本部

隠された歴史(シリアスな意味ではない)

茶茸

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2017/10/03 15:51

掲示板

オープニング

「ひぎゃあああああ!」
 ある日の昼下がり。教室の一角で珍妙かつ凄まじい悲鳴があがった。
 悲鳴の主は日頃真面目で知られている生徒だったが、悲鳴に驚いた周囲の視線に気付くと書き込んでいたノートを抱え込んで教室から飛び出してしまった。
 奇妙な事に、似たような事が別の場所でも起こっていた。

 住宅街の一角。勤務を終えて自宅に帰っていたH.O.P.E.の職員が、今日書いた内容を改めようと使っていたノートを開いた。
 殆どの情報がパソコンなどデジタル処理をされているとは言え、まだまだノートやメモ帳の出番は多い。
 しばらく真面目にノートを見ていた職員だったが、突然目を見開く。
「これは……!」
 紙面に書かれた几帳面な文字がぐねぐねと蠢き形を変え始めたのだ。
 その文字はやがて職員が書いた物とは似ても似つかぬ内容に変化した。

『お前らようやく気付いたのか。そう……この世は理不尽だって事に』
『やめろ! 俺を怒らせるな。お前たちを、俺の力で傷つけたくないんだ!』
『俺には何も響かない。この体には何か大切なものが欠けているんだ……』

 記憶の彼方に葬られていたはずの黒い青春、知られてはいけない歴史が、事務的な内容しか書いていなかったはずのノートに鮮やかに蘇る。
 これは明らかに人ならざる力によるものだ。
 急いで報告し調査しなければならない。
「……これを?」
 ノートを掴み連絡しに向かおうとした足が止まる。
 震える手でぺらりとめくれば燦然と輝く黒歴史。
 ノートを閉じた職員は凄まじい羞恥と職務への責任感の間で激しく揺れていた。


「みなさんには黒歴史がありますか? ありますよね? あるでしょうあると言って下さい」
 妙にやつれた職員が現れたかと思ったら突然そんな事を言い出して、リンカー達が思わず引いた。
「そう、誰にだってあるんです。誰でも通る道なんです。そうに決まってます」
 両手を顔に当てて俯く職員からにじみ出る負のオーラは尋常ではない。
 指の間から除く爛々とした目がリンカー達を見る。
「愚神の仕業と思われる異常事態が巷で起きています。今の所人命に関るような被害は出ていませんが、いっそ殺せと言いたくなるような被害が……」
 そこまで言った職員ががくりと膝をついた。
「穴があったら入りたい。いやいっそ僕が掘って埋まろうそうしよう……」
 うわ言のようにつぶやく職員にそっと上着を被せ、一人の少年が前に出た。
「後は私が引き継ぎます。どうかお休みになって、少しでも心を落ち着かせて下さい」
 職員と一緒に入ってきた少年、ティリオ・アロンソが置いてあった資料を手に前に出る。
 彼のパートナーであるガドル・ゴルドラは職員を促し部屋の外へと連れて行った。
「改めまして、私はティリオ・アロンソ。事件の調査に参加していました」
 発端は先程退室した職員からの報告であった。
 職員が使っていたノートの文字が目の前で変化し、別の文章へと変わったのだと言う。
 それも職員が隠してきた記憶、職員以外はその時それを聞いていた相手しか知らない黒歴史に。
「報告を受けてすぐノートを調べましたが、すでに変化は終わっておりノートは白紙。職員がもう一度そのノートに書き込んでもなんの変化も見られませんでしたが、職員は先ほど御覧の通りの有様です」
 本人は必死にいつも通り振舞おうとしているが、発作のように叫んだり落ち込んだりととてもではないが仕事ができる状態ではない。
「調査では似たような事例がいくつか発見されました。年齢、性別はばらばらでしたが、新しいノートを買った、ノートに何かを書き込んだと言う共通点があります。その全員が同じく精神的に消耗し、あるいは混乱して学業や職務に支障が出ています」
 今の所生命が危ぶまれるような被害者はいないが、だからと言って見過ごすわけにはいかない。
 職務もおぼつかない被害者が増えていけばその内社会的にも悪影響が及ぶだろう。
「プリセンサーによれば次に問題のノートが発見されるのはとある学校の購買です。学校側には話を通してあるので、皆さんは購買に置かれたノートに何かを書いて黒歴史ノートを発見してください」
 ティリオ・アロンソの表情は少し強張っていた。
「購買のノートの数は多いので、私も引き続き調査することになっています。全員で一冊ずつ書いていきましょう。皆さんだけを苦しませたりはしません」
 そう、調査にはまずノートに書き込まなければ始まらない。
 そして書き込んだ時に当たりだった場合、もれなく書き込んだ人物の黒歴史が公開されるのだ。
「これもすべて異界の脅威から人々を守るためです。覚悟を決めていきましょう」
 人々の平穏の為、目を背けた過去に立ち向かわねばならない。

