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【相談卓】ハンデバトル
最終発言2017/09/04 13:09:03 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/09/03 00:41:10
オープニング
●都市を蝕むDZ
「先ほどロンドン支部より、緊急性が高いと判断された増援要請を受けました」
そう切り出した佐藤 信一(az0082)は、この日東京海上支部にいたエージェントを会議室に集め、真剣な表情でプロジェクターを起動する。
「襲撃されたのはオランダの都市・アルメールの市街地です。ここは海を陸地に変えた干拓地の一部であり、首都・アムステルダムから距離が近く、国内では比較的人口が多い都市になります」
信一は続けて、ロンドン支部からの情報を読み上げる。
「愚神が現れたのが、現地時間で昨日の21:00ごろ。突如として町中に出現した愚神は、そのままドーム状かつ外から不可視のドロップゾーンを展開し、町の一部を取り込みました。すぐさま現地のエージェントで数十名の討伐隊が派遣されましたが、いまだドロップゾーンは健在とのことです」
エージェントが集合したのは朝の8:00ごろ。日本とオランダとの時差がおよそ7時間であり、この時点で愚神出現から4時間ほどが経過している。現地は深夜だが、ドロップゾーンの範囲外にいた市民の避難は何とか終わせたらしい。
しかし、範囲内に取り残された一般人や、愚神討伐に向かったエージェントからの連絡は途絶えたまま。経過した時間からして、討伐隊が全滅したと考えるのが妥当だろう。
「事前情報がこの程度しかないのは申し訳ありませんが、状況からしてゾーンルーラーは相当な力を有していると推測されます。くれぐれも用心してください」
緊張した表情を隠さないまま、信一はロンドン支部に座標設定をしたワープゲートへとエージェントたちを案内した。
●予想外の戦場
「ふん、また招かれざる来訪者、か」
アルメールドロップゾーンに突入して、わずか数分。
エージェントたちは、額に浮かぶ脂汗とゆがむ表情筋を抑えることができなかった。
「私の眼前を何度も飛び交い、耳障りな音をまき散らすだけの羽虫が」
しかし、視線の先にいる異空間の主は、そんなエージェントたちを睥睨し吐き捨てる。
見た目は長身ながらシルエットが細い、ともすれば痩せぎすと言えそうなほどの肉体はどこか頼りない。しかし、その身から噴出する膨大なライヴスのおかげか、彼の纏う雰囲気は傲慢な言動を補って余りある威圧感を伴っている。
出会ってから変わらない不機嫌そうな顔は、元々がそうなのかエージェントの介入が原因かは定かではない。
いずれにせよ、エージェントと彼の愚神――ゾーンルーラーたる男が徹底的に反発しあう存在だということは確かだ。
「ただライヴスを捧げるだけなら見逃してやったものを、本当に愚かな生物よ」
本来あった都市の姿を塗り替え、地球ではないどこかの崩壊した都市の中を、ゆっくりとした歩調で歩く愚神。
そこかしこで残り火が爆ぜ、建物だっただろう瓦礫が散乱する景色を自然なものとしながら、愚神は大仰に口を開く。
「死ぬ前に教えてやろう! 私の名はファチュ、ッ!?!?」
噛んだ。
「いっひゃ!? き、きひゃまらのひわざ、ぁっ!?!?」
動揺したファチュ(仮)は右足をエージェントへ一歩踏みだし、転がっている大きな瓦礫に小指をぶつける。
「~っ! ~~っ!!」
そして、ぶつけた足をかばうように抱え込み、声にならない声をあげて片足で飛び跳ねながらもだえるファチュ(仮)。
その姿はどう言い繕っても滑稽な上、完全に隙だらけ。
本来ならエージェントたちが見逃すはずはない。
が、エージェントは動けなかった。
――何せ、彼らもまた彼の愚神のことを笑えないのだから。
