎丸の言葉はどこ吹く風といったように今度はリュカと共鳴しているオリヴィエへと虎噛は言った。
「桜と言ったら花見だぜ! リュカちゃん~花見酒しようなんだぜ~!」
「リュカに戻ったら頼むぜ」
共鳴していたオリヴィエもそう答えて躱す。
『千颯! それよりもまずは愚神を倒すでござる!』
「もー白虎ちゃんは硬いんだから~」
虎噛がリンクすると緑色の髪に、虎の尻尾がくいっと動いた。
「ほいっと。根っこが出そうだな?」
基本はフォローに回ろうと思っていたがこのまま大木に動き出されてはいくまい。さて、と振りかざした、飛盾「陰陽玉」を振り飛ばす。大木の根は千切れ、まるでなめくじが分断されたかのように動きは鈍くなった。
鐘田は負傷したアリスにケアレイを使用し、回復させる。
「俺はフォローにまわるから、後は頼むぜ」
「わかったわ! 行きますね」
志賀谷は再び双銃を構えると根っこに思い切り弾丸を打ち込んだ。弾丸は根っこに炸裂する。大木の根は動きを止めた。否、大木自身の動きも止まったのである。
大木はあっけなく動きを止めた。残るのは夜風に吹かれる桜吹雪のみ。
●討伐後の園庭整備
共鳴を解くものがほとんどの中、鐘田は共鳴を解かずに穴が空いた箇所に土をかぶせていった。力仕事をしやすいためである。
アリスと葵は茨稀とファルクと共に事後処理を行いはじめた。
「相変わらず上着は無いの、か。憐れだ、な」
つんとした瞳で見つめながら、見事なまでの棒読み口調でファルクに向かっていうアリスにファルクが答える。
『おう、俺のポリシーだからな!』
まるでやせ我慢といえるだろう。春先の夜風は寒そうに吹くのであった。
茨稀がぽつりと言葉を紡ぐ。
「桜……アリスさんたちはお好き、ですか?」
「此処へ来た時にもアオと似たような事を話してい、た。桜は嫌いではな、い。全ては終わりの為存在する。そして胎動をはじめる」
『散る為に咲き、咲く為に散るのでしょうね……』
「全ては廻っているのであろうな……其処に意味が在ろうとも、無かろうとも……」
アリスと葵の言葉に茨稀は顔を伏せた。
「俺は、嫌い、です。まるで散るために咲いているようで……」
『散り際が美しい……けど、だからこそ、咲いている様は美しいんじゃね? 俺は好きだぜ? アリス達の考え方』
「全てが廻っている……それでも、散ることに変わりは無いのですね」
しんみりとした空気が四人を包む。
こうして話している間も、なぎ倒された苗木を月明かりの下、起こして土も盛る作業は続けられていた。桜はそんな彼等の上を吹雪くように舞っている。
一方志賀谷は戦闘によって無節操に伸びた枝を切り払ったり打ち払ったりして出来上がった落枝を拾い集めてから土作業に移った。
「これ夜のうちにやるの?」
月明かりがあるとはいえ、庭園は木で光も遮られている。
『日が昇ってからでもいい気はしますね』
「人使いが荒いよねぇ」
『でも仕事は仕事ですからね、きっちりやりますよ』
「はーい」
せっせと手を動かし花植をする。
その横では構築の魔女と辺是が土ならしをしていた。
「ロロ――ロ」
『そうですね。早く済ませてしまいましょう』
いつもエージェントの仕事ばかりだから、土仕事など久方ぶりな気がする。
虎噛と白狐丸も土ならしを行いつつ植樹もしていた。
「植樹するなら折角だし、ゆるキャラ白虎ちゃんの看板も立てておくんだぜ!」
『俺はゆるきゃらではないでござる! それに看板なんていつの間に用意したのでござるか?!』
「備えあれば憂いなしなんだぜ」
絶妙にキリッとした表情で答える虎噛に白虎丸は怒りつつ答えた。
『開き直るなでござる!』
「へっへー。ま、花植が先か。うーん」
虎噛は背を伸ばし、上体をぐっとそらす。
「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿なんてことわざがあるけど、流石に折れちゃった枝は手入れしないと其処から腐食とかしちゃうんだぜ」
『来年も綺麗な花を咲いてもらうために今日出来るだけの事はするでござるよ』
二人の力強い手によってか弱い花が植えられていった。
そこへ、紫が寄ってきて、二人に言う。
「チハヤ! ビャッコ丸! おつかれさまでした、怪我はないです?」
「幸いにもないぜ! 二人は大丈夫かー」
「征四郎は大丈夫なのです。ぶじ、ならよかったです」
紫も花植に加わり、順調に食い荒らされた地帯は花が植えられていた。花は職員が用意したものだが、花の用意をするくらいならエージェント達にやらせないで、自分達でやってくれとはここにいる者の総意である。
一方ガルーは最近避けられているような気がしていたオリヴィエに、今なら逃げられぬだろうと近づいていく。
『リーヴィ、お前最近俺様のこと避けてる?』
オリヴィエはぐっと顔を伏せて答える。
『……さ、けてない』
