本部

胃袋に叩き込め!

ふーもん

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/09/30 18:45

掲示板

オープニング


「最近、食い逃げ犯が多いのって聞いた?」
「えー? 何それー面白ーい」
 とある繁華街。俺の近くにいた女子中高生が陽気に話してるのをふと、聞いた。
 食い逃げブーム。近年の事件は物騒だが、これは確かにどこか笑えるかもしれない。
 世間様の不況は悪化し、ひきこもりやネットカフェ難民が増加。就職氷河期? それは最早必然だ。
 そんな中、発生した食い逃げブーム。季節もののファッションみたいに流行の最先端を走っていると言えるね。
 なぜかって? 何せ、俺様はその食い逃げブームの立役者。言ってみれば火種を付けた張本人だからな。人呼んで『大喰らいの源』!
「さーて。今日は何を食べようかな?」
 そうさ。独り言を呟くほど俺もこんなバカ世間に落ちぶれちゃったのさ。
 職を失い、金は無いは、嫁と1人娘には逃げられるは、挙句の果てにはヴィランにまでスカウトされる始末。
 そしてそれを快く受け入れる俺――人呼んで『大喰らいの源』!
 だってしょうがないじゃん! ハロー○ークに行っても、ロクな仕事が見つからないんだし! ワーキングプア万歳!
「さーて。今日は何を食べようかな?」
 そうさ。さっきと同じ台詞で独り言を2回も呟くほど俺もこんなバカ世間に落ちぶれちゃったのさ。


「えーと、とりあえず始末してくれ」
 単刀直入にH.O.P.E.東京海上支部の役員は言った。
「分かりました。報酬は?」
「残念だが結論から言おう。あまり期待は出来ない。何せ相手は食い逃げ犯。被害に遭ったお店の金から1割程度」
「その犯人の特徴や目星は?」
「えーと、名前は『腹ペコ次郎長』」
 すかさず部下の鋭い切っ先のツッコミ刃が放たれる。
「『大喰らいの源』です。一文字も合ってませんよ。隊長。てゆーか、誰ですか? そいつ。いつの間に新キャラを出現させないで下さい。正直、迷惑ですから」
「――『大喰らいの源』。奴は関東じゃ名の知られた食い逃げヴィランでな。時折フラッと繁華街に現れては、飲食店で一番高いメニューを頼み、そしてフラッと繁華街の闇に消える」
「どうやって、消え去るのか具体的に教えて下さい。出来れば打開策も」
「ああ――とりあえず奴の背格好は身長170センチ前後。意外と太ってはいない。黒いサングラスに山高帽。この季節では薄手のジャケットにタンクトップ。迷彩柄のチノパンを穿いているはずだ」
「場所の特定は? 繁華街のどこですか?」
「奴、お気に入りの店は新装開店されたバーや、ラーメン店、定食屋、中華料理屋、外国人が経営する各国の地域密着料理店等、どれも個人経営の店だ」
「なるほど。繁華街の人混みの中、そいつを見つけるのは至難の業ですね」
 面倒臭そうにエージェントは言った。
「まあな。だが、奴は逃げも隠れもしない。その代わりチェーン店に姿を現す事は無いだろう。1度入った店にもな。それともう少し厄介な事がある」
「厄介な事?」
 嫌な予感がすると、心中で呟く。
「ああ――奴の胃袋は『コンクリート・ストマック』とか自分で呼んでてな、プラスチック以外なら何でもイケるとか一度警察にお世話になった時、自慢してたんだ」
「『コンクリート・ストマック』と言うネーミングセンスのあれこれにはこの際ツッコまない事にして――それのどこに問題が?」
「奴は自分の胃袋に超絶絶対の神の如き自信を持っている。世界の中心は実は俺の胃袋で出来ているなんて謳った事もあるそうだ」
「勇気のある男ですね」
 バカにしているが、正直な意見だ。
「ああ。そして問題はここからだ。奴は自分が飯を喰らう時、必ずカウンターに座るんだ。そして隣に座った赤の他人に話し掛け、俺と勝負しないか? と、冗談を仄めかす」
「――勝負? 大食い勝負ですか?」
「その通り。つまり、その大食い勝負に参加した時だけに奴を捕まえるチャンスがあると言う訳だ」
「まず、『大喰らいの源』を見つけ出し、そいつと同じ店に入り、大食い勝負ですか……胃が痛いな」
「そうだ。この際、誰でも良い。人数は最大6名。奴と大食い勝負をしてくれないか? 因みに食い逃げブームの火付け役の癖して逃げ足は遅い」
「何で、捕まえられないんですか?」

