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【白刃】遮る阿吽の番獣
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最終発言2015/10/19 11:07:21 -
二匹の獣型の従魔を討伐せよ
最終発言2015/10/19 11:46:28
オープニング
●H.O.P.E.
「……老害共が、好き放題に言ってくれる」
H.O.P.E.会長ジャスティン・バートレットが会議室から出た瞬間、幻想蝶より現れた彼の英雄アマデウス・ヴィシャスが忌々しげに言い放った。
「こらこらアマデウス、あまり人を悪く言うものではないよ」
老紳士は苦笑を浮かべて相棒を諌める。「高官のお怒りも尤もだ」と。
愚神『アンゼルム』、通称『白銀の騎士(シルバーナイト)』。
H.O.P.E.指定要注意愚神の一人。
H.O.P.E.は過去三度に渡る討伐作戦を行ったが、いずれも失敗――
つい先ほど、その件について政府高官達から「ありがたいお言葉」を頂いたところだ。
「過度な出撃はいたずらに不安を煽る故と戦力を小出しにさせられてこそいたものの、我々が成果を出せなかったのは事実だからね」
廊下を歩きながらH.O.P.E.会長は言う。「けれど」と続けた。英雄が見やるその横顔は、眼差しは、凛と前を見据えていて。
「ようやく委任を貰えた。本格的に動ける。――直ちにエージェント召集を」
傍らの部下に指示を出し、それから、ジャスティンは小さく息を吐いた。窓から見やる、空。
「……既に手遅れでなければいいんだけどね」
その呟きは、増してゆく慌しさに掻き消される。
●ドロップゾーン深部
アンゼルムは退屈していた。
この山を制圧して数か月――周辺のライヴス吸収は一通り終わり、次なる土地に動く時期がやって来たのだが、どうも興が乗らない。
かつての世界では、ほんの数ヶ月もあれば全域を支配できたものだが、この世界では――正確には時期を同じくして複数の世界でも――イレギュラーが現れた。能力者だ。
ようやっと本格的な戦いができる。そんな期待も束の間、奴らときたら勝機があるとは思えない戦力を小出しにしてくるのみで。弱者をいたぶるのも飽き飽きだ。
「つまらない」
「ならば一つ、提案して差し上げましょう」
それは、突如としてアンゼルムの前に現れた。異形の男。アンゼルムは眉根を寄せる。
「愚神商人か。そのいけ好かない名前は控えたらどうなんだ?」
アンゼルムは『それ』の存在を知っていた。とは言え、その名前と、それが愚神であることしか知らないのであるが。
「商売とは心のやり取り。尊い行為なのですよ、アンゼルムさん」
「……どうでもいい。それよりも『提案』だ」
わざわざこんな所にまで来て何の用か、美貌の騎士の眼差しは問う。
「手っ取り早い、それでいて素敵な方法ですよ。貴方が望むモノも、あるいは得られるかもしれません」
愚神商人の表情は読めない。立てられた人差し指。その名の通り、まるでセールストークの如く並べられる言葉。
「へぇ」
それを聞き終えたアンゼルムは、その口元を醜く歪める。
流石は商人を名乗るだけある。彼の『提案』は、アンゼルムには実に魅力的に思えた――。
●阿吽の双獣
「グルルルルル……」
「……」
生駒山へと至る道の一つ。そこには二匹の獣がいた。
片方は金の毛並みを刺々しく逆立たせている。真紅の瞳で睨み、口を開き鋭い牙を見せ、周囲を威嚇するように唸り声を上げるその姿は狂戦士のようである。もう片方はただ瞑目し、静かに周辺の気配を探っている。銀の毛並みはマントのように風でなびき、老成した術士を思わせる。
対照的な行動をとっている二匹は寄り添うように立ち道を塞いでいた。
「……」
不意に銀の獣が瞼を開け、まっすぐに前を見据えた。サファイアの瞳がきらりと輝く。
その先にいたのは、アンゼルムの動向を探らんと先んじて潜入していたエージェントであった。
「しまっ――」
見つかってしまったことに気が付いた彼は逃げ出そうとするが、それよりも先に金の獣が動き出す。
銀の獣は視線をエージェントから金の獣へと移す。
