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空から落ちる白いもの
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依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/12/01 00:05:04 -
白狩り
最終発言2017/12/01 13:04:25
オープニング
■空から降るのは
「わぁ……何だろう……」
街を行き交う人々が空を見上げる。ふわりふわりと白い物体が空から舞い落ちているのだ。よく見慣れているであろう「それ」に、何か違和感を感じる。
「変ねぇ。空は晴れているのに……」
あぁ、そうか。今日は晴天だ。雲一つない空から「それ」が降ってきているのだ。
白いそれをつかんでまじまじと見る―虫だ。ゾワッと鳥肌が立つのを手に取ったそれをぱっぱと払う。
「嫌っ……!」
突如として現れた白い虫により、町の一角が騒がしくなる。雪だと思われたそれのおかげで、町の一部の場所が通行止めになってしまったのであった。
■本部にて
「とまあ、そんなに難しくはないであろう。突如として現れた虫の集団を対処してほしいというのが今回の依頼じゃ。あまりにも突然……ということじゃ。恐らく従魔の仕業だろう」
オペレーターの彼は腕を組む。
「まぁ、今のところ怪我人も出ていない。それに、その虫たちが何か悪さをしている様子もない。なぁに、君らならすぐに片づけてくれるじゃろうな」
期待していると彼はぐっと親指を立て、エージェントにエールを送るのであった。
解説
●目的
街路樹に発生した虫の駆除
●詳細
・街の街路樹にて突如虫が発生した。その為、従魔がかかわっている可能性が大いに有り
・現状、怪我人がいないことと、虫がこちらに対し攻撃的でないことは確認されている
・数は不明。小さな5ミリ程度の虫が複数匹集まって、塊のようになっている
・町の街路樹の50メートル間にて大量発生している
●街路樹について
・長さ約80メートル、幅約1.5メートル程
・等間隔に針葉樹が植えられている。
・クリスマスが近いため、木々には電飾が飾られている。
リプレイ
■白いソレの正体は
時刻は午後4時。冬の季節だとすでに薄暗くなってきている。街の木々にはイルミネーションが灯り、イベントが近づいているのを匂わせていた。
依頼により訪れた街路樹。そこだけ雪が降ったように木々が白い。遠目で見ると、一見して綺麗ではあるが。
「うわぁ……これは流石に」
『……気持ち悪い。なんか背中がモゾモゾするよぅ』
ひきつった笑顔と涙目の二人。黄昏ひりょ(aa0118)とフローラ メルクリィ(aa0118hero001)だ。
知らない人が見たら綺麗にも思えるソレを虫と知っている二人は絶句して見ている。
「虫はそこまで嫌いじゃないけど」
『あれが全部虫だって考えるとね……』
顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。その横でいつもと変わらないの二人がいた。
『愛の天使の季節到来だよ』
「年がら年中小春日和じゃないの。それにアレは雪じゃないし」
『雪が降っても例えソレが虫だとしても、心はいつも晴れ晴れなのよ』
「相変わらずいいこと風に適当なこと言うのは上手いね」
どんな状況でもいつも通りの餅 望月(aa0843)と百薬(aa0843hero001)。
この状況では頼もしく思える。
「町の人々から、今回の事件解決を頼まれまして……断るわけにはいきませんよね」
その横では苦虫を噛み潰したような顔をする月鏡 由利菜(aa0873)がいた。
『……あまり顔色が優れないようだが。体調が悪いのか?』
「い、いえ、そういうわけでは……」
顔を真っ青にする彼女をリーヴスラシル(aa0873hero001)が気遣う。
「うぅ…あ、あまりこういう虫は間近で大量に見たくはないですね……」
