本部

おもちもちもち

ガンマ

形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
25人 / 1~25人
英雄
25人 / 0~25人
報酬
寸志
相談期間
4日
完成日
2018/01/23 18:30

掲示板

オープニング

●H.O.P.E.某会議室

 どーん。

 そんな擬音が正に当てはまる。
 集ったエージェントの目の前に、うずたかく積み上げられた大量のダンボール。

「皆様、お集まり頂きありがとうございます」
 一同へニコリと微笑んだのは、H.O.P.E.所属オペレーターの綾羽 瑠歌だった。一礼の後、「それではミッションについて説明させて頂きます」と良く通る声で話し始める。
「プリセンサーが大量の従魔発生を予知しました。その従魔というのが――こちらです」
 そう言って瑠歌が徐にダンボールから取り出したのは、

 餅。もち。モチ。ライスケーキ。
 スーパーなどでよく見かける、包装された切り餅だ。
 あの、レンジでチンしたり茹でたりオーブンで焼いたりして食べるやつだ。

「この通り、今でこそただの切り餅ですが……プリセンサーの予報によると、これら全てに従魔が憑依してしまう、という未来が待っているのです」
 どどん。大量のダンボール、その中に押し込まれた切り餅達。これら全てに従魔が憑依するとなると……相当大変なことになりそうだ。

 では、エージェント達はどうすればいいのか。

「従魔が発生する前に、憑依する物をなくしてしまえばこの事件は回避できます。つまり――これらを一つ残らず食べつくすこと。それが、今回の皆様のミッションでございます。
 廃棄については、アレです。“食べ物を粗末にしてはいけません”ということなのでNGです」

 まあ、一月だし、季節っちゃ季節モノ。正月過ぎたけど。
 ちなみに、オーブンやレンジ、コンロや鍋などは会議室に設置されているものを自由に使っていいとのことだ。お茶などの飲み物もある。味付けについても、砂糖醤油、きなこ、アンコ、海苔など、スタンダードなものはH.O.P.E.の方で用意済みである。もちろん、持ち込みについてもOKだ。でもお持ち帰りはNGだ。
 そういえば……モチを喉に詰まらせた場合はどうなるのか?
「安心しやがれッ!!!」
 バーン、ドアを開けて会長の第二英雄ヴィルヘルムが飛び込んできた。
「モチ詰まったら俺様がッ! タイキックしてやっからッ!! 安心してくれよなッッッ!!!」
 めっちゃキックの素振りしてる。たぶん年末の人気番組みたなコイツ。というか全く安心できない。
「ええと。詰まらせないように、ゆっくり食べて下さいね……?」
 瑠歌が苦笑をして一同を見渡した。
 さあ、食事の前にちゃんと石鹸で手を洗ったら――そこはかとないお正月気分と共に任務開始である。

解説

●目標
 餅を食べ尽くせ!

●登場
『従魔が憑依する未来が待っている切り餅』*大量
 ただの切り餅。めちゃくちゃ大量にあります。
※食べつくすことがミッションなので、お持ち帰りしちゃ駄目です。

綾羽 瑠歌
 H.O.P.E.所属オペレーター。
 きなことぜんざい派。ちまちま食べます。正月太りがちょっと気になるお年頃。

ヴィルヘルム
 H.O.P.E.会長ジャスティン・バートレットの第二英雄。タイキック。
 喉に餅がつまったら蹴ってくれます。尻を。
 餅を食べる文化をまだ良く分かっていない。

アマデウス・ヴィシャス
 会長の第一英雄。
 ヴィルヘルムを回収しに来る。説得したら餅を食べるのを手伝ってくれるかもしれない。
 砂糖醤油派。

●場所
 H.O.P.E.東京海上支部、広い会議室。
 電子レンジ、オーブントースター、コンロ、お鍋など、餅の調理アイテムは用意済み。
 その他、水、お箸、お茶、タイマー、調味料なども一通りある。
 調理器具や材料の持参もOK。

※注意※
 「他の人と絡む」という一文のみ、名前だけを記載して「この人と絡む」という一文のみのプレイングは採用困難です。
『具体的』に『誰とどう絡むか』を『お互いに』描写して下さいますようお願い申し上げます。
 相互の描写に矛盾などがあった場合はマスタリング対象となります。(事前打ち合わせしておくことをオススメします)
 リプレイの文字数の都合上、やることや絡む人を増やして登場シーンを増やしても描写文字数は増えません。
 一つのシーン・特定の相手に行動を絞ったプレイングですと、描写の濃度が上がります。ショットガンよりもスナイパーライフル。

リプレイ

●あけおめ

「餅だ! これが餅山と言うものか!」

 ウィンター ニックス(aa1482hero002)は、うずたかく積まれたダンボールイン餅に圧倒されていた。
「そんたこと言わないッスよ兄さん」
 齶田 米衛門(aa1482)がすぐさまフォローする。しかしながらこの量、「餅が食べたい」というラフ気持ちで来たはいいが、想像以上だ。餅山とも言いたくなる。
「こないようさん食べられますのかいな?」
 八十島 文菜(aa0121hero002)がダンボールを見上げて首を傾げる。すると快活に言い切るのはアンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)だ。
「食べない訳にはいかないし、頑張ろう!」
「お餅いっぱい食べればいいんだね! 任せといてー!」
 御代 つくし(aa0657)の士気も高い。その隣ではカスカ(aa0657hero002)が、「……きなこ……」と目をキラキラ輝かせている。
「ん、おもちが、たくさん、食べられると聞いて……」
 ここにも目を輝かせる者が。エミル・ハイドレンジア(aa0425)が呟くと、傍らに控えるギール・ガングリフ(aa0425hero001)が眉根を寄せた。
「エミルよ、餅は正月にも、十二分に食べたと思うのだが?」
「ん、従魔発生防止の為だから、仕方ないね。仕方ない」

 そう、この餅山、放置しておくと従魔が憑依してしまうのだ!

「お肉の次は、お餅食べ放題?」
「……今回は仕事みたいだね」
 マオ・キムリック(aa3951)は首を傾げ、レイルース(aa3951hero001)は餅山を見上げていた。
「これ全部食べるの……?」
 マオが目をぱちくりさせる。「すごい量だね」とレイルースも同意だ。
「でも、従魔になったら大変だし……よし、がんばろ!」
 意気込むマオ。
 そんな少女とは対照的に、バルタサール・デル・レイ(aa4199)は辟易とした様子だ。
「……だから何故、食べ物が従魔のターゲットになるんだ……」
「ま、日本の伝統料理(?)を食べられるうえに、報酬も貰えるオトクな依頼じゃない?」
 答えたのは紫苑(aa4199hero001)だ。
「さ、どうやって食べよっか。おなか膨れそうだし、小さくカットして、色んな食べ方を試してみる? しめは、お汁粉にしよう」
 なんて言いながら、紫苑は皆の食べ方を見学すべくフラリと歩き出してしまった。取り残されるバルタサール。
「やれやれ。ある意味、厄介なことになったな」
「……むぅ、持ち帰れないのが……残念」
 麻生 遊夜(aa0452)が肩を竦め、ユフォアリーヤ(aa0452hero001)がションモリと耳を垂れる。持ち帰ることができたなら、“子供達”二八人分を喜んで回収したのだが。
「ま、タダで食えるなら悪くはないか」
「……ん、いっぱい食べる」
 ユフォアリーヤが尾を揺らす。子供たちの分は、別のお土産で許してもらおう。
「お餅かぁ……まだ食べてないなぁ……」
 ダンボールから一袋取り出し、桜小路 國光(aa4046)。メテオバイザー(aa4046hero001)と共に依頼報告の通りがかりに見ていたら、「空きがあるからどうぞ」と瑠歌に招かれたのだ……。
「今年の頭は働き詰めで祝えなかったもんなァ……ちょっと遅い正月とでも思おうぜ」
 コガネ(aa0298hero001)は隣の鐘 梨李(aa0298)を見やる。彼女は唇を引き結んだまま、腹の虫で返事をした。
「こんな怪我、お餅食べてすぐ治してやるんだから!」
「お料理するならアタシも手伝うわよ!」
 世良 杏奈(aa3447)は重体の身なれど、溌剌と元気だ。ルナ(aa3447hero001)が早速、ダンボールから餅を取り出す。
「美味しくいただきましょう♪」
 笹山平介(aa0342)もそれに続く。傍らではゼム ロバート(aa0342hero002)が、誓約者の手にあるモノに片眉を上げていた。
「……餅」
 決して言葉にしないが、ゼムはそれがどんな食べ物か知らない。だからこそ平介は、英雄に餅を教えてあげるために連れてきたのだ。
「……おもち?」
 マイヤ サーア(aa1445hero001)も餅というモノに馴染みのない英雄の一人。迫間 央(aa1445)が手に取ったものをしげしげと眺めている。
「日本の正月の風習というか?」
 など、央は解説しつつ。折角の機会だ、美味しく頂こう。
「くつろいだほうが、お餅の消費もはかどると思います」
 一方、白虎の耳と尾を生やした霙(aa3139)は、会議室片隅に設けられたホットカーペットとコタツで万全のヌックヌクであった。彼女と共にコタツムリになった墨色(aa3139hero001)もコクコク頷く。これらは彼女達が導入を強く希望したものである。なお、「はかどるから」との理由は後付けである。本当は自分達がヌクヌクしたいだけである。ビバ炬燵。

