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【白刃】黒き森へ

蘇芳 防斗

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/10/24 19:44

掲示板

オープニング

●H.O.P.E.
「……老害共が、好き放題に言ってくれる」
 H.O.P.E.会長ジャスティン・バートレットが会議室から出た瞬間、幻想蝶より現れた彼の英雄アマデウス・ヴィシャスが忌々しげに言い放った。
「こらこらアマデウス、あまり人を悪く言うものではないよ」
 老紳士は苦笑を浮かべて相棒を諌める。「高官のお怒りも尤もだ」と。

 愚神『アンゼルム』、通称『白銀の騎士(シルバーナイト)』。

 H.O.P.E.指定要注意愚神の一人。
 広大なドロップゾーンを支配しており、既に数万人単位の被害を出している。
 H.O.P.E.は過去三度に渡る討伐作戦を行ったが、いずれも失敗――。
 つい先ほど、その件について政府高官達から「ありがたいお言葉」を頂いたところだ。

「過度な出撃はいたずらに不安を煽る故と戦力を小出しにさせられてこそいたものの、我々が成果を出せなかったのは事実だからね」
 廊下を歩きながらH.O.P.E.会長は言う。「けれど」と続けた。英雄が見やるその横顔は、眼差しは、凛と前を見据えていて。
「ようやく委任を貰えた。本格的に動ける。――直ちにエージェント召集を」
 傍らの部下に指示を出し、それから、ジャスティンは小さく息を吐いた。窓から見やる、空。
「……既に手遅れでなければいいんだけどね」
 その呟きは、増してゆく慌しさに掻き消される。

●ドロップゾーン深部
 アンゼルムは退屈していた。
 この山を制圧して数か月――周辺のライヴス吸収は一通り終わり、次なる土地に動く時期がやって来たのだが、どうも興が乗らない。
 かつての世界では、ほんの数ヶ月もあれば全域を支配できたものだが、この世界では――正確には時期を同じくして複数の世界でも――イレギュラーが現れた。能力者だ。
 ようやっと本格的な戦いができる。そんな期待も束の間、奴らときたら勝機があるとは思えない戦力を小出しにしてくるのみで。弱者をいたぶるのも飽き飽きだ。

「つまらない」
「ならば一つ、提案して差し上げましょう」

 それは、突如としてアンゼルムの前に現れた。異形の男。アンゼルムは眉根を寄せる。
「愚神商人か。そのいけ好かない名前は控えたらどうなんだ?」
 アンゼルムは『それ』の存在を知っていた。とは言え、その名前と、それが愚神であることしか知らないのであるが。
「商売とは心のやり取り。尊い行為なのですよ、アンゼルムさん」
「……どうでもいい。それよりも『提案』だ」
 わざわざこんな所にまで来て何の用か、美貌の騎士の眼差しは問う。
「手っ取り早い、それでいて素敵な方法ですよ。貴方が望むモノも、あるいは得られるかもしれません」
 愚神商人の表情は読めない。立てられた人差し指。その名の通り、まるでセールストークの如く並べられる言葉。
「へぇ」
 それを聞き終えたアンゼルムは、その口元を醜く歪める。
 流石は商人を名乗るだけある。彼の『提案』は、アンゼルムには実に魅力的に思えた――。

