本部

メリーニクヤキマス・再

ガンマ

形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
25人 / 1~25人
英雄
25人 / 0~25人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2017/12/19 18:20

掲示板

オープニング

●焼肉が食べたい

 師走某日。

 世間ではジングルベルが鳴り響き、どこもかしこも赤と緑のクリスマスカラーで、サンタとツリーとケーキとクリスマスソングが町を明るく染めていた。
 今年もこの季節が――そう、クリスマスがやってきたのだ。

 さて。
 ここに、一店の焼肉店がある。
 この焼肉店はかつて、小さな小さな焼肉店だった。そこには、愚神事件によってあわや大惨事――というところを間一髪H.O.P.E.エージェントに救われたという過去があった。
 その時、オーナーは思った。いつか必ず恩返しを、と。
 そして、焼肉店は日本各地にチェーン店を展開するほどの大手へと成長した。
 機は熟した。
 恩返しの時だ、と。
 そんな思いで去年、エージェント達を店に招いて大好評だった。
 なので、今年もやろう。そう決めたのだ。
 だってエージェントは、ずっとずっと世界と人々の為に頑張ってくれているのだから。

「一日焼肉食べ放題です」

 オペレーター綾羽 瑠歌が、エージェント一同を見渡した。
「去年もご招待頂いたのですが、今年もまた招待状が届きました。
 ええ、文字通り、こちらの焼肉店で、食べ放題です。費用は一切不要です。調理や片付けなどもあちらのスタッフさん方が完全にサービスして下さるので、皆様の任務は『焼肉を食べること』のみとなります」
 焼肉店のウェブサイトを印刷したもの――その中にはメニューもある――がエージェントに配布される。店の説明やメニューの内容としては「THE・焼肉の店」、それがおそらく最も分かりやすい説明だ。
「焼肉店のオーナー様から、皆様へのクリスマスプレゼントですね。焼肉と過ごすクリスマス、というのも良いのではないでしょうか」
 ニコリと瑠歌が微笑む。ちなみに彼女、去年もここに訪れていた。なぜって? SNSでは「クリスマスはかれぴっぴと(はぁと)」的な記事まみれで殺意の波動に目覚めているからです。今年もここにいるってことはつまり、以下同文。

 とまあ、焼肉の前に事情や過去など不要である!
 食え! それこそが今という聖なる夜!

 合言葉は――メリーニクヤキマス!!

 

解説

●目標
 焼肉でクリスマス。

●食事について
 焼肉店のメニューにあるものならば大抵あります。
 超弩級大食いも視野に入れていっぱいお肉あるので大丈夫。去年の実績あり!
 なんと生レバーも食べられるのです! 生センマイなどちょっとツウなものもあります。
 サイドメニューも充実。ビビンバとかサラダとか冷麺とか。
 今年からデザートバイキングもできました! チョコレートフォンデュタワーもあります。たくさんのアイスにミニケーキ、果物、エトセトラ。充実スイーツ。
 ドリンクも充実。お酒もあるよ!
 アルコールについては外見年齢20歳以上以外はNGです。外見年齢20歳以上でも設定欄に「未成年」とある場合もNGです。

●状況
 日本某所のとある大型焼肉店。広々、貸切。
 テーブル、お座敷、お好きな席をどうぞ。
 時間帯は夜。
 厨房での調理や片付けなどはスタッフが完全に行うので、そういったお手伝いは不要。
 当然ながらお店に迷惑をかける行為は厳禁です。
 NPCとしてオペレーター綾羽 瑠歌が同行します。黙々と食べてます。修羅。
 今年はジャスティン・バートレットとその英雄達も来ます。

※注意※
 「他の人と絡む」という一文のみ、名前だけを記載して「この人と絡む」という一文のみのプレイングは採用困難です。
『具体的』に『誰とどう絡むか』を『お互いに』描写して下さいますようお願い申し上げます。
 相互の描写に矛盾などがあった場合はマスタリング対象となります。(事前打ち合わせしておくことをオススメします)
 リプレイの文字数の都合上、やることや絡む人を増やして登場シーンを増やしても描写文字数は増えません。
 一つのシーン・特定の相手に行動を絞ったプレイングですと、描写の濃度が上がります。ショットガンよりもスナイパーライフル。

リプレイ

●聖なる夜に肉を焼け01

「「メリーニクヤキマス!」」
「セカンドー!」

 世良 杏奈(aa3447)とルナ(aa3447hero001)が合言葉を唱え、不知火あけび(aa4519hero001)が今年も迎えた聖なる夜に祝いの言葉を添えた。
「……お・に・く……だ!!」
 ユフォアリーヤ(aa0452hero001)もすっかりはしゃぎ、ヒャッホゥと跳び上がる。が、彼女を抱きかかえたのは麻生 遊夜(aa0452)だ。
「いつまで経っても変わらんなぁ……」
「……やーん」
 そのまま座席へ連行されていくユフォアリーヤ。

 焼肉を前に、浮かれる心は皆同じだ。

「お肉をたくさん食べられるんだって。楽しみだな♪」
「俺はタダ酒が飲めるのがありがたいな」
 アンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)とマルコ・マカーリオ(aa0121hero001)は、ワクワクとした様子で席へ向かう。
「お肉お肉~♪ 楽しみだね!」
「ぅ……頑張って、お肉焼いたりしたりする、よっ!」
 御代 つくし(aa0657)とカスカ(aa0657hero002)も、その目を輝かせている。
「肉肉肉、に~く~なのじゃ!」
「落ち着けお初、まずご飯を用意し肉を付けるたれを準備してじゃな」
 天城 初春(aa5268)と辰宮 稲荷姫(aa5268hero002)に至っては、既に口からヨダレが溢れ出している状態だ。

 エージェント達が席に着いてゆく。既にワイワイと賑やかだ。

 その最中、マオ・キムリック(aa3951)は場の雰囲気に圧倒されていた。
「うわぁ……すごい」
 ひ、人がいっぱい! 猫の耳がピンと立つ。その隣ではレイルース(aa3951hero001)もまた、半ば呆然とした様子で周囲を見渡していた。

 さて、そんなこんなで。
 クリスマスの焼肉パーティが幕を開けるのだ!



●鴉と焼肉
「時に、クロウ。アナタは何の肉が好きですか?」
 運ばれてきた肉をトングで網の上へ。几帳面で無駄のない動作の傍ら、アトリア(aa0032hero002)は向かいに座った真壁 久朗(aa0032)へ問うた。
「強いて挙げるなら……タン塩かな」
「……ちっ。ライバルが増えてしまいましたか」
 舌打ちを隠そうともしないアトリア。しれっとした顔で塩タンをひっくり返す久朗。二人の間には、いつぞやのツンケンとした雰囲気はなくなっている。
「セラフィナには留守番をさせて、悪いことをしましたね」
 久朗がひっくり返した塩タンを自分の近くに引き寄せつつ、アトリア。純粋に楽しみに来たからこそ、もう一人の英雄の顔がよぎる。
「……あいつにも、静かな時間は必要だろう」
 久朗は至っていつも通りの表情で、アトリアの方へ寄せられた塩タンを焼けるやいなや自分の皿に持って行った。
「レモン、とってくれ」
「嫌です」
 ジト目で即答するアトリアは、これ見よがしに自分の生レバーにレモンを絞るのだった。
「ぁ、これも、よさそうだなって思ったり……! アトリさん、どう、ぞっ」
 カスカは生センマイの皿をアトリアの方へススッと寄せる。
「赤毛……おまえ前世クマか狼だろ」
 ゼム ロバート(aa0342hero002)が、いわゆる“内臓系”を食べるアトリアに眉根を寄せる。レバーが噛み潰される感触を想像するだけで背骨が痒くなりそうだ。目を逸らすように、近くに座っていた結羅織(aa0890hero002)へ「小さいの、お前は……」と横目に視線を移す。
 が。

「これが生レバー、生センマイ……! 初めて食べましたけれど、とってもおいしいです……!」

 結羅織はキラキラした目で生ホルモンを召し上がっておられた。ゼムはそっと、眉間のシワを深くして更に視線を逸らす。
「ゼム様はホルモン、お嫌いですの? わたくしはミノが好きですけれど!」
 真っ赤なコチュジャンを付けた生センマイに舌鼓を打ちつつ、結羅織が小首を傾げる。ゼムは黙ったまま、笹山平介(aa0342)が良い具合に焼いた上カルビを網から取って頬張るのだった。

