本部

歌を取り戻せ!~悪徳の花~

鳴海

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
4日
完成日
2018/02/19 18:54

掲示板

オープニング

● 吸い出した膨大な霊力を……

 ガデンツァは一人、打ち捨てられたラボで大きなフラスコを見つめていた。
「足りぬ」
 そのフラスコ内に浮かぶのは少女。
 ただし少女はすでに変容を始めている。その体は透き通る水晶のように置き換わり、表情は苦悶のまま固まって、ピクリとも動くことはない。
「まさか、あの小娘がシャドウルーカーの英雄を持つとはしらなんだ」
 花からもたらされた蜜をグラスの上で転がす、すると少女の痛みの香りがするではないか。
 その嘆きを蜜のようにすするとガデンツァはほくそ笑む。
「しかし、下位のリンカーでは話にならぬな。さて処分じゃが」
 ガデンツァは目の前の少女、その扱いをどうすべきか、思案に暮れる。どうすれば彼らに絶望を与えることができるか。
 絶望には耐性がつく。頭で予期していれば耐えられる。であればどうすべきか。
「ふむ」
 そうガデンツァはフラスコの上に指を走らせた。


● 楽譜に魅入られた乙女

 前回のライブは大成功だった。外での異変もリンカーたちが処理してくれていたので大騒ぎにはならなかった。
 これでディスペアはかつてほどではないにしろファンを取り戻したと言える。
 逆に今残ったファンこそ、本当のファンなのではないか、そうも思える。
 次はディスペアだけでライブを行い、お世話になった人たちには見に来てもらおう。
 私達だけでもやれるって、みんなのおかげだよって言おう。
 そう小雪は思いながら事務所の整理をしていた。
 瑠音やアネット、その私物を整理してH.O.P.E.に引き渡そうとしていたのだ。
 それでである。
 梓とクルシェはその場にいなかった。
 梓はグロリア社に今後のお話という事で言ってしまい。そもそもクルシェは片付けるより、破壊する方が得意である。
 掃除などこまごまとしたことは今後小雪の担当になっていくだろう、という事もあり小雪がお掃除を担当していたわけだ。
 だがそれが悲劇を招いてしまった。
 まさかまだ、ルネの残滓が残っているなんて。
「これは?」
 そう小雪が手に取ったのはとある楽譜。
 その音色に。
「え……。ら……ら~ら。ら~」
 小雪は取りつかれてしまう。
 楽譜からしみ出したのは、水色のルネ。
 だがそれは事故なのだろう。
 研究所で佇んでいたガデンツァも慌てたから。

「む、クイーンよ面倒な置き土産を」

 そう研究所で佇んでいたガデンツァはふと顔をあげる。
 そうフラスコに手をかけると僅かに力を籠め、その表面にひびを入れた。
「あれは回収せねばならんな」
 そして口元をにたりとつりあげると、ガデンツァは告げる。
「ちょうどいい出がらしがおる。こやつにルネを忍ばせ、最終実験といこうかの」
 
 邪神共鳴

 二つの場所、異なる場所で、二人の少女が嘆きに身を落す。
 ルネと囚われの少女。
 ルネと小雪が共鳴し。
 二つの音は重なった。
 共振し、お互いにお互いの居場所を伝える。
 それはガデンツァの意図していなかった結果であり、失態であり、新たな可能性でもある。
「今回の目標は、小雪の排除、および、バトルメディックがおればその捕獲。任せたぞ」
 さっそく実験体が姿を消すと、笑いながらガデンツァは玉座についた。前回藤咲 仁菜(aa3237)から奪い尽くした霊力を飲み干してガデンツァはその体の渇きを癒す。
「想定外の見ものではあるが、どう転ぶか、楽しみじゃな」
 

● 状況説明
 今回のシナリオは、異変がおきた事務所。それが入っているビルの外から始まります。
 事務所は三階にあり、五階建て。
 東側の窓側に面していますが、東と西には八階建てのビルがあります。
 部屋の大きさは一般的な事務所の大きさで、八人も入ると窮屈な程度。
 三階までは通常エレベーターを使用しますが、階段でも上ることができます。
 ただ、小雪が暴走しているので、時間経過によっては崩落などあるかもしれません。
 三名ほど、ビルに取り残されているので、一般人も保護してあげてください。


