本部

ランチタイムは突然に

布川

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
寸志
相談期間
5日
完成日
2018/03/06 18:19

掲示板

オープニング

●弁当イズフォーエバーラブ
 弁当。
 普段任務でなにかと忙しいエージェントたちも、任務のおともに弁当を持参することが少なくない。
 それは、おかずたっぷりの、手の込んだ芸術品といえるものであるかもしれない。
 あるいは、そっけないレーションやコンビニ弁当かもしれない。
 お弁当の形は、エージェントにとってさまざまだ。
 ときには、大切な者が心を込めて作ったものだったりするのである……。

●お弁当
『えっへっへ』
 シフタ(az0034hero001)はうきうきとしていた。日課の見回りを終えて、ようやくお昼休憩だ。
 今日も平和な一日だった。
 どうしてこんなに浮かれているかと言うと、お昼ご飯の時間だからだ。
『さあって、今日のお弁当はなにかなーっと……』
 英雄、それも、機械の英雄である身にとっては食事は必要ないが、それでも、最近ようやくわかってきた。
 食べることは、美味しい。つまり、大好きだ。
『あれ……ない、ないであります!』
 公園のベンチに戻ったシフタは、情けない声をあげた。
『ここにおいておいたはずなのに、お弁当がなーい!』

●早業のジョン
「きゃあっ」
 人通りの多い町中で、女と男がぶつかった。
 おっと、と言って、男は道をあける。
 すみませんと謝り、女はどいた。

 暫く歩いてから、男はほくそ笑み、懐に手を差し入れる。……取り出されたのは、財布。
「へへっ、俺様は早業のジョン。名の知れたスリ師とは俺のことよ……今日は獲物が大量だな。いや、さっきのこれは置いてあっただけだから、まあ。置き引きのジョン?」
『しまらねえなあ、なんだよそれ』
「まあ、いいってことよ、今日は大量だ。こんだけ獲物が手に入ったんだからな。後で数えるのが楽しみだな」
 早業のジョン。この男はしょうもない小悪党だ。英雄と契約して以来、ちんけなスリばかり繰り返してきた。
 腕っぷしは決して強くないが、足音を忍ばせ、人からものを盗むのだけは得意だった。
「さあて、いくらになるのかなっと……なんか。今日はやけに重いっていうか……」
 おお、なんということだろうか。
 その中には、エージェントたちの『弁当』も含まれていた。

解説

●目標
 ジョンを成敗し、弁当を取り戻す。
 弁当が犠牲になっても依頼は失敗ではないが、エージェントは悲しみに包まれることだろう。

●状況
 昼下がりの住宅街。
 どういうわけか、エージェントたちはジョンに弁当を奪われた。
※全員が全員でなくても良いし、あえて荷物を渡して追いかけている、という状況でも構わない。
 とにかく、ジョンを取り押さえる目的があればいい。

●登場
 ヴィラン『早業のジョン』
 エージェントの荷物を奪い去った憎きヴィラン。いったいどうやったのか?
 金銭目当てのちんけな泥棒だからか弁当には興味がないが、なぜか持って行ってしまった。
 逃げ足が速いが、それだけだ。主に、距離を取りながら銃を撃ってくる。

 攻撃である程度のダメージを与えるたびに、エージェントたちの荷物(弁当)を一つずつドロップする。弁当が全てなくなるとダメージが通る。
 ドロップした弁当は無防備で、回収するまで攻撃の流れ弾に当たる可能性がある。
 巧みに回収しよう。

 弁当の内容はプレイングに記載ください。戦闘中食べても、すべてが終わってから食べても構いません。弁当をとられていない場合は、依頼が終わってからの昼食の内容でもどうぞ。

