本部

聞かれたくない忘年会

落花生

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2017/12/18 16:54

掲示板

オープニング

「アルメイヤ、今日は……ちょっと用事があるから、夕飯はいらないわ」
「奇遇だな。私もだ」
 自宅で、アルメイヤとエステルは顔を見合わせる。互いに、別の用事が入ることは珍しいことではない。
「ちょっと、知り合いとご飯に呼ばれていて……」
「ああ、私も似たようなものだ」
 それでも、ちょっと気まずくなってしまうのは――招待状にこう書かれていたからなのかもしれない。

『英雄(リンカー)だけの忘年会。相棒の愚痴とのろけなんでもありですぅ』

●居酒屋~英雄側~
『一年、ご苦労さまですぅ。今日は、英雄ばっかりがあつまって自分のパートナーの愚痴とか惚気とかを言いまくってすっきりする会ですぅ』
 小鳥は、にこにこ笑いながらコーラを持っていた。
 よくある居酒屋の、よくある宴会場。
 大きな部屋をふすまで区切っただけのスペースには、英雄たちが顔をそろえて思い思いの顔で飲み物や料理を注文している。
『小鳥にはなにか愚痴とか悩みとかあるの?』
 英雄の一人が、小鳥に尋ねる。
『正義には、いい加減に彼女を作って欲しいんですぅ。常に小鳥とワンセットだから、H.O.P.E内でロリコン疑惑が出てて小鳥としてもちょっと可哀想かなぁと思っているんです』
 ぶほっ、英雄の一人が噴出した。
 あの正義の強面でロリコン疑惑とは――なんか妙に似合う。
『そっちはなんか面白い話はないですか?』
 水を向けられたアルメイヤは、悩んだ末に答えた。
「しいて言うならば、エステルの輝きが日々増していて困っているぐらいだな」
 このときのアルメイヤは真顔だったという。

●居酒屋~リンカー側~
 よくある居酒屋の、よくある宴会場。
 大きな部屋をふすまで区切っただけのスペースには、リンカーたちが顔をそろえていた。
「これから、忘年会もとい相棒の愚痴や惚気を聞いてくれの会を始めるで」
 音頭をとった正義であったが、まさか自分の相棒が同じ店でふすま一枚隔てて同じようなことをやっているとは考えてもいなかった。
「小鳥の奴、なんか彼女つくれって煩くなったんや。でも、異性の英雄を連れ取ると、ちょっと女の子に声をかけずらいし……小鳥も言ってるわりにはそこらへんは理解してくれへんし」
 はぁ、とビールを飲みながら正義はため息をつく。
 というか、おまえは女の子に声をかけるような甲斐性があったのかとリンカーたちは声も出さずに突っ込む。
「まぁ、声をかけても八割の確立で警察に通報されてしまうやけどな」
 さすが、関西人と言うべきなのか正義は自分でオチを作った。
 だが、どこに突っ込めばいいのかいまいち分からない。とりあえず、ナンパのときはサングラスを取るべきだろう。
「……アルメイヤもちょっと過保護で」
 ジュースを飲みつつ、エステルもため息をついた。
 
 こうして、相棒にあまり聞かれたくない宴会は始まった。

解説

居酒屋(夜)……安い旨いがモットーのチェーン店。広い店内には客が大勢いるため、声だけで知り合いを判断するのは若干困難。

英雄側……リンカー側とは元々一つの部屋なのだが、ふすまで区切られている。アクシデントが起こるとふすまが外れることがある。小鳥とアルメイヤがおり、それぞれ話しかけると相棒への愚痴や惚気を語る。

