本部

宝石蟹をぶち砕け

影絵 企我

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2017/10/02 13:46

掲示板

オープニング

●妹からの贈り物
『……何をしてるんだい、青藍』
 H.O.P.E.海上本部、資料室。大量の資料を抱えて歩いていたウォルターは、何かと睨めっこを続けている青藍に気付いた。青藍はじろりとウォルターの方を見ると、目の前に置かれた”それ”を指差す。
「恭佳がまた変なのを送りつけてきたの」
『変なの? ……それジャスティン像じゃないか。変なの呼ばわりはいけないなあ』
「違うっちゅうに。よく見てよ」
『ん……?』
 言われた通りにウォルターは目を凝らす。何の変哲もないジャスティン像に見える。しかし、顔を見ると何かが違う。具体的には何か余計なパーツが付いている。そう、サングラスが付いている。
『うん? ジャスティン像って黒眼鏡かけてたかな』
「かけてないわい。コレだよコレ。恭佳が送り付けてきたの」
 青藍はジャスティン像からひょいとサングラスを摘まみ上げると、指先に載せてウォルターに突き出す。
『世にいう着せ替え人形のパーツかな』
「まあそういう事になるよね。……面白い事出来るようにしといたからなんか適当な依頼に参加して試してみてくれってさ。仲間の人の分も用意したって」
 彼女は怪訝な顔でフィルムケースを取り出す。そこには十個ほどの小さなサングラスが収まっていた。恭佳の言う”面白い事”はただでさえおっかない。気づいたら精神的ロリ状態にされたり、恋愛脳が溢れたりまあともかく色々と酷い事が起こる。
『……たまにはいいんじゃないか。最近大学でもこっちでもずっと資料と睨めっこだろう。私が遊んでも許されそうな依頼を拾ってくるから、少し休んでいるといい』
「あ、そう? じゃあ任せる……」
 ウォルターはどさりと資料を机に載せると踵を返して資料室を出ていった。一瞬机に突っ伏して溜め息をついた青藍は、ペらりと資料を手に取りぼんやりと目を通し始めた。
「……アメリカ、マサチューセッツ、セイレム……何々……」

●メカラビーム
「だからってなんで海なんだよぉ!」
 黒いTシャツに短パン、ナイロンパーカーを羽織ってサンダルを履いた青藍が叫ぶ。残暑厳しい熱海の海辺。目の前には巨大な紅と蒼の蟹がガサゴソと蠢いている。今回のターゲット、海に潜っては投網に悪さをしていた大蟹従魔だ。ウォルターは悪びれもせずに答える。
『んん? 海水浴は日本のメジャーな文化だと聞いたんだがね……』
「メジャーもマイナーも知るか! 私は海水浴嫌いなんだよ! 変にナンパ野郎がやってきてやいのやいの変な事言いやがるから! 高校最後の夏はもうそれはそれは……」
『そんな話は後でいいじゃないか。皆もう行ったよ』
 何かを語りかけた青藍の口を遮るウォルター。君達は海水浴場に来てから何かとうるさい青藍を差し置き、とっとと蟹へと向かい合っていた。青藍は顔を顰めて唇を噛み締めると、幻想蝶からジャスティン像inサングラスを取り出す。
「このやろー! ホープマンの威光に平伏しやがれえ!」
 やけくそになってジャスティン像を突き出す。次の瞬間だった。

 キーン! ドカーン!

 突然ジャスティン像の眼からビームが出た。ビームが出た。大事な事なので三回言うがビームが出た。それなりに太い赤い光の束が飛び出したかと思うと、全身をルビーの鎧に包んだ蟹に炸裂する。身体に傷こそつかないものの、ジャスティンの威光をその身に受けた蟹はよろめく。青藍は呆然となった。
「は?」