解説

●目標
・黒歴史ノートの発見
・従魔の撃破(PL情報)

●状況
 午前中/晴れ
 とある学校の広さ12×15スクエア多目的ルームに黒歴史ノートが紛れ込んでいる36冊のノートを運び込んであります
 当日は人数分の机と椅子を用意してもらえますが、それ以外には何も置いてありません
 プリセンサーによれば黒歴史ノートは4冊。どれが黒歴史ノートかは分かっていないので、発見するためには書き込むしかありません

●黒歴史ルール!
 プレイングに黒歴史の内容や公開する時の反応をお書きください
 中二病的なものから子供の頃の恥ずかしい話、シリアスな意味での黒歴史も大歓迎です
 黒歴史を書いた人が最低3人いなければ黒歴史ノートを全て発見できずシナリオ失敗です
 また性的な内容やあまりに猟奇的な内容は採用できませんのでご了承ください

●NPC
・『ティリオ・アロンソ』
 人間/ブレイブナイト/攻撃適正
 最近H.O.P.E.に所属した新人リンカー。どんな任務にも真摯に取り組む姿勢が評価されています。
 最初はガドルと非共鳴状態でノート捜しを手伝っていますが、戦闘が始まると共鳴して参戦します
 黒歴史を書いたPCが3人だった場合、残り一つに書き込む事になります

・『ガドル・ゴルドラ』
 ティリオと契約している英雄。見た目は暗黒騎士っぽいが清く正しく逞しくを地で行くタイプ

●PL情報
 PL情報はすべてPCは知らないものとして扱って下さい
 黒歴史ノートの正体は従魔です
 書き込みを行ったリンカーから豊富なライヴスを感じてうっかり正体を現して襲い掛かってきます

・ミーレス級従魔『黒歴史ノート』×4
 自力で移動できず回避能力は皆無ですが、耐久力と魔法攻撃力が高め
 自分に書き込んだ相手をBS『狼狽』『劣化』状態にする他、ソフィスビショップの『銀の弾丸』に似た魔法攻撃を行います

