本部

特殊AGW運用試験 ~雛祭ver.~

一 一

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~10人
英雄
6人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/03/30 19:33

掲示板

オープニング

●緊急事態
「ぐああああっ!!」
 東京海上支部・屋外演習場。
 この日、とある試作AGWの試運転が行われた場所で、悲劇は起こった。
「PY-17! ライヴス供給弁およびエネルギー変換機構に異常! これは……被験者のライヴスを際限なく搾取し、強制的に起動状態を維持している模様! 現在進行形で増殖の兆候あり!」
 ――ドッカーン!!
『ぎゃああああっ!!』
「AR-17! 場内に配備した試作AGW全機に送信した起爆および停止信号拒絶! さらに回収に向かった職員のライヴス反応を判別せず誤爆を確認! 遠隔制御装置と識別回路に問題が発生した模様!」
「くそっ!」
 次々と聞こえる悲鳴と報告に、『特殊状況下を想定した特化型AGW開発部(略称・特開部)』の主任はデータ測定機材を置いた簡易机を殴った。
 サングラスがトレードマークの厳ついおっさんは、常の冷静さを失い焦燥をにじませる。
「外部干渉における緊急停止措置――失敗! 先ほど物理的な装備解除を試みた結果、ライヴス吸引事故が発生し被害拡大! PY-17は完全に暴走しています!」
「AR-17も引き続き多方面からアプローチを続けていますが、すべて不発! また、PY-17から余剰ライヴスの供給ラインが形成され、時間経過による機能停止も望めません! 依然、制御不能のままです!」
「何だと!? 姉妹機のAGWではあっても、相互にライヴスを補完しあう機能など搭載していないぞ!? まさか……PY-17の学習型AIが自己判断したか!」
 小難しい会話ばかりだが、要するに試作機が暴走して危ないってことです。
「……ぐっ! はぁ、はぁ、はぁ」
「っ! 主任! このままでは被験者の生命維持にも支障が!」
「――やむを得んか」
 キーボードを乱打する音と部下の叫び声を受け、主任は立ち上がった。
「エージェントに救援要請を出す! 各員、引き続き事態収束に全力を注げ! すぐに戻る!」
『はいっ!』
 頼もしい返事を背中に、主任は全力で駆けだした。

●ついにやらかした!
「緊急事態のため口頭で失礼する! エージェントに応援を要請したい!」
 東京海上支部のロビーへ到着した主任は、大声で窮状を訴えた。
「私はグロリア社の者だ! 本日、演習場の使用許可を得て行っていた試作AGWが暴走した! 現在も手を尽くしているが、我々の手だけでは厳しい! 人命もかかっている! どうか、協力してほしい!」
 突然の依頼に居合わせたエージェントは困惑するが、声音から切迫した状況だと判断し立候補者が現れる。
「すまないが時間が惜しい! 詳細は現場までの道中で説明する!」
 言うやいなや、主任はエージェントたちを先導してロビーの外へ飛び出した。
「暴走したAGWは2種。1つは腕輪型の疑似生物召喚タイプ。もう1つは広域戦闘を想定した地雷型。衝撃を加えたり特定条件を満たしたりした瞬間に爆発する、範囲攻撃武器にあたる」
 一般人にしては早い速度で走る主任の言葉を、エージェントたちは頭に叩き込んでいく。
「腕輪の型式は『PY(ピヨ)ー17(ヒナ)』で、通称『雛祭(ヒナフェス)』。地雷の型式は『AR(アラレ)-17(ヒナ)』で、通称『雛霰(クレヒモナ)』。どちらも『雛祭り』をモチーフにしたAGWになる」
 そこで一気に雲行きが怪しくなり、エージェントの頭上に『?』が浮かぶ。
「我が部署に所属する職員によると、『雛祭り』は雛――ヒヨコを模した爆弾をそこら中で爆発させ、魔除けとする風習なのだろう? 同様に、昔は『雛霰』という兵器を周辺の地面に埋め、期間中によく出没した蛮族や盗賊などの外敵から町を守っていたと聞いたが?」
 待て!
 日本の『雛祭り』と中華圏の『春節』で見る爆竹が混ざってんだろ!
 しかも『雛祭り』に関しては名前以外はデタラメじゃねーか!
「そうした説話を元に作られたAGWが、突然暴走した。原因は不明で、PY-17を装備した被験者はライヴスを際限なく奪われている。迂闊(うかつ)に近づけば君たちも危険だろう」
 ツッコミどころは満載だが、事態の深刻さは事実のようで表情を引き締める。
「そこで、まずはPY-17により増殖するヒヨコ爆弾の殲滅と、設置されたAR-17の除去をお願いしたい。その間、我々『特開部』はPY-17本体の無効化に尽力する。それで事態は収まるはずだ」
 やることはわかったが、どうして爆発させるのが効果的なのか?
「両機とも制御機構(リミッター)を設けていないのでな。おそらく、ライヴスの過剰供給が誤作動の原因である可能性が高く、現状ではもっとも効果的な手法だと考えただけだ」
 リミッター積めよ!!
「――ついたぞ! 各員、健闘を祈る!」
 そうして部下のところへ戻った主任を見送り、エージェントたちは地雷原となった演習場へ入っていった。

