本部

【白刃】山と紅葉とトカゲとNINJYA

雪虫

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 5~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/10/22 17:21

掲示板

オープニング

●H.O.P.E.
「……老害共が、好き放題に言ってくれる」
 H.O.P.E.会長ジャスティン・バートレットが会議室から出た瞬間、幻想蝶より現れた彼の英雄アマデウス・ヴィシャスが忌々しげに言い放った。
「こらこらアマデウス、あまり人を悪く言うものではないよ」
 老紳士は苦笑を浮かべて相棒を諌める。「高官のお怒りも尤もだ」と。

 愚神『アンゼルム』、通称『白銀の騎士(シルバーナイト)』。

 H.O.P.E.指定要注意愚神の一人。
 広大なドロップゾーンを支配しており、既に数万人単位の被害を出している。
 H.O.P.E.は過去三度に渡る討伐作戦を行ったが、いずれも失敗——
 つい先ほど、その件について政府高官達から「ありがたいお言葉」を頂いたところだ。

「過度な出撃はいたずらに不安を煽る故と戦力を小出しにさせられてこそいたものの、我々が成果を出せなかったのは事実だからね」
 廊下を歩きながらH.O.P.E.会長は言う。「けれど」と続けた。英雄が見やるその横顔は、眼差しは、凛と前を見据えていて。
「ようやく委任を貰えた。本格的に動ける。——直ちにエージェント召集を」
 傍らの部下に指示を出し、それから、ジャスティンは小さく息を吐いた。窓から見やる、空。
「……既に手遅れでなければいいんだけどね」
 その呟きは、増してゆく慌しさに掻き消される。

●宿営地
 生駒山。神話時代のエピソードをも抱える由緒も歴史もあるこの山の頂きは、しかし現在はアンゼルムという愚神の統治下に置かれドロップゾーンと化していた。そのふもとでは多くのリンカー達が、H.O.P.E.会長ジャスティン・バートレットの指令を受け続々と集結しつつある。あなた方も招集指令を受け、従魔討伐のために宿営地を訪れていたエージェント達の一人であった。
「君達の任務はCポイントの斥候だ。現在生駒山全域に従魔や愚神が集結しつつある事は君達も聞いていると思う。中には周辺の人里に降りて被害を及ぼしているものもいるらしい……」
 オペレーターは言葉を切ると、苦々しく息を吐いた。
「ああ、すまん。私が暗い顔をするべきではないな。つまり、だ。君達にはCポイントへ斥候に行ってもらい、従魔や愚神がいるようであれば討伐をしてもらいたい。討伐が進めばそれだけ我々の行動範囲も広がり、さらに多くの愚神や従魔の動きを押さえる事が出来るようになる。
 だが、一体どれだけのレベルが、どれだけの数いるのかは分からない。もし君達だけでは歯が立たないと思ったなら、無駄な戦闘はせずにすぐにここに戻って来い。君達が無理に倒さずとも、十分な戦力を以って討伐に当たる事は出来る。功を焦るな。無理をするな。君達一人一人が貴重な戦力である事を肝に銘じて行動してくれ」
 そして、オペレーターは言葉を切った。すでにこの生駒山に潜む愚神によって多くの犠牲が出ている事は聞いている。その不安を隠す事は出来ないのだろう。オペレーターは心なしか少し目を潤ませつつあなた方を見送った。

