本部
WD~未来を指し示す希望~
掲示板
-
先生になろう!(相談卓)
最終発言2017/08/26 10:55:37 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/08/24 16:34:32
オープニング
● 再びの孤児院
「私に教えられること……か」
春香を含め、君たちはバスに揺られている、グロリア社直営の孤児院に向かっている最中だ。
孤児院はその施設の巨大さゆえに山の方にある。周囲を林で囲まれた穏やかな場所だ。
まぁ子供たちの住んでいる施設自体は毎日てんやわんやの大騒ぎで、穏やかさは無縁なのだが……。
そんな孤児院に招かれるのは何回目だろうか。
今回は皆さんには慰安ではない明確なお仕事があってきた。
それは、リンカー職業体験とでもいうのだろうか。
最近になって、子供でも能力者として目覚めることは多くなってきた上に、ナイアという少女をいれてからという者、なぜか英雄と契約した能力者が増えた。
もともと、能力者として適性がある子供たちから施設に囲っていたこともあり、今後覚醒する者も増えるだろう。
そんな彼らに、能力の使い方、抑え方、心構え等教えておく必要は絶対あるのだ。
なので君たちが招かれた。
依頼内容を記述した資料から視線をあげると、目の前に施設が見える。
君たちはどんなことを教えればいいか、頭の中で復唱しながら停車したバスから降りた。
● 教科内容。
皆さんには今回『子供』『契約したばかりの能力者』という要素を持つリンカーたちに先達としてその力の持ちよう、使いようをアドバイスしてあげてください。
基本的に皆さんが、伝えたいことを伝える形で構いませんが。
あえて型にはめるとするならば三つのパターンが考えられるでしょうか。
1 授業型
座学です。生徒を集めて先生をやります。
戦闘技術、任務での連携の仕方、体験談等。話したいことはいっぱいあるでしょうし、子供たちもききたい話はたくさんあるでしょう。
2 実践型
伝えたいことを頭ではなく、体に叩き込む感じですね。
体のつくり方、敵と遭遇した場合。
リンカーとして心構えを磨くためにわざと叩きのめしたりするのも面白いかも?
3 協調型
これは少数に限られると思いますが、特定の人物やクラス、年齢層を集めて、親身に話を聞く、個人授業的なやつですね。
信頼を得られますし、一番効果が高いのではないでしょうか。
今回授業を受ける少年リンカーたちは皆8才から15才が対象で、今回の座学にはこの施設以外にも、近くの町や村から集まった少年少女たちも参加しています。。
契約していない能力者の数が57人
契約している能力者をその能力ごとにわけると。
ドレッドノート 七人
ソフィスビショップ 四人
ブレイブナイト 三人
バトルメディック 五人
ジャックポット 四人
シャドウルーカー 二人
カオティックブレイド 二人
です。
特定のクラスだけ集めた特別授業等も可能なので。企画してみてください。
伝えるべき内容も、個人の思い思いのもので問題ないのですが。大きく分けると三つの観点がありますでしょうか。
1 戦略、戦術、戦闘技術諸々
2 心構え、いざという時折れないためには等、精神面。
3 能力を持っていることで、英雄がいることで人生にどのように影響を与えるのか等、生きていくうえでの話。
でしょうか。一貫して何を伝えたいかを絞っておくとやりやすいでしょうね。
また、場所については、体育館や屋外、教室も沢山余っていますし。
こんな教室が欲しい、こんな施設を借りたいなど要望に細かく沿うことができますので、よろしくお願いします。
● スターキャラクター
今回もスターキャラクターは孤児院に健在で絡みに行ってもいいのですが。
『ナイア』『正』『健吾』以外は絡みにくいでしょうか。
そのあたりはお好みにまかせます。
上記の三人はそれぞれ悩みを持っており、リンカーたちに相談したいようです。
・ナイア・レイドレクス 十二歳
シナリオ名『WD~金蛇の村~』で愚神に憑依されていた女の子。
非常に高い能力者適性があり、彼女もリンカーとした活動することを希望したために、一度日本にうつされた。
最近英雄が見つかったのだが『カオティックブレイド』か『ソフィスビショップ』で迷っている、どちらと契約すべきだろうか。
判断をどうつけていいか分からない、というレベルで迷っているので。彼女に進むべき道を示してあげて欲しい。
・『黒鳥のファズ』 本名 小鳥遊 健吾 十一歳 男
