本部

王者が街を闊歩する

花梨 七菜

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/11/05 19:09

掲示板

オープニング

●芸術の秋
「できた……。なかなかいい出来だ」
 金山さんは、自分の作品をほれぼれと見つめた。
 一年かけて作り上げた力作。
 空き缶で作ったティラノサウルスである。大きさは、金山さんの身長と同じくらい。今にも襲いかかってきそうな大迫力のオブジェであった。
 金山さんは、定年後に趣味として空き缶を使った制作を始めた。作業場所は自宅のガレージ。鉄の棒で骨組みを作り、その上に切り抜いた空き缶を針金で結びつけていくのだ。着色はせずに空き缶の色をそのまま活かして作るのが、金山さんのこだわりだった。
 ティラノサウルスは、三日後に近くの公園で開催される、“秋のアートフェスティバル”に出品するためのものだった。アートフェスティバルは、市民が作った作品を展示して皆に芸術に親しんでもらおうという催しである。いろいろな屋台も出るので、毎年たくさんの人が集まっていた。
 ガレージの奥には、前回と前々回のアートフェスティバルに出品した作品、サソリとライオンが置いてあった。
 サソリは、大人には好評だったのが、子供の評判はイマイチだった。
 ライオンは、たてがみが上手くできずに、ある子供に「ネコが首にメガホンつけてるみたい」と言われてしまった……。
 だが、今回は!
 大人も子供も拍手喝采間違いなしだ。
 本当に今にも動き出しそうなくらい、よくできたのだから。
 ニヤニヤしている金山さん。その後ろに迫る黒い影……。
 金山さんは、何かの気配を感じてさっと振り向いた。
「……気のせいか」
 金山さんは、ティラノサウルスに顔を戻した。
「ん? 手の位置が変だぞ」
 金山さんは眉をひそめた。
 次の瞬間。
 ティラノサウルスは、カチャカチャガチャガチャと騒々しい音をたてながらガレージを飛び出していった。
 呆然とする金山さんの前をサソリとライオンが駆け抜けていった。

●騒々しい従魔たち
 H.O.P.E.敷地内のブリーフィングルームで、職員が説明を始めた。
「サソリ、ライオン、ティラノサウルスが逃げ出してしまった、と金山さんという男性から通報がありました。と言っても、逃げ出したのは、空き缶で作ったオブジェなんですけどね。イマーゴ級従魔のようです。現在のところ被害は出ていませんが、近隣の住民からガチャガチャうるさいと苦情が出ています。それに、もうすぐ小学校の下校時刻なので、子供に万一のことがあったら大変です。従魔の討伐をお願いします」

解説

●目標
 従魔の討伐

●登場
 イマーゴ級従魔 × 3体。
 空き缶で作ったサソリ、ライオン、ティラノサウルスのオブジェ。
 体長約1m50cm。
 サソリの鋏・針や、ライオンの歯、ティラノサウルスの歯は、ちょっと触ったくらいでは怪我をしないように端を丸めて作られている。
 ライオンはたてがみのせいで、背後が死角になっている。
 サソリに毒はない。

●状況
 晴天。午後3時。
 従魔は、騒々しい音をたてながら街を自由に動き回っている。
 小学校の下校時刻のため、従魔の周りに子供達が集まってきている。
 従魔の背中に乗りたがる子供、従魔を怖がって泣き出す子供、従魔を自分の家に連れて帰ろうとする子供など、いろいろな子供がいる。
 制作者の金山さんは、ティラノサウルスの傍で途方に暮れている。

●補足事項
 無事に依頼を解決できたら、三日後に開催される“秋のアートフェスティバル”に参加してみましょう。
 作品を出品してみたり、屋台(焼きそば、たこ焼き、わたあめ、あんず飴など)を楽しんだりご自由にどうぞ。