●生駒山侵攻
 話は戻り、H.O.P.E.でのアマデウス討伐の方針が固まってから暫く……。
「生駒山に巨大なドロップゾーンを構える白銀の騎士と言う二つ名を持つ、愚神アンゼルムに動きがあり、漸くその討伐が決まりました。その狙いは未だ持って不明ですが、多くの愚神と従魔が集まっていてこれ以上の看過は出来ません」
 そのH.O.P.E.支部の一つで皆を前にその話を切り出したのは、ジェイソン・ブリッツ (az0023)。巨躯の割、穏やかな声でそう呼びかけると周囲の人の輪の中から響く一つの疑問。
「具体的には何を?」
「リラ達はドロップゾーン周辺に蟠っている従魔の群れを掃討するのよ。ドロップゾーンへの偵察は別班が行うから、いわゆるその露払い……よね?」
「その認識で大よそ問題ない、リラ」
 果たして響いたそれへ応じたのは彼でなくその英雄、リラ(az0023hero001)。魔女の様なその装いに、彼と比較すると殊更小さく見える小柄な英雄は、しかしその最後で首を傾げ疑問形で締め括るから、僅かに口元を緩めながら首肯してジェイソンが応じると話を進める。
「同様の作戦で別に動く班もいますが、それでも全ての従魔や愚神の気は引けないでしょう。ですが、ドロップゾーン周辺の偵察を行う班の負担を軽減する事は出来ますし後々の事を考えればいずれにせよ排除しなければなりません。力を貸してくれる方は是非、協力をお願いします」
 これ以上の被害を出さない為にもドロップゾーンの除去と、アンゼルムを含んだ従魔や愚神へ大規模な掃討作戦を行う為の橋頭保を築かなければならない。
 つまりはそう言う事で、言われずとも場に集う皆はそれを実感するから頷くなら次に口を開いたのは、何処か頼りなく見えるリラだった。
「リラ達が担当するエリアは、従魔しかいないみたいなの。それでも気は抜かないで。生駒山の中でも森深い所で、視界は良くないの。でも上手くすれば先手は取れる……のかな?」
「可能な限り、それは狙いたい。私達が担当するエリアに徘徊する従魔は力量こそ私達より劣る様だが若干、数が多いと聞いている」
 その口から発せられたのは二人が担う事となった戦場の情報で、足りなかった従魔に関する情報はジェイソンが即時に補足すると最後に彼は皆を見回せば。
「それ故の、少数精鋭による作戦になります。皆の力、貸してくれるでしょうか?」
 そう締め括り、問い掛けるのだった。

解説

●目的
生駒山に展開されているドロップゾーン近くを徘徊している従魔の掃討
 従魔を倒した数に応じて成功度が変化します

●状況等
生駒山の麓の一角、木々の深いエリア内での戦闘となります

戦闘の時間帯は日中ですが、それでも日の光は遠くエリア内は常に薄暗いです
足場は多少の傾斜こそありますが大きな問題ではなく、行動に際して邪魔になる様な障害物の類も特にありません
但し遮蔽物(森の木々)が多い為、武器によっては上手く立ち回らないと制限を受ける可能性は考慮して下さい

森林と言う地形を利用して奇襲を仕掛ける事もプレイング次第では可能です
成功するかどうかはその内容次第になりますが

●従魔×14
外見や攻撃手段等は個々に異なる、カマキリやクモと言った虫型の従魔です

その詳細は不明も、行動原理は好戦的で攻撃に傾倒する個体が多いようです
また、4匹で1つのグループを組み、あたかもドロップゾーンを守るかの様に森林内を無秩序に徘徊しては何処かしらに一定時間留まって、それを繰り返している事も分かっています

その他、全ての個体に共通している点が二つ
1体1なら能力者に分がある(2対1だと結構厳しい)事と、森や闇に紛れる為の迷彩が外皮に施されている事です
とは言え、その行動原理から徘徊している間なら捕捉は難しくないでしょう

●その他
ジェイソン及びリラに関して、その行動は皆さんが決めた方針に従い行動します
特別、何かしらの指示等あればその際はお手数ですがプレイングにてご指示頂けます様にお願いします