解説

目標 小雪の鎮圧
   ナーシャの保護
   一般人三名の保護
サブ目標 ??? (達成で大成功)


● ナーシャ・アルゴリズムについて。
 今回フラスコに囚われていた少女の名前は『ナーシャ・アルゴリズム』といいます。
 本名は分け合って公開されておらず、偽名で長らく活動していたエージェントでした。
 しかし、三か月前ほどから行方不明になっていました。
 彼女と契約していた英雄はバトルメディックですが。今はどこにも存在していません。
 彼女は現在、ルネと共鳴しているため、魔法攻撃主体の近距離戦闘を得意とします。
 水が高速で回転し刃を形成するチェーンソーで事務所の壁を破壊してショートカットしながら小雪を目指します。
 またブルームフレアと似た水を媒体とする魔術を使ってくるので密集は危険です。 


● 海崎 小雪について
 彼女はとある楽譜をAGWとしてルネと共鳴し、体が徐々にガラス質になっています。
 その楽譜から音を媒体としてソフィスビショップの様なスキルを多用してきます。
 その恐ろしいところは、強力なスキルを連発することで、サンダーランスやブルームフレアを一ターンに二回放ってきます。
 膨大な霊力を消費するごとにその体はルネに蝕まれていくことでしょう。
 幸い精度がいまいちで、高練度のルーカーであれば突破はたやすいかと思います。
 また耐久力も一般人に毛が生えた程度です、注意してください。

リプレイ

プロローグ

「「新生ディスペアの道が開けたのに、ガデンツァはまた!」」
 少女二人はビルの霊力を感じると上層階を睨んで叫んだ。
 『斉加 理夢琉(aa0783)』と『小詩 いのり(aa1420)』は共鳴の光を散らすと突入を試みる。
――冷静になれ理夢琉、周りをよく見るんだ。
 その動きを止めるのが『アリュー(aa0783hero001)』。
「でも小雪さんが」
「小雪ちゃんは絶対助けるよ。出来ればもう一人の子も助けてあげたいな」
 そういのりは理夢琉に語りかける。
――理夢琉のやるべき事に集中しろ、それが彼女らを助ける事になる。
 その二つの言葉に頷く理夢琉。
 そんなリンカーたちの突入をバックアップしているのは『蔵李・澄香(aa0010)』。
「逐一情報交換を、もし通信端末がつかえなくなった場合通話アプリで代用してください、おそらく小雪ちゃんがいると思われるのはこのフロア。私がマナチェイサーで追いながらサポートします」
 そう適宜指示を出していく澄香。
 その隣でPCを片付け立ち上がる『クラリス・ミカ(aa0010hero001)』。彼女は何かを気にして視線をあげると、その先には『彩咲 姫乃(aa0941)』が立っていた。
 澄香はその肩にそっと手を乗せる。
「いけそう?」
「ああ、大丈夫だ」
――ご主人……。
 『朱璃(aa0941hero002)』は知っている。
 本来姫乃は任務に入れる精神状態ではないのだ。最近は心の整理をつけるために依頼は控える方針だった。
 だがガデンツァの名前を聞いた時、彼女の視線はぎらついた。
 ガデンツァ相手なら戦いに出ないわけにはいかない。
 依頼に出たくないのもガデンツァの依頼には直接乗り込まなければと思うのも……奴がナイアを殺したからなのだから。
「クルシェちゃんも応援に来てくれる、それまでに状況を明らかにしよう」
 そう澄香は告げると突入を指揮した。
「妙ですね。いつもと違う……こんな状況は初めて、ですね。嫌な予感がします。急ぎましょう」
 『卸 蘿蔔(aa0405)』も『レオンハルト(aa0405hero001)』と共鳴、銃を構える。
「また一緒に歌いたいから……理夢琉、行きます!」
 理夢琉もマナチェイサーを発動。作戦が開始される。

