本部

伊予路に春を呼びましょう

東川 善通

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2018/03/18 00:47

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掲示板

オープニング

●伊予路に春を呼ぶまつり
 伊豫豆比古命神社(いよずひこのみことじんじゃ)、通称椿神社と呼ばれ、愛媛県の名前の由来ともなる神を祀る神社。そこで毎年旧暦1月7日から3日間にわたって催される四国一の大祭とまで称される祭りがある。県民は神社を椿さん、椿神社という愛称で親しんでいる。
 祭の際には様々な出店が立ち並び、椿祭り特有の縁起飴であるおたやん飴もずらりと並ぶ。これを買うのを楽しみ祭りに参加するという人もいるくらいだ。
 今年もまた無事に祭りを迎えようとしている。

●そうだ、椿祭りに招待しよう
「うん、やっぱりこの時期はワクワクするなぁ」
「そういうもんっスか?」
「やって、稼ぎ時やけんね!」
「あー」
 カンカンとテントを立てる音に猪野(いよの)はふふふと笑う。それに従業員である乙女(つばき)はいつものことだったと手を止めていたモップ掛けを再開した。
「せやけど、こうして、また祭りが再開できるというのは彼らのおかげやね」
 まさか、映画やゲームだけだと思っていた世界が自分たちの目の前に現れたことは驚いた。しかし、彼らが、H.O.P.Eのエージェントたちが死力を尽くしてくれた。それに感謝をしないわけにはいかないだろう。
「……乙姫君、ちょっとお店頼んだよ!」
「へ? え、ちょ、マスター??」
 何を思ったのか突然、お店を乙姫に任せて飛び出した猪野に乙姫は戸惑いつつも、しっかりと猪野が帰宅するまでお店を守っていた。
 後日、H.O.P.Eに椿祭りの招待状が祭りを取仕切る実行本部の方より届いた。

「マスターが出ていった理由はこれやったんっスね。で、本当の目的は?」
「いややねぇ、乙姫君は。ただただ、久しぶりにエージェントの皆さんの顔が見たくなっただけやよ」
「ま。わからないでもないっスね」
「来てくれるとええね」
「っスね。ま、俺の仕事量は変わらないっスけど」
「当然」
 そういって、二人は祭りの会場が出来上がっていく様子を眺めていた。

解説

椿祭りを楽しんでください。

●会場
 国道から神社までの約1kmと神社からはなみづき通りの交差点までの約500mの参道。人の数が常時多いが早朝と深夜であれば、まばら。

●出店他
 金魚すくい、射的、くじ引きは勿論、お菓子の詰め合わせや綿あめ、ケバブなど一般的な出店で見られるもの。買ってその場で座って食べられる休憩所もある。なお、縁起飴とも呼ばれるおたやん飴も販売所も。境内にはお守りや破魔矢を販売する社務所の他に熊手などの縁起物の販売所も設置されている。

