本部

歌を取り戻せ!~ライブ編~

鳴海

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~10人
英雄
8人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/01/29 19:05

掲示板

オープニング

● 苦悩を越えた先に

 クルシェは病室で窓の外を眺めている。
 穏やかな風が窓の外から舞い込んでくる。
 その風に髪をなびかせるクルシェは憑き物が落ちたような顔をしていた。
 それはそのはず。彼女の胸にはまだ鈍く脈動する痛みがあるのだろう、しかし、それと同じくらいに、自分を必要とする声を、そして助けようとしてくれる人の声を聴いた。
 決して順風満帆な人生ではなく、家族を失い、故郷も失い、その果てに得た仲間を失ったとしても。
 歩んでいこうと、決めたからだ。
「ありがとう、あたし。先にいくよ。こんなあたしでもきっと、何かできることがあるはずなんだ」
 その言葉に応じるように病室の扉が開いた。
 そこには助けてくれたリンカーたち、そして仲間たちが立っている。
「聞いて、クルシェちゃん、お客さんが半分戻ってきたよ」
 もともとはライブ会場が埋まらないという問題から発した一連の騒動。
 それも終わりが迫っている。ライブまではもう二週間も時間はない、クルシェも明日退院することになっている。
 当然、ディスペア達だけでは五時間のライブについて乗り切ることはできないだろう。
「いつか、絶対。この恩は返すから」
 梓が全員を眺めて告げる。
「私達をまた、助けてほしい」
 悲しみを振り切って前に進むために、今回のライブは、必要なのだ。
 そう、梓は君たちに頭を下げる。

● ライブの時間。
 
 アイドル系依頼恒例のライブ依頼でございます。
 今回は日本有数のライブ会場での五時間に及ぶライブとなっています。
 ライブ会場は中央に小ステージ。そこから二十メートル程度通路が伸び。横幅50M程度の大ステージに繋がります。
 最先端の技術を駆使できるので、ホログラフィック、光演出、バックダンサーなど人的資源、映像も自作することができます。


● ライブ演出について。
 皆さんにお願いしたいのは三つあります。
1 セットリストの提案
 五時間のライブすべてを描写しているわけにはいかないので、皆さんには特に演出に力を入れる部分と、さらっと流す部分を決めていただきたいのです。
 ライブと言っても歌を謳っているばかりではありません。映像、MC。何か観客の皆さんにお話ししたいことがあればどうぞ。
 裏方希望の方もこちらの分類。

2 ライブ演出
 今回の依頼のメインです。持ち曲に、踊りや映像、アクションなど加えての演出をお願いします。

3ディスペアとのコラボ楽曲の提供
 ディスペアももちろんチームでのライブ演出はするのですが、それとは別にディスペアの各メンバーとコラボしてほしいのです。
 曲は新曲でも、今まであった曲でも問題はありません。
 また、一人一回という登場制限はないので自由にやっていただければと思います。
 さらに三人は三人でやりたいことがあるようなので、演出に反映できるようならぜひお願いします。







解説

目標 ライブの成功

●人物紹介

『クルシェ・アルノード』
 ディスペアのダンス担当、また声に張りがあり力強い曲が得意。『苛烈』はクルシェが中心となった曲である。瑠音と並んでディスペア二大ろりっこである。
 赤い短髪と常にへそだしルック。
 運動全般が得意で、趣味は機械いじり。
 また、英雄を二人持つリンカーでもある。

 今回は派手に体を動かす、リンカーアイドルとしての側面を演出したいとのことで、ダンスや戦闘や。迫力のある演出が何かないかと皆さんに相談を持ちかけています。


『止処 梓』
 かつて空に囚われた少女。これといった才能はなかったように思われたが最近演劇の才能に目覚めた。
 黒髪短髪の少女で純日本人の顔立ち。歳は17才
 常に一生懸命で何事にも前向きに取り組む姿勢の持ち主、意外とファン人気が高いのはライブでは積極的に場を盛り上げようとする姿勢からだろう。
 
