本部

示せ! 未来の道標

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2017/11/26 23:17

掲示板

オープニング

●出会い
「休みの日にまで勉強なんてしてられるかよ」
 屋敷に向かってそう言ってオレは森へと向かい走る。
「さて、今日はどうしようかな……」
 森を抜ければ屋敷の敷地の外だが、町まで歩くのは面倒な気もする。
 そんな事を考えながら何気なく見回した視界に半透明の女の子の姿が映る。
「お前、幽霊か?」
 まだ昼過ぎで明るかったせいかオレは不思議にも思わず自然に女の子に声をかけていた。
「お前、面白そうだな。一緒に遊ぼうぜ」
 幽霊相手に声をかけた自分に驚きつつもオレはこいつを今日の遊び相手にする事に決めた。
 差し出したオレの手にそいつが触れる。
 突然、風が吹いた。
 巻き上げられた風から顔を庇った手の中に真っ黒な丸い黒い石が有った。 
「何だこれ?」
 不思議な石を指でつまんで持ち上げる。
「あれ? お前、幽霊じゃなかったのか?」
 石の向こう側に見える女の子の姿は透明ではなくなっていた。
「まぁ、どっちでもいいや。ついて来いよ」
 オレはポケットに石をしまって女の子の手を取る。
 幽霊でないのならば使用人の誰かの子供だろう。
 戻って報告されるよりも一緒に連れて行った方が見つからないだろうとオレは考えたのだ。

 日が傾き風が冷たくなる。
 今日は何故か体が軽く、今まで登れなかった大岩にも楽に登れた。
 思う存分体を動かしたせいか腹の虫がグーと鳴く。
 そろそろ晩飯の時間だ。
「オレ、帰るわ」
 オレの言葉に女の子が不思議そうに首を傾げる。
「お前も早く帰れよ」
 オレは早く晩飯が食いたくてすぐに屋敷に向かって駆け出した。
 そして、抜け出していたことを忘れて屋敷に帰った俺は散々に怒られた。
 結局、翌日は抜け出す事も出来ずそのまま休みが終わって寄宿舎に戻ることになった。
 その時にはオレは森であった女の子の事などすっかり忘れていた。

●試練
「お願いだから、家族の問題に私を巻き込まないで」
 イリスの言葉にマリアは「友達でしょう」と応えて微笑んで見せる。
 組織(H.O.P.E.)に金(依頼料)を渡して調査で海に出ていた相手を強制的に呼び戻すのが友達というならば確かにイリスとマリアは友達なのだろう。
「クジラだの半魚人だのと違って命の危険が無い分気は楽だけど……」
 調査中の案件を思い出してイリスは大きくため息をつく。
「今回の依頼はマリアの甥っ子の説得よね」
 気持ちを切り替えたイリスの言葉にマリアが頷く。
 依頼内容を要約すればリンカーとなったマリアの甥っ子、十歳のローナン・エトワールにエージェントの実態を見せて本気でエージェントになるかを問うという物だ。
「マリアは甥っ子をエージェントにするつもりがあるの?」
「無いわよ」
 イリスの問いに迷うことなくマリアが答える。
 家族が危険に飛び込むのを歓迎する者などまずはいないだろう。
 だが、ローナンはエージェントに子供らしいヒーローのような憧れを持っている。
「最終的には本人の意思次第だけどね」
 マリアの言葉にイリスは何人かの幼いエージェントの顔を思い浮かべる。
 本気でローナンがエージェントになるのならばたとえ十歳の子供であろうと止めることは不可能だろう。
 その本気を問うためとしてマリアが準備したのがこの島の別荘に有る成人の試練だった。
「最初の三つの試練はただの建前よ」
 試練の施設の中を覗き込むイリスにマリアが声をかける。
 元々は空間認識を計る場だった第一の試練は今はただの暗い迷路になっている。
「第四の試練、マリアとの模擬戦……」
 リンカーであるローナンと一般人であるマリアの模擬戦。
 実際に重要なのはこの試練だけだ。
「半端な覚悟のまま私に挑むのならばちゃんと心を折って諦めさせてあげるわ」
 楽しげにマリアが笑顔を浮かべる。
 マリアは駆け出しのエージェント程度ならば軽くあしらえる程度にはメイスの扱いに長けている。
 相手が共鳴しているならば怪我をさせる心配もなく、加減の必要もないので覚悟が無ければマリアは容易にローナンの心を砕くだろう。
「憧れが本気に変ったらどうするの?」
 イリスの言葉にマリアは微笑む。
「その想いが本物ならば私はローナンを応援するわ」
 マリアの言葉に嘘はないだろう。
「ところで、英雄の方はどうなの?」
 イリスの問いにマリアが大きくため息をつく。
「あの子は……完全な他者依存よ。自分というものが全くないの」
 マリアのその言葉にそれなりに英雄を見て来たイリスはそれが英雄の本質に由来するものだと想像できたが、道具的な存在のままでは対等となることは出来ないだろう。
「その子も英雄もここで成長出来るかどうかがこれから先の人生を決めそうね」
 出来るならばローナンが普通の生活を選んでマリアと戦わずに済むことをイリスは心の中で願っていた。

