本部

お化け屋敷のモニター調査

一 一

形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
17人 / 1~25人
英雄
17人 / 0~25人
報酬
寸志
相談期間
5日
完成日
2017/09/04 19:12

掲示板

オープニング

●飛び入り参加はエージェント
「お化け屋敷のモニター、ですか?」
 普段請け負う依頼とはちょっと毛色が違う内容に、佐藤 信一(az0082)は営業スマイルも忘れて首を傾げた。
「簡潔に言えばそうなるね。できれば相応の人数を集めてくれると、こちらとしてはありがたいな」
 依頼主は主にテーマパークの企画・運営などを生業(なりわい)とする会社の社長。彼は以前にもH.O.P.E.に依頼を出したことがあり、その時の担当職員だった信一とは顔見知りのため、態度がどこか気安い。
「施設はほぼ完成してて正式なオープンは来年なんだけど、社員教育がまだ不安でね。お客様からの意見収集や、スタッフの実践指導をかねた試験営業をするんだ。皆さんにも純粋にお化け屋敷を楽しんでもらって、忌憚(きたん)なき感想や意見などを聞かせて欲しいんだよね」
 調査場所は、ずいぶん前に山の上という立地と交通の不便さから閉園し、廃墟と化した遊園地を利用した大型お化け屋敷だ。社長が土地ごと施設を買い取って改装した、夜間限定の上級者向け施設――になる予定である。
『リアルに近い肝試し』をコンセプトに、まるで本物の心霊スポットを歩いている錯覚さえ覚える精巧な作りと、真夜中に探索するスリルが売りの、結構ガチなお化け屋敷だとのこと。
 現状では事前に広告を打った後、夏の集客具合を見て営業を通年か季節限定か決めるらしい。利益よりも社長の趣味を優先した施設のようで、まずは実験的な運用をしてから経営方針を固めるそうだ。
「う~ん、時期も時期ですから希望者の募集をかけるのは構いませんが、もう少し詳しい事情をお聞きしても?」
 ただ、レジャー施設のモニターに何故エージェントが必要なのかと信一が話を促せば、社長はどこか楽しそうな笑みを浮かべた。
「いやぁ、一般向けのモニターは別枠で募集したけど、もしかしたら能力者や英雄のお客さんもくるかもしれないじゃない? そう考えたら、いつもお化けより怖いのを相手にしてるエージェントさんの意見って、集めて損はないだろう? まぁ、彼らの反応そのものにも純粋な興味があるんだけどね」
「……はぁ」
 要するに、時にお化けのような従魔・愚神とも戦うエージェント視点から、お化け屋敷のクオリティを評価して欲しい、ということだった。若干、社長が公私混同ぎみな本音を漏らしているが、依頼としては許容範囲かと信一も相づちだけを返す。
「頼むよ、佐藤君。エージェントの皆さんにはサービスで、ウチのスタッフが一番力を入れる『丑三つ時』コースに招待するからさ?」
「それ、サービスなんですか?」
 むしろ、お化けの類が苦手な人からすればただの追い打ちでは? と社長の懇願に信一は首を傾げる。
「とにかく、募集だけでもお願い。参加費とかはもちろん取らないし、こっちが忙しいエージェントさんを呼ぶわけだから、少しだけど謝礼も出すよ。どうかな?」
「……わかりました」
 態度は下手なのに押しが強い社長に根負けし、最後には信一も了承した。

●は~い、点呼とりま~す
「――以上が、今回の依頼になります」
 あっという間に時間が過ぎ、調査当日の夜中。
 募集に応じて集合したエージェントたちへ、信一は概要説明を終えた。
 彼らがいるのは、調査場所であるお化け屋敷と直通のバス乗り場。バスは社長が事前に用意した物らしい。ただ、都心からやや離れた駅で人気が少なく、電灯の数もそれなりなため頼りない光が周囲を照らす。
「なお、モニター終了後に申請すれば、タクシー代などの交通費は依頼主が負担してくれるそうなので、領収書等は残しておくことをオススメします」
 というのも、調査の時間を考慮すると終電には間に合わず、始発にはやや早く終わる可能性が高いため、公共交通機関で移動してきた者たちは若干の不便を強いられる。オープン時までには対策を講じるらしいが、今回は経費の補填でフォローすると信一から補足された。
「お化け屋敷、ですか……」
『そういえば静香って、お化け屋敷は初めてだっけ? あんまり娯楽施設に興味ないもんねー』
 そして先導役である信一のそばには、碓氷 静香(az0081)もレティ(az0081hero001)と共鳴した状態で控えている。
 静香も参加することになった理由は、実に単純。
『え? 佐藤君彼女できたの? しかもリンカーで社内恋愛? いいじゃんいいじゃん、一緒に来なよ! 彼女さんに格好いいところ見せて、頼れる男アピールできるチャンスだよ!』
 という、非常にノリがいい先方の鶴の一声で誘うことになったのだ。
「碓氷さん? どうしたの?」
「大丈夫です。……大丈夫」
『あれ? 静香、なんか震えてない?』
 エージェントたちをバスへと促す信一は、隣から服のすそを引っ張られて静香の様子に気づいた。静香はいつも通り無表情無感動な声で答えるが、ちょこんと指でつまんだ信一の服を一向に離そうとしない。
 その疑問は、静香の変化に一番敏感なレティの発言で氷解する。
 少なくとも、静香はお化け屋敷系が得意ではないらしい。
(……不安だ)
 社長の甘言に乗ったのは、失敗だったかもしれない。
 すでに怯えているらしい恋人の背を撫でて慰めながら、信一はこっそり静香が暴走して腕力に訴えないことを切に祈った。

解説

●目標
 お化け屋敷のモニター調査

●場所
 閉園した遊園地を丸ごと改装した、夜間営業の大型お化け屋敷(予定)
 人里から遠く、入り口以外は木々に囲まれた山奥に位置
 全設備は再整備済みだが、雰囲気を重視し光源は少なくかなり暗い
 わざと未整備のまま放置した場所も多く足場に要注意
 施設内の至る所にスタッフ・仕掛けが配置
 遊園地の乗り物・施設などをチェックポイントとして再利用(絶叫系を除く)

●調査概要
 2:00頃にバスで到着し、好きにグループを組んで園内を散策
 支給品は懐中電灯(1人1つ)・園内マップ(1組1枚)・お札入れ(1組1箱)
 規定ルートはあるが今回は無視し、すべてのお化け・仕掛けを見て回り評価(自己申告でリタイア可)
 施設内に配置されたお札をすべて集め、出入り口のスタッフに渡せばゴール
 ゴール(またはリタイア)後、アンケートで印象に残ったことを自由記述で評価
 全員の調査終了後、バスで駅まで送迎され各自帰宅

●施設概要
 遊園地に墓地のDZが展開されたような雰囲気
 入り口から見て左側が和風、右側が洋風と世界観を区別
 施設例は以下の通り

・和風
 ゴーカート…ミニ自動車を運転し、幽霊遭遇・エンスト・窓に手形などの疑似心霊体験ができるコースを1周
 観覧車…密室空間に怪談が流され隣接ゴンドラから人影や物音が発生、ゴンドラは当たり付き
 売店区画…内装を廃墟じみた家屋・旅館・病院などに模様替えした建物内の散策

・洋風
 メリーゴーラウンド…幕で景色を隠され、プロジェクターでホラー立体映像を投影
 ミラーハウス…足下にガラス片、通路はひび割れた鏡の迷路、ときどきお化けと遭遇
 フードコート…カウンターの死角などからゾンビ風メイクのスタッフ出現、お触り厳禁

(PL情報
 その他、絶叫系を除く乗り物や施設に限り、持ち込みアイディアも可能な範囲で採用
 ただし、もれなくグループ全員が巻き添えになる可能性大)