第一章 突入
 地上から突入する班を見送って屋上に降り立った『無明 威月(aa3532)』も行動を開始した。しかし。
「……っ。あ……」
 『火蛾魅 塵(aa5095)』は威月の動きなど異に介さずにやにやと地上を眺めてる。
「あ?何してっかァ?ククク……ソシャゲだよ、ソ・シャ・ゲー!」
 と、思ったら眺めていたのはスマホだった。期間限定イベントの最中らしい。死ぬ気で周回しないといけないらしい。
「戦力揃ってンだろォ?なら、俺ちゃんの出る幕じゃねーや。人道的とか言う眠気がする奴ぁお前らで頼むわ、ハッハ!」
 作戦通りにきちんと仕事をしてください。
 そう言いたい威月ではあるが声が出ないせいでその思いも伝わらない。
「……その目を俺に向けんじゃネェよ、捻っちまうぜ?」
 それどころか、そう威嚇までし始める塵である。
 いよいよ涙目の威月。よってそれを見かねた『青槻 火伏静(aa3532hero001)』が首を突っ込むことになった。
――…てめぇウチの娘に何してんだ、あぁ?
「あ? からかって遊んでんですけどぉ? 見てわかんねぇのか?」
 そんな相棒と塵の口論を聴きながら威月は情けなさで拳を握りしめていた。
 自分はなぜこんなところにいるのだろう。そう思ってみじめな気持にもなった。
 同時に思い出すのは友人の顔。
 深手を負い、間一髪の所だった彼女。彼女のそばで無力を味わった自分。
 もうあんな思いはしたくない。自分にも何か出来る事はないか?
 そう思って参加したのだが。
「……っ、ぁ」
 威月は首を振って踵を返す、火伏静の静止もきかず扉を押し開き階段を下った。
――……まだ、ダメみてーだな、あの手のぁよ。
 彼の事は聞いているが威月には理解が及ばない。あの優しい隊長と違い、何故彼はああなのだろう。その一方、奈落の底の如き闇に溺れている様で、彼という存在を悲しく感じるのだ。

    *   *

「最短経路で行くよ!」
 『志賀谷 京子(aa0150)』はブーツのかかとを打ち鳴らすと飛び上がる。ライヴズジェットブーツの加速力をもってして、問題の階まで跳ぶと、回し蹴りでガラス窓をぶち破って侵入した。
――乱暴ですが、仕方ないでしょうね。
 『アリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)』の言葉に苦笑いを帰しつつ着地。
 京子は顔をあげると走り出す。
 そして事務所のドアを蹴り飛ばすと、前のめりに勢いそのままに事務所へ突入した。
「ごめんね、片付けたとこ荒らしちゃってさ」
 巻き上がる書類。京子は四つん這いで勢いを殺す。怪しい光を放つ魔本、虚ろな目の少女。京子は両手を持ち上げて立ち上がる。その手には獲物。
――あの楽譜を弾き飛ばせば、あるいは。
「おーけー、任せておいて」
 マズルフラッシュが冷静な京子の横顔を照らし上げる。それに対してカウンターで放たれるのは、歌という目に見えない暴力。
 轟音がビルを揺らした。
 先頭を務める姫乃の背を追うように、蘿蔔は銃を構えたまま姿勢を低く階段を駆け上がる。
 各階に上がるたびにクリアリング、いのりや澄香が階段を上がったのを確認してまた駆け上がる。
「了解、澄香。こっちだね」
 いのりが澄香の指示を全体に回した。
 現在小雪が移動している様子は報告されてない。
「停止中の反応。逃げ遅れの方かも」
 澄香がブレーキをかけて階の奥を眺める。
 その指示に従いはじかれるように地面をかける『八朔 カゲリ(aa0098)』。
「無理はしないでください!」
 体のあちこちに刻まれた痛みをかみ殺し、普段と遜色ない動きを実現してはいるが、蘿蔔は気が付いているのだろうか。
 やけに心配していた。
 ただ、認識が違う。 
 カゲリは痛みを隠しているわけではなく無視しているだけだ。
 痛覚を、だからどうしたとねじ伏せ駆動する。
――まって、障害物を無視して移動している存在がいます。αと呼称。
「僕が行くよ」
 そう音を置き去りに加速する『世良 霧人(aa3803)』カゲリの背を追った。
「そこにいるのか?」
 捻じれて塞がってしまったドアの向こうに人の気配を感じて天剱を構える。その刃は一瞬煌くと黒い光そのままに脆弱な扉を食い破った。
 その動きに一瞬の隙も見られない。
 痛みとはそう言うものだ。カゲリにとってねじ伏せるべきものの一つに過ぎない。 
 それは偏に、諦めないと言う鋼の意志。
――痩せ我慢だがね。
  『ナラカ(aa0098hero001)』がそう苦笑いと共に告げる。
 だがその背後に試練がまとわりつく。
 唸るチェーンソウ、そして。
「未確認人物が接触」
 澄香の報告と共に、一同は小雪のいる事務所に到着。
「応援をそちらに回します」 
 それと共に、蘿蔔は小雪と相対する。
――アイドルに怪我させるなよ。
 レオンハルトの言葉に頷く蘿蔔。
「了解。大事な時期ですからね……休む暇などないのです」
 放たれた弾丸は跳弾を繰り返して影から小雪の魔本を狙うが、それもかすって体制を崩させただけにとどまる。
「本にダメージを!!」
 京子は叫びながら天井を蹴って銃弾をばらまく。
 その弾幕の影から蘿蔔はラマカイダサーベルで切りかかった。
 炎の軌跡は本にかするが装備弾き飛ばすには至らない。
「小雪ちゃん! 今助けるから、頑張って!」
 澄香は高速詠唱でレーダーを黒魔女の外套に変更。
 エンジェルスビットを部屋に等間隔で配置。
 そして端末を、前回のライブの雑談音声に切り替える。
 盾を構え、タリスマンの結界を展開。
 いのりと足並みをそろえて。小雪へと向き直った。