「えーと、とりあえず始末してくれ」

解説

●さて、始まりました。今回はコメディ。食欲の秋、大食い対決!
 条件は以下の通り! 皆様ぜひご一読を!
 ・『大喰らいの源』はOPで示した通り、やや浮いてはいますが、背格好は一般人とさほど変わりません。予め彼の被害に遭ったお店の調査をすると良いでしょう。
 ・従魔や愚神は出てきません。
 ・最大6人体制なので、彼の動向を探る者と彼との勝負に挑む者に分かれた方が無難です。
 ・一応、ヴィランなので戦闘してとッ捕まえるのもありっちゃありです。お腹が減っていれば、彼との勝負に挑みましょう。
 ・素性を偽って彼に近付き、自ら囮捜査官となり大食い勝負に挑めば簡単に捕まります。
 ・『大喰らいの源』は無職ですが、食い逃げブームの火付け役。携帯でその同業者を呼び出されたらヴィランとの抗争が始まってしまいます。『腹ペコ次郎長』もその中にいるのかも――?
 ・胃袋『コンクリート・ストマック』は、意外に侮れません。彼との勝負に負けない様、色々と予め作戦を立てましょう。
 作戦について↓
 ・ラーメン店ならスープにさり気無く唐辛子を入れる。
 ・『大喰らいの源』を笑わせて食事に集中出来なくさせる。
 ・生き別れた妻と娘が帰って来たと、大声で吹聴し、驚かせる。
 ・お店の人と結託し、嫌がらせをする。

 一応、こんな感じです。
 それではPLの皆様のPC達の面白可笑しなプレイング! お待ちしております!

リプレイ


「……食い逃げ、どすか……」
 弥刀 一二三(aa1048)は重たい溜め息を吐いた。一方、その英雄のキリル ブラックモア(aa1048hero001)はと言うと――
『さあ! 犯人を捕まえてあの噂のスイーツを買って帰るぞ!』
 メッチャ張り切っていた。キリルは甘味なら食べる速度も量も尋常ではないのだ。
 その為、一ニ三は万年金欠状態。
 2人の狙いはもちろん『大喰らいの源』と対決!
 事前準備に今回の参加者全員とスマホの連絡先を共有していた。
 更にこの2人。抜かりはない。捜査用イメージプロジェクター(IP)と、分析用ノートパソコン(PC)も常備。
 例え、相手があの『大喰らいの源』だろうと容赦はしない。そして全て敵にバレない様に行動する。

「丁度いい、食い溜めしねえと……」
『便利な体で良かったね♪』
 明るく微笑む華留 希(aa3646hero001)と大きく頷く麻端 和頼(aa3646)も繁華街の中、ぶらついていた。
 『大喰らいの源』との大食いバトル。
 人に虐げられた生活上獣と同様食べられる時に食べる習慣が身に付いている。
『念の為……ん~ココとココと……』
 ブツブツ呟きながら和頼の体を押している希。
 彼女は奇妙な本を見ては片手に持ち、何やら和頼の体を指先でグイグイ押していた。
「……何だ?」
 摩訶不思議な行動。訝しげに和頼が聞いてみると、彼女は屈託のない笑顔で言った。
『ん~? 万一用にネ♪ タダのツボの本だヨ♪』
 面白おかしさを紛らわす様なその笑顔。
 思わず和頼は背筋にゾクゾクとするものが湧いてきた。

