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グルメキングの策略
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最終発言2017/10/31 03:50:29 -
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最終発言2017/11/02 12:16:12
オープニング
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――さて、今宵のディナータイム。この私の舌を唸らせるシェフは一体どこのどいつか?
場所は都会のビル群。そこには幾つかの展望台が屋上に据えられている。
そしてそこには実に都会の高級住宅街らしく、テントやパラソルに囲まれたオープンカフェ風の豪奢なフレンチだかイタリアンだか中華だかの五つ星レストランがあった。
プールも設置されており、夏の時節には様々なセレブ達がその屋外にて、遊戯を楽しんでいた。
サングラスを掛けてデッキチェアで日焼けをしたり、自慢の愛犬と遊ぶ優雅に英才教育を施された子供達。
正にセレブリティ――! だが、時節はとっくに秋になっていた。
この時期になると、とある人物がここに姿を現す。いや、別に前からいたのだが季節的にも気分的にもこの辺りで登場するのが相応しく王道であり、当の本人も空気を読んでか何か知らんが現れた。
だから別段珍しくは無い――のだが、どうにもこの初老の男。巷で噂の超舌が肥えたグルメなそれもヴィランで有名らしい。
その名も――『グルメキング・毒舌鋒』!
いかにも味にうるさそ~なネーミングである。そのネーミングセンスについてとやかく言うのはこの際後にして、グルメなヴィランなのは本当らしい。
しかし、なぜ今までH.O.P.E.にマークされなかったかと言うと、この人実は自称ヴィランと名乗っているだけで、犯罪や犯罪者集団とは全く縁がなく、それらしい事件も起こしていなかったのだ。
――だが、ここにきて遂に自称ヴィラン『グルメキング・毒舌鋒』の本領発揮である。
●
「えーと、つまりこの『グルメマスター・毒蝮』ってー奴が今回の事件の一端を担っている訳?」
「『グルメキング・毒舌鋒』です。覚え難く、ボケには最適ですがそこは踏ん張って耐えて下さい。こちらも好い加減ツッコむのが面倒臭くなりますから」
相変わらず大活躍中のインテリ眼鏡女性がすげなく応える。
――私の舌を唸らせてみろ! でなければ、東京○○区にある某高層ビルを爆破する――
今回の事件は実に奇妙で危険な香りがプンプンする。ある種の爆破テロ予告だ。文字は素性を知られない様に新聞や雑誌の切り抜きが使われている。
レギュラー出演しているインテリ眼鏡の女性職員の眼鏡が案の定キラリと光る。そして言った。
「とりあえず『グルメキング・毒舌鋒』の居場所は既に他の部署のH.O.P.E.職員から情報を得ています。こちらの資料をご覧下さい」
そこには自称ヴィラン『グルメキング・毒舌鋒』の顔写真や、容姿、そしてよく出現する居場所が文字と画像のデータとして記載されていた。
「別段珍しくない、ただのおじさんだね」
エージェントの1人がそう言った。
「そうなのです。問題なのは、そこなのです」
女性職員はインテリ眼鏡をくいっと中指で持ち上げ――
「この人物。今まで一応ヴィランと言う事でマークされてきたのですが、どうにも事件を起こす気配が無い。単純にこの都心の高級料理店で自分の舌を満たす為だけに動いている」
「そしてここにきていきなり爆破テロ予告ってか――何か裏がありそうだな」
「ちゃんとマークしてたの? 例えば裏で愚神とタッグを組んで、無銭飲食をしてたとかさー」
「いえ、その様なこの世を混沌とするケースもありませんでした」
インテリ眼鏡女性職員は話を続ける。
「――ですから、そこであなた達エージェントの出番です」
「オイオイ! 一体どうすりゃ良いんだよ!」
「簡単な事です。このテロ予告が本当か否か確かめて欲しいのです」
「どうやってさ?」
「この男の舌を唸らせるか、実力行使に出るか、あるいは嫌がらせをして事実を吐かせるか――その可能性は無限大」
フフ――とインテリ眼鏡女性職員はその時初めて笑った。
解説
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今回の相手――『グルメキング・毒舌鋒』との条件は以下の通り。
・果たして例の爆破テロ予告は『グルメキング・毒舌鋒』本人の物なのか? それを調べる。
・毒舌鋒の舌を唸らせるのは至難の業です。H.O.P.E.に要請して貰い超一流シェフを集めるのもあり。
・もし、一流シェフが集わなければヤバイので、敢えて自分達がヤバイ創作料理を作ってコテンパンに嫌がらせをして上げましょう。
・一流シェフで舌を唸らせる、あるいはヤバイ料理で徹底的に攻めて相手を参らせた後は、例の情報が何者なのかを調べ上げる。
・例の情報について↓
1.毒舌鋒本人ならば、問答無用で縛り上げ動機や今後、この様な事はしない様に厳重注意&H.O.P.E.へ送還。
2.毒舌鋒が裏で糸を引いていた場合――そのヴィランズや愚神の居所を吐かせる。
3.爆弾を仕掛けていた場合、その爆破箇所を吐かせて即行で爆弾処理班を要請する。
あくまでコメディなので、笑わせるネタは大歓迎です。皆様の活躍を期待しています!