リプレイ

●集まったモニターたち
「――と、いうわけです」
「好条件が勿体無いネ」
「……は?」
 知り合いの縁で事前に信一から依頼内容を聞いた華留 希(aa3646hero001)の第一声に、麻端 和頼(aa3646)は訝しげに眉をひそめる。
「ホントに不便だカラ潰れたと思う? そんなレジャー施設いっぱいあるヨ? ちょっとアドバイスしてくるネ♪」
「え? 華留さん!?」
「待て、希!」
 すると希は、信一の腕を取ってどこかへ去っていった。残された和頼はもちろん、嫌な予感しかしなかった。

 調査当日。
 乗車直前に荒木 拓海(aa1049)とメリッサ インガルズ(aa1049hero001)は信一と静香に声をかけた。
「久しぶり~。仲良さそうで何より」
「お久しぶり、です」
 拓海へ軽く頭を下げた静香は、声音こそ普段通りだが緊張のためか口調が固い。
「ルーちゃんに聞いたわよ。姫抱っこしてたってね」
「そ、そこだけ切り取られるとさすがに恥ずかしいんですけど……」
 続くメリッサのからかい混じりな指摘に前の依頼を思い出し、信一は表情を少し赤らめ静香は首ごと視線を逸らした。
「…………ん」
「六花には少し、刺激が強すぎるかしら?」
 移動のバスから降りた氷鏡 六花(aa4969)は、すでにアルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)の羽衣をぎゅっと握りしめた上、お尻にすがりついて離れない。年齢相応にお化けは怖い六花を安心させようと、アルヴィナは頭を撫でる。
「……廃墟? これは、随分とボロボロだが?」
「お化け屋敷は、恐怖を疑似体験するとこだ、よっ……」
「そう、なのか? 脅かされに行くだけ、なのか?」
 お化け屋敷を知らないテジュ・シングレット(aa3681)は依頼の趣旨が迷子になりかけたが、耳が垂れ尻尾が丸まったルー・マクシー(aa3681hero001)の説明で納得? する。
「皆で行くなら私も……ぅっ」
「無理はするなよ」
 暗闇は平気でも霊は実在すると教えられて育った五十嵐 七海(aa3694)は、いかにも出そうな雰囲気に呆気なく飲まれた。ジェフ 立川(aa3694hero001)の落ち着いた声にも、反応する余裕はない。
「思いきし怖いとええどすな~」
「お、お化けだと? 攻撃が効かんのだぞ!」
「は?」
 お笑いとホラーを同じ感覚で好む弥刀 一二三(aa1048)の発言に、過敏な反応を示したキリル ブラックモア(aa1048hero001)はさっと一二三の背にひっついた。どうやらリンカーの攻撃が効かず、噛みつきで感染するタイプのお化けが出るホラー映画を見たらしく、キリルは本気で怯えている。
「今まで散々いろんなモン見てきた俺らだぜ? いくらプロが演ってるとはいえ、所詮作り物だろ」
 施設の外観を眺めながら、カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)はエージェントとしての経験に自信を見せ、鼻で笑う。
「だね。あたしもエージェントになってからは、少々の事では驚かなくなってきたよ」
 もちろん、カイと同じ修羅場をくぐってきた御童 紗希(aa0339)も動じる様子はない。
「人が作り出した恐怖なんて児戯のようなものだけれど、いいわ。散歩にはちょうどいい時間だもの」
「お化け屋敷か……、何が怖いのかいまいちわからんが、善処しよう」
 同じく、施設を見上げ悠然と腕を組むレミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)は、吸血鬼の女王だけあって一番雰囲気にマッチしている。パートナーの狒村 緋十郎(aa3678)は死すら厭わぬ猛者であり、一般人的な恐怖心が麻痺しているらしい。
「エージェント相手に、こういうの……通用するの、かな?」
「まぁ、こうして呼ぶってことは、それだけ自信があるって事かもね。OK、受けて立つ!」
 仕事柄いろんな場所を巡ることもあって、外観ではさほど動じないニウェウス・アーラ(aa1428)。ストゥルトゥス(aa1428hero001)は今回の調査を依頼主からの挑戦状と受け取り、拳を握ってやる気を見せる。
「お化け屋敷……知ってますよ!! 遊園地なんかでも屈指のいちゃいちゃスポット!! 暗がりで壁ドンされた後、そのままあんなことやこんなことまで!!」
「何を楓は興奮しているんだ??」
 ただし、雪峰 楓(aa2427)は頭の中を邪(よこしま)な妄想に染め、別のヤる気に満ちていた。隣の桜宮 飛鳥(aa2427hero001)は楓の様子に首を傾げるも、お化け屋敷への恐怖は見られない。
「ん? 妙に嬉しそうだな?」
「あはは、バレちゃいました? 遊園地なんて7つの時以来で、心が弾んじゃいます。……子供っぽいっすかね?」
 その横で、(HN)井合 アイ(aa0422hero002)がそわそわする九重 陸(aa0422)に声をかけると、どこか気恥ずかしげな返答があった。
「いーや、そんな事ないだろ。俺もワクワクしてるもん。心霊現象、素敵な響きじゃないか。作り物だと分かっていても楽しみだなぁ……ふふふふふふ」
(アイさんが怖い……)
 するとアイに変なスイッチが入ったようで、オカルト好きの血が騒いだ不気味な笑いをこぼし始める。陸はこっそり、アイとわずかに距離を取った。
「ふぅん……お化け屋敷としては雰囲気があるわねぇ」
「本物の幽霊がいてもおかしくない感じだね」
 お化け『屋敷』、という言葉のイメージより迫力のある作りにまほらま(aa2289hero001)は感心し、GーYA(aa2289)はのほほんと印象を口にする。
「……本来の意味じゃない所で混乱する人がでるかもぉ」
 さらりと言ったGーYAだが、まほらまは知っている。
 幼い頃から病弱で病院育ちと言っていいGーYAは、体質的に『そういうもの』を引きつけやすい。が、本人は普通の人と同じ認識のため、幽霊に関する体質は無自覚だ。
 そんなGーYAの周囲にイレギュラーが発生する可能性は高く、まほらまは深いため息をついた。
「イヤだああああ帰るうううう!!」
「遊園地のアトラクションなんだから、全部作り物だぜ? そんなに怖がる事ないって♪」
 中でも一番の拒絶反応を示した世良 霧人(aa3803)は、必死の抵抗も空しくエリック(aa3803hero002)に引きずられる様に入り口へ。どうやら、エリックが当日まで内容を説明せずに依頼を受注し、そのままつれてきたらしい。合掌。
「うぅ、何でこんな夜遅くなのかな。本物が出たらどうしよぅ……」
「幽霊っぽい従魔と戦った時は平気だったよね?」
 ここでもすっかり雰囲気に飲まれたマオ・キムリック(aa3951)が、平然とするレイルース(aa3951hero001)に若干涙目で反論している。
「だって、幽霊は攻撃当たらないんだよ!?」
「そういう問題……?」
 どこかで聞いたことがある台詞だったのは、おそらく偶然ではないだろう。
「大丈夫よ、クロエちゃん。お化けなんて怖くないもん」
「……本当に大丈夫なのかしら?」
 おっとり微笑むエウカリス・ミュライユ(aa5394hero001)の台詞に、クロエ・ミュライユ(aa5394)は怪訝な表情を隠せない。
 何せエウカリスは見た目こそ大人びた美人だが、中身は実に頼りないへっぽこである。しっかり者の姉役がすっかり定着したクロエから見て、自信満々のエウカリスは不安でしかない。
「ハラハラドキドキ仲直り作戦なのです!」
「別に喧嘩した覚えもないんだがな」
 そして、紫 征四郎(aa0076)は今回の依頼に別の思惑があった。肩を竦めるガルー・A・A(aa0076hero001)の背を押し、征四郎はとある人物へと近づく。
「……何で貴方と一緒に行動しなきゃいけないんですか」
「わお、凄い険悪」
 ガルーが視界に入った瞬間、凛道(aa0068hero002)から刺々しい態度がダダ漏れる。凛道と雑談していた木霊・C・リュカ(aa0068)もすぐに空気の変化に気づくが、何故かちょっと楽しそう。
 どうやら征四郎は、ガルーと凛道の仲を改善させたいようだが、いきなりこれではハードルは高い。
 そんな彼らはグループを組んだ後、園内へ入っていった。

