本部

【初夢】IFシナリオ

【初夢】おいでよIAL!

電気石八生

形態
ショートEX
難易度
易しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2018/01/11 20:39

掲示板

オープニング

 この【初夢】シナリオは「IFシナリオ」です。
 IF世界を舞台としており、リンクブレイブの世界観とは関係ありません。
 シナリオの内容は世界観に一切影響を与えませんのでご注意ください。

●インカ・アバタ・ランド
 元旦。テレビの電源を入れた途端、どこか懐かしいメロディーに乗ってCMソングが流れ出す。
『ウルバンバ谷を決死行~(安全だよ)! アンデス山脈よじ登り~(意外と死ぬよ)! 夢のマチュピチュおいでよメーン(ほぼほぼ廃墟だよ)! インカ! インカ! インカ・アバタ・ランドぉぉぉぉお!!』
 最後の決め文句がほぼほぼ断末魔なところがなんともシュールだった。

●入園者への挨拶
 険しき山を越えて此処まで来やった親愛なる民草へ妾が述べよう。
 息災か?
 案じずともよい。妾は心やすく過ごしておるよ。
 さて。此度は妾がマチュピチュを魔改造し、一大エンタテイメントの場をしつらえたゆえ、知らせておこうと思うてな。
 ふむ、インカと聞かばもう万人思い至ることであろう。カ――言わぬ言わぬ。妾も自主規制なるはわきまえておる。
 ゆえに茶を濁し、名を“IAL”とした。インカ・アバタ・ランドというわけだ。ちなみに此の文書を書き上げた際にはICLであった。Cがなにかは、想像に任せよう。
 ……ともあれ。愉悦には相応の危機もまた付き従うもの。遊戯の半ばで散る者もでるやも知れぬ。
 しかし案ずるな。かような者には妾がよきアバタをくれてやろうゆえ。幸いだな。アンドロメダへ行かずとも、無償で石の体を得られるのだから。
 おお、マスコットにも引き合わせてやらねばな。
 妾の分け身たる“ウルカちゃん”だ。さ、ウルカちゃんよ、アトラクションについて語るがよい(ぶつりと崩れ落ちる)。

 (むっくり起き上がって)ウルカちゃんでちゅう――っと、いけないいけない! それっぽいことすると超クレーム入っちゃう★
 毎度おおきに! ウルカちゃんだよー! アタシの体はアンデス産のインカローズでできてるの! ちなみに日本名だと菱マンガン鉱! かわいくない!
 気を取りなおしてアトラクション、紹介するね! いっこめは「黄金ジェット」! 遊園地の飛行塔みたいな感じだけど、なんか謎パワーで空中散歩できるのよ! ノーワイヤーでエコロジー! マチュピチュがゴミのようだわー! 気合抜けると真っ逆さまだからエキサイティング!
 お腹がすいたらフードコートで茹でパパ(ジャガイモ)とかチチャ(トウモロコシ酒)とかどうぞ! 胸毛も生えそろってない(欧米的若者差別表現)お子様にはリャマ乳があるわ。食べ盛りのみんなはクイ(でっかいネズミ)ステーキもね! でも、オススメは断然、謎の葉っぱ! 噛んでると歯がまっかになってたーのしーっ!
 お土産コーナーでオーパーツの水晶ドクロも売ってるわ! 下から光当てると目が光るのよ! 全アバタ総動員で造ったの! 100こくらい買ってね!
 お食事の最中はパレードでおもてなし! まあ、みんなウルカちゃんだからおんなじ顔なんだけどね。拍手が途絶えたら責任とらされて1体ずつカパコチャ(生贄の儀式。英語表記だと頭文字はC)だから、精いっぱい歌とダンスで2時間くらいがんばるね!
 最後のアトラクションは「アプ(神)・マウンテン」よ! アンデスを使い回しの黄金ジェットでゆっくり登ってく(アバタが運んでくれるのよ!)間に愉快な(ふふんふふん)劇場が見れるんだから! で、2430メートル一気にスライディング! インカの御柱祭りって感じ? はりきってアプってね?
 ま。こんなとこで終了! え、アトラクション少なすぎ? ほら、ウルカちゃんって愚神でしょ? 別にインカくわしくないしー、これからアイルランドに引っ越すしー(予定)。つーか、文字数的なこと考えるとこれくらいで抑えとけってハナシなの。いっつも詰め込みすぎてて、アプじゃなくってアップアップなんだから!
 うるせーわー。細けーこたーどーだっていーわー。早く乗れよ黄金ジェットによー! おめーらのせいでアバタがカパコチャれてんだよー! 750人しかいらんねーのがマチュピチュの規約だからなー! 客入れるにゃアバタ減らさなきゃなんねーの!
 だから……減ったアバタの分まで楽しんでってね?

解説

●依頼
 ウルカちゃんといっしょにIALを満喫してね!

●アトラクション
1.黄金ジェット=マチュピチュを空からながめられるのよ! 難点は高度ありすぎてマチュピチュぜんぜん見えないことと、うっかり成層圏越えちゃうとこ! あと墜ちる! 生き延びてね?
2-1.フードコート=オープニングに出てきたやつじゃなくても、インカにありそうなやつなら勝手に指定可よ! 調理方法は生か煮るか焼くか。調味料はインカ産の天日塩と、アマゾン産だけどペルーの味、インカインチオイルの二種類!
2-2.お土産コーナー=持ち帰れないしお金も減らないからなんでも買ってね! 水晶ドクロだけじゃなくて怪しい置物とかペナントとか、名前刻印できる記念メダルとかあるわ!
3.パレード=ウルカちゃんたち総出でテーマソング歌って踊っての2時間よ! みんなの応援がないとウルカちゃんたちどんどん間引かれちゃう★ まあ、2時間全力で応援できるわけないんだけどね。山の上だから空気薄いしね。
4.アパ・マウンテン=オープニングの説明どおりよ! クソ重たい歴史解説とそれぶっちぎる脳天気な劇場が展開するの! で、最後は待ってましたの御柱! そのまま退園(お目覚め)になりまーす。

●備考
・ウルカちゃんは案内役だから、必要に応じて増えたり減ったりするの。いつもみんなといっしょだよ!
・もしかしたらウルカ姐さんご本尊もご登場しちゃうかも! 逢いたい人はプレに「姐さん希望」って書いといてね! ちなみに登場する度ウルカちゃんが1体お亡くなりよ!