リンカー側……作りはリンカー側と同じ。正義、エステルがおり、話しかけると相棒への愚痴を語る。

御手洗い……店内に二箇所あり、鉢合わせすることもありうる。

レジ……出入り口付近にあり、会計時に英雄側とリンカー側が鉢合わせする。

リプレイ

「今年も一年、お疲れ様でした。かんぱーい」
 それは、忘年会らしい乾杯の音頭で始まった。

●リンカー側
「これが今巷で話題のゆるキャラ白虎ちゃんなんだぜ!! 全商品、俺ちゃんの一からの企画物なんだぜ!」
 一通りの注文がそろうと虎噛 千颯(aa0123)は、さっそく自らプロデュースするグッズをテーブルに並べ始めた。ビール片手の目をキラキラさせて、千颯は語る。
「俺ちゃんは頑張って白虎ちゃんを『ゆるキャラ白虎ちゃん+5』としてゆるキャラ界のレジェンドにするんだぜ!! そしてあわよくば公認ゆるキャラの地位さえ取得出来るかもしれないんだぜ……」
 応援よろしく、と千颯は注文をとりに来た店のお姉さんにまでヌイグルミを渡していた。
「可愛いですよね。いいな」
 食事に精を出していた鞠丘 麻陽(aa0307)の手が止まる。どうやら、店員さんが受け取ったヌイグルミが羨ましいらしい。
「はい、どうぞ。白虎ちゃんは、全人類の味方なんだぜ」
 千颯は笑いながら、ヌイグルミを麻陽に手渡した。
「ありがとうございます! 一緒にから揚げを食べようね」
 にこにこしながら麻陽は、ヌイグルミを隣に座らせる。その前にちょこんと皿と箸を置き、女の子らしい可愛らしさが垣間見えた。
「……この、岩みたいな茶色の塊はなんじゃ……?「カラアゲ」……? イザカヤが食堂とも、ちくと違うんは分かるが……酒場、ちゅう事じゃろうか。子供のワシがおってもええんかのう……」
 蒔司(aa3665)は不安げに、茶を注文する。
「ワシは、とりあえず茶がありゃええ」
 蒔司はそういうが、放っておいたら本当にお茶しか飲まないようなそぶりであった。
 保護者の綺月 緋影(aa3163)は、そんな蒔司の世話を焼いていた。ちなみに蒔司の前にあったバターコーンやから揚げ、ポテトといったいかにも若者向きのメニューは緋影のチョイスである。殆どが、麻陽の胃袋のなかに消えいってしまっていたが。
「カラアゲとは鶏の肉を揚げたもの、か」
 周囲を見ながら蒔司は、から揚げを箸でつまみあげる。ひょいっと小ぶりな肉を丸ごと頬ばると、じゅわっと肉汁が染み出てきた。
「ふあ、熱! ん。うん。悪くないのう……」
 から揚げを気に入ったらしい蒔司は、また一つ。また、一つとから揚げを口に運ぶ。
「どうだ。旨いか? そーかそーか。成長期なんだから沢山食え。お前それじゃなくても細いからなあ。苦手なもんあったら無理すんな。俺が食ってやるからなー。あーんで食わせてくれてもいいぜ」
 せっせと蒔司の世話を焼く緋影の姿に、エステルはため息をついた。アルメイヤのことを思い出したからだ。あそこまで過保護ではないが、アルメイヤは自分のことを心配しすぎだとエステルは思っている。だから、時々彼女の思いやりが鬱陶しく思ってしまうのだ。
「……大人になりたい」
 小さくつぶやくエステルに、VVincent Knox(aa5157)は力強く頷いた。
「分かる。バートも過保護というか、僕を子供扱いしている節がある。たしかに、まだ十四歳なのは分かっているが」