オリヴィエ自身避けてしまっている自覚はあった。そういえば、そう、去年も同じように桜についた従魔を倒す依頼を受けていた。そして、去年も同じような気持ちだったことを思い出す。
ずっと同じ気持ちなのに何も進展していないことに自己嫌悪をいだきながら、土をひたすら掘っていた。
『……そう。ならいいんだけど』
と答えつつ、征四郎やオリヴィエの早い成長と共に置いていかれてしまうような感覚を覚えて、少しばかりの寂しさと苛立ちを隠しながらオリヴィエが掘った穴に花を植えた。
『掘りすぎじぇねぇか?』
『……大丈夫じゃない?』
『ま、いいか。よしよし、お疲れさん』
ガルーはオリヴィエの頭を腕でぽんぽんと叩いた。手は汚れているからである。
オリヴィエは赤く染まった頬を隠すように下を向く。
そんな二人を微笑ましく感じ取っていたリュカの方へ紫が来て言った。
「リュカ、どうしました? ちょっと懐かしいみたいなお顔です」
不思議そうに話しかけ、首をかしげる。
「そう見えた? せーちゃん凄いなぁ」
紫に言われてはじめて表情に出ていたことに気づいた。自分がこの紫より小さい頃に亡くなった祖母が手入れしていた家の片隅の花壇を思い出すのだ。
「ふふ、ほら、うちの庭の隅っこさ、春になるとたくさん花が咲くじゃない。ここも綺麗だったしさ、凄いなって」
「はい! お花、とっても綺麗なのですね。晴れた日にまた、見に来たいのですよ」
「その時はお弁当とか持って一緒にこようか」
なんて口約束をしつつ、リュカは微笑んだ。
例え重度弱視者だとしても、決して視えない訳ではない。感じ取れることができるのだ。
だから、自分のパートナーである、オリヴィエの気持ちは応援してやりたいと思っている。
エージェントと英雄達のおかげで、荒れ果てた有様だった庭園もようやっと元以上の姿を取り戻した。美しい花弁を月明かりにさらしている。春風がそれを優しく揺らす。
●軽食タイム
太陽が、ゆっくりと昇ってきた。荒れた庭園も、エージェントと英雄の働きにより、驚くほど綺麗になっていたから、尚更陽光が映える。
朝日に照らされつつ、花屋敷で特上の縁側がある和座敷に通され、エージェントと英雄達は出された軽食を頬張っていた。
幕の内弁当に、サンドウィッチ、お茶とジュース。これで真っ昼間であれば花見気分なのであるが、あいにく彼等は二仕事も終えた後である。
だらりと横になるものや、縁側に座って臨んだ庭園に目を細めているもの、サンドイッチをひたすら頬張っているもの。それぞれである。
「うーん綺麗になったな」
鐘田の言葉に海峰はうむと頷く。
『まさか整備までやらされるとは思わんかったがな。そういう依頼だ、仕方ないか』
「ま、休憩もあるからいいだろ」
同じく縁側で座っていた構築の魔女と、辺是、志賀谷にアリッサは食事をとりつつ話していた。
「お花見ならいいのですけど……これでは風情がありませんよね」
『ロローー』
構築の魔女の言葉に辺是は同意する。
「終わってみればきれいな桜ではあるけれど……、そのうちちゃんと花見もいこうね!」
『せっかくの花見なら落ち着いて見たいですしね、お弁当は作りますよ』
志賀谷とアリッサの言葉に構築の魔女はふと微笑む。
『それは楽しみですね』
和室で座布団の上に座していた茨稀とファルクは弁当をつまみつつ、欠伸を噛み殺した。
「こうして、朝日の下に見る庭園も……綺麗ですね」
茨稀は言う。
「眠いのな、ら。寝てもかまわん、ぞ」
アリスの言葉に、茨稀は首を振った。
「いえ……皆さんと花見らしきことができるのも珍しいことですし……満喫しておこうか、と」
そう、エージェント達はいつも暇ではないからこそ、こんなひとときが愛おしい。
茨稀はそう思っているのである。こんな日常を失いたくないからこそ、愚神を倒しているのだから。
「アリスさん……、傷は大丈夫ですか」
「問題ない。鐘田からケアレイも受けたしなすぐ癒え、る」
「無茶、しないでくださいね」
ファルクはそんな茨稀とアリスを見つつ、茶を啜る。
『またこうして桜が見れる時が来りゃいいんだがな』
『来てもらう為に私達がいるのでしょう』
ファルクの言葉に葵がふっと冷静に笑い返す。
『また来年も咲くといいでござるなぁ』
白虎丸はこの座敷から大木の方向を見て言った。
「きっと咲くぜ。なんせオレ等が手入れしてやったんだぜ? 咲いてくれなきゃ困る」
『そうでござる。俺達は手入れに最善をつくしたでござるからな』
虎噛はお茶をあおりつつ、ぷはぁと酒を飲んだかのように息を吐いた。息子と共に花見にでもこれたらな、と思うのである。
この仕事をしていると、どうにも休日という感覚が麻痺してくるものだから。
桜の大木が集めたこの不思議な縁にも感謝しつつ、またどこかで顔をあわせるであろう彼等がその時まで無事であることを祈りながら。
この世界の平和の為に、エージェント達は今日も愚神を倒す。