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英雄変性
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最終発言2018/02/15 12:34:12
オープニング
● お前の体は俺のもの。
ある日。本当にある日唐突に。
それは起きてしまった。
夜寝て、目覚めるように。朝にご飯を食べるように、歯を磨くように。
リンカーであれば気軽にする行為。共鳴。
能力者と英雄の体を一つにして。霊力を使える状態にする。
その行為だが。共鳴姿はまちまちで。お互いの精神状態の影響を多く受けていることは間違いない。
そんな共鳴状態だが。普段と違う状態になったまま戻らなくなるという事件が発生した。
しかも。しかもだ。
その姿、かなり見たことがある。
朝、鏡の前で。もしくはおはようと合わせる顔。
そう、共鳴姿が英雄の外見で固定され、うんともすんとも変わらなくなってしまったのだ。
これはまずい。そう思った時には時すでに遅い。
解除もできない。
君たちは途方にくれるだろう。
ココロは能力者。しかし外見は英雄のまま。
しばらく生活しなくてはならないのだから。
● 原因は愚神
今回の外見英雄化事件ですが。実は皆さんのあずかり知らないところで解決される予定です。
プラチナバクという愚神が原因らしいですが。この愚神皆さんがてんやわんやな事態になっている間に倒されてしまいますのでご安心ください。
そのプラチナバクの影響が出始めてから収まるまでの二日間。
英雄の姿をお楽しみください。
● 注意事項
いったんきょうめいしたあとに。
きょうめいをとくと。
せいしんがこんせんするかのうせいがあるよ。
つまり、おまえがおれで、おれがあいつで。
えいゆうのからだにのうりょくしゃのこころ。
のうりょくしゃのからだに、えいゆうのこころ。ってじょうきょうに。
なるかのうせいもあるよ。
きをつけよー。
BY 今回の事件の被害者の幼女
● ハプニング・もしくはイベント。
1 能力者暴走
英雄の体を乗っ取るということ、それは、自分ではできなかったいろいろができるという事。
共鳴の主導権の仕組みがどうなっているのかは皆さんの設定次第ですが。
きっと暴走したい方もいらっしゃるでしょう。
単純に、普段男だけどパフェ専門店に入れなかったから入りたい。
英雄が普段やってるようなエキセントリックな動きを自分もやってみたい。だとか。
日頃の恨みをはらしたりだとか。
2 食料切れ
冷蔵庫の備蓄も、倉庫の備蓄も、ない!
買い物に行かないといけない。
となると皆さんは能力者の体で正装をしなければなりません。
同性の能力者と英雄ならいいでしょうが。性別が違ったりセンスが違ったりするとファッションがちぐはぐになったり。
それどころか知り合いと出会う可能性も!
恐ろしいイベントとなりそうです。
もちろん空腹に耐える選択肢もありますが。ただただ辛いでしょう。
3 普通にお仕事
英雄と能力者はリンカーですが、表の顔を持つ方も多いでしょう。
そのお仕事を休めない場合、英雄の仕事に能力者が出なければなりません。
簡単なアルバイトなら何とかなるかもしれませんが。
アイドル業や医者と言った特殊なスキルが必要となる仕事。
それにあたった場合どうなるのでしょうか。
4 遙華からカラオケのお誘い。
遙華から突然カラオケのお誘いが来ます。しかし彼女は箱入り娘。待ち合わせからお店選び、機種がどうのこうの。カラオケのお作法。
何も知りません。つまりあなたは必然的に。
待ち合わせからカラオケの説明、できればメンバー集めと。高いコミュニケーション能力とスケジュール調整能力を求められるのですが。
これを英雄の体に乗り移ったままできるのでしょうか。
解説
目標 二日間のあいだ。人様に迷惑をかけないで生きる
精確に言うと事件発生が正午、収束が十五時ごろ。なので。二十七時間の間。
世間様に対しておそそうをせずに過ごせばいいだけです。
らくしょーですよ。家に引きこもっていればいいんですから。
しかし、こんな時に限って皆さんは外に出なければならない用事に見舞われるのです。
ちなみに、能力者の体に、英雄の心という状況のあるなしは皆さんで決められるのでご安心ください。
