本部
実りの秋!南瓜南瓜南瓜!
掲示板
-
相談卓
最終発言2017/09/19 12:14:49 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/09/19 12:05:14
オープニング
■収穫日和
あんなにも五月蝿かった蝉の声も日々静かになっていく。蒸し暑く感じた風も、今じゃ肌寒さを感じる。鬱陶しくも感じていた夏なのに、今じゃ少し寂しく思える。
徐々に身を付け収穫の日を待つ畑で、年老いた男が一人でせっせと農作業をしていた。
「そろそろ休憩すっぺなぁ」
首にかけていたタオルで汗をぬぐいつつ、手にしていた道具を杖代わりに一息つく。
「んん?あれは、何だべなぁ」
老人の目線は、作業していた畑の道を挟んだ反対側にある畑に向けられていた。
そこはちょうど収穫の時期を迎えた南瓜の畑であった。夏も終わり、小さな緑の身だった南瓜は次々と育ってきている。
ちょうど明日か明後日には収穫にとりかかろうかとは思っていたのだが、なぜか目の前の南瓜は独りでにゴロゴロと転がっているのである。
「山さから、子猿でも降りてきていたずらでもしてるんだろか」
南瓜の直径20~30㎝の橙色で、小さい猿が転がしているなら独りでに転がっているように見えても何ら可笑しくない。
稀に山から野生の動物が降りてくることもあるので、特に不思議にも思わず転がっている方へとお歩いていた。
「おんやぁ、何にもいねぇべ」
近づくとそれは転がるのをやめる。実が全体見える所へ来ても、それを転がしていただろう動物は見当たらない。
流石に不思議に思い、それを持ち上げおかしいところでもあるんだろうかと確認しようとする。
すると突如として腰に急激な痛みを感じた。
「あああ……やっちまったべ」
ぎっくり腰でもやってしまったんだろう。
「明日の収穫も待ってるのにどうしたもんか」
男性は痛む腰を抑えつつ、とぼとぼと重い足取りで家へと帰っていった。
■一通のメール
メールの着信音が鳴り、携帯端末を確認する。知り合いのエージェントから一通のメールが送られてきた。宛先には『急募:人手求』と書かれていた。
一体どうしたんだろうかと内容を確認する。どうやらそのメールは他に複数人にも送られているようだ。
『よぉ!ちょっと頼みたいことがあるんだが、聞いちゃくれんかの。詳細は現地で…と言いたいところだがそれじゃ駄目か。
ちょいとお世話になっているというか、知り合いの爺さんが体調悪いらしくてさ。独り身ってこともあって心配な上に、農家をやっているんだが収穫をせにゃいけんらしい。たまには身近な人助けってことで、手伝っちゃくれんだろうか。
まあ、きっと優しいお主等の事だ。お年寄りの為と手伝ってくれると信じておるよ。よろしく頼む!』
内容は以下のようなことが書かれていた。他には、集合場所と日時などが書かれていた。
解説
■目的
知り合いのエージェントから頼まれたお願い事をこなす。
■現状わかっている情報
・朝七時に駅集合のち、車で現地へ向かう。
・必要なものは特にないが、農作業に適する汚れても良い服が良いだろう。
・知り合いの方は、70代の男性で奥さんは数年前に他界し、現在は独身だそうだ。
・メールをよく見ると追伸と気になることが書かれていた。それは爺さんが庭で転がる野菜を見たらしいということだ。もしかしたら、従魔でも潜んでいるのだろうか?