 ふてくされるようにヴィンスは、ジュースを飲んだ。きっと、この場に英雄がいたら虫歯になりますとでも言われたことだろう。そんなことはヴィンスにも分かっている。だが、酒が飲めない以上はジュースを飲むしかない。
「仕事を覚えるのも早いし、要領よく幅広くこなすからバート一人連れていれば事足りる……優秀すぎて逆に腹が立つ!!」
 優秀なのは褒めるべきことだ。
 立場あるものとして、ヴィンスはそれをちゃんと分かっている。だが、飼い犬が賢すぎて、犬のほうが有利に立たれているのが腹立たしいだけなのだ。
「さーて、あのバカもいないことだし、飲むわよ!!」
 夢洲 蜜柑(aa0921)はサイダーを瓶で注文して、自分のコップに注ぎいれる。そして、ぱちぱち弾ける透明な液体を一気に流し込んだ。
「……あー。生きててよかったー」
 中学生とは思えない、親父っぽさである。
 二杯目をコップに注ぎ、ソレも飲み干すと蜜柑の目は据わっていた。
「あンのバカ、中学生ほっぽって夜遊びに行くわ、いつ帰るかも言わないわ、いったい何なのよ。マジありえないんだけど。どーいうことなのよっ!!」
 どん、と蜜柑はコップをテーブルを叩く。
 隣にいた神塚 まもり(aa5534)は、目を白黒させていた。思わず近くにいた緋影に
「この子、お酒を飲んでいるんでしょうか?」
 と尋ねる。
「ソフトドリンクしか飲ませねえ。下手に未成年に酒を飲ませたら出入り禁止になるだろう」と日本酒を飲みながら緋影は言う。
「酒? ワシは飲んじゃあいかんがか? オトナになってから……ふむ……」
 その隣で、蒔司が若干ふてくされていた。
 どうやら、酒に興味があったらしい。
「お皿は流しに持ってかないし、靴下がたまにベッドの下に転がってるし、日ごろからおかしいのよっ!!」
 つまり蜜柑は、テンションと雰囲気に呑まれて酔っているような状態なのだとまもりは判断する。リンカーってストレスが溜まるんだなぁと思いながら、まもりはニコニコしながら聞き手に回っていた。この手腕で大体の男は、彼の財布になっていったのだ。
「あたしの英雄だけ、あんなにだらしないのかしら!」
 若干怒りながら蜜柑は、まもりに意見を求めた。
 その目はやっぱり据わっていて、中学生がしていいような目つきではなかった。まもりは苦笑いしながらも、自分の英雄について語る。
「なつきさんは俺についてたストーカーが愚神であわや……って時に現れたんですけど、なんだか理想の英雄きたーって感じでしたねー。ただまあ、平時はわりと残念なんですけどね。モテそうなのに女に免疫なさすぎィだし。話し方も見た目とのギャップすごいし」
 でも、初対面のときは格好よかったですよ、とまもりはニコリと笑う。
「格好いいか――……俺のところのは女らしい恰好もしろと言いたいな」
 鐘田 将太郎(aa5148)は、はぁとため息をついた。
 寒い夜のお供として注文した熱燗は、今やすっかり冷めてしまっている。その酒を一気に飲み干して、将太郎は口を滑らかにした。
「俺の相棒、嬢の奴、初対面で俺のこと「親父」って言ったんだ。あいつの父親、といっても血のつながりはないんだが俺に似てるんだと。だからって親父はねぇだろう。俺はまだ「お兄さん」だっての!」
 まだ二十八歳だ、と将太郎は叫ぶ。
「俺は、まだお兄さんだよな?」と将太郎は周囲の男性人に問いかける。
「オレちゃん、こう見えても息子いるからか「お兄さん」とはあんまり呼ばれないような気がするぜ」