解説

●目的
 暴走AGWの被害抑止

●登場
 グロリア社の『特殊状況下を想定した特化型AGW開発部(略称『特開部』)』の主任及び職員
 全員開発プロジェクトに携わっている技術者で優秀
 基本的に研究・開発に没頭しており常識に疎く、頭のネジが外れている

●状況
 問題発生は17:17
 場所はH.O.P.E.東京海上支部の屋外演習場
 愚神襲撃で崩壊した都市を想定した、障害物の多いフィールド

 主任がH.O.P.E.へ救援要請を出し発覚
 運用試験中に試作AGWがリンカー職員数名をライヴス源にして暴走
 到着時は演習場内にいるが、いつ場外に影響が出るかわからない

●試作AGW
・雛祭「ヒナフェス」
 召喚型AGW
 フィールドに17体配置
 まん丸レモンボディが自慢なヒヨコを呼ぶ腕輪
 サッカーボール大の大きさで勝手に動く
『ピヨピヨ』と絶えず鳴き、かなりうるさい

 特殊効果
・1点以上のダメージ→爆発(範囲3・必中・防御貫通・ダメージ1D10)
・鳴き声17回(2~3R)→1D6判定
 奇数→爆発(同上)
 偶数→増殖(+1D10体・上限なし)
・フィールドにラスト1体→キングヒナへ進化
 出現後1R→大爆発(範囲50・必中・防御貫通・ダメージ2D10・BSアフロ付与)

・雛霰「クレヒモナ」
 地雷型AGW
 範囲2+ダメージ2D6+BS狼狽付与
 フィールドに17個配置
 地中に存在し一定量のライヴスに反応(該当スクエアに移動)して起爆
 ライヴスで強化された雛霰が散弾のように破裂

 特殊効果
・発見判定→『難易度80<命中×1/100+1D100』成功(装備・スキル補正無効)
・回避判定→『難易度80<回避×1/100+1D100』成功

●その他
・重体判定なし(戦闘不能あり)
・BSアフロの注意点
 →スキル等での解消不可
 →非共鳴時もアフロ状態持続
 →数日経過で自動回復=数日間はアフロ生活
・地雷起爆後→スタッフが雛霰を回収し美味しくいただく