リプレイ

●黒歴史、みんなで書けばこわくない
「おかしなノートの、調査……かぁ」
 顔立ちと白髪のツインテールがどこか幼げに見えるニウェウス・アーラ(aa1428)は、自分が書き込んだノートを不思議そうに眺める。
「さー、何が出て来るのやら。こう、楽しみじゃね?」
 ストゥルトゥス(aa1428hero001)は楽し気にせっせとノートに書き込み、出来を確かめては満足そうにしている。
「ストゥル……不謹慎」
 被害者本人にとっては深刻は被害が出ているのだ。
「でも、新しいノートってちょっと楽しくなりませんか?」
 セレティア(aa1695)がかわいらしい筆記用具でノートを書きながら言うと、隣で参考書を片手に万年筆で書き込んでいたセラス(aa1695hero002)も同意する。
「セラスも新しいノートって好きよ。最初の1ページってなんだか特別よね」
 金髪に紫がかった白銀の髪。色は違えど容姿のよく似た二人がお揃いの白いリボンを寄せ合って言う様は可愛らしい。
「ところでマスター。何書いてるの?」
 ストゥルトゥスが自分の席から身を乗り出してニウェウスのノートを覗き込む。
「特に、思いつかないから……猫の、絵」
「わあ。可愛いですね」
 セレティア褒められて、ニウェウスは少し戸惑い気味に言う。
「……ありがとう。その絵も、きれいね」
「ありがとうございます」
 嬉しそうに笑うセレティアのノートにはお気に入りのマザーグースの詩や女の子の絵が書かれていた。
「ほうほう、これはなかなか……」
「そっちのも面白そうね。これ、ちょっと写していい?」
 ストゥルトゥスとお互いのノートを見せ合っているセラス。
「二人とも、何を書いてたの?」
「これー」
 にっかりと笑うストゥルトゥスとセレティアと似て非なる少々意地悪そうな雰囲気があるセラスが掲げたノートには精密に書き込まれた魔法陣。
「……大丈夫なの、それ?」
「大丈夫だよー。別に変な事は起きないから」
「セラスが書いたものが変なわけないでしょ」
 ストゥルトゥスとセラスが胸を張って言うが、一抹の不安はあった。
「……その魔法陣なら大丈夫よ」
 堂々と掲げられた二人のノートを見て、志賀谷 京子(aa0150)がセレティアとニウェウスを安心させるように言った。
「流石は京子、誰に占いやおまじないにはまっていた訳ではありませんね」
「見たの?!」
 しかし一冊のノートを手にしたアリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)が背後に立つと慌ててノートを奪い取る。
 そこに書かれているのは誕生日占い、星占い、夢占い、ラッキーカラーにラッキーグッズと、どっぷりと占いにはまっていた事だ。
「何か問題が? 実に微笑ましいのでは」
 几帳面に整えられた金髪のボブカットに冷静な青い瞳は馬鹿にするでもなく京子を見ている。
 しかし、京子にはその視線が生暖かくなっているのに気付いていた。
「アリッサのそんなときもありますよね、みたいな生暖かい視線がムカつく!」
 別に誰かに見られても構わないと思っていたが、身内のアリッサに見られると恥ずかしいと言う、複雑な乙女心であった。
「おや、今までの人生に恥ずかしい所なんてないと言ってませんでした?」
「揚げ足を取らないでよ!」
 ノートを抱え込む京子を、セレティアやニウェウスが宥める。
「いいじゃん、占い。別に恥ずかしがることじゃないよ」
 ぽんと京子の肩を叩いたHeidi(aa0195)は、何と言うか見た目からして属性の塊だった。
 紫の虹彩を囲むのは白目ではなく黒。ボブカットの金髪からは黒い角のような物が飛び出ており、更には紫の光るラインが見えている。
 だが彼女はアイアンパンク、茶化される要素など何一つない。
 しかし、彼女のノートを覗き込んだBelicosity(aa0195hero001)は悪戯な猫のようににんまりと言った。
「ハイジちゃんにピッタリな依頼だよね~」
「どこが?」
 つんとした返事をしたHeidiの平然とした様子に尊敬にも似た視線が集まってきたが……。
「まあ本当の故郷のマイサタ州が歴史から姿を消した的な意味では確かに闇があるけどさー……ていうかボクはハイディだし、ハイジという人間は遠い昔に……」
「ハイジちゃんて埼玉から……」
「マイサタ!!」
 この中二臭溢れるやりとりにその視線は微妙な生暖かさを持ったものに変わった。
 ちなみに彼女のノートには『影のある眼差しの剣士』『いつも仮面を被った魔術師』と、察しの良い人ならばタイトルだけで「うわー」と言いたくなるようなものが書き込まれている。
「あ、あり得ん。何ゆえ、小官はこんな依頼に入っているのだ?!」
 苦悶の表情でノートに書き込んでいるのはソーニャ・デグチャレフ(aa4829)。
 身長60cmと言うこの中で最もミニマムな体と幼い外見ながら軍帽、軍服、軍用コートに眼帯を揃え、観戦武官としてH.O.P.E.に赴任したと自称している彼女。一体どんな黒歴史を抱えているのだろうか。
「あのように小さな子が苦しみながら書いていると言うのに、貴様は何を書いておるのだ」
 キリル ブラックモア(aa1048hero001)のクールな声で咎められ、弥刀 一二三(aa1048)は視線を彷徨わせて言い訳をする。
「書くのは何でもええらしいどすし……」
 何故黒歴史がばれているのかと自分から「黒歴史がありますよ」と宣伝した一二三が怯えながらノートに書き込んだのは、とある人物が遺した俳句である。
 俳句を詠むのが趣味だったが下手だったと今でも言われているので、ある意味黒歴史かも知れない。
「貴様の黒歴史はないのか?」
 若干呆れ顔のキリル。
 冷静沈着文武両道才色兼備風クールビューティであるが実は甘い物好きと言う、こちらもある意味属性過多な彼女は一二三と違って冷静である。流石クールビューティー。
「記憶の無い私には関係無さそうだな……」
 などと言っているが、自分の発言に「……ほう?」と一二三が不穏な呟きを漏らした事に気付いているだろうか?
 もし一二三が思い留まらなければ彼女の黒歴史が公開されていた可能性もあるのだが、言わぬが花知らぬが仏である。
「黒歴史か。まぁ、明かされても問題は無いだろう」
 黒髪黒目の青年、御神 恭也(aa0127)は何の変哲もない大学ノートを無造作にめくる。
 何かを書き込まない限りノートに変化は見られないと言う情報通り、そこには白い紙面があるだけだ。
「随分と余裕があるみたいだけど、大丈夫なの?」
 伊邪那美(aa0127hero001)がさらさらとノートに書き込んでいる恭也に問いかけるが、本人は平然としている。
「恐らくは、お前に女装させられた事だろ。友人には知られているんだ今更だろ」
 男らしい見た目の彼がどんな女装姿を披露したのか気になる所である。
「当人が悶えない事って黒歴史になるのかな?」
 恭也よりも伊邪那美の方が黒歴史を正しく理解しているらしい。
 本当の黒歴史が公開されるか否か。
 参加された皆さまが予想以上に黒歴史を晒して下さったので、すべてはダイスの出目次第です。
 ノートの書き込みの内容を見ると、普段の印象とは違った一面が垣間見える事もある。
「異界研究を馬鹿にした女の子を呼び出して散々説教した挙げ句、足蹴にして革靴をなめさせ、忠誠を誓わせた……ねぇ」
 ウィリディス(aa0873hero002)にノートに書いたものを音読され、月鏡 由利菜(aa0873)が気恥ずかし気に縮こまる。
「……む、昔、気が強い性格だったのは事実ですけれど……」
 女王様として周囲に恐れられていたと言うエピソードの数々が書かれたノートをじっくり見てから、ウィリディスの口元が弧を描く。
「ふぅん……個々が秘める暗黒の歴史書ねぇ。どれ程の絶望が詰まっているのか興味深いわぁ」
 その口調は普段のウィリディスのものではなく、はっとした由利菜はノートから顔を上げる。
「リ、リディス……! また、エファアルティスの記憶が……!?」
「だぁれ、エファなんとかって……?そんな名は知らないわよ」
 そう言い返してきたウィリディスに由利菜は不可解な思いを抱えながらも別のノートを手に取ってまた書き始める。
 しかし視線は度々ウィリディスの手元に向かい「これは外れかな?」と言って脇に避けられたノートの内容を見てしまっていた。
(彼女が今書いているのは、一体誰の……?)
 じわじわと不安にも似たものが由利菜が書いた文字も滲ませる。
 ペンのインクが滲むほど手が止まっていたのかと慌てて書き始めるが、思いを拭う事はできなかった。
 そんなシリアスな空気に包まれた一角もあったが、作業は進んで行く。