第二章  

――旦那様、人の声が!
 『クロード(aa3803hero001)』の言葉に立ち止まり、霧人はウルスラグナを振るう。いとも簡単に砕けた壁の向こうから男女が二名涙を流しながらふらりと現れ、霧人に抱き着いた。
「もう大丈夫ですよ、非常階段は安全です、そちらから逃げてください」
 そう二人を誘導する霧人だったが思いつくことがありあわてて二人を止める。
「すみません、そう言えばお二人はバトルメディックの英雄を持つリンカーではないですか?」
 そう尋ねるが二人はきょとんとした顔で首をかしげるだけ。
「あ、心当たりがないのであれば大丈夫です」
 そう送り出す霧人だが目の前の女性の瞳が驚愕で見開かれる時。
 反射的にその体を左に転がしていた。
 巻き上がる破片と土煙、男女は攻撃を避けると悲鳴を上げて駆けていく。
 霧人は受け身を取ると顔をあげた。するとそこには背の高い女性がチェーンソウのエンジン部分を踏みつけて佇んでいた。
 霧人を一瞥するとニッタリ笑って紐を引く。
 けたたましいエンジン音がフロアに木霊した。
 それを目の前に霧人は盾を構え、ここから先に行かせまいと敵意を向ける。
 その時ナーシャは信じられない瞬発力で動き、霧人を押し切って壁をぶち抜いた。
 そのまま曲がり角を走って曲がり、飛び、カゲリへとチェーンソウを振り上げる。
「なにそっち行くの? 殺すの? ギャハハ!」
 塵の声が聞え、カゲリがそんな彼女を冷めた視線で見上げるのと同時に、その横腹へ霧人がタックル。
 吹き飛んだナーシャから視線は外さずに盾を構え直した。
 まだ剣はまずい、そう言う判断くだす。
「きみは、ガデンツァから送られてきたのかい?」
 霧人はナーシャに問いかける、しかし彼女は不気味な笑みを漏らすだけで何も言わない。
「少し、強めに行かないとまずいか」
 ナーシャはゆらりと揺らめくと両足に力を籠めて前に飛んだ。
 その攻撃を受け止めようと霧人が前に出た時。
「ホットライン火蛾魅でぇ~す」
 間に入ったのは威月。
 ただ、威月だけでは衝撃を殺し切れず、霧人も盾を教えてるような形でナーシャを止めた。
「………………」
――……『皆さま……私はあえて隙を晒します。万が一の時は……』ってか?
 火伏静がそう威月の言葉を訳す。
――ま、考え方は嫌いじゃねーがよ、仲間の足引っ張るようじゃあ、戦士たぁ言えねーぜ。気合入れな!
 二人はナーシャを弾き飛ばすと、ナーシャが滑って後ずさった地点に。瓦礫が堕ちてくる。
「害虫駆除、はじめまァ~す、ハッハーッ!」
 その瓦礫に乗って落ちてきたのは塵。
 不意を突かれたナーシャは前に飛んで、それを威月に蹴り飛ばされていた。
 鼻からだぱだぱと血を流すナーシャへ、冷徹に刃を向ける威月。
「……暁が隊員……無明家が娘……無明 威月……参ります…」
 塵から死面蝶、同時に奏でられる歌。
 そして混乱の隙をついて斬りかかってきた威月に、さすがにナーシャは不利を悟ったのか、瓦礫に足をかけて飛び、天上を切り開くとそこから上の階へと逃げて行った。
 それを追う霧人と威月だが。
 塵は何者かの気配を感じてその場に残る。