 さてさて、そんな感じで、新年の依頼が餅と共に幕を開ける。



●エージェントVS餅01
「おもち~おもち~おもち~たべほうだいもふ~♪ たくさんたべるもふ~♪」
 尻尾をふりふり、むすび(aa0054hero002)はご機嫌な様子で両手いっぱいに切り餅の袋を抱えていた。「はいもふ!」と多々良 灯(aa0054)に手渡せば、「任せとけ」と袖まくりした灯が早速、餅の調理に入った。
「もふはきなことあんこでたべるもふ~。きなこはおさとうたっぷりでおねがいしますもふ」
「りょーかい」
 むすびのキラキラした眼差しに見守られつつ、灯は手際よく用意をしてゆく。網で焼いた餅と、フライパンでつきたて風に調理した餅、食べ比べ式だ。きなこは三温糖で甘くするのが多々良家流。あんこはつぶあんとこしあんで、召し上がれ。
「切り餅がまるでつきたてもふ~相棒魔法使いもふ~? おもちおいしいもふ~♪」
 おもちもちもち。あつあつのおもちをフーフーしながら、あま~いきなこをいっぱいつけたそれを、むすびは笑顔で頬張ってゆく。美味しいという感情は、ぴこぴこゆれる耳とぱたぱた振る尻尾が何よりも雄弁に語っていた。
「……」
 隣に座った灯は、そんな英雄をじっと見ている。
(もちもちのむすびが、おもちをもちもち食べまくっている……まるで共食い、とてもかわいい)
 この感情、デジャビュ――そうだ、わんこがおいしそう~にごはん食べてる時のアレだ。
 さて、フフッとしたところで灯は調理再開だ。立ち上がった彼に、むすびが首を傾げる。
「こんどは何をつくるもふ~?」
「甘いものばかりではすぐに箸が止まってしまうからな。……もんじゃの材料を買って来たんだ」
 餅を一気に大量消費するなら溶かすに限る。というわけで、餅明太チーズもんじゃを作るのだ。これまた手際が良い。
「もんじゃも良いにおいもふね~」
 まもなくして漂ってくるいい香りに、むすびもヨダレがついジュルリ。
「俺用のは激辛辛子明太子! この調味液が格別に美味くてな……」
 灯が自分用に取り分けたものは真っ赤だった。湯気を嗅ぐと粘膜をやられそうで、むすびはそっとそれをスルーしつつ「もふも食べるもふ~」と辛くしてない餅もんじゃをねだるのだった。
「これは炭酸が飲みたくなる味……。あ、綾羽さんヴィルヘルムさんもよかったら」
 舌鼓を打ちつつ、灯は「粉モノは皆で食べるとより美味しいです」と周りの皆を手招くのだった。


「おもちもっちー」
 加賀谷 ゆら(aa0651)は鼻歌まじりに切り餅を皿に並べている。
「焼かないのか?」
 その様子を見守るシド (aa0651hero001)が心配そうにそう尋ねる。彼女は得意気に答えた。
「あら。私を信じなさいって。お正月にお餅をたくさん食べてて飽きちゃってても大丈夫なように」
「まあ、お前の料理の腕は確かなのは認めるがな。……俺は昨日から仕込んでおいた餡子を持って来たぞ」
 タッパーに詰めていた特性餡子。小豆からこだわりました。シドは和菓子作りが趣味なのだ――が、その手腕にはゆらも感嘆である。
「シド……ついに餡子を作るまでになったのね……!」
「ふ……今年あたり甘味屋でも開くか」
 さて、そんな感じで会話も弾ませつつ、手は休めず。
 ゆらは餅の上にピザソースやウインナー、チーズなどをふんだんに乗せて、餅ピザをドドンと作成。シドはぜんざいなど餡子系の餅料理を作り、ゆらと共に周りの者へ声をかけた。
「シド、あんたお餅食べてないじゃない?」
 仲間に振舞いつつ、時折自分も餅ピザを頬張りつつ、ゆらは割烹着姿でせっせと皆の世話をしている英雄を見やった。
「ん? いや、俺はどっちかというと作る専門だからな。……食べたことはない」
 割烹着と三角巾を着こなした美貌の青年は麗しく微笑んだ。気高き奉仕の精神である。が。
「ダメじゃん! お餅しっかり食べないと!」
 そんな美青年に全く容赦しないゆら。特性の餅ピザをガッと彼の口に捻じ込む。だって餅を食べることが任務なんだし!
「むぐっ!? ま、待て! お前、そんなに詰め込んだら苦し…… ウグッ!」

 デデーン、シド、タイキックー。

(餅吐く前に、お前のタイキックなんぞ受けたら死んでしまう!!)
 颯爽と駆け付け身構えるヴィルヘルムに、シドは必死にそう訴えたいが、喉に餅が詰まって声が出ない。ヴィルヘルムがニッと笑んだ。
「今助けてやるからなッ!」
(待て、待つんだ話せば分か――)

 スパーン。

「……そういやヴィルヘルムさんが喉詰まらせたら、タイキックは誰がやるんだろうな?」
 逆襲にタイキックとかあるんだろうか? 早速聞こえた打撃音を遠巻きに、遊夜は愛用の七輪とこだわりの黒炭とオガ炭を使って餅を焼いていた。
「うむ、こんなもんだろう」
 うちわで火力調整しつつ、遊夜はこうばしい香りが漂う餅を見る。
「……あ、膨らんできた」
 隣で見守るユフォアリーヤはワクワクしていた。
 良い具合に焼けたら、お皿に盛って、きなこや砂糖醤油、チーズ海苔巻き……だけでなく、フライパンで焦がしバター醤油で焼いて海苔を巻いたものも作って、さあ頂きます。
「意外と色んな食い方があるんだな……」
「……ん、あれ美味しそう…ボクらもやろう?」
 周囲を見渡せばたくさんのアイデア。おすそわけして貰ったり、調理の場を見せて貰ったり、食べる以外にも堪能する。

「うわぁああ! ちゃんと餅だ……! ドブの臭いもしないし、焦げてもないし! 命を削らない餅だぁああ!」
 雨宮 葵(aa4783)は仲間達からお裾分けてもらった餅料理に、ハイテンションで頭をブンブン振っていた。(説明しよう! セキセイインコは嬉しい時に頭を上下に振るのである!)
 そんな葵の隣、燐(aa4783hero001)は溜息のように呟いた。
「ちょっと、食べ物で……あたっただけで大げさな」
「あれをちょっとって言える燐はおかしいぃ!」
 説明しよう、此度はテレサの殺人料理で重体になった後の依頼なのである。シャバのメシは最高だぜ。喜びのままに葵はシド作のぜんざいを掻っ込んだ。が。
「ふぐっ!」
 案の定である。掻っ込むからである。
「タイキック一名……お願い」
 スッとヴィルヘルムへ振り返る燐。「任せろ!」と駆け付けた彼のタイキックが葵の尻にスパーンである。
「ぐふぅぉ!」
 タイキックのおかげで餅を喉に詰まらせずにすみました!(東京都一六歳女性)

「……ん、お疲れ様……これ、食べる?」
 一仕事していい笑顔のヴィルヘルムに、ユフォアリーヤがきなこ餅を差し出した。
「食う!」
 二つ返事で、餅を頬張るヴィルヘルム。ウメーッと笑う彼に、遊夜も相好を崩した。
「上手く焼けたんでな、せっかくだから食ってかないか? この時期は餅を食べるものだ、どんどん食べると良い」
「……ん、ユーヤのオススメは、焦がしバター醤油だって……海苔の風味と合わさって、美味い」
 夫妻のお誘いに、ヴィルヘルムは喜んでお呼ばれされる。そして夫妻が与えた餅のエネルギーで、彼はまたタイキックの旅(?)に出るのだ……「がんばってね」と夫婦は笑顔で彼を送り出した。(止めはしないのだ!)

