本部

【白刃】拠点設営作戦

鷲塚

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 6~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/10/27 18:40

掲示板

オープニング

●H.O.P.E.
「……老害共が、好き放題に言ってくれる」
 H.O.P.E.会長ジャスティン・バートレットが会議室から出た瞬間、幻想蝶より現れた彼の英雄アマデウス・ヴィシャスが忌々しげに言い放った。
「こらこらアマデウス、あまり人を悪く言うものではないよ」
 老紳士は苦笑を浮かべて相棒を諌める。「高官のお怒りも尤もだ」と。

 愚神『アンゼルム』、通称『白銀の騎士(シルバーナイト)』。

 H.O.P.E.指定要注意愚神の一人。
 広大なドロップゾーンを支配しており、既に数万人単位の被害を出している。
 H.O.P.E.は過去三度に渡る討伐作戦を行ったが、いずれも失敗――
 つい先ほど、その件について政府高官達から「ありがたいお言葉」を頂いたところだ。

「過度な出撃はいたずらに不安を煽る故と戦力を小出しにさせられてこそいたものの、我々が成果を出せなかったのは事実だからね」
 廊下を歩きながらH.O.P.E.会長は言う。「けれど」と続けた。英雄が見やるその横顔は、眼差しは、凛と前を見据えていて。
「ようやく委任を貰えた。本格的に動ける。――直ちにエージェント召集を」
 傍らの部下に指示を出し、それから、ジャスティンは小さく息を吐いた。窓から見やる、空。
「……既に手遅れでなければいいんだけどね」
 その呟きは、増してゆく慌しさに掻き消される。


●ドロップゾーン深部
 アンゼルムは退屈していた。
 この山を制圧して数か月――周辺のライヴス吸収は一通り終わり、次なる土地に動く時期がやって来たのだが、どうも興が乗らない。
 かつての世界では、ほんの数ヶ月もあれば全域を支配できたものだが、この世界では――正確には時期を同じくして複数の世界でも――イレギュラーが現れた。能力者だ。
 ようやっと本格的な戦いができる。そんな期待も束の間、奴らときたら勝機があるとは思えない戦力を小出しにしてくるのみで。弱者をいたぶるのも飽き飽きだ。

「つまらない」
「ならば一つ、提案して差し上げましょう」

 それは、突如としてアンゼルムの前に現れた。異形の男。アンゼルムは眉根を寄せる。
「愚神商人か。そのいけ好かない名前は控えたらどうなんだ?」
 アンゼルムは『それ』の存在を知っていた。とは言え、その名前と、それが愚神であることしか知らないのであるが。
「商売とは心のやり取り。尊い行為なのですよ、アンゼルムさん」
「……どうでもいい。それよりも『提案』だ」
 わざわざこんな所にまで来て何の用か、美貌の騎士の眼差しは問う。
「手っ取り早い、それでいて素敵な方法ですよ。貴方が望むモノも、あるいは得られるかもしれません」
 愚神商人の表情は読めない。立てられた人差し指。その名の通り、まるでセールストークの如く並べられる言葉。
「へぇ」
 それを聞き終えたアンゼルムは、その口元を醜く歪める。
 流石は商人を名乗るだけある。彼の『提案』は、アンゼルムには実に魅力的に思えた――。

●それは小さな一歩だけど
 大阪府と奈良県との県境に山がある。山頂に戦前から遊園地があり、奈良県側には重要文化財にも指定される寺院が複数存在しているあの山だ。
 現在、山頂から麓までの広い範囲が強力な愚神により形成されたドロップゾーンに覆われている。そこを攻略する為の第一歩として、周辺の従魔を掃討する作戦が行われることになった。そんな内容の招集を受けて、池上 佐都香(az0003)はミーティングルームで一人座っていた。
 これまで能力者として幾つかの任務をこなしてきたが、これだけ大規模な作戦は初めての事だった。それだけ危険な任務か思うと自然と体が震えてくる。これは武者震いといった類いのモノではない。純粋に怖いと思うのだ。
 それでも、目の前で振るわれる暴力を想像すると、それに対処できる能力を持った自分が愚神やヴィランを排除しなければならないと思う。
「やっぱり怖いけど、私たちがやらなきゃダメなんだよね」
 そう呟いて、ぐっと口を噤み、佐都香は長机に置かれているレジメを手に取った。

