本部

御伽噺の大きなお城

影絵 企我

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/09/10 18:17

掲示板

オープニング

●暴君女王
 全てが色紙のような質感の、絵本から飛び出してきたような大きなお城。その城の大広間、真っ赤な玉座に座っているのは真っ赤なドレスの女王様。女王様はとてもわがままで、召使いのウサギ達にいつも辛く当たります。
「どうしてアップルパイなんか作ってきたのかしら? 私はマドレーヌが食べたかったのよ?」
「モウシワケアリマセン、ジョオウサマ」
 女王様は扇子を取り出すと、ウサギのコックの頭を叩きます。かわいそうなコックです。そもそも、アップルパイが食べたいとコックに言ったのは他ならぬ女王様なのですから。けれど健気なコックは、何も言わずにキッチンへと帰っていきました。
「貴方達。いつまでホルストを奏でているの。今私はワーグナーを聴きたいのだとわからない?」
 大広間の隅でバイオリンを弾き、トランペットを吹き、ティンパニを叩く三人のウサギに向かって女王はうっすらと笑みを浮かべます。扇子でお仕置きをするときに、女王様はいつも微笑みます。とても残酷な微笑みです。三人のウサギは慌てて頷き、ワーグナーを慣れない手つきで弾き始めました。そもそも彼らはクラシックなどやったことがないのです。目の前の楽譜を追いかけるのがやっとです。
「下手な演奏ねぇ。聞いているだけでいらいらしてしまうわ。もっと上手く弾きなさい。でないと、白騎士にその首刎ねさせて、ウサギ鍋にしてしまうわよ」
「モウシワケアリマセン、ジョオウサマ」
 ウサギの楽隊は必死に頑張ります。そこへ丁度良く、白い鎧に身を包んだ騎士様がやってきました。いつも兜を被っていて、その表情がわかりません。とても不気味です。ですが女王様は、そんな白騎士様がお気に入りのようです。
「ふふ……いつ見ても惚れ惚れする白さね。やはり貴方は私の供廻りに相応しいわ」
 白騎士は女王の正面に立ち、静々と跪きます。女王がその手を差し出すと、白騎士はその手を取って口づけするような仕草を見せました。女王は満足げににんまりと笑いました。
「白騎士よ……どうやらこの城にネズミが入り込もうとしているわ。見つけて捕まえてしまいなさい。そいつも、私の家来にしてしまうから」
 騎士は頷いてすくと立ち上がり、くるりと回れ右をします。そのまま彼は鎧をがちゃがちゃと言わせながら、大広間を出ていきました。それを見送った女王様は、その手を二度叩きます。すると、鎧兜を着込んだウサギ達が出てきました。元々は人間らしい見た目だったはずなのに、すっかりただのウサギが立って歩いているような見た目になっています。
「お前達も行きなさい。決して殺さないようにね。生け捕りよ。首を刎ねるかどうか決めるのは、この私なのだから」
 ウサギ三人は敬礼をすると、慌ただしく大広間を出ていきました。女王様はそれも見送り、ご満悦の表情を浮かべます。
「誰にもこの城は渡さないわ。……ようやく手に入れた、私のお城……」

●侵入口を探せ
――今回の任務はドロップゾーン内部の調査です。前回この地点のドロップゾーンに突入したエージェントの活躍により、ドロップゾーン全体の状況に関する大まかな調査は済んでいます。ので、今回はゾーンルーラーである『クイーン』を打倒するため、本城への侵入経路の捜索をしてもらいます。可能ならば一気に攻め落としたいところですが、城の内部は観測できないようにされています。無為無策に突っ込むのは危険でしょう。無理をせず、城内へ侵入する目途が立った時点で帰投してください。その後新たに作戦を立て直し、城内へ侵入する予定です。尚、微弱ですがリンカーの反応が確認できます。可能ならば彼らも救出してください――

 かくして、君達は女王が好き放題しているドロップゾーンの城へとやってきた。ウサギ達が奴隷のように働いたことで、その城には立派な庭が出来ている。それを守るための兵士も完備だ。三、四メートルはある槍を担ぎ、盾を構えてうろうろしている。それを仕切るのは白い騎士。倒されたはずなのに、何故かひょっこりと帰ってきていた。物陰からじっと君達は彼らの様子を窺いつつ、城を見上げる。火を付ければ燃えてしまいそうな外観だが、それでも城壁は立派に磨き上げられていてよじ登れそうにない。何かしらの道を見つけなければならないようだ。
 君達は軽く連絡を取り合うと、任務を果たすために動き出した。