リプレイ

●アフロを付けましょ爆弾で~♪
 道中の説明で、エージェントの反応は様々だ。
「暴走元は『特開部』か! 嫌な予感がする!」
「なんとしてでもとめるのです!」
 以前も『特開部』の試験に参加したことがあるユエリャン・李(aa0076hero002)と紫 征四郎(aa0076)は、経験則でヤベーブツが待っていると確信。新型兵器の暴走を止めようと、表情は真剣だ。
「だから安全に気を配れって言ったのに……」
「へぇ~クレイモア型ですか~。……あれ、確か節分の時に……気のせいですよね~?」
 特に、前回の試験に参加していた古明地 利博(aa5567)と兎川 結衣(aa5567hero001)の呆れは強い。そこでふと、結衣がその時に思いつきをぽろっとこぼしていたと思い出す。
「――(グッ!)」
「よし、何としても止めるぞ!」
「ですね~」
 その答えは、無言で親指を突き立てる主任の姿がすべてを物語っていた。
 知らぬ間に共犯者となっていた利博と結衣は、いっそう依頼達成に意欲を見せる。
「どうしてこうも微妙なものばかり作るんだ、ここの部署は……」
「企画会議とかが行き詰まると変なテンションになるらしいし、それが原因とか?」
 風の噂で特開部の危険性を耳にしていたベルフ(aa0919hero001)のため息に、九字原 昂(aa0919)は常識的な推測を口にする。
「それにしたって、他にやりようがあっただろうに……」
 だが、経緯と結果の馬鹿馬鹿しさにベルフは軽い頭痛さえ覚え、昂も苦笑がこぼれていた。
「その他の注意事項として、制御機構(リミッター)未搭載により火力の保証ができない! 各員、爆風による肌の火焼けや縮れ毛程度は覚悟しておいてほしい!」
「もしアフロになっても、お兄さんかっこいいって言ってくれる……?」
 さらに、持ち場へと走っていく主任が暴走AGWの威力について言及すると、木霊・C・リュカ(aa0068)が凛道(aa0068hero002)に振り返った。
「アフロデモマスターカッコイイデス!」
「じゃあがんばる~★!」
 めっちゃ棒読みの凛道だったが、リュカは満足なようで元気よく共鳴した。
「ちょっとヘアスタイル変えてみてもいいかなって思ってたんだよね~」
 一方、完全に面白がっている葛城 巴(aa4976)は純粋に状況を楽しんでいた。リュカ同様、ウケ狙いでついてきた雰囲気が否めない。
「さっさと片付けて食いまくるぞ」
 とはいえ、巴に『終わったら雛霰が食べ放題』とそそのかされたレオン(aa4976hero001)はそれに気づかず、演習場に着いた瞬間に共鳴して《白鷺》と《烏羽》を取り出す。
「送還ついでに観測してやる。主任は冷静にデータとっとけ。俺たちの爆死を無駄にすんな」
「無論、ただでは死なんがな!」
 最後に、元より爆死を覚悟しているニノマエ(aa4381)とミツルギ サヤ(aa4381hero001)が共鳴し、死出の御剣を手に地雷原へ突入した。

●綺麗に上げましょボムの華~♪
 ピヨピヨピヨピヨ!!