「……は?」

 当然君達もその光景を見ていた。青藍からの話を聞いて、ついうっかりジャスティン像を持ってきたのなら、一つの選択肢が与えられるだろう。

 そのジャスティン像にサングラスをかけ、蟹をビームで吹き飛ばす。
 そのジャスティン像を振り上げ、宝石で出来た蟹をぶち砕く。
 どちらもしないで真面目に戦う。

 さあ、重大な(どうでもいい)選択の時だ。





「ふっはっはっは。像の眼からビームが出るのはお約束なのだよ、姉さん」
『青藍さん、一体どんな顔してるでしょうね……』

解説

メイン 海辺に現れた蟹型従魔を適当に捌け
サブ そんなものはない

エネミー
デクリオ級従魔コランダム(紅)
蟹。赤く透き通った堅い外殻と鋭い鋏を持っており、周辺の漁船の網を斬って中の魚を食べ漁っていた迷惑野郎。
ステータス
 防御S、その他は大したことない。
スキル
・宝石鎧
 ”斬る”攻撃を無効にする。”殴る”攻撃を受ける場合、物防を半減してダメージ計算を行う。
・シールド
 巨大な鋏で防御。銃・弓などによる遠隔物理攻撃を防御する際、命中を二倍にして計算を行う。

デクリオ級従魔コランダム(蒼)
蟹。蒼く透き通った堅い外殻と巨大な鋏を持っている。殻が透き通っているせいで中身が見えてキモイ。
ステータス
 防御S、後は大したことない。
スキル
・宝石鎧
 上に同じ。
・シールド
 上に同じ。

試供品
【SW】会長のサングラスレプリカ
ジャスティン像に付けるサングラス。ライヴス回路が組み込まれているため目の部分からビームが出るようになる。会長の鋭い眼光が敵を焼き尽くすのだ。
ジャスティン像装備時:ジャスティン像の射程0-100。メインフェイズを消費して『チャージする』事で、翌ラウンドのジャスティン像による攻撃は防御不可となる。翌々ラウンド以降への持越しは出来ない。

NPC
澪河青藍
妹の思い付き発明品を押し付けられた苦労人目ツッコミ科に属するエージェント。今回の依頼は「めいれいしてくれ」状態。メカラビームを使えと言われたら使う。像で直にいけと言われたらいく。普通に戦えと言われたら戦う。武器は刀なので役に立たないが。そのままだと何もしないで実況だけしてる。

リプレイ

●希望戦隊ジャスティンフィーバー
 蟹が海からのしのしとやってきても、氷鏡 六花(aa4969)は悩んでいた。地力も十分に高まった今、もっと絶零の力の使い方を工夫出来ないかと。
 ついでに、羽衣の紐をすぐ緩めるアルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)にも悩んでいた。暑いからと、女神の美貌を躊躇い無く晒す彼女。今日も六花は赤面して俯いた。
「……ん。ねえアルヴィナ。そんなに暑いなら……いっそ、水着になるとか」
『ううん。締め付けられるし、厭なのよね』
「……もう!」
 神に人間の常識は通用しない。とっとと共鳴するのが吉だった。
「行くよ、アルヴィナ……」

「鴨が葱を背負ってやってくるという表現こそあれ、まさか蟹が盃となってくるとはね」
 ティテオロス・ツァッハルラート(aa0105)は蟹と正面切って対峙し笑みを浮かべる。全身が“宝石”に包まれた蟹、と聞いてすぐに参戦を決めたのだ。
「生体が自然の工芸品や単結晶を生み出す事はさして珍しくないが、なかなかどうして、酒の肴に相応しい」
『ねぇ~、蟹を食べさせてくれるって言ったから来たのよぉ~? 何で働かなくちゃいけないの~?』
 一方のインベンスティア・ノマ(aa0105hero002)は不満たらたらだ。そもそも、蟹は食べたいというくせに、殻を剥くのも身を取るのも面倒というものぐさぶりである。しかしティテオロスは構わず共鳴した。
「さて……どこが“使えそう”かな」
 ダイナマイトな胸を張り、彼女は砂浜を進む。

『漁師さんのお邪魔をする悪いカニさんは退治なのよ!』
「(頑張ってねー♪)」
 ルナ(aa3447hero001)は世良 杏奈(aa3447)の声援を受けながら蒼のカニへと突っ込んでいく。アルスマギカを広げて魔法の花弁を舞わせ、威嚇してくる蟹の関節めがけて攻撃を見舞う。

