本部

【白刃】潜めて動け

真名木風由

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 6~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2015/10/27 00:36

掲示板

オープニング

●H.O.P.E.
「……老害共が、好き放題に言ってくれる」
 H.O.P.E.会長ジャスティン・バートレットが会議室から出た瞬間、幻想蝶より現れた彼の英雄アマデウス・ヴィシャスが忌々しげに言い放った。
「こらこらアマデウス、あまり人を悪く言うものではないよ」
 老紳士は苦笑を浮かべて相棒を諌める。「高官のお怒りも尤もだ」と。

 愚神『アンゼルム』、通称『白銀の騎士(シルバーナイト)』。

 H.O.P.E.指定要注意愚神の一人。
 広大なドロップゾーンを支配しており、既に数万人単位の被害を出している。
 H.O.P.E.は過去三度に渡る討伐作戦を行ったが、いずれも失敗——
 つい先ほど、その件について政府高官達から「ありがたいお言葉」を頂いたところだ。

「過度な出撃はいたずらに不安を煽る故と戦力を小出しにさせられてこそいたものの、我々が成果を出せなかったのは事実だからね」
 廊下を歩きながらH.O.P.E.会長は言う。「けれど」と続けた。英雄が見やるその横顔は、眼差しは、凛と前を見据えていて。
「ようやく委任を貰えた。本格的に動ける。——直ちにエージェント召集を」
 傍らの部下に指示を出し、それから、ジャスティンは小さく息を吐いた。窓から見やる、空。
「……既に手遅れでなければいいんだけどね」
 その呟きは、増してゆく慌しさに掻き消される。


●ドロップゾーン深部
 アンゼルムは退屈していた。
 この山を制圧して数か月——周辺のライヴス吸収は一通り終わり、次なる土地に動く時期がやって来たのだが、どうも興が乗らない。
 かつての世界では、ほんの数ヶ月もあれば全域を支配できたものだが、この世界では——正確には時期を同じくして複数の世界でも——イレギュラーが現れた。能力者だ。
 ようやっと本格的な戦いができる。そんな期待も束の間、奴らときたら勝機があるとは思えない戦力を小出しにしてくるのみで。弱者をいたぶるのも飽き飽きだ。

「つまらない」
「ならば一つ、提案して差し上げましょう」

 それは、突如としてアンゼルムの前に現れた。異形の男。アンゼルムは眉根を寄せる。
「愚神商人か。そのいけ好かない名前は控えたらどうなんだ?」
 アンゼルムは『それ』の存在を知っていた。とは言え、その名前と、それが愚神であることしか知らないのであるが。
「商売とは心のやり取り。尊い行為なのですよ、アンゼルムさん」
「……どうでもいい。それよりも『提案』だ」
 わざわざこんな所にまで来て何の用か、美貌の騎士の眼差しは問う。
「手っ取り早い、それでいて素敵な方法ですよ。貴方が望むモノも、あるいは得られるかもしれません」
 愚神商人の表情は読めない。立てられた人差し指。その名の通り、まるでセールストークの如く並べられる言葉。
「へぇ」
 それを聞き終えたアンゼルムは、その口元を醜く歪める。
 流石は商人を名乗るだけある。彼の『提案』は、アンゼルムには実に魅力的に思えた——。


●潜めて動け
 『あなた』達は、資料を読み込んでいた。
 現在は移動中……少しでも情報は頭に入れておきたい。
 この任務は偵察任務……情報を持ち帰ることが何よりも重要だが、それには自分達自身が資料にある情報を読み込まなければ情報を得るどころの話ではなくなるからだ。

 生駒山に巨大なドロップゾーンを構える愚神アンゼルム。
 この愚神によるこれ以上の被害を防ぐ為、大規模な掃討作戦とドロップゾーン除去作戦の敢行を決断した。
 『あなた』達は、陽動を担当するエージェントが敵を引きつけている間に偵察を行う。
 陽動してくれるとは言え、引っかからなかった愚神や従魔がいる可能性もあり、遭遇した場合は彼らの妨害を排除する必要があるだろう。

 地図は、頭に入れた。
 やるべきことは、見えている。

 『あなた』達は、前を見据えた。
 陽動をしてくれるエージェント達の為にも少しでも多く情報を持ち帰らなければ。
 それから……生存者の存在は絶望的と言われているが、意識を失っていてもまだ途絶えていない者がいるかもしれない。
 奇跡に近い確率であっても生存していれば、救いたい。