リプレイ
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実際に『グルメキング・毒舌鋒』が現れたのは――
「何か、とても味にうるっさそ~な変なジーさんが現れてよ……」
「――え!? それってもしかして……!」
場所は月鏡 由利菜(aa0873)の働いている『ベルカナ』。携帯電話越しに店長がいつもとはちょいと一味違う珍客の襲来に助けを求める様な小言を吐くと――
「すぐ行きますから、その人を監視しといて下さい!」
「――お、おう! わ……分かった!」
由利菜は一軒家『涼風邸』から飛び出した。
『……ユリナのバイト時間外に、そのヴィランは現れたそうだな』
リーヴスラシル(aa0873hero001)は冷静に顎に手を添えて呟いた。
「変わったヴィランですが……テロ予告を放置すれば名指しされたビルだけでなく、今後『ベルカナ』や他の場所へも危害が及びかねません。真偽を確かめなければ……!」
ライヴス通信機とスマホを通じて、急遽、仲間達に連絡。
――そして戦いは始まった!
●
「毒舌鋒に料理を振る舞おう」
『……』
場所は変わって、『ベルカナ』の厨房。
今回の事件。顔が知られても特に問題は無いが、料理人としての素養と、狩猟者としての本能からか鶏冠井 玉子(aa0798)とオーロックス(aa0798hero001)は既に裏方へと回っていた。
「世にグルマンを名乗る者は多いだろうが、キングとは随分と大きく出たな」
『グルメキング・毒舌鋒』の狙いも意図も未だ不明。しかし、玉子にとって――極上の一皿を味わいたい――という思いだけは歓迎だ。
「良いだろう、この鶏冠井玉子の出番だ」
『……』
オーロックスも特に異存は無い様だ。
「舌を唸らせるねえ……素直に要請するべきか……」
『……私……がや……る……』
「……? いや、お前まともに料理したことないだろ。エプロン姿なんざみたことねえぞ」
『……舌……唸らせ、れば……いい……だいじょう、ぶ』
そう言ってすっとペンチを取り出す38(aa1426hero001)に対し、ツラナミ(aa1426)もすっとスマホを取り出した。
「……もしもし、H.O.P.E.の……ああ、ちょいとな、コックを手配してほしいんだが」
まともな料理なぞした事のない2人組。とりあえず舌を唸らせると言う事で、ツラナミは素直にH.O.P.E.へ料理人を要請した。
人生初のまとも(?)な料理に挑戦。
「爆弾テロなんて危険が危ない! さっさとやっつけるよ!」
雪室 チルル(aa5177)は今日も元気いっぱいに前へ進む。
『待って待って、まずは真偽を確かめるのが先だよ。なんでチルルは暴力に訴えるのよ……』
チルルの暴動に反逆デモを奮起するスネグラチカ(aa5177hero001)も元気いっぱい。
「何事も暴力で解決するのが一番だって古事記に書いてあったもん」
『そんなわけあるか!』
「冗談はさておいて方針を決めるよ」
『相手は何だかんだで超一流のシェフじゃないと唸らせるのは難しいんじゃない?』
今回の敵はヴィラン。だが、あくまでも舌を唸らせるのが目的の味にうるさいヴィランなのだ。
「とりあえず雑誌とか新聞とかテレビとかで一流シェフを探してみて、めぼしい人に片っ端から電話して助けに来てくれるようにお願いするよ。それとあたい達も料理を作るんだからね」
『一流シェフが来てくれるならやらなくても良いんじゃない?』
「万が一ってこともあるだろうし、念には念を入れるよ」
『グルメキング・毒舌鋒』の舌を見事に唸らせる事が出来るのか?
