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乙女の丸カン
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依頼前の挨拶スレッド
最終発言2015/10/12 18:52:25 -
相談卓
最終発言2015/10/16 03:11:46
オープニング
●か弱い女の子?
山地にあるキャンプ場は、今年も大賑わいだ。
家族連れ、カップル、あちらに見える青年たちは大学のサークル仲間だろうか?
どの人達も目の前にある自然と、楽しい雰囲気に大盛り上がりしている。
カツン、カツン、と響くのはテントを張るための打ちこみカンを叩く音。
どこかでバーベキューの焼ける音もするし、何より川のせせらぎが心地よい。
「うっし、こんなもんか」
一人の男性が打ちこみカンを叩き終えて、爽やかな笑顔をのぞかせていた。
「わー、すごいですねぇー」
と、そんな彼の背後で、唐突に響く拍手の音。
振り向くと、そこに立っていたのは、一人の少女だった。
およそこの自然に似つかわしくないフリフリの洋服と、ツインテールが印象的。
男性が驚いていると、彼女は手に持っていた丸カンを見せて男性に言った。
「あのぉー、私も友達と来てるんですけどぉ、できれば手伝っていただけませんかぁ?
男の人がいなくて、大変なんですぅ」
彼女の言葉に、男性はなるほど、と納得して笑顔で了承する。
相手が可愛かったこともあり、男性は気合を入れてハンマーを振るった。
「わー、すごぉーい」
屈んで腕を振る男性の後ろ、少女の声が響く。
「やっぱり男の人ってぇ――」
急に低くなった少女のトーンに、男性が振り返るとそこには、
「騙しやすくて馬鹿ですねぇ」
満面の笑みと共に、丸カンとハンマーを左右に従えるように浮かせた少女が立っていた。
●惨状の回避
「――そして、この男性が襲われたのを皮切りにさらなる被害が出る。これが予知された内容だ」
モニターに映るキャンプ場の情報と共に、任務説明係の男性は語った。
キャンプ場で起こるであろう惨状。それを止めろ、とのことだ。
「犯人は犯罪能力者。手下は連れていないと思われる。能力はテレキネシスというやつに近い。
キャンプ場だからこそ、無理なく持ちこめたであろう打ちこみ丸カンを浮かせて射出している。
打ちこみ丸カンってのは、テントを張る時に使うあの杭のことだ。
打ちこむ用のハンマーも浮かせて取り出しているため、ある程度重さがある物も浮かせられるらしい。油断はしないように」
モニターに映るフリフリの服、いわゆるロリータ服を着た少女を見て、男性は困り顔だ。
「あの服装だから見つけること自体は苦労しないだろう。山の中であんなピンクの服を着ていたら目立つに決まってる。
第一、あの恰好じゃ山の中を逃げる方が大変だろう。多少人員も派遣するので、一先ず逃げ出すことは考えなくていい」
そこまで言って、彼は思い出したように付け加える。
「予知の内容から推測したもので正確とは言えないが、おそらく、彼女は男性を優先的に狙っている。
向かうに際し、そこを意識して作戦を立てておくと良いかもしれんな。
君たちの任務はただちに現場に向かい、彼女を無力化、逮捕することだ。健闘を祈る」
●キャンプ場に降り立つ少女
「ふふ、男の人がたぁくさん……」
キャンプ場にやって来た少女は、日傘越しに男性たちを見つめて薄く微笑んでいた。
「皆爽やかで、嫌になっちゃうなぁ……」
トーンが下がって行くと共に、彼女の顔からは笑みが消えて行った。
背負っているリュックからは、チャリチャリと音が響く。
わずかに開いたチャックから覗くのは、おびただしい数の丸カンだ。
「うふふ、さあ、たっぷり楽しみましょぉー」
誰に言うでもなく呟いて、彼女は人でにぎわうキャンプ場へと踏み込んでいく。