『ユリナ……醜悪な愚神や従魔と幾度となく対峙しているのに、さして脅威とならぬ虫が苦手と言っても私は信じられんぞ』
「そ、それとこれとは別です!」
「もう……」と由利菜が軽く頬を膨らます。
「雪とどっちが嫌かな」
『さぁ。寒いなら十中八九雪だけど』
「それはわたしも同意ね」と冷ややかに街路樹を見つめる。
『グズグズしてる暇があったら、日が暮れないうちに終わらせないとね』
「だね。こんなに寒いんだから。グズグズしてると凍ってしまいそうだよね」
アリス(aa1651)とAlice(aa1651hero001)は、虫によるこの惨状よりも冬の寒さの方が苦手らしい。白い息を吐き、小さくぶるっと体を震わせた。
『こんだけイッパイだと壮観だネ!』
華留 希(aa3646hero001)は凄い量の虫を見ても気にしていない様子である。
「てめえの神経は……」
少し尻込みしろと思う虫の量も臆さない希に対し、麻端 和頼(aa3646)は突っ込まずにはいられない。
『遠目にはイルミネーションに雪が被ってる様で綺麗だな』
遠目ではと念を押すジェフ 立川(aa3694hero001)。
「……虫って思うとザワッて成るよ。近くで見たく無いな」
「ううぅ」と嫌そうに言う五十嵐 七海(aa3694)。視線を和頼の方に移す。
「この量じゃな、無理すんなよ!」
七海を気遣う和頼に、彼女は「ありがとう」とにっこり笑った。
『諦めて行くぞ』
娘を見るような眼差しで、彼女の頭を撫でる。
「うん! 頑張る!」
近くで見たくはないなんて言うもの、やる気は十分。しっかりと任務を果たすつもりのようだ。
■いざ、戦場へ
「さーてと……やるか」
和頼がブルーシートを木の下に敷いた上に、七海が「よいしょっ」と脚立を運んできてくれる。
「ここに置けばいい?」
「おう。ありがとな」
声は笑っているものの、着ぐるみにより表情は見えない。
「ふふっ……」
「な、なに笑ってんだよ」
自分の姿を見て笑う七海。理由は大方予想できるが。
「だって、その着ぐるみ可愛いんだもん」
暖かそうだよねなんて、のんきな事を言っている。
「む、虫対策だ! 普段はこんなことがなけりゃ、着る機会ないしな!」
表情は隠れてしまって見えないが、照れているのは見えなくてもわかる。
『この雰囲気が虫に囲まれた中じゃなければねぇ……』
『ジェフ、ロマンチストだネ♪ はい、パウダースノー♪』
二人の様子を少し離れているところから見ていたジェフに希が悪戯をしかける。
『わっ、ちょっと……!』
いきなり目の前に虫の山を差し出され慌てる彼に希は大喜びだ。
『良い反応ダネ♪ そういう反応をされるとやめられないヨ』
キャッキャとはしゃぐ希に、和頼が活をいれる。
「遊んでる場合じゃねーぞ。さっさとやらねえといつまでたっても終わらねぇぞ」
すでに和頼と七海の二人は虫を対処しようと行動に移していた。和頼は持ってきた霧吹きを七海に渡し、箒を使って高いところの虫を落とす。
「っとその前に……」
装着していたモスケールで周りを見渡す。飛んでいる虫の塊には中心部、木には点灯している明かりか。動きは弱いが、微妙にライヴスの動きがあるように見える。
「試しに突っついてみるか……」
持っていた武器を幻想蝶から取り出し、電飾を割れない様に軽く小突く――すると、そこに密集していた虫がばあっと飛び上がる。そして、それとともに煙のようなものが消えていくのが見えた。
「わっ」
びっくりして、脚立ごとバランスを崩しそうになる。
「あ、危ないっ」
近くにいた脚立を慌てて七海が支える。
「せ、セーフ」
二人はまた顔を見合わせ、クスっと笑う。
『……熱いな』
『……熱々だネ』
遠目で見ていたジェフと希は気にせず作業を続ける。
「大丈夫だった?」
「おう、サンキューな」
虫は飛び上がった後、どこかへと飛んで行ってしまった。ひとつ確証に近いものを得た。
「従魔がいたぞ……たぶん、イマーゴ級か」
脚立から下りて、もう一度、今度は近くに飛んでいる塊の中心部をやりで突く。すると、ぶわっと広がったかと思うと、塊は形を崩しそのままバラバラになって徐々に数を減らしていく。