●特殊ルール
・このシナリオ中、弁当にカバーリングが行える。
 フレーバーによるロールプレイは大目に認めます。

 なお、シフタは特に指定がない限り行動しません。

リプレイ

●甘いものは好きですか
 ふんわりと甘い匂いが漂っていた。
 オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)はオーブンから紙コップを取り出す。バレンタインの余り板チョコから作った、チョコクリームのシフォンケーキは目論見通り紙コップいっぱいに膨らんでいる。
 今日は友人らと弁当を持ち寄ることになっていた。
『弁当、は、……難しいんだ、色々、作らなくちゃいけないし……。隙間空けないとか、……わからない』
 流石に弁当を作るために山にジビエをとりに行くわけにはいかなかったことではあるし。
「女の子が半数だし、ガルーちゃんも甘い物好きだし、甘い物で良いんじゃない?」
 木霊・C・リュカ(aa0068)の言葉に、オリヴィエは小さく頷く。
 少々の下心があるとか、その辺は秘密だ。
 リュカは、炊飯器で作った甘酒を味見して笑顔になった。米麹の甘酒と、仕込んでおいた梅ジュース。生姜はお好みで、ということにしよう。
 ……弁当を作るという話はどうなったのか。それはそれとして手が込んでいる。
 大きい保存ビンに分けて注ぐ。ついでに、ジュースを割って飲むための炭酸水も鞄に詰めた。
「手作りのお弁当って心うきうきするよね~青春って感じ!」
 鞄がとても重い。が、食べてくれる人の顔を思うと、多少の無理はしようという気になってくる。

●ボリューム満点!
『和和、流石にこれ女子のお弁当なの?』
「……いや、ほら、お肉持ってくって言ったし……ご飯とか持ってきてくれるでしょうし……」
 雁屋 和(aa0035)の作ったお弁当は、牛蒡と春雨と牛肉の炒め煮。たくさんの豆腐ハンバーグ。そして、塩麹漬け鶏胸肉の梅巻きだ。
 どれも美味しそうで食欲をそそるが、全体の色どりはやや乏しい。
「大丈夫大丈夫、デザートもあるから」
 そう言って和が取り出したのは、レモンの蜂蜜漬だった。
『和!! これどう見ても部活後男子高校生の考えたヘルシーなお弁当よ!?』
「えっ……疲労回復にいいのよレモンの蜂蜜漬け。これを炭酸水で割って飲んでもいいし」
 谷野 静(aa0035hero002)は友人たちの顔を浮かべる。喜んで食べてくれるとは思うのだが、なんとなくもっと凝ったものを作ってきそうな予感がする。

●工夫を凝らして
 紫 征四郎(aa0076)とガルー・A・A(aa0076hero001)もまた、台所に立っていた。
(ノドカはハンバーグって言っていましたので……)
 征四郎は、きぼうさの形を模したおにぎりを握る。これだけあれば、足りなくてお腹がすく、ということはないに違いない。
 アスパラのベーコン巻き。野菜をちぎってサラダをこしらえる。ウィンナーをタンポポに見立て飾り切りをしているとふと、春を感じた。
 一つ一つの難易度はそれほど高い料理ではない。しかし、手間をかけたことで、可愛らしい出来栄えになっている。色どり豊かで、栄養のバランスも良いはずだ。
 そして、仕上げに。
(慎重に、慎重に……)
 卵液をフライパンに広げ、くるりとひっくり返す。
「できました!」
 綺麗な色の卵焼きだ。黄金色に輝いている。
(上手くいってるみたいだな)
 ガルーは征四郎が作業をする傍ら空いたスペースで手際よくおかずを作っていた。
 鰆の柚庵焼きと菜の花の辛子和え、そしてカットフルーツ。今回は征四郎がメイン……ということで副菜なのであるが、ガルーの料理の腕は相当なものだ。
 てきぱきと手を動かすうちに、季節を加味した和風のお弁当が出来上がっていた。