能力者たちはそれに少し遅れる形で現場へとたどり着いた。
その視線の先では、今まさに、ロリータ少女が男性に話しかけようとしていた。
解説
●目標
ヴィランの逮捕と、市民の安全確保
●登場
ヴィラン『山崎 楓』
ロリータファッションとツインテールが現場に場違いな細身の少女です。外見年齢は15、6歳ぐらい。
テレキネシスのような力を使い、キャンプ用具の打ちこみ丸カンを射出してきます(リュックにたっぷり入ってるので残量は無制限ということにしています)。
要するに物体射出による攻撃です。魔法的なものではなく物理的な攻撃となりますのでご注意を。丸カンなので威力は少し高めです。
男性を優先的に狙うため、そこを意識して作戦を立てると良さそうです。
複数の一般市民
まだ何も起こっていない段階なので、避難誘導などは終わっていません。
すぐ近くに災害時の避難所があるため、そちらへの誘導を手伝えば安全に戦うことができます。
今回のヴィランは丸カンの射出による遠隔攻撃もできるため、護衛を着けないと被害が出てしまう可能性があります。
数名で時間を稼ぎ、数名が護衛をする、というのが理想的かと思われます。
●状況
・川辺のキャンプ場(地形はデコボコしており、多少滑りやすい。対策なしの場合多少のペナルティ有りです)
リプレイ
●囮班、行動開始
ゴスロリ少女――山崎楓はじっとキャンプ場で楽しそうにテントを張る男性たちを見つめていた。背負う鞄の中身をカチャカチャと鳴らしつつ、ゆらり、ゆらり、と歩き出す。
「ちょいとそこの可憐なお嬢ちゃん、随分と暑そうな格好じゃないか」
その動きが、ふと固まる。声をかけられて、歩みを止める。
ゆっくりと振り向いた彼女の視線の先には、
「良かったら俺らのグループとお茶でもどうだい?」
彼女を見下ろす、四人の人影があった。
声をかけた本人、鬼嶋 轟(aa1358)はその強面の顔面にできる限り柔和に見えるよう意識した笑みを張り付けていた。
その横に立つ三人も、それぞれに柔和な笑みを浮かべている。
「その服、この間雑誌に載ってたよね? こんなとこで見れると思ってなかったなー。あっ、ごめんなさい。僕、こういうの好きなんです」
「お前ってやつは……悪いな、いきなりで驚いただろ」
ウェルラス(aa1538hero001)の無邪気な笑みと、水落 葵(aa1538)の困ったような笑み。その対照的な姿を見て、楓はぎこちなく首を傾げた。
「何か、御用ですかぁ?」
それに応えたのはもう一人。この中で最も大人しそうな笑みを浮かべた楠元 千里(aa1042)楠本 千里だった。
「すみません、急にお声掛けしてしまって」
「一人でいたみたいだし、どうせなら一緒にどうかと思ってな。この場所についても俺らは詳しくねぇし」
各々、口元に浮かべる笑みは優しい。怪しまれないように、できるだけ敵視されないように、彼らは注意深く言葉を選んでいく。
「こうして会ったのも何かの縁だ。俺らだけだとむさくるしくてな。お茶飲むにしたって花がほしいんだよ。どうだ?」
「オレたち、あっちの方に場所取ってるんだ! 良かったら行かない?」
彼らの言葉に、楓は少しの間吟味するような視線を向け、
「いいですよぉ。ちょっとだけ、ね」
小さく笑い、彼らに頷いて見せた。それを見て、轟が動く。
「そうか! じゃ、案内するぜ」
彼女を間に挟むようにして、背後は決して見せないよう気遣いながら、彼らは歩き出す。結果として、他の参加客から彼女を離すことができた。轟はそのまま気を張りつつ、背後の相棒に軽く合図を送る。
彼らの様子を見るその相棒、屍食祭祀典(aa1358hero001)は楓や仲間たちの様子を岩陰からうかがっていた。
「ゴウ、頑張るっすよ! ん、あの合図は……みんなに知らせろってことっすかね」
彼女がそんなことを言いながら見れば、すでに数人が動いていた。