「何で尻にタイキック!? 喉に関係なくない!?」
 一方、コトナキをゲットした葵はグエーと咳き込んでいた。
「全く。私が喉詰まらせた人への正しい対処法をみせてあげるから!」
 そう言って、シュッシュとシャドーボクシングを始める葵。攻撃適正の英雄がドレッドノートと、こう見えて物理の申し子なのである。
 と、そんな時だ――偶然にも、シャドーボクシングの拳が通りかかったアマデウスの鎧にゴツンと当たる。
「あ! アマデウスさーん! 奇遇だね! 餅食べてないの? 食が進まないの? テンションひっくいよ!」
 小鳥のような元気よさと饒舌に、アマデウスが眉間にシワを寄せて返事をしようとした。が、先に声を発したのは燐である。
「餅が進まないのは、しょうがないよ……。もう、中年太りとか……気にするお年頃だからね?」
「え? アマデウスさん、そんなの気にしてたの?」
「ナイスミドルな、会長さんと比べられると……大変だよね……。いくつになってもかっこいい会長と、小太りな英雄は、ちょっと、ね?」
「あー……」
 アマデウスを置いてけぼりで突き進む話。コーナーで差をつけろ! なお悪気はない。
「ほう……ならば貴様らの食いっぷりを見れば私の枯れた食欲も戻るやもしれぬな……?」
 ゴゴゴ。二人の首根っこをムンズと掴むアマデウス。葵と燐は、このあとメチャクチャ餅食わされた。


「正月と言ったら餅なんだぜ! 烏兎ちゃんはお餅好きかな~?」
 虎噛 千颯(aa0123)はデレッとした笑顔で振り返った先には――……、白虎丸(aa0123hero001)がいた。
「……あれ?」
「……千颯……」
「あれ~? 烏兎ちゃんオッキクナッタネ……?」
「千颯、俺は白虎丸でござる……」
「ナンダカ声モ渋クテ低イネ……?」
「現実を見るでござる、あの子なら帰ったでござる……」
 重い表情で白虎丸が首を振った。千颯は真っ白になる――というのも、正月中は(まあいつも全力で甘やかしているが)目一杯甘やかそう、デートしよう、と娘をここに連れてきたのだが。
「ええと……」
 白虎丸は預かった伝言のメモ(女の子らしい可愛らしいメモ用紙と丸文字だ)を取り出した。
「ごほん。……『デートしようって言われたから、めいっぱいオシャレしてきたのに……お餅デートだなんて、パパのばか!』……とのことでござる」
 女の子というのはデリケートなのである。デートやシチュエーションによってオシャレも変わってくるのである。お気に入りのリップをしたって、お餅を食べたら落ちてしまう。歩けばヒラヒラ可愛いスカートも、座りっぱなしじゃ意味がない。そういうわけで、彼女は舞い上がっただけに怒ってしまったのだ。
「……」
 ズドーンと落ち込む千颯。部屋の隅で体育座りである。
「オトメゴコロというものは、難しいでござるな……」
 あんまりにも悲愴感が凄いので、流石の白虎丸も同情である。肩に手をポン……。
「ま、まあ、お餅でも食べて元気を出すでござるよ……! あの子の分まで一杯食べるでござる……!」
 なんとか相棒を元気づけようと、仲間達が調理した餅料理を持って来る白虎丸。
「うう……白虎ちゃん、このきなこ餅、なんだかしょっぱい味がする……」
 いっぱい食べるパパかっこいいだろ~! と娘にいい所を見せる予定だったのに。ぐすぐすめそめそ、千颯は涙の味がするお餅を噛み締めた。
「帰ったら、あの子にちゃんとゴメンナサイするでござるよ」
「ウッス……」
 ちゃんとデートしよう。帰ったらそう伝えて、許してもらおう……。


「砂糖……醤油……!」
 不知火あけび(aa4519hero001)は神妙な顔をした。
「我が家……いや我が一族の定番は磯辺焼き。焼いたお餅に醤油をかけ、海苔で巻く。かつて不良中年部の友達に、砂糖醤油なる存在を教わった時は、姫叔父と共に戦慄したよ……!」
「何だよその変な名前の部活。姫叔父はお前の兄貴分だったか?」
 英雄の異世界での記憶に、日暮仙寿(aa4519)は眉根を寄せた。
「昔試しにやってみたけど、お餅が甘いし砂糖がじゃりじゃりして違和感だったんだ」
 あけびがそう続ければ、仙寿は首を傾げる。
「きなこ餅やいちご大福は美味そうに食ってた癖に」
「きなこと餡子は別だよ! お菓子だからお餅が甘くてもOK! ……あれ、つまり砂糖醤油はお菓子?」
「うーん、磯辺焼きはどっちかっていうと飯だよな」
 俺の実家も磯部焼だなぁ、と仙寿。ではここで、砂糖醤油派との噂のアマデウスに真の食べ方(?)を教えて貰おうではないか。
「ふむ」
 騎士は片眉を上げた。
「まず……砂糖を醤油にしっかり溶かさねばならん」
「え! あっ……そっかー、だからジャリジャリしてたのかぁ……」
 初っ端から驚くあけびである。アマデウスは砂糖醤油を作ると、そこに餅を浸け、海苔で巻いた。
「こうしてみると、普通に磯部餅っぽいな」
 しげしげと仙寿はそれを眺めた。「好みでスライスチーズを挟むのもよいだろう」とアマデウスが頷く。ならばと、仙寿とあけびは砂糖醤油餅にチーズも挟んでいざ実食。

「「……!」」

 衝撃だった。
 チーズの塩っ気とまろやかさ、砂糖醤油の甘みと風味、そして海苔の香ばしさが、餅とベストマッチングしている! スライスチーズも餅の熱さでいい感じに柔らかく溶けて、舌触りもイイ!
 アマデウスはちょっと得意気な顔をして、ヴィルヘルムの見守りに戻ろうとした――が、あけびがそれを呼び止める。
「お礼に! お雑煮いかがですか!」

 ――昆布と鰹出汁の澄まし仕立て。白菜、椎茸、里芋、鶏肉入りで、風味付けに柚子の皮。お好みで一味も振って、召し上がれ。
「元の世界では自炊してたからね!」
 どうぞ、と男衆によそった雑煮を振舞うあけび。いただきます、と二人は手を合わせた。
「……悪くないな」
 仙寿が小さく呟く。家では使用人が食事を作る為、あけびの手料理が実は嬉しいのだ。アマデウスも「悪くない」と同じことを言う。二人とも、つまりは「美味しい」と言いたいのであった。


「おもち、いっぱい……食べていい、のか……?」
「料理は任せてくれ。何にする?」
 目を輝かせて着席している木陰 黎夜(aa0061)に、エプロン姿のアーテル・V・ノクス(aa0061hero001)がニコヤカに微笑んだ。
「きなこ……! それから……醤油とチーズで、海苔に、巻いたやつ、っ……!」
 即答する黎夜、それに微笑ましさを感じつつ、アーテルは早速調理を開始した。
「黎夜。作るから消費を頼む。俺は量が入らない」
「食べるの、任せて……アーテル……。おいしく、食べるから……」
 既にお箸を手に持ち、黎夜はそわそわしている。まもなく“注文品”が彼女の前に。華奢な体躯に反して、黎夜は運動部の男子中学生以上に食べるのだ。あつあつのおもちをふうふうして、ほっぺいっぱいに頬張って、幸せそうにもちもち食べている姿を見ていると、アーテルはついつい相好が崩れてしまうのである。作り甲斐があるものだ。
「詰まらせないでくれよ、黎夜。タイキックされるぞー」
「はっ…… も、もちろん……ゆっくり、食べる……」
「おかわりあるからな。……おいしい?」
「ん、おいしい……家にあるの、どうしよう、か……?」
「家にある分は少しずつ減らす。……そうそう、次は何を作ろうか? 思いついたものがあったら言ってくれ。一応、餅ピザとパンケーキとあられの用意はしてる」
「!! ……それで」
「OK、ちょっと待ってろ」
 玉ねぎ、大根、ネギは持参したのだ。ケチャップやチーズやらは用意されたものを使うとして。アーテルの手際は良い、薄切りにした餅をフライパンで蒸し焼きして、味付けとトッピングをして、さらに過熱すれば、餅ピザの出来上がりだ。
 同時進行でパンケーキも。小さく切った餅を溶けるまでレンジでチンして、薄力粉や砂糖等と混ぜて焼くのである。味付けはあんこなどでお好みに。
「すごい……」
 いつもながらの料理の腕に、黎夜は感嘆するばかりだ。更にそこへ、角切りにして揚げられたあられも加わったのである。