剣や長柄武器などを持つ者は、利き手親指に走る激痛によって、武器を握り振り回す力が弱まっていた。
弓や銃などを持つ者は、利き手人差し指を蝕む腫れと痛みで、弦や引き金を絞るごとに痛苦を伴っていた。
敵の攻撃を防ぎあるいは躱すのが得意な者は、両足の親指や小指に突き抜ける鋭痛で、防御や回避の衝撃を足でこらえることが難しくなっていた。
そう。
このドロップゾーンに足を踏み入れた者は、漏れなく全員が『突き指』となる。
それが、この世界のゾーンルールだったのだ。
「っ! わ、わたひはファフュテロ! きひゃまらをほうむうもろろらら!」
舌の噛み痕から血を出すドジっこ愚神・ファステロは、それでも何とか見得を切りきった。『貴様らを葬る者の名だ』、と言いたかったらしい彼の目はすでに涙目だったが。
しかし、とエージェントたちは内心で悪態を飲み込む。
一見すると地味なゾーンルールだが、その実戦闘における妨害効果はかなり高い。何せ、自分たちが確立した戦闘スタイルを確実に阻害する場所の指が潰され続けるのだ。自然と攻撃は威力が乗らず、防御や回避は動きが雑になる。
だからだろう、最初の討伐隊は今も従魔に手こずり、苦戦を強いられている。エージェントたちがくるまでに何とか一般人の救助と護衛をし、生き残ったのは喜ばしいことだが、そろそろ限界が近いのは明らかだった。
今も従魔を引きつけてくれている彼らから、元凶の愚神討伐を任されたエージェントたちは、ファステロに負けない剣幕で敵を睨みつける。
「ひゅくぞ! ひゃみゅしどみょぉ!! づぁっ!?!?」
『行くぞ! 羽虫ども!!』と啖呵を切ってエージェントを指さそうとしたファステロは、またまた近くにあった瓦礫に手の指を強打し自爆する。
もはややっすいコントなノリのファステロに、誰かが怒りのままに叫んだ。
――テメェのおっちょこちょいに大勢の人間を巻き込んでんじゃねぇ!!
ここのゾーンルールは、どう考えてもファステロの気質が原因だと察したが故に。
解説
●目標
愚神の早期討伐
●登場
ファステロ…ケントゥリオ級愚神。長身細身の成人男性で、仏頂面と我の強さが特徴。体格に見合わない膂力を発揮するパワーファイターだが、日常的に突き指してしまううっかりさん。展開したDZは彼の影響が色濃く現れている。
能力…物攻↑↑↑、物防・回避・生命力↑、魔法・特殊抵抗↓、移動・イニシアチブ↓↓
スキル
・モウダウン…射程0、範囲3、範囲物理、物攻+200、命中-100、ライヴスで生成した巨大長剣による薙ぎ払い、命中→2D6sq後退
・ヘヴィスロウ…射程1~20、単体物理、物攻+100、命中-50、ライヴスで生成した巨大球体の投擲、対抗判定(物攻vs物防)勝利→BS衝撃
・アースウェーブ…射程0、範囲25、範囲魔法、魔攻-100、命中+100、ライヴスで生成した巨大鎚による地震+衝撃波、対抗判定(命中vs回避)勝利→DZ効果+50%(1d6ラウンド)
●DZ内部
アルメールとは違う、どこかの崩壊した都市。元は建築物だった瓦礫が障害物となって散乱し、足場はやや悪い。無事な建物がほとんどないため、隠れる場所は皆無。
DZ内にいた一般人は先遣隊に保護されるも、『突き指』や従魔襲撃で身動きがとれない。長時間の連戦を余儀なくされた先遣隊も同様。彼らは現在DZの端に移動し、PCと愚神のいる地点からは離れた場所で今も従魔と戦闘中。
●ゾーンルール
ファーストフェーズごとに1人ずつ1d6判定。両手両足の指が『突き指』状態となり当該ラウンド中は特定ステータスのいずれか1つが30%低下。効果は重複しない。BS回復スキル・アイテムにより解消可能だが、次ラウンドには再判定がかかる。
1d6判定一覧
『1』→物魔攻撃
『2』→物魔防御
『3』→命中
『4』→回避
『5』→移動
『6』→イニシアチブ
●その他
敵もゾーンルールが適用されるが、ファステロのみ効果なし(『突き指』への慣れから)。
リプレイ
●覚悟、完了!