リプレイ
●祭りの前の大騒動。
事件というものは前触れなく唐突に起こるものである。
容赦なく、リンカーたちにとって忙しい、忙しくない。関係なく。
たとえばその日『天城 初春(aa5268)』と『辰宮 稲荷姫(aa5268hero002)』は大忙しだった。
神社の境内を走り回り、何かの準備に追われる昼下がり。
それはお祭りの準備。夜更けから始まるお祭りは由緒正しく代々受け継がれる重要なもの。
おろそかには一切できない。
そんな初春の実家。山裾にある真月稲荷神社の傍の山中に従魔が出たとの報告があった。
この忙しい時に。二人はものすごい勢いでAGWを担ぎ、従魔退治のために出向いた。
そして共鳴、まぁ実際戦闘自体はすぐに終わり、無事討伐完了と相成ったわけだが。
その時問題が発覚した。
「あれ? なんか視点が高いような」
「なんでワシがそこにおるんじゃ?」
みれば稲荷姫が自分を見あげており。初春は自分を見下ろしている。
そう不思議なのは、毎日洗面台で見る顔が目の前にあること。
「「どういうことじゃ!?」」
初春と稲荷姫が入れ替わってしまった瞬間だった。
そうなって困ってしまうのは祭りの演目である。
その日のお祭りの終盤の夜に初春が拝殿の前に設営されたステージで神楽舞を踊ることになっているのだ。
普段ならなんてことはない。毎日練習を重ねている初春はすぐにステージに立てる。しかし今の初春がステージに立ったところで意味がないのだ。
なぜならこの体は稲荷姫のものだから。
「こ、これは特訓じゃー」
演目まであと数時間しかない。
「控えめに言って踊りを数時間で覚えろとか無理じゃろ!?」
「頑張ってくだされ」
そう初春の叱咤激励を受け頑張る稲荷姫に、いい笑顔でグッと親指を立てている初春。
普段は神楽舞を奉納される側だとしても、踊るとなると全く別であるからして。
本番までに舞を覚えきることができなかった。
「やっぱり無理じゃ、すまぬ」
息も絶え絶えに稲荷姫は床にへたり込んでいる。それを見かねた初春は告げる。
「まぁ妾が踊ればいいだけですので問題はないですの」
「ちょっと待てお初!?」
そのまま初春は稲荷姫として舞台に上がり、そして静かに神へと祈りを捧げるのだった。
その後二日もすると自然と二人は人格が元の器に戻った。
「おや、戻れたようで」
「何だったんじゃホントに」
「そう言えばH.O.P.E.に連絡しとらんかったが、何があったか確認しますかの?」
「そうじゃな、戻ったとはいえ異常は異常じゃ、連絡しておくかの」
まぁその報告が奇妙奇天烈なものばかりなのだが、それはまた別のお話し。
● 被害者01
その日『八角 日和(aa5378)』は何気ない休日を過ごそうとしていたらしい。
彼が語るには、ほんの少しの気の緩みとちょっとしたアクシデントの結果そうなったらしい。
彼はすべてが終わった後にこう語る。その日の出来事を明確に、はっきりと。
「私はその日。朝ご飯食べたら冷蔵庫に何もなくなったから、お昼の前に日課のお散歩にいって帰りに買い出し行こうと思ってたんだ。
『ウォセ(aa5378hero001)』は鍛錬だって言ってきかない空、形だけでも取り繕って見ようかなって思って。
それで、今日は共鳴して走ったりしてみる?みたいな話になって。
共鳴したらいつもと違う感じがしたから、鏡を見たら……」
「……な、……なんじゃこりゃあ~!?」
「……何故おれがいるんだ」
入れ替わっていたというわけだ。
「買い物しなきゃだけど、こんな姿でスーパーとか行ったら騒ぎになるかな……そもそも動物は入っちゃダメ? いや英雄だけど」
そう頭を悩ませる日和と隣でのんきにその表情を眺めるウォセである。
「うーん……そうだ!」
その時何事かを思いついて日和は手を叩いて立ち上がったのだった。
それにウォセは言い知れぬ不安を感じていたという。
そう言うわけでやってきたのが牧場。
「お散歩の時によく通る無人直売所! 野菜あるし、運が良ければ卵とかも買えるし、人に見られる心配もないし」
「……日和、おれは思うのだが」
ウォセがあたりを眺めながら告げる。
「うん?」
「こんな冬に野菜がそれほど並ぶだろうか」
口をパクパクしながら反論の言葉を探す日和。
内心大パニックである。
(しまった。そもそも並んだとしてもほとんど朝のうちに売れちゃうし!
