本部

クリスマスは年に一度しか来ない。

霜村 雪菜

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/12/23 21:59

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掲示板

オープニング

 近年、若者はハロウィンの方が盛り上がると言われているが、それでも年末のイベントとして何かとうきうきするのがクリスマスである。なぜか日本では恋人同士でなければ過ごしてはいけないのかと思われがちだが、本来は家族や友人という親しい人達と楽しい時間を共有する日である。
 H.O.P.E.でも、日頃がんばっているエージェント達への慰労の意味で、クリスマスパーティーを開くことになった。仲のいい人とも、初対面の人とも、一緒に楽しむことができる趣向が凝らされている。何と、とある富豪の粋な計らいで、遊園地が一晩まるまる貸し切りなのだ。何でも以前H.O.P.E.に世話になったお礼だということだ。
 夜間なのですべての運行は難しかったが、メリーゴーランド、観覧車、コーヒーカップ、施設内を走る小規模なジェットコースターは動かせるということだ。
 クリスマスならではのごちそうを楽しめる飲食スペースもある。酒はワイン、ウィスキー、日本酒、サワー、チューハイ、ビールなどからウォッカまで各種取りそろえており、料理は和・洋・中全部で三十品目。デザートにはもちろんケーキもあるし、おまんじゅうや杏仁豆腐なども。
 それぞれ一押し料理があり、和食では金目鯛のお造り、洋食はローストビーフ、中華は北京ダッグ。シンプルだがよい素材を使いその味を生かした一品だ。デザートの注目は、クリスマス特製のフルーツと生クリームたっぷりの巨大デコレーションケーキ。その場で切り分けてもらえる。
 ぜひ、楽しいクリスマスを親しい人達と盛り上がってみよう。

解説

●目的:遊園地を借り切ったクリスマスパーティーを全力で堪能します。
●乗り物
 メリーゴーランド、観覧車、コーヒーカップ、施設内を走る小規模なジェットコースターに乗れます。
●飲食
 酒はワイン、ウィスキー、日本酒、サワー、チューハイ、ビールなどからウォッカまで各種あります。料理は和・洋・中全部で三十品目。デザートとしてケーキ、おまんじゅう、杏仁豆腐など、それぞれに用意されています。
 和食では金目鯛のお造り、洋食はローストビーフ、中華は北京ダッグがそれぞれの一押し。シンプルだがよい素材を使いその味を生かした一品です。デザートの注目は、クリスマス特製のフルーツと生クリームたっぷりの巨大デコレーションケーキ。その場で切り分けてもらえます。

