本部
【白刃】どうして私達を見捨てたの?
掲示板
-
相談卓
最終発言2015/10/20 10:22:56 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2015/10/18 14:31:27
オープニング
●
どうして普通なら送れるはずの生活を、私達には頂けないのでしょうか?
どうして私達は『普通』ではないのでしょうか。
どうして私達は――。
頑強な檻に閉じ込められて。抵抗する術もなく。社会からの隔離を強いられ、縋るものすらない。
『それは与えられるものではない。自分の手で奪い取るものだ。欲しければ求めるものを手に入れる機会をやろう』
声が頭に響く。忘れもしない。自分達を●●●●●●た存在の声だ。それと共に、今まで逃げ出そうとしても進めなかった先への道がひらかれた。
『お前達がもらえる筈だったものを、当然と受け取る連中から奪え』
踏み出した先には、ありふれた日常社会が広がっている。彼らが取り戻したいと願っていたものが、そこにある。
『お前達がそうなったのは、見捨てられたからだ。何度も救いを求めたのだろう?』
きっと助けに来てくれる。きっと救いの手は来てくれる。いつかきっと来る。いつか。きっと。
何度も願った。何度も祈った。何度も『彼ら』が来てくれる事を信じた。
けれど願いは届かない。祈るたびに祈りはうち砕かれた。信じるたびに来ない事実に裏切られた。
『ならば憎み、怒れ。それを容赦なくぶつけろ。今のお前達にはその力も権利もある』
声に従い、彼らは動き出した。
彼らの嘆きや怒りの矛先を向ける事が許されたのは、そこしかなかったから。
●
「緊急の依頼が入りました。内容は生駒山周辺ドロップゾーンから現れ、近隣の街へ襲いかかった従魔達の退治です」
心なしか担当官の表情や声は硬いが、動かす手は淀みなく、手元の機械から襲撃場所の地図が映し出された。
「場所は奈良県のとある街です。突如ドロップゾーンのある方角から、角を生やし、巨大な鈍器を振り回す鬼のような従魔や、従えていると思われる従魔が現れ、街の人々や建物に襲いかかりました」
映像は人々や建物を襲っている従魔らしきものに切り替わった。
異常に隆起した肉体と口から野獣を思わせる牙が覗き、頭には2本の角が生えている。そしてその手には、昔話にある鬼達が持つ金棒をそのまま具現化した様な鈍器を握って、街の建造物を破壊していた。
そんな鬼のような従魔達を、小柄な人型めいた何かが指示を飛ばし動かしていた。身体や衣服のラインから辛うじて女性めいた姿と思われるが、存在全てが白色に統一され、表情は長い髪に覆われて見えない。しかし時折、空に向けて大声で泣き叫んでいた。
『どうして私達がこんな目にあわなければいけなかったの!?』
『みんな死んだ!みんな化け物にされた!』
『どうして貴方たち能力者は、私達を見捨てたの?』
映像に上位存在らしき存在から記録できた音声が追加され、説明を聞いていた者達の耳にも飛び込んでくる。
それは一人のようでいて、複数の声のような不思議な音声だったが、紛れもなく慟哭だった。
「従魔を従え、動かしている以上、上位存在である事は間違いありません」
既にH.O.P.E.先遣隊が討伐のため現地に派遣されたものの、失敗して撃退され、今回改めて依頼が出されたという次第だ。
なお撃退はされたものの、先遣隊は従魔達のおよその能力を把握することに成功し、その情報も届けられた。
「先遣隊の話では、上位存在に関しては、なぜかある程度会話はできたようでしたが、すぐ泣き叫び、会話が続かないとの証言もありました。退治する事に支障がなければ対話を試みてもいいとのことです」
上位存在の発する嘆きに関して、説明する担当官に心当たりがあると気付いた能力者の一人が事情を聴くと、担当官は表情を消し、感情を殺して答えた。