 それはカゲリも同じだった。一般人が地上に逃げたのを確認すると戻ってきて、瓦礫の中の水晶球体に手をかける。
「よぉババア?」
 塵が告げると、水晶体に口が浮かび上がり、それが朗々と語りだす。
「愚か者どもよ、久しぶりじゃな。して、我に用かの?」
――いや、用事というほどでもないんだが。
 ナラカが気さくにガデンツァへと話しかけた。
――気になってね。
「なにがじゃろうか」
――私を殺すと言っていたが、殺すなら今こそ絶好にして最後の機だぞ?
「ほう、それはそれは」
――そして殺せば、或いは他の者達に絶望を与えられるやも知れぬぞ。
「ふむふむ、たしかに」
――澄香に京子に蘿蔔に、いのり――は、ちと微妙な所だが。
「そんなことはない……と信じたいが」
 そうカゲリは自信なさ気にそっぽを向いた。
「じゃが、それは無理な相談じゃなぁ」
――それはなぜ?
 その時、ガデンツァは向こう側で耳障りな笑い声をあげた。
「お主らも、悲鳴が聞きたいメンツの内の一人じゃなからなぁ」
「ほう」
 それに反応したのはカゲリ。
「その強靭な魂を、どうすれば汚し。裏切り。へし折れるかずっと考えておる」
「それは」
 無理な相談だ。カゲリはそう告げようとした。何せ自分でも自分がどうやればこの道を諦めるか見当がつかないのだ。ならば他人に分かるわけがない。
「手始めに、お主の殺人を恋人に暴露してみようかのう」
「それでは何も変わらないな」
――覚者は変わらぬ者ではあるが、信じ続ける者でもある。感傷に浸る心があれば、まだ可愛げもあるんだが、それもない。で、いかがするかな。水晶の乙女……いや。
 ナラカは言葉を切った。そして声に圧を込めて告げる。
――この呼び名は汝には過ぎたものか。玻璃の道化、それで十分だろう。
「ほう、わらわを道化と笑うか。では必死に化かして見せよう。ただしその先に待つのは喜劇ではなく、更地と化した客席の悲劇だがのう」
――人は絶望に屈さぬと証明してやろうか、莫迦娘。
 こうは行っているが、ナラカはガデンツァを裁くために否定している訳ではない。寧ろ認めていればこその対峙だった。
 元より彼女が覚者と呼ぶ影俐ならば言うだろう――そうしたものだと。
 絶望を好む性分はそれとして、反して人の輝きを示す試金石とも成り得るものであるのだから。
「にしても耳障りな歌じゃな」
 そう視線をあげれば。
 『人造天使壱拾壱号(aa5095hero001)』が謳っていた。
 その間塵は上に向かった威月をサポートしてる。
「……逆から行きな。崩れちゃねぇ。敵さんも遠いしよぉ、曲がり角の壁すこ~し切り取りゃ出れるぜ」
 それは散々聞いてきたガデンツァの歌のパロディー。
「……謡いな、人造天使。な~んもかんも、ドブ沼みてーに黒く染めちまえよ」
 ただし途中からメロディから音階を逆行させる。
「技法名なんツったっけ? まぁいいか……ロックに行くぜぇ~? ククク……」
「興ざめじゃな、歌のなんたるかを解っておらん」
「おめぇも、破壊のなんたるかをわかってねぇな」
「ほう?」
 ガデンツァは面白がるように、塵の言葉の先を促す。
「テメーがもう少し、ぜ〜んぶブッ壊したがりだったら、部下になっても良いんだがなぁ? クク……」