●Cポイント
 移動する事30分、あなた方は指定されたCポイントへと辿り着いた。山自体は綺麗な紅葉色に彩られ、こんな事態でなければハイキングとしゃれ込んでもいいような美しさがあった。しかし、山であれば必ず聞くはずの虫の声や鳥の声はなく、生きているものの気配もしない。この山が現在、魔の住まう土地である事をそれらが静かに突きつけていた。
「んん……何かいるでござるよ」
 妙な口調で奥へと指を差したのはガイル・アードレッド(az0011) という、色々とツッコミ所のある恰好をした一人の金髪の青年だった。青を基調とした忍び装束にサングラスと、「外国人が忍者になろうとしたらこうなるに違いない」を見事に体現しまくっている。その後ろにいたガイルの相棒、デランジェ・シンドラー(az0011hero001)も、ガイルの肩に顎を乗せ森の奥へと視線を向ける。
「あっらーん、本当ね。どうする? 撃つ? 撃っちゃう? 真正面から撃ってみる?」
「ミーもそうしたいのはヤマカンでござるが、オペレーター殿は無理はするなと言っていたでござる。ここは走りだしたいのをグッとパーして様子をチェックした方が……」
「グシャアアアアッ!」
 その時、ガイルが指差していた黒い何かが振り返り、辺りへ耳障りな声を上げた。するとその声に呼び寄せられるように同じ形をした従魔がわらわらと集まり始め、あなた方はあっという間に従魔の群れに取り囲まれた。
 しかし、従魔達はあなた方を取り囲んだだけで、奇妙な事にそれ以上動こうとはしなかった。強いて言うなら最初の一匹に呼び寄せられ、とりあえずこの場に集まったという感じである。
 そして、奇妙な事はもう一つある。最初にガイルが発見した従魔は十メートルは離れており、一応こそこそと会話していたガイルとデランジェのやり取りは、聞こえないはずなのだ。普通であれば。しかし、最初の一匹は背中を向けた状態であなた方の存在に気付いて仲間を呼び寄せ、しかし今は目の前にいるはずのあなた方に何の反応も示さずにいる。
 という事はつまり。
「た……頼もう……」
 ガイルが、サングラスの奥から少し涙目であなた方に視線を向けた。従魔の謎に気付き始めたあなた方の顔からザッと血の気が引いていったが、しかし眉根を下げているガイルはその事に気付かない。
「これ……ひょっとして、ミーのせいでござるか……?」
 ガイルが呟いたその瞬間、ガイルの声に反応した従魔が一斉に襲い掛かってきた。

解説

●目標
 従魔「オンリーヒア」の討伐

●敵情報
オンリーヒア×15体
 視覚と嗅覚が存在せず、聴覚のみで敵を発見し襲い掛かってくる従魔。外見はトカゲに似ている。全長80cm程度。
 どんなに小さな音でも聞き取ってしまう聴覚を持つが、あまり賢くないらしく、より大きな音のする方に移動する習性がある。
・噛み付き
 鋭い歯で噛み付いてくる。当たるとダメージを食らう他、稀に【拘束】付与。
・尻尾ボム
 千切れた尻尾が敵のライヴスに反応すると爆発する。当たるとダメージを食らう他、稀に【翻弄】付与。ボムはすぐに生えてくる。共鳴を解除したリンカーには(周囲にあるライヴス量が低いため)反応しないが、英雄や共鳴状態のリンカーには反応して爆発する。

●NPC情報
ガイル・アードレッド
 世界最強のNINJYAを目指して修行中の伊達男。回避適性。現在従魔に気付かれたのは自分が原因かと落ち込み中。
デランジェ・シンドラー
 「アサシンが忍ばないといけないって誰が決めたワケ~?」が自論の元殺し屋英雄。シャドウルーカ―。暗殺スタイルは「真正面から銃で撃つ」「生き物は頭撃ったら大体死ぬ」。
・ジェミニストライク 
 ライヴスで作り出した分身と共に攻撃を行う。稀に【狼狽】付与。分身はスキル使用後に消滅する。
・モアドッジ
 活性化中、回避が上昇する。
武器:バトルサーベル(剣)/オートマチック(銃)
※NPCへの指示や作戦などございましたらプレイングにて指定をお願い致します。特に指定がなければPCに合わせて動きます。

●マップ情報
生駒山C地点
 紅葉をつけた木々が所々に生えている。生き物は一匹もいない。西に三十分行くとH.O.P.E.の宿営地がある。駆け込むと救援が得られるがミッションは失敗とする。

