本部

【白刃】敵に情報を持ち帰らせるな

岩岡志摩

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/10/28 14:50

掲示板

オープニング

●H.O.P.E.
「……老害共が、好き放題に言ってくれる」
 H.O.P.E.会長ジャスティン・バートレットが会議室から出た瞬間、幻想蝶より現れた彼の英雄アマデウス・ヴィシャスが忌々しげに言い放った。
「こらこらアマデウス、あまり人を悪く言うものではないよ」
 老紳士は苦笑を浮かべて相棒を諌める。「高官のお怒りも尤もだ」と。

 愚神『アンゼルム』、通称『白銀の騎士(シルバーナイト)』。

 H.O.P.E.指定要注意愚神の一人。
 広大なドロップゾーンを支配しており、既に数万人単位の被害を出している。
 H.O.P.E.は過去三度に渡る討伐作戦を行ったが、いずれも失敗――
 つい先ほど、その件について政府高官達から「ありがたいお言葉」を頂いたところだ。

「過度な出撃はいたずらに不安を煽る故と戦力を小出しにさせられてこそいたものの、我々が成果を出せなかったのは事実だからね」
 廊下を歩きながらH.O.P.E.会長は言う。「けれど」と続けた。英雄が見やるその横顔は、眼差しは、凛と前を見据えていて。
「ようやく委任を貰えた。本格的に動ける。――直ちにエージェント召集を」
 傍らの部下に指示を出し、それから、ジャスティンは小さく息を吐いた。窓から見やる、空。
「……既に手遅れでなければいいんだけどね」
 その呟きは、増してゆく慌しさに掻き消される。


 ドロップゾーン警護の任務についていた愚神は、付近にある廃墟地帯で、不穏な動きがある事に気が付いた。しかし具体的にはそれが何なのか分からない。
「少し調べてみるか」
 そこでこの愚神は、何が起こっているのか把握する為、人間が使っていた小型カメラ6個に従魔を憑依させ、不穏な動きがあると思われる地域への偵察を命じて送り出した。
 物事に、自分の側だけしか思いつかないという事はほとんどない。特に敵味方に分かれる戦いにおいては、時として同じことを思いつくことも多々ある。敵の中にも、自分達と同様に、考えて動く存在もいる。


「今回皆様にお願いしたいのは、『偵察活動を行っている従魔を退治し、情報を持ち帰らせることを防ぐ』ことです」
 そう説明する担当官が手元の機械を動かすと、生駒山ドロップゾーン付近の地図が映し出された。
 かつてはリゾート地として別荘やホテルなどの施設が立ち並んでいたが、今は敵の手に墜ち、複数の廃墟と化している。
「現在生駒山周辺地域では、本格的な行動に向け、既に多くのエージェント達が従魔退治や調査など、様々な活動を行っています。その中で、エージェント達の行動を撮影する従魔達がいることが確認されました。従魔達の映像もとれています」
 担当官が機械を操作すると、獣らしき姿が映し出された。
 それはまさに狼そのものの姿だった。ただし、眼は赤く光り、頭には山羊のような角を、背中には何か小型カメラらしきものを生やしている。こんな狼は自然界にはいない。
「同じような姿の従魔が少なくとも6体、敵の手に墜ちた廃墟周辺で他の作戦にあたっているエージェント達を撮影しているのが確認されています。そして背中の機械ですが、私達が使うハンディカメラに近い機能を持つ機械であると推測されました。従魔が機械を扱うという話は聞きませんから、カメラを従魔に変えて撮影していると考えるのが妥当でしょう」
 そんな事をする敵の目的は何か。
「恐らくですが、目的は『付近を活動するエージェント達を偵察し情報収集する事』と思われます。各活動に従事するエージェント達から、この従魔に関する情報を集め、分析した結果、従魔達の構成や偵察ルート、時間帯もほぼ判明しています」
 再び映し出される画面が地図に切り替わり、廃墟の群れの中の1点から2つの線が延びていき、廃墟が立ち並ぶ地帯の中をのたくって進み、そして再び最初の1点に戻っていった。
「敵の偵察を黙認する理由などありません。全て退治して、情報を持ち帰らせないようお願いします」
 1体でも逃してしまえば、敵はこちら側に関する情報を手に入れてしまう。本格的な行動の前に、その事態は避けたいところだ。
「従魔達の偵察ルートの中に、2か所、待ち伏せに適した廃墟があります。2手にわかれてそれぞれの廃墟で身を潜めて退治するのがいいでしょう」
 その待ち伏せ候補の廃墟の他に、出発地点であり到着地点でもある廃墟に、従魔が出払った後に潜み、予防線を張るのもいいだろう。
 敵の出発地点、各ルートでの待ち伏せ候補地となる場所が、映し出される地図に点となって追加される。そこへ、従魔達の偵察ルートとは別に各地点を直線で結ぶ線がひかれると、3点を結ぶ直線は、ほぼ正三角形を示していた。つまり各地点間の距離はほぼ同じだ。
「皆様エージェントの足でしたら、各地点から別の地点へは30分あれば到着できると思われます」
 現在わかっている情報として、従魔達は時間帯をある程度変えて偵察をしているようだが、それもパターンがある事や、次はどの時間帯で動くかもおよそ判明している。
 なおH.O.P.E.の別働隊も協力を申し出ており、従魔退治が完了後に、その行動を隠す情報操作を行って、偵察命令を出した敵側の目や耳を欺くとのことだ。