 今回は、観客の皆さんにありがとうを伝える演出が何かないか、それを皆さんと作り上げたいと思っているようです。  


『海崎 小雪』
 一番の新人さん18才、演劇の学校に通っておりその才能はずば抜けていると評判。歌唱では梓とタッグを組むことが多い。代表曲は『取り残された蒼き日々を』
 雪のように白い髪とブルーの瞳はメンバーの中でも特に異質。
 
 小雪は、曲の世界感をそのままにちょっとした掛け合いをやりたいようです。舞台上での演技。曲の中での一幕。映像でも舞台上で演じるのでもどちらでもよさそうです。


 ただ、ガデンツァが大人しく見ているとは思えません。
 近日中にこのライブの裏側、戦闘をメインとしたシナリオがリリースされる予定ですので、戦いたい人はお待ちください。

リプレイ

第一章 事前準備

「ったく、あのバカ……なーにが〔ガデンツァの事は私に任せてください〕……だ」
 そう送られてきたメッセージをスマホごとテーブルの上へと滑らせ『楪 アルト(aa4349)』は汗をぬぐった。薄いレッスン着の裾をお行儀悪く引っ張ってぬぐったためにお腹がちらりと見える。
「まだ経験も浅ぇってのに……っま、こっちだろーとあたしはあたしのすることをするだけだ」
「どうしたんだ?」
 クルシェが歩み寄ってきた。他のメンバーとしては小雪や『ナラカ(aa0098hero001)』に『斉加 理夢琉(aa0783)』と言った舞台出演メンバー。
 それをアルトは眺めるとスマートフォンを鞄にしまい込んだ。
 部屋の隅では『小詩 いのり(aa1420)』と『蔵李・澄香(aa0010)』が進行表に目を通している。彼女達の今回の役割はプロデューサー。
 当然舞台にも立つが、ほとんどの協力者が逃げてしまったので、企画、演出、宣伝等々。自分たちで行わなければならない。
「ところでいのりちゃん、そのメガネ、どうしたんですか?」
 たまたま部屋に入ってきた『卸 蘿蔔(aa0405)』が問いかけた。
 その背後に控える『レオンハルト(aa0405hero001)』は片手にタオルの山。片手にはペットボトルが詰まった段ボールを持ち、端的に辛そうである。
「あ……、え? メガネ? これは遙華にもらったんだよん」
 告げると、かちゃりといのりはメガネを持ち上げる。
「ブルーライトカットなんだって」
「へぇ。それ効果ありました?」
「……わかんない」
「なぁ、澄香」
 そんないのりと、蘿蔔の背後で唸っていた澄香に『八朔 カゲリ(aa0098)』が声をかける。
「ロケ地の事なんだが……」
 カゲリは裏方全般で、何事も要点を押さえて聞いてくれることから澄香や『クラリス・ミカ(aa0010hero001)』の直下として動くことが多かった。
「あー、そうだね。時間何時でとれた?」
「八時だ」
「……朝の?」
「それ以外開いていないらしい」
「ああああ~」 
 半分悲鳴のような声を出しながらスケジュール帳に線を走らせる澄香。
 その様子を見て何事かを察した小雪が澄香のもとに走り寄ってくる。
「トラブルですか!」
「いや、大丈夫、大丈夫だけど。みんなの睡眠時間が三時間削られた」
