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依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/10/20 23:31:39 -
【相談卓】青い空は渡さない!
最終発言2017/10/24 00:28:16
オープニング
●どこかの愚挙
それはまだ共鳴やリンカーが正式に認知されていない昔のことの話だ。
あるところに閉鎖的な考えに凝り固まった集落があった。
その集落がある日、感染力の高い流行病に襲われた。
村人は次々に息絶え、幼い子供達だけが残された家もあった。
生きる術を持たない子供達は、近所の住民達に助けを求めたが、住民達は子供達を拒んだ。
――なぜこいつらだけ元気なんだ。
――うちの家族は皆死んだっていうのに。
最初は小さな疑問だったが、子供達を見ている内に、住民達の中に不穏な空気が醸成されていく。
いま、助けを求めている子供達は、こんな顔だったか。
震える肩は、こんなに薄かったか。
なんだ、この子供の目は。以前はこんな禍々しい色をしていなかったはずだ。
「あ、悪魔だ、こいつら!」
突如膨れ上がった不安を抑えきれなくなった住民の1人が、悲鳴にも似た叫びを張り上げると、近くにあった棒を掴んで子供達に振り下ろした。
それがきっかけとなり他の住民達も子供達を取り囲み、棒や農作業の道具を次々と子供達に振り下ろしていく。
実は子供達が生き延びたり、瞳の色が変わったのは英雄との共鳴によるもので、子供達はリンカーになっていたが、当時の集落の人々はそれを知らなかった。
●牽制と対処
その日、突如としてジャングルの空が、夥しい数の従魔達に覆われた。
編隊を構成する飛行船型従魔達の抱えるエンジンの唸りが、地上に広がるジャングルの木々を震わせる。
眼下にある集落の建物の窓がビリビリと震動し、集落の住民達は頭上を通過する従魔の編隊を、不安げに見上げていた。
その編隊を率いていたのは飛行船型従魔に乗る『ラグナロク』のフレイヤだった。
フレイヤが率いている編隊に指示を飛ばすと、一部の従魔達がH.O.P.E.ギアナ支部へと進路を変えて、飛翔する。
それを見届けたフレイヤは、残る従魔達を率いて別の方角――インカ支部へと向かっていった。
この動きは、ギアナ支部周囲で哨戒にあたっていた職員達が捕捉し、ギアナ支部へと伝達される。
情報の集計作業に追われていたポルタ クエント(az0060)は、進出してきたものの、一向にギアナ支部へ攻め込む姿勢のない飛行従魔群の動向に、不審なものを感じていたが、集めた情報を整理分析していくうちに複数の可能性に行き当たる。
「この従魔達の役割は、ギアナ支部からのインカ支部への援軍を出させないようにする牽制。および援軍を出した時、上空から援軍を妨害することだと思われます」
ポルタは緊急の依頼要請に応じた『あなたたち』に今回の依頼内容を説明すると共に、飛行従魔群がそこにいるだけで、ギアナ支部がとれる行動の幾つかを縛る厄介な布石になりつつあると付け加える。
「今回お集まりの皆様にお願いしたいのは、この飛行従魔達の殲滅もしくは撃退です」
ブリーフィングルームのスクリーンにギアナ支部周囲の地図が映し出され、そこにギアナ支部を示す緑の点、飛行従魔達を示す赤い点が灯る。
スクリーン上では緑の点より青と紫の光の点が離れ、青く光る点が支部からやや離れた地点で止まり、紫の光点は赤い光点に向かうと、その近くを通り過ぎる動きを見せた。
すると赤い光点が紫の光点の後を追い、紫の光点が青く光る地点を横切ったとき、青の光点が赤の光点にぶつかり、赤の点が消える動きが追加される。
「紫の光は先発隊。青の光は皆様を示しています。皆様にはこの青色の光る場所で待ち伏せをしてもらい、先発隊が引きつけた飛行従魔群を攻撃して下さい」
この地点を迎撃地点に選んだのは、密林で覆われてはいるが丘のような地形をしており、敵従魔達との高低差を縮めることができるためと、ポルタは説明する。