ファステロが戦意を見せたのと同時、エージェントたちも動き出した。
「地味に、嫌らしいDZだよね……」
『地味どころか、手足の動きを制限させるのは、かなり嫌らしい部類の効果だな」
雪村を握る手がわずかに震える九字原 昂(aa0919)は、ベルフ(aa0919hero001)の言葉に意識から外した痛みよりも太刀筋のブレを憂慮する。
「あたっ!?」
「しかも、本人が狙ってそれをやってるわけじゃなさそうなのがまた……」
同時に、厄介な効果を広げた張本人が瓦礫につまずく姿に、昂は制御できない力の厄介さも理解する。
敵にせよ味方にせよ、はた迷惑なのは同じだった。
『いつも万全で挑めるとは限らない。その中で、確実にこなせる戦い方を……』
「成る程。逆境に慣れておくのも悪くはない、か」
マイヤ サーア(aa1445hero001)の意をくんだ迫間 央(aa1445)は、走りながら両手に握る日華氷輪をハンカチで固定。
「気休め程度だが、油断して武器を落とすよりはいい」
『そうね。央は剣戟に集中して。いつもどおり、経巻のコントロールは私が』
刀身の揺れが多少収まり、さらに足を早める央。その間に、マイヤは英雄経巻でいつでも補助に回れるよう身構える。
「痛いですが、……っ! 痛いですが、我慢できない程じゃないのです。征四郎達が抜けてきた道は、この程度の痛いじゃ済まされなかった!」
『だな。さっさとあの野郎を沈めるぞ!』
生存者がいたときのためと用意した救急セットから包帯を取り出し、紫 征四郎(aa0076)は央と同様アスガルの柄に手を縛り付けた。己を鼓舞し、士気を高める声にガルー・A・A(aa0076hero001)も呼応して不敵な笑みで戦意を促す。
『突き指なら任せて! 得意だよ!』
「自身の怪我で処刑に滞りがあっては問題です、立て直します」
謎の自信を窺わせる木霊・C・リュカ(aa0068)の声を聞きつつ、凛道(aa0068hero002)も鈍く痛む指に煩わしさを覚えながら、オヴィンニクを召喚した。
「外傷が感染するなんて初耳だよ。ライヴスの秘密が増えてますます面白いねぇ」
『人間、自らの骨を折ってまで、研究のためだけに奴に挑むというのか?』
DZに入った瞬間から、飛龍 アリサ(aa4226)が珍妙なゾーンルールに興味津々で笑みを深めていく一方、鬼羅(aa4226hero002)は無視できない痛みの中でさえ微塵も揺るがないアリサの探究心に呆れを隠せない。
「研究のためなら、命など惜しくないさ」
『……私は責任を持たん。お前の責任は、お前自身で取れ』
周囲や自身の『突き指』を観察しながら、研究こそ最優先と断言したアリサへかける言葉は、もはや鬼羅に見つからなかった。
「……ハラワタ抑えて戦ってた時考えりゃ、大した事ねえな」
『アタシはジミな痛みのほうがイヤ』
数々の修羅場をくぐってきた麻端 和頼(aa3646)が手を開閉して痛みを確かめると、華留 希(aa3646hero001)のうんざりしたような苦い声が響く。
『アタシ突き指ヤダし、痛覚任せるヨ』
「……分かった」
すぐに痛覚を放棄した希に、我慢はできると判断した和頼は間を置いて了承する。
『それと、あんなバカっぽいのにやられないでよネ!』
「我儘ばっか言ってんじゃねえ!」
が、続く希の注文には和頼もイラっとした。
「……馬鹿らしい、帰るぞ」
『あ、主殿……お気持ちは分かりますが、あのような形(なり)をしていても愚神であることに変わりはしませぬ。ご気分が削がれるのであれば、早急に切り捨てましょうぞ』
「……気が乗らぬ」
唯一、吉備津彦 桃十郎(aa5245)は勝手に転ぶ敵にやる気を一気に急下降していた。この依頼を見つけてきた犬飼 健(aa5245hero001)の説得にも、桃十郎は気だるい空気を纏ったまま。
「強制的に誰もがおっちょこちょいになる……。なんて恐ろしい呪い」
『率直に言ってアホらしいですが、訓練には良いかもしれません』