「大丈夫です!」
 小雪は胸の前で両手を握る。
「私も、みんなもきっと。だからプロデューサーさんのやりやすいようにしてください」
「うん、もちろんそのつもり。最高のものを仕上げるために、ごめん、ちょっとだけ無理をお願い」
 告げて澄香は一冊の台本を掲げる。
「タイトルは『取り残された蒼き日々を』。この短編映画で海崎さんの魅力をばっちり引き出して見せる」
 抑えたロケ地は廃校。
 翌日昇朝日を夕陽に見立てて、撮影が行われた。
 昔ながらのセーラー服。木張りの床。薄汚れた窓から差し込む金色の光。
 振り返る少女は、亡霊のように儚く。しかし夢のように煌びやかで。
「私は、あなたにありがとうっていうために帰ってきたんだよ」
 そう小雪は告げた。
 内容は高校在学中に死んでしまった少女、と卒業生の物語。
 取り残される亡霊は幻覚か、それとも本当に彼女なのか。
 それは分からない。けれど皆彼女との別れに胸を痛め。しかし振り帰れば輝かしい思い出が背を推してくれる。
 そんな物語を目指して澄香はカメラを回した。
 そしてあっという間の二週間。準備期間は全て過ぎ去り本番間近。
 『イリス・レイバルド(aa0124)』はライブ内容の最終確認の後に『アイリス(aa0124hero001)』を交えディスペアと演出の勉強会をしている。
「演出ですか? 空中軌道の美しさとかは目を引きますよ」
 人見知りも頑張って抑えてディスペアメンバーと意見をよくかわしていた。
「ありがとうを伝える……新生ディスペアとして安定することじゃないでしょうか」
 そしてイリスはメンバーに飴を与える。いつもの妖精の蜜をキャンディにして大量に持ち込んでいたのだ。
「喉に優しく疲労に効く……そして味も保証するよ」
 アイリスが告げる。
「お姉ちゃんの持ちネタだしね」
 この日は実際のステージを使って本番同然の仮本番を行っていた。
 内容は、粗削りではあるが上々と呼べるほどに仕上がっただろう。
 『セバス=チャン(aa1420hero001)』が明日の流れについて再確認を終えると全員で円陣を組んだ。
「ディスペアの復活記念ライブだね」
 いのりが告げる。
「色々あったけど、くらーいあれそれは全部ぶっとばしちゃうくらい素敵なライブにしよう!」
 その言葉に全員が声を張り上げた。
 まるでお祭りのようで楽しかったが、それも押し寄せてくる緊張が無ければの事。
「ねぇ、いのりちゃん」
 梓が声をかける。
「本当に歌っていいの?」
 その手にはいのりが授けた楽譜『不死鳥の羽音~Rebirth~』が握られていて。
「うん、君たちにこそふさわしいと思うから」
 そう告げられると、クルシェも小雪も梓も、二週間前には考えられないくらい溌剌とした笑みを浮かべた。
 やっぱり歌は人を笑顔にするんだ。そう、いのりは思う。
 そんな一行を違った視線で見渡している少女が一人。イリスである。
 その目は愚神を見つめる時と同様、冷たく光っていた。
「お姉ちゃん……」
「気持ちはわかる、ガデンツァだね。しかし」
「警戒するに越したことはないよ」

