本部

【森蝕】連動シナリオ

【森蝕】密林に満ちる叫び声

茶茸

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/09/26 22:09

掲示板

オープニング


 多種多様な動植物が生息し、いまだ全容が明らかになっていないと言うアマゾンの密林。
 常ならばむせ返るほど濃い緑と土の臭いと共に動物たちの声が満ちる密林が、一つの群れに蹂躙されて行く。
 獣毛や羽毛を体にこびりつかせた二足歩行の異形達。
 腕を二本持っているものもいるが、あるものは背中からも腕が伸びており、あるものは肩から先が翼になっている。
 異形の獣たちは理性なく自我もなく、異形の身を僅かなりとも満たそうと目にした生物を手当たり次第に貪る。
 不思議と一本道を描くように進むのは偶然ではないだろう。その先にはより多く自分達を満たせるものがあるのだ。
 密林に住まう原住民の集落が。
 言葉を持たない異形の獣たちがまき散らす餓鬼の咆哮を遠くに聞き、集落の人々は硬い表情で黙り込んだ。
「大地が侵入者の傍若無人にお怒りなのだ」
 沈黙を破ったのは重ねられた毛皮に座る集落の長老だった。
 皺のできた顔は常ならば長老たる威厳と人々に対する慈愛を表していたが、今は怒りと畏れに強張っている。
「大地は穢れ、怒りの化身が現れた」
 同意する声があちこちから上がった。
 この集落に住む人々は先祖代々この場所で生き、密林を汚す「侵入者」と戦って来た。
 侵入者は常にこの地に災いをもたらし、その度に大地は怒り時に「怒りの化身」を生み出して災厄を撒き散らす。
 特に「侵入者」の中でも特異な存在である異能の者共。自らをリンカーと称する彼等が現れるようになった頃から怒りの化身は頻繁に現れ、いくつもの狩場や集落がその怒りに滅ぼされた。
 そして今日、ついにこの集落が怒りを受ける事になったのだ。
「大地を鎮めるために、私達が贄となるしかあるまい」
 大地の怒りが収まらなければいずれすべてが滅びるかも知れない。
 長老が重々しく告げると、集まった人々はそれを受け入れた。彼等は長老の庵の前に並び「怒りの化身」を待つ。
 程なくして集落の周辺に広がる密林に、咆哮と断末魔の叫びが木霊した。
 

「ギアナ支部の救援、ありがとうございます。正直色々とアウトだったので助かりますよ」
 八の字眉に糸目の職員、タオ・リーツェン(az0092)はいつもの白衣姿だったが、下には明らかに戦闘用とわかる装備を身に着けている。
 援軍を得たとは言え、ギアナ支部はいまだに以前の状態を完璧に取り戻したとは言い辛い。
 まして今ギアナ支部はヴィラン組織である『ラグナロク』の活動を察知し、その対応に追われている所なのだ。
 普段は研究員兼職員として活動しているタオも、現状ではエージェントとして前線に出ながら手が足りない業務をいくつも掛け持ちしている有様だった。糸目の下にくっきりついたクマは一体何日ものなのか。
 そんな現状に追い打ちをかけるように従魔の襲撃が予知された。
 標的になるのは特に部外者を嫌う部族の集落だ。
 「侵入者」が来ると土地が穢れ怒るのだと部外者を追い払う。
 特にここ最近リンカーに対する敵視が強くギアナ支部でも近くを移動する際は注意をしていた。
「どうも彼等は密林に現れる従魔を『大地の怒りの化身』と見ているようでして。化身を倒す私達のせいで、余計に従魔が活発化していったのだと考えています」
 集落の人々はいち早く従魔の襲撃に気付きながらも「大地の怒りを鎮めるため」と進んで生贄になる。
「救助に向かっても避難の呼びかけに従わないばかりか、従魔との戦闘を邪魔して来る可能性もあります」
 従魔との戦闘だけでなく、住民からの妨害にも注意しなければならない。
「集落の人々は従魔を大地の化身と考えていますが、奴らはむしろ愛するアマゾンの大地と生物を汚す私達アマゾンマニアの天敵です。 皆さん、どうか従魔の群れを一匹残らず完膚なきまでに撃破して下さい」
 思わず力の入った手の中でぐしゃりと資料の束がひしゃげた。
 おっといけないと資料を広げるが、皺がくっきりついた。
「従魔は数こそ多いですが、等級はそれほど高くありません。加えて、不可解な行動がよく見られます」
 どう考えても外しようがない攻撃を空振りする。突然動きが止まったり見当違いの方向に襲い掛かるなど、まるで欠陥品の機械のようだったと言う。
 とは言っても従魔は従魔。「餌」となる集落の人々に接近させれば確実に甚大な被害が出る。
「集落の人々への対処をどうするか、如何に従魔を的確に倒していくか、皆さんでよく話し合って下さい。今回は手の空いている職員がいないので、私が皆さんを現地まで案内します」
 最短最速で現場まで行きますので、皆さん頑張って下さいね。
 濃いクマのせいで胡散臭さが増した糸目がにっこりと笑った。