「ガァアアアアアッ!」
「……」
突撃する金の獣が、瞳と同色のオーラを纏う。踏みしめた地面が砕けた。
次の瞬間にはエージェントの体が宙に舞っていた。打ち上げられた体がどさりと音を立てて落ちる。
既に男は絶命していた。
「グルゥ……」
それを確認した金の獣は一鳴きすると元の場所へと戻っていく。
銀の獣は既に元の位置で座り込み、先ほどまでと同様に周囲へと気を配っていた。
●H.O.P.E.本部
本部には既に数名の能力者が到着していた。室内には暗い雰囲気が漂っている。
「偵察に向かわせたエージェントたちが未だ帰還していません。恐らく、従魔らに捕捉されたのでしょう」
彼らの前に立った男は暗い表情でバインダーを眺めている。
「直近の連絡では、道中金の獣と銀の獣に遭遇したと。片方は常に唸り声をあげ、もう片方は沈黙していたそうです。常に唸っている金色の方を仮に『阿形』、常に沈黙している銀色の方を『吽形』としましょうか。獣たちは並び立って道を塞いでいたそうです」
男はそう言って、地図を懐から取り出し広げた。そしてある個所に丸を付ける。
そこは町から山まで直進できる道の入り口であり、金銀の獣がいたとされる場所であった。
「獣たちが塞いでいる道は、重要なルートの一つです。早急に確保しておきたいところですね。――あなたたちには、その為に獣の討伐をお願いしたいと思います。他の場所にも能力者達を向かわせていますが、使える道は一つでも多いほうがいいので……協力をよろしくお願いします」
解説
●目的
生駒山に続く道を塞ぐ二匹の獣型の従魔「阿形」「吽形」の討伐
●状況
何人かのエージェントを送り、情報を収集させていたが生存者はなし
その犠牲によりいくらかの情報を得ている
阿形、吽形がいるのは町と山を繋ぐ道の一つ。道の広さは車が2台並んで通れる程度
周辺には建物があったが、その殆どは阿形、吽形によって壊されているため潜むことはほぼ不可能
(遮蔽物としての利用はできる)
時間帯は日中
●登場従魔
阿形
金の毛並みに、真紅の瞳を持った四足の獣。常に周囲を威嚇するように唸っている。
刺々しく尖った毛並みと、遠くから見てもわかるほどに発達した爪、牙が特徴。
攻撃方法は噛みつき、突進、切り裂き。
移動速度はかなり速く、油断すると直ぐに距離を詰められるであろう。
吽形
銀の毛並みに、蒼の瞳を持った四足の獣。常に押し黙っている。
マントのようにたなびく長い毛が特徴。
攻撃は特にしないが、常に阿形の後方に控え、そのサポートをしている。
●その他
阿形は近接戦闘主体の従魔です。前に出てその高い攻撃力、防御力を活かして敵を殲滅する役目を持ちます。吽形は支援を主体とする従魔です。阿形が傷ついた時は率先して回復し、攻撃アップや防御アップなどの効果を付与していきます。
二匹は互いに息にあったコンビネーションで攻撃してきます。また離れようとはしないので分断は不可能だと思っておきましょう。
リプレイ
●
建物の陰に隠れるようにして、能力者達は道を見据えた。その先には金銀の獣。
油断なく周辺を探っているようで、金の獣はしきりに頭を振っている。銀の獣はまったく動かない。
ほんの少しばかり頭を出しながら、ゼロ=フォンブラッド(aa0084)は口を開いた。
「なんやえらい対照的やな。聞いてた通りや」
「役割がしっかりと分かれているということだろう。侮れんな」
「事前に確認ができないのが痛いね。せめてどれくらい離れるのかとかがわかればよかったんだけど」
「仕方ない。あまり近づきすぎると気付かれてしまうからな……」
楽しそうに笑うゼロとは対照的に、天原 一真(aa0188)と片桐・良咲(aa1000)は真剣な面持ちで話す。
「あの2匹。魔獣と言うよりは美獣って呼びたいくらい綺麗ですね」
「せやなあ。見た目だけはやけに綺麗や」
稲葉 らいと(aa0846)は朗らかに笑いながら素直な感想を述べる。
「下手に攻撃したらバチが当たりそうな気がしますが、これも仕事です。きちんと片付けることにしましょう」
「犠牲になった人のためにも、しっかり倒さないとね」
日向 翔悟(aa1601)と七城 志門(aa1084)はそれぞれ武器を手にしながら意思を固めていた。