 場所は変われど【鴉】の面々はいつも通りなようで――。

 美味しいにおいの煙の向こう、見慣れた面子を佐倉 樹(aa0340)は“左目だけ”で見守る。その右隣にはシセベル(aa0340hero002)が、トング片手に焼けた肉――樹の右側にあるものだ――を網から取る。
「そっちのとってー」
 樹の皿に肉を置きつつ、シセベルは樹から見て左側にある肉をお願いする。「ん」と返事をした樹はいつも通りの様子だ。が……まだ隻眼になって日は浅い。遠近感が微妙につかめず、トングを取る手が一度だけ空振りする。
 そんな樹の補助を、シセベルはあまりしない。シセベルが常に樹の右側を譲らないことを除けば、二人の様子は全くいつも通りであった。
「取ってくる間、お肉見てて~」
 そう言って、シセベルはドリンクバーへ赴くために立ち上がる。空のグラスを、樹だけでなく仲間の分まで請け負った。樹はそんな英雄を見送って、彼女が好きらしいラム肉――スペアリブを淡々とひっくり返しつつ、豚トロを頬張るのであった。
「……、」
 つくしは斜め前に座っている、そんな樹のことを上目で盗み見る。気になるのは樹の目のことだ。
 樹は――自身の目のことを、むしろ誇らしく思っていた。それはシセベルも同様で、誓約者の覚悟を肯定している。だから樹に影のある様子なんてどこにもない。本当に、いつも通りなのだ。
 でも、だとしても、つくしは一度は怒ったのだ。顔を合わせたらまだモヤモヤしてしまう。自分の身体を物みたいに扱うのは止めて欲しいし、怪我をしたら悲しむ人がいることも知って欲しい――大事な友達だからこそ、そうは思うものの。
(いつきちゃん……)
 心の中で名前を呼べただけ。言いたいことを、なかなか口に出せない。心の中で呼んだだけでは、当たり前だが樹は視線を向けてはくれない。結局今日も何も言えないまま、つくしは目を伏せ、気まずさを埋めるように肉をひっくり返した。そのままボーッと、肉が焼けていく様を眺めている……。
「……つくし」
 そんな時だ。突然、久朗が小さめの声で彼女の名を呼ぶ。ボンヤリしていたつくしは「ふぁっ!?」と弾かれたように顔を上げた。そのリアクションに久朗はちょっとだけ目を丸くするも、すぐにいつもの表情に戻っては、樹に聞こえないようこう告げるのだ。
「あの馬鹿のこと、よろしくな。いつか何もかもを失わないように。傍で、守ってやって欲しい。俺にはできないことだと思うから」
「……、……うん。うんっ、もちろんだよ!」
 精一杯、力一杯、つくしはそう答えた。

 一方、十影夕(aa0890)は早くもデザートバイキングにいた。
(先に食べてもいいよね。たぶん)
 とりあえずビールの勢いで、とりあえずアイスとケーキ。空腹のままにあれもこれもと盛り付けて、満足気な様子で席に戻る。
 と、その最中だ。夕は、黙々と肉を焼いているオペレーター綾羽 瑠歌を見かける。いつも本部にいる人だ……そう思っては、一言だけでも挨拶を。
「いつもありがとう。また頑張ろうね」
「はっ!? あ、はい、どうも。こちらこそ、いつもお世話になっております」
 まさか話しかけられると思っていなかったらしい瑠歌は驚いた顔で振り返ったものの、すぐに笑顔でそう返してくれた。

「それは俺が焼いてただろ……」
 夕が戻ると、ちょうど誰ぞに焼いていた肉を取られたらしいゼムが、眉間にマリアナ海溝を作りながらそんなことを言っていた。
「十影さんは何のお肉がいいですかね……♪」
 ゼムの隣の平介は対照的に朗らかな顔で、片手のトングをカチカチ鳴らす。
「カルビ食べたい。ごはんも」
 座席に座った夕がそう答えると、「了解です♪」と平介が骨付きカルビや上カルビと、様々なカルビを盛ってくれる。それからお米と、チシャ菜とサラダも。性分なのか、なんとも世話焼きである。
(笹山さん、優しいよね。サングラスだけど)
 そういえば顔はよく知らない。夕が見やれば、平介は石焼ビビンバの湯気でサングラスが曇っているが笑顔だった。
「御代もごはんいる?」
 そんな平介から、夕はつくしへ視線を移す。
「ごはん? うん、いただこうかなっ!」
 つくしは声を弾ませる。そうだ、今日は十影くんが部隊に馴染むチャンスなんだから――そんな思いを胸に、少女は笑顔を向けるのだ。
「いっぱいお肉食べよーね、十影くん!」
 と、意気揚々に網の上へ肉を並べていくのだ。
 そんな中である。
「十影さん十影さん……」
 ヒソヒソ、平介が夕に耳打ちをしてくる。
 曰く。

 久朗のことだが、どうも最近元気がないように見える。いささか気がかりである。
 なので、彼を元気づけるのに少し協力してくれないか?

 ……とのこと。
(たぶん、ラグナロクのことかな)
 敵が大事な人になっちゃうこともあるんだなーとか、いろいろ。夕は「いいよ」と二つ返事で頷きつつ。
(励ますようなことじゃないのかなとも思うんだけど)
 久朗へと、とってきたアイスを差し出すのだ。
「真壁さん、アイスどれする?」
「……」
 すると久朗は、ゆっくりアイスと夕とを順番に見比べて。
「そうだ……十影には礼を言っておかないといけないと思って」
 何の、と言われると上手くは言えないが。でも、気にしてくれていたのは確かだったから。
「……心残りはあるけど、後悔は、しなかったからな」
 と、彼は薄く口角を持ち上げた。
 その時である。
「辛気臭い話はそこまでですよ」

 どんっ。

 焼けた肉が大量に盛られた皿が、一同の前に置かれる。置いたのはアトリアだ。
「が……頑張って、焼いてみました、というかっ……!」
 その隣では、トングをキュッと握り締めたカスカ。アトリアと一緒に、黙々と肉を焼いていたのだ。
「……誰しも心の休養というのは、必要ですから」
 アトリアは皆を穏やかな眼差しで見渡す。と、目に留まったのは平介だ。久朗の皿に、テラ盛りもかくやな量の肉をヒョイヒョイ積んでいくではないか。物理演算とかあの辺を計算した完璧な盛りだ。崩れない。
「おっと……山もりになっちゃいましたね♪」
 そしてこの笑顔である。が、久朗は嫌な顔を一つもしない。平介が世話焼きなのはいつものことだ。
「平介、いつもありがとな」
 だからこそ彼に任せて、厚意を素直に受け取る。「いえいえ♪」と平介はいつもの笑み。だが彼が盛った肉を、ゼムが横からひょいっと箸で奪って大口に食べてしまうではないか。
「ちょうどいい……なんならやるか? 食べ比べってやつを」
 モグモグしながら言い放つゼム。すると片眉を上げたのはアトリアだ。
「ふむ。受けて立ちましょう。アナタが腹を押さえて無様にうずくまる姿を見たいと思っていました」
「勝負というと……勝ったら何かいただけるのかしら!」
 結羅織も乗り気だ。一対二という状況、しかしゼムは悠然としているどころか、こんなことまで言ってのけた。
「獣の女、ハロウィンの……お前らもそっちにつけ……ハンデだ」
 どうせ女なんだからそんなに胃袋には入らないだろう。ちなみに前者がカスカ、後者がシセベルのことである。
「え? ああ、私は今から大切な仕事があるから……」
 頑張ってね! シセベルはそう笑って、仕事(デザートバイキングでデザートをとってくること)へと旅立って行った。
「ぇ、っと、その……っ がんばろうかと、思ったりっ……!」
 勝負事、と聞いてカスカは緊張しているようだ。緊張し過ぎて右手と左手にお箸をそれぞれ持ってしまう。
「俺、手伝わないよ」
 ウーロン茶を飲む夕は、小さめの声でゼムに言う。ゼムは笑止と言わんばかりに腕を組んだ。

 ――で。

「……大丈夫ですか?」
 ゼムは平介に背中をさすられていた。食べ比べ勝負の結果としてはゼムの惨敗である。喋ると吐きそうになっているゼムは、ただただ平介に背中をさすられている。なお、ゼムの皿に残っている肉は平介がチマチマと食べている。皆の胃袋を計算して焼いていたのだ、食べきれる量を焼いているのだ。流石である。
 では女性陣はというと。
「おいしくていくらでも食べられますから、負ける気がいたしませんね!」
 結羅織は勝負開始時から食事スピードが全く変わっていない。
「ユエラオ……アナタもなかなか……見事な食べっぷりですね」
 ウーロン茶をちびちび飲んでいるアトリアは彼女を横目に、尊敬を通り越して慄いていた。アトリアの隣ではカスカが、胃の為に塩キャベツをポリポリ齧っている。
「塩キャベツを食べますか?」――カスカはアトリアにそう聞こうかと思いつくが。でも、お腹いっぱいなのに勧めるのもよくないかな……ぐるぐる考えつつ、キャベツを飲み込んだカスカはこっそりアトリアを見つめている。
 仲間のことで色々、たくさんあったから……大丈夫かな。ひとまず、落ち込んでいるような様子は見えない。見せていないだけかもしれないけれど……。
「……ぼくは、上手くできないです、けど……お話、聴くくらいはできます、から」
 だからそんな言葉を、精一杯絞り出した。
 アトリアが振り返る。と、そこへ皆の前に置かれたのは、シセベルがドリンクバーから持ってきたドリンクである。
「めしあがれ」
 シセベルが笑む。「ぁ、ありがとう、ございます……!」とカスカがグラスを手に取った。飲んでみた。……こ、この味は……。
「オレンジジュースのコーラ割りにジンジャーエールとレモン少々」
 凄いアレンジレシピだった。鼻歌を紡ぐシセベルは、そのまま一流シェフのような手つきで樹の前に皿を置く。芸術的かつ絶妙なバランスで盛り付けられたデザートの……これは最早、城。ふふーんと自慢げな顔。
「あのさ……」
 樹は英雄を見やった。確かに、デザートを頼んだのは自分だ。別になくてもよかったのだが、シセベルが楽しそうだったので……お願いしたらこれか。これには樹もチベットスナギツネ顔。ていうかどこから食べたらいいんだこれ。絶妙すぎてどっから手を付けても崩れそうな気がする。なんか、こういう、タワー状に積んだブロックを抜き取っていくパーティーゲームのオモチャあったなぁ……。