「たくさん食べられるように、工夫したい」
 こくり、と梨李は頷きを見せた。その姿はコガネと共に割烹着&三角巾である。
「よし……作るか」
 コガネも腕まくりだ。というわけで、二人は調理を開始する。
 梨李が作るのは揚げ餅だ。一口大に餅を切り、油をやや多めに敷いたフライパンで揚げ焼きにしていく。
「おすすめは、にんにく醤油……はちみつバターも捨てがたい……」
 しゅわーーー、と食欲をそそる揚げ物の音、こうばしい香り。ひっくり返せば、見るからに美味しそうなコンガリとした狐色。アツアツのうちに、きなこや青のりなど、お好きな味で召し上がれ。
 一方でコガネは雑煮を作っていた。すましで、角餅。具材は干し椎茸と大根でシンプルに。
「よーっし、できた。そっちは?」
 コガネが振り返れば、梨李が溢れそうなヨダレを我慢しながら親指を立てた。よしよし。ならば、割烹着を脱ぎ、席に着き、いざお待ちかねの実食タイム。
「……よし。それじゃ」
 目配せするコガネ。梨李が頷く。
「うん。今年も、よろしくね。いただきます」
 手を合わせた――いただきます。
「雑煮って、場所によって中身もつゆも全然違ってくるんだってな。他の地域はどんななんだろうな」
 自分で作った雑煮、齧った餅をみょーんと伸ばしつつ、コガネがもふもふ呟く。
「一度でいいから食べ比べとかしてみたいよなァ……」
 梨李は揚げ餅を頬張りながら横目にそんな英雄を見、それから会場を見渡した。様々な餅のレシピが、スタンダードなものからアイデアアレンジ系まで並んでおり、いいにおいで満ちている。見ているだけでも楽しいものだ。ダンボールの中身の餅も着々と減ってきている。流石に五十人で食べるのはナイスな人海戦術だ。
「……」
 と、もぐもぐ頬張りながら梨李がコガネの腕をつついた。
「ん、どうした梨李?」
「……」
「ああ、揚げ餅をお裾分けしたいって? 確かに、これならオヤツ感覚で食べやすそうだもんな」
「……」
「え? 自分の口は今食べるのに忙しいから呼び込みができないって?」
「……」
「だから金ちゃんがやってって? ……はぁ。しょうがないなぁ……」


「~~♪」
 杏奈のエプロン姿がとっても様になっているのは、彼女が本物の“奥様”だからか。お揃いのエプロン姿なルナと一緒に、楽しそうに調理をしている。
 十分ほど水に漬けた餅を、少量の水と共にラップで塞いでレンジでチンすれば、まるでつきたてのモチモチさ。ここからは各自、お好きな味付けで召し上がれ。
 そんなスタンダードレシピと共に、アレンジレシピも作成。餅を細長く切って、チーズと一緒にフライパンで焼いて、醤油と鰹節で味付けすれば……美味!
「さあさあ、どんどん召し上がれー。お酒もありますよ~」
 杏奈がそう声をかけ、ルナが並べた盃に銘酒「舞散桜」を注いでゆく。「お酒は二十歳からよっ」とキリッとした顔で言うが、外見年齢七歳が力説しても説得力がない。
 さてさて、餅料理と酒をふるまいつつ、杏奈とルナも餅を食べる。杏奈は海苔巻き醤油派、ルナはきなこ派である。もちもち、杏奈がつきたてのように調理した切り餅はまことに美味である。
「怪我してなきゃ私もタイキック要員になれるのにー」
「ならなくて良いわよ!?」
 みょーんと餅を伸ばしながら食べる杏奈に、秒でつっこむルナ。「そお?」と首を傾げて咥えた餅を伸ばしつつ……杏奈は、タイキックの餌食を探してウロウロしているヴィルヘルムを見守っていた。「よろしければ召し上がりませんかー」と、そんな彼に杏奈は朗らかに声をかける。お酒もあるのだ。ヴィルヘルムは美人に声をかけられてホイホイされた。


「そのままじゃあ、腹が早々に膨れちまって大量消費はできねェな……」
 夜城 黒塚(aa4625)はダンボールから持ってきた切り餅をどう調理するか考えていた。「クロ! 僕もお手伝いするー!」とその隣ではエクトル(aa4625hero001)が既にエプロン姿だ。
「んじゃおかきでも作るか。折角なら大量生産……同じ考えの奴がいればいいが……」
 見渡せば、ハッと目が合ったのはマオだ。ちょうど、あられを作ろうと餅を切ろうとしていた瞬間であった。
「……っ!」
 赤くした顔を伏せるマオ。その猫尻尾がピーンと立っていて、先端がちょっと前向きになっているのは――猫的な友好表現挨拶。人見知りだけれど「仲良くなりたいな」と尻尾が正直である。というわけでレイルースが仲介しつつ、一緒に米菓を作ることになったのである。

「これ……こんな感じで切ってもらえるかな?」
 レイルースが、餅を包丁で切り分けてマオに手本を見せる。
「わかったよ、まかせて!」
 しっかと頷いたマオはいざ餅を切らんとする、が、
「……待って、それじゃ指が切れちゃう」
 その危なっかしい手つきにすぐ止めに入る英雄。「包丁はこう……こっちは猫の手で……」と一つ一つ基礎を教えてゆく。

「エクトル、油使ってる傍には寄るなよ」
 黒塚組はマオ達とは対照的に、誓約者が保護者ポジション(?)である。エプロン姿の黒塚がカットした切り餅を油で揚げていくのを、エクトルはちゃんと言いつけを守って遠巻きから見守る。
「危ないからだめ……? じゃあ味付けでふりふりするのやるね!」
 エクトルはソワソワしている。ジップ式のビニール袋に、カレー粉やきなこや梅ざらめ。シェイク式以外にも表面に塗る用の醤油や、ディップ用のチーズまで用意してある。
「これなら茶でも啜りながら溶かすように食えるだろ」
 きつね色にコンガリあがった餅の油をしっかり切りつつ、粗熱を取る黒塚の手際は見事なものだ。冷めたものからエクトルがせっせと味付けをしてゆく。それはもうめっちゃノリノリで袋に入れてシェイクである。
「お料理上手で、なんだかお母さんみたい!」
 シャカシャカしながらエクトルがにぱっと笑う。「あ?」と黒塚は片眉を上げた。
「そりゃ見た目によらず……ってことか? まあ、これも仕事だからな、俺が効率がいいと思った方法で片付けるまでさ」
「食べていい? 食べていい?」
「あー食え、限界まで食え、食うのが仕事だ」
「いただきます!」
 いい汗かいた後のお餅は美味しいよね! と、エクトルは楽しそうにおかきをめいっぱい頬張るのであった。

「折角だし、色々作ってみようか」
「うん! わたしにもできるかな♪」
 できたあられをちょっと頬張ってから、レイルースとマオはまだまだ料理を続ける。お出汁が美味しいお雑煮に、大定番な磯辺焼き、それから、イチゴ大福だ。餅とお湯をレンジでチンして柔らかくしたら、砂糖を加えて練って、片栗粉をまぶして、餡とイチゴを包んでいく。同じ生地に片栗粉をまぶして一口大に丸めてみたらし餡を添えれば、みたらし団子の完成だ。
「丸めるのは得意!」
「うん、その調子」
 得意気にこねこねしていくマオと、ほのぼの見守るレイルース。
 そうして、実食。できたものは、見た目はちょっと不格好だけれども、口に運べば――
「おいしいっ♪」
「うん、おいしいね」
 そうだ、折角だし誰かにおすそ分け。あられを一緒に作った黒塚達はもちろん――目に留まったのは瑠歌だ。「あの、」とマオが声をかける。
「またご一緒しても、いいですか?」
「あら、マオさんこんにちは! 勿論ですとも」
 というわけで隣にお邪魔。ふと、レイルースが瑠歌の手元を見る。
「綾羽さんが食べてるのは……何て言う料理?」
「お餅のもんじゃですって、先ほどお裾分けして頂いたのです」
 へえ、とマオは目を丸くした。「お餅って色んな食べ方があるんですね」と頷く傍ら、レイルースは「きなこ美味しい……」ときなこ味のおかきを頬張っていた。
「あ、そうだ……これ、わたし達が作った物ですが、綾羽さんもどうですか?」
 と、マオが差し出すのは作った数々だ。
「全て作ったのですか? 凄いですね……!」
 瑠歌は感心と共に、頂きますと手を合わせた。

「目指せ全種制覇だよ!」
 エクトルはいろんなお餅料理を食べ歩いていた。特に餅ピザは初めてで、とっても美味しかった。と、見えるは瑠歌ではないか。るんるん、少年は彼女に歩み寄ると。
「瑠歌お姉ちゃん、あまり進んでないみたいだけど遠慮しないでいっぱいどーぞ!」
 お皿におかきどさーーー。善意。この後、一緒に食べました。



●エージェントVS餅02
「明けましておめでとうッスよ! 今年もよろしくッス! 大分遅いッスけど!」
「うむ! ことよろだぞ!!」
 米衛門とウィンターが、平介とゼムに新年の挨拶を快活に。平介はニコヤカに笑んで一礼し、ゼムはフンと鼻を鳴らした。と、そんなゼムにウィンターが耳打ちしにいく。
「知ってるか……“ライスケーキ”とは餅の英語名のことだぞ」
 実はライスケーキとは餅以外の食べ物も指すのである。でもあえてウィンターはそのことだけを伝えたのである。ほう。しからばとゼムは平介と米衛門へ視線を投げやった。
「餅は英語でライスケーキと言うらしい……」
 ドヤァ……。
「そッスね!」
「ですね~」
 が、誓約者達の反応はコレである。ゼムの予想外であった。嘘を教えられたのでは? そう思っては、穴を開けんばかりの眼光でウィンターを凝視するのだった。この後、実際に嘘ではないので誤解は解けた。