●嵐の前のひととき
「これで最後ですね」
 由利菜はペンを置いて軽く息を吐く。
「お疲れ様。月鏡も少し休憩するといい」
 恭也から声を掛けられ、由利菜は多目的ルームの一角で皆が休憩を取ろうとしているのに気付いた。
「御神はん、月鏡はん、お茶とクッキーありますえ」
「お茶は御神殿、クッキーはHeidi殿の物だろう」
 一二三にキリルから突っ込みがはいる。
 作業に使っていた机の配置を変えてできた即席の休憩場所には、恭也が新型MM水筒に入れて来た温かいお茶とHeidiが持って来たぱんだクッキーが用意されていた。
「甘い物苦手じゃなかったら食べなよ」
 さくさくとクッキーを食べながらHeidiに言われ、由利菜も作業に使っていた椅子を持って来て座る。
「すぐに変化すると思ったけど、そうでもないのね」
 京子がお茶の味を吟味するように飲みながら言うと、この依頼より前に調査を行っていたティリオが頷く。
「書いてすぐの変化と言う訳ではないようです。最初に何かを書き込んでから少し時間を置いてもう一度開いた時に変化していたと言う証言が多いですね」
 そう説明するのはこの依頼のブリーフィングの際に狂乱した職員の代わりに説明を勤めたティリオ・アロンソだった。
 彼の後ろにはパートナーのガドル・ゴルドラが従者のごとく控えている。
「ティリオさんとガドルさんは事前調査を行っていたそうですね」
「あの後真面目に更生したようだな」
 以前ティリオとガドルに関わった事のある由利菜と恭也にそう言われると、その時の事を思い出したティリオの顔が赤くなる。
「ええ、まあ……」
「私もあれから反省しましてな。お互いに切磋琢磨する日々です」
 ガドルは特に恥じらう事なく堂々と言ったが、すぐにティリオに小突かれ苦笑しながら先を言うのを止めた。
「なになに? 何かあったの?」
 会話を聞きつけたセレスとBelicosityの意地悪少女と意地悪猫の二人が身を乗り出す。
「面白そうな気配がするねえ。ボクにも聞かせてくれないかな?」
「ストゥル、趣味が悪い」
 二人に追従しようとしたストゥルトゥスの口をふさぐため、ニウェウスがぱんだクッキーが放り込む。
「え、っと……ノートの変化はいつごろ分かるんですか?」
 セレティアが話題を変えようと質問すると、ティリオが助かったと肩の力を抜いた。
「外見上は開いてみないと分からないようです。なので改めて確認しなければいけません」
「ふーん。それじゃこの後みんなのノート開かないとね」
 にやりと意地悪そうな笑みを浮かべるセレス。
「か、確認するのは書いた本人にさせればよかろう!」
 お茶とクッキーで少し落ち着いていたソーニャが慌てて自分が書いたノートの山に走って行った。
 まあそれもそうかと、一部不満そうな者を抑えて休憩を終えた面々が自分の書いたノートを開く作業を開始する。