子供たちからはファズと呼ばれ親しまれている。窃盗の天才でアイテムを盗まれる危険性がある。
最近好きな子ができたようなんですが、その子と仲良くなるきっかけがつかめないよう。
最近英雄と契約した。シャドウルーカー初心者である。窃盗系のスキルはないのかと憤慨している様子。
シャドウルーカーが戦場に置いて何をすればいいのかすらわかっていない様子である。
・野島 正 七歳 男
孤児院創設当初からいるリンカーである。常に共鳴しており、リンカーたちを見ると襲いかかってくる。
ドレッドノートの攻撃適性である。
前回、前々回とリンカーのみんなに相手してもらい、アドバイスしてもらい、だいぶ強くなった。
具体的には能力者レベル45程度である。英雄のレベルはまだ20くらいである。
今後どうやって力を伸ばしていけばいいのかを聞きたいそうな。
・ アイラ・レセクティス 九歳 女
金糸の目、金糸の髪の美しい少女。多くの男性児童を下僕としてはべらせている。自分のものにならない奴は嫌いである。
今回はリンカーになりたい少年たちが、皆さんにべたべたなので嫉妬中。
・ 三浦 ひかり 十一歳 女
アイドル夢見る少女。歌が得意。
足が悪く車いすである。
聴覚が優れており多数の声の中から目的の声だけ聴き分けたり、絶対音感があったりする。
孤児院でナイアと仲がいいのはひかりのみのようだ。
ひかりは最近アイドルリンカーにご執心。彼女の前で歌を歌ったり踊って見せてあげると喜んで一緒に謳ったりしてくれることでしょう。
夢のためにアイアンパンクになろうかどうか悩んでる。
解説
目標、リンカーが何たるかを伝える。
今回皆さんはリンカーとして先生になっていただきます。
戦いの中での経験や、生きていくうえでの知識等、伝えなければならないことはたくさんあるでしょう。
特にリンカーは普通の人と生き方が違います。傍らに英雄がいますし、平気でロシアや密林に行かされるし。
悲しいことも辛いこともいっぱいです。
正直リンカーになんてならなければよかったと思うこともあるのではないでしょうか。
その気持ちをストレートに伝えることも可能です。
リンカーにはなるべきじゃない。
そう子供たちに伝えて授業をしないというのも一つの手です。
でもすこしでも、リンカーになってよかったと思うことがあれば、それを伝えてあげるのもいいででしょう。
彼らは今、道しるべを欲しています。
どうか先を照らす光になってあげてくださいませ。
追伸。
今回は春香はあまり話さないと思いますのでよろしくお願いします。
リプレイ
第一章 先生
揺られるバスの中、木の葉の隙間から降り注ぐ光が『煤原 燃衣(aa2271)』の目に入る。
「おい」
その隣で『ネイ=カースド(aa2271hero001)』がいつもの仏頂面で告げた。
「しけたツラしてんじゃねぇ、飯が不味くなるだろうが」
「……弟が生きていたらと考えていたんですよ」
その背後の席でも物思いにふける人物がいる。
「翼様の考え、言い当てて進ぜましょうか」
『九重 翼(aa5375)』に対して『樹々中 葉子(aa5375hero001)』が問いかけた。
「百戦錬磨の名だたるエージェントを前に、自分如きが先生などと烏滸がましいのでは……そうでしょう?」
驚き半分、頷き半分、複雑な表情で葉子を見つめる翼。けれど翼は首を振り葉子に言い切って見せる。
「ですが、そんな事は関係ありません……俺に教えられる事を……教えるだけです」
伝えられなかった後悔を抱くくらいなら、どれだけ主にでもこの任務はたして見せよう。
そう翼が顔をあげると、ちょうどバスが孤児院の前で停車した。
「これからの、未来を担う能力者への講義ね。いいわね。いいじゃない。面白そうね。将来なりたい職業にHOPE職員なんて、夢があるわ」
そう。揚々と姿を現したのは『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)』
彼女はバスを降りると。ふらふらバスのタラップを踏む『榊原・沙耶(aa1188)』に手を貸した。
「水瀬さんはどう? 準備はしてきた?」
そう沙羅は『水瀬 雨月(aa0801)』に問いかける。彼女はあいも変わらず、うんともすんとも言わない。幻想蝶…………『アムブロシア(aa0801hero001)』が入った幻想蝶を一度眺めて再び沙羅を見る。
「先生ね…………正直、自信ないわね。教えるのあまり上手じゃないし」
「でも、水瀬さんは丁寧に教えそうだし、大丈夫じゃない?」