「あの存在の言う通りです。私達は過去、生駒山周辺をドロップゾーンとして敵に譲り渡し、住んでいた住民達を見捨てました。H.O.P.E.東京海上支部が創設される以前から、連中のする事を黙認していたんです」
戦略的撤退。そんな上層部の言葉を、この担当官はあえて人聞きの悪い言葉で切り捨てた。唇が震えている。
「今回の襲撃は恐らく生駒山の愚神達が何かをする事を隠す為の陽動でしょう。今暴れている従魔達を退治して、被害拡大を防ぐことで、陽動は阻止できます。……ですが」
担当官は唇に力を込めていたが、すでに震える声を隠せていなかった。
「虫のいいお願いであることは承知しています。どうか彼らの嘆きと『願い』を受け止めてあげて下さい。あの従魔達は過去、私達が目を背けてきた事への怒りであり、犠牲になった人達からの、貴方がた能力者へ伝えたかった嘆きであり、『願い』でもあります。今の状況で受け止められるのは、貴方がた能力者しかいらっしゃいません。ですが私達も約束します。彼らの嘆きや『願い』を受け止めて下さったら、彼らの嘆きや『願い』を過去のものとせず、犠牲者を従魔に変えた存在へ辿り着き、報いを受けさせるため、あらゆる手を尽くします」
自分達が見捨てた無数の命は、労役や反省で贖えるものではない。だが、生きている以上は、命や全てを賭けて、誰かを、何かを救う事だけは赦される。
涙を流すことはできない、そんな資格はない。どれほど苦しくても、泣く権利など自分達には存在しない。それが担当官の課せられたことであり。
それは依頼参加者に『過去から差し伸べられた救いを求める手を取る当事者になってくれ』と願うことに等しいものだった。
解説
●目標
街を襲う従魔達を退治し被害拡大を防ぐ
●登場
ミーレス級従魔2体。通称『鬼』
身長3mの屈強な体と醜悪な顔つきと角を持つ外見をした従魔。自身の身長ほどもある金棒を持ち、振り回す。威力は高いが命中は低い。
デクリオ級1体。通称『白女』
身長1.4m。全てが白色で統一され、髪の長い少女のような外見。
泣き叫んでいる。しかし理屈は不明ながらも能力者の言葉には耳を貸し、限られた間会話は可能。
現在までに判明している各能力は以下の2つ。
・爪撃
爪を伸ばし刃にして振るう。鬼ほどの威力はないが、命中は高い。
・慟哭
言語になってない無数の嘆きの声が周囲に響く。範囲2。時々【翻弄】効果がある。
PL情報:依り代の人格は「自分は能力者達に見捨てられた」との嘆きに満ちており、その怒りの矛先を能力者と、かつて自分達ができた普通の生活を送る街や人々に向けている。自分を化物にした存在の事は曖昧な記憶があるが、自分の名前すら忘れている。嘆きを受け止め、対話する間はデクリオ級も遊びの為か引っ込み大人しくなる。しかしすぐにデクリオ級が主導権を握り、戦闘態勢に戻る。
●状況
街の一角。従魔の出没した場所にあった周囲は全壊。幅50m、奥行き60mの長方形の更地が広がっているが、現在範囲を拡張中。破壊した建築物の残骸が周囲に散乱し、身を隠せる程度の障害物はあちこち散乱している。
H.O.P.E.別働隊により周辺道路の封鎖と近隣住民達の避難は完了済み。今回申請すれば無線機の借用可能。
リプレイ
●
H.O.P.E.別働隊の案内を受け、現地に辿り着いた能力者と英雄達を待っていたのは、無残に破壊された街の一角だった。
また大きな音が響き、建物が悲鳴を上げて崩れ落ちる。その先にいるのは、伝承で恐怖の存在として語り継がれた姿そのままの、身長3mの巨躯を誇る鬼の姿があり、身の丈ほどもある金棒を振るい、街を破壊している。
その近くには鬼よりも小柄で、人に似ているが、髪から肌、装いまで白色の存在がいた。
ミーレス級従魔2体。通称『鬼』。デクリオ級1体。通称『白女』。