解説

●目標
 偵察活動をしている従魔を全て退治し情報を持ち帰らせない

●登場
 従魔6体。通称『狼』
 体長1m。全身が黒く、狼のような風貌だが目が赤く、山羊のような角を生やしている。背中に情報収集用のカメラが見える。
 素早く動き、逃げ足は速いが、偵察に特化していると見なされている為、推定でイマーゴ級。

●状況
 生駒山ドロップゾーン付近の廃墟が林立する地帯。従魔達は3体ずつに分かれ、東回り、西回りの2つのルートで廃墟地帯の偵察にまわっている模様。
 東回り、西回りのいずれも、途中に廃墟となった別荘地があり、障害物も多いのでそこが身を隠すのに適した地点との事。エージェントの足なら片道30分で別の地点へ到達できるが、各地点とも離れているので、同時刻に1人が2か所にいることは不可能。情報によると、従魔達は出発地点の廃墟を午前1時ごろに出て、判明している各ルートを通ってそれぞれ偵察を行い、各待ち伏せ候補地点の廃墟を午前2時ごろ通過し、午前3時ごろに出発地点に戻る模様。

 廃墟
 元は平屋の別荘地だったが崩壊が進んでいる。敵の出発地点を含め、3か所とも周囲に身を隠せる障害物と化した家屋の残骸が、荒れるに任せた縦横20mの正方形の敷地内の至る所に転がっている。
 今回H.O.P.E.より、ハンズフリーの無線機が貸与される為、離れた場所の仲間との交信は可能。周辺地域は無人の為、道路封鎖や避難誘導の必要はない。