「どうかしらね。少しは助けになれば良いのだけれど。逆にこちらが教えられるなんて事もあるかもね。子供ならではの視点もあるだろうし」
そう並んで歩きだそうとすると目の前を黒い影が横切った。
敵襲である。完全に不意を突かれた沙羅と雨月は反応できなかったが代わりに小柄な影が後ろから飛び出して空中で交錯する。
『彩咲 姫乃(aa0941)』である、当然『メルト(aa0941hero001)』と共鳴済み。
「また来たのか! 暴力女」
そう口汚くののしるのは、ファズこと小鳥遊 健吾であった。
「あれが噂のファズ太郎か」
「誰がファズ太郎だ!」
言外に滲みだす天敵の香りに振り返ってみれば翼が、九重翼がそこにいた。
そんな光景を微笑ましく横目に流し『麻生 遊夜(aa0452)』と『ユフォアリーヤ(aa0452hero001)』は孤児院の玄関を引く。
「ここに来るのも久しぶりだな、今回は参加者が多いらしいが…………」
「…………ん、子供達を導くのも…………おかーさんの、務め」
ふんすと鼻息荒く気合を入れたユフォアリーヤ。
彼女は子供を抱きかかえると大ホール目指して歩いていく。
「今回はジャックポットの子供たちを担当させてもらう、麻生 遊夜とユフォアリーヤだ、よろしくな」
そう自己紹介を手早く済ませると『構築の魔女(aa0281hero001)』も言葉を尽くす。
「そしてこちらが、辺是 落児です」
そう紹介される『辺是 落児(aa0281)』はいつも通り無言である、若干怖がられている様子の落児、それを見越して構築の魔女はあるサプライズを用意していた。
「見てください、この籠こんなに小さいのに皆さんが十分に食べられるほどお菓子が詰まっているんですよ。ほら」
そうお菓子籠グリードからお菓子を振舞いつつ音楽を演奏する構築の魔女。氷華舞扇を演奏中に子供たちに貸しだす。
「面白いかしら? どう使ってみたいか考えてみるのもとてもいい事よ?」
AGWは、それに使われている技術は必ずしも戦うためのものではない。
そう言外に告げる構築の魔女。
「ドレッドノート、そしてブレイブナイトの子供たちは今日は俺が受け持つ」
告げたのは『狒村 緋十郎(aa3678)』隣には『レミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)』が佇んでいる。
そんな緋十郎は殺気を感じて幻想蝶から愛剣を取り出した。幅の広いその剣にて正による奇襲を受け止める。
「おっさんつええな!」
おっさん、という言葉に微妙な気分になりながらも緋十郎は言葉を返した。
「まずはあり余った体力を消費するところから始めた方が良いだろうな。全員纏めて相手をしてやろう。何処からでも掛かって来るが良い……!」
「あ、あの。スケジュールが」
そう燃衣が止めに入ろうとするが、全員緋十郎が何をするか見たいようで、一同で観戦しようという話になった。
正を中心に、ものまねながらも陣形を組む少年リンカーたち。
そんな彼らの四方八方からの攻撃を。
緋十郎は魔剣を盾代わりで全て捌く。
いなし、そらし、防ぎ、引き倒す。
「どうした? このていどか?」
緋十郎は何のけなしにそう告げると、正は青筋たてて刃を振るう。
「このやろう!!」
「適性やライヴスの配分次第で同じ職でもバトルスタイルは様々。防御に主眼を置けばドレッドノートでも難攻不落の壁になり得る」
そう緋十郎は正の大剣を手でつかむとそのまま持ち上げ投げてしまう。
「動きであれば、フォーメーションを組んでいたとして、このように崩されてしまう。仲間同士息を合わせて挟撃や同時攻撃をねらえ」
ついで緋十郎の視線が鋭くなった。
大剣で前面からの攻撃をガード。
次の瞬間そこから手をはなして、両手で挟撃する少年少女を吹き飛ばし。
そのまま大剣を掴み、回転するように三人吹き飛ばす。
そして大剣を地面に思い切りたたきつけて残りの全員も吹き飛ばした。
さすがに疲れたのか地面に転がって息をついている少年少女
そんな緋十郎の姿を眺め終ると、興味深げに見守っていた生徒たちへ燃衣が口を開く。
「皆さん、始めまして。総合練兵所『暁』の長、煤原です。普段、新人エージェントの育成とかをやってます。
…………今回はその方面を考えてる子が居る、という事で来ました」
子供たちを静かにさせるのにはかなり時間を要したが、声が通るくらい静まったところでさらに燃衣は言葉をつけたす。
「さて…………エージェントという仕事。自分でやってて何ですがこの仕事…………ボクはオススメしてません」
次世代を育てるプロジェクトは衝撃的な一言で幕を開けることになった。