 そんなこんなで、平介と米衛門は餅を料理し始める。

「飽きないように味を変えて……ですね♪」
 平介は持参した醤油と砂糖で、柔らかく温めた餅を味付けし、手際よく海苔で巻いてゆく。
 一方で米衛門は本格郷土料理だ。愛用の底深フライパンで、砂糖と醤油と水溶き片栗粉をタレにしてゆく。これをただ餅にかけるのではない、耐熱ボウルに水と餅を入れて電子レンジで柔らかく戻し……それを平べったくして、割り箸を挿して串餅状にして、タレをたっぷり絡ませた。
「うちわ餅っす!」
「確かに、うちわみたいだな!」
 隣で手際を見ていたウィンターが、まだ皿に並べられていないそれをついつまみ食い。「こらっ」と米衛門に怒られてしまうが、うーん、美味!
「そちらのお餅は何ですか?」
 平介が、うちわ餅以外に米衛門が作っていたものを見やる。「これッスか?」と米衛門は得意気だ。
「バター餅ッス! 甘くっておいしいッスよ!」
 それは郷土菓子、バター・小麦粉・卵黄・砂糖などを、餅に加えて混ぜたものだ。
「料理の種類がいっぱいだな……」
 ゼムは会場を見渡した。平介と米衛門の料理だけでなく、他のエージェント達が作ったものもおすそわけとして振舞われている。
「何か伸びる米からできる食べ物~って思ってたが、こう見てると色々食べたくなってくるぞ!」
 ウィンターはそわそわと、ゼムと共に皆の料理を眺めていた。
 そうして視線を誓約者達に戻せば、料理は終わったようで、お皿に盛られた餅が並ぶ。

 さあ、手を合わせて頂きます。

「これも美味いな! ふむ、これも素晴らしい!」
 ウィンターは口いっぱいに餅を頬張って幸せそうだ。「おかわりいっぱいあるッスよ!」と米衛門が次から次へと皿に置いていくのをいいことに(実家のおばあちゃんが無限にお米をよそってくれるアレに似ている)、右手にうちわ餅、左手にバター餅と、食欲のままに食べていた。
 が。
「ふぐッ」
 わんこそば状態でガンガン食べるから、当然というかウィンターは餅を喉に詰まらせた。
「どうした……?」
 平介が作った磯部餅を頬張っていたゼムが怪訝げに見る。「ゼム、背中を」と平介は指示し――かけて、スッと離れた。というのも、

 スパーン!

 すかさずヴィルヘルムがウィンターにタイキックをブチ込んだからである。巻き込まれダメ絶対である。だがしかし、ゼムは巻き込まれてしまってウィンター諸共床にぶっ倒れたのである。ナムサン。
「「!!?」」
 状況が飲めずに目を白黒させる英雄二人。怒るに怒れない。ていうかリアクションに困っている。
「……えーと。今のは避ける修行的な感じですね♪」
 平介の咄嗟のフォロー。「そうなのか……」とゼムはやっぱり呆然としたままなんとなく納得するのであった。
「笹山さんは何食べてますかー?」
 と、ややあって、そこにつくしがお皿とお箸を手にやって来た。そのまま「ヨネさーん! お餅くださーい!」と、米衛門が料理上手なことを見越してうちわ餅とバター餅をちゃっかりおすそわけしてもらう。
「いっぱい、食べてたりしたりします、か……? ……? お尻……痛そう、だったりです、か……?」
 一方、つくしと一緒に来たカスカは、尻をさすりながら立ち上がるウィンターとゼムに首を傾げていた。
 さてさて挨拶もそこそこに、つくしはうちわ餅とバター餅を食べてから、平介が作った磯部餅に舌鼓を打っていた。
「おいしい……」
 つくしは目をウットリさせる。彼女は砂糖醤油の餅を海苔で巻いたやつが大好きだ。三食それでもいいぐらい好きだ。
「えっと、これで三つかー」
 食べた餅の数をカウントする。第一英雄には程々にと念を押されてきたのでとりあえず五個ぐらい、と考えているが。
「でも食べたいのはしょうがないよね、だってもったいないし!」
「う、うん……! どれも、美味しそうだったりするし、ね……!」
 甘いバター餅に尻尾を振るカスカもコクコク頷いた。カスカはきなこ味の餅が好きだが、基本的に餅は未知である。色んな味がたくさんで、心がとっても浮かれていた。


「餅がずらりと……さて、どうやって喰うかだ」
 ニノマエ(aa4381)はダンボールから持ってきた切り餅達をまじまじと見つめていた。
「お餅料理……少しだけ調べてきた……」
 その隣では無音 冬(aa3984)が、スッと餅料理をまとめ本を取り出した。
「おぉ!? 無音さん凄いな、その本って――」
「自分で書いた……」
「えっ……すご……」
「砂糖醤油とか……こういうのどうかな……」
 本をめくる冬、「それ少しだけ調べてきたの範疇じゃないよな?」と言いそびれたニノマエ。
(ニノマエさん達の食欲どのくらいかな……)
 当の冬はというとマイペースというかなんというか、開いたページを参照に料理の準備をしていくのであった。
「ふむ、素晴らしい。私は食べるだけだが、よろしくな」
 ミツルギ サヤ(aa4381hero001)は堂々たる物言いで席に着いていた。が、内心ではあまり他の者と交流がないゆえ、ガッチガチに緊張していた。それをごまかすように、「ニノマエには気を遣わんでいいぞ」と告げる。
「おまえ依頼や戦闘の時は容赦ないくせにな……」
 そんな英雄の顔を見て、ニノマエはボソッと呟きつつエプロンを身に着ける。「口に餅を詰めてやろうか」とミツルギは視線で彼を突き刺すのであった。

 さて、というわけでレッツお料理タイムである。

 冬はまだ、ニノマエのことをあまり知らない。今日をきっかけに、少しずつ知り合えることができたなら――そんな思いがあるからこそ、冬はいつもより(まあ相変わらず無表情なのだが)キリッとした表情で調理にあたっていた。時々聞こえてくるタイキックの音に、無表情のままビクッとしたりしていたが。

 作るのは――
 カリカリに焼いた餅を砂糖醤油で味付けし、海苔で巻いたもの。
 餅を入れたお吸い物。
 チーズを乗せて焼いたピザ風。

「ミツルギは食べてていいぞ」
 こう見えても料理はするんでな、と冬の手伝いをしつつ、ニノマエはミツルギに優しく笑んだ。
「ならばおかわりを早く頼むぞ。じゃんじゃんとだ。特にスイーツ系を所望する」
「はいよ。……しっかし、冬は手際が良いな」
 ニノマエは感心の様子である。それと同時に、ニノマエが作っているのは、
「俺は大根おろしを焼いた餅にのせて、醤油をかけて食べるぞ」
 というわけで大根をおろしている。冬は目をパチクリをさせた。
「大根おろし……」
 本にないレシピだ。まじまじとニノマエを見ていると、
「大根おろしか、いいねぇ☆」
 横合いからイヴィア(aa3984hero001)が頷く。「サッパリ系は好きだぜ!」と英雄談。
「なんだか、じじむさいな……」
 が、ミツルギがバッサリとそんなことを言う。「誰がじじいだ!」「永遠の一八歳だもん!」と言い返してくるニノマエとイヴィアを一笑に付し、ミツルギは得意満面にこう続けた。
「私なら、だんぜんアイスを上にのせる! 生クリームトッピング、つぶあんこ、きなこ万歳だ。さあニノマエ、作るんだ今すぐ」
 と、その言葉に冬が何か思いついたらしい。餅本をパラパラめくる。
「アイス……なら一口サイズにして……レンジで……」
 開いたページは、レンジで作るあられのレシピ。
「レンジでチン? 餅を? どれ、見せてみろ」
 ミツルギは興味津々でレシピを覗き込んだ。そして「なるほど分からん」と力強く頷いた。
「これなら……喉に詰まらない……タイキックも、怖くない……」
 うむ。世紀の発見をした眼差しの冬に、「タイキック怖いもんねー」とイヴィアが頷いてあげた。