リプレイ

●BLACK NIGHT PARTY
「わ~い、またゆうえんち連れてきてもらったもふ~! うれしいもふ~よあそびわくわくもふ! お昼寝しておめめぱっちりにしてきたもふよ!」
 むすび(aa0054hero002)は、遊園地に入るなり大はしゃぎだ。
 むすびがテンション上がりすぎて転んだりしないか、注意しているのは相方の多々良 灯(aa0054)。今日は、幼なじみの清原凪子(aa0088)と、その英雄白詰草(aa0088hero002)と一緒に楽しむ予定だ。
「さ、遊園地でクリスマスだよ、シロちゃん!」
「ゆーえんちもふ? いっぱいあそぶもふー!」
 凪子と白詰草は、どれに乗ろうかと早くも盛り上がっている。
「遊園地に着いたらまずはメリーゴーランド!」
「めりーごーらんどもふ~シロちゃんと並んでおうまさんにのるもふ~」
 むすびも凪子に賛成したので、まずメリーゴーランドから回ることにする。白詰草とむすびに乗ってもらい、灯と凪子は外側から手を振る。
「たのしいもふ~」 
 むすびは、嬉しそうにしっぽふりふりしている。
「あっ相棒もふ~」
 灯のそばを通る度に手を振るのを、スマホで撮影する。凪子は写真ももちろん、動画撮影も忘れない。
「相棒は乗らないもふ?」
「いや……こういうのは女子や子供が乗るものだからな……」
「楽しいもふよ! 乗ってくるといいもふ~仕方ないもふね、もふが付き合ってやるもふ!」
 強く主張するむすびが何をさせたいのか察し、灯は苦笑した。
「むぅ……仕方ないな」
 そして、共鳴。その姿は十歳くらいの着ぐるみ少年となる。
 万全を期して(?)のメリーゴーランド挑戦。上下に動きながら回転する木馬は、幼い頃の記憶を呼び覚ます。
「なるほど……これは楽しいな!」
 童心に返って、着ぐるみのしっぽをふりふりする灯であった。
 そうして降りてきて共鳴を解いても、わくわくする気持ちは消えない。
「乗り物は全制覇したいよな……燃えてきたぜ!」
 楽しそうな灯の様子に、凪子もにこにこしている。
「次はコーヒーカップ、今度は一緒に乗ろうか」
 これも、遊園地の定番の乗り物だ。
「こーひーかっぷくるくるまわすもふ~」
「真ん中のぐるぐるレバーを回しすぎないように……って目がまわるー!!」
 ハンドルを思い切り回す人がいるのも、コーヒーカップ誕生以来のお約束だ。しかも、なぜか回すのをやめない。泣いて謝るまでやめないのかという勢いだ。
「おめめぐるぐるもふぅ……」
 終わったときには、四人ともぐったりしていた。当然である。
「なぎこはどしたもふー? めのまえぐるぐるもふねー?」
「ちょっとつかれちゃった、かなぁ? シロちゃんも目を回してるし……」
 何とかそう答えた凪子の心意気は、実にあっぱれであった。
 次はゆっくりしたものに乗ろう、というわけで次は観覧車だ。
「みんなでかんらんしゃものりたいもふ~」
 コーヒーカップによるダメージからいち早く回復したむすびは、走って行って行列に並ぶ。
「あっあれにも乗ってみたいもふ~!」
 観覧車の高度が上がるにつれ、見える景色も広がってくる。遊園地の中のいろいろな乗り物を探して、むすびははしゃいでいる。
 しかし、結構歩き回ってお腹もすいてきたので食事をしようということになる。今日のイベントは、和・洋・中併せて三十品目の料理も目玉なのである。デザートのデコレーションケーキなども、みんな楽しみにしていた。
 食事は、園内のちょっとしたレストランで用意されていた。
「わ~い、まちにまったおしょくじもふ~! おいしいおしょくじ、いっぱいたべるもふよ! おむすびもあるもふか? おまんじゅうがあるもふ! おまんじゅうちゃんみたいもふ~」
 ここでもテンションが高いむすび。しかし、それも無理はない。入った途端いい匂いが漂ってきたから。
「……ああ、もうシロちゃんがよだれだらだらしてる。どれも美味しそうだけど、もちろんアルコールは駄目だよ?」
 酒の品揃えも豊富だが、未成年者のためにソフトドリンクやお茶も当然用意されている。
 まずは北京ダックやローストビーフ、一推しの料理を中心に色々食べることにする。本格的なものとなるとなかなか食べる機会がない料理ばかりだ。実際、本場の味はさすがだった。かりかりとした食感とじゅわっと溢れる肉汁が口の中いっぱいに広がる北京ダック、じっくり火を通して旨みを閉じ込めたローストビーフ。和食一押しは金目鯛のお造り。素材の新鮮さと良さを最大限に引き立てた、まさに和食の粋だ。
 他の料理もおいしかったが、量はそれぞれ少し控えめに抑えたのはデザートのためだ。ドリンクはノンアルコールのカクテル風味。大人の味だ。
「シロちゃんはミルクを貰おうか」
 むすびも、同じくミルクにしておく。
 小休止を挟みながら料理を堪能し、いよいよデザートだ。
「……灯ちゃんはだいじょうぶ?」
 甘いものは別腹というのは女子の常識。男子は果たしてどうなのかと凪子は心配したのだが、それは杞憂に終わった。
「ふっ、凪子……俺を誰だと思っている?」
 すべてのメニュー制覇を果たし、肉料理に至っては三周。帰宅したら、匂いをかいだ愛犬おまんじゅうちゃんに怒られそうなくらいに食べて食べて食べまくった灯である。その食欲は、たぶん天とかを貫く。
 というわけで、四人そろってデザートコーナーへ突撃する。