「先発隊には私が向かいます。必ず敵を漏らさず連れて参りますが、私の安否はお気になさらず、どうか敵の殲滅を優先して下さいますようお願いいたします」
現在ギアナ支部に睨みをきかせているこの従魔達を一掃できれば、インカ支部への支援はより確実に行う事が可能となり、ギアナ支部が陥落する危険も低くなる。
なお今回はギアナ支部もインカ支部への支援など、各活動で手一杯のため、予備の別働隊は派遣できない。
また現場が鬱蒼と茂るジャングル地帯であるため、車やヘリといった乗り物や機材の貸与は以下の『フォレストホッパー』を除いては認められないとのことだ。
こうした厳しい状況での緊急案件のため、報酬の増額が認められている。
H.O.P.E.ギアナ支部、ひいてはインカ支部の存続をかけた戦いの一つが始まろうとしていた。
●今回の貸与品
【フォレストホッパー】とはH.O.P.E.ギアナ支部の開発品だ。
一見して、肌に直接貼り付けるタトゥーシールで、足首に装着する。略称は『FH』。
その実体は、本来機動力の落ちる森での移動効率化を補助するシロモノ。内蔵された超小型ライヴス式アビオニクスによって「最も効率的に行動できるルート」を自動演算し、装備者の神経系伝達の補助を直接行うことで、周囲のオブジェクトを利用したアクロバティックな動きを可能にする。
タトゥーのデザインは様々。アイアンパンクにも対応しているため、張り付ける場所が機械化部分でも問題なし。
回路の高速処理化の為、自動演算機能にインプットされている情報は「森林・樹木のみ」であり、森での使用に性能が限定されている。効果は地形【森】の足場ペナルティをある程度無視できるが、【森】以外では能力補正が得られない。
アマゾンを動き回るならこれ!(以上ギアナ支部技術職員からの熱い説明)
●秘めるもの
インカ支部へと向かう飛行船型従魔の上で、フレイヤは佇む。
「……私は救いたい。私は救えない。……救いたいのは――」
ラグナロクを示す装束の内側で、今のフレイヤを形成する感情が苛烈さを保ったまま、延々と燃え続けていた。
解説
●目標
敵従魔達の殲滅もしくは撃退
登場
カレウチェ×3
デクリオ級従魔。幽霊船のような従魔。略称『船』。飛行能力を持ち、錆びた銃器が船体から生えており、それらを使って攻撃する。別の従魔を乗せている場合もある。
一斉射撃:射程1~10スクエア/範囲5スクエアに無差別攻撃を行う。
PL情報:現場到着後、下記ムバエを放出。
ムバエ×12
ミーレス級従魔。鬼火のような外見。略称『爆火』。大量に集まり一斉に自爆する事があるので注意が必要。飛行能力あり。
集団自爆:半径2sq以内に集まったムバエの数×1の数値を範囲内にいる対象に無差別/防御無視の固定ダメージとして与える。
ヴァルキュリア×3
一見すると修道女のような姿に翼を生やしたような外観の従魔。略称『乙女』。身長1.7m。翼で飛行し浮遊するので地上の影響を受けない。過去の交戦記録よりデクリオ級相当と判明。
H.O.P.E.先発隊
ポルタ達が参加。上記敵従魔群を引きつける陽動と誘引役を実行。任務達成後も次の任務があるので、それ以外の任務への従事は不可能。
状況
南米のジャングルの1区画にある森林が茂る丘の上。範囲は判定上無限。周囲は無人。カレウチェら飛行従魔達は最初、『あなたたち』の頭上を自分の攻撃が届く高さで飛行する。天候は晴れ。作戦時間は日中。無線・『フォレストホッパー』貸与済み。
車やヘリなどの乗り物、撮影用カメラなどギアナ支部および周辺の人間達の属する組織所有の機材類の借用はできない。
リプレイ
●迎撃準備
様々な生命の鳴き声や営みが感じられる密林を、悪意の群れが空から圧迫していた。
その悪意達は船型従魔カレウチェ、あるいは翼を持つ従魔ヴァルキュリアの形をとり、密林上空に君臨する。
そんな従魔達を、複数の方角からエージェント達が見据えていた。
「敵は……空に常駐か。あまり相手にしたくない部類だが」
真壁 久朗(aa0032)は飛行して迫りくる従魔達を、側面の方角から双眼鏡越しに確認しながら、そう呟く。
