本部
【追跡】Dの研究所
掲示板
-
【相談卓】研究所から脱出せよ!
最終発言2018/01/17 07:31:40 -
【質問卓】なぜなにハルカさん
最終発言2018/01/13 20:26:35 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2018/01/13 21:52:40
オープニング
【追跡】潜入DDの研究所
●Dの商品
Absorb・D……秘密結社Dにおけるリーダーと目される男。
彼は商品を見出す力に長け。愚神を数体受け入れる器があった。
その愚神との契約により、己を愚神化させるために組織を運営していた。
しかし、それも過去のものである。
構成員を一人、また一人と減らされ。今や手足は半壊。
幹部として愚神を招き入れようとするも失敗。
自身の契約愚神を置いて逃走するはめになった。
その捜査は三船春香という少女も含めて行われる。
捜査は冷たい雨が降るなか、長時間行われた。
そして追い込んだのは海に面した工場地帯、その一角。寂れた港から上陸し、操作を続けること二十分。鋼鉄の板で覆われた、不自然なスペースが発見された。
そのスペースの奥には薬品臭漂う、不自然な空間が広がっている。
薄暗く足元の誘導灯だけで照らされたその空間で君たちは、しわがれた声を聴くことになるだろう。
「さぁ! 年貢の納め時だよ」
一連の事件、胸に爪痕をつけるような事件ばかりがあった。従魔製造、ペインキャンセラー。誘拐事件、遙華の襲撃、他にもさまざまな事件が表で、水面下で進行してきたのだろう。
それはきっと、全てが彼らの欲のために。
彼らの敷く悪のために。
「絶対に許さない! ただ、自分の欲だけのために」
「欲か……それで何が悪いのかな」
声が変わった。それはAと呼ばれる男の声。それに春香は呆けた声を返す。
「え?」
「私は一度も、誰かを助けてやった。だとか、これは必要な技術だ、だとか言った覚えはないね」
施設のスピーカーが震え、金属音が鳴る。
「必要としたのはいつでもお前たちで、罰しようとするのはいつでもお前たち、それだけのことだ」
Aは告げる。自分たちはただそこに存在していただけだと。
「だとすれば君たちと私は何もかわらない、したいからする。ただそれだけだ。罰したいから罰する。己の感情に素直になるがいい」
Aは告げる。お前たちにかける言葉はない。そして言葉をかけられる筋合いはない。
「ただ、そうしたいからする。それでいいだろう? お前たちは俺達を罰したい、そこに問答が挟まる余地はない、無駄だ」
「あなた達がやってきたこと、どれだけひどいことかわかってるの?」
春香の言葉を遮ってAは告げる。
「我々と接していて。でた感想がその程度か? であれば本格的に語る言葉もないな。ここで消えろ」
次の瞬間。ぶんっと小さな音が下。次いで。
「お前たちも罰したいなら私の元までたどり着くがいい。ただ。ドクターがそれを許すとは思えないがね」
フロアに明かりがともる。そのフロアには無数の何かが存在した。
一言で形容するには難しい物体。円筒状で中には液体が詰まっている。それには蔦のようにコードが絡まっているが、その向こうには何か人のようなものが浮かんでいるのが目に見えた。
「まさか、ここは」
春香は息をのんだ。ここはバイオプラント。人造リンカー、もしくはリンカー兵たちを製造する工場だ。やっとリンカーたちはがんの巣を見つけたのだ。
だが、無情にも響き渡ったのは、施設を爆破するというアナウンス。そして背後の扉が閉まる音。
最後に、湧き出す化物達の、血に飢えた咆哮。
このぐちゃぐちゃにかき回された箱庭で、君たちは勝ち取るべきは、生存か。救済か。それとも。
●状況説明。
このフロアはざっと500M×500Mのフロアで、等間隔に50のフラスコが配置されています。
さらに北側に大きな通路。南側に、小さい皆さんが入ってきた通路、そして地上に出る階段が存在しており、脱出はここから行うことになるでしょう。
ただし、脱出口は最初はAGWの原材料にも使われるような鉄板で覆われています。
火力が1000くらいあれば一撃で吹き飛ばすことができる鉄板です。
では内部状況について詳しくお話ししましょう。
そのフラスコ内には少年少女たちが浮かべられています。