 この後めちゃくちゃ皆で分けた。



●聖なる夜に肉を焼け02
「会長、H.O.P.E.による涼風邸のご用意、ありがとうございます」
 座席に着く前、月鏡 由利菜(aa0873)はH.O.P.E.会長ジャスティン・バートレットへの挨拶に赴いていた。
「ユリナはエージェント業で稼いでるけど、それでもあたし達だけであの立地にお屋敷を建てて、メイドさん数名を雇うのは大変だもんね~」
 その隣にはウィリディス(aa0873hero002)が、誓約者と共に会長へ礼を述べる。
「エージェントだって人間だ。快適な住まいは必要なことだからね」
 ジャスティンは穏やかな笑顔を返す。アル(aa1730)はそんな老紳士の笑みを眺め、そういえば実は初めましてなんだよね――グロリア社さんとは交流が多いんだけども。
「会長、初めまして! テクノポップアイドルのアルです! 作詞や振付も得意だから、そっち方面での力が必要な時は気軽にお声かけしてね」
 というわけで、アイドルスマイルと共にペコリと一礼。傍らでは白江(aa1730hero002)が幽霊然とボンヤリしつつ、「こちらこそ、よろしく頼むよ」と挨拶を返す会長を見詰めていた。

 さて、いくつかの他愛もない会話。通りかかる他のエージェントもちらほら交えて、「会長や他の知り合いの方とお話がしたい」という由利菜の思いは果たされたようだ。

「ユリナー! 焼肉食べに来たんだし、あたし達も食べよっ!」
 ウィリディスが由利菜の手を引く。と、英雄は碧の髪を弾ませてアルへと振り返る。
「アルちゃん達、うちの席に来ない?」
「いいの? 是非ともっ!」
 差し出された手を、アルは笑顔で握りしめた。

「会長モテモテだねィー」
 彼女達が去った後、冷やかすように言ったのは大和 那智(aa3503hero002)だ。しかし「コラ」と東江 刀護(aa3503)に腕をつねられては、「イデデわかったよ」と肩を竦める。英雄の反省を見届けてから、刀護はジャスティンへ向き直った。
「お久し振りです、会長。焼肉食べ放題、楽しみましょう」
「刀護君、久しぶりだね。那智君も元気そうだ」
「ども」と那智が会釈する。次いで、会長の英雄達へも那智は挨拶の手を上げた。
「アマデウスは相変わらずカタブツだな。ヴィルヘルム、一緒に焼肉食おうぜー」
「おう! 食おうぜ食おうぜーーー!」
 物申そうとしたアマデウスの言葉を遮って、はしゃぐヴィルヘルム。
 と、そこへ新たな声が重ねられる。
「ヴィルヘルムーっ! 一緒に食べようぜ! 上カルビ焼いてやるよっ」
 上機嫌に手を振る春日部 伊奈(aa0476hero002)である。隣には誓約者の大宮 朝霞(aa0476)もいる。「食べるっ」とヴィルヘルムも声を張った。
「ちょうど、美味いソースを貰ってさぁ――」

「ヴィルヘルムさん、サルサ・ヴェルデは気に入ってくれるかなぁ?」
 別の座席。鼻歌まじりに肉を焼くアンジェリカが呟いた。
 イタリアンパセリをたっぷり使ったソース、サルサ・ヴェルデ。直訳したら緑のソース。名前の通り、パセリの色をしたイタリアの味。店主への挨拶がてら、「これもタレに使ってみてくれない?」とアンジェリカが打診したものだ。返答は大歓迎。今しがた「お肉にもよく合うソースなんだ」とヴィルヘルムへもお裾分けしてきたところである。
「いただきま~す」
 ロース、カルビ、ミノにハツ。アンジェリカは小さな体ながら、どんどん焼いてどんどん食べる。つける味はサルサ・ヴェルデ――ではなく、お店のタレだ。
「お、い、し、い~~っ……!」
 噛み締めるほど、心が喜ぶような味。肉を噛んで食べる、というのは人間の遺伝子に刻まれた原初の娯楽なのだろうか。ガッツリ分厚いカルビも、食感と風味が幸せなミノも、最の高。
「……」
 ジョッキビールを片手に、マルコは向かいの少女をいぶかしげな眼差しで見る。
「その、ミノだったか? 胃……内臓なんだよな。大丈夫なのか食べても」
「イタリアでも内臓はよく食べるからね、別に? それに、美味しいよ」
 実は脳味噌も食べる……けど、これ言うと引かれるんだよね。うん、マルコの為に黙っていよう。アンジェリカがハツを飲み込んだところで、生レバーと生センマイがやってくる。赤々とした血の塊のようなモノと、イボイボした灰色の物体。
「内臓、生ではあんまり食べないからなぁ。どんな感じなんだろう? いただきまーす!」
 アンジェリカが嬉々とする一方、マルコはそっと目を逸らす。
「この肉はビールによく合うな」
 など、普通の肉を食べつつビールをがぶ飲みすることにした。食べ放題だが、品質はいい。マルコも舌鼓である。
「そう言えばマルコさん、ヴィルヘルムさんは口説かないんだね」
「いや、あいつ男だろ?」
「愚神にキスするくせに基準はあるんだね……ま、いいや」
 そんなやりとり。アンジェリカはウーロン茶をぐいっと飲む。
「今日は漫画みたいにお腹が脹れるまで食べるよ!」


 というわけで。
 会長一行は広めのお座敷に移動して焼肉を開催していた。
「……」
 刀護の表情は強張っている。女性と接すると真っ赤になってドキドキしてしまうほど大の苦手なのに、女の子と同席している。更に会長の御前と、緊張どころの騒ぎではない。緊張をほぐす為にビールをあおる。
(これで少しは、会長や他の皆と楽しく焼肉を食えるはず……)
 男は力強くトングを握り締めた。この時、彼は知る由もなかった。己が皆の為に肉を焼き続けるだけの存在と化すことに……。

「「絶対死守だよ」」
 ジャスティン達の座敷、いくつかある網の一角。餅 望月(aa0843)と百薬(aa0843hero001)は共同戦線を張っていた。クリスマスらしく、チキンを丸ごと一羽。二人してトングを手に網を覗き込むその姿は、焼くというより育てる――否、もはや鍛えると言っても過言ではない。好奇心にヴィルヘルムや那智が寄ってきたら、こんなこともあろうかと焼いていた小さな肉をササッと渡して本命を守る徹底ぶり。そしてもちろん、自分達もちょっとずつ他の肉を食べて味わい、気分を上げることも忘れない。
「まだかな……」
「まだ早いよ、じっくりゆっくり芯まで……」
「いいにおいがしてきたね……」
「そうだね……」
 二人に浮かぶ愉悦の顔。
「全然焦げてないのに、中までしっかり火が通っている気配がして来たよ」
「うん、このために一年間がんばって来たよ」
 望月と百薬は顔を見合わせる。二人とも、目を輝かせている。
 この時を待っていたのだ。ついにチキンが網から飛び立つ。逸る気持ちを堪えて、ナイフを入れて切り分けて。平等にはんぶんこ。その質量、すでに浪漫。
「「いただきます」」
 ヨダレを飲み込んで手を合わせた。ホクホクのチキンが待っている。ビバクリスマス。世界に感謝。

