本部

狭間にて、擦り合う

電気石八生

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
12人 / 6~12人
英雄
12人 / 0~12人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/09/25 08:16

掲示板

オープニング

●試練
「敵影、認めら、れず」
 斥候を務める狼形態のアラムがオケナイトの体毛をぶるりと震わせ、付着した埃を振り落とした。
「ここも無傷で行けちゃうかぁ」
 アラムの魂を収めた依り代――アバタを見やり、ウルカグアリーは小妖精めいたベリリウムの小さな顔を傾げさせた。
 夜陰に紛れ、北アメリカ大陸を南下し続けてきた1000の白狼群は今、南アメリカ大陸への玄関口、パナマ地峡の一点にいる。ここを突き抜ければ目的地まではもうすぐだ。
「バトルしないで来たおかげで従魔は増えてる。問題は経験値と試験よね」
 ウルカグアリーが振り返った。
 視線の先にいるのは、かすかに息を荒げて座すアルビノの少女――リュミドラ・ネウローエヴナ・パヴリヴィチ。
「試験が必要なら、ここで。あたしたちが時間を割ける、最後の機会ですから」
「パヴ、リヴィチ。オレは、戻る。時間を、読み違え、た」
 アラムが自らの体を弾丸に戻して姿を消した。
 大きく息をつき、リュミドラは額に浮いた汗を拭う。
「すみません、少尉」
 リュミドラの息が整うのを待ち、ウルカグアリーは口を開いた。
「そうね。やっとくんだったらここしかない。今なら海側からのジャマはないからね。あの子たちが引っぱっててくれる限り、くそったれなインカ支部も飛んで来れないんだから」
 リュミドラは無言でうなずいた。
 現在ブラジル東端部では愚神による怪現象が起きており、H.O.P.E.は厳戒態勢を保って当該地域を封鎖している。加えて、ギアナでも。こちらに裂ける人員はそう多くないはずだ。
『撒き餌は自分が。ライヴスパターンが知れれば、いくらかは引き寄せられるかと』
 リュミドラの内からかすれたアルトが流れ出した。
 妻たる英雄の体に自らの魂を封じ、リュミドラの契約英雄となったトリブヌス級愚神、ヴルダラク・ネウロイの声音である。
「あたしのもいっしょに行っとくわ。鋼の宿縁じゃないけど、石の縁たぐって来る子もいるでしょ。それか、新しくあたしたちと縁結びしたい子がね」
 リュミドラとウルカグアリーの体から、これまで隠していたライヴスがふわりと立ち昇る。
 ほどなく、この気に惹かれてエージェントが来るだろう。それだけの縁を結んできた――雪に埋もれて死ぬはずだったあたしと、敵のはずのあいつらで。
『敵影を確認したと同時、東の海岸線に沿って南下する。試されるのは沸き出した狼どもだけではない。おまえ自身もだと知れ――娘よ』
 リュミドラが伸び出した犬歯を剥きだし、笑んだ。
「はい、父さん」

●出動
 危険区域を避けてパナマ地峡へ緊急集結したエージェントたち。彼らが携える通信機器が、一斉に礼元堂深澪(az0016)からの通信を吐き出した。
『こちら礼元堂! 停止中の人狼群が動き出したよ! 配置についた人から攻撃開始して! あ――プリセンサーは空に注意って言ってる! 狼は走ってるだけだけど、上にも注意しといて! あと狼の足の速さにも注意だよ!』
 矢継ぎ早に告げた深澪が息を吸って声音を整え、告げる。
『リュミドラとウルカグアリーがなに考えてるのかわかんないけど、とにかく1体でも多く狼を減らす。それだけ考えて!』

解説

●依頼
 1000体の白狼を可能な限り倒してください。

●状況と地形
・時間は深夜。
・海岸線にほど近い荒れ地(東側は海)。通常の状態では移動ペナルティはありません。
・人狼群は基本的には散開した状態でまっすぐ南下してきます。

●白狼(ミーレス級(攻撃型)&デクリオ級(防御型)従魔)
・爪牙による近接攻撃に加え、“跳躍(射程1~5)”による飛びつき攻撃を行います。
・パッシヴスキル“タペータム”により、暗闇のペナルティを受けません。
・3体で連携し、拙ないながら回避やフェイントをかけてきます。
・移動力は25。

●リュミドラ
・人狼群の中央部を駆けています。
・ライヴス式アンチマテリアルライフル“ラスコヴィーチェ”を使用。
・ジャックポットのアクティブスキルを使用します。
・射撃武器を向けられた際、カウンター攻撃を行うことがあります。
・“タペータム”に加え、“ダメージ減少”のパッシヴスキルを発動しています。
・状況により、配下のアバタ愚神(鉱石の体を与えられた邪英あがりの人狼愚神。能力は鉱石の質と英雄だったころの職によります)を召喚します。この愚神は3ラウンド経過後、消滅します。
・移動力は25(召喚愚神も同様)。

●ウルカグアリー
・リュミドラと共にいますが、攻撃してくることはありません。
・5ラウンドめより、土中の鉱石に働きかけて地面を波打たせ、エージェントの移動力を1D6減少(効果は当該ラウンドのみ)させてくることがあります。

●備考
・戦闘可能時間は10ラウンド+3ラウンドの13ラウンドとなります。
・エージェントは人狼群の西南北のいずれからでも出動することができます。
・狼1体へ与えたダメージに余剰が生じた場合(オーバーキルになった場合)、近くにいる狼へその余剰分のダメージが与えられます(1回の攻撃で複数体を撃破可能)。これは範囲攻撃でも同様です。