●費用
 椿祭りの実行本部が一人につき二万程度支給してくれている。ただし、使いすぎてしまった場合は通貨より差し引かれますのでご注意ください。

●注意事項
 大変混雑いたしますので、くれぐれも進行方向の逆走など他の方のご迷惑になることは慎みいただきますようお願いいたします。

リプレイ


 祭囃子が流れ、参道を多くの人達が行き交う。あちらこちらから呼び声が飛び交い、鼻腔を擽る美味しそうな匂いにお腹の虫が唸る。

「椿祭り?」
 誓約後初となる遠出にレン・クロキ(aa4979)と紅・ワンロン(aa4979hero001)は椿祭りを訪れていた。
「歩きながら説明するよ」
 聞いたことのない言葉に首を傾げる紅にレンは、僕も詳しくないけど、と前置きをし、説明する。
「開運縁起・商売繁盛を祈願するこの祭は春を呼ぶと言われて、72時間通しのこの祭りが終わったら春が来るってね」
「72時間もか?」
 商売繁盛と言う言葉に、だから来たのかもしれないと紅は推測する一方で、時間を聞いて尋ね返す。特に表情が変化しているわけではないが、レンには彼が驚いていることは伝わっているだろう。
 開始は初日午前0時。そこから3日間ぶっ通しで行われるだけでも珍しいが、神と人との信仰と信頼だけでの貸銭神事や中日のお忍びの渡御も全国的に特殊な行事である。更に付け加えるならば、県名は椿神社の御祭神の1柱から転じたとされる。
 レンは紅の反応を窺いながら、説明していく。そうしていると目の前には鳥居に楼門。
「まず奏者社へお参りに行こう。慣わしで、万事取次ぎを計らってくれる神様にご挨拶するんだ」
「なるほど」
 神社での基本的な流れであれば、本殿だが、そこは椿神社。レンの言う通り、本殿の脇にある奏者社に参拝後、本殿に参拝をする慣わしがある。この奏者社には潮鳴栲綱翁神(しおなるたぐつなのおきなのかみ)が祀られている。この神が椿神社における2柱が舟山に舟を寄せた際、ともづなを繋いで迎えたことから、万事取次ぎを頂ける神として、まず参拝するのだ。
 本殿の参拝を終え、2人は流れに沿って、内回廊も見て歩く。
「どうだったかな?」
「本殿も新鮮なものばかりだが、時を超えた重みを感じる」
 つまらない感想だと思いながら、そう言葉にする。そして、感想を求めたレンの姿は紅には楽しそうに見えた。
 そうして、境内の中にある販売所に立ち寄る。ずらりと並ぶのは縁起物と呼ばれる熊手、ざる、俵、宝船、扇。それらは一気に揃えるのではなく、毎年1つずつ購入していく。購入にも順番があり、それぞれに意味がある。初めて買うのは熊手。これで運をかき集める。しかも、熊手は爪の向きによってかき集める運も違うのだとか。レンは東向きに飾りたいからと語り、方角の意味を尋ねれば、東は仕事運やチャンスだという。
「そういうのに頼るのか?」
「……というより見ててほしいって所。それを期待して購入はしないよ」
「同意しよう」
「ま、幸運のおすそ分けがあれば嬉しいし、下心や打算0で来てはいないけど」
 紅はそういうところが食えないんだが、考えそのものは嫌いではないと口に出すことはなかったがそう思っていた。その後、近くで販売していた縁起飴も購入し、他の屋台も色々と見て、食べて、楽しんだ。
「こういう休暇もいいね」
「なら、もう少し休暇をとれ。お前は働きすぎだ」
 丁度いい機会だとばかりに一言付け加えた。

 時を同じくして、祭りの地に足を踏み入れた者達がいた。
「四国のお祭りだね、しみじみと嬉しいよ」
 去年はあんなことがあったしと感慨にふける餅 望月(aa0843)。その隣では百薬(aa0843hero001)が首を傾げ、口を開く。
「四国一の神社って、こんぴ――」
 何が言いたいのか分かった望月が素早く百薬の口を塞ぐ。折角、楽しみに来てる人達がいるのだから、水を差すのはよくない。
「よし、じゃあ、行こうか」
 気分を改めて、歩き出すもお昼時と言うこともあってか、美味しそうな匂いにお腹の虫が刺激される。
「いい匂いがいっぱいだよ」
「このいいソースの匂いはたこ焼き……いや、イカ焼きかな」
 百薬の言葉に釣られ、匂いの元を推測する。そのまま匂いに誘われて、行きそうになるがだめだめと首を振って、立ち止まる。
「こういうのはお参りが先だよ」
 美味しそうな匂いに未練を残しつつ、お参りをと、足を進める。しかし、楼門の先に見えた社に2人は自然と足を止めた。
「……温かい飲み物だけなら」
 そういって、見回すと「お嬢さん方もいっぱいいかがかな」と甘いお誘い。まだ寒いということもあって、温かそうなそれに2人の手は伸びた。
「やっぱり甘酒だよね。神聖なのに甘くて幸せになるよ」
 ほんわかと一休みする望月と百薬。一休みを終えると、神社の参拝の基本通り参拝を行う。
 勿論、流れに沿って、内回廊も回った。
「迷路みたいで楽しいね」
 本殿をぐるりと周回するだけのものだが、社寺独特の雰囲気と響く祭囃子が相まってどこか別世界に行けるのではないかと思うほど、不思議な空気が内回廊を包み込んでいた。
 回廊を巡り終え、階段を降りると椿祷殿の1階部分(社務所)に見知った顔。あっ、と声を上げれば、それぞれに挨拶を返す。
「餅さんたちも来てたんだね」
 氷の祭典ぶりかなと言う皆月 若葉(aa0778)の傍にはラドシアス(aa0778hero001)。そして、彼の友人である魂置 薙(aa1688)とエル・ル・アヴィシニア(aa1688hero001)。彼らは望月よりも少し先に参拝を終えていた。