念のため、戦闘する場合があることも念頭に置いておいた方が良いかもしれない。
リプレイ
■オープニング
ガタゴトと狭い車内での7人の能力者は揺られていた。目的地に向かうため、もう40分は車に乗っている。
「すまんなー。車が一台しか用意できなくて……誰かにもう一台持ってきてもらえば良かったんじゃが」
申し訳なさそうに、事の発端である彼―剣太(az0094)が助手席と後部座席にいる6人に声をかける。車が7人乗りだったために、同乗するはずだった英雄は幻想蝶の中にいてもらっている。
「……□、……□□……」
助手席に座る辺是 落児(aa0281)が、ぼそぼそと呟く。それに応えるように、幻想蝶から声が聞こえてくる。
『私は大丈夫です。この中も快適ですから。他の皆さんは大丈夫でしょうか?』
声の主は、辺是のパートナーの構築の魔女(aa0281hero001)である。
『ボクは大丈夫だよ! 狭い車内でぎゅうぎゅうになるよりはいいんじゃないのかな?』
気遣う言葉に、伊邪那美(aa0127hero001)が答える。
「……確かにな」
伊邪那美に同意するように御神 恭也(aa0127)も答えた。彼は2列目の左側に座り、肘を立て窓の外を眺めていた。
『私も特に問題ないぞ。車内だけだからな』
「あともうちょっとで着くやろうし、そんなん気にしなさんな。な、剣太はん」
弥刀 一二三(aa1048)とキリル ブラックモア(aa1048hero001)も、気にすることではないと言ってくれる。弥刀が後部座席から軽く運転席をポンポンっと叩く。
「特に問題ないッスよ! 車が何台もあったりバスだったりしたら、村の方がびっくりしちゃいますからね!」
齶田 米衛門(aa1482)もまた、にこにこと答えてくれた。
『だなァ。びっくりさせて、ぎっくり腰が悪化したらどうすんだ。他の村の人までなったらたまったもんじゃないぜ』
なんて冗談を、スノー ヴェイツ(aa1482hero001)が言う。
「お力に慣れればいいのですが、私農業はやったことがないので大丈夫ですかね?」
少し心配そうに斉加 理夢琉(aa0783)が問う。
『なんとかなるだろう』
その問いにアリュー(aa0783hero001)が答える。
「大丈夫じゃよ! みんなばっちりな格好じゃ!!」
『お爺さんの調子はどうなのかしら』
「あまりに酷いようなら早めにいかないとですよね」
笹山平介(aa0342)と柳京香(aa0342hero001)は、お爺さんの身を案じていた。
しばらくして、剣太がミラー越しに皆に目線を向ける。
「さて、もう着くぞい。みんな降りる準備をしてくれい!」
その言葉に、みなが視線を進行方向へ向けると、いつの間にか、山に囲まれて処に家と畑が広がる村についていた。
数十メートルから数百メートルごとに家が点在し、そこに寄り添うようにそれぞれ畑がある。中には家が固まって密集しているところもあるが、見渡す限り小さい集落であるというのがわかった。
■一人暮らしのお爺さん
「じいさん、大丈夫か~?」
先行して歩いていた剣太がこの家だと言って、村の一角にある平屋に入っていった。
一人で住むにしては少々広い家で、庭まであった。庭は家に対しこじんまりとしていて、一か所にナスやキュウリなどもう旬も終わりだろう野菜がいくつか植わっていた。
彼に続いて一言挨拶したり、会釈したりと他の皆も家に入ってきた。幻想蝶の中にいた英雄たちも皆外に出ている。
「……おぉ、剣太さんか。よく来てくれたなぁ。こんなに一杯手伝ってくれてありがとうなぁ。ごめんなぁ……こんな格好のままで」
声の主は、他の部屋より狭い和室―寝室だろうか。そこでうつぶせになっていた。頭の上には仏壇があり、奥さんだろうか―お年を召した女性が写真の中で笑っていた。
お爺さんがいる部屋まで歩いてきたが、茶の間だろう場所以外は扉が開き切っていて、あまり使われていないだろう様子がうかがえた。
それぞれ、老人のすぐ近くや声の聞こえる範囲にしゃがみ込む。
『結構辛そうね……』
「湿布買ってきましたが……それよりも病院ですしょうか?」
笹山と柳が心配そうな顔をする。
「うちも湿布を買うてきたんどすが……」
『私も持ってきたんですよね』