一真は予め話し合っていたことを確認した。
「……ゼロとらいとの2名が阿形の足止めをしている間に、俺を含めた残りの4人で吽形を討伐。その後、阿形と戦っている2名と合流で相違ないな?」
全員が頷きを返す。準備ができた彼らは立ち上がった。
目標は阿吽の獣の討伐。この戦いの結果が戦況に影響を及ぼすかもしれないと思うと身が引き締まるようであった。
●
能力者たちが動き出した気配を察知したのか、阿吽の獣も戦闘態勢に入っていた。
吽形は瞼を開けると、阿形の方と1度、2度と見た。
阿形は身をたわめ力をためると、地を砕く勢いで飛び出す。真っ先に反応したのは阿形の足止めを担当する1人、ゼロ。彼は阿形の前に飛び出し挑発する。
「さて、いっちょ闘牛としゃれこみますか。ハイハイこっちいらっしゃいな!」
できる限り阿形と吽形を離すようにして動く。その隙に一真、良咲、志門、翔悟の4人は吽形の元へと向かっていく。阿形は狙い通りゼロの方へと向かっている。その勢いはすさまじく、簡単には止まることはない。故に作戦通り引き離せるかと思われた。
「んなっ」
だが阿形はその矛先を吽形の元へと向かう4人へと変えた。一度地面を蹴り、稲妻を描くようにターン。先頭に立った志門の前に躍り出る。阿形は鋭い爪で薙ぎ払い攻撃を行った。
志門は咄嗟にカイトシールドを構え防御するものの、勢いを殺すことはできずに傷を負う。
「大丈夫!?」
良咲は声を張り上げて確認を取った。あまり大きな傷ではないが、阿形の一撃で志門は他よりやや後ろに行ってしまっている。彼は問題ないとジェスチャーで伝えると、再び前へと進んだ。
予想だにしなかった動きを見て呆気に取られていたゼロと、同じく阿形の足止めを担当していたらいとははっとして再び動き出した。
「そっちには行かせるかって!」
ゼロは先んじて用意していたロープを持ち前身。それに合わせてらいとも距離を詰めていく。
阿形に接触する直前で、ゼロの姿が2つになった。阿形は一瞬動きを止めてしまう。その隙に彼はロープを巻きつけた。そして意気揚々と声を上げる。
「梱包作業スタートや!」
動きを制限された阿形はその身を震わせる。そして力強く地を踏みしめ咆哮を上げた。
ロープで縛り付けようとしていたゼロは一瞬怯み、力を弱めてしまう。阿形は少しだけ動きやすくなったことがわかると、その場で噛みつき攻撃を行った。怯んでしまっていたことで隙を見せていたゼロはそれをもろに食らってしまう。
「ぐわっ!」
自由になった阿形は周囲を見渡し、吽形の元へと向かう人影を探す。
「探しているところ悪いけど、向こうには行かせないって!!」
その間にたどり着いたらいとは、周辺を見渡す阿形の、隙だらけの横腹に槍を叩き込んだ。大きなダメージは入らなかったが、阿形が突然の衝撃に悶え苦しむ。
「ガァアアアアアッ!」
「おっとと。そう簡単には当たらないよ! あなたも、いつまでも伸びてないで足止めを!」
阿形ががむしゃらに放った薙ぎ払いをらいとは時に余裕を持ちながら。時にギリギリのところで回避する。その間にゼロも態勢を整えて、再び足止めに参加する。
阿形はとうとう、攻撃することを止めてらいととゼロを見据えた。その目は怒りで染まっており、先ほどまでよりも視線が一段と鋭くなっているように見える。
「さて、ここからが本番やな」
「向こうよりも先に倒しちゃう位の勢いでいこう!」
「せやな!」
ゼロとらいとはそれぞれの武器を構え、阿形へと突撃した。
●
阿形との戦いが本格化し始めた頃、残りの4名は吽形と相対していた。
「ふんッ」
「はッ!」
一真と翔悟がそれぞれ、大鎌と剣を振るう。吽形は避けることもせず真正面からそれを受け止めた。そして腕を振るい弾き飛ばす。
吽形は再び阿形の方を見ようとした。銀の毛がたなびき、光を帯びていく。
「それはやらせないよ!」
それを目にした志門は盾を構え体当たりをした。体に走った衝撃に驚いた吽形は、行動をキャンセルする。
「3人とも、右! もうちょっと右!」
良咲が叫び、弓を射る。放たれた矢は何本かが吽形の体に傷を負わせたが、その殆どは毛で弾かれていた。