リプレイ

●黒き森へ
 一行は生駒山を目指す。アンゼルムがドロップゾーンを展開している魔の山の、裾野に広がるその森へ。
『折角の主様の戦線復帰一発目が虫退治……あまり華々しいものとは言えませんねー』
 その道中から既に感じる肌を刺す圧迫感を意に介さず、と言うよりは生来の性格故にか、フォート(aa0134hero001)は主様と呼ぶ、バルド(aa0134)にべったり揃い歩きながらのんびりした口調でそう言うも。
「そう言うな。特殊な環境下でのリンクを慣らすには丁度いい」
『りょーかいです! わたしも不肖の身ながら、主様のお力になれるよう全力でサポートしますよー!』
 その主はと言えば、修理を終えたばかりの機械仕掛けの腕の調子を確かめながら彼女を窘める様に言葉を紡いでは返すから彼女とて応じない筈はなく、笑んでは首肯を返すその一方。
(なんで私が、こんな危なそうなところに。逃げたい……けど、ここまで来てそれで逃げて、全体の失敗を招いたりしちゃ駄目だよね……怖いけど、頑張らなくちゃ)
 比較的に皆、意気が高いからこそ密かにそう内心でそう漏らす、アリエティア スタージェス(aa1110)は身を震わせていて、だからその英雄、リアン シュトライア(aa1110hero001)は。
『いつまでも震えてんじゃないわ。さ、やるわよ』
「でっ、でも……あ、危なくなったら守ってね……?」
(……やっぱ場数が足りな過ぎるかしら、意識改革は楽じゃないわね)
 何時もの事ながら叱咤して、だが我が主に向き直れば共鳴を促すも、アリエティアの声は上ずったままで懇願までされれば溜息と共に内心でだけそうごちるがもう目的地は近い。
 それを察し、漸くアリエティアも意を決したなら頷くと二人は早く共鳴を成せばリアンと同じ紅き瞳に変えたアリエティアは生駒山を静かに見つめ、恐る恐るまた歩き出した。

「うわ、暗いなぁ。近付かれてもわかんないかも」
『ならば警戒を怠らないことだな』
 やがて山の中へ入る一行。木々が乱立するだけの薄暗いその光景の中、伊東 真也(aa0595)が漏らした率直な所感に彼女の英雄、エアリーズ(aa0595hero001)はと言えば物静かに、しかし何時もと変わらない辛辣な言葉を返すから殊更に彼女は内心でだけ気を引き締め、起伏の少ない感情に表情はそのまましかし素直に頷くその一方。
「昆虫とか余り好きじゃないんだけど……しかも、それが大きいなんて……」
『えー? 昆虫採集見たいで面白そうだしー♪ いっぱい昆虫採集ー♪』
『そろそろ静かに、ね?』
 一行の中では最年少、狼谷・優牙(aa0131)に、プレシア・レイニーフォード(aa0131hero001)に二人は未だ賑やかに言葉を交わしていたから、メリア アルティス(aa0140hero001)が口元に人差し指を立て諭せば、その最後は優牙がめまいに襲われたところで一区切り。そしてその後を継いで口を開く、トウカ カミナギ(aa0140)。
「敵従魔は4体で1つのグループを組み徘徊していると事前に情報がありますので、先行偵察を担当する者が必要かと思います」
 切り出したその本題は予め相談で決めていた故に皆、首肯して返せば今度はまた決めた通り二班に別れる。
「それじゃあとっとと単純な仕事、始めっとすっか。あぁ、オッサンは俺らと一緒な。何かあれば遠慮なく言えよ。この俺が何とかしてやっからさ!」
 その二班の内の討伐班を担当する、レヴィン(aa0049)が自信に満ちた声を発すると次いで視線を、ジェイソン・ブリッツ (az0023)へ向け言葉を続けそう断言すると、それを向けられた彼はと言えば。
「……えぇ、頼りにさせて貰いますね」
『オッサンじゃないよジェイソンだよ! まったくもー最近の若い子と来たら』
 僅かだけ間を置いて後に頷いて静かにそう応じるもだが、リラ(az0023hero001)は自信過剰な彼の言葉に噛みついて……だがしかし、論点がちょっと違う。
(……本当にこの子も、英雄?)
 その事に慣れているのだろうジェイソンは別段気にする風もなかったが、マリナ・ユースティス(aa0049hero001)に皆はと言えば内心でだけはてと疑問符を浮かべる……その彼女を目の当たりに、『紫の魔女』と言う二つ名からは縁遠そうな気がして。
「それじゃあ始めましょうか」
「きっ、気を付けてね……」
 ともかく、話に最後の打ち合わせも一区切りついたなら真也が響かせた言葉にアリエティアもおずおず頷くと一行は黒き森の中へ飛び込むのだった。