第二章 座学
先ずは全体抗議。
最初に授業を担当するのは翼であった。
「経験は豊かではありませんが……その少ない経験の中で、痛感した事を……皆さんにお教えしたいと思います……。お葉、プリントを……」
そう翼の指示に従って、プリントを配っていく葉子。
子供たちはプリント? と首をひねりながらそれを受け取っていく。
「そのプリントは……それぞれの学年の、平均レベルの国語の問題です……。15分で解いてください……」
突如吹き上がるえーの大絶叫。
抗議の声がぐわんぐわんと教室を揺らすも、それは翼の予想の範疇である。
翼はわりと冷静だった。
「どうしました? 十五分のうちすでに三分が過ぎましたけど、答えなくていいのですか?」
そして刻限がやってくる。
すると翼はつげた。
「……答案は、提出する必要はありません……。後で答えを配りますので……各々で答え合わせをしてください……」
その言葉にざわめく子供たち。
「エージェントは、戦いに重きを置くお仕事……ですが学業もまた、疎かにしていいものではありません……。
仲間との連携には……自分の考えを伝える国語力は欠かせません……。
算数や理科は……効果的な戦術を考える上で重要……。
社会科や外国語も……見知らぬ土地の文化を重んじ……円滑な意思疎通をする上で大いに役立ちます……覚えておいてください……」
顔を見合わせる子供たち。そんな子供たちへ最後にと翼は告げる。
「では、質問があれば何なりと……」
その言葉に手を挙げたのは健吾である。
「それより、強くなる方が大事じゃねぇのかよ」
「君は…………」
その姿を見ると翼は不敵に微笑んで言葉を続ける。
「それについては仲間たちがみっちりと教えてくれるから心配しなくて大丈夫ですよ」
それにしても。そう話題をかえる翼。
「その節は兄がお世話になりました……。ええと、ファズ太郎君……?」
「だからちげぇっていってんだろ!!」
ぶちぎれのファズである。
「一口に戦場といっても、様々なシチュエーションがあります……」
敵から逃げる状況であれば縫止で足止め……逆に追うのであればデスマークで逃げ道を奪うなど……君の英雄のスキルは……適切な場面では、大きな力を発揮します……」
「お。おう」
「臨機応変に、と言うと難しそうですが……敵と味方をちゃんと見れば……すべき事を見出すのは、さほど難しくないはずです……」
「おまえ、あのヴァイオリン野郎と違って真面目だな、あいつなんていうか、すごい……愉快? だったから」
「それは、あなたがヴァイオリンを盗ったからでは?」
そう無事に最初の授業が終わる。
続いて遊夜の授業である。
「では、授業を始める」
「……ん、しっかり……聞いてて、ね?」
彼の授業内容はリンカーでいることにおいて、大切なことはなにか。である。
「まず、英雄とは仲良くやれているか? 関係性は色々……本当に、千差万別だが……これからの相方で家族だ、大事にするように」
「……ん 大事」
そうユフォアリーヤが遊夜の肩に頭を摺り寄せる。
「……別にここまで仲良くする必要はない。コミュニケーションの形はいろいろだ」
次いで遊夜は全員の顔を見ながら淡々と話を進める。
「力はあって損はない。
あれば戦うことや逃げることで自身を守れる事もある。
大事なものを守る事が出来る可能性が上がる」
遊夜の瞼の裏にフラッシュバックする記憶。仰ぎ見る空、血まみれのじぶん。
これは何の記憶だったろうか。
「特に、自分の力を生かすこと。これが重要なんだ」
「俺達の適性、クラスは当てる事に特化している。
逃げる際、敵の気を逸らす事……顔、特に目だな。
あとは脚、機動力が落ちればその分動き易くなる。
戦いにおいても味方の援護になるし弱点や部位破壊による恩恵に与れる可能性もある」
敵を知り己を知れば百戦危うからずだ。
そう遊夜は告げた。
「またエージェントになるならない、契約如何に関わらず体力はつけておくと良い。
その分逃げきれる、助かる確率は上がるからだ。
自分一人でない時もある、自分すら守れない奴は誰も助ける事なんざ出来ない……キッチリ頭に入れておいてくれ」
遊夜が真剣に伝えたのは生き残る術。
死んでしまっては終わりなんだ。そんな思いを込めて、子供たちに真剣に言葉を届けた。
遊夜の想いは伝わったのか、場はしんっと静まり返っている。
「脅して悪かったな。次は可愛い先生の登場だ」
そう遊夜は雨月を壇上に登らせてバトンタッチ。
「すごくやりにくいわね」
そう苦笑いを浮かべながらも雨月は話しだす。