●持ち物情報
H.O.P.E.から貸与された無線機、手帳、ペン、バナナ(おやつ)
音楽機器とスマホは使っている暇がないという事で宿営地に全員置いてきている。

リプレイ

●リンカー達は囲まれた!
 トカゲのような外見を有する従魔、オンリーヒアの群れは、辺りの音を伺うべく鋭敏な聴覚をそばだてていた。この従魔には視覚と嗅覚が存在しないため、目の前に敵がいてもその姿を認識する事は出来ず、その臭いを嗅いで襲い掛かる事も出来はしない。ただ、本来は眼球が存在するはずの位置に開いた二つの穴を虚空に向け、獲物が音を出すのを静かに待ち続けるだけである。そのオンリーヒアの聴覚に、「頼もう」という音が聞こえてきた。続いて聞こえてきた「ミーのせいでござるか」という音に向かい、オンリーヒアは牙を剥き出しそれに一斉に襲い掛かった。
「ぎ……ぎゃああああああああっ!」 
 15体もの従魔の一斉攻撃に悲鳴を上げたガイル・アードレッド(az0011)の前に、グランツサーベルを構えた小湊 健吾(aa0211)が踊り出た。すでに相棒であるラロ マスキアラン(aa0211hero001)と共鳴を果たした健吾は、殺到する敵を食い止めるべく光を纏う刃を振るう。しかし、健吾の剣は飛び掛かってきた前方にいた数匹を薙いだだけで、他の数匹は反対方向からガイルに噛み付こうと飛び掛かる。そのガイルの襟首を、未だ生身の加賀谷 亮馬(aa0026)が右手を伸ばして引っ掴み、オンリーヒアの攻撃からかわさせたと同時に反対の手で口を塞いだ。
「……っ!」
 突然襟を掴まれ、引っ張り回され、挙句口を塞がれた事に、ガイルは離してもらおうと腕をバタつかせようとしたが、ガイルに向かってシルヴィア・ティリット(aa0184)が、口の前に人差し指を当てて「静かに」というジェスチャーを取った。シルヴィアのジェスチャーによりようやくおぼろげながら状況を把握したガイルは、今にもズレ落ちそうなサングラスの奥の瞳を動かし従魔の群れを確認する。訪れる無音。全く音がしなくなった事にオンリーヒアは動きを止め、オンリーヒア達の特性を理解したリンカー達も完全に動くのを止めていた。しかし、いくら動かなくなったとは言え、従魔の群れに囲まれているという状況に変わりはなく、いつまでも膠着状態を保っている訳にもいかない。だが、今下手に音を立てるような真似をすれば、再び15体の従魔の群れに一斉に襲われる事になるだろう。その状況を打開するべく、古代・新(aa0156)は音を出さないように細心の注意を払いつつ足を曲げて屈み込んだ。そして、足下に落ちている小石を一つ拾い上げると、出来るだけ遠く、かつ宿営地のある方向とは反対である東へと、渾身の力でその小石を放り投げた。
「!」
 地面に石が着地した音はリンカー達には聞こえなかったが、オンリーヒアの聴覚には「音」として認識されたようだ。従魔達が反応した一瞬の隙を縫ってヴァレリア(aa0184hero001)と共鳴を果たしたシルヴィアがマビノギオンを出現させ、10m先にある木の枝へと狙いを定める。マビノギオンから放たれた魔法の剣は、見事枝に命中しガサガサという音を立てながら赤く色づいた木の葉を散らした。その音に惹かれ、走り出したオンリーヒアの死角へと逃げ込むように健吾もまた走り出し、地を蹴る音に敵が反応する前にブルームフレアを前方に放った。
「グシャアアアア!」
 ブルームフレアに焼かれ、音を立てて燃え盛る木へと、オンリーヒアは吠えながら一目散に群がっていった。しかし、ブルームフレアはライヴスの炎、何の変哲もない木などあっという間に消し炭になってしまうだろう。
「俺達は向こうへ移動する。無線機で連絡するから、とりあえず敵に襲われないよう気を付けてくれ」
 新は従魔達に聞こえぬよう、火の燃え盛る音に合わせて小声で早口に、ジェスチャー交じりで特にガイルに説明すると、先に走っていった小鉄(aa0213)、稲穂(aa0213hero001)、大崎 陸羽(aa1140)、ショウゲン(aa1140hero001)、健吾の後を相棒のレイミア(aa0156hero001)と共に追っていった。プロセルピナ ゲイシャ(aa1192hero001)と共鳴した谷崎 祐二(aa1192)も実質7人の後を追おうとした所で、ガイルの方へと振り返り口をパクパクと動かして見せる。
『たのんだぜ』
 それから、口の前に指を当てて「しー」とハンドサインを送り、仲間達の背中を追った。仲間達が去っていった方向からは木の葉の散る音や人の叫ぶ声が聞こえ、オンリーヒアは誘い込まれるように森の奥へと入っていく。口から手を離され、呆然としているガイルに向かい、月鏡 由利菜(aa0873)は文字の書かれた手帳を見せた。そこには女性らしい端正な字で「かすかな音にも反応」「切れた尻尾はライヴス感知で爆発」と書かれている。
『ライヴス感知ってどういう事?』
『先程宿営地で、普通の人間が触っても何も起こらないけれど、英雄や共鳴したリンカーが触ると爆発する妙な物が落ちていたという話がありましたよね? その時見させて頂いたものが、すぐそこに落ちているので……』
 筆談で尋ねてきたデランジェ・シンドラー(az0011hero001)に対し、由利菜もペンの音に気を付けつつ筆談で返答した。由利菜の回答と視線に全員が地面に視線を落とすと、そこにはトカゲの尻尾のような妙な物体が落ちていた。
『先程小湊さんが剣を振るった際切れて落ちたのかもしれませんし、あの従魔が勝手に切って落としたのかもしれません。とりあえず危ないですし、音がしても大変ですので、このままにしておいた方がいいかと……ちなみに先に進んだ方々にもメモでお知らせしましたので……』
 由利菜からの引き続きの筆談での提案に、その場にいる全員が無言のままに頷いた。仲間達も、従魔も遠く離れた魔の山は、耳が痛くなる程にしんと静まり返っていた。