第三章

 狭い事務所の中では銃撃戦は不利である。どうあっても一足で詰められる間合いしか確保できないから。
 しかし本当のガンナーはその状況にも対応できるようにしておくものだ。
「大人しくしてくれれば痛くしない、って聞いてくれないよね」
 京子はにたりと笑って頬を伝う血をぬぐう。
「狭いところなら、狭い所なりに戦ってみせなきゃね
 小雪の魔術は冷気と鉄を伴う斬撃主体の魔術。隙が少なく、斬撃以上の攻撃力はないが、バランスがよくて隙が少ない。
 京子も詰め切れずにいるが、それをどうにかしてくれるのが仲間の存在。
 京子はバックステップしながら銃を乱射。
 視界を覆うように澄香と理夢琉が魔術を放つ。
 友達への攻撃に胸を痛めた……というわけではない。
 実際胸は痛いのだが、それで手加減すればもっと痛い思いを彼女がすることになるのはわかっている。
 だからこれは牽制球。
 爆炎の中を突っ切って姫乃がスイッチするための隙。
 それに姫乃は自分の加速力をくわえて敵を翻弄した。
「がら空きだぞ」
 そう背後に回って見せ、戸惑う小雪の前方にあえてもう一度回って見せる。
 そのまま肘鉄を小雪に叩きつけると、腕で挟み込むようにひじ関節を決める。
 そのまま楽譜を引きはがそうとしたが、凍結した腕にがっちり絡みついていて離れない。
「くそ! 腕ごと吹っ飛ばすしか……」
 その時、姫乃の目によみがえる光景があった。
 血に塗れる。彼女。 
 倒れる彼女。
 その幻覚を振り払って一度姫乃は距離をとった。
(扉とか見るたびにナイフでザクザク自分を刺すのは止めて欲しいんデスがね)
 そう朱璃は胸の内で思う。
「くそ、どうする!」
 理夢琉が魔術で牽制を、攻撃を防ぐと同時に敵の狙いをそらす役割を理夢琉が担った。
 姫乃が澄香に指示を仰いだ。姫乃自身も針一本で全て解決だとは思っていないのだ。
 だから時間を稼ぐ。そして仲間の負担を減らすことに専念する。
 負担が減れば声に耳を傾ける余裕ができるかもしれない。
 ならその後の本命へ繋ぐ為のお膳立てだとしても構わずにやり遂げる。
(ご主人……)
 朱璃は感じていた。姫乃が目の前の敵を見すえていないこと。
「わかってる、解析終った。やっぱり楽譜が従魔だ! それを何とかしよう、いのり!」
 そう澄香はマナチェイサーを解くと、小雪の魔術をハートや星マークの魔法で相殺して振り返る。
 そこに佇んでいたのは味方の回復に専念していたいのり。
――楽譜から彼女にライヴスが流れ込んでおります。反応はルネ。現在の状態では強制切り離しは待ってください。
「あの楽譜だね! 僕に考えがあるよ!」
「信じるよいのり。やってみよう。小雪ちゃんを助けよう」
 その号令を頼りに姫乃はハングドマンで小雪を縛り上げる。
「楽譜も手に入れたいから、小雪ちゃん、ちょっとだけ耐えてね!」
 いのりが近付いた瞬間。魔本が煌いた。殺気はいのりに向かっていない。だからいのりはその楽譜に手をかけて攻撃を手で受けた。
「小雪ちゃんはやらせない!」
 ひびが入るほどに冷凍されたその手を振って、逆の手で小雪の手に自分の手を重ねる。
 二人をエンジェルスビットのカーテンが包んだ。
 響く歌は『不死鳥の羽音~Rebirth~』いのりが彼女たちのためにかき上げた一曲。
「いの……り。ちゃん、信じてる。御願い、私を助けて!」
「戻ってきて、小雪ちゃん!」
 放たれたのはパニッシュメント、魔を払う静謐な光である。
 それで楽譜を覆う氷が一気にはじけた。
「瑠音さんは皆のこと……やっぱり、駒としか見てなかったのかな」
 蘿蔔はその光景を見つめてつぶやく。
――最初からそのつもりで動いていただろうからな……それに目的を変えるようなやつらでもないだろう。
 そのレオンハルトの言葉に残念そうに視線を下げる蘿蔔。
――ただ……ディスペアとして活動している間、どんな気持ちだったかまでは知らないけどね。 
 その言葉に蘿蔔は再び視線をあげて、楽譜を打ち抜いた。
 ばらばらとページが舞い散り、そのページが周囲に結界をはるように暗く重たい霊力を広げる。
「ドロップゾーン!?」
 あとひといき。それはわかる。だがもう手札がない、そう思った瞬間。
 エンジェルビットからクラリスの声が聞えた。
――まだです。私たちはまだ切り札を隠しています。
「よく考えたらさ、パニッシュメントだけがルネに対抗する手段じゃないよね」
 スキル支配者の言葉を発動。クラリスの声が楽譜へと染み渡る。
――その子から離れなさい!!
 その時、ぱんっと楽譜が空にうちあがる。楽譜は小雪の霊力をいいだけ吸っているようだ。弱っていてもまだ戦いを続ける気らしい。
 そんな一行の耳に塵からの通信が届く。
――なぁしゃってのが接近中らしいデスニャ。
「なんで、あいつ名前知ってんだ。塵……だっけ?」
 だがそれはどうでもいい。姫乃の目が座った。
「つまりあの時のガデンツァと同じ刺客か」
――まー、似たようなものとは思いますデスがニャ。
「……今度は邪魔させねえ」
――だいぶ沸騰してますが、なぁしゃは加害者で被害者で救助指定デスニャ。
「わかってる。…八つ当たりはなしだ、しない」
 そんな姫乃に。
「2人を会わせちゃいけない、そんな気がするの」
 理夢琉が言った。それに頷いた京子の動きは早い。
「お客さんが来ちゃったか。ごめん、小雪さんは任せるよ」
 告げて京子は部屋から走りだす。向かう先はナーシャのもと。
 理夢琉もその後を追った。