 城から飛び出したウサギ達は、こそこそと庭に隠れる。一匹は水のカーテンの中で、じっとネズミの到着を待つ。一匹は灌木の中に潜って様子を窺う。もう一匹は、薔薇園をひょこひょこと駆け回ってネズミを探している。

 三匹とも、どこか魂の抜けた目をしていた。

解説

メイン 城の前庭にいる白騎士や兵士を回避or排除しつつ、城内への侵入口を発見せよ
サブ 兵士に混じっているリンカー三人の洗脳を解除し救出する

エネミー
ケントゥリオ級従魔『ドミナートル』
●概要
 愚神『クイーン』に寵愛されている従魔。その外見から『白騎士』とも呼ばれる。
●ステータス
 移動S、物・魔防B、その他C以下
●スキル
・死の舞踏
 小型のDZを形成する。[シナリオ中は使用しない]
・支配者の言葉
 PCスキルに準拠。3Rおきに使用する。

デクリオ級従魔『レギオン』
●概要
 白騎士が率いる従魔軍団。状況により様々な特徴を持つが、全て同一種として扱われている。
●ステータス
 物防A、その他C~D
●スキル
・センチネル
 長槍と盾で敵の移動を封じる。[このキャラの周囲1sqに侵入する時、PCは移動力を全て消費する]

リンカー『ラビットガード』
●概要
 クイーンに操られているウサギのWB。三人とも何とか助けたいところ。
●ステータス
 ブレイブナイト(55/35)
 シャドウルーカー(40/25)
 バトルメディック(30/20)
●スキル
・能力者及び英雄スキル
 (そのレベルまでに習得できるスキルを上から順に装備している)

フィールド
・薔薇の庭
 城の東、赤い薔薇が咲き乱れている庭。3体のレギオンがペンキを持っているのはお約束。
 (城壁にも薔薇が密集し、裏口を覆い隠している)
・灌木の庭
 城の西、良く刈り揃えられた庭。迷路のようになっている。4体のレギオンがうろうろしている。
 (高く伸びたモミの木から内部へ飛び込めそうだが……)
・噴水の庭
 城の南、美しい噴水がある庭。3体のレギオンがぼんやり突っ立っている。
 (城門は堅く、正面突破は難しそう)