 ……往こう。

解説

●目的
・情報を持ち帰る(生存者を発見出来れば生存者も)
・敵と遭遇した場合排除する

●偵察場所
・生駒山付近にある住宅街

「【白刃】陽動せよ」でエージェント達が向かった場所とは若干離れています。
こちらの方がより生駒山に近い場所となっています。
過去戦闘があったらしく家屋が全壊または半壊状態が殆どです。

●敵情報(PL情報)
・ケントゥリオ級愚神アレスx1
黒馬の下半身を持つ青年型愚神。
大剣での攻撃の他、思念操作で複数の短剣を同時に操る(射程8)
力・命中・移動力が高め。自身の回避があまり高くないことより、思念操作の短剣で防御も行う。
1ラウンド消費で次の攻撃威力を倍化させる能力を持つ。

・デクリオ級従魔ハヤテx2~
子鬼のような容姿をした従魔で腕にブレードのような刃がある。直接攻撃担当。
力はそこそこだが、移動力・回避・命中が高め。
全力移動してもそのラウンドで攻撃出来る能力を持つ。

・デクリオ級従魔サイカx1~
黒いローブを羽織り、中の姿は見えない従魔で両腕が銃となっている。遠距離攻撃(射程15)担当。
移動力・回避は低めだが、命中が高く、腕や足程度の部位攻撃であれば苦にしない。
意図的に跳弾させる能力を持つ。(跳弾時は不意打ち判定、ただし威力は通常より低下)

・デクリオ級従魔エンx1~
30cm物差し程度の大きさの空飛ぶ子鬼。援護担当。
移動力が高い以外自身の能力は低い。
ただし、自身を中心に30mに超音波を発生させることで、範囲内の従魔の回避と命中を上げる能力を持つ。
(超音波は300ラウンド継続、範囲内全ての従魔・愚神に有効)

※従魔3種の数は「【白刃】陽動せよ」の成否に影響します。
大成功→ハヤテは1体減少、サイカ・エンは登場せず
成功→表記数のみ登場
普通→各種1体増加
失敗以下→ハヤテ・サイカは2体ずつ増加、エンは1体増加

●注意・補足事項
・敵とは遭遇戦闘になります。
・危険を伴う任務の為報酬は多目となっています。

リプレイ


 三坂 忍(aa0320)は、注意深く周辺を見回した。
(ドロップゾーン周辺ってだけでこの緊張感……)
 生駒山付近にあるこの住宅街は、ドロップゾーンの内部ではない。
 陽動作戦を展開してくれるエージェント達が向かった場所からは若干離れた場所にあり、過去の激戦の傷跡が色濃く残っている。
(『これでもまだドロップゾーン内部ではないようじゃの』)
「内部そのものじゃなくとも、敵の陣地みたいなもの。何があってもおかしくないでしょ」
 忍は、共鳴している玉依姫(aa0320hero001)の内なる呟きに応じる。
 今回は、ドロップゾーンそのものへの潜入ではなく、周辺偵察が目的……が、ドロップゾーン内部でなくともここは安全な土地ではない。
「生存者、いると思う?」
(『どうじゃろうな。いることを前提に考えぬ方が良いじゃろう』)
 職員達が待機している場所は従魔や愚神の襲撃を考慮し、だいぶ距離を置かれている。 
 陽動作戦を行うエージェント達よりも生駒山に近い場所へ赴いていることもあり、生存者を保護した場合、その程度にもよるが、安全な場所へ連れて行くことも重要なミッションになるだろう。
 忍はそう思ったのだが、玉依姫は忍が望むままの協力はするが、単独行動という性質上、我が身の無事と情報を持ち帰るのを優先に考え、保護目的で行動はしない方が最終的にはいいと告げる。
 保護をしたければ、逆に意識の比重を置き過ぎない方がいいという意味合いのもので、保護をするなというものではない。
「従魔は何にでも憑くけど、ライヴス保有量の多さに着目する傾向がある。なら、従魔の近くに生存者がいる可能性も考慮出来るけど……問題は、生存者の状態よね」
 生きていたとしても、意識を失っている可能性は十分ある。
 奇跡に近い可能性と言われているのだ、生きていても、意識を保っているかは別問題だろう。
(……偵察は、情報を持ち帰ること……)
 敵の目的は、どこにある?
 忍は、生駒山へ視線を向ける。
 生駒山付近の住宅街は市の方針で生駒山がよく見えるように設計されていたらしいこともあり、全壊と半壊で構成される住宅に関係なく、その姿はよく見えた。