●誓約
 目を開けると白い天井が見えた。
「目が覚めましたか?」
 聞こえた声に視線を動かす。
 大人の女の姿が見える。
 子供の男に連れられて森の中を走り回って、日暮れに森の中に置いて行かれた。
 その場所で私は待ち続けた。
 日が昇りまた沈む。
 次第に自分という存在が希薄になり世界から私が消えていくのをただ感じていた。
「まだ寝ていてください。私はリディ様とローナン坊ちゃんを呼んでまいります」
 そう言って大人の女が部屋から出て行く。
 私はベッドから降りて体を確かめる。
 手も足も消えていない。
 扉がノックされ大人の女が扉を開ける。
 部屋の外に森であった子供の男と大人の男が立っている。
「すまなかったね、知らなかったとはいえ息子は君との誓約をいきなり破ってしまったようだ」
 部屋に入ってきてリディ・エトワールと名乗った大人の男がそう言って頭を下げる。
 その隣でローナンと呼ばれている子供の男が興奮して、私がローナンの英雄で有る事、共鳴すれば悪者を倒す事が出来るのだと言う事を騒々しく話しかけてくる。
 騒がしいローナンをリディが「お前はまず彼女に謝りなさい」と叱りつける。
 私が消えかけたのはローナンのせいらしい。
 そう言われたところで私には何の感慨も無い。
 必要とされなければ朽ちて果てるのは当たり前のことだ。
 私達は誰かの傍らに有って初めてその存在が意味を持つのだから。
「何にしろ君の事は私達の家族として面倒を見よう。名前を教えてくれるかな?」
 リディの言葉に私は静かに首を振る。
 戦の為に鍛えられた私達には銘など刻まれていない。
 私は私を規定する言葉を何も持っていないのだ。

解説

●目標:ローナン・ハルスベルグの意志を確認する。

●ローナン・ハルスベルグ
 十歳の男の子。
 エージェントにヒーローのような憧れを抱いている。
 いたずら小僧で勉強嫌い。

●英雄
 十歳ぐらいの見た目の女の子。
 黒髪とおかっぱな髪形のせいで日本人形のような印象を受ける。
 今まで一言も声を発した事が無い。
 クラス:カオティックブレイド
 誓約:一緒に居る事
 幻想蝶:黒曜石

●共鳴
 二人は共鳴できますが、スキルは使えません。
 原因は二人の関係に有ります。

●ハルスベルグ家の試練
・第一の試練「暗闇の迷路」
 光源の一切ない迷路になっています。
 ※PCには地図が渡されています。

・第二の試練「揺れる一本橋」
 長さ五メートル、幅十センチメートルのひどく揺れるつり橋です。
 下は暗くて見えませんが、安全ネットが張ってあります。

・第三の試練「壁」
 レンガ積みの四角い部屋の中央を塞いで凹凸の無い滑らかな壁が設置されています。
 壁の高さは十メートル、天井との間には隙間が有り壁の向こう側に行けます。 
 床は全面にクッションがひいてあります。

・第四の試練「模擬戦」
 戦闘に十分な広さが有る土の地面に石壁の部屋。
 クリア条件:ローナンがマリアの体に攻撃を当てる事。
 マリアの装備:メイスと円盾に体を守る防具。
 ローナンの装備:長剣と円盾。
 ※どちらもAGWではありません。