第二章 ライブ開始!

 ライブ開始は十五時からであるが。会場は二時間早い十三時からである。
 ややお昼時を過ぎてから会場になだれ込む観客たちを真っ先に出迎えたのは食べ物や体の群れである。
 澄香といのりが頑張ってH.O.P.E.の食堂やら、今までタイアップ、スポンサーと協力を結ばせてもらった企業に協力してもらったのだ。
 もちろんアイリスジャムやそれを固めたキャンディーなども売られている。
 澄香のみかん屋台も盛況であり、蜜柑キャノンから作り出された霊力由来のフードは最近話題になっている。
 そんな会場の各所にアンケートコーナーが設置されており、ディスペアへの応援の声を募集している。
 それは彼女たちに内緒であるのだが。

「お前……本当に小雪なのか?」

 そんなアンケートスペースには人を寄せるためにモニターが設置されており、短編映画の予告編が流れている。
 そうなんとかこの短い時間で完成させた『取り残された蒼き日々を』である。
 その映画の中では謎めいた先輩ナラカによってのモノローグと共に映画の気になる部分だけ映し出されている。
 妹役のイリスが小雪を思って涙する場面、だとか。
 アルトの更衣室に突撃してしまった主人公が慌てふためく場面とか。
「この場面だけ長くないか!?」
 その予告編をメイクを受けながら見ていたアルトは驚きの声を上げる。
 下着姿がばっちり映ってしまっているではないか。顔の赤らめ具合も演技の枠をこえている。本気だ。
「ふあー、ナラカさん、可愛いですね」
 そんな予告編を眺めながらメイクを終えた蘿蔔がつぶやいた。彼女はリラックスしており、ゲームをピコピコとプレイしている。
 そんな蘿蔔の隣で、カゲリが代わりに最終チェックを行っていた。
「役目がとられて悲しいのではないかな?」
 そうナラカがレオンハルトに問いかけると、レオンハルトは肩を落として告げる。
「いや、今回の仕事は蘿蔔の面倒を見ている暇がないから助かったよ」
 そして観客たちの姿が続々と会場内に消えていく。モニター越しにそれを見て。
 澄香は告げるのだった。
「さぁ! みんな舞台上に移動するよ!」


   *   *

 舞台裏でエンジンを組むと、軽快な音楽が会場を見たす。ミストが吹き荒れ光による演出。
 これほどまでの大勢の前に出たことのない理夢琉は一瞬尻込みしたが。
「行ってこい」
 『アリュー(aa0783hero001)』がそう背中を押すと、笑顔で理夢琉は飛び出した。
 共に歩むクルシェの手を取って、二人は謳いながら飛び出す。
 歓声が上がった、目が眩むようなライトが二人に当った。理夢琉とクルシェは顔を見合わせ、そして歌声を重ねる。
「最初に登場するのは、私達メンバーで一番元気な二人だよ。クルシェ、理夢琉。トップバッターは任せたよ」
 澄香がエンジェルスビットを飛ばし、自身も空中を漂いながらそうメンバーを紹介していく。

―― 支えられて立ち上がる暗く揺れる瞳には
   大切な絆 無くした哀しみたゆたう

 理夢琉はトレーニング時代を思い出す。
 赤原が駆けつけてくれ、3日みっちりと教え込まれたその声は凛と響き渡る。
 一瞬驚いたようなクルシェの表情。
 その生量に見合う声響かせ力強く、希望を謳う。


―― 止まってしまった心に 火を灯したい
   誰かの光で救われた心

 二人は拳を突き上げた。
 
―― 起爆剤にして

 その瞬間証明が会場全体を照らす、明るくなった会場全体からアイドルたちが登場する。
 たとえばステージ中央から
 『天城 稜(aa0314)』と小雪が手を繋いで会談を下りていく。
 『リリア フォーゲル(aa0314hero001)』は舞台袖からそれを見送った。
 
―― さぁ歌いだそう 想いを声にのせて
   辛い記憶に閉ざしてしまうその声が
   途切れそうなら 声重ね手をさしのべるから

 イリスとアイリスはその翼で会場の後ろから滑空して。金色の光を振りまくと、甘い香りが観客を包む。
 たとえば蘿蔔は梓と観客席の間を走って。
 観客の手にタッチしたり、握手したり。
 全員が会場に集合する。
 その様を澄香は名前を呼びながら見送った。