『ベルカナ』に辿り着いた由利菜とラシル。
店内のカウンターに店長が待っていた。
「ヴィランなら、店内の中央付近にいるぞ」
くいっと顎でしゃくる。
由利菜は心中で決意していた。
『ベルカナ』で店長から教わったフルコースのフランス料理を出す――その心意をアイコンタクトで示すと店長は苦笑した。
「うっし! 分かった! あの客はお前等に任せる! 絶品の料理を提供してやれよ!」
こうして由利菜の料理は始まった。
そうこうしている間も厨房では大忙し。
ツラナミがH.O.P.E.に要請したブーダン料理の達人たちが、戦場の様な罵声を浴びせ指揮している。
なぜ、ブーダン料理人かと言うと、舌を唸らせるのだ、刺激的なやつが良いだろう……という考えから、辛い料理に定評のあるプロに任せるのが理屈に合ったやり方だからである。
因みに38は唸らせるのを諦めきれず、ペンチと誰もが唸りそうな食材を握りしめ厨房内へ。
ドタバタしている戦場の中で冷静に調理に勤しんでいる玉子。
「贅沢を言えばより詳細な毒舌鋒の食歴が欲しかったが……まあ構わない」
そして、相棒のオーロックスはと言うと今は厨房にはおらず食材と、今回の料理にベストマッチした食器、ワインの手配を任された。
「彼が『都心の高級レストラン』をテリトリーとしているのであれば、庶民じみた店舗には然程興味が無いタイプであり、また自分自身で料理する頻度も多くないと見た」
華麗な包丁さばきで次々と提供される素材の数々を小さく輪切りや千切り等にしていく玉子。
「いわゆる典型的な食道楽、リッチマンにありがちな食の楽しみ方をしていると推測する」
熱したフライパンに油を注ぎ、小さくなった具材を入れる。そして軽く揺すって温度調整。さすがは美食家にして調理師。新たな食材を求め世界各地を飛び回っているのは伊達や酔狂じゃない。
「そのストライクゾーンから僅かに外すことで、驚きを与えつつ新たな食の扉を開ける手伝いをすること。それが料理人としての僕の仕事だ」
フライパンに調味料を入れた瞬間、火の手が上がる。淡々と作業を熟していく玉子。
こちらはこちらで元気娘2人組が厨房内でドタバタしていた。
『で、料理を作るのは良いんだけど、チルルって料理できたの?』
「かき氷くらいなら作ったことあるよ? 美味しいって評判なんだから!」
北国出身のチルルは胸を張る。
『でもかき氷じゃ舌を唸らせるのは無理でしょ?』
「そんな事は百も承知よ。だからあたい達でも簡単にできて美味しい料理を出せばいいのよ! 炒飯なら中華鍋の振り方をマスターしておけば問題無いわ!」
華麗にフライパンを片手に調理している玉子の姿を指で示す。
それを視界に収めたスネグラチカ。
『え……でも味付けとか大丈夫なの?』
「味付けについては今流行の万能中華調味料を使うよ!」
『万能中華調味料って……確かに簡単だけど、自分で味付けした方が良いんじゃないの?』
「甘いわね! 万能中華調味料は最初から最適なバランスで味付けができてるんだから、あたい達みたいな素人が合わせる位ならこれを使った方が確実なのよ! 料理家の偉い人達もそう言ってたし!」
『あとは忘れていけないのは愛情ってことだね。料理は愛情って言ってたし』
刻一刻と時は過ぎていく。
「……ふむ。この私の素性を既にご存知と。それで? 究極の舌を唸らせる料理はまだなのか?」
「あなたはヴィラン、私はエージェント。決して放置はできません」
「――ほう。それで?」
「ですが……私とて料理人の端くれ。そちらの流儀に従い、料理でもてなしましょう。刃を交えず事を収められるなら、それが最良の道なのですから」