「おっきいケーキがあるもふ! シロちゃん、いっしょにとりにいくもふ!」
 切り分け担当の人のところへ、むすびと白詰草はもふもふと駆けていく。
「おひとつくださいもふ~」
「……食いしんぼだもんね、二人とも」
 微笑ましく見守る凪子の皿も、デザートで山盛りだったりする。ショートケーキや一推しデコレーションケーキはもちろん、ブッシュドノエルやシュトーレンもしっかりもらって、
クリスマスらしいお菓子を漫喫する気満々だ。灯も同様である。
 タピオカドリンクもあったのでそれももらって、テーブルに戻る。いざ、最終決戦だ。
「シロちゃんも急いで食べ過ぎないでね。いっぱい食べるとのど詰まらせちゃうから……ほら、口元にクリームべとべとになってる、ふいてあげるからね」
「もふー、もっとたべたいもふー」
 凪子はかいがいしく白詰草の面倒を見ながら、しっかり皿の中身を平らげている。
「食べ過ぎるのも困りものだけど……」
 という台詞は、もちろん何の説得力も持たなかった。
「おかわりもたくさんするもふ!」
 むすびは、再びデザートを取りに行く。灯もついて行った。どんだけ食べるのだろうか。
 二人が戻ってくるのを待って、凪子はカメラを構えた。今日は来られなかったもう一人の幼馴染にも共有出来るよう、記念写真を撮ろうと思った。
 おいしそうなケーキを囲んで、四人で笑顔になる。
「はい、チーズ!」
 おなじみの合図と同時に、幸せの瞬間がしっかりと形に残った。
 さて、ところ変わってこちらはファリン(aa3137)とダイ・ゾン(aa3137hero002)のコンビ。
「実家を継いだお姉様からご連絡がありまして、わが財閥のアミューズメント部門の発展のため、日本の遊園地を視察してきてほしいとのことですわ」
「一石二鳥の依頼があったもんだ」
 ダイは現在秘書官という肩書きがあるので、今日もファリンから持ち歩くよう指示されたジュラルミンケースを忠実に手に提げている。
 まずはジェットコースター。高いところから一周すれば、園内が見渡せるかなという考えである。
「え、見えるの。ジェットコースターから!? ファリンちゃん動体視力すごいね」
 ダイはジュラルミンケースを預けることも止められたので、仕方なく下で待つことにする。。
「……見えませんでしたわ」
 だいたい予想はしていたが、しばらくしてファリンはぶすっとした顔で戻ってきた。小規模とはいえ、ジェットコースターはジェットコースター。縦横無尽に振り回されるので、見て回るどころではない。まあ、楽しかったようなのでそれはそれでよしとする。
 写真を撮りながら、歩いて園内をまわることにした。だんだんジュラルミンケースが邪魔になってくる。
「このジュラルミンケース車においてきていいかな」
「駄目ですわよ、中身は現金ですし。一億五千万ですからなくすのは少し困りますわ。それにそれを持ってないと秘書っぽくないではありませんか」
「え、アクセサリーなのこれ。え、なくしたら少し困るって程度の金額なの?」
 セレブの感覚は想像を絶する。どえりゃー高価なアクセサリーもあったものだ。
 ジュラルミンケースが、急にずっしり重く感じられるようになるダイだった。
 いろいろありつつ、何とか視察は終了する。これで仕事は完了ということにして、二人はレストランへ向かった。
 どちらかというとスイーツの方をメインに食べたいファリン。ダイも、フルーツをつまみに酒を飲む。
 今日のイベントに参加しているエージェント達で、レストランは賑やかだ。全メニュー制覇とかすごいことをやっている者もいる。店内の装飾も、クリスマスをモチーフとした色彩とアイテムで華やかだ。
 ほろ酔いのダイは、ファリンにグラスを振ってみせる。
「で、クリスマスってどういう行事なの?」
「わたくし存じ上げませんわ。お屋敷では何かプレゼントを貰う事はありましたけれど……」
 ファリンは超絶箱入りお嬢様。何と、巷で催されるクリスマスらしいクリスマスには参加したことがない。
「よくわかりませんけれど、ケーキが美味しいですから気にしない事にいたしますわ」
 それはそれで、当人が幸せならいいかとダイも気にしないことにした。気にするとすればただ一つ、欲張って大きく切り分けてもらったケーキを、いったいいつになったらファリンが食べ終えるだろうかということくらいか。かなりゆっくりなペースだが、それもしかし、些末なことだ。
 平和である。音楽は流れているし、楽しげなざわめきは絶えることがないが、それでも夜のせいか穏やかな静寂が時折ふんわりと心に触れる。
「とても楽しいですわ……でもどうにもしっくり来ませんのよ。大好きな方と平凡な日常をと望んだ事もありますが。戦場こそわたくしの居場所だという思いが日に日に強くなります」
 戦いに身を置くエージェントという存在の業か、それとも彼女の生まれ育った環境と持って生まれた素質が成すものか。
「常在戦場。それもまた生き方だろうさ。何処にいたって俺はあんたの憧れのヒーローでありたい」
 いずれにせよ、ダイにとっての真実はそれだけだ。
 夜は更けていく。平和に浸る戦人すら包み込んで。
 木霊・C・リュカ(aa0068)は、コーヒーカップで酔う人である。食後に乗り物に乗ると大変なことになりそうなので、先にアトラクションを楽しむことにした。英雄のオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)、仲良しの紫 征四郎(aa0076)、ガルー・A・A(aa0076hero001)らと四人で遊びに来ているが、乗り物によっては何人かリタイアがありそうだ。