 時同じくして、キルロイ(aa0075hero001)と共鳴している成田 泰人(aa0075)も先行偵察を行っていた。
 連絡手段は整えられているが、敵の勢力圏内であり、何があってもおかしくはない。
 この為、全体方針が慎重、無理をしないものとなったのも頷ける。
「情報収集……まぁ、お似合いの任務だな」
(『キルロイはここにいる。情報は持ち帰る』)
「頼りにしてるぜ、伝説の諜報員さんよ。ただし」
 落書きは、ここではするな。
 キルロイは泰人の言葉に、『キルロイの存在、何故示してはいけない』と不服を述べたが、泰人は「陽動してくれているエージェントが苦労してくれているのだから、無駄にならないよう頑張るのが優先」とキルロイを説得する。
 高い移動力が売りである為の先行偵察、自分達と同じように単独行動をしている忍と連携することも忘れず、また、纏まって動くエージェント達とも連携を忘れない。
 互いの状況を確認しつつ、情報収集を行っていく。
「そういや、忍が言っていたが、敵はレガトゥス級の愚神の召喚を目論んでいるのかもなって。それを確認出来れば大きいんじゃないかって」
(『推測を確定する情報収集が必要。情報は欠片、客観的に集め、確定』)
「可能性的には上もそう思っているだろうけど、確固たるものは欲しいな」
 泰人はキルロイの言葉を受け、頷く。
 H.O.P.E.も状況的に愚神アンゼルムがそういう方向で動く可能性は考えているだろう。が、それを断定させる為の情報を得る為に今ここにいるのだから、確固たる根拠を入手しておきたい。
「陽動が必要ってことは、それだけ従魔、愚神がこの付近にいてもおかしくないってことだろ? 全体としては、敵が気づいていないならこちらから仕掛けず、極力やり過ごす方針だが、やり過ごせない場合もあるだろうしな」
(『危険なら撤退すればいい。逃げながらでも、情報は拾える』)
 ヤバイ相手に無理をする必要はない。
 単独で動いていようが、全体で動いていようが、それは変わらない。
「忍が言う通りなら……従魔も愚神もアンゼルムの下に行ってるのかもな。ドロップゾーン作成するとかしないとか関係なく」
 アンゼルムが高位の愚神なら、ドロップゾーンを作成できるケントゥリオ級の愚神を従わせることも出来るだろう。
 ここはドロップゾーン内部ではないが、そこで仮にケントゥリオ級の愚神と遭遇したとしても、その愚神がゾーンルーラーという保証はない。
 他の場所であるならゾーンルーラーであると思って間違いないだろうが、アンゼルムの勢力圏であるこの地なら、アンゼルムの下に集った愚神の1体に過ぎず、ゾーンルーラーではないかもしれない。
 ドロップゾーン内部に踏み込む訳ではなく、また、実際に遭遇している訳ではないので、推測の域を全てでない話ではあるが。
(『あるがまま受け取る。既成概念で邪魔しない。ありえないことがありえない。情報収集の基本』)
 キルロイの言葉を受け、泰人は生駒山の頂上を見る。
 市民にとって象徴的な山であっただろうその山は、今は不気味に見えた。