●闇に潜る
(大事な作戦の下準備……しっかりと務めを果たさないと、ですね)
(大丈夫だよ。僕が居るから、気負わずに行こう?)
 さて、偵察班のトウカにメリアはと言えば森の中を静かに駆けながら内心で互いの意志を役割を確認するなら、共鳴を始める。
「我等の想いは常に誰かの為にある事を望む。その願いを誓いに、此処に力を形成し、禍祓いし刃となる」
 響く二人の言葉は努めて静かに厳かに、だが確かに紡がれれば程無くしてそれは成され彼女の髪は金と赤とが入り混じり、右の目は朱に、纏う服はその生い立ちに相応しいそれから動き易さを重視した戦装束へと変貌して、そして直後。
「……あっ、あそこに」
「……意外としっかりした迷彩ですね。徘徊程度の小さな動きだと、見失う事もあるかも知れません」
 相変わらず自信なさげなアリエティアのその声に指し示す方を見ればそこには早速、森の中を蠢き闊歩する従魔の一群を視認する……確かに、動いているからその群れは彼らの目でも見えるが少しでも知恵があったのなら、果たして。
「他のグループは、周囲にいませんね」
(特には、見えないかしら?)
「う、うんっ……私にも見えないよ」
 ともかく見える以上トウカはすぐにその数を数えるなら、彼女の確認にリアンがアリエティアの視界を通していち早く断言するから慌て応じる主。
「じゃあ、連絡しましょう。引き続きアリエティアさんは周囲の警戒を厳に。もし別のグループを見掛けたら教えて下さいね」
 その反応にトウカは携帯端末を手早く取り出し操作しながらそう言えば、何度も頷いてアリエティアは周囲へくまなく懸命に視線を投げる。
 回りに流されエージェントになったが故に危地に晒される事で恐怖を覚え、いつ訪れるか分からない死にも怯える彼女だから、少しずつだろうと自らを変えるきっかけを探す様に。