解説

●目標
・従魔の撃破
・住民の救出

●状況
・午前六時~/一日曇りが続く
 集落には従魔が到達する30分前に着けます
 密林は乗り物が通れる場所がなく、現地の部族を刺激しないよう上空からヘリコプターなどでアプローチする方法も取れません。移動は歩きですが、アマゾンをよく知るNPCタオ・リーツェン(az0092)の案内で問題なく辿り着けます

・集落の様子
 密林の中に自然にできた30×30スクエアの四角形に近い拓けた場所に、中央の長老の庵を囲むように小さな庵が点在しています
 植物を編んだ庵はしなやかかつ意外と頑丈で、住民なら斧などを根気よく叩きつけないと壊せない
 長老の庵は特別大きく屋根の高さは約4m。住民全員を収容できる広さがある
 従魔は集落の西側に現れ、予知ではまっすぐ長老の庵の前にいる住民に向かって行きます

●NPC
・『タオ・リーツェン』
 アイアンパンク/カオティックブレイド/生命適性
 使用スキル/ストームエッジ、インタラプトシールド、ウェポンレイン
 所持品/応急処置を行える程度の用意はある
  皆さんを案内した後は指示があれば戦闘の援護や偵察等を行います。
  指示がなければ自己判断で集落の人の救護に回ります。

・『集落の住人』
 老若男女合わせて14人。長老の庵の前に集まっています
 こちらが何もしなければ積極的に従魔の生贄になろうとする、従魔とリンカーの戦闘を妨害するなどの行動をとります

●敵
『異形の獣』×8
 等級はミーレス級
 耐久力は低めで知能があるかも不明
 攻撃を空振りする、1ターンの間行動不能に陥るなど、不可解な行動が見られます
 人型に羽毛や獣毛を張り付けたようなシルエットをしていますが顔は動物とも人間とも判断がつきません