「朝霞~、ところでさ」
 刀護に上カルビを焼いてもらいつつ、伊奈がふと隣の朝霞に問いかけた。
「上ロースとか上カルビとかの、この『上』って付いてるのは、なんだ?」
「……そこに気付いてしまったのね、伊奈ちゃん」
 ゴゴゴ……。朝霞の神妙な雰囲気に、「え? なに?」と伊奈は思わず姿勢を正す。かくして朝霞の口より真実(?)は語られる。
「それはね、ロースよりすっごいロースってことだよ。すっごいカルビってことなんだよ!」
「えっ、カルビよりイケてるカルビってことか!?」
「そうだよ! すっごくイケてるカルビ、食べ放題だよ!」
「いやったー! 上ロースと上カルビ、追加で二人前ください! いややっぱ四人前!」
 運ばれてくるのは迅速だ。焼いて貰ったものを口に入れ、二人は幸せと美味しさを噛み締める。
「野菜はいつでも食べられるけど、上カルビは今だけだもんね!」
「でもさ、ただ食べるだけじゃつまらないから、勝負しようぜ!」
 厚切りの上ロースを頬張る伊奈が楽し気に言う。「焼肉対決? どうするの?」と朝霞が問うと、
「一番おいしそうに食べたヤツが勝ちな! じゃあ私から! いただきまーす!」
「OK! じゃあ私も! いただきまーす!」
 味わいつつ、魅せる。イメージはグルメ漫画。ところで審判って誰? まあいいか! 肉おいしいもんな! 肉食べてるとなんかもういいや! って気分になるもんな!
「上カルビおいしいなっ! なぁっ!? ヴィルヘルム!!」
「肉うめーな! 生きてる心地がする!」
 伊奈と共に、焼いた肉を重ねて一気に食べるヴィルヘルム。
「上ロースもおいしいよ。ほら、あーんして!」
 二人の食べっぷりを見ていると、朝霞も楽しい気持ちになってくる。笑顔で上ロースを差し出せば、ヴィルヘルムもまた嬉しそ~にそれを頂くのだ。ああ、ライスが進む味。でもライスを食べたら肉が食べられなくなるんじゃないか、でも肉に合う、そんなジレンマ。チシャ菜やナムルも然りである。
「おいしいねー。おみやげに持って帰りたいくらいだねー」
「そうだなー」
 だが残念、テイクアウトはないのだ。

 なので今夜は食べるしかない!

(ジャスティンさんも、見た目に似合わぬ食欲、さすが歴戦の勇者)
 チキンの余韻もそこそこに、焼き野菜を始めとした色々なメニューに手を出しつつ望月はジャスティンを見やった。
「来年は毎日ジャスティンさん家で食卓を囲むよ」
 目が合うや、焼きトウモロコシをもぐもぐする望月が大真面目にそう語る。まだ諦めてなかったか、と百薬が焼きタマネギを齧りつつ胸中で呟く。
「毎日はちょっと難しいかもしれないが、遊びに来てくれたのならば歓迎するよ」
 会長は微笑む。大人の返しだ、望月はそう思いつつ、肉を食べる幸せを噛み締める。そんな彼女と英雄は、いつしかヴィルヘルムと美味しい肉の食べ方談議に花を咲かせていた。
「いい? ヴィルちゃん。同じのを二枚ずつ焼いて早めと焦げかけを堪能するの」
「いやいや、野菜と交互に口をリフレッシュしながらなのも良いよ」
 これからもたくさん働いてたくさん食べよう。美味しい食事は明日の活力を与えてくれる。

「刀護君、君は食べないのかね?」
 ジャスティンは望月達から視線を刀護に、そう問うた。急に話しかけられた彼はビックリして顔を上げつつも、「頂きます」と何とか頷き、ようやっと肉に箸をつけ始めた。その隣では那智が、ヴィルヘルムと一緒に焼肉を「うめー!」と食べまくっている。なお、那智はお酒に弱いのでウーロン茶である。
「ヴィルヘルム、おまえは何が好きなんだ?」
「骨付きカルビ! お前は?」
「俺はカルビとタン塩だ。他の肉もうめぇぞ。どんどん食おうぜ!」
 那智とヴィルヘルムは意気投合して、どんどん焼いてどんどん食べる。どっこい、その食欲ゆえに「俺の肉だ!」と焼肉の争奪戦になったりするのだが。
「おい、店内で騒ぐな……」
 刀護の声とアマデウスの声が奇しくも重なった。二人の視線が合う。
「お互いフリーダムな相方を持つと大変だな……」
 同情の苦笑を浮かべる刀護に、「全くだ」とアマデウス。せめて苦労を忘れさせてやろう、刀護は彼の皿に肉をよそってやりつつ、
「ヴィルヘルムとはうまくやっているのか?」
「それなりに、な。そちらは」
「右に同じ、かな」



●聖夜の恋バナ01

「肉だー酒だー! 宴会だー!」

 虎噛 千颯(aa0123)の快活な声が響いた。「おー!」と掲げられる一同の手にはジョッキやグラス。広い座敷に、友の顔。
「リュカちゃん肉食ってるー?」
 千颯は肉をわんこそばめいて食べまくりつつ、木霊・C・リュカ(aa0068)の肩に腕を回す。
「いえ~いちーちゃんが育ててくれたタンとハラミ食べてる~!」
 笑いながら、リュカはビールジョッキで千颯と乾杯。二人ともワクだが、それでもこの賑やかな雰囲気は気持ちを朗らかにしてくれる。
「ていうかリュカちゃん、オレちゃんの肉ー!?」
「ユエちゃんが育ててる肉はこっちに来ないから……全部子供らのだから……」
 塩タンを頬張るリュカが目を伏せる。その向かい側にはユエリャン・李(aa0076hero002)が、トングをカチカチ鳴らしつつガンガン肉を焼きまくっていた。
「男なのだからこのくらい食えるであろう。お、皿が空いたぞ。早く次だ次を寄越せ」
 ワイン片手に優雅にしつつ、目敏く空いた皿を見つけては肉をよそいまくる。大食いではないオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)は、よそわれすぎる肉オブ肉に困惑の表情を見せる。
「はーいちみっ子ズ~、ちゃんと食べきれる分だけとるんだよ!」
 楽し気に笑うリュカが、同席している少女達を見渡した。「は~い!」と烏兎姫(aa0123hero002)が明るく返事をする。
「お肉、おいしい……至福……」
「トウモロコシも、おいしいですの」
 木陰 黎夜(aa0061)と真昼・O・ノッテ(aa0061hero002)も焼肉を満喫している。特に黎夜は、運動部の男子中学生以上に焼肉を頬張っていた。カルビ、ハラミ、タン、ホルモンと、色んな味を食べていく。
 真昼は幼い少女の外見通りの食欲で、誓約者の食べっぷりに感心しつつも、彼女の為に肉や野菜を焼いていく。
「つきさま、すごいですの……お肉のおかわり、どうぞですのっ」
「んむ、ありがほ」
 もぐもぐしつつ、お礼は忘れない黎夜である。
「大人達はいつだって呑んだくれなのです。征四郎は困っているのですよ……」
 一方で、紫 征四郎(aa0076)は相変わらず雰囲気とオレンジジュースに酔っていた。酔い方が年々第一英雄に似てきたような。ガシガシと腹癒せめいて分厚いカルビを噛み締める。

 大人組はまさに「肉&酒!」とワイワイ盛り上がっている。
 が、子供組は早くもデザートバイキングに興味が移り始めたようで――皆で行ってみよう、という話になった。

「黎夜、真昼。飲み物は運ぶから、好きなの、先にとってくればいい。ああ、何が飲みたいとかあるか?」
「ありがとう。……じゃあ、カフェラテ。真昼の分はエスプレッソで」
 オリヴィエの気遣いに礼をしつつ、黎夜が答える。真昼は甘いものが苦手なのだ。彼女も楽しめるデザートはあるだろうか? とバイキングを見渡せば、オレンジやライチなどの果物があった。良かった、と思いつつ、黎夜は自分の本命であるチョコレートフォンデュタワーに振り返り――その目を輝かせた。

