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言葉遊び
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言霊の相談卓
最終発言2017/11/28 23:54:19 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/11/27 22:50:47
オープニング
●ないものはない
今回は最近巷ではやりがちな、変わったドロップゾーンでのお話し。
そのお話はとある店の入り口にすげ代わるように口をあけた。
そのお店の名前は『ないものはない』みせ。
世界あらゆる商品がそろっているお店なのか。
ないと言ったものは地球がひっくり返っても存在しない店なのか。
それはまぁ。置いておこう。個人的にきになるひとがいるなら任務が終わってから個人的に話をしてみればいい。
そう、まず必要なのはドロップゾーンの対処である。
このドロップゾーンを潜って中を調査したリンカーたちによるとだ。
その世界はとんでもないカオスが繰り広げられていたらしい。
翼の生えた象が滝を生みだし、その滝が森を焼き払う。その温度で沸騰した雲に神々は浸かっていい湯だなとのたまっている。
そんな世界。
もしくは、蟻が巨大でクマが小さく、猫は開けたふすまを閉め。犬はコンコンとなく世界。
なぜ、そんなカオスな世界なのかって?
いやいや、その前に。
一つ皆さんにお伝えしないといけないことがある。
私は説明する手順をねあらかた頭で考えてる。
道筋を間違えばローマにたどり着けないように。
私が話す順番を間違えば、論理の迷宮にほいっとダイブしちまう。
そんな寸法さ。
皆さん、このドロップゾーンおかしいなぁ。おかしいなぁって思うかもしれない。
けれどその本質にたどり着くためにはまず今まで消化したドロップゾーンの内部事情に、一切愚神が描写されていないことをお伝えせにゃならない。
そう、雲に浸かる神さんも、鼻から滝を流す象さんも愚神じゃない。
それは愚神によって召喚されてしまった存在なのさ。
そう、この世界はなんでもあるせかい。そしてなにもかもがなくなるせかい。
お前さんたちの存在も、もしくはなかったことになる世界。
こわいだろう? たのしいだろう?
そんな言葉遊びの世界で物を言うのは腕っぷしじゃねぇ、お前たちの頭脳さね。
頭痛ませてせいぜい、私を倒す方法を探すことさね。せいぜい苦しく、苦しくさ。
「おっといま、さっそくしりとりをしたね? 愚神だって? あーその着眼点はいい。私を消せるかもしれなかったね、けれどね、この世界にもルールってもんがある。しりとりってさ、『ん』を言ったやつが負けなんだよ」
さぁおかえり。
そう私が告げると、リンカー御一行は吸い込まれて世界の果てまで消えちまう。
さぁさぁ、次の挑戦者はいつ来るのかねぇ退屈だねぇ。
●あるものはある
その愚神は『ナレーター』と言ったらしい。
開幕調査から帰ってきたリンカーたちが告げたのはそんな言葉。
あの世界ではしりとりによって世界のルールが変更される。だからナレーターと言った瞬間。この世界のナレーターが消失し、代わりにあの愚神がナレーターを務めた。らしかった。
「何を言っているかさっぱりわからんと思うが、俺も何を言っているのかさっぱり分からない」
そう告げた、リンカーの一人はもう、頭脳労働はこりごりだと大の字に寝転がった。
その世界は最初、机と燭台。そして人数分の椅子とスーツの男しかいなかったはずだった。
ただ、男が勝手にリンカーたちの言葉尻を捕まえて、しりとりをして言った結果、わけのわからない世界が生まれていたと、そんなところらしかった。
「今回は知略に秀でたリンカーが必要だな」
指令官アンドレイは一人思考しながら告げた。
「彼らに声をかけて見よう」
そう選ばれたのが君たちである。
●あるなししりとり。