リプレイ

●激突
『来る』
 九字原 昂(aa0919)と共鳴した英雄ベルフ(aa0919hero001)が短く告げた。
「鼻っ面を抑えるよ」
 刃を抜き放つがごとくの鋭さで昂が駆ける。
 眼前へ押し寄せる白狼どもの奔流へ天使のラッパを向け。
『このタイミングで、こうもあからさまに存在をアピールしてくるとはな』
 ベルフの長息に、常の柔和な笑みを消した昂が淡々と応えた。
「まるで僕らに来てほしかったみたいだ」
『案外、それだけの目的なのかもしれんな』
 金管の音が狼を撃ち据え、エージェントに告げる。突撃――!
 その後に続いたのは昂と同じシャドウルーカー、ギシャ(aa3141)だ。
『夜戦だ暗殺だ狼退治だー。数の暴力にじゅーりんされるー! ……ミオミオ、頭おかしい?』
 消せぬ笑みを内で傾げたギシャに、どらごん(aa3141hero001)が渋い顔でうなずいてみせた。
『礼元堂の頭はちょっとアレだからな。あきらめろ』
 なんとなく納得したギシャは駆けていた足を急停止、狼群へRPG-49VL「ヴァンピール」を発射した。

 夜闇を一瞬吹き払う轟音と爆炎。
「先陣が来たか。狼だけあって、さすがに脚は速いな」
 貸り受けてきた照明弾を撃ちあげ、赤城 龍哉(aa0090)は眉根をしかめた。
『すべてではなく、より多くを討てばいいのですわ。……ロシアで見たあの鉱石の愚神が、あの娘になにを吹き込んでいるのだとしても』
 応えたヴァルトラウテ(aa0090hero001)へ、カチューシャMRLに換装しながら龍哉が言う。
「近くの支部が動けねぇのを見越しての、この動き。いいぜ、釣られてやろうじゃねぇか」
『ええ。食い破られる覚悟がないなら蹴散らすだけですわ』
 相棒たる龍哉の隙を埋めるのは、同じ【BR】小隊の同僚にしてリーダーたるリィェン・ユー(aa0208)だ。
「ゆらと旦那が斬り込んだ。俺たちも続くぞ」
 フリーガーファウストG3から放たれたロケット弾が爆裂し、迫る狼どもの先陣を盛大に打ち上げる。
『しとめたは7体か。しかし1000も首があるのじゃ、全部刈るのに何手かかるかのぅ』
 狼どもを見据えて艶然と笑むイン・シェン(aa0208hero001)。
 リィェンは小さく息をつき。
「徹底抗戦してくるならとにかく、どう見ても敵の目的は突破だろう」
 その金瞳を輝かせた。
「だからって、みすみす見逃してはやらないがな」

 Ebony Knight(aa0026hero001)と共鳴した加賀谷 亮馬(aa0026)は、ズタズタにちぎれて宙に飛び、荒野へ降り落ちる白狼の破片をすり抜けて前へ出る。
「あれだけいれば的を探してうろうろしなくてすむな!」
 亮馬のとなりへ飛びだした加賀谷 ゆら(aa0651)が内で声をあげた。
『ドドドって、わんこがいっぱい走ってくるよ!』
 亮馬とゆらの未来の娘であり、ゆらの契約英雄である加賀谷 ひかる(aa0651hero002)が頬をふくらませてこれに応える。
『かわいくないけどね!』
『これ以上の厄介事はごめんだし! ひかるん、やっつけるよ』
『そのつもり!』
 黒き和ゴスからのぞく共鳴体に書きつけたベルセルクパターンを輝かせ、ゆらは狼群の鼻先を海へ押し込むように突っ込んでいく。
「まとめて死ね」
 踏み止めた足を軸に横回転、薙刀「冬姫」の刃で軌道を変えた円を幾重にも描くゆら。
 狼が、まわりを駆ける狼ごとぶった斬られ、へし折られ、ぶちまけられた。
『我らの仕事は自動的に退路の確保だな』
 Ebonyの言葉に、亮馬は重厚なフォルムを見せる青甲冑“モード・タイタン”を駆り、ゆらの死角を守って狼へと割り込んだ。
「一撃離脱――の前に、こっちもかましておかないとな。通り抜けられたら追いつけない。そこにいる間に減らす!」
 亮馬はエクリクシスで狼を刺し貫き、爆発エフェクトが照らす先へモニターアイを向けた。

「灯を灯すには手間がかかるようじゃ。わらわたちは次の機を担おうか」
 天城 初春(aa5268)がうなずいた。
 その間にも、地峡を埋め尽くす勢いで押し寄せる白き狼。
「どっから出てきたんじゃあの従魔ども」
 顔を引きつらせる初春に応えたのは彼女の傍らに立つ契約英雄、辰宮 稲荷姫(aa5268hero002)だ。
「よくぞまぁこれだけの群れをなしたものじゃ」
 6歳の狐巫女と9歳の龍狐、ふたり分の背丈を足してようやく成人男性の平均身長となる少女たちが並んで駆け出した。
「じゃが」、初春が稲荷姫を見上げ。
「獲物が多いはいいこと」、稲荷姫が初春に共鳴し。
「でござるな」、ひとりの武者と成った。
 初春は地へ転がり込んでアンチマテリアルライフルを伏射。1体の狼を突き抜けたライフル弾がもう1体の胴に食い込み、その回転をもって内蔵をかき回す。
「狩りの時間でござる!」
『お初、油断はするでないぞ』
 稲荷姫の警告に、初春はぎちりと口の端を吊り上げた。