 同時刻――繁華街。
「真面に勝負したら確実に負けるだろうから何か一手小細工を仕掛けるか」
 常日頃、無表情を保っている御神 恭也(aa0127)は静かな口調で呟く。
 対する英雄の伊邪那美(aa0127hero001)は、無邪気に笑って応答。
『奥さん達が居なくなったのって、食費が膨大になったからとか?』
 計算高い恭也は繁華街の雑踏をかき分けて、個人経営のなぜかお好み焼き屋を探し、見つけた。
 ジューシーな香り漂う、食欲をそそられるお店。
 店主に事情を説明する。これも作戦の内。
「実は……『大喰らいの源』についてこちらから要請がありまして」
「ああ、あいつか」
 タオルをねじりハチマキにして、頭に装備していた店主は言った。
「……そこで、店主に協力をお願いしたいのですが」
「こっち座りな。うちはまだ被害に遭っていねえぜ?」
 それを聞いて、一安心――と言えば聞こえは悪いが、席に着いた恭也はこの店に奴が来る見込みはまだあると確信した。
『お好み焼き屋さんか……てっきりお蕎麦屋さんで椀子蕎麦勝負でもするかと思ったのに』
 横槍を入れる伊邪那美。店主との協力作戦を一通り伝えた後、恭也はいつもながら冷静に応じる。
「蕎麦だと小細工がし難いからな。粉物なら生地の小麦粉の量を変えるだけで見た目は同じでも重さが大きく変えられるからな」
『へ~。正攻法で相手を負かすつもりなんだ』
「正攻法とは言えないと思うんだがな……」

「今日はいっぱい食べてもいいからね」
『きょうのおしごとは、いっぱいたべること!』
 零月 蕾菜(aa0058)がそう言って、ニロ・アルム(aa0058hero002)は食う気満々。
 現在2人は参加メンバーと手分けして『大喰らいの源』の顔写真を入手する為、雑踏をかき分けて進む。
 過去、『大喰らいの源』の被害に遭った店の調査だ。
 一件目。インドカレーのお店。
「イラッシャイ。オジョーサン。ナニニシマスカ?」
 店主のインド人のオジサンは歓迎。
「唐突にお尋ねして申し訳ないのですが、ここのお店って防犯カメラとかどこかにありますでしょうか?」
「ウチ、オキャクサンウタガワナイ。デモコノマエオキャクサンクイニゲシタ。イマハツイテルヨ」
(被害にあった後じゃ、しょうがないんですよね)
 次の作戦に移る。
「他に『大喰らいの源』が来た時の防犯カメラが付いている近所のお店とか、知っているでしょうか?」
「オジョーサン、タンテイサンデスカ?」
「私はH.O.P.E.のエージェントです」
「ソレナラハナシハハヤイネ。ワタシノチジンのオミセ、ショウカイスル」
「ありがとうございます!」
 蕾菜とニロの2人はそのお店の場所を聞いた。

 繁華街を調査している鞠丘 麻陽(aa0307)と鏡宮 愛姫(aa0307hero001)は途中、近くの公園でラジオ体操と言うとても奇妙奇天烈な『軽めの運動』を行った。
 御粥を食べながらベンチに腰掛けると、どっと汗が噴き出してきた。胃の容量が増えたせいか、お腹ペコペコである。
「こんな所で負ける訳にはいかないんだよ」
『そうですよね、さあもう立って歩きましょう。他の皆様も今頃頑張っておられるでしょうし』
「そうだよね。あたし達も頑張らなきゃ、だよ」
『ところで麻陽様? この私の服に仕込んだ糸は一体何ですの?』
「――最終兵器、だよ」
 小休止も終わり、2人の体調は万全。
 そんな折、スマホが鳴った。連絡先は捜査前に既にメンバー全員と交換している。
「え!? それは本当ですか、だよ」
 連絡してきた相手と二言、三言話し、そして切った。
 ――ピ♪
『お相手はどちら様ですか?』
「蕾菜さんとニロさん、だよ。どうやら犯人の目星が付きそうなんだって」
 急いで繁華街の雑踏の群れに駆け出した2人だった。

 同時刻、IPで変身し様々な店を巡っては調査を行い犯人情報を探っていた一ニ三とキリル。
 正に千変万化。
 ある時はグルメ雑誌記者。
 ある時はハードブロガー。
 ある時は和菓子屋の店主風――etc.
 怪しまれない様に厳重な作戦とは言え、少々やり過ぎな気もするが、実際そのカメレオン効果はあった。
 各店で得た情報は大きかった。
 まず、犯人特徴――『中年風の男性』『常に視界を覆う黒いサングラス』『口元にはマスクかバンダナ』『声はしわがれたハスキーボイス』『当然だが、食べ残しは一切ない』等。
 食の分野――外国人が運営する店にも寄る為か、世界中の名物料理を食べているとの話。
 好き嫌い――極端に味の濃い物や、薄い物、見た目がグロテスクなメニューは避けている。例えばイカスミパスタだとか、ホルモン焼きとか。
 そんな中、齎された最新情報。
「――何ですと? 犯人の顔写真が……?」
 一通り連絡が終わり、キリルが当然、尋ねてくる。
『犯人の顔写真は手に入ったのか?』
「いや、まだや。けど、隠しカメラに映った犯人のお店が見つかったんは事実やな」
 ニタリと微笑む2人。