この世界では皆さんが発せられた言葉がしりとりになります。
そしてこのしりとりで使われた単語がこの世界に存在しない場合。存在が新たに追加され。
この世界に存在する場合、その存在がなかったことになります。
たとえば『こたつ』と言った人の言葉に対して『つばさ』と告げると、翼を持たない者達全員の背中に翼がはえ、翼をもつ者の背中から翼が消えます。
しりとりは、唐突に始まり、唐突に終わる可能性があります。
続ける意思がある限り続き、誰もその言葉尻を捕えなければ、しりとりはそこで終りです。
なので、誰かのうかつな言葉が命取りになるかもしれません。
そうですね、せっかくなので、危険な言葉の例について解説しましょう。
この世界ではタブーが存在します。
先ず名前を知られること。
名前を知られた時点で。あなたの存在がこのドロップゾーンから排斥されるきっかけになります。
たとえば遙華の名前がしりとり中に唱えられると。
遙華は世界から消え、ドロップゾーンの世界から追い出されるでしょう。
この世界では言葉が一番力を持つのです。
あとはスキル名なども気を付けた方がいいでしょう。
あとは現実世界でとんでもない力を持つ単語も避けた方が望ましいでしょうね。
このドロップゾーンでは重体になるより前に世界から排出されてしまいます。
借り物の力なので、皆さんを仕留めきるに至らないのです。
ですが、霊力を伴う高火力兵器なんてものを召喚されてしまった日には大変なことになるでしょう。
代わりにうまくリンカーのスキルやアイテムの名前につなげられるとあなたがそのスキルやアイテムを使用できる可能性があります。
ひょっとしたら死んだ人にも会えるかもしれません。
その人の名前を唱えれば、その人はその場に召喚される。ことになるでしょうから。
最後に、ほとんどのルールが曖昧なこの世界ですが。
二つだけ明確なルールがあります。
1 自分の言葉にしりとりを続けることはできない。
2 しりとりで『ん』がついたら退場。
解説
目標 愚神『ワードホリック(仮名)』
● 愚神について
愚神ワードホリックは素のステータスがデクリオ級に達しているかどうか怪しい愚神です、ただし頭脳面では並の愚神を圧倒します。
特にその知識量はすさまじく今回のドロップゾーンのルールを遺憾なく発揮して皆さんを追い詰めるでしょう。
見た目はスーツの紳士で、直接戦闘で倒すことは簡単にできそうですが。
分身。だったり、盾、だったり、身代わり、と言った言葉で皆さんの攻撃を回避し続けるでしょう。
回避できないほどの圧倒的攻撃力を振るうか、もしくは使いにくい言葉尻で追えるのがいいでしょう。
● 第二目標について。
最近変わったドロップゾーンを下級愚神に貸し出す上位の愚神が存在するようです。
その愚神が、既出なのか、まだ見ぬ愚神なのかはわかりませんがこのまま放っておくと更なる被害に発展するでしょう。
その前に正体を突き止めたいところですが。
今回のドロップゾーンの性質を利用しましょう。
ワードホリックのしりとりに対して『真実』『正体』など、それに類する言葉を投げてみてください、面白い真実が知れると思います。
リプレイ
プロローグ
『ワード、ホリック…………言葉、好き?私達、も、本を読むのは好きだけど…………』
『温羅 五十鈴(aa5521)』は胸元に持ってきた両手にて言葉を紡ぐ。彼女にとっては数少ない意思疎通手段。言葉を介せない彼女の想いをパートナーである『沙治 栗花落(aa5521hero001)』は読み取って言葉を返した。
「ま、彼我の実力差はやって確かめるしかないだろう」
告げる栗花落はドロップゾーンの入り口に立ち聞こえないはずの耳をすますように目を閉じた。
「心の中は喋ってダイジョブなのカナ?」
その背後に立ち『華留 希(aa3646hero001)』はそう告げる。
「どうでもいい言葉で試せよ…………て、尻取で何をどうやんだ?」