 もはや音の暴力と呼べる大合唱が耳をつんざく。
「もふもふではないか! ふざけるな、ヒヨコ型だと……」
 黄色い羽毛のまん丸ボディ、つぶらな瞳、小さな嘴、チョコチョコ動く愛らしさ。
 全部狙ったようにしか見えないそれに、ユエリャンは目を奪われた。
「こんな……しなやかな筋肉も強靭な骨格もない……なんとあざとい……」
「フラフラ行かないでください!! あれが今回の敵ですよ!」
 一瞬でヒナに魅了されたユエリャン、征四郎に服を掴まれ止められる。
「征四郎、あの、少しだけ顔を埋めて来ても良いか……?」
「だめです!! よだれ拭いてください、共鳴しますよ!」
 そんなやりとりの間にヒナは歩き去り、残念そうなユエリャンと征四郎は共鳴した。
『ひとまず各人散開して、索敵と処理を並行しましょう』
 すると『特開部』から借りた無線に呼びかけ、昂が基本方針を確認。演習場がそこそこ広く、破壊対象が分散しているという主任からの情報から立てた作戦だ。
『でも、被験者が演習場の外にいてよかったよ』
「中で倒れていたら、運ぶのに苦労したでしょうね」
 オートマッピングシートを起動させつつ、共鳴したリュカに凛道が頷く。演習場内にいた場合、歩く爆弾や地雷に加え見境なくライヴスを吸うAGWにも気をつけて避難させねばならず、難易度が上がっていたはずだ。
『ああああ1匹連れて帰りたい!!! ヒヨコは尻が最高』
「もー、頭の中で騒がないでください!」
 共鳴してからも騒がしいユエリャンに文句を言いつつ、凛道とともに行動する征四郎は『地不知』を発動。スカーレットレインの銃口をヒヨコの尻に向けた。
『ライヴス無限喰いか……食べ盛りのヒヨコ召喚ではなくて、ニワトリ召喚だったら良かったのかもな!』
「関係なさそうだが……」
 腕輪の性能に独特な意見を出したサヤに、瓦礫で身を隠したニノマエは肩をすくめて顔を出す。視線の先には、1体のヒヨコ。
「PY-17の弱点は、遠距離攻撃に対して反撃手段を持ってないことか?」
 まずニノマエは性能分析に徹し、ヒナの動きを観察する。次にこちらを『敵』と認識するか確かめるため、姿を現してみた。
「勝手に動く割に敵を認識するのか。移動力は――遅いな」
 チョコチョコ寄ってきたヒナに感心しつつ、今度は爆発範囲を確かめるため『ストームエッジ』を発動。

 チュドーン!!

「……味方への巻き込みがあるなら、利用すれば楽はできそうだな」
 結果、巻き上がる火柱と強烈な爆風が発生し、ニノマエは絶対に近づかないよう心に決める。
「少しでも威力が弱まればいいが」
 その頃、レオンは『ライヴスフィールド』を発動。演習場全域とはいかないが、ライヴスの結界が張られたことを確認した。
「召喚型について行けば、地雷型の有無はわかるはずだ。……口の中は鍛えられないからな」
 次に、レオンは元気に動く1体のヒナの後ろにつき、幻想蝶から取り出したカラースプレーを歩いた跡に少量ずつ噴射して目印を残す。腕輪を外そうとして倒れた職員が地雷担当で、他の職員は大ざっぱな位置しかわからないからこその警戒だ。
 地雷がヒナに反応しないパターンも想定するレオンは、霰の直接口撃に備え『タフネスマインド』を意識しつつ、それなりの距離を保って追跡と地雷捜索を続ける。
「俺が地雷なんかに引っかかるわけないだろ!」
 他方、共鳴した利博は1人、強気で演習場の中をどんどん進む。地雷の位置情報に合致する場所では多少の警戒をするものの、利博はヒナの索敵を中心に走り回――

 カチッ!

 ズドンッ!!

「――ってぇ」
 破裂した地面から散弾のような雛霰に直撃し、利博はうつ伏せで痛みを堪える。見事にフラグを回収し被害者一号となった利博は、服にこびりついた霰を一粒食べた。
「……クソが」
 節分の豆を思い出すくらいには美味で、相変わらずな芸の細かさに敗北感がより一層強くなる。
「はぁ、少しは真面目にやるか」
 反省した利博は『鷹の目』を飛ばし、上空からヒナの位置を特定しようとした。
 が。

 ピヨピヨピ――

 チュドーン!!

