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掲示板
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依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/11/15 18:53:08 -
質問用スレッド
最終発言2017/11/11 18:41:14 -
選択肢A:正面
最終発言2017/11/13 06:55:13 -
選択肢B:背後
最終発言2017/11/13 07:59:08 -
選択肢C:挟撃
最終発言2017/11/13 07:46:02 -
選択肢D:フレイヤ
最終発言2017/11/14 02:17:22 -
相談卓
最終発言2017/11/12 17:52:41
オープニング
●在りし日の愚挙
まだ共鳴といった現象やリンカーが正式に認知されていなかった頃の話をしよう。
ある地方の閉鎖的な集落で、『今までと見た目が違う』という理由で、住民達が子供達に暴力を振るった。
――殺して! 早くあの化物達を殺して!
――あんな気味の悪いものがここにいるなんて。
子供達の悲鳴は住民達の喚声に消され、住民達は暴行されボロボロになった子供達を動けないように縛り付けると、油を撒いて子供達に火をつけた。
あついよぉ。
たすけてぇ。
おかあさぁん。
泣き声を上げる子供達の1人の目に、住民の1人が焼けた棒を押し込んだ。
――この目は災いだ。浄化してやる。
子供達の泣き声が苦痛の絶叫と目が潰される音に変わる中、燃やされる子供達の周囲で住民達は唱和する。
――我々は清く正しくあらねばならない。
――このような災いは存在してはおけない。
子供たちの叫び声は、炎に包まれ消えていく。
その後集落の人達はリンカーという存在が一般的となった頃になって、自分達の行動が過ちであったことに気付き、自分達の行いをもみ消した。
●今の愚挙へ立ち向かう為に
その日。いまだライヴスバリアが復旧しないインカ支部の息の根を断つ一撃を見舞うべく空を駆ける、複数の船の姿があった。
『ラグナロク』のバルドルより放たれた、フレイヤ率いる幽霊船型従魔――カレウチェの一群だ。
幽霊船の姿をした従魔達が船団を組み、隠密性を高めるため周囲にある密林に溶け込むほど高度を下げ、インカ支部を目指す。
フレイヤ達の役割は、先に突入したフレイへの救援も含まれている。
だが、そんなフレイヤ達の動きを阻止する者達が、その上空へと到達しようとしている。
フレイヤが先に牽制として放った別働隊を殲滅し、制空権を取り戻したH.O.P.E.ギアナ支部から飛び立ち、『あなたたち』を搭載した輸送機だ。
輸送機を駆るポルタ クエント(az0060)から中にいる『あなたたち』へ、今回の作戦が改めて説明される。
「今回は急を要する状況ですので、この輸送機で現地上空まで向かい、到達後輸送機よりフレイヤが駆る従魔船団へ直接降下する形になります」
今回の空中降下では、ギアナ支部よりライヴスを動力源とする使い捨てライヴス・ジェットパック(略称『LJP』)が支給される。
ライヴス・ジェットパックは腰や脚部に装着する事で能力者のライヴスによって限定的な飛行能力が得られ、落下地点の調整や、着地時の減速に使用する事ができるが、着地後空へ飛んだり、降下中敵の対空射撃があった場合、回避に使用できるほどの出力はない。
「今回依頼者であるギアナ支部より、皆様に緊急の出撃をお願いするという事から、多めの報酬が提示されています。どうかインカ支部や支部長と連携して従魔達を殲滅し、インカ支部の危機を救って下さるようお願いします」
輸送機内に設置された携帯型プロジェクターより、現在までにインカ支部に先行した味方部隊から届いたフレイヤに関する情報が整理分析され、『あなたたち』へ公開されていく。
画面上には、それらの情報にあわせてフレイヤと思しき赤い光点に、この輸送機と思しき青い光点が追いつき、青い光点から複数の矢印が分かれて伸び、赤い点を包囲していく流れが映されていた。
●選択肢
現在以下の状況で、フレイヤが縦3体×横3体の従魔船団を組み、密林上すれすれを飛行中。
『あなたたち』は輸送機より降下後、以下の4つからそれぞれ行動することができる。
選択肢A:従魔群の最前列の船へ降下し、正面から従魔群と交戦する。
選択肢B:従魔群の最後尾の船へ迂回降下し、背後から攻撃する。
選択肢C:従魔群の左右側面の船へ降下し他の仲間達と共に従魔群を挟撃する。
選択肢D:フレイヤのいる船へ直接降下し、フレイヤ達と交戦する。
以下平面図
C
森森森↓森森森森
森森船船船森森森
B→船●船←A
森森船船船森森森
森森森↑森森森森
C
以下立体図
―――輸送機→
BDA
↓↓↓
船●船⇒
森森森森森森森森
●:フレイヤの乗る従魔カレウチェ。
船:従魔カレウチェ。
森:密林。フォレストホッパーを使用すれば足場のペナルティは発生しない。
●誰かの願い
ただ、哀しまない未来を願った。
ただ、傷つけられない世界を望んだ。
ただ、私達がいてもいい世界が欲しかった。
もう二度と。何者にも虐げられない未来を手に入れよう。
もう二度と。私達が脅かされない場所を作ろう。
けれど、その為にはどうしてもこの世界が邪魔だから。脅威だから、仕方ないから。
未来の為に――壊さなければ。
現実では悪行だろうが構わない。
私には私の世界があり、守りたいものがある。
何者かの、誰かの手で兄が消されてたまるものか。未来を閉ざされてなるものか。
これ以上兄が、悪意で穢されてなるものか。
未来が愛しい。
兄を護るために。未来を護るために――いまを引き裂こう。
解説
●目標
フレイヤの撃退
飛行従魔群の撃退
登場
フレイヤ
ラグナロク幹部。ケントゥリオ級愚神。従魔達を率いてインカ支部へと迫る。下記カレウチェ船団の中央の船に乗る。
・グルヴェイグ
射程13sq、範囲3sq内にいる味方全員の生命力を回復させる。
・オーズ
ライヴスミラーに相当。1シナリオで1回のみ使用可能。
・ヘルヴォル
自身を中心とする範囲2sq以内にいる味方を標的とした敵からの射程2以上の射撃を無効化する。効果時間3ターン。効果時間中メインアクションができなくなる。
カレウチェ×9
デクリオ級従魔。略称『船』。飛行能力を持ち、錆びた銃器が船体から生えており、それらを使って攻撃する。別の従魔を乗せている場合もある。
・一斉射撃
射程1~10sq/範囲5sqに無差別攻撃を行う。
ヴァルキュリア×20
デクリオ級従魔。略称『乙女』。翼で飛行し浮遊するので地上の影響を受けない。槍を振るう。フレイヤの乗る船に4体(フレイヤの援護優先)、他の各船に2体ずついる。最近の交戦記録によると羽根による攻撃と防御も行うことも確認された。
ムバエ×24
ミーレス級従魔。略称『鬼火』。大量に集まり一斉に自爆する事があるので注意が必要。飛行能力あり。フレイヤの乗る船を除く各船に3体ずついる。
・集団自爆
半径2sq以内に集まったムバエの数×1の数値を範囲内にいる対象に無差別/防御無視の固定ダメージとして与える。
状況
H.O.P.E.インカ支部周辺にある密林地帯。時刻は昼間。局地的な異常気象が発生中。
フレイヤ率いる従魔群が、インカ支部に向け密林の樹高すれすれを飛行中。『あなたたち』が現地に到着時、OPにあった選択肢A、B、C、Dのどれを選んでも、敵群との接触は1ラウンド以内で完了する。
リプレイ
●舞い降りる『希望』
異常気象をはらんだ雲の隙間から覗く空を、1つの影が一瞬よぎる。
H.O.P.E.ギアナ支部より離陸し、インカ支部上空へと到達した輸送機だ。
輸送機を駆るポルタ クエント(az0060)より、輸送機内にいるエージェント達に向け、アナウンスが入る。
『現地に到着しました。これより降下を開始して下さい』
輸送機の中で資料を読みこんでいた鋼野 明斗(aa0553)は、機内に響いた報せを聞くと、隣で爆睡するドロシー ジャスティス(aa0553hero001)の額にデコピンを入れ、現地到着を告げる。
「寝過ぎだ。そのうち溶けるぞ」
実際英雄が寝過ぎで体が溶ける話はないが、気持ちの問題だ。
ドロシーはそんな明斗に向けスケッチブックを掲げ、『昼飯乞う』の文字を見せた。