・奈良県側の拠点設営に於ける市役所奪還任務について
 これから、各所で行われる作戦においてベースキャンプとなる施設が必要である。そのため、現在、従魔に占拠されている市役所を奪還し、これを利用するものとする。
 まず市役所周辺で活動している大量の従魔を殲滅する。これにより、周辺の安全を確保してから市役所を奪還する。
 次に行うことは、市役所を占拠している従魔の殲滅である。スーツアーマーの従魔は、5体が看取できる。これらを殲滅し施設の安全を確保する。作戦終了後、市役所の機能を回復させなければならないため施設の破壊がない事が望ましい。

 なるほどと、佐都香がレジメに目を通しているうちに廊下が賑やかになってきた。一緒に任務に就く能力者がやってきたのだろう。任務は怖いけど、仲間がいるのは心強い。佐都香の視線が自然とドアに吸い寄せられた。第一印象は大事だ。笑顔で皆を迎えよう。
「私は、この人達と任務に就くんです!」
 いざ、ドアに駆け寄ろうとして立ち上がった佐都香が一歩踏み出そうとしたその時だ。
「はわわわ……」
 自分の足に躓いた佐都香は、腕をグルグルとばたつかせて盛大にこけてしまった。
「こ、このドジッ娘属性なんとかしないと……」
 涙目になって佐都香は、ミーティングルームに入ってきた能力者達を見上げるのだった。

解説

●シナリオの目標
1.市役所周辺の従魔の殲滅。
2.市役所内に潜む従魔の殲滅。ただし、施設への損害は最小限にとどめることが望ましい。

●登場
 雑兵の従魔:中世ヨーロッパの軽歩兵を模した従魔でスピアとチェインメイルで武装しています。戦闘力はさほどありません。

 スーツアーマーの従魔:中世ヨーロッパのスーツアーマーを模した従魔で、ブロードソードとカイトシールドで武装しています。

 池上 佐都香(いけがみ さとか):気弱で泣き虫で怖がりでドジとフルコンボを揃えた少女だが、心の根っこは強い。泣くと強くなるタイプで、ピンチになっても顔面を大洪水にさせながら敵をボコボコにする程度の事はやってのける。ヒーラーという力を生かして「治しながら殴る」というゴリ押し型。ジャンプ攻撃が好き。怖がりだが前線に出て格好良く戦いたい、でも前に出るのは怖いという葛藤を持つ。

●市役所周辺の状況について
 市役所周辺は、雑兵の従魔が大量にうろついていますが、吹けば飛ぶ、という表現がふさわしい強さです。

●市役所内の状況について
 戦闘開始時間は午前10時。場所は1階ロビーとなります。ポールウェポンを振り回せる十分な広さです。ただし、内部は送電されておらず照明が使えないため薄暗いです。
 ロビーの中には、スーツアーマーの従魔が5体が整然と配置されています。ロビーを守るように命令されており、一歩でもロビーに進入すると連携して襲ってきます。ただし、これらの動作は緩慢です。戦闘能力は外に居た雑兵の従魔とは比べものにならない強さです。