2つの円が重なった中に、3体のカレウチェが正三角形を作るような布陣で飛行し、その周囲をヴァルキュリア達が飛び回るのが見て取れた。
「やり方はきっと色々ありますよ。何やら秘密道具も貸して頂きましたし!」
横にいるセラフィナ(aa0032hero001)からの励ましに頷くと、久朗はライヴス通信機「遠雷」を介し、敵の陣形や配置など、収集できた情報を仲間のエージェント達に伝えた後、セラフィナと共鳴する。
久朗からライヴス通信機「雫」を介して情報を受け取った八朔 カゲリ(aa0098)とナラカ(aa0098hero001)は、押し寄せてくる従魔達を平然と見据えていた。
「生命の宝庫たるこの森を、骸どもが我が物顔で荒らしおる。まあ全て墜とすが。逃すでないぞ、覚者?」
ナラカにとって、眼前の従魔達は生命と対極に位置する『骸』であり、焼き『祓う』対象でしかない。
幽霊飛行船(カレウチェ)然り。鬼火(ムバエ)然り。そして死した英雄の魂を運ぶ戦乙女(ヴァルキュリア)然り。
「ムバエの姿がない。恐らく幽霊船の中だろうが、全て倒すのは同意だ。そして逃すつもりもない」
ナラカからの問いかけに、カゲリは特に気負いもせず敵の殲滅を口にし、ナラカと共鳴する。
カゲリは自分達と敵対する愚神や従魔といった存在、その相克も含め全てを肯定するがゆえに。
そのカゲリと同じ小隊仲間でもあるフィアナ(aa4210)は、既にドール(aa4210hero002)と共鳴し、ウルスラグナ+2を顕現して従魔達を眺めていた。
「それじゃあ始めましょうか」
――制空権、返してもらうわ。H.O.P.E.インカ支部や、支部に向かったフレイヤのことも気になるし。
楔形陣形で飛行する従魔達を見据え、フィアナはそれまで指でコツコツ叩いていたウルスラグナの柄を翻し、構えなおす。
――カゲリは、まぁ大丈夫でしょう。信用してる、からね。
フィアナはカゲリや共闘経験のある仲間達のことを気にかけながらも、カレウチェを狙える位置へと疾駆する。
同じように鋼野 明斗(aa0553)とドロシー ジャスティス(aa0553hero001)も、ライヴス通信機を介し久朗からの情報を受けとっていた。
明斗とドロシーは事前のブリーフィングで得た情報を思い出しながら、迫る従魔達を樹木たちの間から見据える。
事前のブリーフィングでは熱心に見えたのはドロシーのほうだったが、作戦の重要な部分を理解していたのは明斗のほうだ。
「敵の狙いは牽制に加えてインカ支部のほうで何かをする時間稼ぎってとこか」
そんな明斗に向けドロシーはスケッチブックを掲げて、自分の意志を示す。
スケッチブックには『正義執行 悪即滅』と書かれていた。
「……正解」
明斗はそういってドロシーの頭を撫でると共鳴する。
ドロシーの言う通りさっさと目の前に来る敵を殲滅すればいい。しごく単純な話だ。
「空に敵がいるとちょっと困るですね……」
サラ・テュール(aa1461hero002)と共鳴した想詞 結(aa1461)は、カレウチェの大きさや形状から、この従魔が『ラグナロク』の幹部達やその戦力の輸送手段になっているとの見方を強めていた。
(今の私達だと、ちょっと空の上での戦いは難しいからね。早急になんとかしましょう)
「敵の本隊はインカ支部のほうへ行ったらしいですから、こんなところで止まってる場合じゃないですね」
――指示をしたフレイヤも、どうやら向こうへ行ったみたいですし、早く追いつかないとです。
結の意識はここだけではなく、遠く離れたインカ支部や、そこへ向かったフレイヤにも向けられていた。
御剣 華鈴(aa5018)はカレウチェを見据えながら、『あの大きさならば、他の従魔の群れを輸送する事も可能と思われる』と、自分の見解をライヴス通信機を介して仲間達に伝えた後、傍らにいるフェニヤ(aa5018hero001)に問いかける。
「我らにとって空の戦は不利。さて、どうでようか」
「ふん。空から来ようと叩き落とすなり、乗り込むなり幾らでもやりようはある」
不敵な口調で言い放つフェニヤに、華鈴も頷いて共鳴する。