『殴る』:最も近い対象を殴りつけます
『噛みつく』:最も近い対象に鋭い牙を持った口で噛みつきます。バッドステータス『減退』の効果あり

リプレイ

●静寂の森
 鬱蒼と茂る草。天を突く勢いで育った木々。視界の隅々まで緑と茶で覆い尽くすような密林は常に侵入者の行く手を阻む壁であり、そこに住む動植物は時に致命的な罠にもなる。
 そんな中をリンカー達が尋常ならざる勢いで踏破していた。
 密林の中にある集落が従魔の襲撃を受けると言う予知があり、更には集落の住民が逃げるでもなく自ら『神々の怒りを鎮めるための生贄』になろうとしていると言う。
 ギアナ支部に集まったリンカー達はこの事件を解決すべく集落を目指していた。
『おれのいた森とはずいぶん違うようだ。ここはじめじめする……だが、緑と土のにおいがする』
 八角 日和(aa5378)と共鳴しているウォセ(aa5378hero001)が、伝わってくる高温多湿に不快感を示すが、日和の嗅覚を通して伝わってくる匂いは嫌いではないらしい。
「匂いが濃いって言うのかな。普通の森とはやっぱり違う感じがする」
 髪から生えた黒柴の耳をぴんと立たせ、金色に変わった目できょろきょろと辺りを見回した日和はウォセに同意する。
「熱帯雨林の生き物って独特だよね。お仕事じゃなければ探検したいけどなぁ」
 自身が黒柴のワイルドブラッドであり、動物好きでもある彼女にとって多種多様な生き物がいる密林は興味深いのだろう。しかし辺り一体からは動物の気配がなくなっていた。
 普段ならどこかから獣の声が聞こえてくる森は不気味なほど静まり返っている。
『あっづいよぅ……』
 共鳴している自分にしか聞こえない声で弱音を吐く匂坂 紙姫(aa3593hero001)だが、黒髪黒目の青年となったキース=ロロッカ(aa3593)は歩を緩めない。
「目的地はもうすぐです。我慢して下さい」
 そのやりとりが聞こえたかのような絶妙なタイミングで、戦闘にいるケッツァー・カヴァーリから檄が飛ぶ。
「長距離を移動する時は一定の速度と歩調を保つのがコツじゃぞ!」
『うぇえ……』
 紙姫は萎れながらもそれ以上は何も言わなかった。
 先導するギアナ支部職員兼エージェントのタオ・リーツェンは密林に入る前に「最短最速で行く」と宣言した通り、リンカーの身体能力にものを言わせて密林を突破しているのだ。置いて行かれるわけにはいかない。
『ケッツァーどのは、老黄忠と呼ぶにふさわしい御仁であるな。快い方であるよ』
 それを聞くともなしに聞いていたヤン・シーズィ(aa3137hero001)がとある書に記された人物を思い浮かべて言った。
「諸葛亮の南蛮行のようですわね」
 ヤンと共鳴した事で愛らしい白兎の耳に加えて花鳥を象った純白の意匠を纏う仙女のような雰囲気を備えたファリン(aa3137)が、ヤンと同じ史書の中からその場面の記述を思い返す。
 確かあれも当時未開の地が多かったと言う南へ向かうものだったはず。
「蛮族を教化する……というのは当世風ではございませんが、生贄という非人道的風習はよろしくありませんわね」
「ん……いのちだいじに」
 エミル・ハイドレンジア(aa0425)はギール・ガングリフ(aa0425hero001)と同じ一対の角が生えた頭をこくりと振って頷いているが、その言葉ほど集落の住民に対して興味を持っていない。
『ふむ……土着信仰の一種か……?』
 ギールの方はエミルよりは住民の行動理由を考察する程度には関心を持っているようだったが、どちらにしろ二人の目的は住民よりも集落を襲うと言う従魔の方にあった。
「生贄になろうって住民は全員庵の前に集まっているらしい」
 久兼 征人(aa1690)の黒い肌も髪も普段と変わっていないように見えるが、表情も口調も違う。
 誰も手入れする訳がない密林の伸び放題の草木に好き放題に垂れ下がる蔓だか蔦だかを払いながら、ミーシャ(aa1690hero001)と共鳴した征人からは普段の軽率さが感じられなかった。
「自ら従魔の生贄になろうとはな」
 征人の言葉を聞いた火乃元 篝(aa0437)がそう言った後ふむ、と思案顔。
 陽光の如く煌めく金色の髪が揺れ、赤い瞳が細められる。
「解らぬな」
 しかし、口から出て来たのは理解不能と言ったものだった。
 彼女の中には自らの力で何をするでもなくただ命を差し出すような『弱さ』は存在しないのだろう。
『私は解りますぅ、が、同意したくはありませんね』
 共鳴していなければ道化の帽子をひょこひょこ揺らしていただろうディオ=カマル(aa0437hero001)の方は、篝よりもその『弱さ』には理解があるようだった。
『この辺の従魔って、元人間の可能性高いんデショ?』
 住民の行動理由にあれこれと憶測を交わす仲間たちの会話を聞いていた華留 希(aa3646hero001)だったが、考えていたのは別の事だったようだ。
「ああ……ラグナロクとか言う連中の従魔はそうだったらしい」
 麻端 和頼(aa3646)はまるで炎の魔神のような赤に揺らめく髪と尾が蔓草に引っかからないように避けながら、パートナーの唐突な発言に真面目な反応を返した。
「……ラグナロクの印が付いた布とかも見つかっているらしいしな……」
 これまで起きた事件の情報はすべてのリンカーに開示されている。
 アマゾンの密林ではこれまでも従魔が発見されて来たが、ラグナロクに関係している従魔は元が人であったと言う情報が広まっていた。
 集落を襲撃する従魔もラグナロクに関係しているのであれば、元が人であった可能性が高い。
『……人間を従魔にシタんだっタラ、ソレの逆の力で人間に戻せないカナ……?』
 希の言葉に、和頼は思わず聞き返した。
「……逆の……?」
「だカラ……んー分かりやすく言うと、酸性とアルカリ性を混ぜると中性になるデショ?大まかにゆーと、そんなカンジ……?」
 まったく分かりやすくない。流石に呆れ顔になった和頼だったが、先を見て思考を切り替えた。
「……従魔より先に片付ける事があるな……」
 和頼の視線を追って、希も密林の切れ目に気付く。
 草木の間から件の集落が見えていた。
「未開の地も多く、現代の常識もまだ認知されていない場所。気を引き締めて行きましょう」
 キースの言葉は常と変わらぬ冷静なものだったが、幾人かは少し緊張した様子で頷いた。

