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鬼退治【相談卓】
最終発言2018/02/02 01:55:57 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2018/01/31 23:05:51
オープニング
●節分
「おにはーそとー!」
「ふくはーうちー!」
元気よく子供たちが豆を張りぼての鬼へ投げつける。ぱらぱらと当てられた張りぼてはいとも簡単に後ろへ倒れた。
「やったー!」
わあわあと子供たちの歓声が響く。
ここはデパートのイベントなどを行う広場だ。節分という事もあって、子供を対象に『鬼は外! 福を呼び込もう!』などというポスターが貼られ、今のようなイベントを行っていたのである。
大人から見れば稚拙をどうにか抜け出した、くらいの作り物。それでも子供は大きな鬼を倒すことができるのだから大喜びだ。
そして子供というものは得意げになってしまうもので、ステージに登って既に倒れた張りぼて看板に尚も豆をぶつけたがったりする。
この時もやはりそう言った子供はいた。段差の高いステージへよじ登り、手元に残っていた豆をぱらぱらと投げつけ、スタッフにやんわりと客席側へ戻るよう促される。
そんな時だった。
「わああああ!!」
「ほ、本物の鬼だー!」
むくり、とソレが起き上がる。いつしかそこにいたのは、2メートルを超えるような赤鬼と青鬼。銀色の棍棒を持ち、ぶんと振れば傍にあったポスターが勢いよく破れた。
近くで見る鬼への恐怖に子供達が泣き始め、親が慌てて我が子を連れ戻そうと手を伸ばす。
鬼達は無感動な瞳でそれを見下ろし、棍棒を横殴りに振った――。
●福を呼び込め
「……と、福を呼び込むどころの話でない事態です。従魔の姿はこちらを参照してください」
事態をエージェント達へ伝える四月一日 志恵(az0102)は、それが緊急だからか少々声音に余裕がない。
彼女が見せた写真――否、イラストには、これまた典型的とも言えそうな鬼2体の姿があった。
片や、赤い肌。角は2本、くせ毛のような赤毛を持ち、身に纏っているものと言えば腰巻程度。
片や、青い肌、角は1本、やはりくせ毛のような青毛を持ち、身に纏っているのは腰巻。
どちらも棍棒のようなものを持っているようだ。
「デクリオ級従魔『赤鬼』と『青鬼』は、張りぼてだった鬼を依代に現れたと思われます。一般人に対しては1番最初のみ危害を加えていますが、その後は周囲の人間を怖がらせるような動きしかしていないそうです」
負傷者は大人、子供含めて数名。いずれも連絡をしてきた非番の職員によって保護されており、命に別状はないとのこと。
「最初の行動により大半の子供がステージから逃げましたが、どうやら3人程逃げ損ねてしまったとのことでした」
恐らくこのイレギュラーな事態に怯え、足が竦んでしまったのだろう。親が決死の思いで子供を連れ帰りに行こうとしたが、周りが止めた。
無謀だと。エージェント達を待て、と。
「皆さんには従魔の討伐、及び逃げ損ねた一般人の保護をお願いします」
解説
●目標
・3名の子供保護
・デクリオ級従魔2体の討伐
●詳細
・子供について
3名。その内5、6歳程度の少年が2名、4歳程度の少女が1名。いずれもステージと客席の間、ステージから見て死角になる部分で今は声を殺して蹲っている。
従魔達が子供たちを襲わないのは見つかっていないからであると予想される。
客席後方まで来ればH.O.P.E.職員が保護するとのこと。