●処刑の時間だ!
 全員で書いたノートを改める作業をしていくらか経った時、ばさりとノートが落ちる音がした。 
 振り返った中でライヴスゴーグルを装着していた一二三が警告する。
「気ぃつけておくれやす!」
 警告を聞いた者が次々身構えた。

【前世の名は聖那・リィンエステル・グレートヒェン。戦舞姫<ブリュンヒルデ>の称号を持ち、癒しの大天使ラファエルの加護を受けた翼持つ戦乙女。
 真名は『泪の慈雨に濡れし祈りを捧げる姫巫女<ウンディーネ>。悲恋の業を背負いし咎人。】

「あっ! これ、ティアがA3サイズに拡大コピーしたキャラクターシートの裏にびっしり書いてたやつ! 「完全世界」のるるぶに挟んであるの。セラス、知ってる! 」
 セラスの一言に、セレティアの叫び声が上がる。
「ぴぃやぁぁぁあああ!!!」
 まさに絶叫。それはセレティアが自己投影して書いた最強ヒロインの設定資料集だった。
「殺……してやる……直ちに!」
 即座に共鳴したセレティアはただでさえ座っている目を更に座りに座らせ、ブラックホールと化した目でノートを睨む。
「いいじゃん、むしろカッコイー」
 ノートに中二なものを書いていたHeidiには好評のようだ。
 そんな彼女の近くにあったノートが風もないのに開く。