リプレイ

●夢の遊園地?
「やってきました! マ・チュ・ピ・チュ!」
 写真で見た山上の遺跡を前に、加賀谷 ゆら(aa0651)がわーっと両手を突き上げた。
「やってきたって、いつ来たんだよ……俺たち年越しして寝たよね? いい初夢見ようなー? そうですねー。おんなじ夢見れたらいいなー? あ、はい。って。なにこれ、ウルカ姐さんの陰謀なの?」
 恐る恐る辺りを見回す加賀谷 亮馬(aa0026)からシド(aa0651hero001)が渋い顔を逸らし。
「亮馬が不憫すぎる……」
 愛の質は高くとも、熱量の差がなかなかな感じな加賀谷家なんであった。
「それにしてもまあ、奇妙なオブジェの集まりだ」
 眉根をきゅっとしかめ、Ebony Knight(aa0026hero001)は視線を巡らせる。
 いかにもインカっぽい石像が石畳の左右に立ち並び、腕を振ったり目をぎょろつかせたり……。
「素材のひどさで失敗したか」
 眉間を抑えてシドはかぶりを振った。
 その視界の端を、せわしなくインカローズ製の2頭身ウルカグアリー、通称ウルカちゃんがちょろちょろ。砂埃を掃き清める。
 と。
「りょーちゃんマチュピチュの石垣と記念撮影しよ!」
「なんで石像とかウルカちゃんじゃなくて石垣?」
「マチュピチュの石垣って、それより前のプレ・インカ時代にできたクスコ遺跡の石垣より新しいのに造りが荒いんだよ? 儚いよねー。あはれだよねー」
「やべぇ、愛する嫁さんの情感がわかんねぇ!!」

「亮ちゃんと、ゆららん、楽しそうなの」
 いつもどおりな加賀谷家の様子に、泉 杏樹(aa0045)はおっとり笑顔を傾けた。
「いっしょに、遊びたいけど……がまんなの」
 ぐっと手を握る杏樹へ、斜め後ろに控えた榊 守(aa0045hero001)がすらりと一礼。
「はい。それがよろしいかと」
 杏樹と同じくふたりの友である守としては、できうる限り気づかってやりたいところだ。
「アンの遊び相手、オレが立候補するよ?」
 杏樹の寂しげな肩をその腕で包み込んだのは、現在新婚生活まっただ中な荒木 拓海(aa1049)である。
 と。
 カシャツ、シャッター音が鳴って。
「フッ……拓海はぁん、このお写真、なんぼでお買い上げしてくれまっか?」
 スマホに映しだされた撮れたての画像をちらつかせ、弥刀 一二三(aa1048)がにやり。
「ひぃっ! いやいや、アンはオレの妹なんだからこれは浮気じゃありえないから」
「これ夢みたいだから、送信できないんじゃない?」
 怯える拓海を、ため息交じりにメリッサ インガルズ(aa1049hero001)がなだめた。
「あ、ほんまや」
 そんな一二三の前に立ったのは彼の相方、キリル ブラックモア(aa1048hero001)。厳しく引き締まった顔をくわっと突きつけ。
「一二三!」
「これ、うちどつきまわされる流れ――」
「これが夢ならなんでもありなのだろう? 世界の甘味を制覇に行くぞ!!」
 ちがった。でも、血糖値的ななにか=やる気なキリルはすでにぽんこつだ!
「いや、ここインカやから」
「なん、だと!? 夢なのに、夢が叶わない……私の夢はいったいどこに……」
 突如絶望するキリルに、杏樹、守、拓海、メリッサは顔を見合わせたが。
「遊園地、初めてなの。楽しみ」
 ほわっと手を合わせた杏樹に促され、一同はアトラクションへ。

 カグヤ・アトラクア(aa0535)は偶然にも杏樹と同じことを口にしていた。
「遊園地とか来たことなかったからのぅ! わくわくじゃ!」
 クールビューティな和装美女がうっきうきとインカの石畳を行く。なんというか、取り合わせがすごい。
「睡眠は二度と目覚められん気がして嫌いなんじゃが、こんな初夢なら儲けものじゃな」
 その横をだらだら歩くクー・ナンナ(aa0535hero001)は目をぽやぽやしばたたき、「えー」。
「ウルカグアリーの遊園地って、悪夢じゃない? まあいいや……ボク二度寝するね。カグヤが起きたら起こしてー」
「もう寝てるのにまた寝てどうする! 行くぞクー、アトラクション全制覇じゃ!」

「夢じゃーっ! 夢じゃからなんでもゆるされ~るのじゃー!!」
 妙なテンションで薄い空気を震わせる狐耳・狐シッポの幼女、天城 初春(aa5268)。
「待てお初落ち着け! これは夢でも空気足りておらぬから落ち着け! 酸素欠乏症になったら3倍速くなる回路とか造るはめに」
 辰宮 稲荷姫(aa5268hero002)は小首を傾げて考え込んだ。3倍速くなりたい気はするが、結局夢から現実世界に持ち出せないだろうし、やはり落ち着くべき?
 その隙に初春は1体のウルカちゃんへ突撃。
「石の御神はどこにおられるのじゃっ!?」
 ウルカちゃんがすごい哀しそうな顔を見せて。
「呼ばれちゃったら出るわよね……カパコチャ&サヨナラぁ」
 ビキメリブキボギ。インカローズのアバタを生け贄に、黄金の愚神が顕現する。
「妾を呼ばらばウルカちゃんが1体お亡くなりと言うたであろうよ。そして今日は妾をウルカグアリーではなく、ウルカ姐さんと呼べ。キャラクター商法というやつだ」
「とめいとぅーっ! って、これなんて意味なんじゃろ?」
 聞いちゃいない初春なわけだが、ウルカグアリーは求められるまま握手に応じ、「おお、あけましておめてとうの」と手を挙げたカグヤへゆるゆる手を振り返し、杏樹たちとの記念撮影で荒ぶるコンドルのポーズを披露、加賀谷夫妻に記念のインカローズ(ウルカちゃんの残骸)を進呈したりして。
「トマトはアンデス原産というだけで、ぶっちゃけ意味はない……む?」
 ウルカグアリーの黄金の瞳が捕らえたものは、独特なピンクのフリフリつき軍服に身を包んだソーニャ・デグチャレフ(aa4829)だった。