 事態は巡る。
 スマホは、和頼と希の元へも情報を伝える。
 IPを使って装備品とアイテムを巧妙に隠し、一般人キャラになりきっていた2人は思わず声にならない声でひそひそトーク。
『顔写真……見つかるカナ?』
「そりゃ、現場にいってみねえと……分からねえだろう」
 因みに今は一ニ三がリストアップした店をライヴスゴーグルをさり気無く使って敵を探していた真っ最中でもある。
 2人はサクサク指定された場所へと向かう。

 恭也が例のお好み焼き屋で待機中、英雄の伊邪那美はスマホを手に持ち、繁華街を見回り。
 『大喰らいの源』についての情報を集める事に集中していた。
『ボクだけでも何とかして食い逃げ犯を捕まえなきゃ!』
 ~ピロリロリロ♪~
『仲間からの電話だ! 何かあったのかな?』
 スマホのディスプレイに表示された名前は――蕾菜ちゃん――とある。
『もしもし。どうしたの? 何か発見?』

 こうして、犯人『大喰らいの源』の顔写真への手掛かりは皆に伝わった。



 仲間達から一歩先へと事件の真相に近付いたのは言うまでもなく、蕾菜とニロ。
 その事をメンバー全員に伝え終わり、例のインドカレー店店主のオジサンに紹介された店の内部へ。
 そこは中華料理屋だった。部屋の四隅に防犯カメラが付いている。
「これなら、何とかいけそうですね」
『あるじ~おなかすいたぁ』
「もうちょっとまっててね」
 店の奥から店主が出てきた。中国人の様だ。
 事情を話すと――
「なるほど。事情は分かりました。繁華街の明日を思えば、顔写真の1つや2つ差し上げましょう」
 メッチャ流暢な日本語だ。
「ありがとうございます。『大喰らいの源』以外にも食い逃げ犯っていますか?」
 『大喰らいの源』の顔写真を受け取ると、そのまま蕾菜は冷静に聞いた。
「さあね。ただ、ここはあまり治安の良い場所では無い。食い逃げ犯の1人や2人はいても不思議じゃない」
 しかし、店主はそう言いつつも被害に遭ったお店の食い逃げ犯達をA4ノート1枚の紙にリストアップしていた。
 そこには名前、性別、顔の特徴や、背格好まで実に丁寧に書かれていた。
「私達は皆、この様な物を持っている。けど警察は相手にしてくれなくてね。でも、君達H.O.P.E.のエージェントならば、警察もバカじゃない。本格的な捜査に乗り出すだろう」
 何かのRPGの様な台詞を吐いた。そして蕾菜とニロはそれを受け取った。
「分かりました。後で必ず警察に届け出しておきます」

 蕾菜とニロが店を出ると、そこにはメンバー達が既に集まっていた。
「皆、早いね。それと例の物」
 そして、蕾菜は『大喰らいの源』の顔写真を皆に見せた。枚数は6枚ほど。
「私はとりあえず、この顔写真を1枚持って、これからニロと個人営業のお店を回ります。……まだ、やる事がありますので」
 『大喰らいの源』が来たという報告があればまたそこで合流と言う形に――と言い残して、ペコリとお辞儀。蕾菜とニロは次の任務の為、その場を辞去しようとした。
「あ、ちょっと待って、だよ」
 声を掛けたのは麻陽だ。
「何でしょうか?」
「あたし達はチラシを作成します、だよ」
『それは良い提案でございますぅ』
 早速PCを起動させて、『大喰らいの源』の特徴を表示したチラシ作製に取り掛かる麻陽と愛姫。
 軽やかなブラインドタッチで情報をデータへと移行、反映させる。
 そして、近くのコンビニへフルダッシュ! 人数分のチラシを持って来た。
「出来た、だよ。はい、コレも一緒に持って行くと良いよ」
「……あ、ありがとうございます」
「良いって、良いって! そんな謙遜しなくても、だよ」
『麻陽様、他の皆様にもお配りした方が良いと思いますぅ』
「はい、だよ。他の皆もコレ持って、だよ」
 『大喰らいの源』の顔写真付きチラシをその場にいた皆が手に入れた。
「万が一無くした時の為にデータも送っておきます、だよ」
 麻陽はPCのエンターキーをテンッ! と、押した。
 『大喰らいの源』のデータが皆と共有しているPCやらスマホやらに一括送信された。
「コイツが――『大喰らいの源』……か」
 代表して声に出したのは和頼。
 黒いサングラスに山高帽。恐らく変装用の物だろう。首には口元を隠す髑髏マークの付いたバンダナがぶら下がっていた。
 写真はカウンターの真正面。ちょうど店の調理台の奥。真上から撮られたもので、チャーシューメンゴツ盛りを食べている『大喰らいの源』の姿がバッチリ丸見え。
『……こんな格好じゃ、逆に目立つんじゃないかな?』
 正論を吐く伊邪那美。
『なるホド、なるホド~♪』
 顔写真の裏に何やらサラサラと書いている希。
「うちらはこれから、人気の少ない近くの公園へ向かうどす」
 『ライヴスゴーグル』とレーダーユニット『モスケール』を装備し、周囲を見渡しながら一ニ三は言った。
『そうだな……スイーツを探しに……ゴホン! では無く、この顔写真から次に狙われそうな店をPCで計算してみるか』
「店のリストアップが出来たら、皆さんに送信しますどす」