全員が散開した後、走りながら銀晶弓の照準を定める志賀谷 京子(aa0150)に、アリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)は意外な言葉を口にした。
「どういうこと?」
『ベストコンディションでパフォーマンスを出せるなど当たり前。最悪の状況下にあって、どれだけのパフォーマンスを発揮できるか。それこそ優れた戦士の証ですよ』
「だからわたし、戦士じゃないんだけどなあ……っと!」
アリッサの射手としての持論に、しれっと自分も適用されている事実に苦笑した京子は、直後『弾道思考』で合わさった標的への道筋へ矢を送り出した。
「ぎゃあっ!?」
「いくぞ、ファチュテロくん!」
京子の一矢は見事ファステロへ命中し、戦端の狼煙と相成った。
●どじっ子の本領
ファステロの包囲に動くエージェントたちの中で、桃十郎だけは真っ直ぐ正面から突っ込んだ。
「いい度胸だな!」
滑舌が戻ったファステロは手に大剣を生成し、急接近した桃十郎へ横薙ぎに一閃。
「……面倒な」
単調な剣筋を見切った桃十郎は身を沈めて刀で受け流すが、軽減した衝撃から伝わる指の痛みで眉間にしわを寄せる。
「……斬る」
元からダラダラと戦うのを嫌い、今回はやる気もほぼない桃十郎。さっさと終わらせて帰りたい思いから、大振りで体が開いたファステロの足めがけて刀を翻した。
「ええ、貴方が頼りです。思う存分燃やしてください」
ほぼ同時、ファステロの背後に回った凛道がオヴィンニクへ頭部を燃やすよう指示を出す。
「おわっ!?」
すると、ファステロは攻撃の勢いそのまま足を滑らせ盛大にずっこけた。
空中で横になった一瞬、刀は足の代わりに空を切り、火焔は沈んだ頭の上で爆発する。
「どじっ子な萌えキャラを演じるには、愛嬌が足りないぞ!」
間髪入れず、体勢が崩れた隙を見た京子が別角度から狙撃。
「おっ、とぁ!?」
しかしこれも、ファステロが手を滑らせた大剣が射線を遮り、本体に届く前に対消滅した。
『……あんなバカっぽいのにやられないでよネ!!』
「チッ!」
離れた位置からその様子を見ていた希は、和頼にもう一度念を押す。
要救助者の安全確保にも気を配る和頼は、どちらにも援護できるようファステロと要救助者の中間にいた。先遣隊や一般人に集まる従魔を魔導銃で攻撃しつつ、天然か意図的かわからない動きで攻撃を防いだ愚神に、和頼も思わず舌打ちが漏れる。
「ふん、残念だった――」
「ふっ!」
難を逃れたファステロは体勢を立て直すも、側面から迫った昂の氷刃を首に受けて吹き飛んだ。
「……さっきのはまぐれ、なのかな?」
『さてな。こちらを油断させるポーズかもしれないぞ』
ファステロへの牽制と妨害、そして敵の注意を集める行動を優先させる昂は、当たれば儲けものという一撃があっさり通って拍子抜けする。が、ベルフが間抜けな姿にも警戒を解かないよう助言した直後、ファステロが跳ね起きる。
「貴様ぁ!」
首を押さえ激昂するファステロは、再度大剣を生みだし『モウダウン』で周囲を薙ぎ払う。刃圏にいたのは昂と桃十郎だが、荒い攻撃は虚空を殴る音を出すだけで消える。
「っ、……マイヤ!」
『ええ!』
空振りに終わった技の直後にファステロとの距離を詰めようとした央は、しかし足から駆け上った鈍痛で急ブレーキ。とっさにマイヤの補助を請うと、英雄経巻の白光が愚神めがけて飛んでいく。
「愚神の恒常的な突き指がドロップゾーン内で伝染するのなら、他の痛みはどうなるのかねぇ?」
さらに、ファステロの側面に回ったアリサが『銀の魔弾』を射出した。アリサもまた、央と同様に足の指に痛みを覚えているが、今の彼女にはゾーンルールの解明しか眼中にない。
『凛道!』
「はあっ!」
さらにリュカが、オヴィンニクも足の指をかばうような動作をしたことを見て凛道に注意を促す。凛道は黒猫を退かせ、ポルードニツァ・シックルのカマイタチで追撃をかけた。
「食らえ!」
それまで救助者の援護が中心だった和頼も、仲間の攻撃が集中する様子を見てファステロへ銃口を向け魔法弾を撃ち出した。