『麻端 和頼(aa3646)』が一筋縄ではいかない戦闘を想定し、ストレスに満たされた言葉を希に向ける。
「アンタは戦闘に専念! アタシが口動かすカラ!」
ならいい、そう和頼は不敵に微笑む。
「知略に秀でたあたい参上! これは勝ったも当然よね!」
そう得意げに告げるのは『雪室 チルル(aa5177)』。
「チルルが知略に秀でてるなら、人類みんながアインシュタイン博士じゃない?」
『スネグラチカ(aa5177hero001)』が意地悪くそう告げるとチルルは腕を振り上げて反論した。
「うっさいわね! しりとり勝負ならあたい強いんだから!」
「いや、しりとり勝負じゃなくて愚神退治だから…………」
手段と目的の逆転である。
しかしその手段は愚神討伐においてとくに重要でしくじれば一発退場もあり得るのだ。
「あいちゃん、いい? 間違っても気安く自分の名前言っちゃダメだからね!うっかり消えちゃったなんて全然笑えないからね」
なので『リリー(aa5422hero001)』は同じ言葉を何度も繰り返す。
『あい(aa5422)』はあまりの徹底ぶりに若干の戸惑いをうかべていた。
「りょ! りょーかいデェース!」
「あと、そのデス口調も禁止! 途中から『Death』になるから」
「で、デデデ……デェー……」
「なにその返事……」
「あ、久遠デェース! デェース!」
そうぱたぱたと『夜刀神 久遠(aa0098hero002)』に手を振るあい。
その様子を見てリリーは額を抑えた。
「……先が思いやられるわ……はぁ」
そんなリリーに『シールス ブリザード(aa0199)』がリストを手渡す。
「我々が持っている装備などのリストだ。この言葉は迂闊に喋らないほうが良いだろう」
「下手な言葉を口走らないようにしないとなぁ…………」
それは各自の装備、スキルをリストアップした一覧だ。あらかじめ情報は共有してあるが念のための措置である。全員に手渡した。
『99(aa0199hero001)』は改めてそれを眺める。それがNGワードとなる予定だ。
これを考慮して話す言葉を決めなければならない。
(将棋と同じですよ、/追い詰めなさい、宵理)
『センノサンオウ(aa5518hero001)』が告げる。
「俺将棋めちゃくちゃ弱ぇんだけど!?」
『砌 宵理(aa5518)』がそう答えた。
「たぶん、ドロップゾーンのルールがしりとりになぞられているなら」
シールスは配り終わった容姿を眺めながら全体に告げる。
「『ん』がつくと負けだというのは当然として。同じ言葉は使用しても向こう。意味が異なる同じ言葉は敵の判断に依存されると思うの」
「随分とまぁ、言葉遊びが好きな奴だ」
そんなシールスの言葉に『ベルフ(aa0919hero001)』はやれやれと告げた。
「自分の長所で戦うのは、ある意味理に適ているけどね」
『九字原 昂(aa0919)』が言葉を返す。
「それに付き合わされる側の身にもなって欲しいがな」
ベルフはそう整備の終わった装備を昂へと手渡す、いよいよ突入の時間だ。
『気になるのは前回エージェントを帰した事』
そう五十鈴はひっそりと隣に立つ栗花落へ告げる。
『なら目的は殺戮じゃない』
ライヴスを奪っていればライヴス目的であろう、しかし、リンカーたちはライブスを奪われていなかった。
『ライヴス目的というわけでもなく、ならば……』
彼の目的は、しりとりという遊びを行う事か、言葉そのものの可能性がある。
『んー…………人間味のあるというか子供らしいというか…………』
そう栗花落は同じく手言葉で五十鈴へと思いを返した。
『あいつの望む儘に言葉遊びなんて癪ではある、が』
「ぁ、そび……ましょ……?」
小さくか細くその細い喉から編み出された言葉が不敵にその空間に響いた。
開かれた扉は魔窟への大口、ここから先は今までになかったような戦いが待つことだろう。
(私達は、力はそう強くない。でも、言の葉でなら、渡り合ってみせる!)