●嵐の最中
『敵が此方に接近してから音を出してしまったのは些か……忍びは忍んでこそでござる。同じ忍びとしてはやはり見過ごせぬ事でござるが』
 小鉄は前方にいるオンリーヒアの群れを金色の瞳に映しながら、先程向こうに残してきた青年の事を考えていた。子供の頃に見た時代劇でNINJYAを志したガイルとは違い、小鉄は忍者を生業としていた祖父に育てられた、いわばサラブレッドの忍者である。とは言ってもまだまだ半人前であり、隠密より正面からの殴り合いが得意といういささか残念な忍者であるが。
『でもそれで相手の特徴がはっきりしたんじゃない。失敗は成功の母よ。それに忍ばない忍びってそれ私たちもでしょ、こーちゃん!』
『うっ!』
 容赦ない稲穂のツッコミに、小鉄は何かに刺されたように自分の胸を右手で押さえた。傍から見れば一人で落ち込んでいる小鉄からやや離れた所では、新がやはり外見上一人でスッキリしない顔をしている。
(くっそ! 名乗り上げられないとなんか調子狂うな!)
 新は英雄と共鳴する時、幻想蝶の埋め込まれた右手の甲に唇を落とし、出現した武器の振り心地を軽く試した後で前口上をしっかり言う……というスタンスを取っている。しかし、10m先のひそひそ話さえ命取りというオンリーヒアがすぐ目の前にいるこの状況では、前口上を述べるなど当然ご法度の事である。こうしてオンリーヒアは意外な所で意外なダメージを新に与えたりしていた。
 さらにその奥ではショウゲンと共鳴した陸羽が、林の中にぽつねんと置かれたバナナの皮に注目していた。過去の登山客がささやかな悪意で投げ捨てていったものではなく、H.O.P.E.から支給されたおやつのバナナを既に食べ終えていた陸羽が、完全に意図があってそこに置いたものである。
『陸羽、いくら愚神に占領された山とは言え、バナナの皮を捨てていくというのは……』
『そういう意味じゃありません。トラップですよ。従魔が踏んでコケるかバランス崩してくれたらラッキーくらいの軽い気持ちの。戦闘が終わったらちゃんと拾って持ち帰りますよ。ポイ捨て、駄目、絶対です』
『そ、そうか……ならばいいのだが……』
 リンカーと英雄が共鳴しつつそれぞれの時間を過ごしている中で、祐二もまた共鳴し、木陰に身を潜めながら思考に時間を費やしていた。一応、あの落ち込んでいる青年に向かって口パクなどしてみたが、果たして伝わっていただろうか。
『まあ、何人かついている事だし、多分何とかなるだろう』
『ニャー』
『ま、何とかなるって』
『ニャー』
「さて、もうそろそろいいか?」
 プロセルピナ(以下セリー)とささやかな会話をしていた祐二は、無線機から聞こえてきた声に顔を上げて無線機を見た。四人よりもさらに離れた所にいる健吾は、ハードボイルドな中折れ帽からわずかに口元を覗かせて、右手に収まっている黒い機械に声を潜めて語り掛ける。
「そちらの準備は大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ」
「……よし、では行くぞ、反撃開始だ」
 亮馬の返事を受けた健吾は、目を閉じて自分の内へと全ての意識を集中させた。するといつでも楽しげな、何をするにも派手好きな魔法使いの声が聞こえてくる。
『ラロ、派手にやってくれよ』
『はぁーっはっはっ! やはりラロの魔法の力を借りたいのだね。良いさ、ラロはキミの魔法使いだからね、そんなトカゲモドキなんてラロの魔法で焼き払ってあげるよ!』
 健吾はふうと息を吐くと、黒コートに覆われた右腕を高く空へとかざした。すると、まるで子供向けの物語に出てくるエキセントリックな魔法使いのように、遠目からも人目を惹くような鮮やかな魔法陣が宙に浮かんだ。