……山菜でも採りに行こうかな? フキノトウとか旬のはずだよね)
その遠い視線ははるか向こうの山脈に寄せられている。
「はぁ……このままずっと戻れなかったらどうしよ」
「そんなにおれの姿は嫌か」
「なんか憮然としてるけど、そういう問題じゃないからね」
その夜、なれない体で入る風呂はなんというか、いろんな意味でやりづらかった。
「全身くまなく毛深くなっちゃって、お嫁にいけないかも」
「おれの体で行かれても困る」
「それに実家帰ったらなんて説明すれば……見る影もないってレベルじゃないよこれ」
「帰る気があったのか?」
言葉に詰まる日和。
「……もっと強くなったら、いつかはね」
「そうか」
次の日は朝から、大わらわであった。
なにせウォセの手じゃ服が着れないのである。
「やっと着れた! ……着れた?」
「……ボロボロだな」
まぁ、着れたと言っても穴あきのぼろぼろ姿だったわけだが。
「うう、これじゃ外に行けない」
そんな苦難を耐え忍び二日。日和は自分の姿に戻ると泣きそうな勢いで喜んだらしい。
●変わってみてわかるその重み
「む、何か違和感が……」
「……ん、視点低い?」
『麻生 遊夜(aa0452)』と『ユフォアリーヤ(aa0452hero001)』は日課である鍛錬を行っていた。
そこでとある異変に気付く。
(……特に不便がある訳ではないが今はリーヤの身体に負担は掛けれん、解除だ!)
そう遊夜は何か嫌な予感を感じて共鳴を解くのだが、その解除にも問題があったようで不穏な空気を抱えることになる。
そして次の瞬間、目の前に広がる光景を見て。遊夜は思った。
「……なるほど、今回はこういう趣向か」
「……ん、新しいパターン」
しかし意外とこの異常事態に夫婦は落ち着いていた。
新鮮さは感じるが、平然としていている二人に百戦錬磨の落ち着きを感じるが。
「何か前にもこんなことがあったような……?」
そもそも入れ替わりが初めての経験ではないらしい。
ユフォアリーヤと遊夜は同時に頭をひねる。
「……ん、デジャヴ……頭が軽い、体も軽い」
「だろうな、俺は色んなところが重いし」
ひとまず二人は居間に移動、自分たちの体について確認してみることにした。
たとえば遊夜は耳や尻尾触ったり、髪の毛や胸を持ち上げて確認したり。
「やーん、せくはら」
まんざらでもなさそうに体をひねるユフォアリーヤである。
「共鳴時とはちょっと違った感覚だな……前も後ろも重い」
「……ん、個人差も……ありそう?」
そうユフォアリーヤは元自分の体である遊夜の頭を撫でる。
遊夜はお腹の子供が蹴った気がしてお腹を触った。
「本当に重いな……まさか自分の腹で赤ん坊を抱える事になるとは思わんかった」
「……ボクの苦労、わかった?」
そうくすくすと笑って見せるユフォアリーヤ。
「身に染みて実感させて貰ってるよ」
そう遊夜は苦笑いを浮かべた。
「……あ、ユーヤ……朝ご飯ない。冷蔵庫空っぽだった」
「む、配達ミスか? ……仕方ない、確認取ったら買い出し行くか」
そうスマホで状況を確認する遊夜。
自分たちが餓えるだけならともかく子供たちの食べるものが無いというのは許されない。
「……ん、荷物持ちは……お任せ!」
そう意気込むユフォアリーヤ。ここまで自分が荷物を持つつもりでいた遊夜は驚くことになった。
確かに体を考えると今のユフォアリーヤに持ってもらうのが正しいが、違和感しかなかったのだ。
(早く戻ってくれないだろうか、俺の癒しが、癒しがないんだ……)
そう遊夜は間近にある自分の顔を眺めながら思う。
その後二人は寝室へ。
遊夜は元自分の体をよそ行きの服へとコーディネイトしていく。
問題はユフォアリーヤの体。つまり今の自分の体だが。
「あの頃は野生児でホント着てくれなかったもんなぁ」