「にゃにゃにゃ、にゃーたんである! 今日、小官はインカ・アバタ・ランドに来ている、のだ、にゃ、にゃー!」
 ソーニャは唇を噛み締めた。なぜ小官だけこんな設定!?
 そう。なぜかソーニャはアイドルネームの“にゃーたん”として、このIALのレポートをしなければならないことになっていた。頼りにはならないが道連れにはなる英雄はなく、志を同じくする者もいない今、彼女は孤立無援の戦いを強いられる!
「ウルカちゃん聞いたぁ? にゃーとか言ってるわよにゃーとか」
「ムリヤリ感あるわよねぇ。ウルカちゃんもそう思うでしょ?」
「思う思うー。痛たたたあたた」
 ウルカちゃんたちの生暖かい視線を振り払い、にゃーたん絶叫。
「たわらば!」
 よりによって、凄まじく微妙なチョイスだった。
「……まあ、黄金ジェットに乗れ? 空はよいぞ。物理的になにもかも忘れられようゆえ」
 ウルカ姐さんの控えめな気づかいで、にゃーたん含む一行は黄金ジェットの発着場に向かった。

●空とかへ
「黄金ジェットにようこそー!」
 小高い丘の上で6体のウルカちゃんがくるくる舞い踊り、その間に作業着を着込んだウルカちゃんたちがわっせわっせと“黄金ジェット”を押してくる。「オーパーツ インカ」とかで検索するとすぐ出てくる、アレである。
「ジェットなんじゃよ空飛ぶんじゃよ!」
 ふんすふんす! 初春が突撃しようと跳ねた瞬間、稲荷姫にべしり。
「落ち着けと言うに! 見よ、エンジンもついとらんではないか!」
 言われてみれば確かに。
 ジェットと言いつつ、飛ぶような機能は見受けられなかった。
「ジェットコースター、みたいなもんやろか?」
 一二三が疑問符を浮かべて顎をしゃくる。
 一応、ここへ来るまでに話は聞いていた。空は飛ぶらしいし、足こぎペダルという名の気合で動かすらしいが……今ひとつ信じられないというか。
「一二三さん、ジェットコースターって、なに?」
 つぶらな瞳をぱちぱち、杏樹が一二三の袖をついと引っぱった。
 あかんやんか杏樹ちゃん! そない目ぇで見られたら、兄はんイタズラしたなるえ?
「決まっとるやろ。地球破壊兵器や!」
 杏樹の見開かれた目から、涙がはらり。
「だめ……壊しちゃ。杏樹、がんばるから……みんな、にこにこな夢、見るの」
 あはぁん! 乙女の純真に打ち据えられた一二三が地にもんどりうって倒れ臥し。
 キリルはその襟を引っつかんで顔を上げさせた。
「はいすんませんした。ジェットコースターは速さと落差のスリル楽しむもんですぅ」
「一二三、あの黄金ジェットは皮を剥くとチョコだったりするのか?」
「それなんのコインチョコ?」
 ふたりはさておき、拓海はメリッサにこそこそと。
「共鳴しよう!」、いい笑顔で言い切った。
「怖いなら乗らなきゃいいんじゃ」
「ここまで来て乗らないわけにいかないだろ。郷に入っては郷に、同じアホなら踊らにゃ損々、毒喰らわば皿! それに、アンが見てるし……」
 メリッサは深いため息をついた。
「ここまでってまだ来たばっかりだし、ふたつめ以降意味不明だし、兄の体面、すでに保ててないし……」
「アン、いっしょに乗ろう! でもふたり乗りみたいだからオレとリサが共鳴するよ」
 杏樹は拓海に任せ、守はひとり黄金ジェットへ乗り込んだ。
「おひとり様?」
 担当ウルカちゃんに訊かれて口の端を吊り上げる。
「サイドシートにはアガリーを指名だ。こんなチャンス、なかなかないんでね」
 ウルカちゃんの絶望は完全無視であった。

 真っ先にジェットを漕ぎ出したのは初春と稲荷姫だ。
「とめいとぅーっ!!」
 狙うは、お見送りに立っていたウルカグアリー!
「夢とはいえ石の御神、獲らせてもらうのじゃーっ!!」
 果たして激突! 燃料もないはずなのに大爆発!
 砕けた黄金ジェットの残骸から這い出してきた初春がげっほげほ咳き込み、辺りを見る。
「石の御神はどこに逝かれたのじゃ?」
 と。
『アバタひとつ損なおうとも、妾は不滅よ。具体的にはあと732回』
 どこからともなく響くウルカグアリーの声。
「ど、どこにいるんじゃ御神ぃぃぃ!?」
「お初……おまえ今びっくりなほど小悪党じゃぞ?」
 本気ボケともっともなツッコミが交錯する中、声は非情に告げる。
『迷惑客にはカパコチャの栄誉を』
 警備ウルカちゃんがわーっと初春と稲荷姫を囲んで縛り上げ、連れて行く。
「む、無邪気な子狐のお茶目に大人げないんじゃあああああ」
 ウルバンバ谷を決死行~(安全だよ)。アンデス山脈よじ登り~(意外と死ぬよ)……歌声が遠ざかり、ついには聞こえなくなった。

「よぉし、行くぞ大空へ!」
 クーと共に座席へ収まったカグヤはペタルを漕ぎ、誘導担当ウルカちゃんの指示に従って滑走路へジェットを運ぶ。
「安全ベルトとかキャノピーとかなし? 車輪もないのになんで漕ぐと動くわけ?」
 いつになく真剣な顔でうろたえるクーにカグヤはぴしゃり。
「気合じゃ! なんかこう、気合があればなんでもできるんじゃ!」
「あの人結局いろいろできなくて借金すごいんですけど……そういえば今日は技術がーとか言わないんだ」
 カグヤはなに言っておるのじゃこの小僧的な顔でクーを見下ろした。
「夢にそんな野暮は言わぬ。なんじゃろなー、クーの野暮天さ加減にお姉様げんなりじゃわー」
「わー、なんかすごいイラっとするー」
 クーの言葉を聞いては聞かずか、カグヤはサムズアップを振り下ろしたウルカちゃんにサムズアップを返し。
「ぐっどらっく♪」
 丘を一気に滑り降り、空へと舞い上がって――そのまま大気の向こうへ消えた。一条の黄金、そのきらめきだけを残して。