この少年少女たちはフラスコ外に出ても死にはしません。
ただ衰弱しているので、脱出するには介護が必要となるでしょう。
子供たちの体格は120センチから160センチとまちまちです。
さらに、このフロアの北側、大きな通路からはどんどん従魔が追加されて出てきます。
この奥にさらに300メートル四方の空間があり、そこにある卵から次々と孵るためです。
生まれたてであっても従魔です。気を付けてください。
そのフロアの片隅に小さな扉があり、その向こうが管理室です。ここに爆弾が仕掛けられており、爆弾を解体できれば、施設爆破は防がれることでしょう。
しかし爆弾は学校にあるような縦長のロッカーケース大の大きさで。
センサーが三つ仕掛けられています。
水銀による動体感知センサー、紫外線に反応する光感知の仕掛け。さらにダミーコードがいくつもあり、間違ったコードを切ると爆発です。
正直、解体の難易度は高いと思います。
さらに今回は天井に存在する排気口、通風孔、などから従魔が飛び出てくる可能性もあります。
● 登場する従魔について。
登場する従魔は三種類です。それぞれ行動パターンに違いがありますので気を付けてください。
またBDからもたらされた情報の中に、商品ラインナップがあり、今回の従魔はその情報に合致します。なので詳細な情報が手に入っています。
小鬼型従魔
体長120センチ程度の観にくい外見の従魔です。
何より優先して弱いものを狙います。なので今回はフラスコを積極的に破壊して、少年少女たちを殺害しようとします。
攻撃方法は鋭い爪による攻撃、機動力がやや高めな程度で、直接戦闘で脅威になることはないでしょう。
小鬼型従魔は2ラウンドに1回。3体追加されます。
獣型従魔
四足歩行で、銀色の体毛に覆われた、角を持つ従魔です。
その最大の脅威は突進攻撃で、この突進攻撃は一度受けると、装備の防御力をダウンさせる効果を持ちます。
ただし、対象より1SQ以上離れている必要があり、さらに距離が離れている対象にほど効果を大きく発揮します。
優先的に霊力反応の強い物を狙います。
1ラウンドに1体追加されます。
バブルヘッド型従魔
身長200センチ程度の従魔です、細身の体ですが、頭が風船のように大きく膨らんでいるので通風孔など通ることができません。
この従魔は攻撃方法こそ掴みかかるのみで、拘束能力しか持ちませんが、絶命直後頭を破裂させ、周囲にダメージを与えます。
飛距離は5SQ程度の威力が高く、それ以上の飛距離飛びますが、威力はかなり低くなる様子。
至近距離で爆破されると少年少女たちが死んでしまうほどの威力を叩きだします。
3ラウンドに1回、3体追加されます。
解説
目標 子供たちの避難か
従魔全員の掃討か
施設爆破物の解体 のどれか
このミッションでは子供たちの命をなるべく救う必要があります。
このミッションの成功度は避難できた子供たちの割合に比例し。
爆発に巻き込まれると重体確定です。
このミッションは子供たちの無事が確定できればいいので。従魔を全員倒してからゆっくり避難しても、爆破物を解体してからゆっくり処理してもいいので、クリアパターンがいくつか存在します。
さらに、今回リンカーたちだけでは少々きついことでしょう、使えるものはすべて使った方が得だと思います。
爆発までのカウントダウンは不明ですが。管理室まで行き、実際に爆弾を解体する段階ではわかる事でしょう。
今回はDシリーズ大詰めとなるシナリオです。電撃作戦と、追撃の条件を同時に満たしたので、今日か明日に追撃の任務が公開されることになります。
電撃作戦も追撃も、募集人数が少ないのでどちらに入るべきか、悩んでみるのも楽しいかと思います。
リプレイ
プロローグ
「ついに研究所まで来れた訳だけど…………」
『榊原・沙耶(aa1188)』は壁に寄りかかって一部始終を眺めていた。
スピーカーから漏れ聞こえるひび割れた声。『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)』はそれに苛立って表に出たがっていたがそれを沙耶は阻止して冷えた瞳で周りを見る。
「当然、何の策も打っていない訳はないわよねぇ」
提示された状況は、フラスコの中の少年たち。大量の従魔。
そして爆弾。