 忍と泰人から定時連絡を受けつつ、残るエージェント達も慎重に付近を偵察していた。
「ドロップゾーン周辺、という話だったが、生駒山付近に展開するドロップゾーン内部ではないこの場所でも十分不気味だな」
 カトレヤ シェーン(aa0218)は、半壊の家屋内部で視線を巡らす。
 過去に戦闘があったと推測される場所だが、生存者がいる可能性がなくはない。奇跡的な確率であったとしてもゼロではないなら、見落としてはならない。
 それに、陽動してくれているとは言え、油断は禁物だ。
「この家屋から、生駒山は特によく見えるな」
「そうですね。住宅街がそういう形成をしていたとのことですが、ここは全壊の建物が前方に展開しているだけあり、見易くなっているようです」
 真壁 久朗(aa0032)が外に視線を転じると、構築の魔女(aa0281hero001)と共鳴している辺是 落児(aa0281)が構築の魔女へ主導を渡している形で応じ、スマートフォンで生駒山の頂上を可能な限りズームで撮影した。
(『陽動の必要がある程度には、この場所は生駒山に近い』)
 久朗へ告げるのは、彼と共鳴するセラフィナ(aa0032hero001)だ。
 陽動して貰っているのだから、出来る限りのことをと言うセラフィナは、アンゼルムの為に集った従魔や愚神が行き来し易いルートは視認出来ないかと聞いてくる。
「生駒山自体閉ざされた山ではないから、使用しているルートはあると思う。ただ、かつて人が使用していたルートと同じかどうかは断言しない方がいいだろうな。従魔も愚神もこちらのルールで存在してる訳じゃない」
(『人が苦にしているルートも苦にせず直線で向かう可能性もなくはないか。こちらのルールに当てはまらないなら、そうした場所で組織立った動きも出来るだろうしな』)
 久朗が家屋の状況をメモしながら言うと、セラフィナもなるほど、と頷く。
「今の所生存者はないですね。倒れている方がいらしても、既に亡くなっていますし」
 志賀谷 京子(aa0150)も半壊の家屋から、生駒山の地形が変化していないかを注意深く確認している。
 今の所、生駒山の地形が変化したようには見えないが、過去の戦いは生駒山の麓、そこに到達する前、この住宅街のような場所で戦闘になり、敗北を喫したのかもしれない。
(やってくれたじゃない? このまま黙っている訳にはいかないよね)
 実は猫被りのお嬢様、京子は先程の口調とは異なる言葉で共鳴しているアリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)にだけ語りかける。
(『そうですね、京子。侮られたままでいるのは良くありません』)
 暴れるのはまだ先の話、と京子が告げると、アリッサは生真面目に暴れたい訳ではないと返す。
 そう、京子は生真面目な人をからかうのが好き、アリッサは被害者1号なのだ。
「何が起こっているのかよく分からない現状だからこそ、わたし達が果たす役割は大きい。何としても情報を持ち帰らないと」
 アリッサ、またよろしく。わたしを助けてね。
 最後の言葉だけ、アリッサだけに告げるよう心の中で。
 今は、皆と手分けしてスマートフォンで画像記録し、情報収集に努める。

