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バーガーバーガーバーガーバーガー
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相談卓
最終発言2017/09/16 20:52:21 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/09/16 19:55:47
オープニング
●スキワラ・バーガー、最後の商品! 秋の新商品のお知らせ! すごい! これぞ本物のバーガーだ!
白紙。
●経営危機
企画書には、何も書かれてなかった。
「え、思いついてないのに広告をうってしまったんですかあ」
「そうなんです、来月発売予定なんですけどね。予定は未定、って感じで……」
スキワラ・バーガーの店長は、ぺこぺこと頭を下げた。
「開発をしていた担当者が急に失踪してしまって……はい。よーーーっぽどプレッシャーに耐えかねていたんでしょうね」
「はあ……」
「なんたって、スキワラバーガーの最期を飾る、とっておきのバーガーですからね」
知る人ぞ知る、スキワラ・バーガー。
都内唯一1店舗を経営するその店は、ある一点だけで有名である。そう、『どうして経営がもってるんだ?』という点において……。
経営者の趣味でやっているということだが、その恩寵も尽きたころであるらしい。
今月で営業を終える、とのことだった。
最後の打ち上げ花火と、「新バーガー、登場!」の広告を打ったは良いものの、実質何も考えていないというこの体たらく。
「夏休みにはできるはずだったんですよ、おかしいなあ……」
「もう9月ですよ」
H.O.P.E.職員・相馬はほんのり学生時代の夏休みの宿題を思い出した。いつも遅れる側で会った。次はああしよう、こうしようと思うのだが、何度やっても休み中に終わることはなかった。
ひょっとして、だらだらと宿題を先延ばしにしていると、こういう大人になるんじゃなかろうか?
「有終の美を飾るスキワラ・バーガーを、ここはH.O.P.E.のみなさんのお力で、なんとか盛り立てていただけないでしょうか……」
「こちらとしても手伝えることはお手伝いしますが、どんなお手伝いをご希望ですか」
「ぜんぶ」
ぜんぶ。
「いやね、面白いものができると思うんですよ。だってほら、エージェントってすごいですから」
なんとなく、経営悪化の理由もわかる気がする。
HOPEはそんなに万能じゃないんだぞ、こら。言いたいことを大人のオブラートに包んで飲み込み、とりあえず口を開いた。
「まあ、やるだけやってみましょうか……」
解説
●目標
スキワラ・バーガーの最後を盛り上げる。
(補足:基本的には依頼が成功してもスキワラ・バーガーは閉店します。
成功の仕方によっては存続するかもしれませんし、形を変えているかもしれません。)
●場所
地下鉄の駅が近い場所にある。入口が狭く、目立つ看板などがないため、常連でなくては見落としてしまうこともしばしば。
●仕事
・企画、販売、調理、接客、販促、PR……など。
とくに、広告を打ってある「新バーガー」についてはお願いしたいとのこと。
(店のスタッフも存在するため、業務をすべて網羅しなくても大丈夫です)
●期間
エージェントたちが関われるのは3日間。
●スキワラ・バーガー
謎のハンバーガーショップ。
制服はふりふりのスカート(女性向け)、カフェエプロン(男性向け)、着ぐるみ等等、自由である。
変わり手ばかりで味がいまいち精彩を欠くこのバーガーショップも、制服目当てに通う客は珍しくないという。
制服は経営者はドン・スキワラの趣味らしい。
●補足
期間は3日間ですが、バーガーの材料などは、よほど手に入りにくいもの以外はすでにそろっていたものとしてもかまいません。
リプレイ
●助っ人
「店長、本当に大丈夫なんでしょうか」
「心配ありません。強力な助っ人を頼みましたから」
●救世主求ム
「そこをなんとか、お願いします」
ひっきりなしにかかってくる電話に、月鏡 由利菜(aa0873)はそっと額を押さえた。その様子をリーヴスラシル(aa0873hero001)が心配そうに見ている。