●忍び寄る魔の手
「……待て」
 御神 恭也(aa0127)の手が、財布に伸びる不審な男の腕を捕らえた。
「ッチ!」
 思いのほか素早い動きだった。男は片手間に伊邪那美(aa0127hero001)のバックをひったくって人混みへと消える。
『ああっ! ボクのお気に入りのバックが~』
「手慣れた相手のようだったが、英霊ともあろう者が逃走のついでに荷物を盗まれるか?」
『あの中には、ボクの好物が詰まったお弁当もあるのに……』
「聞いちゃいないな」
 伊邪那美はお弁当を想い、ふるふると怒りに震える。
『恭也! 追いかけてボクのバックを取り返すよ』
「まぁ、あの身のこなしを見ると只の盗人じゃなくヴィランの可能性が高いか」
『お弁当の匂いが消える前に追跡しないといけないんだから、急いで!』
「……犬か? お前は」

●被害続出
「あ、いたいた」
『待たせちゃった?』
 和と静が集合場所の公園についた。
「ううん、今来たところなのです」
 といいつつ、張り切りすぎて少し早く着いてしまったことは内緒だ。
「天気が良くてよかったね~!」
 リュカとオリヴィエもすでに来ている。和やかに談笑を始めようとしたとき。
「いただきだ!」
「あっ」
 走り抜ける男がベンチに置いてあった征四郎のカバンを奪った。続けざまに、リュカ、和の荷物に手を伸ばす。
「大量大量……ってうわっなんだこれ凄い重い」
『期待できそうじゃないの!』
「あああああ!! もう! お弁当揺らさないでください!!」
『征四郎落ち着いて。お願いだから落ち着いて』
 あれほど頑張って作ったお弁当。
 中身がぐちゃぐちゃになる前に取り戻したい。そう、キャラ弁は配置が命なのである。
 共鳴した征四郎から、怒りのライヴスがただ漏れる。
「げっ、リンカーか!? にしても、よっぽど大事なものらしいな……」
 ジャックは走り出す。中身が弁当だとは露知らず。
「あああ、お兄さんの10日物の梅……!」
『割れたら他の弁当まで濡らしかねない、急ぐぞ』
 私たちも、と構えた和が静を振り返る。
「ヴァ……しまった今回依頼が日常的な物だったから貴女だったわね!」
『なあに和ったら。大丈夫よ私でも出来るわ! ――貴女の英雄よ私は』
「やぁ、そういえば静ちゃんはこれが初陣なんだって? せっかくだし勇姿写真に撮っておこうか!」
 桜色の着物を纏い、二人は戦場へと降り立つ。
 二人の心が、共鳴によって一つになる。
「『(初共鳴が弁当泥棒相手ってどうかと思うんだけど)』」

●昼食延期のお知らせ
「今日も一日戦った戦った」
 シュエン(aa5415)は、別の任務を終えて、ちょうど昼休みに入るところだった。弁当を膝に置き、割り箸を割る。
 シュエンの弁当は、米の上に肉が敷き詰められている焼肉弁当。
 とにかく量が多い。
 リシア(aa5415hero001)も同じように、弁当を広げようとした。広げようとしたが、そこには弁当がない。
 しばし沈黙があった。
 ふと思い出すのは、先ほどぶつかってきた不審な男。
「ん? とられたの?」
 リシアはすっと紙に書きつける。
『犯人、探』
「いってらっしゃい。がんばってな!」
『? 玄、同行』
「え、オレは今から飯食うよ?』
『お預け』
「え?!」
 達筆で告げられる、昼食の延期。
 なにを言う暇もなく、共鳴。
『私から奪うとはいい度胸なのです。その喧嘩、買いましょう』
 宝玉から凛とした声が響く。