「このやろー! 会長の威光にひれ伏しやがれぇ!」

 その時、青藍がジャスティン像を突き出して以下略。赤い蟹が撃ち抜かれてよろめいたところを、水瀬 雨月(aa0801)はじっと見ていた。
「(へえ……あのサングラスであんなことになるのね)」
 彼女は幻想蝶から像を一つ取り出す。出血大サービスでもう一つ取り出す。出発前に像が云々という話を聞いて、二つ持ってきたのである。何となく。とはいえ一人で二つの像を振り回しても仕方ない。そこで雨月は“小さな後輩”に目を向けた。
「氷鏡さん、こんな事もあろうかと思って持ってきたのだけれど、使ってみる?」
「え、あ……うん! ありがとう!」
 青藍がビームをぶっ放した様を口惜しそうに眺めていた六花は、雨月の申し出でぱっと顔を輝かせた。二人して像にサングラスを取り付け、早速蟹に向かってビームを撃ち込む。濃紺と蒼白が輝いたかと思うと、二体の蟹を次々によろけさせる。
「ん、すごい……! さすが会長さんの像!」
「中々壮観ね。全員で撃ったらどうなるかしら……」
 雨月が呟いた時、突然遠くの砂浜でどーんと爆発が起きる。

『時は満ちたッ! 今こそ正義を見せる時ッ!』
「(……さっさと行けよ……)」
 アリス・レッドクイーン(aa3715hero001)が砂山の向こうから宙返りと共に飛び出す。ノリノリ&ノリノリな彼女に一ノ瀬 春翔(aa3715)は付き合いきれない。
『蔓延る悪はァッ! 許さないッ! ジャスティイイン、デストロイレッド!』
「(ひっでえ)」
『ジャスティィン、デスボイスブラック!』
 砂浜にもたもた足を取られながら飛び出してきた榊 守(aa0045hero001)が、アリスの隣でマッスルポーズを決める。そんなカッコい(くな)い守の姿を泉 杏樹(aa0045)は知らない。すやすやおねんね中だ。
「ジャスティィィン、ライトニングクリムゾン!」
『(オナカスイター)』
 朱緋の陽炎を残して彗星のように突っ込んできた彩咲 姫乃(aa0941)もまた、腕を振るって紅蓮のオーラを放つ。戦隊の魅力に抗えないあたりはやはり男の子なのである。蟹を前にメルト(aa0941hero001)もやる気満々であった。

『(ルナちゃん!)』
『(ルナ!)』
「(一緒にどうだい?)」

『……え、え? ……じゃあやる!』
 三人にキラキラした眼差しをいきなり向けられた。楽しそうな雰囲気につられたルナは軽やかな足取りで三人の隣に駆け寄り、可愛らしくのびやかにポーズを決める。
『ジャスティィィン! ルナティックローズ!』
 一瞬の間に仕込んでいた魔法が弾け、彼女の背後に砂柱を巻き起こす。杏奈も大満足だ。
「(イェーイ! カッコいいわよルナ!)」

『(青藍!)』
『(青藍!)』
「(えっと……誰だっけ?)」
「(ほらほら!)」

「何、何さ。やらない。やらんて」
 四人の視線が遠巻きに立ち尽くす青藍の方へと注がれる。彼女も最初は嫌な顔をしていたが、尚も視線を注いでやると、思いっきり渋い顔で駆け寄ってくる。
「わかった。わかったっつの!」
 青藍はバツの悪そうな顔で、スパっとポーズを決めた。
「ジャスティン、インディゴブルー!」

『(青藍、それそのまんまじゃ……)』
「澪河さん……」
 それを眺めていた六花、姉貴分のなっさけない姿に思わず言葉を失ってしまう。

「六花ちゃん……!」

 しかしそんなだっさい姉貴分から救いを求める視線が飛ばされる。ほかの四人も熱い眼差しを向けている。しかし魔法少女派の六花はちょっと渋る。そこへ迫る先輩の影。
「一緒にやらないの?」
「じゃ、じゃあ……」
 雨月に背後から囁かれては六花も断れない。ふやけた顔のまま、何も考えられないまま砂浜を走っていく。
「え、えっと……ジャスティイーン、スノーホワイト! で、いいの、かな……」
 魔法を唱える時のノリで麗らかに舞うが、やっぱり恥ずかしくなって耳も真っ赤になる。それを見たアリスと守がここぞとばかりに青藍を責めた。
『わー、六花ちゃんにやらせたー! 青藍ひどーい!』
『ひどーい! 姉貴分の風上にも置けないなぁ』
「はぁ? お前らが言うか!」