『ユリナはベルカナの看板娘としても有名だ……他の店から目を付けられてもおかしくはあるまい』
いちいち今は療養中の身だからと断っていたのだが、熱心な勧誘を放っては置けず。月鏡はついに承諾の意を返した。
『本気か?』
「はい」
『しかし、療養中に依頼を受けるとは……。普段とは勝手が違うのだぞ』
「非常識なのは分かっています……。ですが、あの人達はもう次はないという思いで私に参加を懇願してきたのです」
スキワラ・バーガーの最後をと相手は言ったのだ。
「……この程度の怪我ならば、数日働くくらい問題ありません」
『……。それが主の望みならば。だが長時間の激しい運動は禁止だ』
心配ではあった。月鏡は人一倍自分を殺し、人のために尽くす性格だ。
だが、それが主らしいとも思っている。
●美食家にして調理師
(ふむ……)
鶏冠井 玉子(aa0798)は旅先で依頼書を受け取った。
(大手の力が圧倒的なハンバーガー店という分野で、挑戦し続けてきた姿勢は見事。閉店は残念なことではあるが、飲食店を続けることは強力な愚神を倒すに匹敵する最難の試練)
如何ともしがたいこともある。
例え腕の良い料理人がいたとしても、終わるときは終わるのだ。
なればこそ有終の美を飾ろうという、その心意気に感じ入るものがあった。
「この鶏冠井玉子、微力ながら尽くさせて頂こう」
オーロックス(aa0798hero001)が頷き、腰を上げる。
●好奇心は
「それで、ボクたちの力を借りたいってわけか……」
「で、では、引き受けていただけるんですか」
ストゥルトゥス(aa1428hero001)はふっとため息をつき、くるりと椅子を蹴り立ち上がる。
「最後の最後で、盛大な花火をブチ上げる――その潔さ、気に入ったぜ?」
ストゥルトゥスのメガネがキランと輝く。
「……ほとんど、こっち任せ、だけどね?」
ニウェウス・アーラ(aa1428)の言う通り、ほとんど白紙に近いオファーだった。それでこそ面白い、なんて思っているのかもしれないが。
●開幕
「ようこそいらっしゃいました」
続々と集まるエージェントたちに、店員が頭を下げる。
「スキワラバーガーの有終の美を飾る為頑張るよ!」
アンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)はふふんと無い胸を張り気合を入れる。
「うちは接客以外なら何でもやらせてもらいますえ」
八十島 文菜(aa0121hero002)は少し恥ずかしそうに言った。
「接客以外?」
以前にも接客はした事あるのに? と、アンジェリカは思ったが、原因はすぐにわかった。
どうやら、スキワラ・バーガーのふりふりの制服が原因らしい。
「うちこんなんよう着ませんわ」
かぶりを振る文菜に、アンジェリカは請け負ってみせる。
「大丈夫、千客万来間違いなしだよ!」
「あのスキワラ・バーガーも閉店すんのかー」
虎噛 千颯(aa0123)は改装中と思えるほどに閑散とした店内を見回す。
『知ってるでござるか?』
白虎丸(aa0123hero001)の問いに、虎噛は頷く。
「ああ。変わり種って事で有名だったからな。俺ちゃんは一回も行った事無いけど」
そう、おそらくそんな客が大半なのだろう。
「……こんな経営では、潰れるのは当然だな」
御神 恭也(aa0127)が落ちている一枚の紙を眺める。そこには苦し紛れのクーポンが印刷されていた。
『今まで色んなお店の手伝いをしたけど、こんな酷い所は初めてだよ】
伊邪那美(aa0127hero001)は店内を見渡した。薄暗くどことなく寂しい。
飲食業界の競争は厳しい。
生き残れなかった店は、自然淘汰の摂理に従い滅びるのみだ。
「有終の美を飾るためにも頑張らせていただきましょう」
構築の魔女(aa0281hero001)は仲間たちを眺めた。どうやら厨房の人手はありそうだ。
「料理は得意な方にお願いして私は広報を主軸に頑張りましょうか」
「□□……」
辺是 落児(aa0281)は、食材の在庫を確認することを構築の魔女に伝え、バックヤードへ向かった。
「接客に回ることを期待されているのかもしれませんが……」
『今の状況で長時間の接客は困難だ。調理に回るぞ』
月鏡はちらりと表を見たが、リーヴスラシルは頑として止めた。
●新バーガー、開発!