●緋十郎・六花班
「……ん。狒村さん……レミアさん……」
「ごめんなさいね。今の六花は少し余裕がないの」
「構わないわ」
「何かあったら、俺たちにも頼ってくれ、氷鏡さん」
 悲痛な表情で今にも涙腺が決壊しそうな六花は、アルヴィナにくっついたまま小さく会釈。元々2人と面識のあるレミアは六花の様子に理解を示し、緋十郎は気遣う言葉をかけた。
 それから地図と懐中電灯を持つ緋十郎が園内の先導を行い、レミアの好みに従い洋風エリアへ向かう。お札入れは六花に楽しんで欲しいと、アルヴィナが六花に持たせた。
 最初は入り口に近いフードコート。
 無警戒でずんずん進む緋十郎たちだが、程なくして死角からゾンビたちが現れた。
「……ひっ!」
 ビジュアルもそうだが、不意打ちに驚いた六花が小さく悲鳴を上げ、アルヴィナの後ろに隠れる。
「これが仕掛け?」
「いかんな。折角死角から不意討ちを仕掛けたというのに、気配を殺し切れていない」
 一方、六花と見た目年齢は近いレミアは微塵も動じず、緋十郎に至っては現れたゾンビ役に演技指導をする始末。客というより、オーナーの風格さえ感じる。
 その次に向かったのはメリーゴーラウンド。
「……ひぅ!」
「ふふ、可愛い六花」
 車のような乗り物に並んで座る六花とアルヴィナの周囲に、暗幕内を浮遊霊の立体映像が飛ぶ。六花はアルヴィナに抱きつきつつ霊を見やり、アルヴィナは怖がる六花を愛おしそうに撫でた。
「……退屈ね」
「ああ、そうだな……」
 が、馬の乗り物の前に座るレミアはすぐに興味をなくし、緋十郎は腕の中に抱くレミアの匂いに頭がやられ、ともに反応は悪かった。
 次のミラーハウスでも、レミア・緋十郎は並んでガラス片を踏みしめながら歩くだけ。
「……ひぁっ!?」
 唯一、ちらっと現れるお化けに驚くのは六花のみ。アルヴィナ含め淡泊な3人といるためか、六花の怯えようが目立つ気がする。
 1つの施設にかける時間が短いためか、すぐに半分を回った4人。
 ここで1度、六花のために小休憩が設けられた。
「疲れたなら、リタイアしてもいいわよ?」
「……ん。せっかく招待してもらったんだし、がんばる……の。アトラクション、ぜんぶ、周って……感想、ちゃんと、伝えないと」
 休憩中、アルヴィナが途中棄権を提案するが、真面目で責任感が強い六花は涙目ながらやり通す決意を伝える。
「わかったわ、六花がそう言うなら、私も一緒に隣にいるから。最後まで、しっかり頑張りましょうね」
 そんな六花の健気な姿に、アルヴィナは内心でキュンキュンしっぱなし。優しく六花の髪を梳いて微笑んだ。
 そうして和風エリアに入った4人は、ゴーカート乗り場へ向かった。
 実は緋十郎、最近免許を取得したばかりでゴーカート初体験な上、2人乗りの密室空間にテンションが密かに上がっていた。
「あら、故障?」
「す、すまないレミア。何か操作を誤ったか……?」
 が、コース途中でエンストを起こし、レミアの台詞で緋十郎は慌てる。それからエンジンが戻るまで、緋十郎は窓をバンバン叩く幽霊たちとは違う焦燥と戦っていた。
「……やぁっ!!」
 対して、六花は早くも前言を後悔するほどの恐怖を味わう。今回のお化けは密室+実物+距離が近い。刺激が強すぎて、途中から顔を上げられない。
 無事ゴールした緋十郎と六花たちは、別々の安堵を覚えながら観覧車へ向かう。
「……ぁ、ある、ゔぃなぁ……!」
「大丈夫よ、六花」
 ここで実質、六花は限界を迎えた。必死に怪談の恐さに耐えていたが、『当たり』を引いて涙腺が決壊。地上に戻るまで、アルヴィナから離れなくなってしまった。
 観覧車の『当たり』は、ゴンドラ内に設置したスタッフの幻想蝶からお化けに扮した英雄が怪談のオチに合わせて飛び出し、また戻るというもの。出現のタイミングこそ難しいが、スタッフはいい仕事をしたらしい。
「で? さっきから鼻息が耳障りなのだけど、何を勝手に発情しているの? この変態」
「ぐっ……! ふ、ぅ……!」
 その頃、別のゴンドラではレミアが土下座する緋十郎の頭を踏みつけ、いちゃついていた。怪談? ただのBGMでしたが何か?
 存分に楽しんだ(?)後、一行は最後に売店区画に入る。
「へぇ? 作りは細かいのね」
「ああ、臨場感がある」
 レミアと緋十郎は内装に注目し、最後まで驚くことはなかった。
「……ぐすっ」
「もうすぐで終わるわ、六花」
 そして、ベソをかき出した六花はアルヴィナに抱っこされた状態で移動。何とかチラチラと廃墟を見るが、ほぼアルヴィナの胸に顔を埋めて嗚咽を漏らす。
 こうして、緋十郎のデートと六花の試練は終わった。