「遊園地でクリスマス……! なんて素敵なのでしょう!」
「ん。今日は好きなだけ遊んで良いからな」
 しっかり者の征四郎だが、遊園地が楽しいお年頃である。ガルーも、今日はめいっぱい征四郎に楽しんでもらう心づもりだ。
 さて。リュカはまず、大人しくメリーゴーランドで白馬の王子様を気取っておく。
「ねぇちゃんと写真撮ってる!? お兄さんかっこいい!??」
「撮ってる撮ってる」
 真面目に写真を撮っているオリヴィエ。実は、リュカが動きまくるせいでぶれぶれだ。結果、名状しがたい記念写真のようなものがたくさん撮れてしまった。
 メリーゴーランドが終わり、次は何に乗ろうという話になったとき、すかさず征四郎が叫んだ。
「征四郎、次はあれに乗りたいのです!」
 指さしたのは、ジェットコースター。
「身長足りるか?」
 オリヴィエは、乗り物の脇に設置してある身長制限の表を見る。ちょっと失礼に聞こえるが、大事なことだ。身長制限は、ベルトにしっかりはまって落下を防ぐための基準。それより大きすぎても小さすぎても、万が一の大惨事に繋がるのである。
 厳しい戦いだったが、征四郎は無事に基準をクリアした。
「げ。もう無理だって、俺様こっちで休んでるからぁ。お前さんらで行ってこいよ。ここで見てるから」
 ガルーは、絶叫系は少し苦手だ。体格が安全基準を満たしていると言われても、落ちそうな気がして仕方がない。
「もう、ガルーは根性無しなのです。オリヴィエ、行きますよ!」
 リュカも謹んで辞退したので、ジェットコースターの列に並んだのは征四郎とオリヴィエの二人。少し待ち時間が発生しているが、通常営業時の昼間の盛況に比べたら大したものではない。
 ゆっくり進みながら、征四郎はオリヴィエを横目で窺った。
「ガルーは、ちゃんと優しくしてくれますか?」
 オリヴィエは、不思議そうに征四郎を見返す。
「ああ、いえ。最近、一緒にいることが多いようですので」
「……いつも通りだ、優しいかは、知らん」
 行列が進み、いよいよ二人が乗り込む番となる。ベルトをしっかり固定して、コースターがゆっくりとレールを昇っていく。
「何かあったら言ってくださいね。征四郎がガツンと言ってやりますので!」
 オリヴィエは窮屈な状態で何とか手を伸ばし、逞しく育った妹分の頭をわしわしなでた。
「気持ちは有り難く受け取っておく。ほら、落ちるぞ」
 迫る闇の中を、ジェットコースターが流れ星のように滑り落ちていく。
 その様子を下から眺めて、リュカとガルーはだらだらと待っていた。
「何とは言わないけどさ、流石に気づいてるでしょ」
 ぬるくなりつつある自販機コーヒーを啜りながら、リュカはぽつりと言った。
「……。隠し事は良いが。でも、嘘は駄目だと思っている。俺は死ぬ前からそうなんだ。だからそれは出来ねぇな」
 謎かけのような会話。二人が思い浮かべているものは、同じ。
 金木犀。
「ふふっ。じゃあさ、こっぴどく振ってあげてよ。できるでしょ、大人なんだし。初恋は叶わないもの、良いじゃないそれで」
 耳が痛そうにしながらも、ガルーはきっぱりと首を横に振る。
「……それで答えになったか?」
 リュカは、大きな溜息をついた。
 何という、愚直な。
「あーやだやだ、これでもお兄さん心配してるのになー報われないなーっ」
 そうこうしているうち、征四郎とオリヴィエが戻ってくる。抱える想いは、誰も表に出さない。
 四人は、一通りの乗り物を楽しんだあとレストランへ向かう。征四郎は、肉料理を中心にがっつりしたものを食べる。
「ガルーのご飯は、お野菜多めですし、征四郎はこのご飯の作り方を、習って帰りたいです……」
 菜食は身体にいいが、野菜ばかりでは力が出ない。血液がさらさらなだけでは駄目なのだ。世の中は肉だ。
「普段の食事はバランスとかいろいろあるんですぅ」
「……ああ、まぁ、確かに美味いが」
 他の人のお皿に料理を取ってあげたりと、ガルーはかいがいしい。リュカは、ローストビーフと北京ダックをつまみに、ワインをぐいぐい飲んでいる。クリスマスも近いし、という事らしい。
「ふふーふ、せーちゃんいっぱい食べておきなね。多分今年最後の贅沢な外食だよ~」
 ちょっとやけ酒っぽくなっている。なぜかはたぶん、彼自身ともう一人しかわからないことだ。
「甘い物はお兄さんちょっともらう位でいいかな。あーんしてくれてもいいのよ?」
「甘い物は、脳に染みる感覚があるからな。少量でも……」
 きゃっ、とか言うリュカをスルーして、オリヴィエはちょもちょもと料理をつまんでいる。他の三人が持ってきたのを少しずつ分けてもらっているだけなのだが、それで十分らしい。杏仁豆腐にデコレーションケーキには少しだけそわっとする。
「……土産に、少しケーキでも、買っていければいいんだけどな」
 家で留守番している第二英雄達の事を考える。できればみんなで来られればよかったのだが。
「チビちゃん、取れるか?」
 ガルーが、杏仁豆腐とケーキを取り分けてオリヴィエに差し出した。右手の小指には、指輪が光る。
 オリヴィエは、小さく礼を言って皿を受け取った。一瞬だけこぼれ落ちた心は、すぐに隠して。