●マリアの戦術
 防御主体の戦術です。
 マリアの才は天賦の物です。先読みでもするかのように攻撃を確実に防ぎメイスで殴ります。

●指導
 日数の定めはありません。
 島内には皆さまが想定したものは全てあるので自由に使ってください。
 一から三の試練も指導の道具の一つに過ぎませんので使わない選択肢も有りです。
 何も教えずビーチで遊ぶのも有りです。(南半球なので今は初夏に入る所です)

※滞在中の宿泊食事はエトワール家の別荘で出してもらえます。

リプレイ

●出会い
「ヒーローになるのに何が必要だと思うんだぜ?」
 試練の入り口前で虎噛 千颯(aa0123)がローナンに声をかける。
「悪者を倒す力!」
 ローナンが興奮した声で答える。
「それも必要だが、答えは勇気だぜ」
「勇気?」
 繰り返したローナンに千颯が言葉を重ねる。
「どんな困難にも諦めないで立ち向かう勇気。ローナンちゃんには出来るかな?」
 その言葉にローナンは「当然!」と応える。
「じゃぁ、ローナンちゃんの勇気を見せてもらおうか」
 真っ暗な入り口を示して木霊・C・リュカ(aa0068)がローナンに声をかける。
「お……おぅ」
 暗闇がローナンの勢いを鈍らせる。
「征四郎も一緒に行きます!」
 ローナンを励ますように紫 征四郎(aa0076)が横に並ぶ。
「では、行きましょうか」
 凛道(aa0068hero002)の言葉で踏み出したローナンにリュカが声をかける。
「ここお化けもいるって」
 その言葉にローナンの動きが止まる。
「……征四郎は負けませんから!」
 お化けと聞いてぷるぷる震えつつも征四郎が暗闇の中へと踏み入れる。
「おい、待てよ!」
 その後にローナンが続いて、英雄の少女がついて入る。
 恐怖を見せた二人と違い感情を見せない英雄の少女に御神 恭也(aa0127)が眉をしかめる。
「ローナンよりも英雄の子の方が問題か」
 英雄の少女の表情は空っぽだった。
「英雄のあの子、よく分からないけど何か間違ってる気がする……」
 恭也の横で伊邪那美(aa0127hero001)もそう口にする。
「色々面倒そうだネ♪ ガンバレー♪」
 華留 希(aa3646hero001)の言葉に麻端 和頼(aa3646)が入口から目を戻す。
「……てめえもやれよ」
 希に声をかけて和頼がため息をつく。
「うーん……アノ英雄のコが、ネ」
 そう口にはするが希は旅行のように楽しんで見える。
「仕事だぞ」
 希に一声かけて和頼はマリアへと視線を向ける。
「幾つか確認したいんだが、いいか?」
 和頼の言葉にマリアは「構いません」と頷く。
「まずは、家族がどう思っているかを知りたい」
 マリアも含めて家族全員反対、それがマリアの答えだった。
 だが、同時に子供の考えを出来るだけ尊重したいとも考えている。
「戦う事だけがエージェントの仕事ではありません」
 桜小路 國光(aa4046)の言葉にマリアも「分かっています」と頷く。
 やり取りされる会話を聞きながら國光の口から言葉が零れる。
「そう考えるとヒーローが目の前にいて当たり前の時代なんだな……」
 微かに聞こえた声にメテオバイザー(aa4046hero001)が國光に問いかける。
「サクラコは憧れなかったんですか? 能力者に」
 口にしたつもりのなかった言葉への問いに國光は「まぁ……ね……」と曖昧に答える。
「姉さんが初めて大怪我して帰ってくるまでは……」
 続いた言葉は声にせずに飲み込んで國光は試練の入口に目を向ける。