「いきなりひとりいなくなってんだけど……」
 ゆらといっしょにペダルを漕ぎながら、亮馬が天を透かし見る。
「ぐわー! 私たちも負けてらんないよ! うひー! りょーちゃんもっと漕いでー! って、空気薄っ!」
 固く目を閉じたまま座席で膝を抱え、ペダルを亮馬に押しつけたゆらが悲鳴をあげながら言い放つ。
「いや、ゆら絶叫系苦手なんだろ? ふたりで空中散歩楽しも」
「りょーちゃんは夫失格だよ!?」
 亮馬がいないほうにつぶったままの目を向け、ゆらが叫んだ。
「愛する私が絶叫系苦手だから、夫がその分脚もげるまで漕ぐんでしょ!? あ、もうマチュピチュ見えた?」
 ゆら、せめて夫が座ってるほうくらいは知ってようぜ? 圧倒的理不尽を叩きつけられながら、亮馬はそれでも妻のために下を見たが。
 現在の高度、9000メートル。マチュピチュなんか雲の下に隠れて見えやしない。
「まだ見えない、かな。ていうかなんでこんなとこまで上がるんだよ。巧妙にセッティングされたエージェント絶対殺すメ――」
 疑問が気合を損ない、結果、墜ち始めた。
「あ、なんか空気濃くなってきた」
「ゆらさんーっ!?」

 その遙か下方、黄金ジェットを漕ぐEbonyとシド。
「付き合いも長くなってきたが、よもやこんなところで愚神の飛行機を漕ぐことになろうとは」
 Ebonyのしみじみとしたぼやきにシドは苦笑を傾ける。
「まあ、夢にケチをつけたところで始まらんさ。夢だからこそゆらを野放しにもできるしな」
 Ebonyは「確かに」と上を見た。
「ちなみに我、身長足りておらんので前が見えんのだが、上から亮馬とゆら嬢が降ってくるのはよく見える」
「なに――?」

「なんであるかこれぜんぜん動かぬぅ! いや動いてるけど飛ばないんであるぅ! うくくっ! 皆と小官とでは差があるというのであるか!? 小官が劣ると……そんなわけない! 小官やればできる子であるのだぁ!」
 どこぞの世紀末なりすまし拳法家みたいなことをいいながら、石畳の上、黄金ジェットでキコキコ進むソーニャことにゃーたん。
「お客さん重すぎんじゃね?」
「重いってゆうか、脚短すぎ?」
「軍服ピンクとかはっちゃけすぎなのがねー」
 横をついてくるウルカちゃんたちが言い合う。攻撃の方向がただのダメ出しになってきたのはご愛敬?
 だがしかし。ただでさえ不本意な有様、それにケチまでつけられたにゃーたんのメートル(昭和的表現)が急上昇する。
「かくなるうえはウルカ姐さん大量召喚である! 何級かは不明だが愚神の総がかりパワーがあれば、小官とて天にぃ!」
「いーやーっ! カパコチャよカパコチャ! おまえじゃなくてアタシたち! 連れてっちまいなー!」
 夢のマチュピチュおいでよメーン(ほぼほぼ廃墟だよ)! インカ! インカ! インカ・アバタ・ランドぉぉぉぉお!!
「うわっ、うわああああああうわらば――」

「キャー兄様助けて!」
 杏樹がペダルの上でがくがく震え。
 黄金ジェットががっくんがっくん揺れた。
 高度的に言えばすでに対流圏を越え、成層圏である。ここまで来ると、世界地図をそのまま見下ろしているようなものだ。それは怖い。
『アンぅ! オレがついてるからお願いペダルから足離して大丈夫だからぁはぁ!!』
 メリッサの内から拓海がそれはそれはたっかい声を出す。平たく言えば悲鳴である。
「兄様、いっしょだから……だいじょぶなの」
 けなげに手を振る杏樹に、メリッサは苦い声を返した。
「兄様っていうか、今姉様ですけどー」
 その少し上を飛ぶジェットでは、一二三が「成層圏、ちょいあったか!」と声をあげていた。ペダル操作にも慣れ、機体を旋回させたり、落ちない程度に振ったり楽しげだ。
 そんな中、キリルはクールに口の端を吊り上げて。
「私を構成する糖質がオクラを下回った」
「なんでオクラ――」
 気合を失ったジェットがぐらり。
「やば! このままやったら杏樹ちゃん巻き込んでまう!」
 そのとき、メリッサが一二三を見上げてうなずき。
『拓海、緊急事態だからパージするわね?』
『なんで脳内会』
「アンちゃん目を閉じて!」
「あ、はい。わかったの」
 メリッサが共鳴解除。飛びだした拓海をそのまま一二三機へと投げつけた。
「漕ぐわよー!」
 杏樹とふたり、すごい勢いで漕ぎ漕ぎ飛んでいき。
「え?」
 拓海が小首を傾げ。
 一二三機と激突した。

「硬い女とくだけた時間。そいつの代償だってなら、過ぎたスリルも歓迎するさ」
 激しくびろびろする前髪をかき上げ、守が傍らのウルカグアリーへ笑みを投げた。
「色男気取りも嫌いではないが、IALは夢の国ゆえ俗世の情は無用だぞ、顎髭」
 落下中とはとても思えないウルカグアリーの玲瓏さ。豊麗なラインを描く黄金の肢体は、まさに輝いて見えた。
「一足飛ばしに焦る気はないさ。次逢えたとき、珈琲でも淹れさせてくれよ。ベロニカを用意しとく」
 ここへ来るまでに交わした他愛のない言葉。その内で守は、ウルカグアリーがペルー産のベロニカ豆を好むことを聞き出していた。
「は。夢路の戯言、妾が憶えておるとでも? して、扇娘は汝(な)が酔狂、知っているのか?」
「友だちになってもいいって許可もらってきた。ま、うちのお嬢は友だち以上の関係は知らないもんでな」
 肩をすくめてみせた守にウルカグアリーはくつくつ喉を鳴らし。
「数寄者よの。ならば、せいぜい追うてみるがよい」
 黄金から気配が失せ、後には守だけが残される。
「――ったく、つれない女神だぜ」