●ロマンスの神?様
 クリスマス。遊園地。夜のデートとくれば、恋人達の鉄板である。ここに、ロマンチックムードの力を借りて今必殺の初キスを達成してやろうと燃える男が一人。
 麻端 和頼(aa3646)である。べた惚れしている五十嵐 七海(aa3694)をこのイベントに誘うことに成功し、まずは第一段階。今宵のためにムード作りの資料で勉強と下調べもし、準備は万全である。
 さて、ここからが第二段階。すなわち、一緒に来た華留 希(aa3646hero001)、テジュ・シングレット(aa3681)、ルー・マクシー(aa3681hero001)、ジェフ 立川(aa3694hero001)をうまく巻いて、七海と二人きりになること。特に希は「邪魔シよっかどーしよっカナ♪」とか言っていたので、警戒が必要だ。
 それに、七海はルーと希と仲がいい。早くも二人の手を引いて「あれに乗ろうよ!」と、みんなで遊び回る気でいる。
「七海、ルー、ガンガン行こー♪」
「……ちょっと待て」
 希を押しのけ、女組で遊ぼうとする間に割って入る和頼。
「……七海! 今日はオレと二人で行動しねえか?」
 やった。言えた。えいどりあーん。
「……う、うん」
 七海も、戸惑った表情ではあるが頷いてくれた。夜明けだ。日本の夜明けだ。いや今は夜だけれど。
「ネエ! 独り占めしないで七海と遊ばしてヨー」
「……今日くらい、遠慮しろ」
 いつにない迫力の和頼に希も驚く。皆にも、
「……今日は勘弁してくれ」
 エージェントとして敵対する相手にも、こんな鋭い殺気を向けたことがあるだろうか。いや、ない。
 去って行く二人を、すっかり気圧されてしまった四人は「なん……だと……!」みたいな顔でしばらく見送っていたが。
「あの和頼が……」
 二人にと言い切られ思わず咥えタバコを落とすジェフ。
「二人はラブラブ、でもギクシャクで心配してたんだ! くぅ~写真撮りたーい!」
 たくさん写真や動画を撮ろうと思って、ルーは動画用「NoRuN」と、一眼レフや照明も持ってきたという気合いの入りっぷりだった。
「でも今日は、二人の幸せを祈るよ。希、ほらあっちにメリーゴーランド!」
「ウン! 行こう!」
 希もとりあえず気を取り直して、二人でメリーゴーランドへ走って行く。
「和頼が七海と? ジェフ、これは面白い事になったぞ」
 ジェフの落した煙草をポケット灰皿に入れ、新しい煙草を渡すと楽しそうに目を細めるデジュ。
 何しろ和頼は奥手で、七海も純情だ。傍目にもラブラブなのになかなか進展しないという、昔のラブコメみたいな二人だったのだ。もしかしたら、今日何かしら前進するかもしれない。これが盛り上がらずにいられるだろうか。野次馬として。
 さて、二人きりになった和頼と七海。十分に他の面々から遠ざかったのを確かめてから、和頼は口を開く。
「な、七海は何に乗りていんだ?」
 めっさ声が裏返った。思わずしゃがみ込み唸る。せっかく資料読み込んだのに台無しだ。
 だがしかし、恋愛にマニュアルがあるという考えこそがそもそも間違いなのだ。十人いれば十人様々の恋模様がある。
 七海のほうは幸いちょっと強引な和頼にときめいていたし、靴紐がほどけてしゃがんだのかなといい方に解釈してくれていた。
「えっと……ね、ジェットコースターから始って最後にまた乗りたいよ」
 照れた笑みで答える。そのかわいらしさに復活する和頼。ラブラブカップルである。
「空いてるから全部回れちゃうね♪」
「全制覇、出来そうだな!」
 楽しそうな七海の笑顔、一つ一つの反応が幸せすぎて堪らない。爆発すべきカップルである。
 七海は和頼の温かく大きい手を握返し、にこにこ歩く。身長差で歩幅が大きく違うが、必ずペースを合せてくれる。安心出来て、とても好きだ。
 空いているとは言っても、多少は並ぶ。そうしている間周囲が皆七海を見てる気がして、和頼は思わずコートの中に抱き隠す。
「……これなら寒くねえ、だろ?」
「う、うん……熱い位だよ、どうしたの?」
「見せたら、七海に惚れちまう……」
「和頼が格好良いから見てるんじゃ……」
「お、お前! むちゃくちゃ可愛いの、もっと自覚しろよ!」
 小声で拗ねる和頼。
「……はぅぅ……」
 それはないだろうと思いつつ、嬉しいので七海はそっと和頼に頼り添う。お客様の中に導火線をお持ちの方はいらっしゃいませんかというカップルである。
 そんな二人を、ルーはこっそり物陰から追跡し撮影していたりする。希が時々二人の方へ行こうとするので、さりげなく誘導するのも忘れない。そして、希につられてなんだかんだで乗り物も全制覇できそうなので楽しい。