『六人目まで来た! ならば次は……ピーンク! ピーンク!』
『それピーンク!』

 青藍の抗議は華麗にスルー、今度は遠くで調理の準備をせっせと進めている桜小路 國光(aa4046)とメテオバイザー(aa4046hero001)に向かってアリスと守が煽るように手を叩く。
『はわ……サクラコ! 無茶振りがきたのです!』
「え? やらないよ?」
 二人の有無を言わせぬ迫力にメテオは慌てるが、國光は最早慣れたものだ。さらりと受け流してにやりとサディスティックな笑みを浮かべる。
「オレまでやったらいよいよ収拾つかなくなるでしょ? ねえ?」
『すいませんでしたー!』
 二人は國光に向かって飛び込み土下座を決めると、そのまま前転して何事も無かったかのように跳び上がる。アリスは像を取り出すと、蟹に向かってびしっと突き出した。
『行くぞ正義の名の下に! 希望と平和の撲殺戦隊! ジャスティンフィーバー!』
 どかんと再び大爆発。今時戦隊でもこんなに爆発しない。春翔は溜め息しか出なかった。
「(何も言えねぇ……)」

『突撃!』

 アリスの号令に合わせ、ノリノリの守と姫乃が飛び出していく。
『蟹鍋にしてやろうか……!』
 無駄なデスボイスを発すると、守は蒼い方の蟹に取りつきガンガン像の角を振り下ろす。殻が割れて体液が噴き出し、像はべったりに汚れていく。敬意もへったくれもない。
「ヒャッハー! かち割ってやるー!」
 敵を求めて全力疾走する姫乃は中学校に通うごく一般的な女の子。強いて違うところをあげるとすれば精神が男というところ。そんな姫乃は今日も今日とて敵を攪乱していくのだ。

『え、ちょっとみんな! ホントにこの像使って戦うの!?』
 三人の視線に何となく乗っかっただけのルナ、まさか本気だとは思わずに慌ててしまう。しかし中の杏奈は面白がるばかりだった。
「(ルナ、今は現実に囚われてはいけないのよ)」
『ん、んん……さすがにそこまでやる勇気は……』

「最近のアウトドア用品便利だなぁ……」
 國光は白々しい口調でガスコンロの準備をしている。ほとんど完全放置な構えの彼の袖を、メテオはあわあわしながら引っ張る。
『いいんですか? あれ、放っておいて……』
「指をささない」
『むー……』
 ダッチオーブンで水を沸かしながら、國光はメテオの言葉をさらりと受け流す。それよりも彼の興味は蟹そのものに向いていた。“従魔は食べるもの”と周囲は盛り上がっていたが、その安全性について思わず考えてしまう。
「(ルビーもサファイアもアルミだけど……そんなの殻にする蟹を食べて大丈夫なのかな)」

●希望光線ブレイクイービル
「お前が! 泣いても! 殴るのをやめない!」
 全身に紅蓮の炎を宿らせ、姫乃は紅い蟹の背後からジャスティン像という名の鈍器で甲羅をごっつんごっつん殴りつける。とどめとばかりにもう一度像を振り上げたが、その瞬間にライヴスをまとった鞭で背後から引っぱたかれた。
「はうあっ! な、何するんだ……よ……」
 とっさに振り返って文句を言おうとした姫乃だったが、鞭を携えて立つティテオロスを見て思わず赤面し口ごもる。
「おや、どうかしたかね? 怪我は負わせていないつもりだが」
「……いえ、はい。何も……」
 濃紺のボンデージファッションに規格外のボディを包み込んだ女王様。赤と紫の入り混じった瞳がぎらぎらしている。ただでさえ女性に弱い姫乃、とてもじゃないが逆らえない。そそくさと脇へ避けてしまった。
「蟹の上手な剥き方は、関節を逆に捻じ曲げてやると良いらしいね」
 蟹の足に鞭を絡め取ると、一気に柄を引いて脚を締め上げる。
「ほら、ここならば狙ってくれて構わないよ」
「アッハイ」
 すっかりペースを掴まれたLクリムゾン、女王に言われるがままジャスティン像を振るう。
「ダメ押し常勝ホームラーンッ!」
 無駄にライヴスを高めて放たれた一撃は、蟹の脚を軽々と吹っ飛ばした。

『素晴らしいぞクリムゾン! さすがの勢いだ!』
 Dレッドはそんな事を言いながら蒼い蟹の周りを駆け巡る。振り回された鋏の上に飛び乗ると、そのまま脚を駆け登ってその背中に乗る。鮮やかな弧を描くようにして、何度も何度も像の角で蟹を殴った。中身は見る見るうちにぐずぐずとなっていく。
「(あーあー、中身が……)」
 春翔はぼそぼそ呟いていたが、アリスはやはり気にしない。
『ま、どうせ潰れるじゃん?』