 そのころ、遙か高みにて。
『む、なんぞ愉快な話に似つかわぬ甘ったるい波動が!』
『そんなのよりさー、息できないんですけどー』
『外気圏越えとるからのぅ。……突入するぞ、クー! どこぞの機動戦士にできてわらわたちにできぬはずがない! カグヤ・アトラクア、行くのじゃー!』

●喰らうか踊れ
「カパコチャ……赤い……怖い……」
「もう謎の葉っぱは……油揚げ……くだされ……」
 なにを見てきたんだろうか。初春と稲荷姫はフードコートの隅っこで抱き合ったままガチガチ震え。
「IALは――ジュネーヴ条約に加盟しておらぬ――のにゃ」
 ソーニャはピンクの眼帯から伸び出すフリルをいじいじ、虚ろな顔でコメントする。
「なにがあったんだろ?」
 銀のアフロをゆさゆさ揺らしてクーがカグヤに問い。
「狼狽でも喰らったかと思うたが、そういうものでもなさげじゃのう」
 黒アフロなカグヤが肩をすくめてみせた。
「そんなことより土産じゃ! ウルカちゃんよ、水晶ドクロいっこくれろ! あとウルカ姐さん召喚じゃ!」
 かくてウルカグアリー登場。
「赤衣ならぬ黒衣、なにやらファンキーだな。して何用だ?」
「ちと大気圏でやらかしてな――粘土ひと抱え分くれろ」

「こちらご注文のクイのステーキになりまーす!」
 亮馬、ゆら、Ebony、シドは、ウルカちゃんたちが運んできたそれを見た。
「……ワイルド通り越してんだろ、これ」
 亮馬の絶望はごもっとも。
 ステーキと言いつつ、クイ(テンジクネズミ)の丸揚げがどーんと皿にうつ伏せられているわけだ。
「クイ・チャクタードよ! 軟弱な日本人向けにステーキって言い張る気づかいが素敵!」
「気をつけろ。夢とはいえ愚神の毒やもしれんが塩気が足りん! インカ塩をくれ!」
 もっしもっしとクイを頭から丸かじりなEbony。
「ちょっとエボちゃん躊躇なさ過ぎない!?」
 亮馬の悲鳴に背を向けて、シドはさりげなく立ち上がる。
「ここはひとつ、若い者に任せてオレは散策に」
 がっし。その腕をゆらがつかんでかぶりを振って。
「クイはアンデスの貴重な蛋白源としてずっと昔から」
 シドと亮馬は色を失くした目を合わせた。

「……どう見ても、ネズミダネ? 一二三くん、食べ盛りだろー?」
「いやいやいやいや! ここは年長はんの拓海はんにお譲りさしてもらいますぅ!」
 皿のまわりで争う27歳と21歳。どちらも成層圏で大暴れした結果、アフロであった。
「? なんにも、見えないの」
 杏樹の目をそっと塞いだメリッサが苦い声で言った。
「アンちゃんは見なくていいのよ」
 その傍ら、キリルはウルカちゃんに尖った視線を突きつけている。
「ネズミの糖度はどれくらいだ!?」
「甘いの欲しかったら売店にどぞー。アンデスの東側は超昔からチョコレートの産ち」
「売店かあああああああ!!」
 キリル史上最高速を叩き出し、売店へ。
 その後ろから、やれやれとメリッサが追いかける。杏樹の目を塞いだまま、いっしょに。
「どこ、行くの?」
「見ないほうがいいものがないところ。もうちょっと我慢してね」

「うま! うま! おかわり! あ、次から素揚げじゃなくて天麩羅にしてほしいのじゃ!」
「夢とはいえ、こんなにうまい鼠にありつけるとはの!」
 ネズミの匂いにつられて復活した初春と稲荷姫は絶好調である。
 稲荷狐にとって油揚げは代用品だ。すなわちネズミの天麩羅の。昔話でも、熱々のネズ天を巡る狐の小話が多々見受けられる。
「小麦粉と卵ないから竜田揚げどぞー」
 パパから作った片栗粉で揚げた竜田揚げが提供されたが。
「「竜田揚げは天麩羅じゃないんじゃが」」
「めんどくさっ!」

 ようやく不毛な争いをやめた拓海と一二三に、ウルカちゃんが謎の葉っぱを差し出した。
「試供品よー。ガムみたいに噛んでると楽しいわー」
 ふたりは顔を見合わせ、葉っぱをぱくり。
「苦っ!」
「なんや舌が痺れて」
 それでも噛み続けると歯が赤く染まり、そして。
「なんか漲ってきた!?」
「歯ぁ赤っ! でも、うちも赤い――拓海も赤い――まさか、うちの兄はんではっ!?」
「もしもしオレ! 聞いてよ、今日オレに弟ができたんだって!」
 謎の葉っぱの謎の効能(本物にこんな激しい作用はない)だったが、これ以上は大人の都合でカットなんであった。後でまた出てくるけども。

「……先ほどそれなりにムーディーな別れを演じたはずであったが」
 テーブルの向こうに座すウルカグアリーへ守が笑みかけた。
「あっちの黒衣の君に呼び出してもらったからな。そのまま帰しちまうのはもったいない」
 ウルカグアリーの杯と自分の杯にチチャをそそぐ。……向こうでトウモロコシを噛み砕き、べぇっと壺に吐き出しているウルカちゃんたちから目を逸らしつつ。
 唾液などないはずのウルカちゃんの口噛み酒、どうやって発酵しているものか。
「我が友ぉおおおおおお」
 そこにいきなりカグヤ(アフロ)が駆け込んできて。
「これはいったいどういうことじゃっ!?」
 ウルカグアリーへくわっと粘土の塊を突きつけた。
 水晶ドクロに粘土を盛って復顔したそれは、まごうことなきウルカちゃんの顔。
「わらわ的にはもっとこう、おもしろ系のなにかを期待しておったというに……予想どおりすぎじゃ! というかそなたら、自分で自分の頭蓋骨とか造っておるのか!?」
「大量生産には扱い慣れた型を使うが最適ゆえな。それにしても無駄に技術が高いな。黒衣には次なる暇つぶしとしてサメのようなものの骨をやろう」
 どこからともなく現われたサメのような骨だったが、しかし。
「タイムトラベラーでもなし、難易度高すぎじゃ!」
 サメは骨が体の形に沿っていない(というか骨が少ない)ので、元の形がわからないと復元は不可能なのだ。
 それでも復元を開始するカグヤから目を逸らせば、ラリった拓海と一二三が見えて。守はひっそりチチャをすすりこんでため息をつく。
「なかなかに台無しだぜ……」