●その一方で
 健吾の出現させた魔法陣が空中に浮かぶ少し前、ガイルは地面の上で体育座りをして暗雲を背負って落ち込んでいた。人間の頭にキノコが生えるはずもないが、何故かキノコの幻影も見える。そこから少し離れた所では、亮馬と相棒であるEbony Knight(aa0026hero001)(以下エボニー)が声を潜めて会話をしていた。
「あれは……分かるぞ。似た様なのを知っている。あいつはニンジャだ……!」
「ニンジャ? ……忍ぶ者と書くのであろう? 何故、アレはああも目立つ事をしている」
 そのやり取りがガイルの耳に届いたのか否かは分からないが、ガイルの背負う暗雲がさらに濃くなった、ような気がした。オンリーヒアがこちらに戻ってくるのを警戒していたシルヴィアは、暗雲を背負って落ち込むガイルに思わず「うわあ」と声を上げる。
「ガイルさん、落ち込んじゃうのも分かるけど、誰にだって失敗はあるんだから。失敗したならその失敗をバネにすればいいんじゃないかな」
「そうそう。一度の失敗で落ち込んでるようでは目標にはいつまで経っても辿り着けないわよ」
 シルヴィアの意見に同調するように、ヴァレリアもシルヴィアの背後からひょこりと顔を覗かせる。二人の励ましにガイルは少し顔を上げたが、それでも頭のキノコは取れない。派手な外見と元気いっぱいの口調に反して意外に落ち込みやすいようだ。
 だが、こんな所でいつまでも落ち込まれている訳にはいかない。自分達は現在任務中だし、しかもこれで終わりではない。この山にはさらに多くの、そして強大で凶悪な従魔や愚神が数多ひしめき潜んでいるのだ。由利菜は2年前の事件により気弱になってしまった表情を今はぐっと引き締め、体育座りで落ち込んでいる青年の前に屈み込んだ。
「ガイルさん……落ち込んでしまう気持ちも分からなくはないですが、私達には仲間がいます……自分達の長所は最大限に活かし……足りない部分は、他の方に補って貰えばいいのです」
「とりあえず、戦場で落ち込むのは止めろ。顧みるなら後にしろ。今だとて向こうで戦っている仲間達がいるのだぞ」
 由利菜の言葉にエボニーが続き、ガイルはまた少しだけだが顔を上げた。その瞳は完全に上を向いている訳ではなかったが、「仲間」という言葉にガイルは少しだけ反応した。
 そう言えば先程、はっきりとは聞こえなかったが、自分に向かって何かを言っている人物がいなかっただろうか。確証は持てないが、「たのんだぜ」と、そんな事をゆっくりと言っていたような……もしかしたら違う言葉だったかもしれないし、仮に「たのんだぜ」だったとしても、自分に向けて放たれた言葉ではなかったかもしれない。けれど、もし自分に向けられた言葉だとしたら……こんな自分でも誰かの役に立てるのだろうか。自分はまだ、誰かに頼りにされているのだろうか。その言葉を裏切ったとしたら、世界最強のNINJYAなんて、本当に目指せなくなってしまうのではないだろうか。
「そう……でござるね」
 呟いて、ガイルは立ち上がった。その表情はまだ普段の調子を取り戻してはいなかったが、少なくとも暗雲とキノコはどうやら落ちてくれたようだ。
「ザッツライト、こんな所で落ち込んでいるようなタイムではないでござる。拙者達の長所、しっかり生かしたいでござる。一体どうすればいいでござろう」
 その時、ちょうど見計らったように、無線機から声が聞こえてきた。亮馬が健吾へと返事をし、何度かやり取りを繰り返す。そして無線機から顔を上げて仲間達を見回した。
「よし、だんまりタイムは終了だ。さっさと退治して任務を終えるぞ。俺達の戦いはまだまだ続いていくんだから」
 亮馬の言葉に、シルヴィアは、由利菜は、そしてガイルは頷いた。それぞれの相棒と共鳴し、そして従魔の群れを討伐すべく仲間達の元へと走り出した。