 千颯は、そういえばと呟く。親同士が集まると、苗字で呼びあったり、●●君のパパと呼ばれることのほうが多くなる。もっとも、子供が関係ない仕事であるならば話は別になってくるが。なお、千颯は二十四歳である。
「俺も、もうさすがにお兄さんという歳ではないな」
 三十も過ぎて養い子もいるし、と緋影は頷く。ちなみに、その養い子である蒔司はなめろうを興味津々で食べていた。
「……この、ぐちゃぐちゃになった……魚? なめろう? タタキ?」 
 と不思議がりながらも、食べる手が止まらないところを見ると気に入ったらしい。「亜莉香も腹いっぱい食いゆうろうか」と今日の集まりにおいてきてしまった相棒のことを考える。
「……人が多くて疲れたか? あー。亜莉香が離れてて不安か。よし、おっさんが抱っこしてやるぞー! ほれほれ遠慮すんなって」
 寂しくなってしまった蒔司の顔を見て、緋影は両手を広げる。
「べ、別に寂しいとかじゃないきに! こんな所で何を言いゆうがじゃ……子供扱いしなちや」
「ハハハ、お前は本当ツレねえなあ。いつになったらデレてくれんのかねー」
 綺月親子がじゃれあっている一方で、将太郎は周囲の男性人の話に少なからずショックを受けていた。
 二十八歳。それはまだ若者の部類にも入るし、親の部類にも入る微妙なお年頃。しかし、いくらなんでも十八歳の娘がいるような歳ではない。将太郎は、そう結論付ける。
「やっぱり「親父」はないな。「兄貴」だな」
 これからも口をすっぱく注意していこうと考える将太郎であった。
「歳相応なのは、いいことなんだよ」
 狐杜(aa4909)は、注文した烏龍茶を持ち上げる。
「わたしは、この見た目だ。酒を、と言いたいところだが、烏龍茶を頼むしかない」
 本当は成人しているのだ、と狐杜は呟いた。
「君の英雄は、本当に君を慕っているのだね。わたしの相方はわたしを嫌っていてね。嫌っているのだけど、面倒見がとてもよいのだ。そして佇まいが美しい。刀を扱っているときは、 それは愛おしそうにしているから嫉妬してしまいそうなのだよ」
 自分の英雄を思い出しているからなのか、狐杜は目を細めて自分のグラスの氷をカランと鳴らす。
「あたしのところは、好き嫌いというよりは都合がいいって感じなのかな?」
 ポテトをもぐもぐしながら、麻陽は首を傾げる。
「あたしの目的は変わった体験を楽しむことで、リスクの少ない相手が一緒にいてくれると都合がいいんだよね。今の英雄は、そんな感じ。たぶん、あっちもそう思っているんだと思うよ」
 冷静に麻陽は、自分の考えを述べる。
「様々な関係があるのだね。わたし達にはない関係ばかいだ」
 それが、羨ましいのかどうか狐杜は自分でも分からない。
 ただ、一つだけ思い出したことがあった。自分と英雄との関係性を張り合うような言葉になってしまわないかが少し不安だが、どうしても彼について言っておきたいことがあったのだ。
「雅な物事に関しては、わたし達はとても気が合うのだよ。最近は寒さと暖かさが交互に来て忙しいが、雪が降ったときに、アオイはとても穏やかな顔で空を見上げていたね。もっとも、わたしに気づいた瞬間いつものしかめっ面だが」
 自分と英雄は、感性がとても似ている。
 生まれも育ちも違うのに、美しいものを愛でる精神は同じだ。狐杜もあの空と雪を見たときに、ほっとしたような気がした。今年の冬は気温が不安定で、なんだかいつもとは違うような不安を感じていたからだ。けれども、ちらつく雪を見たとたんに「いつもの冬なのだ」と実感できた。