リプレイ

●配置完了
 夜は化物達が動き回る時間だという伝承は数多くある。しかし現代においてはその限りではなかった。
 その夜、冴え冴えとした月が冷たい光を投げかける中、愚神の支配下となり、廃墟の群れと化した無人地帯において、H.O.P.E.別働隊の案内を受け、密かにエージェント達が複数の箇所で身を潜めていた。
 その目的は、愚神が放ったとされる従魔で構成された敵偵察部隊を殲滅し、情報を持ち帰らせない事だ。
 すでに敵偵察部隊の動きは、以前からこの地域で活動していたH.O.P.E.のエージェント達から寄せられた情報などからほぼ判明している。
 敵の目的は『何が起こっているのかを把握するため』で、手段は『カメラを従魔化して偵察部隊として放ち情報を収集する』ことだった。
 そして従魔達に課せられた内容も、集められた情報を精査した結果、『愚神の指示のもと、決められた複数の箇所を決められた時間に、決められたルートに従って撮影し、情報を持ち帰る』ことや、ルート及び活動時間帯もほぼ判明した。
 従魔達はある1点から廃墟地帯を東回り、西回りの2ルートに分かれて出発し、1ルート当たり3体、合計6体の従魔が撮影や情報収集のため、動き回った後、出発地点に戻る。
 依頼に参加した能力者と英雄達は、相談の末、東ルートの従魔達を待ち伏せする東班と、西ルートの従魔達を待ち伏せする西班に分かれ、待ち伏せに適した場所でそれぞれ討ち漏らすことなく、殲滅する方針で固まった。
 敵が進む各ルート上で身を潜めつつ敵を殲滅できる候補として指定されたのは、いずれもかつては豪華な別荘だったが、今は無残に破壊され、建物を構築していた部品が周囲に残骸となってまき散らされ、身を隠すのに適した場所が無数にある、広々とした敷地だった。
 各場所のうち、東側については、諜報活動に精通しているカトレヤ シェーン(aa0218)と王 紅花(aa0218hero001)が予め現地に出向いて下調べを行いながら、仲間達がより身を潜めやすく、かつ敵の移動を障害物が邪魔をする配置に置き換える事前準備を行っていた。
 そして今カトレヤは東班として待ち伏せ場所に潜伏している。
(愚神というのは好戦的な奴らばかりだと思っていたよ。愚神にもなかなか理知的な奴がいるんだな。見た目がよけりゃ友達になれそうだ)
 情報がいかに大切か熟知しているカトレヤは、自分と同じく情報の重要性を認識していると思われる愚神にある種の親近感を覚えていたが、聞く人によっては激昂しかねない内容なので口にせず、心の中でそう呟く。
 その心の声に、既に共鳴化を終え、カトレヤの内にいる紅花も同意する声を上げた。
(そうじゃのう、愚神とも通じ合えればいいのう。争いはろくなもんしか生まんのじゃ)
 普段は派手好きで目立つ行動も多い紅花だったが、今は共鳴化し、カトレヤの目と髪の一部を自分の赤色に変え、右腕を自分の肌の色に入れ替え、その体に紋様を添えていた。
 なお懸念されていた『仕留め損ねた従魔が出発地点に予定より早く到着し、自分達が追撃できなくなる危険性』については、ほぼ皆無との回答を担当官より得ている。
 担当官曰く『この従魔は命令に忠実で、待ち伏せ場所以外にも偵察活動をすべき場所が複数残っており、1か所で襲撃を受けたとしても、命令に従い、残る偵察すべき場所の撮影や情報収集に時間を費やすので、出発地点以外の場所へ逃げたり、予定時間より早く到達する事はほぼない』との事だ。
 これが人間だったら、臨機応変に対応し探っている事を知られないように務めるが、従魔は指示された範囲以外の行動は行わない。そこに従魔の限界があった。
 その相手を罠にはめる為、包囲しやすく、討ち漏らした敵が逃走を図っても誰かが行く手を遮れるよう、廃墟となった場所の中央に画面の明かりを保った状態でスマホでない携帯電話を置き、罠を張る。
 既に東や西を問わず、全員共鳴化を終えて、月明かりでも問題なく動けるようになり、借用したハンズフリーの無線機を装備している。
 共鳴を果たした能力者の視界は、闇夜であっても月明かりやパソコンなど液晶画面から発せられるような光源が少しでもあれば、問題なく活動できるほど向上される。
(敵側も情報を重視し始めたようだな……厄介な事になりそうだ)
 同じ東班に所属する御神 恭也(aa0127)も、情報の重要性を熟知している身であるため、普段は神と名乗り、元気で活発な伊邪那美(aa0127hero001)との共鳴化を終え、彼女の言動が敵に『収集』されぬよう、自分の内に留めていた。
(恭也、何をやっているの?)
(偽計の一種だ。仮に取り逃がしても、持ち帰らした偽情報を元に敵が動いてくれれば迎撃が容易になる)
(ねえ、恭也。相手を殲滅するなら偽情報なんて必要ないんじゃないの?)
(俺達の行動が全て上手く行くとは限らない。無駄になるかも知れんが、転ばぬ先の杖と言う奴だな)
 言葉に出さず、繋がった心同士で『会話』しながら、恭也は手帳に偽の味方の重要地点を示す地図を作成していた。適度に暗号化した注釈をたっぷり加えている。
 唐沢 九繰(aa1379)はエミナ・トライアルフォー(aa1379hero001)との共鳴化で、既にエミナから瞳と腕の特徴を自分の体に反映させると、懐中時計で時間を確認し、敵出現を警戒しながら内にいるエミナと心の会話を続けていた。
(まさか相手も偵察を仕掛けてきてるだなんて、びっくりです。しっかり排除しないとですね!)
 九繰はここ数日作戦本部などから出された依頼の中に、敵を調べる偵察依頼があった事は知っていたが、同じ内容の行動を敵も考えていた事に驚いていた。
(今回は人命とは直接結びつかない仕事ですが、対処ではなく予防のために動けるこの感覚は新鮮で好ましいです)
 エミナは惨事を未然に防ぐ可能性があるこの依頼にやりがいを持ち、全力での敵殲滅完遂を目指していた。
 また九繰には、西班に分かれた仲間達へ戦闘開始を報せる『ある合図』を行う役目も託されていた。
 一方西班のほうでは、共鳴化した皆月 若葉(aa0778)とラドシアス(aa0778hero001)が仲間達に呼びかけて予定時刻より前に現地への先回りを果たし、手分けして潜伏場所の選定や、敵の注意をひくトラップとなりうる痕跡作りなど奇襲準備を終えていた。
 若葉は手早く仕事を済ませる為の労苦は惜しまない。今も隠密さを重視して、借用した無線機で通信相手には伝わり、かつこれから訪れるであろう敵に察知されぬ声の質や音量に調節して、東班の仲間達との情報交換を行っている。
(情報収集とは敵も中々考えたものだね。けれど)
(ルートと時刻がおよそ判明してるなら、待ち伏せての殲滅が有効だろうな)
 若葉が言わんとする事を、内にいるラドシアスが告げた。両者の見解はほぼ一致している。
 今回のように、敵の行動ルート、部隊数、時間帯、従魔の数や詳細が判明している状況で行われる偵察は、もはや隠密な偵察とは呼べない。
 若き聖騎士姿のアルヴァード(aa1084hero001)と共鳴化した七城 志門(aa1084)は手帳に偽の地図を作成していた。東班と同じく、万が一敵を撃ち漏らした時の保険だ。
(敵を知り、己を知れば…でしたっけ)
 古来より伝わる兵法書の一節を志門は思い出す。今後そういう敵が増えるのだろうか。
(そう気負う事はない)
 志門の内にいるアルヴァートから、そんな声が届いた。
(どうしてそう思いますか?)
(私も昔、斥候の始末をよくやった気がする。ここでは一匹も残さず片づければいい話だ。今後の事は、その時考えればいい)
 普段口数が少ないアルヴァートからの助言を受け、志門も『罠』を仕掛け潜伏を始める。
 一方、ある意味自分の教え子でもあるセラフィナ(aa0032hero001)と共鳴化した真壁 久朗(aa0032)が、同じ班の仲間達と相談した後、最適と思われる場所へ敵を誘き寄せる罠も兼ねて、自分のスマホを置いた後、志門と同じく何かを手帳に書いていた。
(……クロさんなんですかそれ。従魔ですか? あ、熊ですか)
(H.O.P.E.の新兵器という情報だ)
 しかしセラフィナには、久朗の描いたものがどう見ても謎の獣にしか見えず、物珍しいものに好奇心を示すセラフィナも、あえてコメントは避けた。
 謎の獣(セラフィナ評)を描いた手帳をスマホの横に置いた後、久朗は待ち伏せ場所に待機し敵襲来に備える。
 そして彼にもまた、東班の九繰と同じく、東班へ戦闘開始を伝える『合図』の役目を担っていた。
 潜伏を終えた今、各現場には光源がある機械と作成した偽情報満載の手帳が残る。 
 どのくらい経った頃か。何か複数の気配が近付き、自分達が用意した機械の光源と偽情報入りの手帳のもとへ集まってきた。
 闇夜に合わせたのか、黒い体毛で覆われた狼。ただしいずれも赤色の目と山羊のような角が付随する。
 その狼達はカトレアと久朗の置いた機械の光源につられたのか、そこへと集い、ついでその近くに恭也、志門、久朗が用意した偽の地図や情報が満載された文面を発見し、『撮影』を開始する。
 それが殲滅対象である従魔と分かった各班の能力者達は九繰と久朗のもとへ密かに集い、ライトアイを付与してもらい、さらに視界をより鮮明にしていく。
 そしてその術の発動こそが、互いの班へ敵の到着と自分達が戦闘に突入したことを報せる合図だった。