●疑惑の目
 事前の情報通り、集落は草を編んで作った庵がぽつりぽつりと点在している質素なもので、中央の方にある大きな長老の庵が目立つ。
 その前にはすでに住民が集まっていた。
「ん、じゃあ、ワタシはちょっと、お散歩してくる、ね……」
 言うが早いかエミルは西の方へと飛び出して行く。
 次に動いたのは篝とだった。
「我々も説得には向かぬのでな。従魔の方へ行かせてもらおう」
 従魔が集落に到着するまでは三十分の猶予があったが、説得に向かう者と従魔に備える者で分担する手はずになっている。 
「俺は集落の外周に罠を張っておく。説得は任せた」
 征人は用意して来た罠を手に村の外周へ。罠を設置した後はそこで待機し従魔の襲撃に備えるのだ。
「……オレ達もここで分かれた方がいいな……」
 狼のワーウルフと言った容姿のウォセが日和と共鳴しているため、今いる中で和頼は最も獣の要素が強い。
 獣毛や羽毛に覆われていると言う従魔と同一視されないように、姿を隠しながら他の戦闘班と共に村の西側へ向かう。
「では説得に向かう皆さんは私に付いて来て下さい。言うまでもないでしょうが、歓迎はされていないので接触には注意を払って下さいね」
 タオの案内で集落に入った残りの四人は、すぐさま十四人の住民全員からの疑惑の目に迎えられた。
 こんな所にいるはずのない見慣れない人間と、今この集落を襲おうとしている『神々の怒り』が繋がった瞬間、その目は憤怒に染まる。
「お前ら……この期に及んで一体何の用だ!」
「森で無体を働き神々を怒らせておいて、これ以上何をする気だ!」
「出て行け! 今すぐ森から出て行け!」
 声を掛けようとした瞬間飛んでくる罵声と怒号。
 しかし、一歩前に出た日和ははっきりと言った。
「あれは怒りの化身なんかじゃないし、誰かが犠牲になったって止まらない」
 素直に聞き入れてもらえるとは思っていない。だが長々と説明できるほどの時間もないのだ。
 日和は怒りに染まる住民達の目から視線を逸らさず精一杯の気持ちを込めて話す。
「それに、あれに攫われたら同じようなものにされて、他の集落を襲うかもしれないんだよ」
「お前らよそ者に何が分かる!」
「そもそも大地の怒りはお前らのようなよそ者が入ってきたからだ!」
 返ってきた避難の声の中、次はキースが歩み出た。
「皆さんはあれを『大地の怒り』と思っているようですが、それは違う。あれは大地の名を騙る侵入者です」
 侵入者はお前達の方だと言われても構わず言葉を重ねる。
「これを見て下さい。ボク達はその怒りを鎮めるため、大地の加護を得たのです」
 キースは自分の腕にナイフを突き立てた。
 突然の凶行に流石に驚いたのか、一瞬怒声が止まり血の気の薄いキースの青白い肌から溢れ出す血を呆然と眺めた。
「皆さん、しっかりとご自分の目で確かめて下さい。私達が頂いた大地の加護です」
 ファリンがキースの傷に手をかざすと、ライヴスの光が溢れ瞬く間に傷が塞がって行く。
 住民は世俗と関わりが薄く、リンカーの事を『異能者』と知っていても具体的にどのような力かは知らないはず。
 そう思って敢行した一種の賭けであった。
「傷が……消えた」
 賭けはリンカー達の勝ちである。
「ボク達が大地の加護を得ているとわかってくれましたか?」