リプレイ

●侵入経路を探れ
『うーん……どうせなら思い切り高いところから見下ろしたいけど……』
《どうやら見えない天井があるみたいだな。見かけほど広い空間じゃないんだろう》
 不知火あけび(aa4519hero001)は舞い上がる鷹に視界を借りながら呟く。鷹は必死に羽ばたいたが、城の尖塔より高くは飛べなかった。無理に飛ばし続ける余裕も無い。あけびは鷹を呼び戻し、日暮仙寿(aa4519)がその右手に出迎える。鷹の足に括られていたカメラを外すと、阪須賀 誄(aa4862hero001)に放ってよこす。
《これで何とかなりそうか》
『OKです。いい感じに奴らのサイクルが見えてきましたよ、っと』
 誄は真面目にパソコンへ情報を取り込んでいたが、その隣で阪須賀 槇(aa4862)は薔薇の庭を愛らしく跳ね回る兎に夢中となっていた。
「ハァハァ……薔薇の向こうの跳ねてるウサギたん、今漏れが助けてあげるからね」
『悲報、隠れ里の自警団は全員男……っと』
 誄がすかさず呟く。槇は真顔になった。
「……こんなおつかいイベントはさっさと済ませますお。そして女王様のご尊顔を拝んでやるんだお。果たしてロリか、それとも熟女か……」
『どうでもいいわよそんな事。一丁前に女王だの何だのと……気に食わない』
 アリス・レッドクイーン(aa3715hero001)は腕組みしたまま呟く。彼女に身体を貸して大人しくしている一ノ瀬 春翔(aa3715)は、小さく溜め息をついた。
「随分とお荒れなこって」
『当然でしょう。御覧なさい、このドロップゾーン。随分と小綺麗だこと。センスが無いわ』
「……そうっすか」
 ドロップゾーンに入ってからというもの、アリスは不機嫌な態度を崩さない。本能的に嫌悪していた。そんな彼女をちらりと一瞥してから、志賀谷 京子(aa0150)は深紅の薔薇園に目を戻す。槍の代わりにペンキの入ったバケツを手にして歩く兵士に混じって、弓を担いだ白騎士が庭に馬を進めていた。
「白騎士も確認っと……まあ厄介なのはアイツね」
『……全色制覇でも目指してるんですか? 従魔ですから洗脳と言っても大したことはないでしょうが、連携を分断されてしまうのは厄介ですね』
 アリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)は京子の言葉に突っ込みつつも頷く。しかし彩咲 姫乃(aa0941)は首を傾げっぱなしだった。そもそも白騎士の頭は先日かち割ってやったというのに、平然と庭を闊歩しているのがわからない。
「あいつってオーダーメイドじゃねえのかよ。まさかの量産品だったとはな」
『(ヒメノー)』
 メルト(aa0941hero001)も珍しく白騎士へ興味を示しているらしい。もちろん、食糧としての興味かもしれないが。
「ともかく、たらたらしてるだけの兵士はともかくアイツにうろうろされんのは面倒だぞ」
《なら、白騎士は最初に叩くべきか》
 仙寿の言葉に、雪室 チルル(aa5177)は相槌を打つ。いよいよ城砦攻略が始まるのだと、チルルは張り切っていた。
「奇襲がいいわね。八分後にまた来るんなら、その時に一気に叩いちゃうのがいいわ」
『その間にささっと調査も進めるってことで……うん、これが良さそうね』
 スネグラチカ(aa5177hero001)とチルルは目配せする。吸殻を捨てて足で潰し、黛 香月(aa0790)はアウグストゥス(aa0790hero001)と城の中央に聳える尖塔を睨んだ。
「異論はない。……洗脳とは気に入らん。もし私がおかしな行動をとったら遠慮なく殴り倒せ。奴の玩具になるわけにはいかん」
『兎のワイルドブラッドを洗脳し、奴隷化か。赦すわけにはいかんな』
「ああ。迅速に叩き潰す」
「それで決まりか? じゃあさっさと行こうぜ」
 待機に焦れてきた逢見仙也(aa4472)が話を纏めに掛かる。あけびも声を弾ませた。
『よし! 仙仙コンビの共闘だね!』
 無邪気な言葉。仙寿とディオハルク(aa4472hero001)はちらりと顔を見合わせる。
《だから、そんなコンビを結成した覚えは》
『無い』

●深紅の薔薇の中の白
「……」
 白馬を駆って、白騎士は堂々と胸を張り庭へと乗り込んでくる。気づいた兵士はペンキを手に庭を走る。騎士はそれをじっと見つめる。彼らはそう振舞うように定められているからだ。城を護る騎士と兵士としてふるまうようにプログラムされているからだ。
 ネズミが背後から迫っていても、騎士は一向に気付かないのだ。
《こっちだ、白騎士》
 仙寿ははらりと羽根を散らしつつ、女郎蜘蛛の糸を白騎士に向かって投げつける。咄嗟に振り向いたがもう遅い。上半身が糸に絡め取られ、騎士は鎧に傷を付けながら糸を振り払う羽目に遭う。
『そっちが白騎士ならこっちは白武士だよ! あ、白天狗でもいいかも!』
《髪の色と翼だけで決めてくれるな》
 騎士の危機に気付いた兵士は首についた笛を鳴らす。他の兵士は手に提げたペンキを纏めて薔薇の灌木にぶちまけ、盾と槍を手に仙寿の方へとすっ飛んでいく。深紅の薔薇に橙が紛れているなど気付きもしない。
「(名前らしい育ち方出来なくてごめんな母さん。でも乙女チックに振舞うよりはこっちの方が気楽なんだ)」
 兵士が通り過ぎるのを待ち構え、姫乃はいきなり茂みから飛び出す。幻想蝶からロケット砲を取り出したかと思えば、いきなり盾を構える兵士の背後に向かってぶっ放した。
「ぶっ転がしてやる!」
 振り向く間もない。爆発をもろに喰らった兵士は白騎士の方へと纏めて吹っ飛ばされる。そこへ追い打ちのようにライヴスの波動が炸裂した。白いロングコートを着込んだチルルが茂みの影から飛び出し、身の丈近くもある長剣を軽々振るいながら兵士の群れに突っ込んでいく。
「余裕余裕! どんどん行くよ!」
『調子に乗りすぎないでね!』
「……」
 どうにか網を振り払った白騎士は、旗を手に取り目の前の仙寿へ向けようとする。しかし、脇から飛んできた薔薇の花弁が一枚、その旗を素早く弾き飛ばしてしまう。
『また……随分と嘗めた真似をするわね』
 アリスは紅の花弁を手元に引き寄せつつ、“紅の茨”を抜き放つ。全く気に入らなかった。このドロップゾーンは彼女の記憶を刺激する。それでいてあまりにも戯画化されたこの世界が気に食わない。心に潜めてきた暴威を剥き出し、彼女は騎士に“宣告”する。
『跪きなさい。騎士如きが女王に歯向かうつもりかしら?』