―― 届け思い 空へ 確かにそこに在った大切な思い出
   絆結び 明日へ 隣にある温もり信じて立つ勇気応援するよ

 ナラカとアルトも会場最奥から。しかし二人が駆け抜けた場所は証明によって色が変わる。浄化の光、暁の光。
 そして声を重ねて理夢琉とクルシェの歌に合流した。

―― さぁ手を結んだら 一緒に歌いたい あなたと
   そう歌声は重なって 希望の旋律奏でるの みんな

 次いで会場が暗くなり、舞台の中心だけが淡く金色に輝いた。
 その闇に乗じて理夢琉とクルシェは退場し、イリスとアイリスが沸き立つように声を重ねる。
 アルトが指を走らせる電子ピアノが大きくライトアップされた、彼女はテクノを織り交ぜた衣装を光らせながら鍵盤を強くたたく、その瞬間。
 そして二人は会場の上を敷かれた霊力の足場を滑るように舞い踊る。
 それは共鳴と解除を織り込んだ水上スケートのような滑らかな軌道のダンス。
 空へ飛び立つイリスをアイリスは広い、また空へと放つ。
 二人はぴったり同じ位相で重なって。
 そして世界に金色の明りを灯していく。
 その灯りの世界に梓は降り立った。
 流れる曲は廻リ音。
 まどろみと、ルネ。アネットと小夜子。それは梓にとって遠い事件。
 けれど決して無視できない事件。
 十波町をめぐる一連の事件を、イリスは独自に解釈して『十波町』それに時間が流れるという『四季』を組み込んだ作品だ。
 それは思い出を繋ぐ鎮魂歌。
 その曲はまどろみの事件と関わりつつも、そのまどろみに飲まれることなく傍観者であり続けた。イリスだからこそ歌える歌だったのだろう。

――というわけで一緒に歌ってみないかい?
 そう梓がアイリスから話を持ちかけられた時、梓は一緒に謳うことを渋った。
「アンサーソングを作ってくれてもいいですよ。情報は伝えていくうちに変化するものですから」
――少々美しい面を強調しているかもしれないが……まぁ、確かに伝えたよ。
 ただ、自分も逃げたくない思いがあった、だからこの歌を一緒に謳うことを心に決めた。

(瑠音……アネット)

 二人の姿を瞼の裏に浮かべながら梓はいつものように歌い。ふるまう。
 まだライブは始まったばかりだ、ここからもっと盛り上がらなければいけない。
 そう梓は頷き前を向く。

第三章 物語

 演目が昇華されライブ中盤戦。
 あまりに長いライブなので休憩時間が設けられた。
 その休憩時間の間は会場全体でラジオ風にメンバー紹介の続きが澄香によって行われる、ゲストに出演するアイドルを呼んで。
 たとえばアルト。
「あたし……休憩時間のはずじゃ」
 基本的にMCには割り当てられていないと聞かされていたアルトだったが。
 最近人気も出てきたという事でトップバッターに指名された。
「そう言えば最近恋愛関係はどうなんですか?」
 澄香がマイクを向けるとアルトは顔を真っ赤にして明後日の方向を向く。
「そ、それは、アイドルだから! あの……仕事が恋人っていうか……」
 そんなアルトと小雪が後退すると、思わずスマホのディスプレイを見てしまう。
(……あいつらは、上手くやってるだろうか、……ま、隊長さんいるし心配いらねーか)
 小雪の紹介が済むと、この日のために取った短編映画が上映される。
 その流れを汲んでステージが再開された。
 ステージに雪が降る。ただそれは光の幻想。
 舞い散るような銀色のフレークは指ではじけば消える、現代技術のたまものである。
 その雪の中稜と小雪は和服衣装で登場した。
 ステージ中央の大きなスクリーンでは血まみれの稜が倒れている。
 それに手を差し伸べるのは小雪。ふと光が走り、そして画面は走馬灯のように沢山の思い出で彩られた。
 リリアの奏でる旋律が高く空に伸びる。