カレウチェにそのまま取りつくのは難しいので、華鈴は羽や噴射口といった浮上を助ける機関を壊して高度を下げさせてから乗り込む事を考えていたが、見たところそういった構造物がないので、方針をむりやり引きずりおろす策へと切り替えていた。
その一方で藤咲 仁菜(aa3237)は、ラグナロクがリンカー以外の人間達を嫌悪する理由について考えていた。
「きっと、ラグナロクがこうなってしまったのは理由がある。理由がわかれば、思いを理解しあえれば」
――戦って倒す以外の選択肢も、見えてくるかもしれない。
「そうだとしても、それがこの地で生きる人達を不幸にしていい理由にはならないんだよな」
リオン クロフォード(aa3237hero001)は、ラグナロクによって不幸になった側の立場から、その事実を指摘する。
「倒せば全部解決ってわけじゃないでしょう? 共に償う道を探してもいいと思うの」
ラグナロクが多くの人の命を奪い続けている事実を認めながらも、仁菜の意志はゆるがない。
リオンは『甘いんだよな』と内心思ったが、それを仁菜には言わず自分の胸の内に秘め、仁菜を護る意志を固め共鳴する。
「我らの出番であるな、ハル!」
エレオノワール アイスモア(aa1449hero001)からの呼びかけに、加賀美 春花(aa1449)は頷くと、エレオノワールと共鳴し、イメージプロジェクターで自分の服を迷彩に変えて、フォレストホッパーの能力で苦も無く木々の上まで駆け上がる。
「あとは任されましたよっ」
そう言った春花の視線の先では、3体のカレウチェがヴァルキュリア達を伴い、地上へと複数の発射音と共に火線を噴き伸ばし、無数の木端と葉を宙に散らして樹林の間を疾走するポルタ クエント(az0060)を追い立てていた。
その従魔達が密林内にある小高い丘を横切った時、待ち構えていたエージェント達が一斉に動き出し、ポルタはその間に退避した。
●対空戦闘
最初の攻撃はストライクを発動し、精神を研ぎ澄ませた春花からの一射だった。
(お願い、当たって……!)
発射音も発射焔も抑えられた春花の17式20ミリ自動小銃+1より、ストライクが付与されたライヴス推進弾の切り裂くような火線が、先頭を飛翔するヴァルキュリアへと吸い込まれた。
命中を示す着弾の火花がヴァルキュリアの体に咲き、その翼を幾分か削り取るも、春花の意図である飛行能力を奪うには至らなかった。
逆に攻撃を認識したカレウチェが体内より鬼火の形をした従魔――ムバエ達を次々と放出し、周囲へ展開し始める。
(認識されたからには全力で避けるのであるぞ、ハル!)
――今の我らは防御力が低いと自覚しておる!
「わわっ、あんまり来ないで……!」
内にいるエレオノワールの警告を受けるまでもなく、春花は身を翻して回避行動に移り、入れ違う形でリオンと明斗が前に出て、飛来するムバエ達を迎撃する。
「選り好みはしません。襲ってくる敵を順番に片付けるだけです」
明斗はそう言って錫杖「金剛夜叉明王」を振りかざすと、破邪の力を持つとされる白色光弾状ライヴスが形成し、飛来したムバエへと射出した。
明斗の光弾状ライヴスを受けたムバエは一撃で爆散し、飛び散る塵の中を突き抜けた別のムバエ達が、明斗へと慕い寄る。
「かかってこいよ! お前らみたいな雑魚にはやられないぞ!」
そこへリオンが星剣「コルレオニス」+3を抜き放ち、明斗を庇う形でムバエ達の密集する空間へと強引に割り込んだ。
空間に星の輝きを残したリオンの剣閃が1体のムバエを捉えて両断し、塵に変える間に残りのムバエ達がリオンを押し包んで自爆する。
ムバエ達の自爆は連鎖的に続き、爆発で撹拌された空間から、【SW(剣)】聖鞘「キングスシース」に星剣「コルレオニス」を納め、盾代わりに掲げたリオンが姿を見せる。
「俺は大丈夫! まだまだ行けるよ! 今が攻勢をかけるときだろう?」
多少ダメージを負ったが、リオンは周囲の仲間達に自分に構わず攻勢を強めるよう伝え、盾役のつとめを果たすべく再びムバエ達と交戦する。
(向こうから討たれに来るとはな。ここは目の前の敵を叩き斬るのが先だろう?)