 笛の音はもちろん兎にも届いていた。兜を被り直しながら、兎はぱたぱたと茂みの中を走っていく。しかし、そんな兎の前に銀色の髪をさらりと流した香月が立ちはだかる。
「お前だな。囚われたワイルドブラッドというのは」
「ネズミ、ツカマエル」
 香月が切っ先を軽く向けると、兎は飛び退き武器を構えようとする。香月の放つ闘気に夢中で、兎は背後にひっそりと黒スーツの女が迫っている事に気付かない。
「痛くして……ゴメン!」
 京子はナイフの柄頭で兎のうなじをぶったたく。不意打ちを貰った兎は思いっきりつんのめる。兜が前にずれ、よたよたとよろめきながら兎は京子の方に振り向いた。
「ネズミ、ネズミネズミネズミ……ネズミヲツカツツカマエマエ……」
「あ、あの。何だかおっかなーい感じになってますけど」
『おそらく洗脳が解け切らなかったんでしょう……』
 全身をぶるぶる震わせながら壊れたレコードのように言葉を吐き出す兎に京子が苦い顔をしている間に、仙也が兎の横っ面へと迫る。
「そんならもう一発だな」
 鞘に納めたままの剣を振るい、兎の頬を全力で叩いた。
「ウッ……」
 吹っ飛んだ兎は芝生の上を滑っていく。その間に兎は光に包まれ、兎の耳を持つ青年へとその姿を変える。青年ははっと身を起こすと、きょろきょろと周囲を見渡す。
「……あれ、俺、一体……? というか、ここっていったい……?」
「よし、これでとりあえず一人目だな」
 頷く仙也。そんな彼にディオハルクは低い声で唸る。
『全く。鞘が傷ついたらどうするつもりだ』
「仕方ないだろ。シュールストレミング買おうと思ったけど、届くまで一月かかるって話だったんだから」
『ワープゲートを使えば……』
「いやぁ、流石に無理だろ」

「本当にただの男だったお……しかもイケメン……」
『(いいから兄者。さっさとこの辺を調べないと)』
「わかってるお。この城を攻略して、可及的速やかに女王に謁見してみせますお」
 槇は頷き、AKの銃底を薔薇の茂みに潜らせ、ごそごそと脇へ除けていく。ペンキを塗られて花びらが傷んでいるのか、茨が揺すぶられる度にはらはらと花びらが落ちていく。どうにか壁を露出させた槇は、今度は銃底で壁を軽く叩く。
「どんなゲームでもこういう所には決まって何かが隠されているものだお」
『(だがこれは現実であるっと……ん?)』
 突っ込みつつも、誄は城壁に不自然な切れ目を見つけた。切れ目を辿っていくと、なるほどそれは扉のような形になっている。
『(OK……驚いたなぁ)』
「ふふふ、弟者よ、何だって?」
『(……)』