「リンカーである以上、戦い云々は話さないといけないでしょうね。たぶん避けては通れないから。けど戦うだけがすべてでは無いし、それ一色というのも……ね」
そう告げて雨月は黒板に資料を張り付けていく。それは先日のアイドルライブでとってきた写真だ。
「知り合いにアイドルやっている子もいるし、可能性は色々とあると思うの」
その筆頭がアイドルリンカーだろう。
霊力というものは応用の幅が広い。だから戦闘以外にも役立てると。
集められた子供たち、それも特に少女は強く反応を示す。
「リンカーだからこそ就けない仕事、というのもあるでしょうから一概にも言えないのだけど。
英雄とは一蓮托生だし、相互理解も大切だと思うわね。正直、私が言っても説得力皆無なのが頭の痛い所なのだけどね」
「アイドルになれば怖い目に合わなくて済むの?」
その時、少女の一人がそう声をあげた。
雨月は理解する。この力に怯えるものもいるのだ。
そう理解する。
「なれば、というわけでもなくて。リンカーであっても必ず戦わないといけないわけでもないの。けれどこの世界はもうどこにいても安全と言えない状況で……」
「リンカーになんてならなきゃよかった」
そう告げる。少女に雨月は歩み寄って手を取った。
「本格的にリンカーとして活動するかはみんなの自由よ。やってもいいし、やらなくてもいい、まだまだ若いのだから考える時間もあるでしょう。子供の頃だからこそやれる事もあるでしょうし、焦って結論を急ぐ事も無いと思うわ」
告げて雨月は少女だけではなく子供たち全員に視線を巡らせる。
「だから、この力をなかったことにして。英雄をただの友達だったことにして生きていくのも、私はありだと思うの」
色々な事を知って、感じて、そしてどうしたいか決めればいい。そう雨月は思った。
「年寄か……」
そうぼそりと幻想蝶の中から声が聞えてきたのでほっといて頂戴とはたく雨月。
「次は何かある?」
「かれしはいるんですか?」
「いません、つぎ……」
次に個別授業。大体のリンカーたちは三々五々に散って教室に残ったのはバトルメディックのみ。沙羅の授業である。
目の前に座ったバトルメディックたちは皆大人しそうで沙羅の言葉をじっと待っている。
「残ってくれてありがとう。クラスを限定したのは、このバトルメディックというジョブの特性上の話をしたかったからよ。バトルメディックは日陰者。称賛される事は極めて稀。でも、いないと絶対にいけないジョブ」
「なんで、絶対にいないといけないの?」
その言葉に沙羅は笑みを浮かべた。
「それはね、敵を倒すのではなく、味方を癒し、鼓舞し、生命を護る。それがバトルメディックに課せられた仕事だからよ」
「私達にもできるの?」
別の少女がそう問いかけた。
「心根が優しい人が向いているジョブね。だからみんなにはぴったりだと思うわ。
まぁ中には怪我をして撤退してきた友軍を治して戦場に蹴り返す過激なのもいるけど」
それは実際沙耶の事であるが、うかつなことは言いたくないので黙っている沙羅である。
「だから、バトルメディックを目指すなら心しておく事が1つ。
何があっても諦めない事。これに尽きるわ。
最後の希望たる私達が倒れるという事は、その部隊の全滅に繋がると言っても過言ではないから。
どんなに絶望的でも、最後まで諦めない」
「さいごのとりでだね?」
「ええ、そうよ、難しい言葉をしってるのね」
そう、沙羅は少女の頭を撫でると、少女は喜びの声を上げる。
「それと、愚神だけが相手とも限らないわ。
一般人が怪我で動けないとなると、援軍が駆け付けるまで救急処置もするとなると、最低限の医療知識も必要になるかも知れないから日々勉強しなくちゃいけない。
実際、私の相方の沙耶は医者だからね」
そう沙羅は入口のそばに立つ沙耶に視線を向ける。
「それと最後に。
これはバトルメディックだけじゃなくて能力者全般に言える事なんだけど、能力者として英雄と戦っていくに当たって、誓約はとても大切な事よ。
実現不可能な事でも何でも、自分が決して貫く約束。
それをちゃんと考えて、誓約を結ばないといけないわ。
誓約は英雄との絆に直結するから、誓約が貫けないと英雄との絆に綻びが出て、誓約破棄なんて事にもなりかねない。
一生に一度の事だから、心して結ぶのね」
告げて沙羅は最後の言葉を残す。
「ちなみに私と相方の誓約は『万物を救済する事』
実現が不可能な位の誓約だけど、その位の覚悟で目の前の命一つ一つと向き合っているわ」
第三章 暁の教え
「やぁああーーーーーん可愛いぃいいいいいいいーーーー!」