●佐都香の行動について
 佐都香はPLの指示に従って行動します。スキルは攻撃適正とバトルメディックを使用することが可能です。

リプレイ

●ドロップゾーン周辺地域
 早秋の涼しい風が閑散とした生駒駅前広場に吹き込んでいた。ずいぶん前に住民は避難しており、かつて賑わっていた商店街や通りに人の気配は無かった。そこら中に雑草が繁茂しているけれど街に大規模な破壊や風化はみられず、愚神や従魔を始末さえしてしまえばこの地域の復興は容易いだろう。
 そんな生駒駅前に一台のバスが到着した。一件観光バスに見えるが、バスに刻印されたエンブレムはHOPEのものだ。そう、これは大規模作戦に於ける拠点設営を主たる任務としたメンバーが乗るバスなのだ。
 暫くしてから圧搾空気の音と共にドアが開き、今回の作戦に参加するメンバーが続々と降りてくる。
「さすがに、朝は、少し冷えるな」
 すこし途切れる独特の口調で秋津 隼人(aa0034)が呟いた。
「それに、誰も居ないしね」
 ちょっと大げさに零月 蕾菜(aa0058)は辺りを見回してみるが、自分たちの他に動くものは見えない。
「そうですね、それ程大きな街じゃないけど、こうなってしまうと寂しいものです」
 何処か眠そうな目をこすり、大きなあくびをしているのは十三月 風架(aa0058hero001)だ。
「やっと到着ですわ、達也君」
「そうだな、他の場所でも同時に作戦が進行してるから、俺らも頑張らないと」
 赤城 龍哉(aa0090)とヴァルトラウテ(aa0090hero001)も降りてくるなり武器の準備にいとまが無い。
 カペラ(aa0157)は皆と少し離れてアルデバラン(aa0157hero001)と二人で居た。そして、西にそびえる生駒山の山頂を一瞥する。
「なんだかなあ。大きな作戦が動いているようだけど、余り興味ないわね。私が今求めているのはこの力を磨くことが出来る戦場だけよ」
 それは小さな声だったが、側に居たアルデバランがソッと耳打ちをする。
「戦乱の世とは、多くの場合は人の思惑が絡むものだ。それを利用しようと思うのならば、自分が誰かに利用されぬよう気をつけねばならない」
 フードで隠されて表情は判らないが、きっと真剣な眼差しを向けているのだろう。
「自分を見失ってはならない。カペラ、その事だけは忘れないようにな」
 そう言って自分はカペラの後ろについて歩く。カペラは口元をもごもごさせて何か言いたげだったが、そのまま他のメンバーの所へ合流した。
「ほな行こか。ビャク」
「ああ」
 門隠 菊花(aa0293)と白青(aa0293hero001)は二人して談笑している。バスの中から冗談を交えた会話が止まらない。
「ハイハイー、私たちも頑張ってくヨー。アカツキー」
 妙なハイテンションのキャス・ライジングサン(aa0306hero001)が半ば無理矢理、鴉守 暁(aa0306)の背中を押すようにしてバスから降りてきた。一歩毎にその豊満な胸がぽよんと跳ねる。
「あ~、判ってるよキャス。判ってるから押すなよー」
 こうやってキャスに背中を押されているが、それもまんざらでは無い様子で暁は切り返した。
 そんな二人の様子を中城 凱(aa0406)と礼野 智美(aa0406hero001)が後ろから見ていた。二人とも13歳ほどの少年に見えるが、こう見えて智美は女の子である。
「よーし、俺たちもやってみるか。凱」
「いや、オレは遠慮しておく」
「遠慮するなよ」
「いやいや、してないし」
 大人ぶってクールに立ち回ろうとしている凱似対して、智美は屈託無い態度をとるものだから、ついつい言い争うようになってしまうのだ。
「はいはい、二人とも、後ろが支えているからね」
 二人となだめるようにしてエスティア ヘレスティス(aa0780hero001)が笑顔を向ける。その笑顔と上品な仕草に妙な説得力を感じた凱と智美はお互いに顔を見合わせると、ステップを踏むようにタラップを降りていった。
「流石だな、ヘスティアさん」
 こちらに来る前は上流階級で育っただけはあると、晴海 嘉久也(aa0780)は思った。
「まあ、ざっとこんなものです」
 そんな嘉久也にヘスティアは微笑みを返す。それから二人してバスから降りていく。
 そして、最後にメンバーの元へ来たのは池上佐都香だった。
 西にそびえる生駒山に掛かるドロップゾーンを見上げ、池上佐都香は薙刀を持つ手に力を込めた。これから始まる戦闘に対する緊張からか細い体が震えている。
「空回りしてもしょうが無いですし……。コレみたいに、とまでは言いませんが慌てたりしなくても大丈夫ですよ」
 佐都香にそう言って、蕾菜は半分寝ているような風架を見やった。当の風架は相変わらず眠たそうな目をこすりっていたが、蕾菜の視線に気がついたのがプルプルと首を振って眠気を飛ばそうとしている。
 そんな二人をみて、佐都香はクスリと笑った。自然と震えは収まっている。
「はい。やるだけやってみます!」
 