 さて、餅をサイコロ状に切ってレンジでチンして、あられも作成。
 ポリポリ、つまみやすくていっぱい食べられそうだ。

「冬とイヴィアは食べんのか?」
 ミツルギは大盛ぜんざいとあられを交互に食べつつ、二人を見やった。特に冬はさっきから食べていない。というのも冬は小食なのだ。切り餅二個で限界なのだ。だけど料理はエンドレスにする。ある種の有難迷惑かもしれないが、本人は使命感と達成感を携えた純然たる善意である。
「ふ……冬さんのレシピだ、全部食べるとも。山盛りだって……おいしくいただいてやるぜ」
 ニノマエはお箸を握り締める。ありとあらゆる餅料理がズンドコ並べられ続けて行く。繰り広げられるフードファイト。なお、美味しいのですっかり忘れていたのだが、一応これは従魔討伐なのであった。

 さて一方、イヴィアは周囲を見渡して――いたいた。声をかけて手招きを。
「カスカ、つくし……まだ食べられるか?」
 その声に、カスカは話しかけられて嬉しい気持ちで耳がピンと立った。
「ぁ、ぇと、その、まだまだ、食べたりしたり、する……です……!」
「じゃあ、これどーぞ☆」
 ニッコリ微笑んだイヴィアが差し出すのは、色つき砂糖をまぶした飴色・赤色・水色のあられである。
「わ、色とりどりのおかき! ありがとうございます!」
 つくしは目を丸くしながらも、カスカと共に笑顔で感謝を伝えた。

(つくしちゃんは笑ってるかな……)
 冬はちょっと遠巻きから彼女の表情を見やった。
(……カスカちゃんが傍に居るなら安心か)
 今は二人、イヴィアが渡したあられを仲良くはんぶんこしている。「おいしいね!」と英雄に微笑むつくしの様子に、冬はほんのりと目元を綻ばせるのであった。

「ねえねえ、エクトル君にも話しかけに行きたいな」
「う、うんっ……いいかなって、思ったり……!」
 つくしとカスカはあられを頬張りつつ言葉を交わす。見やる彼は、知り合いに似ているので気になっているのだ。では、挨拶しに行こう。
「こんにちは! お餅美味しいですよねっ!」

 ――会場は、なおも賑やかだ。



●負けられない戦いがここにある

 はっ。

 と、御童 紗希(aa0339)が目を覚ませば、そこは既に会場で。
「……抵抗しても無駄なような気がするけど一応……太るからやだよ」
 今年もカイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)に睡眠薬を盛られて無理矢理つれてこられたのだ。そう理解しては、彼女は目の前にいる英雄を睨み付ける。「今年は節制してお正月太り回避したんだから」と続ける紗希に、カイは首を横に振った。

「H.O.P.E.エージェントたるもの、仕事を選んでどうする!? オペレーターから餅を食えと指令が下れば全力で食い尽くす! それがエージェントの鑑だろうが!」

 くわっ。……だが、紗希は納得いかない顔である。
「今回のルールはこれだ!」
 そんな紗希を全力で無視して、カイはルール解説を強引に始める。
「お互い餅をただ食うのみ! 味はお好みで! しかし負ければ、向こうでガチのムエタイ選手ばりのファイティングポーズとってるヴィルヘルムにタイキックを頂戴する!」
「……つまり勝てばタイキックは頂戴することなく、穏やかに今年が始まる……と?」
 頷くカイ。「へえ」と紗希は好戦的な笑みを浮かべた。既に餅は太るということは頭からすっぽ抜けている。「ただタイキックだけは避けたい」――そんな一心が、乙女の心を奮い立たせたのだ。
 いざ。二人は席に着く。幸い、料理する者が多いのでほぼ無限(?)に料理された餅は手に入る。卓上には大量の餅。カイと紗希は視線をぶつけ合った。
「イカした食いっぷりでクイーンを名乗るあの方に負けず劣らずなナイスファイトを期待している」
「吠え面かかせてやるからね……!」

 そして戦いが始まった。
 これは「バカップルの不毛な戦い」とも呼ぶ。

 戦いの結末は後編に続く。



●エージェントVS餅03
 普通に食べても面白くないから――という理由で、アンジェリカが作るのは餅のピザだ。だがそこは本場イタリア人、料理方法や使用素材も本格派。
 切り餅をスライスして、フライパンに敷き詰めたら、オリーブオイルで焼きつつ、こだわりのチーズとタバスコ、バジル等でトッピング。
「できた! 食べてみて!」
 アンジェリカがそう言えば、「ほな」と文菜が手を合わせた。
「ふむ、なかなかいけますな」
 高評価である。ならば! とアンジェリカはピザを手にアマデウスのもとへ、その手をくいくいと引く。
「アマデウスさん、一緒にお餅を食べるの手伝ってよ。これはお餅とボク達との戦争だよ。戦士たるもの戦いから逃げちゃいけないと思うな」
「……」
 アマデウスは片眉をわずかにもたげた。一見して和気藹々としたお食事会だが、これは列記とした従魔との戦い。エージェントとしての仕事。「この凶悪な切り餅軍団を倒すには、一人でも多くの戦士がいた方がいいからね!」とアンジェリカが重ねる説得に、騎士は静かに「分かった」と頷くのであった。なので仲良くピザをはんぶんこしたのであった。

 さて、アマデウスとピザを分かち終えて、アンジェリカが席に戻ると、ちょうど文菜がぜんざいを作り終えたところのようで。
「デザートどすえ。冷めへんうちに、おあがりやす~」
「わー! いただきまーす!」
 甘くておいしくて、スイーツは別腹! ――と思っていた時代がアンジェリカ達にもありました。その甘さは孔明の罠。早い段階で甘い物を食べて満腹感が出てしまったのである!
「うっ……結構、いやかなりつらい……けどこの戦い、負ける訳にはいかない……っ」
「せやけどうち、大食いキャラやないんやけど」
「ボクだってそうだよ」
 げんなりした目で、二人はまだまだ残っている餅を見つめた。
「醤油と大根おろしでサッパリしたらいけるんちゃいますやろか……」
「それだ……」
 この後、食べに食べた二人のお腹がお餅のように膨れたのは言うまでもない。


「ん、今こそ、ギールの腕の見せ所」
 エミルがギールに向けるのは、期待の眼差しだった。
「調理しろと言うのだろう? 我は別に構わぬが……、他にも担当する者が居るようだが……」
「ん、大丈夫大丈夫。被らなければ、モーマンタイ……」
「だが、何を作れば良いのだ。エミルのことだ、どうせアレであろうが……」
「ん、おもちとくれば、力うどん一択……。麺はココにある……」
 スッ、とエミルが取り出したのは、作り置きの手打ち麺である。
「ん、麺を常備しておくのは、うどん教にとって至極当税のこと……」
 エミルはうどんが好きだ。エミルはうどんが大好きだ。一心不乱のうどん狂……もとい、うどん教だ。
「ん、オーダーはした。あとは座して待つのみ……」
 そしてエミルは悠々と、まるで女王のようにテーブルの前に座るのだ。お箸もお茶もスタンバイしてある。
「何を言っても聞かないのだろうな。致し方あるまい。あとは我の仕事よ」
 ギールは肩を竦めて、巨躯に割烹着(支給品)を身に着けた。妙に似合っていた。若干パツパツだったが。
「どうせならば、餅も市販品ではなく、つきたての方が良かったのだがな。いや、それでは本来の目的を違えるか……」
 などとボヤきつつも調理開始。実に手際よく無駄がなく――まもなくして、一流バトラーによる懇親の力うどんがエミルの前にやって来た。至高の手打ち麺と、市販餅、ちょっと残念マッチングだが、その完成された見た目はそんなことをにわかには信じさせない。コンガリ絶妙な焼き色が付いたお餅に、ツヤツヤとした麺、そして黄金色のダシ。
「名付けて“真冬に邂逅せし身分違いの熱愛――」
「ん、いただきます……」
「はい」
 とまあ、上手く纏めて美味に仕上げるは流石の調理力である。「うま、うま」とエミルは人形のような無表情ながらホクホクとした様子である。その様子を見守りつつ、ギールはお代わり用の調理を開始するのだった。


「全種類制覇だぜ!」
 大和 那智(aa3503hero002)は満漢全席もかくやと餅料理(皆からのおすそわけ)を卓上に並べ、ヴィルヘルムと共に片っ端から食べまくっていた。
「今年も共にフリーダムな相棒に振り回されるだろうが、互いに頑張ろう」
 それを遠巻きに見守るのは東江 刀護(aa3503)だ。隣の席にはアマデウスがおり、彼と一緒に砂糖醤油で味付けした餅を海苔で巻いて食べている。
「……全くだ。一応は任務の協力ということでしばらくは様子見してやるが」
 刀護の言葉に、肩を竦めるアマデウス。
「ああ、大量の餅を食い尽くせ、だもんな。食うしかないな」
 頷き、刀護は餅を頬張る。アマデウスとは餅の味付けの好みが一緒で、なんとなく気が合う心地。