「アオイと仲良くないたいという願望は抱いているよ。どうにかアオイに響かないかと模索しているのだが、どうにも上手くいかないのだよ」
 狐杜は、烏龍茶を一口飲む。
 ほろ苦いが、狐杜が欲しい酒の苦さではなかった。
「家での女性比率が上がったせいで、生活の色々な所で気を使わないといけなくてな……正直、息が詰まる思いだ」
 御神 恭也(aa0127)は、千颯相手に愚痴を言っていた。最初こそゆるキャラグッツで励まそうとしていた千颯だったが、年下の友人が家庭のことで悩んでいるのを察して真剣に向き合う。
「あー、女の子が増えるとどうしてもそうなるよな」
「しかもだ、家は男系家系なんで親戚の叔母達が二人を猫可愛がりしてな……可愛がるだけなら良いんだが、虐めて無いかとかセクハラ的な行為をしていないかと五月蠅いんだ」
 千颯は、ちょっと酒を噴出しそうになった。十七歳が十三歳にセクハラって、と苦笑いをこらえるしかない。いや、思春期の息子が女の子と密な時間を過ごしているわけなのだから、家族からしてみたら心配の種なのかもしれないが。
「今一番の問題は俺が親戚連中からロリコン疑惑を掛けられている事だ! 確かに容姿は幼いがあいつはすでに十三だぞ! 俺と4つぐらいしか差は無いんだ!」
「それぐらいの歳の差だったら、恋愛だったら普通に範囲内だよな」
 いつの間にか、聞き手がまもりに変わっていた。
 千颯は、恭也の話で笑いをこらえるので忙しい。
「共通して幼い人物と契約するのは怪しいって、俺が選んだ訳じゃ無いだろうが! なにが「手を出したら切り落とすぞ」だ、俺はロリコンじゃねえ!」
 恋愛的に範囲内かどうかよりも他人にロリコンと思われたくないと強く思っているらしい、と合コンの猛者まもりは恭也の心理状態を分析した。
 同時に、この男は自分では落とせないと判断する。恭也が欲しいのは自分のロリコン疑惑を払拭してくれるようなお姉さまか自分のロリコン疑惑の辛さに同調してくれる男友達である。それを分析したまもりは、さりげなく正義を恭也の隣の席に座らせた。
 落とせない面倒臭い男を、他人に任せたとも言う。
「僕もロリコンって……」
「良田さんもか……」
 ここにロリコン疑惑同盟が結成された。
「英雄が幼いと、その友人もたいてい幼い。だから、俺の側のは子供しか集まらないだけだ」
 恭也はぶっきらぼうに語るが、きっと家族に心配されたに違いない。
「そや。しかも、同年代の女の子は『妹の世話』だと思って、遠慮して近づいてきてくれへん」
 分かる分かる、と正義は頷く。
「正義、女と付き合いたいのならイメチェンもしたほうがいいぜ」
 そのグラサンは怖いぞ、と将太郎が年上らしい助言した。
「合コン、と言うのはやらないのか? 『女性と出会える』とバートから聞いたことがある」
 そんな提案をしてきたのはヴィンスであった。彼自信は合コンというものに参加したことはない。だが、自分の英雄が言っていることに基本的に間違いはない。
 しかし、次の瞬間にはヴィンスは顔を曇らせていた。
「あ、いや、好みの女性は集まりにくいかもしれないな。すまない、余計な事を言った。二人とも、私と同い年ぐらいの女の子が好きなんですよね?」
 健全な青少年ヴィンスの勘違いに、ロリコン疑惑同盟は心に深い傷を負った。
 その様子を見ながら、ふとまもりは英雄の今日の予定に思いをはせた。
「そういや……なつきさんも今日飲み会って言ってたっけ。あの人……なかなか酔わないとは言え酔い癖まじやばいから酔ってないといいけど」