リプレイ

●それぞれの思い
「相手はイマーゴ級従魔。大きな脅威では無いが……子供たちを危険に晒すわけにはいかないな」
 飛岡 豪(aa4056)は、顎を撫でながら呟いた。淡々とした口調だが、見た目と違って、心は熱い男である。
『こういう時こそオレ達の出番だなゴウ! ヒーローショーならお手の物ってなモンだぜ!』
 そう言ったのは、英雄のガイ・フィールグッド(aa4056hero001)であった。こちらは、見た目も心も熱い。
「ああ。とびっきり楽しませて、事件も解決だ。行くぞ!」
 豪とガイは、普段からヒーロー活動を行っている。ヒーローショーで子供達を楽しませるのは、大得意なのであった。

「……最近、ヒーローにならなアカン事、多いどすな……」
 弥刀 一二三(aa1048)は、ぼそっと呟いた。
『まあ、好きなのならば問題なかろう?』
 英雄のキリル ブラックモア(aa1048hero001)は、上機嫌で鼻歌を歌っている。
 従魔出現場所の近所に噂のスイーツ店があるため、ついでにおいしいスイーツを買って帰ろうと目論んでいるのである。
 一二三は、チラッと財布を覗いた。

 急遽舞い込んできた今回の依頼内容を見て、英雄のリーヴスラシル(aa0873hero001)は、参加を決めた。教師として、子供達を守るのは自分の役目だと、リーヴスラシルは思った。
『私とて教育者の端くれだ。子供達に万一の事態がないよう、守らねばならない。……行けるな、ユリナ?』
「勿論です、ラシル!」
 月鏡 由利菜(aa0873)は、にっこりして頷いた。

「アートフェスティバルも楽しそうだね」
 餅 望月(aa0843)は、呟いた。英雄の百薬(aa0843hero001)は、頷いて、
『きっと町内会の豚汁とかおでんが食べられるね』
「アート成分は?」
 望月のツッコミに、百薬は天使の笑顔で応えた。
 望月は、やれやれと肩をすくめて言った。
「まずは緊急事態、解決するか」
『愛の天使の出番だね』
 百薬は、飛べない羽根をパタパタさせながら言った。

●開幕
『……子供』
 英雄のAlice(aa1651hero001)が呟いた。
「子供だね」
 アリス(aa1651)も呟く。従魔よりも一般の子供の方がずっと難敵だよ、……対処に困るもの、とアリスは内心溜息をついた。
 ティラノサウルスの周りに10人くらいの子供が集まっていた。子供達の後ろでうろうろしているのが、通報者の金山さんだろう。
(従魔も、憑くならもっと子供が逃げそうなものに憑けばいいものを……。ヒーローショーごっこで無事退いてくれると助かるね)
 アリスはそう思いながら、Aliceと共鳴し、髪も瞳も炎の様に紅い姿となった。
 ピピピーッ!!
 秋姫・フローズン(aa0501)は、持参したホイッスルを吹いた。
「これから……アートフェスティバル開催記念……ヒーローショーが……始まります」
 皆の注目が集まったところで、秋姫は宣言した。
「皆さん…………こちらで…………一緒に……応援して下さい…………」
 秋姫は、子供達を安全な場所に誘導した。だが、中にはティラノサウルスにちょっかいを出し続ける困った子供も数人いた。
 そこに、ガイと共鳴して紅く輝くメタルアーマー状のヒーロースーツをまとった豪が、バク転をしながら登場した。
「ここにいては俺達の戦いに巻き込まれてしまう。安全なところまで下がって、応援してくれ!」
 豪は、ティラノサウルスの傍にいる子供達に芝居がかった調子で話しかけた。子供達は、さっとティラノサウルスから離れた。
 豪は、バク宙すると、ポーズを決めた。
「俺は闇夜を照らす赤色巨星! 爆炎竜装ゴーガイン!」
 子供達から歓声が上がった。
 すかさず、英雄の修羅姫(aa0501hero001)が、更に子供達を盛り上げた。
『悪の心に染まった…………人形達を…………救うために……現れた……ヒーローに……声援を……送ってやるがいい…………!』
 普段は「絶対零度の氷の女王」と呼ばれる修羅姫だが、なんだかすごくノリノリであった。
 秋姫は子供達から近くに公園があることを聞き出すと、豪に合図してから、子供達を公園に誘導し始めた。
 子供達がわーっと走り出す。つられてティラノサウルスがその後を追う。豪は、ティラノサウルスと子供達の間に入って、子供達を守りながら、金山さんに話しかけた。
「金山さん、ここは任せてください。貴方の自慢の傑作、必ず俺達が取り戻してみせます」
「……あ、はい。ありがとう」
 突然始まったヒーローショーに少し呆然としている金山さんに、一二三は事情を説明し、オブジェは無事元通りにして手元に返すと約束した。また、金山さんには子供達と一緒に安全な場所からショーを見物してもらうことにした。