●反撃開始!
 従魔には、意思や心というものは存在しないと言われている。音がすれば反応し、攻撃されれば反撃し、獲物を感知すれば吠え声を上げ、まるで生物のように行動しているように見える。しかし、それはあくまでプログラムのようなものであり、例えトカゲのように見えたとしても、従魔はトカゲではない「全く別種の何か」なのだ。これを放置する事はこの世界に害を為す存在を放置する事と同意義である。その脅威から人々と世界を守るため、そのためにH.O.P.E.は存在し、そのためにH.O.P.E.に所属するリンカー達は存在するのだ。
「こっちだ! ほら、こっちにこい!!」
 祐二は口元に手を当てありったけの声を張り上げると、さらに念押しにグリムリーパーの柄で木の幹を盛大に叩き始めた。人間の声と木を叩く音にオンリーヒアは動きを見せたが、その真逆の方向から別の音が聞こえてくる。
「ほーら! こっちだ! こっち!! 早く来るでござるよー! ……ハッ! 語尾にござるが付く人が周りに二人もいるからうっかり伝染ってしまいました……」
 陸羽も祐二と同じく大声を上げ、グリムリーパーの柄で木を叩いたり揺すって葉を落としたりしながら、思わず出てしまったござる口調に人知れず顔を赤らめた。似たような、かつ同音量が別々の方向から聞こえてくる事に右往左往する従魔の背を、さらに別方向から小鉄とシルヴィアの二人がそれぞれピストルクロスボウとマビノギオンで狙い撃つ。
「音によって敵を往復させ、敵が後ろを見せている時に攻撃する作戦でござる。これも立派な計略、卑怯ではござらん……ござらんったら!」
『あっ……うん、そうね』
「木を痛めるのは心苦しいけど……そうも言ってられないか。行ったり来たりしてる間に、遠慮なく狙わせてもらうよ」
『律儀に普通に戦ってあげる必要もないものね。音に反応する敵の性質、逆利用してしまいましょう』
 小鉄とシルヴィアの呟きに、それぞれの相棒である稲穂とヴァレリアが答えを返した。二人の攻撃自体はオンリーヒアの背にほぼ命中しているが、どうやら決定打とはいかないようだ。流石に何かおかしい事に気が付いたのか風切り音を感知したのか、なんとオンリーヒアの一匹が音のする方向ではなく、弓を放つ小鉄の方に首を向け走り出そうとした。しかしその瞬間、健吾の放ったブルームフレアと由利菜の放ったライヴスブローが同時に従魔へと着弾し、オンリーヒアの半数を巻き込んで大爆発を引き起こした。二人の攻撃の威力もあったのだろうが、どうやら由利菜の放った矢がオンリーヒアの尻尾を切り離し、さらに二人のライヴスに反応して誘爆を引き起こしたらしい。
「よし!」
「上手く巻き込めたようですね。ラシルに弓の扱いを教わった甲斐がありました」
『射撃はジャックポットの十八番だが、ブレイブナイトの射撃能力も見せなければな』
 拳を握りしめる由利菜に対し、リーヴスラシル(aa0873hero001)は凛とした口調で言葉を返した。残り半数となったオンリーヒアのすぐ前に、新がシルフィードを握り締めながら勢いよく躍り出る。軽く愛用の武器を振り、背をピンと伸ばして高らかに凛々しく、少し苛立だしげに声を上げる。
「俺の名前は古代・新。世界を旅する高校生冒険家見習! 黙ってろとかしんどいんだぞこのトカゲ野郎! 何時もだったら選択肢を出すけど今回は略! とっととあちら側に戻りやがれ!」
『そして私は終わらせて早くごはんを食べたいです』
「グシャアアアアッ!」
 新とレイミアの意思を遮るようにオンリーヒアが声を上げ、口を開けて牙を剥き新に向かって襲い掛かった。新はシルフィードを一閃させ、噛み付こうと飛び掛かった従魔二匹の首を切り落とす。その反対側から牙を剥いてきたオンリーヒアの首の部分を、亮馬のスナイパーライフルとガイルのオートマチックが一匹ずつ撃ち抜いた。さらに駆け出した陸羽と祐二もそれぞれグリムリーパーの刃を残りのオンリーヒアへと振り下ろし、かくして従魔の群れは全て黒い霧となって魔の山へと立ち消えていった。
「……終わったか」
「ああ、そのようだ」
 共鳴を解除した亮馬は2mもある相棒の巨体を見上げると、右手を持ち上げエボニーの黒い手甲と突き合わせた。それぞれ共鳴を解除したリンカー達の間を、従魔がいなくなった事を喜ぶように静かに風が吹き抜けていった。