 予想外の展開に静まっている内にと、キースは傷一つない腕で集落の西を指す。
「この村を襲う侵入者は西から来ます。我々は怒りを鎮めるために戦います」
 『戦う』? 『神々の怒り』と?
 いやしかし、今の力は……いや、あの『異能者』ならばこれくらいは……。
「みんな、よく考えて!」
 迷いが見える住民に日和が再び訴える。
「そもそもあれが本当に怒りの化身なら、ここにすんでる人たちを襲うなんて変だよ」
 そうだ。我等は先祖代々この地を守るために生きて来た。恵みを頂く代わりに身命を賭して侵入者と戦ってきたのだ。
 だからこそ、守ってきた森を我が物顔で歩くよそ者が許せなかった。
 何を犠牲にしてもこの地を守ろうとしてきた自分達を神々は認めて下さらないのかと悲しく、悔しく、その原因となった侵入者達が憎かったのだ。
 ぽつぽつと聞こえて来た声は侵入者への怒りだけではない感情が表れていた。
『日和、おれも話がしたい』
「え、うん」
 普段他人と話さないウォセの突然の申し出に、日和は少し躊躇った。
 共鳴した姿と従魔の姿が混同されないようにと気を遣った和頼の行動を考えたと言う事もあったが、ウォセから伝わる意志に応える事にした。
 共鳴を解くと二足歩行の狼の姿をしたウォセが現れ、住民達がざわめく。
「おまえがこの群れの長のようだが……おまえはここを守りたいとは思わないのだろうか」
 ウォセにそう言われた長老は皺の刻まれた顔を苦悩に歪める。
 長老はこの集落で最も年老いている。その分、この集落の人々と長く付き合っていた。
「おまえ達が『怒りの化身』と呼んでいるもの。あれらは強い。立ち向かえとは言わない。だが何故逃げない? 身を守ろうと、生きようとしない」
 長老とて集落の人々が大切だ。
 しかし、神の怒りが収まらなければ集落の人々だけでなく先祖代々守ってきたこの地そのものが滅んでしまうかもしれない。それが何より恐ろしい。
「ここは良い森なのだろう。……それを踏み荒らすのは本当におれたちだろうか」
 アマゾンの密林は開発や密猟によって荒らされ、減少している。世俗にあまり関わらないここの住民達も、関わりがある別の部族からそう言った情報は届いていた。
 しかし、今この密林を襲う災厄の数々はまったく別の、より恐ろしい物によって引き起こされていた。
「あ、ああ……来た……もう近くに……」
 急に長老が慄く。
 周囲の住民の中にも何人かがはっとして密林の向こうを見詰めていた。
『いた……従魔……ぜんぶで、八……』
 通信機に西の方へ先行したエミルから連絡が入る。
 『従魔』と言う言葉は解らずとも、すでに『来る』と分かっている住民達の間に一度遠ざかった『生贄』と言う思考が再び広まって行く。
「安心して下さい。みなさんに護りの儀式を行います。けして傷付けるためではありません」
「大丈夫。大地を守る同胞を傷付ける真似はさせません」
 ファリンとキースは揺れ動く住民達へ呼び掛ける。
『ラグナロクのヴィランがまぎれこんでいるやもしれぬ。能力者を見分けるのは簡単だ』
 ヤンとファリンは従魔の生贄になろうとする住民の行動を不可解に思い、疑念を確かめる為もあってセーフティガスを使う事にした。
 まだ住民達からの信頼は得ていないが、猶予はそれ程ない。
 ファリンは住民達に向けてセーフティガスを使った。