「わっ……塊が崩れていく。これは、一部が従魔ってことなのかな」
「たぶんな。試しにいっちょやってみるか」
通信機に連絡を入れる。強い光を出すから注意しろと。
「ちっと目を閉じておくんだな」
近くにいた希を呼び共鳴する。体を光が包み、炎のように揺らめく赤い色が目に留まる。
すぅっと、深呼吸をし言葉にする。
――ピカッ
強い光が広範囲にわたり輝く。
次の瞬間、白かった木々が元の色を取り戻すのだった。
「うわー……」
確認するために、地面に落ちた白い塊に近づくもひきつった声を上げる。
「これが全部従魔ってことか?」
正しくは従魔の死体だが。
「虫に取りついて何をしようとしていたんだろうね」
「さーな。従魔は自分の意思があって行動してるわけじゃないらしいし、虫の習性をそのまま受けただけなんじゃねえかな」
「なるほどね」
恐らく強い従魔ではないのは確かだ。だが、スキルを使うとき以外は共鳴する必要はないだろう。
七海が他の者に連絡を入れ状況を報告する。そして、4人は作業を続けるのであった。
「どっから手を付けようか」
8人はそれぞれ等間隔でエリアを分担することにしていた。だがそれでも、見るだけで虫の数はものすごく多い事がわかる。
『ううぅ……気が遠くなりそうだよぅ』
近づいたことにより、虫の姿を再認識してしまったフローラはさらに顔を青くしていた。
「あはは……これは早く終わらせちゃいたいね」
彼女の事を気遣いつつも、ひりょの表情はみなと同様引きつっている。よっぽど肝が据わってないと、この惨状に対し平常を保てる者はいないのではないだろうか。
「とりあえず、スキルを使ってみて様子を見てみようか」
『……うん』
二人の体は光に包まれ、ひりょの姿が青年へと変化する。
「さてと……」
辺りを見回して、一般人がいないか確認する――大丈夫だ。念の為と思ったが、通行止めにしてあるため、自分たち以外の人影は見当たらない。
(あれ? でも、虫って眠るんだっけ? ん~?)
悩んでいても仕方がない。物は試しだ。精神を集中し、スキル名を唱える。
言葉は霧となり、周りにいるソレを包む。ポトリポトリと徐々に数が少なくなっていく。
(ひぃぃ……)
頭の中で、フローラの悲鳴が聞こえる。姿が見えていたなら涙目にでもなっていたのではないだろうか。
確実に霧はソレを包んだ。しかし、一部はまだ宙で塊を作っている。
「このスキルって、従魔には効かないんだったっけ……」
もしかして、と思い彼もまた武器を取り出し塊を切る。煙のようなものが上がり、塊は形を崩す――そして、消えていく。
(なるほどね……)
共鳴を解き、姿が元に戻る。床に落ちたソレを確認する。ピクピクと足が動いているのは、スキルに寄るものなのか、それとも解放されたものなのか。
『うわぁ……気持ち悪い……』
フローラは距離をとり、その姿にひりょはまた苦笑いを浮かべる。
ちょうど他の者から連絡が入る。皆、状況は把握したようだ。
「ほら、残りも頑張ろう」
短時間ですでにげっそりしている彼女の肩にポンっと手を載せる。
『……うん』
(そういえば、月鏡さんも虫が苦手そうだったけど大丈夫かな)
後で見に行ってみようと心に決めつつ、二人も作業を続行するのである。
そして、時折聞こえていた悲鳴は徐々に弱しくなっていくのであった。
『みせてやるよ、すごいむしとりあみの、すごさを』
虫取り網を構え、ビシッと決める天使。
「むしとりあみ活躍しすぎじゃないかな」
便乗して望月も網を構える。
『さあ、行くぞ』
「もう来てるからね」
とりあえず、近くにいる虫を数匹捕まえて観察してみる。
塊を網でさあっと取っただけなのに、中でうぞうぞと蠢いている。
「う……うわぁ……」
間近で見ると気持ち悪い。
『とりあえず、バケツに水をいれてあるからこれにつけてみる?』
特に薬品は入れていない、ただの水道水につけてみる。数十秒間付けた後取り出すと、動いているのと、動きを止めた虫がいた。
「ありゃ。意外と虫って強いのかな」
『今度は火にでも入れてみる?』