【○月×日
 魔法少女ピコリンみたいにになりたいってゆったらパパが変身ドレスをくれたよ
 わるものがきても、はいじがやっつけるんだ☆】

「コイツだ燃やせ」
 Heidiさん、思わず真顔である。
「きははっ、もしかして当たり? なになに……」
「うおおおやめろ! いやはいじとか知らない人だし!?」
 ノートの内容を音読しようとしたBelicosityを捕まえて急いで共鳴する。
 被害はまだまだ収まらない。

【少年は恋をしていた。
 年上の女性に少年の求婚はいつも誤魔化されてしまうが少年は諦めなかった。
 女性に相応しい男になろうと正義の味方を目指した】

「……伊邪那美、共鳴を」
「りょ、了解したよ~!」
 これ以上見ていては自分の身が危ない。
 伊邪那美は慌てて共鳴し、静かな殺意をだだ漏れにした白髪の剣士が現れた。
「確か、黒歴史のノートは……四冊」
 ニウェウスもこの異常事態にすでに共鳴していた。
 幼げな容姿が若干大人びて、身に纏った白い軍服と髪に入った鮮やかな空色のメッシュが映える。
『さてさて、あと一冊はどこかな~?』
 姿はなくとも相変わらずのストゥルトゥス。
 不謹慎な彼女とは違い、ニウェウスは真面目に四冊目を捜していた。
「敵性物体発見!」
 がしょんと音を鳴らしてある一角を指差すのは武骨な鋼鉄の塊。
 共鳴したソーニャの姿であった。英雄は黒歴史からは逃げたが彼女から逃げたわけではなかったようだ。

【小学校六年生。それが盗んだバイクで走り出し高校生の団体にぶっ込みした彼の最初の勝利。
 家族を亡くし伯母に引き取られた少年は虐めに遭いながらも自らの力でのし上がっていく。
 『為虎添翼の焦土魔神』―――それが少年の二つ名。
 この名を誇りに、少年は中学三年生まで喧嘩三昧の日々を送って行くのだった。】

「いやなんで物語調やねん!」
 思わず突っ込みを入れてしまい、周囲の視線が一二三の黒歴史に集中した。
 我に返ったが時すでに遅し。あの黒歴史が誰の物か全員が悟っただろう。
「墓穴を掘ったな為虎添翼の焦土魔神」
 クールなキリルの声で放たれた二つ名が頭の中で響き渡る。
「……よ、ようも……オレの心の傷を抉りよったなあッ!」
 一人称が変わってますよ為虎添翼の焦土魔神さん。
 怒りに燃える一二三が面白がるキリルと共鳴し、怒りのあまり段階を踏んで変化すると言う共鳴姿を一段飛ばして怒りに銀メッシュの入った赤い髪を振り乱す長髪の男になった。
 しかし怒りに燃える表情そのままに床を殴り始めたのはどういう事か。
 視点を転じれば他の三人も転げまわったりぶるぶる震えたりと異常な行動を取っている。
「これは……何かのライヴスによる攻撃でしょうか」
 真面目な表情でノートと犠牲者四人を見比べる由利菜。
 彼女もウィリディスと共鳴し胸元や太ももが露わになった煽情的でありながら純白の清らかさを持つ衣に変わっていたが、手に持つのは手弱女では持ち上げる事すら敵わぬ大鎌。
 その隣には白髪赤眼の青年の姿になったティリオがいたが、その表情は沈痛の一言。
「今はあのノートを破壊する事を優先しましょう」
 武器を構えたティリオに、奇行を繰り返す四名以外のリンカー達が四冊の黒歴史ノートの前に立ちはだかった。

●闇に葬られる歴史
【「俺がこそ天下に名だたるヒーロー! サイキョウジャー!」
 ジャングルジムの上に登った少年はテレビで見ていたヒーローの台詞とポーズを完璧に再現し、いじめっ子達の前に華麗なヒーロー着地を決めた】