「………………ハァ…………」
屋外グラウンドであがる奇声、それの発生源は子供たちだが、原因は『鬼子母 焔織(aa2439)』である。
これから授業だというのに戯れることをやめない焔織、その様子に『青色鬼 蓮日(aa2439hero001)』は溜息をついた、次から次へとハグる蓮日。
「講義内容…………反対するカト思いまシタが」
「んー? 子供は恐怖を知る事も大事だからな! 取り返しが付かぬ失敗をする前にな……」
そんなリラックスしている二人をうらやましそうに見つめながら『藤咲 仁菜(aa3237)』は不安そうに『リオン クロフォード(aa3237hero001)』へ言葉をかける。
「私でも教えられること、あるかな……」
「大丈夫だって! 俺達だってそれなりに戦ってきてるからなー。もっと先生っぽく胸張って!」
「ま、まだまだ弱いし先生なんて……!?」
「はいはい、注目してください」
そう手を讃えて衆目を集める燃衣。彼はゆっくりと語る。
「では、VBSで仮想従魔との戦闘を体験しましょう」
「チナミに、皆さんハ従魔ヤ愚神と戦ったことハありますカ?」
首を振る子供たち、そんな子供たちの前で大型タブレットを構えるリオンである。
「…………ではVBSの訓練ノ前ニ、エージェントの活動を一部、実際に映像で見て頂きまショウ」
その画面に映るのは、H.O.P.E.が撮りためたエージェントたちの戦闘記録。
「…………エージェントは。一見、カッコよくテ、勇ましク。人を助け、世界中をカケ巡る、浪漫とヤリ甲斐のある、仕事でス」
その中でも特にむごい物をチョイスしてある。
「…………デスが」
ひび割れた水晶の乙女、それに吊るされる燃衣の姿があった。あの時少しでも仲間たちの行動が遅れていたなら、燃衣はあの時死んでいただろう。
「其処には重大な現実が待ってイマす。……時に《命がけで戦い、他人の命をも背負う》という現実、重圧が……」
明確な殺意をもって襲い来る異形の表情が写し出される。
「…………今ここに居る、現役エージェントは…………皆、一度は『死』を覚悟した事がアリまス」
仁菜はふと瞳を伏せる。
「マタ……時には救うべき人を、仲間を殺される事もアリまス」
燃衣は拳を握った。
「……ワタシらは。明確に《戦わねばならない理由》を持たぬ限り、エージェントになる、という事をススめていませン」
しんっと静まり返る子供たち。そんな静寂を裂いて焔織は言葉を続ける。
「デハここで質問。エージェントに最も大切なモノとは何か?」
誰一人としてその質問に答えることはできなかった。
「…………ワタシら暁の者に言わセレば、むしろ、腕っ節だけ強い人なんテ、邪魔でショウがナイ」
「いや、そうかなぁ」
リオンが苦笑いを浮かべた。
「大事なノハ、折れぬ心。冷静な思考。そして…………仲間と呼吸を合わせる力、でス」
その焔織の視線を受けてリオンは頷き仁菜と共鳴する。
「…………サテ、言葉ダケでハ、ピンと来ぬでショウ…………ナノで、此処からは実戦、でス」
子供たちは厳かに立ち上がった。手渡されるAGWは全て模擬専用の物。
「仮想空間とは言え、感覚は現実と同じです。痛みも、あります」
燃衣が言葉をついだ。展開されるフィールド。
状況としては市街地に愚神出現、避難はほぼ完了、敵殲滅任務である。
「但し…………とても可憐な、とても可憐な! アイラちゃんが取り残され危険です。彼女を救って下さい」
「ちょっと! ふざけんな!」
そう燃衣が指さす先には、アイラ・レセクティス。いつの間に捕まったのだろうか。縄で雁字搦めである。
「あの、まさか」
焔織が視線を送ると蓮日が口笛を吹く。
「ではスタート」
直後はなたれたのは戦闘力の低い従魔たち。それを相手に連携や冷静さの大事さを教えつていく。
「大事なのは力を奮う事じゃなく、チームに対し何が出来るか、です。一人勝手に突む人は……」
そう目の前で転がった子供に指示だけを飛ばす、手は貸さない。
「すぐ囲まれて、殺されます」
だが子供の適応力は驚異的だ、武器の扱い方に慣れればもうこの程度の従魔相手にならない。
「さて…………じゃあ三人とも、お願いします…………皆さん、ボスですよ!」
ゴパッと音がして子供たちが巻き上げられた。
中心にいたのは焔織。
「まぁ、恨みハしないように、お願いします」
次いで後ろから切りかかるのはネイ。
二人ともトラウマになりかねないほどの殺気を放っている。
――ネイさんラスボス似合うね……。
「その辺の愚神より迫力あるよな……!」