「えいっ!」
 六花はライヴスを受けて輝く像を突き出す。サングラスから空を裂くビームが飛び、身を固めたはずの蒼い蟹を吹き飛ばす。六花は頬を赤くし、盛り上がって青藍と雨月に振り返る。
「見てっ、キュアリアみたいで、カッコイイ……!」
「うん……喜んでくれてるなら何より……」
「ええ。今のはちゃんと撮っておいてあげたわよ」
 曖昧な笑みを浮かべている青藍と、像をスマートフォンに持ち替えている雨月。蟹に取りついて面白可笑しくやっている他の面子にも目を向けると、いきなり雨月は右手に黒檀の箒を喚びだす。黒のドレスを翻してさっと跨り、ふわりと空へと舞い上がった。
「(放っておいたらすぐ終わってしまいそうだし。ここは撮っておいてあげましょう)」
 カメラを構えて優雅に空撮。バラに跨って飛ぶルナはそんな彼女と擦れ違う。一瞬の間でも、杏奈は雨月の持つカメラの存在を見逃さなかった。
「(ルナ、雨月さんが撮ってくれてるみたいよ。今こそ必殺技を見せるとき!)」
『え? じゃ、じゃあ……』
 ルナは杏奈にそそのかされるまま、像を取り出し空高く跳び上がる。日光を浴びるジャスティン像は、見る見るうちに薔薇色の光を帯びた。そのまま柄の先を転じて急降下、ルナは蒼い蟹に向かって像を突き出す。
『食らいなさい! ホーリースパァアアアアアク!』
 放たれる薔薇色の極太ビーム。蟹は背中を庇えない。直撃を食らった蟹は砂浜にびたんと叩きつけられてしまった。

『一周年のでもビーム出るんですかね?』
 砂浜に並んだ二体のジャスティン像を眺め、日傘を差したメテオは首を傾げる。英語の学術雑誌に目を通している國光は、彼女の方を見もせず戦場を指差す。上空を飛び回る雨月が、ちょうど一周年ジャスティンでビームを撃ったところだった。
『指差しちゃダメなんですよー』
 メテオがぷんすこ怒り出すが、國光はマイペースを貫いていた。本を一旦閉じ、フィルムに入れて渡されたサングラスを一つ取り出す。細かく細工の施されたそれは、指で潰すとぱっきり折れてしまいそうだ。
「(この細いテンプルやリムのどこにAGWドライブやライヴス回路が搭載されているんだろう……?)」


 私が説明しよう! そもそもジャスティン像にはAGWドライブが組み込まれているのである! 鈍器だし当たり前だよなぁ? だが回路がだらしねぇデザインなせいで肝心のライヴスが散逸するのだ! やるなら最後までやれグロリア社のバーカ! 故に私はこのサングラスで回路に指向性を与え、ビームを放てるようにしたのである! 何? どうせなら威力上げろ? そんなことしたら、みんなが依頼でジャスティン振り回すカオスの出来上がりじゃないか! 誰が望むんだそんな事! 以上!


「(……まあ、いいや。あの子だから作れるってことで)」
 サングラスをフィルムに戻すと、國光は戦場の方にちらりと目を向ける。すでに紅い方の蟹は撃沈され、残った蒼い蟹に向かっていよいよ最後の一撃が決められようとしていた。