周りに燃え移らないものがないか確認して、用意しておいた紙に火をつけそこに生きている虫を入れる。火はすぐに燃え尽きその中には綺麗な死体が残っていた。
「……変ね。死体は燃えないのかしら」
『だね。焦げてない上、形が残ってる』
これは従魔によって強化されたからだろうか。
タイミングよく、通信機が鳴る。
「……了解だよ。うんうん……わかった」
連絡が終わると、直ぐに小さなノイズが流れるだけになった。
『なんていってたの?』
「たぶん予想通りみたいだよ」
聞いた話をそのまま百薬に伝える。
「弱いみたいだから、共鳴は必要なさそうだって」
『それなら人で多い方がいいし、このままでもいいよね』
とはいえ、油断は禁物だ。もしかしたら強い従魔も出てくるかもしれない。
気を取り直して片っ端から網で獲ったり、武器で攻撃する。共鳴していないと威力は落ちてしまうが、イマーゴ級ならこの程度でも問題ない。
自分の担当するエリアをくまなく駆除する。
「落ち着いたら、もうすぐクリスマスってことで、みんなにも何が欲しいか聞いてみようかな」
『特大鶏丸焼き食べたいな』
それは確かに欲しい。そんな会話をしつつ、二人はせっせと作業に没頭するのであった。
「さ、頑張りましょう!」
虫の塊に近づきたくないようだが、これも仕事だ。そう言い聞かせ、戦場へ足を踏み入れる。
『従魔の方が気持ち悪い姿のも多い気がするが……』
リーヴスラシルはまだ納得がいっていないようだ。
「よいしょっと」
虫がどうこうの話は一度置いておき、用意しておいた果物をすりつぶしたものを木に擦り付けていく。
「これで効果がありますかね」
『さあ……どうだろうな』
しばらく待っているが、そこに寄ってくる様子はない。「それならば!」と持ってきたクラリネットを口にくわえ音に反応するかどうかを試してみることにする。
――ピイイィィィ!
クラリネットから出た音と思えないような大きな音が辺りに鳴り響く。
『単純且つ異質で、大きな音……』
リーヴスラシルはそんな音も出るのかとでも言いたげである。
「べ、別に綺麗な音でなくとも、試すにはいいではないですか!」
『何もダメとは言っていないだろう』
改めて、もう一度音を出す。豪快な音が鳴り響く。
「……反応はないですね」
『後は虫取り網だな』
幻想蝶から網を取り出し手の届く範囲の虫を捕まえる。
「私が一匹でも逃しますとでも? 覚悟しなさい!」
豪快に網を振り下ろす。一つの塊が見事網の中に消えていく。
『流石に虫取り網を振り回すのに、そんな大仰な台詞は必要ないと思うが……』
「つ、ついいつもの癖で…」
格好よく網を振り回す由利菜に冷静なツッコミを入れるリーヴスラシル。
苦笑を浮かべつつ、網の中を確認する――蠢く虫。
「ひぃ……」
大量の虫を見て、悲鳴を上げずにはいられない。
「この塊でこの量なんですか」
げっそりした顔で周りの木々を見渡す。
まだまだ対処は始まったばかり。終わるころには彼女の疲れはいつもの戦闘よりも気疲れでクタクタになっているだろう。リーヴスラシルはそんな風に心の中で思うのであった。
「手っ取り早く済ませよう。最近寒くなってきたから、ね」
手始めにスキルを使って、周りを確認する。強いライヴスの動きは見られない。
「この感じだと、従魔がいたとしてもイマーゴ級かな」
冷静に状況を分析するアリス。確認できる限り、ライヴスの動きがかすかに見えるのは、一部の電飾と塊といったところだろうか。色々試さない限り確証は得られないだろうが。
『試しに広範囲を狙えるスキルを使ってみようよ』
アリスは静かに頷き、静かに唱える。
たちまち彼女の周囲が霧で包まれる。それが晴れる頃には虫の塊は姿を消し、地面には白い山ができていた。
「弱いけど従魔だったのは確かみたいね」
この調子で次々やっていこう。
「時間がかかるかと思ったけど、広範囲で片付けられるなら早めに終わりそうだね」
『寒いのは嫌だから、これくらいで良かったね』
淡々と虫の駆除に取り掛かる。
――ゴォッ……
彼女の放つライヴスの炎が虫を捕らえる。幻影の炎は普通の木々には影響ない。だが、従魔にはひとたまりもないだろう。