●異形の行進
 通信を終えたエミルは鬱蒼と茂る緑の間から従魔の姿を捉えていた。
 獣毛や羽毛に覆われた二足歩行の異形。
 目の前に邪魔な木があればへし折り、ぬかるんだ場所があっても避ける事無く泥まみれになりながら進む。
 動物とも人ともつかぬ顔からは不気味な呻き声や奇声が飛び出す。
「……あんまり、ひとっぽくない……」
 何か人間であった事を示すものはないかと観察してみたが、期待したようなものは発見できない。
『少しばかり先行し過ぎではないか?』
 エミルの目を通して異形を観察していたギールが言う通り全力移動で先行したエミルは他の戦闘班とも距離が開いていた。
「ん、わかってる……」
『と言いつつ何故武器を』
 ギールが止める暇などなく、自身の小柄な体より長大な剣を振り上げたエミルが眼下の従魔に一気呵成に突撃した。
 強襲を受けた従魔の一体がエミルの方を向くが、他の七体は集落へ向かうのを止めない。
 エミルの狙いは出来る限りの数を自分に引き付ける事だ。
 従魔の反撃を受けつつ他の七体にも攻撃を仕掛けるべきかと考えていると、集落に向かった従魔を青白い火焔が襲う。
「先行し過ぎだ」
 刺突槍を構えた炎の魔神のような姿。和頼は槍を旋回させて血振りをする。色は、赤い。
「一騎駆けは勇猛とも言うが、抜け駆けは感心せんぞ」
 黄金の煌めきは彼女の髪か、武装のものか、駆け付けてきた篝の一気呵成の攻撃が従魔を薙ぎ倒した。
 通信機からはエミルの先行を聞いた他の仲間達からも気に掛ける言葉が聞こえている。
「まあ、集落に近付く前に倒せるならそれでいいか」
 治療を終えた征人が武器を構える。
 従魔の能力は戦闘班の四人にとってそれほどの脅威ではない。
 住民を守りながらでは苦労もあっただろうが、集落から離れたこの場で気に掛ける事はなかった。
「それじゃ……ここで、サヨナラ……」
 エミルが再び従魔に仕掛ける。大剣を扱っているとは思えない疾風怒濤の連続攻撃に、和頼の槍の一撃と篝のストレートブロウが続き従魔の体を吹き飛ばした。
 飛び散る獣毛と羽毛に混じり、赤い血が飛び散る。
 人間を従魔にしたと言う情報を知っている面々にはそれが人間の証拠に見えた。
 この従魔もラグナロクのものである可能性が高く、それは元々人間であった可能性も高い事を示している。
『ナンか、敵の動きがおかしいネ……?』
「……言われりゃ、確かに……」
 和頼は希に言われて改めて従魔の動きを観察する。
 攻撃を仕掛けられれば反撃するものの、その行き先はあくまで集落だ。
 ある者は殴りかかってきたかと思うと動きを止め、ある者はその場で棒立ちになる。
 それでもじりじりと集落に近付いて行き、視認できる距離になった。通信機でそれを伝えられ、説得に回っていた面々が戦闘に加わるため準備をしている。
『……従魔は人に戻せないケド……意識が少しでも残ってタラ……?!』
 希はこのおかしな行動はそのためではないかと推測し、和頼に呼び掛ける。
『和頼! 動きが一番おかしいのにスキルして!』
「あ?」
 周囲には和頼の声しか聞こえないが、何かあったのかと訝しげに見る。
「……ケアレイかクリアレイで戻せるかどうか試す……」
「これをか?」
 篝がカウンター気味に殴り飛ばした従魔を指す。
 確かに獣毛と羽毛を取り除いたシルエットは人型だ。しかし、これまで従魔が回復系のスキルで戻った事はあっただろうか?
「集落も近い。試すのは一度だけだ」
 言われるまでもなく和頼にも無駄打ちを繰り返すつもりはない。