●和頼・テジュ・七海班
 ここは、最初から限界が近い者がいた。
「こう言うのは、遊びで造る物じゃ、ないと思うんだよ……」
「七海に賛成っ!」
 互いの手を取る七海とルーは、すでに半泣きで意見を合わせる。参加メンバーに告げても意味はないのだが。
「ルーも怖いのは駄目なのか?」
「ありゃりゃ、二人とも大変だネ♪」
 その傍ら、和頼はルーを気にかけつつ、内心で少し安堵していた。何故か変に上機嫌な希の様子に、和頼はてっきりルーと何か画策しているのでは? と警戒していたのだが、いい意味で予想を外したが故の安堵だ。
 背後で不穏な笑みを浮かべる希には、気づかない。
「ルー、それは異界の護符――」
「いいのっ! なんかご利益ありそうだからっ!!」
「やめるか?」
「いくのっ!」
 いつもの元気がないルーが銀十字の護符や聖刻の護符、果ては霊符まで取り出した段階でテジュはリタイヤを勧めた。が、1人はもっと嫌だとルーは反発して聞かない。
「……撮影を代わろうか?」
「……すまん、頼めるか?」
 そうして園内を6人で歩き出したが、あまりにも怯えるルーを不憫に思ったジェフが、手ぶれが酷くても回し続けるルーの動画カメラ【NoRuN】の撮影代行を申し出た。
 普段はルーの趣味で多用されるカメラだが、今回はモニター依頼の参考にもなるとテジュに判断され、ジェフへと手渡される。なお、ジェフが立候補したのは七海と和頼の仲を後押しするため距離を取ったら、若干手持ち無沙汰となったためだ。
「(ジェフ! 和頼と七海をしっかりマークしててね! いい絵は欲しいからっ!)」
「……ここまでして、来たいものなんだな」
「……そうらしい」
 ガタガタ震える手で腕を引く小声のルーを見て、ジェフは呆れながらも前にいる和頼と七海にレンズを向ける。ルーの本気と熱意を感じたテジュも、何とも言えない表情を浮かべていた。
 自然と和頼を先頭にして、まず向かったのは売店区画。
「ここは、廃墟か?」
 元々グッズを売っていた店舗を改造し、1つずつコンセプトが違う廃墟を再現した建物の群れ。その中で、和頼たちが入ったのは病院風の内装だ。
「……和頼」
 霊の類も急な脅しも効かない和頼は全く動じなかったが、隣の七海はそうではない。いやにリアルでいかにも出そうな雰囲気にたじろぎ、無意識に和頼の服の裾を掴む。
「……行くぞ」
「クスクス♪」
 ピクッ! と一瞬反応した和頼は淡々と歩きだし、一緒に心拍が走り出す。動揺を押し殺す和頼に、希の含み笑いは止まらない。
 しばらくは何もない部屋を見回り、2階へ。無駄に凝った内装を懐中電灯で照らしつつ札を探す。
 と。
「……ぇ?」
 オドオドと辺りに視線を泳がせていた七海が、偶然、視線の先にいた『それ』を捉えた。
 淡く青白い光を伴った、生気のない入院着の女。
 視線が合ったからか、元からか、七海に薄笑みを向けた女は、すぅっ、と消えた。
「――いゃーっ!」
 霊を信じる七海に、これはちょっと威力が強すぎたらしい。
 一瞬で血の気が引いた七海は、涙目で和頼の胸にしがみついた。
「っ!」
 一方、恋人にベタ惚れな和頼に、これはちょっと威力が強すぎたらしい。
 密着した七海から伝わる柔らかさ・体温・匂いに、和頼は一瞬で頭に血が上る。
(チャーンスッ!)
 2人の影が1つに重なり、和頼の体が硬直した瞬間。
 猫耳をピンと立たせた希は輝く瞳でルーへ目配せを送る。
「(ジェフ! 今だよっ!)」
 幸い(?)悪戯仲間からの合図を見逃さなかったルーは、すぐに小声でジェフを促した。
「……どう見ても電柱に戯れる子リスだ」
 至極冷静にカメラを向けたジェフは、和頼と七海を的確に表現する。
 顔を紅潮させる和頼は珍しいが、絵面は普段の2人とそう代わり映えしない。
「や、やった! 和頼の真っ赤な顔GET!」
 とはいえ、ルーにとっては待ちに待ったネタ映像だ。この時ばかりは恐怖を忘れ、純粋に成果を喜ぶ。
 ――カタン。
「ぅ? ――ふきゃぁああ?!」
 が、すぐに一転、恐怖へ急下降。
 ルーが物音で振り返ると、七海が見たような幽霊が何人も直立し、こちらを見つめていたのだ。
「七海っ、おい!」
「嫌なのっイヤなのーーっ!!」
 ルーの悲鳴で状況を察した和頼が七海をなだめようとしたが、同じモノを見た七海は完全にパニック状態。和頼に抱きついたまま、動けなくなってしまう。
「七海! これ持ってろ!」
 一度幽霊を睨み、和頼は幻想蝶から眠り猫のぬいぐるみを出して七海の視界を遮る。次いで動けない七海を横抱きにし、ここから離れようと足を速めた。
「お、追ってくるぅ! 2人とも逃げて! でも和頼たちは撮ってぇ!」
「ルー……」
「やれやれ……」
 そのやや後方から、腰が抜けたルーの両脇を抱えたテジュとジェフが続く。それでもネタを求めるルーの執念にはテジュもジェフも呆れるしかない。
「いっぱいいるネ!」
「鬱陶しいほどな!」
 1階に戻り、出口を目指す和頼に並んだ希は実に楽しそう。
 そして、外の扉に接近した瞬間、髪の長い女が目の前に現れ――
「和頼もすっごい大変そーだネ!」
「煩え!」
 ――たのだが、2人は見事にスルー。希のあくどい笑みに言い返す和頼にとって、幽霊よりも七海とこのままでいたい煩悩の方が大問題だった。
「――ひゃわぁああ?!」
 なお、後続のルーには効果覿面だったようです。

「落ち着いたか?」
 あれから人気の少ないフードコートまで走り、和頼たちは七海とルーをベンチで休ませていた。
「しかし、性格の悪い仕掛けだったな。一応これ、を……?」
 すると、和頼は威嚇用にと鉄パイプを取り出したが、その手に七海の手が重なる。
「お、お化けは一般の人だよね? ダメだよ。怖く無い……私、見ない、から」
 少々手が早い和頼に不安を覚えた七海は、震えながらぬいぐるみに顔を埋め和頼の腕に掴まって気丈に振る舞う。
「七海――」
 そして和頼の心臓はそろそろ過労で倒れそう。
「うぅ……、酷い目に遭った、よ?」
 叫び疲れたルーがベンチに背を預け、ぐでっと脱力した時。
 背後に立っていたゾンビと、ばっちり目があった。
「――ひにゃぁああ?!」
 彼らの探索は、まだ始まったばかりである。

●一二三・拓海・信一班
「ヒフミ。こちらが前に話した佐藤 信一さんと碓氷 静香さん、それと静香さんと共鳴してるレティさんだ」
「アンタらが。お噂はかねがね。今日はよろしゅうに」
「……うむ」
「こちらこそよろしくお願いします。弥刀さん、キリルさん」
「……はい」
『あ~、静香がちょっと緊張しちゃってるけど、よろしくね!』
 それぞれ自己紹介をすませ、歩き出す。
「ホンマモン、出るとええどすな~」
「い、いや~、出るのはちょっと……」
 期待を高める一二三の言葉に、信一は言葉を濁す。今もがっちり掴まれた服の裾に力が入り、下手に頷けない様子。
 雑談しながら向かったのは、ミラーハウス。
「ヒフミの言う通り、本物を引寄せそうな雰囲気だな。実は混ざってたりするのか?」
「もぅ、威すの無しよ。でも、雰囲気は良い感じね……」
 ジャリ、とガラスを踏む音に緊張しつつ、拓海は先頭を歩く。背後にメリッサが続き、信一、一二三たちの順で進む。
「お? ちらほら鏡に妙なもん映っとらしまへんか?」
「っ……!!?」
「で、で、でたらめを言うな!」
 中頃まで進むと、笑みを浮かべる一二三の言葉に静香とキリルが過敏に反応する。
「おぁ!」
 そして出口の目前まで到着したとき、突如肉体が透けた女性が出現し、拓海の短い悲鳴が上がる。
「拓海!!」
「ちょっ!?」
 そのまま滑るように接近する女性に、メリッサはしがみつくフリをして拓海の背中を容赦なく盾にして押し出す。
「うわっ! ……あれ?」
 そのまま衝突、せずに人影は拓海たちの体をすり抜け、消えた。
「う~ん、あともう一息怖いと笑えんのやけど」
「貴様の言う事は意味不明だ!」
 少し早足になってミラーハウスを抜けた後、一二三の物足りない様子にキリルが唾を飛ばした。
 その後も順番に施設を回る一行だったが、楽しめる一二三とは裏腹にキリルと静香はどんどん精神的に追い詰められていく。
 そして、フードコートに現れたゾンビ風お化けに、とうとうキリルの何かが切れた。
「うわあっ! 殺らねば殺られてしまう! フミ、共鳴だ!」
「は?」
 それまで一二三の背中にくっつくだけだったキリルが強引に共鳴。男性主体の共鳴を果たした瞬間、キリルの意思で無形の影刃が握られる。
『こいつらは従魔だ! 殲滅する!』
「ち、ちょい待ち!」
 キリルの暴走に一二三は慌てて剣を抑えようとするが、キリルの激しい抵抗が2つの意志の衝突を生み、肉体が膠着状態となる。
「た、拓海! どないかしてくれ!」
「また……、ヒフミ弱過ぎだ!」
 たまらず一二三は助けを求め、すぐに異常を理解した拓海はメリッサと共鳴。オネイロスハルバードを手に駆けだす。
『お化けになってたまるか!』
「アホーっ!!」
「危なっ!?」
 直後、キリルの錯乱した意思が勝ち、一二三を無視した剣がゾンビを急襲。ギリギリで拓海が弾くも、キリルの暴走は止まらない。
「……そうです。お化けがいるから、怖い思いをするのです」
「え? う、碓氷さん……?」
 武器が激しくぶつかる音でゾンビが距離を取り出した時、静香からも不穏な台詞が飛び出して信一に冷や汗が浮かぶ。
「すなわち、お化けを排除すれば、怖くなくなる――はず」
『静香が壊れた?!』
「止めて! 碓氷さん、本当ダメだから!?」
 キリルに悪い意味で触発されたのか、右手をゴキリ! と鳴らした静香も無表情で理性を捨てた。
 レティが動きを抑え信一が羽交い締めにしてなお、静香の力を止め切れない。
「ホンマ、アカン……!」
 混乱するキリルの振り回す剣を拓海が受け流すが、いつ何を壊すかわからない。必死に抵抗する一二三の脳内に『弁償』の2文字がよぎる。
「無理や! 借金で菓子なんか食えんなるで!」
『なにっ!?』
 最悪な未来の家計計算にたまらず絶叫した一二三の体は、キリルの驚愕とともにようやく止まった。
「荒木さん、弥刀さん、助けて!」
 が、まだ静香が残っている。信一とレティ、2人分の負荷をものともせずにゾンビへ向かう無表情の静香は、さながら未来からきた抹殺者に通ずる迫力だ。
「丁度ええ、このまま止めよか、拓海!」
「わかった!」
 すぐに反転した一二三と拓海は武器をしまい、静香へ接近する。
「わっ!」
『ゴメン、ぜんぜん止まんない!』
 そして、ついに信一の拘束を脱した静香は一番近くのゾンビへ拳を振りかぶった。
「信一はん、パス!」
「えっ!?」
 静香の拳が放たれる寸前で一二三が腕を掴むと信一の方へ投げ返した。
「信一さん! 正面から抱しめて落ち着かせて!」
「えぇっ!?」
 すかさず、拓海がバランスを崩した静香を指さす。一瞬躊躇した信一は、すぐに意を決して静香を抱きしめ――
「っ!?」
「ぐぇっ!?」
『静香! それ信一! 信一だから!』
 ――た直後、ゾンビに襲われたと勘違いした静香は懐に入ると同時に、信一の鳩尾へ拳を炸裂。レティの訂正も空しく、静香は信一の腕の中だと気づかずもがく。
『……キスでもしたら意識が飛んで静まるんじゃないかしら?』
「(はっ! ……レティさん、解除解除!)」
『え? ……あぁ! オッケー!』
 なかなかしぶとい静香にメリッサが淡々と呟くと、拓海は天啓を得たとばかりに2人へ接近。静香の背後に小声で告げると、レティはすぐに共鳴を解く。
「今だ、信一さん!」
「男を見せなさい、信一!」
 静香から離れた拓海とレティは、期待を込めた視線を信一に向けた。
 さぁ、やれ! ぶちゅ~っと!!
「え゛? な゛、んです、か……?」
 が、脂汗がにじみ表情が青ざめた信一の返事に、拓海とレティはずっこける。さっきの腹パンにより、信一には意図を察するだけの余力がない。
「……あ、え? 佐藤、さ……っ!?」
 その間に、至近距離の信一の声で静香は正気に戻り、一気に大人しくなる。
 その後、固まって動けない静香と、腹痛で動けない信一の復帰には時間を要した。
 信一が逃がした魚(チャンス)は、おそらく、大きかった。