それが今回依頼に参加した能力者、英雄たちが退治すべき討伐対象だった。
霧島 侠(aa0782) はふと晴れ渡る空を見渡した。雲以外は見渡せず、やはりあの映像はH.O.P.E.別働隊のものだったかと思い直し、前を見据える。
飛影(aa0782hero001)は未だ喉元にある幻想蝶の中にいる。2人とも思うところがあっての参加だが、自分達の気持ちはあえて口にせず胸に秘めておく。
その横には一見すると女性と見紛う様な、虹色のようにも見える長髪の男性、アヤネ・カミナギ(aa0100)と英雄の正装に身を固めた蒼い姫騎士、クリッサ・フィルスフィア(aa0100hero001)が並び立つ。
「そうだな。どうあれ『見捨てた』事実は変わりはしない。ならば、その想い、その『声』は聞き届けよう」
お前達が嘆きをぶつける相手なら此処に居るのだから。
「この手の話はよくある事だけど……正直、慣れないわね」
口にこそ出さないが、クリッサにとって奪われた者達の憎しみや嫉妬の気持ちは分からなくもない。
だからこそ彼らの声を全て忘れず、討たせてもらう。
(……なんじゃこの声…胸が締め付けられる……)
「……輝夜……?」
既に共鳴化を終えた御門 鈴音(aa0175)が、内から聞こえる輝夜(aa0175hero001)の声に首を傾げた。
借用した無線機からは鈴音の心配を安堵させる情報が次々と入ってくる。
避難に遅れた者はいない。負傷者もいない。
『ただし現時点では』という言葉を耳にして、ここを戦場にするしかないと鈴音は覚悟を決める。
スーツ姿の坂野 上太(aa0398)は別の想いに囚われていた。
「悲しみ、苦しみ、絶望……あの『白女』は、きっと、僕の有り得た姿だ……」
大切な妻子を愚神が絡む事件で奪われたに上太には、目の前の化物達が『違う選択肢をとった』もう一人の自分に見えた。
「俺様は復讐だの、恨みだので暴れたりはしない。あれは、弱者の言い訳だ」
そんな上太の思考を、傍にいるバイラヴァ(aa0398hero001)が現実に引き戻させる。
「だから、俺様が、苦しみや悲しみを破壊してやるよ! 坂野のおっさん、やるぞ!」
破壊者を自称する赤色の英雄は揺るがない。
「あまりにも皮肉なものだな……そう思わないか?ナハト」
犠牲者が元凶となり、新たな犠牲者を作ってしまう。そんな負の連鎖が、ヴィント・ロストハート(aa0473)にとっては哀れで滑稽過ぎた。
何かを通り過ぎて笑い出したくなる衝動をこらえ、ヴィントは傍らにいる姫騎士、ナハト・ロストハート(aa0473hero001)に問いかける。
「……ヴィント、終わらせてあげよう」
とても苦しかったことでしょう。とても辛かったでしょう。だからこそ、ここで終わらせましょう。
その近くでは、必死に彼らを救う手段がないかと訴えるスラヴェナ・カフカ(aa0332)を気品に満ちた女性の姿をしたレティシア・オラーノ(aa0332hero001)が宥めていた。
恐らくスラヴェナ自身も救い出せる方法がない事はわかっているのだろう。それでもやはり可能性があればそれを探したい。
「どうしてみんなそんなにすぐ割り切れるものなの……? そんなのおかしいよ……」
「それであれを放置して更なる被害を増やすのは愚神の思惑通りじゃありませんの。あなた一体何をしに参りましたの?」
レティシアの厳しい指摘にスラヴェナは項垂れ、ようやく覚悟を決めた。
「……ごめんなさい」
それは誰に向けた言葉であったのかはスラヴェナしかわからない。
「アレはもう終わってしまった存在です。救うなんて考えないでくださいね、つくし」
「……うん、分かってるよ。でも、話はちゃんと聞きたいんだ」
メグル(aa0657hero001)の言葉に御代 つくし(aa0657)はそう返す。