 ドリンクを運んでくれたり、デザートを品よく取って盛り付けてくれたり。オリヴィエがひと段落して席に戻った頃には、子供組のテーブルにティーパーティめいてスイーツが並んでいた。
「カワイイ~!」
 烏兎姫は上機嫌に、スマホでスイーツを撮影している。最近流行りのSNS映えというやつだ。見栄え良くちょっと加工して、女子会なう! 投稿ポチっと。
「みんな好きな人とかいるのかな?」
 そして、まるで何気ない物言いで、スマホから顔を上げた烏兎姫が皆を見渡す。ゴシップ系のネタは好きなのである。
 クリスマス――女子会――恋バナ! 真っ先に食いついたのは征四郎である。年の近い女の子が多めなので、心持ちはしゃいでいるのもある。
「そっ、そういうウトキは! 気になる男の子とかいますか!?」
「ボク? ボクはね、まだいないかな?」
「なるほどっ……マヒルはどうです?」
 征四郎が次いで真昼を見やる。「真昼ですの?」とエスプレッソのカップを置いた少女は小首を傾げた。
「んー……恋とは少しちがうのですけれど、お兄さまとはちがった好意をいだく方はおりますの」
 しばしの思案の後、そう微笑んでは、少女達の期待の眼差しに促されるまま言葉を紡ぐ。
「ご近所の方でお友だちなのですが、よく一緒にビデオ鑑賞をしたり映画を見に行ったりしておりますのよ。六月にはウェディングのモデルで一緒にお写真を。普段とちがう装いの方を見ると、ときめいてしまいますのっ」
 恋慕ではないけれども、それは友愛、親愛、敬愛という大切な想いの形。歌うように語る物言いが何よりの証明で。「なんだかロマンチック!」と烏兎姫はチョコかけマシュマロを頬張りつつ、
「黎夜くんは気になる人とかいないの?」
「レイヤも、前よりは、いろんな人とお話してるようにみえる、です」
 征四郎も問いを重ねる。黎夜はほんのり苦笑を浮かべて、チョコかけマシュマロが刺さっていた串を手遊びにいじった。
「恋バナかぁ」
 恋、というものを黎夜は理解していない。でも、気になる人はと問われれば、思い浮かぶ者が一人。関係が変わり始めた第一英雄のことである。
「理解しようとして、いっぱい話すようになって、前よりも、もっと知りたくなった、かな……」
 そんな黎夜の言葉に、「ほわー……」と征四郎は頬を染めている。と、烏兎姫が征四郎へ言葉をかけた。
「征四郎くんは誰か好きな人がいる? 好みのタイプとか?」
「すきなひとっ…… えっ、と、好みのタイプ……好みのタイプなら優しい人、ですかね。ウトキは?」
「そうだねー……ボクのことを抱きしめてくれる人かな。あまり覚えてないけど……。ボクは向こうの世界ではずっと一人だったんだ。だからボクのことをずっと見て、抱きしめてくれる人がいいかな」
 烏兎姫の言葉に、へえ、と頷いたのはティラミスを頬張るオリヴィエだ。皆の会話に、女子だな……と思いつつも、思ったことを口にしてみる。
「……その基準だと、まだまだ千颯に勝てる奴は現れなさそうだな」
 それはそうと。彼は大人組を指差して。
「……もう少し声量落とさないと、あっちに聞こえるぞ」

「烏兎ちゃんはパパ大好っき子だから恋とかしません~」
 だがしかし、大人組にはガッツリ聞こえていたようで。肉を焼きつつ、烏兎姫の言葉を盗み聞きした千颯が堂々と言う。親馬鹿ゆえ、内心気が気でないのだ。その声が聞こえらたしい英雄には、「ちょっと静かにして」と言わんばかりの冷たい眼差しで一刺しされてしまったが。
「ユエちゃーん、烏兎ちゃんが冷たいんだぜ」
「うむ、駄菓子屋。子はいずれ、親元を離れていくものであるからな」
 黙々と豆板醤塗れの肉を頬張るユエリャンが頷く。
「……しかし、それが手を離して良い理由にはならぬであろう」
 わかる、わかるぞ。肉を次から次へ真っ赤にしつつ、ユエリャンは完全に親馬鹿の目でオリヴィエを見ている。
「わっかんないよー?」
 子供達の会話は聞こえていないフリをして、リュカが千颯へニヤリと笑う。
「女の子だし~明日には突然『パパ! 会ってほしい人がいるの!』なんてさ~」
「……」
 千颯は“それ”を想像したら悲しくなってしまった。千颯の悲し気な沈黙に、リュカはマジ顔で「うん、正直悪かった」と謝るのであった。ユエリャンもちょっと想像したら胸がギュッとして、口数が露骨に減った。

「征四郎くんとリュカさんって付き合うの?」
 盛り上がりゆく女子会。ここで烏兎姫の突然の質問に、征四郎は顔をボッと赤くした。
「あっ、ちょ、ちが、しー! しー!!」
 わたわたしつつ人差し指を口に当てる。すると烏兎姫は、次の標的をオリヴィエに定めたようで。
「ぶっちゃけオリヴィエくんとガルーさんってどうなの? どこまでいったの?」
「な、」
 まさかこっちに爆弾が飛んでくるとは。オリヴィエが固まった瞬間、飲みかけのドリンクが気管に入って盛大に噎せる。
「っぇほ、げほ、 ……は? ……いや、え?」
 冷や汗がダラダラダラ……いやそもそも付き合ってない、いやていうかなんでバレ、え、あれ? ンン!?
「…………」
 キャパオーバー、後フリーズ。魂が抜けている。「大丈夫……?」と黎夜は心配そうに呟き、烏兎姫はいたずらっぽくころころ笑いながら、「あれれーどうしたのー?」と顔を覗き込む小悪魔っぷりである。征四郎は真っ赤になったまま、爆弾の矛先がオリヴィエに向いてくれてよかった……と密かに思うのであった。オリヴィエには悪いけれど!
「楽し気であるな」
 と、そんな征四郎にユエリャンが声をかける。「肉はもう要らんかね?」との言葉には首を横に振り、征四郎はオレンジジュースを飲み干した。
 そして――改めてこの光景を見渡してみる。肩を組んでお酒を飲み続けている大人二人、スイーツやフルーツを手に、他愛ない談笑に花を咲かせる子供達。辺りからはお肉のいいにおいと、エージェント達の笑い声……。
「一人は怖くて、とてもさみしい、です。……でも」
 クリスマスを、またこうして皆で過ごせるのはすごく、嬉しい。顔を上げて少女は微笑んだ。英雄もまた笑みを返す。この場にいるのは誰も彼もが笑顔だった。



●聖なる夜に肉を焼け03

「あたし普段は自己栄養管理を徹底してるから、今日は爆食いで発散!」

 ウィリディスは文字通り爆食いしていた。由利菜と共に五穀米・野菜・果物・飲み物など総合バランスも重視しているが、今日は自分を甘やかす日である。
「冷麺美味しいよね!」
 向かいに座るアルは、大食いではないが食べることは嫌いじゃないのだ。モシャア。
「牛タン美味しいよね!」
 そしてレモンや塩ダレでさっぱりいただくのが好きなのだ。モシャア。
「皆さん、見事な食べっぷりですね……」
 控えめに、良く噛んでゆっくり食べている由利菜からすれば、ウィリディスとアルがモグモグ食べていく様は感心の対象である。「そうかなー?」とアル。隣では、白江がハラミのチシャ菜巻をいたく気に入ったようで、ずっとモグモグ頬張り続けている。
 周囲はワイワイと賑やかだ。アルはそれらに耳を傾けている。と、ウーロン茶を一口飲んでは、由利菜へ向いた。
「そうだ――サマフェスできみからもらったテーマで作った曲、この間完成したよ」
「え、アルちゃん新曲出すんだ? どんな曲か教えて!」
 真っ先に食いついたのはウィリディスだ。「アルさんの曲はまだ正式発表前ですよ」とおしぼりで口元を拭う由利菜が英雄をたしなめる。
「……分かってるけど、どんな思いを込めたか聞くらいいいじゃん!」
 ウィリディスが口を尖らせる。あはは、とアルは苦笑を浮かべた。
「テーマを聞いた時、『自分の中にいる騎士』の歌だなって直感したんだ。貴方がいたから強くなれた。貴方がいるから強くなれる。そんな思いを込めたよ」
 お披露目までお楽しみにね。ウインク一つ。「楽しみだなぁ」とウィリディスは想いを膨らませた。
「アルさん、本当に好きなアイドル業に打ち込めて活き活きされていますよね」
 トングで網の上に肉を並べつつ、由利菜が微笑む。と、視線を彼女に向けたアルが小首を傾げた。
「由利菜ちゃんはアイドルに興味あるの?」
「私のもとへも、時々アイドル業のお誘いは来るのですが、私の目指す道は違うので……」
 肩を竦めてみせる。「でも」と焼きあがった肉を皿によそいつつ、ウィリディスが由利菜を見やる。
「ユリナはピアノの練習してるよね?」
「ええ……H.O.P.E.での生活や依頼を通して、音楽の可能性や表現力を知りました」
 と、由利菜は心からの笑みを浮かべるのだ。「そっかぁ」と、とっておいた冷麺のサクランボを口に含むアル。
「由利菜ちゃんのピアノも、いつかしっかり聴きたいなぁ。発表の場があるといいよね」
 口の中でサクランボを転がしつつ、アルは言った。「そうですね」と由利菜ははにかんでみせる。肉をひっくり返した。食欲をくすぐる良い香りが立ち上る。焼きあがるのを眺めつつ、由利菜は塩キャベツを頬張った。
「……」
 白江は最後の一口をゴックンと飲み込んで、一同を見渡した。会話の一区切りを察知しては、気配なくスッと席から立つ。……ほどなくして戻って来た彼女は、トレイに人数分の抹茶プリンを乗せていた。
「デザートかー」
 自分の前に置かれる可愛らしい抹茶プリンを眺めてから、アルはデザートバイキングを見やった。
「ボクはケーキより果物派かな。オレンジシャーベット美味しいよね!」
 取ってこよう。そしてモシャアしよう。だってここは食べ放題なのだから。