「斬る……!」
 力が入り過ぎて震える剣先を黒歴史ノートに向ける恭也。
「あれ逆に危なくない? 余計なものも斬りそう」
 京子はその様子を見てこれは駄目だと早めに黒歴史ノートを始末する事にした。
 ノートは次々黒歴史を蘇らせているが、その場から動かない。
「なるほど、鬱憤を溜めた被害者の前にわざわざ姿を見せると。……マゾなんだね」
 銀の輝きを纏う弓に橙色の光を放つ矢を番え、動かないノートを容赦なく貫いて行く。
「早く正気に戻さなければ…・…」
『あら? このままどうなるか見ていたいのに、残念だわ』
 大鎌を手にした由利菜にはウィリディスであるはずの声が聞こえているが、その声が本当に彼女のものなのか由利菜には分からなかった。

【□月△日
 お姫さまになる夢を見たよ。あんな風になれたらいいな♪
 かっこいい王子さまがきてくれますように♪】

『きははははっ! ちょっと、ダメこれっ……面白すぎっ」
 Heidiの黒歴史に腹を抱える勢いで笑うBelicosity。
「しっかりして下さい。今回復します!」
 由利菜は狼狽し言語まで怪しくなってきたHeidiにクリアレイを掛けて行く。
「Ms.由利菜、危ない!」
 ティリオがとっさにカバーリングで受け止めたのは、射出されたライヴスの攻撃だった。
「訂正物体、なおも攻撃を続行!」
 ソーニャがカノン砲を構える。
 四冊の―――四体の従魔『黒歴史ノート』が先程と同じライヴスの弾丸を次々と放って来た。
「やっぱり従魔だったのね」
 ニウェウスが幻想蝶を使うと、それは空色の炎のように黒歴史ノートを包み込み重度の異常をもたらす。
「ざまぁみさらせ……因果応報や」
 ゆらりと立ち上がったのは自力で羞恥心に打ち勝った為虎添翼の焦土魔神、一二三!

【中学入学初日、小学校の頃の噂を知っていた者達は彼を遠巻きにした。
 力ある者の孤独。しかし自分の力を誇り増長していた彼はその孤独に気付く事も無い】

 羞恥と怒りが込められたライヴスブローが黒歴史ノートにクリティカルを叩き込む。
 それだけでは済まさんと従魔の攻撃に本格的な反撃を始めた他四人が引くくらいの勢いで攻撃を続けた。
「なんとすさまじい……しかし、気持ちは分かるぞ!」
 ソーニャはもし自分の黒歴史が公開されていたら同じ事をしていただろうと深く理解を示し、一刻も早く仲間の黒歴史を葬ってやろうとカノン砲でわずかに残った黒歴史ノートの生命力を消し飛ばす。
「次はお前だ……」
 恭也の白髪が殺意で逆立って見える。
 由利菜の回復を受けた恭也は迷いなく、ヒーロー気取りで無茶をやっていた幼い頃の黒歴史を表したノートを狙う。

【いじめっ子を蹴散らした恭也少年、いやサイキョウジャーは礼を言って来た少年にいつも通り答える。
 「サイキョウジャーは傷付き悲しむ者の味方だ!」】

 浮かんだ文字が巨大な刀身の重量と電光石火の速度を加えて切り刻まれた。
 怒涛のラッシュにクリアレイを受け一応の正気を取り戻したHeidiのブルームフレアが加わる。
「燃やす……燃やし尽くす……!」
 しかし攻撃を受けながらも黒歴史ノートは止まらない。

【アルビノかつオッドアイ、その容姿と他に類を見ない血液型は彼女が禁忌の術を伝えし『彷徨える民』の唯一の生き残りである事を示していた。
 重くのしかかる業は彼女の勇ましくも麗しい姫騎士の衣に鎖となって巻きついている。
 しかし本来の彼女は妹属性であり……】

