本部

休息パーティ二日目 今度は坂山家

玲瓏

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~10人
英雄
5人 / 0~10人
報酬
寸志
相談期間
5日
完成日
2017/11/26 20:38

掲示板

オープニング


 一回目のパーティでの費用はさておき、二回目のパーティは抑えめにしなければならない現状が押し寄せてきた。これも想定の内。
 元々二回目は坂山家で行うつもりだった。二回目は、言ってしまえばホテルのバイキングよりも質素ではあるが、工夫一つで楽しいパーティにできるのだ。
「皆でご飯を作るの、良い案だと思わない?」
 今はオペレーター室にいる坂山が、ノボルに向かって話した。
「良いと思うけど、休憩の一日なんだよね。皆に働いてもらうのはどうなんだろう?」
「このパーティには色々なエージェントが来てくれると思うんだけど、中には接点のなかった人達がいると思うの。そこでね、料理っていう共同作業はお互いの友情を深めるにいい機会なのよ」
 料理と戦闘任務は似ている。タマネギを向く係がいて、それを切る係がいる。分担して作業するという点で何ら変わりないのだ。
 唯一違うのはゴールだろうか。戦闘は相手を倒すが、料理は品物を完成させる。破壊ではなく、創造なのだ。その創造を分かち合えば、大いなる友情が育ち始めるだろう。
 勿論、新たな友情だけが目的じゃない。元々あった友情や――場合によって愛情さえも育まれる。
「どっからどこまで手伝ってもらうの?」
「まずは献立かな……」
「そっからなの?」
 犬型ロボット、スチャースは黙って話を聞いている。ノボルの膝の上に座りながら。決して突っ込まない。
「あ、じゃあさ坂山、農業作業からしてもらうっていうのはどう? その方が美味しくなると思うんだ」
「一理あるわね」
「ないと思うが」
 鋭い一言がスチャースの口から入ってきた。
「冗談よ。……でも献立はアリだと思うの。メインメニューは私が考えて、他に料理をしたいエージェントがいたら考えてもらって、皆で作る。その方が協力してるっていうか、楽しめる感覚は増すと思うのよね」
 まるで舞台裏だ。
「献立を決めることに異論はない」
「僕も。献立から決めるなら……他には買い物と、食べ終わった後の片付けは?」
「それは私がやるわ。皆には楽しい所だけを楽しんでもらいたいしね。洗い物、お片付けは責任持って私がするわよ」
「お片付けなら僕も手伝うよ。あ、それで坂山の考えるメインディッシュは?」
「それはねー……、味噌すき焼き鍋とか考えてたんだけどどうかしら。ほら、家には釜戸があるじゃない? 最近使ってなかったから、こういう時こそ使いたいの」
「じゃあ掃除からだな」
「そうね、そうと決まったら早速行動よ。私は家を歓待用に準備してくるから、スチャースとノボルはここでエージェント達を呼んどいて」
 今すべき行動が決まったときの坂山は早い。オペレーター室を飛び出して、真っ直ぐ帰宅するのだ。
「まだ皆集まるかも分かんない訳だが」
「多分、すごく自信があるんだと思う」
 見切り発車な行動を二人で茶化すと、早速エージェント招集の準備を始めた。
 にしても、どうやって皆を集めよう? まずは……まあ、知り合いの皆に呼びかけてみるか。

解説

●目的
楽しむこと。

●概要
 二回目はただのパーティではなく、皆で料理を準備して達成感を得るのがポイント。更に知らない人がいたら一緒に作業するのもまたポイント。気になってた人物がいたら話しかける機会かもしれない。
 事前にノボルからパーティの概要は全て説明されているので、様々な道具の持ち込みは許可。釜戸を使うので、火おこしが楽になる武器とか、野菜を切る時に剣を使うのも乙かもしれない。程々に。
 基本となる料理は味噌すき焼き鍋。他には日本料理らしい漬物等。坂山の提案で、他にも作りたい料理があれば一緒に作ることができる。

 シリアスさのないパーティになることは間違いなしだが、こういう時だからこその告白やロマンティックな演出は輝くもの。

●ナタリア(チャールズ)
 今回のパーティにはNPC、ナタリアが参加できる。彼女は訳あってHOPEに捕らえられているが、坂山のお願いにより様々な条件の下参加を許諾された。
 基本的にはエージェントと関わらずひっそりと参加しているが、見知った顔のエージェントがいれば少しでも打ち解けようと努力する。