―― 悲しみで歪んだゆめ 繰り返す不条理な悪意
   闇がかき消してく日常に 削ぎおとされていく甘さ
   信じた人の声『残響』 進めば消えてく『想い』

 稜の歌声に小雪は嘆き悲しむような音を重ねる。

―― 生きたいって細胞が叫ぶ 闇を掻き分けた手
   真っ赤に染まっていくけど 
   何度だって君の笑顔を見たいから 後悔なんてない

 画面の向こうでは稜と小雪が手を繋ぎ、背を向けている様子が映し出されていた。強い線の先が暗闇から徐々に明るみを帯びていく。

―― 無知の連鎖が憎悪を愛した 正義なんてないこの世界で
   偽りない確かなもの 忘れないで感じること
   この脈打つ想いを 信じて…… 

 悲しい余韻を残して場が静まりかえっていく、少しのざわめき。
 画面の向こうの二人は振り返り、切なげに微笑んで歩んでいく。
 そんな姿を観客は全員が見送ることになった。
 そこから繋がるアルトの曲『ヴァルツァー・デ・ブレンネン』。
 踊り子の様な袖に長い帯を垂らした。肌の露出が多い衣服。
 民族的にて神聖な雰囲気を持つその衣装のままアルトは会場を温め直す炎として踊りだす。
 最初はインストュルメンタルバージョン。
 次いで爆発するようにアップテンポに。舞い上がる焔をイメージし激しく踊る
 次いで会場は一転、舞台が詳細に見えるように明るくなる。
 謳いながら現れるのは蘿蔔と。クルシェ、そして梓である。
 二人はせり上がる円柱の柱の上で体制を崩すことなく『LOCALMAGICAL』。
 鮮烈な電子音が特徴で、いわゆる電波曲。
 作詞作曲レオンハルト。因みに魔法少女増加計画としてクラリスに杭を突きつけられながら作った。
「パイルバンカーの杭って……打ち出さなくても刺さるんだな」
 そう舞台裏でレオンハルトが悪寒に震える。
 そのダンス映像が会場に設置されたあらゆるモニターに映し出される。
 アイドル一人一人が映っていて、ちょっとだけアレンジが入ってたりする。
 振付が簡単なので観客の体も動いていた。
「皆さんも、是非一緒に歌って踊ってくださいね」
 その曲のCメロにさしかかろうとするとき。
 画面上にナラカが映った。その手の刃で映像を切り捨てると、その裏から現れたのは蘿蔔チャレンジの文字。
「えっ、私知りません……何も聞いててません!」
 そう蘿蔔がモニターをうつ仕草をすると、その文字が割れてクルシェチャレンジに変わった。
「もっときいてねぇよ!」
 戸惑いの声を上げるクルシェ。
「初めてあった時のこと、覚えてる?」
「え! 平然とつなげようとしないで、ちょっと待って」
「あの時のリベンジをさせてあげるじぇ! どちらが早くゴールできるか勝負です!」
 その様子をみてナラカが澄香の使っていたゴンドラの上に乗り、拡声器を使って話しだす。
「ルールは簡単さ中央ステージ・通路いっぱいの障害物を超え、中央の小ステージを目指す、ただそれだけだ。しかし、試練はこの私が考えた、愛するこらよ。この私からの挑戦状を……」
 そんなナラカの長くなりそうな話を、拡声器の電源をぶっこぬいてとめるカゲリである。
「やるしかねぇのか!」
 画面に映し出されるカウントダウン。観客も一緒になってゼロをコールすると二人は共鳴して走り出した。
 壁を駆け抜け、円柱の柱が高速で突き上げる一体を走り抜ける。 
 突如抜ける床。空中にぶら下がったブランコに片手をひっかけると蘿蔔は堕ち行くクルシェの手を取った。
「あ、ありが……」
 その時ぶちりとブランコのひもが千切れ、空中に放りだされる二人。
「きゃーーーーー」
「おおおおお、あたし聞いてないぞこんなの!」