「太ってもしらねーぞ」
「いいの明日からちゃんとすればいいの!」
 カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)の言葉に、口いっぱいに肉を頬張った御童 紗希(aa0339)が即答した。
「……む、負けない!」
 その食べっぷりを見澄ましたのはユフォアリーヤ。紗希と彼女はとある依頼で肉食の友になったのだ。二人は視線をかちあわせる。戦友と書いて“とも”と読む。
「……今回は、ボクが勝つ」
「容赦は……しない」
 お互いにサムズアップ。そして始まるのは絨毯爆撃めいた肉食聖戦だ。ユフォアリーヤは肉の刺身や生食ホルモンと、生系をドンドコ食べていく。
 一方の紗希は。
「最大の前提としてこれは食事……餌じゃないの。美味しく食べないと意味がないの」
「お、おう」
 韓国冷麺を前に手を合わせた彼女の言葉に、カイは惰性で返事をする。
「個人的には胃を一時休憩させるのには韓国冷麺がおすすめ。そして白飯には店自家製キムチで挑むべし」
 辛い味はリフレッシュと食欲促進。カクテキをポリポリと頬張る。
「肉は焼きすぎは固くなるから、網に乗せたら目を離すべからず。ひっくり返し過ぎはNG、気になるけど我慢して見極めないといけない。秒単位が肉の旨さに繋がるからね。ホルモンは乗せすぎると火事のもとになるから、乗せ過ぎは御法度。網の端で遠火でじっくり……中まで火を通すこと」
「お、おう」
「焼けた肉をどう食べるか? これは永遠の命題。まずは何もつけずに……肉そのものを感じたい。その次はレモン、塩、わさび、などなどサッパリめの味付けで。そうしたらいよいよタレの出番ね。ガツンとした味わいは、チシャ菜で巻いて食べれば栄養アップのみならずフレッシュ感も得ることができる――光と闇の力を同時に手にしているとでも言いましょうか」
「お、おう」(何言ってんだコイツ)
「焼いた肉を食べる合間に、生レバーや生センマイ、肉刺しで緩急も入れたいね。肉に飽きてきたらデザートバイキング――やっぱり焼肉店のバニラアイスは至高。シメは高級部位を一網打尽。好きなものは最初と最後に食べるべし」
 目指せメニュー全制覇。そんな紗希を眺めるカイは、自分とは世界観が違うのかなという心地すらした。肩を竦めて、生ビールを飲みつつチシャ菜で巻いた肉をツマミに、遊夜の方へ視線を移す――。
「これは他じゃ食えんからな」
 遊夜は烏龍茶と大盛りライスを完備して、ランプやイチボのユッケに舌鼓を打っていた。大事に焼いているのはタンである。タン塩はもとより、分厚いタン先タン元は食べられるだけ食べる所存だ。

 さて、一同が肉を楽しんでいると。

 ユフォアリーヤがおもむろに席を立つ。目がトロンとしているのは、どうも場の空気に酔ったらしい。耳をピンと立てた彼女の視線の先には、エージェント達とワイワイしているジャスティンがいる。
「――ッ!」
 途端、ユフォアリーヤは会長に突撃すると。
「……じゃすてぃん……じゃすてぃん、くびもげてない」
 しがみついて、目をウルウルさせて、ナデナデ。
「ど、どうしたのかね?」
「……やっぱり、じゃすてぃんは……つよかったの」
「えっ?」
 ユフォアリーヤのこの状態は、いたく気に入っていた、二周年記念である金のジャスティン像をデビュー戦で失ってしまったことが原因なのだが――それを当の会長は知る由もなく。
「あー、申し訳ない会長。これを食べてやってくれないだろうか」
 やって来た遊夜が、苦笑しつつ焼いたパプリカを差し出した。従魔化したパプリカが仇なので……多分これをジャスティンが食べるまでユフォアリーヤは不動だろう。
「う、うむ……?」
 未だに状況を掴めていない会長がパプリカを食べる。するとユフォアリーヤは、
「……よかった、じゃすてぃんがかった……くびもげてない」
 首をナデナデナデナデしつつ、安らかな顔で眠りに就いた。これでトラウマも克服できるだろう。遊夜は会長に「すいませんねぇ」と頭を下げつつ英雄を抱えて席に戻り、膝枕をしてあげた。
「生レバーと生センマイ来たぞ。食べるか?」
 一連の様子を見守っていたカイは、酒を片手にニヤニヤしていた。紗希はゾーンに入っているので、カイは相手をしてもらえない。(あんまり話しかけると射殺すような目で睨まられそうだ……)
「頂こうかね」
 遊夜が微笑む。「んじゃ改めて乾杯」とカイはジョッキを差し出した。メリーニクヤキマス。



●聖夜の恋バナ02
「ふむ……なるほど、地域の方と親交があるのもうれしいですね」
 構築の魔女(aa0281hero001)は賑やかさを見渡した。傍らでは辺是 落児(aa0281)も、同じように店を眺めていた。
 と、目に留まるのは日暮仙寿(aa4519)だ。彼はデザートバイキングを見てなにやらソワソワしていたが、
「イチゴもたくさんあるみたいだよ!」
「う、うるさい」
 あけびが声を弾ませれば、仙寿はすぐさま目を逸らす。構築の魔女は微笑ましい様子にクスっと笑みつつも、あけびへわずかに目配せ。
「お肉だけじゃなくて野菜もしっかりと。デザートも後で選びましょうね」
 その言葉に、彼女と目を合わせたあけびは笑みを返すのだった。

 さてさて。
 彼女達はジャスティンのいる座敷席に加わっていた。

「どうもジャスティン会長! リンカー一家世良家・代表の杏奈です!」
 杏奈は会長とは初対面である。挨拶をすれば、「いつもH.O.P.E.に協力してくれてありがとう」と丁寧な挨拶が返って来た。仙寿とあけびも、ジャスティンの英雄達と実際に会うのは初めてで、彼らと挨拶を交わしていた。
「お久しぶりです。焼肉楽しまれていますか?」
 構築の魔女が会長を見やる。
「久し振りだね、いつもお疲れ様だよ。ああ、今日はめいっぱい楽しもう!」

 挨拶もそこそこに。早速、網の上で肉が焼ける音が響き始める。

「落児さんももっと食べましょう! ルナもね!」
 あけびのトングさばきは、普段の剣さばきの賜物か。どんどん肉を焼いては、ガンガン自他の皿に盛ってゆく。特に「成人男性と子供だから」と落児とルナの皿にはひときわ盛る。
「いただきまーす!」
 小さな手を合わせるルナ。落児は盛りに盛られた肉オブ肉に「ロー……?」と首を傾げていた。
「ふふっ、好意は受け取っておきましょう」
 構築の魔女は、そんな誓約者の様子を愉しむように眺めつつ、タマネギやカボチャといった野菜を焼いては皆の皿に乗せていく。
「杏奈さんやあけびさんもどうぞ。楽しまないとですしね」
「はーい!」
 楽し気に答え、カルビにハラミにタンにミノ、それから焼き野菜も忘れず食を進ませるあけび。その隣の仙寿は英雄の食べっぷりに「甘い物と焼肉は別腹」という言葉を思い出していた。二人共頑張れ。そう思いつつ、仙寿はタレをつけた分厚いハラミにチシャ菜を巻いて一口。野菜のフレッシュさと肉のジューシーさのコンビネーション。
「お肉もチョレギサラダも美味しい~♪ あ、冷麺もあるんだ!」
 杏奈は骨付きカルビとサラダに舌鼓を打ちつつ、注文用パッドで冷麺も注文。隣のルナもあけびに盛られゆく肉を頬張っていたが、ふとチシャ菜巻きを堪能している仙寿が目に入り。
「それなあに? その葉っぱ巻くと美味しいの?」
「食ってみるか?」
 どうぞ、と渡すチシャ菜。ルナは目を輝かせてハラミを巻いて、「こんな食べ方が……!」と感激している。
「タン塩も美味いらしいぞ」
 仙寿は友人の微笑ましさに口角を緩めつつ、構築の魔女や杏奈にそう言った。皆の分も注文し、顔を上げれば、会長と視線が合う。そうだ、言いたいことがあったんだ。会長、と呼びかける。
「……剣の腕だけが俺の全てじゃないって言ってくれたこと、感謝してる。俺らしく在れば良いんだと肩の力が抜けた」
 と、少し笑って。会長に酌を。老紳士は「どういたしまして」と微笑んだ。
「そういえば、『男はハートで勝負だよ』って言ってたが……会長にも勝負した時があるのか?」
 ふと。純粋に気になったことを仙寿は尋ねてみる。
「会長の恋バナ!? すごく聞きたいです!」
 すると女子高生のノリで食いついたのはあけびだ。「奥さんのこととか馴れ初めとか惚れた理由とか告白の言葉とか!」と疾風怒涛。
「夫婦円満の秘訣とかってあるんですか?」
 杏奈までニコニコニヤニヤしながら加わるではないか。あんまり質問責めするのも、と仙寿は女子ズをたしなめようとしたが――
「あれは今日のように寒い日の出来事だった!」
 会長ノリノリ。