●東班の攻防
 九繰のライトアイで、より鮮明な視界を得たカトレヤ、恭也がそれぞれ別方向から、討ち漏らした際に先回りできる場所へ駆けていき、同時にライトアイを自分にも付与した九繰も武器を顕現させ、従魔3体を前後から包囲しようと動き出す。
 もともと偵察に特化した狼たちにできる事は、とにかくこの場から離脱する為、逃げ回ることだった。予想したよりも移動速度が速い。
『どうやらこの狼どもは、戦いは不得手のようじゃな』
 紅花の指摘を受け、カトレヤは英雄譚に関わる魔法書を顕現させると、本の上に魔法の剣を生成して、自分が配した障害物を回避し損ねた狼に向け射出する。
 狼は障害物を踏み越え、魔法の剣を回避しようと身を捩るが、回避しきれず、カトレアの剣は狼の体を貫いた。
 見る間に狼の体が崩れ出し、光の粒子とかして消えていく。地面にはカメラが転がった。
「もう一つわかったぞ。恐らく一撃でも命中させたら、こいつらは簡単に倒せる」
 カトレヤからの情報は無線機を通じて他の班の仲間達にも伝えられた。
 恭也は残る狼2体が近い距離にいるならば疾風怒濤の攻撃を加えて、まとめて狼達を仕留めるつもりだったが、既に2体は散開し、別の機動で逃げようとしていた。
 予め配置された障害物と狼が通るであろうルートを予想し、恭也は1体ずつ確実に仕留める事に方針を切り替えた。
 移動力の差を障害物を利用して縮め、ようやく恭也は自分の大剣が狼に届く範囲まで追いつき、無骨な大剣を加速させて、逃げる狼へと刃を一閃させ、刃を受けた狼をカトレヤのいる方角へ弾き飛ばした。
 もともと偵察用に特化した従魔に恭也の攻撃に耐えきれるだけの強さはなく、飛ばされる途中に狼の姿は光の粒子と化して消え、カメラだけがカトレヤの足元に転がった。
 残る1体も逃走を図っていたが、カトレアと恭也に逃走先へ回り込まれ、障害物に手間取る中、後方より九繰に追いつかれた。
 狼は残った逃走先である空中へと跳躍したが、すでに着地地点には九繰が待ち構えていた。
 狼が身を低くし、4本の脚に力を入れる予備動作に感づいた九繰が、狼は跳躍すると見越して、跳躍時の狼の速度や高さからおよその着地地点を目算で導き出し、先回りしたのだ。
 九繰はピッケル状の刃と戦鎚、槍の穂先の3種を併せ持つ斧槍『ザグナル』を着地しようとする狼へと突き上げ、狼の体を貫いた。
 光の粒子と化し、狼の姿が消えていく。九繰は元の姿に戻り、地面に落ちてくるカメラを器用に受け止めた。
 