●暗闇
「何やってんだ?」
 微弱蛍光ペンで印をつけている征四郎にローナンが声をかける。
「こうしておけば迷わないのです」
 暗闇に星明りのような小さな印が続いている。
「そんなもんなくても出られるだろ」
 持ち込んだ懐中電灯の明かりで周囲を照らしてローナンがそう口にする。
「どんな時でも油断してはダメですよ」
 リュカの声と同時にローナンの手から懐中電灯が飛び出す。
「あ!」
 床に落ちた懐中電灯の明かりが消え、周囲が闇に閉ざされる。
「状況を考えて明かりを準備するのも、印をつけるのもエージェントとしては必要な事だよ」
 真っ暗な迷路の中にリュカの声が木霊する。
「でも、夜の闇の中で何もわからないまま戦わないといけない事もあるんだよ」
 宙に浮かんだ黒猫「オヴィンニク」に征四郎が悲鳴を飲み込む。
「エージェントになれば逃げることは出来ないからね」
 リュカの声が反響して様々な方向から響いて来る。
 悲鳴も上げられず動けなくなって座り込んだローナンの手を征四郎が掴む。
「ローナン、英雄さんはどこです?」
 征四郎の言葉にローナンは「分からないよ」と答える。
「目の前の自分の相棒を救えなくて、どうして誰かを救えますか!」
 征四郎の強い声にローナンが伸ばした手が英雄の少女が触れる。
 英雄の少女はローナンの側に立っていた。

●一本橋
「怖いかね?」
 ユエリャン・李(aa0076hero002)の言葉に征四郎は強がるように首を振る。
 一本橋をローナンの手本としてリュカが渡っている。
「足場が悪い場所で戦う事もあるからね」
 リュカに促されて足を乗せたローナンが大きく揺れた一本橋にバランスを崩す。
「まずは渡る事だけ考えるんだよ」
 リュカの言葉を聞きながらローナンが這うようにして一本橋を進んでいく。
「怖くない、です。ユエ、今からそれを、嘘じゃないと証明します!」
 震える足で一本橋に向かう征四郎からユエリャンは英雄の少女に目を移す。
「……名が無いのは面倒だな」
 声に反応してユエリャンを見上げた英雄の少女の瞳は人形のように無機的だった。
「永遠と呼ばせてもらおうか。永遠とは不朽という意味だ、嫌ならば早急に自分の名を決める事だ」
 そう言ってユエリャンは言葉を続ける。
「共鳴とは互いが手を差し伸べるものだ」
 征四郎に目を向けたユエリャンにつられるように英雄の少女もローナンへと目を向ける。
「私達は手に取って使われる物です」
 英雄の少女の声にユエリャンが目を戻す。
「良い道具には想いが有るものだ」
 見上げる頭にユエリャンがそっと触れる。
「ちゃんと渡りました!」
 橋を渡った征四郎の声にユエリャンが応える。

●壁
「まってたんだぜ」
 第三の試練の部屋に入ったローナン達に千颯が手を振る。
 そこには全員が揃っていた。
「マリアに力を見せてもらうことになってな」
 和頼の説明を希が補足する。
「それデ、ここで待ってたんダヨ」
「先に第三の試練でござるがな」
 白虎丸(aa0123hero001)がそう言って触れた壁をローナンが見上げる。
「一人で答えが出ない事も皆で相談すれば答えが出るかもしれないからね」
 リュカの言葉にローナン達は相談を始めるが英雄の少女はその輪には加わらない。
「君は消えてもイイと思ってるのカナ?」
 声に目を上げた英雄の少女に希が笑顔を向ける。
「頷くトカ首を横に振るトカでもイイヨ♪ 紙のがイイカナ?」
 希の言葉に英雄の少女が応える。
「字は書けない」
 その声に和頼が驚いたように声を上げる。
「話せんじゃねぇか」
「話す?」
 英雄の少女は首を傾げて自分の唇に触れる。
「話せるなら楽だな」
 そう言って和頼は腰を落として英雄の少女と目線の高さを合わせる。
「何でお前らの誓約は一緒に居る事なんだ?」
 和頼の言葉に英雄の少女は抑揚のない声で答える。
「私達は敵を倒す道具だから」
 その言葉に和頼と希は顔を見合わせる。
「少し、昔話でもするか」
 そう言って和頼は希と出会うまでの事を話しはじめる。