無言で明斗がコンビニで購入したビスケットや水をドロシーに押し付けると、ドロシーはあっという間に平らげ『次はオムライス』というリクエストを明斗に送る。
「覚えてたらな」
そう言って明斗はドロシーと共鳴して降下に臨む。
やがて輸送機の後部ハッチが開き、中にいたエージェント達がいつでも出撃降下できる状況が作られる。
「また……元人間の愚神……」
物憂げにそう呟くマイヤ サーア(aa1445hero001)の横で、仲間達とのライヴス通信機による連絡体制を整え終えた迫間 央(aa1445)は決然とした声を向ける。
「奴等にも事情はあろうが、奴等の好きにさせる訳にはいかん」
央の言葉にマイヤは頷くと、マイヤと共鳴した央が最初に輸送機の床を蹴って空へ飛翔する。
「やれやれ、中々にロマンな光景だな」
「……ん、幽霊船団…空からの降下、奇襲……」
麻生 遊夜(aa0452)の感想に、ユフォアリーヤ(aa0452hero001)も笑みを含んだ口調で眼下の状況を口にする。
――狩りの時間。
愉しげに語るユフォアリーヤにあわせて遊夜は共鳴し、輸送機より空へと跳躍する。
「……優子や、今こそ皆の為にそちの力を使う時じゃ」
「た、戦いは苦手だけど……精一杯、皆様のためにご奉仕させて頂きますっ!」
ミヅハノメ(aa5045hero001)の助言を受けた天宮 優子(aa5045)が、仲間達に向け頑張って声を張り上げて頭を下げ、ミヅハノメと共鳴して外に飛び出していった。
その優子の同僚でもある御剣 華鈴(aa5018)も、フェニヤ(aa5018hero001)と共に後部ハッチへと足をかける。
「お嬢様は愚神ふれいの迎撃に向かわれた。愚神ふれいやの部隊は、我らの手で迎え討つ」
「奇襲も悪くはないが……やはり、我は正面突破が最も気が進む」
華鈴はここにいない自分達の主に一瞬思いをはせた後、正面からの戦いを好むフェニヤと共鳴し、先に空へ出た優子の後を追う。
「俺にとって初めてのガチバトルだぜ!」
「張り切るのはいいが、慎重に行動しろ。敵はラグナロクの幹部なんだぞ」
気合いの入った大和 那智(aa3503hero002)に向け、東江 刀護(aa3503)が忠告を送る。
今回担うのは最前列、しかも正面からの戦闘だ。気を引き締めねば……。
刀護は那智にそう念を押しつつ共鳴して輸送機より飛び出す。
「ポルタの説明で現状はわかった」
輸送機内で説明を咀嚼し終えたニノマエ(aa4381)が、眼下に広がる密林地帯を眺めてそう呟くと、隣に並ぶミツルギ サヤ(aa4381hero001)より現状を打破する声が上がる。
「ならば止めるまで。いまこの瞬間にな」
ミツルギの言葉にニノマエが頷いて共鳴し、輸送機から空に飛ぶ。
「作戦、成功させないとだよね!」
「うむ! では、行くのである!」
加賀美 春花(aa1449)とエレオノワール アイスモア(aa1449hero001)もお互いにそう言い交しながら共鳴し、回復役として同行を指名した真継優輝(az0045)と共に宙へ飛び出していく。
「天使の頂上決戦だよ」
「うん、向こうの羽根は本物だから、そこは注意だね」
百薬(aa0843hero001)の言葉に餅 望月(aa0843)はそう返して共鳴する。
――このライヴスジェットパック(以下LJPと略)、量産化を期待したいね。
望月は装備したLJPに触れてそう思いながら空中に自分の体を射出する。
「ここで食い止めないと、だね。行こう」
「面倒だが、付き合おう」
皆月 若葉(aa0778)の言葉に、ラドシアス(aa0778hero001)がそう応じ、今回一緒に動く泉 杏樹(aa0045)と榊 守(aa0045hero001)、海神 藍(aa2518)と禮(aa2518hero001)が頷きを返す。
「行きましょう、この冠に懸けて」
「ああ、行こうか、禮。我らが誓約にかけて」
禮と藍は短く言い交して共鳴する。
「頼りにしてるよ、2人とも。それでは、また後で」
(黒鱗の人魚は、空も泳ぎます!)
藍と禮は杏樹や若葉達にそう言い残して宙に飛びだしていき、ラドシアスと共鳴した若葉が後に続く。
「フレイヤさんは、逃がしません」
「常に仲間の位置に気を配って。護り手にして癒し手であること、お忘れなきように」
降下後の動きに対する忠告を送る守に、杏樹は頷いて共鳴し、藍や若葉に続いて輸送機より舞い降りる。
「フレイヤ、貴様も神の名を騙る偽者か」
テトラ(aa4344hero001)が眼下に飛行しているであろう、フレイヤに向け厳しい視線を送る。
自分達にとって敵となる者は倒す。ただそれだけだ。
「皆と協力して戦えよ?」
テトラの手綱をとる杏子(aa4344)が忠告をまじえながらテトラと共鳴して外に飛ぶ。
「フレイヤはフレイと似てるって聞いたです。血のつながりのある人なら一緒にいるのがいいと思うのです」
「でも、先達としては生きる者として正しいとは言えないわね」
想詞 結(aa1461)とサラ・テュール(aa1461hero002)は、フレイとフレイヤが兄妹であると推測していた。
手遅れになる前にと結とサラは共鳴し輸送機より飛び出す。
「フレイヤが愚神ならトール、バルドルもそうなのかしらねぇ」
まほらま(aa2289hero001)は最近得たフレイヤに関する情報から、残る幹部達のことも推測する。
既にフレイも愚神である事が判明している以上、幹部全員が愚神である可能性は高い。
「見えない壁、雷、新しい武器。フレイヤも何か隠してるだろうから注意しておこう」
GーYA(aa2289)は先のバルドルとの『お茶会』で得た情報があるので、フレイヤへの警戒は怠らない。
――それに、古龍幣の劉士文とくらべたら、バルドルは党首の器じゃないよな。何かがおかしい。
そう思いながらGーYAはまほらまと共鳴し、他の仲間達と共に宙に飛びだしていく。
輸送機より放たれたエージェント達は、宙にLJPの噴射光の花を咲かせ、フレイヤ率いる幽霊船団へと降下していった。
●空→前方
イン・シェン(aa0208hero001)と共鳴したリィェン・ユー(aa0208)は、LJPで軌道修正を繰り返しながら、活火山のように機銃弾の火線を周囲にぶちまける最前列のカレウチェへと迫る。
「おぅおぅ……来てるな来てるなわらわらと」
(迫りくる敵を正面から相手取るとはまさしく防衛戦じゃのぅ。これはこれで戦いがいがあるのじゃ)
すぐ傍らを駆け抜ける機銃弾の軌跡を横目で見ながら、リィェンはぎらりと笑い、インは戦意を露わにした。
落下速度を落とすことなくリィエンはオーガドライブを発動し、【極】の別名を持たせた屠剣「神斬」+5にライヴスを集中させ、防御を捨てた一撃をカレウチェの船上にいたヴァルキュリアに放つ。
リィェンの【極】に肩を深々と斬り割られた乙女は塵を噴き転倒して消えていき、塵を割ってリィェンがカレウチェ船に降り立つ。
『よう、相棒。そっちの調子はどうだい?」
リィェンはライヴス通信機「雫」の先にいる赤城 龍哉(aa0090)に連絡をとると、その龍哉は対空機銃を突破してリィェンの隣のカレウチェに降り立っていた。
(戦乙女を騙る人形。疾く塵へと返るがいいですわ)
「ウチの相方もこう仰せでな、リー。“行ってくるぜ”」
龍哉は内にいるヴァルトラウテ(aa0090hero001)の戦意を代読しながらも、ライヴス通信機「雫」を介してリィエンに応じ、ストレートブロウを込めたヴァリアブル・ブーメラン+5をヴァルキュリアへと投擲する。
龍哉のライヴスによって加速したヴァリアブル・ブーメランが旋回しながらその刃で乙女の身を分断し、割かれたヴァルキュリア乙が塵を上げて消える中、弧を描いて戻ってきたヴァリアブル・ブーメランを龍哉はキャッチする。
(束縛して倒す手間が省けそうですわね)
「一気にケリをつけるつもりだったから、まあ理想的か」
希望通り即座に塵と化した敵を前に、ヴァルトラウテはそう呟き、龍哉は一撃でヴァルキュリアを倒せるとわかり、即時殲滅へと方針を切り替える。
その近くではエル・ル・アヴィシニア(aa1688hero001) と共鳴した魂置 薙(aa1688)が別のヴァルキュリアにメーレーブロウをしかけ、近接戦へ引きずり込んでいたが、カレウチェからの無数の機銃がこちらに向いていることをエルが察知する。
(敵は味方を巻き込むことに躊躇が無いようだ。ならばこちらも遠慮なく敵を盾にすべきだろう?)