当初ヴァルキュリアを迎撃する予定だった華鈴に向け、ムバエ達が接近してくるのを見て取ったフェニヤが、内より華鈴へそう助言を送ると、華鈴もムバエに向けて屠剣「神斬」の刀身を振り上げる。
「自爆に巻き込まれるつもりはない。このまま離れて迎撃させてもらうぞ」
華鈴はそう呟いて刀身にライヴスを纏わせると、無造作に屠剣「神斬」を振り下ろした。
華鈴の一閃から斬撃が飛び、ムバエに命中すると、ムバエの体が2つに割れ、切断面から塵を噴き消えていく。
その間にも、ヴァルキュリア達を伴うカレウチェ達の機銃が一斉に咆哮した。
機銃の発射焔が船体を燃え上がらせ、灼熱した弾丸の嵐をエージェント達目がけて吐き散らしていく。
(このまま秘密裏に乗り移るのは難しそうなのね。ここは私達も攻撃に加わらない?)
戦況からそう判断したサラが、内から結に方針変更を提案し、結もフォレストホッパーの性能を駆使して樹間を飛び、飛来する銃弾をかわしながら頷く。
「今は1つでも多く、あのカレウチェ達を下へと引きずりおろすのです」
結はそう言って仙境の弓の弦を引き絞ると、周囲の空気が清められたかのような雰囲気が漂う。
結は弓弦を鳴らして矢状ライヴスをカレウチェへと放つと、結の矢状ライヴスはカレウチェの咆哮する機銃の1つを貫き、カレウチェはぐらりと船体を傾け、3体のカレウチェが構築していた陣に綻びが生じる。
(覚者よ、仲間達が鬼火どもを食い止めている今が好機ぞ)
「わかっている。次はあの船だな」
カゲリは内からのナラカの声に応じつつ魔導銃50AE+3を顕現し、結が攻撃したのとは別のカレウチェへと狙いをつけ、引き金を引く。
カゲリがとある伝手で護身用として入手し、改造を施した黒色の銃身から発射焔と共に弾丸状ライヴスが放たれる。
カゲリの一射は地上への機銃掃射を行っていたカレウチェの機銃の1つに喰らいつき、破砕音と共に機銃を破壊しカレウチェの弾幕を薄くする。
そんなカゲリが作りだした好機をフィアナは逃さない。
(全ての従魔が射程内にいるようだな。おまえの攻撃が当て放題だぜ)
「ヴァルキュリアも射線上に含める事ができたら良いのだけど、無理にやる気はないわ」
内から愉しげな口調のドールに、フィアナはそう応じると、カオティックソウルで攻撃力を向上させたうえでライヴスキャスターを発動する。
フィアナの周囲にウルスラグナ型の武器が無数に展開し、一斉に放たれた攻撃は灼熱の奔流と化して、未だ攻撃を受けていない残るカレウチェに襲いかかる。
フィアナのライヴスキャスターは、直線状に存在したカレウチェの機関銃座を破砕してその身に穴をこじ開け、フィアナに貫かれたカレウチェは身悶えして失速し、高度を下げる。
(どうやらあの船達は機銃が届く高さから上昇することはなさそうです。今なら十分船達を『固定』できますよ)
「そのようだな。こいつはちょうど奴らの機銃と射程も同じ程度らしい」
カレウチェの様子を観測していたセラフィナから助言が届き、久朗はそう言うと携帯品からロケットアンカー砲を取り出す。
そしてその照準を結の攻撃で高度を下げ、眼前に来たカレウチェに向けると、久朗はロケットアンカー砲の引き金を引いた。
発射音と共に先端部がワイヤーの尾を曳いて射出され、吼えたける船の機銃の1つを先端部がクローを開いて握り潰し、久朗のロケットアンカー砲は文字通り船のアンカー(錨)と化して船の移動を拘束した。
「想詞、船を拘束した。今なら乗り移れるだろう?」
『ご協力、感謝するです!』
久朗が無線を介し、近くで身を潜めていた結に連絡を入れると、結は久朗へ短く感謝を告げて、フォレストホッパーの性能によって林の木々を自在に駆け抜け、久朗の拘束する船へと飛び移る。
一方ムバエの抱擁から脱した春花は威嚇射撃を発動し、春花の17式20ミリ自動小銃による銃撃が、飛来したヴァルキュリアを牽制する。
ヴァルキュリアが怯む間に、春花はライヴス通信機「雫」を介し、華鈴へ連絡を入れた。
「援護します。今のうちに飛び乗って下さい」
『ありがとう。では進ませてもらうぞ』
援護射撃を受けた華鈴はライヴス通信機で短く春花に礼を述べ、結とは別のカレウチェへと乗り移っていく。
「1人くらいは抱えて飛行できるみたいなのよ」
「感謝する」