リプレイ


 パーティの予定は昼間に準備、夜にお夕食という簡単な流れだった。細かく見れば昼の十六時にはお買い物だ。買い物には坂山と餅 望月(aa0843)、望月の英雄百薬(aa0843hero001)とエスティア ヘレスティス(aa0780hero001)が向かう手筈になった。
 買い物なら二人でも問題ないが、坂山はいつでも命を狙われる立場であると忘れてはならない。万が一に備えて多めの人数を取ったのだ。
 家から歩いて十五分の場所にあるショッピングセンターに着くと、四人は分担してメモ用紙に書かれた品物を探しに向かった。
「炭はどこだろう。さすがに食料品売り場にはないよね」
「食べ物じゃないもんね」
 望月と百薬はエスカレーターを登って三階に登った。三階にはキャンプ用品の揃った売り場があるのだ。炭がありそうな場所といえばと問われて第一に望月が思いついた場所だ。
「みてみて、無限ループ」
 人が少ないのをいい事に、百薬はやってみたかった些細な遊びを試していた。大したことではない、逆走だ。独特のリズムを奏でながら波に逆らう。
「結構楽しいよね。運動になるんじゃないかな? ……それで、オチは?」
「オチ?」
「うん。このままじゃオチないよ」
 百薬は足を止めて思考モードに頭を切り替えた。確かにただループを終わらせてエスカレーターを降りるのは面白くない。人がいない今だからこそ出来ることは何かないだろうか? 機械を止める、のは店の人に迷惑がかかる。なるべく迷惑をかけないオチ。
 考えている間に動く床と動かない床の境界まで来た。後ろ向きに乗っていた百薬は気付かないものだ。慣性が唐突に失われた百薬の体は後ろ向きに倒れた。
「うん、完璧だね」
 倒れた時に強く打ったお尻を擦りながら起き上がると、二人は売り場へと急いだ。
 二人が炭を探している頃、坂山とエスティアは食料品の調達に勤しんでいた。今日は沢山買い込むつもりだ。リィェン・ユー(aa0208)が来てくれるの聞いてから、しかも彼は中国料理が得意だと言う話からお米を予定よりも多く買うのだ。米は良いエネルギーになる。明日からまた頑張るリンカーにはエネルギーを存分に取ってもらいたいものだ。
 自分も中華料理が好きだから、という理由もあるが。
「今日はお誘い頂いてありがとうございます。楽しみにしていました」
「そうだったの。じゃあいっぱい楽しんでもらわなきゃ」
「私も精一杯お手伝いします。まずは、何を探せば良いでしょうか」
「そうね。とりあえず新鮮なもの、野菜とお肉は後回しにして最初は調味料かしら。油も欲しいから――あ、最優先事項はお米ね。籠は別にしないと、重いから持てなくなったらだめだし」
 何も知らない一般人が二人を見たら、友達同士で買い物に来た二人組にしか見えないだろう。すぐ隣を通りかかった主婦も、まさか二人がリンカーだとは思わないはずだ。
 一階は食料品や花屋、フードコートが占めている。割合は食料品が六割くらいだ。やたらと店内アナウンスが鳴っており、お買い得商品の声や迷子のお知らせを告げる声が平坦なバックミュージクの合間合間に聞こえてくる。そのバックミュージックも、店員の威勢の良い販売声で隠されている。
 籠の中には次々と品物が取り込まれていった。一つのカートには二つの籠が上下に置けるが、二つだけでは足りずにエスティアに持ってもらい協力しながら買い物を進めて、ようやくメモの中身が全部揃った時には重さが想像以上になっていた。持って帰るのも大変だろう。家で待機している男性諸君にも手伝って貰う必要が出てきた。
「坂山さーん。炭とか買ってきたよー」
「ありがとう、望月ちゃん。重いでしょ? 持つわよ」
「へっちゃらへっちゃらー。坂山さんこそカート持とうか? 結構重そう」
「私もへっちゃらよ」
 結局炭はキャンプ売り場ではなく雑貨品に売られていた。雑貨売り場は二階にあったから、望月と百薬は行ったり来たりを体現したのだ。
 品物をレジに通して待っているとリィェン・ユー(aa0208)、ジスプ トゥルーパー(aa0575hero002)の二人が救援に駆けつけてくれた。
 リィェンは今まで何回か坂山に手を貸していたが面識は今回が初めてであった。
「やぁ、今回は招待ありがとう。助っ人で行ってばっかりだったからしっかり自己紹介してなかったな。リィェン・ユーだ。よろしくな」
「こちらこそよろしくね。中華料理を作ってくれるって聞いたわ、楽しみにしててもいいのよね」
 今にも袋を破って外に飛び出してきそうだ。リィェンは坂山の手から米の入った袋を貰い受けた。
「勿論。中国生まれに恥じないよう良い晩餐を約束しよう」
「あら楽しみっ。それじゃあ早速帰って準備に取り掛かりましょ。話してるだけでお腹空いてきちゃった」
 ジスプはジュースや重い容器の荷物担当だ。これもこれで重いが、筋トレを欠かさないジスプからすれば赤子の手を捻るよりも簡単な仕事。