●紗希・GーYA・霧人班
「世良さん、大丈夫ですか?」
「怖いのヤダ早く帰りたい……」
「俺たちもいますから、がんばりましょう世良さん」
 集合時に早速、紗希がいっぱいいっぱいの霧人に声をかけ、GーYAが励ますという構図ができている。……霧人にとってGーYAが地雷にならなければいいが。
「遊園地全体がお化け屋敷か、どんななのか楽しみだぜ♪」
「ま、大したことねぇだろうけどな」
「そうねぇ。何事もなければいいのだけれど」
 一方、英雄組はエリックが純粋に楽しそうにしていて、カイはちらりと紗希を見ながら肩を竦める。その中でまほらまがぽろっと不安をこぼすが、誰も気にとめなかった。
「じゃあアニキ、これ被ってな!」
「わっ!? ……何するの!?」
 すると、移動の前にエリックが動画用ハンディカメラを付けたヘルメットを、背後からすぽっ! と霧人の頭にはめ込んだ。
「今回オレ達はモニターなんだろ? お客さんの視点からどう見えているかが分かれば、やってる方も改善点が見つかりやすいと思ってな!」
「びっくりするから普通に渡してよ!」
 理由はわかったが、エリックの被せ方はわざとだと確信し、霧人は非難の視線を向ける。
「まあまあ。とりあえず、順番に見ていきませんか?」
 ぽん、と手を叩いて注目を集めたGーYAの言葉に従い、6人は手近なアトラクションから回ることになった。

 さて、実は依頼達成とは別に、カイだけとあるサブミッションを己に課していた。
 それは恋愛に奥手な紗希に、カイを異性として意識してもらうきっかけを作る『吊り橋効果』を狙うこと。恐怖のドキドキと恋愛のドキドキは誤認しやすい、というアレである。
 お化け屋敷という環境において、カイがどこかで聞きかじった知識を利用するには都合がよかった。もし成功すれば、紗希から公私ともに頼れる男と思われるはず、という思惑もあった。
 そう。成功すれば。
『うひゃあっ!』
 メリーゴーラウンドにいる紗希とカイは、頭上から落ちてきた生首(立体映像)に仲良く悲鳴を上げる。
「ホログラムの一種、かな? すごいね、よくできてる」
「そうねぇ。騒がしいくらい」
 紗希たちの後ろにいるGーYAとまほらまは冷静に観察しているが、うるさいのは前だけではない。
「出たぁ!」
「アニキ、顔を背けたらカメラに映らないって」
 さらに後ろの霧人は光が浮かぶ度に顔をそらし、何度かエリックに頭を固定される。

 ――バンバン!!
「ギャアアア!!!」
「おー良いリアクションだなアニキ!」
 次はゴーカート。
 終わらせたい一心で爆走させたカートのエンストでプチパニック、血色の手形を窓に連打されて大パニックになった霧人に、エリックはいい仕事だと笑う。
「う~ん、まだ点かないな」
「世良さんがげっそりしてたのは、これみたいねぇ」
 続くGーYAはカートの故障の方を気にかけ、窓から覗くお化け役の熱演にはまほらまだけが感心した。
『ギャー!!』
 次の紗希とカイはお化け襲来と同時にお互い抱き合い絶叫。このドキドキは恐怖100%であり、カイが渡ろうとした吊り橋はもう崩壊している。

「オレ達、迷ってないか? 道が全然分かんないぞ」
 次はミラーハウス。
 一部メンバーの要望により全員で通路を歩くが、次第にエリックの方向感覚がズレだす。
「うわあああ! 今何か通らなかった!?」
「いやアニキ、それ鏡に写った自分だぜ?」
 それでも道中の霧人が賑やかなので、エリックも退屈はしない。
「あれ? 後ろに何か……」
「……あらぁ~」
 出口が近づいたところで、ふと、GーYAが背後を振り返った。つられて全員が振り返り、まほらまが何とも言えない声を出す。
『いっぱい出たぁー!』
 そこには、鏡をすり抜ける大量の幽霊。最後尾にいた紗希とカイがまたもや絶叫し、メンバーを押し出すように逃げて脱出する。

「何で怪談流れてるんだよー怖いよー」
 その次は観覧車。
 休憩がてら乗ったが、直後に響く不気味な語り口に霧人は必死に耳を塞ぐ。
『ひっ!? まさか当たっ、ギィャアアァァァァ……!!』
 故に霧人は知らない。ゴンドラ全部に聞こえるほどの、紗希とカイの特大の悲鳴を。

 そうしてフードコートにたどり着き。
「ゾンビの生き残り(?)がいたァー!」
『カイ! アルター・カラバン44.マグナムで……』
「頭を、吹っ飛ばす!」
 ついにカイと紗希が錯乱しだした。ストレスが振り切れた2人は即座に共鳴して武器を取り、ゾンビに向けて銃口を……。
「御堂さんもカイさんも落ち着いて!」
 そこでまほらまと共鳴したGーYAが肉薄。手首を蹴り上げて銃を手放させ、それでもゾンビを殴りに行こうとしたカイを羽交い締めにする。
『僕は見てない僕は見てない僕は――』
「アニキ~、戻ってこーい」
 なおも暴れるカイを危険と判断し、念のため霧人と共鳴したエリックはゾンビの避難誘導を始める。もちろん、ゾンビは霧人にも効果抜群だ。
 その後、スタッフが消えてようやく落ち着いた紗希たちをつれ、何とか全部を回りきることができたのだった。