 クルシェはスパナを具現化。それにからめて蘿蔔を投げ飛ばすと、自身はそのスパナをヘリに突っかけて壁を登った。
 だが二人を次なる危機が待ち受ける。
 遠くにビコンと現れる澄香ちゃん人形。
 その人形の周囲に設置された銃座から豆鉄砲が発射される。
「きゃー、クーちゃーん。助けてくだしゃぁ~」
「クーちゃん!」
 突拍子もなく愛称で呼ばれたために足を滑らせて転ぶクルシェ。パンツは見えないようになっているが、スカートで転ぶのは恥ずかしい。
 顔を真っ赤にしたクルシェだが、とっさに地面にスパナを叩きつけると、ステージの床材がめくれ、畳返しのように壁になった。
「クーちゃん、大丈夫です?」
「大丈夫だよ、葡萄ちゃん」
「葡萄!?」
「いや、ごめん、一度言ってみたかっただけだよ、蘿蔔」
 名前を呼びあって照れ笑いを浮かべる少女たち。
 その後、人形を打ち抜くと澄香が現れ。
「私の人形に何してくれてんじゃー」
 とパイを投げられたり。
 イリスとアイリスのハニートラップに引っかかって担がれ、スタート地点に戻されたりした。
「応援ありがとうございました! クルシェちゃんもありがとう。大変だったけど楽しかったねぇ」
 それでも最後は、クルシェが蘿蔔を投げるという荒業でゴールして、勝負とはなんだったのか? という形で収まった。
「いや、このあと、アタシのダンスパフォーマンスが」
 その直後流れ出したのは『不死鳥の羽音~Rebirth~』。
「わー、休憩する暇がない」
 クルシェが中央に舞い踊りながら移動する。その間歌を担当するのは梓と、小雪。
 そして会場を飛び回る一機のロボット。Pygmalionであるが、その背に足を固定して、鍵盤をかき鳴らすのがアルトである。
 リズムに体を揺らしながらメンバー全員を眺めている。
 クルシェのダンスは熱を増していく。
 まるで何かと戦っているかのようだ。
 空中で回転。そのまま滑り込んで倒れる。
 その手を小雪がとった。
 傷つき、疲れ果て、翼を折られた悲しいとり。
 それがディスペアを暗示しているようで、観客の中に戸惑いの表情が伝播していく。
 そんな中。いつの間にかゴンドラで会場中心に移動していた梓。
 不死鳥の羽音はアルトのピアノソロへと移行。切ない響きを混ぜる。
「ねぇ、クルシェちゃん。私達は最初。ディスペアを終えるしかないって思ってたよね」
 小雪がステージの前に出て身振り手振りの演技を梓の声に重ねる。
「よく、ファンがいてこそのアイドルだっていうでしょ?
 でも、私たいほどそのことを噛みしめてるアイドルはいないと思うの」
 祈るように手を重ね、ステップは軽やかに床を滑るように。
 はだしの浸り浸りという音が聞こえてくる気がするほどに、小雪の演技は静謐だった。
「だって、あんなことがあっても、私たちを待っていてくれるファンがいる」
 クルシェは立ち上がろうともがく。けれど足を傷つけていて動けない。
「私達を助けてくれる人がいる」
 左右から飛び出したのはナラカとイリス。金色と浄化の炎を纏わせる鳥がライトエフェクトをほとばしらせてクルシェを包んだ。
 その周囲を、量産型Pygmalionと共にアルトが走る。
「もう、みんなに沢山の力。もらってるよ」
 小雪の涙が大きくスクリーンに映し出された。それが燃えたつような輝きを放ちそして。
「みんながいるから、私たちはここに立っていられる」
 そして音楽は盛り上がりを見せる。
 にやりと笑うアルト。
「ありったけのありがとう その全てを今ここに!」
 クルシェが翼を背に、回転しながらゆっくりと上昇を始める。それは会場の天井まで上って、光を放ちながら小さくなる、その光がパッと瞬いたかと思うと。
 会場は徐々に暗くなる。
 