●英雄側
『さーて、あの生意気なちびっこもいないことだし、飲むわよ!!』
 ヴァレンティナ・パリーゼ(aa0921hero001)は、注文したビールを一気に飲み干した。
『……あー。生きててよかったー。おねーさん、御代わり!! 生中ね』
 上機嫌で通りかかった店員に追加のビールを注文するも、その店員が何か見覚えのあるヌイグルミを持っていたような気がする。気のせいだろうか。
「んふー。ちびっこはお酒飲めないからお留守番よー♪ どっか行くとか言ってたけど、知らなーい♪ お酒飲めない年とかマジ損よねー。ありえなーい」
 カラカラと笑いながらヴァレンティナは上機嫌であった。今日は英雄だけの飲み会であり、思いっきり羽根を伸ばすつもりであったのだ。
『このかくとる(カクテル)とは何でござるか? 飲み屋で将棋をするのでござるか?』
 白虎丸(aa0123hero001)はメニュー表とにらめっこしていた。どうやら日本酒を探していたようなのだが、目新しさでカクテルに興味を持ったらしい。
『カクテルだったら、ソルティードックとかお勧めよ。猫なのに犬って、面白いでしょう』
 ヴァレンティナの言葉に『俺は虎でござる』と白虎丸は律儀に返した。だか、もしかしたらこの被り物が若干猫っぽいせいでゆるキャラ扱いされるのかもしれないと白虎丸はふと思った。
『あやつの俺をゆるきゃらというのは辞めて欲しいでござる。俺は武人であってゆるきゃらでは無いのでござるよ』
『ゆるキャラ……ですか』
 ご当地なんかによくいる、とメリオル(aa3163hero001)は尋ねる。白虎丸は、それそれと頷いた。結局カタカナだらけのカクテルの注文はあきらめて白虎丸は、当初の目的どおりに日本酒を飲んでいた。
『ぼーねんかいって何かなあ? よく分からないけど、いっぱい食べていいのよね♪ えっとね、このメニューに載ってるの全部ちゅーもん!』
 亜莉香(aa3665hero001)は、わくわくしながら店員を待つ。
「……なるほど。メニュー全部に御座いますか。頼んだお食事はきちんと全て戴くのが礼儀。まずは少しづつ頼み、食べれるようでしたら追加でお願いされるのが宜しいでしょう」
 メリオルの言葉に、亜莉香は「……うゆ? そおだね、」と若干恥ずかしそうに答えた。
「亜莉香がいっぱい食べちゃったら、お店に来てる皆が食べたいものなくなっちゃったらだめだもの。じゃあね、皆で好きなもの頼んで、ちょっとずつ分けっこしようね♪ めーちゃんいつも誰かの事優先しちゃうから、めーちゃんの好きなもの頼んでいいからね!」
 目をキラキラさせて亜莉香は、あれがいいかな、これがいいかな、とメリオルに訪ねる。
『蒔司ちゃんも美味しいものおなかいっぱい食べてるかな~』
「きっと、たくさん召し上がっているでしょうね」
『あっ、亜莉香はアイスが食べたいな』
「アイスは食後にしましょうね」
 メリオルは、メインになりそうなものをいくつか注文した。
 そんな和気藹々とした光景の隣で白虎丸はため息をつく。
『何かにつけては、俺をゆるきゃらと言って皆の前に出すのでござる。ゆるキャラとは、地方に住まわれる方々のことでござろう? 俺はこちらの地方出身者ではござらん』
 メリオルは、首を傾げた。
 彼自身もゆるキャラの正式な定義を知っているわけではない。しいていえば何となく地方の応援キャラクターにそういうものが多い、という認識だ。だが、別に地方出身者がゆるキャラになるということではないだろう。東京のタワーだってゆるキャラがいるが、あれは首都圏の出身だ……たぶん。
『一体、どうすれば武人の威厳を取り戻すことができるでござろうか……』
 真剣に白虎丸は悩んでいた。
『なら、常にガオーっとやっているのはどうですか?』
 鏡宮 愛姫(aa0307hero001)は、牛乳を飲みながら真剣な顔で提案する。
『虎とは恐ろしいものですから、白虎丸様が本物の虎のように振舞われたら威厳は増すと思うんですよね~』
 愛姫の言葉に、白虎丸は頷いた。
 メリオルは、ちょっと違うのではないだろうかとは思った。だが、口には出さなかった。
『あれ、結局ソルティードックにしなかったの?』
 ヴァレンティナが尋ねてきたので、白虎丸は『俺は日本酒が好きガオー!』とやってみた。ヴァレンティナは死ぬほど笑っていたので、白虎丸はもうやるまいと心に決めた。天然と言われる彼であっても、今のは「何か違う」と察したようである。
『あー、面白い。ちびっこを思い出すわー。去年だか、ドヤ顔でソムリエごっこしながらワイングラスでジュース飲んでやがんの。腹筋が攣るかと思ったわー。蜜柑マジで面白いわー。共鳴すると八頭身だからって、いつもンときに鏡の前でキメ顔でポージングしてやがんのー。この前、見ちゃったしー』
 けたけた笑うヴァレンティナの隣で、そういえばと愛姫は呟く。
『そういえば、一ヶ月以上、お話していない気がしますねぇ?』
 いろいろあって麻陽とはすれ違いの生活になってしまっていた。よく考えないと思い出さなかったのは、麻陽が自立した生活を送っていたからであろう。