エルの助言に頷くと、薙はヴァルキュリアをカレウチェの弾幕射撃に巻き込み、ヴァルキュリアが防御する間に背後へと回り込むと、一気呵成を発動し、ウコンバサラ+2に重心をかけた攻撃をヴァルキュリアに見舞う。
「早めに討たせてもらうよ」
薙のウコンバサラはヴァルキュリアの羽根の防御を突き破ってその背を切り裂き、転倒したヴァルキュリアへ薙は追撃の斬撃を繰り出してヴァルキュリアの身を断ち切り、その身を塵に変えた。
そして最前列最後のカレウチェには、カレウチェの対空射撃を突破した華鈴と優子が降り立つ。
「水神の力、一遍を此処に……!」
優子がケアレイで華鈴の負傷を回復させると、華鈴は優子に頭を下げる。
「天宮様、癒しの霊術を施して下さりかたじけない」
(華鈴、敵が至近距離まで迫っている。ここは近接戦だ)
華鈴は優子に礼を述べ、フェニヤの助言に従い槍を翻して吶喊してきたヴァルキュリアを、エクリクシスで迎え撃つ。
一瞬の交錯の後、華鈴のエクリクシスが槍と激突するたびに金属音や火花が散り、華鈴の頬を染め上げる。
「か、華鈴ちゃん、私より年下なのに勇ましいなぁ……。わ、私だって!」
(優子や、『ご奉仕』は何も癒しを施すだけではないじゃろう?)
華鈴の勇姿に刺激を受けた優子は、内のミヅハノメの助言に頷くと、優子の鬼若子御槍が華鈴と戦闘中のヴァルキュリアへと繰り込まれる。
既に華鈴との戦いに手一杯だったヴァルキュリアは回避できず、優子の十文字槍の穂先に脾腹を貫かれ、その隙に乗じ華鈴が一撃粉砕による武器破壊の手間を省略し、エクリクシスの斬撃を乙女に浴びせる。
赤色の光芒が宙に描かれた瞬間、槍を振り上げたヴァルキュリアは塵をあげて吹き飛び、消えていく。
残るムバエ達にもミツルギ サヤ(aa4381hero001)と共鳴したニノマエ(aa4381)と刀護が、別方向からそれぞれ攻撃を開始した。
(鬱陶しい奴から倒すのはセオリーだろ?)
「こいつらの攻撃もそうだが、俺の攻撃も無差別なんで気をつけろよー」
那智の戦意に背を押された刀護が周囲の仲間達に警告を発した後、周囲に味方がいないことを確認してウェポンズレインを発動する。
刀護の頭上に無数のSMGリアールが展開し、エクストラバラージでその数がさらに増していく。
刀護が一斉に銃口を咆哮させると、真下まで迫っていたムバエ達は刀護の頭上より降りしきる弾丸状ライヴスの群れに貫かれ、自爆する間もなく塵を噴き消し飛んだ。
「巻き添えは御免だが、仲間のためだ。ドッカーン! といくぜ!」
刀護がそう叫んで次のムバエへと自分から突っ込んでいくのを、刀護とは別のカレウチェで行動していたニノマエが確認する。
(さてニノマエ、往くぞ)
ミツルギに背を押され、ニノマエもムバエ達に向けウェポンズレインを発動する。
「まずはこいつら。次はこのカレウチェだな」
死出ノ御剣+5の形状を取った無数の武器がニノマエの頭上に展開すると、驟雨のごとき轟音を鳴らしてムバエ達に降り注ぐ。
ニノマエの放ったウェポンズレインは船の一部ごとムバエ達を貫き、貫通されたムバエは塵を上げ、カレウチェの一部は武器の嵐に粉砕され、ニノマエはカレウチェの体に穴をこじ開ける。
(ニノマエ。敵の数がおかしいだろう?)
「……妙だな。最前列にいるヴァルキュリアの数が事前の情報より少ないようだ」
仲間達とライヴス通信機「雫」で連絡を取り合っていたニノマエとミツルギがそれに気付き、仲間達に一報を入れていく。
こうして幽霊船団の最前列は力づくで止められ、従魔達の掃討が続けられていた。
●空→後方
幽霊船団がエージェント達によって前方を塞がれる間に、後方のカレウチェにもエージェント達が強襲すると、後方船団は猛然と対空射撃を開始した。
(ハルよ、到着前に敵と一戦交える事になりそうだぞ)
カレウチェより放たれた弾丸が途中で消える中、降下する春花がエレオノワールの助言に従い、これから効果予定のカレウチェを見下ろすと、そのカレウチェより1体のヴァルキュリアが自分に向け飛んでくるのが見えた。
「仕方ない。このまま迎撃、だよ」
春花はそう言って17式20ミリ自動小銃+1を構えると、テレポートショットを発動する。
春花の17式20ミリ自動小銃より放たれた弾丸状ライヴスが瞬間転移し、死角からヴァルキュリアを強襲する。
不意を突かれたヴァルキュリアは春花のテレポートショットを受けて羽根を散らしてカレウチェの甲板へと墜落し、春花はその後を追ってカレウチェに降下し、優輝も回復役として春花の前に出る。
春花がヴァルキュリアと交戦したことをライヴス通信機「雫」を介して知った遊夜は、降下中ながら即座に狙撃態勢に移行し、船団後部3隻にいるムバエを各1体ずつAMR「ヴュールトーレンTR」の照準に捉えていく。
「集団にさえならなけりゃ、さして問題ではない」
(……ん、さっさと落とす)
ユフォアリーヤの声を受け、遊夜は3体のムバエが照準に収まった瞬間、トリオを発動する。
腹にこたえる銃声が3つ重なり、遊夜の早撃ちで放たれた3つの銃弾状ライブスが3隻のカレウチェにいたムバエ達をそれぞれ貫いた。
射抜かれたムバエ達は塵を噴き、あるいは自爆して爆煙をあげて消える中、遊夜が対空射撃を突破してカレウチェに降り立つ。
「さぁ、油断してると風穴開けちまうぜ?
(……ん、でも……ボク達だけ、見てると危ない……よ?)