「にゃーたんである、にゃー。小官、土産物コーナーに来ているわけであるが、なんだこのチョイスは。昭和か」
 なにかから命じられたレポーター役を律儀にこなしつつ、ソーニャが顔をしかめた。
 土産物として売られているのは水晶ドクロのほか、「マチュピチュ」の文字と遺跡が刺繍されたペナントや「インカ」提灯、「アンデス頂上」絵馬型キーホルダーなど、実に昭和の温泉テイストなものたちなのだ。
「なによりインカなのに黄金製品がひとつもないではないか。夢であるのだからなんでもありだろうに」
 店番ウルカちゃんはあいまいな笑みを浮かべて揉み手揉み手。
「金はほら、お高いからー。それより水晶ドクロいかがー?」
「なぜにそこだけリアルなのだ。貴公らの本体――ではなくメインアバタは黄金だろうが」
「あれ中身空洞だしー。ノリよかったっしょ?」
 夢の国の裏側は、たとえ夢であっても知らぬが花なのだ。
「あ、金って言えば記念メダルが金色よ! 色だけだけどね! 水晶ドクロの次におすすめよ!」
「その異様な水晶ドクロ推しはなんだ!?」

 コーナーの隅に据えられた記念メダル刻印機。
「お土産コーナーの定番じゃな!」
「お初、今しゃべりかけるでない! まちがったら大変じゃぞ? HATSUHARU・INARIHIME――漢字は無理でもひらがなくらいあればのう」
 ガッコン。吐き出されてきたメダルを「おおー」と掲げるふたり。そのまま石畳に座り込み、土産の鑑賞会を開始する。
「このされこうべ、眼が光るのじゃ!」
「ペナント何枚買えば丸くできるかの?」

「水晶ドクロはおすすめされなくても絶対欲しい! 太陽神のレプリカはないの? ペナントは……あり!」
 うきうき土産物を物色するゆらの後ろを、大量の荷物を押しつけられた亮馬がふらふら追いかける。
 その傍ら、かがみこんだEbonyは「怪しい。実に怪しい。しかしむしろそこに惹かれるであろう? ちょー買うがいい。という巧妙な心理誘導が」などと言いつつ、ほいほいと亮馬の荷物に“ウルカちゃん人形”を積んでいた。
「エボちゃんさぁ、普通買わないよね? 買うって発想に至らないよね? だって愚神製だよ?」
「りょーちゃーん! マチュピチュ法被だよー!」
 襟字に「マチュピチュ」、腰柄にディフォルメされた山脈、大紋と控紋にウルカちゃんの顔がプリントされた黄土色の法被を手に駆け寄ってくるゆらの笑顔。
 すでにぺらぺらの法被を着せられていたシドが唇の動きで告げる。あきらめろ。
 そして亮馬は。
「おれわゆらがしあわせならしわよせなんだ」

「ちょこ、だいすきなの。ありがと、です」
 黒い包み紙の板チョコを工場直売ウルカちゃんから受け取った杏樹は、殻を剥き剥きぱくり。
「あ、甘くない……苦い、の」
 くすん。涙目で包み紙を見れば、『アンデスカカオ77パーセント・ブラックチョコ』の文字が。
「杏樹殿、甘みは包み紙の色合いに問うものだぞ?」
 そっと杏樹にミルクチョコを渡したキリルが薄笑み。
「アンデスがもぐもぐカカオのもぐもぐ本場とはもぐもぐ知らなかったもぐもぐ。私はもぐもぐ甘いものがもぐもぐ苦手だが、ほかにもぐもぐ食べもぐもぐもぐもぐ」
「もぐもぐが多すぎてなに言ってるのか不明だわ」
 ツッコむこともできないまま、メリッサはため息をついた。キリルと言えば大胆不敵とか、クールでかっこいいイメージだったのだが……口のまわりチョコだらけだし。
 チョコをかじると、口に拡がる芳醇な香りとほろ苦さ、それらをやさしく包む甘み。
「素朴な味。ザ・原種って感じがする♪」

 法被を着込み、レポート中にもらった『汝も悪よな! インカの山吹色クッキー』をもそもそ食べていたソーニャが顔を上げた。
「む、パレードが始まるようだな――わかっているのである! レポートに行けばいいのだろう!?」