そう感慨にふけりながらマタニティファッション、ニットやポンチョで温かくデザインしていく。
「……ん、用意できた!」
「ん、それじゃ行こうか……何食べたい?」
「……お肉!」
そして二人は家を後にする。
●メイドによる、メイドのための休日
『鈴音 桜花(aa1122)』と『Alice(aa1122hero001)』はメイドとメイドのコンビである。
丁寧で落ち着いた喋りをするメイド桜花と元気がいいケモ耳メイドAliceである。
二人は日常的に共鳴をしてお仕事に当っているのだが、今回の件はそれが災いしてか。仇になってか。事件の発覚が遅れてしまった。
それは正午御昼過ぎ、休憩でもしようかと共鳴を解こうとした矢先の出来事である。
桜花は何か違和感を覚えた。
その違和感は本の些細なこと。英雄の姿から自分の想い描く姿に変化できないと言った些細なことではあったのだが。
何かH.O.P.E.側で情報は出ていないか、心配になり、まずは友人の『Гарсия-К-Вампир(aa4706)』を頼った。
スマホをポケットからするりと抜き取りダイヤルを回す。数度のコールの後に彼女は出てくれたのだが、彼女はもっと大変なことになっていた。
今回の英雄と姿が逆転してしまう事件。
英雄の姿が飛んでも無ければ、とんでもないほどに生活に支障を追う。
たとえば英雄が飛んでもなく小さい場合。
五十センチ程度の大きさの場合は、巨人の国に迷い込んだかのような錯覚を伴う。
つまり、今Гарсияは『Летти-Ветер(aa4706hero001)』の姿となってホビットの気持ちとなっていた。
「……こ、これは一体……どういう事なのでしょう?この身体では仕事がままなりません……どうしましょう」
背丈が50CM程度の妖精の姿になり、目の前の掃除用具やら買い物袋などを目の前に絶句するГарсия。
「……し、仕方ありません……彼女に応援をお願いしましょう……」
そう思った矢先、タイミングよく桜花からの着信があった。
スマホを取って、しどろもどろながら状況を説明すると。桜花は。
「Гарсияさんをいたずr……ではなく、心配なのでお宅に向かいます」
そう言って通話を切った。
Гарсияが心細くなりながらも待つこと、数十分。到着した面々とこれからどうするべきかの作戦会議が始まる。
「まずは私達が共鳴を解いた場合どうなるかを見ていただいてもいいですか?」
その言葉にГарсияはコクリと頷く。
すると桜花とAliceは分離。しかしやはりと言うべきか、心は入れ替わったままである。
「なんで!」
絶句するAlice。
「困りました、買い物に行かなければいけないのに」
そうため息を漏らすГарсия。すると桜花はその小さな体を抱きかかえると告げた。
「お手伝いしますよ。メイド仲間ではありませんか。任せてください」
告げる桜花に抱きかかえられたままГарсияは近くのスーパーを目指すことになった。
(めげちゃダメだ……めげちゃダメだ……めげちゃダメだ……)
道中Гарсияはその大きな胸に挟み込まれ心を揺らされた。
しかし、涙が流れるのはどうしようもないものだ。
さめざめと涙を流すГарсия。
「つめたいっ」
そんな桜花の声に驚き顔をあげるとすでにスーパーに到着していた。
Гарсияは指示をして適当な物をカートに入れてもらう。
そして家に帰ったなら中断した家事がГарсияを待っている。
と言ってもГарсияにはやるべきことがほとんどない。
桜花がだいたい片付けてくれるし、Гарсияにできることは床拭きくらい。
しかし今日は、窓も拭きたいのだ。
そんな思いを込めて窓を眺めていると。桜花がその体を持ち上げてくれた。
しかも胸を足場にしてГарсияは窓をふく、さめざめと流した涙がまた桜花の胸を濡らした。