弥刀と構築の魔女も持ってきたらしい。とりあえず、まとめておきましょうかと構築の魔女がみんなが持っていた湿布をまとめてビニール袋に入れる。
「すまんのぅ……茶の間にある茶箪笥に入れておいてくれんかの。一番上の引き戸に薬箱があると思うんじゃ、その横にでも置いてもらえると助かるぞ……」
それを聞き、湿布を持っていた構築の魔女が辺是とともに茶の間の方へと消えた。
「ちゃんと挨拶したいんじゃが……どうも体もだるくてのぅ……」
苦しそうに老人が答える。
「ちょっと失礼しますね」
斉加がマナチェイサーを使用して、老人を見る。腰当たりに不自然な流れを感じた。
「なにか……ちょっとおかしいですね」
『従魔か?』
老人に聞こえないよう、小さな声で斉加とアリューがやり取りをする。
その言葉に気づいたのか、御神が老人のお尻の方へよる。
「失礼する……痛かったらすまない」
いつの間に手にしていたのか、剣を構え刃が当たらないように腰をとんっと叩く。
「な、なんじゃ!? い、いた……痛い? あれ、なんじゃろうか、急に体が軽くなった気がするぞ……」
先ほどまで痛みでしかめていた顔が、少し和らぐ。
『従魔が取り付いていたみたいだね…』
剣をしまう御神にこそっと伊邪那美が耳打ちをする。
『なるほど……これは、畑の方も心配だな』
「そうやなぁ。従魔のせいで体調が悪くなっとったんなら、しばらくすれば落ち着くやろ」
早いうちに気づいてよかったなと弥刀とキリルがほっとした顔をする。
「まあ、無理は禁物ッス! お爺さんはゆっくりやすんで畑はオイたちにどーんと任せるッスよ!」
『ギックリ腰はクセ付くと直んねーからなァ…しっかりお休みください、お爺さん』
御神たちのやり取りを見ていて、ひとまずお爺さんに従魔の危険がなくなったのを把握したのか、にこにこと齶田が胸をとんっと叩いて言った。隣にいたスノーもほっとした顔をした。
「本当にありがとうなぁ。よいしょっと……」
起き上がれるぐらい痛みが引いたのか、ゆっくりと老人が起き上がろうとする。それを近くにいた笹山と柳が支える。
こんな格好ですまないが、自己紹介をさせて頂こうかねぇと老人が話し始める。辺是たちもいつの間にか戻ってきていた。
老人は畑野玄という名前だそうだ。それぞれ能力者たちも自己紹介をし、畑の説明へと切り替わる。
「外にあるトラックに青色のプラスチックのかごがのっているんだが……それがいっぱいになるぐらいに取ってくれれば良いぞ。もし、腐っていたりかびているものや傷んでいるものがあったら、黄色いかごに入れてくれ。そのままにしておくのは良くないからなぁ」
「収穫の仕方は、オイにまかせるッス!」
切断するときはこうやるんスよねと、齶田がわかりやすく説明してくれる。
「おうおう……そうじゃ。齶田さんはようしっとるのぉ。わしにもこういう息子がほしかったのぅ」
畑野さんは寂しそうに笑う。
「収穫に関しては、齶田さんにまかせるかのぅ。聞いている限り大丈夫そうだ。わしが一日かけてやってる作業じゃ。いくら慣れていないとはいえ、これだけ人数がいればすぐ終わるじゃろう。もし何かわからんことがあったらいつでも聞いとくれ。
トラックは倉庫にあるやつじゃが、かごがのっててわかるじゃろ。道具は倉庫にある棚に段ボールがある。そこに入っとるから使っておくれ。作業に使うもんは大体倉庫にあるから、何でも使ってくれてよいぞ」
すまんが頼んだのうと畑野さんが頭を下げ、そしてまた布団に横になった。
■いざ、農作業!
剣太は外せない仕事があるために、支部へと戻っていった。19時ごろには迎えに来てくれるらしい。
それぞれ準備を終えると、それぞれ自分の持ち場で作業をし始めた。
畑はおよそ縦が100m、横が50mほどの大きさのものが道を挟み二つ並んでいた。上を北だとすると西に山があり、左から山、畑、道、畑という感じだろうか。
それぞれ6分割し、東側は北側が笹山と柳、間が御神と伊邪那美、南側が弥刀とキリルだった。山側は、同じく北側から辺是と構築の魔女、間が斉加とアリュー、そして齶田とスノーだった。
「やるか……」
御神が約20から30cm程のカボチャが20個ほど入る青いかごを持ちあげる。
『う~ん、見た感じは怪しいものはなさそうだけどね……』