 家に集まっていたエージェント達は居間で寛ぎながら過ごしていた。ノボルが持ってきたトランプを使って色々なゲームをしながら楽しんでいると買い物に出掛けた一行が帰ってきた。
 同時にウィリディス(aa0873hero002)がジョーカーのカードを引いてゲームに負けた。マイヤ サーア(aa1445hero001)との最後の一騎打ちだったのだが、過激化する読み合いの中勝利はつかめなかったのだ。
「それでは準備に取り掛かりましょうか。リディスもお手伝いに」
 月鏡 由利菜(aa0873)が催促すると空間が弛緩した。少し残念がりながらもウィリディスは立ち上がって、マイヤにリベンジを申し出た。
「後でもう一回……! 次は別のゲームで勝負です。次は負けません!」
「いいわよ。また後で勝負ね」
 リベンジを受け取ったマイヤは一つ頷くとリビングの扉を開けた。
 十一月の寒さとは言い難い今日の気温。炬燵や暖房に世話になっていたリビングの扉が開くとすぐに肌を劈く寒気が押し入ってきた。
「ただいま戻りました。玄関に荷物が置いてあるので、運ぶのお手伝いしてもらってもよろしいでしょうか」
 エスティアは両手で袋を持って台所に置いた。生物やデザート類を袋の中から取り出して冷蔵庫へとしまう。冷蔵庫の中はほとんど何も入っていなかった。今日のために空けておいたのだろうか。
 玄関では坂山が段差に腰を降ろして靴を脱いでいた。重い荷物を遥々運んできて一息。彼女の横で晴海 嘉久也(aa0780)がしゃがんだ。
「お疲れ様です、坂山さん。何も異常はなかったようで何よりです」
「こんな日までアイツラに惑わされたくないわ。一日くらいは忘れてたい」
「一日だけなら良いと思いますよ。今日は代わりに、私が坂山さんの不安を補いますから。皆さんを楽しませることだけに集中してください」
 盗聴器が仕込まれていないか、誰かが後をつけてきていないか。何か変わった事件は? 食材は本当に平気? ――今日くらいはいいだろう。
「そういえば晴海君、小説をまた持ってきてくれてるのよね。楽しみにしてたのよ。後でお借りしてもいい?」
「勿論です。……それじゃあ僕もそろそろ手伝ってきますね。坂山さんも休憩が終わったら是非いらしてください」
「うん、待ってて」
 晴海が居間に戻ると皆は早速パーティの準備をしていた。作業は分担して執り行う。月鏡は火おこし作業の担当になっていた。釜戸に火をくべるのは五分、十分では終わらない。望月の買ってきてくれた木炭の下に着火剤を数個敷いて、その上に庭で集めた枯れ葉を撒くのだ。
「火つけるよー」
 ウィリディスはマッチを擦ると一番手前に見えていた着火剤に放り投げた。瞬く間に火がついて、一つの火が連鎖的に燃え移り、激しく燃え盛った。
「炭に火がつくの、どれくらいかかるかなあ」
「うーん、全体に火が燃え移るのは三十分くらい……でしょうか。少なく見積もって」
 外で行うバーベキューと違って釜戸は風による妨害がない。火は消えにくいが、新鮮な空気が入らないのは最大のデメリットだろう。絶やさず息を吹かなければ火力は次第に弱まるのだ。
 その役目を担うのは百薬だ。既に両手で竹で出来た円筒状の器具を持っている。火吹竹、という名前だ。ウチワで空気を送る方が簡単だが、これはこれで見栄えは悪くない。
「複式深呼吸するみたいに吹けばいいのかな?」
「特に意識せず自然に吹くのが一番だと思いますよ」
「そうなんだ。じゃあ早速エンジェル・ブレスをご覧あそばせー」
「あ、ちょっと待ってください百薬さん、今吹いたら木の葉達が」
 勢いよく吹いた結果、百薬の顔に灰が飛びついてきて大部分が黒くなるのです。
 釜戸のすぐ隣に位置する台所ではマイヤが野菜を丁寧に切っていた。彼女は今日はドレスではなく、夏用の軽装だ。寒さが踊る秋には肌寒いだろうが、釜戸の炎と暖房からの暖かさが守っていた。
 さすがパーティ用の品物を準備するだけあって食材の数もパーティ用だ。白菜、人参、レタスと十分以上集中して切っていたおかげで、少しずつ疲労が貯まっていた。
「疲れたら休むといい。働き過ぎるのもあまりよくないからな」
 迫間 央(aa1445)はマイヤの隣で豚バラ肉を食べやすく切っていた。マイヤが包丁で手を斬らないか不安なもので、彼女の些細な動きにも気を遣っていた。
「でも、私にできる事は少ないし最初だけでも手伝いたいわ。何も出来ない人になるのは……」
「後々肉と野菜を上手に敷き詰める仕事が残ってる。マイヤにはそれをやってもらおうと思って。まだこっちも終わってないから少しだけ休んでくるといい」
「じゃあ……少しだけ言葉に甘えるわね。央も疲れたら変わるから」
「頼りになるな」
 余談だが、マイヤは前日に幻想蝶の中で包丁の素振りをしていたという。やる気は十分なのである。