「使われるダケなのモ、消えるノモ楽しいモノじゃないヨ」
 話し終えて希は英雄の少女に言葉をかけて腰を上げる。
「……ガキは夢中になると約束とか直ぐ忘れるからな……」
 英雄の少女の事など気にする様子も無く壁に挑戦しているローナンの姿に和頼が苦笑する。
「ローナンのお父さんの英雄になっタラ、大事にしてくれるカモヨ?」
 希の言葉に英雄の少女が視線を上げる。
「……本当は自分が見えたローナンの特別になりたいんじゃねえのか?」
 和頼もそう言って立ち上がる。
「特別……」
 その言葉を英雄の少女は口の中で繰り返す。
「まぁ、あいつも好きで誓約を破ったんじゃねぇだろ」
 和頼の言葉に英雄の少女は首を傾げる。
 それが言葉の意味を理解できない時の仕草だとすでに理解している。
「……ローナンが、本気で誓約守ってエージェントになりてえっつったらどうすんだ?」
 あえて説明せず和頼は英雄の少女に問いかける。
「私は……必要としてもらいたい」
 英雄の少女は真っ直ぐにローナンを見つめていた。

●知識
「何で勉強なんだよ!」
 広げられた課題にローナンが不満の声を上げる。
「能力者だって勉強は大事だよ? 学校は行けるなら行かなくちゃ」
 國光の言葉にローナンが反発する。
「勉強なんかしなくても戦えるんだろ!」
 その言葉に國光はローナンと向き合う。
「知識は大切だよ」
 真剣な表情でそう言ってすぐに國光は表情を和らげる。
「それに、この世界をまだ何も知らない英雄に質問されて、きちんと答えられたら……かっこよくない?」
 國光の言葉にローナンは英雄の少女へと目を向ける。
「ローナンちゃん、英雄ちゃんの名前、分かんないんだよね?」
 伊邪那美の声にローナンが視線を動かす。
 見た目の歳が近い征四郎と伊邪那美も一緒に勉強する事にされていた。
「そいつ喋んないからな」
 ローナンの声に英雄の少女が視線を向ける。
「よし、まずは名前を決めようよ。キミとかじゃ寂しいからね」
 伊邪那美の言葉に英雄の少女が首を傾げる。
「う~ん、そうだな……木花咲耶姫からとって咲耶なんてどうかな?」
 反応を返さない英雄の少女に伊邪那美は言葉を続ける。
「まずは……何かやりたい事ってないかな? ほら、美味しい物が食べたいとか色んな所に行ってみたいとか」
 その言葉に英雄の少女はまた首を傾げる。
「勉強の手が止まってるよ」
 ローナンに國光が声をかける。
「出来たのです!」
 その向こう側で征四郎が声を上げる。
「学生と兼業しているエージェントも多いんだよ」
 征四郎の課題を確認しながら國光がローナンに声をかける。
「オレも今は特別研究員として留学してるからね」
 そのまま國光がローナンに問いかける。
「君があの子に会う前の夢は何?」
 返ってきた答えは「ヒーロー」だった。
「そうか、ヒーローか。オレは研究者になって、新しい薬を作る材料を見つけるのが夢なんだ」
 國光の言葉にローナンが「戦わないのか?」と尋ねる。
「能力者になったからと言って戦うだけしかしちゃいけないなんて事はないんだよ」
 征四郎に続きの課題を示して國光は言葉を続ける。
「戦いは英雄との距離を近づけることも有るけど、自分の不注意で英雄との距離を永遠に切り離してしまうかもしれないんだ」
 その言葉にローナンが首を傾げる。
「英雄がいなくなったら寂しいと思う」
 ローナンに笑顔を作って見せて國光はメテオバイザーに視線を向ける。
「戦い方を教えてくれるって人にも色々聞いてごらん?」
 悩むような表情を浮かべるローナンに國光はそう声をかける。