●その男の名は
「はい、病院へは、そこの角を曲がって……」
 通行人に道を聞かれ、案内をしていた構築の魔女(aa0281hero001)。相手はぺこりと頭を下げ、礼を言って去っていく。
 ヴィランを捕まえる依頼の最中だったが、このくらいはかまわないだろう。
 構築の魔女が追う男の名は、『早業のジョン』。窃盗の容疑で手配されている男だ。
「しかし、リンカーの力で窃盗とは……困ったものですね。まぁ、なるべく早く捕まえて被害を減らしましょうか。……あら?」
「□□……」
 辺是 落児(aa0281)がベンチを一瞥する。
 そこに置いてある財布は……財布は無事だ。しかし、なぜか一緒に置いておいた鞄がない。ふと顔を上げると、鞄を抱えて走り去る目的の男がいた。
「見失わないように追いかけないといけませんね」
 落児と共鳴し、後を追う。
「しかし、なぜそちらが盗まれたのでしょうか……?」

●男の行いは、修羅を呼び覚ました
 男は、手あたり次第と言った調子で通行人から荷物を奪っている。

『絶対に……捕まえるぞ……! ……妾の楽しみを奪いよって……』
 烈火のごとく怒り狂う修羅姫(aa0501hero001)。奪われたのは、2段重ねの重箱弁当。楽しみを奪われ「ぶち切れ」ていた。
 家事が得意な秋姫・フローズン(aa0501)が腕を振るった弁当だ。
(食べ物の恨みは……なんとやら……ですね……)
 秋姫は、ばれない様に微苦笑を浮かべる。
 共鳴により、右目と髪は赤く染まる。
 絶対零度の氷の女王。
 二人のささやかな楽しみを奪った罪は、重い。共鳴した二人は、2対のオーラの羽をはためかせるようにして、地面を踏み切り、跳んだ。
 建物を足場に、ジャックを追う。

 殺気すら纏わせる修羅姫が、視界を横切っていく。
 月鏡 由利菜(aa0873)とリーヴスラシル(aa0873hero001)は足を止めた。不思議に思ってみていると、続けて何かを追っている様子の恭也。そして、続けて構築の魔女と、共鳴したオリヴィエ、征四郎たちだ。
『……ユリナ、見知った顔が駆け回っている』
「最近この辺りにお弁当を狙うヴィランが出没していると聞きました……」
 由利菜はラシルと一緒に食べる予定だった手作りのお弁当に危機が迫っていることを直感で感じ取る。
「はっ……!? 今のままでは、ラシルに食べて貰う予定のお弁当が危ない!!」
『どうやら、同じ相手のようですね……』
 そこへシュエンと構築の魔女がやってきた。
 方向に見当をつけたところで、シュエンが鷹の目を飛ばす。
 ライヴスの鷹が、ターゲットを狙ってぐるりと町中を旋回する。構築の魔女は仲間と連絡を取り、由利菜はマップを確認する。
『いました!』
『行こう、ユリナ』