「は?」
 次の瞬間、勝手に上がった火柱に鷹が飲み込まれ、空が晴れると鷹は消えていた。
「……おいおい、アイツらわざとじゃねぇだろうな!?」
 それを見た利博は火への恐怖心が刺激され、冷や汗が止まらない。
 前回も含め『特開部』は的確に利博のトラウマを突いており、もはやピンポイントの嫌がらせだ。
『え? 勝手に爆発したの?』
「――厄介な性質ですね」
 流れてきた通信を聞いたリュカの声に、ポルードニツァ・シックルで遠距離からヒナを爆発させた凛道は顔をしかめた。
 この演習場は救助訓練などに用いられる環境のため、障害物や死角が多い。もし瓦礫の陰にいたヒナが爆発すれば、簡単に不意打ちを食らう可能性がある。
「建物の倒壊にも気をつけなければいけませんね」
 特に背が高い建物の周囲を警戒しつつ、凛道はモスケールで探索。
「……本当に、厄介な性質です」
 そこにはヒナらしき影は映るが、ステルス性能が高い地雷の反応はゼロ。
 無駄に高性能なAGWに、凛道もため息しか出ない。
『AIの学習機能があるなら、向こうの行動にも変化が出るやもしれんな』
「今のところは、ただのヒヨコなのです」
 少し落ち着いてきたユエリャンの分析に、『ターゲットドロウ』でヒナの誘導をする征四郎が凛道の視界に戻ってきた。
「近くにいたのはこれだけでした。もう少し奥へ行ってみましょう、リンドウ」
 そして、密集したところで銃弾を撃ち込み起爆。壁をタタタッと上った征四郎は、次の目標を探して走る。

●後半一気に増えてきた~♪
 チュドーン!!

「それにしても、どういう状況でこれを使うつもりだったんだろう?」
『自立徘徊型の機雷と地雷だからな。使い道がないわけじゃないだろうが……』
 建物の壁を『地不知』で駆けながら苦無「極」を投げた昂は、爆発の後にベルフの悩ましげな声を聞く。AGWの性能を考えると、防衛戦における牽制などなら活用の可能性はある。
 ……暴走しなければ、の話だが。

 ズドンッ!!

「――これだけわかりにくい地雷だと、埋めた場所の情報を紛失したら大変だね」
『実際にモスケールも騙すとなると、わずかな違和感から見つけるしかないからな』
 ヒナの爆発で崩れそうな建物から離れた昂が、一見何もない地面へ着地すると霰が噴き出した。ベルフの観察眼にも頼りつつ、事前に地雷があると気づいていた昂はひらりと身を躱す。
 そうして昂は攻撃でヒナを、移動で地雷を爆発させながら無傷で立ち回っていく。
「……お! いけた!」
 ヒナを見かけるとやや逃げ腰で情報共有していた利博は、『罠師』で地雷を解除していた。
 AGWなのでもしや? と試した結果、解体された地雷は沈黙。念のため、離れた位置からゴエティアでパーツごと爆破して周辺の安全を確かめた後、『罠師』で発見した別の地雷に手を伸ばす。
「コツをつかめば意外と簡単だな~」
 カチャカチャと解体の手順を踏――

 ズドンッ!!

「……次からは直接攻撃をぶち込んでやる」
 胴体に雛霰を食らった利博は、賢者の欠片を飲み込みつつ悪態をこぼした。
「――いける!」
 もう1人、スプレーを使い切った後も地雷撤去を行うレオンは、クロスグレイヴ・シールドにリフレックスを展開して偶然見つけた地雷へ抜き足差し足忍び足。

 ズドンッ!!

 盾で身構えつつ地面へ攻撃し、レオンは飛散する霰をやり過ごす。
「……食らうんじゃなくて、ちゃんと食いたいな」
 ダメージは避けられたが、食べ物が吹っ飛ぶ様子にレオンは微妙な表情だ。
「……あれ?」
 順調に爆破処理がなされると思ったが、昂が苦無で1体のヒナを処理して高所へ上ると、あることに気づく。
「報告します。演習場中央部で、ヒナフェスがものすごく増えてます」

 ピヨピヨピヨピヨ!!

 無線で仲間に連絡をしつつ、昂は見下ろした光景にちょっと引く。外側から徐々に切り崩していたためか、中央で集まったヒナが処理速度を超えて増殖していたようだ。
『さすがに危ないから、まとめて爆破するのが効率的であろう。ついでに地雷も吹き飛ぶし』
「力技すぎませんか……!!」
 情報から導いたユエリャンの対処法に悩ましげな征四郎だが、結局それ以上の良策も思い浮かばず高所からカチューシャをぶっ放した。

 ズドォーン!!

 ピヨピヨピヨピヨ!!