●問い
「まずは、英雄と契約した自覚を持たせるのが先決だな」
 夕食の後、一人で部屋に戻ったローナンに恭也がため息をつくように口にする。
「その方が良さそうだね。誓約内容が内容だけにまた忘れて破っちゃいそうだもん」
 そう言いながら伊邪那美は凛道が声をかけている英雄の少女に目を向ける。
「今夜は星が綺麗ですよ」
「このお菓子美味しいですよ。食べてみませんか?」
 凛道の言葉に英雄はただ視線を向けるだけで会話は成立していない。
「上手くいきません……」
 人は難しいとため息をついた凛道にリュカが声をかける。
「気になるかい?」
 その問いに凛道は「はい」と答えて英雄の少女に目を向ける。
「寂しそうに見えるので」
 その答えにリュカも英雄の少女へ意識を向けるが、今は伊邪那美が英雄の少女に声をかけている。
「そう言えばローナンちゃんを契約者に選んだ理由って何かな? 誰でも良いって事は無いだろうし~」
 伊邪那美の問いに英雄の少女は考えるように間を置いて答える。
「何も無い」
 零れたような言葉を伊邪那美がすくい上げる。
「何も無いか……逆に考えてみたらどうかな? 何も無いんじゃ無くて、何でも持てるって考えたら楽しいと思わない?」
 その言葉に英雄の少女が顔を上げる。
「楽しい?」
 首を傾げて繰り返した英雄の少女に伊邪那美が頷く。
「そう、楽しい」
 そう言って伊邪那美は英雄の少女の頬に触れて笑顔のように口角を引き上げる。
 嫌がる様子も無くされるままの英雄の少女にユエリャンが「永遠」と声をかける。
 視線を動かした英雄の少女に伊邪那美もユエリャンに視線を向ける。
「我輩はそう呼ばせてもらっている」
 伊邪那美の視線に応えてユエリャンが説明する。
「ローナンちゃんが早く名前を決めないと大変だな」
 使用人達も英雄の少女を好きに呼んでいたのを思い出して千颯が苦笑交じりに口にする。
「それで、君はどう思うかね?」
 ユエリャンの問いかけに英雄の少女が首を傾げる。
「君はエージェントになりたいか?」
 首を傾げたまま英雄の少女はユエリャンを見つめ返す。
「考えるべきだ。何故なら、君は思考することができるからだ」
 英雄の少女の目を見つめたままユエリャンが言葉を続ける。
「その目で見て、考え、必要があれば止めることだって出来る。それは機能だ。機能は役割に他ならぬ」
「機能……役割……」
 言葉を繰り返す英雄の少女にユエリャンが言葉を重ねる。
「人は間違うものだ。なれば、一人より二人の方が格段に正しい道を選べる。違いすぎる君とローナン坊は良い相棒と我輩は思う」
 ユエリャンの言葉に恭也も頷く。
「みんなそう思っているよ」
 リュカの言葉に英雄の少女は全員へ視線を向ける。
「永遠はまずローナン坊と名前を決める事だ。なんでもいい。それは君が、ここに生まれるということだから」

●訓練
「お主が立ち向かう相手はそれなりの武訓を積んでいる方でござる。付け刃で何処までいけるかわからないでござるが、やるだけやるでござる」
 白虎丸の言葉に共鳴したローナンが真剣な表情で頷き、剣を構えるがその剣先がフラついている。
「……そういえば、お前は既に誓約を破ったらしいな」
 共鳴しても能力が上昇しないローナンに和頼が声をかける。
「あーあ……ヒーローが約束破るとか有り得ないネ」
 希の言葉にローナンが剣を降ろす。
「まずは、そこからでござったか」
 そう言って白虎丸がローナンの前に立つ。
「ローナン殿は本当にエージェントになりたいと思うでござるか?」
 白虎丸の問いにローナンが頷く。
「ならば、自分がした事を知らねばでござるな」
 その言葉にローナンが不安げな表情を浮かべる。
「知らなかったとは言えいきなり結んだ誓約を破った訳だが……何が起きたかは知ってるな?」
 恭也の言葉にローナンは憮然と応える。
「知らなかったんだし、仕方ないだろ」
 その言葉に和頼が口を開く。
「知らなかったじゃすまねぇんだよ」
 和頼の声と表情にローナンが体を強張らせる。
「交わした誓約を違えば、彼女は力を失い最悪の場合は存在が消える」
 恭也の言葉にローナンが反発するように叫ぶ。
「けど、消えなかったろ」
 叫んだローナンにリュカが静かに言葉を重ねる。
「存在が消えるって言うのは死ぬというのと変わらないんだよ。つまり君は彼女を殺しかけたんだ」
 死という単語にローナンは言葉を失う。
「エージェントになると言う事は、ある意味で一人の人生を背負う事になる事を肝に銘じておけ」
 恭也の言葉にローナンが視線を落とす。
「……お前は既に一からやり直さねえとだ……それでもやるか?」
 和頼の言葉にローナンは下を向いたまま口を開く。
「どうすりゃいいんだよ」
 その言葉に希が応える。
「マズは誠心誠意の謝罪だネ♪」
「謝罪?」
 顔を上げたローナンが問いかける。
「謝って許してもらうでござるよ」
 白虎丸の「許してもらう」という言葉にローナンが突然共鳴を解いて屋敷に向かって走り出す。