「言うまでもなさそうっすね。さて、追跡を続けるっす!」
わずかに離れていく彼らの後ろで、避難班のメンバーも、着々と動いていた。
●避難誘導、開始
男性陣が楓に声をかけている中、最初に動いたのはレーラこと言峰 estrela(aa0526)と鴉守 暁(aa0306)、そしてその相棒たちであるキュベレー(aa0526hero001)とキャス・ライジングサン(aa0306hero001)だった。
「ヴィランだっていきなり言ったら混乱しないかしらー?」
「熊が出たー! とかのが逃げてくれるかな?」
「だったら大きな声で一気に広めるネー!」
「待て、短絡的に動くな。ヴィランに聞かれる。落ち着いて避難するよう、それぞれに動くべきだ。レーラ」
「はーい、じゃーそれぞれ動きましょー。九繰ー」
彼女が声をかけると、一般客と談笑していた唐沢 九繰(aa1379)はそれに気が付き、こくりと頷いて見せた。そして、目の前に立つ数名に向かって、できるだけ抑え目に言う。
「いやー、突然なんですが、お仕事入っちゃいました」
「仕事? 今から?」
きょとんとした顔の一般客たちに、彼女はにこっ、と笑ってみせる。そして、身分証を見せながら彼女は続けた。
「はい。というわけで、我々の身分を明かしますね。私たちはHOPEのエージェントです。現在、この付近には避難勧告が出ています」
「えっ」
「落ち着いて! 静かに、ゆっくりと誘導に従ってください。イリスさん!」
彼女の言葉に、一般客たちは不思議そうな顔をしながらも神妙に頷く。その真剣さから、間違いではないと思ったのだろう。
そして、名前を呼ばれたイリス・レイバルド(aa0124)とアイリス(aa0124hero001)は避難所へと向かうルートを指さして言った。
「皆、こちらについて来てくれ。誘導する」
「こ、こっちに来てくださーい」
フードを被ったイリスと、日傘を差したアイリスが歩き出し、促されるまま動き出す一般客たちを見て、暁がのんびりと言った。
「さー避難開始だー」
危機感は欠片も感じられない。被害もまだ出ていないせいか、一般客たちも何が何やら、といった具合で少しずつ避難を開始している。
「さあさあ早く逃げるんだヨー」
そんな四人を見て、レーラは相棒に言う。
「きゅーべー、ワタシたちははぐれてる人がいないか捜すのよー」
「ああ」
迅速に動く彼女らと、それなりに距離のある避難所にて、車椅子の上から秋明 恋美(aa1571)は避難を始めたであろう人々のざわめきを聞いていた。
「そろそろ来ますね」
彼女は、後ろで車椅子を支えているエストことアストラガルス・シニクス(aa1571hero001)に言う。
「エスト、あなたは皆を守ってあげて。あなたは強い子だから、大丈夫」
「……すぐに戻ります」
彼はそう答え、人々の元へと走り出した。
その時だ。
「うわっ、なんだあれ!」
すでにある程度の避難を進めていた一般客たちの間から、悲鳴が上がったのは。
●乙女暴走
「へぇ、お嬢ちゃんは若いのにしっかりしてんだなぁ」
「すごいねー!」
「そうでもないですよぉ、うふふ」
囮として楓をキャンプ場、そして避難場所から離すように動いていた男性陣。楓は終始楽しげで、人を襲おうとしているようには見えない。
「しっかし、こんな場所にそんな恰好で来るなんてすげぇな。俺だったら耐えられねぇよ」
「こういうのは理屈じゃないよね。自分を守る鎧って言うのかな、曲げられないポリシーがあるんだと俺は思うな」
「ポリシー、そうですねぇ、確かにそうかもしれないですぅ」
薄く笑う彼女を横目に、千里は周囲の地形をなんとなく観察していた。木々が周りを覆い、足元は川辺であることもあり湿っている。土がむき出しであることもあり、かなり動きは制限されるかもしれないだろう。だが、事前に対策はある程度してある。
あとは、避難所に彼女の意識が向かなければ良いのですが。そんなことを思っていると、不意に、楓が立ち止まった。