「冷たいっ」
最後に洗濯であるが、これは一人でできるだろうとГарсияは洗濯機に乗って洗い物を次々とドラムに放りこんでいった。
ただ、その洗濯物に足をからめ捕られて、ドラムの中に落ちるГарсия。
そして勝手にふたがされて洗濯機が回り始める。
「あれええええええええ」
その後桜花に発見されるころには洗濯物事氷漬けにされたГарсияが出来上がっていた。
そんなГарсияを見かねた桜花はこう提案する。
「Гарсияさんを一人にしておくと大変そうなので元に戻るまではお泊りさせていただきますね」
その言葉に凍りつくГарсия。まさか、寝ているあいだも。
この二つの柔らかな塊に、抱かれることになるのだろうか。
「うう、ぐすん」
そのように二日という時間が流れる。
するとだ、なんといつの間にか皆元の体に、元の心へと戻っているではないか。
お礼にГарсияはお茶と菓子を振る舞った。
そしてЛеттиへ声をかけるГарсия。
「ふぁー? ガルシアー、なんだか目が回るよー???」
「き、きっと体調をくずしたのでしょう!? 今日はもうゆっくり休みなさい!!」
「はぁーい……」
ГарсияはЛеттиを寝かしつけた後、輸血パックを空にして……そっと自分の胸からPADを取り出し触り心地確認する。
「……今度、レティの今後の成長について調べてみましょう……えぇ……」
そっと胸に戻してあの感触を思い出すのだった。
● 女の子レッスン
「相手が雫で良かった これが伊邪那美だったらどうなって事か……」
「早く戻りたい……」
『御神 恭也(aa0127)』と『不破 雫(aa0127hero002)』は椅子に座って向き直っていた。
少女の体に入った恭也は落ち着いた素振りをみせているのだが。雫の方は気が気でないようで、慌てふためいている。
事の発端は今朝の事。というか数十分前。
恭也が鏡の前に立つとため息をついた。
「なんだろうな こう言った事態に慣れて来た自分がいるな……」
その後、ふがーっと気持ちよく寝ている雫(体は自分)を揺り起こし、状況の把握に努めたわけだが。
そんなことより雫は気になることがあるらしい。
「ちょっと! そんなに足広げないで! 乙女のたしなみ!」
普段クール……な雫が叫んでしまうほどに非常識な姿勢だったらしい。恭也はすぐに足を閉じるが、これはこれで落ち着かない。
「恭也! そんな姿で歩き回らないで! もう……これからどれだけこの体かわからないし、女の子の体について教えておかないと」
「とても面倒なんだが……、そして俺は学校で今日試験がある。」
そんな恭也を雫は追試を代わりに受ける事を条件に納得させた。
「予定が空いてて助かったな。後は急に誰かが来ない限りは安全か」
雫から女子としての振る舞いについて強制的にレクチャーされることになる。
そして遅刻ギリギリの時間に家を出る雫。一応学校の場所はわかっているため一人でもなんとかなりそうだ。
「では、行ってきます。私の留守中にその体に何か不埒な事をしたら……」
氷点下の瞳を瞬時に作りだし恭也に注ぐ。
「殺しますからね」
「何もせんと約束する。だから試験だけは受けてくれ、点数は後で如何にかするが欠席だけは不味いんだ」
そう告げて恭也は雫を見送ると、汗ばんだ手をシャツで拭いた。
「下手な事をして、雫に疑われたら……あの目は本気で殺る気だったな」
そんな雫であるが恭也の真似などお手のものである。
学校では、自分からは話しかけずじーっとしていることでぼろをだす機会を減らし、声を掛けられた時だけいつものように応対することを心がける。
(恭也が無口で助かりましたね。しかし、皆さん私が返答しただけで何で恐ろしい物を見たような反応をするんでしょうね?)