●市役所周辺雑兵の従魔殲滅戦
 市役所周辺は商店街から住宅地に連なっている。駅から進行すると、ほぼ一本道で入り組んだ路地は殆ど無ない。
 市役所の前に市役所周辺の従魔を殲滅することにした能力者達は、市役所に向かう道すがら遭遇した従魔を打ち倒していく。
 市街地に出没した雑兵の従魔は、能力者達からしてみれば恐れるほどのものでは無い。しかしながら、こと佐都香に関しては別のようで、一人涙目になりながら薙刀を振り回していた。
「ふわわっ、来ないで、来ないでっ!!」
 囲まれないように立ち回っていたはずなのに、佐都香は、いつの間にか三体の従魔に詰め寄られていた。何度も雑兵の従魔と切り結び、何とか槍の切っ先を躱していたものの、ジリジリと押されてしまっていた。
 そんな佐都香の様子を隼人と暁は、戦いながらも気にかけていた。目端に映った佐都香がピンチと見るや、まず隼人が眼前の従魔を殴り倒した。そのままの勢いで身を翻すと疾風のように佐都香の元へ走った。一方、暁はスナイパーライフルの照準を佐都香に襲いかかる従魔に向ける。そして、冷静に引き金を引いていくと一体、二体と従魔が脳漿をぶちまけた。
 暁に狙撃された従魔の体が崩れ落ちる間もなく、佐都香の元に辿り着いた隼人は連打を繰り出し従魔を圧倒してしまう。その余りの勢いに佐都香はぺたりと座り込んでしまった。
「大丈夫、ですか?」
「あ、ありがとうございます」
 隼人に手を貸して貰って佐都香は立ち上がった。自然と涙がぽろりと零れる。
「さとかっちは狙われないように動いてねー。できる限りフォローはするから」
 暁もスナイパーライフルを肩に担いでポテポテと歩いてきた。
「はいっ!」
 仲間がこんなにも心強いと思ったことは無い。涙をぬぐった佐都香は、心からそう思うのだった。
 その頃、嘉久也は自らの英雄エスティア能力を測るように単独で戦わせていた。何処まで戦えるか試そうというのだ。エスティアは、大剣を振るい雑兵の従魔と切り結んでいるが、殆どダメージを与えることが出来ない。逆にジワジワと手傷を負っていってしまうのだ。そう、如何に大量のライヴスを扱う英雄であろうと、その能力が発揮されるのは、あくまでリンク時なのである。従魔や愚神を滅ぼすAGWは勿論、自身に備わった技能ですら使用することが出来ないのだ。
 そのため、エスティアに従魔が群がるのは当然で、さながら寄せ餌に群がる魚に集まってくる。そのまま力を出せずに防戦一方のヘスティアを援護すべく、カペラと菊花とが連携して従魔の数を減らしていった。
「あ、ありがとございます」
 ヘスティアは、彼女に群がっていた従魔が始末されてから、やっとお礼を二人に言えた。
「かまわないわ。こういう事でも力を磨くことにはなるし」
「そうそう、お互い様やしな」
 カペラは何時もの無表情で、菊花はからっとした笑顔でそう答えた。