 時は望月たちが到着する少し前に遡る。
「四国にも活気が戻ったようだな」
 行き交う人々の生き生きとした空気によかったと感想を零す。
「思いっきり楽しむぞ!」
 彼の隣の若葉は思わず意気込みが口に出るくらいテンションが高めのようだ。
「おお……人が多いの!」
「エルル、慣れない格好してるんだから、歩くの、気を付けてね」
 初めての祭りにいつになくはしゃぐエルに釘をさす薙。そうして合流すると、若葉はエルの姿に感嘆の声を上げる。その若葉の言葉に同意しつつ、ラドシアスも感想を述べる。
「うわぁ、エルさん綺麗……!」
「……和装も似合うな」
 そう、エルは洋服ではなく、明るい色の着物に長い髪は結い上げ、普段も十分美人であるが此度は和装美人となっていた。
 若葉とラドシアスの言葉に少し気恥ずかしそうにするも嬉しそうな笑顔を浮かべる。そして、エルと同様、祭りの雰囲気に気分が高揚していた薙が今日が凄く楽しみだったんだと言えば、俺もだよと会話を交わすし、参道を歩き始めた。
 混雑している中を歩いていると、着慣れない着物では大変だろうと思い至ったラドシアスはエルや若葉たちよりも通路側を歩き、出来るだけ自身が壁になるようにそっと気を配る。
「綿あめいいね、お祭りと言えばって感じ♪」
「綿あめ、久しぶりだ」
「袋に入れて、持って帰れるのだな」
 若葉と薙が買った綿あめの袋を眺め、なるほどと頷く。袋の絵柄の種類も豊富でアニメキャラやマスコットが描かれている。
「クレープも捨てがたいっ!」
「お祭りで食べるクレープもいい、よね」
 目に入った屋台に飛びつき、美味しい美味しいと食べる。
「薙、あれは何だ?」
「リンゴ飴だ」
「これもお祭りと言えばだね」
「リンゴ飴にしては、色々と種類があるぞ」
 イチゴにブドウ、パインとリンゴ以外にも飴でコーティングされている。それにリンゴも捨てがたいけどとそれぞれでフルーツ飴を購入。
「こっちも面白そうだの」
 普段は目にしないものばかりで3人の目はあちこちに映る。
「……買いすぎだろ」
 気づけば、もぐもぐとおしゃべりはそこそこに口を動かす若葉と薙に溜息を吐きつつも、自身もたこ焼きを頬張る。
 食べ物を消化しつつ、進むと楼門へ到着。ただ、若葉と薙の目は楼門よりも右側。本来は駐車場なのだが、祭りの今は射的やら金魚すくいなど縁日に並ぶ屋台が並んでいた。
「先にお参りしてから、あっちに行こうか」
「そうだね」
 早くあちらで遊びたいという気持ちを抑えて、参拝のために足を向けた。そして、参拝を終え、社務所でお守りを買おうと覗き込んだ。
「椿の柄とか、あるかな」
「椿柄いいね」
 様々なお守りがずらりと陳列されており、どれにしようかと悩む。
「……あ、これとかどうかな?」
「いいね、それにしよう」
 そして、購入したのはお揃いの椿守り。若葉と薙が赤椿。ラドシアスとエルが白椿。丁度、購入し終えた時に望月の声が聞こえたのだ。
「餅さんはこの後はどうするの?」
「お参りは済ませたし、屋台をみて回るつもりだよ」
 途中にイカ焼きも売ってたしと続ければ、イカ焼きもいいねと賛同する。そこから一言二言会話を交わし、若葉たちは射的がある駐車場に向かった。
「ねえ、変な顔がたくさん吊るしてあるよ」
「変な顔って言わないのよ」
 社務所の中に飾られていたお守りに興味を示す百薬。
「冨久椿っていうお守りみたいね」
 冨久を招く縁起物ということもあり、一つ購入することにした。
「さて、イカ焼きはどこかな?」
 お参りという行事を終え、望月と百薬は美味しい匂いに誘われるがまま、出店に足を向けた。立ち食いもいいけど、落ち着いて食べたいよねとテント内で食事できるところに腰を落ち着かせる。
「あ、うどん屋さんも来てるみたいね」
「こんぴらさんからの刺客だね」
 望月が止めるよりも先に言ってしまった百薬に「あ」となるものの、「今度はそっちにも行ってみたいね」と言葉を零し、待ちに待ったイカ焼きを頬張った。