まわりをキョロキョロと伊邪那美が見渡す。
どさっとかごを収穫する場所の近く置きなおす。ここまで近寄っても、怪しい動きをする南瓜は見当たらなかった。
「立派な南瓜だな……」
チョキっとはさみで切り取り収穫した南瓜を眺めそうつぶやく。
『そうだね。大事に大事に育てたんだろうね』
御神の言葉に、伊邪那美はにっこりと返した。
順々に収穫していくと、ゴロンと音がして南瓜が転がる。
『これ……もしかして』
御神は転がる南瓜に無言で近づき、取り出した武器で軽く小突く。すると白い靄のようなものが南瓜から出ていくような気がした。
数秒ほど待ち、動かなくなるのを確認し南瓜を持ち上げる。南瓜に特におかしいところはなく、傷や変な虫がついていたりはなかった。
「恐らく、イマーゴ級の従魔がついていたんだろう」
『おじいちゃん、わからずに南瓜を触っちゃって従魔にとりつかれちゃったんだね……』
「こればかりは、普通じゃ見えないから仕方ないな……」
御神は、通信機を取り出し他の仲間に現状を報告する。
『よ~し、残りもどんどん収穫しよう!』
よしっと、両手でガッツポーズをとり気合を入れる。
「まだ、他にもいるかもしれないから気を付けながらな……」
報告を終えた御神も黙々と作業に戻るのであった。
笹山はモスケールを着用し、作業に取り掛かる。ちょきんと南瓜を切り取りつつ周囲に気を配る。
「なにやら……こちらもライヴスに妙な動きがあるのが見えますねえ」
ゴーグル越しに、ところどころ南瓜から鱗粉のようなものに動きがあるのが見えた。
『他には何かある?』
心配そうに柳が聞いてくる。
「大丈夫とは言えませんが、強いライヴスを感じられないです。恐らくイマーゴ級でしょう」
『それなら、対処しやすいわね』
噂をすれば、近くにある南瓜が転がる。ただ転がるだけでこちらを攻撃するそぶりは見えない。
二人は顔を合わせ、こくんと頷き笹山がゴーグルで確認する。
「やはり、イマーゴ級で間違いないでしょう」
それぐらいなら小突くぐらいで、倒せるわよねと軽くトントンっと剣で南瓜の表面を叩く。もちろん、刃は当たらないようにだ。
「ええ……とりあえず、気を付けつつ採取して、従魔は残らず退治しておけば大丈夫そうでしょう」
『終わって時間あったら、近場の他の人の畑も見ておきたいわね』
「そんなに難しい作業でもないですし、恐らく時間は余るのではないでしょうか。ただ、ここら辺は街灯がないですから明るいうちに調べておかないと夜は真っ暗になって見ずらいかもしれませんね」
『昼休憩するときに、村の人に挨拶がてら見に行ってみましょう』
そんな会話をしながらとった南瓜を見て美味しそうねとにっこりと笑う。
「愛情がこもっているんでしょうね」
笹山も優しい笑顔を浮かべた。
『よっし……』
先ほどの老人の様子を見ていて従魔が潜んでいることは間違いないだろう。通信機に入った仲間からの報告を聞き、こちらのエリアにもいるだろうと確信していた。
早々に斉加とアリューは共鳴する。あまり広い範囲で使用できないため、自分が担当するエリアに集中しスキルを発動する。
『マナチェイサー』
うまくスキルが発動したのか、報告と同様一部のカボチャに微量の魔力を感じた。それも本当に微量で切りよりも薄いものが揺らめいている程度だ。
確認のち、大体の場所を覚え共鳴を解く。
「こっちのエリアも強い従魔はいなそうだね」
『これぐらいなら楽に倒せるだろうな』
アリューと話をしていると、道の方から声がする。
「嬢ちゃんたち、なにしているんかいね?」
声のする方を見ると、いかにも農作業をしてますという格好のおばさん三人がこちらに対し声をかけてきた。
「お手伝いですよ!」
斉加が元気よく答える。
「そうかいそうかい。若いのに偉いのう」
「そうだ、あとでお野菜持ってきてあげるからお食べ。いつまでいるんかい?」
見知らぬものが畑でごそごそやって気になってきたのだろう。
『俺たちは18時すぎまではいる予定だ』
問いにアリューも答える。
「したら、夕飯食べるときお邪魔しようかね。玄さんには声かけとくからね」
それじゃあ、また後でねとおばさんたちは別の畑の方へと歩いていく。
「村の人たちは気さくだね!」