「……なるほど。リンカーの中にも礼儀と言うものを弁えている者達がいる事だけは覚えておこう」
最初にヴィラン『グルメキング・毒舌鋒』に接触したのは、由利菜だった。それを厨房の入り口付近で見守っていたラシル。
『ユリナが強い闘志を燃やしている……。料理へも、誇り高い心で向き合うか』
「日本の秋の幸をふんだんに使ったフランス料理、たんと召し上がり下さいませ」
運ばれてきた料理の数々。香ばしい匂いが漂う。
「――ほう。フランス料理と来たか。私はフランス料理にはうるさいぞ」
――舌の肥えた毒舌鋒に舌の料理を出す。
「作る料理は舌の料理、つまりはタン料理だ」
そう決意を秘めて調理していた玉子は思わず声に出していた。
「……」
オーロックスは例の注文の品を持ってきて、傍らで玉子の独り言を聞いていた。
「ワインは果実感のあるピノワールが良いだろうか。食材は有名な牛タン。今回はそれに加え馬舌、羊舌、豚舌も使おう」
早速、オーロックスが持って来た食材にもまな板を使って包丁で器用に切っていく玉子。
そしてクセも食感も異なる複数の獣舌をピカントソースで煮込み、季節の野菜を添える。
調味料の一振りに至るまで最上級品に拘ったフレンチではあるものの、野趣ある、秋の食欲を満たす皿を目指す。
「口内で弾けるタンの弦楽四重奏、楽しんでもらえれば幸いだ」
由利菜がもてなしたフランス料理フルコースをじっくりと咀嚼していく『グルメキング・毒舌鋒』――。
それを固唾を呑んで見守る由利菜。そしてラシル。
アミューズブーシュ(突き出し)はキプロスサラダ。
「――ふむ。ギリシャレストランでも有名なサラダだな。こちらはフリーカ―では無く大麦を使用したか。ドレッシングはヨーグルトにローストして細かく刻んだクミンに蜂蜜。こちらはオーソドックスなやり方だな」
オードブル(前菜)はパプリカとトマトのスープ。
「トマトスープをベースにおいた料理は数知れないが、パプリカを具材に混ぜ合わせた事により新しい味を導き出す。……悪くは無い発想だ」
ポワソン(魚料理)は秋刀魚とマグロのレモンムニエルあさり添え。
「今、旬の魚を使ったのは正解だ。他の具材を使い分け、それを器用に補っている。私の様なグルメにとって舌を飽きさせない事は料理人にとって最も大事な事の1つと言える」
ヴィアンド(肉料理)はロティ・ロティール。
「ロティールか。オーブンで焼いたローストだな。どの肉料理にも言える事だが、炙り焼きにしたラム肉は表面はカリッと、中は舌の上でとろける様に仕上げなければ真の料理人とは言えない」
ソルベ(口直し)は柿とリンゴのソルベ。
「柿とリンゴのソルベとは考えたな。口直しのフルーツはその独特の酸味と香りが、これまでのコースをより引き立ててくれる。シャーベットは良い意味でこれまでの舌に残っていた味の余韻を帳消しにしてくれる」
フロマージュ(チーズ)はとろける青カビチーズ。
「ブルーチーズと来たか。癖のあるその味わいは口直し直後には少し舌の上で余韻を残すが、青カビにより熟成されたナチュラルな味わいは料理とは何か? グルメとは何か? を、一から問い掛けてくれると私は信じて疑わない」
デザートはパンプキンと栗とチョコレートアイスのフルーツパフェ。
「世界中の珍味を食べつくしてきた者ほど、この様な代物を時に欲する。南瓜と栗で季節感を楽しめるのも悪くは無い」
ワインはヴァルミュール。
「ブルゴーニュ地方生産のシャブリ・ワイン――か。シャルドネ100%の白ワインはミネラルが豊富な土壌のキンメリジャンで作られた葡萄シャルドネを栽培する土地に適していると聞く。うむ。美味い」