 望月と別れ、お目当ての射的の屋台に来た4人。
「折角だから、どっちが沢山取れるか勝負しない?」
「その勝負、乗った! 負けないから、ね!」
「俺だって負けないよ!」
 お代を支払うと弾が若葉と薙の小皿に「頑張ってな」という声と共に5つ乗せられる。
 ルールは簡単。勝負は5発。より多くゲットしたほうの勝ち。確実に取るのもいいが、狙うなら難易度が高いのも狙いたい。同時に発射するも、思うように飛ばない。ただ、2人の隣に並んだ少年はきゅっきゅとコルクを奥まで詰め、景品を狙う。そんな姿に、そっかと納得する。少し古いものは摩耗して少し小さくなってしまっている。だから、軽く入れるだけでは強く飛ばない。少年のように奥まで入れてできるだけ、隙間を減らす必要がある。
 ちょっとしたコツに2人は目配せをすると改めて、的に目を向けた。
 それぞれ作戦を組み立て、挑むも結果は引き分け。それぞれ最後に狙った景品はぐらりと揺れたが倒れるまではいかず、元の位置に戻ってしまった。よって2人の手には仲良く2つずつ獲得景品が乗っていた。
「中々いい勝負だったね♪」
「ん、いい勝負、だった」
 笑顔で拳を突き合わせるが、互いに「最後のは惜しかったね」と苦笑いを零した。
「……それは」
「ん、あぁ、これかい、勿論、景品だとも」
 若葉と薙の射的勝負を眺めていたラドシアスの目に入ったのは犬のぬいぐるみ。
「1回分、頼む」
「はいよ、そんじゃ、お兄さんも頑張ってな」
「ああ」
 弾を受け取り、手早く詰め、構える。あまりの集中力に若葉と薙は共鳴しなくてもスキルって発動できるっけと顔を見合わせる。そう思わせるほどの集中力を発揮するラドシアス。1発当てるとぐらりと揺れる間にすぐに2発目を放つ。こてりと倒れた犬のぬいぐるみ。
「それはピピへの土産か?」
「……土産がないと拗ねそうだからな」
 エルの問いにラドシアスは頷き、留守番をしてくれているもう一人の英雄への土産と答えた。普段面倒という割には気にかけているその様は微笑ましいものだ。
「何か、取るか?」
 弾は3発残ってると告げれば、エルは少し考え、一番難しそうな大きな景品を指差した。それにラドシアスは頷き、犬のぬいぐるみを狙っていた時と同様の集中力を発揮し、残り3発で仕留めてみせる。
「これでよかったか……?」
「取れるのか……流石だの。うむ、ありがとう」
 大きな景品はラドシアスから手からエルへと渡る。嬉しそうに微笑む彼女に薙がエルも何かやらない? と誘う。それに戸惑うも近くで魚掬いに目がいく。
「金魚すくいか、いいね」
 薙がポイを貰ってくるとエルはそれに驚く。
「こんな紙で本当に掬えるのか?!」
 網か何かだと思っていたのにこんな薄い紙で掬っているなどとは信じがたい。しかし、彼女の傍で彼女が持つのと同じものを使って慣れたように子供がひょいひょいと椀の中に金魚を放り込んでいく。それを不思議そうに眺めるもいざ挑戦してみる。
 水に入れた瞬間、あっさりと破けてしまう。
「もう一回じゃ!」
「ああ、袖、気を付けて!」
 腕を振り上げた瞬間、普段はない袖が舞い上がり、水に浸りそうになるも、薙が慌てて後ろからフォローに入った。
 薙がエルにアドバイスし、そのアドバイスを何度も破りながらも実践する。
「うわっ、今の惜しい!」
「金魚を追いかけるな。来るのを待て」
 エルと薙のやり取りを見つつ、エルの挑戦に一喜一憂する。盛り上がる彼らを微笑ましく思ったのか店の主人もこうやって椀を近づけてなとアドバイスをする。そして、何度目かの挑戦。薙たちから教えてもらった通りにそっと金魚が来るのを待ち――掬いあげた。
「できたぞ!」
 椀の中に泳いでいる金魚を見せ、喜ぶエルに「エルさん、おめでとう」や「タイミングも見事だったな」と一緒に喜んだ。その後、あれもやってみようと水風船釣りに誘えば、これまたこれで取れるのかと驚く。今度は皆でと挑戦するのだった。