斉加はにっこり笑う。
『そうだな……』
斉加につられたのか、アリューもふっと笑った気がした。
辺是と構築の魔女も辺りを気にしつつ作業をしていた。
「□□―……」
『そうね。私からも強い従魔は見当たらなそう』
モスケールを着用しあたりを確認したのち、ライヴスの大きな動きが見えないのがわかると他の皆と同様通信機で報告をする。
『この武器にしてよかったですね』
「□……□□――」
『ええ、遅くまでかかりそうかと思ってましたが、これなら早く終わりそうです』
ちょきんと切り取り南瓜をかごに入れようとする。それをみて、辺是が近くまでかごを運んできてくれた。
『ありがとう』
持ってきてくれたかごに傷つかないよう丁寧に南瓜を入れる。
しばらく作業をしていると、2、3メートル離れたところで南瓜がごろりと転がった。すかさず銃を構え綺麗に一発あてる。魔法でできた玉は、中にいる従魔のみを攻撃する。
近寄って南瓜が傷ついていないかを確認する。
『あ……』
構築の魔女の眉が下がる。近寄ってみると、南瓜が割れているのだ。
「……□□」
『どうやら転がるときに石に当たってしまったようです』
南瓜を持ち上げると、下に石が転がっていた。見たところ今さっきできた傷ではないらしく、割れているところが乾いていたため、自分たちが来る前に割れたのだろう。
『こればかりはしょうがないですわね……』
割れた南瓜は混ざらないよう、かごの近くに置いておく。
『あとで黄色いかごにいれておきませんとね』
構築の魔女は悲しげな表情を浮かべた。
「…□□――」
それに対し、辺是は励ましの言葉をかけたのだろう。
『そうね。割れてしまったらしょうがないですわね。さ! 早く終わらせましょう』
二人もそのまま作業を続けた。
「いい南瓜ッスな!」
収穫した南瓜を見て齶田がにかっと笑う。
『だなァ。これで作った料理は美味そうだ』
収穫したかぼちゃを齶田から受け取り、自分の分と合わせてかごに入れる。
「転がる南瓜も拳でとんっと軽く叩けば、傷つけることなく従魔を倒せるッスからね」
大事にならなくてよかったッスなとにこにこしながら作業を続ける。
『なあ……変な音がしないかァ?』
「そうッスか?」
その言葉に耳を澄ませる。山の方で木々が揺れる音がする。何かがぶつかるような音も微かに聞こえた気がした。
「猪でもいるんスかね」
『念のため、近くの人でライヴスの動きがわかる道具持っている人に連絡したほうがいいじゃないかァ』
「そうっスね」
携帯を取り出し、どこかへ電話をかけ始めた。
「身の色が濃ゆうて、なりもとが茶色くひび割れとるんを取るんどすえ」
弥刀は収穫した南瓜をキリルに見せ、説明をしつつ作業をしていた。
『……ふむ……これがカボチャプリンやパンプキンパイになるのだな!』
スイーツが好きなキリルは、胸の高鳴りを抑えきれないのだろう、声色から興奮が抑えきれてない様子がうかがえる。
「ま、まあ……そうなんどすが……許可得んで使わんように……」
そんなキリルの様子を見て、苦笑いを浮かべる。
ほのぼのと会話をしていると、突如携帯が鳴り始める。
「なんやろか」
スマホを取り出し、電話を繋げる。
「ちょっと気になることがあったんッス。こっちに一度来ていただけないッスか?」
電話の主は齶田だった。
「りょーかい。すぐ行きますわ」
それだけ言い電話を切ると、すぐに二人は共鳴する。そして、齶田の方へと向かっていった。
「どうかしたんどすか?」
駆けつけると同時に、齶田に状況を聞く。
「いや、ちょっと山の方で音がしたんスよ。ただの動物ならいいッスけど。もし従魔とかなら危ないっスからね」
『とりあえず、ゴーグルで確認すればいいんじゃないか?』
脳内でキリルの声が聞こえる。
「そうやな。ちょい見てみましょうか」
弥刀はゴーグルを着用し、ライヴスの動きがあるかどうか確認する。モスケールも使い確認するが、山の方からは怪しい動きはない。
「どうッスか?」
『従魔らしき反応はありそうか?』
後ろから、齶田とスノーの心配そうな声が聞こえる。
「大丈夫そうやで。心配あらへん」
安全が確認できたのかゴーグルを外す。
「良かったッス……」
ふぅっと齶田が一息つく。