 楔陣を組んで迫る3体の白狼が、まわりの狼ともども横薙ぎの爆風に引きちぎられて地にぶちまけられた。
「成功ンゴ。追撃よろしくニキー」
 片膝立ちの射撃姿勢を解いた美空(aa4136)は、ちんまい体にはいささか大きすぎるカチューシャMRLを幻想蝶にしまい、移動を開始した。
『リュミドラさん、どこでしょう? 会うまでにすり切れちゃいますぅ』
 内から漏れ出すひばり(aa4136hero001)の声音。
 美空はあなたの美しさは変わらないを引っぱり出しながら内で応えた。
『エッチなのはいけないのであります! と、それはともかく群れの指揮とカバーリングを担う立場上、群れの中心にいるものと推測されるであります。美空たちの任務は楓おねェ様をリュミドラさんに合わせることでありますよ』
 ひばりはさらなる用意を始めた美空を見つつ、ピッケルハウベの前立てを不安げに波立たせ。
『うぅ、ほんとにやるんですかぁ?』

 美空のあげた爆炎を狼煙とし、東海林聖(aa0203)が狼群へ突撃した。
「まだ見えねェけど、アイツがいるのはなんとなくわかる」
 駆け足を踏み止めた反動に乗せてライオンハートをまっすぐ斬り下ろして狼を両断し、そのまま地へ叩きつけて刃をバウンド、別の狼を斬り飛ばしながら遠心力をつけ、大きく振り回してさらに撫で斬る。
 そして大きく開いた先を示し。
「おまえが信じる道を貫き通せよ。連帯責任くらいは付き合うぜ」
 同じ【戦狼】小隊の一員として、そして友として。
 聖の意志をもっとも近くで感じているLe..(aa0203hero001)もまたうなずいて。
『……ちょっとだけしか、話せないと思うけど……行って』
 ふたりの促しにうなずいたのは、柳生 楓(aa3403)。
「リュミドラさんに見せてきます。私の意志と覚悟を」
 その言葉に、内の氷室 詩乃(aa3403hero001)はほろりと苦笑した。
『シベリアからパナマ、寒いところから暑いところに来ても楓は変わらないね』
 レーヴァテインの柄を強く握り締めた楓が、聖の拓いた道へ踏み込み、さらにその隙間を埋めようと身構える狼群へ踏み出した。
「絶対にあきらめない。なにがあっても――!」

 グォウ! 楓に跳びかかろうとした白狼が吠え、地に叩きつけられた。
 その首筋に食らいつき、ライヴスの牙で喉を噛み裂いたのは、“閻羅の銀環”より召喚した凍気の双狼“冥狼”。黒焔をたなびかせ、さらに狼どもを追い立てる。
『思った以上にいそがしい。これではりんくれぇとを上げている暇がないな』
 内で嘆息を漏らすナラカ(aa0098hero001)に、八朔 カゲリ(aa0098)は低く応えた。
「機会は来る。作ってくれるさ」
 カゲリの視線の先には亮馬とゆら、そして聖と楓がいる。心を合わせ、共に戦場を駆ける【戦狼】の同胞が。
『石塊のみならず死者までも引きずり出してどこへ行く?』
 いつになく尖ったナラカの言葉。
 カゲリは黙したまま歩を進めた。
 ナラカが言外に含めた失意は察している。しかし絶対の肯定者たる彼にとって、すべてはただ在るがままに在り、為すがままに成されるものだから……受け入れるだけだ。

 狼群の西側よりその流れを窺っていたニノマエ(aa4381)が、内のミツルギ サヤ(aa4381hero001)へ言葉を投げた。
「分断するには流れが太いな」
『食い破れずともより深くまで食い込めればいい。狼どもに経験を積ませ、次へ繋がせてはいかん。1匹たりとも逃さんつもりで行け』
 サヤの言葉を受けたニノマエは外骨格式パワードユニット「阿修羅」を起動、一気に加速した。
「……今までの狼とどうちがうのか、楽しみだ!」
 突っ込んできた彼目がけ、狼どもが跳びついた。
 最大強化したSA「アルマータ」の軽量アーマー、その隙間を縫って突き立てられる牙は生臭く、熱い。
 5体の狼に噛みつかれたニノマエの膝が落ちるが。
『受け取れ。死出の土産だ――我が同胞よ、来たれ』
 サヤの呼び声に応え、死出ノ御剣を映しとった無数の刃が夜闇を埋め尽くす。
 かくて降り落ちたウェポンズレインが、ニノマエにたかる狼をそぎ落とし、地へ縫いつけた。
「死んだ仲間は置き去りか。徹底してるな」
 ニノマエは迫る狼どもを三白眼でにらみつけた。
『ひるむな。敵を恐れれば切っ先がぶれる。奴らが避けていこうとするならこちらから踏み込み、次の一撃を叩きこめ』
「ここで震えてるつもりなんてないさ!」
 ニノマエはサヤに刃の召喚を任せ、進む。