「わぁ、これが椿祭りなんだ? 凄く賑やかだね♪」
「うん、結構人の行き来が激しいみたいだね」
 学校終わりの学生や親子連れも行き交う時刻。黄昏ひりょ(aa0118)とフローラ メルクリィ(aa0118hero001)は大鳥居の傍を歩いていた。
「ひりょ、はぐれたら絶対に迷子になりそう。……迷子センターとかってあるのかな?」
「おぃ、流石にそれは……」
 ないよと言いたいが、それがないとは言い切れない。
「ただ流石に迷子センターはないと思う」
 スピーカーとか設置されてるが迷子の放送などは流れてないしと否定はしてみる。
「ま、それはどうでもいいや~♪ 食べ物もいっぱいありそう。お小遣いもある事だし目一杯食べよう~♪」
「どうでも……って。はぁ……、まぁいいや。…………それにしても、足りるかな、もらった分だけで」
 俺も食べるけど、フローラも食べるからなと頂いた2万だけで足りるのだろうかと不安を覚える。ただ、楽しまないよりは思いっきり楽しんだ方がいいと気持ちを切り替えると屋台のおじさんたちに教えてもらいながら屋台を巡る。
「今年はあそこに構えてるんだが、あのカステラ焼きは有名だぞ」
「そうなの! ひりょ、行こう」
「ちょ、フローラ、待ってよ」
 先に行ってしまったフローラに呆れながらもひりょは教えてくれたおじさんに礼だけは伝えた。
「流石、有名なだけあるかも」
「一番大きいの買ってみたけど……って、フローラ、もうそんなに食べたの!?」
「食べやすいからあっという間だよ」
 一口サイズと言うこともあり食べやすかったようで、大き目の紙袋にたっぷりと入ったカステラ焼きはあっという間にフローラの胃袋へと収められていた。それからもあれもこれもと屋台を見て回る。
「あれ?」
 ふと気づくとひりょの傍にフローラの姿がない。色々と屋台を見ているうちにはぐれてしまったようだ。
 自分が先か、それとも彼女が先か、どちらにしても見回す限り人、人、人。彼女の姿は見当たらない。
「ま、まずい……」
 方向音痴ということもあってか、建て並ぶ屋台のおかげでどっちに行けばいいのか全く見当がつかない。どうしようかと悩むが、人の流れができてるので、逆らわず道なりに進むのがいいかもしれない。流されつつも、周りに目を配り、フローラの姿がないかと探す。はぐれた場所から少し進むと前方から明るい声が聞こえた。
「ひりょ、やっと来た!」
 ひりょよりもフローラの方が屋台を駆け巡る形で前へ進んでいたようだ。その証拠に彼女の腕の中には沢山の食べ物が。早く早く手招きするフローラに急いで近寄るひりょ。
「食べ物買ったんだけど、ひりょが傍にいると思ってたから……てへっ」
「あ、支払い、まだなのね」
 フローラの言葉にひりょはがくりと肩を落とし、苦笑いをして支払いを待っている店主たちに平謝りをしつつ、支払いを済ませる。
「えらい目にあった」
「ひりょが迷子になるからだよ」
「フローラが言ってたのが現実になっちゃったじゃないか」
 迷子になったひりょが悪いよとばかりに言われ、まさかあそこでフラグが立っていたなんてと溜息を吐いた。