 能力者達は、順調に市役所周辺の従魔を殲滅していった。勿論、周辺の物陰や空き家を索敵しておくことも忘れない。
 潜んでいた従魔と戦っているときだ。佐都香が一体の従魔を相手に戦闘を繰り広げていた。相変わらず怖い怖いと言いながら従魔と戦っている。そんな佐都香が何かやらかさないか潺々恐々と見守っている中、本日一発目をやらかしてしまったのだ。
『佐都香は足がもつれて転んだ!!』
 そんなダイアログが警告音と同時に表示された様だった。全員が目を見開いて佐都香を見る。転んだ佐都香は咄嗟に上体を起こすと、無表情なはずの従魔の口元ですらニヤリと笑っているように見えた。
「やるぞ、ヴァル。力を貸せ!」
「参りますわ!」
 火之迦具鎚を構え、赤城は走った。突き下ろされようとしている槍をはじき飛ばして片膝を砕く。そのまま崩れ落ちた従魔に容赦なく火之迦具鎚を叩き込んだ。赤城が火之迦具鎚を振るう度に火の粉を散らしていく。
「怖いと泣きながら戦う事を諦めないのは見上げた根性だ」
 そのまま赤城は従魔を圧倒していた。あまりの強さに佐都香はポカンと彼を見上げるしか無かった。
「だが、今の戦い方を続けると早晩行き詰まるぜ。もうちょっと自分に合った手段を考えた方がいい」
 そんな佐都香を助け起こしながら赤城なりのアドバイスをしておく。ふと佐都香が赤城を見ると、彼は汗一つかいていない。そして、がんばれよと、佐都香に言い残し次の従魔に向けて走り去っていく。佐都香はその背中に一礼し、私も頑張らなければと、心に思うのだった。

●市役所内部スーツアーマーの従魔殲滅戦
 市役所周辺のでの従魔の殲滅は、佐都香のドジとリンクせず戦ったヘスティアのサポートを全員で行うことで犠牲を出さずに終了した。
 最後にメンバー全員で周辺を歩き、雑兵の従魔を全滅させたことを確認する。
 それから市役所の敷地内にある駐車場に移動してきた。駐車場には従魔はおらず、放置された車が数台置きっ放しとなっている。能力者達は、車で視界が妨げられない一角を選んで一息吐いていた。
「あわてない、あわてない。ひとやすみ、ひとやすみー」
 そう言って腰を下ろすのだが、しっかりハンカチを敷いてそこに座る辺り、彼女の育ちの良さが醸し出されている。
「さてと、次は問題の市役所か」
 そう言って凱は荷物からヘッドライトを取り出して頭に装着する。そして、ライトを付けたり消したりして具合を確かめていた。
「そういや、さっき転んだとき怪我はありませんでしたか?」
 蕾菜が佐都香を気遣って声を掛けた。
「あ、はい。リンクしているときはこけても怪我をしないので大丈夫です。ホントにこけてる場合じゃないんですけど……」
 佐都香は、ばつが悪そうにうつむいてしまう。
「まあまあ、大丈夫なら良いじゃないか。ここからはスーツアーマーの従魔に集中しようぜ」
 そう言って赤城は笑ったが、ふと思い立って真剣な顔になった。雑兵の従魔との戦闘中に佐都香が見せていたジャンプ攻撃のことだ。
「あー、なんだ格上相手にジャンプ攻撃は禁止だ。隙が大きすぎる」
 蕾菜も、ごもっともとばかりに頷いている。
「は、はい!」
 佐都香はビシッと背筋を伸ばして答えるのだった。