そういつものふんわりしたノリを崩さないリオンに、子供たちは寄っていくが殺気を放たないだけで手加減はまったくしない。
「さぁどこからでも好きに攻撃していいぞ! ひとつも通さないけどな?」
実際にその盾には刃が一切通らず、焔織たちに向かう刃も防いでみせる。
「ね、壁役って重要でしょ?」
そう疲れ果てて地面に転がった園児たちの前でリオンは微笑んで見せた。
その後子供たちの体力が回復するのを待って蓮日はまた子供たちを追いまわす
「おー怖かったねー! よしよし、もー大丈夫っ!」
逃げる子供たち。そんな彼らに燃衣は告げる。
「みんな、怖かったね。でもこれが《戦う》って事なんだ。
…………あのね、良く聞いて。任務は失敗した。そして大勢ヤラれた……」
動きを止める子供たち。
「これが実戦だったら。自分も、隣の子も、アイラちゃんも。
……《もうこの世には居ない》んだよ?」
「わたしも!?」
驚きの声を上げるアイラ。
「だから…………そんな危険、そんな恐怖を前にしてまでエージェントに成りたいのか。
友達や先生達と沢山話して沢山悩んで下さい。
それでもと言うならそれは是非。
練兵所「暁」は、新人エージェントを歓迎するよ!」
「と、コイツも偉そうな口聞いてるが最初はお前等より雑魚だった。実力は必ず付く、慌てるな」
綺麗に締めくくったはずの燃衣に、ネイが何とも残念なコメントをつける。
「さ、さて…………恐怖症になる前にもう一度、ボス抜きでVBSやろうっ! 今度は僕らも仲間ですよ」
子供たちは元気なのでその提案にはたいそう喜んだそうな。
第四章 屋外実習
燃衣が子供たちを引き連れてグラウンド真ん中で戦闘訓練をする中、遊夜は森の中にジャックポットの子供たちをつれて、野外実習をしゃれこんでいた。
「じゃあ、好きに動いていいぞ。戦うなり逃げるなり。好きにするといい」
告げると子供たちは興奮した様子で、どうしようか話し合っている。
そんな彼らに遊夜は告げる。
「これでも俺達は弱い方だぞ?」
「……命中特化、だから……ね」
次のよーいどんで子供たちが森中に散った。こちらに奇襲を仕掛けてくる者、逃げようとする者、全員の動きを一瞬で把握して、遊夜は銃を構える。
「愚神にはもっと強い奴らもいる、俺に当てれない様じゃまだまだだぞ」
――……ん、ボク達は……一人じゃ、出来ることは……限られるの。
「そうだ、連携することで効果は高まる」
――……ボク達は、敵の気を引いたり、逸らしたり……どこからでも当てることで、阻害しやすい。
「例えばこんな風に……な?」
グラウンドへ抜けようとする子供の足を打つ。砂が崩れ穴が開いて足を盗られて転ぶ少年。
その隙にと襲い掛かってくる少年少女のペアだったが。
遊夜は音と空気の流れで敵を察することができる。
見もせず左手に握った拳銃で応戦した。
「ほら、そこにいるのはわかってるぞ」
銃弾はゴム製だが衝撃はなかなかのもので地面を転がる二人。
――……痕跡を残さず、息を潜めて……逃げるには、体力は必須……わかった?「狙撃の際にも気取られない事は大事だぞ」
そう遊夜は弾丸を首をひねって回避、逆に狙いをつける。
そんな遊夜の背後で歓声が上がった。
そちらに視線を向けて見れば。砂埃巻き上げて姫乃がグランドを駆けまわっている。それに狙いをつけるのは構築の魔女。
その動きを見ながら姫乃はハングドマンをキリリと鳴らす。
銃撃で地面が吹っ飛んだ隙を狙い飛ぶ。空中でもハングドマンで動きを制御、弾丸を避けて懐へ。
だが、双銃モードの構築の魔女は接近戦も強い。
ハングドマンの糸を打ち抜いて姫乃に牽制の銃撃。
蹴り上げた足をかいくぐって姫乃はハングドマンを振るう。
掌底と共にばらりとまきちらされた糸。
それを振り払いつつ距離を取り、連射。
姫乃は左右にフェイントをからめながら走り寄って糸により体を少し浮かせる。
「ここだ!」
先ず蹴りおろし。回避した構築の魔女へ大量の砂が吹きつける。
次いでその衝撃で体勢制御。弾丸のようにえぐりこむ蹴りを構築の魔女へ。
その威力に吹き飛びかける体へと、姫乃は最後にままげり。
目にも留まれるようにスピード調整された連撃が全て構築の魔女に突き刺さった。
「とまぁ、模擬戦はこんなとこかな」
構築の魔女は土を払いながら子供たちに向き直って告げた。
「どうだったかしら? ……少しは気が晴れたかしら?」
子供たちを見渡す構築の魔女。
「今回は殺陣……演技でしたけど何かを作ったり演じたりそういう生き方もできるのよ?」
「とりあえず分からない事があるなら話してみな。先生って柄じゃないが、一緒に悩んでやるくらいはできるからさ」