ここで情報を隠す意味はない。なぜなら彼らは情報を全て知ったうえでどう振る舞うか、それに期待しているのだ。
リンカーの善性に期待している。
「ちっ! この爆弾を作った奴は絶対に性格が悪いぞ」
『御神 恭也(aa0127)』は珍しく穏やかな調子を崩してそう声を荒げた。
――兎に角、急ぎましょう。
『不破 雫(aa0127hero002)』が告げ、その言葉に頷いて恭也が戦闘を務めるも、研究室のドアが容易く吹き飛ばされて大量の従魔が姿を見せる。
それを見て恭也は確信した。
「恐らくだが、爆弾の位置は最奥だろうな」
――その前に救助者を配置して、中間部からは敵の発生所 私達の最重要目的が救助と知ってる上での配置でしょうね。
「救助を優先すれば手掛かりは消え、爆弾に手を出せば救助が疎かになるやも知れん」
――なるほど、キョウの言うとおり設置者は性格がひん曲がってるようですね。
これまでの戦闘経験から素早く状況を算出、異論はないのだろう、全リンカーがその言葉に頷いた。
「も、漏れたちは弱い一般人だお、だから…………」
最後に『阪須賀 槇(aa4862)』はスピーカーから漏れ聞こえる金属音が途絶えていないことから察して、その場にまだとどまっているだろう、Dの構成員達に告げる。
――……アンタみたいな輩の企みを潰すのがさ。俺らも快感なんだよな。
『阪須賀 誄(aa4862hero001)』の言葉にADの鼻で笑う音が聞こえる。
――程度が低くて結構。そんな人間に企み潰されたアンタの顔を見るのが楽しみだわ。
バイオレンスな気配を纏わせる弟。その弟に兄はたじたじとしつつも従魔の動き、その機微に耳を震わせてはじかれたように叫んだ。
「お、お、OK! 行くぞ弟者!」
突っ込んでくる従魔たち、その咆哮をエンジン音と銃声が遮る。
第一章 心臓の隣の爆弾
唸り声をかき消すような金属音、アスファルトの地面を削るようにホイールが唸り。
「――何か、思い違いをしているようね」
『鬼灯 佐千子(aa2526)』はブレーキを放す。
「私たちH.O.P.E.エージェントに、誰かに処罰を与える義務も権限もありはしないわ。
私たちにあるのは、依頼を遂行する義務に愚神や従魔・ヴィランから人々を守る義務。
……そして、その為に武器を取り、私たちの目の前で違法行為に手を染めるような連中を逮捕する権限よ」
猛々しく咆哮をあげて食らいつこうとする二輪は、もはや百鬼夜行と呼べる従魔の行進へと臆することなく突っ込んでいく。
それを支援するのは『麻生 遊夜(aa0452)』。
「すまんがそこは俺達の射程内だぜ!」
――…………子供達に、手出しはさせない!
『ユフォアリーヤ(aa0452hero001)』が気合十分そう告げる。
そして二人は、的確に群がる従魔たちを間引いていく。子供たちに走り寄ろうとする個体から。
たとえば戦闘を走る獣型従魔。その従魔へと横っ面に、猛禽を思わせるシルエットが襲いかかる。
暗い室内に蒼天を思わせる翼をいっぱいに広げ。従魔の息の根を止めようと、研がれた爪を突き立てる『雨宮 葵(aa4783)』。
従魔が息絶えるとその返り血をぬぐって背後を見やる。
その翼はまだ、けがれてはいない。
「私は別に欲で行動する事が悪いとは思わないけどねー」
葵は一人ごちて告げる。『燐(aa4783hero001)』はその言葉を黙って聞いていた。 隣に並び立つのは『煤原 燃衣(aa2271)』と春香。
そんな二人を導くように葵は一歩前に出る。
「もっとお金が欲しいから働いて。
もっと強くなりたいから修行して。
欲があるから人は前に進める」
先陣を切る獣型従魔。しかし葵の目には止まっているも同然。軽くいなして首筋に刃を突き立て払う。
「私も自由に生きるっていう自分の欲でエージェントになってるし?」
自由のために力が欲しかった。
自分達だけで生きれる地位が欲しかった。
喉が渇いてひび割れるほどに欲しい物を求める。その感覚はわかる、理解できる。
けれど。
「あんたたちが屠られる理由は欲で動いたからじゃない。欲でたくさんの人を泣かしたからだ!」
獣の角をその刃で受けると、もう片手に握られたリボルバー。それを従魔の額に当てて何度もトリガーを引いた。
そのたびに。鳥を思わせる宝石職の瞳が色を増していく。
激情に駆られていく。
――ん。子供達を泣かせる、悪い奴は……退治しないとね?