●楓・飛鳥班
 楓と飛鳥は最初に売店区画を歩く。
「ドキドキですねぇ。飛鳥さーん、何か出たらどうしましょう♪」
「うん? 何かがいる気配は感じるが、物の怪の気配は感じんな。何も出んだろう」
 すっかりデート気分の楓は早速、飛鳥の腕にすがりつく。一方の飛鳥は平気な顔でスタスタ進む。どうやら飛鳥の感覚は戦闘時に近いらしく、周囲の警戒に忙しそうだ。
(……あれっ? なんかつれないですね)
 すると楓は瞬時に飛鳥の態度を察知し、恋愛脳をフル回転させる。
 気軽に身を寄せ合える状況だけでもおいしいが、できればもっと飛鳥との仲を進展させ、あわよくば暗がりで――自主規制――と考えた辺りで、楓は飛鳥と売店区画を抜けた。
 その後も、いちゃいちゃ優先の楓と肝が据わりすぎる飛鳥のペアは仕掛けをことごとくスルーし、スムーズに札を回収していく。
 そして、最後のフードコートで楓が行動を起こした。
「やーん♪ こわーい♪」
 ゾンビスタッフが物陰から姿を現した瞬間、楓は飛鳥の腕に絡ませていた自身の腕を首へ回し、一気に攻勢へ移る。
「何でここにこんなものがいるんだ?? 何となく、井戸や荒野で物の怪とよく会ったような覚えはあるが……」
 当の飛鳥は、フードコートにゾンビという違和感と戦っている。
「飛鳥さーん♪」
「どうした楓」
 さらに、ぎゅー、と体を密着させた楓の声で一度、飛鳥は我に返った。
「……ふむ、どうもせんな。よくわからんが、次に行くか」
 されど飛鳥は、楓の甘ったるーい声にも、所在なさげにウロウロするゾンビにも、全く動じない。
 結局、敵意のないゾンビは無害と判断した飛鳥は、思いっきり抱きつけてご満悦な楓をぶら下げたままモニターを終えた。

●陸・ニウェウス・マオ班
 ここは互いの接点が薄い野良グループだ。
「俺はレイルース。マオと、ソラさん。……よろしく」
「よ、よろしく、お願いします……」
 顔合わせ時、レイルースは人見知りなマオを背中にひっつけ、頭に青い鳥のソラさんを乗っけて挨拶する。
「改めまして、俺は九重 陸、こっちは井合 アイっす」
「今夜は大いに楽しもうじゃないか」
 それに陸とまだ少し興奮気味なアイが答える。
「ニウェウス・アーラと、ストゥルトゥス、です」
「よろ! で、最初どこ行く?」
 最後にニウェウスが頭を下げ、ストゥルトゥスが早速マップを広げる。ルートはお化け屋敷エンジョイ勢のアイとストゥルトゥスが手短に決めた。
 まず向かったのは、ミラーハウス。
「い、い、今、何かいたよっ!!?」
 鏡の壁に映り込んだ人影に驚き、マオはとっさに近くの人に飛びついた。
「マオ、力、入り過ぎ……」
「はっ! ご、ごめんなさい!」
「大丈夫……」
 レイルースの指摘で我に返ったマオは、結構強めに掴んでいたニウェウスの腕から離れ謝罪する。お化けへの恐怖とは別に、年齢や体格が近い同性だったことが、一瞬だけ人見知りを忘れさせたようだ。
「ソラさんも、うるさい……」
 なお、マオの声に興奮したのかソラさんの羽音も強くなった。
「んー、悪くはない、が!」
「そこそこ、だったね……」
 その後、何度かそれっぽい人影を目撃した程度で出口を抜け、ストゥルトゥスとニウェウスは拍子抜けする。
 もっと刺激を! という意見で一行は次に観覧車へ向かった。
「怪談っすか。しばらく聞いてなかったなぁ」
「よくある怨霊に類する話だな」
 最初に乗った陸とアイは心霊系の理解や知識が深く、平然としている。
「レイ、くん……」
「…………」
 一方、ホラー全般が苦手なマオには効きすぎたようで、レイルースの服を掴んだまま固まっている。
「あ、これアレだ。心理的に攻めるヤツ……ッ」
「直接、来ない分……怖い、かも」
 意外にも、ストゥルトゥスとニウェウスの反応が大きい。怪談の山場に近づくと、隣のゴンドラからお化けが窓を叩く音が響き、さらに身を縮こませる
「いやマジ、直接的に何か来る方がマシですコレ」
「ストゥル……壊れかけの人形みたいに、なってるよ?」
 振り返った先の恨めしげなお化けと目が合い、ストゥルトゥスもニウェウスも体の震えを倍増させた。
 降車後、小休憩を挟んで売店区画へ移動。
「売店区画はなー。単なる廃墟はね、うん」
「怖がってたら……依頼、出来ない」
「観覧車みたいに、こう、精神的にクる演出が欲しいとこ?」
 落ち着いたストゥルトゥスとニウェウスはそう評価するが、いろいろ限界が近いマオは顔をキョロキョロとせわしない。
「うわああ! ……なんだ幽霊か」
『えっ!?』
 すると、思わぬ伏兵・陸の発言で女性陣が凍り付く。
「なんだ幽霊か、ってお前な……」
 トーンが軽い陸にアイが呆れる中、観覧車の怪談を引きずっている女性たちはしきりに周囲を気にしだした。
 少々早足になった一行はフードコートに到着する。
「もぅ、何でこんな暗――」
 懐中電灯を持つマオは、照らした先にあったゾンビヘッドと目が合う。
「キャーッ!!」
「……殴っちゃダメだよ。お化けの人驚いてるから」
 条件反射で顔を逸らして手が出たマオだが、レイルースがすかさず阻止。
「よく見て、ただの人……お騒がせしてます」
「え、え、あ! その……つい、ご、ごめんなさいっ!!」
 被害者になりかけたゾンビを指すレイルースに促され、おそるおそる視線を戻したマオはおどおどと頭を下げた。ゾンビの方は無言のまま、『気にしないで』と言わんばかりに手を振っている。どうやら話せない設定らしい。
「これ、私達相手だと通用しねー系ですわ」
「ゾンビ……一杯、戦ったからね。慣れちゃった……」
 その傍ら、【屍国】を戦い抜いたストゥルトゥスとニウェウスはゾンビを光で照らし、ガン見。むしろマジもんよりはパンチが弱い、とすら考えている。
「いや、しかしよく出来てるなぁ。素材は何だ?」
 アイも同じ様な反応で、ゾンビのメイクに興味津々。次々現れるゾンビさんは、反応が薄いモニターを前に居心地が悪そう。
「みんなそんなに幽霊が怖いかなぁ。生きてる人間の方がよっぽど怖いのに」
「というと?」
 すると、班員の反応をずっと見てきた陸の台詞にアイが問うと、陸の表情が陰った。
「前に、行方不明になってた小さい女の子に会ったんですよ。めっちゃボロボロの姿でね。あの子が、何して殺されたのか考えると……」
「確かに、別の意味で怖いな。……ん?」
 陸の話に頷くアイは、ふと周囲に空間ができたことに気づく。ニウェウスやマオたちだけでなく、ゾンビまでもが距離を取ったのだ。
 どうやら陸は、いつの間にか脅かす側だったようだ。