『0距離射撃とか浪漫だろ?』
 守はチャージしたビームを蒼蟹の正面に向かってぶちかまそうとするが、蟹もただではやられない。鋏を振るい、守を掴んで持ち上げてしまった。
『ぐ、ぐわあああっ』
 白々しい演技。抜け出そうと思えばいつでも抜け出せるというのに、守は苦しそうな顔をして蟹にぶんぶん振り回されている。蒼い蟹に向かって像を構えていた姫乃は、慌てて隣のアリスを見る。
「リーダーまずい!」
『ああ……デスボイスブラック……!』
 アリスは口では悔しそうな声を作りながらも、ジャスティンの眼はしっかりと蟹の方へと向けている。顔のニヤニヤが抑えきれていない。
『なんてことを……許さん、許さんぞ!』
「(あ、コレまたヒドイやつ)」
『怯むな! 俺にかまわずやるんだ!』
 そこで守も殊勝な顔を作って叫ぶ。皴の一つにも気を使った迫真の演技である。
『撃ち抜け! 俺の屍を越えて行け!』
「くっ、あんたごとやれっていうのかよッ! 出来ねえよ! リーダー、リーダー?」
 TRPG慣れで演技は得意な姫乃、熱血な正義漢キャラを作って叫ぶ。しかしアリスはもう既に像を高々と空へ突き上げていた。
『ジャスティン像が真っ赤に燃えるッ! お前を斃せと輝き叫ぶッ!』
 アリスの叫びに合わせ、彼女の像は紅いライヴスに包まれる。ノリと勢いで全てを押し切る構えだ。一度は何やら言った姫乃だが、結局その勢いに流されて自分もジャスティン像を天へと掲げる。像はみるみる彼女のトレードカラーのクリムゾンに包まれていく。二人の遠慮のない様子に、純粋な六花は慌ててしまう。
「……え、ええ? 大丈夫なの?」
「ご所望なんだからいいんだよ。遠慮なくやっちまえ」
 純粋じゃない青藍は“イイ笑顔”で像を突き出す。ジャスティン像が名前に劣らぬ青藍色に包まれた。ルナは散った薔薇の花弁を纏って砂浜に降り立ち、彼女も薔薇色に光るジャスティン像を突き出す。
『あたしもやるわ!』
「じゃ、じゃあ……」
 六花もおずおずと像を突き出す。それを見たアリスは、一つ頷き敵を睨む。
『必殺! クイーンハート! ジャァスティン! ビィィム!』
 怒りのような何かを籠めて、アリスは蒼蟹に向かってビームを放つ。他のジャスティンフィーバー達も次々にビームを放つ。七色……というにはあまりにも赤が多い光が混ざり合い、束となって蒼蟹に炸裂する。蟹は守を挟んだ鋏を体の前に突き出して身を守ろうとするが、五人の力が合わさった一発を防ぐ事など出来るはずもない。腕は吹き飛び、守も吹き飛び、蟹の胸にビームが突き刺さる。
「……」
 腕をもぎ取られた蟹は、口から泡を吹きながら倒れ込む。鋏に挟まれたまま倒れていた守は、シャツをぷすぷす焦がしながら立ち上がる。
『ふ……デスボイスブラックは……不死身だ』
「ブラックううう!」
 守は得意げに腕を組む。姫乃は快哉の声と共に右腕を高々と突き上げ、アリスは満足げな笑みを浮かべて頷いた。
『うむ。正義は勝つのだ! ハッハッハ!』
「(なんかほんと……スイマセン……)」

「(中々いい絵が撮れたわね)」
 上空からビームを捉えた雨月は、細かくリプレイで再生しながら満足げに頷く。後で技術班に提供し、ちょっとしたホームムービーにしてもらおう。そんな事を思いながら。

「ずいぶん盛り上がっているなぁ……まあ、甲羅に傷が無ければ何の問題もないがね」
 ティテオロスはそんな彼らを遠巻きに眺め、肩を竦めるのだった。

●一休み一休み
『蟹さん退治は終わったかしら~? 私の分はぁ~? あるわよねぇ~?』
 戦いが終わったとみるや、早速蟹の身をせびるノマ。しかしティテオロスは構わずそんな彼女を蟹の亡骸へと引っ張っていく。全ては宝石の甲羅で甲羅酒をやるためだ。
「死体の扱いはお手の物だろう?」
『ええ~……何で蟹さんの腑分けなんかしないといけないのぉ~? 料理人さんっぽい人はたくさんいるわよぉ』
 ノマは口を尖らせたが、気に留めない。
「私の美術的な試みの為だ。協力したまえ」