五十鈴はそう胸に言葉を刻み、そして一歩踏み出した。
第一章
「いや、待ち遠しかったんだよ。ずっと待ってたんですよ君たち。リンカーだね。ようこそわが城へ」
そう告げた愚神は思いのほかリンカーたちと近しい場所にいた。
広大な土地、当たり一面真っ白で遠近感も何もない。
そんな中設置されていたのは大きな机と蝋燭と。その上に腰を乗せる愚神だけ。
彼こそワードホリックここを管理する愚神である。
そんな愚神に反射的に攻撃を飛ばしたのが『八朔 カゲリ(aa0098)』。
冷魔が餓え猛り飛びかかる。
「ヘラジカ」
その目の前に突如大柄な鹿が登場し、冷魔を遮る盾となった。瞬く間に冷凍されたそれは重たい音をたててその場に転がる。
「おやおや、血気盛んなことで。ルール説明すら聞き入れていただけないと」
朗々と語る愚神と、愚神に冷ややかな視線を送るカゲリ、その背後でチルルはシールスにひそひそと何かを告げていた。
「で、基本方針としては前衛と後衛に別れて行動する感じね」
「そうね」
「しりとりによる防御能力・回避能力が高いってことだから、ちゃんと攻撃を当てられるように基本に沿って多方向攻撃で攻めるよ」
「頼んだよ」
シールスが短く告げると、カゲリの背後から躍り出て一矢浴びせる。
チルルは敵愚神に向けて飛びかかった。
「夜!」
さっそく言葉をかけるチルル。事前相談で言われていたことだが、ルは言葉を繋げにくい。
チルルはセオリーを守って敵を攻めに言った。
ただその愚神もさすがである、ワードホリックを名乗るだけのことはある。
「ルソー」
愚神の隣に天然パーマの男が現れた。彼は朗々と哲学を語っているのだが、聞いている暇なんて全然ない。
カゲリは一瞥し刀でそれを切り捨てた。
「Death!」
そんなカゲリを追い抜いてあいは敵に肉薄する。その手の大鎌をぶんぶん振り回して敵を追い詰めていった。
「当たるDeath!」
「スイカ」
あいの鎌はスイカを真っ二つにした。
「くらうDeath!」
「スロウ」
とつじょあいの挙動がおかしくなった、とてつもなく速度が落ちる、その隙を狙って愚神は蹴りを放とうとするが。宵理が間に盾となって挟まりそれを防ぐ。
「ふむ、その盾やっかいだねぇ」
「ねろねろにしてやるデス!」
スロウから解き放たれたあい、もうなんだか分からない言葉を叫びながら鎌を叩きつける。
――……動詞じゃしりとり的にダメじゃないかしら……。
呆れてリリーが告げると愚神は言葉尻を捕まえる。
「では『隙』」
全員がその場でよろめいた。隙ができたのだ。その隙にワードホリックは距離をとる。
仕切り直しである。
【質問良いですか?】
その時五十鈴が一枚の紙をペラリと見せた。
「おや、筆談でよいのですか? 言葉に飢えている私は手話さえも理解いたしますが」
言葉に甘えて五十鈴は手話で問いを投げる。
『初めに確認を』
愚神は頷く。
『1、筆記での参加は可能か。2、しりとり以外に普通の会話は可能か、それとも全てしりとりとみなされるのか』
「筆記でもよいですし、手話でもよいです。多国語言語でも可です」
「寿司……で」
そう突如上がる声。見れば成り行きを見守っていた希の目の前に寿司が現れる、とても美味しそうにてかてか光っている。
「さらにしりとり以外の会話は可能である。ことば尻を捕まえるかどうかは皆さんの思考能力にかかっています」
「簀巻き!」
チルルが叫んだ、すると愚神が布団のようなものでぐるぐる巻きになってしまったではないか。
斬りかかる昂、そしてあい。シールスも容赦なくその矢を敵眉間に放つ。
「ルールが理解していただけたようで何より、奇跡」
次の瞬間、その場から愚神が消え去って遠く離れた場所にワードホリックが出現した。
「汚い考えの、グ」
そう希が告げようとした瞬間、ワードホリックは言葉をはさんだ。
「野ざらし」
全員へと冷たい風、雨が吹きつける。
「むう、あたしの言葉で勝手にしりとりするナ!」
希が悔しそうに口をとがらせる。
そんな表情を作りつつも体の主導権は和頼である、容赦なく斬りかかる。
「そういえばナレーター? って復活するデス?」
ふとあいが思い立ちそんな言葉を英雄に投げる。
――……ここのルールに乗っ取って消されたならここのルールに乗っ取って無かったことにすればもしかしたらだけど……。
「ならナレーター→誕生デス!」
あいの隣に本を抱えた変なおじさんが現れた。
――……意味違わなくない?