・従魔について
『赤鬼』『青鬼』
いずれもミーレス級に近いデクリオ級従魔。2m50cmほどの鬼の風体をしている。
それぞれ片手に銀の棍棒を持っており、それを振り回して攻防を行う。また、落ちている豆を投げつける。豆自体は脅威ではないが、従魔が投げれば一般人には十分危ない威力を発揮する。エージェントにも多少効く程度。
ここが俺達のテリトリーだ! と言わんばかりにステージからは降りようとせず、ステージ上から届く範囲のものを破壊する。ただし外から攻撃を加えた場合はステージを降りる事も考えられる。
ステージへ近づくものへは雄叫びによる威嚇や豆を投げつける攻撃を行う。
音に敏感であり、人の話し声や手を叩く音には特に耳敏い。ただし聞こえるというだけで言葉を理解しているわけではないと判断されている。
・場所について
屋外ステージ。日中であり、冬にしては暖かく天気も良い。
ステージは10m×10m程度でさほど広くない。客席がその前に20m×20mあり、均等にパイプ椅子が並べられている。ステージ両脇から客席半ば程の位置まで一直線に植え込みがあるため侵入不可。
リプレイ
●
「おいおいでけェなあいつら!」
遠目から見た従魔の姿に声を上げたのは艶朱(aa1738hero002)だった。距離が離れているためか、従魔達はまだこちらを明確に認識したような動きは見せていない。
「つっても俺もまだまだ成長期だしいつかあれぐれェに」
「……え、まだ伸びてるの艶朱?」
彼の言葉に思わずと反応したのは天海 雨月(aa1738)。目を丸くした雨月に艶朱がニッと笑う。
「おゥ! この前測ったら2cm伸びてたぜ!」
既に2mを超えた大男であるのだが、まだまだ伸びるらしい。
その近くでは艶朱と同じように鬼の風体をした灰燼鬼(aa3591hero002)が、従魔達を複雑な視線で見つめていた。
節分とは鬼を悪いモノに見立て、それを祓う行事。鬼である灰燼鬼はそれに色々と思う事があるようだ。
けれども、その傍で。
「人を脅かす悪鬼邪鬼、人の恐怖が生みし疑心暗鬼、討ち祓いて……えっと、と、とにかく討伐しなければならない存在なのです!」
ぐ、と両手を拳にして力強く言い切ったのは三木 弥生(aa4687)。その隣で三木 龍澤山 禅昌(aa4687hero001)が自分よりはるかに小柄な弥生を見下ろす。
「……てめぇ、知り合いに鬼多いけどいいのか?」
「あ、あのひt……方達や灰燼鬼は違います! 悪い鬼じゃありません!! と、とにかく御屋形様を御守りしつつ退治致すのです!!」
御屋形様、と呼ばれた沖 一真(aa3591)は応じるように弥生へ片目をつぶった。
「おう。守りは任せたぜ、弥生」
「はいっ」
元気よく返事する弥生。
彼らから少し離れた場所で、逢見仙也(aa4472)は軽く目を眇めた。
「鬼じゃなくて従魔だから、向こうにすりゃ襲ってくる俺らが鬼ではあるわな。怖ろしいもの的な意味で」
こちらは敵を鬼ではなく従魔である、という認識であった。それに同調するようにディオハルク(aa4472hero001)も頷く。
「こっちにも都合はある。こっちが鬼というのなら鬼らしく徹底的に潰してやればいい」
「そらそうよ。その為に来てるんだから」
ふん、と鼻を鳴らす仙也の瞳は一瞬ディオハルクに向けられ、すぐ従魔達に戻る。その瞳に浮かぶのは――これからの戦いに対する愉悦、だろうか。
この依頼に参加した男性陣が長身揃いである中、小柄な影がステージの方を向いてぴょこんと小さく飛び跳ねる。