「焔の如く焼き尽くす!」
 ハングドマンを自由自在に操り兵士を棒立ちに追い込んだ姫乃は、そのまま一気に騎士の方へと押し寄せた。ワイヤーを離して斧に持ち替え、頭上高く刃を振り被る。
「一つ! 二つ! 三つ!」
 荒々しく叩き込まれた三連打は、白馬の胴を丸太のようにバラバラにする。地面に落ちた白騎士は素早く起き上がるが、既にアリスは深く間合いへと切り込んでいた。
『喜びなさい。女王直々に手を下してあげるのだから』
 一文字に振り抜かれた刃は、白騎士の首を呆気なく斬り飛ばす。その場に騎士は崩れ落ち、砂となって消え失せた。それを見た兵士は盾と槍で身を固めようとするが、チルルと仙寿がその隙も与えず斬りかかる。
《上司が死んだんだ。さっさと諦めろ》
「あたいの剣の錆になれっ!」
 仙寿は盾と槍の隙間に切っ先を水平に差し込み、そのまま喉に刃を突き立てる。一方のチルルは盾で槍を弾き、剣で盾を払い除け、無防備になった胴に凍れる刃を思い切り振り下ろした。
「……」
 一頻りもがいた従魔は、そのままどさりと崩れ落ちる。周囲を見渡しても他の庭から増援が流れてくる気配はない。纏わりついた不浄なライヴスを払い、仙寿は刀を鞘に納める。
《ひとまずはこれで片付いたか》
「早いな。もう終わったのか」
 そこへ仙也、京子、香月がやってくる。兎耳の青年もその後に従いやってくる。
《敵の足並みが揃う前に大勢が決まったからな》
「で、あんたがさっきから庭を跳ね回ってたウサギか」
 姫乃が青年の眼を覗き込んだ。青年は肩を竦めると、バツが悪そうな顔をする。全体的に整った顔立ち。垂れ目のお陰でお人好しにも見えるし、またどこか頼りなくも見える。
「すいません。いきなりあの白馬の乗り手にドロップゾーンを作られたと思ったら、もうこの様で。応戦する暇もなくて……」
『あの時はこのドロップゾーンが出来て本当に間もなかったってわけね』
「大丈夫、あたい達がみんなまとめて助けてあげるから! という事で白騎士も片づけた事だし、さっさと庭の探索をしちゃおう!」
 チルルが青年に向かってぴょんと跳ねて見せたと同時に、槇が庭の奥から戻ってくる。誰も気づかないような速度で“何でロリじゃないんだ”という視線をウサギに送りつつ、調査結果を報告した。
「白騎士討伐おつおつですっと。とりあえず城の外壁は調査して……裏手口を見つけましたお。がっつり鍵はかかってたけど、それさえ何とか出来れば普通に入れそうだお」
『ふうん。なら裏口から乗り込んで女王の寝首でも掻こうかしら。……準備さえしていたら今からでもやるところなのだけれど』
 アリスは心底口惜しそうに呟く。今日は調査と分かってはいるが、すぐにでも城へと乗り込んでまだ見ぬ女王の顔を恐怖と憎悪でぐちゃぐちゃに歪めてやりたいには違いなかった。
「さっさと次に行くぞ。まだ灌木の庭も噴水の庭も残っている」
 香月はくるりと踵を返す。エージェントとウサギ達はその後に従うのだった。

●上から見たら迷路は興ざめ
「城の守りで考えたら、城壁のそばにこんなモミの木生やしておくもんじゃないよね」
『そのお陰で、私達はこうして上から城壁の中を覗けているんですけどね』
 モミの木の天辺に登った京子は、カメラを構えて城壁の中を見下ろす。やたらと重装備の兵士達が、列を為してずかずかと歩いている。
「一応ここは警戒してるって事かな?」
『それなら最初から切っておけばいいというのに……とはいえここを侵入経路とするのは少し面倒を引き起こしそうですね』
 アリッサは呟く。モミの木からぴょんと飛び降りたが最後、重装備の近衛兵達に袋叩きにされるのがオチだ。だが、京子はその言葉に納得したような顔で頷いた。
「つまり、“面倒を引き起こす”には最高の場所って事ね」
『起こす、とは』
「そりゃあ。ここってさっきの裏口からは正反対の位置だからね。頑丈な人に飛び込んでもらって、適当に相手してもらってれば裏口から楽に忍び込めるでしょ?」
『成程。確かに陽動には持って来いの場所かもしれませんね……』

「こうして見ると、この庭ってしっかり迷路みたいになってるんだな」
 イメージプロジェクタで生垣に隠れ、オートマッピングシートの情報をノートへ写し込みながら仙也は呟く。
『(ヨーロッパでは迷路というのは庭の芸術の一部になっているらしいからな)』
「へー。ここに住んでる女王様ってのは、そういう細かいところにも拘ってるんだな。動きにくいから面倒くせえけど」
 ノートを幻想蝶に戻すと、燃え盛る長剣を抜き放つ。調査側に回ったからと派手な動きは避けるに努めている――戦えないディオハルクは不満げに引きこもっている――のだが、それでも全身を焦がすような力を何かに叩きつけたい感情には駆られる。
「この剣でいっそ燃やせないかねー」
『それを試すなら帰りにしろよ?』