そのおじさんはあいの行動を逐一言葉に直していく。
そうまさに今皆さんが読んでいるような地の文を朗々と。
大変うるさくて邪魔くさいことこの上ない。
「いなくていいデス」
「くない」
そう愚神が告げるとその手元に忍具が召喚された、その腹でカゲリの一刀を捌く。
雪村の刃がぎらつき、ワードホリックの表情を写す。
「おや、あなた様は言葉を語らないので?」
その言葉に対してもカゲリは無言と殺意を返す。
「つまらない」
そう告げるとワードホリックは距離をとろうとした。
だが、それも予想の範疇。
愚神があとずさった先に待つのは刃の牢獄。
音をたてて、雪村の刃が組みかわり、パズルのように愚神を包囲する。
そしてその刃がジャキリと鋭利な音をたててしまると。愚神は両腕を吹き飛ばしながらも床に転がった。
首を跳ねられるまでには至らなかったようだ。
「うううううあああああ、そうだ、そうだ、口がね、命だからね、私めはね。ふひひひ」
笑い転げるワードホリック。それに刃を向けるカゲリ。彼ほどの実力であればこのまま首を跳ねるのもたやすいだろう。だが。
――お待ちください。まだ。
まだ目的が果たせていない。
このままでは昨今広がる謎のドロップゾーン事件、それらの黒幕が分からなくなってしまう。
眉根をひそめるカゲリ。
「では、だんまり。でいかがでしょう」
愚神が提示したワードは口を閉ざすという意味の言葉。
「お前……」
カゲリが口を開く。
「エッジ」
ここにいる全ての武装、それから刃が消えた。
「うう、じ。じ……しりとりは、テンテンをぬいてもありですか?」
そうアイがリリーに問いかける。
――……何度も同じ言葉を使っても意味がないわよ……それにしりとりにもなってない。意味を作りたいならなるべく回す言葉に。
そうリリーがつげる。
「は、はいデス!」
何か閃いたようだあいは手を叩く。
「……っは!『しんぶんし』デェース!」
――……は?
「しんぶんし、デス! しんぶんしならしんぶんしになるデス! 情報と言えば『しんぶんし』デェース!」
そうあいの手元に新聞が召喚されるが、漢字がいっぱいで読みにくい。
「って! そんなことしなくても」
シールスがあわてて動いた。
間に合うか。愚神の口が動こうとしている。
だがその愚神の横っ面を刀の腹で吹き飛ばすとカゲリは告げた。
「正体」
「おおおお? おおおおおおお」
――このドロップゾーンを展開した黒幕、その正体を吐いていただきますよ。
久遠が告げるとワードホリックの口から言葉があふれでる。
その言葉は全て耳馴染みのない言語だった。
それはエスペラント語と呼ばれる人造言語。
しまった。そう誰もが思ったが。五十鈴はそれを冷静にメモに取っている。
――わかるのか?
栗花落が問いかけた、それに首を振る五十鈴。
パッと意味が通じるほどこの言語を知っているわけではない。
だが、言語の意味を調べるのは得意でなれている、コツもつかめる、発音さえメモしていれば調べることはできる。
そんな冷静な五十鈴に忌々しげに愚神は告げる。
「『私に関する記憶』を失わせればすむ。ただそれだけのこと」
戦いは次の局面に突入する。
第二章 二回戦
「……セン」
――承りました。
宵理が短く告げると主導権がセンノサンオウに回る。
有を無に、無を有にとは中々面白い場ではある、これは参加しない手はない。
「折角なのですから、世界を作る……などというのも一興でしょう?」
そう微笑んだセンノサンオウ。
「ほう、一体どうするというのだ?」
そう問いかけるワードホリック。それに対してセンノサンオウは告げる。
「では、先ずは太陽」
頭上に光り輝く太陽が出現した。
そう言葉の応酬を続けているうちに世界にあらゆる物が生まれる。
花、池。湖。世界がどんどん構築されていく。
――とにかく相手のしりとりに振り回されないようにしないとね。
それを見つめてスネグラチカがチルルに告げた。。そんなスネグラチカと対照的にチルルは不安げな声を漏らした。
「でも、どうしよう」