椅子の影、そして舞台の死角に隠れているであろう子供達の姿は飛び跳ねても残念ながら見えなかった模様。けれども恐怖に耐えているはずだ、と天城 初春(aa5268)は一同を振り返った。
「さて。子供達が取り残されているという話です故、早急に救出に向かわねばなりませぬの」
「子供といっても……お初、お主の同年代じゃろ」
辰宮 稲荷姫(aa5268hero002)がやや呆れたような声を出すが、初春は小さく肩をすくめる。
「戦人(いくさびと)の妾と一般人では違いましょうに」
そう、エージェントと一般人では敵と戦う事――ひいては恐怖となるモノに立ち向かう経験がまるで違う。彼女は幼いながらも立派な戦人だ。
加賀谷 ゆら(aa0651)も初春の言葉に頷く。
「最優先はお子さんの保護よ。皆がオニさんを引き付けてる間に保護しよう」
後半の言葉は英雄であるシド (aa0651hero001)に向けられたものだ。彼は不愛想ながらもゆらの意見に是を返す。
「ああ。子ども達に怪我をさせんようにな」
一般人救出、及び従魔討伐開始である。
●
「その場で動かずに静かに待ってて。大丈夫、俺達が必ず助けるから任せて!」
そう声を上げたのは皆月 若葉(aa0778)。その声に応えはない。けれど、それでいい。
若葉の力強い声は従魔達にも届く。客席から向かって右側、上手の方へ意識を向けた従魔達はその口を開き――。
「「グオォォォォオオアアアァァァァァ!!!!!」」
空気が震えるほどの大音量。その雄叫びに一同は揃って顔を顰める。子供達から泣き声などが上がらないのは若葉の声かけがあったからだろうか。
「子供を率先して狙うとか、恥知らずも大概にしろよカス野郎が」
一番最初に舞台へ動き始めたのは名無騎(aa5428)だった。ライヴスを強く意識し、活性化させながらもその口上は止まらない。
「正直、名乗りを上ぐるのも面倒くさい程、こめかみにピクピク来てるから危険なのだよ」
肺活量が多いのか、まだ従魔達の雄叫びは終わっていない。その声は従魔達に届いてはいないだろう。
「だが、ナイトは敵を選ばない。言葉もわからぬい脳筋にも分かるように名乗ろう」
丁度従魔達の雄叫びが止み、無音が印象付く中。
「…おるは、名も無き騎士、名無騎ッ! 今から西洋のモモタロ=サンになっておもえを倒す、覚悟すろッ!」
共鳴による紫電を纏った体験をビシ、と突きつける名無騎。
『………………』
名無騎と共鳴していた名無姫(aa5428hero001)はその内で遠い目になった。
言いたいことはなんとなくわかる。名無騎の思いも伝わる。けれども全体的に言葉遣いのせいでイマイチ締まらない。
(誰か、日本語を教えてやってくれ……)
しかし、彼の口上によって更に従魔がこちらへ引き付けられたのは事実であった。
「そんな豆鉄砲で、ナイトに傷を付けらるると思う浅はかさは……愚かしいのだよ!」
ステージにばらまかれていた豆が大きな手によって掴まれ、従魔に近づいていたエージェント達へ投げつけられる。咄嗟に盾で庇う者と、大したことはないと身につけた防具で防ぐ者に分かれたがいずれもダメージとなりうるほどの力ではない。
その豆を投げつける様はまるで、自分達の依代がされていたことをやり返すかのよう。
『そうだな……豆をぶつけられるのは嫌であろうな。が、童達を傷つけることは赦さぬ。覚悟するがいい』
灰燼鬼の声は、先ほどの節分に対する複雑な感情で揺らいでいる様子はない。そう、子供を好く心が揺るがないように。
彼の言葉に呼応するかのように一真が足を踏み鳴らした。
「さぁ、楽しい節分の始まりだぜ」