笑みを含んだユフォアリーヤの意志と共に、遊夜のAMR「ヴュールトーレンTR」が轟然と発砲し、春花に落とされたヴァルキュリアの身を穿つ間に、一連の動きを無線やライヴス通信機「遠雷」で把握していた央が、遊夜の攻撃に合わせヴァルキュリアに襲いかかる。
(央。後は私達の担当よ)
「麻生さん、そのヴァルキュリアの始末は俺が引き受ける」
マイヤと央はそう言って忍刀「無」+5を抜き放ち、カレウチェの甲板を蹴った。
央のライヴスに反応し、龍紋が浮かび上がる忍刀「無」が死の閃光を放って既に春花、遊夜の攻撃で脆くなっていたヴァルキュリアを両断し、2つに割れたヴァルキュリアはそのまま塵をあげ消えていく。
乙女を撃破した後、マイヤがある事に気付く。
(央。こっちもヴァルキュリアの数が少ないわよ)
「そのようだな。やつら何かたくらんでいるな」
央もマイヤの指摘を受けて周囲を見渡し、その事実に気付くとライヴス通信機「遠雷」や無線を介し仲間達へ連絡を入れる。
その間に、ルビナス フローリア(aa0224hero001)と共鳴した月影 飛翔(aa0224)が、船団後方の一番右のカレウチェへと降下する。
(のんびり降りては迎撃されますよ)
「一気に飛び込む。途中で周辺へ攻撃。爆煙に紛れて降下だ」
ルビナスの忠告に飛翔はそう応じると、フリーガーファウストG3+5を眼下のカレウチェに向け、引き金を引く。
太長い矢を思わせるロケット弾状ライヴスが飛翔のフリーガーファウストG3より放たれ、飛翔の眼下にいる敵達へと叩きつけられた。
カレウチェの艦上に爆焔が吹き上がる。寸断された機銃が宙を飛び、衝撃波に引き裂かれたムバエ達が自爆して四散するか、塵と化して消える中、宣言通り爆煙を割って飛翔はカレウチェに着艦する。
「船もお構いなしの自爆か。面倒だが利用させてもらうか」
(こちらは飛べませんから、カウンターで仕留めるのが一番ですね)
飛翔とルビナスはそう言い交しながら、こちらに迫るヴァルキュリアへとフリーガーファウストG3を構えて砲撃し、ロケット弾状ライヴスをヴァルキュリアに炸裂させ、その身を塵に変えた。
●空→側面
前後をエージェント達に抑えられたカレウチェ船団の両側面にも、別のエージェント達が降下していく。
右側面のカレウチェにはまず若葉、遅れて杏樹がこれより到達しようとし、藍がマジックブルームを使用して空飛ぶ箒に乗り、飛行しながらその後に続く。
「接近前に、極力倒す」
(この場合、それがいいだろうな)
若葉の方針にラドシアスも賛同し、若葉は降下しながらフリーガーファウストG3+5をカレウチェに向け、トリオを発動する。
若葉の早撃ちによって炎の尾を曳いたロケット弾状ライヴスが3つ放たれる。
大気を裂く飛翔音を撒き散らして、若葉のトリオによる砲撃が、続けざまにカレウチェへと突き刺さる。
ほとんど瞬時に機銃の群れが砕け散り、衝撃波にムバエ達は引き裂かれて塵と化す。
残ったムバエには宙に浮く藍が回り込んだ。
(味方に近づく前に殲滅しましょう)
「そのつもりだ。……“爆ぜろ”」
禮の助言に藍はそう応じ、残るムバエの周囲に味方がいない事を確認し支配者の言葉を放つ。
藍に自爆を命じられたムバエは、そのまま爆散して砕け散り、爆煙を残し消えていった。
残るヴァルキュリアの前には、船に降りたった杏樹が立ちはだかる。
(お嬢様。今は敵の撃破を優先した方がよろしいかと)
「杏樹の舞に、付き合っていただくの。よそ見はさせません、です」
守の助言に杏樹は頷くと、武器を『藤海姫』の銘を入れた薙刀「冬姫」+3に切り替え、ヴァルキュリアの繰り出す槍を迎え撃つ。
呼気鋭く、空間に粉雪がごとき白い余剰ライヴスを残して杏樹の『藤海姫』が奔り、槍と激突し鋼の噛み合う金属音を鳴らす。
「兄様が護ってくれるから、杏樹も戦えるの」
火花が散り、一度はヴァルキュリアに押し込まれた『藤海姫』を押し返すと、杏樹はそう言ってヴァルキュリアの打ち込みを弾き返す。
杏樹と乙女が互いの武器を打ち合う中、反対側の左側面でもエージェント達が次々とカレウチェに降り立つ。
(まずはこの鬼火達からだよ)
「自爆する前に消し去りましょう」
降下中の望月は百薬の助言に従い、着艦地点をムバエの頭上に調整して蒼炎槍「ノルディックオーデン」+5を旋回し、眼下に迫ったムバエにその穂先を繰り出す。
望月の蒼炎槍「ノルディックオーデン」に貫かれたムバエは、そのまま槍から放出された青白い火焔状ライヴスに包まれ、自爆する間もなく塵と化して消えていき、遅れて望月が塵を割ってカレウチェに着艦する。
「では自分はヴァルキュリアの相手を務めることにします」
望月と同じカレウチェに降りた明斗は、長巻野太刀「極光」真打を顕現し、近くのヴァルキュリアに向け攻撃を開始する。
風が鳴った。明斗の長巻野太刀「極光」真打とヴァルキュリアの槍が思うさま激突し、火花が散る。
「オーダーは敵の撃退。それ以上はあってもそれ以下でもなく」
(殲滅できれば言うことはないはずだよ)
アリス(aa1651)とAlice(aa1651hero001)は特に何の感慨もなくそう呟き、明斗と切り結ぶ乙女を射程内に入れる。
敵として目の前に立っていれば、それは敵。過去フレイヤ達に何があろうが無関係。
この方針はアリスやAlice、いずれも変わらない。
(羽根への攻撃なら逆に狙いやすいだろうね)
Aliceの助言を受け、アリスはライヴスを収束して銀の魔弾を形成し、鋭化された一撃をヴァルキュリアに発射する。
ちょうど明斗の長巻野太刀「極光」真打が、オーロラ状の光と風を撒いて打ち下ろされ、ヴァルキュリアの羽根の防御を打ち破ったところにアリスの銀の魔弾が羽根ごとヴァルキュリアの胴を貫き、アリスと明斗に貫かれたヴァルキュリアは塵を噴いて倒れ、消えていく。
「こっちにはヴァルキュリアが2体いるようだね。向こうはどうかな」
アリスはライヴス通信機「遠雷」を介し、右側面のカレウチェにいる味方へ連絡をとると、連絡を受けそのカレウチェに降りた藍と禮はヴァルキュリアが1体足りない事に気付く。
(前方で2体。後方で4体。ここで1体いません。ヴァルキュリア達はどこに行ったんでしょう?)
「あの船以外、考えられないだろう?」
禮の疑問に藍はフレイヤがいるカレウチェを指し示した。
●空→フレイヤ
そのフレイヤの乗るカレウチェには、8人のエージェント達が向かっていた。
(さて、ここで大人しくお留守番してもらおうかね)
レオンハルト(aa0405hero001)の戦意に支えられ、レオンハルトと共鳴した卸 蘿蔔(aa0405)は炎弓「チャンドラダヌス」の弓弦を引き絞って眼下のフレイヤ達を狙い、トリオを発動する。
満月のように絞られた弦から、火の力を纏うといわれる蘿蔔の矢状ライヴスが3度飛んだ。
文字通り矢継ぎ早に閃き飛んだ3本の矢状ライヴスが、眼下のカレウチェにいるフレイヤと周囲のヴァルキュリア2体に突き刺さり、その間に蘿蔔はカレウチェに舞い降りる。
『あの……皆さんの背中は私が守ります……ので、えと、その……思いっきりやっちゃってください』
控えめに蘿蔔はこれより降りてくる仲間達に向け、ライヴス通信機「遠雷」でそう伝えると、装備をレーダーユニット「モスケール」に切り替え始める。
蘿蔔の次に、結が落下しながらフレイヤに肉薄する。
結は炎剣「スヴァローグ」+5を抜き放つと、電光石火を発動する。
「捕獲対象です。船の中央にいてもらうです」
結の炎剣「スヴァローグ」が奇襲のような鋭い一撃と化してフレイヤに襲いかかるが、フレイヤは半身をずらして結の電光石火をかわし、結はそのままカレウチェに降り立ち、近くに降りたGーYAがフレイヤに追撃をかける。