 その一方、那智とヴィルヘルムはどんちゃんワイワイ盛り上がっているようで、会話の内容はいつしかヴィルヘルムのタイキックの話題に移行したようだ。
「へー! 餅を喉に詰まらせたらタイキックすりゃいいのかー。つかタイキックって?」
「なんか、ケツをスパーンと蹴ることだってよ!」
「ヴィルヘルム、おまえ、物知りだな! よし、早速やってみようぜ!」
 間違った常識を真に受ける那智。ヴィルヘルムと共に席を立つが、
「おいちょっと待て……!」
 ここで刀護が咄嗟にストップに入る。那智とヴィルヘルムの肩を掴む。
「いいか、餅を喉に詰まらせた時は、頭を低くさせて背中を叩くか、上胸部を圧迫するかで吐き出させるんだ! タイキックじゃ……無理だ!」
「なぁにぃ!?」
 那智は目を真ん丸にした。
「タイキックで餅を出させることはできねぇだぁ!?」
「嘘だー! 嘘だー!」
 ヴィルヘルムまで口を尖らせ、「できたもん!」と訴えてくる。「ヴィルヘルムができるって言ってる!」と那智も小学生みたいな反論を重ねる。
「いや無理だから――」
 刀護は溜息を吐い、て、その口にガッと餅を突っ込まれ。
「「できる!!」」
 こういう時の那智とヴィルヘルムのチームワークはすごいのだ。二人がかりで餅を口に捻じ込まれた刀護は――まあ、喉を詰まらせる。
「刀護、タイキックー!」
「よっしゃー!」
 途端にはしゃぐ那智、身構えるヴィルヘルム。
 そして。

 スパーン!

「ぐわーー!!」
 全力で尻を蹴られ、口から出た餅と一緒に刀護はブッ飛んでしまった。那智とヴィルヘルムは良い顔で笑った。
「「できたじゃねぇか」」


 ……そんなドッタンバッタン大騒ぎの一方で、國光とメテオバイザーは平和そのものだった。
「外はカリッ、中は柔らかもちもちで美味しいのです」
 コンガリ焼いた餅に大根おろしとポン酢、メテオバイザーは至福の顔でもちもちと頬張っている。
「甘い方は溶けるくらいに柔らかい方が美味しいな」
 國光は柔らかく調理した砂糖醤油の餅を、みょーんと伸ばして食べていた。二人の傍らには甘酒、そしておすそわけしてもらった雑煮。
 さて、定番も食べれば、変わり種も食べたくなってくる。
「かなり前に、正月限定でトッピングが変り種の餅出してるカフェがあってさ……何種類もあった中でこれだけ記憶に残ってるんだけど……」
 言いながら、國光は生ハムとチーズとマヨネーズを並べていた。が、思案気な様子である。
「生ハムは確かなんだけど、マヨネーズとチーズの……どっちだったっけ?」
「サクラコ、そんな時は両方作ればいいのです」
 餅はこんなにあるのだ。メテオバイザーがそう提案すれば、「それもそうだね」と彼は頷いた。英雄も料理を手伝ってくれるみたいだ。
 と、料理の中で。
「チーズは餅と一緒に焼いた方がもっと美味しい気がする」
「ピザソースを塗ったら絶対もっと美味しいのです。そうだバジルも散らしたら……」
「スライスしたタマネギも乗せて……」
 結果、できあがったのは純粋な餅ピザである。
「うん、美味しいけど、これじゃない……」
「そうですか……。では、サクラコの記憶にある餅は、マヨネーズの方だったのでしょうか?」
 というわけで、マヨネーズの方も作って食べてみる。その味を噛み締めながら、國光は記憶のサルベージを行っていた。
「トッピングも焼けてた記憶がないから、やっぱりマヨネーズだったのかな?」
「気になりますね……でも、これはこれで美味しいのです」
 結論は出なかったが、まあ、メテオバイザーの言う通りこれはこれで。ふう、誓約者は餅を頬張りながらふと溜息を吐いた。
「あ~……ロンドン帰りたくない……食べ物は昔より美味しいらしいけど不味いものは不味い」
「紅茶とお菓子は美味しいですよ?」
「そうだけどさぁ……」
 はぁ。


 ――バター餅の作り方。
 ボウルに切り餅と水を入れ、ラップをしたら600Wのレンジで3分チン。
 それを柔らかくなるまでしっかり練ったら、砂糖、塩、卵黄を入れ、更によーく練り合わせ、バターを加え、もっと練る。
 練った餅が滑らかになったら片栗粉を混ぜ合わせ、片栗粉で打ち粉をし、タッパーなどに入れたら、形成し冷やしていく。
 それを食べやすい大きさに切ったら、できあがり。

「んま……んま……」
 墨色と霙はコタツでもちもちとバター餅を食べ進める。熱くないバター餅は猫舌にも優しい。卓上にはバター餅と交換した磯部餅や大根おろしポン酢餅、雑煮など、しょっぱい系の餅が並んでいる。なお、猫なので……ではなく単純に好き嫌いの問題からネギ類はそこにない。

 ふう、あったかい。

 お水を飲みながら、じーっと貰ったお餅料理が冷めるのを待ちつつ、コタツのにゃんこ二人はまったり息を吐く。普段からコタツのある仮眠室や休憩室に入り浸っているとかいないとか。なお、ぬけた虎毛猫毛はちゃんと後で持参したコロコロで綺麗にするので大丈夫。用意周到準備万端、ダラダラすることに全力である。
 これがコタツにゃんこ。日本の冬の風物詩。ヴィルヘルムは二人からお裾分けしてもらったバター餅を頬張りつつ、まったりしている霙と墨色を眺めていた。
「ん~……」
 墨色がくわ、と欠伸をして、伸びをした。そろそろお腹もいっぱいで、暖かいコタツの中にいるとどんどん眠くなってくる。それは霙も同様のようで、二人は眠い目をそのまま閉じることにした。コタツでのんびり、おやすみなさい。
 

「……とまぁ、そんな感じで米を主食にしているこの国では馴染み深い食材なんだけど……元が米だけにカロリーがちょっとな」
 央は動画再生を終えたスマホからマイヤへと視線を移した。たった今英雄に見せていたのは餅つきの映像で、そこに央が日本の正月文化の解説を補足していたのである。動画も終われば、片手間に網で焼いていた餅もできあがりだ。
「でも食べ物は食べ物として……ちゃんと食べて供養しないと」
 焼かれた餅が央の手によって味付けされていく様子を眺めつつ、マイヤは頷く。この餅を放置していたら従魔が憑依してしまうことについては把握しており、今回の主旨に前向きな姿勢だ。
(マイヤさんが良い娘でよかった……)
 彼女は普段、あまり飲み食いをしないのである。央は安堵し、磯辺焼きを自分とマイヤの分、皿に盛って卓上に並べた。「頂きます」と手を合わせるマイヤだが、……ふと、気まずそうな上目で央を見て。
「……央は、私のお腹に少しお肉がついても……がっかりしないでいてくれる?」
「しようはずもない。でも、ささやかな抵抗で帰りは歩いて帰ろうか」
 央はいじらしい言葉にニッコリと笑顔を返した。「わかった」とマイヤは頷きを示し、磯辺焼きを食べ始めた。「美味しい?」と彼が問えば、彼女はコクンと頷いた。
「でも、食べてると甘いのが欲しくなったりするんで……俺はこういうのを間に挟んでみたり」
 と、彼が用意していたのは、煮て柔らかくした餅に、きなこと砂糖をまぶしたものだ。
「……塩気に甘味……わかるわ」
 素直に頷き、勧められるまま頬張るマイヤ。美味しくって、ゆっくりながらも食が進む。
「……気が付くと、たくさん食べちゃうわね……わかるわ」
 マイヤの食べ方は女性的で品がある。熱いお餅をふうふう冷ましたり、髪をそっと耳にかけたり。
「手で取って食べたり、お箸でつついたり……忙しいわね」
 央の視線に気付いたマイヤが顔を上げる。「そうだな」と返事をする央は、マイヤの食事の様子を「可愛いなぁ」と内心ホッコリしていたのであった。