麟が言葉を継いだ。
「それと、ドクターは忘れてるみたいだから伝えといてよ。常識をぶち破って解決してこその希望だってね!」
Dは悪を侵しすぎた。悲劇を生み。救いきれないほどの嘆きをばらまいた。
だがそれで諦める葵ではない。
その翼が暗夜に染まろうと、きっと葵は誰かを救い続けるのだろう。
だが、その救いの中に、すでに暗夜に染まってしまった者は、入っているのだろうか。
「カナタちゃん」
燃衣はゆらりと前にすすむ。いつもの速度がその身には無かった。
敵のラインが分厚いからというのもあるかもしれない。
群がる小鬼を投げ捨てて、突っ込んでくる従魔の角に手を当て止め。
投げて叩きつけて、ひねりつぶして。
その重たい拳はまるで骨を鋼としてしまったかのような質感を持つ。
『ネイ=カースド(aa2271hero001)』が笑った。鼻で。嘲笑か、自嘲か。
それとも春香の恐れに対する視線か。
春香はピンっとピアノ線を弾く。
すると集団で大挙して押し寄せたた小鬼従魔が丸ごと吹き飛んだ。
「燃衣さん。私が見えてる?」
「もちろんですよ、カナタちゃん」
違う、そう春香は言えなかった。
燃衣の瞳が漆黒の闇を煮詰めて輝く。
「そう。《ボクら》は素直に気に入らないんだ、カナタちゃん」
思い出されるのは数々の悲劇。
誰かを守りたいと思った。
でも守れなかった、死んで逝った。
だが彼女らの想いを継いで再び誰かを守る戦いをしている。
「ねぇ?《ボクら》って誰だと思う?」
「それは……」
春香はためらった。これが正しいかどうか分からない。間違っている可能性が十分にある、だって燃衣を死地にさらに追い込む言葉だったから。
でも、それを言わないといけない気がした。
本当か、嘘かは置いておいて。その言葉がきっと燃衣には必要なのだ。
「”わたし”もだよね。燃衣さん」
「……カナタちゃん。《ボクら》は親しい人の、またその祖先の。幾千億もの人々の平和への願いを託されて、形作られている」
敵の中心で黒々と燃える燃衣は自身を薪にして燃えているようだった。
「お前の言葉は託し託される事の無い、愛情を知らない者の言葉でしかない」
そして燃衣の歩みが従魔湧きだす一室の出入り口まで差し込まれると。拳を放ち。従魔を一体吹き飛ばした。
「ボクらが間違ってる道理は無い! 行くぞ皆!」
――ははは、任せておくといい
「高機動装備が懐かしいねおねえちゃん」
燃衣の言葉に応じ、その影から現れたのは『イリス・レイバルド(aa0124)』と『アイリス(aa0124hero001)』の金糸の姉妹。
その特性は防衛……を通り越して空間支配の領域にまで踏み込んでいる。
展開する精霊結界は三重に、歌によって敵の意識を引き、群がる従魔が十であろうと二十であろうとたった一人でひきつける。
角をそらして地面につき刺し、それを踏みつけ剣で首を切り落とす。
真上からの拳を防いで小鬼を後ろに投げ飛ばすと。頭を破裂させんばかりに膨らませた風船へと剣を突き立てる。
――少し下がっていたまえ。
直後強烈な炸裂音が従魔たちを吹き飛ばした。
その隙にもっとも危険なエリアの子供たちを葵が解放していく。
歩けないほどに衰弱した彼らを葵は背負って出口付近へと運ぼうとするが。
それに参加したのは沙耶である。
「手伝うわぁ」
子供は軽い。かわいそうなほどに。
しかも触った時にある程度体調を確かめられる。一石二鳥だ。
「頼むね、お医者さん」
救出組を援護するように遊夜が弾幕を展開するが、いかんせん数が多い。
特に機動力が高い獣型従魔を狙って遊夜は弾丸を放つ。うまくねらって膝を撃ち抜くと勢い余った従魔の角が隣の従魔に突き刺さっていた。
もがく従魔の額を撃ち抜き終わらせていく。
「子供らを狙わないのはありがたいが……」
――……ん、定期的に来る……厄介。
従魔たちはなぜかリンカーたちを最優先するようだった。
その時遊夜の前髪を爆風がゆらし、従魔の皮膚片が目に入ったことで銃弾がそれた。
結果従魔の突撃を許し子供を庇って背中から貫かれる葵。
「ぐあっ」
子供を強く抱きしめて、けれど気にするのは貫通した角が子供に突き刺さる事を恐れて背中の筋肉を硬く引き締める。