――このまま、倒せばいいんじゃない。
「うで……だ」
そのチルルの言葉を聞いていた愚神が言葉尻を捕まえた。
愚神が告げると切り飛ばされた腕が生えてくる。
同時にリンカー全員から腕が消えた。
「えええええええ!」
驚きの声を上げるチルル。幸い出血などはないが、これでは取り落した武器を握れない。
「これじゃ、あたい、前衛になれない」
チルルは前にでて愚神とバチバチやるつもりだったのだが。
これではどうしようもない。
真っ向勝負は望むところであるが、足だけでは武装をうまく扱えるはずもない。
「にげろ!」
いさぎよいのはチルルの美徳。状況がどうにかなるまで敵の注意をそらす方向にシフトするようだ。
他のリンカーたちも様子見に移行する、攻防が逆転してしまう。
この状況を打開するためにはしりとりに応じるしかないようだ。
「俺こういうのあんま得意じゃねぇんだけどなぁ……」
そう宵理は一人ごちる。
恐らく知識量はあの愚神に到底及ばないだろうし、だからこそ変化球は極力避けた方が良い、そう考えれば考えるほど反撃の手段がなにも思いつかない。
そんな宵理をじっと観察しているセンノサンオウ。
もし状況がこのまま悪くなれば、わざと『ん』をつけての離脱の必要もあるだろう。
だが宵理はまだあきらめた様子がない。
「おやおや、たかだか腕がなくなった程度で、ギブアップかな」
「ナトリウム!」
そう無難な言葉でつなぐ宵理。
ナトリウムがざらりと周囲に降り積もった。
「あいつの知識量は確かにすげぇんだけど、ここの事考えるとなんか違和感あるっつーか……」
――彼はゾーンルーラーではない?
センノサンオウが問いかける。
「それで間違いないと思うぜ」
「そろそろ反撃と行こうか」
そうシールスは和頼と顔を見合わせる、挟撃の準備は十分整った。
「セピア……だ」
告げる和頼、それに乗るシールス。
「アーム」
――そして、無駄に威張ったグライヴァー、ね。
先ず視界から明度がなくなった、単色となりかなり観にくいが腕の感触は戻ってきた。
次いで、愚神にとって致命傷となるべき言葉。
グライヴァー。
「お? おおおおおお!」
その時蒸発するようにワードホリックから力が抜けていく。
だが消えない。
「まさか、愚神性がなくなったことによって、邪英に戻った? そんな馬鹿な」
シールスが驚きに目を見開いた瞬間、シールスに飛びかかってくる愚神。両腕はなく、その牙で獣のように噛みついてきたのだ。
――あいつも邪英から愚神になったパターンか?
「それかもともと愚神ではなかったかですね」
だが、間に昂が入ったおかげで奇襲は防がれた。
「危ない!」
「異形!」
愚神が唱えた言葉で、その両足が禍々しく変わる、まるで鎌のようにプレートが生え、それで昂に切りかかる。
だが練度は圧倒的に昂が上である。
両足の連撃をかわし、素早く懐へ、ひじ打ちからの女郎蜘蛛での束縛。
これで女郎蜘蛛使用回数が一つ減った。間髪入れず口を開いたのはスネグラチカとチルル。
「えーっと、そうじ女郎蜘蛛」
これで使用回数が減った女郎蜘蛛も回復し。しかもリンカー全員が女郎蜘蛛をつかえるようになった。
女郎蜘蛛の連打である。
あいとカゲリが同時に愚神を縛る。
「も……もどる」
苦し紛れに出た愚神の言葉、状態以上は解除されるが再び昂の手番が回っている。
その時五十鈴が不敵に笑った。
五十鈴は愚神にのみ見えるように手で言葉を語る。
『あなたは自分がルで終わることを避けていた』
それはひとえにあの言葉を他人に使われることを避けたかったから。
だがついに口にしてしまった、そのルという言葉。
『ゲームはここで終り』
そう五十鈴は一枚の紙を投げる。
そこにかかれていたのはルール。
ドロップゾーンがひび割れる音がした。
第三章 撃破
ゾーンが崩れていく。
このゾーンのルールが消えていく。
「だが、まだ完全に死んだわけではない!」
焦りに声を荒げる愚神、当然だろう、ただでさえしぼみつつあった霊力が今や風前のともしびと言えるくらいにか弱くなっている。