 とまあ、詳細は割愛するが、大学で出会って付き合ってそのままプロポーズ(ジャスティンから「君をお嫁さんにしたい」と言ったらしい)して……というものだった。

「なるほど、会長にはそんな出会いがあったのですね」
 デザート代わりのコーヒーをゆっくり嗜みつつ、構築の魔女が楽し気に微笑んだ。
「ヴィルヘルムさんやアマデウスさんは、何か思い出ないのですか? こちらの世界でも向こうであったことでも大丈夫ですよ?」
 そのまま涼しい顔で会長の英雄も話に巻き込む。
「……そ そういうお前はどうなのだ」
 アマデウスが話を逸らそうと画策するも。
「私ですか? 記憶が薄いですが恋人はいたはずですね……たぶん」
「ロー……」
「落児は内緒だそうです……照れているのでしょう、ふふっ」
 そんな言葉は想定内だったらしい。構築の魔女にサラッと答えられてしまえば、もうアマデウスに逃げ場もない。
「……許嫁がいたことは覚えている。詳しくは覚えていない」
 アマデウスが絞り出すように答えた。次いでのヴィルヘルムは酒を片手に、
「俺様? とっかえひっかえ!」
 ロクでもねえ。そのままお下品な話をしようとしたので、アマデウスに拳骨を食らっていた。

 閑話休題。

「見て見て! チョコの噴水よ! すごーい♪」
 ルナはデザートバイキングのチョコレートフォンデュタワーに目を真ん丸にしていた。お子様用の台に乗って、パンや果物を嬉々とチョコフォンデュしてゆく。杏奈はいろいろなアイスやケーキを少しずつ、あけびは季節のミニケーキとコーヒー、そして仙寿は照れつつもイチゴを山盛りだ。
 そして席に戻れば、ヴィルヘルムが問うてくる。
「お前らのコイバナも聞かせろよー」
「こちらの? そうですねぇ……」
 杏奈が小首を傾げる。その左手の薬指には、彼女が永遠の愛を誓った証が輝いている。
「先月は一緒にポッキーゲームしたんですよ♪ 恥ずかしがって逃げちゃったのを取っ捕まえて」
「あの時はすごかったわねー」
 楽しそうに堪える杏奈、当時の情景を思い出しつつチョコフォンデュしたイチゴを頬張るルナ。「馴れ初めは?」とヴィルヘルムに聞かれたが、それは「色々ありすぎたので話すと三時間くらいかかりますよ?」と遠回しに断った。
「そういえば、娘さんがいらっしゃるんですよね?」
 ミルクレープを頬張る杏奈が、ジャスティンを見やった。アッ、と仙寿とあけびが顔を上げる。テレサの話は、構築の魔女曰く「会長が世界に感謝する」とのことだが……?
「テレサ……」
 が、一同の想像に反して、ジャスティンはアンニュイな息を吐いた。
「彼女はもう一人前のレディだ。私も子離れしなければならないね……」
 紳士は思いを馳せるような眼差しをしていた。これはそっとしておいた方がいいんだろうか。
 そういえば。あけびはケーキを飲み込んで、仙寿を見やる。
「ハートで勝負って、誰と?」
「別に」
 ちらり、仙寿はあけびの髪を飾る簪を盗み見て――呟いた。



●聖なる夜に肉を焼け03

「あれからもう一年かあ。きみはこの一年で何か成長や変化はあったのかな?」

 普通に肉を焼いて、普通に食べて、普通にお酒を飲んで。一連の動作の中、バルタサール・デル・レイ(aa4199)に問うたのは紫苑(aa4199hero001)だった。
「さてな」
 空のジョッキを置いて、バルタサールは即答した。「変わらず面白みのない男だよね」と厚切りタンを頬張る英雄の毒舌も右から左。
「きみとは違って、このお店は進化を遂げて、デザートバイキングが新しくできたようだね。じゃあ、今年はデザート食い倒れ・わんこスイーツに挑戦! っていうのはどうだろう」
 ニコヤカな紫苑の言葉は、提案というより確定路線である。バルタサールが眉根を寄せる。
「太るぜ?」
「なに言ってんの、僕じゃなくて、きみがやるの」
「はい、ギブアップ。酒よこせ」
 愛らしい物言いに対して、光の早さで――スイーツのスの字も食べてないのにそう返すバルタサール。「ノリ悪いね、相変わらず」と紫苑は肩を竦めつつも席を立つ。彼に食べさせるのはさておき、紫苑自身がデザートバイキングには興味があった。
 紫苑が離席すれば、当然だが静寂である。バルタサールに独り言の趣味はない。だがその静寂も間もなくだ。チョコレートフォンデュタワーで戯れてきたのか、串に刺さったチョコがけのあれやこれや。それからミニケーキが数個。紫苑の手が皿を置く。
「メリークリスマス」
 どうやらクリスマスケーキ替わりらしい。「もう肉は食わないのか?」とバルタサールが問えば、「甘いもの気分の波が来た」と紫苑はチョコをかけたマシュマロを頬張った。
「ねー、クリスマスプレゼントは?」
 マシュマロを頬張る紫苑がさも当然と言わんばかりに問う。「ねえよ」とバルタサールが答えるが、それに被せ気味に紫苑は言葉を続けるようで、
「僕さ、ペットロボット欲しいな~。きみがつれないから、癒しペットがほしい。でも依頼で留守にすることも多いから、ロボットにしとくよ」
「サンタさんにお願いしとけよ」
「僕のサンタさんって、きみじゃない」
 ピ、と串で指されるバルタサール。男は肩を竦めた。紫苑はくつくつと喉の奥で笑う。
「来年は、どうなっているんだろうね?」
「……また、ここで肉を食べてるんじゃないか?」
 焼けた肉を皿に盛りつつ、バルタサールは答えた。来年も紫苑と――うるさい相棒だけど、それもまあ、悪くはないのかもしれない。


「ラム肉が食べたい!」
 賑わいから少し離れたテーブル席。ニノマエ(aa4381)が落ち着いて食べるか……と思った矢先に、ミツルギ サヤ(aa4381hero001)のその一声。
「ジンギスカンか……?」
 注文用タブレットを手にニノマエが問う。が、ミツルギは首を振って、
「否、生肉だ。ロール状の薄切り柔らか肉も良いが、ガツッと厚切り肩ロースも好みだ。少ししょっぱめのタレにつけて食べると、肉の甘味とうま味が広がるぞ」
 饒舌に語るミツルギ。「生のラムなんてあるか……?」とニノマエはいぶかしみつつもメニューを漁ってみると……あったよ。ラムの刺身。マジか、と思いつつ注文。「焼けるまで時間がかかるが、ラムチョップも良い!」と英雄が言ったので、それも注文。ピ。

 注文品が運ばれてくるのは間もなくだ。早速網に乗せれば、いい香り。

「しかし、なんでまたラム肉? 俺は味付肉派だけど」
 肉を頬ばるニノマエが問う。ミツルギは遠い目をしてこう答えた。
「私の中の何か古い記憶が、呼び覚まされるような気がしてな。というかニノマエ、おまえのそれ、食べ放題というより焼肉定食……」
 視線を戻すミツルギの視界に移るのは、おにぎり、みそ汁、漬物、野菜サラダを行儀よく三角食べしているニノマエの様子。「食べられる量は決まっているからな」と一口二十回は噛む律義さである。
「ニノマエ、酒も飲め。牛乳酒はうまいぞ」
「ミツルギは不思議な味が好きなんだな……」
 飲み込んで、新しい肉を網に乗せて。ニノマエは英雄を見やる。
「ところで、クリスマスなわけだが。おまえ、何か……欲しいものは……あるか?」
「ない!」
「!?」
「こうして腹も満たされ、好みのAGWも手にし、今年後半戦も頑張った! これ以上何を望もう」
 即答からの流れるような回答。ニノマエは呆気に取られている。と、そんな時だった。ミツルギが、ふわりと微笑んで。
「……ありがとう、ニノマエ」
「……、」
 寸の間の静寂。途端、ニノマエはおもむろにウーロン茶を一気に飲んだ。
「酔いが回ってきたようだ。明日はきっと大雪、うん確定」
「ねえなんで顔が赤いの?」
「さて、肉のおかわりをしてくるか」
「そうだな!」


 タン塩、豚のハラミ、エトセトラ。塩わさび、レモン、タレにつけて、ご飯と一緒に頂きます。
「……!」
「っ……!
「……ッ!!」
「!! ……ッ!」
 初春と稲荷姫の間には、もはや言葉すらなくなっていた。時折言葉を発する時は、追加注文とご飯をお代わりする時のみ。今、二人の口は『肉を食らう』という神聖な行為の為だけに捧げられていた。まさに一心不乱という言葉がふさわしい。箸休めに頂くのは生センマイや生レバーで、まさに常時肉状態。
 この場は食べ放題。普段はもったいないからと遠慮がちな行為――いっきに三枚五枚と箸で掴んでほっぺた一杯に肉を頬張ることだって許されるのだ!
「ふぐぅ……」
「ング……ウマ……」
 ほっぺがパンパンになるまで詰め込んだ肉を、全身全霊でガシガシ噛んで飲み込む幸せ。体の全ての細胞が歓喜に戦慄いている。ここが極楽浄土なのか。おかわりお願いします。