「もしあれやったら、オレがこっちをやるわ。場所を交換しようや。山ってことはもし万が一にもおった場合、畑の方に来る可能性があるやろうし。敵の気を引くスキルあるやつがおったほうがええんちゃう?」
確かに名案だなとスノーが答える。
「了解ッス! それじゃ、こっちは頼んだッス!!」
よろしく頼むッスと今まで弥刀たちが作業していた畑の方へと歩いていく。
弥刀たちも共鳴を解除し、森の方を警戒しつつ作業を続けることにした。
■締めの宴会
途中昼休憩などを挟んだが、15時には収穫を終えていた。トラックには各自収穫した南瓜がかごに積まれている。18個のかごに約20個のカボチャが入ってると考えると約360は収穫したのだろう。
それぞれ、畑野さんに頼まれたことをこなし、料理や掃除などを終わらせていると時刻は18時になっていた。
広々とした部屋の中央に長机が二つ並べられて置かれている。そこにはいくつもの大皿に料理が飾られている。
「いやぁ……みんなおかげで助かった。本当にありがとう」
本当にありがとうと何度もお礼を言う。
弥刀に医者に連れてってもらった畑野は従魔の影響で調子が悪くなっていただけなのだろう。痛みがだいぶ引いたのか、もう座っていても辛くはないようだ。
『お役に立てて何よりだよね!』
「……そうだな……」
伊邪那美はえへへと笑う。御神も表情が柔らかくなる。
「さあ、みなさん食べましょう♪ 折角のお料理が冷めますよ」
美味しそうですねと笹山も笑顔を浮かべる。
『お爺さん、エプロンありがとうございました。……でも、奥様の使っていたものでしたのに……良かったのでしょうか』
柳は、料理をする際に借りたエプロンをきちんとたたみ、畑野に手渡す。
「なーに……使わないでしまっておいた方がもったいない。使ってもらった方が妻もよろこぶじゃろう」
大丈夫だよと畑のは優しい笑みを浮かべる。
『どれも美味しそうだなァ』
スノーは待ちきれない様子だ。
「愛情こもった野菜を使ってるんスから。美味いのも当然ッスよ!」
そう思わないすかと齶田が言う。
「そうやなぁ。皆はん料理上手どすな~うちも見習わな!」
『私の菓子も凄いぞ!』
弥刀の視線の先には、キリルの作った大きなパンプキンパイが並んでいる。
さあ食べようかというところで、がらりと玄関が開く音がする。そして何人かの足音が廊下を響いてくる。
「よう!収穫はどうだったんじゃ?」
仕事を終え迎えに来たのであろう剣太が合流した。
「お邪魔するねぇ、玄さん」
「腰はどうだい、玄ちゃん」
剣太に続いて6人のおじさんとおばさんが入ってきた。昼間、斉加たちに声をかけたおばさんとその旦那さんだろう。
やあやあと畑野が声をかける。おばさんたちは慣れた様子で、持ち込んだ料理を空いてるスペースに並べ始める。
「いいねぇ! 大人数なのは久しぶりじゃないかい?」
「そうだなぁ……一気に子供と孫ができたようじゃよ」
畑野はお前さんもいればなぁと小さく棚に飾られる写真に呟き寂しそうに笑った。
皆が一斉にいただきますと口々に言い。少々騒がしい夕飯が始まる。
「――□……」
『ええ。美味しいわ』
辺是が取り分けてくれた料理を口にし、構築の魔女もまた笑みを浮かべる。
「嬢ちゃんたち、ちゃんと食べんと駄目よ~。ほら! これも美味しいわよ」
「あ、ありがとうございます!」
昼間会ったおばさんが、斉加のお皿にどんどん料理を載せていく。
「兄ちゃんもほれ、わしがとってやろう。どれが食いたい」
『そうだな。俺は―』
アリューにも世話焼きのおじさんが料理を取り分けてくれる。
「今日は、一年で一番楽しい日じゃろうな……」
皆が笑顔になっている食卓で、畑野は今日一番の笑顔を浮かべた。
■エンディング
食事会も終わり片付けが済むと、それぞれ家へと帰っていく。
収穫した南瓜の一部は今週末に街の公園で行われるハロウィンパーティーで使われるそうだ。
良かったら時間が合うようなら来てくれると嬉しい……南瓜は飽きたか、なんて畑野が笑って言っていた。
それぞれ、お土産にもらった野菜と料理を袋に入れ大事そうに抱えていた。
7人はガタガタと行きと同様に、舗装されていない道を車へ揺られている。長い人生という名の本の心温まる一ページはこうして終わりを告げるのだった。