●第一幕
 一方、別の場所で。
 リーヴスラシルと共鳴した由利菜は、モスケールで従魔の位置を特定し、仲間にスマートフォンでその位置を連絡した。由利菜は、ティラノサウルスが公園に移動中であることを聞き、その他の従魔のところへ望月、百薬と共に向かった。
 由利菜達が見つけたのは、ライオンだった。子供達がライオンの背中に乗ろうとしている。
 由利菜は、子供達が事件だとわからないように、演技を始めた。演じるのは、ヒーローショーの変身(共鳴)ヒロイン。ヒロインが変身前に逃げているところである。
「わ、私じゃあれの相手はできないわ! みんなも私と一緒に逃げて!」
 由利菜は、叫んだ。
(今の私やユリナなら、イマーゴ級など相手ではないのだが……これも求められた演技だ、辛抱するしかない)
 リーヴスラシルは少し不満気であった。
 ライオンは、小さい女の子に向かって大きく口を開けた。女の子は、怖がって泣き出した。
 望月は子供達と一緒に叫び声を上げながら、泣いている女の子を抱き上げて逃げ出した。
 由利菜は、逃げようとして転んだ。もちろん演技である。
 由利菜はいったん共鳴を解除した。倒れた由利菜の前に、リーヴスラシルが現れた。
『……私はお前の内に秘められた、人々を守りたいと願う力の化身。私も力を貸す、逃げずに立ち向かうのだ!』
 リーヴスラシルの説得に、由利菜は伏せていた顔を上げた。
「私、戦うわ! みんなを守るために!」
 由利菜は、再びリーヴスラシルと共鳴した。イメージプロジェクターを使用して、まじかおてぃっく☆ぶれいにゃモチーフ(改造済み)の魔法騎士に変身した。
「光の魔法騎士、ソウェイル・アルジス!」
 由利菜はかっこよく名乗りを上げた。
『ブレイブナイト・スタンス!』
 リーヴスラシルが続けた。
『動く缶の造形……。ヨツンヘイムの霜の巨人がかけた降霊の魔法の仕業』
 子供達はヨツンヘイムという言葉を知らないだろうが、それでもリーヴスラシルの迫力に惹きつけられていた。
『だが、空き缶自体に罪はない。迷える魂を祓え!』
 リーヴスラシルは、右手でビシッとライオンを指差した。
(この衣装……騎士と言うより、セーラー服の美少女戦士ですよね……?)
 由利菜は、自分の衣装に疑問を持ちながら演技を続けた。
 望月と百薬は、子供達をライオンから離れた場所に避難させてから、ライオンの前に立ちはだかった。
 望月は、ナレーションっぽく少し低めの声で言った。
「平和な街に、襲いかかる闇の力。泣き叫ぶ子供達。でもこんな時、きっと助けてくれる者がある」
 フラッシュが光る。光が消えた時、そこには百薬と共鳴した望月の姿があった。望月の背中には、大きな羽根が生えている。
「H.O.P.E.の方からやってきた、みんなを救う天使達の参上です。みんなが応援してくれたら、絶対やっつけられるから、声援お願いしますね」
 望月は、元気に言って、子供達に手を振った。
 ライオンは、望月に猫パンチした。
 望月は、槍で颯爽とライオンの攻撃を受け流した。
 由利菜は、ライオンに攻撃した。といっても、空き缶をできるだけ傷めずにオブジェを回収するのが目的なので、あくまでも演技である。
 由利菜は、ライオンの反撃を避けると、両手を伸ばして必殺技を放った。
 由利菜の演技に合わせて、望月は煙幕を張ると同時に、ライオンの足の関節部を槍でついて外した。
 由利菜は、煙幕に隠れてライオンに近づくと、ライオンの頭に掌を重ねて置いた。
「あなたも、子供達と一緒に遊びたかったのね……。でも、勝手に動いたりしたらダメよ?」
 動かなくなったライオンに、由利菜は優しく語りかけた。
 煙幕が消えた時、そこに現れたのは、倒れたライオンとポーズを決めた由利菜と望月の姿であった。
 子供達が歓声を上げ、パチパチと拍手する。
 子供達と握手やハイタッチで触れ合ったあと、由利菜達はライオンを金山さんの家のガレージに運んだ。
「無事に一体回収できてよかったね」
 望月は、にこっと微笑んだ。
「そうですね。他のみなさんは公園に移動したそうなので、私達も行きましょうか」
 由利菜の言葉に、望月は頷いた。
「行こう行こう。他の人のヒーローショーも見たいね。間に合うかな?」