「千の齢を経た吸血鬼を童子扱いとはね」
 二人用座敷席の上座、レミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)は未成年扱いされてワインを注文することができず、不満げに肩を竦めた。「まあ、しょうがないわ」と気持ちを切り替え、箸を手に取る。王女が見渡す食卓には、下座に控える狒村 緋十郎(aa3678)が丹精込めて焼いた肉が、彼女の為に並んでいる。せっせと注文し、肉を焼き、皿に盛ると奉公する緋十郎はまさに下僕である。
「いただきます」
 レミアが最初に手を付けたのは上ミノだ。この噛み応えが好きなのである。
 緋十郎はレミアが食事を始めたのを確認してから、自分の食事を開始した。大ジョッキのビールを次々空けていく様は壮観ですらある。もちろん肉も忘れない。白米と一緒に、タレを絡めた分厚いハラミを口いっぱいに頬張れば、なんという至福。骨付きカルビも頂きます。
 と、まもなくして注文していた生レバーがやってきた。珍しさから注文したものだ。緋十郎にレモンを絞らせ、レミアは新鮮さ溢れる生レバーをシャキッと頬張った。が、
「お食べなさい」
 皿ごと彼に渡すではないか。「口に合わなかったか?」と緋十郎は眉尻を下げるが、レミアは首を振る。
「美味しくはあるけど……どうせならアレよね。緋十郎にしっかりお肉食べさせて、あとであんたの血を吸った方が美味しそうだわ。たまにスーパーでもあるじゃない? 高級飼料で育てた豚のお肉とか。そんな感じよ」
「そうか、俺は豚か。うむ、そうだ……我が血肉はレミアのもの……俺はレミアの家畜……何たる幸せ……」
 酔いもあってヤバイ笑みを浮かべ始める緋十郎。視線を落とせば、レミアの食べかけの生レバー。齧られた痕に彼女の牙の感触を思い出しては、男は大猿の尾を恍惚にブルブル震わせる。夜毎レミアに吸血される身ゆえレバーを美味に感じるところもある。だがそれ以上に、彼女の食べかけを賜っていることで、ガンギマリ。
 なお、トリップしながらレミアに命じられるままデザートを取りに行ったので、周りからヤバイ目で見られました。


「焼く順番と、量に気を付けて……楽しく、食べますっ!」
 マオはトングをグッと握り締めた。
「はい、楽しく頂きましょうね」
 向かいに座っているのは瑠歌だ。マオとレイルースは焼肉店が初めてゆえ、彼女の傍ならきっと大丈夫……と同席させて貰ったのだ。
「何度もひっくり返さないことがコツです」
「なるほどっ……!」
 瑠歌に教えてもらいつつ、一生懸命に肉を焼いていくマオ。最中にちらりと瑠歌を見るのは――人見知りで慌てることが多いがゆえ、彼女のような冷静でかっこいい大人な女性に憧れているからだ。
「わ、わたし、人見知りで……どうすれば、綾羽さんみたいになれますか」
「そうですね……、やっぱり、人間関係って殺伐するより仲良しの方が楽しいじゃないですか? それを意識すること、ですかね」
 なるほど、とマオは文字通り“耳を立てて”聴いていた。「なんて、言うは易しですけれど」と瑠歌は苦笑する。その箸はノンストップだ。優しい気質の瑠歌も、SNSで彼氏アピールでマウントする女子は許せなかった。が、その真相をマオが知る由もなく。
「……たくさん食べれば、綾羽さんみたいになれるかな♪」
 立ち居振る舞いも見習おうと嬉々と決意、瑠歌を見習ってお肉をいっぱい食べ始めるマオである。「うん?」と隣のレイルースは首を傾げる。
(方向性が違……まぁ、楽しそうだしいいか)
 要領のいいレイルースは既に焼肉のコツを掴んでいた。これ、焼かないとダメなヤツだ――と思ったかはさておき、焼きに専念し始める。その合間、頭の上にいる青い鳥のソラさんに野菜やフルーツを提供するのも忘れない。
 美味しい食事と、瑠歌があれこれと話しかけてくれること。マオの人見知りも緩和されてゆけば、その声も弾む。
「メ、メリーニクヤキマス……あ、これ美味しい!」
「……ニクヤキマース」
 英雄は声を揃えつつ、わんこそばならぬわんこ焼肉めいて、マオと瑠歌のお皿に盛っていく。たんとお食べ。瑠歌は彼に礼を述べつつ、「メリーニクヤキマス!」とマオに続いたのであった。



●ごちそうさまでした
「御馳走様ですじゃ。美味しかったのじゃ」
「うむ、美味しかったの。また来年もこうして楽しみたいものじゃ」
 ぱん。初春と稲荷姫は手を合わせる。二人の机には皿がうずたかく積まれていた――二十人前ぐらい食べたんじゃなかろうか。肉だけでなく、デザートバイキングでメロンやイチゴといった果物系も頂いた。最後は抹茶アイスで、サッパリと締め括らせて頂いた。
 見やれば周りのエージェントもごちそうさま状態のようだ。そろそろ宴もお開きか。オーナーが来ているようで、エージェント達に感謝と挨拶を述べている。初春と稲荷姫は目を合わせると、ぴょんと席から降り立った。
「この度はお招きいただきましてありがとうございますじゃ」
「このような素晴らしきクリスマスプレゼント、誠に感謝を」
 オーナーに伝えるのは感謝の言葉。「是非とも来年もお越しください」とオーナーは頭を下げた。

 緋十郎も、店主に礼を述べた者の一人である。彼が思い出すのは、エージェントを見る店主の、深い感謝の眼差しだ。
「人々の“希望”……か。改めて……俺達の仕事は……責任重大……だな」

 美味しいご飯は明日の活力。
 それでは一同、手を合わせて。
 ごちそうさまでした――メリークリスマス。



『了』

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 傍らに依り添う"羽"
    アトリアaa0032hero002
    英雄|18才|女性|ブレ
  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 生満ちる朝日を臨む
    真昼・O・ノッテaa0061hero002
    英雄|10才|女性|カオ
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
    人間|11才|女性|命中
  • コンメディア・デラルテ
    マルコ・マカーリオaa0121hero001
    英雄|38才|男性|ドレ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • 雨に唄えば
    烏兎姫aa0123hero002
    英雄|15才|女性|カオ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • エージェント
    シセベルaa0340hero002
    英雄|20才|女性|カオ
  • 分かち合う幸せ
    笹山平介aa0342
    人間|25才|男性|命中
  • どの世界にいようとも
    ゼム ロバートaa0342hero002
    英雄|26才|男性|カオ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 私ってばちょ~イケてる!?
    春日部 伊奈aa0476hero002
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
    人間|18才|女性|防御
  • 想いの蕾は、やがて咲き誇る
    カスカaa0657hero002
    英雄|20才|女性|ドレ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 花の守護者
    ウィリディスaa0873hero002
    英雄|18才|女性|バト
  • エージェント
    十影夕aa0890
    機械|19才|男性|命中
  • エージェント
    結羅織aa0890hero002
    英雄|15才|女性|バト
  • 銀光水晶の歌姫
    アルaa1730
    機械|13才|女性|命中
  • 見つめ続ける童子
    白江aa1730hero002
    英雄|8才|?|ブレ
  • 世を超える絆
    世良 杏奈aa3447
    人間|27才|女性|生命
  • 魔法少女L・ローズ
    ルナaa3447hero001
    英雄|7才|女性|ソフィ
  • その背に【暁】を刻みて
    東江 刀護aa3503
    機械|29才|男性|攻撃
  • 最強新成人・特攻服仕様
    大和 那智aa3503hero002
    英雄|21才|男性|カオ
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
  • 希望の守り人
    マオ・キムリックaa3951
    獣人|17才|女性|回避
  • 絶望を越えた絆
    レイルースaa3951hero001
    英雄|21才|男性|シャド
  • Trifolium
    バルタサール・デル・レイaa4199
    人間|48才|男性|攻撃
  • Aster
    紫苑aa4199hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • 不撓不屈
    ニノマエaa4381
    機械|20才|男性|攻撃
  • 砂の明星
    ミツルギ サヤaa4381hero001
    英雄|20才|女性|カオ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • 鎮魂の巫女
    天城 初春aa5268
    獣人|6才|女性|回避
  • 天より降り立つ龍狐
    辰宮 稲荷姫aa5268hero002
    英雄|9才|女性|シャド
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