「今日のテーマは幸せ! 腕がなるなぁ」
 他の参加者達もとても嬉しそうにしているので、そちらにもファインダーを向けてしまう。幸せそうな雰囲気の人達はいい。見ている方も満たされる。
 アトラクションから降りてきた和頼は、周囲から人波が途切れた瞬間を見計らって、そっと七海の首にリースネックレスをかける。
「……クリスマスっぽいだろ?」
「可愛い、可愛い」
 七海は頬を赤くして、ネックレスに触れる。和頼からだから更に嬉しい。
 そんな二人は、いちゃいちゃしながら他メンバーと合流する。お腹が空いたので食事タイムだ。
 希は、さっぱり七海と遊べそうにないのでむくれている。またしても、和頼に目で牽制されたのだ。
「ケーキだぁ! 僕にも下さい! 希、あーん、美味しい?」
 すかさずフォローに回るルー。おかげで希の機嫌も直る。
「ワインにブランデー、どの料理も実に美味い。……ケーキは……ルーにとっておくか。甘いのは……二人が振り撒いてくれるしな」
 デジュは微笑み、取ってきたケーキの皿をルーの前に置いた。
「テジュ、このケーキもくれるの? ありがと、別腹だよ~」
 七海は、和頼はもちろんだが他のメンバーとも仲良く料理をつつく。
「何が食べたいかな? シェアしようよ♪」
 北京ダック、ローストビーフ、特製ケーキは外さない。
「パリッとして美味しいね♪ 和頼は美味しそうに食べるから、もっと美味しく感じるよ」
「こっちも旨いな!」
 七海と二人が嬉しくて、和頼は自然と笑顔が溢れる。いつもの彼を知る者が見たら二回くらい見直してしまうだろう。
 ケーキを切ってくれている店のスタッフに、七海は、
「半分こするから大きく切って欲しいな。果物が一杯! ありがとうね」
 にこにことお礼を言う。和頼がむすっとしているのにも気づいたが、その理由まではわからない。
 食事が終わり、再び和頼は七海と一緒に別行動。クリスマスツリーを見に行くのだ。
「和頼のくせに七海独り占めするヨー!」
 希はすっかりふて腐れてしまった。そんな彼女を、デジュがひょいと肩に担ぐ。
「希、次回構ってもらえ。こちらは気にするな和頼」
「フニャ?! テジュ?」
 希を肩に担いだまま、デジュが向かったのは観覧車だ。幸い待ち時間はほとんどなく、すんなり乗り込むことができた。
「……わ! 綺麗だネ~♪」
「あまり不貞腐れるな。いい夜が台無しだぞ?」
 レストランから貰ってきたお菓子を差し出すと、完全に希は機嫌を直した。観覧車から降りて、希は満面の笑みでデジュの腕にしがみつく。
「コーユーのも悪くないネ♪」
 そのまま遊園地を回る二人を見て、ジェフは溜息をつくふりで笑う。
「テジュ、狙われたな……大変だぞ」
 そんな彼は、ルーと行動を共にしている。さっきレストランを出るとき、ルーに耳打ちされたプランに一枚噛むことにしたからだ。
 さて、クリスマスツリーの前。七海は不安な顔をしている。
「どうしたの? 時々辛そう……そんな顔してちゃ嫌だよ……」
 和頼は、うつむく七海を前に心を決める。
「独占していたい。器が小せえって判っても、七海が楽しそうにしてると相手が女でも何かモヤっとしちまう。こんな奴とバレたら嫌われちまうって……七海に嫌われる事は世界中の全てを敵に回すより怖い」
 正直な気持ちの吐露に、七海は微笑む。
「……大丈夫、私も独り占めしたいなって。こんなに素敵な和頼と私が居て良いのかな? って思うよ。伝えてなくてごめんね……不安にさせてたよね」
「……七海……」
 思いが多すぎて出てこない。自然と出た言葉は。
「……好きだ」
 気が付くと七海の唇に自分の唇を重ねていた。七海は一瞬だけ驚いて肩を小さく震わせたが、すぐに目を閉じる。
 その時、物陰に隠れていたルーが動いた。
 一眼レフ三脚で設置、露光最大!
「ジェフ、シャッターお願い!」
 幸せ祈りゲフュールBが二人の周り回る様、投げる。そのタイミングを逃さず、露光を切る!
「えへへ、僕まで幸せ。ジェフありがとう!」
 見事な小道具の使い方とシャッターチャンスにより、キスする二人をハート形の光の軌跡が囲う写真が完成した。ゲフュールBの光は観覧車の上からデジュも目撃していて、ルーがうまくやったことを知った。
「幸せな一枚だ」
 写真を見て、ジェフはそっと呟いた。
「今日をくれた人々へ。メリークリスマス」
この一枚は、後にルーが「メリークリスマス」のメッセージと動画を添えて主催者に感謝を込めて送ったという。