 丁度動きを止めていた従魔に対してケアレイ、クリアレイを掛けてみる。
「……駄目だったな……」
『……うん』
 何も変わらず、通常通り従魔の傷を癒すだけに留まった結果に終わる。
「仕方あるまい。だが人間をベースにした従魔がラグナロクの手の者だとすれば、ラグナロクを潰してしまえばよかろう!」
 些かの迷いもなく言い切る篝に、見ればエミルもこくこくと頷いている。
「……ああ」
 和頼も再び攻撃に加わり、回復をかけた従魔が組みついてきたのを槍で薙ぎ払う。
 集落はもう目の前だ。説得組の努力により住民は庵の中に退避しているようだが、草を編んだ庵は従魔の前では紙同然。万が一な起きずに済む方がいいのだ。
 その時、従魔の一体が顔を上げて集落を発見したらしい。
 一瞬動きが固まったかと思えば、次の瞬間これまでにない大きな咆哮を上げた。
「あくまで目的は集落か」
 舌打ちと同時に放った攻撃が従魔の足元を抉ったが、他の従魔と同じように集落を目指そうとする。
「させません!」
 凛とした声と共に、従魔の体にガーンディーヴァから放たれた矢が従魔に突き刺さる。
 庵の前に立って弓を構えるのはヤンと共鳴し白い衣装に身を包んだファリン。
 屋根の上に陣取り銃撃を浴びせるのは黒髪黒目の青年の姿になったキースだ。
 ファリンが眠らせた住民達は長老の庵に運び込まれている。全員が眠り、能力者が紛れているのではと言う疑念は晴れていた。
「俺は前に出る。援護頼む」
 集落の外周で待機していた征人が従魔と交戦している三人に加わるため走り出す。
「集落の方は任せて! 庵には絶対近付けないよ!」
 日和がぐっと拳を握る。ファリンとキースも援護は任せろと頷き、征人を送り出した。
「ん、いっきに、かたづける……」
 その様子を把握したエミルの小柄な体が従魔の中に躍り出る。
 征人を前線に加え、説得に回っていたキース、ファリン、日和の三人がタオと共に援護と住民への対処を請け負い、戦闘班は一つの憂いもなく八体の従魔を撃破して行く。
「異常くらった奴は俺が回復する。攻撃の方頼む」
「……分かった」
 征人が従魔の牙を受け異常な出血を続ける傷を治癒して回り、その分和頼が攻撃に専念する。
「ふふふ、これは圧倒的だな!」
『だからってあんまり突っ込まないでくださいね……って聞くわけありませんよね』
 ディオの嘆くような言葉など聞く訳もなく、篝は残り少なくなったスキルを惜しみなく叩き込んで行く。
 庵の方に行こうとした従魔はキースとファリンが牽制し、追い付いた戦闘班がとどめを刺す。
「もし従魔がこっちに来たら私も頑張らないと……」
「よしよし、その意気じゃ! ワシも付きおうてやるからの。その時は目にもの見せてやるのじゃ!」
 緊張する日和の頭をタオと共鳴したケッツァーがわしゃりと撫でる。
 自分の能力を鑑みて少し不安を感じていた日和は力強く頷いた。
「悪いがそちらの出番はないぞ!」
 エミルに負けじと篝が従魔の間を駆け巡る。
「……そこにいろ」
 和頼も槍を手に従魔に襲い掛かり、仕留めて行く。
『なんか、様子がおかしくないかなあ』
「紙姫もそう思いますか。なんというか、抵抗しているような感じですかね?」
 攻撃とも思えない滅茶苦茶に腕を振る従魔を見て、紙姫とキースは疑問を浮かべる。
『何に?』
「さあ?」
 疑問が浮かんだものの、その答えはまだ分からない。
 不可解な動きをしていた従魔も、エミルに切り倒されて動かなくなった。
 そして日が天中に昇る頃、八体の異形の従魔は全て倒された。