「くぅ、硬いなあ!」
悔しそうに言うと、すぐさま別なポイントに移動する。幸いにして阿形の足止めには成功しているので、攻撃に専念することができる。彼女は何度もポイントを変えながら撃ち続ける。
「えい! いい加減やられてくれないかなあ!」
吽形もただやられるだけではない。いい加減鬱陶しくなってきたのか、良咲の方へと駆け出した。
「あわわ、こっちに来るな!」
「行かせない!」
吽形の前に志門が立ち突進を抑える。良咲は再び移動して吽形の背の方へと移動していく。
止められた吽形はその場で薙ぎ払いを放とうとする。そこに一真が強力な一撃を叩き込んだ。
「グルゥ……」
吽形が思わず唸った。一瞬だけ体が浮かび上がるほどの衝撃を受けた吽形は動きを止めて、今度は自身を回復させようとする。再び銀の毛が光を帯び始めた。
「だから、やらせないって!」
前回と同じように志門が体当たりをして止める。止められたことで回復しそこなった吽形に、2つの影が迫った。翔悟たちは片方が左側面から、もう片方が右側面から接近する。そして一真によって傷ついていた体に攻撃を加える。
吽形の動きが鈍っていく。いくら自身を強化し防御しようとも攻撃の数々は少なくないダメージを吽形に与えていた。能力者たちはその明確な隙を見逃さない。
全員が渾身の力で吽形に攻撃する。一真は大鎌で。翔悟と志門は剣で。良咲は弓で。それぞれが持てる全力の一撃を叩き込んだ。
「グ……ル……ルゥ……」
総攻撃には耐えきれずに、吽形の体が傾く。
ゆっくりと横に倒れていき、大きな音を立てて地に伏せる。その体はピクリとも動かなかった。
●
吽形を倒すことに成功した4人はすぐさま阿形と戦っている2人の元へと合流した。
吽形からのサポートがなくなった阿形は、目に見えて攻撃のキレがなくなり速度や防御力などが低下しているようだった。
「すまない、待たせた」
「いや早いくらいやで! 全員が合流したし。さ、フィナーレや。楽しませてくれよ?」
言うや否や、ゼロは今まで所持していながら使っていなかったマントを引っ張り出すと阿形の頭にかぶせた。突然視界を奪われた阿形は頭を振って布を取ろうとする。
「ホラホラ、俺はこっちやで!」
ゼロは脚を切り付けて、阿形の横を通り過ぎると声を上げてアピールする。視界を奪われたままの阿形はどこにいるかわからない彼に対して爪で攻撃しようと試みるものの、まったく当たる気配はない。
「ゼロばっかりじゃないよ! ボクらだっているんだからね!」
「私達だって負けられないんです! だからもっと全力で行くよ!」
良咲とらいとが続けて攻撃する。上から、横から、前から。様々な方向から攻撃を受けた阿形はいよいよもって自分がどういう状況であるかを理解した。更なる怒りで身を震わせ、叫ぶ。
「ガァアアアアアッ!」
「隙だらけだな」
怯むことなく一真は前に立ち、大鎌で頭を殴った。目隠しは取れてしまったが、阿形は叫び声を上げることも、攻撃をすることもなかった。殴られた勢いのまま地面に叩き付けられ、立ち上がる気配すら見せない。
一真は念のため近づき確認する。
「起き上がる様子もなし。完全に事切れているな……」
一真がそう口にすると、全員が気を抜いた。
「ってことは、とりあえずこれで終いか。やー、疲れたわ。とりあえずお宝もないし、戦利品は頂いとかな」
「ボクもちょっと興味あるかなー」
「あたしも毛はちょっとだけ欲しいかも……」
「……俺は別にいらんな」
「俺もいらないかな。それよりもちょっと疲れたし、早く休みたい」
「私も同感です」
阿吽の獣を倒した能力者たちは束の間の休息を得た。
それぞれが好き勝手に、思ったことを口にする。そこに緊張感はなく、依頼を終えたという小さな達成感と明るい雰囲気がある。
今回の戦いは、未だ序章にすぎずこの先は激しい戦いが待っている。
だがこの瞬間だけは、彼らは心地よい空気の中で微睡む。次の戦いに向けて英気を養うために――。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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