●逃走劇、開幕
 疾風のごとく逃げるジョンを、エージェントたちは追いかける。
「お弁当泥棒はごくあくにんです! よってお覚悟を!」
「ひえっ」
 征四郎が放ったロケットアンカー砲が、男の近くをかすめていった。捕縛のために使われる品なのだが、ものすごい勢いで壁にめり込んだ。
『怒りで狙いがぶれてるんだよお馬鹿!!』
『……征四郎は、嫌に鬼気迫ってるな……』
「逃走はやめて大人しく捕縛されなさい……!」
 構築の魔女のPride of fools。『愚か者』の名を冠する銃が、ジャックの足をかすめる。
「なるべく、攻撃は避けたいですが……流れ弾にも注意をしておきましょう」
「ヒイイ、なんだこいつら、なんで俺の足についてこれるんだ」
 もともと囮捜査であったため、構築の魔女の用意した鞄にはGPSが入っている。
 もっと人通りの多いところに紛れ込むか。だが、構築の魔女の威嚇射撃がそれを許さない。
 ならば……。ならばどうするか。
「チッ!」
 思考する時間はなかった。降り注ぐ弾丸を避け、ジャックは小道に逃げ込んだ。屋根に上り、先に回り込んだオリヴィエの仕事だ。
 思わず方向を変えれば、和、そして征四郎とかち合う。
 攻撃のための射撃ではなかったと悟ったのは、見事に誘導にはまってからだ。
 たらり、と汗が流れる。
『あっちの男はやばそうだ』
「分かってる!」
 ジャックは武器を構えて、乱射しながら和の方へと走ってきた。
「どけえっ!」
 和は構える。距離を……取らなかった。
『和、魔法の使い方なんだけど』
「大丈夫よ静。――どんな相手でも殴れば倒せるの」
 炎を纏う『御骨頂戴≪おほねちょうだい≫』を握り、和は全力移動で相手を殴りに向かう。
「拒絶の風!」
 それは、確かに魔法だった。回避力を高めて銃弾を潜り抜け、死線のぎりぎりで武器を振るうための。
「ぐあああ!」
 ジャックの懐から荷物がこぼれた。
「……っ! 盗品をばら撒くとは面倒なことを……!」
「落ち着いて征四郎! お弁当よ!」
「ああああ!」
『それ逆に落ち着かないと思うんだけど』
「いいのいいの。――落ち着けばあの子たちや木霊さん達ほど頼りになる人たちはいないんだから」
 その期待にこたえるように、屋根の上からオリヴィエのフラッシュバンが降り注ぐ。
 盗品はすべからく保護しなければならない。構築の魔女が受け止めた。
「……え? お弁当ですか……これ?」
 一つ目、確保。ズシリと重いこれは、リュカたちのものだ。地面に落っこちる前に、大切にかばった。
「よかったです……」
 無事を確認して、丁寧に幻想蝶へとしまう。

「先生の弁当盗ったのお前か!」
「くっ……」
「逃がすか!」
 シュエンが追いついた。放ったザッハークの蛇が、男の足に巻き付く。
『お弁当なんて盗ってどうするつもりなのですか』
 リシアは問う。少し同情心があった。ひもじくて、仕方がなく盗みを働いているというのなら……。
「は、弁当? なんのことだ? 俺はただ、金目の物を……」
『シュエン、思いっきり懲らしめてやりなさい』
 リシアの声に応えるように、シュエンの目が輝く。
 相手としてはやや物足りないが、戦いだ。遠慮はいらない。武器は蛇を模し、ジャックはぐいと引き寄せられる。

『やっぱりこっちだったね!』
「まさか本当に追えるとは……」
 騒ぎが聞こえたこともあったが、伊邪那美の追跡は的確だった。本能、執念。いや、別の何かだろうか。
「絶対に返してもらうからね!」
「くそ、こんなところでつかまってたまるかよ!」
 ジャックが出鱈目に銃を乱射する。とっさにドラゴンスレイヤーを素早く斬り上げ、弾をはじく。
『足元を狙って足を止めさせるのは良いけど、転ばせてお弁当をぐっちゃぐちゃにしたら許さないからね』
「無茶を言ってくれるな……」
 とは答えたものの、攻撃は正確だ。
 秋姫の、クロスボウによるストライクが鋭く男を撃ちぬく。男は弁当を落とした。距離を詰める。
「また……お弁当……ですね……」
『だな……誰のかは知らんが……』
「回収して……おきましょうか……探しているかも……しれませんし……」
「よし!」
 ぎっしりと詰まった食べごたえのある弁当。このお弁当は和たちのものだ。

 構築の魔女が、位置を変え、射線を変え、巧みに安全地帯を変える。
 一進一退の状況で、由利菜らが立ちふさがる。
「ラシルの食を冒涜した罪は重い……! 悔い改めよ!! ヴァニティ・ファイル!!」
『弁当はユリナにいつでも作って貰えるが、ヴィランを放置は出来んな』
「ぐえっ!」
 ライヴスリッパーが、大きく男をのけぞらせる。
 弁当が宙を舞った。リシアが声を上げる。
『私のお弁当です! シュエン、何としても死守するのです!』
 再びザッハークの蛇か。いや。シュエンはとっさに縫止を放ち、ジャックの動きを妨害し、仲間に託した。
 スローモーション。
『ユリナ、弁当を奪われたのは私とユリナだけではない』
「分かっています! 騎士として、皆様それぞれのお弁当を守る為にできることを……!」
「対射撃結界陣、展開!」
 由利菜のカバーリングは、芸術的ですらあった。常人であれば間に合わないすれすれに手を伸ばし、弁当をキャッチする。
『やりました!』
「次だ!」
「……一体いくつのお弁当を盗んだのでしょうか?」