●乱舞
 多くを巻き込むことを主眼に置いたエージェントたちのミサイル攻撃が夜闇を、そして荒野を、さらには燃え尽きゆく照明弾の灯を揺るがした。
「龍哉!」
 屠剣「神斬」煉獄仕様“極”から斬撃を放ち、リィェンが相棒を呼んだ。
「おお!」
 カチューシャMRLから体をもぎ離し、龍哉は炎へ踏み出した。
 その手に握るは“烈華”の銘を与えた屠剣「神斬」。鍔と据えられた深紅の睡蓮を正眼に押し立て、息を止める。
 と。赤炎の壁を突き抜けて牙を剥く白狼の群れ。
 ――恐れず抜けてきた勇気に免じて、一撃で楽にしてやるぜ。
 腰を据えず、ただ腕だけで振り回しているようにしか見えない龍哉の剣。しかし彼の得物は細剣ならぬ大剣だ。その重量と全長を完全に制し、けして切っ先を地に落とさぬ彼の技の冴えは、凄まじいのひと言だ。
『伊達に鍛えていませんわよね?』
 戦乙女たるヴァルトラウテの導きを得て龍哉は文字通りの縦横無尽を為し、さらに2体を串刺して。
「砕けたい奴はぶち当たってこい!!」
『わらわたちも狩るぞ!』
 龍哉のライヴスの滾りに火をつけられたインが急かす。
「そんなに楽しそうに言われてもな……ま、できるかぎり刈らせてもらいますか」
 リィェンは苦笑を浮かべ、引き出したネビロスの操糸を闇に放った。
 深く腰を落としたまま滑り出すように前進。肩で、拳で、背で巧みに狼を弾き、投じた操糸を伸ばし、撓め、円を描き、そして。
「結束(終わりだ)」
 一気に引き絞った糸が7体の狼の脚を絡め取り、斬り飛ばした。
「“極”のほうが早かったか?」
 息をつくリィェンにインが冷めた声を投げた。
『功夫が足りておらぬのじゃ。精進せよ』
「わかってる――っ!」
 とっさに外功を練ってブロックしたその肩を衝撃がかすめていく。
 彼らが戦っている間に回り込んできた狼が一撃を見舞っていったのだ。
『追うな!』
 インの短い言葉に、リィェンは意識を前へ向けなおす。どうせ追いつけない。それよりも後続をより多く討つべきだ。
『仲間を囮に――以前よりも賢くなっていますわね』
 3体ひと組で拙いながら立体機動を見せ、翻弄にかかる狼どもを見やり、ヴァルトラウテが眉根をしかめた。

『たあああ!』
 高く気合を放つひかる。が、その攻撃は一閃ならず、メーレーブロウの牽制だ。
『いっぱい引きずり込んで前に行かせる数を減らすからね!』
 内で声をあげたゆらにEbonyが応えた。
『亮馬、行け!』
 ゆらにたかる狼どもへ、亮馬は機械甲冑に包まれたその体ごと突っ込んでいく。
「右!」
 亮馬のそれだけの言葉でゆらが黒ドレスの短い裾を翻し、右へ跳ぶ。
 取り残された狼どもへ、亮馬がエクリクシスを振り上げ、振り下ろす――ただただシンプルなひと振りを見舞ったが。
 爆散する狼。そればかりか、刃の軌道上にある狼のことごとくが同じようにその体を粉砕され、血煙と化して闇に散り消えた。
 ゆらに攻撃を任せてその身をカバーしつつ、トップギアで力をいや増し怒濤乱舞。作戦としては正道中の正道だが。
『刃を踊らせればそれだけ隙を作ることにもなる。ならば極限まで手を減らして数だけを討てばよい』
 Ebonyがめずらしく満足げにうなずいた。
 果たして亮馬の周囲に空間が拓けた。
 そこへなだれ込んでこようとする狼。殺された仲間を上回る数で亮馬を押し潰さんとするが。
「させるか」
 刃を振り切った亮馬の肩に手をついて跳んだゆらが「冬姫」を地に突き立て、夫の身を守る。
 その間に体勢を立てなおした亮馬は柄頭で狼の頭蓋を叩き割り、取り囲んでこようとする別の狼の脚を蹴りで払いつつ我が身をスイング、その流れに乗せてエクリクシスを横薙ぎ、狼の連携を分断した。
 同時にゆらはエクリクシスの爆発エフェクトに隠して刃を繰り出し、回避しようとしていた狼を突き墜とす。
『そっちが連携するならこっちだって! 伊達に2年も連れ添ってないの!』
 内で言い放つゆらに、未来の娘はげんなりと。
『ママ……それ、娘的には聞いてられないやつなんですけど。まあ、外に聞こえなきゃ――』
「加賀谷家をなめるな! 俺とゆら、伊達に2年も熱々ご夫婦やってないんだよ!」
『亮馬、ひかる嬢が絶句しておるようだが?』
 Ebonyの問いに亮馬は応えない。新たなる狼群の襲来に集中を余儀なくされて。
 退く機を見いだせぬまま、加賀谷家は奔流に抗い、戦い続ける。