   *   *

「無明さん待って。相手はガデンツァだ、うかつだよ」
 そう霧人が威月を追い抜いて威月の前で通せんぼするのと、通路を切り裂いてナーシャが現れるのは同時だった。
 霧人は絶対に守る。そういう誓いを胸にしていた物だから、威月の盾になるべくその場から動かなかった。
 チェーンソウの刃が、霧人の背中に突き刺さる。
 回るチェーンがガラガラと、肉を掘り進め、骨を掘削し。内臓をぶちまけんと、体の奥の奥に迫る。
 それを狙撃で弾き飛ばしたのが京子。次いで威月が抜刀。峰うちにてナーシャを吹き飛ばす。
 するとナーシャは壁に叩きつけられて咳き込んだ。その瞳は完全に正気を失っている。
「すぐに治療します、距離を放すまでちょっとだけ耐えてください」
 威月は火照る頭をねじ伏せて、冷静な思考を取り戻す。
 相手の一挙手一刀足を見逃さない。そんな心意気で動きを観察する。
 チェーンソウを握り、構え、紐に手をかけた。その時、一気に威月は間合いを詰めてその手を切り上げる。
 その腕が裂けて血管から青い血が周囲にほとばしる。
「違う! ルネ!」
 京子が叫んだ瞬間、威月はトリアイナに装備を変更、体勢を立て直す隙を、姫乃と理夢琉が作る。
 理夢琉が放った魔術で大きく吹き飛ばされたナーシャ。その足を払って空中に浮いた体に京子は銃弾を叩き込む。
 背後から姫乃がショルダータックルでナーシャを吹き飛ばし、ハングドマンにてチェーンソウをからめ捕った。
 ナーシャは体にかかる無駄な加速度、完成を筋肉の力で無理やり押しとどめ。幻想蝶から新たなチェーンソウを引き出そうとする。がその手を理夢琉が凍結させる。
 次いで威月がトリアイナをナーシャの腕に突き立てると、体外にルネが排出されていく。
「……くっ。うぅ」
 暴れ狂うナーシャ。
 それを威月は苦悶の表情で押しとどめ、全てのルネをトリアイナでまとめると、理夢琉がそれを凍結させた。
 威月はハンマーのように重たくなった穂先を壁に叩きつけると、ルネは断末魔をあげて砕け散る。
「はぁ」
 威月はそのまま疲れ切ったようにトリアイナを支えにくったりと脱力してしまった。
 ただ、そんな気にならないのが姫乃である。
「ルネ。もう一体いるんだろ。気をつけろよ」
「あ、あと、僕の治療も御願い」
 威月はその後、念のためのパニッシュメントをナーシャに、そして治療を二人に施した。