「銀の弾丸!」
 和が勢いよく放った弾丸が、ジャックの懐を貫く。0距離。外れるはずもなく、大きく吹き飛ぶ。
「……魔法って楽しいのね」
『……』
「くそっ、やられてたまるかよ……!」
 ジャックが取り落とした弁当は、遠くへと跳ねた。運悪く放物線を描き、戦場から外れたところへ。。
「あああ!」
 それは、征四郎の弁当。
 地面すれすれに落っこちる。
 間に、合わない。
「させない!」
 ずさっとスライディングしてきたのは伊邪那美だった。
 伊邪那美?
 共鳴を、解いている。共鳴を解いて、弾丸の雨が降り注ぐ戦場に立っていた。
「おい! 急に解く奴があるか」
『あのお弁当はボクのかも知れないんだよ? 踏まれて食べられなくなるんだよ? 後回しに出来る訳が無いよ!』
「……助かりました……!」
 征四郎が銃弾の雨から伊邪那美をかばう。
「いきます!」
 逃げようとするジャックに向かって、由利菜がレーギャルンを抜刀する。
 ルーンを刻み付けた赤色の衝撃波が男を襲った。射線に躍り出たシュエンが、素早く弁当をキャッチする。構築の魔女のものだった。無傷、とはいけなかったが、無事だ。
 だが、落とした弁当はもう一つあった。
『……だめだ、間に合わない!』
 奮闘空しく、弁当は地面に落っこちる。
『あ、ああっ……! お弁当が……』
 それは、伊邪那美のものだった。
「あー、帰ったら作り直してやるから気を落とすな」
 伊邪那美はがっくりと膝をつく。わなわなと震え、復讐に燃える。
『……許さない。五体満足で終わらせないんだから』
「邪英化してないか?」
 ジャックは逃げる。いや、追い込まれている。

「これで……どうですか!」
 そこは坂道、そして仲間たちと協力して誘い込んだ袋小路。征四郎は、脇に置いてあったドラム缶を転がす。
 フットガードを使用し、軽快に飛び移る。
 腐ってもヴィラン。ジャックもその動きに対応しようとしたが、リュカと構築の魔女の射撃がそれを許さなかった。
 姿勢を崩したところで、由利菜のライヴスリッパ―が飛んでくる。耐えた。かわした。いける。
 路地裏に飛び出した。……注意を怠った。

『遅い』
 フラッシュバン。視界が白く、そしてふいに真っ暗になった。共鳴した秋姫。両の太ももが首を締めあげる。
「ぐ、ぐえっ」
 ぎりぎりと締め上げ、そのまま頭を地面に落とす。
 ぐぎり。嫌な音がした。衝撃が容赦なく伝わる。
『フランケンシュタイナー……か?』
「の様な物……です……友人が……似たような技を……使うのでアレンジしてみました……」
『なるほど……あいつの技か……』
 修羅姫の脳裏に、友人の姿が思い浮かぶ。
「はい……あの方の場合……投げずに……絞め落としながら……殴っていますけど……ね……」
(おかしいな、なんか幻が見え……)
 意識を完全に失う前、男が最後に見たものは。
 怒り狂う伊邪那美の疾風怒濤だった。

●決着
「食い物の恨みは恐ろしいと言うが……此処までやるか?」
『命を取らないだけでも有情だよ』
 伊邪那美は冷たい目で男を見下ろしていた。もうすっかり抵抗する気力も失っている。