最後は飲み物。高級ティーセットとロイヤルレッド。
「――ふぅ。上品なティーセットもセンスが良い。『ベルカナ』のフランス料理がここまでだとは……」
実際は由利菜が腕を揮って創作したフランス料理なのだが――その事をすっかり忘れてしまう程、相手は感服している様だ。
「で、ではあなたの犯行動機を教えてくれませんか……!?」
焦る由利菜。しかし相手は落ち着いた所作で口元をナプキンで拭う。
「まあ、待て。言っただろう? 私は礼儀を弁えている者には忠義を尽くす『グルメキング・毒舌鋒』だ。他の者達の大切な料理がまだ控えている」
「さて……まずは俺の番かね。時間がかかるなら38に譲るが」
ブーダン料理の達人たちにどうやったらあの『グルメキング・毒舌鋒』の舌を唸らせられるか。
結果、手配したブーダン料理人達にはまともな飯を作ってもらうと言う事で満場一致。
今度は辛い料理が『グルメキング・毒舌鋒』の前に運ばれてくる。
「ブーダン料理とは珍しい。だが、辛いだけでは話にならんぞ」
釘をさす『グルメキング・毒舌鋒』だったが、ブーダン料理の達人たちが織り成すメニューに目を光らせていた。
「それでは、どうぞ。ご賞味下さい。新手のヴィラン様」
『グルメキング・毒舌鋒』はスプーンで目の前に置かれたスープに舌を滑らせた。
――先ずはスープにして代表料理エダツィ。別名唐辛子のチーズ煮。これがなければ始まらない。
天にも昇る辛さと旨味をミックスした料理。グルメキングにはじっくりと味わってほしい。もちろん俺は食べないが。
そしてメインのパクシャパ。豚の唐辛子煮だそうだ。これも辛さと旨みが絶妙なバランスで天国に逝けるらしい。グルメキングよ、まあ食え。俺は食わないから。
そんな時、危険なオーラを纏った少女がやって来た。
『……うならせ……る……』
「オイオイ。冗談だろ? 何かの間違いだと誰か言ってくれ」
近くにやって来たのは38。しかも、片手にはペンチ。片手にはフライパンを持っていた。
『美味しい……って聞いた、から……カタツムリもって……きた。……やい、た。殻ごと……フライパン、で……じゅーーーー……って。……しろいの、どばっ……といれ、て……黒い……粉? ババババって……いれた。……まっくろだけ、ど……皆、美味しいっていう……材料だ、から……たべて?』
38なりの創作料理だ。
「何者だ? 彼女は。グルメキングの私を殺す気か?」
当惑する『グルメキング・毒舌鋒』は美味しいブーダン料理の辛さと38の愛情たっぷりの新世代にしか通用しそうにない――何コレ? 珍料理――に鼻がひん曲がりそうになっていた。
ある意味チャンスのこの事態。だが、グルメキングの毒舌を聞いた38の反応は早くも握りしめたペンチに殺意のオーラが集中し始めていた。
ここまできたら目の前の温厚辛口グルメ批評家ヴィランよりも、38を止めなければ!
目の前にフライパン事置かれたその黒い料理(?)に見向きもしないグルメキングのヴィランさん。そして38がゆっくりと近付いてきて持っていたペンチが容赦なくヴィランの口元に……!
――ガシッ!
しかしその腕を寸での所で止めたツラナミ。
――サヤ! 今は耐えろ! せめて、相手が口を割ってからに……! と、珍しく感情を露わにアイコンタクトを送る。
そんな中、厨房で控えていた玉子とオーロックスの料理が颯爽と運ばれてきた。それは先程の絶品タン料理。
「ほう、タン料理とは……一体どんなシェフが裏方には控えているのかね?」
シンプルに料理を楽しんでもらいたいというのはもちろんだが、言外にお前の舌もこうして調理してやろうか?