「お前の盾は頂いたぜ!」
 ハングドマンで兵士の盾を縛り上げると、姫乃は勢いよく引っ張りそれを引っぺがす。すかさずチルルは兵士の正面へと滑り込む。兵士が突き出した槍を盾で弾き返すと、素早く剣を手にして斬りかかった。
「隙あり!」
 袈裟懸けに一撃、さらに踏み込んで剣を振りかぶる。兵士は籠手や鎧でその一撃を必死に受け流していくが、不意にその手はぴたりと止まる。背後から大振りに振り抜かれた神斬の一撃が、兵士の頭を強引に叩き潰してしまったのだ。香月は大剣を担ぎ、倒れて光の粒となるレギオンを見下ろす。
「私の邪魔をするというなら、一撃のもとに斬り伏せるのみだ」

《多少守りは固いようだな。だが動きさえ封じてしまえば急所は狙い放題だぞ》
 縫止の針に女郎蜘蛛の網で雁字搦めにした兵士に、仙寿は羽をふわりと漂わせながら迫る。兵士は必死に逃れようとするが、その場からピクリとも動けない。仙寿は刀を構え、鎧の切れ目目掛けて容赦なく振り下ろした。

『残るは騎士にも満たない薄刃の兵士。全く以て退屈だわ』
 一方、その横では攻撃を盾で楽々と受けながら荒々しくも美しい動作でアリスが兵士を攻め立てていた。兵士を我侭な暴力を叩き込んでいく彼女に、春翔は呆れたような声を上げる。
「おいおい、調査任務だぜ。何処までやる気だ」
『分かっているわ。でも私達はこうして注意を引くのが仕事だもの』
「まあそうだが……」
 兵士はよろよろと懐から笛を取り出し吹き鳴らす。灌木の茂みがごそごそと鳴り、兜を被り、外套を纏った兎が飛び出してきた。低く構え、灌木の陰に隠れながら瞬時に間合いを詰めてくる。

「まさか灌木の下に潜っているとは……」
『(ゴーグル使ってるんだから見つかってもおかしくはないんだけどな……。まあアリスさんが暴れて引っ張り出してくれたし御の字だな、っと)』
「おっとアリスさん、幻想蝶からハリセンを取り出しましたお……!」

『このハリセンにて! 汚れた思念を払拭致す!』
 アリスはふいに悪戯っぽい笑みを浮かべ、巨大なハリセンをバットのように構える。片足を上げて一本足で構え、短剣を携え突っ込んでくる兎を迎え撃つ。
『目覚めよ! ぐっもーにんスマッシュ!』
 メジャーリーガー張りのフルスイングが兎に炸裂する。巨大な火花が幾つも弾け、兎はホームランボールのように飛んでいく。
「ああああああっ」
 吹っ飛ぶ間にその姿は小柄な少年へと戻っていき、槇が立っていた灌木に頭からさっくりと突き刺さる。足だけをもだもだと動かしながら、少年は呟く。
「あ、ありがとうございます」
『今それを言うとただのドMな件について……』
「漏れと同じ道を辿り得る、将来有望な少年ですな」