 そして――遂に『大喰らいの源』がその姿を露わにした!


● VS――『大喰らいの源』!
「へっへっへ! 今日も食って食って逃げまくるぜ!」
 『大喰らいの源』現る! 独り言を喋って!
「まずは……手始めにお好み焼きでも食べるか」
 自動ドアを潜り抜けると案の定そこには恭也の姿が。
(やっと、来たか)
 カウンターに座している恭也は内心では驚いていたが、表情には出さない。
 『大喰らいの源』は店の出入り口付近で辺りを見回すと、恭也の方へと近付いてきた。
「さて、上手く勝てると良いんだがな」
 ボソッと呟く。カウンター席には最初から店長とタッグを組んで恭也1人だけにして貰った。
 『大喰らいの源』はさり気無~く恭也の隣に座り、口に巻いていた髑髏バンダナを下ろした。
「オイ、兄ちゃん。俺と勝負しねえか?」
「良いだろう」
「早! まあ……良い。俺もバカじゃない。勝負ってのはとんでもなく単純さ。大食い勝負だ。この店の一番高いメニューをお互いに頼んで……」
「……どちらがより多く食べられるかを競う」
「その通り!」

 ――その数十分前の事。
『街角の皆! 聞いて! 聞いて! お好み焼き屋さんに凄い大食いチャンピオンがいるんだよ!』
 ――嘘~! と、繁華街の物好き。
 嘘だった。
 ――まさか~! と、野次馬根性丸出しの繁華街住民。
 その通りだった。
「ねえ、可愛いお嬢ちゃん。その大食いチャンピオンってどんな人?」
『ん~とね! メッチャイケメン!』
 まさか、話し掛けられるとは――こればっかりはマニュアル通りにはいかなかった。
 自身の崇高な神レベルのヒストリーとは裏腹に、マスコット的キャラの身形をした伊邪那美は周囲の人達の目線を惹いた。
『……これで、本当に現れるのかな? 恭也は警察の取り調べから自意識が高いから喰い付いて来るって言ってたけど』

「イケメン――イケメン? う~ん……メッチャ? イケメン……最近の流行は良く分からないな」
「……何の話だ?」
「いや、単なる独り言さ。ホラ、料理が来たぜ!」
「さて、それでは早速……メニューは『海千山千・春夏秋冬』! 御代3680円也! 制限時間は20分! より多く食べられた方を勝者と見なす!」
 店主の親父も気合いが入っていた。
「了解!」
 ――と、『大喰らいの源』。
「……了解」
 無難に返事をする恭也。
「では――始めええぇぇぇいいいいい!」