 ニノマエを取り囲む狼ども。無闇に跳びかかろうとせず、フェイントを交えて牽制してくる。
「だからどうした!?」
 ニノマエがマテリアルアナスタジアで風魔の小太刀を割った。100近い狼を屠る代わり、30秒でスキルは尽きた。体は満身創痍で、これ以上の酷使は命に関わるだろう。
『それでも我らに立ち止まっている時はない』
 サヤの呼んだ刃の雨が狼の包囲陣を突き崩す。
「ああ!」
 ニノマエは1体の大柄な狼へしがみついた。他の狼にはかまわない。目標を絞れば惑わされることもないからだ。無数の牙に噛み裂かれながら、耐える。
 と、その体から狼が跳んだ。ちがう。射抜かれて吹き飛んだのだ。
「ニノマエ殿、御身お立てなおしあれ!」
 洋弓「アウクシリウ厶」に次の矢をつがえて初春が叫ぶ。
 初春の身の丈は71センチ、縦に構えた弓のリムの先が地にこすれてしまいそうだ。しかしその取り回しづらさを感じさせぬ弓捌きで初春は矢を射続ける。
『お初、向かってくるぞ!』
 稲荷姫の警告。
 しかし初春は退かず、踏み出した。
 断続的に襲い来る狼の牙に対して右へ左へ体を閃かせ、肘と膝とで顎をかち上げて進む。
「お返しでござる」
 初春が弓を収めて地に一回転。立ち上がったときには、紅に輝く大刀――紅炎が握られていた。
 狼の体へ絡みつくようにして駆け抜けた直後。
 狼の首から頭が離れて、とん。地に落ちた。
「無傷というわけには参らなんだか」
 腹に残された狼牙の根元へ紅炎の柄頭をあてがい、テコにして引き抜いた。それ以外にも、その体には幾筋もの傷が口を開けている。
『流れの中におっては押し潰されるのじゃ』
 稲荷姫の助言にうなずいた初春はニノマエの礼に一礼を返し、流れの外へ。
「石の御神は小狼の巫女と共にあらせられる。はてさて、どこへ向かっておられるか」
『どこでも構わぬが、今の南米はちと騒がしい。しばらく静かにしてもらわんとの』
 方針を確かめ合った初春と稲荷姫は、照明弾を打ち上げて灯を足し、石の御神ことウルカグアリーを探す。
『こちらはどうする?』
 サヤの問いに、ニノマエは賢者の欠片を噛みしめて。
「できることをやる」
 ニノマエは御剣を支えに体を起こし、まっすぐ狼群の流れのただ中へ進む。

 最前線に立つ亮馬とゆらの右方、一直線に狼の群れへぶち当たった聖。
「おおおおおッ!!」
 体当たりで押し倒した狼の首を踏み折り、連携して追撃してくる狼の顎に拳を突き込んで固定、ライオンハートの柄頭でその頭蓋を叩き潰す。
「ちっとばかり頭よくなったって、結局噛みつきに来るんなら俺の間合だぜッ!」
 クロスカウンターを駆使し、この10秒で10体を片づけた聖は、横に寝かせた大剣の腹で狼の流れを押し割り、進み始めた。
「楓、オレに続けッ!!」
「はい!」
 聖に続く楓がレーヴァテインを高く掲げ、応えた。
 磨き上げられた刃が炎の軌跡を描き、狼を断ち割っていく。
『あの狼たちがなにをしようとしているのか、ボクはそれが気になるよ』
 詩乃のつぶやきに楓は前を見据えたまま。
「それを訊きに行きます。私たちの宿縁、ここで途切れることはないでしょうから」
 その言葉を聞いたLe..が意識を聖へ向けなおし、問う。
『目標は……?』
「美空も言ってたけど、真ん中――よりちっと奥!」
『……理由は?』
 眼前の狼を裏拳で払い、聖がニヤリ。
「勘だッ!!」
 言葉はあやふやだが、彼は群れを統率し、進ませる意志の流れを見取り、遡ってあたりをつけている。
『……まあ、いいけど』
 それを知るLe..もまた、そう返して聖とライヴスを併せた。
「邪魔だぁーッ!! 千照流、崩樂ッ!!」
 聖の体が凄まじいライヴスを放ち、群がる狼どもを撥ね除け、押し崩し、轟撃で地へ叩きつけ、爆ぜさせる。凄絶と言うよりない、千照流の怒濤乱舞であった。

 今、亮馬とゆらの突撃で狼の流れの幅は確実に狭まっており、それゆえに狙いやすくはあったが、逆に浸透圧が高まったことでエージェントたちは狼群の突撃を許してもいる状況だ。
『踏んばりどころではあるが、な』
 狼の流れをラッパの音でかき乱す昂の内、ベルフが言葉を継ぐ。
『残る半ばの足を止めるには、その要を止めることが必要だ』
「リュミドラさんだね」
 昂の呼気が止まり、その体が気配を失った。
『追いつけない以上、追うのは愚策だ。行き会うぞ』
 ベルフの言の葉もまた夜気に溶け、消えた。

●会合
 一方ギシャは群れの側面に位置取り、はぐれ狼を狩りながら観察を続けていた。
『拙いとはいえあの数で連携されては抑えきれんな。こちらが連携をもう少し密に取れれば……』
 どらごんのため息を聞きながら、ギシャはキリングワイヤーの先を撃ち込んで編み上げたそれを満足げに見やり。
「ようこそ、このすばらしい斬殺空間へー」
 地に伏せられていたそれを一気に引き起こした。
 それは、あやとりの“はしご”。止まりきれずに突っ込んだ狼どもが、自らの勢いで斬り刻まれる。
『今のはなにかの決め台詞か?』
「ヒミツー」
 ギシャは狼へ自らの赤髪が見えるよう、あえて姿を晒してゆるやかに後退した。
 フェイントを交え、包囲を進める狼ども。
 その動きに惑わされるふりで間合を詰めさせたギシャの掌からふわり、影の花弁が舞い散った。
「暗黒まほーを召し上がれー」
 花弁にまかれて倒れ、あるいは翻弄される狼どもをその場に残し、ギシャは悠然と闇へ溶け込んだ。