●クロエ・エウカリス班
 もう1組のペア班、クロエとエウカリスはゴーカートに乗り込んだ。
「ちっちゃい子向けのアトラクションであるわよね、こういうの」
「そ、そう、だね……」
 作りが実際の車に近い2人乗り特注カートの運転席にクロエが座り、シートベルトを締める。隣のエウカリスはすでに園内の雰囲気に飲まれて軽くビクつく。
 お化けではないスタッフの説明によれば、ただコースを1周するだけでいいとのこと。クロエはヘッドライトで道を照らし、カートを進ませた。
「っ!?」
「な、何!?」
 しかし、途中でカートが突如エンスト。クロエが眉をひそめる間にライトも消え、エウカリスは酷く動揺する。
 直後。
 ――ビタンッ!!
「うんっ!?」
 開閉不可なカート側面の窓ガラスに、人の手が勢いよく張り付いた。一度だけ音に驚いたクロエは、いつの間にかいた複数のお化けが窓を平手で叩く様子を冷静に観察する。
「あー、こんなの映画とかで……」
 ここの演出を理解したクロエだが、今度は体が重くなった。
「ま、窓に、窓にぃ……」
「……マジか」
 視線を下げると、本気で怯えてすがりつく半泣きのエウカリスが。ガチの涙声にクロエも思わず絶句する。
「ほら、カリス。涙拭いて。もう、メイク落ちちゃうわよ」
「うう……」
 その後、自然と動力が復活したカートでお化けを振り切ったクロエは、札を受け取ってフードコートに移動し、目に涙をためるエウカリスを優しくなだめていた。
「よしよし。ここにお化けはいないから」
「……うん。ぐすっ。だいじょぅ……あ、ぁ……」
 クロエの励ましで徐々に安心するエウカリスだが、頭を持ち上げたと同時に顔を青ざめさせる。
「ん……?? あっ……」
 クロエもそちらへ振り向くと、超リアルなゾンビと目が合って――。
「ひに゛ゃぁぁあああああ゛あ゛っっっ!!」
「ちょ、ちょっと!?」
 一気に涙腺が決壊したエウカリスが悲鳴を上げてどこかへ駆け出し、クロエが慌てて追いかけていった。
 ちなみに、今日一のリアクションをもらえたゾンビたちはガッツポーズをしたという。

●リュカ・征四郎班
 さて、征四郎の計らいで2人行動となったガルーと凛道。
「あいつら、ついて来てんのか。どうせならすごい怖いとこ行ってやろうぜ」
「本当の幽霊がいるアトラクションとかどうでしょう、ええ、貴方がなるんですよ」
 背後からの視線と気配を気にしつつ、ガルーがマップ片手に行き先を提案する。しかし、歩み寄る気がないらしい凛道は楽しげなガルーをじと目で見やるだけ。
「なんだよりんりん、そんなに征四郎と行きたかったのか? それとも怖い? 手繋ぐ?」
「なるほど、貴方がそこまで幽霊役に乗り気とは思いませんでした」
 とはいえ、ガルーが冗談混じりの気安い態度のためか、2人の空気が険悪になりきることはない。さらに気が立った凛道だが、心中で『これは仕事』と己に何度も言い聞かせ、ルートを決めたガルーの後についていく。
「はっ、あっちいきましたよリュカ!」
 その後に、リュカの手を引いた征四郎がひょこひょこと続く。
「ガルーとリンドウ、仲良くなるといいのですが」
「そうだねえ。2人の会話も聞いてみる?」
 ガルーと凛道の不仲を純粋に心配する征四郎に、リュカはスマホを差し出した。リュカは事前に凛道から許可を取って通話状態のスマホを1台ずつ所持することにし、その片割れを渡したのだ。
 征四郎は即座に頷き、スマホの音に耳を傾ける。幸か不幸か、ガルーが『怖いところ』を優先しようとしたことを、征四郎は知らない。

 まずガルーが向かったのはミラーハウス。
「わ、気をつけてください、リュカ」
「やぁ、やぁ、よくできてるね」
 時間差で征四郎とリュカも中へ入り、通路に散乱したガラス片に気づいた。一歩ごとにジャリジャリと音が鳴り、多少の歩きづらさはあるが弱視のリュカでも廃墟を歩く雰囲気を強く感じられる。
「か、鏡もヒビが入ってて不気味なのです」
「そうなの?」
 加えて、征四郎は迷路の壁でもある割れた鏡が気になり、徐々に余裕が失われていく。リュカも少し遅くなった足音と手から伝わる震えで、征四郎の変化に気づいた。
「ぴっ!?」
「せーちゃん?」
「な、何でもないのです!!」
 途中、征四郎が一瞬だけ鏡に映った幽霊っぽい女に小さく悲鳴が漏れた。リュカの疑問符に何とか取り繕う征四郎だが、それを機に尋常じゃなく強まる手の震えがリュカの笑いを誘う。
「特に面白みもなかったな。じゃ、次あれ行こうぜ」
「お好きにどうぞ」
 一方、先行するガルーと凛道は心霊系の恐怖耐性が高く、あっさりと進む。その後も凛道のスマホが征四郎の悲鳴を幾度か拾うだけで、行程はさくさく消化された。
「おっ! ここが観覧車か」
「……これに、貴方と乗れと?」
 終盤、ガルーと凛道は観覧車の前に到着した。当たりつきゴンドラにガルーは乗り気だが、凛道の表情は露骨に嫌そう。それでも、凛道は『仕事』と割り切り渋々ながら同乗した。
『…………』
 ゴンドラ内で対面に座るガルーと凛道。観覧車が回る間に2人の会話はなく、流れる怪談と隣接したゴンドラから見えるお化け役にも無反応のまま。
「あのさぁ」
 気まずい沈黙を破ったのは、ガルー。
「そんなに俺様のことが嫌いか?」
 窓際にひじを乗せ頬杖をつくガルーの直球な問いに、凛道は重い口を開く。
「……嫌いなわけじゃありません。一度裁いた人間に、どう対すればいいか解らないだけです」
 凛道が吐露したのは、この世界より前の因縁。自らの手で処刑した罪人と、別世界で再会するという運命の悪戯に、凛道はまだ心の整理をつけられないでいる。
「真面目か。別に前の世界のこととか、気にしなくて良いからな」
 が、ガルーは凛道の葛藤を、どこか冗談めかして一蹴した。
 それでも凛道の表情は晴れず、また沈黙が流れる。
『ぴゃああああ!!!! こっちこないでくださいなのです!!!』
 瞬間、凛道のスマホからひときわ大きな征四郎の悲鳴が飛び出した。
「なんだ、当たりは征四郎が引いたのか」
「……そのようですね」
 すると、ガルーと凛道に漂う緊張感が少し和らぐ。が、その後も双方ともに無言を貫き、観覧車の終了を迎えた。
「あの、もうちょっとだけ、側にいてもいいですか……」
「うん、いいよ」
 少し遅れ、征四郎は珍しくリュカにくっついていた状態で、別のゴンドラから出てきた。よほど怖い思いをしたらしい。