 勝負開始から十分後――
 恭也の作戦は見事に嵌まった。今の所、互角の戦いを繰り広げてる。
「クックック――中々やるじゃねえか。この俺、『大喰らいの源』にここまで付いて来るとはな」
「……」とりあえず無言で、料理の粉の量を少なくした薄い生地にキャベツで誤魔化した見た目同じ大きさの物を食べる恭也。
「実は俺のこの『コンクリート・ストマック』には数多の伝説があってだな――」
 相手は話に夢中になりながらも、具が少なく粉の量の多い生地で作った物を遠慮なくパクつく。
 作戦は成功したが、『大喰らいの源』はまだまだ余裕の表情だ。
『さ~、勝負中は飲み物はタダだからじゃんじゃん飲んでね~』
 追い打ちを掛ける伊邪那美はいつの間にか店内でウェイトレスと化していた。私服にエプロン姿。
「おお、こいつはありがてえ。可愛いお嬢ちゃん」

 ――そして勝負の結果――
「10対10――両者引き分けぇ!」
 食べ終わったお皿の数を数えて言った店主の台詞はそれだった。
「――な、バカな! この俺と互角……だと!? あ、ありえん! な、何かの間違いだ!」
「結果は、結果だ。受け入れろ」
「嘘だ! お前等は結託してるんだ! もう一度、お皿を数えてみろ!」
 変な所で勘の鋭い奴である。しかし、もう一回数えても――
『結果は結果だよ』
 皿の数は変化しなかった。
 そして、気付いた時には奴の姿は既に無かった。
『ちゃんと、作戦通りいったね。ボクが恭也の指示通りお水を飲ませたのが功を奏したのかな?』
「粉物は水気を吸って腹の中で膨らむから飲ませろと指示したが……胃が破裂しないと良いんだが」

 次に出没したのは――食券を先に買って食べる、食い放題の何でも揃ったお店だった。
「チッ! さっきはしくじったが、アレは無しだ!」
 悪態を吐く『大喰らいの源』――そこに一組の偽カップルが入店。和頼と希だ。
『またココ~? タマにはイタリアンとか連れてってヨネ!』
「てめえが鞄とか服とか色々買いやがっからだろ!」
『ソレを含めて許容出来ないとネ~甲斐性無しって言うんだヨ!』
「……グッ! クソ!」
 その時、不意に実の彼女の姿が脳裏を過ぎり……。
 希は悪戯に笑い和頼の腕を組んだ。
『……マァ、今日ダケ許したげるヨ♪』
 『大喰らいの源』が席に着くと、隣にはニロの姿が。
『いちばんおっきいのちょうだい』
 そして、その反対側の席には和頼が座り――案の定、例の対決を持ち掛けられた。
「面白そうじゃねえか」
『ま~た~? そーゆーのホンット好きだネ』
 呆れ顔で化粧直しに行く希。
『皆、出たヨ! 顔写真そっくり』
 そして注文してる時、さっき顔写真の裏に書いた――敵情報と協力仰ぐ内容――をさり気無く店長に渡した。

「場所はここで合ってるはず、だよ」
『何だか嫌な予感がするのは気のせいであってほしいですぅ』
 胃薬を飲んで、中へと入る麻陽と愛姫。

「どうか、今回の対決にご協力を」
 未被害店にて敵の顔写真等、情報を渡していた一ニ三とキリル。
「さて、うち等もそろそろ行くで?」
『スイーツ対決は私に任せろ!』

「興味があるんだよ。混ぜてほしいんだよ」
 強引に大喰い勝負に参加する麻陽。見守る愛姫。
「――あん? 何だ今日は? 大食いデーか?」
「他に参加する人はいないかな、だよ?」
『甘い物は得意ではない! 得意ではない! が! 民の為、我が身を犠牲に……!』
「ええからさっさと行きなはれ」
「ちょ、チョッと待――」
 さすがに戸惑いを隠せない『大喰らいの源』――。
「折角だしイベントに」
 だが、店長さんの提案に仕方なく頷いてしまう。
「クッ! さすがにこれだけの数をこなすのは俺も初めてだ」
 ――そして、最終決戦は始まった。