「俺を殺す世界を憎んだみたいに、君達はリンカー以外の人間を憎んでる気がする、何故?」
(あたし達も知りたいのよねぇ、あなた達のこと)
GーYAとまほらまがツヴァイハンダー・アスガル+1に一気呵成を乗せながら、フレイヤに問う。
GーYAのツヴァイハンダー・アスガルにライヴスが集中し、重量と衝撃力を高めた1撃がフレイヤに繰り出され、フレイヤの身を穿つ寸前にヴァルキュリアが割り込み、フレイヤを庇ってヴァルキュリアがGーYAの1撃を受け転倒する。
「そうしないと殺されるから」
――今、貴方達が私にしているように。
GーYAが再攻撃でヴァルキュリアを屠り、塵と化す姿を眺めていたフレイヤがぼそりと呟き、別のヴァルキュリアがフレイヤを庇う態勢をとったところで、頭上から狒村 緋十郎(aa3678)と共鳴したレミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)が襲来する。
(まずはヴァルキュリアの殲滅だな)
「フレイヤに斬りかかれば、ヴァルキュリアのほうから当たりに来てくれそうね」
緋十郎の意志にレミアはそう応じつつも、落下中にチャージラッシュで攻撃力を倍加させている。
その状態からレミアは怒涛乱舞を発動し、レミアの顕現した『《闇夜の血華》Lieselotte』の銘を持つ魔剣「ダーインスレイヴ」+5より剣閃の奔流が放たれ、フレイヤ達に襲いかかった。
死の暴風と化したレミアの疾風怒濤がフレイヤ達に叩きつけられ、フレイヤを庇っていたヴァルキュリアの身を粉微塵に粉砕して塵に変える。
ヴァルキュリアが残した塵を貫いてレミアが降り立ち、ヴァルキュリアに庇われ無事だったフレイヤが退く中、不知火あけび(aa4519hero001)と共鳴した日暮仙寿(aa4519)がその後を追う。
「バルドルには会った。随分とお前達を買っていたな」
(フレイは自分の意志で戦ってるんじゃないのかもって言ったら、すごく怒ってたけどね)
仙寿とあけびはそう言いながらもフレイヤ達に向け女郎蜘蛛を発動すると、仙寿の周囲にある大気を揺らして霞が飛んだ。
霞に見えたのは仙寿のライヴスで構成されたクモの巣状の投網で、そのままフレイヤとヴァルキュリアに絡みつく。
仙寿の女郎蜘蛛が両者の身動きを封じたかに見えたが、絡めとれたのはヴァルキュリアだけで、フレイヤは仙寿の女郎蜘蛛を払いのけ、拘束から離脱した。
(恐らくだけど、フレイヤの特殊抵抗って私達より高いんじゃないかな)
あけびが自分の見解を仙寿に伝えると、仙寿はライヴス通信機「遠雷」を介し仲間達へその情報を伝達する。
その間に仙寿の動きに連動していた杏子がイノセンスブレイドを発動し、仙寿の女郎蜘蛛で束縛されたヴァルキュリアの撃破に動く。
「喜べ、この私が直々に戦ってやるんだからな!」
表に出ようとしたテトラを杏子が了承し、黒いオーラと共にテトラの人格が現れると、テトラは自分がデザインした怪剣「魑魅・魍魎」+4を振るい、2筋の剣光を煌めかす。
イノセンスブレイドで各能力を底上げさせたテトラの怪剣「魑魅・魍魎」が、いまだ仙寿の女郎蜘蛛に拘束されるヴァルキュリアの羽根の防御を突き破り、その身を貫いた。
そして藤咲 仁菜(aa3237)と共鳴したリオン クロフォード(aa3237hero001)と、アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)と共鳴した氷鏡 六花(aa4969)がカレウチェへと降下する。
カレウチェからは依然として機銃が吼えたけり、対空射撃が降下する六花にも殺到するが、聖なる文様が描かれたアイギスの盾+5を掲げるリオンが六花を庇い、全身に弾着の火花を散らしてリオンは六花を守り抜く。
「俺は大丈夫だ。そのまま攻撃するんだ」
(六花さん、私達が防御を引き受けます)
リオンと仁菜の支援を受けた六花は、リオン達に頭を下げた後、眼下に残る乙女達に向け『氷炎』ブルームフレアを解き放つ。
(大丈夫。私も六花を護るわ)
「この攻撃でヴァルキュリアを殲滅するよっ」
アルヴィナにも支えられた六花より放たれた炎の外見をした凍気状ライヴスが、カレウチェの甲板上に残るヴァルキュリア達を包み込む。
テトラに貫かれ、あるいはフレイヤを庇っていたヴァルキュリア達はそれぞれ六花のブルームフレアに巻き込まれ、絶叫して砕け散り塵と化し消えていく中、リオンと六花が最後に船へと降り立つ。
フレイヤが黄金の光を放って自分を包み、負傷を回復させる中、レーダーユニット「モスケール」で周囲を警戒していた蘿蔔が、この船へ割り込んでくる複数の反応を探知した。
『えっと……周囲の船からヴァルキュリアらしき反応がここに集まって来ています。あの……数は7……です』
蘿蔔のライヴス通信機「遠雷」を介して仲間達に索敵結果が伝わるのと、フレイヤの背後から7体のヴァルキュリア達が現れたのはほぼ同時だった。
「……呼び寄せていた。『見えていたから』」
フレイヤが淡々とそう告げた。
●正面一掃
ヴァルキュリア達がフレイヤのもとへ引き抜かれたと知ったエージェント達の反応は迅速だった。
(カレウチェ退治に移りたいようじゃから、残っておる鬼火どもの片付けが必要じゃ)
乙女がいなくなったことを確認し、インの助言を受けたリィェンは隣のカレウチェに残るムバエ達の掃討へと移り、ムバエに向け無造作に【極】を振り下ろす。
その直後、リィェンの【極】より斬風が奔って離れた場所にいたムバエの体を通過し、【極】の斬風を受けたムバエの体に線が走り、2つに割れたムバエは塵を噴き消えていく。
(しかし、これだけの事をやらかす割には、まだまだ余力を感じたのじゃ)
「これでもまだ嵐の前ってことか」
ムバエを近づけさせない一撃離脱を繰り返すリィェンに、インは自分の見解を伝えると、リィェンもインの見解に納得できる部分があったのか、頷く。
「よぅ、援護は必要かな?」
そんなリィェンが声をかけた先には、残るムバエに攻撃を仕掛ける優子がいた。
華鈴がこのカレウチェを討つためその内部に入ったため、優子は甲板上に残る敵の退治に回った次第だ。
(優子、この世界での暖かな日々がもたらす力、ラグナロクの奴らに見せつけようぞ)
「だ、大丈夫です! この敵は私の手で退治します!」
優子はリィェンの申し出を丁重に辞退すると、ミヅハノメの加護に背を押され、優子はムバエに鬼若子御槍を舞わして突きかかる。
突風となって突き出された優子の鬼若子御槍は、一突きでムバエの身を貫き、突き破られたムバエは自爆する間もなく塵と化し消えた。
こうして最前列に残るのは3隻の船のみとなり、龍哉、薙、刀護、ニノマエ、華鈴達が手分けして各カレウチェを破壊していた。
(カリン。大丈夫とは思うが、落とす前に甲板にいる仲間達へ連絡を入れてはどうだ?)
『甲板に残る者は、船体に大きな揺れを感じ次第、すぐ次の船に向かうべし』
フェニヤの助言を容れ、華鈴はライヴス通信機で仲間達に連絡を取ったうえで、エクリクシスにオーガドライブを乗せ、その破壊力をカレウチェの内部に叩きつける。
華鈴の防御を捨てた猛攻が船内構造物を一振りで粉砕し、破片が周囲に飛び交う中、華鈴の振るうエクリクシスは速度を落とすことなくカレウチェ船内を破壊していき、疾風怒濤も加わった連撃が入るたびにカレウチェは身悶えする。
そのカレウチェの破壊に、華鈴より連絡を受け、フリーガーファウストG3でカレウチェの機銃群を吹き飛ばしていたニノマエも加勢する。
(ニノマエ、何を狙っているんだ?)