目が覚めた子供は血まみれの葵を見て驚くが。もがく少年の頭を撫でて落ち着かせる。
そんな葵から角を引き抜く、あるいは突き刺そうと、足踏みする従魔の眉間を遊夜が撃った。
「大丈夫か! すまない。失態だ」
「私は大丈夫、けど」
従魔の群の中に一際大きい頭を二人は見つける。
そいつの足を売って地面に転がすと。葵や子供たちを離れさせ頭を撃ち抜くと、従魔が空に舞った。
「厄介だが、ある意味便利だな」
――……ん、すごい破壊力……要注意。
「だめだよ。お兄ちゃんが飲まないと」
その背後で、目が覚めた少年にアンプルを投与しようとする葵。
しかし、お兄ちゃんという言葉で葵は動きを止めてしまう。
笑いをかみ殺す燐。
「あー、私一応、女なんだけどなぁ」
そう頬を書く葵、その顔を直視できなくなったのか少年は視線をそらして顔を赤らめた。
「だって、すごくかっこよかったから」
「それは素直に受け取っておくよ」
そんな少年に槇が駆け寄ってくる。
「おお、ちょうどよかったお。ところで」
槇がごにょごにょと少年に耳打ちした。すると少年はどこかを指さして槇はそちらに走っていく。同時にノートPCを幻想蝶から召喚。
槇の動きに過剰に反応した獣従魔がいたが、完全に接近される前にAKで撃ち殺していた。
「準備が整ったお!」
その声に燃衣は顔をあげると、片手で持ちあげた小鬼従魔の首をへし折っていた。
「では突破口を開きましょう、頼みましたよ。お二方」
「頼まれました」
先ず動いたのはイリス。
敵中央で陣取っているバブルヘッド。
そいつへ勇猛果敢に攻撃を仕掛ける。
――まぁ、私達からすると大したことはなかったからね。
「煌翼刃・迎芽吹」
展開される障壁。それを前方に集中展開。迎芽吹とはパイルバンカーのように剣を突き出す迎撃方法だが、前方からの衝撃にそうやって備える。
直後空気を叩くような炸裂音。そうしてやっと、向こう側の通路が見えた。
そこへ恭也が天叢雲剣片手に体をねじ込ませる。潜伏ではだめだ、後に続く者がいる。
敵を切り倒しながら部屋に飛び込み、転がりつつ受け身をとると、目の前に5:49とディプレイにかかれた何かがあった。
第二章 爆弾解体。
恭也は爆弾が設置されている部屋に突入し、立ち尽くしていた。
背後には殺気立った従魔の群。そして目の前に爆弾。
次いで目に入ってきたのは、脈動する大量の卵だった。
それは薄い膜の中に連なり、個別のリズムで脈を打っている。その中で何かのシルエットが見える。それは急速に成長し大きくなると、その成長に耐え切れず表面が割れる。従魔の誕生だった。
それが端的に言うと気持ち悪い。そのときである。
スラスターを吹かせて一台のバイクが突入してきた。従魔たちを吹き飛ばし。
そのバイクにまたがった女性は器用に両足だけで舵をとり、空いたてで銃をぶっ放している。
その車体は無数の従魔を吹き飛ばしたのだろう、返り血でドロドロである。
その血をあたりにまき散らしながらバイクは無軌道に回転、地面を滑りながら卵の群に突っ込むと、ゼロ距離射撃でそれを次々に粉砕していく。
そのまま、でろでろの体液を纏わせながらも入り口付近から恭也に群がろうとする従魔を撃ち殺しながら。
バイクから降りる。
「急いで!」
バイクを気遣っている暇など無い。
蹴り倒して、武装を変更。
たまごを踏み砕いて部屋の中央に躍り出た。
「おー、映画でみた女スパイみたいだお」
そう荷物をガシャガシャ言わせながら入出してきたのは槇。爆弾の隣に腰を下ろすと、恭也と共に解体を始める。
「こちらは全力でサポートする、気にしないで解体してくれ」
遊夜が入り口付近に張り付きながらモスケールを起動。
「やはり用意はしておくもんだ」
――……ん、持ってきておいて……よかった。
直後、遊夜は上に銃口を向けると壁越しに敵を撃ち始めた。
「敵反応! 煤原さん。真上の通気口だ!」
――……ん、通気口からいきなり出始めた。気を付けて。
ナビゲートは遊夜がする、解体班の護衛は佐千子がするのだろう。
五分程度であればこの布陣でも十分にもつ。
「二度目はない、来るのさえわかっていれば……」
――……ん、ボク達からは……逃げられない、よ?