「早速一つ目、だそうだ」
 同じ頃、討伐班の中でいち早くトウカから届いたメールを確認してそう言葉を発してバルドは簡素でも添えられている情報から従魔が来るだろう方を見れば。
「こーゆー肉体労働は得意分野なんだよ。さって気張ろうか、なぁ!」
「遅れは取らない様、努力しますね」
『ジェイソンたら謙そんしちゃってー』
 漸くの戦闘にやる気を漲らせるレヴィン、バンバンと荒くジェイソンの肩を叩きながら檄を飛ばせば微かに笑んで応じる彼だったが、次いで響いたリラの言葉を果たして真面目に受け取った世界蝕の寵児。
「……本気、出せよ?」
「……皆、こっちこっちー」
 ジェイソンへ鋭い一瞥と共にそう言うからそれには苦笑だけ返すと、お喋りなリラを黙らせるようにか共鳴を成すと優牙の声に応じ踵を返せばやがて皆、木陰の一ヶ所に集い潜むとそれから数分も掛からず従魔の群れは草が擦れ鳴る音を意に介さず荒々しい足音と共に姿を現す。
「数は……四、蜘蛛ばかりのグループ……連絡通りだな」
「それじゃ、このまま潜んでやり過ごしてからその背後を。常套手段だけどね」
 バルトの再確認に皆も頷くなら、次いで密かに声を響かせた真也にもまた首肯を返すと息を詰める事暫し、従魔の群れは五人に気付かず素通りし。
「……行くよっ」
 ならば飛び出す合図を発するのもまた真也、そして同時に飛び出す五人。
「先手、確かに貰ったぜぇ!」
『ギャギィッ!』
 放つ裂帛、雄叫びと共にレヴィンは持つ大剣『コンユンクシオ』を気合と共に殿の蜘蛛型従魔へ叩き付ければ漸く一行の存在に気付く従魔だったが、意外にもその立ち直りは早い。
「……とは言え、気が緩んでいますよ」
(全く。前哨戦なのに、人類に仇成す存在に後れを取るなんて)
「うっせ」
 皆、それぞれに一撃を当てながらも意外と頑丈な巨大蜘蛛のその一匹は対する優牙から踵を返すとレヴィンの横合いから激しい突撃を見舞おうとするがそれは寸で、ジェイソンの持つ槍から繰り出された刺突に牙を砕かれ阻まれるなら次いで、彼とマリナから飛んできた言葉にレヴィンは何処か拗ねる様に応じ。
「そう言うジェイソン君もね」
「助かります」
 もそのジェイソンとてやはり、目標を早々と変えてその背後から粘着性の糸に絡め取られそうになるからその直前で真也が振るった『ツヴァイハンダー』がその蜘蛛の頭部をひしゃげさせ事なきを得たから、大男は彼女のフォローに感謝する。
(それより左右、来るぞ)
「分かってるっ」
 も、その見舞った一撃は大振りであるが故に蜘蛛の群は彼女へ殺到するがそれは早く警告するエアリーズに応じ、真也は大剣を振るい牽制して。
「行けるな、フォート」
(大丈夫です、遠慮なくどうぞです!)
 果たしてそれに怯む蜘蛛へバルドは自らの英雄へ一度だけ確認すればその答えと共に弾ける様、勢い良く地を蹴れば機械の手に持つ死神の鎌をコンパクトに振り回し刃を横に薙ぎ、得た遠心力のままに石突で打ち据えれば徐々に加速する乱打を見舞うなら程無くして吹き荒れる機械仕掛けの暴風に蜘蛛の一匹が吹き飛ばされ、盛大に巨木へ叩き付けられ手は動かなくなる。
「……塩梅は悪くないな。次!」
(優牙さんの動きが……!)
 その、思考し命じられた通りに間違いなく手足が動作し、従魔を叩き伏せた事に安堵の息を漏らす歴戦の兵だったが次いで己が内に響くフォートの声を聞けばそれからの挙動も早い。
「ううっ、近寄ってこないでくださいねっ。そ、そこ、攻撃はさせないのですよー」
(昆虫の甲殻より柔らかい部分を狙ったほうが効果ありそうかな? かな?)
「あんまりじっくりと狙いたくないんですけど……あわわっ」
 果たしてその彼、優牙はと言えば虫の類が苦手だから普段に見せる俊敏な動作は僅かでも影を落とし、プレシアにも何処か集中力を欠いて応じていたから対峙する一匹の蜘蛛が振り上げた鋭い爪を備えた脚を前に、思わず足を止めてしまい。
「大丈夫か?」
「あぅ……はいっ」
「無理をするなとは言わないがもう少し、頑張って貰わないとな」
 だがそれは不意に飛び込んできたバルドの、グリムリーパーによって受け止められれば僅かに一瞥だけしてそう言葉を掛けると、ほんの少しの気遣いと檄を受けた優牙は漸く何時もの動きを取り戻し小型の弩を巧みに操れば、目前の蜘蛛の動きを放った矢で縫い止めるなら。
「……ん」
『次のグループがそちらの方へ向かっています。早めの討伐を』
 その蜘蛛へジェイソンが繰り出した刺突と同時、真也は後退しつつ震える胸元から素早く小型端末を取り出し操作すると果たして踊っていた文字を見るなり自身にエアリーズの内からライブスを迸らせ、広く業火を放つなら悲鳴に近い雄叫びを上げる蜘蛛の群れ。
「じゃあとっとと蹴散らして、次の群も喰らおうか!」
(えぇ、正義は速やかに成さねばなりません)
 上がったそれは皆と接敵したものよりも小さく、間もなくこの戦いは終わるその事をいち早く察して刹那主義たるレヴィン、楽しげに叫べばマリナもまたその意に応じて。
「とりあえずこの群れを排除して、一度やり過ごしましょう」
「んなっ、オッサン何言って……」
「落ち着いて。彼の判断は間違っていないよ?」
 だがそれにジェイソンが首を左右に振るから噛みつく彼だったが次いで真也も頷いてはぱちくり、瞳だけ瞬かせては宥めジェイソンの提案に首肯するなら。
「……わぁったよ。ったく!」
 思考は僅か、他に意見も挙がらなければ漏らした溜息で呼吸を整えればそう叫んで応じて後、地を蹴り飛びあがってはまだ蠢く最後の蜘蛛へ掲げる大剣に全体重を乗せ貫いた。