既に準備は整えた。生駒山周辺に伝わる民謡を探し、自身のスマホにダウンロードしてある。
スマホにダウンロードできる音源については、管理する団体がいれば、その団体への許可が必要だったが、今回は担当官を通じて予め管理団体支部へ確認したところ、著作権の保護期間が消滅している作品であるので事前確認は必要だが手続きは不要との認可も受けている。
「苦情は私どもで対応します」
煩雑な作業を終えた担当官はそう答えていたが、依頼へ参加する全員分のハンズフリー無線機の借用申請手続きに来ていた、中性的な形貌に黒のトレンチコートで身を包んだ八朔 カゲリ(aa0098)は担当官の認識誤りを指摘した。
「お前は勘違いしている。約束と言わず、受け止めなくても必ず見つけると力を尽くすのが責務だろうが。……犠牲にした者達に報いると言う言葉が本当なら」
担当官は何も反論せず、カゲリに頭を下げた。
「仰る通りです。全力を尽くします」
できる事に全力を尽くす。そこに能力者も英雄も、普通の人々も関係ない。
つかの間、そんなやり取りをカガリは思い出したがそれを振り払い、今を見据える。
「死者の嘆きか。……痛ましくて見るに堪えぬよ」
その横に着物を纏う少女の姿をとるナラカ(aa0098hero001)が並ぶ。
「……して覚者よ、汝はそれに如何答える? まぁ、凡その見当はついておるがのう」
「胸には留めてはおくが受け止めるなんて御免だ」
対話はしたい者達がすればいい。
そしてカゲリはパンパン、と手を叩く。
「感傷する時間はここまでだ。これから従魔達を倒す。作戦内容は予め決めた通りだ」
作戦はとてもシンプルにできている。共鳴化した後2班に分かれ、2人がデクリオ級、通称『白女』を牽制し、残りの6人でミーレス級従魔、通称『鬼』2体を速攻で退治し白女班と合流。そして8人がそれぞれの方法で白女を退治する。
「任された。できる限りあいつから話を引き出させておく」
「鬼退治は急いでくれよ」
共鳴化を終え、瞳と髪を真紅に、片腕を異形と化したヴィントと、髪のグラデーションが一層蒼に近づいたアヤネがそれぞれそう言い残して白女のもとへ駆けると、残りの6人は鬼達のもとへ向かった。
●
先に白女のもとへ到着したヴィントとアヤネを前に、白女は全ての爪を刀剣のように伸ばし、鬼達とは異なる速さで斬りかかってくる。
アヤネは竜の爪を素材とした大剣で爪刃を食い止め、ヴィントはアヤネの大剣を潜り抜けて襲いくる残りの爪刃を無骨な大剣で防ぎ止めたり、時に白女の背後に回り込もうとする動きを見せ、白女の集中や指揮を乱す。
白女もアヤネと攻防を繰り返しながら、ヴィントの挟撃を狙う機動も警戒し、アヤネを中心としてヴィントと白女が互いに回り込む円舞のような動きが形成されつつあり、二人は白女相手に時間を稼ぎ続ける。
一方鬼退治の為動いた6人達も次々と共鳴化を果たしていく。
共鳴化し、右手に水のようなライヴスを纏う槍、左手に銀の盾を顕現した姿の『内側から』聞こえてくるスラヴェナの声にレティシアはため息をついて呟いた。
「真相追及は後でもできます。今は戦闘に集中しなさい。皆さんの足を引っ張るつもりですの?」
この二人の場合は英雄であるレティシアが主導権を握り、能力者であるスラヴェナが内に入る珍しい繋がり(リンク)だ。
既に上太は20代の姿に変わり、周囲にある残骸へ向け駆け出し、つくしが髪と瞳だけメグルの色となり、鬼とは距離をとって対峙する中、侠は喉の幻想蝶を弾いて自分の英雄に声をかける。
「飛影、行くぞ」
侠は共鳴し、紫色の人の形をした鳥人の姿となる。なおも侠は歩みを進め、既にヴィント、アヤネと交戦を開始した白女を助けようとする鬼の前に割り込もうとする。
侠の接近に気付いた鬼が侠へと向き直り、金棒を振り上げる。しかし鬼は早足で近づいてくる侠の歩みに戸惑う。