「これ、お前にやる!」
 戻って来たローナンはエージェント達が何か言うよりも先に英雄の少女に何かを差し出した。
「グランパがグランマに許してもらう時に渡したんだ」
 抜けている言葉が有る事を察した者達がマリアへと視線を向ける。
「……プロポーズで渡した物よ」
 差し出されたそれを英雄の少女はただ見つめている。
「藤の髪飾りでござるか」
 白虎丸の言葉に英雄の少女が反応した。
「ふじ?」
 その反応は今までと違っていた。
「ローナン、君が彼女に贈らなければならないのは宝石じゃないんだぜ」
 千颯が苦笑交じりに声をかける。
「英雄は君の大切なパートナーだ。そして名前は君から彼女へあげれる最初のプレゼントだ。素敵な名前を考えてあげてな」
 千颯の声など聞こえないかのように英雄の少女は藤の髪飾りを見つめている。
「じゃあ、お前はウィステリアだ」
 ローナンの言葉に英雄の少女が顔を上げる。
「この花の名前だよ」
 そう言ってローナンは英雄の少女の髪に藤の髪飾りをつける。
「藤の英語名ですね」
 國光の言葉にユエリャンが苦笑する。
「藤の音は不死に通じると言われていたね」
 不死は永遠と重なる。
「富士は木花咲耶姫の神体山だったね」
 伊邪那美も面白そうに声を上げる。
「ウィステリア……」
 英雄の少女が名を繰り返して二人が共鳴する。
「すぐにはローナンちゃんが望むようなやり取りは望めないかもしれない」
 リュカの言葉に共鳴したローナンとウィステリアが顔を向ける。
「けど、よく考えるんだよ。君の選択はもう君一人の責任では負いきれない。必ず彼女を巻き込むものだと肝に銘じなさい」
 ローナンが体を確認するように動かして頷く。
「英雄は道具ではなく、ひとつの意思だよ」
 國光の言葉にローナンが「分かる」と応える。
「それを忘れてはダメだよ」
 顔を上げたローナンが國光の言葉に頷く。
「さて、ローナンちゃん達はどうしたい?」
 千颯が共鳴した二人に問いかけた。

●戦い
 メイスの一撃がローナンの体を弾き飛ばす。
「闇雲に突っ込んでもダメでござる! 相手の挙手挙動を見るでござる」
 白虎丸の声が飛ぶ。
 数日の訓練ではマリアとの技術差を埋めることは出来ない。
「目を瞑っては駄目でござる! ちゃんと相手と武器の軌道を見て動くでござる」
 攻撃に咄嗟に目を瞑ったローナンは痛打されてよろめく。
「ヒーローに憧れるのは構わん。だがな、エージェントになればいま感じている恐怖と痛みから逃れる事は許されん」
 訓練の時の恭也の言葉が頭の中に響く。
「腰が引けてるでござる! そんなへっぴり腰で攻撃が当たる訳無いでござる」
 闇雲に振るった剣に白虎丸の声が飛ぶ。
「短調でもいいから同じ行動を繰り返す、だっけ」
 殺気すら感じさせるマリアの攻撃にローナンの心には恐怖が広がっていた。
「お前が恐怖と痛みから逃げれば、その後ろにいる無辜の人々が犠牲になる」
 恭也の言葉が逃げ出そうとするローナンを押し留める。
「征四郎はこんな恐怖で戦ってたんだな……」
 マリアを見据えてローナンは呟く。
「痛くて、怖くてなんでこんなことやらなきゃいけないんだろうって、泣きたくなるくらいに後悔することもあるのです」
 その言葉の意味が何となく分かる。
 マリアの一撃を跳ね上がった剣が防ぐ。
「ウィズ……」
 ウィステリアの愛称をローナンが口にする。
「戦いは英雄との距離を近づけるって先生言ってたな」
 國光の言葉と和頼に言われて毎日英雄とした反省会を思い出す。
「技術に差があっても、攻撃を当てるだけなら経験上、確実性の高い方法が1つあります」
 征四郎の言葉が浮かび上がる。
「肉を切らせて骨を断つ。攻撃の後なら武器は振り切っているでしょう」
『そこで踏み込んでいれば、次の一撃は確実に当たる』
 ユエリャンが言っていた言葉をウィステリアが繰り返す。
「相手が見極めた時に思いっきり手を叩くでござる、だよな」
 白虎丸の教えを思い出して撃ち込む瞬間に剣を手放して両手を打ち合わせる。
 予想外のローナンの行動にマリアの動きが一瞬止まる。
「使われるだけが私達では無いのですよ」
 何度も話しかけてくれた凛道の言葉がウィステリアの中に浮かび上がる。
 一歩深くウィステリアが踏み込む。
 伸ばしたローナンの拳がマリアの胴を叩いた。