●掃討戦
「あっ」
 黒き森のその一角で偵察班の二人、トウカとアリエティアは気配を殺しながら周囲に異変があってもすぐ動ける様に身構えていたが、不意に小さく短くもアリエティアが端末に視線を落として直後、珍しくも驚きの混じった声を発するなら。
「討伐班から連絡で、三つ目のグループも無事に殲滅出来たって」
「これで残るは三匹ですね。なら皆と合流して掃討戦を……」
 その理由を自身の端末を見て理解するトウカは僅かに安堵の溜息を漏らし、故に残る従魔の捜索をすべくアリエティアと揃い静かに動き出し……しかし、紡がれた言葉は途中で切れる。
「えっ、え……?」
(落ち着きなさい、下手に大声を出したら勘付かれるわよ)
 その異変はアリエティアも気付き、今度は口元を掌で抑えながら表情にも明らかな狼狽を露わにするからリアンが宥めるその間、急ぎ近くの藪へ彼女を半ば引き摺る形で身を潜め。
「……合流しなければなりませんが少しの間、身を隠しやり過ごす必要がありそうですね」
 先とは裏腹な溜息を漏らしながらそうごちてトウカ、目の当たりにした異変を討伐班の面々へ連絡すべく一先ず端的に端末へ打ち込んだ。