『私も、研究と実験ができればかまわないですし……私の実験を面白いと思ってもらっているということは得がたいパートナーってことですよね』
 うむ、と愛姫は牛乳を飲みながら納得する。
『私は主には、振り回されてばかりです。しかし、あからさまに困った顔をするわけにいきません。平気な振りをしてこなして、時にはかわして、余裕の態度でいなければ』
 Albert Gardner(aa5157hero001)は、ふぅとため息をついた。
 いい具合に腹も満たされ、酒も回っており、気が緩んでいるようであった。
『主はいつも気を張りすぎなんですよ。それでつい世話を焼きすぎる時もありますけど……』
 酒を片手にバートは、己の主人を褒め始める。どうやら、普段は表に出せないものが表に出てしまっているらしい。
『すみません。喋りすぎですよね』
 バートは少し恥ずかしそうに、こほんと咳ばらいをした。
『オレはまだこの世界に来たばかりなので、皆さんから色々伺いたいです~』
 高森 なつき(aa5534hero001)は、ニコニコしながらバートの話を聞いていた。英雄として新米のなつきにとって、この会は楽しみにしていたものだ。だが、自分は悪い酔い方をするらしいので、そこだけは気をつけていたが。
『なぁ、男から見て着流しに白衣ってどう思いますか?』
 そんな質問を投げかけたのは、嬢(aa5148hero001)であった。
『兄貴、見た目はイケメンといってもいいんだけど、普段着は着流しのうえに白衣羽織ってんですよね。いきでいなせな着こなしだろ? って言うけど、あたしにしてみれば変。まともな恰好すれば、そこそこモテると思うんですけど』
 いい年だし、もういっそ身を固めたらどうだろうと嬢はため息をつく。子供ができれば自分が「親父」と呼んでも怒らなくなるだろうし、とも考えていた。
『仕事できる、人付き合い良し、見た目いいから服装直せばモテると思うんです。一緒に歩いていると、あたしまで変人みたいに思われるからヤなんんですよ』
『そうですね……男性のファッション雑誌をプレゼントするのはどうでしょうか?』
 お洒落の基本は誰かにマネをすることだ。
 バートは、嬢も普段からファッション雑誌を買うようなタイプではないだろうと考えた。故に真似して欲しい格好が載っている雑誌をプレゼントするような王道のアプローチをしたことがない、と察したのである。
『お二人で同じブランドを着ると、それだけでさまになるものですよ』
『へー、そうなんでしょうか?』
『少し高額になりますが、主が好んでいらっしゃるブランドを紹介いたしましょうか?』
 品がよいのでフォーマルな場面でも使えますよ、バートは進めた。
 幼いながらも高級品を負けない品性をもつ主はやはりバートの誇りである。
 そう思うバートの様子を見ていた蒼(aa4909hero001)は、ぼそりと呟いた。
『俺は、自身の能力者に対して良い感情を抱いていない。とにかく自分勝手が過ぎる。あれは気を引けば構って貰えると思っている子供だ。依頼以外では、少し目を離した隙に何処かへ行くのは日常茶飯事。それに、何故だか俺との約束は破る奴だ。誓約を交わした直後に破りかけた』
 くいっと蒼は、酒を飲み干す。
 腹は熱くなるが、頭まではアルコールがまわっていかない。
『……奴が最初の悪印象をどうにかしようとしているのは知っている。だが、奴はその手段を知らない。見目は、俺より下だが俺と同じか少し上くらいなのにな』
 おろかなやつだ、と蒼は自らの能力者について語る。
 もっと賢しく歳をかさねていれば、自分も今のように彼を嫌わなかったもしれないのに。
『聞いてくださいよ。家のキョウなんですがデリカシーが無さ過ぎると思いませんか?』
 ムッキー、と不破 雫(aa0127hero002)は苛立ちを露にしていた。
『家の私の扱いが8歳の子と同じなんですよ。この前の依頼の時なんて、寝起きで乱れた着衣の私を見て無反応ですよ 無反応、信じられますか?』
 四歳しか違わないのにー、と雫は悔しそうであった。
『別に欲情しろとは言いませんが、少しは照れるとか何かあっても良いと思いません? はっ! 若しかしたらキョウは同性愛者なんじゃ……』
 だから自分を見ても何も思わないのだ、と雫は納得した。
『もっ、盲点だったですぅ』
 小鳥も雫の言葉を聞いて、目から鱗が落ちる思いをした。ここに、ロリコン疑惑同盟がいたら「違う!」と怒鳴り込んでいただろう。
『オレと相棒の子で共鳴すると成人女性になるので~よかったら今度4人で飲みにでも~』
 さすがに同じ男性として可愛そうになってきたので、なつきはここにいない恭也と正義に助け舟を出そうとした。だが、幼い容姿の雫と小鳥は『共鳴したら、ダメです!』『共鳴したら、ダメですぅ』と同時に叫んだ。
 なつきは、心の中で合掌した。
 そして、彼女たち主体で妙な面子の飲み会が開かれても行かないようにしようと心に誓ったのである。
「皆、そろそろ飲み放題が終わりの時間だ」
 アルメイヤが「帰るぞ」と呼びかけた。