 カゲリの撃ち放したライヴスショットが狼どもを吹き飛ばし、拓けた道へ“冥狼”が駆け込んでいった。
 と、カゲリの内にあるナラカが『近い』。
「リュミドラか」
 カゲリは変わらぬ足取りで狼群の中心へ向かう。
『さて、小娘を見に行こう。どうするかは、それから決めるとしよう』

 聖と楓のカバーを主任務とし、あなたの美しさは変わらないの銃眼から突き出した狙撃銃を撃つ美空。
 ぞいぞい地を這って楓の後を追いながら、彼女は準備していたものへ手をかけた。
「もうすぐ狼の中心……行くンゴよ!」
 時同じくして、美空が立ち上がった。
 警戒して取り巻く狼には目をくれず、ライフルの銃口部分にくくりつけたフロストウルフマントを高く掲げて振り回す。
「この毛皮に見覚えあるンゴね! 悔しかったら出てくるンゴよ、リュミドラさぁぁぁん!」
 返答は。
 ちんまい胸元に撃ち込まれた、12・7mm弾。
『みみみそらさぁん!』
『……心配、ないでありますよ、角突き、ちゃん』
 地に背を預けて細かく息を吐き、衝撃で痙攣する体を鎮める。失われた命が、リジェレネーションでじわりと癒やされていく。
 痛い。苦しい。どうして自分はこうなると予想していながらやらかした?
 決まっている。
 ――家族のためでありますから。
 美空は震える唇をライヴス通信機へ寄せ、楓をコール。そして。
「おねェ様、リュミドラ、さんは、11時の、方向、ンゴ」

 狼の流れが逆巻く“目”のただ中で昂が潜伏を解いた瞬間――撃ち込まれる12・7mm弾。
「撃つとわかっていれば避けることも難しくはありませんから」
 半歩横にずれて弾をかわした昂があえて笑んでみせた。
「また足にしがみつくつもりか?」
 リュミドラが淡々と言葉を紡ぎ、“ラスコヴィーチェ”の銃口を昂へ向けた。
「そうさせてもらいます」
 と。ななめ前へ跳んだ昂。リュミドラは蹴りでそれを迎え討つが、彼はその蹴りをすりぬけて。
「しがみつくのは僕ではありませんけどね」
 跳ぶ直前に彼が放っていた女郎蜘蛛の糸が、彼女の軸脚を絡め取っていた。
「聞かせてもらえますか? わざと存在を露わにして僕たちを呼び寄せておいて、打破するでも足止めをするでもなく逃げおおせようとする理由を」
 リュミドラが答えないことを確かめたベルフが昂の言葉を継ぎ。
『戦力の訓練、そして選別か。この後に続くなにかのための』
 答えたのは、リュミドラの肩にとまるウルカグアリーだった。
「あら、いいとこまで読めてるじゃないのぉ。そそ、選別ね。数がいたらいいってもんじゃないから」
「――狼を選別して、どこへ向かうつもりですか? 今南米で起きている一連の騒動と関係が?」
 リュミドラの赤眼が声音をたどり……楓のオッドアイと行き会った。
「おまえがどの騒ぎを指してるのかわからないけど」
“ラスコヴィーチェ”を楓に向け。
「あたしの次の戦場は石の女神が導く先にある。それが契約だからね」
「契約? なにを対価に――」
 楓の声が銃声に撃ち消された。
『自己欺瞞、自己憐憫、自己満足。敵と定めたはずの相手に己を語る気概がないのであれば、いっそ先陣を切って攻めかかってくればよかろうに』
 ナラカが“滅刃”と名づけた双炎剣「アンドレイアー」。その黒焔まとう刃に両断された弾が、楓を捕らえ損ねてあらぬ方向へ飛び去っていく。
「……おまえがどうあろうとかまわない。それをただ見守るつもりもないけどな」
 カゲリの言葉尻へ噛みつくように、リュミドラのまわりにいた狼どもが一斉に動き出した。
 その流れに乗り、リュミドラも鈍った足を踏み出すが。
「スルーなんかさせるかよ!!」
 狼どもを貫き、リュミドラを横殴りに吹き飛ばす死出ノ御剣の渦。戦場が静止した隙を突き、射線を確保したニノマエのライヴスキャスターだ。
 傷ついた体をリュミドラへ向けて駆けさせるニノマエが声音を上げた。
「石の女神さんよ、南米の古代文明には未知の技術とか物質――オーパーツがあるとかないとかって話だよな!?」
『ギアナのヴィランズに加勢するふり、またはそれを隠れ蓑にしてそれを狙う気か?』
 続くサヤの言葉に、リュミドラの肩にあるウルカグアリーは笑み。
「今さら興味ないわねぇ。そのせいで1回封印されちゃってるし。――あたしの狙いはもっとでっかいもんよぉ。そのために試験とかしてるわけだし?」
 密度を増した狼がエージェントたちへ押し寄せ、リュミドラがライフルの狙いを楓に定めた。
「コレならどうだッ!」
 楓のカバーを務めていた聖がリュミドラの頭上に放り投げたのは、目覚まし時計「デスソニック」。けたたましいアラーム音が鳴り響き、狼どもの動きを大きく乱したその隙に。
「包囲が完成するまでは撃たせませんよ」
 昂の猫騙がその銃口をさらい、体勢を崩させる。
『避けるのがうまいわけじゃないのはこれまでの戦いで知れている。おまえは搦め手に弱い』
 ベルフの低いささやき。
 と、わずかに眉をしかめるリュミドラの腰につけられたポーチが揺れ、石の弾がこぼれ落ちた。
「リュミドラ様、お行きください」
 弾より出でたのは大盾を携えた石の人狼だった。エージェントが直接対峙する機会のなかったレオン中尉である。
「行かせねェよ頑固娘ッ!」
 リュミドラの脚を狙って聖が振り込んだ重刃は、レオンのカバーで弾かれる。
 そして狼どももまた、彼女の左右に展開して道を成した。
『小娘の意志ならず這い出してきたか。限りあればこそ命は貴い。取り戻せる命など塵芥となんら変わらぬよ。生を冒涜する死犬、ここで滅却してくれようぞ』
“滅刃”を突きつけるカゲリの内より、ナラカがレオンへ言の葉を突きつけた。
「わたくしたちは送り火です。死出ならぬ生出の旅を行くリュミドラ様を送る灯火」
 盾を掲げたレオンが守るべき誓いを発動した。
 エージェントの目がレオンに奪われた、そのとき。
「石の御神よ、一撃御免!」
 流れの後方より飛んだライヴスの針がウルカグアリーの背に突き立った。
『小狼の巫女より引き剥がせば、その企みを止められるじゃろう』
 稲荷姫の声を先触れに駆ける初春が、横構えにした「アウクシリウム」に矢をつがえる。
「残念! あたし石だからそういうの効きにくいのよねぇ。それよりいいのかしらぁ?」
 ウルカグアリーがまわりを指し示し、笑んだ。