厨房に、香ばしい匂いが立ち込めている。
「まず、パンですが……」
月鏡は、パンズを全粒粉使用のカンパーニュにすることを提案した。
各種セットのサラダのボリュームを強化し、フルーツ盛り合わせを使った安価なミニフルーツパフェ追加プランで栄養素を補強する。
「美味しそう……」
ニウェウスはじっとメニューを眺めた。
「ベルカナは自然食品素材の充実に力を入れていまして……この店にもそれを取り入れたいのです」
月鏡はメンサ・セクンダを取り出した。あらゆるデザートについて記載された本だ。見たことのない道具に、店員は沸いた。
『メンサ・セクンダを接客で使えば、客の興味も引けるだろうが……今は調理に専念だ』
「□□」
「どうやら、ティーカップが足りていないようですね」
「魔女さん、よろしければこれをお使い下さい」
月鏡が高級ティーセットを取り出した。
「ありがとうございます」
「さて新バーガーだね」
アンジェリカはきりっ、と気合を入れて、調理用のエプロンをつける。用意された台座を使って、調理場に立つ。
「イタリアのナポリに、ポルペトーネ・ナポレターノってハンバーグに似た料理があるんだ。それをイタリアのパン、フォカッチャで挟んだイタリアンバーガーを作るよ」
「しゃれてはるねえ」
文菜は物珍しそうに材料をしげしげと眺めた。用意された材料は、ハンバーガーの材料としては珍しいものも多い。
「ハンバーガーってよりサンドイッチみたいだけど気にしない!」
まず用意するのはひき肉に塩胡椒、そして、パセリと大蒜の微塵切り。
アンジェリカは牛乳に浸したパンにたっぷりの粉チーズを入れて混ぜ、形を整える。店員が差し出した調理油に、アンジェリカは首を横に振る。
「使うのはこっち!」
アンジェリカが取り出したのはオリーブオイルだ。
(チーズは本当はパルミジャーノ・レッジャーノなんだけど、予算があるからね)
玉葱と大蒜の微塵切りを、オリーブオイルで炒めてトマトピューレを入れる。
塩で味を調えれば、煮詰めソースの完成だ。
それに家から持ってきたオリーブの塩漬けを使って作ったピクルスを合わせ、焼き上げたフォカッチャで挟む。
「店員さん、覚えた?」
つまみ食いをしようとしていた店員は慌ててメモを取り出した。
「あ、もう!」
美味しい、と聞けばまんざらでもないかもしれない。アンジェリカはそのまま調理を担当することにした。
「……こんなものか」
御神はタルタルステーキを焼いていた。
ハンバーグの起源と言われるタルタルステーキは、バーガーとも相性が良いだろう。
御神が使用するのは、オリーブオイルや食塩、コショウといったシンプルな調味料だけだ。
「馬肉は牛肉と違って臭みは少ないから香辛料は抑えて、肉本来の味を楽しめる様にしてみた」
『ふ~ん、野菜は玉葱のみなんだ』
「他の野菜も合わせてみたが、如何にもしっくり来なくてな」
御神のそばにはいくつかの試作品がある。努力が垣間見えた。
(最後に相応しい特別なハンバーガーともなれば、量をウリにした巨大バーガー、あるいは稀少食材を用いた高級感あふれるハンバーガー等が真っ先に思いつくが……)
鶏冠井は、厨房で考えを巡らせる。
(これらは面白いことは面白いが、どちらも食べる人間を選んでしまうものになりがちだ)
値段も相応に張るだろうし、用意できる数も限られてしまう。
面白いだけでは、記憶にとどまるバーガーショップにはならない。
「ぼくとしてはどうせなら、最後のスキワラバーガーはできるだけ多くのお客さんに食べてもらいたい」
「俺ちゃんも同意見だ」
虎噛も頷く。
「でも、巨大バーガーはいいと思うんだけどな……それだけじゃダメってのはわかるぜ」
エージェントたちが考え出したのは、スキワラ・バーガー・ワールドツアー。
世界各国をイメージしたハンバーガーだ。
牛肉を使わず、香辛料でカレー風に味付けした鶏肉とタマネギのコンボで決める、インド風バーガー。
従来のフィッシュバーガーをナンプラー、香草で風味をガラッと変えたタイ風バーガー。
唐辛子のピュレを効かせた、辛いものが得意な人向けのメキシコ風バーガー。
……などなど。
既存の食材を極力活かしつつ、味付けの構成と組み合わせを変えることで、世界を感じるハンバーガー。