『お前もこれで御用だ。H.O.P.E.東京海上支部へ引き渡す』
 ラシルの凛とした声が響いた。
「……ヴィランの方、私を怒らせないで下さいね」
「ひい! ごめんなさい! ごめんなさい!」
「これだけ、弁当を盗んで一体どうするつもりだったのですか?」
「し、知らねえよ……もともと、弁当を盗もうって気はなかったんだ……だから……うおっぶ」
 伊邪那美の容赦ない拳が入る。
『知らなかったじゃ許されないよ! とんでもないことをやらかしたんだからね!』
「……別に、仮に私自身のお弁当が食べられたとしても気にはなりません。ですが……ラシルの為に作ったお弁当を盗もうとしたことは許さない……!!」
(ユリナ……。私に関わることにいつも本気なのは、今も変わらないのだな)
 まっすぐな瞳。だからこそ、主を好ましいと思うのだ。
(その分かりやすい感情は、悪意ある敵に隙を与え得るが……主が私を信頼してくれている証でもある……)
「うう、すびばせん、もう……もうしません……」

『……』
 修羅姫は弁当を改める。
 お重の五目稲荷が半分。2段目の煮物などは、崩れている。
 怒りが再び燃え上がった。
「それでは……盗難品を……返してきます」
 秋姫は、そっとその場を去る。残された修羅姫とヴィランを、構築の魔女はちらりと振り返ったが。
(まあ、大変なことにはならないでしょうし……)
 おのおの、昼ごはんへと戻っていった。

●いただきます!
「ううう……お弁当が……お弁当が……」
「あの、良かったら一緒にどうですか?」
「いいの!?」
 征四郎らの誘いに、伊邪那美はぱあっと顔を輝かせる。
『もちろん!』
「お弁当の恩人ですからね」
『たくさんあるからな』
「やったーやったー! いただきます!」

「兎にも角にもお腹が空きました!」
「崩れなくてよかったね」
 征四郎のお弁当の中身は綺麗に整っていた。少し寄ってはいるが、それでも無事と称して差し支えない。少しだけ位置を直すのを待ち、リュカが写真を一枚。
「ふふーふ、せーちゃん凄い綺麗につめたねぇ。おいしそう!」
「ほんとうによかったのです」
『静は、初めて、の、お疲れ様、だな』
「活躍もばっちり撮れてるよ~」
 リュカが写真を取り出す。
 ゼロ距離で銀の弾丸を撃ち出す和。ソフィスビショップの固定観念を塗り替えるような写真だ。
「よく撮れてるわね」
(だいぶ物理に寄ってた気がするけど……)
「和ちゃんのお弁当は……お肉いっぱいだぁ。運動した後だし、身体に染みそうだね」
『和さんに静さんに、いや実に華のある昼食会だ!』
 静と和は、工夫の髄が凝らされたお弁当を眺める。征四郎のかわいらしいキャラクター弁当もそうだが、ガルーの作った料理はかなり手が込んでいる。
(もしかしてガルーさん和より女子力高いのでは?)
「あっレモンまであるこれ部活後の奴だ! お兄さん知ってる!」
『のどか。やっぱりこれ男子高校生のお弁当じゃない……?』
「……ごめん。私男子高校生だったのね……?」
「木霊さ、んは……ええ……?」
『ジュース。甘酒』
「結構簡単に作れるんだよ」
 こういう工夫もあるのか、と、しみじみ眺めた。
「あ、炭酸水。そう、これでレモンを割ると……」
 全員に飲み物がいきわたったところで。
「いただきまーす!」
「無事取り返せてよかったのです。いただきます!」
「いただきます」
 いただきます。