●空
 エージェントに迫る狼どもの背が大きく蠢いた。
 毛皮を裂いて伸び出すそれは、アルミ合金の骨だ。
『腕じゃない、これは鳥の――』
 ベルフの言葉から目の前の光景が意味するところを察した昂が、ライヴス通信機「雫」を通して仲間たちへ警告を飛ばした。
「翼です! 飛ばれる前に片づけてください!」

 ギチギチと伸び出した骨から薄い金属羽を伸ばす狼。その間にも三位一体の陣形を連ね、加賀谷家の包囲を狭めていく。
「ゆら、スキルは!?」
「残っていない。ここからは」
 亮馬の問いに自らの流した血で飾った笑みを返し、前へ踏み出すゆら。その内からひかるが言葉を継いで。
『死力戦だよね!』
 亮馬の内からEbonyの声が飛んだ。
『9時の方向、回り込まれるぞ!』
「囲まれる前に叩く。――ゆら、正面頼む!」

 レオンの胸元に狙撃弾が突き刺さった。石の胸板は大きく撓んだが、めり込んだ弾頭をその反動で押し出して落とす。
「ニキとネキは狼さん叩くンゴよ!」
 癒えきらぬ体でランダム移動しながら追撃にかかる美空。
「ミツルギ!」
 その声に応えたニノマエがサヤを呼び、ウェポンズレインを降りしきらせた。
「リュミドラさん!!」
 その刃の雨の縁をなぞるように、レーヴァテインを構えた楓がリュミドラへ迫る。
「しぶといわねぇ。じゃ、こんなのどうかしら?」
 ウルカグアリーの唇がなにかを紡ぎ。
 荒野が沸き立った。
『ヒジリー……跳んだら転ぶ』
 Le..の警告に聖は波打つ大地へ膝をつき、リュミドラへ爆導索を飛ばす。
「リュミドラ様!」
 カバーに入ろうとしたレオンの前に、昂。
『鉱石の体にBSは入りにくい』
「でも、物理的な拘束までは防げない」
 ベルフに応えた昂の手から女郎蜘蛛が放たれ、レオンを拘束した。
「及ばずながら助太刀いたす!」
 狐さながらの四つ足で駆け込んだ初春が、紅炎の峰でレオンの踝を叩き、その体勢を崩した。
 そして。
「生ぬるい話し合いじゃ終わんねェなんて、最初っからわかってんだよ!」
 リュミドラを絡め取った聖のワイヤーが起爆。少女を爆炎で包み込んだ。
 その赤を割って飛来する12・7mm弾。
「――終わらせるつもりも、ありませんから」
 射線に割って入り、十字に組んだ腕の交差点で弾を受け止めた楓が言った。取り落としかけたレーヴァテインをその口にくわえ、食らいつく狼どもを引きずり、ただ前へ。
 その狼を斬り、よろめく楓の脚を支えてカゲリが並び立った。
「ナラカはまだ言いたいことがあるそうだ。おまえはなにをしに行く?」
 ライヴスヒールで腕を癒やした楓がまっすぐにカゲリを見た。
「救うために。今さら道を変えることはできませんから。――たとえナラカさんに叱られても」
 彼女の内で詩乃が言葉を紡ぐ。
『ボクは楓を支えるだけだよ。これは楓とあの子の物語だから、最後まで見届ける』