「……敵は、出来る限り証拠隠滅しているのかもしれないな」
 何軒目かの半壊家屋での情報収集を行っていると、久朗がふと漏らした。
「何か根拠が?」
 落児の身体で構築の魔女が問うと、久朗は壊れている場所を示す。
「今の所、個人邸宅や車……壊れている場所は皆、カメラがあったような場所の気がする」
 久朗は監視カメラやドライブレコーダーが残っているなら、それを回収することも考えていた。
 が、それらがありそうな場所は全て破壊されている。
「……瓦礫が撤去された形跡はございませんでしたが、撤去する必要を感じなかったのかもしれませんね」
「戦闘があった場所というのはあるだろうが、それにしては、それっぽい場所とかあったんじゃないかって車はそこだけ原型がない」
 久朗が構築の魔女らしい見解に続くようにそう言った。
(『我が思うに、戦闘の余波で破壊されたものもあるじゃろうが、そうではなく破壊されたものもあるじゃろうと思うがの。アンゼルムではなくとも、記録が気に入らないと思う者はおるじゃろ』)
「……それは、あるな。──全ての邸宅、車に監視カメラ、ドライブレコーダーがある訳ではないだろうが、不自然ではあるな。破壊された法則として記録しておくべきだろう」
 王 紅花(aa0218hero001)へ短く応じたカトレヤは、アンゼルムの仕業と断定しない上で自分達へ証拠を与えない破壊活動があったという記録を残すべきと話す。
「……また、亡くなっていらっしゃるわ」
 京子が愚神と従魔の襲撃から身を守ろうと身を隠したが、亡くなってしまったと推察される若い母子を発見する。
 カトレヤと共に礼を失さないよう一礼、丁寧に整える。
 収容する余裕がない為、今出来るのはそれだけ。
 心苦しく思っていると、ふと、カトレヤが子供の手からぐしゃぐしゃの紙が落ちたことに気づいた。
 重要な情報になりえる言葉があるかもしれない、と手を伸ばす。
『おやまにこわくてわるいやつがいっぱいきてるから、おとうさんがおうちにかえってきませんように』
 怖くて悪い奴……生駒山に愚神と従魔が集っていると明確に示した言葉だ。
 父親を捜して渡す必要はあるだろうが、同時に情報のひとつでもある。
(『父親に渡すかも知れぬのなら、記録しておくべきじゃろ』)
「そうだな。この子の、最後のお願いだ」
 紅花に答えたカトレヤが手紙全文が写るようにスマホで記録している間、京子が半壊の家の表札を撮影し、この家の情報を記録する。
 その間に構築の魔女が主体を務める落児は、生駒山を見つめた。
(『推察される通り、レガトゥス級の愚神を呼び出すなら、攻勢に出てこない理由も納得がいきます。けれど、何か引っ掛かる……』)
 話に聞くアンゼルムの性格と異なるような目的だ。
 けれど、アンゼルムだけでなく、愚神も従魔も正確に把握している者がいない現状、アンゼルムの思惑が見えてこない。
 定時連絡では、泰人、忍共に近隣を調査しているようだが、やはり現段階で生存者は見つかっていない。
 奇跡に近い確率だろうという話だが、遺体は見つかっているというのも引っ掛かる。
 放置しているだけかもしれないが、愚神と従魔が集まっているなら、その集まった愚神と従魔は手出ししないのだろうか。アンゼルムからそうした通達でもあるのか。それとも他に理由があるのだろうか。
(『情報がなさ過ぎますね』)
 が、その引っ掛かりを内に留めておく理由もなく、共有するように全員へ話す。
「さっき、ちょっと話したんだが」
 久朗がセラフィナと話したことについて、漏らした。
「意識が失われるまでの間、逃げている人もいる筈。ここの人達は安全と思った場所で救助を待って、力尽きたようだが、今までの人達の中には道で倒れていた人もいた。だが、ここの住民全員全てを見つけている訳じゃない。寧ろ、圧倒的に少ない」
 戦闘の余波で跡形もなく、という可能性はなくはないが、見つけてきた遺体の状態は良かった。
 そこで、気づいたのは……ひとつだ。
「敵に遭遇していない所を見ると、陽動は成功している。が、陽動に応じていない存在が、いる可能性がある。俺達が姿を見せるよう待っているんじゃ」
 言いかけた、その時。
 定期連絡を前に忍から連絡が入る。
 敵発見、生存の可能性がある民間人を餌に用いており、止む無く、合流した泰人と共に交戦中──


 時間は少々遡る。
 泰人は、忍と程近い場所を歩いていることに気づいた。
 一度情報共有の為に合流する流れになり、半壊の家屋へと滑り込む。
 情報共有をしようとした、その時だ。
(『蹄の音が聞こえる』)
 キルロイが漏らした通り、すぐ近くを蹄を持った何かが歩いている。
 状況を考えれば、従魔か愚神だろう。
(『別働で動いておる者もいるのじゃ、気づかれぬよう目視で確認、情報共有すべきじゃ』)
 玉依姫の言葉に無言で頷いた忍も泰人に続く形で半壊の家屋から気づかれないよう蹄の主の正体を見る。
 黒馬の下半身を持った青年が、従魔らしき存在を従え移動しているのが見えた。
(『愚神であることは間違いなさそうじゃの。デクリオ級以上は確実じゃろうが』……見ただけじゃ何とも言えないよね)
 忍が玉依姫に応じた、その時だ。
 青年愚神は、泰人も忍もまだ探索していなかった方向へ歩み、何かに気づいた。
「ほう。まだ生きているか。手を加えればすぐに死にそうではあるが」
 泰人と忍は、顔を見合わせた。
 まだ向かっていなかった先に生存者がいたか。
 口振りからして、意識はなく、死を待っているだけの状態のようだが。
「出る」
 隠れてやり過ごす場合ではないと泰人がハンズ・オブ・グローリー を携え、駆ける。
「他の奴らが来るまで、ちょっとだけ付き合ってもらうぜ。気張れよ、キルロイ!」
(『キルロイに潜入失敗は無い。即ち、生還は確定。確実に生き残る』)
 別働のエージェントへ連絡を入れた忍が半壊した家の近くにあった木の枝に飛び乗る。
(『射手がおる。……奇襲せん方が良い』)
「愚神へ奇襲した方が最終的には」
(『全体の方針は何じゃったかの。この状況では民間人を即救出、離脱、戻って撃破は出来ぬじゃろ』)
 玉依姫が窘めると、忍は泰人の援護の為まず射手らしい従魔を落とすべく銀の魔弾で狙う。
 従魔命中と同時に掌に鋭い痛みが走った。
 短剣が、貫通している。
「エージェントが2人……いや、この数で偵察はない。陽動らしき動きもあった。なら、もう少しいるだろうな」
 短剣を操った青年愚神が冷然とした笑みを浮かべ、貫いた短剣を自らの元へ戻す。
 強制的に短剣を引き抜かれる痛みに顔を歪める忍は、それでも銀の魔弾を射手となる従魔へ撃つ。
 好機と判断した泰人の一撃も決まり、まず1体という頃、残るエージェントが到着した。