 百薬が炭を洗い流すために風呂を借りている間に調理はひとしきり進んでいた。すき焼き鍋は坂山の下、中華シリーズはリィェンの下に進んでいく。リィェンが作ってくれた品物の中から代表して四川麻婆豆腐の作り方をご覧いただこう。
 手始めにリィェンは豆腐をお湯で下茹でし、その間に中華鍋の中にひき肉やにんにく、生姜を入れて炒める。必須は鶏がらスープだろう。そのスープを入れた途端、心を撫でるような香りが広がるのだ。市販の麻婆豆腐の素は不必要、今日揃えた調味料だけで勝負するのだ。安牌は取らない。
 やがて豆腐を中に入れる、形を崩さないよう丁寧に。麻婆豆腐色になってきた鍋の中には仕上げに葱を入れるのが乙だ。程よい旨味を与えてくれる。
 他に作られた回鍋肉、青椒肉絲、炒飯、エビチリも抜かりなくリィェンはその腕を振るってみせた。釜戸の火を絶やさないように息をかけていた望月もあまりにも手際の良い料理に思わず目を奪われていた。更に冷蔵庫から卵を取り出すために後ろを通りかかった坂山もまた見惚れるのだ。
「パーティに来てくれたの大正解ね。こんな立派な料理ができるなら毎日、坂山家専属シェフとして呼んでもいいくらいよ」
「そりゃどうも。だけどまだ序の口、本番はまだまだだ」
「楽しみにしないと」
 玄関から呼び鈴の音が聞こえた。料理の立ち見をすぐに中断した彼女は卵を台所の上に置いてすぐ玄関へと向かった。
 扉を開けるとシエロ レミプリク(aa0575)とジスプが並んでいた。二人の中心にはナタリアの姿があった。
「お待たせしたッスー! ナタリアさんご登場っ」
 二人はHOPEまでナタリアを迎えにいってもらっていたのだ。ナタリアは外に出られる時間が十八時~二十二時と制限があったのだ。登場は少し遅くなったが、満を持してやってきた。彼女も今日のパーティを待っていた様子だ。
「私が参加してもいいのか分からないが、精々邪魔にならない程度には、楽しませてもらう」
「そんなお硬い事言わなくて言いッスよ~。せっかくの坂山家ッス、盛大に楽しみましょー!」
 シエロはナタリアの手を引いて早速居間へと向かった。ナタリアは焦りながらも、戸惑いの中に笑みを浮かべているようだ。
「二人とも会うのは今日が初めてよね。打ち解けるのが早いのは、さすがシエロちゃんね」
「ナタリア様も最初は主様の元気さに吃驚していましたが、家まで来る途中ですっかり慣れてしまわれたみたいですね」
「吃驚してるナタリアの姿もちょっと気になるわね」
「最初は主様が元気よくナタリア様の両手を握ってご挨拶から始まったのですが、元気な主様とは対照的に困り顔で自分に目配せをしたんです」
「シエロちゃんらしいわ」
 情景が容易に浮かんでくる。坂山はクスリと笑い、ジスプもつられて微笑んだ。