『むむ! 一気に増えたぞ!?』
「おいおい、被験者のライヴス大丈夫か?」
 大爆発が起こった時、違う場所では発光後に増殖したヒナの数にサヤが驚く。ニノマエは消費させられたライヴス量を不安に思いつつ『ライヴスキャスター』で一掃。
「こっからは鳴き声と三味線の音色の対決だな」
『ヒヨコどもに三途の川を見せてやろう』
 すぐに砂埃の中から現れたヒナを前にニノマエが三味線を取り出し、サヤは不敵に笑った。
「増殖の数もタイミングも不規則だけど……」
『増えるときは一気に増えるのが厄介だな』
 昂が『女郎蜘蛛』で複数のヒナを捕獲・爆発させるも、振り返ればその数倍はいるヒナにベルフがため息をこぼす。
「位置は、この辺りがいいですね」
 こちらは凛道が増殖したヒナに囲まれるような場所へ移動。数体を鎌で爆破し脱出路を確保する。
「今です2人とも!」
 そこへ、傘を広げてヒナを追い立ててきた征四郎が合図を送ると、瞬時にその場から離脱。
「行きます!」
 すると、微妙な位置調整をした凛道は『ウェポンズレイン』を発動。ドーナツ状に発生した爆発が次々と連鎖し、真ん中の空白地帯にも爆風の余波が押し寄せた。

 ズドォーン!!

『げほっ! 何でわざわざ自分中心のスキルなの!? 馬鹿なの!?』
「こほっ、これが一番範囲が広いからですね」
 文字通りクレイジーでぶっ飛んだやり方にリュカがたまらず抗議するが、凛道は軽く咳払いして涼しい顔。ついでに地雷も起爆したのはうれしい誤算か。
「っと。そろそろ数も減ってきたか?」
 地雷がおおむね処理されたため、ヒナ討伐に加わったレオンは《白鷺》でヒナを貫き周囲を見渡す。演習場の外側にあたる場所には焦げ跡が残るも、ヒナの姿はほとんどない。
「これで一網打尽です!」

 ズドォーン!!

 残る中央部に集まったヒナたちを『女郎蜘蛛』で追い込んだ征四郎が、仕込み傘の銃弾で1体を爆破・誘爆させて2度目の大爆発を引き起こした。
『これは……総員警戒! ライヴス反応が一点に集中しだした!』
 黒煙が晴れる前、無線から主任の声が響くとヒナの鳴き声が消えた演習場にひときわ大きな黄色の塊が姿を現した。

 ――ピヨオオォォッ!!

「これは――さしずめキングヒナかっ!」
 先ほどまでヒナの元気な鳴き声に陰気な音色で対抗していたニノマエが、サイズだけを巨大にしたヒナを見上げる。

『ミンナ、ミチヅレ』

「おい、しゃべったぞあれ!? しかも内容が物騒すぎる!」
 安全第一でヒナを破壊してきた利博は、どんどん大きくなるキングヒナに嫌な予感が止まらない。
『姿を見せてすぐに自爆とは芸がないぞ! 敵を抱きかかえて吹き飛ぶぐらいしてみろ!』
「いや、あのサイズじゃ抱きかかえるのは無理だろ」
 挑発に乗った? サヤがキングヒナへ啖呵を切るが、ニノマエはどんどん大きくなる黄色の巨体を眺めて冷静に突っ込む。
『おい、これ逃げた方がいいんじゃ――!』
「攻撃しますので防御を――え?」
 利博が全員へ退避を促す通信を飛ばしたと同時、昂の真逆な報告と小さな疑問の声が伝播した。
 昂の視線の先には、勢いよくキングヒナへ飛んでいく苦無が1本。
『エネルギーがたまりきる前に撃破すべきだろう』
 キングヒナの脅しを聞いたベルフがそう助言したことから攻撃を優先した昂だが、行動が迅速すぎた模様。

『ワレラノ、イタミヲ、シレ』

『何かすごい恨まれてない!?』
「あれだけ倒したのですから、無理もないかと」
 キングヒナの甲高い声に似つかわしくない台詞にリュカが驚愕する間に、凛道がアガトラムで『インタラプトシールド』を展開した。
『全員、衝撃に備えろ!』
 そして、主任の警告が爆発した、一瞬後。

『ヒナニ、エイコウアレェ!!』

 ――チュドオオォォーン!!!!