「甘くしたり、しょっぱくしたり、色んな食べ方があるんだね」
 会場をぐるりと歩いて、色んな餅料理をおすそわけしてもらって、紫苑は楽しげだ。
「しかし、餅ばっかだと、流石に飽きるな……」
 バルタサールはちょっと苦しそうにそう言った。「ぜんざいだよ」「もんじゃ風だよ」「ピザ風だよ」と次から次へ英雄に食べ物を渡され続けたせいだ。「贅沢言わないの」とトドメを刺される。無茶いうな、と男は思った。
「小さくカットして、レンチンしたら、お煎餅にもなるみたいだよ」
 とにもかくにも小休止だ――とバルタサールが椅子の背もたれに身を預けた直後、紫苑のこの発言である。おいまだ俺に食わせる気か……などとバルタサールが思っている間にも、紫苑の行動は早いもので、まもなくして香ばしく焼かれたおせんべいが現れた。
 が、バルタサールの予想外に、紫苑はそれをヴィルヘルムのところへと持って行く。
「これなら、ノドにつまることもないよ」
 ほらお食べ。ハトに餌をやる感覚で、掌に乗せたおせんべいをヴィルヘルムにホイホイ与えていく紫苑。そして「うめー! うめー!」ボリボリ頬張っていくヴィルヘルム。
「でも、なんでノドに詰まったら、お尻を蹴るの?」
「なんとなくだ!」
「そっかー。きみも、お餅、食べてみたら?」
「おう、なんかいろいろ貰ってるぜ! うめえな、モチ! 気に入った!」
「うんうん、その調子でいっぱい食べてね。鏡餅とかあるし、日本ではお餅は縁起物なんだよ」
 アイツ出任せ言ってやがる……とバルタサールは遠くで見守りつつ思うものの、英雄のいじりが自分に向いていないことに心底安堵していた。「もっと強く強烈なキックが放てるようになるかもしれないよ」と紫苑はニコヤカに笑って、ヴィルヘルムになんとなくなことを伝えていた。おせんべいをやりながら。


「ちょっと前にも同じことがあった気がするのですが……ううん……?」
「ロローー」
「あら? 落児も? どういうことなのかしらね?」
 構築の魔女(aa0281hero001)と辺是 落児(aa0281)は、梨李組の揚げ餅と雑煮をまったり食べながら首を傾げていた。
(餅……? いえ、食べた記憶はないですよね……?)
 梨李の揚げ餅を海苔で巻いて磯部餅に、構築の魔女は粛々と食べつつも朧な記憶に眉根を寄せる。
 と、そこへタイキックでハツラツといい汗をかいているヴィルヘルムが通りかかった。「こんにちは」と挨拶をすれば、彼は「よう今日も美人だな!」と隣に座ってくる。
「ヴィルヘルムさんはお餅食べたことない……ですか?」
「さっき食べた! 美味かった!」
「そうですか。のどに詰まらせないようにしっかり噛んで食べないと危険ですよ?」
 豪快な食べっぷりが容易に想像できては、クスっと笑む構築の魔女。と、「ロロー」と落児がヴィルヘルムにお茶を渡した。
「あぁ、そうです。臀部にタイキックしても、のどに詰まった餅はたぶん取れませんよ?」
 お茶を飲むヴィルヘルムに構築の魔女が言う。
「マジで!? 今んとこなんとかなってるけど!?」
「そ、そうなんですか……。あと、どこでタイキック覚えてきたのですか?」
「テレビ!」
 と、そんなヴィルヘルムの首根っこを掴む手があった。アマデウスだ。「いつまで油を売ってるつもりだ、ジャスティンの手伝いに戻るぞ」と眉根を寄せる騎士に、魔女はニッコリ微笑んだ。
「ふふっ、いつもお疲れ様です」
 仲が良いなぁ、思うものの表情には出さず。肩を竦めたアマデウスがそのままヴィルヘルムを引きずって行こうとする、ので、ちょっとだけ呼び止める。
「私はシンプルな食べ方が好きですけど……アマデウスさんもいかがですか?」
「……、折角の場だ」
 此度の依頼のことも聞いているのだろう。しばし考えた後に、アマデウスはひょいっと魔女が用意してた磯部餅をひとつ口に運んだ。構築の魔女は、それを笑顔で見守っていた。
「お持ち帰りができるならジャスティン会長にもと思ったのですけど、残念です。それじゃ、お気をつけて。よろしくお伝えくださいね?」
「ああ。お前達も、任務に励むがいい」
 そしてアマデウスは、「俺はまだ戦える~」と喚くヴィルヘルムを引きずって去って行った。
 さて。魔女達は息を吐いて。
「……ううん、食べ過ぎましたね」
「ロローロ」
「ちょっと、もったいないですけどタクシー呼びましょうか、えぇ」



●ごちそうさまでした

 そうして会議室に残ったのは、空っぽになった段ボールと、満腹になったエージェント達。

「ああ、美味しくて楽しい会だったわね」
「餅はやはり作る方がいい……」
 ゆらは楽しそうに微笑みながらお茶を飲んでいた。隣では、まだ痛むおしりに顔色を悪くしているシドがゲッソリと呟くのであった。

「餅がどういうモノかは理解した……俺はもう十分だ」
 うぷ。ゼムは眉間のシワをいつもより深くして天井を仰いだ。なんとなく男メンバーの中で負けたくないので頑張って食べていたが、実は女子より食が細いのである。
「いつか餅つきからできるといいですね♪」
 対照的に平介は元気そうだ。ちゃんと食べられる分を食べきれるだけ料理したがゆえである。

「お腹いっぱい、だから……歩いて帰ろう、か……」
「そうだな。マフラーはしっかり巻いておけ」
 ごちそうさま、と黎夜は手を合わせ、彼女にアーテルがマフラーをかける。

「「ア゛ァ゛ーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!」」

 そんな時だ。ごちそうさまムードで和む会場に響き渡った絶叫。
 そこには、帰ってきたヴィルヘルム――と、彼の渾身のタイキックをぶっぱされ、芸人もかくやなリアクションでうずくまっている紗希とカイが。二人とも白目を剥いて痙攣している。新年早々白目を剥いて痙攣しているエージェントがこの世界にいるだろうか。なお、卓上には皿が積み上げられていた。戦いの結果は引き分けらしい。末路はさておき、二人が餅をしこたま食べて、任務に大貢献したのは事実である。末路はさておき……。


 ……さてさて。
 あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願い申し上げます。



『了』

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339

重体一覧

参加者

  • もふもふには抗えない
    多々良 灯aa0054
    人間|18才|男性|攻撃
  • もっふもふにしてあげる
    むすびaa0054hero002
    英雄|10才|?|バト
  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
    人間|11才|女性|命中
  • ぼくの猟犬へ
    八十島 文菜aa0121hero002
    英雄|29才|女性|ジャ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 小さな胸の絆
    鐘 梨李aa0298
    人間|14才|女性|回避
  • エージェント
    コガネaa0298hero001
    英雄|21才|男性|ドレ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 分かち合う幸せ
    笹山平介aa0342
    人間|25才|男性|命中
  • どの世界にいようとも
    ゼム ロバートaa0342hero002
    英雄|26才|男性|カオ
  • 死を否定する者
    エミル・ハイドレンジアaa0425
    人間|10才|女性|攻撃
  • 殿軍の雄
    ギール・ガングリフaa0425hero001
    英雄|48才|男性|ドレ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 乱狼
    加賀谷 ゆらaa0651
    人間|24才|女性|命中
  • 切れ者
    シド aa0651hero001
    英雄|25才|男性|ソフィ
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
    人間|18才|女性|防御
  • 想いの蕾は、やがて咲き誇る
    カスカaa0657hero002
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 我が身仲間の為に『有る』
    齶田 米衛門aa1482
    機械|21才|男性|防御
  • エージェント
    ウィンター ニックスaa1482hero002
    英雄|27才|男性|ジャ
  • Foreseeing
    aa3139
    獣人|20才|女性|防御
  • Gate Keeper
    墨色aa3139hero001
    英雄|11才|?|シャド
  • 世を超える絆
    世良 杏奈aa3447
    人間|27才|女性|生命
  • 魔法少女L・ローズ
    ルナaa3447hero001
    英雄|7才|女性|ソフィ
  • その背に【暁】を刻みて
    東江 刀護aa3503
    機械|29才|男性|攻撃
  • 最強新成人・特攻服仕様
    大和 那智aa3503hero002
    英雄|21才|男性|カオ
  • 希望の守り人
    マオ・キムリックaa3951
    獣人|17才|女性|回避
  • 絶望を越えた絆
    レイルースaa3951hero001
    英雄|21才|男性|シャド
  • 穏やかでゆるやかな日常
    無音 冬aa3984
    人間|16才|男性|回避
  • 見守る者
    イヴィアaa3984hero001
    英雄|30才|男性|ソフィ
  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046
    人間|25才|男性|防御
  • サクラコの剣
    メテオバイザーaa4046hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • Trifolium
    バルタサール・デル・レイaa4199
    人間|48才|男性|攻撃
  • Aster
    紫苑aa4199hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • 不撓不屈
    ニノマエaa4381
    機械|20才|男性|攻撃
  • 砂の明星
    ミツルギ サヤaa4381hero001
    英雄|20才|女性|カオ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • LinkBrave
    夜城 黒塚aa4625
    人間|26才|男性|攻撃
  • 感謝と笑顔を
    エクトルaa4625hero001
    英雄|10才|男性|ドレ
  • 心に翼宿し
    雨宮 葵aa4783
    獣人|16才|女性|攻撃
  • 広い空へと羽ばたいて
    aa4783hero001
    英雄|16才|女性|ドレ
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