●嵐の後
「……もう、しばらく大声は出さね……」
 祐二はガラガラの声で呟くと、心の底から疲れたように足下の地面に視線を落とした。座り込む祐二の頭上では、セリーが猫さながらに木の上に登り、紅葉を眺めながらのんびりとバナナを食べていた。二人から少し離れた所では、なんとも派手な格好をした青年がブロードウェイの役者のように両手を広げて立っていた。ラロは自慢げに、そして機嫌良さそうに、同じく派手なドレスを身にまとうデランジェへと語り掛ける。
「ラロは一番派手だったよね! デランジェ君、キミも頑張ってたけどラロの魔法の前では霞んでしまうのは仕方が無いさ。でも、気を落とすことは無い、そんな事よりも教えてくれ給え。キミはどんな物語を持ってるのかね? ラロに聞かせてくれよ、キミの持っている物語を!」
「そうねん、残念だけど今回はあんまり活躍出来なかったわん。でも、このデランジェちゃんの物語が聞きたいなら大歓迎よん。どんなワクワクハラハラの暗殺劇をお望みかしらん?」
 謎の意気投合を果たしたラロとデランジェの二人を尻目に、健吾は呆れ顔を浮かべながら契約の絵本をどうするかについて密かに頭を悩ませていた。未だ独身の身で子供用の絵本を買いに行くというのは、実に居心地が悪く気の重い仕事なのだ。高級だが着古したスーツのボロけた感も相まって、その表情と背中には年相応の渋さと哀愁がほのかに確かに漂っていた。
「も、もうすもうす……」
 その背中に青年の声が聞こえ、健吾は後ろを振り返った。見れば、先程オンリーヒアの群れを誘き寄せてしまった青年が、ズレたサングラスの奥から申し訳なさそうに健吾の事を見つめている。
「先程はその……拙者のせいで申し訳なかったでござる」
「気にするな。どうせやらなきゃいけない相手が一度に来たってだけの話だ。ラロも派手にやれて嬉しそうだったしな」
 健吾はさらりとそう返したが、ガイルはまだ落ち込んでいるらしく浮かない表情を見せていた。そのガイルに向かって、横からスッと黄色いバナナが差し出される。
「ゆ、由利菜殿……」
「これでも食べて……元気を出して下さい……」
「小学生の遠足並みの支給食だがな」
「こら、ラシル!」
 リーヴスラシル(以下ラシル)を諫める由利菜の手からガイルはバナナを受け取ると、まだ浮かない顔をして手にしたバナナを見つめていた。そこにショウゲンが近付き、落ち着きのある渋い声でガイルの横顔に声を掛ける。
「ガイル殿」
「な、何でござるか?」
「ガイル殿のお陰で敵の性質に気付けたのだ。礼を言おう」
 ショウゲンの一言に、ガイルが大きく目を見開いた。ショウゲンに言われた言葉を理解したガイルの目から、大粒の涙がボロボロと零れるように落ちてくる。
「ちょ……ちょっと、ガイルちゃんったらどうしたのん?」
「な……泣かないで、失敗は成功の母よ!」
「ち、違うでござる……」
 慌てたように声を上げるデランジェと稲穂の二人に、ガイルは首を横に振った。
「も、申し訳ござらぬ……拙者、コタビの事が情けなく……ミーは少しでもお役に立てたでござろうか……」
 そして、ガイルは鼻を啜った。どうやらガイルは失敗した事自体よりも、失敗して仲間達に迷惑を掛けてしまった事に落ち込んでいたようだ。その小さく丸まってしまった肩を、小鉄が機械と化した腕で励ますように強く叩いた。
「敵を引きつけてしまったとはいえ、敵の特性という得難い情報を得る事も出来たでござる。それは評価されるべきでござるし……こういう時は旨い物を食うのが一番でござるよ!」
「こ、小鉄殿……」
「ふむ……実は拙者、旨い寿司屋を知ってるでござる。ガイル殿、今度一緒に行くでござるよ」
 小鉄の一言に、視線を上げたガイルの顔が一瞬にして青ざめた。先程とは別の意味で涙目になりながらブンブンと首を横に振る。
「ソ……ソ―リーでござる! 拙者SUSIだけは苦手でござる! WASABIはもっと駄目でござる!」
「好き嫌いは駄目よ! 強い忍者になりたいなら好き嫌いもなくなさなきゃ!」
「に、NINJYAにSUSIとWASABIは関係ないでござる! そうだ! 拙者用事をリメンバーしたでござるから、ゴメン!」
 ガイルは小鉄の腕をすり抜けると、いまだ木の根元に座り込む祐二の元へと走っていった。足音に気付いた祐二が顔を上げると、そこには不安げな顔をしたガイルが両手を握りしめて立っていた。
「ゆ、祐二殿、一つお聞きしたいでござるが、先程何かトークしたでござるか? 口をパクパクさせて、誰に、何と言ったでござるか?」
「え? ああ、ガイルさんに『たのんだぜ』って」
「サンキューベリーマッチでござる!」
 突然向けられた言葉に、祐二はぽかんとガイルを見上げた。ガイルは一生懸命な表情で祐二の事を見つめている。
「拙者……ベリー、嬉しかったでござる! ミステイクしたミーを、まだ頼りにしてくれる方がいると……だから……サンキューベリーマッチでござる! 拙者、もっと頼りにしてもらえるよう今後ともども頑張るでござる!」
 そう言って、ガイルは今度は亮馬と由利菜、そして落ちた枝を拾い集めていたシルヴィア達の元へと走っていった。「助けてくれてありがとう」「励ましてくれてありがとう」を伝えるために。デランジェはその様子を見てひっそりと笑みを浮かべ、ラシルはそんなデランジェを見て言おうとしていた言葉を止めた。能力者と英雄は運命共同体。どちらが欠けても駄目なのだ。けれど、その事を、デランジェも、そしてここにいる全員もきちんと分かっている事だろう。
「結局、バナナの皮の効果は分かりませんでした……」
 陸羽は回収したバナナの皮に視線を落として嘆息した。置いた所が悪かったのか、オンリーヒアがバナナの皮を踏んでくれる事はなく、バナナの皮の効果については今後要検証である。
「綺麗な景色ですけど……ゆっくり眺めていられる状況でもないんですよね……今は」
 バナナの皮から紅葉へと視線を向けた陸羽の言葉に、ショウゲンは「ああ」と静かに頷いた。オンリーヒアとの戦いこそ終わったが、この魔の山に潜む敵との戦いはまだ続いていくのだ。だが、どんなに危険な任務であろうと、陸羽を守るというショウゲンの意志は揺るぎはしない。ショウゲンはその意味も込めて、陸羽の頭の上へと優しくその右手を置いた。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか。報告もしないといけないし」
「ごはんも食べないといけないですし!」
 新とレイミアの声に、リンカー達は宿営地に向けて歩き出す。一つの戦いの終わりを報告するために。そして、次の戦いへと赴くために。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 忍ばないNINJA
    小鉄aa0213
  • エージェント
    大崎 陸羽aa1140
  • Foe
    谷崎 祐二aa1192