 そのまま少し休憩してから、全員で市役所の正面玄関へと向かった。情報だと1階ロビーにスーツアーマーの従魔が居るはずなのだ。
「まずは私が敵の様子を見てきます」
 カペラは、体勢を低く保ち足音を立てないように走った。玄関の柱の陰にスルリと入りこむ。そのまま半身になってソッとロビーをのぞき込んだ。
 ロビーの中は、日の光が入る範囲だけが照らされており薄暗く、全体を把握することが難しい。それでも、この場に似つかわしくない奴が陣取っていることだけは判った。
 ロビーの中央にスーツアーマーが5体、整然と横一列に並べられている。それぞれが鈍い金属光沢を放つ甲冑に装飾の施されたブロードソードを眼前に構え、カイトシールドを携えている。
 5体の従魔は、カペラが見ている限り微動だにしなかった。それを確認してからカペラは皆の元へと戻ってくる。次いで、ロビーの状況を見たままに伝えておいた。
「まずはこちらが戦いやすい状況を作るのが重要だと思います。入り口を開けて、射撃で様子を見るのが良いかと」
 嘉久也がグレートボウの弦を確かめるながら言った。
「そうだねー、動かないなら倒れるまで鉛弾叩き込むのも良いと思うよー」
 暁もスナイパーライフルに弾を込め直しながら頷いている。
「それなら私も魔法を打ちこんで様子をみるかなあ」
「(さてと、そろそろ自分も目ぇ覚ましていきますか)」
「最初から覚ましておいて下さい!」
 不意に蕾菜の頭の中で風架が言うものだから、心の中で突っ込んだつもりが思わず言葉に出してしまっていた。
「あるある、あるよねー。心の中で突っ込んだつもりが口に出しちゃうことー」
「(相変わらず突っ込みがハヤイデスネー)」
「気にしたら負けだよ、蕾菜」
 大丈夫と手を振って暁の後に蕾菜が続いた。
 これでロビーのドアをこじ開けて射線を確保。攻撃に対して反応が無ければそのまま倒れるまで攻撃続行。能力者達の方へおびき寄せられたら戦闘に支障が無い場所へ誘導して戦うという寸法だ。
「上手くおびき寄せられたら近接戦闘だな」
 赤城がそう言うが、菊花は今ひとつ乗らないようであった。
「うち、戦闘は苦手やねんけどなー」
「勝負時にぶつくさ言うな!」
「せやかて~、苦手なもんは苦手なんよー」
 ため息まで吐いて菊花がぼやくと、即座にビャクが突っ込みを入れた。
「それはそうと、作戦通りやってみようぜ。折角用意したヘッドライトが無駄になるかもしれないですけど!!」
 凱の一声で全員武器を準備するとロビーの前に集まった。やはり、それだけではスーツアーマーの従魔が動く気配はない。
「ちょっと待ってて」
 音も無くカペラが自動ドアに近寄り、ドアの隙間に指を滑り込ませる。少し力を込めると自動ドアをゆっくりこじ開けていく。他の能力者達が見ている中、ドアは完全に開かれた。従魔達を見てみるが反応は無い。
「じゃあ、あとは俺らが射撃ね」
 ドアから下がったカペラと入れ替わるように凱、嘉久也、暁、蕾菜がドアの前に陣取った。
「ところで、何処を狙えばいいんです?」
 凱がクロスボウを従魔に向けて訪ねた。
「そりゃまー、ヘッドショットを狙っていこうよー」
「了解です!」
 暁に応じて凱がヘッドライトのスイッチを入れた。続けてクロスボウの照準を合わせると、視線の先に照らされたスーツアーマーがギラリと光った。
「では、全員で照らされている奴を狙いますよ」
 嘉久也が三人に視線を走らせる。三人も頷いて答えた。
「カウント3で行きます。3,2,1、攻撃開始!」
 攻撃開始の声と同時にヘッドライトに照らされた従魔に向かって攻撃が始まった。最初に銃弾が眉間の装甲を打ち抜く鈍い音、次いで銀の魔弾による衝撃でヘルムが醜く歪んだ。それから少し間を置いて二本の矢が鈍い音立てて突き刺さる。
「もしかして倒した?」
 額に手を当てて赤城が中をのぞき込む。わずかな期待を持ってそう言ったのだが、スーツアーマーの従魔は関節をきしませ動き始めた。余り速い動きでは無いが、シールドで体を守り、ソードを構えて前進してくる。明らかに能力者達を敵と認識している行動だ。
「そうそう上手くいかないか」
 それでも第二撃を加える距離は充分だったので、4人は狙撃を続ける事にした。シールド防御の隙間を突いて攻撃するため、初弾ほどの精度で狙うことが出来ないが着実にダメージを与えていくことができる。さらに、ジワジワと進んでくるスーツアーマーの従魔が入り口を認識し、一体ずつ縦列隊形を取ったことは能力者達にとって好都合だった。