ステージへ順調に近づいていくエージェント達。けれど、と若葉は眉を寄せた。
『このまま近づくと鬼の注意が下に向くか……』
ラドシアス(aa0778hero001)が若葉の心を代弁する。その声は若葉以外に聞こえない。
ステージの方が客席より高い位置。このままなら死角にいる子供達が見つかるのは時間の問題だろう。
「子供に気づかれたら困るね……それなら」
そう呟いて若葉が視線を向けたのはステージ横の壁だった。壁までの距離、見える壁の面積を目視で確かめる。
(――いける)
若葉の身に着けていたベルトから壁へ、ライヴスによるマーカーが射出される。一瞬帯のようにベルトからマーカーへライヴスの光が繋がると、若葉の体はその帯に沿って上空を飛んだ。
先を進んでいた一真の頭上すらも飛び越えた若葉は壁のやや上に手を付いて勢いを殺し、ステージ上へ到達する。
マーカーが消え、重力に逆らうことなく着地をした若葉は赤鬼の棍棒を横へ跳んで回避した。
「わ……っと」
棍棒は若葉に触れることなく、ステージの地面へめり込む。青鬼は未だ客席から近づいてくるエージェント達を威嚇するように豆を投げつけていた。
少なくとも片方の注意はこちらへ向いている。若葉は傍にあったアンプのコードに携帯音楽プレーヤーを素早く繋いだ。
大音量の音楽が屋上に鳴り響く。
突然流れた音楽に従魔達が上手側のアンプを見上げた。
『戦闘らしからぬ曲だな……』
流れるのは明るい曲ばかり。ラドシアスの溜息が若葉の内で聞こえる。
「いや、普段普通に聞いてるヤツだし……それにこれならあの子たちも怖くないでしょ?」
流れる曲は童謡のジャンルをループするようにしている。何故普段聴くのかといえば、もう1人の英雄の存在故に。
ジャンルの中での曲数は少ないが、いま若葉が流しているのは著作権が消滅しているものばかりなので、気にする必要はない。
溜息に苦笑を返した若葉は、真剣な表情を浮かべて従魔達へ向かった。
物音や些細な声が気づかれにくくなるように。そして、戦闘音に子供が怯えないように。若葉から子供達への配慮だった。
若葉が持つ武具を盾から二挺拳銃へ変えるのと同時にダァン!! と勢いよくステージに上がる音。次いで大ぶりに腕を動かす拍手。
『貴様らも鬼の端くれなれば、拳を交えて強さを示すのだ』
どれも注意を引き付ける音だ。
近くにいた青鬼が棍棒を振り上げ、勢いよく振り下ろす。鬼神の腕で受け止めた一真はその懐へ武器を一閃させる。その攻撃はやや浅いながら、青鬼の直情的な攻撃のペースを乱した。
青鬼はそのまま乱戦に引き込まれそうなことを察したか、距離をとろうと2、3歩後ずさる。
「ここは任すろ! 子供を頼んだぞ!」
『……射程圏内だ! やるぞナナキ! 《我が剣に誓う》!』
「お前らの様な卑怯者に……騎士が遅れを取るはずがないッ! 《我が盾に誓う》!」
そこへ乱入したのは名無騎と更なる『鬼』。
「おゥ、どうしたよ兄弟?」
青鬼を兄弟と表現した艶朱。名無騎と同時にステージへ到着した彼がニッと浮かべた笑みは敵に浮かべるものではなく、本当の兄弟へ向けるような気兼ねない笑みだ。
この従魔の依代は鬼の張りぼて。つまり、元来鬼ではないのかもしれない。
けれど、それが何だというのだ。
今、艶朱の目前に立つは紛れもなく鬼の姿で。恐らく心持ちも鬼のそれ。ならば兄弟も同然だ――そう、艶朱は考えている。
艶朱と一真、名無騎に豆が投げつけられる。名無騎は盾で防御したが他2人は防御の姿勢を取ることなく、けれどもやはり大したダメージとはなり得ない。