(味のバランスを整えつつ、試作品を作ることにぼくは専念しよう)
数が多いので、試作品の数は膨大となる。鶏冠井は、そのすべてを手際よく調理する。
オーロックスは在庫を数え、黙々と材料を運んでくる。
かなり重いだろうに、軽々と食品の詰まったコンテナを持ち上げる。
「おおー、あっちはイタリアか」
アンジェリカの作るバーガーに、虎噛は舌鼓を打った。
『おいしそうでござるな……』
「タルタルバーガーはモンゴルかな……うん、いける」
『国際色豊かなハンバーガーが揃ったな……私達は素材に拘った目玉焼きバーガーで行くか』
「はい」
月鏡も手際よく手を動かす。
御神が試行錯誤を重ねて決定したのは、二種類のバーガーだった。
女性向けに油分の少ない赤身肉と豆腐を混ぜたパテを使用した物と、学生向けの大きいパテ。『恭也にしては、よくありそうなメニューを出すんだね』
「正直、方向性が無さ過ぎてな。せめて低予算だとか、使用する肉や野菜に制限があれば色々と考えてみるんだが」
『へ~、自由過ぎる事が困る事もあるんだね』
何にでも「美味しいです!」と返す店員たちはきらきらとその様子を眺めている。これだから苦労しているというのだ。
●上手にできました
こうして、バーガーは出来上がった。だが、これだけ種類が多いとなると、どこを主力に据えるかが問題だ。ポスターの配置を考えながら、エージェントたちは話し合った。
「なら、全部だ」
虎噛は言った。
いっそのこと、それをセットにして、【世界一周バーガーセット】。【世界旅行セット】では自分で好きなハンバーガーを選んでセットにする事も出来る。
おお、とエージェントたちは盛り上がる。
「いいねいいね☆」
「最後ってなら盛大に盛り上げようなんだぜー! 割と採算度外視で企画してみたけどどうかな?」
店員は頷いた。
そして、試食。
『どんな物が出て来るのか楽しみだな~』
伊邪那美はわくわくと試食を待つ。
「結構な量になると思うんだがな……」
「できたんだぜ!」
オーロックスと辺是を中心に、次々と料理が運ばれてくる。
アメリカは普通のハンバーガー。スキワラ・バーガーのもっともオーソドックスな形。味は大幅に改良されていた。の、ビックサイズ。
フォアグラを使った、フランスのバーガー。
イタリアのバーガーの具はピカタ。
『ん、シンプルだけどこれもいいね』
アンジェリカがもぐもぐとほおばる。
『ナポリバーガーは美味しいでござるな……』
「む。閉店してからも食べたい……」
中国は北京ダック。鳥の皮の上で、透明な肉汁がはじける。
ベトナムにはバイン・ミー。
『なくっむと? むー?』
伊邪那美は首を傾げた。
ナムトックムーはベトナムの料理。豚肉をハーブで和えたものだ。
オーストラリアバーガーは、チキンパーム。
トルコバーガーはケバブ。串を引き抜くと肉汁があふれ出る。
ドイツバーガーの具は、ラプスカウス。
「これは……」
ロシアバーガーは、ビーフストロガノフだった。一口かじれば、熱々の中身がほとばしる。
「お、なんだこれ……」
御神がかじったバーガーは、不思議な味わいだった。
「フィッシュアンドチップス!」
フィッシュ&チップスだった。サイドメニューじゃないのか、と思われたが、そこはご愛敬。
「まあ、こういうのが一つあってもいいんじゃないか?」
タルタルバーガーと目玉焼きバーガーは、目論見通り女性陣に好評だった。
「……喫茶店みたい……」
『素晴らしい味だ。本当にファーストフードでいいのだろうか』
「ありがとう」
鶏冠井の料理は、どれも絶品である。
構築の魔女が調理風景と試作品の撮影をする。
「ポスターは、がっつり目立つ系の配色でいこう。赤と黄色の組み合わせとかお勧めダゼ、割とガチで」
「こんな感じでしょうか」
ストゥルトゥスの提案を受けて、構築の魔女が配色を示す。
「目立つな」
ほどなくしてポスターが出来上がった。
宇宙空間に丸いハンバーガーが浮かんでいる、そんなポスター。
そして、一日が過ぎた。
●マーケティング
「一部で有名ならば、うまく後押しできればいける気がするのですが」
構築の魔女はパソコンを前に、広告の文面を考えていた。
「映像にエージェントが映っていれることが話題になれば御の字ですね。まずは店の位置が地図が分かりやすいように……。あと、新作バーガーの情報の一部とURLも載せておきましょう」