「横から船2隻を貫通できる瞬間だ」
ミツルギからの問いにニノマエはそう応じ、カレウチェが華鈴の攻撃で傾きだすと、隣のカレウチェの動きにも注意しながら立ち位置を調整し、カレウチェの悶絶を乗りこなしながらその瞬間を待ち受ける。
そしてカレウチェが横転に近い角度まで傾き、ニノマエの直線状に船2隻分の腹部が並んだ瞬間、ニノマエはライヴスキャスターを発動した。
ニノマエの周囲に多数の水晶体が展開し、奔流と化したライヴスがニノマエより発射されると、ニノマエのライヴスキャスターは2隻分のカレウチェの腹を貫通し、大穴を2隻にこじ開けた。
それが致命傷だったのか、ニノマエと華鈴の乗るカレウチェは各所より塵を噴いて落下し、密林に激突前に姿を消していく。
足場が消えた華鈴は全力移動でカレウチェよりいち早く離脱し、ニノマエはそのまま密林へと降下し、フォレストホッパーの性能を活かしてふわりと密林の中へ着地する。
(どうも隣から仲間が援護してくれたようだな)
「邪魔な船はぶっ壊す! 落下しやがれ!」
ニノマエが大穴を開けたもう1隻のカレウチェでは、那智の指摘にそう応じながら、刀護が巨斧「シュナイデン」を振るい、船内部の破壊を進めていた。
すでにロストモーメントで自身の危険も顧みず反撃できる状況を作り上げており、ニノマエのライヴスキャスターで生命力を削られたカレウチェは、何度目かの刀護の攻撃を受けた時、断裂箇所から塵を噴き上げ横転した。
(今回凌いだとしても、フレイヤとはいずれ別の形で戦うことになるかもしれんな……)
消えていくカレウチェから離脱を果たし、密林へと着地した刀護は未来をそう予測しながら、ライヴス通信機でカレウチェを撃破したことを仲間達に伝達する。
(残るのはこのカレウチェのみだ。手早く消すことだな)
「そのつもりだよ。まだ後ろは残っているみたいだしね」
エルからの意志に薙はそう応え、電光石火を発動する。
薙のウコンバサラが稲光を撒いて振り下ろされ、カレウチェの内部構造は稲妻と化した薙の一撃で、ひとたまりもなく打ち砕かれる。
「……ふと思ったんだが」
(どうしましたの?)
同じカレウチェを破壊していた龍哉があることに気付き、ヴァルトラウテが問う。
「ラグナロクの首魁は何でオーディンじゃねぇのかと」
(あのような浅慮な紛い物に名乗れる物ではありませんわ)
「つまりバルドルの裏にまだ居る可能性もある、か」
(裏から糸を引くならロキを騙られる方がまだ納得できますわね)
ヴァルトラウテとそう言い交しながらも、龍哉がカレウチェを破壊する手は緩むことなく、龍哉は試作型AI【凱謳】を搭載したブレイブザンバー+5を振り上げる。
龍哉のブレイブザンバーが黄金の輝きを帯び、振り下ろされた1撃はそのままカレウチェの生命を断つ駄目押しとなり、破断された各所から塵が吹き上がる。
薙と龍哉が離脱する中、カレウチェは密林へと落下し消えていった。
●背後列寸断
最前列の敵群が壊滅した情報は、後方で戦う仲間達にも伝達されていた。
「爆発物満載の船ごと特攻で自爆でもしない限り、この程度の戦力で落せるとは思えないんだがな」
(別に本命がある可能性が高いですね)
飛翔とルビナスは、フレイヤ率いる幽霊船団が、インカ支部を落とすための本命戦力ではなく、陽動ではないかとの見解を抱いていたが、目の前に敵がいる以上倒すのみと気持ちを切り替え、今はカレウチェの内部でフリーガ―ファウストG3の砲撃を続けていた。
破壊した箇所をこじ開けてはその中に砲撃を加え、破壊箇所を拡大させ、飛翔の砲撃が炸裂するたびカレウチェは身悶えして塵を噴き、飛翔がカレウチェより離脱するのと同時に消えていく。
その間にも、別のカレウチェでは春花と遊夜が連携し、春花の指示を受けた優輝がケアレインで春花と遊夜の負傷を治療する形で、残る敵の掃討を続けていた。
(ハル。このまま一気にトリオで片付けるのであるぞ!)
「集まって来たからね。そうするつもりだよ!」
エレオノワールの助言に従い、春花はトリオを発動すると、17式20ミリ自動小銃を早撃ちで3度撃ち放つ。
発射焔や銃声が抑えられた17式20ミリ自動小銃より放たれた3発の銃弾状ライヴスは、そのまま射線上にいた3体のムバエ達を射抜き、3体のムバエは塵をあげ消えていく。
(次はこの船であるぞ。――左側の船がハルを狙っておる、回避だ!)
「わかってるよ、エルちゃんっ」
春花がムバエ達を撃破しカレウチェへの攻撃に移ろうとした時、エレオノワールの警告に従い春花は真横に飛んで、隣のカレウチェの放った機銃弾の群れに虚空を射抜かせる。
そして遊夜もシャープポジショニングで攻撃に適した配置と姿勢をとると、アハトアハトをカレウチェに向け発動する。
「さて、やってみるか」
(……ん、今日の大勝負)
遊夜とユフォアリーヤの戦意も込められ、AMR「ヴュールトーレンTR」より大量のライヴスを集積した砲撃がカレウチェへと放たれる。
遊夜のアハトアハトがカレウチェの機銃に炸裂してその破壊力を周囲にぶちまけると、直撃を受けたカレウチェは内部へ大穴を開け、悶絶した。
この時、カレウチェを撃破し遊夜や春花のいるカレウチェに移っていた飛翔とルビナスは、隣のカレウチェの異常な動きに気付く。
(あのカレウチェ……急に接近して来ましたよ?)
「……こちらへ強引に割り込んでくる?」
後方左側にいたカレウチェが強引に隣のカレウチェを押しのけて、フレイヤの乗るカレウチェ後方へと割り込んできたという情報は、飛翔よりライヴス通信機「雫」を介して仲間達へと伝達されていった。
●側面戦終了
この頃、後部のカレウチェにいたはずのムバエ2体が側面のカレウチェに移動してきたが、アリスがこれを迎撃する。
(飛行能力持ちが前衛を越えて来ることもあるとは思ったんだけどね)
「これはこれでそういうものだよ。想定の範囲内だね」
Aliceもアリスも動じる事もなく、ムバエ達の集まった箇所にブルームフレアを発動する。
アリスのライヴスが地獄の業火に変わり、灼熱の乱舞と化して、こちらに慕い寄るムバエ達を包み込む。
アリスのブルームフレアに包まれたムバエ達は自爆する間もなく、業火に蝕まれその身を塵に変え姿を消していき、一掃された。
そしてこの船に残るヴァルキュリアも、望月と明斗の猛攻を受け続け、終わりが見えていた。
「そろそろ終わりにしましょうか」
明斗がそう言って攻防の中ライヴスミラーを展開し、ヴァルキュリアが翼をはためかせて攻撃のライヴスを乗せた羽根を明斗に放つ。
ヴァルキュリアの羽根は確かに明斗の身体に突き立ったかに見えたが、明斗の前に展開したライヴスミラーが攻撃を反射し、ヴァルキュリアは自分が放った攻撃を受け、羽根を散らして落下し、ケアレインで味方の負傷を治療し終えた望月が追撃をかける。
(癒しの次は天使対決終了、だよ)
「まがい物とはいえ戦乙女の槍術と羽根を生かした戦いは、勉強させてもらいます」
百薬の意志を受け、望月は蒼炎槍「ノルディックオーデン」を繰り込むと同時にヴァルキュリアへ突き出した。
望月の蒼炎槍「ノルディックオーデン」の一撃が紫電と化してヴァルキュリアを直撃し、既に明斗のライヴスミラーで羽根の守りを破られたヴァルキュリアは、望月の一突きに貫かれて塵を噴き、消えていく。
船上の敵が一掃され、明斗とアリスが船への攻撃に移る中、望月は思いをはせる。
「それにしても、フレイヤは何のために頑張っているんでしょうか」
フレイのため? バルドルのため?
何か望みがあれば分かり合えるかもと、望月は思う一方で、もう戻れないということなら戦って退けるしかないとも考えていた。
このころ右側面のカレウチェの上では、杏樹が前衛、若葉と藍が後衛となってヴァルキュリアと船を追い込んでいた。
(お嬢様、この先の攻勢は皆月様や海神様にお任せし、護り手にして癒し手に戻られたほうがよろしいかと)
「榊さん、承りました、です。護り、癒すのが、杏樹の使命、です」
守の助言に従い、杏樹は武器を藤神ノ扇+5に替えると乙女の槍の一撃を受け止め、藤神ノ扇を舞わして跳ね返し、ケアレイを発動した。
杏樹の治癒の力を帯びたライヴスの光が藍に届き、藍の負傷を回復させる。
「共に戦っているんだ。援護は任せろ」
杏樹よりやや離れた位置から全体を見渡していた若葉がそう言って、SVL-16の照準をヴァルキュリアに向ける。
(任せるが……行動でそれを示すんだな)
ラドシアスの言葉に若葉は頷くと、テレポートショットを発動する。
若葉が引き金を引くとSVL-16より弾丸状ライヴスが射出され、射線上からヴァルキュリアの背後へと転移すると、そのままヴァルキュリアの背に命中した。
若葉のテレポートショットを受けたヴァルキュリアは予期せぬ方角からの射撃で、意識がつかの間逸れる中、杏樹と若葉の援護を受けた藍がヴァルキュリアへ止めを刺す。
(これで終わりです!)