●第二幕
 秋姫、豪、一二三、アリスの一行は、子供達、及び、ティラノサウルスと一緒に公園に到着した。
 そこで皆が目にしたのは、ちょっと奇妙な光景だった。
「……うーん、なんやろ。少し切なくなってきたんどすけど」
 一二三が、ぽつりと呟いた。
 巨大なサソリが、小さな砂場の砂の上でカチャカチャと体を震わせていた。
「あれは、恐らく砂に潜ろうとしているんだろうね」
 アリスは、淡々と言った。
「サイズ感を考えてほしいどすわ。かわいそうやから、うちが退治しますわ。ほな、司会よろしゅう」
 一二三は司会の二人に声をかけてから、いったん子供達の目の届かないところに姿を消した。
『狂暴な……サソリが……砂場を……蹂躙している……!』
 修羅姫が喋っている間に、一二三はキリルと共鳴した。噂のスイーツのおかげでキリルのやる気があるので、共鳴後の姿は、一二三の姿に所々キリルが混ざった姿となった。
『救いの手は……現れるのか……』
 一二三は、イメージプロジェクターで、子供好みのヒーローの姿になった。あとはどこから登場するかだが……。
『皆で……助けを……呼ぶがいい……誰か……助けて……!』
 一二三は、修羅姫の声に合わせて、公園に植えられている木の上から飛び降り、前方伸身宙返り3回ひねりで着地した。
 ド派手な登場のしかたに、子供達は大喜び。
「あまりに素晴らしすぎて敵が乗り移ってしもたみたいどすな。すぐに元に戻してやりまっせ」
 サソリは、ガチャガチャと砂場から這い出してきて、鋏をガチガチ鳴らした。
 一二三は、サソリの動きに合わせて、後方伸身2回宙返り3回ひねり。
 更に、後ろとびひねり前方伸身2回宙返りひねり。
 派手に動き回りながら、素手の殺陣でサソリと戦っているように演技した。
 サソリは、尾を振り回した。
 一二三は、子供達が怪我をしないように、カバーリングした。
「くっ! 力が、力が足らん……!」
 一二三は、苦しそうに呟いた。といっても、全然ダメージは負っていない。
 一二三は、司会の秋姫と修羅姫に目配せした。
「皆さん……応援しましょう……」
『皆の声援が……ヒーローの……力になるのだ……』
 司会の二人が応援の声掛けを募った。子供達が、「頑張れ」と応援する。
「みんな、おおきに! 力がわいてきたで!」
 一二三は、笑顔で言って、サソリに攻撃を加えた。そして、煙幕を張り、守るべき誓いを使用した。サソリが一二三に近寄ってきたところを羽交い締めして、煙幕に隠れたまま素早くサソリを植え込みの裏へと連れ出した。
 あとのことは仲間に任せて、一二三はサソリに憑いた従魔を始末し、破損箇所をメンテナンスツールセットで手早く補修し分からないようにした。
『サソリは……善の心を……取り戻した……残っているのは……陸の王者……ティラノサウルス……!』
 修羅姫は、ビシッと指差した。体育座りをしている子供達、アリス、豪……の隣で大人しくショーを見物していたティラノサウルスを!