侠は足運び、歩幅、踏み込みを一定にせず、一貫して歩みを続ける。鬼はその歩みに間合いを見誤り、侠には届かない距離から金棒を振りおろし、轟音と共に周囲に粉砕された瓦礫の破片が舞う。
侠は身体を捻り、鬼の膝への回転蹴りを放ち、鬼の膝を打ち据えたが、鬼はそれほど効いたような表情を見せない。
AGWを介さない攻撃では威力が半減する事は侠も知っていたが、白女から引き離す為の攻撃だ。
そこへ侠が歩を進めてきた方角の近くから魔法の剣が鬼へ飛来し、鬼の体を射抜く。鬼が苦痛の悲鳴を上げた。
「あまり遊びすぎるな。時間がないんだ」
やや間合いをとって魔法書から先程の剣を射出したカゲリが呆れた声を侠にかける。既に共鳴化を終え、その髪は腰まで届く銀色の長髪に、瞳は真紅へと変わっている。
侠は言いたいことをのみこみ、反論せずに鬼の片足を両腕で持ち上げ、足首を脇腹に抑えこむと、自ら体勢を崩して旋回し、回転に鬼を巻き込み、強引に投げ飛ばした。
投げ飛ばされた鬼が起き上がろうとすると、銀色の魔弾が鬼の胴体に喰らいつきたまらず鬼は悲鳴を上げる。
上太から放たれた銀の魔弾だ。
地下へもぐっての一撃離脱戦を考えていた上太は、事前にこの都市区画にある下水道など地下に走る配管図付きの地図の借用申請をしていたが、必要な手続きに時間がかかり、地下へ潜っての戦いは断念した。今は周囲の残骸を利用する戦法に切り替えている。
鬼の1体は侠に投げ飛ばされ、もう1体の鬼も同じく周囲の残骸に身を隠しながら鈴音が鬼に接近して前衛となり、後衛としてつくしとレティシアが回り、同じ方向への引き離しが成功しつつある。
その鈴音に鬼が金棒を振り下ろす。
右に転がって振り下ろされる金棒を鈴音は躱すと、先程まで自分がいた場所へ金棒が叩きつけられ、周囲へ地面や家屋の残骸を盛大にばら撒いた。
そこへ槍の形をした光が鬼の目に襲いかかり、光の槍は鬼の目を貫き、鬼を悶絶させた。
「鈴音さん、怖いですか?」
槍を放った本を片手につくしが鈴音に近づくと、つくしは無理のある敬語を使いながら鈴音に声をかける。
「ええと……はい、少し」
恐怖がないと言ったら嘘になる。鈴音は素直に頷いた。
「安心して。私も怖いから」
こちらが地なのだろう。明るい声で笑いかけるつくしにつられ、鈴音も強張った笑みを柔らかくして答えた。
「ですが、怖いのは人間だから、とも言えますね」
「人間だから怖くて当たり前だと思います。その恐怖を踏み越える事が皆さんのブレイブ(勇気)というものでしょう」
レティシアがそう言いながら収縮する魔力は銀から黒い刃となって鬼に放たれた。
レティシアの黒刃は正確に金棒を握る鬼の手首を貫き、手首のついた金棒が宙に舞う。
(この程度とは笑わせる……。見せてやる……本物の鬼の力を……!)
鈴音の身に輝夜の力が添えられ、鈴音は鬼達に向かい、弾丸のような速さで斬りこんだ。
この時鬼達にとって不運だったのは、たまたまお互い近い距離にいた事だ。その為、2体の鬼は両方とも鈴音が繰り出す血色の刃の嵐の洗礼を受け、全身を切り刻まれた。
一方、残骸の間を駆け、容易に自分の位置を悟らせない戦いをしていた上太に、内にいるバイラヴァから声がかかった。
(この鬼ども、魔法攻撃のほうが効くみたいだぜ。みんなに知らせてやれ)
猪武者と誤解されがちだが、いかに効率的に破壊できるか考えているバイラヴァの言葉だ。
即座に上太は了承すると無線を介し、バイラヴァの言葉を全員に伝える。
「なるほど。ならばこのまま俺は魔法の剣で鬼退治といこう」
カゲリは目の前でもがく鬼達に向け本を掲げ、未だ金棒を握る方の鬼に向け魔法の剣を射出する。
カゲリの魔法の剣は正確に鬼の脇腹を貫き、苦悶の声を上げて鬼は地面に膝をつく。
(今だ坂野のおっさん。鬼どもを焼き尽くせ!)