そして等の爆弾解体班はというと。
――…………兄者、代わろうか?
だが何もしないと確実に全員挽肉になってしまう。それを思い槇は生唾を飲み込んだ。
「だ、だだ、大丈夫だお。コレは弟者には手に余るお……」
本当に大丈夫だろうか、飽きれてものも言えない槇ではあったが。
「ななな、なぁに弟者…………逆に考えるんだ。《今より最悪は無い》ってね」
――…………フフ……その通りだな。OK兄者。合言葉は?
「「何とかなるさ」」
「よし、センサー類は把握した」
恭也が汗をぬぐって告げる。
「光感知に水銀スィッチ……最後にお約束のダミーコード 俺程度の知識だけでは失敗するな」
「そこは、持ちつ持たれつだお」
告げると槇は研究所内に設置してあった液体窒素を振りかける。
同時に急速に冷やされた空気が白くなることを利用して、ノクト・ヴィジョンによる光学センサー感知に使う。
「揺らぎが見えるお」
――そこか……。
恭也はサバイバルブランケットを幻想蝶から取り出す、電気が見当たらなかったので佐千子に打ち抜いてもらい、ブランケットを爆弾にかけてなるべく光を遮断する。
これで手探りの作業しかできなくなったが、光感知は発動しない。
槇はそのセンサーの位置をテープで丁寧にふさいでいく。
これで光を感知することはできなくなったはず。
そのままセンサーを取り外すために槇は手作業でメルトリッパーを駆使。爆弾の外箱その外面に当てる。
振動を与えないように恭也が固定し、箱に切れ込みを入れて行った。
感圧センサーは存在しない。それを確かめるとふたを開くと同時に光感知センサーに繋がっているコードを切る。
ふたを開ける。
「まずは、第一関門突破というところか」
おそらくだ。この爆発に巻き込まれればフロアで戦っている者は重傷。
自分たちはアスファルトのシミとなる運命だろう。
一瞬たりとも気が抜けない。
次に恭也は水銀が入った小さなガラスケースに目を止める。水銀はわずかな振動で形を変え。そのガラスケースの中のむき出しのコードに接触すれば電気が通って爆発するのだろう。
ここも慎重に動く必要がある。
先ずはガラスに穴をあけてそして水銀を全て抜き取る。
あとは手順に従って通電をなくしていけば書いた移管料であるが。そう甘くは行かない。
最後にやはり赤のコードと青いコードが残ってしまう。
「どうする?」
恭也はシーフツール片手に槇を見る。
槇は黙って液体窒素を追加した。
「そして、二本とも切って大丈夫だお」
そう告げる。
――……お、おい兄者ッ!? それダミーも切……。
驚きの声を上げる弟。それに槇は冷静に告げた。
「…………マイナス195℃。この温度に達すると、精密機器は通電力を失うんだお」
槇は科学を信じている。宗教よりもよっぽど命を救い命を奪える。そう信じている。
だから、冷静に断言できる。
「わかった。切るぞ」
むしろダミーコードを残しておくと危険だ。解体しきるつもりなら全てのコードを切るのが正解。
恭也はその言葉を信じて二つのコードを切り。
そしてついに爆弾本体と、爆発機構を切り離すことに成功した。
「解体したお!」
ときの声がフロアに木霊する。
一気に高まる指揮。
燃衣は武装を斧に持ち替えて、そして告げた。
「これより僕らの作戦は、掃討作戦に移行します」
子供たちを守りながら戦う。それはリンカーたちの得意分野でもある戦いだ。
第三章 思惑
何個目のフラスコを割ったのだろう、溢れ出す溶液を衣服に沁み込ませながらイリスは少女を救出した。
その少女はわずかに意識があり、おずおずと開けた口に、金色の蜜が付いたスプーンを含ませる。
アイリスジャムである。
――味と栄養と消化の良さは保障するよ。
「お姉ちゃんといれば遭難しても食べ物の心配はないよね」
――常備してるからねぇ。羽そのままでも食べられるのだし。
糖分は体を動かすために必須である。