「じゃーみんな、リズムに合わせて手ー叩いてねー」
 同じ顔の2頭身が、同じ黄土色の法被とポイェーラ(何枚も重ねたスカート)姿でIALのテーマ曲を歌ってリズミカルな踊りを披露し、パレードを展開するが。
「パレード終わったら起こしてー」
 クーがぐぅ。ちょうどいい窪みに座り込んで寝始めた。
 そう。ウルカちゃんの数が多過ぎてパレードはなかなか進まないし、歌も踊りも単調で、ぶっちゃけおもしろくないのだった。
「各パート責任者」
 未だ居残っていたウルカグアリーに呼ばれた十数体のパレードリーダーが、まわりのウルカちゃんに拘束されて。
「客を退屈させた責により、カパコチャだ」
 ひぃぃぃぃ! この調子でどんどん間引かれていくウルカちゃん。必死に手を振ったりしてアピールするが、いかんせん歌と踊りにバリエーションがなさすぎる。
「カパコチャ来たのじゃーっ! くっそおもしろくないパレードを応援してきた甲斐があったのう。あ、ついでにクーも捧げとくのじゃ」
 運ばれていくクーを笑顔で見送るカグヤ。実に鬼の所業であった。
「この機械の体(の一部)に流れる電流がささやくのじゃ! なにやらこう、おもしろげなほうに乗ってけと!」
 などとカパコチャ期待派がいる一方、パレード応援派もいるわけで。
「言いたいことがあるんだよっ! やっぱりウルカはカワイイよっ――空気濃いと思ってたら薄」
 声の限りにガチ恋口上していたゆらがばったり。
「高山の上ではしゃぐからだ! 亮馬、酸素ボンベを!」
 シドが亮馬に叫ぶが。
「そんなんねぇし! ウルカ姐さん便利グッズとかないのかよ!?」
 ウルカグアリーは慈愛に満ちた顔を亮馬へ向けて。
「今し方インカローズが大量に入荷したゆえ、アバタを拵えて」
「それ人間辞めるやつぅーっ!」
 ちなみにこのときのEbony、まだ土産物屋で怪しいグッズを漁っていた……。
「こうかはばつぐんだ! である!」
 そして。
 稲荷姫のとなりでパレードに見入っていた初春の気配が消えた。
「? お初。これ、どうしたお初?」
 稲荷姫が揺さぶってみると、尻尾をぴんと立てたまま初春はごとりと横倒し。
 どうやら尻尾の振り過ぎで酸欠を起こし、ブラックアウトしたらしい。
 稲荷姫は少し考え込んで、初春の耳元で「カパコチャカパコチャ」。
「カパコチャ怖いのじゃー!!」
 跳ね起きた初春にウルカグアリーが赤い葉っぱを差し出して。
「謎の葉っぱを喰らうがよい。うきうきするぞ?」
「赤くなるのイヤなのじゃあああああ!!」
 初春の恐怖の正体を知るソーニャは青ざめた顔を左右に振る。あれは、いけない。

 そんなこんなでパレードは続き、ウルカちゃんもどんどん減っていく。IALの規約は厳しいのだ。
「――応援しないと、ウルカちゃん、いなくなっちゃう」
 がんばって応援していた杏樹がぐっと胸の前で拳を握り、「杏樹も、お手伝いするの」。
 ウルカちゃんたちと踊り始めた。さすがアイドル。杏樹が加わるだけで場は華やぎ、彩づく。
「せぇーのっ!」
 拓海の音頭で一二三が片手で支えた顔を横へ倒し、ふたりでファルセットボイスを絞り出して。
「「エルオーブイイー・ラブリー・アンちゃーん!!」」
 それに呼応して倒れ臥したゆらの手がぷるぷる上がり、杏樹にハートサインを送ったり。
「アガリーは踊らないのか? なんならお相手するぜ?」
 守のお誘いにウルカグアリーが肩をすくめて「妾は踊らせるが役ゆえな」とすげなく断られたり。

 一方、なぜかパレードの最後尾ではソーニャがウルカちゃんたちと踊っている。
「ちょっと眼帯ぃー! インカに祖国持ち込むのやめてくれるー!?」
「そうよそうよ! カパコチャれちゃうでしょー!?」
 ウルカちゃんたちのブーイングをくわっと見開いた左眼で吹き散らし、一喝。
「小官だってやりたくてやってるんじゃないにゃーっ! 頭の中に響く怪しげな電波に、この見所などひと欠片もないパレードを盛り上げよと――ええい、黙って小官の指揮下につけい!」
 果たして。
「踏み締め躙るは己 踏み越え行くはあの日」
 軍人アイドルとしてリリースしたセカンドアルバムのテーマ曲を、ウルカちゃんと後進しつつ大合唱。
「最後尾の11体、規律を乱した責でカパコチャだ」
「なぜにゃーっ!?」
 まわりのウルカちゃんたちといっしょに引きずられていった……。

●御柱
 地獄のようなパレードは終わった。
 理由は簡単で、これ以上ウルカちゃんがカパコチャされると最後のアトラクションが稼働できなくなるからだ。
「人力ってか、アバタ力なのか……」
 拓海が乗った黄金ジェットを、ウルカちゃんたちが押したり引いたりして運んでいく。足漕ぎペダルはあるが、これを漕ぐと飛んでしまうので禁止されていた。
「それにしても榊さん、めげないわね」
 となりのメリッサがちょいと指さした先には、ジェットに並んで座る守とウルカグアリーがいた。
「愚神でも神だ。あんまり気軽に呼ぶのもどうかなって思うけど……それに見た目も性格も、オレの嫁のほうがずっといいしぃ」
 拓海の新婚丸出し感にげんなりするメリッサである。

「アイアンパンクにあんじょううれしいウルカ姐はん印の謎合金も買えたし!」
「チョコも爆買いできたしな!」
 一二三とキリルは大きな包みを抱えてほくほくだっったが。
「これ夢だから持ち出せないけど?」
 ウルカちゃんにさらっと言われて、「「え?」」。
 そんなふたりの絶望の中、ふふんふふん劇場が開幕する。