その様子に、男性陣は一斉に身構える。そんな彼らを前に、楓はクスクスと声を上げて笑い出した。
「どーしたんですかぁ、怖い顔してぇ」
「い、いや、疲れたのかと思ってよ。倒れられても大変だしな」
慌てて取り繕う轟だったが、楓は変わらず薄笑いだ。
「うふふ、優しいんですねぇ……素敵ですぅ」
それまでもどこか不気味な雰囲気を醸し出していた彼女だったが、俯いたその姿は、どこか恐ろしささえ感じられる。
「どうした?」
轟が話しかけるとほぼ同時、
「マティアス、力を貸してください!」
「すぐに潰れんじゃねぇぞ!」
千里と彼の持つ幻想蝶から現れたその相棒、マティアス(aa1042hero001)が楓と轟の間に入り込んだ。即座にリンクした彼ら。その手に握られた大きな盾は、見事に丸カンを弾き返している。あと数秒でも遅れていれば、鋭い杭が轟の胸を貫いていたことだろう。彼らの前、楓は「うふふふふ……」と不気味な笑い声を上げ続けている。
そんな彼女の背中にあったリュックはいつの間にか口を開き、そこから丸カンがいくつも飛び出していた。宙を舞い、無数に飛び回るそれを前に、ウェルラスが表情を引き締めた。
「マズイね、葵」
「ああ。とりあえずリンクすんぞ」
葵も即座にリンクし、臨戦態勢を取った。
「もうちょっとぐらい引き付けたいとこだったが、ま、こうなるよな。ガブリ!」
「了解っす!」
物陰から飛び出してきた彼女とリンクしながら、轟は軽く跳び退る。臨戦態勢を取った三人に対し、彼女は静かに口を開いた。
「リンカー……? 皆さん、私を騙してたんですかぁ?」
がくん、と痛めてしまいそうな勢いで、彼女は首を傾げた。
「やっぱり男なんて、私を騙すだけなんですねぇ……許さない……あいつらも、楽しそうにして……男なんて皆嫌い……大っ嫌い……皆、皆! 殺してやる!」
彼女が激昂した様子で叫ぶと同時、宙を舞っていた丸カンが無造作に射出された。それはでたらめに打ち出され、無差別に地面に、木に、岩に、勢いよく突き刺さって行った。そのうちいくつかはリュック自体をも突き破って地面に向かっている。
その無茶苦茶な攻撃に、少女の姿を得た轟が苦笑いを浮かべつつ、拳を構えた。
「おいおい、あれ、他の客の方にも行ってるだろ」
真っ直ぐ楓を見据えながら、リンクした葵も武器を構える。
「あちらはこっちより多く人がいるし、大丈夫だとは思うけどな」
そんな二人のやり取りに頷きながら、一足先にリンクした千里は盾を構えながら力強く言った。
「少し心配ですが、まずは……目の前の彼女を、無力化しましょう」
「だな」
「ああ」
恨めしそうを瞳を向ける少女を前に、彼らは武器を構える。
「皆、皆死ねぇぇぇ!」
襲い掛かる丸カンをかわし、葵が一気に距離を詰める。踏み込んだ一撃は浅く入っただけだった。だが、確実に効いてはいるらしく、彼女は軽く後退する。
「こっちも行くぜ」
続けて轟も離れた位置から拳を放つが、楓はそれを避け、お返しと言わんばかりに丸カンを飛ばしてきた。鋭いそれらは勢い良く向かってくるが、
「させません」
間に入った千里によって、見事に弾き返されてしまった。
「邪魔ですよぉぉぉ……!」
「あなたが人を傷つけるなら、私はその人を守るまでです」
悔しそうに歯ぎしりする楓を前に、三人は追撃の隙を伺う。
その頃、避難途中の一般客たちは迫りくる丸カンたちに恐怖の声を上げていた。
●迫る丸カンと守る者たち
「うわー、攻撃だー」
「皆急ぐネー」
避難誘導に当たっていた暁とキャスは、変わらず呑気な声を出していた。だが、ふと目に入った子供に立ち止まり、その子らを抱えて走り出す。
「皆ー、ちょっと任せるヨー」
「前の方に行ってるねー」
突然言われて驚きながらも、九繰はそれに目をぱちぱちさせながら答えた。
「えっ、あっ、分かりました! エミナ、いける?」