「ねえ、スキワラ・バーガーって閉店するみたいだよ」
「え、まだやめてなかったの!?」
カウントダウン式の閉店祭告知ページが話題となっていた。
店員やバイトから知人に告知と拡散を依頼したのも功を奏して、じわじわと広まりつつある。
「うわ、美味しそう……」
「可愛い! 何あの子!」
閉店祭の準備状況の映像が、これまた好評を呼んだようだ。
なかなかのアクセスがある。Webサイトを確認していた構築の魔女は、ふとこぼした。
「……そういえば、閉店祭って銘打って大丈夫だったでしょうか?」
まあ、ここまできて撤回するわけにもいかないだろう。
「口コミサイト、とか?」
ニウェウスは、どうやって宣伝しようか頭を悩ませる。
「それよりも、某巨大掲示板の方が破壊力あるぜー?」
ストゥルトゥスは素早いタッチタイピングで書き込みをする。
「……そう?」
「そうそう。皆で作った、美味そうな新バーガーの写真をこうしてドーン!」
画像URLを貼り付ける。
巨大掲示板では、なぜかフィッシュ&チップスがウケた。
構築の魔女とニウェウス、ストゥルトゥスは、自身の足で回り事情を説明し駅周辺の店舗に閉店セールのチラシを設置させてもらっていた。
もちろんこういったことはやみくもに頼んでも成果は上がらない。個人営業等、融通の利きやすい店舗を優先して依頼する。
不思議と、ストゥルトゥスらはいかにも気難しそうな経営者を口八丁で丸め込んでしまうのだった。
「怒鳴られたのに、貼ってもらえるとは思わなかったよ……」
スキワラ・バーガーの道はとても分かりづらい。地図があるが、それでも迷っているという話をちらほら聞く。
「いっそ、一通りのある所から、店の入り口まで……ガイドするように、貼る?」
「オウイェー。後何m~とかも書いちゃうか。人は親切に弱いのデスよ」
「若い人を主軸に……いろんな世代の人に来てもらえるようにですね」
その成果か、スキワラ・バーガーの客層はいつもと違うようだ。コアな客ではなく、ライト層、学校帰りの学生の顔も見えていた。それに、もともとは少なかった女性客も多い。
地図入りのチラシを配っていた御神たちに、二人組がおずおずと尋ねる。
「あのー、これってどこですか」
手を止め、案内をする。スキワラバーガーまであと50mのポスターが見えた。
構築の魔女は、土地勘のない人でもたどり着けるように、 店舗入り口付近及び周辺の道路に閉店祭の幟を立てていた。
「地図だけですと入り口が分からないかもしれませんよね」
ふと、隣に可愛らしい手作りの看板が見えた。
これも宣伝に加えるとしようか。
「ポスター、貼り終わったね」
宣伝が終わったところで、ニウェウスは女性向け制服、ストゥルトゥスは男性向け制服を着て接客することになった。
「マスターってば、フリフリ似合ってる~ぅ♪」
ストゥルトゥスはパシャパシャとスマホで写真を撮りまくる。
「ちょ、ストゥル……人の事、撮りまくってる、場合?」
「ボクは大丈夫ですよぅ。ほら」
キリッとしてみせるストゥルトゥス。
「……黙っていれば、クールビューティって……なんか、卑怯」
悔しいくらいに似合っていた。
(ぴったりやったわ)
サイズが入らなければ、断れるかとも思っていたのだが。制服はなぜかいろいろなサイズがそろっていた。鏡を見て、顔を真っ赤にする。
(うちこんな服着る年でもないし似合わへんと思うんやけど)
それでも、人一倍責任感がある文菜のことだ。一度覚悟を決めると、きりりと前を向く。
「ようこそおこしやす」
ひとたび店に立てば、笑顔。
「スキワラ・バーガーの新商品、どれもお勧めなんでどうぞ食べておくれやす」
至高の笑顔で出迎える様子に、客もまたつられて笑顔になるのだった。
大方の客を案内し終えて、そっと入り口のガラスに映った自分を見る。
(普段スカート穿かへんから何やスースーしますな)
慌てて裾を抑える。変じゃないだろうかと心配だったが、もちろんよく似合っていた。
(ああいう服の文菜さんも新鮮だな♪)
バックヤードで調理をしていたアンジェリカは、にこにことそれを見守る。
(スタイルがいいからやっぱり何を着ても似合うよね!)