「あなたがファフなんとかですね! 征四郎が相手です!」
『噛みやすいならもう少し言いやすい名前にしておけよ!』
もちろん、前衛にいたエージェントたちも動き出す。
征四郎はガルーの鋭い突っ込みとともに毒色の瘴気を纏わせた剣を突き出し、昂と桃十郎も別方向よりスカバードから抜きはなった居合いの刃を振り切った。
「私を舐めるな、羽虫どもぉ!」
すると、ファステロは外した『モウダウン』の勢いに任せさらに一回転し、地面へ大剣を叩きつけた。瞬間、柄から伝わる力も乗せて跳躍し、ファステロはエージェントの攻撃から逃れる。
「あれは、っ!?」
『京子!』
そうして上空に飛び出したファステロを見上げた京子は、次に敵の手から現れた大鎚を見て目を見開く。アリッサもいやな予感を覚えたのか、急かすように京子へ妨害を促した。
「食らえぇっ!!」
ファステロを撃ち落とそうと煌めく橙色の光は、しかしすんでで気づかれハンマーの打面で消されてしまう。そのまま落下してきたファステロは、エージェントではなく地面へ向けて大鎚を振り抜いた。
『っ!?』
瞬間、ファステロを中心に広がる亀裂とともに、津波のような衝撃波がエージェントたちに襲いかかる。
「――本当、愛嬌が足りないなぁ!」
1人だけ、ファステロの『アースウェーブ』の外にいた京子は、苛立ちに顔をしかめて次の矢をつがえた。
「っぐ!? ……案外、木偶の坊ではないのだな。ま、どうでもいいが」
『主殿っ!』
ファステロとつかず離れずの距離を保っていた桃十郎は、とっさに爆心地である敵の上空で難を逃れようと跳躍したが、全方位へ発せられた衝撃波に飲み込まれた。攻撃の鋭さとは裏腹に薄い防御を衝撃が貫き、重いダメージでふらつく桃十郎の様子に健が動揺する。
「……ぐっ!?」
同じく、鎌の柄を利用し衝撃波から逃れようと直上へ跳躍した凛道は、わずかな差で間に合わず魔力の波動に巻き込まれた。ダメージを受けて着地した凛道は、そこで今までよりも強くなった『突き指』の激痛に、思わず膝をついて脂汗を流す。
「……へぇ? これは、ドロップゾーンへの抵抗力を下げる力でもあったのかねぇ? 何ともまぁ、厄介な手札を持っているじゃないか」
アリサも同じ痛苦を覚えてファステロを睨むが、爛々とした眼光にはより深まった愚神への好奇心と未知への探究心で満ちていた。
アリサにとって愚神や従魔などは研究用モルモットであり、出向いた戦場もライヴスの謎を暴く研究場か実験場でしかない。知らない行動、知らない影響、知らない現象はすべて、果てなく渇望する知識欲を一時的にでも満たす以上の意味を持たない。
だからこそ、アリサの目はファステロへの期待に濁る。愚神をあらゆる意味で解体し、有意義な研究データを得られるだろう期待に。
「あれほどの広範囲攻撃で、こちらの妨害までしてくるのか……っ」
『ゾーンルーラーとなるほどの力は伊達ではない、ということかしらね』
『零距離回避』で衝撃波を双刀で散らした央は、リュカたちの異変を横目に手の『突き指』に顔をしかめる。接近戦はまだ難しいと判断したマイヤは、英雄経巻で愚神への攻撃を続けて央の隙を潰す。
「そこっ!」
「ぐ、あっ!?」
再度、ファステロの目を狙った英雄経巻の光に紛れ、京子の光矢が愚神を貫いた。
――最初の啖呵で自爆した指を。
「いくら突き指慣れしていると言ったって、さらにそこを痛めつけられる経験はそうないんじゃない?」
『わたしたちの精度が、この程度で落ちると思わないことです』
仲間の『突き指』への意趣返しか。遠距離から精確に指を狙撃した京子と、射手としての自負を覗かせるアリッサは、不敵な笑みを浮かべてファステロを煽る。
「あそこか! ……なぁっ!?」
「こちらですよ」
京子に気づいたファステロがそちらへ視線を向けた直後、その反対側から昂が『女郎蜘蛛』の網をけしかけた。
「あなたの攻撃は危険なので、動くことを禁止します」
『その場に立つくらいは許してやれ、昂』
「ふ、ざけるなぁ!」