●帰りの車内と感想チェック
 終了後、信一は行きと同様に人数確認を行う。
「きゃあぁぁ ワサビのお化け~!」
 帰る間際になってまほらまが驚いたのは、緑色の虫。辛いのが苦手な彼女は以前、大量のワサビを知らずに口に入れ大惨事となった経験があり、見た目と色にトラウマを刺激されたらしい。
「アゲハ蝶の幼虫だよ。明け方にはきっと、たくさん羽化するんだろな」
「たくさんっ!?」
 一応、GーYAが虫だと訂正はしたが、周囲を警戒するまほらまの様子から、フォローにはなってなさそうだ。
 一方、無事帰還を喜ぶグループもいる。
「終わったぞ?」
「な、ななみぃ~」
「ガンバったネ!」
 テジュがルーの頭を撫でて慰め、希と七海も震えるルーに抱きつきなだめる。
「うん。怖かったけど……不安じゃ無かったよ」
「……そうか、良かったな」
 そして最後に笑顔で見上げる七海に、和頼もまた頭を撫でて微笑んだ。
「あー、くそ」
 それから和頼は隙を見てトイレへ向かい、七海との密着で我慢していた鼻血を噴出。ティッシュを鼻に詰めて自己嫌悪するも、次は七海と2人で! と心に決めた和頼はトイレの外で希の待ち伏せにあう。
「ガンバったネ!!」
「煩え!!」
 とてもいい笑顔な希のサムズアップに、和頼は別の意味で頭に血が上った。
 それからアンケートを回収後、各々バスに乗り込んだ。
「アニキ? おーい?」
「…………」
 一緒に録画データも信一に渡して着席したエリックは、外を見る霧人に何度も呼びかけるも返事がない。すっかり燃え尽きたようだ。南無。
『…………』
 また、終始叫びっぱなしだった紗希とカイも、背もたれに体を投げ出して白く燃え尽きていた。その目に生気はなく、顔も心なしか老けて見える。
「ぐすっ、ぐすっ……」
「……なんであんなこと書かないといけなかったのかしら」
 座席後部では、ずっと泣き続けるエウカリスをクロエが慰めていた。
「……んぅ」
「よしよし」
 同じく泣き疲れた六花は、バスの中でもアルヴィナに抱きついたままぐったりしている。
「怖かったけど、楽しかったかも」
「……疲れた」
 終始騒ぎっぱなしだったマオはどこかすっきりした様子だったが、レイルースはマオのフォローによる気疲れでいつも以上にぼーっとしている。
「怖くなかったの?」
「うん……マオが俺の分も驚いてくれてたからね」
「レ、レイくん!」
 マオは園内でずっと平然としていたレイルースを思いだして尋ねると、思わぬ反撃を食らって赤面する。慌てふためく妹分に、レイルースはくすっと微笑を漏らした。
「適度にスリリングで楽しかったな!」
「時々感じる嫌な冷気が良かったわね」
 印象的な記憶がほぼキリルと静香の暴走だったとはいえ、それなりにお化け屋敷らしさを楽しめた拓也とメリッサは、アンケートにも書いた感想を楽しそうに話している。
「……せっかく楽しも、思うたんに……」
 しかし、暴走する同行者に振り回され続けた一二三は、疲れただけの探索に終わり重いため息を吐く。
「奢るよ……何か食って帰ろう」
「た、拓海……!」
 疲れた様子を不憫に思った拓海の提案に、不覚にも一二三は感涙しそうになった。
「あ、私は生菓子がいいぞ」
「アンタは黙りや!」
 が、すかさず元凶・キリルが会話に割り込み、注文まで付けたことで一二三の涙が引っ込み突っ込みが飛ぶ。それには拓海もメリッサも苦笑いをするしかなかった。
「でも俺、あのお化け屋敷はあんまり流行んない気が……」
「何で?」
 徐々に遠ざかるお化け屋敷を振り返った陸の言葉に、施設の評価は悪くなかったアイが首を傾げた。
「夜中に遠路はるばるこんな所まで来にくいですし、何よりちょっと広すぎないかなって。正規のルート? は見る場所を限定するとしても、遊園地一個分をずーっと、怖がりながら歩き回るなんて疲れません? まあ俺にとっては、普通に楽しい遊園地だったっすけどね」
「ほうほう」
 要するに、客側から見た利便性と心身の持久力に関して、陸は懸念があるようだ。英雄故かあまり気にしたことがない視点に、アイはしきりに感心していた。
「個人差はある……けど、やっぱりエージェントには、……微妙」
「だねー」
 施設の総評をニウェウスとストゥルトゥスはそう称し、今回の調査を振り返った。
「特にミラーハウスにいた和服を着たお化けとか、流石に場所の雰囲気にあってなかったしー。あれなら洋風の――」
「え」
 が、ストゥルトゥスの一言でニウェウスの表情が強ばる。
「ん?」
「……そんなの、いた?」
「え、いや見たでしょー。マスターもばっちり」
「見て、ない……」
「ゑ」
 ストゥルトゥスは見たという、ニウェウスは知らない『和服のお化け』。
 それが意味することを想像し、2人は無言でプルプルと身を震わせた。
 あれこれと話をしている内にバスが駅につき、そのまま各自解散となった。
「あ、領収書お願いします」
 余談だが、紗希とカイはタクシーで帰宅した際、燃え尽きた状態でも領収書の確保は忘れなかった。

 翌日、社長は集まったアンケートを確認していた。
『ガラスを下に散りばめるのは怖さ的にはありだけど、靴の仕様や身体の事情で転倒しやすい人がきた場合危ないから、配慮は必要かな。でも、目が悪くても耳で楽しめる仕掛けは楽しかったよ』
 とはリュカの意見。他にも同様の意見が多く、健常者のモニターでも気が動転すれば転びやすい状態のため、社長も改善案を検討する。
『オーソドックスな仕掛けを適度に含まれせると、意外性があって面白いと思います』
『お化けの人は護身術が必須そうなのと、ワサビ虫は駆除して欲しいわぁ』
 次はGーYAとまほらま。ふむふむと頷く社長だったが、ワサビ虫の部分で首を傾げる。
『好きな人と一緒だと、あっという間でした。ただ、もっとこう、追い詰めるような感じが欲しいですね』
『大して強くもなさそうな奴らばかりだった。もっと理不尽でわけのわからん物の怪は、世の中にごまんといるぞ』
 次の意見は楓と飛鳥。両者とも物足りなさを感じたようだが、楓は精神的恐怖、飛鳥は身体的恐怖と、求める水準が違う。前者はともかく後者はコメントしづらい。
『エージェントにも小さい子はいるので、もう少し小さい子でも大丈夫なルートを作ってあげてください』
『ゾンビの人怖すぎます……』
 次はクロエとエウカリス。世話焼きな姉はとても綺麗な字で小さい子への配慮を求め、でっかい小さい子は丸っこく可愛い字を涙でにじませている。
 他にも『怖かった』という意見を読んだ社長は、笑みとともにエージェントを招待する前に話をした希の意見を思い出した。
『体を通り抜けたり、床から飛び出たり、行く方角に微笑む霊先行、でもいないとか。それに、背後から徐々に姿現す大量の霊が追ってきて、出口と思ったら先行した霊が眼前にどアップ! とかネ♪』
 実はミラーハウスや売店区画に出現した幽霊は、希のアイディアで追加された仕掛けだった。タネはメリーゴーラウンドの立体映像と同じもので、無論、本物ではない。
 が、それでも本物と勘違いしたらしい意見がちらほらあって、社長は上機嫌でアンケートを読み進めていった。

「な、何これ!」
 さらに後日。
 録画データを確認したルーは、和頼と七海のラブ動画の他に、自身の泣き顔や希の黒い笑顔が随所に映る様子に声を上げた。
 それがジェフの仕業だと気づいたものの、これはこれで面白い……と思ったルーは、悩んだ末にデータを保存した。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 絆を胸に
    麻端 和頼aa3646

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 断罪者
    凛道aa0068hero002
    英雄|23才|男性|カオ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 無名の脚本家
    九重 陸aa0422
    機械|15才|男性|回避
  • 叛旗の先駆
    (HN)井合 アイaa0422hero002
    英雄|27才|男性|ブレ
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • カフカスの『知』
    ニウェウス・アーラaa1428
    人間|16才|女性|攻撃
  • ストゥえもん
    ストゥルトゥスaa1428hero001
    英雄|20才|女性|ソフィ
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • プロの変態
    雪峰 楓aa2427
    人間|24才|女性|攻撃
  • イロコイ朴念仁※
    桜宮 飛鳥aa2427hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 絆を胸に
    麻端 和頼aa3646
    獣人|25才|男性|攻撃
  • 絆を胸に
    華留 希aa3646hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
  • 絆を胸に
    テジュ・シングレットaa3681
    獣人|27才|男性|回避
  • 絆を胸に
    ルー・マクシーaa3681hero001
    英雄|17才|女性|シャド
  • 絆を胸に
    五十嵐 七海aa3694
    獣人|18才|女性|命中
  • 絆を胸に
    ジェフ 立川aa3694hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
  • 心優しき教師
    世良 霧人aa3803
    人間|30才|男性|防御
  • フリーフォール
    エリックaa3803hero002
    英雄|17才|男性|シャド
  • 希望の守り人
    マオ・キムリックaa3951
    獣人|17才|女性|回避
  • 絶望を越えた絆
    レイルースaa3951hero001
    英雄|21才|男性|シャド
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 世話焼きお姉ちゃん
    クロエ・ミュライユaa5394
    人間|18才|女性|命中
  • でっかい小さい子
    エウカリス・ミュライユaa5394hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
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