アンジェリカの言う通り、とても可愛らしいのだった。
そんな可愛らしい制服を前に、悩んでいるのは白虎丸。
スペシャルコスチュームは、スキワラ制服バージョン。可愛くデフォルメされ、ゆるキャラ風アレンジされた白虎丸。
『出張ゆるキャラ白虎ちゃん~inスキワラ・バーガー』と称して、プラカードとチラシを持って街頭宣伝をするという計らいだ。
もちろん、事前に許可は得た。本人以外の許可は。
『千颯……俺はゆるキャラでは無いでござる』
「だってもう宣伝はしちゃったし」
『ああっ』
指さす方を見れば、入口にはわかりやすい用に白虎ちゃん案内プレートが設置されているではないか。
「何? 白虎ちゃんは最後に有終の美を飾って終わろうとしてるお店の協力すら出来ないっていうの?」
店員さんを見てごらんよ、と虎噛は言う。
『う……そ……そうは言ってないでござる…』
「じゃ、これ衣装ね! 着替えてバッチリ宣伝してきな!』
『いや……千颯……これでなくても……おい……』
外堀を埋められては、仕方がなかった。
わああ、と子どもたちが集まってくる。尻尾をさわったり、耳を引っ張ったりと引っ張りだこだ。
『……びゃ……白虎ちゃんでござるよ…すきわらはんばがーの最後の新商品が出るでござるよ』
保護者がやってくれば、子どもたちは買って買っての大合唱だ。
「あ、ちょうどよかったー! 恭也ちゃん! ヘルプ!」
店はなかなか繁盛しているようだ。虎噛に助けを求められ、御神と伊邪那美は接客の手伝いを行うことにした。
『うにゃ……忙し過ぎて目が回りそうだよ』
●宴
「さ、皆でスキワラバーガーを伝説にするよ!」
3日目の今日は、構築の魔女と虎噛も接客に回っていた。男子用の制服だ。
「……流石に女の子向けの制服はお客様に失礼でしょう?」
これまでの2日間、マニュアルをよく読み理解したうえで、顧客目線で柔軟に対応できるように準備していた。そつなくこなす。
「判断できない不測の事態があれば店長に伺いましょう」
ストゥルトゥスを見ながら、女子高生がひそひそと話している。
「あの人かっこよくない? 話しかけてみる?」
「で、でも仕事中だし、真面目なひとかも……」
そんな彼女たちに、ストゥルトゥスが微笑んでみせる。きゃーと歓声を上げる。
「……」
たしかに見た目の印象はそうなのだが、そんな印象に映るのが普段の態度からは解せない。
「常に、スマイルと親切心を忘れずに☆」
「スキワラ・バーガー・ワールドツアー! いらっしゃい!」
虎噛は、駄菓子屋を経営してるだけあって、接客は美味い。
筋肉質な立ち姿がいかにもかっこいい。少しおしゃれに着崩したようなアレンジされた制服。白虎丸のおかげでちびっこたちが来たがっていたのが、今度は奥様方が顔を出すという様子だ。
忙しくなってきたのを見て、構築の魔女はレジ打ちに回る。
「すみません、お手洗いはどこでしょうか」
「あちらです」
てきぱきと動くおかげで、混雑は解消されていた。
「お待たせしました、ご注文の品をお持ちいたしました」
背筋を伸ばし真摯な対応を心掛ける構築の魔女。ぽかんと眺めていた男子高生ははっとして商品を受け取った。
「ありがとうございました、お気をつけてお帰りください」
「材料足りません!」
「完売です!」
「アメリカ完売!」
「モンゴル、征服です!」
3日目にして、スキワラバーガーは頂点を極めた。
次々と掲示される売り切れ、の表示。
だがそんな栄光も……。
名声も……。
スキワラ・バーガーの看板も……。
次第に、夜は更けていった。
●そして、伝説に
信じられないほど右肩上がりの売り上げグラフと、空っぽになった在庫をぽけーっと眺めている店員たち。3日間で、なんという様変わりだろうか。
「夢みたいだ……」
一人などは泣き出してしまう始末だ。
エージェントたちの活躍のおかげで、あのキワモノバーガーショップは、一躍、「懐かしのお店」として人々の記憶にとどまるところとなった。
あとは、店員たちの手にゆだねられる。明日から売り上げは落ちるだろうが、それでも十分やっていけるはずだ。
「ボクたちが手伝えるのは、ここまでかな」
アンジェリカは満足げに言った。
「これから、どうしようかなあ……」
「もし今後のお仕事に不安があるのでしたら、私のバイト先の店長に掛け合いましょうか?」
月鏡が申し出ると、店員たちは飛び上がって喜んだ。
「え、いいんですか!?」
「えっ、月鏡さんと働けるんですか!?」
「こら! 最後だぞ! 最後までしんみりしろ!」
スキワラ・バーガーに笑い声が満ちた。
「ありがとう、ございました……!」
こうして、スキワラ・バーガーの名は、懐かしさとともに記憶にとどまることとなるのだった。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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