バイラヴァに背を押され、上太は鬼達との間合を詰めるとライヴスの火炎を鬼達に放った。
炎に絡みつかれ、2体の鬼の体全体を炎が駆け巡り、やがて全身を炎に包むと鬼達の体が光る粒子となり霧散する。 後にはかつての犠牲者2人の姿が残った。
だが戦いは終わっていない。6人はヴィントとアヤネが牽制している白女のもとへ駆ける。
一方、白女との戦いではアヤネを中心とするヴィントと白女の円舞めいた戦い方は終わり、ヴィントとアヤネは爪刃と事前情報のあった慟哭との戦いに突入していた。
時々慟哭に付属するプレッシャー苛まれながらも、なんとかヴィントとアヤネはお互いの綻びを埋め合い、1本1本がそれぞれ独立した軌道で迫りくる爪刃を凌ぎ、あるいは反撃を繰り返していた。
いますぐ剣の死(すくい)を与えたい。だが、話は聞きださねばならない。
ヴィントにはそれがもどかしい。
「何故……答えて」
「言いたい事は全て告げていってくれ。忘れずに聞き届ける為にもな」
既に何を問うつもりなのかは知っているが、アヤネは白女に問いかけた。
ヴィントは話を引き出そうとするアヤネへの白女の爪刃を、無骨な大剣を駆使して防ぎ止める。
「貴方たちが私達を見捨てた事よ! それだけでも、それだけでも許せないのに……!」
ヴィントの振るう大剣に耐えきれず、白女の爪刃がへし折れるが、もはや白女は構わずに絶叫した。
「貴方達は『私達の存在すら忘れた』! 私達は『犠牲者多数』なんて数字じゃない!」
その絶叫は、合流しようとする6人の耳にもはっきりと届いた。
「どうして見捨てたの? どうして忘れたの? 私達は確かにここにいたのに、どうして……!?」
担当官はカゲリの指摘通り、思い違いをしていた。
化物となった人達の本当の願いは別にあった。
―私達は、確かにここにいた!
いなかった事にされたくなかった。忘れないでほしかった。自分達を認めてほしかった。
それが化物にされた犠牲者達が貴方がた能力者、英雄達へと届けられた『願い』だった。
●
「ならば聞こう。そういうお前は今、何をしている?」
ヴィントの言葉に泣いていた白女の震えが止まる。
「な……に……?」
「そうやって泣きながら、ここで何をしているのかと聞いている」
ヴィントは自分の後方に指を差し、これまで白女が直視しなかった『現実』をつきつけた。
残骸となったかつての都市区画や、破壊しつくされた景色がその先に広がっている。
その光景と、かつての自分達がいた街並みが一瞬白女の脳裏に重なった。
アヤネもヴィントに続き、さらに指摘する。
「今はまだ犠牲者は出ていない。しかしこれ以上暴れて、『犠牲者多数』を増やすつもりなのかと聞いているんだ」
「ち、違う。私は、私達は……」
再び白女が震えだす。しかし今度は恐怖からの震えだった。
いくら目を背けても、どの方角にも瓦礫や残骸の光景が待ち構えている。全て自分達がしでかした結果だ。
恐怖を、破壊を人々に与えている。これではまるで、自分達を殺して化物にしたあの存在と同じではないか。
頭を抱え、白女は絶叫し苦悶した。
未だに憑依している悪意は表に出てこない。どうやら楽しんでいるようだ。
一方言葉を発したヴィントとアヤネは、苦々しい思いを抑えこみ平然を装っていた。
例え憑依する悪意を喜ばせる事になろうと、残る6人が集う為の時間が必要だったから。
やがて再び白女からの慟哭がヴィントとアヤネに襲いかかる。一瞬意識が遠くなるが、そこへ別の声が割り込んだ。
「チクッとするぞ」
一瞬光の羽が見えたかと思うと2人の意識が鮮明に戻り、先の声が侠のものと知る。
それは全員が合流を果たした事を示していた。
事ここに至って、彼らを救う方法の正解はない。だからこそ、正解は人の数だけある。
「忘れません! その為に僕達は来たんです! 誰にも否定させません!」
先程鬼達を葬った火炎を白女に放ち、炎に包まれた白女に上太はそう叫ぶ。
「あなた達の悪夢はここで終わらせて差し上げますわ」
レティシアより、不浄な風が放たれ、白女の全身を包むと、その体が腐食を始める。
「私は能力者なのに、何もしてあげられない……だけど……だからこそ…止めて見せる!」
鈴音は涙を拭うと防御を捨て、血色の刃の鋭さを増した攻撃を白女に叩き込んでその体を切り裂く。
(さて、ならば弔ってやるとしようか)