 図らずもキーパーを務めることとなった龍哉とリィェンは、翼を拡げて押し寄せる狼へ斬撃で対し続けている。
『ある程度以上の能力を持つ個体の選別。私たちはまんまと試験官を担わされたのですわね』
 ため息をつくヴァルトラウテ。
「自分を危険に晒してな。あいつにもそれだけの決意があるってことだ」
 疾風怒濤の三連波が狼を貫き、さらにその後方を飛ぶ狼を4体巻き込んで墜とす。
『とにかく数を減らしておくことで次を楽にはできるじゃろ。リィェン、74体めじゃ』
「せめて担当分くらいはこなしておきたいところだ」
 回避にかかった狼へ横薙ぎの斬撃を当てて斬り裂き、リィェンがつぶやいた。
「これで78」

 果たして楓とカゲリはリュミドラの前にたどり着く。
『担う覚悟を持たぬ小娘よ。我らを待ち受けたはいかなる戯れか?』
 エージェントは狼とレオンへの対応で手いっぱいだ。いつでも行ける。その状況の中で、リュミドラはふたりを待っていた。
「次に会うのは戦場だ」
 リュミドラの言葉に楓が返す。
「たとえあなたがなにをしようと、誰になにを言われようと、私はあなたを救います」
 リュミドラは薄笑み。
「おまえはそう言うと思ってた」
 背からアルミの翼を拡げ、飛んだ。
『鳥、あんたはどうするの? 失望したんなら追ってこなくてもいいのよぉ?』
 翼と化したウルカグアリーがカゲリの内のナラカへ言い放つ。
『確かに失意はある。己が死をここまで繋いだ宿縁の死とわきまえぬ小娘の無様に。が、この地の騒ぎを見過ごすこともできぬ。その中で行き会うこともあろう。偶然にせよ必然にせよな』
 続けてナラカは意識をリュミドラへ向けた。
『今は意味なさぬ問いを重ねはすまい。すべては問うべきそのときに、だ』
 カゲリの刃をかわし、生き残った狼と共にリュミドラが急上昇。そして。
 ライヴスの弾丸を流星のごとくばらまいた。

 弾の雨をかわして駆け、未だ低空にある狼へ追撃をかけるエージェントたち。いつしかレオンの姿は消えていたが、それを気にしている余裕はなかった。
 その攻撃を飛び越えていくリュミドラへ龍哉が叫ぶ。
「ネウロイの分も含めて鋼の宿縁とやらにケリをつけに行くぜ! 赤城波濤流師範代、赤城龍哉だ! あらためて憶えておけ!!」

『このままサヨナラじゃアサシンのこけんにかかわるー』
 ギシャはこれまで抑えてきた足を解放し、狼群と同じ速度で追走。その行き先を探る。
『方角は南西……ギアナではない』
 どらごんはしばし黙考し、そしてファンシーな龍面をあげた。
『インカか!』
 ギシャは内で小首を傾げ。
『空飛んでく意味わかんない』
『山があるからな。走るより速かろうが』
 上空でなにかがきらめいた――ギシャは自動的に身を地に投げ、転がった。ちりりと脇腹にはしった熱が痛みに変わる。
 直撃は避けたが、当てられた。発見されたのだ。獣の夜目は伊達ではない。
『これ以上は危険だ。戻るぞ』
『りょーかい』

 地に転がった初春は内で荒い息をつく。
『あ、あの速さで、空まで飛ぶとは』
『ともあれお初よ、お疲れ様じゃ』
 初春は稲荷姫のねぎらいにうなずくのがやっとだった。
 その横に立つニノマエは傷にもかまわず、空をにらみつけていた。
『詰め切れなかったか』
 サヤのつぶやきに、内で低く。
『今度食らいつくのは俺たちだ』
 この夜、エージェントたちが撃破した狼の数は742。昂の奇襲で隙をこじ開けたとはいえ、包囲と分断の連動が成らなかった。その状況を考えれば十二分の戦果であったが……258体の狼とリュミドラの行方は闇の果てへと消え失せたのだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧


  • 九字原 昂aa0919

重体一覧

参加者

  • きみのとなり
    加賀谷 亮馬aa0026
    機械|24才|男性|命中
  • 守護の決意
    Ebony Knightaa0026hero001
    英雄|8才|?|ドレ
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • Run&斬
    東海林聖aa0203
    人間|19才|男性|攻撃
  • The Hunger
    Le..aa0203hero001
    英雄|23才|女性|ドレ
  • 義の拳客
    リィェン・ユーaa0208
    人間|22才|男性|攻撃
  • 義の拳姫
    イン・シェンaa0208hero001
    英雄|26才|女性|ドレ
  • 乱狼
    加賀谷 ゆらaa0651
    人間|24才|女性|命中
  • 悪夢の先にある光
    加賀谷 ひかるaa0651hero002
    英雄|17才|女性|ドレ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • ぴゅあパール
    ギシャaa3141
    獣人|10才|女性|命中
  • えんだーグリーン
    どらごんaa3141hero001
    英雄|40才|?|シャド
  • これからも、ずっと
    柳生 楓aa3403
    機械|20才|女性|生命
  • これからも、ずっと
    氷室 詩乃aa3403hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 譲れぬ意志
    美空aa4136
    人間|10才|女性|防御
  • 反抗する音色
    ひばりaa4136hero001
    英雄|10才|女性|バト
  • 不撓不屈
    ニノマエaa4381
    機械|20才|男性|攻撃
  • 砂の明星
    ミツルギ サヤaa4381hero001
    英雄|20才|女性|カオ
  • 鎮魂の巫女
    天城 初春aa5268
    獣人|6才|女性|回避
  • 天より降り立つ龍狐
    辰宮 稲荷姫aa5268hero002
    英雄|9才|女性|シャド
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