 全員の視界が、白に染まった……

●今日は楽しい雛祭り~♪
 数十分後。
「――はっ!!」
「う~ん……」
 キングヒナの大爆発で『戦闘不能』になっていた利博と結衣が目を覚ます。
『――ぷっ! あははははっ!!』
 そして、2人は同時に顔を見合わせると、互いの頭を指さして大笑い。
「はっ、我輩の美しい髪が、何ということ……!!」
「大変なのです、みなさんヒップホップの似合う髪に!!」
 近くでは手鏡で己の惨状を見たユエリャンが絶句し、全員に起こった悲劇を征四郎が一言で表現してみせた。
 そう、みんなそろってアフロヘアーになっていたのだ。
 特にユエリャンのように元が長髪だとボリュームがハンパなく、凛道は一目で吹き出し、わざわざ主導権をもらったリュカなどしばらく笑い転げる威力があった。
「ユエさん、マ○クのドナ○ドみtいたたたたた」
『凄っ! っく、ファンキーっていうか! 髪、長いから、ボリュームが凄ぃだだだ!!!』
「竜胆、木霊……何がそんなにおかしいのだ? ん?」
 ひとしきり笑った後で凛道が正直な感想を、リュカが笑いの余韻で息も絶え絶えなコメントをすると、ユエリャンに思いっきり耳を掴まれ悶絶。本気でヘコんだからこそ、笑われたユエリャンの怒りもまた強い。
「ぷふっ! は、いえ、戻ってくれないと困ります、ね」
 しかし、外から見れば実に愉快な光景に征四郎もつられて吹き出してしまった。
「……これ、一昔前のコントか何かかな?」
「……しばらく元に戻らなそうなところ以外はな」
 笑いは笑いでも、引っ張ってもすぐ戻る呪いのアフロには、髪の毛を弄る昂やベルフは苦笑い。
「初めて会った時の事を思い出すなぁ……」
 バブリーな時代のお姉ちゃん風アフロの巴は唯一、レオンのアフロと焦げた服を見てほろりとしている。
 というのも、出会った当時のレオンはボサボサ頭でボロボロの服と酷い身なりで、その髪型からライオンのたてがみを連想した巴が『レオン』と名付けたのだ。レオンの見た目は、その昔の姿と見事に重なった。
「これなら暫くは、俺は羊の『メリー』だな」
 なお、当のレオンは羊毛に見える自身のアフロに満更でもない表情である。
「むむむ、手強いのです」
 それから征四郎は髪型を戻せないか奮闘し、未だ共鳴中のリュカもお手伝い。
「ふふ、昔は流行ったんだけどねぇ」
 しかし手触りがフワフワな癖にアフロ以外を頑なに拒否する髪に、リュカはどう慰めた物かわからない。結局、巴の方を見て感慨深げに呟くので精一杯だった。
「仕事どうすっかな……休むか」
 そしてニノマエも、アフロ警備員として働くか否かの瀬戸際に立っていた。
「気にすることはない。戻るまでソウルフルかつファンキーな格好を楽しめば良いのだ。まずは似合う衣装を探さなくては。さっそく買いに行くぞ!」
 消極的なニノマエの背を押したのはサヤ。アゲアゲ警備員のデビューも視野に入れ、早速攻めた勝負服を買うためダッシュの構え。
「ええ?! その前に正しい雛祭りを主任たちに教えるべきだろ!?」
「ではそちらは任せる! 私は雛祭ケーキを買ってくるぞ!」
「ケーキならここにありますよ」
「せっかくだから、みんなも食べて一息入れない?」
 ニノマエがテンション荒ぶるサヤの手綱を放しかけた時、レオンが幻想蝶からロシアンパインケーキを取り出し、巴がエージェントたちへ声をかけた。防御をすり抜けてこんがり焼かれたダメージの回復だけでなく、レオンやサヤたちの食欲も満たせて一石二鳥だ。
「ならば、回収した雛霰をトッピングに使うといい」
 そこへアフロ主任が袋一杯の雛霰を持ち込み、エージェントたちに振る舞った。
「ん!? 美味い!」
「老舗の和菓子専門店に依頼した特注品だ。金平糖のような砂糖のトゲがあるので注意したまえ」
「あんたらはもっと安全に気を配ってくれ」
 単体で食べたレオンが喜色を浮かべると、主任も満足そうに解説する。ただ、何度か地雷の餌食になった利博は地味に殺傷力を上げてる仕掛けに渋い表情。
「ミツルギの中で雛祭とは――」
「ケーキを食べる祭! ――辛いっ!?」
 また、ニノマエは真っ先にケーキと言い張ったサヤへ、雛祭に関する認識を問うと口から火を噴いた。『ロシアン』パインケーキの当たりを引いたらしい。
「ヒヨコ型爆弾兵器、欲しかったであるなぁ……」
 何だかんだで『特開部』のAGWが嫌いではないユエリャンは、派手に爆散したヒヨコに未練を見せる。
「AIを使うより、自分で操作できるようにした方がいいんじゃないですかね~? 例えば……ドローンみたいな感じで~」
 すると、結衣が投じた新たな爆弾が主任の頭で起爆する。
「それだと戦闘中では隙が生じて……いや、設定した行動パターンを指示誘導する形なら、あるいは!?」
「――できるのか!?」
「だめですよユエリャン!!」
「お前も余計なこというなクソ兎!!」
 何か閃いた主任に食いついたユエリャンを征四郎が慌てて止め、利博は新たな火種(ネタ)を提供した結衣に本気で怒鳴った。