久朗もまたカゲリの援護を受け、ライヴスジェットブーツで飛翔するフィアナの助けを借り、互いに短く言葉を交わした後それぞれが獲物と見定めたカレウチェへと降下していく。
「では、俺も行くとしよう」
フィアナの援護を終えたカゲリもリオン、明斗の援護のもと、フォレストホッパーを駆使して木々の頭頂部へと跳躍し、手薄と思われるカレウチェへと飛び乗った。
●殲滅
戦いは地上からカレウチェの船上へと2方面に広がりを見せていた。
「お前らの相手は俺達だ! よそ見してると危ないぞー」
ムバエの自爆攻撃で負傷し、頭上からのカレウチェの銃撃の嵐に耐えながらも、リオンは強気の姿勢を崩さない。
地上に残った明斗や春花と連携してムバエ達や、時折飛来するヴァルキュリアの攻撃を食い止め、負傷した味方へケアレイによる治癒のライヴスを送って治療して回り、エージェント達の支柱の役目を果たす。
「自分からも一応警告しておきます。あまり考えなしに攻撃すると、痛い目を見ますよ」
錫杖「金剛夜叉明王」を構えた明斗は、敵の群れにそう言いながらも自分への治療を後回しにしがちなリオンに向けリジェネーションを放ち、リオンを持続的に回復させる事で援護する。
そんな明斗に向け、ヴァルキュリアが翼をはためかせ、ライヴスを纏わせた羽根を投げ放ち、明斗へと羽根の嵐が襲いかかる。
迫りくる羽根攻撃に身を晒す明斗だったが、明斗の前にライヴスの反射鏡が出現し、ヴァルキュリアの攻撃を受け止める。
明斗のライヴスミラーだ。
そのまま羽根攻撃は、攻撃したヴァルキュリアへと反射され、自分の放った攻撃を受けたヴァルキュリアは他の羽を周囲に散らし、跳ね飛ばされる。
「だから痛い目を見ると言ったんです」
そう言い残すと明斗は次の敵に錫杖「金剛夜叉明王」を向け光弾状ライヴスを放ち、その先にいたムバエを撃破する。
その間に別のムバエを屠っていた春花の視界を、爆散したムバエがまきあげた土煙が一瞬遮った。
(ハル、上からの攻撃じゃ!)
エレオノワールの警告に、春花は本能的に近くの木を蹴って跳躍し、体を強引に捻じ曲げる。瞬間、土煙を貫くカレウチェからの機銃弾の奔流が、紙一重で流れ去る。
フォレストホッパーの性能によって近くの木へと飛翔できた春花が次の掃射を警戒するも、それ以上の銃撃は飛来せず、そのカレウチェの船上では華鈴が本格的な破壊活動に入っていた。
(カリン、乗りこんでしまえばこちらのものだ。このまま一気にこの従魔を撃破だな)
「言われるまでもないぞ、ふぇにや。そのつもりだ」
内からのフェニヤからの戦意を受け華鈴がエクリクシスに武器を持ち返ると、疾風怒濤やオーガドライブを発動し、息もつかせぬ3連撃や防御を捨てた猛攻で、カレウチェの船体を斬り裂き解体していく。
(乗車賃はタダでお願いするわ)
「そんなこと言ってる余裕はないと思うのです!」
別のカレウチェの上では、内にいるサラとそんなやりとりをしつつも、結は船内構造の把握に意識を集中させていた。
(恐らくこの大きさであれば、核となる部分がある筈なのよ)
「とは言っても、見つからないです。こうなれば重要そうなものを優先的に破壊していくです」
サラにそう答えると、結は炎剣「スヴァローグ」+1を振るい、灼熱の炎に変化させたライヴスを剣身に纏わせ、船内の構造物を破壊していく。
(こんな密林にはなさそうな形状をした従魔もいるんですね)
操縦桿や飛行のために使用されているような機関と思われるものを攻撃し、破壊していく久朗に向け、セラフィナは内より呟くが、久朗はふと破壊活動を止めて、虚空を見据える。
「救済だのなんだのと、余計なお節介だな。他に気の利いた事は言えないのか?」
久朗の視線と言葉の先にはヴァルキュリアがいたが、久朗の予測通り『救済を、救済を』としか言わず、久朗はヴァルキュリアからの情報収集を打ち切り、武器をフラメア+5に切り替える。
長い間多くの戦場を久朗と共にし、使いこまれたフラメアが旋風をあげて旋回した。
ヴァルキュリアは羽根を周囲に展開して防御壁を作成するが、突風の速度で突き出された久朗のフラメアはヴァルキュリアの構築した防御壁を一息で粉砕し、次の瞬間、久朗の鋭い穂先がヴァルキュリアの胸を貫いた。
「お前達をここに送った奴も、俺達が必ず捕らえる」
塵を噴いて消えていくヴァルキュリアにそう告げると、久朗は奮戦する味方の治療に移る。
(もうひと踏ん張りですよ!)