●夜行観覧車
「……セレナ、です。よろしくお願いします……」
「……昂汰、だ……」
「静留、と申します。お二人の……特にセレナさん、貴女のことは常々……」
 合コンみたいな挨拶をしているが、至って物静かな四人組。互いに会釈するセレナ・ヴァルア(aa5224)、葵杉 昴汰(aa5224hero001)、静瑠(aa5226hero001)を眺めていたヤナギ・エヴァンス(aa5226)は、おもむろにセレナの肩を抱き寄せる。
「な? 俺の言う通り、イイ女、だろ?」
「……ヤナギ、相変わらず下品な表現ですね」
「そう固いコト、言うなって」
「趣味だけは完璧ですね、ヤナギ?」
 静瑠の辛辣な物言いにも、ヤナギは慣れっこだ。静瑠の雰囲気はどこか落ち着けるものがあって、ヤナギが一緒にいられるのも何となくわかる。だが。
「……アンバランスだな」
 どこか崩れた様子のヤナギと、寡黙で几帳面そうな静瑠。しかし、だからこそうまくいくこともある。
「では行きましょう」
 セレナを先頭に移動する。何処にだなんて愚問中の愚問。先ずは食べ物。腹が減っては戦は出来ぬ。とは彼女の主張だ。どれも美味しそうなので、片っ端から食べていくセレナ。しかし、如何してもヤナギの紅茶に合うモノを探してしまう。
「相変わらず食べるな……」
「朝飯前です」
「静かな夜に華やかな光、か……悪くねェ」
 ビール片手のヤナギ。セレナの様子に満足しつつ、昴汰の様子も気になる
「コータはこういう雰囲気、好きか? 静留も、だケド……」
「遊園地とは騒がしい場所だと聞いていましたが?」
 静瑠が言う。
「確かに本来の遊園地とは程遠く、幻想的だ。一曲出来そうなくらいだな。……っと、コータ。食わねーなら一緒に飲もうゼ?」
「そうだ、な……飲む方が良い」
 昴汰は早速酒を選ぶ。
「此処の酒、かなりイイ感じだ……遊園地の癖に、な」
「……酒類も確かに悪くない味だな……遊園地というモノは飲食物が美味しいのかは分からんが……」
 食事は終わり、外をしばらく歩くことにする。
「……ライトアップ、か……」
「綺麗な電飾では腹は満たされません」
 色気より食い気のセレナだが、何処かしらライトアップも気に入っている様子ではある。
「静瑠さんもこーたも遊園地、は……初めて……?」
 何となく二人共遊園地というガラでもなさそうだ。人のことは言えないが。
「遊園地は一緒した事が無かった気がする……」
「折角だしさ。観覧車、乗らないか? セレナ。あ、勿論、男子と一緒はお断りだゼ?」
「言われずとも、貴方と密室で二人きり等、遠慮します」
 二つのゴンドラにヤナギとセレナ、昴汰と静瑠で別れる。
 夜を彩る広大な遊園地の不思議さに見惚れるセレナ。そしてヤナギは彼女の横顔を愛しく見つめる。セレナは思う。来年も、その先も、一緒に居られたらどんなに良いだろうかと。
「気に入った、か? 偶には……こう言うのも良いかもな」
「そう……ヤナギ、これ」
 ラッピングした小さな箱を、セレナはヤナギに差し出す。ヤナギは驚いた顔をしたが、すぐに嬉しそうな笑みを浮かべる。
「実は俺からも、な……」
 セレナを手招きし、黒猫の意匠のネックレスを取り出す。ちょっと大人っぽいおしゃれなデザインだ。それを自らセレナに付け、耳たぶにキス。
「with lots of love……」
 セレナと過ごす一年に一度、が来年も続くことを祈って。
 昴汰と静瑠は、特に会話もなく夜景を眺めていた。沈黙は、しかし心地よい。
「……あんたとヤナギは何処となく同じ空気を感じる、な……」
「ヤナギと私、ですか」
「似て非なるモノではあるが」
「昴汰さん……貴方もセレナさん、そしてヤナギとも同じ……そんな空気を持っていらっしゃる気がします」
 昴汰は、煙草を取り出した。
「……煙草は好き、か?」
 長く会話が続く訳では無いが、手持無沙汰にはならない空気は悪くない。
「……あんたは不思議だな……」
 言葉数は少なくとも、何となく居心地は悪くない。
 様々な想いを載せて、夜は進む。観覧車が再び地上に降りる頃には、楽しい時間も終わるだろう。
 しかしたくさんの楽しい思い出は、いつまでも残るのだ。