霧と同様、炎が消える頃には地面に白い山ができていく。
「分担すれば、あっという間ね」
『少し外れたのは、虫取り網かな』
黙々と作業をしていると、突然笛らしき音が鳴り響く。
「……すごい音ね」
『笛の音だよね。あっちの方だから……』
音のする方に視線を向けると、由利菜が何やらやっている。
「あれも何かの武器なのかな」
『……どうだろうね』
遠目に見つつ、自分たちは自分たちの方法で作業を続ける。
細かいところは借りた箒や虫取り網を使い、広範囲をスキルを使い一掃する。
直ぐに終わりそうと入ったが、片づけを含めるといつの間にか辺りは暗くなり、イルミネーションが光り輝いていた。
エージェントたちは、寒さに体を震わせつつ。作業に没頭し、虫の駆除をしっかりと終わらせたのである。
■任務の後は
時刻は午後6時。スキルを駆使し手分けして作業をしていたら、思いのほか早く終わった。だがしかし、今の季節は真冬。辺りはすっかり暗くなっている。
「お疲れ様じゃったの~」
後片付けをしているところに、オペレータの剣太がコンビニエンスストアのビニール袋を片手にこちらへと歩いてきた。
「……お疲れ様です」
少々お疲れ気味な様子で由利菜は彼に挨拶する。
「お疲れ様です。しっかり終わらせましたよ」
にっこりと挨拶してくれるひりょのすぐ近くで、フローラはぐったりとしていた。
「ありゃ、皆疲れ取るようじゃの」
ほれと持っていた袋の中身をひりょに渡す。
「寒い中ご苦労じゃった。暖かいうちに飲むといいぞ。甘いものが苦手じゃったらすまんの」
中にはペットボトルのココアが入っていた。この季節にはありがたいホットである。
「あ! ちゃんと用意してくれたんだね!」
ニコニコしながら、彼から2つココアを受け取る望月。1つを百薬に渡す。
『クリスマスプレゼントはないのかな?』
「……ココアがクリスマスプレゼントじゃ」
『ええー』と返す彼女に「クリスマスの楽しみは当日に取っておくものじゃ」と軽く流すのだった。
直ぐ近くにいるアリス達にもココアを渡していく。
「ココアは嫌いかの?」
二人は受け取り首を振った。
「嫌いではないから大丈夫」
『温かい……』
寒さが苦手な二人は、しばらくその温かさを手の中で堪能する。
「あれ? 他の4人は……」
温かいうちに渡そうと姿が見えない4人を探す。
少し遠いところにいるのを見つけ、近寄ろうとするが直ぐに足を止める。
「……のう。お前さん方や、この後暇な人はご飯にでも行こうじゃないか。わしが奢るから」
ひりょの肩をがしっと組み、周りにいる人をご飯に誘う。彼の背中は寂しげで、耳や尻尾が垂れている。
「さ! 行くぞ!」
彼も疲れているだろうが、それもお構いなしに腕を引っ張り強引に人ごみの中に消えていく。
そんな会話が繰り広げられている少し離れたところにいた4人。
七海に耳打ちをする和頼。そのすぐ後に彼の腕に抱き着く彼女の姿が遠目に見えた。
そんな二人から徐々に離れていくジェフと希。そんな4人を見て、剣太は何か思うところがあったようだった。
虫の駆除という任務は、そう長くかからずに終わりを迎えた。
どんな任務もそつなくこなすエージェントたちのおかげで、白く染まった街路樹はいつもの色を取り戻す。暗くなった辺りを綺麗なイルミネーションが彩っているのであった。
食事に誘われ時間が空いていたものは、耳と尻尾を垂らす彼と共に近くのレストランにでも行っただろう。疲れ果てていたものはそのまますぐにか言ったのではないだろうか。
中には仲良く帰る4人もいただろう。
――ふわり……
彼らが帰った後、しばらくしてまた白いモノが降り注ぐ。だがそれは不快なものではなかった。もしかすると、不快に感じるものもいたかもしれないが。
寒空はいつしか雲に覆われ、ふわりふわりと冷たい白が地上へと降り注ぐ。
徐々に地面を白く染めるソレ――真っ白な雪は街の明かりでキラキラと地面を光らせる。イベントの近づく街を一層輝かせていくのであった。
こうして何気ないエージェントたちの日常の幕は閉じていった。しかしそれもまた、長い物語の一幕に過ぎないのである。