そして噂のテストの時間がやってきたのだが、配られた容姿を見て雫は鼻で笑った。
そして家に帰ると、学校という場所の感想や、テストの感想を語って聞かせる雫。
「追試は簡単だと聞いた事がありましたが、その通りでしたね。私でも簡単に解けました」
「追試については諦めるか……事情を話せば再追試をしてくれるかも知れん」
「それ、どういう意味!」
この日は災難な一日としてお互いの記憶に深く刻まれたことだろう。
ちなみにこの話には後日談がある。
「周囲の目が妙な気がするんだが…… 担任には精神状態を尋ねられるし、雫の奴何をやったんだ?」
その原因にはテストの点も関わっているようで、ほぼ満点の答案を眺め恭也は頭を抱えるのだった。
「解せん。年下のあいつが何で普段の俺より高い点数を取るんだ?」
● デート・デート・デート
「……如何言う事だ?」
『八朔 カゲリ(aa0098)』はいぶかしむ、何せグロリア社の新装備テスターを行い、更衣室に戻り共鳴を解除したところ、なんと自分の目の前に自分がいるのだから。
『夜刀神 久遠(aa0098hero002)』はその言葉にこう答える。
「私に申されましても……」
何より自分が久遠の姿なのだからそれで間違いはないだろう。
それよりもだ。
「それよりもこの後に蘿蔔様と歌劇を観覧しに行く予定に支障が……」
カゲリは珍しく荒んだ表情を見せ、顔を両手で覆って見せた。
「……日を改めるか」
「……主様。僭越ながら、私に妙案が……」
そう手招きする久遠、その久遠の口元にカゲリは背伸びをして耳を寄せる。
するとカゲリは目を見開いた。
「……本当にやるのか?」
「これも偏に、蘿蔔様の期待を裏切らない為と思えばこそです」
* *
その夜、待ち合わせの公園に久遠は立っていた。TPOをばっちりわきまえ、ドレスコードを抑えている。
そして性格のトレースもばっちりだ。
そして久遠は『卸 蘿蔔(aa0405)』を探し始めるのだが、すぐに見つけることができた。
何せ人だかりができているのだから。
「だ、だめでーす、通してください。うわ、うわ、待ち合わせ中なのです、だれか、だれかー」
そう手を振りつつも目を回してふらふらする蘿蔔に手を貸す久遠。見事に民衆を追い払う。
「一体何なんだ、あれは」
「ファンのみなさんだったんですが……暴走してしまったみたいで」
「そうか、危ないところだったな」
「って、げっ。カゲリ! …………さん」
「げ?」
カゲリ……もとい久遠は首をかしげる。
一瞬白けた瞳になり、言葉を失うカゲリ、その一挙手一刀足を見逃さない蘿蔔もどきは、その正体が早々に看破されたのではないかとひやひやしていた。
そうその正体は皆さんご存知。
『レオンハルト(aa0405hero001)』であるが故。
時は少しだけ遡る。
* *
「な、なんで共鳴が解けないんですか! しかもレオの姿! この後デートなんですけど?」
レオンハルトはそう、慌てふためく自分の姿を絶望の眼差しで見ていた。
頭を抱える、蘿蔔となったレオンハルト。
「でーと、でーと、カゲリさんと、うえええええん」
「ああ、災難だったな、デートはあきらめて」
「どうしよう…………こ、こんな姿見せられない」
「喧嘩売ってんのか」
ついでに、そのまま行くつもりか。蘿蔔ですなんてその体でいっても悪い冗談にしかならないというのに。
「とりあえず俺が直接話すから、事務所か家で大人しく待ってなさい」
そう言い含めてレオンハルトは蘿蔔の姿のまま部屋を飛び出した。
本来であれば事情を話すために待ち合わせ場所に来たのだが、時間より早く来たのがまずかった。運悪くファンに見られてしまい、運悪く蘿蔔しているところをカゲリに見られた。
汗をだらだらとかくレオンハルト。
内心もう事情を説明する気など失せ。中身が自分だなんて言いたくなかった。
蘿蔔していることがカゲリに、友人にばれるなんて考えたくない。
「どうした? いくぞ」
そう手を差し伸べるカゲリ、今日に限って積極的。
しかしレオンハルトはそれにときめくどころか、このままデートに突入することを恐れている。
(しかし今日の予定はオペラか)
チケットが無駄になるのは避けたいな。そう反射的に思うレオンハルト、ちょっと楽しくなる。
(観終わったらお腹痛いとか言ってさっさと帰れば、ばれないだろう)
そうレオンハルトは、カゲリ(久遠)の手を取った。
「楽しみです!」
そして会場につき、席に座るとレオンハルトは思わず話し始める。