「俺は愚神として殺す。それだけの事だ」
ナラカの声を受け、カゲリは白女に魔法の剣を放ち、その刃は白女の脇腹を裂いた。
「ごめんね。私には、貴方達を助けることは出来ない」
表情を消し、つくしは謝罪の言葉を口にする。
「でも『次』は間違えない。貴方達の『願い』は確かに受け止めたよ。貴方達のような人を増やさない、貴方達をこんな風にした存在を見つけるって誓う。だから、そのために、ここで貴方達を殺す。そうすることしか、貴方達を救えないって思うから」
つくしは光の槍を顕現し、鋭化した銀の魔弾も織り交ぜて白女に放ち、全てが白女の体に喰らいつく。
「今こそ剣の死(すくい)を与えよう。その全てを喰らい尽そう」
それが自分にできる唯一の手向けと信じ、ヴィントが攻勢に転じ全身を射出した。
防御を捨て攻撃へと変えて、己の動きを全て武器に託したヴィントのオーガドライブの一撃が白女の体を貫く。
「お前達にとって『救い』となるかは分からないが……せめてそこから解放しよう」
アヤネもまた防御を捨てる。もはや負傷など構わない。身体を捻り、回転力を上乗せした大剣を白女に叩き込む。
やがて白女の体が光る粒子となって犠牲となった女性の姿を残して消えていく。こうして戦いは幕を閉じた。
●
連絡を受けた別働隊が元の姿に戻った犠牲者達に布を被せ、街の残骸と共に運び出されていく。後で別働隊に話を聞いたところ、犠牲者たちの顔はいずれも安らかな笑顔だったとの事だった。
その中で鈴音は近くにあったもので仮の墓を作り花を添え、スラヴェナと共に弔いの祈りを捧げる。
「……なんで関係ないお前が泣くんじゃ……」
涙を流す鈴音に輝夜は小さく呟き俯く。。
つくしはスマホから民謡を流し「おやすみなさい」と呟く。騒音などと言わせない。
上太は墓標代わりになる何かを立たせる。
「落ち着いたら、ちゃんとしたものを建たせます」
その横でバイラヴァが手帳の紙を使って花の折り紙を鈴音の作った墓へ添えていく。
「俺様からだ。あの世で光栄に思いやがれ。お前らも折るか?」
バイラヴァがそう周囲の仲間達に告げた時だ。
不意に別働隊達の肌がゾクリとすると、何かが舞い降り、ぐしゃりという音が響いた。
フルフェイスのヘルメット。コート。手袋、いずれも黒色の人の姿が足元にあった墓と花と折り紙を踏み潰していた。
こんな真似ができるのは人間ではない。恐らくは。
「「「「「「「「「愚神!」」」」」」」」
即座に共鳴化を再開した8人へ微動だにせず、それはこう告げた。
『殺すのは話を聞いてからでも遅くないだろう?』
「全員少し待て」
ヴィントが冷静な声で仲間を制止する。
「用件は何だ? 見ての通り、全員気分は最悪でね。手短にな」
「私の名はピエタ。ライヴスも奪えない廃棄物を使って作った贈り物を気に入ってくれた御礼に1つ助言を贈ろうと思ってね」
自分へ向けられる戦意に動じることなく、8人が戦った哀れな犠牲者達を廃棄物と呼んだそれは告げた。
「もうすぐ君達には試練に挑む機会が訪れる。できる全てをかき集めて乗り越え給え。君達には恐らくその資格がある」
「それはどうも」
ヴィントは凄絶な笑みを浮かべ、いつの間にか愚神の傍まで接近した侠が告げた。
「1ついいかい? この状況で俺達が見逃すとでも思ったか?」
返答を聞くことなく、問答無用で侠は片刃の曲刀を繰り出した。
斬り飛ばされ、愚神はあまりにも呆気なく全身を寸断され、その体から光る粒子が拡散し、ヘルメット、コート、手袋や靴、マネキン、そしてスマホが地面に落ちた。つまりこれはその姿を真似た従魔だ。
『何の対策もなく来る訳がなかろう。それでも君達は興味深い』
残ったスマホから愚神の声が響く。
『この機械を含め、私が残した証拠と君達の捜査能力があれば、私のもとへ辿り着ける筈だ。招待状を送ってもいい。その時に私と戦うというのはいかがかな?』
それは自身との戦いへの誘いであった。
『来たい者だけ来るといい。歓迎しよう』
その言葉を最後にスマホから声が途絶え、機械は沈黙した。
言葉通り、その場に残る証拠らしきものを仲間達と手分けして集めた後、カゲリはH.O.P.E.に提出して告げた。
「全力で調べてピエタとやらの愚神のもとまで必ず辿り着け」
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
---|