●西班の攻防
 一方西班では、久朗が設置した罠でもあるスマホから流れるファンシーなメロディが、周囲に流れていた。
 さすがにこの状況で久朗に詳細を問う仲間達はいなかったが、普段は無口で無愛想なはずの久朗は内心焦っていた。
 いつの間に俺のスマホはあんなメロディになったんだ?
(お、おい、あんなファンシーなメロディーに設定した覚えはないぞ)
(可愛い方が引き寄せられるかと思ったので……)
(おまえか……!)
「閃光を出すよ! 俺から目を背けて!」
 久朗とセラフィナが心の中で問答する中、若葉から久朗と、アルヴァードとの繋がりを強めていた志門へ警告が届き、久朗と志門は慌てて若葉から視界を外す。
 次の瞬間、若葉を中心に、白以外の色を失った強烈な光が周囲に広がり、見るものの視界を白く塗りつぶした。
 若葉の閃光をまともに直視した狼達は、3体のうち2体が満足な動きがとれず、1体は辛うじて閃光の範囲から外れて、逃走を図ろうとするが、無論彼らはその場合も含めて対策を講じていた。
 既に満足な動きのとれない狼の1体には、志門が一気に距離を詰めて、英雄との結びつきの強さをそのまま宿した片刃の曲刀を一閃し、風切り音を置き去りにした高速の斬撃で斬り飛ばして狼をカメラに戻した。
 久朗は武器を水のようなライヴスを纏う三叉槍に変え、閃光を浴びたもう1体の狼へと迫りながらも、メスの形状にしたライヴスの刃を狼に放つ。
 仮にブラッドオペレートがかわされても、トリアイナでの刺突がある。
 2段構えの攻撃で久朗は狼に迫るが、今だ閃光を受けた狼は満足な動きが出来ず、最初に久朗が放ったブラッドオペレートの刃が狼を切り裂いた時点で、狼の命運は尽きていた。光る粒子となって狼の体は消えていき、こちらもカメラが地面に転がった。
 残るは1体のみ。久朗と志門が追撃にかかるが、飛来した矢が正確に狼の身体を貫いた。
 たちまち狼の体は崩れ出して光の粒子と化して消えていき、カメラが残った。
「そう簡単には逃さないよ」
 それは若葉が長大な洋弓に番えて引き絞り、放った矢だった。共鳴化している影響か、普段よりも落ち着いた態度でグレートボウをおろす。
「こっちは全て退治できたけど、向こうの仲間達はどうなのか確認しておこう。討ち漏らしがあると困るしね」
 若葉の言う通りだ。既に狼が1撃で倒せるほど弱い存在である事は東班の仲間達より報せがあったが、逃げ足が速い以上、討ち漏らしがあったらすぐに追いかける必要がある。
 久朗と志門は若葉と手分けして無線機で西班の状況を聞いてみたが、そちらも3体全てを殲滅する事に成功したとの返事があり、ここで西と東に分かれた能力者と英雄達は偵察部隊全てを撃破が達成したと知り、安堵の溜息をあげた。
 こうして能力者達と英雄達は、愚神へと情報を持ち帰ることを阻止した。