●レジ前
 レジの前には、団体客がいた。忘年会のシーズンだから珍しいことではないが、客の一人が店員に何かを無理やり渡そうとしているナンパだろうかと白虎丸は思った。
「ねぇねぇ、店員さんこのゆるキャラ白虎……」
『千颯! ここで何をしているでござる!』
「げぇー! 白虎ちゃん! 何でここにいんの!」
 今日は用事で出かけるって言ったよな、と千颯は呟く。
 それはこっちの台詞だ、と白虎丸も返した。
『……あー。ちびっこー。アンタここにいたのー。幼稚園児が夜に一人でであるくんじゃないですよーん』
 気持ちよくケタケタ笑うヴァレンティナは、恭也の後ろに隠れた。
「やっっっっかましいわっ!! だーらが幼稚園児よ、だーれがっ!! 黙ってろ26歳児っ!!」
 蜜柑の怒号とヴァレンティナの笑い声にはさまれて、恭也は動けなくなった。そんな恭也の腕を雫はがっしりと掴んだ。
『今度、男性しかいない合コンをセッティングしてあげます。遠慮はいりませんからね』
「……ちょっとまて、どうしてそんな話になったんだ」
 ロリコン疑惑から、同性愛者疑惑へ。
 恭也は、大いに戸惑った。
「おまえもここに来てたのか!?」
『兄貴も!?』
 将太郎と嬢は互いに目を丸くする。自分が愚痴った内容がバレたら怒られると思った嬢は、思わず『兄貴、(男性)ブランドの服に興味はないか?』と口走った。
「おまえ、とうとう(女性)ブランドの服に興味を……」
 あ、勘違いされている。
 嬢は思ったが将太郎が感動していたので、口には出さなかったが。
「まさか、同じ会場できみも参加していたとはね。しかし楽しかった。アオイは楽しかったかな?」
 にこりと笑って狐杜は、蒼に訪ねた。
『さてな。……聞かれていないだろうな』
「うん? 何か言ったかな?」
『気のせいだろう」
 蒼は、そっぽを向いていた。
「……珍しく飼い犬が出掛けたと思ったらこんなところにいたのか。奇遇だな?」
 ヴィンスは、バートの連れ立っている連中を見る。どうやら、相手もこちらと同じような忘年会をしていたらしい。それにしても、同じ店に居合わせるなんて――何かの呪いとしか思えない。
『……貴方こそ、珍しいですね。こういう所は好まれないと思っていました』
「いいや、今日は楽しめた」
 にっこり笑いつつ、ヴィンスは支払いを済ませた。後ろは未だに鉢合わせした英雄と能力者で大混乱が起きていて、店員が困惑するほどの言い合いがおきていた。愛姫だけが暢気に『そういえば、先日完成した、新作の胃腸薬が有りましたねぇ。帰宅後に如何でしょうかぁ?』と言っていた。
 
 今宵は、一年に一度の忘年会。
 互いの愚痴を言い合って、すっきりとした気分で新しい一年を迎えられることだろう。
 
 背中で喧騒を聞きながら「たぶん」とヴィンスは付け加えた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 久遠ヶ原学園の英雄
    不破 雫aa0127hero002
    英雄|13才|女性|シャド
  • さようなら故郷
    鞠丘 麻陽aa0307
    人間|12才|女性|生命
  • セクシーな蝶
    鏡宮 愛姫aa0307hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • きゃわいい系花嫁
    夢洲 蜜柑aa0921
    人間|14才|女性|回避
  • オトナ可愛い系花嫁
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