「知ってますか? 近代音楽の始まりともいえるバロック音楽はですね。1600年頃のオペラの登場から始まったと言われておりまして、この時代の音楽はですね――」
それを久遠は慈悲深き眼差しで蘿蔔を見つめる。
(しかし蘿蔔とカゲリな…………意外過ぎる)
そして奏でられる美しき旋律は幻想蝶の中にとどまるカゲリにも届く。
カゲリはまどろんでいた。
見えるのは星辰が満ちる夜天に支配された、一面凍て付く銀世界。
そしてその世界を分かつように朽ちる、万里を超える長大にして巨大な蛇の骨。
この世界の中、二匹の狼が駆け回り戯れている。
あれはなんだ。そう思うことも無くカゲリはは蛇の頭蓋に背を凭れ、狼達を眺めている。
「絶対零度の大紅蓮地獄――か。流石に幻想蝶では見目だけだが」
そしていつの間にか止んでいる音楽にカゲリは顔をあげる。するとどういうことだろう。
この後の食事にも行くように話が進んでいるではないか。
久遠は丁寧にレオンハルトをエスコートし、予約したレストランへ向かう。
(俺としては気味が悪いが、蘿蔔を大事にしてくれることは喜ばしい事でもあり。それ故に申し訳ない気分にもなる)
久遠がハンカチを差し出した。
「どうした? 辛いことでもあったのか?」
レオンハルトは泣いている。泣きそうだ、と自分で思いつつすでに泣いている。
「う、うぅ。すみません…………なんでもないです。さっき見たの思い出しちゃって」
首をひねる久遠だが、微笑み直して、この鹿肉は美味しいよ。と自分の皿の料理を切り分けてあげた。
その後、レストランの前でタクシーを止め別れる二人。
久遠は帰り際に告げる。
「ああ、帰ったらレオンハルトにもよろしく言っておいてくれ」
最初から最後まで感じていた違和感の理由を察しながら、久遠は手を振る。
(主様と蘿蔔様のデートは、また今度と言う事で)
* *
「折角のデート……」
蘿蔔は暗い部屋でモニターを眺めながらキーボードを叩いている。
「苦手な作業みたいだしやってあげよ。私天使」
なので楽譜をパソコンに入力する等、比較的簡単な仕事をこなしていく。
「とは思ったものの……帰ってくるの遅すぎでは? えっ。二人で何しての? 駆け落ち!?」
● 深夜の騒々
その日『ニノマエ(aa4381)』はH.O.P.E.某研究室の警備員として勤務していた。
夜から入って、朝に帰って次の日は休日というシフトであり。
ニノマエにとってはなれた仕事のはずだった。『ミツルギ サヤ(aa4381hero001)』と入れ替わってしまうまでは。
夜勤は基本的に一人で行う。詰め所でライトを右手、制服を左手に取ったミツルギはくるりとそれを回すと期待と自信の入り混じった表情で鼻息を鳴らした。
「……なので、警備員の仕事がさっぱりわからん!」
胸を張って告げるミツルギにニノマエは冷静に言葉を帰す。
「単純にミツルギにわかりやすく説明するなら……見回りと索敵ってところだ」
「わかった!」
「本当はそんなに単純じゃないし、おまえだけに仕事をさせるわけにいかない」
告げるとニノマエもミツルギの姿で呼びの制服探し始める。。二人で見回りに出かけることにした。
「俺は女子の制服を借りるぜ。……っと、着替えを男子ロッカー室でするわけにいかないな」
ニノマエは一人になるとさっそく服を脱ぎ始める。そこにまるで戸惑いが無い。慣れた自分の体を扱っているかのようだが。
それには理由がある。ニノマエはミツルギを女性として見ていないのだ。
女性というか恋愛対象として見ていない。要はドキドキの対象ではない。
だからその一糸まとわぬ姿を鏡で見たところで、もう少し筋肉量を増やした方がいいのでは、くらいにしか思わない。
「制服の着方を教えてもらえないだろうか」
しかしミツルギが更衣室に入ってきたことには驚いた。
「一緒に着替えても問題あるまい?」
「まぁ、いいだろう」
そうあっけらかんと答えるニノマエにがっかりしながら、ミツルギも続く。
果ては半着せ状態の自分の体を眺めながら、制服の着こなしとネクタイの締め方、装備品着用とを、黙々とレクチャーされることになる。
「むう……難しいな」
「ネクタイはそうじゃねェよ……」
そんな一悶着を終えて、びしりと制服を着こなすと二人は深夜の巡回に出る。
先ず一回目。
ミツルギは廊下を歩くだけだというのにソワソワ落ち着かない。
当然だろう。ミツルギにしてみれば職業体験だ。初めての仕事は緊張もし、同時に楽しい。
「みんな、良い人ばかりだな」
特に今回の二人での勤務を認めてくれた上長さんには頭が上がらない。そうミツルギは思う。