「はい」
その返答に九繰は頷き、彼女の相棒、今まで幻想蝶に入っていたエミナ・トライアルフォー(aa1379hero001)とリンクした。飛んでくる丸カンを撃ち落とし、彼女は叫ぶ。
「皆さん、我々が守るので安心して避難してください! 押さないで、冷静にお願いします!」
そうして動いていた彼女だったが、
「わっ」
不意に、舗装が行き届いていない地面に足を取られてしまった。体勢を崩した彼女に、丸カンが襲い掛かる。
一撃もらってしまうか、と目を瞑るか彼女。すぐに、腕に軽い痛みが走る。だが、それは予想していたよりもずっと軽微なダメージだった。
不思議に思って目を開けると、
「大丈夫か?」
そこには、盾を持ったエストが立っていた。
「もう少しで避難所だ。辿り着けば、あとは反撃に出られる」
そう言う彼に、九繰は頷いて立ち上がった。そんな二人を、先頭の方から心配そうに見ていたイリスが隣を伺う。
「あっちは、大丈夫そうかな」
「そのようだ。さあ、私たちもリンクしよう」
「うん!」
避難する人々を先導していたいイリスとアイリスもリンクし、担いだ盾で丸カンを弾き返していく。各々の守りを固める動きは、丸カンを少しも通さない。
「そんな攻撃で、ボクの、ボクたちの意思を貫けるもんか!」
勇ましく声を張る彼女と共に、一般客たちは次々に進んでいく。
迫りくる丸カンの威力は凄まじく、かろうじて防ぎながら誘導することがやっとだ。しかし、無造作なそれらが能力者たちを傷つけることは難しかった。結果として、わずかなかすり傷だけを残し、彼女らは一般客を守り通すことに成功した。
やがて、人々は怯えながらも問題なく避難所へとたどり着いた。
「到着ー」
「皆無事みたいだネー」
「あとは、ヴィランを捕まえるだけですね」
「急がないと囮役の人たちが危ないよね」
「ええ。エスト、我々もリンクしましょう。みんなで合流を目指します」
「ああ」
「じゃ、私らもだね」
避難所でそんなことを言う彼女らの元に、たどり着く人物がもう二人。
「他に人はいなかったよー。物陰とかに取りこぼしはなーし」
「残すは、ヴィランの捕縛。それだけだ」
レーラとキュベレー、二人の言葉に、全員が頷く。
一方、彼女らが向かう先では、まだ激しい戦闘が続いていた。
●揃う役者と、決着の時
全員の避難が済んだ頃、踏み込んだ葵の一撃が楓の体を捉えていた。
彼女はすでにかなりのダメージを負っており、もう数撃受ければ倒れようといったところだった。
「調子良いじゃねぇか!」
丸カンをかわしながら言う轟に、葵は敵の攻撃をかわしながら答える。
「そっちが隙を作ってくれるからな。このままいけば、合流前に倒しちまうことも可能だと思うが……」
そんなことを言っている彼に、丸カンが迫る。だが、その一撃は間に割り込んだ千里の盾に防がれた。一度、二度、と叩き込まれる丸カンだが、その威力の高さに反し、一度も盾を破れそうな一撃は出ない。かろうじて、かばうことに専念する彼の腕に薄い傷をつけられた程度だ。
「皆、油断しないでください。有利でもこの一撃は脅威ですよ」
「余裕で防いどいてよく言うぜ……」
思わず苦笑いを浮かべる轟だったが、その耳に元気な声が聞こえてくるなり、その顔はさらに渋いものに変わっていた。
「ちょっと可愛そうになってくんな、こんな多人数で攻めんのは」
直後、飛び出してきた大きな盾、もといイリスが特攻を仕掛ける。
「いっくぞー!」
当然反撃に転じようとする楓だったが、盾を使いこなす彼女に攻撃は届かない。距離を取ろうと動きかけるが、
「良く見えますネー」
一瞬光ったスコープが、銃口が、彼女の足を撃ち抜く。
動きが鈍った一瞬の隙をつき、イリスは大剣を一閃。大きなダメージにのけぞりかける彼女だったが、その背後からさらに一陣の風。
「隙ありー」
気の抜けた声と共に、今度は背後から斬撃が浴びせられる。