エピローグ
全ての処理が終わったと、京子は息も絶え絶えに言いながらも問う。
「時間が貴重だから、聞くよ。楽譜と共鳴した時、相手の居場所わかったりした?」
 その言葉に小雪は答える。
「私だけだと何かがかけたような映像しか。でもきっとピースがそろってる上で、みなさんなら」
 告げるとナーシャを京子は振り返る。
 横たわる彼女の鑑定結果を耳にしたが、どうやら彼女はもうだめらしい。
 オブラートに包んだやんわりとした言葉だったが、京子の心を暗くするには十分だった。
「きっとここから反撃の一手を導き出せるよ。だから協力をお願い」
 そして京子は拳を握り告げた。
「向こうはこちらを絶望させたいらしいけど、そんな暇はないな。事態が最悪なら最強の手で応じなきゃね」
(さっきの共振は、ルネの新しい力なのかな……それとも別? もしも小雪さんの、だとしたら)
 そう蘿蔔は考えながら楽譜を眺めている。
 蘿蔔は強くその楽譜を警戒していた。ガデンツァが奇襲として危害を加えてきたことは多数あるから。
 だが今回は何もなさそうだ。何よりガデンツァがそう言っていたらしい。
 カゲリから聞いた。
「今回は完全なるイレギュラーだったそうだ。だから戦力として回せるルネもなかったそうだ」
 カゲリは蘿蔔と合流するとそう告げた。
「大丈夫ですか? 具合悪い時くらいはちゃんと休んでください」
「わかってる、それに大したことはないんだ」
 そうカゲリは、体を表から裏まで眺める蘿蔔の動きを頭を掴んで止めるとワシャワシャと髪の毛をかきまぜた。
「……後で何か作って持っていきますから」
「手料理とかとどめ刺す気か」
 レオンハルトが告げると、怒りをあらわにする蘿蔔、まぁそれは全く怖くないのだが。
「また同じ手口でディスペアに因縁をかけられないとも限らないよね」
 そう澄香は到着したクルシェ達とカバーストーリーの打ち合わせに入る。
 それと同時に遙華に連絡をした。
 ナーシャと楽譜。そして音の遺跡で見つかった楽譜。穴あきの楽譜。
 これらすべてをまとめて解析にかけることで何か見つからないかと思ったのだ。
 そしてこの行動が新たな結果を引き寄せることになる。
 ああ、そうつまり。
 この物語にも終りが近いという事だ。
 余談ではあるが、小雪が検査のために入院すると理夢琉がフルーツを持ってお見舞いに来た。
 二人はそこで仲良くなり、小雪にお芝居へと誘われることになるのだが。
 それを描くのはまた別の機会だ。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
  • トップアイドル!
    小詩 いのりaa1420

重体一覧

参加者

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
    人間|17才|女性|生命
  • 希望の音~ルネ~
    クラリス・ミカaa0010hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783
    人間|14才|女性|生命
  • 分かち合う幸せ
    アリューテュスaa0783hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • 朝日の少女
    彩咲 姫乃aa0941
    人間|12才|女性|回避
  • 疾風迅雷
    朱璃aa0941hero002
    英雄|11才|?|シャド
  • トップアイドル!
    小詩 いのりaa1420
    機械|20才|女性|攻撃
  • モノプロ代表取締役
    セバス=チャンaa1420hero001
    英雄|55才|男性|バト
  • 暁に染まる墓標へ、誓う
    無明 威月aa3532
    人間|18才|女性|防御
  • 暗黒に挑む"暁"
    青槻 火伏静aa3532hero001
    英雄|22才|女性|バト
  • 心優しき教師
    世良 霧人aa3803
    人間|30才|男性|防御
  • 献身のテンペランス
    クロードaa3803hero001
    英雄|6才|男性|ブレ
  • 悪性敵性者
    火蛾魅 塵aa5095
    人間|22才|男性|命中
  • 怨嗟連ねる失楽天使
    人造天使壱拾壱号aa5095hero001
    英雄|11才|?|ソフィ
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