「……特に辞める理由もなくてな。あと、日常の感覚を持ち続けていたいっていうのは……甘えなんだろうか」
そう自嘲気味に笑うニノマエの瞳を覗き込むミツルギ。
「そんなことはない、と思うぞ」
まぁ、そこにあるのは自分の顔なんだが。
「気に入っている物をあえて手放す必要などない。それがどんなものであれ、持ち続けるための努力をしてきたことは私が知ってる」
生真面目な横顔を見ながらミツルギは思う。きっと、ニノマエにとっては居場所のひとつなのだ。
「私が許すよ、胸を張るがいい」
ただ、そう思いミツルギは歩みを止める。二歩、三歩とニノマエが遠ざかる。
(それにひきかえ、私は)
ミツルギは思った、このまま彼が遠のいてしまったなら、どうなるだろうか。自分はどうなってしまうのだろうか。
(……私の居場所は)
こんなことを考えたくないから、道具でいいのに。
そう胸の前で拳を握る。神……なんて存在がいるとしたなら、その存在を怨みながら。
(なぜ感情などあるのか)
「ミツルギもここで働くか?」
その時ニノマエが振り返りミツルギに手を差し伸べた。
「労働などせんぞ! というか腹が減ってきた。能力者の身体とはこのようなものかッ!」
「眠くなっても寝るなよ」
「フン、おまえの身体は私の好きに使ってやる」
「今更ずるいぞ」
あわて始めるニノマエ。
「仕事が終われば自由だものな。自由満喫!」
そんな騒がしい深夜の警備業。いつもはちょっとさみしかったのだが、今日は楽しかったとニノマエは思った。
●スーパーにて
「幾ら精神面が俺に侵食される程弱いとはいえ、俺に肉体が渡るとは……」
『ディオハルク(aa4472hero001)』は居間でむむむと唸っていた。
その魂内包せし体は『逢見仙也(aa4472)』のもの。
そう入れ替わってしまったのだ。
「……もう少し訓練量増やして、心身を鍛えさせるか。ついでに体にもう少ししっかり技術を叩き込むか。ああ、ミッッッチリと」
しかし入れ替わってやることはパートナーの肉体強化。これには仙也も目覚めた時には涙目だろう。
だが今はその仙也の意識は、ない。
「まずは水分を確保してからみっちり……」
そうディオハルクは立ち上がり冷蔵庫を開けたのだが。
冷蔵庫を食料で満たすため。仙也の体でスーパーへ赴く。
取り敢えず他英雄の分も合わせて二食分、調理中に戻った場合も考えて三食分を籠の中に入れていくのだが。
何やら周囲の声が耳につく。
「あら、あの子今日は普通に買い物してるわ」
「この前どこに住んでるか聞かれました」
「でも眩暈で倒れそうになった時助けてくれたし」
「ナンパしないなんて」
ディオハルクは思わず顔を覆った。奴は一体何をしているんだと。
噂に火がつきそうだったのでそそくさと買い物をして家に帰った。
家に帰ったなら次は晩御飯を作らねばならない。
エプロンを装着。フライパンを振るうが。
なんとここで大失態。しょうゆを切らしてしまっていた。
「ふむ、食料も心もとない。いっそ買いだめしておくか」
しかし先ほどのスーパーには行きづらい。だってまた同じ噂をされるだろうから。
しかし同じようなことは仙也も以前から考えていたようで、今度はやたらと話しかけられるようになった。
ディオハルクは勇気を胸にスーパーに突入する。
するとやはりヒソヒソ噂される。それだけではなく、普段と態度が違うのをものすごく心配される。
話しかけられて普通に返したら口説いたりしないなんて病気? とか言われるレベルである。
仕上げに会計したら「普段戦ったりしてるから体調悪くなったんじゃない?」とレジのおばちゃんに心配された。そして支給品の栄養剤を買い物袋の中に突っ込まれた。
「……アイツ一体普段買い物中に何してるんだ?」
結果精神を鍛えられたのはディオハルクだったのかもしれない。
そして今回の後日談。
「ところで、だ。買い物中お前の振りして来ていたわけだが?」
そう共鳴がとけたところでディオハルクは仙也へ言葉をかけた。
「んー?」
「普通に物を買うだけでヒソヒソされた」
「へー? なんか失敗してたんじゃね?」
「よく聞くと、ナンパも何もせずに普通に買い物してると驚かれている様だった。レジでも体調悪いの? と聞かれた訳だが?」
「弁護士! 弁護士を呼ばせろー! 出来るだけ口の上手い奴を!」
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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