それを補てんするために、あるワードが必要だった。
「そこのお前」
そうカゲリを指さしたワードホリック。
「さで言葉を終えろ」
眉根をひそめるカゲリ。
「あー、もしかしてあたいの称号を」
叫ぶチルルを無視して愚神はもう一度告げた。
「さぁ、一度でいい、さで言葉を終わらせるのだ。御願いします」
――まぁ、いいではないですか。その代わり私どもに一分の時間をお与えください。
告げたのは久遠。
その言葉に愚神は頷いた。
「では、あさ」
「最強の私」
次の瞬間、愚神の体が膨大に膨れ上がっていく、華奢な体が風船のようにムキムキと、見上げるほどの大きさになってもまだまだ成長は続く。
「はははは、バカめ、かかったな、これでお前たちをひねりつぶしてやる」
――はいではその前に、一分間、私どもでしりとりいたしますので少々お待ちくださいね。
ではしりとりのりから、そう久遠は告げた。
「リーチ」
昂が言うとベルフが言葉を繋ぐ。
――ちから。
ベルフの言葉で愚神の成長が止まる。
「あれ?」
『落雷』
そう五十鈴が紙を手渡すと愚神に霊力を伴った雷撃が放たれた。
「うぎゃーーーー」
「一撃必殺……でーす」
あいが言った。鎌に膨大な霊力が蓄積される。
「え? つで始まって、こで終わる? ちりめんじゃこ?」
シールスが告げると、大量の縮緬雑魚がそらから降り注いだ。
――では拘束かな。
希が言う。愚神の体が硬直して動かなくなった。
「ぬおおお、そう言うことか、リンカー、汚いぞ。私を仲間外れにしりとりをするとは」
そんなワードホリックの前にカゲリがとうきびを掲げて見せる。
「これはなんという?」
そう質問するように強制されたカゲリ。もちろん強制してきたのは久遠。
「とうもろこし。だろう?」
その時。ワードホリックはとてつもない悪寒を感じた。
――『神威』でどうでしょう。
膨れ上がる膨大な霊力、それは全てカゲリの内より。
――それは、この世界に顕現する際に喪われた力、遍くを闇に鎖す大紅蓮地獄。古より我がうちに渦巻く力。
久遠の言葉、いにしへの言葉尻をとってカゲリはそれを口にする。
「蛇の王」
それは浄化の王と対なる不浄の王の――否、それを継いで得た彼女の力。それは焔の鷲に滅ぼされた、かつての彼女の神体である。
そこに顕現したのは神というべきその力。久遠はすでにカゲリの内にはいなかった。
その身はかつての力を一瞬取戻し、顕現する。
――ああ、まさか、まさかこのような場所で。
そう久遠は涙する。
まさかまみえるとは思わなかったのだ。
亡くして無くして哭き果てた――…………かつての己にして、兄、その姿に。
蛇の王は大口を開けた、矮小極まる愚かなる神を、その不浄で包みこみ。愚神を無へと返した。
命を削り取らんと咆哮する蛇の王。
それは紛れもない憤怒の声だった。あなた風情が兄様を穢すな、そんな声だった。
「もしかして、声が聞えていないのか?」
カゲリはその真意へと手を伸ばす。そこには確かに久遠を感じるが。同時に久遠を感じない。二人はドロップゾーンの影響が消え去るまで、その場で佇んでいた。
エピローグ
「ふぃー、初めてのお仕事、完了デェース!」
あいはそう拳を突き上げて、散っていくドロップゾーンを見送った。
「えぇ、それと、あいちゃんの語彙の無さもね。ちょっとお勉強しなくちゃね」
そう苦笑いを浮かべるリリー。
「デデデデェース! ……で、でしたら美味しいドーナツ食べながらでも……」
「ハイハイ、勿論あいちゃんの奢りでね」
「デェース……」
釈然としないあいであった。
そんな元気な二人と違い、希は共鳴を解くと和頼にしなだれかかった。
「喋れないってツラいヨー」
「……思いっきり言ったろ」
「アレは尻取っショ? アタシの言葉でイジメたかったー!」
希の方が怖いと思う和頼であった。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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