瓦礫の上に立つ昂の感情が消えた真顔と丁寧な言葉遣いで下された命令は、見下された気分を覚え屈辱的だったのだろう。鎚から剣へ武器を換えたファステロは、京子へ向けた敵意をあっさり昂へ移し、『女郎蜘蛛』の網を切り払った。
「ここからじゃ、少し距離が足りねえか、クソ!」
援護射撃で先遣隊に余裕ができた直後に『アースウェーブ』が放たれたことを確認し、和頼は仲間の支援へと意識の比重を傾ける。
自身に届いた衝撃波の影響は『オートキュアクリンナップ』で一時的に無効化し、和頼はイジェクション・ガンを取り出しつつ、ファステロへ向けて走りながら魔法弾を連射した。
「この程度で、攻撃の手は緩めません!」
和頼の射撃の合間に、凛道がライヴスを高めて周囲に複製した鎌を展開。仲間の攻撃に注意が向くファステロへ、『レプリケイショット』の連続カマイタチで畳みかけて逃げ場を奪う。
「その無駄な命、せいぜいあたしの研究に捧げるがいいさ」
飛刃がファステロを周囲ごと吹き飛ばし砂煙が舞う先へ、アリサはノルディックオーデンの切っ先を定め『ブルームフレア』を発動。姿が隠れた愚神を範囲に収め、爆発で煙幕もまとめて吹き散らす。
「……ぶった斬る!」
怒濤の包囲攻撃後に突出したのは桃十郎。やられた傷は自身の手で返礼する、という気概で放たれた刀閃は、しかしファステロがいると思われた空間を素通りした。
「こちらだ、間抜け!」
「な、っ!?」
果たして、ファステロが発した声は、刀の軌跡よりもっと下。
地面へはいつくばるほど伏せた姿勢のまま、手に大剣を持って体を捻るファステロの姿に、桃十郎は走る悪寒に従い即座に後方へ飛び退いた。
「遅い!」
「キビツヒコ! ――くっ!」
そして、バネのような反動を加えて放たれたファステロの『モウダウン』は、桃十郎の体を捉え貫く。同じく大剣の軌道上にいた征四郎は、とっさに姿勢を低くしやりすごした後、吹き飛んだ桃十郎を追って後退した。
「貴様も、目障りだ!」
なおもファステロの勢いは止まらず、大剣は昂の胴体めがけて振り抜――
「おっと」
――かれた瞬間、昂は絶妙なタイミングで跳躍。大剣の腹に背をつけて半回転し、曲芸じみた動きで攻撃を回避した。
「何っ!?」
予想外な昂の動き――『ラプラストリック』に『翻弄』されたファステロは瞠目し、昂に向けていた敵意をすべて警戒に塗り替えた。
「今、回復を!」
その隙に瓦礫に埋まる桃十郎を確認した征四郎は、『クリアプラス』を重ねた『ケアレイン』を発動。治癒の力は桃十郎と近くにいた凛道の傷、さらに征四郎も含めた3人の『突き指』を一時的に解消する。
「しかし、あのファチュなんとかはどうやって、あの攻撃をしのいだのでしょうか?」
振り返った征四郎は、一斉攻撃に動じず反撃に出たファステロに疑問を覚えた。
「ふん! 貴様らの攻撃など、そう何度も食らうと思うな!」
不遜な態度でうそぶくファステロに全員が身構えたが、凛道のカマイタチですっころび、たまたまやり過ごせただけということを、本人以外は知らない。
ファステロの極まったどじっ子は、戦闘に貢献するレベルにあったのだ。
●挑発 必殺 焼失
その後、戦闘は若干の停滞を見せた。
「隙あり……なんてね」
『こういう輩には、案外単純な手の方が通じるもんだ』
昂はファステロの眼前で拍手の『猫騙』を放ち大技を牽制するが、『翻弄』ごと振り切られる。
「死ねっ!」
しかしファステロも『モウダウン』を強引に行うが、射程内の誰にも当たらない。
「――」
だが、ここから戦況が変わる。
ファステロの大剣をしゃがんでやり過ごした央が、己をライヴスで覆い『潜伏』を敢行。大きな刃の陰に隠れ、愚神の視界から姿を消した。
「ファステロさん、一つお願いがあります。生麦生米生卵って3回言ってみて下さい」 双方の攻撃が決定打に欠ける中、真面目な顔で口を開いたのは一時的に肉体の主導権を得たリュカ。
「……はっ! 貴様、私を見くびるなよ?」
意図を察したファステロだが、あえてリュカの挑発に乗る。
これはファステロにとっても、最初の失態を返上するチャンス。
地味に気にしていたどじっ子は、己の名誉を挽回するため口を開く!