●別れ
「ほんとうにいいのですか?」
 征四郎の言葉にローナンが頷く。
「オレに扱える気がしないからな……」
 征四郎の手に有るインサニアに目を向けてローナンが苦笑する。
「征四郎が最初の頃に使い、戦い抜いた剣ですよ」
 納得できない征四郎の言葉に「強くなったら取りに行くよ」とローナンが応える。
 二人の会話を聞きながらユエリャンはウィステリアの目へと視線を向ける。
 まだ小さいがそこには意思の光が見えている。
「それに、先生のせいで勉強をしたくなったからな」
 ローナンの言葉に國光は笑みを浮かべる。
「始めての経験や多くの意見は、選択の幅を広げてくれるよ」
 その言葉にローナンが頷く。
「ローナン君も自分の夢を追いかけられるといいですわね」
 メテオバイザーはローナンに微笑んでその隣のウィステリアに目を向ける。
「ウィズさんも自分の目的を見つけてくださいね」
 その言葉にウィステリアが頷く。
「少しはいい顔するようになったな」
 和頼の言葉にローナンが顔を上げる。
「もう誓約破っちゃダメだヨ」
 希の言葉にローナンが「分かってるよ」と応える。
「またね、ウィズちゃん」
 そう言って握った伊邪那美の手をウィステリアが握り返す。
「エージェントとして生きなくてもあの子の命が自分の決断と一緒に有る事を忘れるな」
 恭也の言葉にローナンが頷く。
「無茶をせぬようにでござるよ」
 気負った表情のローナンの髪を白虎丸がかき回す。
「無茶はしないよ師匠」
 その手から逃げながらローナンが応える。
「しかし、俺ちゃんもびっくりのプロポーズだったぜ」
 ウィステリアの黒髪に映える藤色の輝きに千颯が言葉を零す。
「土産を買って帰らねばでござるな」
 白虎丸の言葉に千颯が唸る。
「ローナンちゃん、またね」
 リュカの言葉にローナンも「またな」と応える。
 そうやって声をかけてエージェント達が船へと乗り込んでいく。
「大事に使って下さい。大切にしてあげて下さい。今はまだ道具でも、長年大切にされた道具には心が宿るというそうです」
 最後に凛道がローナンにだけ聞こえるように声をかける。
 ウィステリアの横顔を見てローナンが「わかったよ」と頷く。
「ゆっくりでいいので」
 そう言って凛道も船に乗り込み島からエージェント達がいなくなる。
「帰ったらウィズも一緒に学校だな」
 ローナンは横に並ぶウィステリアにそう声をかけた。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 断罪者
    凛道aa0068hero002
    英雄|23才|男性|カオ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 絆を胸に
    麻端 和頼aa3646
    獣人|25才|男性|攻撃
  • 絆を胸に
    華留 希aa3646hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046
    人間|25才|男性|防御
  • サクラコの剣
    メテオバイザーaa4046hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
前に戻る
ページトップへ戻る