 客間には複数の机が重なってパーティ用の空間が完成していた。月鏡やウィリディス、望月達が協力して品物を机の上に並べて、十九時ちょっと過ぎ、ようやく晩餐を開始することができた。いつ、誰のお腹から音が鳴るか分からない。坂山は全員が揃い次第早速「いただきます」と声をかけた。全員は手を合わせて一斉に復唱した。
 全ての料理から空腹を誘う香り。見た目は鮮やかで、色彩豊か。目の前に置かれている料理が優しく光に照らされて尚際立つ。
 美味しくない訳がない。
 机の上には中央に大きな味噌すき焼きの入った鍋が置かれていて、リィェンの品物の合間に漬物や月鏡お手製のおでんの姿も見えた。
 ――。味の染みた良い土鍋を使って……、鰹節と昆布で出汁を取り、大根、ゆで卵、こんにゃく、ちくわ、がんもどきを入れて……と頑張りの成果を最初に口にしたのは望月だ。
「おでん、すごく美味しいね。食べやすい味で、ご飯に合うよ。大根も甘い」
「ありがとうございます。有機味噌が良い働きをしてくれたのですね。望月さんの火力調整も絶妙でした」
「多分毎日同じことすれば歌上手くなるかもしれないよね。途中酸欠になりそうだったし」
 深呼吸と同じ要領だ。深呼吸の効果はリラックスも期待できるから、精神衛生上も良いかもしれない。多分。
 迫間は目の前に置かれていた回鍋肉からキャベツと豚肉を頂いて、いっぺんに食した。
「おおこれは、すごいですね。火力調整が難しいのによくこんなにお肉を柔らかくできましたね、リィェンさん。味も五つ星級ですよ」
「土鍋の使い方は心得ているが、それ以上に肉やキャベツの大きさも程良かった。食材の大きさも品質に関わってくるから、央もよくやってくれたな」
 マイヤも内心安堵していた。休憩が終わってからは包丁を握っていないものの、それまでは切る作業を手伝っていたのだ。昨日の素振りが無駄に終わって、迷惑をかけていないか気がかりだったが料理にはなんの不備もなさそうだ。
 さて、暫くはエージェント達の会話を聞いているとしよう。パーティの醍醐味は料理もそうだが、皆の触れ合いもまたその一つである。
 坂山は耳を澄ました。皆の楽しそうな声があちらから。
「あ、マイヤさん! さっきのトランプの勝負、食べ終わったら続きですよ、忘れてないですからねー!」
「勿論よ。そういえば次は何をするのかしら」
「うーん……。ユリナは何がいい?」
「皆が楽しめるものがいいですね。例えば……ダウト、とかどうでしょうか」
「ダウト面白そう。順番に数字を重ねていくやつだよね。で、嘘のカード出した人がいたらダウト! っていうゲーム。面白いんだけどあたし絶対笑っちゃうなー」
「確かに。ポーカーフェイスって何気に難しいんだよね……。だけどせっかくユリナが提案してくれたんだからやろうよ。マイヤさん、負けませんよ!」
「ええ。楽しみね」
「あ、トランプならウチもやるッス! フッフッフ、大貧民から奇跡の復活を遂げたウチの強運……!」
「ダウトってさほど運でもないような気がします……」
「そうだ、せっかくだから罰ゲームとかつけたら面白くなるんじゃない? まだ食材は余ってるよね。負けたら激辛唐辛子をそのまま食べるとか」
「面白そうッスね~。坂山さんも参加してほしいッス!」
「私も?」
 ニコニコ顔で話を聞いていた坂山は勿論罰ゲームの事も耳に入っている。
 トランプゲームに自信のない坂山は素直に了承できなかった。負けたら激辛唐辛子が待ち受けている。
「これから洗い物とかしないといけないから、私は平気よ。それにカード足りなくなっちゃわない?」
「えーっと、大丈夫今ここにいるのは十五人。トランプは五十二枚にジョーカー加えれば五十四枚で一人大体三枚……。これは高度な読み合いが繰り広げられるね。なんかそれはそれで面白そうだから坂山さんもやろう。片付けはあたし達に任せて」
 まったく……。負けなければいいのよね、と気合を高めて坂山は頷いた。参加しようと。
 時間が進むと最後に訪れるのはデザートだ。
 食事の途中でシエロがナタリアの脇腹を肘でつついて耳打ちした後、二人で台所へと向かっていた。シエロの目的は土鍋プリン作りだ。
 ナタリアは料理をした経験がなかったからシエロに手取り足取り教えてもらいながら体を動かしている。
「基本的には混ぜるだけッス! ウチは分量を図るんで混ぜて流し込むのをお願いしますッス!」
「分かった。えっと……ダメな所があったら、言ってほしい」
 二人の努力の賜物は様々な経緯を経て食卓に並ぶのだ。二人が台所にいってからおよそ三十分くらい経って、鍋を持ったシエロが会場に戻ってきた。
「はーい! デザートのお通りッスよー!」
「わあ、すごいです。お鍋の中に入っているプリン、初めて見ました。すごく美味しそう……」
 エスティアの絶賛するプリンは表面が滑らかで、何より色合いが堪らない。これは老若男女、すぐに別腹が用意されるだろう。カラメルソース、ホイップ等の用意も万全だ。
 お腹を幾つも欲しいところだ。坂山は尽きることのない至福の時間を感じながらパーティの残り時間を楽しんでいた。