 山の中腹に穿たれた洞窟へ入ると、銀のウルカグアリーがアナウンスを開始した。
『カパコチャ、それはインカ帝国9代皇帝の御代にて始まりました。数年おきに4つのスーユ(地方)から選ばれた思春期の、見目麗しく傷ひとつない肢体を備えた男女が選ばれたのです』
 男女役のウルカちゃん3体と、縛り上げられたソーニャがライトを浴びる。
「待て! 小官すでに傷ものなのだが!」
『小うるさいので謎の葉っぱを摘めておやりなさい』
「んがむぐぐ」
『このようにして1年ほどかけ、男女には謎の葉っぱや貴重なリャマの肉を与えられるのです』
「ようわからん。カパコチャって結局なんなんじゃ?」
 首を傾げる初春。どうやら先ほどカパコチャれた記憶は、あまりの恐怖に封印されてしまったらしい。
「お初はまだわからんでよい。このまま、思いださんままで……」
 稲荷姫が神妙な顔で初春をなだめた。
『そして盛大に送り出された男女はインカの首都クスコで、創造神を始めとする5つの神像を巡り、現世での死を儀式的に演じた後、盛大に送り出されます』
 男女役のウルカちゃんが像役のウルカちゃんのまわりを回ったり、チチャがぶ飲んだり謎の葉っぱむさぼり食ったり、「死ぬ前にたらふく食っとかないとねー」とかなんとか。
「葉っぱと酒は苦痛を取り除くためか。儀式的な死を経て神の国に至るわけじゃ」
 うなずくカグヤへ、銀のウルカグアリーがしとやかに答える。
『男女にはオーバーサイズの衣服が副葬品として添えられます。個神(こじん)的意見ではなく多くの識者の見解ではありますが、神の国で彼らが成長することを見越してのものだったのでしょう』
「りょーちゃん、インカの歴史、実に深いわね!」
 ゆらがうんうんうなずいて、となりで魂抜けた顔をしている亮馬を揺さぶる。
「おれわゆらがしわよせなら」
 後ろを行くジェットにEbonyと共に乗るシドがげんなり。
「これは愉快な夢じゃなかったのか……ようするに生け贄の儀式の話だろう」
 Ebonyは大きくうなずき。
「こうかはばつぐんだ!」
 ウルカちゃん人形の可動部をぐりぐり動かすのに勤しんでいた。
『途中の村々では、男女と同じ年頃の少年少女が男女を歓待し、送り出します。純真無垢な魂だけが、神の国へ行く男女と関わることをゆるされるのです』
「立派に死んできてねー」
「アバタだから死なないけどねー」
「あー、身も蓋もねーわー」
「純真無垢……杏樹は、もう大人だから、だめなの」
 守の代役としてとなりにいるウルカちゃんが杏樹の膝に触れた。
「扇娘は大丈夫! なんなら連れてかれちゃうー?」
 これを見た守が傍らのウルカグアリーにしかめ面を向け。
「おい、お嬢は」
「案ずるな。ネタにならぬ者は連れてゆかぬ」
 基準はネタかよ……別の意味で戦慄する守である。
『山頂まで運ばれた男女は、日の出とともに苦痛なき死を迎え、あるいは眠らされたまま、聖なる山の神(アプ)に抱かれるのです。そして神の国から皆の幸せを永遠に見下ろすのでした』
 土産物コーナーから持ってきたらしい売れ残りの水晶ドクロの山とともに埋められたクーが「んく」。
「肝心のクライマックスが物足りんのじゃー! 苦痛なき死のシーンをはぶくでないわー!」
 カグヤの野次。ちなみにサクっとカパコチャれるのは彼女の相棒だ。
 しかし銀のウルカグアリーはかぶりを振った。
『倫理的処置です。チチャを痛飲したときにネタ出しするものではありませんね……。ああ、ちなみに影ではきちんとカパコチャっていますよ? 「ぐっ! ぐるぢぃ~!(穴の底から飛び出すソーニャの声)」ということで、頂上につきました。最後のアトラクション、アプ・マウンテンをお楽しみくださいませ』
 気がつけば、一同はアンデスの頂上にいた。
 雪を含んだ強い風が噴き抜ける中、ウルカちゃんたちが「せぇのっ」、黄金ジェットを蹴り落とした。
「って、また落ちるのー! まだぜんぜんマチュピチュ見てないのにー! あとカパコチャの真実ー!」
「ゆら。帰ったら1回、ちゃんと話し合おうか? 俺さぁ、嫁さんの真実と向き合うわ……」
 ゆらと亮馬が斜面をまっすぐすべり落ちていき。それを観念した顔のシドと人形に夢中なEbonyが追う。
「きゃー」
 杏樹に続く守はウルカグアリーに流し目からのウインク。
「夢も案外騒がしいもんだ。なら、次はリアルのどこかで逢おうぜ」
「妾はそこここにおる。いつなりと逢いに来るがよいさ」
 その後ろからは打ちひしがれた一二三とキリルが。
「榊はんばっか、なんやいい感じやな。うちはラリった記憶しかないっちゅうに」
「うう、私の糖度が……守るべきたったひとつの誓いが……」
 そして拓海とメリッサ。
「榊はもう、昔の彼女全員に誰が本命なのーっ!? とか詰め寄られたらいいのに」
「拓海の惚気よりはいいけどね。とにかく、寝坊しないではやく起きなさいよ」
 懲りずに銀のウルカグアリーへ突っ込もうとしてウルカちゃんたちに捕まり、簀巻きで投げ落とされた初春が断末魔をあげた。
「石の御神、楽しかったですじゃ~!! またですじゃ~!!」
「出禁くらってそうじゃがな……」
 同じく簀巻きにされた稲荷姫のため息と共に遠ざかっていく。
 それと同時に落とされたのはソーニャだ。
「なぜ小官こんな目にぃぃい、なぜぇ!? せめて、せめてウルカ姐さんを道連れにぃぃぃ!」
 謎の葉っぱの覚醒作用でカパコチャを逃れた彼女は金のウルカグアリーへ襲いかかり、顔面に黄金キックを喰らってそのまま斜面へ。
「カパコチャれてインカパワーを充填したじゃろう? ここぞとばかりに奮闘とかボケ倒しとかリアクションに励むのじゃ!」
 よくわからないうちにカグヤのとなりに還ってきていたクーがばちりと目を見開き。
「オンバシラァァァ!!」
 ごく普通に、カグヤと共にすべり落ちていった。
「ここにきてすかし芸とは! ――ああ、我が友よ、今年もすとーかーするゆえ、また遊んでくれろー」

 2430メートルを一気に駆け下り、エージェントは目覚める。
 それを見送ったウルカグアリーはぽつり。
「夢幻の、ごとくなり」

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • きみのとなり
    加賀谷 亮馬aa0026
    機械|24才|男性|命中
  • 守護の決意
    Ebony Knightaa0026hero001
    英雄|8才|?|ドレ
  • 藤の華
    泉 杏樹aa0045
    人間|18才|女性|生命
  • Black coat
    榊 守aa0045hero001
    英雄|38才|男性|バト
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • 乱狼
    加賀谷 ゆらaa0651
    人間|24才|女性|命中
  • 切れ者
    シド aa0651hero001
    英雄|25才|男性|ソフィ
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 我らが守るべき誓い
    ソーニャ・デグチャレフaa4829
    獣人|13才|女性|攻撃



  • 鎮魂の巫女
    天城 初春aa5268
    獣人|6才|女性|回避
  • 天より降り立つ龍狐
    辰宮 稲荷姫aa5268hero002
    英雄|9才|女性|シャド
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