「榊、杏樹さん。皆月さん、ラドシアスさん。今こいつを仕留める」
禮と藍がそう言ってブルームフレアを発動し、藍のライヴスが大気とヴァルキュリアをつかの間撫でると、その軌跡を追うように業火が吹き上がった。
藍のブルームフレアに包まれたヴァルキュリアはその身を焼かれて砕け散り、塵と化して消えていく。
「あとはこの船を落とすだけだね」
若葉がそう言ってカレウチェへの射撃を始めると、藍や杏樹も若葉の攻撃に続いた。
●復讐鬼誕生
7体のヴァルキュリアの増援を得たフレイヤを、8人のエージェントが1隻のカレウチェの上で追い立てる。
「神話の化け物を捕縛した鞭で、神を名乗る者を捕まえるなんて皮肉だね」
リオンが『シャウラ』の名を冠し、星空色へのリボン状に改造したグレイプニール+3を振るうとフレイヤへと吹き伸ばし、フレイヤの片腕に『シャウラ』が絡みつく。
「貴方はなぜここにいるの?」
『シャウラ』で捕らえたフレイヤに、リオンの内にいた仁菜が一時人格を交代して問う。
「フレイを1人で支部に行かせてよかったの? 本当に大切なものを傍で護らなくていいの?」
仁菜の問いにあわせ、レミアも疾風怒濤をフレイヤに発動しながらフレイヤに問う。
「フレイはあなたの兄……なのでしょう? どうして一緒に行動しないの?」
(レミア。質問と攻撃どちらかに統一した方が――)
緋十郎の呼びかけを黙殺したレミアより、振りおろし、薙ぎ払い、斬り上げの3連撃が躊躇なくフレイヤに繰り出され、放たれた『《闇夜の血華》Lieselotte』はフレイヤを庇い割り込んだヴァルキュリアの頭、胸、腹を切断し、ヴァルキュリアを塵に変える。
――未だ不安定ではあるが、かならずフレイの真の覚醒はなる。今はそれを見守ってくれないか。
ある存在のその言葉に従ってしまったことがフレイヤ最大の後悔であり、仁菜とレミアの問いかけは、その後悔を刺激するものだった。
仁菜とレミアの問いにGーYAも加わる。
(会話が可能ならジーヤの目的を実行だけれど、不可能なら捕獲よねぇ?)
「君は神を名乗る割には拘りが感じられない。本当の君が捨てた名を教えてくれるかな、君は誰?」
まほらまの助言を受け、GーYAはツヴァイハンダー・アスガルを振るい、フレイヤに斬りつけながらフレイヤに問う。
GーYAの放ったツヴァイハンダー・アスガルの一閃は、フレイヤを庇ったヴァルキュリアが食い止め、ヴァルキュリアはツヴァイハンダー・アスガルに深々と身を割られ、塵を噴き消えていく。
「……これが何かを教えてほしいという態度?」
フレイヤは素気なく呟きを続ける。
「……貴方たちが今私にしている、暴力や殺意で痛めつけ、情報を得ようとするのは『拷問』だと言っている」
――殴れば言うことを聞かせられると見下している。私と今の貴方たちと何が違う?
そんなフレイヤの問いに、GーYAでなくテトラからフレイヤへのレプレケイショットが『回答』する。
「我が名はテトラ! 邪神の化身! 貴様らのような偽者とは格が違うのだよ!」
自分達にとって敵となる者は倒す、ただそれだけだ。
テトラや杏子のフレイヤへの方針は揺るがない。
テトラの怪剣「魑魅・魍魎」がレプレケイショットによって複製され、テトラの怪剣「魑魅・魍魎」がフレイヤを庇ったヴァルキュリアに向け、合計十条の光芒を描き、ヴァルキュリアをずたずたに引き裂いた。
テトラのレプレケイショットで細切れにされたヴァルキュリアは塵を噴いて倒れ、姿を消していく。
もしこの一連の対話の中で、対話中の間だけはお互いに攻撃を手控える約束を取り付けるなどの行動をとる者がいれば、フレイヤもある程度エージェント達の望む情報をよこしたかもしれないが、この時は蘿蔔のフレイヤへの狙撃が重なった。
蘿蔔はフレイヤの乗るカレウチェの中に、フレイヤの逃走手段となりそうなものが無いか探っていたが、何も見つからなかったので今は狙撃に戻っている。
(今が援護射撃の好機だ。フレイヤの動きを制限するんだ)
レオンハルトの助言を受けた蘿蔔は、炎弓「チャンドラダヌス」の弓弦を引き絞る。
「あの……この一射で援護いたします」
そう言って蘿蔔はダンシングバレットを発動すると、弓弦が蘿蔔の矢状ライヴスを放つ響きを鳴らす。
蘿蔔の矢状ライヴスは一度カレウチェの甲板を跳ねると、思わぬ軌道で跳躍し、フレイヤを庇いに来たヴァルキュリアに突き刺さる。
蘿蔔のダンシングバレットを受けてヴァルキュリアが狼狽する間に、結がフレイヤに斬りかかる。
(間違える前に考えることね。脳みそあるでしょ?)
「胸に手を当てて思うのも大事だと思うのです」
その後も結とサラは炎剣「スヴァローグ」でフレイヤに斬撃を放ちながら、そうフレイヤに告げる。
仁菜の『シャウラ』に拘束された状態だったフレイヤは『オーズ』を発動し、結の斬撃を迎撃する。
それがライヴスミラーだと察知した仁菜は、強引に結の前へと割り込むと、自分もライヴスミラーを発動する。
「隙ができるなら、カウンターを狙ってくる『オーズ』の瞬間だと思っていたのよ」
そして結の斬撃がフレイヤのオーズに反射され、結を庇った仁菜に攻撃が命中すると、今度は仁菜のライヴスミラーがその攻撃を反射し、攻撃は巡り巡ってフレイヤの身に命中した。
「ねぇ。貴女は何を見てるの? どこに捕らわれているの?」
――私は護れなかった過去を越えていく。貴女は過去を越えられる?
そう仁菜がフレイヤに問いかける中、一連の複雑な攻撃のあおりを受けたのか、フレイヤのベールが浮き上がり、一瞬だけ隠された半顔が露わになり、それを見たエージェント達は目を見張る。
人形めいた容貌の右半面とは対照的に、フレイヤの顔の左側は焼きただれた肉で覆われた凄まじい形相と化していた。何か焼けた棒状のようなもので貫かれれば、このような顔に至るだろうか。
そんなフレイヤに向け、仁菜のライヴスミラー発動に行動を合わせていた仙寿が繚乱を発動する。
仙寿の周囲にある影が収束されて足元が霞み、無数の羽が顕現すると渦を巻いて周囲に舞い踊り、フレイヤと庇いに来たヴァルキュリアを包みこんで、その意識を惑わせる。
「その覆われた顔半分は……怪我か?」
(私達じゃ力になれないかな?貴女達に何があったのか教えてよ)
――愚神とか能力者とか関係なく、私は正しいと思う事をする。インカ支部を襲うなら止めるし、貴女達が愚神になった原因があるなら知りたい。フレイも救いたい!
そんなあけびの訴えが、仙寿を介してフレイヤに伝わる中、カレウチェにある機銃を潰しまわっていた六花に、ライヴス通信機「遠雷」を介して別班の飛翔より、フレイヤ後方に別のカレウチェが割り込んだとの情報が届く。
(恐らくフレイヤの逃走用よね。その船から撃破してみたらどうなの?)