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結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • もふもふには抗えない
    多々良 灯aa0054
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
  • しっかり者のお姉ちゃん
    清原凪子aa0088
  • 絆を胸に
    テジュ・シングレットaa3681

重体一覧

参加者

  • もふもふには抗えない
    多々良 灯aa0054
    人間|18才|男性|攻撃
  • もっふもふにしてあげる
    むすびaa0054hero002
    英雄|10才|?|バト
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • しっかり者のお姉ちゃん
    清原凪子aa0088
    人間|15才|女性|生命
  • 回れ回れカップ
    白詰草aa0088hero002
    英雄|8才|?|ブレ
  • 危急存亡を断つ女神
    ファリンaa3137
    獣人|18才|女性|回避
  • 我を超えてゆけ
    ダイ・ゾンaa3137hero002
    英雄|35才|男性|シャド
  • 絆を胸に
    麻端 和頼aa3646
    獣人|25才|男性|攻撃
  • 絆を胸に
    華留 希aa3646hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 絆を胸に
    テジュ・シングレットaa3681
    獣人|27才|男性|回避
  • 絆を胸に
    ルー・マクシーaa3681hero001
    英雄|17才|女性|シャド
  • 絆を胸に
    五十嵐 七海aa3694
    獣人|18才|女性|命中
  • 絆を胸に
    ジェフ 立川aa3694hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
  • エージェント
    セレナ・ヴァルアaa5224
    人間|18才|女性|攻撃
  • エージェント
    葵杉 昴汰aa5224hero001
    英雄|24才|男性|シャド
  • ダウンタウン・ロッカー
    ヤナギ・エヴァンスaa5226
    人間|21才|男性|攻撃
  • 祈りを君に
    静瑠aa5226hero001
    英雄|27才|男性|シャド
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