重体一覧

参加者

  • きみのとなり
    加賀谷 亮馬aa0026
    機械|24才|男性|命中
  • 守護の決意
    Ebony Knightaa0026hero001
    英雄|8才|?|ドレ
  • 再生者を滅する者
    古代・新aa0156
    人間|18才|男性|攻撃
  • エージェント
    レイミアaa0156hero001
    英雄|16才|女性|ブレ
  • エージェント
    シルヴィア・ティリットaa0184
    人間|18才|女性|攻撃
  • エージェント
    ヴァレリアaa0184hero001
    英雄|19才|女性|ソフィ
  • 影踏み
    小湊 健吾aa0211
    人間|32才|男性|回避

  • ラロ マスキアランaa0211hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • 忍ばないNINJA
    小鉄aa0213
    機械|24才|男性|回避
  • サポートお姉さん
    稲穂aa0213hero001
    英雄|14才|女性|ドレ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • エージェント
    大崎 陸羽aa1140
    機械|16才|男性|命中
  • エージェント
    ショウゲンaa1140hero001
    英雄|37才|男性|ドレ
  • Foe
    谷崎 祐二aa1192
    人間|32才|男性|回避
  • ドラ食え
    プロセルピナ ゲイシャaa1192hero001
    英雄|6才|女性|シャド
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