「出し惜しみしている場合ではありませんね」
 構築の魔女らしい計算を口の端に乗せる落児が優先的に狙ったのは、上空を舞う子鬼らしい従魔だ。
 小柄であるが、見た目に騙されるべきではないとストライクを撃つと、何かをしていたらしい従魔に命中し、更にトリオを発動させた京子の攻撃が続いた為、空を飛ぶその従魔に関してはすぐに落ちた。
 が、直接攻撃担当らしい従魔はまだ健在である。
 青年愚神が思念で操作しているらしい短剣を操り、援護しているようだが、合流はさせない方がいいだろうと落児が妨害目的の攻撃を開始すると、京子がそれに続いた。
 この間に忍が半壊の家屋内にカトレヤの存在に気づいて後退、カトレヤからケアレイで傷を癒して貰う。
「短剣の援護以外も注意した方が良いだろうな」
 カトレヤは青年愚神が大剣を携えていることを見落としていない。
 今は短剣で自らの防御や従魔の援護をしているが、あの大剣でどれだけの威力が出るかは未確認情報だ。
(『遠距離攻撃での対応がいいじゃろうな。じゃが、討伐を強行するものではない』)
「分かっている。今重要なのはそこではない」
 カトレヤが携えているマビノギオンの射程であれば、あの青年愚神の攻撃射程外から攻撃することは可能だろう。
 が、拘る箇所ではない。
 目の前では、久朗が泰人をカバーする形で前に出ている。
 従魔のブレードの攻撃も青年愚神の短剣攻撃もライオットシールドで積極的に阻んでいく。
(まずは、民間人から離さないと。『機を逃さなければ、いける』)
 セラフィナが焦りそうな心を叱咤し、落ち着かせてくれる。
 この攻撃は、味方がより強力な攻撃を行う為のものであり、好機を作る為のもの。
 コンユンクシオをわざと大振りにし、従魔達が分散するように飛び退いた所を落児と京子が逃さずストライクで狙い撃った。
 見逃さず、高い移動力を誇る泰人が民間人へ到達。
 意識はないが、息はあることを確認し、担ぎ上げた。
「そのまま逃すとでも……」
 青年愚神が言いかけた瞬間、カトレヤがマビノギオンで攻撃した。
 不意を衝かれた様子の青年愚神の隙を逃さず、ストライクと銀の魔弾が叩き込まれると、短剣が青年愚神を守るように展開される。
 しかし、それに目をくれてやる必要はなかった。
 今は、生存者を安全な場所まで保護することが大事。
 エージェント達は撤退を開始、泰人が縫止で妨害するが、その時間も僅かでしかない。
「逃すとでも」
 更に、その行く手が阻まれる。
 落児のグレートボウで足を止めた瞬間を狙い、京子がその近くの塀をスナイパーライフルで狙い、破壊したのだ。
 四足であるとしても愚神が破壊した瓦礫程度で長期的な足止め出来るとは思っていないが、一瞬でも足を止められれば後は十分だ。
「離脱に影響が出る。負傷は癒すぞ」
「泰人は俺が。俺の分は頼んだ」
「分かった」
 カトレヤと久朗が短く会話し、現在負傷している泰人と久朗自身をケアレイで回復させる。
 従魔自体の数が少なく、また、生存者保護を優先認め、愚神と本格的な戦闘をしていなかったから、これで済んだのだろう。
 短剣の操作の的確さを思えば、ケントゥリオ級は確実、離脱に専念しなければ追撃を許す。
 そのことを実感したエージェント達は、その後も細心の注意を払って安全区域まで離脱していった。