セラフィナの意志も込められた久朗のケアレイが味方の負傷を癒し、ライヴスリロードが術を使った味方に再使用の機会を与えていく。
やがて結と久朗が蓄積したダメージがカレウチェの生命力を尽きさせ、カレウチェは塵を曳いて落ちていき、地上に激突する前に消えていく。
「こんなフリーフォールはもう2度とごめんです!」
(あら、私は最高だと思うけど)
結とサラはそう言いあいながらも、落下するカレウチェからフォレストホッパーの能力で近くの木々に飛び移り、久朗も地面へと着地した。
別のカレウチェの船上では、フィアナが光弓「サルンガ」で矢状ライヴスを光のようなエネルギーの爆弾頭に変化させカレウチェの各機銃へ放ち、次々と破砕していったが、そこにもヴァルキュリアが飛来する。
「ヴァルキュリアも来るならいらっしゃい。その翼、貫かせてもらうわ」
(ヴァルキュリアは近くまで来るようだな。ここはウェポンズレインの出番だぜ)
内からのドールの指摘にフィアナは頷くと、ウェポンズレインを発動した。
フィアナやヴァルキュリアの頭上に無数の武装が召喚され、ヴァルキュリアとその下にいるカレウチェへと無数の武器が降り注ぐ。
頭や体を打ち抜かれたヴァルキュリアが塵を散らして落下し、カレウチェもウェポンズレインの範囲内だった区画に大穴を開け、高度をさらに下げる。
フィアナがヴァルキュリアごとカレウチェを攻撃する間に、複数回のリンクコントロールでレートを引き上げたカゲリは、改良したブレイブガーブ+5の能力を存分に引き出して自分の各能力を向上させていた。
(幽霊船に骸の群れなど何するものぞ)
――今の覚者こそ『燼滅の王』なれば。
ナラカがそう評するのを受け、カゲリはカレウチェに向け宣告する。
「意志が通じずとも、一切の加減なく。明確な敵としておまえ達を踏破する」
そしてカゲリは双炎剣「アンドレイアー」から2筋の剣光を煌めかせ、残存するカレウチェ内の構造物を切り刻むと、切断された個所や船体各所から塵が噴き出し、カレウチェは力尽きたように落ちていく。
フィアナはライヴスジェットブーツの再発動を終えており、カゲリを伴って船から脱出し、遅れて華鈴が乗り込んで暴れていたカレウチェも全身から塵を噴いて落下し消えていく。
地上で交戦し、最後に残ったヴァルキュリアは退却を試みたが、既に明斗やリオン達と連携してムバエ達を殲滅し終えた春花のアンチマテリアルライフル+1が、ヴァルキュリアをその照準に捉えていた。
(狙いよし! 放てー!)
「逃がさないんだからっ」
エレオノワールと春花の叫びと共に引き金が引かれ、大気を引っぱたくような銃声と共に、銃弾状ライヴスがロングショットの効果で吹き伸び、遠ざかるヴァルキュリアの翼を貫いた。
春花のロングショットに翼をもぎ取られたヴァルキュリアがのけぞって地面に落下し、その頭上からカレウチェを屠った華鈴が落下しながらヴァルキュリアへと肉薄する。
(普段なら、武器の破壊を狙うことは難しい。だが、この条件ならば……!)