「なまむぎ、っ!?」
即行で噛んだ。
『あははははっ!!』
「……オヴィンニク」
「ぎゃああっ!?」
思いっきり舌を挟んだファステロに、リュカは腹を抱えるように大笑い。肉体の主導権が戻った凛道は、呆れた視線を送りつつ呼び戻した黒猫で隙だらけのファステロを焼いた。
「治療用だ! 避けんなよ!」
人体発火コントを繰り広げるファステロの横へ、和頼がイジェクション・ガンに『ケアレイ』を込めて発射した。
『麻端殿、かたじけない!』
「……だが、どうしても刀の振りにブレが出るか。それに振りきるまで、ほんのわずかに時間がかかるのも、気にくわんな」
特殊弾頭は射線上にいた桃十郎へたどり着き、治療のライヴスが身を包む。健は律儀に礼を述べたが、桃十郎の意識は敵と『突き指』で揺れる己の太刀筋に集中したまま。
『――大怪我して泣かしたら、許さないヨ!』
深手を負ってなお攻撃の手を緩めない桃十郎の様子に、力が全てと信じていたかつての和頼の姿が重なり、希は自分の親友でもある和頼の恋人を引き合いに自制を促した。
「当たり前だ。……アイツの為に、オレは強くならねえと!」
ただ、それは和頼も承知していたらしい。自然と浮かんだ恋人の笑顔を心の支えに、五体満足での帰還を考えて魔導銃の引き金を絞る。
「この、はみゅしがぁ!」
ひとしきり燃えた後、ファステロは舌と火傷の恨みを晴らそうと『ヘヴィスロウ』を凛道へ放った。
「う、くぅっ!? ……やはり膂力(りょりょく)は、相当なもの、ですね」
それをアガトラムを用いた『インタラプトシールド』で対抗した凛道だったが、『アースウェーブ』以上の威力に自然とうめく。
「リンドウ!」
ファステロに肉薄していた征四郎は一瞬背後を気にかけ、凛道をかばうような立ち位置へ移動した。
「えーっと、ファ○リーズでしたっけ……? とにかく、負けない、のです!」
「誰が除菌消臭剤だ!」
さらに征四郎は攻撃を苛烈にして、凛道へ向かったファステロの敵意を自身に引きつける。ちなみに、愚神の名前を間違うのは挑発ではなく、単に征四郎が名前を聞き取れなかっただけだ。
『今さらだけど、突き指は地味で軽視されがちでもしっかり怪我だからな。慢性的に突き指状態に慣れてるとか、普通にヤバイと思うぞ』
「羽虫と一緒にするな! 少し骨太になっただけだ!」
また、ガルーも挑発がてら『突き指』の危険性について深刻な表情で口にするが、ファステロは聞く耳を持たない。ただ、今まで結構やっちゃってるようです。
「愚神のくせに恒常的に怪我をするなんて、身体機能に何か障害でもあるんじゃないのかい?」
「ぐぬっ!?」
ガルーとのやりとりを聞いていたアリサは、監察医と法医学者をしていた経験でファステロの体質を疑問に感じつつ、『ブルームフレア』で追い打ちをかける。
「そろそろご退場願おうかな、っ!」
「ぐぉ!? またこの矢か!?」
敵のダメージが蓄積したことを感じ取った京子は、『シャープポジショニング』からの『テレポートショット』でファステロの『突き指』を撃ち抜いた。なお、京子の狙いはずっと、執拗に『突き指』へ集中している。
「日華氷輪――」
忌々しそうなファステロが移動する狙撃手を探すため視線を飛ばした瞬間。
「十文字斬り!」
『潜伏』で気配を殺していた央が、愚神の背後から『ザ・キラー』の痛撃を見舞った。
「があぁっ!?!?」
油断したところで背中を走った太陽と月の力を宿した2本の斬撃に、ファステロから絶叫が上がる。
「突き指の手で渾身の一撃とは行かないからな。奥の手を使わせて貰った」
『……技名は後から言うのね』
綺麗に入った太刀筋に笑みを残し、央は一度後退する。なお、マイヤの素朴な発言は悲鳴に紛れて消えた。
「お、のれぇっ!!」
すでにかなりの傷を身に刻み、追い詰められた状況を理解したファステロは、再び大鎚を取り出し地面を強打。
「潰れろぉ!!」
怒りのままに『アースウェーブ』の衝撃を周囲へまき散らした。
「物騒な攻撃は無しの方向で」
『好き勝手に振り回すのは禁止だ』
が、2度目の衝撃波をそれぞれの防御や回避で耐えられ、ファステロは一歩抜きんでた昂とベルフが放った『縫止』の針で動きを止められる。
「十・文・字――!」
「っ!」
動きが固まったファステロはさらに、背後から聞こえた声に慌てて振り返る。
『――なんて、ね』
が、マイヤの声とともに通り抜けたのは『ジェミニストライク』による央の分身。『ザ・キラー』ほどの威力はない斬線を刻み、ファステロは守勢で足をさらに鈍らせる。
「これで、終わりです!」
完全に虚を衝かれて静止したファステロへ、凛道は『反撃の狼煙』で高まったオヴィンニクの炎を全力で解放した。
「不測の事態への対処、必殺技の見せ方……今回は勉強になった。ファステロ、感謝する」
「は、むし、ども、がぁ……!」
肉体のライヴスが焼き消えていくのを感じながら、ファステロは央の言葉を侮辱と受け取り手を伸ばす。
しかしその手はすぐに灰と消え、掴んだのは虚空だけだった。
●突き指は――痛い!