 後退しながらおびき寄せ、射撃でダメージを蓄積させる。駐車場まで誘導した頃には、最初にロビーで狙撃した従魔などボロボロのガタガタになっていたものである。
「ロビーの中じゃ撃てなかったけど、ここなら大丈夫……」
 蕾菜が精神を集中し、掌にライヴスを集中させる。高密度に圧縮されたライヴスは爆炎へと変換されて従魔達の中心で炸裂した。熱線と爆風が従魔を包み込み、五つの影が炎の中で揺らめく。
「(やったか!)」
 風架が蕾菜の頭の中で叫んだ。仕留めたか確証を持てない蕾菜は、じっと炎の中を見つめていた。程なくして、一体の従魔が派手な音を立ててその場に崩れ落ちた。しかし、4体の従魔がゆっくりと炎の中から姿を現す。シールドを構えて蕾菜に向かいにじり寄ってくるのだ。
「さあて、お相手願いますよ!」
 ライヴスの炎がかき消えたのを見計らい、隼人がライオットシールドを構えて従魔の前に出た。まずは自分が体を張って時間稼ぎをしようというのだ。一人で4体の攻撃を受け流すのは流石に辛く傷を負ってしまうが、そこは菊花と佐都香が治癒を行った。
 そうやって時間を稼いでいる間、近接戦闘を行うメンバーが、それぞれ従魔をターゲットとすべく走った。密集形態を取る従魔に対し、分断して各個撃破とまでは行かないものの、後方、側面を突いて有利な状況を作り出していく。それにより、1対1の状況を作り出してから事態は好転していった。
 最初に従魔を仕留めたのは赤城だった。
「範囲攻撃なんて無くても、この連中相手なら何体か纏めぶっ飛ばせるんじゃねぇか?」
 そう言って赤城は従魔の剣を火之迦具鎚で受け流していく。
「欲をかくとろくな事ありませんわよ!」
 ヴァルトラウテの忠告は有難いが、流石に赤城もこの程度に手こずってはいられない。「別に油断してるわけじゃねえぞ、と!」
 上段のフェイントから盾の動きを誘導し、がら空きとなった膝関節に強烈な一撃を叩き込んだ。それから、よろめいて隙だらけの脇に全身全霊の力を込めて打撃を叩き込む。
 それが従魔の限界だった。打撃の圧力で鎧が飴のようにひしゃげると、胴体から腿、脛当てと繋ぎ目から空中分解して駐車場に散らばった。その中身はがらんどうで、無機質な金属音が周囲に響く。
「まさに、鉄の悪魔を叩いて砕く。だな」
 自分がやらねば誰がやるとばかりに従魔の残骸から踵を返していた。
 一方、カペラは影縫いで従魔を縛り、ヒット&アウェイを繰り返していった。そして、さらに遅くなった従魔の動きを暁、嘉久也、蕾菜の射撃組は見逃さない。カペラに向かい自分たちに背を向けた従魔に容赦なく攻撃を浴びせた。それに反応して従魔が射撃組を狙おうとする。それはカペラに背を向けるということになるのだ。カペラはその隙を逃さず攻撃を加えていく。
「私だけを見ておきなさい。そうすればすぐに終わるわ」
 それを何度か繰り返すうちに、従魔は音を立てばらばらに崩壊した。距離をとっていた射撃組が微笑んで手を振ってきたが、カペラは何時もの表情でスッと手を上げ答えるだけだった。
 凱はクロスボウから竜角の槍に持ち替えて従魔を相手にしていた。槍の間合いを上手く利用し、従魔から攻撃を受けないように立ち回っている。槍術三倍段とはよく言ったもので、従魔に槍と剣との間合いの差を埋めることは出来なかった。程なく凱は従魔を倒してしまっていた。
「ふわあああああっ!!」
 そんな叫び声を上げ、涙をボロボロ零しながらも佐都香は従魔に切りつけていた。周りでは次々と従魔を倒す音が聞こえてくる。彼女が相手をしている従魔は、隼人が注意を引いてくれているから戦いやすいものではあるが、自分の方を向いたときの威圧感は、小さい佐都香にとってかなりのものがあった。それでも、グッと歯を食いしばって従魔と切り結んでいた。
 しかしながら、自分が担当する従魔を倒した仲間が一人、二人と加勢に来てくれると共に佐都香は後ろに下がって回復役となることが出来た。最終的に、能力者達が従魔を取り囲む形となり、そのまま圧倒してしまう。佐都香は、安堵のため息を吐いてその場に立ち尽くしていた。
 急に周囲が静かになった。足下に散らばる従魔の残骸だけが風に煽られて小さな金属音を発しカラコロと小さく揺れていた。戦いは終わったのだ。
 戦闘の恐怖からか、まだ目に涙を溜めている佐都香の元にカペラがやってきた。そして、ポケットからティッシュを取り出すと彼女の手を取って渡した。
「みっともない顔を見ているのは好きじゃ無いの。シャキッとしなさい」
 何時もの表情でカペラは言う。佐都香は、ありがとうと、安心感から沸いてきた涙を拭いていた。