●異形の正体
 戦闘を終えてすぐ取り掛かったのは従魔の遺体の検分である。
 従魔は倒されれば消滅してしまう場合が殆どだが、その前にできる限り情報を得ようと確認して行く。
 また眠らせた住民のケアを行うため、それぞれ分かれて調査を始める事になった。
「都合が良すぎるのだよな…この状況は。タオ、生贄の風習はもとからあったのか?」
「あれが大地の怒りだと、生贄を与えれば収まると言ったのは、どなたですの? 」
 眠らせた住民のケアにあたっていたヤンとファリンが、同じくケアを行っていたタオに問いかける。
 タオの答えはこうだった。
「生贄の習慣は元々ありました。彼等は恵みをもたらすと同時に恐ろしくもある密林の自然に対して生贄を捧げる事で恩恵と慈悲を願のですが、集落全員が生贄にと言うのは流石に異常です」
 住民からの答えも、この集落と同じ流れを汲む部族全員が同じ習慣と考え方を持っていると言う答えだけが返っており、これに関しては後日調査を行う事になった。
「……あれ? これなんだろ」
 その時、日和が住民の体に奇妙な物を発見した。
「植物、ですね。しかしこれは……少なくともこの辺りでは見られない物です」
 アマゾンマニアと呼ばれる研究員であるタオが見覚えのない植物。
 日和が他にもついている人がいたと言うと、ファリンとタオもパートナーと一緒に住民達を見て回る。
 奇妙な蔓や葉のような物はタオは引っ張れば簡単に取れたが、何故そんな物が付いているのか住民の誰ひとりとして疑問を持っていなかった。
 住民から奇妙な植物を回収し終わった頃、従魔の調査を行っていた面々から連絡が入った。
「……見ろ、ナンバリングがある」
 和頼が指した地面には従魔の体から一部だけ残ったものが転がっている。
 羽毛をどかした場所にはナンバリングが施されていた。
「あとこれ。なんか模様があるっす」
「ん、もしかしたら……ほかの集落のひと、かも」
 戦闘を終えて軽薄な口調に戻った征人が映像で記録していた別の一部を、エミルが指し示す。
 恐らく足の一部だろう。そこには数字とは違う模様があった。
「これは……この辺りの部族が使う刺青ですね」
 ついてきたタオがそう言うと、リンカー達の間にやはりと言う核心と、そうだったのかと言う何とも言えない砂を噛んだような雰囲気が漂う。
「まさか……では、今まで滅んだものは全て……」
 何が起きたか気になったのだろう。庵から出て来た長老や集落の住民が愕然と従魔の一部に刻まれた刺青を見ていた。その刺青と、長老の足に施された刺青は似た形をしている。
『犠牲になれば何かが救われる……ふむぅ、ってあー主!落ち着いてくださぁぁい!!』
 俯いた長老の気持ちを慮るディオだったが、長老の前に立った篝に慌てる。
「お前たちはそれでいいのか。自分が犠牲になれば他人が助かると。それでは助かったかどうか確認できぬではないか。せめて確認しなければ無駄死にであるな!」
『うっわ、こういうの胸張って言ってるよ……』
 止める事が叶わなかったディオが篝の容赦ない物言いにがくりと肩を落とした。
「丁度いい。従魔と『神々の怒り』とやらを間違えないよう講義してやろう」
「待ってください。講義とかそんな準備してないでしょ!」
 他者に説明するには抽象的すぎる篝の説明の仕方を知っているだけに、ディオは慌てて止める。
「生贄と言っても、元は狩りで得た物を捧げていたそうですね?」
 先程タオに生贄の風習の話を聞いた際、ついでに教えられたのだろう。
 落ち込む長老にファリンは生贄を使うなら人ではなく、元のような狩りの得物や偶像などを使ってはどうかと提案した。
 精神的に披露している長老や集落の住民の反応は曖昧だったが『神々の怒り』と思っていた従魔の正体が人間、しかも同じ部族の者だったと知った今は自分達を生贄にしようとは思わないだろう。
「今はまだ整理がつかないでしょうが、不届者は去りました」
 これ以上住民達に何か言うのは酷だろうと手掛かりになる物を回収して帰還する前に、キースは自分達を複雑な表情で見て来る住民に言った。
「ですが、いつまた怒りが貴方達を襲うかわかりません。その時はリンカーを頼るといいでしょう。彼等はきっと、貴方達に友好の手を差し伸べてくれると思いますよ 」
 アマゾンの各地で起きた事件。
 人間をベースにした従魔。
 全てがラグナロクのものであるとしたら、リンカーとラグナロクの対決は避けられない。
 その時に被害を受けるのは密林に住まう動植物と人々だ。
 いずれ再び来るであろう戦いの予感を胸に、リンカー達は集落を後にした。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 死を否定する者
    エミル・ハイドレンジアaa0425
    人間|10才|女性|攻撃
  • 殿軍の雄
    ギール・ガングリフaa0425hero001
    英雄|48才|男性|ドレ
  • 最脅の囮
    火乃元 篝aa0437
    人間|19才|女性|攻撃
  • エージェント
    ディオ=カマルaa0437hero001
    英雄|24才|男性|ドレ
  • 難局を覆す者
    久兼 征人aa1690
    人間|25才|男性|回避
  • 癒すための手
    ミーシャaa1690hero001
    英雄|19才|女性|バト
  • 危急存亡を断つ女神
    ファリンaa3137
    獣人|18才|女性|回避
  • 君がそう望むなら
    ヤン・シーズィaa3137hero001
    英雄|25才|男性|バト
  • 天秤を司る者
    キース=ロロッカaa3593
    人間|21才|男性|回避
  • ありのままで
    匂坂 紙姫aa3593hero001
    英雄|13才|女性|ジャ
  • 絆を胸に
    麻端 和頼aa3646
    獣人|25才|男性|攻撃
  • 絆を胸に
    華留 希aa3646hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 藤色の騎士
    シオンaa4757
    人間|24才|男性|攻撃
  • 翡翠の姫
    ファビュラスaa4757hero001
    英雄|22才|女性|ジャ
  • 切々と
    八角 日和aa5378
    獣人|13才|女性|回避
  • 懇々と
    ウォセaa5378hero001
    英雄|20才|男性|ドレ
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