 生存者は職員が手配した救急車で病院へ搬送されていった。
 職員の話では、意識を取り戻すまで数ヶ月程度は見た方がいいらしい。
「ドロップゾーンの内部じゃなかったけど、生きてる街じゃなかったね」
「それだけ、アンゼルムという愚神が強力なのじゃろう」
「あの愚神は、付き従うだけの存在だったのかな」
 識別名『アレス』となった青年愚神は、見立てによればケントゥリオ級らしい。
 ドロップゾーン作成能力も有するケントゥリオ級だが、作成出来るのとゾーンルーラーはイコールではなく、より高位の愚神に従う、今回のようなケースもあるようだ。
「陽動に携わったエージェントもあの従魔達と遭遇したみたいだぜ。俺達は少数だったから実感しなかったが、集団になると力を発揮するらしい」
 『ハヤテ』『サイカ』『エン』という識別名と泰人が聞いてきた情報を口にしてから、キルロイがバスの外にいることに気づいた。
 泰人の視線に気づいたキルロイがドヤ顔したので、バスに落書きしたのだろう。
「報告書が存在を示すんじゃないのか」
 泰人ががっくりと呟いた。

「アンゼルムがもし、レガトゥス級の愚神を召喚を目論んでいるとしたら、ですが」
 構築の魔女は落児の隣で、ふと呟いた。
「何故、今までそうしなかったのでしょうか」
「ドロップゾーンの安定とかではなく、ですか?」
「今までと違う要素が入り込んでいる気がします」
 アリッサが生真面目に今までの情報を口にすると、構築の魔女はどうにもしっくりこない様子らしく、その目的の思惑に思いを馳せている。
「どのような要素が入り込んでも、わたし達は阻むしかありませんわ」
「ええ。そうですね」
 京子の言葉に構築の魔女は頷く。
 隣で沈黙を守る彼女の能力者は、ただ、静かに生駒山へ視線を向けている。

「ぼろ雑巾のように使ってくれと言ってましたが、無傷帰還ですね!」
「動けなくならない程度にはな。が、危険は皆同じだったからな」
 セラフィナに声を掛けられた久朗は、そう言って自分達が偵察してきた場所へ想いを馳せる。
 あの場所を調べることが出来たのは、陽動任務が成功したからだろう。
 そうでなければ、ケントゥリオ級もいたような場所で無傷帰還はなかった。
(不器用な俺にできることは歯を食い縛って攻撃を引き受けることだったから)
 そう思っていると、セラフィナがぺしっと久朗の額を叩いた。
「だから、クロさん、電柱にぶつかったり、瓦礫で転びそうになったりするんだよ」
 言われてみれば、偵察中何度かセラフィナが腕を引っ張ったような気がする。
「夢中になって気づかなかった」
 助かったと礼を言う久朗だから、セラフィナもさり気なくサポートしてくれるのだろう。

「ケアレイで間に合う範囲で何よりじゃった」
「そうだな。大剣の攻撃が始まる前に撤退したからというのもあるだろうが」
 久朗とセラフィナのやり取りを見ていた紅花が最終的な負傷者がない状態に安堵すると、カトレヤがそう返す。
 意識がない生存者の今後は自分達の手を離れるにせよ、いつか目覚めてくれればと思う。
 それに、と最後の願いが書かれた手紙を思う。
 職員に託したあの手紙が、いつかあの子供の父親の元に届くよう願って止まない。
「そういえば、途中、生存者を担ぐのを代わっておったが、何かあったか?」
 紅花がカトレヤが途中から生存者を担いだことを思い出し、首を傾げる。
 すると、過去を語ろうとしないカトレヤは、軽く肩を竦めた。
「学生の頃を思い出してみただけだ」

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • 隠密エージェント
    成田 泰人aa0075
    人間|26才|男性|回避
  • 隠密エージェント
    キルロイaa0075hero001
    英雄|17才|女性|シャド
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • エンプレス・ルージュ
    カトレヤ シェーンaa0218
    機械|27才|女性|生命
  • 暁光の鷹
    王 紅花aa0218hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • エージェント
    三坂 忍aa0320
    人間|17才|女性|回避
  • エージェント
    玉依姫aa0320hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
前に戻る
ページトップへ戻る