 二人が『異変』に遭遇するより僅か前、討伐班の面々はと言えば比較的間隔を置かず三度の戦いを経て、次の連絡を待ちながら木陰に潜みながら一時の休息を取る。
「さて、次はどうするよ?」
(あなたも考えなさい、正義の為に)
「一先ず偵察班からの連絡を待とうか。その状況如何で判断するとしてそれまでは少しでも、休んでおこう」
 その中、一つの疑問を発したのはレヴィンだったが程無くしてマリナからそんな辛辣な言葉が返ってくるから途端に渋面を浮かべる彼の様子に何があったか薄ら察してバルドがそう言えば皆も異論ある筈はなく、首肯すればささやかな音量で久方振りの会話に興じる。
「き、奇襲だけは出来るだけされないようにしないとですねー……こ、昆虫に奇襲されるなんてごめんなのですっ」
(でも結構昆虫ってイキナリ飛んできたりするけどねー♪)
「そ、そういうこと言わないでよ!?」
 も休息とは言え、対峙する敵が苦手な物だから優牙としては心の底から休まる筈もなく辺りへ忙しなく視線を投げながらプレシアから返ってくる言葉に身を震わせるその反応に皆、思わず表情を緩めるも。
「しっかし虫の従魔なぁ……虫取り網でも持ってくるべきだったか?」
(馬鹿なこと言ってないで集中してください! 従魔は何時来る分かりませんよ)
 一方の自信過剰なレヴィンはと言えばそんな彼とは裏腹、相変わらずのふてぶてしい態度でそんな事を言うからまたマリナに叱咤されるも、今度は僅かに眉を潜めただけで彼。
「よォ、あれから調子はどうだオッサン」
(またオッサン言ってる……!)
 応急処置を自前で施すジェイソンの方を見てはそう尋ねるのも今までと変わらない調子だからリラは密かに唸るが、それは誰にも聞こえる筈はなく。
「皆さんのおかげで、何とか……」
「俺には負けるけどまぁ筋はいいみたいだからよ、後少し頑張ろうぜ」
 ジェイソンだけが口元に苦笑を僅かだけ張りつけながらそう応じると、果たして自称主人公と称する彼はと言えば、相変わらず謙そんする彼へ初めて人の良い一面を覗かせるも……その時不意に、皆が持つ携帯端末が揃い震えたなら休息は終わりを告げる。
『残る一つのグループを発見、数は三。けれど、今までとは違ってかなり特異な従魔です。これから合流を図りますが、初動が遅れたので到着は遅れます』
 皆それに気付くからそれぞれに端末を取り出すと果たして画面に踊る文字の群に皆、顔を見合わせる。
「……どうやら、気を引き締めた方がいい様だ」
「うん、そうだねー」
 油断なく響いたその重厚なバルドの声に優牙も普段の調子を取り戻してか明朗に応じるも、しかし気掛かりが一つ。
(しかし、特異な虫とは……)
「単純に考えるなら、巨大とか……そう言う事でしょうか」
「そんな簡単な筈はねぇだろ、それなら目立って……」
 思案を重ねるエアリーズへ真也は至ってシンプルな思考からそう答え、それはないと彼が言葉を返す代わりにレヴィンが果たして言葉を返した直後だった。
(あながち、外れじゃなかったようですね)
(あわわわわ……)
 がさり、皆より高い位置で木の枝が擦れる音がすれば皆慌て木陰へ身を滑らせてはそちらへ視線を投げると皆の誰よりも高い位置に頭部があるカマキリを見て唖然とする中、真也だけはその推理が的中した事に誇らしげな笑みを浮かべるが優牙はと言えば、また悪い病気がぶり返し。
(ほらしっかりしっかり! 目とかお腹とか柔らかそうな場所を狙って撃つべし、撃つべし、だよ♪)
(わっ、分かってる……!)
 だからそれは次いで己が内で響くプレシアの、何処か楽しげな響きが含まれる叱咤に何とか吹き飛ばせば、こちらに気付かないまま通り過ぎようとするその群の背後をもう震えず躊躇わずに射ればそれを端、最先に飛び出すレヴィンに他の皆も巨躯を前に怯まずバックアタックを仕掛ける!
「どうせ図体だけだろ……!」
 その初動は一貫して一行が先手を取り続けるもしかし、それ故に自信過剰な彼がそう高をくくりながらも振るった大剣の一撃は背の甲殻のみを切り裂くのみに留まり。
「……図体が大きいからでしょうか、いささか固いですね」
「だが鎌は鈍らだな。その程度で俺達は倒せん!」
 次いで見た目の割、鋭い軌跡を槍から生み出すジェイソンのそれも致命的な一撃にはならないから即時、飛び退って距離を置けばそう呟くとその彼と入れ替わってバルトは従魔が振るう大鎌の一閃を死神の鎌で受け、間違いなくそう判断するからそれを押し返せば体勢を崩す大カマキリ。
「遅くなりましたっ!」
 そして響く言葉、それと同時に場へ滑り込んで来たのはトウカとアリエティア。
「さぁ、黙っている時間は終わり。ここからは全力で行くよ。トウカ!」
(ええ、潜んでいた分、思い切りやらせて頂きます!)
 二人もまた従魔の不意を突く形で戦場へと雪崩れ込んでくれば今までの憂さを晴らす様、揃いそう叫んでは体勢が泳ぐ先の従魔へ殴打の嵐を見舞い、覆う甲殻を間違いなく砕くと。
(ほらアリィ、貴方も遅れない!)
「わっ、分かってるよ……っ」
 やがてどうと音を立て地に崩れるそれへアリエティア。リアンに相変わらず叱咤されながらもその腕に嵌める、ハンズ・オブ・グローリーに膨大なライブスを籠めては放てば巨躯を焼けば、その従魔はもう動かなくなったから彼女は安堵の息を漏らすその一方。
「連携は得意で、ね!」
(それ位しか取り柄がないのだろうが)
 皆との連携を常に重視して立ち回る真也、そのスタンスを徹底して崩さないから場をかく乱しては従魔の気を引く事で今ある優位を確保し続けて。
(躾けてやろう。私手ずから、徹底的に……な)
「その体は私が貸しているんだけどね」
 だが攻める事も忘れず、自ら目掛け振るわれる大振りな一撃は樹を盾に凌げばそれをも利用してまた従魔の不意を突く様、その目前に飛び出せば直後に支える足の一本を大剣で間違いなく切り裂き、そして殺到する皆の攻撃。
「温いんだよ。その程度……俺にゃ、足りねぇ!」
 その従魔も既に虫の息だからレヴィンはもう目はくれず、最後の一体へ向き直ると重なる剣と鎌の斬撃が応酬は彼に軍配が上がり、程無くして放った裂帛と共に両腕を斬り飛ばしたなら執行されるのは正義。
「俺が一番強くてカッコいいんだよ!」
「そこです……!」
「……てめぇ」
 の筈が、両腕を飛ばされながら尚も牙を剥いて目前の正義へ噛みつこうと文字通りに食い下がる従魔のその開け放たれた口内へ、今はしっかりとした意志で戦闘に臨む優牙は矢を放ちその高低差からその頭部へまで突き立てて行動を停止させるからレヴィンは彼の方を向き、先よりも厳しく悔しさを滲ませる表情で睨み据えるも……それは、戦いが終わった事を確信したが故の行動だった。