「グハ! 何だこの豚骨スープ……!」
 いきなりスープを吐き出す、『大喰らいの源』。それは白胡椒汁。
「マズ! 抹茶アイスって、こんな味だっけ?」
 舌を青く染めながら、苦悶する『大喰らいの源』。青汁の粉。
「辛い! 辛いって、この苺ソース! 店員さん! どうなってるの!?」
 火を噴く勢いで絶叫する『大喰らいの源』。極め付け――とろみの付いた赤唐辛子。
 しかし、周囲の誰もが疑問符を浮かべ、黙々と食べ続ける。見た目も、匂いを嗅いでも、エッセンスと薬味で効果無し。
『ニロのおなかは、せかいいち!』
「ほら、またお口汚して……」
 ニロの隣で蕾菜は世話を焼きながらサンドイッチをパクリ。
「な……何だ? この空腹感」
 さっきから猛烈なスピードで平らげていくのは、和頼。
 しかし、自分でも予想外の空腹感が彼を陥れる。
(ま、まさか……希の奴)
「さっさと次出せや!」
「は、はいぃ! 少々、お待ち下さい!」
「クソッ! てめえのも寄越しやがれ!」
「な――!? 対決の意味が……!」
「うるせえ! 良いから食わせろ!」
 『大喰らいの源』が、これって反則? 的な顔をして周囲をキョロキョロしていると――
「今! だよ! 愛姫さん! 糸を引いて!」
『分かりましたですぅ』
 次の瞬間――最終兵器がポロリと姿を……!
 ――現さなかった。
「な、何で!? だよ! ブラジャーなんて卑怯! だよ!」
 しかし、当の本人はそれでも焦っていて――
『――な、な、何ですか!? コレは!? 麻陽様、謀ったのですか!?』
「ブハァ!!」
 しかし、結果オーライ。『大喰らいの源』は盛大に噴き出した。
 『大喰らいの源』が混乱の極致に達しようとしている最中、目の前にある菓子の山を次々と完食していくキリル。
『……これで終わりか? まだ食い足りんのだが』
 スイーツを追加オーダー。イスに背を預け、シーソーみたいに揺らす。チラッと敵の方へ視線を向けると退屈の表情。
『……所詮は井の中の蛙……正義の為、この命を懸ける私の敵ではない……!』
 勝者『オリハルコン・ストマック』――キリル! スイーツ部門で『コンクリート・ストマック』――『大喰らいの源』を破る!
「……も、もう良い! もう十分だ! 俺の負け……俺の負けだああぁああ!!」
 『大喰らいの源』――最後の絶叫が、事態を収束させた。

●その後――
 彼の犯行動機は嫁と一人娘に逃げられてからしたやけ食いが事の発端だった。
 そこで得た力――『コンクリート・ストマック』をヴィランとなって試し、繁華街にその名を知らしめようとしたと言うのである。

「メシ! メシを寄越せえ!」
『ハイハイ、よくガンバったネ!』
 希がツボを押すと、和頼のお腹が急激に膨れ上がった。
「ぐあっ?」
『感覚戻したケド……ダイブ食べ過ぎたネ?』
 周囲にはお皿が漫画の様に積み重なっている。スペースが無かったのか、床にも……。
「く……はあ……!」
 体中が悲鳴を上げ、和頼は唸る。
『しょ~がないナ~』
 希が再びツボを押すと――
 怒涛の如く腹痛が襲ってきた。
「うおあああ!」
 厠へ疾走。
『ブジ捕まったしメデタシメデタシ、ネ♪』
「目出度くねえッ!」

「にろは随分食べましたね」
『あるじ~おなかいっぱい』
「今日の食事代ってH.O.P.E.に請求したら必要経費として受理されるのでしょうか……」
『んぅ?』

「お好み焼き屋では、色々とやってやったが……結局、仲間が一網打尽にしてしまったな」
『ボクも応援に入ろうかと思ったんだけど……心理的作戦で』
「――心理的作戦?」
『うん。あの人の奥さんや娘さんがイジメにあった事とか二度と戻って来ない事とかをさり気無く雑談にして』
「そんな事したら、奴は二度と飯が食えなくなるかもな」
『お好み焼き勝負の時にやれば良かった』

『帰ったら御仕置ですぅ』
「……ど、どうかお手柔らかにお願いします、だよ」
『次の薬――は何が宜しいですか?』

『さて、あの店に寄ってスイーツを買わねば』
「ま、まだ食べよるんどす?! ……うちも腹一杯物喰いたいどすわ……」
 一ニ三の願望は当分叶いそうもない。

 ――こうしてエージェント達の今年の秋も深まっていく。食欲が。(了)

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • ひとひらの想い
    零月 蕾菜aa0058
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048

重体一覧

参加者

  • ひとひらの想い
    零月 蕾菜aa0058
    人間|18才|女性|防御
  • 料理の素質はアリ
    ニロ・アルムaa0058hero002
    英雄|10才|?|ブレ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • さようなら故郷
    鞠丘 麻陽aa0307
    人間|12才|女性|生命
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