●第三幕
 秋姫は、子供達をティラノサウルスの傍から避難させた。
『さあ……最終決戦の……始まりだ……!』
 豪とアリスが、ティラノサウルスと対峙し、修羅姫がショーを盛り上げる。
 秋姫は、子供達に聞こえないように小声で修羅姫に言った。
「ふふ…………楽しそうですね…………」
『……ふん…………子供らの安全のためだ…………』
「それにしては…………楽しそうに…………してますけどね…………」
『…………ふん』
 修羅姫は、少し恥ずかしそうに横を向いた。
「竜気一閃! シンガンブレード!」
 豪は、両手で構えた棒にライヴスを注いだ。棒に塗布された蛍光塗料が、光を放つ。
「成る程、空き缶でこれほどの迫力。実に見事だ」
 ティラノサウルスと間合いをはかりながら、豪は言った。
 豪は、オブジェの破損を最小限に食い止めるために、最大限手加減して、ティラノサウルスを攻撃するフリをした。時々、ティラノサウルスの体の中で空き缶の底など比較的頑丈な部分を狙って叩き、わざと大きな音を立てた。観客を盛り上げつつも、空き缶を傷つけないようにするという配慮だった。
 アリスは、後衛に位置して、子供達をオブジェに近づかせないように立ち振る舞った。
(それにしてもヒーローショーね。一度別の依頼でヒーローのフリをした気もするけど、さてあの時はどうやったか……。……まぁ良いや、やるなら演技でも、何でも。声を張り上げるのは得意じゃないけど……叫ばないヒーローもいるでしょ。詳しくないけど)
 アリスは、豪の攻撃の合間をみはからって、黒猫「オヴィンニク」を召喚した。丁度いい感じにマスコットになるかもしれないし、と思ったのだが、黒猫は女の子達のお気に召したようで、「かわいいー」と声が飛んだ。
 足下と尾の先に炎を灯した黒猫がティラノサウルスを睨み付けると、ティラノサウルスの足が火に包まれた。
「よっ! クールヒーロー!」
 観客席から、誰かが言った。
(……は? クールヒーロー? ……意味分からないんだけど)
 アリスは、心の中で呟きつつ、ティラノサウルスへの攻撃を続けた。もちろんオブジェを破壊しないように留意していた。
 ティラノサウルスは、大きく口を開けてアリスを威嚇した。銀色の歯がキラキラと光った。
 アリスは、淡々と「……へぇ」と呟き、豪に出番を譲った。
 豪は、じりじりとティラノサウルスとの間合いをつめた。ティラノサウルスは円を描くように動きながら逃げる。それを豪が追う。
 その時、望月と由利菜が公園に到着した。サソリのオブジェの補修を終えた一二三も、顔を出した。
「仲間が……やってきて……くれました……」
 秋姫は、望月達に合図した。
 共鳴した望月、由利菜、一二三は、颯爽とステージに現れた。子供達が声援を送った。
「俺達は、負けない」と豪。
「何があっても、諦めない」と望月。
「守るべきものが、あるから」と由利菜。
「大切な仲間が、おるから」と一二三。
「「「「「戦い続ける!」」」」」
 全員で声をそろえて、決めポーズ。最後のセリフだけ、アリスも参加した。
 かっこよく決まったところで、望月が煙幕を張り、豪はノーブルレイでティラノサウルスを絡め取った。動けなくなったティラノサウルスに、アリスがライヴスを送り込んで従魔を追い出し、退治した。
 煙幕が消え、望月は共鳴を解いて、子供達に手を振りながら言った。
「みんなの応援の力でやっつけられました、ありがとう!」
 望月の隣で、百薬はちゃっかりとアートフェスティバルの宣伝もした。
『みんなの勝利の証は、アートフェスティバルで展示するから、みんなも見に来てね』
「ヒーローの……みなさん……ありがとう……」
『皆も……応援……ご苦労であった……』
 秋姫と修羅姫は、ヒーローショーの終わりの挨拶をしてから、アートフェスティバルの宣伝を行った。
「よかったら…………来てくださいね…………」
 秋姫が微笑むと、子供達は元気に返事をした。
 子供達が公園を去ってから、エージェント達はサソリとティラノサウルスのオブジェを金山さんのガレージに運んだ。
『オレ達のオブジェも作って貰いたいな! あ、報酬ってことでどうだろ?』
 ティラノサウルスを運びながら、ガイは言った。
「名案だな。その時は従魔に憑りつかれないよう祈らないとな」
 豪はそう言いながら、自分達のオブジェを想像してみた。
「金山さん、直せる?」
 ガレージに戻った三体のオブジェを調べている金山さんに、望月は尋ねた。
「事後承諾で悪いけど、子供達に約束しちゃったし、なんとか展示したいな」
「……大丈夫。すぐに直せるよ」
 金山さんは、ほっとした様子で言った。
「あたし達も手伝うよ」
 望月の言葉に、金山さんは何度もお礼を言った。