そんなイリスは、その盾をかさに従魔を押しのけながら入り口付近まで護送する。そこには沙耶が待機しているのだが、ここまで来てしまえば従魔に襲われる心配はほとんどなかった。
沙耶は最初のうち、従魔と子供たちの間に入って守ることをしていたのだが、従魔の勢いが弱まるについれ、メディカルチェックメインの役割にシフトしていた。
佐千子が卵の大部分を破壊してしまい、通風孔から現れる従魔のみ対応すればよくなったためである。
――体内に埋め込まれている可能性もあるしねぇ。
そうアイリスが心配するのは体内に寄生するルネだろう。
ただ、モスケールには反応が無いことを確認している。
「救助対象だけど警戒対象……助けをあきらめる理由なんてひとつもない」
沙耶は手早く、処置が必要な患者を三段階に分類。すでにH.O.P.E.と連絡を取って、必要な機材、救急車の数などを申請していた。
ただレスキュー隊員を突入させるには従魔の数が多い。
沙耶はケアレインを発動。傷ついた仲間たちを癒すと同時に、もうすぐ終わりだと活を入れた。
幸先はいい。パニッシュメントも温存している。
体に切り傷が無いため、物理的に爆弾を移植されている線はないようだった。
ただ、気になるのは、少年少女単体で膨大な霊力を帯びていること。この少年少女たちは何の目的で製造されたのだろう。
沙耶は冷静に状況を分析しようとする。せめて、資料があれば。
そんな沙耶の思惑をよそに従魔の駆逐は進んでいく。
相対するのはバブルヘッド、しかし燃衣には分が悪い。
「なんて……」
そう燃衣がにやりと笑って幻想蝶から取り出したのはAKである。
そんな燃衣に手を振る槇。
彼は燃衣の構えを見て同じように銃を構える。
――お前……当たるのか? 久々だろう銃は。
燃衣はネイの言葉に鼻で笑うと告げる。
「何言ってんですか。阪須賀さんに銃の撃ち方教えたの……」
直後、燃衣はバブルヘッドを中心に、槇と円を描くように回りながら撃ち始めた。
「……このボクですよ!」
景気のいい炸裂音。霧状に霊力が噴出するがそれを掻き分け。うちこぼした従魔へ弾丸を叩き込んでいく二人。
「あ、イリスさんそっち!」
そんな中燃衣の隣をすり抜けて一匹、少年少女の方へ走っていく獣型従魔がいた。
その従魔の突進に気が付いたバルムンクがイリスに危険を知らせると、イリスはその柄を優しくなでた。
次いで背後を振り返ると盾で角をかちあげる。
――車のバックミラーの様なものだよ。
「あとでご褒美だね」
引き絞るように構えた刃は黄金のオーラを纏い。そして。
「煌翼刃・螺旋槍」
穿たれ転がる従魔。その最後の一体をもってして。
研究所は静まり返るのだった。
* *
「このあたりかしらぁ」
そう沙耶は微笑みながらコンクリート壁を吹き飛ばす。
爆薬の量と予測被害範囲から、爆弾が仕掛けられていた隣の部屋に何かが無いとおかしいのだ。
案の定隠し扉の向こうに地下通路。そして地下には打ち捨てられた施設がまたあった。
「研究者にとって最も大切なものは、実験機器でも論文でもなく、世界を這いずり回って集めに集めた研究材料の保管庫」
沙羅が舞い上がる埃を払いながらあたりを見渡す。そこには古ぼけた資料や古いPCが置かれていた。
それら資料を無造作に幻想蝶へと入れていく沙耶。
ただ、ひとつだけ気になる資料があり、それに引き寄せられるように、沙耶はファイルを開いてしまった。
これでも医者だ、資料のななめよみは得意である。
その中で信じられないワードを見つけた。
それを見て沙耶は目を見開いた。
「どうしたの?」
沙羅が資料を奪って読みだす。
そこには。
信じられない文字が書かれていた。
「失敗作……」
そこには少年少女たちの英雄化がうまく行かず、従魔となってしまうという研究資料が山ほどあった。
「あの、フラスコの中の子たち。放っておけば、一週間で」
新たな問題が顔をだす。しかしこの場の資料はDという組織の全貌を知るに役立つことだろう。