●ここからが本当の戦い
 スーツアーマーの従魔を倒したあと、能力者達は、赤城、嘉久也を中心に市役所の内部を隅から隅まで調査して回る。市役所周辺は隼人が率先して見に行った。残存するかもしれない従魔の確認と施設の損傷度を確認するためだ。
 結果として従魔は確認されず、内部も少々荒れていたが、殆どの物品がそのまま残されていた為、復旧の問題はなさそうだった。
 その事を確認してから、暁が市役所を制圧出来たことを本部に報告して任務完了となった。夕方までに設営班が到着してくるらしい。
 やっと張り詰めていた緊張が解けて、各々リンク状態を解いていく。こうしてみると総勢18名という結構な大所帯だった。彼らの雑談でロビーが俄に賑やかとなる。
「うまく拠点として使えればええんやけど」
 菊花は損傷の激しい一階ロビーを見回していた。そやそやと、ビャクも相づちを打っている。
「この損傷具合なら大丈夫だと思うよー。他の階はほぼ無傷だったしー」
 暁は荷物から水筒に入った紅茶とクッキーを取り出して食べている。
「オー、ワタシにもお裾分けお願いシマース!」
 キャスと暁はじゃれ合うようにクッキーを摘まんでいく。
「おまえら、ホントに緊張感無いよな……」
「これが私の生き方なのだ」
 そう言って暁は笑って赤城にピースを突きだした。
「次はあそこだよな」
 嘉久也がロビーの入り口から見える生駒山の山頂を見上げていた。
「そうですよね、もっと大変な戦いになると思います」
 その隣でエスティアも山頂を見上げて目を細める。
「そうは言うけど、俺たちはやるしか無いんですよね」
「ここは俺たちも続けてビシッと行くところだぞ、凱」」
 凱と智美も次の作戦地となるであろう生駒山を見上げている。
 カペラはロビーに据え付けられた椅子に座って武器の整備をしていた。その傍らにはその様子を見守るようにアルデバランが付き従っている。
 そんな仲間達を見て、佐都香は、きっとこの人達ならアンゼルムのドロップゾーンも破壊できるだろう。そして、自分も足手まといにならぬよう強くならなければと、誓うのだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 挑む者
    秋津 隼人aa0034
    人間|20才|男性|防御



  • ひとひらの想い
    零月 蕾菜aa0058
    人間|18才|女性|防御
  • 堕落せし者
    十三月 風架aa0058hero001
    英雄|19才|?|ソフィ
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • シャドウラン
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    人間|15才|女性|攻撃
  • シャドウラン
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    英雄|35才|男性|シャド
  • エージェント
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  • エージェント
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    英雄|10才|男性|バト
  • ようへいだもの
    鴉守 暁aa0306
    人間|14才|女性|命中
  • 無音の撹乱者
    キャス・ライジングサンaa0306hero001
    英雄|20才|女性|ジャ
  • エージェント
    中城 凱aa0406
    人間|14才|男性|命中
  • エージェント
    礼野 智美aa0406hero001
    英雄|14才|男性|ドレ
  • リベレーター
    晴海 嘉久也aa0780
    機械|25才|男性|命中
  • リベレーター
    エスティア ヘレスティスaa0780hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
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