●噴水の下のヒミツ
『(ねえ、この子にも頼めば手伝ってくれるんじゃないかな?)』
《そうだな。君もシャドウルーカーなんだろう? ならちょっと鷹を飛ばしてくれないか》
 あけびにせっつかれ、仙寿はシャドウルーカーの兎――調に尋ねる。
「あ、はい。出来ます出来ます。この通り……」
 調は頷くと、右手にさっとハイタカを呼び出す。
《重畳だ。とりあえずそれを宮殿の方に飛ばしてくれ。女王の様子を見ておきたい》
「分かりました。任せてください!」
 ハイタカは力強く空へと舞い上がる。それを見送りながら、ブレイブナイトの兎――住吉は語る。
「記憶が曖昧だけど、多分ここにも僕達の仲間がいるはずだ」
 仙寿は空から地上へと目を戻す。形様々な噴水が建てられ、溢れる水で庭を彩っている。
《隠れられそうな噴水が幾つかあるが……まあ適当に戦っていればまた勝手に出てきてくれるだろうさ》
「じゃあいっそ全員で纏めてかかって兵士はぶっ飛ばそうぜ。もう白騎士もいないんならその方が楽だろ」
「そうだな。いずれ全て倒す事になる敵だ。ここで数を減らしておくのがここを攻め落とす為にも役立つだろう。陽動と調査役を分けるような場合でもない」
 仙也と香月が既に武器を構えている。影に徹するも嫌いではないが、どうせなら自らの手で思い切り従魔を叩き潰したいのだ。二人の戦意につられてエージェント達が奇襲の準備を進めていると、槇がふと手を上げ、誄が口を開く。
『俺にちょっと考えがあります。乱戦になるとヤバいんで、まずは皆さんで突っ立ってる兵士達を片付けて欲しいんですが、頼めますかね』
「ああ、任せとけよ。マッハで片づけてくるぜ」
 言うが早いか、姫乃は素早く茂みの影から飛び出した。足音も無く駆け抜け、いきなりハングドマンを投げ放つ。背後から肩を打たれた兵士達が振り返った時にはもう遅い。姫乃の姿は消え、再び背後へと回り込んでいる。
「そんなのたのたな動きじゃなぁ、俺の事を視界にさえ捉えられないぜ?」
「力は有り余ってんだよ! 喰らいな!」
 大量の刃を呼び出し、仙也はおたつく兵士三体に投げつける。半ば混乱している兵士は盾を掲げてどうにか直撃を避ける事しか出来ない。京子は銀の拳銃を構え、素早く三体に向かって銃弾を撃ち込む。盾で庇いきれない足を狙われた三体は、首を揃えてすっ転ぶ。すかさず飛んできた縫止の針が、二体の身体を縛り上げる。
『逃げようったってそうは行かないのだよ』
《悪いな。纏めて綺麗に片づけた方が早そうだったんだ》
 気持ちいいフルスイングを決めてすっかり平常運転のアリスはピース。仙寿も悠々と佇み兵士を見据えていた。残った兵士が笛を吹くが、剣にライヴスを纏わせた香月は既に間合いへと踏み込んでいた。
「従魔など、その首落としてとっとと死ね!」
 大振りの一撃が叩き込まれ、吹っ飛んだ兵士は固めて地面に投げ出される。
「喰らえ! あたいの必殺剣!」
 チルルが高々と刃を掲げ、纏わせたライヴスを蠢く兵士に向かって叩きつける。巨大な氷塊を象って飛んだ一発は、兵士に叩き込まれる。次々袋叩きにされては、いくら守りを固めた兵士と言えど敵わない。彼らは倒れ、やがて消えていった。
 そこへ、噴水に隠れていた兎が飛び出してくる。しかしもう遅い。準備は既に整ってしまった。

『バトンタッチ、兄者。皆さん離れてください。この世には“非殺傷兵器”なのに“悪魔の兵器”と呼ばれる武器があります』
 紅の幾何学模様、緑色の気に身を包んだ誄が言い放つと、彼と個人的に付き合いのある姫乃とアリスは脱兎の如く兎から離れた。他の仲間も二人の動きにつられるように兎から間合いを取る。
『その名は“SKUNK”、世界一臭い悪臭兵器。そして……これは俺が伝え聞く情報のみでどうにか再現してみたコピー。納豆とか、兄者の靴下とか、身近なあらゆる臭気を発する物質を集めて腐らせてみた代物』
「漏れの?」
『ひどすぎて撮った動画は蔵になったが……』
 誄は手榴弾のような何かを構える。兎は反射的に盾を構えた。しかしそんなの、今回の武器を前にしては鉄くず同然である。
『とはいえ吐くほど臭いのは同じ。我慢してね。皆も呼吸注意で』
 放たれる臭い爆弾。盾の上で弾け、悍ましい色の液体が飛び散る。瞬間、鼻を削ぎ落すような悪臭が周囲に漂った。鼻と口を押さえた戦士達でさえ顔を顰める。もろに喰らった兎は悲鳴を上げた。あっという間に女王の呪縛は解け、中性的な容姿の青年が慌てて噴水の中へと飛び込んだ。
「わ、私が一体何をした、って――」
 最後まで話せない。真っ青になって兎は水の中を転げ回る。
『落ち着いてください。消臭剤です。これを使って』
 誄は水筒に入った消臭剤を放り投げる。まさに脱兎の勢いでこれをキャッチした青年は、慌ただしくそれを頭から被る。
「効いた……? ああ、ダメです。やっぱり臭いが……」
「サトル! 良かった元に……うわっ」
 住吉は仲間に駆け寄ろうとするが、大分遠い距離で二の足を踏む。嗅覚の強い彼らには少々刺激が強すぎたようだ。住吉は目を瞬かせながら呟く。
「待て、待て。このままじゃ埒が明かない……」