 久朗と若葉の提案に従い、能力者達は各戦場に残されたカメラを回収していく。
 久朗は、現在判明している場所や区域以外でも、敵が監視していなかったかを調べる為だった。
 若葉のほうは、従魔達を放った愚神が『どんな事を重点的に偵察していたのか』を把握する事や、後で愚神にカメラを回収されるのを防ぐ為である。
「6個とも全部無事みたいだよ」
 集めたカメラの状態を確認した志門がそう仲間達に告げた。待ち伏せから戦闘終了に至るまで長い時間を共に過ごしたためか、口調も慣れたものに変わっている。
「負傷者が出なくてよかったです!」
 九繰も、仲間が負傷していたら治療できる術を使って回復する予定だったが、今回は誰も敵の攻撃を受けず、無傷であると知り安堵した。
 負傷回復の術は用意していたが、使う必要がないならその方がいい。
 伊邪那美は、今回回収できたカメラを見て、恭也に尋ねた。
(これがバンジーカメラというものですね)
(……ハンディカメラだ。確かに高い所から飛び降りる人がカメラをつけていることもあるが、それは別の種類だ)
 月明かりがまだ残るとはいえ、まだ夜明け前なので視界確保のため共鳴化を解いていない恭也が、内にいる伊邪那美が苦手とする機械関係の単語について、繋がった心の中で伊邪那美に解説していた。
 後日、H.O.P.E.は回収出来たカメラ内の映像などをもとに、現地近くで活動中のエージェント達に、撮影されそうな箇所で活動する際にやり過ごす方法を伝達すると共に、情報操作を行った。
 それは愚神の放った偵察部隊は地元近くのH.O.P.E.支部にいるエージェント達によるものという内容の情報を流す事で、現在も周囲で活動中のエージェント達や今回偵察部隊を退治した6人の能力者と英雄達の活動を隠すものだった。
 その情報を入手した愚神は「地元H.O.P.E.支部の活動だったか」と納得し、何かが判明した時に備え、用意していた偵察部隊の派遣を見送った。
 もし正確な情報を入手していたら、愚神はある程度H.O.P.E.への対処ができる迎撃態勢の構築に貢献したかもしれないが、正確な情報のない愚神は判断を誤り、自分の行動を不発に終わらせた。
 今回この依頼に参加した能力者や英雄がもたらしたものは、愚神の警戒を揺るめ、人間側にとっては、ある範囲において、自分達の存在や行動を知られずに行動できる自由を増やすことに貢献するものだった。
 後に辣腕諜報員でもあるカトレヤは今回の件をこう締めくくった。
「偵察で重要なのは、自分達や探っている事を知られないよう隠す事だ。既に相手にばれている偵察行動は敵の強さを推し量る威力偵察でもない限り、無残な結果しか残せない。今回退治された従魔達のように、だ」

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • エンプレス・ルージュ
    カトレヤ シェーンaa0218
    機械|27才|女性|生命
  • 暁光の鷹
    王 紅花aa0218hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 温もりはそばに
    ラドシアス・ル・アヴィシニアaa0778hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • エージェント
    七城 志門aa1084
    人間|18才|男性|生命
  • エージェント
    アルヴァードaa1084hero001
    英雄|24才|男性|ブレ
  • Twinkle-twinkle-littlegear
    唐沢 九繰aa1379
    機械|18才|女性|生命
  • かにコレクター
    エミナ・トライアルフォーaa1379hero001
    英雄|14才|女性|バト
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