第四章 閉幕

 次いでステージにぽつぽつと灯りが灯る。
 その灯りはアイドルたち一人一人が携える光。希望。
 その光を抱え、祈るように佇む梓を見てナラカはおもう。
(止処梓……ああ、あの時の少女か)
 思えば幾度かその名を耳にする機会はあった、だが直接見えるのはこれが二度目。
(然し――ああ、良い顔だ。今なら汝の顔が良く見える) 
 その静謐に祈る表情にナラカは力強さを見た。
(苦境にあって乗り越えようと奮起する様は何時見ても魅せられる。
 ならば良し、汝が祈りに応える事に是非もな)
 代わりに、この会場に滲む邪悪を感じてナラカは顔をあげた。
「この音に感謝を。素敵な仲間たち共に、此処に立てたことに」
 澄香が告げる、我に返るナラカ。
 そして希望の音の大合唱を響かせる。
 その最中クラリスが語り手を務めた。
「さあ、此処で皆様から頂いた応援コメントをご紹介させて頂きます」
 それは会場全体で集めていたディスペアへの応援メッセージ
「HN.絶望信者さんから、ディスペアがなくならなくて本当にうれしい、あの時とは違っちゃったかもしれないけど。わたし……」
 歌声を背景に読み上げられている言葉の数々は、会場全体を満たしていく、会場が一体となる、というのはこういうことを言うのだろう。
「さて、素晴らしいお言葉を頂きました。梓様。如何でしょう?」
 クラリスが告げると、全員が手を繋いで会場全体にありがとうと頭を下げる。
「これにて私たちの舞台は閉幕です。今日は本当にありがとうございました」
 そう光が落ちていく。鳴り止まない歓声。それは次第にアンコールの言葉に置き換わっていく。
 メンバーを呼ぶ声がする。
 呼んでいる。みんなを、観客が求めている。
 しかし、ナラカはそして澄香は観客席に続く通路にいた。
 走ってきたのだろう、肩を上下に揺らしてその影をナラカは見据える。
「澄香よ、この場を借りて謝っておこう」
 蘿蔔が追い付いてきた、その小さな体を隠すようにカゲリが前にでてナラカと並び立つ。
「嘗てガデンツァを前にして汝に協力する意志を固めたと告げたものだが――あれは嘘になってしまうな。
 我が面前で非道を尽くしたが仇となったな。それがなくば、まだ子等に任せていたものを。
 協力ではない、彼奴は何れ我が手ずから滅却する。
 我が浄化の焔を以て、霊の一片も残さず祓ってくれよう」

「ほう」

 振り返ったのは水晶の乙女、ガデンツァ。
「我に宣戦布告とは、高々焼き鳥風情がよく言ったものじゃな」
 その瞳がぎらつくとナラカとカゲリは共鳴する。

――これは我が裁定だ。何を言おうが、そして何があろうが覆らぬよ。

「じゃが、今日は分が悪そうじゃ。少し、表の連中をからかって帰るとしよう」
 そうガデンツァが歩き去ると、まるで押し込められていたようにアンコールの声が戻ってくる。
「ナラカちゃん、いこう」
 そう澄香が二人の手を引いた。
「いまは、みんなの希望になる方が先だよ」
 次いで澄香は観客席裏手からブルームフレアを放ちつつ行進。
 星を振りまきながらマジックブルームで飛んでステージまで。
 その中央ではいのりが待っていて、澄香を受け止めるとマイクを手渡して二人の歌を謳う。
 アンコールはまず。太陽の音と月の音を。全員でパート分けして歌い上げる。
 いのりと澄香、このライブの功労者を中心に。
 そして最後に主役を前に据えて。『苛烈』を全員で謳う。
 ライブは無事、大成功と言えただろう。
「お疲れさまです! これ、ディスペアをイメージして作ったのです」
 そうライブが終わると蘿蔔はアイスを配って回った。カゲリの姿が見えればライブのテンションのまま抱き着く。
「酷い目にあいました……」
 そう震える蘿蔔の頭にカゲリは手を乗せる。
「これは誰かに撫でてもらわないと元気でないかも。ちらっちらっ」
「もうしてるだろ」
 そうカゲリは微笑んだ。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
  • トップアイドル!
    小詩 いのりaa1420

重体一覧

参加者

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
    人間|17才|女性|生命
  • 希望の音~ルネ~
    クラリス・ミカaa0010hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 惑いの蒼
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