「……んしょ、っと」
 上に着ていた服を脱ぎ、六花は黒白、ワンポイントに黄色のコウテイペンギンを思わせるワンピース型水着を露わにする。一方アルヴィナは羽衣のまま堂々と海へと入っている。そのせいで薄い羽衣が肌に張り付き、姫乃が真っ赤になって目を背けていた。
「おー、可愛い水着だねぇ、六花ちゃん」
 雨月から受け取った緑茶を飲みながら、砂浜に座り込んだ青藍は六花を見上げて微笑む。六花は一瞬はにかむと、青藍の眼をじっと見つめて尋ねた。
「澪河さんも……一緒に、泳ごう?」
「えっ? うむむ」
 青藍はあからさまに厭そうな顔をする。その顔を見た六花は、ばつが悪そうに俯いた。ここへ向かう道中で青藍が水着がどうこう言っている姿は見ていたのである。
「(でも……なんで水着、嫌いなのかな……そういえば、H.O.P.E.に来る前は澪河さん、一人でずっと、戦ってたって、言ってたし。体に傷……とか、あるなら、変なこと言って、傷つけたくない……し)」
 六花は瞳に様々な感情を浮かべて青藍を見つめた。明らかに渋っていた青藍だったが、やがて肩を竦めて尋ねてくる。
「そんなに一緒に泳ぎたい?」
「……ん、でも、無理に、とは……」
「いや、いいんだよ。別に」
 青藍はそう言って立ち上がると、Tシャツに短パンを脱ぎだす。そうして彼女は藍色のブラとホットパンツの水着になった。ちらりと守は見たが、高校生くらいにしか見えないその容姿には興味を惹かれず、調理作業へと戻っていく。
「澪河さん……きれい、だと、思います」
「はは。無遠慮にナンパされて断ったら『ガキ』だの『貧乳』だの言われてさ……」
 六花の言葉を聞くと、青藍は苦笑しつつも海辺で足をひたひたさせているアルヴィナ、水上ブーツで海を走る雨月を指差す。ついでに蟹を捌いているノマ達も。
「あれとかあれとかと比べてな! 余計なお世話じゃ! つーかあれどうなってん? 何食ったらああなるの!」
「……ん。り、六花も、ちょっと、心配に……」
 女子二人が海辺でまごまごしていると、容姿端麗ケチつけるとこなしの雨月が目の前を通りかかる。
「りっちゃん! どうしたの?」
「ふえ……? 水瀬、さん?」
「氷鏡さん、澪河さんと泳ぐんでしょう?」
 悪戯っぽい笑みを浮かべて雨月は六花に手招きする。目を白黒させていた六花だったが、やがて笑顔になって頷く。
「はい……!」

『(どうせなら、アラサー美女の水着姿を眺めながら作業したかったぜ……)』
 守はそんな事を思いながらてきぱきと料理の準備を進めていく。何だかんだで元軍人、野営の料理はお手の物だ。調理器具セットで用意した三つの竈を同時に駆使し、蟹鍋やら蟹汁やら蟹バーベキューやら作っている。初めての野外料理に、杏樹も興味津々だ。
「杏樹も、お手つだ――」
『お嬢は近づくな! 絶対に、絶対にだ!』
「ふえっ」
 目を見開いて食い気味に拒絶する。蘇るはひと月前のトラウマ。彼を介抱した國光もげっそりした笑みを浮かべる。
「(あれは……酷かったなぁ)」
「おーい、蟹の身集めてきたぜ。まだまだあるぞ」
 ザルにどっさりと赤い身を載せて姫乃がやってくる。疾風迅雷の絶技で宝石の脚をカチ割り、中の身をさっとこそいできたのだ。竈のそばに座り込んでプルプルしているメルトは、そんな身を見上げていつものように呟く。
『オナカスイター』
「わかってるって食欲魔人め。みんなの分まで食ったりするなよ……」
 姫乃は小さく頷くと、幻想蝶の中に押し込めた(自家製の)クッキーをメルトの前にばらまく。メインディッシュのドカ食いを少しでも防ごうという魂胆だ。そんな事とは知らない杏奈は、潰れた身を集めてすり身を作りながら尋ねる。
「おいしそうですね。後で分けてもらってもいいですか?」
「え? ……お、おう。いくらでもあるから、あげるよ」
 それだけ言い残すと、照れて赤くなった顔を隠して姫乃は蟹の方へと戻っていく。入れ替わるように、アムブロシア(aa0801hero001)が鍋を抱えてやってきた。
『……少し、汁と具をこっちに分けてくれ』
「え? あ、はい。どうしたんですか?」
 言われるがまま、杏奈は鍋から汁をいくつか掬って彼の小さな鍋に流し込む。アムブロシアは満足げに頷くと、踵を返して歩き出す。その先には、砂を固めて作った自前の竈。
『これをこうして、こうだ』
 竈に火をくべると、アムブロシアは自家製のカレースパイスを次々に鍋へと突っ込んでいく。彼お手製のシーフードカレーが出来上がっていく。濡れた体を拭いている雨月が“またか”という目で眺めているが、気にも留めない。
『ふっふーん! いい匂いだのう! さすがだブラック!』
「お前も働けよ」
 左うちわで調理の様子を眺めるアリス。春翔はそんな彼女の頭をぺしりと叩くのだった。