「この船を先に落とすつもりだったけど、そういうことなら向こうの船から落としてみるよ!」
アルヴィナの助言を受け、既に霊力浸透を発動していた六花はそう応じると、サンダーランスを展開する。
六花が突きだした手の前で、灼熱の光を纏う蛇の群れが具現化し、空間を軋ませて槍の形へと絡まっていく。
そして六花周囲の空間が吼えた。
稲妻状ライヴスと化した六花のサンダーランスが、割り込んできたカレウチェの体に噛みつき、雷の牙でその身を引き裂き、貫いていく。
六花のサンダーランスが、ひとしきり内部を蹂躙したところでカレウチェの生命力が尽き、貫通された大穴から塵を噴いて降下し、密林へ落ちる前に消えた。
その間にもGーYA、仁菜、結、仙寿より問われていたフレイヤは、不意に弾かれたようにインカ支部のほうへ顔を向ける。
「……兄さ……」
かすかに呟いたその単語を、GーYA、仁菜、結、仙寿、そしてレミアが拾った次の瞬間、絶叫が響き渡る。
――ああああああああああああああああああああああっ!!
それはエージェント達が初めて目にしたフレイヤの明確な感情――慟哭だった。
フレイヤが甲板上で錯乱ともいえる状態で悶えてうずくまり、泣き叫ぶ隙を突き、フレイヤへ接近を果たしていた者がいた。
後方の船より潜伏を駆使してフレイヤのもとへと忍び寄っていた央だ。
(……屍国の時と何も変わらない。社会はお前達のような犠牲者を救えないどころか認知すらしていなかった。社会を維持する立場として、お前達が求めるならいくらでも詫びよう。だが、それでも、俺達の生きる世界はここしかない……壊させる訳にはいかない……!)
フレイヤの慟哭する姿を目の当たりにした央は、内心でそう詫びつつもザ・キラーを発動した。
(央。あけびちゃん達からの情報では、フレイヤは特殊抵抗が高いそうよ)
(見破られる可能性があるとしても、敵に警戒させ仲間の支援にはなるはずだ)
気取られぬようマイヤからの注意を心の会話で応じ、央は無音のままフレイヤの背へと迫る。
その時フレイヤの身が央のほうに向き、央の忍刀「無」が弧を描いてそのままフレイヤに振り下ろされる。
肉を断つ音と共に、仁菜の『シャウラ』に拘束されているフレイヤの腕が、央に斬り飛ばされ宙を舞い、自分の片腕を犠牲にして拘束を解いたフレイヤは、そのまま残るヴァルキュリアに庇われながらカレウチェの端へと移動する。
「……てやる」
涙で濡れた瞳でエージェント達を睨み、フレイヤは憤怒の声を漏らす。
「皆殺しにしてやる!」
憎悪と怨嗟に満ちた宣告をエージェント達に残し、フレイヤはカレウチェの端を蹴りとばして一気に密林の中へと飛び込んだ。
密林の奥へ遠ざかるフレイヤをエージェント達が追うが、残るヴァルキュリアが周囲に羽根をばらまき、カレウチェ達も機銃を真っ赤に燃え上がらせて周囲に火線を飛ばして立ち塞がる。
「えっと……邪魔は、させないです」
「今度は凍らせて撃破、なのよ」
蘿蔔のテレポートショットが機銃を貫いて、炎弓「チャンドラダヌス」の熱がカレウチェの体を蝕むと、六花が『氷鏡(アイスリフレクトミラー)』と命名した【SW本】リフレクトミラーで範囲を増強させた終焉之書絶零断章+5から放たれた絶対零度のライヴスがカレウチェに絡みつき、別の機銃群ごとその身を凍らせる。
蘿蔔と六花が交互に行った真逆の攻撃でカレウチェの1隻が力尽き、塵と共に消えていく。
そこへ他の区域で掃討を終えていたエージェント達が、従魔達の撃破に集まってきた。
「癒しのアイドルあんじゅ――です。皆さんに癒しを、お届け、です」
側面からフレイヤの抑えに回っていた杏樹が駆けつけると、負傷した仲間に向けケアレインを発動し、治癒の力を帯びた杏樹のライヴスが周囲に降り注ぎ、味方の負傷を癒していく。
援護を受けたエージェント達の攻撃に呑みこまれた従魔達は、やがて密林の上で全て塵となって消えていった。
「……悲劇の被害者が、新たな悲劇の加害者に……なっていい筈がないだろう」
唯一この場から離脱し、姿を消えたフレイヤに向け、央はそんな言葉を投げかけていた。
●判明
任務を果たし帰還したエージェント達は、ポルタ達に知り得た情報を報告する。
「フレイヤの力、まるでバトルメディックのようだったな」
――ひょっとすると、元リンカーの愚神か?
帰還したテトラがフレイヤとの戦いで得た情報を、所感をまじえ報告した。
そしてポルタより、あの時フレイヤが慟哭した理由をエージェント達に伝えられる。
――ラグナロクのフレイ、インカ支部内でエージェント達の奮闘により討伐される。
――フレイヤはフレイの妹であり、本名はオルリア。
あの時、フレイヤがフレイの死を感知していたのはほぼ間違いない。
そしてそれはフレイヤが「あなたたち」を、兄の仇と憎悪する復讐の鬼と化したことも示していた。。
「この戦いで、ふれいやから格段に強い憎しみを感じた。凶行に走る切欠……調べる価値、あるやもしれぬ」
華鈴は、フレイヤが今よりも以前から復讐にとらわれていたのではと推測し、そう呟いていた。
「守るべきものに憎しみを抱く結果になるかもしれんぞ」
「……私は、戦う相手を間違えはせぬ」
フェニヤの忠告に、華鈴は揺るがぬ決意を示す。
「ミヅハ……ラグナロクやフレイヤにも、私達のような過去があると思う?」
「……そう言った理不尽な暴力や迫害を受けた者達の例はいくらでもある」
優子の問いにミヅハノメはそう応え、こう続ける。
「そしてそれは好き放題に暴れていい理由にはならぬよ。ラグナロクは所詮、この世界での居場所を失ったと思い込む、井の中の蛙どもの集まりじゃ」
――優子は堕ちることはなかったじゃろう?
そう優子に説くミヅハノメは、どこか優しさを含んでいた。
「色々あったが今は休んでおけ」
共鳴を解いた明斗は、そう言ってドロシーを労うと、ドロシーは『帰宅後 オムライス』との文字が描かれたスケッチブックを掲げていたが、別の文字が描かれたページも明斗に見せる。
「『今戦評価 次戦正義継続』ね。わかったよ」
めんどうくさそうに答えながらも、明斗はドロシーの頭を撫でながら帰路に就く。
「結局敵になってしまったのは嫌なのです」
「仕方がないものなのよ。フレイを倒さなければインカ支部は壊滅してたんだから」
そう言ってサラは結を宥めていた。
「失ったものがある。だから強くなろうと思った」
今、ここにいる仲間達を絶対に助けられるように。何があっても守ることを諦めない。
フレイヤに仇と憎まれようと、仁菜の信念は揺るがない。
「大丈夫! そんなニーナだから俺も一緒に立ち向かえるんだ」
そしてそんな仁菜をリオンはそっと支えていた。
「どうもこれから兄を討たれたことを理由に、世界を無に帰そうって感じだな」
情報を受け、龍哉は今後のフレイヤの動向をそう推測する。
「今度は本当の憎悪からのようですが、どうするんですの?」
既に答えはわかっているが、あえてヴァルトラウテは龍哉に問う。
「それでとばっちりを喰う人々が大半なら、はいそうですかと受け入れる訳にはいかねぇな!」
龍哉の戦意も揺るがず、そのままあり続ける。
「ひとまず退けたが、次の攻勢はさらに苛烈なものになるじゃろうな」
今回のフレイヤの攻勢を『余力を残している』と見抜いたインは、復讐にとらわれたフレイヤがさらに攻勢を強めると予測していた。
「嵐は異常気象だけで十分すぎるところだが、そうも言ってられないか」
インの推測に賛意を示したリィェンは、次のラグナロクの攻勢が来る前にラグナロクの本拠を探り当て、叩く方向に向かうべきか思案する。
「バルドルに心酔していたわけではない気がする」
――あの時のフレイヤは良い感情を一切見せなかったが、選民思想者によくある蔑視のような感情もなかった。
フレイヤとの戦いで、己が感じたものや集めた情報から、仙寿はその推測に至る。
ならば必要に迫られて、だろうか?
仙寿の疑問が解かれるには、今少しの時間とさらなる調査が必要だった。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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