 ひりょが迷子になっている頃、同様に迷子になるという事案が発生していた。ただ、こちらはスマホと言う文明の利器によってそれを解決することができていた。
 夕方に訪れた彼ら――夜城 黒塚(aa4625)とウーフー(aa4625hero002)。黒塚はオフのため、いつものスーツ姿ではなく、リブハイネックにスキニージーンズ、モッズコートと言うラフな格好にスクエアフレームの眼鏡をかけていた。そして、ウーフーはウーフーで日本の祭りに馴染みたいと着物に草履姿だった。
「ウーフー、きょろきょろして迷子になるんじゃねぇぞ」
 ずらりと立ち並ぶ初めて見る屋台に知的興奮が抑えられないようでしきりにあたりを見回している。
「これ全部お見せなのですか! 見たことない食べ物がいっぱい……いい香りがします……!」
 呼び込みの声の活気に子供のように微笑み、「お小遣い足りますかねっ」と主である黒塚に尋ねながら、はぐれないよう慣れない草履に足元をふらつかせながらも、ついていく。ふと、気になった屋台にどうしようかと考える。
「……おい、食い物は参拝した後にしろ」
 立ち止まったことに気づき、黒塚がウーフーに注意を飛ばす。それに頷き、再び人の流れも戻り、歩き始める。ふと、何か思うところがありそうな黒塚の横顔を見上げる。ただ、彼から敢えて追及することはなく、ただ微笑んで黒塚を見守る。
 境内に踏み込む頃には辺りは暗くなり、行灯や提灯に灯が点され、境内は勿論のこと祭りの会場も昼とは違う夜の顔を見せていた。
 藪椿は勿論様々な椿が花を開かせており、行灯の灯によって不思議な空気を生む。
「椿の花がいっぱいで綺麗ですね……!」
 行灯に照らされ夕闇に浮かぶ花の美しさに心を惹かれる。
「あれ、お参りするのは本殿ではないのですか?」
 確かにさっきまでは本殿に向かっていたのにと首を傾げるウーフーに「本殿の参拝より先にこっちだ」とそのまま本殿の方に流されてしまいそうなウーフーの手を引き、奏者社の方へと誘導する。短い階段を下りながら、簡単に神社の参拝の手順を教え、奏者社、本殿と双方の参拝を済ませる。そして、立ち寄った社務所で留守番の彼も合わせ、3人お揃いにしたいと言うウーフーに、椿守りを3つ購入した。その後、土産にと縁起飴であるおたやん飴を購入。さて、後はどうするかと振り返れば、ウーフーはおらず、黒塚は溜息を零す。一方で、ウーフーも屋台のフードを目当てにあちらこちら渡り歩き、もらったお小遣いで両手いっぱいに食べ物を抱え、黒塚にも渡そうとして、ようやく黒塚の姿がないことに気づいた。
 どうしようと焦るが震えたスマホにその存在を思い出し、なんとか合流することができた。
「申し訳ありませんでした、マスター……」
 しょんぼりと肩を落としつつ、お詫びにと買っていた箸巻きを差し出せば、黒塚は少し驚いたように目を見開いた。
 子供の頃は、両親との間に溝があったこともあり、いつも一人でふらりと人ごみに紛れ彷徨い歩いていた記憶が殆どだった。ただ、声をかけてくれた屋台の店主の親切心で振る舞ってくれた箸巻きの味は忘れることはできない。
 ウーフーはそんなことを知っているとは思わない。だが、偶然にも差し出されたそれに黒塚は「今度からは気を付けろ」と受け取った。勿論。ウーフーもそれを知っていたわけではないため、許してもらえたのかなと彼の隣で箸巻きを頬張った。


 星月や提灯が照らす頃、仕事を終えた少女たちが会場に足を踏み入れていた。
「椿祭り」
「へぇ、そういうのがあるんだね」
 四国には何度か訪れたことがあるアリス(aa1651)とAlice(aa1651hero001)。しかし、いずれにしてもそれは依頼。他県に住む2人にとってこの椿祭りと言うのは初めてで物珍しいもの。
 まばらな人の間を2人は縫って歩く。
「どうする?」
「どうしようか」
 顔を見合わせ、「まずは参拝かな」「参拝だね」と意見を合わせる。お参りをして、回廊も巡って、一息。
「実行本部に行こうか」
「そうだね、実行本部に行こう」
 実行本部から招待状が届かなければアリス達は依頼がない限りここを訪れることはなかっただろう。だから、そのお礼に行こうと実行本部へと向かえば、「わざわざ、ありがとうね」と逆に礼を告げられることとなった。
「もう、屋台とかは回ったかい?」
 その質問に2人は首を振る。その2人の反応に委員の人はなるほどと頷き、おススメの屋台などを教える。
「そうかい、じゃあ、色んな屋台が出てるけん見て回るとええよ。うちのおすすめはあそこらへんやけど、この椿祭りでしか出ん屋台もあるけんね」
 ぜひとも、楽しんでな、と告げる委員の人に頷き、本部を後にする2人。おススメの屋台も巡って、ずらりと並ぶ飴だけの出店に立ち止まる。2人揃って何だろうと首を傾げる。
「あぁ、縁起飴……おた……なに?」
 垂れ幕に書いてある名前に成程と思うものの聞きなれない言葉にまた首を傾げる。
「方言か何かかな」
 再び首を傾げれば、彼女たちに気づいた店主が丁寧に説明をしてくれる。
「そう、それじゃあ、それを買って帰ろうか」
 2人で頷き、それを購入。余ったお金は本部へと届けた。「ええのに」という委員の人はそやったらとりんごあめをアリスとAliceに差し出した。それに2人はそういうつもりじゃなかったんだけどと顔を見合わせるももらわないわけにもいかず、残ったお小遣いの代わりにそれを受け取った。