●フェスティバル前日
 豪は、「ザ・テザー」のヒーロー姿で、小学校や幼稚園をまわって、アートフェスティバルの宣伝活動を行った。自分の周りに集まってくる子供達の笑顔を見ると、改めてヒーローをやっていて良かった、と思うのであった。
 一方、ガイは、空き缶でトリケラトプスを作るのに一生懸命だった。この間、金山さんのオブジェ修理を手伝った時に、空き缶工作のやり方を教わっていたのだ。果たしてフェスティバルに間に合うのか……。
 秋姫は、廃材やジャンク品を部品に使用して、ブランコ、ジャングルジム、シーソーが合体した「実際に遊べるアート作品」を完成させた。
『しかし…………よく三日で……作ったな…………』
 修羅姫は感心して呟いた。
「機械弄りは…………よくやりますから…………」
『そう言えば……そうだったな…………バイクの整備とパーツ作成…………していたな』
「はい…………」
 秋姫は、スーパーメイドで、なおかつバイク乗りなのである。しかも、愛車は戦闘仕様で、最大時速280キロのモンスターマシーン。
「明日が……楽しみ……ですね」
 秋姫はにっこり微笑んだ。

●フェスティバル当日
 フェスティバル当日は秋晴れで、会場となった公園にはたくさんの人が集まっていた。
『たこ焼きやきそばわたあめおいしー』
 到着早々、百薬は、屋台で大量の食べ物を買って食べていた。
「アート成分は?」
 望月は、ツッコミを入れた。百薬は、口いっぱい頬張っていて返事ができない。
「はいはい、とりあえず飲み物も飲んでおきなさい」
 望月は、百薬にジュースを渡してあげた。
『ごくごく。食も立派なアートだよ、代わり映えのないような普通の日常こそが文化、芸術なのよ』
「う、また何やらもっともらしい事を」
『B級グルメも芸術なの、だから全力で楽しむのよ』
「やっぱりそこか、とはいえ、アタシも楽しむよ」
 望月は、百薬の持っているわたあめをぱくりと食べた。
 望月達は、金山さんの作品を見に行った。ティラノサウルスの周囲には、子供達が目を輝かせて集まっていたので、ひと安心。
「金山さん、がんばったね」
『また動き出したら、いつでも相手になってあげるのよ』
 百薬は、自信満々で言った。
『望月殿、百薬殿』
 ティラノサウルスの傍にいたリーヴスラシルが、望月達に声をかけた。金山さんもいて、望月達に挨拶した。
 リーヴスラシルの後ろには、空き缶が並んでいる。リーヴスラシルは、金山さんに「お客様と自分達で一緒に作る、空き缶を使ったきぼうさの空き缶アート」を提案したのである。余った空き缶をお客さんに一つずつ渡し、図面通りに置いていってもらうというものであった。
『接着など分からない部分は私か彼に任せてくれ』
 リーヴスラシルはそう言って、望月に空き缶を渡した。
「面白いこと考えるね」
 望月は、空き缶を置きながら言った。
『ユリナが屋台を出しているんだが、もう行ったか?』
 リーヴスラシルは、二人に由利菜の屋台の場所を教えた。
 由利菜は、秋らしく焼き芋やかぼちゃのクッキーを提供する屋台を出していた。飲み物は、無料で提供できる水を用意してある。由利菜は、普段、ファミリーレストランでバイトをしているため接客が上手で、お店はなかなかの好評であった。