「まだドロップゾーンは消えていません! すぐに脱出しましょう!」
最後の衝撃波に被弾した仲間へ『クリアプラス』を用いた『ケアレイン』で回復させた後、征四郎たちは要救助者の元へ走った。
従魔の相手を他の仲間に任せて征四郎は『クリアレイ』、和頼は『ケアレイ』や『クリアレイ』やヒールアンプルで、重傷者を中心に治療する。
「もうダイジョブだヨ! ガンバったネ、お疲れサマ!」
従魔が散った後も、共鳴を解いた和頼が征四郎とともに救急キットの応急処置を軽傷者に施し、希は安心させるため一般人や先遣隊に言葉をかけていく。
『さあさあ、急いで逃げちゃおうか!』
「僕たちがこのまま護衛します。あと少しですよ」
リュカの朗らかな声で全員が立ち上がり、オヴィンニクを肩に乗せた凛道が勇気づける。進路を塞ぐように従魔が集まってくるが、『突き指』効果が残っているためかファステロほど厄介な敵はいなかった。
「……まだこれだけいるのか、面倒な」
先陣を文字通り切っていく桃十郎はため息をこぼしながら進んでいくと、やがてドロップゾーンの端にたどり着いた。
「殿(しんがり)は僕たちが!」
ゾーンの境界まで追従した従魔へ、昂は雪村の刃閃で威嚇。要救助者を送り出した後、最後まで残った昂たちもドロップゾーンを脱出した。
「ハンデを背負って戦場に出向くのも、存外悪くなかったねぇ。『虎穴に入らずんば虎子を得ず』のそのものずばり、研究データとしてあのゾーン特性はなかなか美味しい内容だったしねぇ」
『……酔狂な奴め』
その後も従魔の追撃を懸念し、負傷者を市民の避難所へ護衛するエージェントたち。道中で愉快そうにタブレットを操作するアリサに、鬼羅の呆れ声は聞こえなかったようだ。
『で、正直なところどうだったんです?』
「ふざけるなこの愚神、変なことに巻き込んでくれて絶対即コロス、と思う程度には痛かったかな」
また、アリッサが終始平気そうな顔だった京子へ水を向けると、にっこりと毒が飛び出した。やはり、相当痛かったらしい。
『……やはりあの振る舞いは戦士のそれでは?』
「虚々実々の駆け引き、って呼んでよ」
ふとアリッサが、ファステロの隙を誘うため何度か矢を外したことも指摘すると京子はしれっと返答した。やはり、京子も優れた戦士だったらしい。
「いっけないんだー!」
「何がだ? ……チッ煙草忘れちまったか」
そして、希が消毒用にと酒を入れていたスキットルを傾けた和頼を見咎め、懐を探った和頼の台詞に周囲から笑いが漏れた。
「……犬。次行く依頼は、もう少しまともなものを頼むぞ」
『しょ、承知しました……。肝に銘じておきます』
ただ1人。誰にも悟られず笑いの輪から離れた桃十郎は、そのまま何処かへ去っていった。色物依頼を引き当てた健に、しっかり釘を刺しながら……。
「皆さんのおかげで、被害は小規模で済みました。アルメールDZもその後、ゾーンブレイカーにより無事消滅したようです。本当に、お疲れさまでした」
後日、信一から迷惑DZの破壊を知らされ、今回の騒動は幕を閉じた。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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