『私に豆など効かん。倒したければ拳をぶつけよ』
灰燼鬼の声が響く傍で艶朱は青鬼に向けてへらりと笑った。
「あー分かるぜ兄弟。昔は俺も気になったもンだわ」
鬼と言うのは悪いモノ、と一括りに捉えられがちだ。艶朱も恐らくそう言った経験があるのだろう。
こーゆー時の感情としては色々あるだろうが、今の兄弟(鬼)の感情はどれだろうか。
(まァ細かい事はどうでも良い)
「さァ、鬼さん此方、だ」
大きな拍手を打ち、艶朱は喧嘩の始まりを告げる。
拍手に反応したか、しかし青鬼は名無騎にまず向かっていった。
「読み読みなのだよ、お前の動きは」
名無騎はそう呟くと、盾を横に構えた。その直後、棍棒が盾に阻まれる音が響く。
直情的な攻撃を予想していた名無騎は、踏み込みが攻撃合図となることを予想していた。振り被れば振り下ろしが、腰に溜めれば横薙ぎが来る筈だ、と。
そして阻むとともにぐ、と盾で押し返す。
徐に艶朱はステージ上に散らばる豆をひょい、と拾った。
兄弟と喧嘩をすることが楽しくて、楽しみで仕方ない。そんな艶朱の表情に雨月が心の内で釘を刺そうと声を上げた。
『艶朱、子供達が鬼の死角になる様に向かせた方が良い』
逃げる子供達に気づかれては困る。そのための助言であった。
しかし。
『よし! 細けェ事はお前に任せた!』
『え』
共鳴していない状態であれば、ぽかんと目を丸くし驚く雨月が見られたことだろう。
「知ってたか兄弟? 豆まきはよ、地域によっちゃ鬼は内って言うとこもあるンだぜ? 雨月ン家もそうだ」
青鬼を見てにやり、と笑い。
「っしゃいくぜ兄弟! 鬼はーーーー内ッ!」
振り上げたそれを、思いきり投げつけた。
ダメージにはならないそれは、しかし敵を煽るのには十分。
青鬼は棍棒を振りかぶり、艶朱へ向かって真っすぐ向かってきた。艶朱も装備していた格闘武器は鬼神の腕。奇しくも一真と同じであった。そして戦い方も――。
横殴りの棍棒を武具で受け止めた艶朱は、先ほど一真が当てていた部位へ更に攻撃を重ねる。
同時に聞こえた銃声は若葉の発した威嚇射撃だ。
赤鬼と対峙していた若葉は他のエージェント達がステージへ上がるまでの時間を稼ぐべく、銃で応戦していた。
威嚇射撃で鈍った攻撃を、頭を低くすることで回避する。テレポートショットで撃った球は赤鬼の死角から着弾し、そちらへ棍棒が振られるが当然若葉はそこにいない。赤鬼は若葉の攻撃に翻弄され、振るう棍棒を当てられずにいた。
攻撃を受け、或いは攻撃を躱されていた2体へ正面から向かっていったのは一真だ。
「怒涛乱舞――天流乱星の構え!」
トップギアで次の攻撃へ備えていた一真は、俊敏性を持って2体へ次々と攻撃を加える。
その攻撃が終わったと同時。
『子供達を発見、保護しました。これから離脱させます』
ゆらの声が、3人の持つ通信機から控えめな声量で発せられた。
『心配してる親御さんたちのためにも、迅速かつ丁寧に! がモットーよ』
『もとより、そのつもりだ』
共鳴したゆら達は心の中でそんな会話をしつつ、他の仲間と反対方向からステージの方へ近づいていた。
仲間達が十分に従魔を引き付けてくれていること、植え込みや客席の椅子に隠れながら進んでいることからこちらに敵が気づいた様子はない。
そして足に装着した補助ブースターにより、比較的早くステージへ近づけている。
ある程度接近したゆらはマナチェイサーで子供達の居場所を探った。
『最前列の……少し真ん中よりかしら』
『そうだな。見つからないよう、気を抜くなよ』
ライヴスの反応はステージ中心より少しこちら側か。