「怪鳥よ、その獲物を頂く!」
華鈴とフェニヤが一撃粉砕を発動し、振り下ろしたエクリクシスがヴァルキュリアの武器をとらえ、その武器に一撃粉砕の衝撃が伝わると、ヴァルキュリアの武器は金属的な異音をあげて、武器の破片が飛び散った。
粉砕された武器が宙に散り、ヴァルキュリアが狼狽する中、華鈴からエクリクシスが繰り込まれる。
既に武器や翼を奪われたヴァルキュリアは、そのまま華鈴のエクリクシスに両断され、塵を噴いて消えていき、ここに従魔達の殲滅は完了した。
●次の舞台は
こうしてH.O.P.E.ギアナ支部付近を飛行していた従魔達は全てエージェント達によって駆逐され、制空権は再びギアナ支部に取り戻された。
これによりギアナ支部は拘束を解かれ、本格的なインカ支部救援の動きを加速させる。
「……さて。向こう(H.O.P.E.インカ支部)はどうなっているかしら」
「情報が錯綜しているようだぜ。持ちこたえているのは確かだな」
ドールは鑑賞する立場を崩してなかったが、フィアナを安堵させる情報をさりげなく届けていた。
「これでひとまずは安心でしょうか」
「かもしれないが……。この従魔達を送った奴がインカ支部のどのあたりに向かったのかは気になるな」
セラフィナからの問いに久朗はそう応じ、フレイヤの行方について思案するが、すぐに思い至る。
――インカ支部に向かった以上、救援に行けばいずれどこかで対決することになるだろう、と。
「あの骸どもを焼き『祓った』からといって、インカ支部への攻撃が緩むことはなかろう」
「あの従魔達が俺達やギアナ支部を拘束するだけで、十分役目は果たしたのだろうからな」
ナラカとカゲリは、今回従魔達をギアナ支部に差し向けたであろうフレイヤの意図を正確に見抜いていた。
「今は休んどけ。どうせすぐに戦うことになる」
共鳴を解いた明斗はドロシーにそう声をかけ、ドロシーと共に帰還の途につく。
休む事も戦うことである。
ドロシーは明斗に向けスケッチブックに『祝福制空権奪回 正義執行継続』と書いて、自分の意志を伝えていた。
「多分インカ支部にはこの何倍も空飛ぶ船がいると思うけど、結はどうするつもりなの?」
「墜落に巻き込まれるとか、宙ぶらりんはごめんです」
サラが結に今後の予定(?)を尋ねると、結はそんな返事を送ったが、インカ支部の危機が迫った時はある程度覚悟しようと内心決意していた。
「ハル、インカ支部の方はいかがするつもりなのじゃ?」
「仲間を見捨てる事はできないからね。大丈夫。なんとかなるはずだよ」
エレオノワールからの問いかけに、春花はポジティブ思考を崩さず『どうにかなる』と答え、エレオノワールと共に帰路に就く。
なお華鈴が撃破したヴァルキュリアより、華鈴とリオンが協力して回収できたRGWらしき武器の残骸は、インカ支部の救援が果たされるまで本格的な解析は難しいとのことだ。
今回回収できたRGWの詳細な性能は、いずれ明らかになるだろう。
「ふぇにや、かのふれいやという娘に心当たりはないか」
「……さあな。我の脳裏に奴の残滓など欠片もない」
華鈴の問いにフェニヤは首を横に振って答える。
「だが、奴に如何なる背景があろうと、剣を交えるというなら容赦はせん」
フェニヤは確固たる意志でそう告げる。
「生きているなら、まだ戻れるんじゃないかな」
仁菜の言う『戻れる』とは、フレイ・フレイヤのことだ。リオンは肯定も否定もせず、仁菜の話を聞いている。
道を切り開いて。もちろん仲間も守り抜いて。
――会いにいこう。フレイヤに。
救える命は救うという、仁菜の意思は変わらない。
インカ支部を舞台とするH.O.P.E.とラグナロクの全面衝突は。そしてフレイヤとの対決は、これから幕を開けようとしていた。