 紫苑(aa4199hero001)の「有名なお祭りみたいだし、行って見たい」と言う言葉にバルタサール・デル・レイ(aa4199)は主導権を握られていることもあって、自然と参加が決定した。
 ただ、バルタサールの人ごみは怠いという意見は認められ、、人が少なるという深夜から早朝にかけて散策する形となった。
「まずは奏者社って所に行ってから、本殿に行くみたいだね」
「順番なんてあるのか、面倒だな」
「面倒ってほどのことでもないでしょ。さあ、お参りしよう」
 調べた順番を告げれば、いちいちそんなものがあるのかとバルタサールは溜息を吐く。しかし、紫苑にせっつかれ、それに従う。ただ、バルタサールは勿論だが、紫苑も特に宗教は信じていないタイプのため、形ばかりの参拝を行う。
「夜の神社っていうのも、中々いいよね。空気が静謐で」
「……そういうもんかね」
 祭りっていう時間だからってのあるかもしれないねと呟く紫苑にバルタサールは興味なさげに相槌を打つ。
「またきみは、そんな態度だからダメなんだってば。さ、熊手、買ってきて」
「……おい、変な顔が沢山ついてるが」
「縁起物だよ!」
 恵比寿やらの顔が付いた熊手に困惑するバルタサール。それに紫苑は気にした様子もなく、縁起物の説明を加える。その説明に「1つででさえ、あんなデカいもん、家のどこに置くんだ」と溜息を吐く。更に毎年増えるということに、気の長い話な上に面倒だと大きな溜息を吐く。
 他国と陸続きで植民地化などあったメキシコと島国で独自の文化が発展した日本とでは全く文化が違うのだなとデカいと文句を言ったバルタサールのために小さめの熊手を選ぶ紫苑を眺めながら思った。
「そういえば、おたやん飴っていうのも有名みたいだよ」
「また顔か……」
「いいから買ってくる」
 近くに会った出店で飴を眺め、切っても切っても顔が出てくるとかどれだけ顔が好きなんだと思いつつも紫苑に言われた通り、おたやん飴を購入する。
「ところで、なんで椿さんっていうんだろうね」
「さてな」
 ふと疑問を口にする紫苑に興味のないバルタサールの相槌。それすらも気にせず、「地元の人に聞いてみようか」と暇そうな祭関係者を探す。バルタサールはやれやれと目に留まった箸巻きや焼き鳥を食べながら、祭スタッフから椿神社の由来などを聞く紫苑を眺めた。
「なんできみだけ食べてるの、僕のは? 買ってないなら買ってきて」
 ほら、行ったと急かされ、渋々紫苑の分も買いに行く。買って戻れば、先程聞いた話を聞かされ、バルタサールはまた別の所で買ったものをつまみながらそうかと紫苑の話に相槌を打つ。
「来年は笊を買いに来なくてはいけないね」
「いや、もう、顔はいいだろ」
 ふと思い出したように告げた紫苑にバルタサールは深い溜息を落とすのだった。

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結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ほつれた愛と絆の結び手
    黄昏ひりょaa0118
    人間|18才|男性|回避
  • 闇に光の道標を
    フローラ メルクリィaa0118hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 温もりはそばに
    ラドシアス・ル・アヴィシニアaa0778hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 共に歩みだす
    魂置 薙aa1688
    機械|18才|男性|生命
  • 温もりはそばに
    エル・ル・アヴィシニアaa1688hero001
    英雄|25才|女性|ドレ
  • Trifolium
    バルタサール・デル・レイaa4199
    人間|48才|男性|攻撃
  • Aster
    紫苑aa4199hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • LinkBrave
    夜城 黒塚aa4625
    人間|26才|男性|攻撃
  • これからも、ずっと
    ウーフーaa4625hero002
    英雄|20才|?|シャド
  • エージェント
    レン・クロキaa4979
    人間|25才|男性|防御
  • エージェント
    紅・ワンロンaa4979hero001
    英雄|27才|男性|シャド
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