「……ふぅ、久々に別な意味で暴れた気分だな」
 姫乃はジャスティン像を磨き上げると、その目の前にカニ料理数点を並べて手を合わせる。いつもいつもの感謝の気持ちである。供えたそばからメルトが手を伸ばして食べてしまっているが。
「蟹、美味しいの。腕のいい漁師さんが、とってきたのかな?」
『やっぱ仕事の後の酒は最高だな。甲羅酒も美味い』
 ティテオロスの拵えた優美な器で酒を呷り、守は満足げに頷く。隣で杏奈は缶ビールをぐいと飲み、満面の笑みを浮かべる。
「こんなにゼータクに蟹を食べられるなんて、エージェントって良いわねー♪」
『うん、鍋もバーベキューも美味しい!』
『ええ。日本酒は初めてですが、中々悪くないです』
 ウォルターもまた日本酒に舌鼓を打っている。その隣では、妙に悦の入った表情でアルヴィナが蟹の刺身を食べていた。蟹はライバルの使いだったのだ。
『ふふ。蟹を食べるって、良いものね』
「……ん。潮と、蟹の香りが、とても良いです」
 六花が満足げに呟くと、雨月もくすりと微笑んだ。
「ええ。戦い続きだったし、いい気分転換になったかもしれないわね」
 一方、散々遊び倒したアリスは一転して普通に蟹料理を楽しんでいる。
『おいしー!』
「あんだけやってよくもまあ……」
 春翔は蟹汁を啜りながらアリスを一瞥する。しかし彼女はどこ吹く風であった。ジャスティン像の横っ面をつんつんつつき、アリスはにやりと笑う。
『何が? いやー、もうやるだけやったし、そろそろ売っちゃう?』
「おいマジか」
 ティテオロスは豪快に、かつ上品に甲羅酒を呷り、小さく頷く。多くのジャスティン像が辿る末路。彼女の下でも、ジャスティン像は“そう”なってしまったのである。

「ああ。あれはいい品だったな。うむ。素材として、だが」

 一通り料理を楽しんだ國光とメテオは、仲間達の環を少し離れて砂浜に散らばる甲羅の欠片を集めていた。
『今年は海にいけませんでしたからね』
「去年も海に入ってないと思うけど……」
『船には乗りました』
 メテオは砂の中から小さなルビーの一かけらを拾い上げる。夕陽にかざすと、それはぼんやりと橙に輝く。それを見つめるメテオは、くすりと笑うのだった。

『遅い夏の思い出ですね』

 こうして晩夏の戦いは終わった。ダイスロールでファンブルしたら食あたりを起こしたかもしれないが、それはまた別の話。

 おわり

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 藤の華
    泉 杏樹aa0045
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969

重体一覧

参加者

  • 藤の華
    泉 杏樹aa0045
    人間|18才|女性|生命
  • Black coat
    榊 守aa0045hero001
    英雄|38才|男性|バト
  • 己が至高の美
    ティテオロス・ツァッハルラートaa0105
    人間|25才|女性|命中
  • 『人間』パーツコレクター
    インベンスティア・ノマaa0105hero002
    英雄|23才|女性|バト
  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801
    人間|18才|女性|生命
  • 難局を覆す者
    アムブロシアaa0801hero001
    英雄|34才|?|ソフィ
  • 朝日の少女
    彩咲 姫乃aa0941
    人間|12才|女性|回避
  • 胃袋は宇宙
    メルトaa0941hero001
    英雄|8才|?|ドレ
  • 世を超える絆
    世良 杏奈aa3447
    人間|27才|女性|生命
  • 魔法少女L・ローズ
    ルナaa3447hero001
    英雄|7才|女性|ソフィ
  • 生命の意味を知る者
    一ノ瀬 春翔aa3715
    人間|25才|男性|攻撃
  • 生の形を守る者
    アリス・レッドクイーンaa3715hero001
    英雄|15才|女性|シャド
  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046
    人間|25才|男性|防御
  • サクラコの剣
    メテオバイザーaa4046hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
前に戻る
ページトップへ戻る