 壮絶な異臭に兎達が苦しんでいる頃、ハイタカはするりと王宮へ入り込んだ。玉座の間には重装備の兵士が列を為し、怒り心頭に発した女王の様子を窺っていた。
「行きなさい役立たずども! 私に首を取られたくなかったら、さっさと奴らの首を取ってくるのよ!」
 狂気に駆られた金切り声で叫ぶ女王。兵士は揃って回れ右し、ずかずかと玉座の間から飛び出していく。
「あの女ぁあああ……ここの世界の女王は私よ。お前じゃないぃぃいい! 女王は私一人で十分……生意気に私の世界で暴れるんじゃないわよ……!」
 女王の首が、ぐるりとハイタカの方を向く。鳥は慌てて逃げようとしたがもう遅い。鋭く飛んだ扇子にその身を打たれ、煙となって消滅した。



「……はあ。ともかく、助けていただきありがとうございました」
 数分後、臭いのかかった服を着替えた青年――高瀬は住吉、調と共にぺこりと頭を下げる。
《お前達の仲間もいずれは救出する予定だ。手を貸してくれると助かるが、どうだろうか》
「ああ、勿論。ここは僕達の里が変質したものだ。……むしろ、この里を取り返す手伝いをさせてくれって僕達がお願いするところだよ」
 住吉は仙寿に向かって微笑む。なら早速と、チルルは住吉を見上げて尋ねる。
「そのためにはあの城に忍び込まなきゃいけないけど、なんか抜け道とか無いの? あたい達で幾つか見つけたけど、やっぱりパッとしないんだよね」
「ああ。それなら地下通路を使えばいい。僕の勘が正しければ……」
 すたすた歩き始めた住吉は、一台の噴水の背後に回り込む。後に従ったエージェントの目の前で、住吉は無造作に置かれていた大きな石を脇に転がす。京子が覗き込むと、木枠で囲われた立派な通路になっている。
「ふぅん。中々しっかりした出来の通路なのね」
「僕達はアナウサギだからね。元々森の地下に住居や通路を作っているんだ。それを取り込んだドロップゾーンも、それをしっかり反映してるんだよ」
「成程な。じゃあそれを通れば余裕で城の中にも入れそうだな」
『(ヒメノー)』
「今度は何だよ……ん?」
 メルトが何かに反応した。面倒そうに姫乃が顔を上げると、不意に城門が開き、ずかずかと重装備の近衛兵達が数十体列を成して現れる。調は声を震わせた。
「あ……ごめんなさい。報告するタイミングが見つからなくて……」
《撤収するか。……あの数は流石に面倒だ》
 戦士達は一目散に城から飛び出す。動きがのろまな重装兵では追いつきようがない。逃げる最中、春翔は尋ねる。
「……で、本丸はどうすんの」
『勿論、シバきにいくよん。女王、首を洗って待ってなさいな!』

「(絶対不落の城など、どこの世にも在りはせん。貴様らの最期はすぐに訪れるぞ)」
『(はい。暴君を倒すため、私も力を尽くします……)』
 香月は只管心の中で闘志を燃やす。洗脳に奴隷化。彼女は“この世界”の女王を許すわけにはいかないのだった。

つづく

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
  • 生命の意味を知る者
    一ノ瀬 春翔aa3715

重体一覧

参加者

  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 絶望へ運ぶ一撃
    黛 香月aa0790
    機械|25才|女性|攻撃
  • 偽りの救済を阻む者
    アウグストゥスaa0790hero001
    英雄|25才|女性|ドレ
  • 朝日の少女
    彩咲 姫乃aa0941
    人間|12才|女性|回避
  • 胃袋は宇宙
    メルトaa0941hero001
    英雄|8才|?|ドレ
  • 生命の意味を知る者
    一ノ瀬 春翔aa3715
    人間|25才|男性|攻撃
  • 生の形を守る者
    アリス・レッドクイーンaa3715hero001
    英雄|15才|女性|シャド
  • 悪食?
    逢見仙也aa4472
    人間|18才|男性|攻撃
  • 死の意味を問う者
    ディオハルクaa4472hero001
    英雄|18才|男性|カオ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 槇aa4862
    獣人|21才|男性|命中
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 誄aa4862hero001
    英雄|19才|男性|ジャ
  • さいきょーガール
    雪室 チルルaa5177
    人間|12才|女性|攻撃
  • 冬になれ!
    スネグラチカaa5177hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
前に戻る
ページトップへ戻る