 こちらに走ってくる望月と百薬の姿を見つけて、由利菜は軽く手を振った。

 一二三は、金山さんのティラノサウルスを見ながら、呟いた。
「うーん、さすが、敵が目を付けるだけあって凄い出来やな!」
『ふむ……あ! フミ! あそこで菓子を売っているぞ!』
 キリルは、お菓子を売っている屋台のほうへと一二三を引っ張っていった。
 両手と口に溢れんばかりの甘味に、一二三は呆れ顔である。
 一二三達が歩いていると、豪に出会った。人見知りのキリルは、少し一二三の後ろに隠れた。
 豪は、全ての屋台の料理を食べて回っているところだった。豪が由利菜の店の話をすると、キリルの目がキラリと光った。
 由利菜の店でクッキーを購入し、しかも再度近所の噂のスイーツも買って帰るキリルだった。

 秋姫は、出品した作品の確認もかねて、作品を見学したり、出店を見て回ったりすることにした。
「まずは……何か食べましょうか…………」
『うむ…………無難にたこ焼き…………で良いだろう』
 秋姫と修羅姫は、たこ焼きを頬張りながら、ぶらぶらと会場を歩いた。
 自分が作った作品のところに行くと、子供達がワイワイと楽しそうに遊んでいた。
 秋姫と修羅姫は、顔を見合わせて微笑んだ。

「どうするAlice?」
『どうしようかアリス』
「今日は時間があるし……アートフェスティバルの作品でも見て回ろうか」
 アリスがそう言って、Aliceは頷いた。
 二人は、まず金山さんのティラノサウルスとリーヴスラシルのきぼうさを見物し、次に秋姫の作った「実際に遊べるアート作品」、ガイの作ったトリケラトプスと順番に見ていった。
『サイズは小さいけど、急ごしらえで作ったにしてはよくできてるだろ』
 ガイは、自慢げに胸を張った。
「そうだね」
『そうだね』
『もっと褒めてくれ!』
 アリスとAliceの淡々とした反応に、ガイは地団太を踏んだ。
 アリスとAliceは、その後もアート作品を見て回った。歩いていると、望月や秋姫も同じようにアートを楽しんでいるのが見えた。
 平和な秋の一日だった。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
  • 夜を取り戻す太陽黒点
    飛岡 豪aa4056

重体一覧

参加者

  • 誇り高きメイド
    秋姫・フローズンaa0501
    人間|17才|女性|命中
  • 触らぬ姫にたたりなし
    修羅姫aa0501hero001
    英雄|17才|女性|ジャ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 夜を取り戻す太陽黒点
    飛岡 豪aa4056
    人間|28才|男性|命中
  • 正義を語る背中
    ガイ・フィールグッドaa4056hero001
    英雄|20才|男性|ドレ
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