●魔の山からの離脱
「はー……」
 あれから暫く……戦いは終わり、安堵の息を漏らす優牙。レヴィンにあれからあーだこーだと詰め寄られるも共鳴を解いたマリナに今度は彼が説教される羽目となり、漸く諸々の緊張から解放されて漏らしたもので。
「目的は達したから、離脱しよ?」
「そ、そうですね……!」
 僅かでも負った傷を簡単に処置して休憩を挟んでいた一行は真也の言葉を端に立ち上がると、踵を返す。
(まぁ、今回は中々頑張ったんじゃない?)
「……まだまだ、です」
 戦果は上々。弱いとは言え一行の倍に当たる従魔を漏れなく殲滅した事に、何より叱咤されながらでも逃げなかった事に未だ共鳴は解かないままでもリアンはアリエティアを褒めるが……それでもまだ変化の実感はないから彼女は端的に言葉を返すだけだったが、その表情は生駒山に来た時よりも僅かではあったが明るくて。
「それなりにはまぁ、楽しかったな」
『これで、先には繋げられたでしょうか』
「さぁな、まだ作戦は始まったばかりだ」
 そんな彼女とは違う質の笑みを張りつけ言うレヴィンは、まだ伸びる道程の先を見るマリナの誰へともない問い掛けには素っ気なく言葉を返す。
 それは誰も知る筈はなくて、だが優牙もそれでも言葉を重ねる。
「でも本当にこれから……どうなるんでしょうね」
「そればかりは。けれど、これ以上の激しい戦いが待っているでしょう」
 重なる思案も考えれば当然の事、初めて行われる大規模な侵攻作戦を前にそれぞれの心境は図らずも似通ったもので、とは言え今言える事はジェイソンが紡いだ言葉の通り。
「それでもきっと、何とかなるよね」
「……そうだな。あぁ、その通りだ」
「必ず、アンゼルムを倒しましょう」
「ボク達なら、きっと出来る。頑張ろう……!」
 けれど、だから軽やかに歩を踏んで真也は振り返って皆へ向き直り至って前向きにそう言うと、首肯してバルドが応じるからホワイトゴールドの髪をなびかせトウカにメリアも頷き言葉を続けるなら皆は決意も新たにしながら今は一時、山を下りるのだった。

 これから激しさだけが増す戦いに備えるべく。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 世界蝕の寵児
    レヴィンaa0049
    人間|23才|男性|攻撃
  • 物騒な一角兎
    マリナ・ユースティスaa0049hero001
    英雄|19才|女性|ドレ
  • ショタっぱい
    狼谷・優牙aa0131
    人間|10才|男性|攻撃
  • 元気なモデル見習い
    プレシア・レイニーフォードaa0131hero001
    英雄|10才|男性|ジャ
  • エージェント
    バルドaa0134
    機械|55才|男性|攻撃
  • エージェント
    フォートaa0134hero001
    英雄|21才|女性|バト
  • エージェント
    トウカ カミナギaa0140
    機械|18才|女性|回避
  • エージェント
    メリア アルティスaa0140hero001
    英雄|18才|女性|シャド
  • エージェント
    伊東 真也aa0595
    機械|20才|女性|生命
  • エージェント
    エアリーズaa0595hero001
    英雄|28才|男性|ソフィ
  • おうちかえる
    アリエティア スタージェスaa1110
    人間|19才|女性|回避
  • あー楽しかった
    リアン シュトライアaa1110hero001
    英雄|16才|女性|シャド
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