「この様子ですと……これ以上は必要なさそうですね」
「ですね。もう、ボロボロですし」
ほぼ同時に辿り着いた恋美と九繰は楓の様子に警戒は解かないまま立ち止まった。だが、楓は倒れない。
「許さない……絶対に……!」
最後の気力を降り絞り、彼女は丸カンを放つ。向けられた先は、ただじっと立ち尽くす轟。
しかし、少女の姿をした彼は、微動だにしない。丸カンは幸い、彼の顔の横を軽くかすめるだけだった。傷すらつけられなかったその一撃を哀れげに、少しだけ視線で追いながら、呟く。
「後で話しは聞いてやる。今は、眠っとけ」
そして、放たれた一撃。
腹部にクリーンヒットしたその拳に、楓はゆっくりと意識を手放した。最後に彼女が見たのは――ずっと求めていた――優しい男の手の中に落ちる自分だった。
●彼女の結末
命を繋ぐための簡易的な治療と、捕縛が終わった頃。彼女は縛られた状態で目を覚ました。
「あっ、起きたー。かわい子ちゃんぐっもーにーん」
その顔を覗き込み、呑気に笑うレーラ。横には、恋美を除いた女性陣が不思議そうに彼女を見つめていた。
「おいおい、一斉に見つめたら嬢ちゃんだって困るだろ」
「そうだよー、皆聞きたいことは一つなんだから」
後ろで呆れ顔の轟と、どこか楽しげなウェルラスも、言葉とは裏腹に興味がありそうな顔をしていた。
そんな彼らをよそに、恋美が問いかける。
「わずかな時間でしたが、戦いながら疑問に思っていました。あなたは、どうしてこのようなことをするのか、と。その服はアウトドアには向いていませんし、男性ばかりを狙う理由も分かりません。あなたの口から、何か聞かせていただけませんか?」
戦いの中でこそ、感情が高ぶった時ならばこその質問だと考えていた恋美だったが、たどり着いた時にすでに終わっていたのでは仕方ない。そんな想いからの質問。
それに、彼女は少し黙り込んだ後、静かに口を開いた。
「……愛してたのに、裏切られたんですよぉ」
それを聞き、興味津々な男二名が口々に言う。
「ま、んなこったろうと思ったけどよ」
「失恋は悲しいよね、うんうん」
そして二人は彼女に近づき、持っていたものを差し出す。それは、ペットボトルに入った紅茶と一枚の名刺。
「茶でも飲んでゆっくり考えな。恨んだとこで、自分が辛いだけだぜ」
「償いが終わったら、ぜひ! 話とかたくさん聞くからさ」
そんな二人を見ながら、相棒たちが、ぼそり。
「よくもまあ、今ぶっ飛ばした相手にそんなこと言えるな。その根性だけは感服する」
「そもそも縛られてるから蓋開けることもできないし、名刺も受け取れないっすよ」
あっ、と口を開いて振り向く二人。その少し間抜けな姿にクスクスと笑いながら、アイリスが言う。
「まあ、二人とも善意で手を差し伸べてるんだ。そう言うもんじゃないさ。お嬢さんも、惚れるならこういう本気の優しさで接してくれる男を選ぶんだね。もしよければ、日傘仲間として厚生してから軽く語り合おうじゃないか。待っているよ」
その横で、恥ずかしそうにしているイリスもじっと彼女を見つめていた。
誰もが、優しい瞳を向けている。今まで、人々を傷つけようとしていた自分に、優しく、手を差し伸べてくれている。
それは、恨みに凝り固まった彼女の心を溶かすのに十分すぎる程の光。そっと顔を伏せた彼女の目には、大粒の涙が浮かんでいた。
「……一件落着、ですね」
微笑ましい光景に、恋美は微笑む。
きっと、彼女は改心するだろう。罪を償った後には、人々のためになるよう、共に働いてくれるかもしれない。
そんな薄い希望を胸に抱きながら、そして、それぞれに彼女の行く末を願いながら、能力者たちは山を後にするのだった。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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