細心の注意を払って近づいたゆらは、小さく体を縮めてステージ上の死角へと滑り込んだ。こちらへ敵が気づいていないことを音楽に紛れた仲間達の戦う音で確認し、そっと視線を正面へ向ける。
子供が3人、目を丸くしてゆらを見つめていた。その瞳には涙の膜が張っているが、辛うじて泣いていない。
ゆらはしー、と人差し指を口元に当て、子供達へ手招きをした。
子供達は顔を見合わせ、そろそろと四つん這いでゆらの方へ向かってくる。無事に傍まで来た3人の頭をそっと撫で、ゆらは通信機を手に取った。
本来は子供を抱えて客席後方へ、と考えていた。けれど1人で抱えるには限度がある。1番小さい子を抱え、自分が敵の影になるようにして子供に前を走ってもらうのが最善か。
現状の位置からの撤退方法を考えながら、ゆらは通信機を繋げた。
『子供達を発見、保護しました。これから離脱させます』
続々とステージ上へエージェント達が着き、支援へ回るべく若葉がステージ外へ降りる。
それと同時、若葉に視線を向けていた赤鬼が下手側を逃げようとするゆらと子供達に気づいた。しかし。
「フラッシュバンいくよ、みんな気を付けて!」
若葉の注意喚起に一同が顔を伏せる。
ライヴスによる閃光弾を、言葉のわからぬ従魔達はもろに浴びた。
そのまま若葉はゆらと合流する。
「ゆらさん、子供2人は俺が抱えるよ。先行っちゃって大丈夫?」
「ええ。お願いします、若葉さん」
若葉は自らの足で走ろうとしていた少年2人をひょいと抱え上げる。
「しっかり掴まってて。いくよ?」
少年達が頷き、しがみついたことを確認してジャングルワイヤーを再び使用する若葉。
それに引き離されたゆらと抱えられた少女へ、赤鬼が豆を投げつけようと振りかぶる。
だが。
「さて、子供たちの離脱完了まで、ここは豆一粒とおさないでござるよ!」
『離脱した後は、子供たちに手を挙げた報いをくれてやろう、獄界の底に沈むがよい』
初春がその間に立って盾を持ち、稲荷姫が不穏な言葉を吐く。さらには仙也がインタラプトシールドでゆらの背後に盾を形成し、弥生も盾で豆を受け止め、ついでと言わんばかりに袋へ豆を回収していた。
同時に一真の操るAGWオートマトン”アルレッキーノ”によって青鬼の注意は客席から逸れる。
「食べ物を粗末に扱うなど言語道断! 悪行三昧も程々にするのです!!」
『……食い意地汚ぇガキだな……』
弥生の声に禅昌が呆れた声を上げたが、結果としてゆらと少女は無傷で職員の元までたどり着いたのであった。
「もう大丈夫だよ。お父さん、お母さんのとこに帰ってね」
ゆらがクッキーや携帯していたホットチョコレートを子供達へ渡し、再度頭を撫でる。受け取った子供達は緊張に強張っていた表情をようやく緩めた。
子供達が保護されたことにより、エージェント達は気兼ねなく戦えるようになった。
仙也はエリアルレイヴで青鬼の足元を掬いつつ、ディオハルクの呟きを聞く。
『銃か何かの方が良かったかもな。鬼を叩き出す豆の代わりならそっちの方がらしい』
「銃とか使うったってなー? せっかく揃えたんだしさ?」
『使えればどれでも同じなんだろう?』
会話をしながらも仙也の攻撃と回避は止まることがない。
『……ナナキッ!』
「合点承知の助なのだよ! 追撃の……」
「パワー………ッッ……スラァ!!」
名無騎が魔剣「ダーインスレイヴ」でライヴスリッパーを当て、青鬼が膝をつく。次のターンへ入った仙也がイノセンスブレイドを叩きこむと一瞬の気絶となった青鬼は仙也からの攻撃にすぐ気が付いたものの、苦悶の声を上げた。その肩にペイント弾のようなマークが撃ち込まれる。ライヴスによるそれは淡い光を放っていた。