――そんな強気なニュアンスが籠もっているのは気のせいでは無く、玉子そしてオーロックスの想いは見事に伝わった様だ。
そんなタン料理に口を運ぶ『グルメキング・毒舌鋒』はとても幸せそうだ。無論、タン料理だけでなくこれまでの料理――由利菜のフレンチ、そしてツラナミと38(?)の提供したブーダン料理も含めて。
「どうやら私はこれまでの食歴だけで、随分と料理と言うものを侮っていたみたいだ。失礼を承知で言おう。私が敢えて『ベルカナ』を選んだのはここがファミリーレストランだったからだ」
それは――『グルメキング・毒舌鋒』の静かな敗北宣言だった。
●
全ての料理を食べ終えて、ツラナミからラッシーを受けとり口内の辛さを流した後、リンカーと英雄は厨房からグルメキングの前へと即座に集った。
目的は例の爆破テロ予告についてである。
因みに最後の厨房内では――
「あ、そうそう。最後の飲み物には自白剤を入れておこうね」
『……感動台無しなんだけど大丈夫?』
「舌を(物理的に)唸らせて場所を教えてもらうんだからヘーキヘーキ」
『本当に大丈夫かなあ……』
あの元気娘2人組、チルルとスネグラチカがそんなやり取りを行っていた。
今でも、万が一に備えて自白剤入りのジュースがさり気無くチルルの手にあった。
『それで? どうして料理と爆破テロ予告が結び付くんだ?』
静かにキレるラシル。『ベルカナ』の料理について甘く見られていた点にはさすがに不愉快になった。
そして怒りのままにデスソース・サルミアッキと言った殺人級の辛みや味付けがされたファミレス用ランチを故意に作ろうと思った次第である。毒を盛ろう等とは思わなかったが。
「……私は昭和の生まれでね。今じゃヴィランなぞと謳ってはいるが、昔はどこの商店街にもある一軒のラーメン屋を営んでいた」
――『グルメキング・毒舌鋒』いわく、事件の真相はこう言う事らしい。古き良き昭和の時代。『グルメキング・毒舌鋒』事、当時のラーメン店店主は商店街でも人気のラーメン屋だった。
だが、バブルが崩壊し、昭和が平成になり、近所には総合デパートやファーストフード店等が軒を連ねていく内に客足は衰え、客層も減ったり徐々に変わっていった。
更に1995年には世界蝕が始まり、そんな絶望の窮地にいた彼の店にヴィランと名乗る悪党が現れ、みかじめ料と言って金をせびりに来た。
その頃、一般人であった彼は窮地に追い込まれ、自慢のラーメン店も閉店。職を失い、そのヴィランズの仲間入りをするしか選択肢が無かった。
だが、彼の怒りの矛先は実に意外な形をもって現れる。それは自分をこんな絶望の狭間に追いやったヴィラン――そして、近代化の波と言う見えない悪魔。
それに対抗するべく彼は、自らを『グルメキング・毒舌鋒』と名乗り、都会に進出。彼の策略は自分の舌だけが頼りだった。自信があった訳では無い。寧ろその逆でグルメとは程遠い昭和の舌。時代遅れの舌とでも言おうか?
彼はグルメなんかじゃなかった。グルメのふりをしていただけ。しかしそんな彼に1つの策略が生まれる。
――果たして昭和の舌を持った私が、この世の最先端のグルメにどこまで通用するのか?――
それが事の発端だった。ささやかな近代化への復讐。それを自分が愛した料理に求めたのだ。
そして今回の事件――爆破予告した某高層ビルにはたくさんの味の頂点を極めた最先端のコック達が集っている。彼はそれが憎くて仕方がなかった。
だが――結果的に彼が選んだ店は『ベルカナ』と言うファミレスだった。
最後に庶民の味を求めてファミレスへと足を向け、その後自首しようと思っていたのだ。つまり爆破テロ予告は嘘。
しかし、そこで意外なイベントが待ち受けていた。リンカーの創作料理と自分の小手先だけ肥えた舌の勝負。
その今も必死になって頑張っているリンカー達の姿がかつての昭和の自分と客達との姿にダブって見えた。
それが味にうるさい自分の舌に確かに甦ったのだ。
「悪いが、あんたの過去はどうあれあくまでヴィランとして悪事を働いた今回の事件の張本人だ。このままH.O.P.E.に送還させてもらう」
『ベルカナ』の店長がそう言うと、そこにいた皆の視線を受け彼は静かに囁いた。
――ありがとう――
それはかつて毒舌鋒と謳われたグルメキングとは程遠い確かな感謝の印。
昭和の温もりが――一瞬だけ店内を優しく包み込んだ。(了)