「……何か申し開きはあるか?」
 その後、不祥事を知った上司に呼び出された主任は、サングラスの位置を整えて事後報告書を差し出す。
「エージェントの協力により、被験者や職員にライヴス枯渇による衰弱症状が見られたものの、大事には至ってない。ちなみに、エージェントが爆殺したヒナはおよそ50体強、最後の1体に至っては学習型AIが特殊個体を生みだし、広範囲に拡散する爆発と相応の威力を叩き出している」
 主任が話す内容のほとんどは、ニノマエの助言通り爆発処理中に計測していたAGWの計測データだった。
「最後の爆発は我々も巻き込まれ、PY-17の呪いと推測されるボンバーヘアーになったが、数日経過すれば戻る見込みだ。私は気に入っている」
「そうじゃない! さんざんエージェントの方々に迷惑をかけた反省はないのか!?」
 が、途中で反省の色が皆無な主任にキレた上司が机を叩くと、グラサンがキラリと光る。
「無論、反省点は多い。よって今後、試験協力を請う際はこちらで回復手段を用意すべきと考え、報告書の末尾に新たな予算案を添付した。確認をお願いする」
「だ・か・ら! 被害前提のAGWを作るんじゃねぇー!!」
 あくまでリミッターは積まない主任の迷惑な信念に、たまりにたまった上司の怒りが罵声となって爆発した。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076

  • 九字原 昂aa0919

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 断罪者
    凛道aa0068hero002
    英雄|23才|男性|カオ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • 不撓不屈
    ニノマエaa4381
    機械|20才|男性|攻撃
  • 砂の明星
    ミツルギ サヤaa4381hero001
    英雄|20才|女性|カオ
  • 新米勇者
    葛城 巴aa4976
    人間|25才|女性|生命
  • 食いしん坊な新米僧侶
    レオンaa4976hero001
    英雄|15才|男性|バト
  • 特開部名誉職員
    古明地 利博aa5567
    人間|11才|女性|命中
  • 勇敢なる豪鬼
    兎川 結衣aa5567hero001
    英雄|16才|女性|シャド
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