「市民、<歴史>に関する情報は、あなたのクリアランスでは開示されません!」
 セレティアが放ったブルームフレアが黒歴史ノートを焦がす。
 最強ヒロインに自己投影して悦に入っていた過去の自分すら燃やしたいとばかりに。
「こういうのを因果応報って言うのかしら」
 炎に包まれても尚新たな黒歴史を晒そうとする黒歴史ノートに向け、京子はとどめの矢を番えたが、周りを見回すとその手を下ろした。
「歴史の捏造とは許すまじ! これでターン・エンドだ!」
 今更誤魔化しても遅いと思われるHeidiの羞恥の炎が荒れ狂う。
「市民、<歴史>の探索は死罪です! 新しいあなたはきっとうまくやるでしょう!」
 次と言いつつ転生先まで追いかけて殺しそうな座った目で、セレティアが黒歴史を挟んでいると言うルールブックから炎を呼ぶ。
「この世から消えてなくなれ!」
「欠片も残さへん!」
 恭也と一二三が連続で叩き込む大剣とダガーのラッシュが黒歴史ノートと、ついでに床も破壊する。
「彼等の気が住むようにさせましょう」
 ティリオの言葉に、見守る四人は頷くしかなかった。

●過去の傷痕
 黒歴史ノートは欠片も残さず消え去り、彼等は任務を果たしてめでたしめでたし……。
 とはいかなかった。
「どうしようか、これ……」
「どうしようもないと思います」
 京子とアリッサが室内の惨状に思わず呟く。
 叩き割られたり焦げたりした床や巻き込まれて壊れた机と椅子もだが、何よりも酷いのが黒歴史ノートの被害者だった。
「あの……元気出して……」
 ニウェウスが声を掛けて回るが、皆死んだ魚のような目をしている。
「そっとしておこう」
 流石のストゥルトゥスも痛ましそうに目を伏せる有様である。
「しょ、小官は戦果と被害報告を上げて来よう」
 ソーニャは傷付いた戦友達に敬礼すると、場の空気から逃げ出すように部屋から出て行った。
「あれを見られるなんて……もう生きていけません……」
 どんよりと部屋の隅で膝を抱えているセレティア。
「きゃは! テイア、ウケるぅ! いっそ開き直ってああいう装備品作ってもらえばぁ?」
「やめろ……マジでやめろ……」
 セレスにからかわれて口調すら変えてしくしくと泣くセレティア。
 彼女の反対側の部屋の隅ではパーカーのフードを被ったHeidiが丸くなっている。
「きはははっ、どうしたのはいじ? これはいじじゃないんでしょ? なんで丸くなるの?」
 黒歴史ノートが晒した内容をBelicosityが音読しているのだ。耐えられるわけがない。
 そう、黒歴史を晒され平然としていられるわけがないのだ。
「ちょ、何しようとしてるの!?」
「止めるな伊邪那美! こんな恥辱を合っては生きては行けん」
 共鳴を解いた瞬間、切腹しようとする恭也を伊邪那美が慌てて止める。
「誰か止めるのを手伝って~!」
「腹を切って詫びなければ、一族に合わせる顔が無い!」
 必死で腕に組みつく伊邪那美の悲鳴を聞いた周囲が慌てて止めに入る。
「御神はん、気持は分かる! 痛い程分かる! せやけどあかんて!」
「恥と思うのであれば恥を雪がねばいけません! 今は堪えて下さい!」
 一二三や由利菜の必死の説得が届いたのは窓から差し込む陽の光が傾き始めた頃だった。
 現れた従魔は彼等の心に深い傷跡を残した。
 リンカーとして超常の力を得た者であっても、その心まで超常のものになる訳ではない。
 彼等の心の傷を癒やすには長い時間とこの場に集まった全員の忘却が必要になるだろう。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 魔法少女プリンセスはいじ
    Heidiaa0195
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    機械|23才|男性|攻撃
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  • ストゥえもん
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  • 黒の歴史を紡ぐ者
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    人間|11才|女性|攻撃
  • 柘榴の紅
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    英雄|9才|女性|ソフィ
  • 我らが守るべき誓い
    ソーニャ・デグチャレフaa4829
    獣人|13才|女性|攻撃



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