そんな話を続ける二人の後ろから歩み寄ってくる巨体。緋十郎だ。
「リンカーだからといって必ずエージェントにならねばならぬ……ということは無い。
エージェントになったからといって、必ずしも戦場に立たねばならぬ……ということも無い。
任務の中には後方支援など、命のやり取りをせずに済むものも多々ある。
もし興味があるならばHOPEの門戸を叩いて欲しい。
HOPEはきっと皆を歓迎するだろう」
告げると、緋十郎は剣を構え直す。
第二の模擬戦開幕、相手は構築の魔女であった。
構築の魔女はメルカバを装備、銃装甲、高火力。固定砲台として立ち回るつもりなのだろう。
二人はやや距離を取ったところで、戦闘派開始させる。
唸る砲塔。その砲撃を緋十郎は大剣で切り開きながら進む。
すぐに自身の攻撃が届かないことを悟ると弾丸を素早く三連射。
二発の弾丸を囮に緋十郎の正中線を狙う構築の魔女。それを。
「おおおおお!」
唐竹割のように緋十郎は大剣を叩きつける。
砂煙が巻き上がり、一瞬姿が隠れるが
緋十郎はそれでも歩みを止めない。
もはや構築の魔女は緋十郎の大剣の間合い内である。
「ですが、私達にとって弾丸とはすでに二次元的なものではありませんよ」
弾丸をばらまく構築の魔女、それが地面や建物、弾丸同士で跳弾し。全方位から緋十郎へと襲い掛かる。
それを緋十郎は大剣を背に回し、回転しながら構築の魔女へととんだ。
そのまま斬撃。それを構築の魔女は銃身でそらして。再び距離を取るべく後方へ飛んだ。
身をひねり着地する構築の魔女、ゆらりと立ち上がる緋十郎。
ここで演武が終了する、お互いに頭を下げて、解説にうつった。
エピローグ。
夜ご飯は孤児院でお世話になることにした、姫乃はひかりにトレイを手渡すとナイアの隣に座る。
そんな姫乃だが、モヤモヤ考えているのは性に合わないので、さっそく言いたいことを言う。
「あー、ちょっとデリカシーにかけるかもしれないけどあえて言うぞ。ひかり」
「あ。はい」
ちょっと緊張の面持ちをみせるひかり。
「親がいるってのは大分楽だ。養ってくれるし、進路を示してくれるし、責任だって取ってくれる。でも孤児だと国から保障? はあるのか?」
「今が保証してもらってる状態だよ、他には何もない」
おやはいなくても、学校で必要なものは全て配布されるし、保険にも加入させてもらっている。衣食住も豊かとはいえないが、困らない程度には支給されている。
だが。
「アイアンパンクになれるほどのお金は出してもらえないんだろ?」
ひかりの箸がそこでとまる。
「でないとおもう、でもH.O.P.E.にリンカーとして所属するなら」
「アイアンパンクなんて安いものじゃないだろう? それは借りだ。いつか返さなくちゃならない」
真剣に話をするふたり、その隣でナイアは卵の殻を割っていた。二人の話に興味はなさそうだ。
「そして肩代わりしてくれる親はいない。仮にリンカーになったとしてもそれはエージェントの道が近いだろう。ただのリンカーと違ってエージェントは危険も多いぞ」
「わかってるよ、けど!」
そう車いすを叩くひかり、その衝撃で箸がことがった。
その箸をとろうと立ち上がる姫乃、だが代わりに箸を拾ったのは翼だった。
そして手渡すと翼は告げる。
「すみません、話を聞いてしまいました」
「ありがとうございます。でも話って……」
「車椅子のアイドルがいてもいい……と俺は思っています」
ひかりは顔を伏せた。本来人見知りなうえに、自分の考えを知られるのが恥ずかしいのだ。
「……しかし、三浦さんが歌って踊れるアイドルになりたいのであれば、それを応援します……。ただ、自分の体を作るのですから……信頼できる技術者を選んでくださいね」
その言葉に姫乃は言葉を重ねる。
「……俺の心配でひかりの選択を邪魔することはできない。誰だって巣立ちのときは来る。夢の先へ、光の中へ進みたいと思う。
ひかりが笑って生きられる選択なら、俺はそれを支えたいと思うんだ。
だからしっかり考えろよ」
「ねぇ、私には何もないの?」
そうナイアが姫乃の袖を引っ張る、すると姫乃は少し考えて告げた。
「この前は英雄の相性はどうだと言ったが。使いたい武器で考えるというのはどうだ?」
「ざつ~」
「しかたないだろ! 普段そんなこと考えないんだから!」
「ナイアちゃんにはそう言うアドバイス! ずるい!」
そうして賑わいあふれた夜が過ぎていく。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
---|