ぶん、と振り回される棍棒は艶朱の腕を掠めたが、彼は笑っていた。
この鬼達が従魔であることに変わりはない。ならば最期まで愉しくやりあおう、と艶朱は腕を振り上げる。
鬼神の腕が青鬼に深く傷をつける。その追撃と言わんばかりに初春のジェミニストライクがその傷を抉った。
「あまり理性的な戦い方をしてきませんね……私としてはとても戦いやすい相手です!」
『お前も脳筋だからな」
「ち、違います!! 真っ向から戦いたいだけです!!」
赤鬼の前にはガシャガシャと音を立てる鎧の少女。英雄へ言い返した弥生は盾の面を叩いて音を出し、赤鬼を挑発する。
「子供の遊戯に本物の鬼は似つかわしくありませんよ。そもそも節分の鬼は厄病の象徴ですから人の思う鬼とは何ら関係はありません!!」
弥生の女郎蜘蛛によって動きを阻害された赤鬼は脱しようともがく。そこへ攻撃を加えたのは一真の鬼神の腕。さらにそこへ若葉の援護射撃とゆらの黒猫「オヴィンニク」が赤鬼を発火させるべく飛びかかる。
弥生の縫止なども相まって、赤鬼はもはや袋叩き状態であった。
●
「御屋形様、お怪我は御座いませんか!!」
弥生の心配に、一真はニッと笑った。
「おう。弥生も大した怪我でなさそうでなによりだ」
その言葉に弥生はほっと表情を緩める。
傍では親の元へ戻った子供達を見て胸をなで下ろす初春の姿があった。
「子供たちが無事でよかったですの」
「うむ、そうじゃな。頑張ったのお初」
稲荷姫が初春の頭をわしゃわしゃと撫でる。撫でられた初春は満足そうに頷いて微笑んだ。
若葉とゆらは子供達の傍へ行き、その目線の高さに合わせて屈む。
「もう鬼はいないよ、よく頑張ったね」
「にーちゃんとねーちゃんありがとー!」
「びゅーんてすごかった!」
「ありがとー、あまいのおいしかったー」
おそらく少年の1人が言っているのは若葉のジャングルワイヤーだろう。3人の表情は生き生きとしている。
おそらくそれはゆらがあげた菓子なども、子供達の心に大きな傷を残さなかった要因だろう。後ほどH.O.P.Eがその分の物品は支給してくれるに違いない。
「魔を滅すと書いてまめと読むんじゃなくて魔が滅する為の豆になってたな。威力控えめだったけど」
「お陰で多少気が楽だったがな。子供以外は」
仙也とディオハルクはステージ上に散らかった豆を掃除していた。
従魔に破壊されてしまった部分は自分達にはどうしようもないが、せめてできる片づけはしておきたい。
「異界から来たもの、人にあらぬもの。反逆者も鬼というけど、英雄とリンカーも鬼とその力で強くなる鬼ではありそうな感じ。平和になれば追い出されるのかね?」
「英雄が帰る、平和にならないもあり得るぞ? それにヴィランみたいなものにならなければ鬼扱いはされんだろうよ」
「なったらなったで、悪かなさそうだけどもなー」
そんな会話をしながら豆掃除を終えた2人は、先ほどの戦闘で怪我を負っている面々に気づくと救急バッグを取り出した。ついでに、子供達へあげるための飴も。
「豆撒き第2ラウンドと行こうぜ!」
「……やらんからな」
灰燼鬼が渋面を浮かべる。それは鬼役を引き受けない、という意味だ。
けれども子供達は灰燼鬼や艶朱など、鬼の風体をした男性達を見上げて目を輝かせており。
その後、屋上では再び子供達の歓声が響いた。
結果
シナリオ成功度 | 大成功 |
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