「もう少し遠慮ってものをだな……」
 恭也の言葉も届いていないようで、伊邪那美は幸せそうにお弁当をほおばっている。持ってきた分より、分けてもらった量のほうが多いかもしれない。
『おいしい! おいしい! もう少しで邪英化するところだったよ~!』
『自分の作ったものをおいしそうに食べてる姿を見るのは嬉しいもんだ』
「リュカ、この梅ジュース美味しいです」
「いやー、嬉しいなあ」
「それにしてもこの卵焼き綺麗ね。こんな風に焼けるなんて、いい腕ね征四郎」
「ふふー。お料理、ちょっとずつ、楽しくなってきたところなのです」
「あ、でもケーキとかスイーツは良いわね。なるほどシフォンケーキ。今度焼こうかしら」
『焼けるの?』
『……難しくはないはずだ』
 リュカは人並みに食べているのだが、オリヴィエの食べる量は昼下がりのOL並みである。どのおかずも満遍なく、ちょっとずつつまむ。
 レモンの蜂蜜漬けは、動かした体に染みた。
「でもノドカのが、一番力つきそうです。このハンバーグの作り方、教えてください」
「もちろん!」
 ガルーは、誇らしげに仲間にお弁当をふるまう征四郎を見ていた。
『どうした?』
『んー、ちょっとな。征四郎の成長を感じた』
 いつも料理はガルーの担当だったが、今回は全然時間をかけてない。不思議な気分だ。
『……ん』
 オリヴィエはガルーにケーキを差し出す。
『……甘いの、好きだろ』
『……、あ、美味い。リーヴィ、俺様この味好き』
『……クリームもあるから、飽きがきたら、塗ってみるといい』
『いいなこれ』

 シュエンとリシアも、遅めの昼食だ。
「やっと飯だー! いただきます!」
 空腹に肉と米をかきこむ。
(ああ、よかった。これ程お弁当が恋しかったことはありません!)
 弁当の中身は崩れてしまっていて少し悲しいが、幸せそうにご飯を食べるシュエンを見て『まぁいいか』と箸をつける。
 リシアの弁当は、焼き魚に惣菜がいくつか。冷凍食品で賄える物で構成されたシンプルな弁当だ。インスタント味噌汁に湯を注ぎ、ほっと一息をつく。
 ほくほくした焼き魚の身を箸で綺麗により分け、口に運ぶ。
(美味♪)

「今回の事件は違った意味で何か疲れましたね」
 構築の魔女は、公園で平和なひと時を過ごす。色どり豊かなお弁当。少しだけ特別だ。
「普段は食堂などですし、こういうのもいいものですね」
『ーー』
 かけがえのない日々が、また一日過ぎていく。

「皆さん笑顔になったようで、何よりです」
『そうだな』
 由利菜とラシルも昼食を。
 二人のお弁当は、由利菜のお手製だ。栄養に気を使った胚芽米ごはん。そしてスモークサーモンとグリークサラダ。オリーブオイルの風味が、なんとも食欲をそそる。
 デザートにはいちごヨーグルト。
 ロイヤルレッドで乾杯し、ひと時の平和な時間を味わう……。

●その後
 H.O.P.E.に引き渡されるまでの間。
 ジャックとその英雄は、広場の中央に縛り上げられていた。
『昔から……仕置きは尻叩きと……決まっている物だ』
 修羅姫が浮かべるのは、超ドSの氷の女王様の笑み。
 『容赦ない』鞭の音が、広場に高らかに響きわたる。
「ひいい」

 少なくとも、もう他人の荷物に手を出そうとは思わないことだろう。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 【晶砕樹】
    雁屋 和aa0035
    人間|21才|女性|攻撃
  • エージェント
    谷野 静aa0035hero002
    英雄|16才|女性|ソフィ
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
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  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 誇り高きメイド
    秋姫・フローズンaa0501
    人間|17才|女性|命中
  • 触らぬ姫にたたりなし
    修羅姫aa0501hero001
    英雄|17才|女性|ジャ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 仲間想う狂犬
    シュエンaa5415
    獣人|18才|男性|攻撃
  • 刀と笑う戦闘狂
    リシアaa5415hero001
    英雄|18才|女性|シャド
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