 後片付けの時間になった。ところで、現在進行系で迫間が唐辛子を一気に食して舌の焼ける感覚に襲われている。毒はないからダメージの心配はないがひたすら辛い。
「マイヤ、水……。いや、こういう時は牛乳の方がいいんだったか……」
 ゲームの最中、迫間は一瞬だけ手を抜いたのだ。というのも敗者が再びウィリディスになろうとしていたので、リベンジマッチで負けると尚更悔しいだろうし、辛い思いをさせるのは。あえて迫間は正しい数字の時に「ダウト」と声をかけて大量のカードを手にした。
 自ら生贄を選んだ訳だが、半ば後悔の念がない訳ではない。ゲームは盛り上がったからよしとするか……。
 坂山は洗い物を晴海に手伝ってもらっていた。
「行きつけの本屋の話によると、リンカーの作家が増えて来ているみたいで、英雄達から貰ったらしい情報を使った様なリアルなSFやファンタジー世界の作品が出回っているそうで……今回はそう言った本がテーマですね」
「へえ。リンカーっていうだけで人生経験が普通と違うものね。そんな人達が書いた本、早く読んでみたくなるわ。どんな本を持ってきてくれたのかしら」
「一つ目は銀河酒飲劇場というタイトルの本です」
 宇宙の中にある居酒屋、を何となく想像した。宇宙飛行士か、はたまたエイリアンが愚痴を言い合うような本なのだろうか。
「宇宙船乗り達が場末の酒場に集って自分達の見て来た事を話す形式で進められる短編集ですね。ワープが普及し始めた頃のリアルなSFで水・空気の有難さや怖さを扱った作品が印象的です」
「登場人物の台詞の多い小説って感じね。それに人間味のある雰囲気な気がするわ。他には?」
 蛇口から出てくるお湯が汚れを落としていく。油汚れも心配無用。洗剤のフルーツに似た香りが洗い物に彩りを与えている。
「ドラゴンズ・バタフライ、これは魔法が日常となった世界の話ですね。幻の巨蝶を追う狩人達の長編物語です。気長に読んだ方がいいでしょうね」
「ファンタジーね。私、昔から好きなのよ。えっと、名前とか忘れちゃったんだけど……。絵の中に入れるっていう小説があったの、その作品を見てからファンタジーの面白さを知れてね」
 坂山が洗い物をしながら話に耽っていると、ノボルがちょんと服を摘んだ。
「どうしたの?」
「シエロさんが一緒にお風呂入りたいって。もうお風呂の準備はしてきたから、言ってくれば?」
「嬉しいお誘いね。でもどうしよう、洗い物まだ結構残ってて、迫間さんもまだ唐辛子の呪いにかかってるし……」
「僕達が何とかしておくよ。ナタリアさんも手伝ってくれるって」
 坂山は晴海に目配せした。晴海も微笑みを浮かべて無言で頷いた。良い仲間を持ったものだ。
 洗い物をノボルに託して、坂山はお誘いに乗ることにした。

 お風呂の様子はご想像にお任せ。シエロが日頃から疲れている坂山の体を洗ったり、反対に坂山が洗ってあげたり。

 ――多分幸せって、こんな感じ。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 義の拳客
    リィェン・ユーaa0208
    人間|22才|男性|攻撃



  • LinkBrave
    シエロ レミプリクaa0575
    機械|17才|女性|生命
  • 解放の日
    ジスプ トゥルーパーaa0575hero002
    英雄|13才|男性|バト
  • リベレーター
    晴海 嘉久也aa0780
    機械|25才|男性|命中
  • リベレーター
    エスティア ヘレスティスaa0780hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 花の守護者
    ウィリディスaa0873hero002
    英雄|18才|女性|バト
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
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